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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H02M
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H02M
管理番号 1362615
審判番号 不服2018-15805  
総通号数 247 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-07-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-11-29 
確定日 2020-05-19 
事件の表示 特願2013-187848「コンデンサ・バンク、積層バス・バー、および電源装置」拒絶査定不服審判事件〔平成26年4月3日出願公開、特開2014-60914〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成25年9月11日(パリ条約による優先権主張2012年9月14日、アメリカ合衆国)の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。

平成29年10月16日付け:拒絶理由通知書
平成30年1月19日:意見書、手続補正書の提出
平成30年2月6日付け:拒絶理由通知書
平成30年5月9日:意見書、手続補正書の提出
平成30年7月23日付け:補正の却下の決定、拒絶査定
平成30年11月29日:審判請求書、手続補正書の提出
令和1年11月27日:上申書の提出

第2 平成30年11月29日にされた手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成30年11月29日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.本件補正について(補正の内容)
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲における独立請求項である請求項1及び8の記載は、それぞれ次のとおり補正された。(下線部は、補正箇所である。)
なお、本件補正によって、補正前において請求項1の従属請求項であった請求項8は実質的に削除され、本件補正前に独立請求項であった請求項9が、本件補正後において請求項8に繰り上がっている。

「 【請求項1】
高電位導電層と低電位導電層とそれらが対向面に配置された介在絶縁層とを有し、第1のウィングおよび前記第1のウィングと略直交して延びる第2のウィングを有する第1の積層バス・バーと、
前記第1の積層バス・バーの前記第1のウィングにビアで電気接続された複数のバス・コンデンサと、
高電位導電層と低電位導電層とそれらが対向面に配置された介在絶縁層とを有する第2の積層バス・バーと、
前記第2の積層バス・バーに電気接続され、整流コンデンサを収容していない少なくとも1つの電力コンバータであって、前記第1の積層バス・バーの前記第2のウィングと前記第2の積層バス・バーとがビアで電気接続されて前記バス・コンデンサと並列状態にある電力コンバータと、
を備え、
前記第1の積層バス・バーと前記バス・コンデンサとの合成インダクタンスは、前記バス・コンデンサが前記第1の積層バス・バーと効果的に並列に電気接続されるように十分に低く、
前記第2の積層バス・バーは、前記第2のウィングと電気接続されるビアから、前記第2のウィングとは逆方向に延びて、前記電力コンバータに電気接続する、
電源装置。」
「 【請求項8】
高電位導電層と低電位導電層とそれらが極めて接近して対向面に配置された介在絶縁層とを有し、第1のウィングおよび前記第1のウィングと略直交して延びる第2のウィングを有する第1の積層バス・バーであって、前記高電位導電層は高電位ビアの配列を備え、前記低電位導電層は低電位ビアの配列を備える、第1の積層バス・バーと、
前記第1の積層バス・バーの前記第1のウィングにビアで電気接続された複数のバス・コンデンサであって、それぞれ、前記第1の積層バス・バーの前記高電位導電層に電気接続された対応する高電位端子と、前記第1の積層バス・バーの前記低電位導電層に電気接続された対応する低電位端子とを有する、複数のバス・コンデンサと、
高電位導電層と低電位導電層とそれらが対向面に配置された介在絶縁層とを有する第2の積層バス・バーと、
前記第2の積層バス・バーに電気接続され、前記第1の積層バス・バーの前記第2のウィングと前記第2の積層バス・バーとがビアで電気接続されることにより前記高電位ビアと前記低電位ビアとの間に接続された複数の電力コンバータであって、整流コンデンサを有さない電力コンバータと、
を備え、
前記第2の積層バス・バーは、前記第2のウィングと電気接続されるビアから、前記第2のウィングとは逆方向に延びて、前記電力コンバータに電気接続する、
電源装置。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲の記載
本件補正前の、平成30年1月19日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1及び請求項9(上記(1)の請求項8に対応する。)の記載は、それぞれ次のとおりである。
なお、平成30年5月9日提出の手続補正書による補正は、平成30年7月23日付けの補正の却下の決定によって却下された。

