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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F02N
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F02N
管理番号 1362613
審判番号 不服2018-13675  
総通号数 247 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-07-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-10-15 
確定日 2020-05-18 
事件の表示 特願2016-559821「静圧ロックの存在を診断しつつ空気圧スタータを用いて往復エンジンを遅く始動させるための方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年10月15日国際公開、WO2015/156761、平成29年4月20日国内公表、特表2017-511437〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2014年(平成26年)4月7日を国際出願日とする出願であって、平成29年10月31日付けで拒絶の理由が通知され(発送日:同年11月7日)、平成30年1月22日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成30年6月11日付けで拒絶査定がされ(発送日:同年6月19日)、これに対し、平成30年10月15日に拒絶査定不服審判が請求され、その審判の請求と同時に、特許請求の範囲について補正する手続補正書が提出されたものである。

第2 平成30年10月15日にされた手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成30年10月15日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について(補正の内容)
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1及び請求項7についてみると、本件補正により補正される前の(すなわち、平成30年1月22日に提出された手続補正書による)下記の(1)の記載を下記の(2)の記載に補正するものである(下線は補正箇所を示す。)。

(1)本件補正前の特許請求の範囲の請求項1及び請求項7

ア 「【請求項1】
対応するピストンチャンバ(18)内で往復移動できるピストン(14)と回転可能に結合されるクランクシャフト(12)を有する往復エンジン(10)を始動させる方法であって、
a)前記ピストンの圧縮行程(42)中に前記ピストンチャンバ(18)内の気体の逃げをもたらすことなく前記ピストンチャンバ(18)内で前記ピストン(14)の動作をもたらすために前記クランクシャフト(12)に対して力を印加するステップと、
b)往復エンジン(10)特性を検出するステップと、
c)検出された前記特性と検出された前記特性のための診断プロファイル(80)とを比較するステップと、
d)診断障害状態が存在することを前記比較が示すときに、力の印加を中止して、前記クランクシャフト(12)が逆方向に回転できるように、前記ピストン(14)の往復動を中止するステップと、
を備える方法。」

イ 「【請求項7】
対応するシリンダ内で往復移動できるとともに回転可能なクランクシャフト(12)に動作可能に結合されるピストン(14)を有する往復エンジン(10)を空気圧スタータ(52)を用いて始動させる方法であって、前記クランクシャフト(12)の相対回転が前記ピストン(14)の相対的な対応する往復動をもたらす方法において、
a)動作回転速度未満の遅い始動速度で前記クランクシャフト(12)を回転させて前記ピストン(14)の往復動をもたらすために空気圧スタータ(52)に空気を供給するステップと、
b)往復エンジン(10)特性を検出するステップと、
c)検出された前記特性と検出された前記特性のための診断プロファイル(80)とを比較するステップと、
d)前記比較に基づいて診断障害状態が存在する或いは存在しないかどうかを決定するステップと、
e)診断障害状態が存在するときに、前記ピストン(14)の往復動を中止し、前記クランクシャフト(12)が逆方向に回転できるようにするために、前記空気圧スタータ(52)に空気を供給することを中止すること或いは前記空気圧スタータ(52)の動作を停止することのうちの少なくとも一方を行なうステップと、 を備える方法。」

(2)本件補正後の特許請求の範囲の請求項1及び請求項7

ア 「【請求項1】
対応するピストンチャンバ(18)内で往復移動できるピストン(14)と回転可能に結合されるクランクシャフト(12)と、スタータとの通信を自動的に実行するためのコントローラとを有する往復エンジン(10)を始動させる方法であって、燃焼を生じさせる燃焼サイクルの局面を行なえないようにし、
a)前記ピストンの圧縮行程(42)中に前記ピストンチャンバ(18)内の気体の逃げをもたらすことなく前記ピストンチャンバ(18)内で前記ピストン(14)の動作をもたらすために前記クランクシャフト(12)に対して前記スタータを使用して力を印加するステップと、
b)往復エンジン(10)特性を検出するステップと、
c)検出された前記特性と検出された前記特性のための診断プロファイル(80)とを比較するステップと、
d)診断障害状態が存在することを前記比較が示すときに、前記コントローラから前記スタータ及び/又は圧力弁への信号により、前記スタータによる力の印加を中止して、前記クランクシャフト(12)が逆方向に回転できるように、前記ピストン(14)の往復動を中止するステップと、
を備える方法。」

イ 「【請求項7】
対応するシリンダ内で往復移動できるとともに回転可能なクランクシャフト(12)に動作可能に結合されるピストン(14)を有する往復エンジン(10)を空気圧スタータ(52)を用いて始動させる方法であって、前記クランクシャフト(12)は、前記方法を自動的に実行するためのコントローラと通信可能であり、前記クランクシャフト(12)の相対回転が前記ピストン(14)の相対的な対応する往復動をもたらす方法において、燃焼を生じさせる燃焼サイクルの局面を行なえないようにし、
a)動作回転速度未満の遅い始動速度で前記クランクシャフト(12)を回転させて前記ピストン(14)の往復動をもたらすために空気圧スタータ(52)に空気を供給するステップと、
b)往復エンジン(10)特性を検出するステップと、
c)検出された前記特性と検出された前記特性のための診断プロファイル(80)とを比較するステップと、
d)前記比較に基づいて診断障害状態が存在する或いは存在しないかどうかを決定するステップと、
e)診断障害状態が存在するときに、前記ピストン(14)の往復動を中止し、前記クランクシャフト(12)が逆方向に回転できるようにするために、前記空気圧スタータ(52)に空気を供給することを中止すること或いは前記空気圧スタータ(52)の動作を停止することのうちの少なくとも一方を行なうステップと、 を備える方法。」

