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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H04W
管理番号 1362612
審判番号 不服2018-12221  
総通号数 247 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-07-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-09-11 
確定日 2020-05-19 
事件の表示 特願2015-199687「無線ネットワーク認証装置及び方法」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 3月24日出願公開、特開2016- 40916〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は,2011年(平成23年)4月27日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2010年5月3日 米国, 2010年11月22日 米国)を国際出願日とする特願2013-509119号の一部を,平成27年10月7日に新たな特許出願としたものであって,その手続の経緯は以下のとおりである。

平成27年11月 5日 :手続補正書の提出
平成28年 9月 8日付け :拒絶理由通知書
平成29年 3月16日 :意見書,手続補正書の提出
平成29年 8月 3日付け :拒絶理由通知書
平成29年11月 2日 :意見書の提出
平成30年 5月 1日 :拒絶査定
平成30年 9月11日 :拒絶査定不服審判の請求,手続補正書の提出
令和 1年 7月31日付け :拒絶理由通知書(当審)
令和 1年11月 5日 :意見書,手続補正書の提出

第2 本願発明
本願発明は,令和1年11月5日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された,以下のとおりのものと認める。

「【請求項1】
複数の無線サービスにアクセスする方法であって、前記方法は、
セキュア要素を含むモバイル装置において、
前記セキュア要素に記憶されたアクセスクライアントデータを用いて第1の無線サービスにアクセスし、
前記モバイル装置と通信するアクセサリ装置から、前記アクセサリ装置に含まれる加入者アイデンティティモジュール(SIM)カードベイ内に第2の無線サービスのための物理SIMカードが存在するかについての第1の通知を受信し、前記物理SIMカードは前記SIMカードベイへ挿入可能かつ前記SIMカードベイから取り外し可能であり、
前記物理SIMカードが前記モバイル装置によって用いられるべきであるかを示すように前記モバイル装置のユーザを促し、
前記物理SIMカードが前記モバイル装置によって用いられるべきであるとの前記ユーザからの第2の通知を受信したことに応じて、
必要に応じて前記第2の無線サービスにアクセスするために前記物理SIMカードを用いる、
工程を備えることを特徴とする方法。」

第3 当審の拒絶理由通知の概要

当審拒絶理由の概要は,「(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」というものであり,請求項1に対して以下の引用例4,3,5が引用されている。

引用例3:特開2003-189361号公報
引用例4:特表2009-531943号公報
引用例5:特開2008-40909号公報

第4 引用発明等

1 引用発明

当審拒絶理由に引用された特表2009-531943号公報(引用例4)には,以下の事項が記載されている。

「【0002】
本明細書におけるデジタル処理装置とは、ゲーム、移動通信などの機能を提供するために小さいサイズで形成され携帯を容易にした電子装置を意味し、デジタル処理装置の例としては、移動通信端末機、個人携帯端末機(PDA、Personal Digital Assistant)、携帯型マルチメディア端末機(PMP、Portable Multimedia Player)のほかに、最近通信機能を備えた小型のポータブルなノートパソコンなどのコンピューがある。」

「【0062】
加入者識別部250及び付加サービス識別部260は、上記制御信号に応じて加入者識別部250及び付加サービス識別部260のそれぞれに含まれた事業者コードを用いて通信網接続要求メッセージを生成する。生成された通信網接続要求メッセージは送受信部230に伝達されて通信網(具体的に、通信網を構成する装置)に転送される。
【0063】
加入者識別部250は加入者識別モジュールと呼ばれる装置またはプログラムを含み、通信サービス加入者の認証、課金、セキュリティ情報を格納し、通信網装置に上記情報を提供する。また、加入者識別モジュールには通信事業者を規定する情報である事業者コード(MNC)が格納される。加入者識別モジュールはチップ形態でデジタル処理装置200に内蔵または外付けされるか、プログラムの形態でデジタル処理装置200にインストールされて加入者識別部250に含まれることができる。
【0064】
付加サービス識別部260は付加サービス識別モジュールを含み、通信付加サービス加入者の認証、課金、セキュリティ情報を格納し、付加サービス提供サーバまたは付加サービス提供装置に上記情報を提供する。付加サービス識別モジュールには、加入者識別部250と同様に付加サービス提供事業者を規定する付加サービス事業者の事業者コードが格納され、チップの形態でデジタル処理装置200に内蔵または外付けされるか、プログラムの形態でデジタル処理装置200にインストールされて付加サービス識別部260に含まれることができる。」