「 【請求項1】
高電位導電層と低電位導電層とそれらが対向面に配置された介在絶縁層とを有する第1の積層バス・バーと、
前記第1の積層バス・バーに電気接続された複数のバス・コンデンサと、
高電位導電層と低電位導電層とそれらが対向面に配置された介在絶縁層とを有する第2の積層バス・バーと、
前記第2の積層バス・バーに電気接続され、整流コンデンサを収容していない少なくとも1つの電力コンバータであって、前記第1の積層バス・バーと前記第2の積層バス・バーとがビアで電気接続されて前記バス・コンデンサと並列状態にある電力コンバータと、
を備え、
前記第1の積層バス・バーと前記第1のバス・コンデンサとの合成インダクタンスは、前記第1のバス・コンデンサが前記第1の積層バス・バーと効果的に並列に電気接続されるように十分に低い、
電源装置。」

「 【請求項9】
高電位導電層と低電位導電層とそれらが極めて接近して対向面に配置された介在絶縁層とを有する第1の積層バス・バーであって、前記高電位導電層は高電位ビアの配列を備え、前記低電位導電層は低電位ビアの配列を備える、第1の積層バス・バーと、
複数のバス・コンデンサであって、それぞれ、前記第1の積層バス・バーの前記高電位導電層に電気接続された対応する高電位端子と、前記第1の積層バス・バーの前記低電位導電層に電気接続された対応する低電位端子とを有する、複数のバス・コンデンサと、
高電位導電層と低電位導電層とそれらが対向面に配置された介在絶縁層とを有する第2の積層バス・バーと、
前記第2の積層バス・バーに電気接続され、前記第1の積層バス・バーと前記第2の積層バス・バーとがビアで電気接続されることにより前記高電位ビアと前記低電位ビアとの間に接続された複数の電力コンバータであって、整流コンデンサを有さない電力コンバータと、
を備える、電源装置。」

2.補正の適否
請求項1についての本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「第1の積層バス・バー」について上記1.(1)のとおり「第1のウィングおよび前記第1のウィングと略直交して延びる第2のウィングを有する」という限定を付加し、「複数のバス・コンデンサ」について上記1.(1)のとおり第1の積層バス・バーの「前記第1のウィングにビアで」電気接続されるという限定を付加し、「電力コンバータ」が電気接続される「第2の積層バス・バー」について上記1.(1)のとおり第1の積層バス・バーの「前記第2のウィング」とビアで電気接続されるという限定及び「前記第2のウィングと電気接続されるビアから、前記第2のウィングとは逆方向に延びて、前記電力コンバータに電気接続する」という限定を付加することを含むものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、少なくとも特許法17条の2第5項2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、請求項8についての本件補正は、本件補正前の請求項9に記載された発明を特定するために必要な事項である「第1の積層バス・バー」、「複数のバス・コンデンサ」、「電力コンバータ」が電気接続される「第2の積層バス・バー」について、上述した請求項1についての本件補正と同様の限定を付加することを含むものであって、補正前の請求項9に記載された発明と補正後の請求項8に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、少なくとも特許法17条の2第5項2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、まず、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が特許法17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1.(1)に【請求項1】として記載したとおりのものである。

(2)引用発明等
ア.国際公開第2012/108048号
原査定の拒絶の理由に引用された国際公開第2012/108048号(以下、「引用文献1」という。)には、「電力変換装置」に関して、図面とともに以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付与した。

(ア)「[0011] 実施の形態1.
図1は、2レベル電力変換装置における主回路の構成を示す図である。図1において、正極(P)および負極(N)の電位を有するフィルタコンデンサ110の直流端子間に半導体素子モジュール101?106が接続されている。より詳細に説明すると、正極(P)と負極(N)との間には正側アームを成す半導体素子モジュール101と負側アームを成す半導体素子モジュール102とが直列に接続され、半導体素子モジュール101,102の接続点は引き出されてU相交流(AC)端子を形成する。以下同様に、正側アームを成す半導体素子モジュール103と負側アームを成す半導体素子モジュール104とが正極(P)と負極(N)との間に直列に接続され、半導体素子モジュール103,104の接続点は引き出されてV相交流端子を形成し、正側アームを成す半導体素子モジュール105と負側アームを成す半導体素子モジュール106とが正極(P)と負極(N)との間に直列に接続され、半導体素子モジュール105,106の接続点は引き出されてW相交流端子を形成する。これら半導体素子モジュール101?106は、フィルタコンデンサ110に蓄積される直流電力を交流電力に変換するスイッチング動作を行う。」