2 本件補正の適否
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明における「往復エンジン(10)」という発明特定事項について「スタータとの通信を自動的に実行するためのコントローラと」を有することを限定し、「始動させる方法」という発明特定事項について「燃焼を生じさせる燃焼サイクルの局面を行なえないようにし」と限定し、「力を印加するステップ」という発明特定事項について「前記スタータを使用して」と限定し、「ピストン(14)の往復動を中止するステップ」という発明特定事項について「前記コントローラから前記スタータ及び/又は圧力弁への信号により、前記スタータによる」力の印加を中止して、と限定することにより特許請求の範囲を減縮するものである。
また、本件補正は、本件補正前の請求項7に記載された発明における「往復エンジン(10)」という発明特定事項について「前記クランクシャフト(12)は、前記方法を自動的に実行するためのコントローラと通信可能であり」と限定し、「始動させる方法」という発明特定事項について「燃焼を生じさせる燃焼サイクルの局面を行なえないようにし」と限定することにより特許請求の範囲を減縮するものである。
したがって、本件補正における特許請求の範囲の請求項1及び請求項7についての補正は、それぞれ本件補正前の特許請求の範囲の請求項1及び請求項7に係る発明の発明特定事項を限定するものであって、本件補正前の請求項1及び請求項7に記載された発明と本件補正後の請求項1及び請求項7に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1及び請求項7に記載される発明(以下、それぞれ「本件補正発明1」及び「本件補正発明7」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

3 独立特許要件
(1)本件補正発明1
本件補正発明1は、上記1(2)アに記載したとおりのものである。

ア 引用文献、引用文献の記載事項
原査定の拒絶の理由で引用され、本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった国際公開第2012/171049号(以下「引用文献」という。)には、「METHOD FOR STARTING AN INTERNAL COMBUSTION ENGINE」に関して、図面(特に、Fig.2及びFig.4を参照。)とともに次の記載がある。なお、記載については、WIPO Standards ST.20に倣い、aウムラウトはae、oウムラウトはoe、uウムラウトはue、エスツェットはssと表記した。また、行数は各ページ左側のスケールによる。下線部は当審が付与したものである。

(ア) 「Die Erfindung betrifft ein Verfahren zum Starten einer Brennkraftmaschine, insbesondere eines stationaeren Gasmotors, wobei die Brennkraftmaschine durch mindestens einen Startermotor angetrieben wird, wobei der Startvorgang nach dem Anlassen des Startermotors abgebrochen wird, falls die Winkelbeschleunigung der Brennkraftmaschine unterhalb eines vorgebbaren Beschleunigungswerts bleibt und/oder innerhalb einer vorgebbaren ersten Zeit die Istdrehzahl unterhalb eines vorgebbaren ersten Drehzahlgrenzwerts bleibt und/oder innerhalb einer vorgebbaren zweiten Zeit die mittlere Drehzahl der Brennkraftmaschine unterhalb eines vorgebbaren zweiten Drehzahlgrenzwerts bleibt.」(明細書1ページ4行ないし12行)
(当審仮訳)「本発明は、特に定置ガスエンジンである内燃エンジンの始動方法に関する。この内燃エンジンは、少なくとも一つのスタータ(始動モータ)によって駆動されるものであり、内燃エンジンの角加速度が所定の加速度値以下のままである場合、および/または所定の第1の時間内に実際の回転速度が所定の第1の回転速度の閾値以下のままである場合、および/または所定の第2の時間内に内燃エンジンの平均回転速度が所定の第2の回転速度の閾値以下のままである場合、スタータの始動後に始動プロセスが遮断される。」

(イ) 「Wenn bei einer Brennkraftmaschine waehrend eines Motorstillstands Wasser in den Verbrennungsraum eines oder mehrerer Zylinder eindringt, so kann es bei einem herkoemmlichen Startvorgang der Brennkraftmaschine durch das inkompressible Wasser zu Beschaedigungen von Pleuel und/oder Kolben kommen. Beim eindringenden Wasser kann es sich dabei beispielsweise um Kuehlwasser einer leckgewordenen Kuehlmittelleitung handeln. Wuerde die Brennkraftmaschine in einem Zustand teilweise gefluteter Zylinder voll durchgestartet werden, kommt es zum sogenannten Wasserschlag. Dabei wird der betroffene Kolben an der oberen Position des Verdichtungstaktes durch das inkompressible Wasser abrupt abgebremst, wodurch es zu einem Motorschaden kommen kann. Zur Detektion von Wasser oder Feuchtigkeit in einem Zylinder einer Brennkraftmaschine koennen beispielsweise Feuchtigkeitssensoren eingesetzt werden. Diese koennen jedoch nicht zwischen normalem Kondenswasser, welches bei grossen stationaeren Brennkraftmaschinen aufgrund der Kaminwirkung der Abgasanlage entstehen kann, und einer gefaehrlichen Flutung des Zylinders unterscheiden.」(明細書1ページ28行ないし2ページ7行)
(当審仮訳)「エンジンが定置されているとき、内燃エンジン内で水が1以上のシリンダの燃焼チャンバへと浸透すると、非圧縮性の水は内燃エンジンの従来式の始動プロセスにおいて接続ロッドおよび/またはピストンを損傷させる可能性がある。内燃チャンバに浸透する水は、例えば、漏冷却水導管からの冷却水である。内燃エンジンが部分的に浸水したシリンダの状態で完全に始動させようとすると、いわゆる水ハンマー現象が発生するであろう。この場合には、問題のピストンは、非圧縮性の水によって圧縮サイクルの上方位置にて突然減速し、エンジンに損傷を与える可能性がある。内燃エンジンのシリンダ内の水または湿気を検出するため、例えば湿気センサが利用できる。しかしながら、そのようなセンサは、排気設備の煙突効果による、大型の定置内燃エンジンの場合に発生することがある通常の凝縮水と、シリンダの危険な浸水とを区別できない。」

(ウ) 「Fig. 1 zeigt schematisch eine Brennkraftmaschine 1 mit einer Antriebswelle 5 und einem daran angeordneten Zahnkranz 8. Zum Anlassen der Brennkraftmaschine 1 wird ein mit einem Startermotor 2 verbundenes Starterritzel 7 durch eine hier nicht gezeigte Einspurmechanik 11 in bekannter Weise eingespurt und damit in Eingriff mit dem Zahnkranz 8 der Brennkraftmaschine 1 gebracht (siehe Fig. 3). Der Startermotor 2 ist in diesem Fall ein elektrischer Startermotor, der durch eine Energiequelle in Form einer elektrischen Spannungsquelle 14 mit elektrischer Spannung bzw. elektrischem Strom versorgt wird. Zur Steuerung der Spannungsversorgung des elektrischen Startermotors 2 ist zwischen Spannungsquelle 14 und Startermotor 2 ein Schalter 13 vorgesehen, der durch eine Steuereinrichtung 6 ansteuerbar ist.