「【0066】
加入者識別モジュール(SIMまたはUIM(User Identity Module))は、通常、移動通信端末用で使用されるカード形態または内蔵されるモジュールであって、加入者の認証、課金、セキュリティ情報などの多様な情報を提供できるように情報が格納されたチップまたはプログラムである。加入者識別部250は加入者識別モジュールを含み、加入者識別モジュールを駆動させる部分であり、付加サービス識別部260も加入者識別部250と同様に付加サービス識別モジュールを含み、付加サービス識別モジュールを駆動させる部分である。」

「【0070】
加入者識別モジュールにより特定通信事業者に加入したデジタル処理装置だけが通信事業者の通信網装置に接続されることは、加入者識別モジュールに含まれた事業者コードであるMNCによるものである。」

「【0077】
このようにデジタル処理装置200を具体化すると、加入者識別部250が結合されない場合、内蔵された付加サービス識別部260に格納された情報を用いて通信網に接続するようにすることも可能である。」

「【0084】
図3に例示するように、本発明におけるデジタル処理装置200の一種である携帯端末は背面の一部分に、チップの形態で製作された付加サービス識別モジュール300を装着可能なインターフェースが具備され、付加サービス識別モジュール300を装着することができる。」

「【0092】
一方、上述したように、付加サービス識別モジュール300をデジタル処理装置200に内蔵し、加入者識別部250は外付けすることができる。
【0093】
このようにデジタル処理装置200を具体化すると、加入者識別部250が結合されない場合、内蔵された付加サービス識別モジュール300に格納された情報を用いて通信網に接続するようにすることも可能である。
【0094】
特に、通信網がWCDMA方式やGSM方式の移動通信網である場合には、加入者識別部250がカード形態で外付けされることを標準としているため、外付けされる加入者識別部250が本発明によるデジタル処理装置に結合されると、加入者識別部250を用いて移動通信サービスの提供を受け、加入者識別部250が結合されない場合には、内蔵された付加サービス識別モジュール300を用いて移動通信サービスの提供を受けることができる。」

「【0112】
一方、本発明による通信システムを例示した図6を参照すると、本発明によるデジタル処理装置200は、互いに異なる通信事業者が提供するそれぞれの通信網装置Aの600a、Bの600bの何れにも接続することができる。したがって、従来の通信システムとは異なって、互いに異なる通信事業者が提供するそれぞれの通信網装置Aの600aとBの600bとが必ずしも接続されている必要はなく、デジタル処理装置200の使用者はそれぞれの付加サービス提供装置Aの610a及びBの610bの何れからも付加サービスの提供を受けることができる。また、それぞれの付加サービス提供装置に対する認証情報などは、デジタル処理装置200に内蔵または外付けされる付加サービス識別モジュール300に予め含まれて伝達されるので、付加サービス提供のための別途の認証手続きが不要になる。」

「【0115】
先ず、図7に示すように、ステップS700で、本発明の好ましい一実施例による付加サービスの提供を受けるために、使用者はデジタル処理装置200に含まれた加入者識別部250及び付加サービス識別部260のうちの一つのモジュールを選択して駆動させる。加入者識別部250及び付加サービス識別部260は、上述したように、チップ、カードまたはプログラムなどの形態で具体化されることができ、デジタル処理装置200に内蔵または外付けされることができる。
【0116】
使用者がデジタル処理装置200で加入者識別モジュールを選択した場合、ステップ702で、デジタル処理装置200は加入者識別部250に格納された情報を用いて通信網接続要求メッセージを生成し、生成された通信網接続要求メッセージを通信網装置600に転送する。上記加入者識別部250に格納された情報には、通信事業者の固有コードを示すMNCや、デジタル処理装置使用者の認証、課金及びセキュリティ情報などが格納されることができる。」