(イ)「[0014] 図2に示すように、フィルタコンデンサ110の正側直流端子(P)と半導体素子モジュール101の端子C1とを接続する接続導体107と、フィルタコンデンサ110の負側直流端子(N)と半導体素子モジュール102の端子E2とを接続する接続導体108とを平行かつ近接させて配置したとき、接続導体107,108に流れる電流は逆向きになる。すなわち、接続導体107,108は、平行かつ近接させて配置した往復路を形成する。このような往復路に逆向きの電流が流れるとき、これらの逆向きの電流によって生じる磁界も逆向きとなるので相互に打ち消し合い、フィルタコンデンサ110と半導体素子モジュール101との間のインダクタンス成分は小さくなる。さらに、接続導体107,108を平行平板導体で構成し、これらの導体間の距離Dを極力小さくすることにより、フィルタコンデンサ110と半導体素子モジュール101との間のインダクタンス成分を大幅に低減することが可能となる。なお、このような動作原理を利用して構成したものが、後述するラミネートブスバーである。」

(ウ)「[0015] つぎに、実施の形態1に係る電力変換装置の構成について、図3および図4の図面を参照して説明する。図3は、実施の形態1に係る電力変換装置を鉄道車両に搭載した場合の一構成例を示す図であり、鉄道車両に搭載される電力変換装置1の内部を車両上部側からレール側に向けて視認したときの正視図であり、図4は、電力変換装置の一部であるインバータ制御部および放熱器を車両上部側から視認したときの斜視図である。」

(エ)「[0016] 電力変換装置1は、ゲート制御ユニット2、断流器・I/Fユニット3、インバータ制御部4および、放熱器5を備えて構成される。また、インバータ制御部4は、ゲート駆動回路10、フィルタコンデンサ12および素子部14を備えて構成される。なお、実際の車両搭載状態では、放熱器5を除く、ゲート制御ユニット2、断流器・I/Fユニット3およびインバータ制御部4は、筐体6に収容されて外気から遮蔽される。一方、放熱器5は、外気に触れるように筐体6の外部に取り付けられ、必要に応じて冷却風にて冷却可能に構成される。
[0017] 素子部14は、図1,2で説明した複数の半導体素子モジュールを含む構成部である。ゲート制御ユニット2は、素子部14の半導体素子モジュールをPWM駆動するのに必要な制御信号を生成する構成部である。断流器・I/Fユニット3は、主回路に流れる電流を遮断する機能および、ゲート制御ユニット2とゲート駆動回路10との間の信号授受を行う機能を有する構成部である。ゲート駆動回路10は、ゲート制御ユニット2が生成した制御信号に基づいて素子部14の半導体素子モジュールを駆動する構成部(駆動回路)である。フィルタコンデンサ12は、電力変換に必要な直流電力を蓄積する構成部(電力供給源)である。」

(オ)「[0018] フィルタコンデンサ12と素子部14とは、ラミネートブスバー16によって電気的に接続される。ラミネートブスバー16は、平板状に形成されて素子部14の直流側端子を接続する第1のブスバー16aと、クランク形状に形成されてフィルタコンデンサ12の直流側端子を接続する第2のブスバー16bとを有して構成される。第1のブスバー16aには、素子部14のスイッチング素子が接続され、第2のブスバー16bには、フィルタコンデンサ12の直流端子(P端子、N端子)が接続される。」

(カ)「[0025] また、図7?図9は、フィルタコンデンサ12と第2のブスバー16bとの間の端子接合部の構造を示す図であり、図7は、図6のA-A線断面図であり、図8は、図6のB-B線断面図であり、図9は、図6のC-C線断面図である。
[0026] フィルタコンデンサ12の負側直流端子(N端子)34に上部導体30が接続される構造は図7に示すとおりであり、絶縁シート32を挟み、ラミネート材33で被覆された上部導体30および下部導体31において、上部導体30のみが導体接続端子36a,36bに接続され、これら導体接続端子36a,36bを介して負側直流端子34に接続される。
[0027] また、フィルタコンデンサ12の正側直流端子(P端子)35に下部導体31が接続される構造は図8に示すとおりであり、下部導体31のみが導体接続端子38a,38bに接続され、これら導体接続端子38a,38bを介して正側直流端子35に接続される。
[0028] また、図9に示すように、A-A線断面およびB-B線断面に直交するC-C線断面では、上部導体30と下部導体31とが導体接続端子36b,38b,36c,38cを介して交互に接続され、所定の負側直流端子34および正側直流端子35に接続される。
[0029] なお、図7?図9において示したブスバーは、一対の接続導体が絶縁物を介して積層される構造を有するものであるが、3以上の接続導体を有し、各々の接続導体間に絶縁物を挟んで構成される構造のものであっても構わない。」