Die Drehzahn n und/oder die Winkelgeschwindigkeit ω und/oder die Winkelbeschleunigung α der Antriebswelle 5 der Brennkraftmaschine 1 wird bzw. werden durch eine Messeinrichtung 9 erfasst und an eine Steuereinrichtung 6 gemeldet. Bei der Messeinrichtung 9 kann es sich beispielsweise um einen induktiven Aufnehmer handeln, der bei den Zaehnen des Zahnkranzes 8 angeordnet sein kann. Zur Erzielung einer hohen Messaufloesung kann der Zahnkranz 8 eine hohe Anzahl von Zaehnen aufweisen, beispielsweise mehr als 300 Zaehne. Abhaengig von den Signalen der Messeinrichtung 9 veranlasst die Steuereinrichtung 6 das Schliessen oder OEffnen des Schalters 13 und aktiviert bzw. stoppt damit die Energiezufuhr von der Spannungsquelle 14 zum elektrischen Startermotor 2.

Fig. 2 zeigt eine schematische Anordnung gemaess Fig. 1 , wobei der Startermotor 2 in diesem Fall ein pneumatischer Startermotor ist, der durch eine Energiequelle in Form einer Druckluftquelle 4 versorgt wird. Zwischen Druckluftquelle 4 und Startermotor 2 ist ein Druckluftventil 3 angeordnet, welches als Zwei-Wege-Ventil ausgefuehrt ist und nur eine vollstaendig geoeffnete oder eine vollstaendig geschlossene Stellung aufweisen kann. In der gezeigten Darstellung befindet sich das Druckluftventil 3 in seiner vollstaendig geschlossenen Stellung, d.h. die Druckluftzufuhr von Druckluftquelle 4 zu Startermotor 2 ist unterbrochen und der Startermotor 2 treibt die Antriebswelle 5 der Brennkraftmaschine 1 nicht an. Abhaengig von den Signalen der Messeinrichtung 9 veranlasst die Steuereinrichtung 6 das vollstaendige OEffnen oder das vollstaendige Schliessen des Druckluftventils 3, welches beispielsweise als elektrisch, magnetisch oder pneumatisch ansteuerbares Ventil ausgefuehrt sein kann.」(明細書5ページ8行ないし6ページ6行)
(当審仮訳)「図1は、駆動シャフト5と、そこに配置されたリングギヤ8とを有する内燃エンジン1を概略的に示している。内燃エンジン1を始動させるため、スタータ2に接続されたスタータピニオン7は、噛合機構11(ここでは図示せず)によって知られた形態で噛合し、このようにして内燃エンジン1のリングギヤ8と係合する(図3参照)。この場合にはスタータ2は、電圧源14の形態である電源によって電圧または電流が供給される電動スタータである。制御装置6によって作動可能なスイッチ13が、電圧源14とスタータ2との間に提供された電動スタータ2に供給される電圧供給を制御する。

内燃エンジン1の駆動シャフト5の回転速度nおよび/または角速度ωおよび/または角加速度αは、測定装置9によって検出され、制御装置9に信号が送信される。測定装置9は、例えばリングギヤ8の歯部に配置できる誘導ピックアップでよい。高レベルの測定精度を達成するため、リングギヤ8は、例えば300個以上の多くの歯部を有することができる。測定装置9の信号に応じて、制御装置6は、スイッチ13を開閉させ、よって電圧源14から電動スタータ2へのエネルギー供給を作動または停止させる。

図2は、図1に示すものの概略的構造であり、この場合にはスタータ2は圧縮空気源4の形態のエネルギー源によって供給される空気圧式スタータである。圧縮空気源4とスタータ2との間には、二方バルブの形態であり、完全開位置または完全閉位置のみを有することができる圧縮空気バルブ3が配置されている。図面では、圧縮空気バルブ3は、完全閉位置にあり、すなわち圧縮空気源4からスタータ2への圧縮空気の供給は遮断されており、スタータ2は、内燃エンジン1の駆動シャフト5を駆動しない。測定装置9からの信号に応じて、制御装置6が、例えば電動式、磁力式または空気圧式作動バルブの形態である圧縮空気バルブ3を完全開作動または完全閉作動させる。」

(エ) 「Fig. 4 zeigt ein Ausfuehrungsbeispiel eines vorgeschlagenen Startersystems gemaess Fig. 3, wobei in diesem Beispiel drei Startermotoren 2 mit jeweils einem vorgeschalteten Druckluftventil 3 vorgesehen sind. Das Startventil 10, das Steuerventil 12 und die Druckluftventile 3 befinden sich in dieser Darstellung in ihren geschlossenen Stellungen, d.h. die Druckluftzufuhr von Druckluftquelle 4 zu den Startermotoren 2 ist jeweils unterbrochen und die Startermotoren 2 treiben die Antriebswelle 5 der Brennkraftmaschine 1 nicht an.