「【0118】
デジタル処理装置200が通信網装置600を提供する通信事業者に加入したデジタル処理装置200であると判断されると、ステップS708で、上記通信網装置600は受信された通信網接続要求メッセージに含まれた認証情報を抽出してデジタル処理装置200の使用者に対する認証手続きを行う。認証結果、加入者であると判断されると、ステップS710で、デジタル処理装置200に通信網接続要求結果を転送してデジタル処理装置200と接続される。デジタル処理装置200と通信網装置600とが接続されると、通信網装置600はデジタル処理装置200を介して通話、無線インターネットなどの通信サービスを提供することができる。
【0119】
一方、使用者がデジタル処理装置200で付加サービス識別部260を選択して駆動させると、ステップS712で、デジタル処理装置200は付加サービス識別部260に格納された情報を含む付加サービス要求メッセージを生成し、生成された付加サービス要求メッセージを通信網装置600に転送する。上記付加サービス識別部260には、付加サービス事業者の固有コードである仮想MNC、デジタル処理装置200使用者の認証、課金及びセキュリティ情報などが格納されることができる。」

「【0128】
図8は、本発明の好ましい一実施例により付加サービス識別モジュールを内蔵し、加入者識別モジュールを外付けする場合の付加サービス識別モジュール及び加入者識別モジュールの認識順序を示すフローチャートである。
【0129】
図8において、内蔵される付加サービス識別モジュールは内蔵SIMまたはデフォルトSIMと称し、外付けされる加入者識別モジュールは外付けSIMと称する。
【0130】
図8に示すように、ステップS800で、デジタル処理装置200に外付けSIMが装着され接続されているか否かを認識する。
【0131】
外付けSIMの接続は、外付けSIM接続部から外付けSIMの接続によるインタラプト信号がデジタル処理装置200の制御部に伝達されることにより認識されることができる。
【0132】
外付けSIMの接続が認識されない場合には、ステップS802で、内蔵されたデフォルトSIMから通信網接続に必要とする情報、例えば、認証情報、セキュリティ情報、課金情報などを読み出す。
【0133】
一方、外付けSIMの接続が認識された場合には、ステップS804で、外付けSIMから通信網接続に必要とする情報、例えば、認証情報、セキュリティ情報、課金情報などを読み出す。
【0134】
ステップS806で、読み出された情報を用いて通信網接続要求メッセージを生成し、ステップS808で、生成された要求メッセージが通信システムに伝達されて音声通話またはインターネット網への接続が行われる。」


図3

図4

図5



上記摘記事項の記載及び当業者の技術常識を考慮すると,次のことがいえる。

ア 段落【0002】によれば,デジタル処理装置の例として移動通信端末機を含むものであり,段落【0112】によれば,デジタル処理装置200は、互いに異なる通信事業者が提供するそれぞれの通信網装置Aの600a、Bの600bの何れにも接続することができるものであり,段落【0115】-【0116】によれば,使用者はデジタル処理装置200に含まれた加入者識別部250及び付加サービス識別部260のうちの一つのモジュールを選択し,加入者識別モジュールを選択した場合、デジタル処理装置200は加入者識別部250に格納された情報を用いて通信網接続要求メッセージを生成し、生成された通信網接続要求メッセージを通信網装置600に転送するものである。そして,段落【0094】によれば,通信網はWCDMA方式やGSM方式の移動通信網であり,段落【0134】によれば,読み出された情報を用いて通信網接続要求メッセージを生成し、ステップS808で、生成された要求メッセージが通信システムに伝達されて音声通話またはインターネット網への接続が行われるものである。よって,引用例4には「移動通信端末機において」,「異なる通信事業者が提供するWCDMA方式やGSM方式の移動通信網にアクセスする」ことが記載されているといえる。

イ 段落【0063】によれば,加入者識別部250は加入者識別モジュールを含み、段落【0064】によれば,付加サービス識別部260は付加サービス識別モジュールを含むものである。段落【0115】によれば,使用者はデジタル処理装置200に含まれた加入者識別部250及び付加サービス識別部260のうちの一つのモジュールを選択して駆動させるものであるから,引用例4には「加入者識別モジュールを含む加入者識別部及び付加サービス識別モジュールを含む付加サービス識別部を含む,移動通信端末機」が記載されているといえる。