そして、上記各記載からみて、引用文献1には次の事項が記載されているといえる。
・上記(ア)によれば、フィルタコンデンサに半導体素子モジュール101?106が接続されており、当該半導体素子モジュール101?106は、直流電力を交流電力に変換するスイッチング動作を行う。
・上記(ウ)によれば、電力変換装置1は、鉄道車両に搭載される。
・上記(エ)によれば、電力変換装置1は、インバータ制御部4を備え、当該インバータ制御部4は、フィルタコンデンサ12および複数の半導体素子モジュールを含む素子部14を備えて構成される。
・上記(オ)によれば、フィルタコンデンサ12と素子部14とは、ラミネートブスバー16によって電気的に接続される。ラミネートブスバー16は、平板状に形成されて素子部14を接続する第1のブスバー16aと、クランク形状に形成されてフィルタコンデンサ12を接続する第2のブスバー16bとを有して構成される。
・上記(カ)によれば、ラミネートブスバー16を構成する第2のブスバー16bは、一対の接続導体である上部導体30および下部導体31が絶縁物である絶縁シート32を介して積層される構造を有する。また、文言として明記はされていないが、ラミネートブスバー16を構成する第1のブスバー16aも、第2のブスバー16bと同様の構造をしていることは明かである。
・上記(カ)によれば、フィルタコンデンサ12の正側直流端子(P端子)35は第2のブスバー16bの下部導体31に接続され、負側直流端子(N端子)34は第2のブスバー16bの上部導体30に接続される。また、フィルタコンデンサ12と第2のブスバー16bは、導体接続端子36b,38b,36c,38cを介して接続される。
・上記(イ)によれば、フィルタコンデンサ12と素子部14とをラミネートブスバー16によって電気的に接続することによって、フィルタコンデンサ12と素子部14の半導体素子モジュールとの間のインダクタンス成分を大幅に低減する。

また、引用文献1の各図からは、以下の事項が看てとれる。
・図1の回路図及び図2の接続図からみて、フィルタコンデンサ以外のコンデンサは含まれていないから、複数の半導体素子モジュールを含む素子部14は、整流コンデンサを収容していない。
・図3、図4、及び図6によれば、フィルタコンデンサ12は複数設けられている。
・図3、図4、及び図6によれば、第2のブスバー16bは、第1のブスバー16aと接触する平板状の部分(以下、「部分A」という。)と、フィルタコンデンサ12を接続する平板状の部分(以下、「部分B」という。)と、前記部分Aの一端と前記部分Bの一端の間に位置し、前記部分A及び前記部分Bに略直交する平板状の部分(以下、「部分C」という。)とからなり、それら3つの部分によって、上記(オ)に記載の「クランク形状」を形成している。
・図6によれば、第2のブスバー16bの部分Bには複数の孔が設けられ、図7ないし図9によれば、導体接続端子36aないし36c,38aないし38cは、第2のブスバー16bに設けられた前記孔を貫通している。また、図6によれば、第2のブスバー16bの部分Aにも、前記孔と同様の孔が複数設けられている。さらに、図4及び図5によれば、第1のブスバー16aにおいて、第2のブスバー16bの部分Aと接触する部分にも複数の孔が設けられており、前記部分Aと接触する部分から、前記部分Aとは逆方向に延びた部分で素子部を接続している。

以上を総合勘案すると、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

「 複数のフィルタコンデンサと、
直流電力を交流電力に変換するスイッチング動作を行う複数の半導体素子モジュールを含み、整流コンデンサを収容していない素子部と、
前記フィルタコンデンサと前記素子部とを電気的に接続するラミネートブスバーと、
を備え、
前記ラミネートブスバーは、平板状に形成されて素子部を接続する第1のブスバーと、クランク形状に形成されてフィルタコンデンサを接続する第2のブスバーとを有し、
前記第1のブスバー及び第2のブスバーは、一対の接続導体である上部導体および下部導体が絶縁物である絶縁シートを介して積層される構造を有し、
前記第2のブスバーの前記上部導体は前記フィルタコンデンサの負側直流端子に接続され、前記第2のブスバーの前記下部導体は前記フィルタコンデンサの正側直流端子に接続され、
クランク形状の前記第2のブスバーは、第1のブスバーと接触する平板状の部分Aと、フィルタコンデンサ12を接続する平板状の部分Bと、前記部分Aの一端と前記部分Bの一端の間に位置し、前記部分A及び前記部分Bに略直交する平板状の部分Cとからなり、
前記第2のブスバーの前記部分Bには複数の孔が設けられ、前記フィルタコンデンサと前記第2のブスバーは、前記孔を貫通する導体接続端子を介して接続され、
前記第2のブスバーの前記部分A及び第1のブスバーの前記部分Aと接触する部分にも前記孔と同様の複数の孔が設けられ、
前記第1のブスバーは、前記第2のブスバーの前記部分Aと接触する部分から、前記部分Aとは逆方向に延びた部分で前記素子部を接続し、
前記フィルタコンデンサと前記素子部とを前記ラミネートブスバーによって電気的に接続することによって、前記フィルタコンデンサと前記素子部との間のインダクタンス成分を大幅に低減する、
鉄道車両に搭載される電力変換装置。」