Anhand Fig. 4 soll eine Ausfuehrungsvariante des vorgeschlagenen Verfahrens beschrieben werden. Nach dem Aktivieren des Startvorgangs durch OEffnen des mit der Druckluftquelle 4 verbundenen Startventils 10 sorgen hier nicht gezeigte Einspurmechaniken 1 1 in bekannter Weise dafuer, dass die Starterritzel 7 der Startermotoren 2 mit dem Zahnkranz 8 an der Antriebswelle 5 der Brennkraftmaschine 1 in Eingriff gebracht werden bzw. eingespurt werden (siehe Fig. 3). Das Einspuren ist dabei durch die strichlierten Linien angedeutet. Die Steuereinrichtung 6 veranlasst das OEffnen des Steuerventils 12, wodurch in weiterer Folge die Druckluftventile 3 ebenfalls vollstaendig geoeffnet werden. Dadurch werden die Startermotoren 2 mit Druckluft aus der Druckluftquelle 4 versorgt und koennen ueber die jeweiligen Verbindungen aus Starterritzel 7 und Zahnkranz 8 die Antriebswelle 5 der Brennkraftmaschine 1 antreiben. Sobald die von der Messeinrichtung 9 gemessene und von der Steuereinrichtung 6 ueberwachte Istdrehzahl n eine Maximaldrehzahl n max von beispielsweise 20 U/min erreicht, bewirkt die Steuereinrichtung 6 das Schliessen des Steuerventils 12 und damit auch das vollstaendige Schliessen der Druckluftventile 3. Dadurch wird die Druckluftzufuhr fuer die Startermotoren 2 unterbrochen, wodurch die Istdrehzahl n der Brennkraftmaschine 1 abnimmt. Sobald die Istdrehzahl n eine Schwellwertdrehzahl n s von beispielsweise 15 U/min erreicht, veranlasst die Steuereinrichtung 6 das OEffnen des Steuerventils 12. Dadurch werden die Druckluftventile 3 in ihre vollst#ndig geoeffneten Positionen gebracht und die Startermotoren 2 wiederum mit Druckluft aus der Druckluftwelle 4 beaufschlagt. Aufgrund systembedingter Verzoegerungen (z.B. Massentraegheit der rotierenden bzw. sich bewegenden Komponenten) erfolgt daraufhin normalerweise keine sofortige Zunahme der Istdrehzahl n, sodass es nach dem OEffnen der Druckluftventile 3 kurzzeitig noch zu einem weiteren Absinken der Istdrehzahl n kommen kann. Wenn jedoch der Widerstand aufgrund einer teilweisen Flutung zumindest eines Zylinders der Brennkraftmaschine 1 so gross ist, dass die Istdrehzahl n trotz OEffnen der Druckluftventile 3 eine Mindestdrehzahl n min von beispielsweise 8 U/min unterschreitet, so wird dies von der Steuereinrichtung 6 erfasst und der Startvorgang abgebrochen. Wird diese vorgebbare Mindestdrehzahl n_(min) allerdings nicht unterschritten, so kann der Startvorgang weitergefuehrt werden. Der Ablauf des Hochfahrens bis zur Maximaldrehzahl n_(max), dann Absenken der Drehzahl bis zur Schwellwertdrehzahl n_(s) und anschliessend das abermalige OEffnen der Druckluftventile 3 und damit Hochfahren der Brennkraftmaschine 1 kann vorzugsweise mehrfach, besonders bevorzugt viermal, ausgefuehrt werden. Dieser Ablauf kann auch waehrend einer vorgebbaren Zeit (z.B. 10 s) oder waehrend mehreren, vorzugsweise zwei, Kurbelwellenumdrehungen, wiederholt werden, wobei ein Abbruch des Startvorgangs erfolgen kann, sobald ein Drehzahleinbruch mit einer Istdrehzahl n kleiner der Mindestdrehzahl n_(min) festgestellt wird oder wenn die mittlere Drehzahl der Brennkraftmaschine 1 innerhalb der vorgebbaren Zeit oder der vorgebbaren Anzahl von Kurbelwellenumdrehungen einen vorgebbaren Drehzahlwert nicht erreicht.

Fig. 5 zeigt schematisch den zeitlichen Verlauf der Istdrehzahl n einer Brennkraftmaschine 1 waehrend der Durchfuehrung einer Variante des vorgeschlagenen Verfahrens mit den Einrichtungen gemaess Fig. 2. Zum Zeitpunkt t_(0) wird das Druckluftventil 3 vollstaendig geoeffnet und damit die Druckluftzufuhr zum pneumatischen Startermotor 2 aktiviert. Die Brennkraftmaschine 1 faehrt hoch und die Istdrehzahl n der Antriebswelle 5 der Brennkraftmaschine 1 wird von der Messeinrichtung 9 erfasst und zur Auswertung an die Steuereinrichtung 6 gemeldet.

Falls die Istdrehzahl n der Brennkraftmaschine 1 innerhalb einer vorgebbaren ersten Zeit t_(A) von beispielsweise 3 s einen vorgebbaren ersten Drehzahlgrenzwert n_(A) von beispielsweise 8 U/min nicht erreicht, so kann der Startvorgang abgebrochen werden, um moegliche Schaeden an der Brennkraftmaschine 1 zu vermeiden. Im gezeigten Beispiel weist die Istdrehzahl n nach Ablauf der ersten Zeit t_(A) jedoch einen Wert groesser dem ersten Drehzahlgrenzwert n_(A) auf, sodass der Startvorgang aufgrund dieses Kriteriums nicht abgebrochen werden musste.」(明細書6ページ34行ないし8ページ30行)
(当審仮訳)「図4は、図3に示すような本発明の始動システムの一実施例であり、本実施例では、それぞれがその上流に接続された圧縮空気バルブ3を有する3つのスタータ2が提供されている。始動バルブ10、制御バルブ12および圧縮空気バルブ3は、この図ではそれらの閉位置にあり、すなわち、圧縮空気源4からスタータ2への圧縮空気供給は、それぞれの場合において遮断され、スタータ2は、内燃エンジン1の駆動シャフト5を駆動しない。