ウ 段落【0129】,【0132】,【0134】によれば,内蔵される付加サービス識別モジュールは内蔵SIMまたはデフォルトSIMと称し,内蔵されたデフォルトSIMから通信網接続に必要とする情報を読み出し,読み出された情報を用いて通信網接続要求メッセージを生成し、生成された要求メッセージが通信システムに伝達されて音声通話またはインターネット網への接続が行われるものである。そして段落【0077】によれば,内蔵された付加サービス識別部260に格納された情報を用いて通信網に接続するようにすることも可能であるから,引用例4には,「内蔵SIMである付加サービス識別モジュールから通信網接続に必要とする情報を読み出し通信網接続が行われる」ものが記載されているといえる。

エ 段落【0128】,【0130】-【0132】によれば,付加サービス識別モジュールを内蔵し、加入者識別モジュールを外付けする場合において,外付けSIMの接続は、外付けSIM接続部から外付けSIMの接続によるインタラプト信号がデジタル処理装置200の制御部に伝達されることにより認識されるものであり,外付けSIMの接続が認識された場合には,外付けSIMから通信網接続に必要とする情報、例えば、認証情報、セキュリティ情報、課金情報などを読み出すものであること,段落【0115】,【0116】によれば,使用者はデジタル処理装置200に含まれた加入者識別部250及び付加サービス識別部260のうちの一つのモジュールを選択して駆動させ,加入者識別モジュールを選択した場合、デジタル処理装置200は加入者識別部250に格納された情報を用いて通信網接続要求メッセージを生成し、生成された通信網接続要求メッセージを通信網装置600に転送するものであること,段落【0118】によれば,通信網装置600は受信された通信網接続要求メッセージに含まれた認証情報を抽出してデジタル処理装置200の使用者に対する認証手続きを行い,認証結果、加入者であると判断されると、デジタル処理装置200と通信網装置600とが接続されるものである,すなわち受信された通信網接続要求メッセージを用いて認証を行い,デジタル処理装置200を通信網に接続するものである。そして段落【0066】によれば,加入者識別モジュール(SIM)は、通常、移動通信端末用で使用されるカード形態であるから,引用例4の「外付けSIM」は「外付けSIMカード」を含むといえ,使用者が選択し得るものである。そして上記「ア」でも述べたとおり,デジタル処理装置の例として移動通信端末機を含むものであるから,引用例4には「外付けSIMカードである加入者識別モジュールの接続は、外付けSIMカード接続部から外付けSIMカードの接続によるインタラプト信号によって移動通信端末機に伝達されることによって認識され,使用者が外付けSIMカードの加入者識別モジュールを選択した場合,加入者識別部に格納された情報を用いて通信網接続要求メッセージを生成し,通信網に接続する」ものが記載されているといえる。

オ 段落【0070】によれば,加入者識別モジュールにより特定通信事業者に加入したデジタル処理装置だけが通信事業者の通信網装置に接続されるものであるから,上記「ウ」で述べた「内蔵された付加サービス識別モジュールから通信網接続に必要とする情報を読み出」すことによって接続される「通信網接続」と上記「エ」で述べた「加入者識別部に格納された情報を用いて通信網接続要求メッセージを用いて認証を行い」、接続される「通信網」は異なる「通信網」であるといえ,「付加サービス識別モジュール」を用いることによって接続される「通信網」を「第1通信網」,「加入者識別モジュール」を用いることによって接続される「通信網」を「第2通信網」と称することは任意である。

カ そして,上記ア?エの各動作は,移動通信端末機において行われる方法であるといえるから,引用例4には,「異なる通信事業者が提供するWCDMA方式やGSM方式の移動通信網にアクセスするための方法」が記載されているといえる。

以上を総合すると,引用例4には,以下の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「異なる通信事業者が提供するWCDMA方式やGSM方式の移動通信網にアクセスするための方法であって,
加入者識別モジュールを含む加入者識別部及び付加サービス識別モジュールを含む付加サービス識別部を含む,移動通信端末機において,
内蔵SIMである付加サービス識別モジュールから通信網接続に必要とする情報を読み出し第1通信網接続が行われるものであり,
外付けSIMカードである加入者識別モジュールの接続は、外付けSIMカード接続部から外付けSIMカードの接続によるインタラプト信号によって移動通信端末機に伝達されることによって認識され,
使用者が外付けSIMカードの加入者識別モジュールを選択した場合,加入者識別部に格納された情報を用いて通信網接続要求メッセージを生成し,通信網に接続する,方法。」