イ.特開2005-160248号公報
原査定と同日付でなされた補正の却下の決定に周知技術を示す文献として引用された特開2005-160248号公報(以下、「引用文献2」という。)には、「3レベルインバータ回路」に関して、図面とともに以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付与した。

(ア)「【0002】
入力の直流電圧を切り刻んで出力電圧をパルス形状にし、そのパルスの数、間隔、幅などを制御し、目的とする3レベルの周波数の交流を出力するPWM(Pulse Width Modulation)制御の3レベルインバータ回路においては、近年、パワーデバイス用の素子として、小形・軽量化、低損失・高効率化、騒音・高調波・トルク変動防止、信頼性の向上等の観点から、IGBT(InsulatedGate Bipolar Transistor)が用いられている。」

(イ)「【0019】
3レベルインバータ回路101は、スイッチング素子を内蔵した素子パッケージIGBT(insulated Gate Bipolar Transistor)である4個の素子パッケージ1?4(以下、単にIGBTとも言う)と、結合ダイオードを内蔵した2個のダイオードパッケージ5,6(以下、単に結合パッケージとも言う)と、直流電源9とを有している。そしてさらに、これらのパッケージを必要な箇所において相互に電気的に接続する接続手段(図1では配線として表されている)を有している。」

(ウ)「【0021】
第1,第2の結合ダイオード5,6は、第1の直線αに対して中央線γとは反対側に所定の距離れて且つ第1の直線αに対して平行となる第2の直線βに沿って配置されている。さらに詳しくは、第1の結合ダイオード5は、第2の直線β上の第2のIGBT2と対向する位置に配置され、また第2の結合ダイオード6は、第2の直線β上の第3のIGBT3と対向する位置に配置されている。直流電源9は、コンデンサ7,8が直列に接続されて構成され、正極端子P、中間端子M及び負極端子Nが設けられている。直流電源9には、実際には電力供給用の結線が接続されているが図では省略している。本発明の特徴は、この第1,第2の結合ダイオード5が、直線状に並べられた第1から第4のIGBT1?4からずれた位置に配置されている点にあり、この点について説明して行く。」