本発明の方法の変形例を、図4を参照して解説する。圧縮空気源4に接続された始動バルブ10を開けることによる始動プロセスの作動後、噛合機構11(ここでは図示せず)が、スタータ2のスタータピニオン7を内燃エンジン1の駆動シャフト5のリングギヤ8と知られた形態で係合させるか、またはそれと噛合させる(図3参照)。この場合には、噛合状態は破線で示されている。制御装置6が制御バルブ12を開けることによって、さらに圧縮空気バルブ3も完全に開かれる。この結果、スタータ2に圧縮空気源4から圧縮空気が供給され、スタータピニオン7とリングギヤ8とを含むそれぞれの接続部を介して、内燃エンジン1の駆動シャフト5を駆動できる。測定装置9によって測定され、制御装置6によってモニターされた実際の回転速度nが、例えば20rpmである最大回転速度n_(max)に到達するとすぐに、制御装置6が制御バルブ12を閉じ、それとともに空気バルブ3の閉鎖も完了させる。この結果、スタータ2への圧縮空気供給が遮断され、よって内燃エンジン1の実際の回転速度nが低下する。実際の回転速度nが、例えば15rpmである閾値回転速度n_(s)に到達するとすぐに、制御装置6が制御バルブ12を開く。この結果、圧縮空気バルブ3がそれらの完全開位置へと移動され、スタータ2が圧縮空気源4からの圧縮空気によって再び作動される。システム関連の遅延によって(例えば回転部品または移動部品の慣性による)、圧縮空気バルブ3の開動作後に実際の回転速度nがさらに短時間低下できるよう、通常は実際の回転速度nは直ちには増加しない。しかし、抵抗が非常に大きい場合には、内燃エンジン1の少なくとも一つのシリンダの部分的な浸水の結果として、圧縮空気バルブ3の開動作にもかかわらず、実際の回転速度nは、例えば8rpmである最小回転速度n_(min)以下に落ち、これは制御装置6によって検出され、始動プロセスが遮断される。回転速度が所定の最小回転速度n_(min)以下に落ちない場合、始動プロセスは継続できる。最大回転速度n_(max)への加速、その後の閾値回転速度n_(s)への回転速度の減速、およびその後の圧縮空気バルブ3の再度の開動作並びに、内燃エンジン1の加速が関与する工程は、好適には複数回、特に好適には4回実行される。この工程が所定の時間(例えば10秒間)または複数の、好適には2回のクランクシャフト回転の間に繰り返され、最小回転速度n_(min)未満の実際の回転速度nが関与する回転速度落下が検出されるとすぐに、または内燃エンジン1の平均回転速度が所定の時間内か、または所定数のクランクシャフト回転間に所定の回転速度値に到達しない場合には始動プロセスが遮断される。

図5は、図2に示す装置による本発明の方法の変形実施例における、内燃エンジン1の実際の回転速度nのそれぞれの時間に対する変化を概略的に示している。時間t_(0)で、圧縮空気バルブ3は完全に開かれ、よって空気圧式スタータ2への圧縮空気供給が作動される。内燃エンジン1が加速し、内燃エンジン1の駆動シャフト5の実際の回転速度nが測定装置9によって検出され、制御装置6へ評価信号が送信される。

内燃エンジン1の実際の回転速度nが、例えば3秒以内である所定の第1の時間t_(A)内に、例えば8rpmである所定の第1の回転速度制限値n_(A)に到達しない場合には、内燃エンジン1への損傷を防止するため、始動プロセスが遮断される。しかし、図示の実施例では、第1の時間t_(A)の終了後の実際の回転速度nは、始動プロセスがその基準ベースで遮断されないよう、第1の回転速度制限値n_(A)よりも大きい。」

(オ) 「Sobald die Istdrehzahl n eine vorgebbare Schwellwertdrehzahl n_(s) (z.B. 15 U/min) erreicht (in diesem Beispiel zum Zeitpunkt t_(2)), veranlasst die Steuereinrichtung 6 das vollstaendige OEffnen des Druckluftventils 3. Aufgrund der Massentr#gheit erfolgt eine Zunahme der Istdrehzahl n wiederum erst etwas verzoegert. Das Schlie#en des Druckluftventils 3, wenn die Istdrehzahl n die Maximaldrehzahl n_(max) erreicht (Zeitpunkte t_(1 ),t_(3), t_(5), und t_(7)), und das OEffnen des Druckluftventils 3, wenn die Istdrehzahl n die Schwellwertdrehzahl n_(s) erreicht (Zeitpunkte t_(2), t_(4), t_(6) und t_(8)), wird in dem dargestellten Beispiel insgesamt viermal durchgefuehrt. Da waehrend dieses Ablaufs kein Drehzahleinbruch festgestellt wurde, erfolgt daraufhin ein Hochfahren der Brennkraftmaschine 1 durch den Startermotor 2, bis diese selbsttaetig weiterlaufen kann. Ein Abtrennen des Startermotors 2 durch Ausspuren des Starterritzels 7 kann beispielsweise bei einer Istdrehzahl n von 200 U/min oder nach einer gewissen Zeit (z.B. 10 s) erfolgen.