2 引用例3

当審拒絶理由に引用された,特開2003-189361号公報(引用例3)には以下の事項が記載されている。

「【0045】発呼処理では、ユーザがキー入力部35のダイヤルキー351を操作して相手先の電話番号を入力して通信開始の手続きを取る。この場合、2枚のSIMカード51a、51bに登録された電話番号A、B(電話番号=通話料金請求先)のうちのどちらで発呼するかを選択可能とすることで、2つの異なる契約(料金請求先)を分けることができる。具体的には、例えば仕事用の電話とプライベート用の電話で料金請求先を選択することなどに相当する。
【0046】発呼時の手順は以下のようになる。
(1)SIMカードの選択
(2)電話番号の入力
(3)発信ボタンの押下
(4)選択されたSIMカード情報を用いて通常の発呼処理
手順(1)については、ユーザにSIMカード51a又はSIMカード51bを選択させるための特定の画面をLCD34に表示する。この場合、例えば「SIMカード(A)=電話番号A,SIMカード(B)=電話番号B」といったように、SIMカードの種類とそこに登録された電話番号が関連付けて表示される。」

上記摘記から,引用例3には,発呼時,ユーザにSIMカードを選択させるための画面を表示することが行われるものが記載されている。
したがって,「発呼時,SIMカードをユーザに選択させるための画面表示を行う。」ことは,公知技術(以下,「公知技術」という。)であるといえる。

3 周知技術

当審拒絶理由に引用された,特開2008-40909号公報には以下の事項が記載されている。

「【0025】
(前略)
USIMカード20は、耐タンパー性(tamper resistant)を有している。つまり偽造変造等の改ざん防止、電子データの複製禁止等をするための技術が施されている。
(後略)」

本件の優先日前に公開された、特表2010-501953号公報には,以下の事項が記載されている。

「【0023】
装置10は、プロセッサ21と、オペレーティングシステム26と、1つ以上のセキュア要素アプリケーション25とを備えるセキュアモジュール又は要素20をさらに備える。実施形態によって、セキュア要素20は、装置10に取り外し不可能に内蔵され、または取り外し可能に取り付けられ、または着脱可能に装着されるスマートカードまたはチップである。ある実施形態において、この装置は、セキュア要素20を収容可能なスマートカードスロットを備える。ある実施形態において、セキュア要素20は、加入者識別モジュール(Subscriber Identity Module; SIM)である。通常は、セキュア要素20は、耐タンパー性であるべきである。」

上記記載並びに当業者の技術常識を考慮すると,「SIMカードが耐タンパ性を有し、偽造変造等の改ざん防止のための技術が施されている。」ことは,技術常識ともいえる周知技術(以下,「周知技術」という。)である。

第5 対比

本願発明と引用発明とを対比すると,以下のことがいえる。

(1)引用発明の「WCDMA方式やGSM方式の移動通信網にアクセスする」ことは,WCDMA方式やGSM方式によって移動通信端末機が当該移動通信網にアクセスし,音声通話またはインターネット網への接続サービスが行われるものであるから、「無線サービスにアクセスする」ことであるといえる。そして,「移動通信網」は異なる通信事業者によって提供されるものであるから,異なる通信事業者によって「複数の無線サービス」が提供されているものといえる。
そうすると,引用発明の「異なる通信事業者が提供するWCDMA方式やGSM方式の移動通信網にアクセスするための方法」は,本願発明と同様に「複数の無線サービスにアクセスする方法」といえる。

(2)本願発明の「モバイル装置」と引用発明の「移動通信端末機」は,表記が異なるのみであって差異はない。
そうすると,本願発明の「セキュア要素を含むモバイル装置」と,引用発明の「加入者識別モジュールを含む加入者識別部及び付加サービス識別モジュールを含む付加サービス識別部を含む,移動通信端末機」は,「モバイル装置」という点で共通する。