Fig. 6 zeigt schematisch den zeitlichen Verlauf der Istdrehzahl n waehrend des Verfahrens gemaess Fig. 5, wobei in diesem Fall zumindest ein Zylinder der Brennkraftmaschine 1 zumindest teilweise mit Wasser geflutet ist. Nach dem vollstaendigen OEffnen des Druckluftventils 3 zum Zeitpunkt t_(2), sobald die Istdrehzahl n die vorgebbare Schwellwertdrehzahl n_(s) von beispielsweise 15 U/min erreicht, kommt es aufgrund des erhoehten Widerstands des inkompressiblen Wassers trotz vollstaendigem OEffnens des Druckluftventils 3 zu einem Drehzahleinbruch. Zum Zeitpunkt t_(3) wird dadurch eine vorgebbare Mindestdrehzahl n_(min) von beispielsweise 8 U/min unterschritten und es erfolgt ein Abbruch des Startvorgangs, z.B. durch Schliessen des Druckluftventils 3.」(明細書9ページ3行ないし26行)
(当審仮訳)「実際の回転速度nが所定の閾値回転速度n_(s)(例えば15rpmなど)(本実施例では時間t_(2))に到達すると、制御装置6が圧縮空気バルブ3を完全に開く。慣性によって、実際の回転速度nの増加が遅延に関するものでのみ再び発生する。実際の回転速度nが最大回転速度n_(max)(時間t_(1)、t_(3)、t_(6)およびt_(7))に到達したときの圧縮空気バルブ3の閉鎖と、実際の回転速度nが閾値回転速度n_(s)(時間t_(2)、t_(4)、t_(5)およびt_(8))に到達したときの圧縮空気バルブ3の開動作が、図示の実施例において全部で4回実施される。この工程の間に速度落下は検出されなかったため、内燃エンジン1は、エンジン1が自動的に運転し続けるまでスタータ2によって加速される。スタータピニオン7の不噛合によってスタータ2の切断が、例えば200rpmの実際の回転速度nまたは一定時間(例えば10秒)後に実行される。

図6は、図5に示す工程間の実際の回転速度nの各時間に対する変化を概略的に示しており、この場合には、内燃エンジン1の少なくとも一つのシリンダが少なくとも部分的に浸水している。時間t_(2)で圧縮空気バルブ3が完全に開かれた後、実際の回転速度nが、例えば15rpmである所定の閾値回転速度n_(s)に到達するとすぐに、圧縮空気バルブ3を完全に開いても、非圧縮性の水の抵抗の増加によって回転速度の落下が発生する。したがって時間t_(s)にて、回転速度は、例えば8rpmである所定の最小回転速度n_(min)以下に落ち、例えば圧縮空気バルブ3を閉じることで始動プロセスが遮断される。」

(カ) 上記(エ)の記載事項並びにFig.2及びFig.4の図示内容からみて、制御装置6は圧縮空気バルブ3との通信を自動的に実行するものといえる。

(キ) 上記(イ)及び(ウ)の記載事項からみて、ピストンの圧縮行程中に内燃チャンバ内の気体の逃げをもたらすことなく内燃チャンバ内でピストンの動作をもたらすために駆動シャフト5に対してスタータ2を使用して力を印加しているといえる。

(ク) 上記(ウ)の記載事項並びにFig.2及びFig.4の図示内容からみて、駆動シャフト5は、始動させる方法を自動的に実行するための制御装置6と通信可能であることがわかる。

(ケ) 上記(イ)及び(ウ)の記載事項からみて、駆動シャフト5の相対回転がピストンの相対的な対応する往復動をもたらすことがわかる。

上記(ア)ないし(ケ)の記載事項及び図示内容を総合し、本件補正発明1の記載ぶりに則って整理すると、引用文献には、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されている。

<引用発明1>
「燃焼チャンバ内で往復移動できるピストンと回転可能に結合される駆動シャフト5と、圧縮空気バルブ3との通信を自動的に実行する制御装置6とを有する内燃エンジン1を始動させる方法であって、
ピストンの圧縮行程中に内燃チャンバ内の気体の逃げをもたらすことなく燃焼チャンバ内でピストンの動作をもたらすために駆動シャフト5に対してスタータ2を使用して力を印加することと、
駆動シャフト5の回転速度nを測定することと、
測定された前記回転速度nと最小回転速度n_(min)とを比較することと、
浸水の結果として前記回転速度nが前記最小回転速度n_(min)以下に落ちるときに、前記制御装置6が前記圧縮空気バルブ3を閉鎖することで、前記スタータ2への圧縮空気供給が遮断され、前記始動プロセスが遮断されることと、
を備える方法。」

イ 対比・判断
本件補正発明1と引用発明1とを対比すると、後者の「燃焼チャンバ」は前者の「対応するピストンチャンバ」に相当し、以下同様に、「駆動シャフト5」は「クランクシャフト」に、「制御装置6」は「コントローラ」に、「内燃エンジン1」は「往復エンジン」に、「回転速度n」は「往復エンジンの特性」に、「測定」は「検出」に、「最小回転速度n_(min)」は「診断プロファイル」に、それぞれ相当する。

後者の「圧縮空気バルブ3との通信を自動的に実行する制御装置6」について、圧縮空気バルブ3は、圧縮空気源4とスタータ2との間に配置されるものであり、開位置または閉位置に作動されることで、圧縮空気源4からスタータ2への圧縮空気の供給を制御するものであるから(上記2ア(ウ)を参照。)、前者の「スタータとの通信を自動的に実行するためのコントローラ」に相当する。

上記相当関係を踏まえると、後者の「ピストンの圧縮行程中に燃焼チャンバ内の気体の逃げをもたらすことなく内燃チャンバ内でピストンの動作をもたらすために駆動シャフト5に対してスタータ2を使用して力を印加すること」は、前者の「a)前記ピストンの圧縮行程中に前記ピストンチャンバ内の気体の逃げをもたらすことなく前記ピストンチャンバ内で前記ピストンの動作をもたらすために前記クランクシャフトに対して前記スタータを使用して力を印加するステップ」に相当する。

同様に、後者の「駆動シャフト5の回転速度nを測定すること」は、前者の「b)往復エンジン(10)特性を検出するステップ」に相当し、後者の「測定された前記回転速度nと最小回転速度n_(min)とを比較すること」は、前者の「c)検出された前記特性と検出された前記特性のための診断プロファイル(80)とを比較するステップ」に相当し、後者の「浸水の結果として前記回転速度nが前記最小回転速度n_(min)以下に落ちるとき」は、前者の「診断障害状態が存在することを前記比較が示すとき」に相当し、後者の「前記制御装置6が前記圧縮空気バルブ3を閉鎖することで、前記スタータ2への圧縮空気供給が遮断され、前記始動プロセスが遮断されること」と、前者の「前記コントローラから前記スタータ及び/又は圧力弁への信号により、前記スタータによる力の印加を中止して、前記クランクシャフトが逆方向に回転できるように、前記ピストンの往復動を中止する」こととは、「コントローラからスタータ及び/又は圧力弁への信号により、スタータによる力の印加を中止して、ピストンの往復動を中止するステップ」という限りで一致する。

そうすると、本件補正発明1と引用発明1とは、次の一致点、相違点がある。

[一致点]
「対応するピストンチャンバ内で往復移動できるピストンと回転可能に結合されるクランクシャフトと、スタータとの通信を自動的に実行するためのコントローラとを有する往復エンジンを始動させる方法であって、
a)前記ピストンの圧縮行程中に前記ピストンチャンバ内の気体の逃げをもたらすことなく前記ピストンチャンバ内で前記ピストンの動作をもたらすために前記クランクシャフトに対して前記スタータを使用して力を印加するステップと、
b)往復エンジン特性を検出するステップと、
c)検出された前記特性と検出された前記特性のための診断プロファイルとを比較するステップと、
d)診断障害状態が存在することを前記比較が示すときに、前記コントローラからスタータ及び/又は圧力弁への信号により、前記スタータによる力の印加を中止して、前記ピストンの往復動を中止するステップと、
を備える方法。」

[相違点1]
本件補正発明1は、「燃焼を生じさせる燃焼サイクルの局面を行なえないようにし」ているのに対して、引用発明1は、かかる事項を備えているか不明である点。

[相違点2]
コントローラから圧力弁への信号により、スタータによる力の印加を中止して、ピストンの往復動を中止するステップについて、本件補正発明1は、「クランクシャフトが逆方向に回転できるように」であるのに対して、引用発明1は、かかる事項を備えているか不明である点。

上記相違点1について検討する。
本件補正発明1の「燃焼を生じさせる燃焼サイクルの局面を行なえないようにし」ていることに関して、本願の明細書には「燃料の注入、点火プラグの動作等を行なえないようにしてもよい。」(段落【0039】)との記載がある。
他方、引用発明1において、回転数nが最小回転速度n_(min)以下に落ちるときには、始動プロセスが遮断されるものである(上記ア(エ)及び(オ)を参照。)。ここで、始動プロセスとは、燃料供給や点火動作を行うことであるから、始動プロセスが遮断されるとは、燃料供給や点火動作を行えないようにすることと理解できる。すなわち、引用発明は「燃焼を生じさせる燃焼サイクルの局面を行なえないようにし」ているものといえる。
したがって、上記相違点1に係る本件補正発明1の発明特定事項は、引用発明1も備えているものであるから、上記相違点1は実質的な相違点ではない。

上記相違点2について検討する。
本件補正発明1の「クランクシャフトが逆方向に回転できるように」していることに関して、本願の明細書には「スタータを制御してフライホイール50に対してトルクを供給することを止め、それにより、エンジン速度は、ゼロまで急速に減少し、クランクシャフト12を逆方向に回転させる静圧ロック状態により発生される圧縮チャンバ30の圧力に応じて簡単にマイナスになる」(段落【0058】)との記載がある。
また、本件補正発明1の「静圧ロック状態」とは、ピストンチャンバに水を含んだ状態でピストンがチャンバを圧縮しようとする状態である(段落【0050】)。
他方、引用発明1は、浸水の結果として回転速度nが最小回転速度n_(min)以下に落ちるときに、スタータ2への圧縮空気供給が遮断され、始動プロセスが遮断されるものである。そして、始動プロセスが遮断されれば、駆動シャフト5が自由に回転可能となることは、容易に理解し得たことであるから、引用発明1において、スタータ2への圧縮空気供給が遮断されるときに、浸水の結果として駆動シャフト5が逆方向に回転できるようにすることは、当業者が容易になし得たことである。

そうすると、引用発明1において、上記相違点2に係る本件補正発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

ウ 効果について
本件補正発明1は、全体としてみても、引用発明1から予測し得ない格別な効果を奏するものではない。

(2)本件補正発明7
本件補正発明7は、上記1(2)イに記載したとおりのものである。

ア 引用文献、引用文献の記載事項
引用文献の記載事項及び図示内容(上記(1)アを参照。)を総合し、本件補正発明7の記載ぶりに則って整理すると、引用文献には、次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されている。

<引用発明2>
「シリンダ内で往復移動できるとともに回転可能な駆動シャフト5に動作可能に結合されるピストンを有する内燃エンジン1をスタータ2を用いて始動させる方法であって、前記駆動シャフト5は、前記方法を自動的に実行するための制御装置6と通信可能であり、前記駆動シャフト5の相対回転が前記ピストンの相対的な対応する往復動をもたらす方法において、
20rpmである最大回転速度n_(max)未満の回転速度で前記駆動シャフト5を回転させて前記ピストンの往復動をもたらすためにスタータ2に空気を供給することと、
駆動シャフト5の回転速度nを測定することと、
測定された前記回転速度nと最小回転速度n_(min)とを比較することと、
浸水の結果として前記回転速度nが前記最小回転速度n_(min)以下に落ちるときに、前記制御装置6が前記圧縮空気バルブ3を閉鎖することで、前記スタータ2への圧縮空気供給が遮断され、前記始動プロセスが遮断されることと、
を備える方法。」

イ 対比・判断
本件補正発明7と引用発明2とを対比すると、上記(1)イに記載した相当関係に加え、後者の「シリンダ」は前者の「対応するシリンダ」に相当し、同様に、「スタータ2」は「空気圧スタータ」に相当する。