(3)本願明細書段落【0032】によれば,「アクセスクライアントデータ」は,1つ以上のネットワークサービスにアクセスすることを可能にするデータを含むから,引用発明の「通信網接続に必要とする情報」は,本願発明の「アクセスクライアントデータ」に含まれる。そして,上記(1)に述べたとおりであるから,引用発明の「第1通信網接続」は「無線サービス」への接続であるといえ,該「無線サービス」を「第1の無線サービス」と称することは任意である。
そうすると,本願発明の「前記セキュア要素に記憶されたアクセスクライアントデータを用いて第1の無線サービスにアクセス」することと,引用発明の「内蔵SIMである付加サービス識別モジュールから第1通信網接続に必要とする情報を読み出し通信網接続が行われるものであ」ることは,「記憶されたアクセスクライアントデータを用いて第1の無線サービスにアクセス」するという点で共通する。

(4)引用発明の「外付けSIMカードである加入者識別モジュール」の接続の認識は,「外付けSIMカード接続部から外付けSIMカードの接続によるインタラプト信号によって移動通信端末機が外付けSIMカードが接続されたことを認識する」ものである。ここで、外付けSIMカードが移動通信端末機に接続される際,SIMカードを接続するインターフェース,すなわちSIMカードベイに相当するものを移動通信端末機が有しており,該SIMカードベイに相当するインターフェースにSIMカードが接続されることによって移動通信端末機とSIMカードが通信可能となること、SIMカードベイに相当するインターフェースにおいてSIMカードが着脱可能であることは,それぞれ当該技術分野において技術常識である。そうすると,引用発明の「外付けSIMカード接続部」はSIMカードベイにSIMが接続されていること,すなわちSIMカードベイにSIMカードが存在するかをインタラプト信号によって移動通信端末機に認識可能とするものであるといえるから,引用発明の「インタラプト信号」は,本願発明の「第1の通知」に相当する。
そして引用発明の「外付けSIMカード接続部」は「移動通信端末機」にインタラプト信号を送信するものである。ここで,端末機内の各機能を構成する部位は一般的に内部デバイスとも呼ばれるものであり,デバイスは「装置」を言い方を変えたものである。そして,「外付けSIMカード接続部」は,移動通信端末機の主たる機能である通信機能に加え,外付けSIMカードと移動通信端末機との間の情報交換機能を担うために移動通信端末機に内部デバイスとして付加された装置であるといえる。一方,「アクセサリ」とは広辞苑第六版によれば,「機械類の付属品。周辺機器。」を意味するものであるから,移動通信端末機に内部デバイスとして機能を付加し,内部に付属する「外付けSIMカード接続部」は移動通信端末機において付属品としての装置,すなわち「アクセサリ装置」といえる。また,事案に鑑み,「アクセサリ」の原語である英語の"accessory"について検討する。Cambridge Dictionary (online: http://dictionary.cambridge.org/, 令和元年12月12日検索)によれば,"something added to something else to make it more attractive or useful"とあり,「アクセサリ」とは,他の何かをより魅力的又は有用にする他の何かに追加されたものと解される。してみれば,移動通信端末機に一機能部として追加されている「外付けSIMカード接続部」は,移動通信端末機との関係において,「アクセサリ装置」といえる。
そうすると,引用発明の「外付けSIMカード接続部」は,アクセサリである「SIMカード」を装着し,移動通信端末機でSIMカードを利用可能とする装置であるといえるから,「外付けSIMカード接続部」は「アクセサリ」のための「装置」,すなわち「アクセサリ装置」であるといえる。そうすると,引用発明の「外付けSIMカード接続部」は,本願発明の「アクセサリ装置」に相当する。そして,「SIMカードを接続するインターフェース」に相当するSIMカードベイが「外付けSIMカード接続部」に含まれているとするか否かは任意である。更に,引用発明の「外付けSIMである加入者識別モジュール」は,「第2通信網」に接続するためのものであり,引用発明の「第2通信網」の接続も「無線サービス」への接続であるといえるから,該「第2通信網」を「第2の無線サービス」と称することは任意であり,引用発明の「外付けSIMカードである加入者識別モジュール」は「第2の無線サービスのための物理SIMカード」であるといえる。
そうすると,本願発明の「前記モバイル装置と通信するアクセサリ装置から、前記アクセサリ装置に含まれる加入者アイデンティティモジュール(SIM)カードベイ内に第2の無線サービスのための物理SIMカードが存在するかについての第1の通知を受信し、前記物理SIMカードは前記SIMカードベイへ挿入可能かつ前記SIMカードベイから取り外し可能であ」ることと,引用発明の「外付けSIMカードである加入者識別モジュールの接続は、外付けSIMカード接続部から外付けSIMカードの接続によるインタラプト信号によって移動通信端末機に伝達されることによって認識され」ることは,「前記モバイル装置と通信するアクセサリ装置から、前記アクセサリ装置に含まれる加入者アイデンティティモジュール(SIM)カードベイ内に第2の無線サービスのための物理SIMカードが存在するかについての第1の通知を受信し、前記物理SIMカードは前記SIMカードベイへ挿入可能かつ前記SIMカードベイから取り外し可能であ」る点で一致する。