後者の「20rpmである最大回転速度n_(max)未満の回転速度」は「動作回転速度未満の遅い始動速度」に相当するから、後者の「20rpmである最大回転速度n_(max)未満の回転速度で前記駆動シャフト5を回転させて前記ピストンの往復動をもたらすためにスタータ2に空気を供給すること」は、前者の「a)動作回転速度未満の遅い始動速度で前記クランクシャフト(12)を回転させて前記ピストン(14)の往復動をもたらすために空気圧スタータ(52)に空気を供給するステップ」に相当する。

後者の「浸水の結果として前記回転速度nが前記最小回転速度n_(min)以下に落ちるときに、制御装置6が前記圧縮空気バルブ3を閉鎖することで、前記スタータ2への圧縮空気供給が遮断され、前記始動プロセスが遮断されること」と、前者の「d)前記比較に基づいて診断障害状態が存在する或いは存在しないかどうかを決定するステップと、e)診断障害状態が存在するときに、前記ピストンの往復動を中止し、前記クランクシャフトが逆方向に回転できるようにするために、前記空気圧スタータに空気を供給することを中止すること或いは前記空気圧スタータの動作を停止することのうちの少なくとも一方を行なうステップ」とは、「d)比較に基づいて診断障害状態が存在する或いは存在しないかどうかを決定するステップと、e)診断障害状態が存在するときに、ピストンの往復動を中止し、空気圧スタータに空気を供給することを中止すること或いは空気圧スタータの動作を停止することのうちの少なくとも一方を行なうステップ」という限りで一致する。

そうすると、本件補正発明7と引用発明2とは、次の一致点、相違点がある。

[一致点]
「対応するシリンダ内で往復移動できるとともに回転可能なクランクシャフトに動作可能に結合されるピストンを有する往復エンジンを空気圧スタータを用いて始動させる方法であって、前記クランクシャフトは、前記方法を自動的に実行するためのコントローラと通信可能であり、前記クランクシャフトの相対回転が前記ピストンの相対的な対応する往復動をもたらす方法において、
a)動作回転速度未満の遅い始動速度で前記クランクシャフトを回転させて前記ピストンの往復動をもたらすために空気圧スタータに空気を供給するステップと、
b)往復エンジン特性を検出するステップと、
c)検出された前記特性と検出された前記特性のための診断プロファイルとを比較するステップと、
d)前記比較に基づいて診断障害状態が存在する或いは存在しないかどうかを決定するステップと、
e)診断障害状態が存在するときに、前記ピストンの往復動を中止し、前記空気圧スタータに空気を供給することを中止すること或いは前記空気圧スタータの動作を停止することのうちの少なくとも一方を行なうステップと、 を備える方法。」

[相違点3]
本件補正発明7は、「燃焼を生じさせる燃焼サイクルの局面を行なえないようにし」ているのに対して、引用発明2は、かかる事項を備えているか不明である点。

[相違点4]
空気圧スタータに空気を供給することを中止すること或いは前記空気圧スタータの動作を停止することのうちの少なくとも一方を行なうステップについて、本件補正発明7は、「クランクシャフトが逆方向に回転できるようにするため」であるのに対して、引用発明2は、かかる事項を備えているか不明である点。

上記相違点3について検討する。
相違点1について検討したのと同様に、上記相違点3に係る本件補正発明7の発明特定事項は、引用発明2も備えているものであるから、上記相違点3は実質的な相違点ではない。

上記相違点4について検討する。
相違点2について検討したのと同様に、引用発明2において、上記相違点4に係る本件補正発明7の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

ウ 効果について
本件補正発明7は、全体としてみても、引用発明2から予測し得ない格別な効果を奏するものではない。

(3)まとめ
上記(1)及び(2)により、本件補正発明1は、引用発明1に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件補正発明7は、引用発明2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、いずれも特許出願の際独立して特許を受けることができない。
したがって、本件補正発明1及び本件補正発明7は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

よって、[補正の却下の決定の結論]のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成30年10月15日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1及び請求項7に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」及び「本願発明7」という。)は、平成30年1月22日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1及び請求項7に記載された事項により特定される、前記第2[理由]1(1)に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、本願の請求項1及び請求項7に係る発明は、その優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献に記載された事項に基いて、その出願前にその発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献:国際公開第2012/171049号

3 引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された、引用文献の記載事項並びに引用発明1及び引用発明2は、前記第2の[理由]3における(1)ア及び(2)アに記載したとおりである。

4 対比・判断
本件補正発明1は、前記第2の[理由]2で検討したとおり、本願発明1に発明特定事項を付加して限定したものであるから、本願発明1は、本件補正発明1の発明特定事項の一部を削除したものに相当する。
そうすると、本願発明1の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明1が、前記第2の[理由]3に記載したとおり、引用発明1に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明1は、実質的に同様の理由により、引用発明1に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
同様に、本件補正発明7は、本願発明7に発明特定事項を付加して限定したものであるから、本願発明7は、本件補正発明7の発明特定事項の一部を削除したものに相当する。
そうすると、本願発明7の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明7が、前記第2の[理由]3に記載したとおり、引用発明7に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明7は、実質的に同様の理由により、引用発明2に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

5 まとめ
したがって、本願発明1は、引用発明1に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
また、本願発明7は、引用発明2に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明1及び本願発明7は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2019-10-24 
結審通知日 2019-11-19 
審決日 2019-12-03 
出願番号 特願2016-559821(P2016-559821)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F02N)
P 1 8・ 575- Z (F02N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 楠永 吉孝菅家 裕輔  
特許庁審判長 水野 治彦
特許庁審判官 齊藤 公志郎
金澤 俊郎
発明の名称 静圧ロックの存在を診断しつつ空気圧スタータを用いて往復エンジンを遅く始動させるための方法  
代理人 荒川 聡志  
代理人 田中 拓人  
代理人 小倉 博  

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