(5)引用発明の「使用者」と,本願発明の「ユーザ」は,表記が異なるのみであって差異はない。また,引用発明の「使用者が外付けSIMの加入者識別モジュールを選択した」とは,移動通信端末機が使用者から外付けSIMを選択するという「通知」を受け取ることに他ならないものである。そして,引用発明は,上記「選択」によって,「通信網接続要求メッセージ」の生成が必要となることによって,「加入者識別部に格納された情報を用いて通信網接続要求メッセージを生成」することは,第2通信網接続に必要とする情報をSIMから読み出す,「第2通信網に接続するために外付SIMの加入者識別モジュールを用いる」ものであるといえる。
そうすると,引用発明の「使用者が外付けSIMの加入者識別モジュールを選択した場合,加入者識別部に格納された情報を用いて通信網接続要求メッセージを生成し,第2通信網に接続する」ことは,本願発明の「前記物理SIMカードが前記モバイル装置によって用いられるべきであるとのユーザからの第2の通知を受信したことに応じて、必要に応じて前記第2の無線サービスにアクセスするために前記物理SIMカードを用いる」に相当する。

以上を総合すると,本願発明と引用発明とは,以下の点で一致し,また,相違している。

(一致点)
「複数の無線サービスにアクセスする方法であって,前記方法は,
モバイル装置において,
記憶されたアクセスクライアントデータを用いて第1の無線サービスにアクセスし,
前記モバイル装置と通信するアクセサリ装置から、前記アクセサリ装置に含まれる加入者アイデンティティモジュール(SIM)カードベイ内に第2の無線サービスのための物理SIMカードが存在するかについての第1の通知を受信し、前記物理SIMカードは前記SIMカードベイへ挿入可能かつ前記SIMカードベイから取り外し可能であり,
前記物理SIMカードが前記モバイル装置によって用いられるべきであるとのユーザからの第2の通知を受信したことに応じて、必要に応じて前記第2の無線サービスにアクセスするために前記物理SIMカードを用いる,方法。」

(相違点1)
本願発明の「モバイル装置」は「セキュア要素」を含むものであって「アクセスクライアントデータ」が「セキュア要素」に記憶されているのに対し,引用発明の「移動通信端末機」が含む「加入者識別モジュールを含む加入者識別部及び付加サービス識別モジュールを含む付加サービス識別部」が「セキュア要素」といえるものを含むものであり,第1通信網接続のための「通信網接続に必要とする情報」が記憶される「内蔵SIMである付加サービス識別モジュール」が「セキュア要素」であるという発明特定事項を有していない点。

(相違点2)
「物理SIMカードが前記モバイル装置によって用いられるべきであるとのユーザからの第2の通知を受信」することが,本願発明は「物理SIMカードがモバイル装置によって用いられるべきであるかを示すようにモバイル装置のユーザを促す」ことによってなされるものであるのに対し,引用発明は「使用者が外付けSIMの加入者識別モジュールを選択」する際,本願発明のように,外付けSIMの加入者識別モジュール,内蔵された付加サービスモジュールのどちらが用いられるべきであるかを示すように移動通信端末機の使用者を促すものではない点。

第6 判断

(相違点1について)
上記「第4 3」のとおり,「SIMカードが耐タンパ性を有し、偽造変造等の改ざん防止のための技術が施されている。」ことは,技術常識ともいえる周知技術である。
そうすると,引用発明の「付加サービス識別モジュール」も該モジュールに内蔵される「SIM」であるから,「内蔵SIMである付加サービス識別モジュール」を「セキュア要素」として構成することは,当業者が適宜なし得ることである。

(相違点2について)
上記「第4 2」のとおり,「発呼に用いられるSIMカードをユーザに選択させるために、SIMカード選択のための画面表示を行う。」ことは,公知技術である。そして,引用発明においても,使用者が加入者識別モジュールを選択して第2通信網に接続するものであることに鑑みれば,引用発明において,使用者がSIM選択を容易に行うために、「内蔵SIMである付加サービス識別モジュール,外付けSIMである加入者識別モジュールが移動通信端末機によって用いられるべきであるかを示すように移動通信端末機の使用者を促す」ように構成することは,当業者が容易に想到できたことである。

そして,本願発明の作用効果も,引用発明,公知技術及び周知技術に基づいて当業者が予測できる範囲のものにすぎず,格別顕著なものとはいえない。

したがって,本願発明は,引用発明,公知技術及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない。

[請求人の主張について]

請求人は,令和1年11月5日に提出された意見書において,
「引用文献4は、本願発明のような、モバイル装置と通信するアクセサリ装置であって、物理SIMカードがSIMカードベイへ挿入可能かつSIMカードベイから取り外し可能なSIMカードベイを含むアクセサリ装置は開示も示唆もしておりません。
引用文献4は、せいぜい外部のSIMカードを取り付け可能なモバイル装置を開示するものの、外部のSIMカードを取り付けるように設計されたアクセサリ装置と通信するモバイル装置を開示も示唆もしておりません。」と主張する。

しかしながら,上述したとおり,引用発明においても,外付けSIMカードが移動通信端末機に接続されることが想定されていることに鑑みれば,SIMを接続するインターフェース,すなわちSIMカードベイに相当するものを移動通信端末機が有しており,該SIMカードベイに相当するインターフェースにSIMが接続されることによって移動通信端末機とSIMが通信可能となることは、当該技術分野において技術常識である。
また,上述のとおり,当該技術分野においては「SIMカード」を「アクセサリ」と称することは一般的に行われていることである。そうすると,引用発明の「外付けSIMカード接続部」は,アクセサリである「SIMカード」を装着し,移動通信端末機でSIMカードを利用可能とする装置であるといえるから,「外付けSIMカード接続部」は「アクセサリ」のための「装置」,すなわち「アクセサリ装置」であるといえる。
そして、外付けSIMカードは着脱可能であることも当該技術分野において常套手段ともいえる技術常識であるから,引用発明には,外付けSIMカードは着脱可能であり,外部SIMカードはSIMカードベイによって移動通信端末機と接続され,SIMカードベイに挿入された外付けSIMカードは「アクセサリ装置」と称される「外付けSIMカード接続部」を介して「移動通信端末機」と通信するものが,少なくとも示唆されているといえる。
(SIMカードベイに相当するインターフェースを移動通信端末機が有することは,上記「第4 1 (12)」の図4-図6からも読み取れるものであり,SIMカードが着脱可能なものであることは,例えば,「能川千晶,諏訪敬祐,3G携帯電話の仕組み(13) 一契約で端末を使い分けられるUIM,”日経コミュニケーション 第375号 NIKKEI COMMUNICATIONS”,日経BP社,2002年10月7日,第375号,p.154-p.155,ISSN 0910-7215」に記載されているので参照されたい。)

このため,請求人の主張は採用できない。

第7 むすび

以上のとおり,本願発明は,引用発明及び周知技術に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2019-12-16 
結審通知日 2019-12-20 
審決日 2020-01-08 
出願番号 特願2015-199687(P2015-199687)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H04W)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 齋藤 浩兵  
特許庁審判長 岩間 直純
特許庁審判官 相澤 祐介
本郷 彰
発明の名称 無線ネットワーク認証装置及び方法  
代理人 大塚 康徳  
代理人 永川 行光  
代理人 下山 治  
代理人 高柳 司郎  
代理人 大塚 康弘  
代理人 木村 秀二  

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