(エ)「【0029】
図3は図1に示す3レベルインバータ回路101の素子パッケージ配置に電流路(a)を一点鎖線で付記したものである。図4は同じく図1の素子パッケージ配置に電流路(b)を二点鎖線で付記したものである。
図5は本実施形態の3レベルインバータ装置100の回路101に相当する部分の斜視図である。図6は積層配線板の構造を説明する図5の分解斜視図である。本実施の形態においては、夫々のパッケージは、それぞれ1つの素子がパッケージされている。パッケージは各々矩形平板状の形状を成している。そして、各パッケージには、取付面と反対側の大面積の面(図5及び図6の上方の面)に接続端子が設けられている。各パッケージ1?6は、すべて冷却器30上面の実装面30aに実装されている。各パッケージ1?6の配置に関しては、図1の配置構成図に示した通りであり、第1から第4のIGBTのパッケージ1?4は、第1の直線α上に整列するように配置されている。
(中略)
【0031】
このように、各パッケージ1?6は、各々の接続端子がすべて実装面30aに対して垂直に立設する方向を向くようにして配置されている。そのため、後で詳しく述べるように平板状の積層バスバー40に容易に接続することができる。また、第1から第4のIGBTのパッケージ1?4の3つの同極の接続端子は、第1の直線αに対して直交する方向に並んで設けられている。これは、接続端子間のインダクタンスのバランスを良くするためであり、これにより接続端子間の電流バランスも良くすることができる。
(中略)
【0033】
各パッケージ間の電気的接続手段として、複数の平板状の接続板が積層されてなる積層接続板としての積層バスバー40が設けられている。図6に示されるように、積層バスバー40は最上面を第1層として、第1層から第3層の3層構造を成している。第1層を構成する第1の導電性接続板部41と第2層を構成する第2の導電性接続板部42は、第1から第4のIGBT1?4を覆うように設けられている。第3層を構成する第3の導電性接続板部43は、第1から第4のIGBT1?4の配列方向に分割され、第一の分割接続板44、第2分割接続板45、第3分割接続板47に分割されている。各接続板の層間には、図示しない絶縁シートがサンドイッチ状に挟み込まれ、各接続板は相互に絶縁されている。各々の接続板には、各パッケージ1?6の各々の接続端子と電気的に接続する為に、所定の位置に穴が穿孔されている。
(中略)
【0038】
また、第1の分割接続板44は、第1の結合ダイオード5のカソードKと接続する部分が、第2層の導電性接続板部42の凸部42aと同じ高さとなるように、第1の結合ダイオード5側の一辺に段部44aが形成されている。また、第3の分割接続板46は、第2の結合ダイオード6のアノードAと接続する部分が、第2層の42の凸部42aと同じ高さとなるように、第2の結合ダイオード6側の一辺に段部46aが形成されている。さらに、導電性接続板部41の第1のIGBT1側の一辺には、導電性接続板部42と導電性接続板部43の厚さを吸収して第1のIGBT1と接続しやすいように段部41aが形成されている。
また、積層バスバー40と直流電源9との間は、断面L字形に折り曲げられた接続板48が設けられ、この接続板48によって電気的に接続されている。」

そして、上記各記載及び図面の記載からみて、引用文献2には次の事項が記載されているといえる。
・上記(ア)及び(イ)によれば、直流電圧を入力し交流を出力する3レベルインバータ回路は、スイッチング素子を内蔵した素子パッケージ1?4と、直流電源9とを有しており、上記(ウ)によれば、直流電源9は、コンデンサ7,8が直列に接続されて構成され、電力供給用の結線が接続されている。
ここで、前記3レベルインバータ回路は、直流電圧を入力し交流を出力するものであるから、電力変換装置あるいは電源装置ということができ、スイッチング素子(素子パッケージ1?4)とコンデンサ(7,8:直流電源9)とを有している。
・上記(エ)によれば、各パッケージ間の電気的接続手段として、複数の平板状の接続板が積層されてなる積層接続板としての積層バスバー40が設けられるとともに、積層バスバー40と直流電源9との間は、断面L字形に折り曲げられた接続板48が設けられ、この接続板48によってそれらが電気的に接続されている。
すなわち、平板状の電気的接続手段(積層バスバー40)にスイッチング素子(素子パッケージ1?4)が接続され、前記平板状の電気的接続手段に対して断面L字形に折り曲げられた電気的接続手段(接続板48)が接続され、前記断面L字形に折り曲げられた電気的接続手段にコンデンサ(7,8:直流電源9)が接続されている。
・図5及び図6によれば、コンデンサ(7,8:直流電源9)は、断面L字形に折り曲げられた電気的接続手段(接続板48)の一部であって、平板状の電気的接続手段(積層バスバー40)と直交する部分に接続していることが看てとれる。

以上を総合勘案すると、引用文献2には次の技術事項が記載されている。

「スイッチング素子及びコンデンサを有する電源装置において、スイッチング素子及びコンデンサを、スイッチング素子が電気的に接続される面とコンデンサが電気的に接続される面が直交するように配置すること、及び、そのために平板状の電気的接続手段と断面L字形の電気的接続手段とを用いること。」

(3)対比
そこで、本件補正発明と引用発明とを対比する。

ア.引用発明の「素子部」は、直流電力を交流電力に変換するスイッチング動作を行う複数の半導体素子モジュールを含むものであるから、本件補正発明の「電力コンバータ」に相当する。また、引用発明の「素子部」と本件補正発明の「電力コンバータ」は、「整流コンデンサを収容していない」点で共通する。
イ.引用発明の「ラミネートブスバー」は、それを構成する第1のブスバー及び第2のブスバーが一対の接続導体が絶縁物を介して積層される構造を有していることや、一般に「ブスバー」は「バス・バー」と呼ばれることもあることを勘案すると、「積層バス・バー」であるということができる。
ウ.引用発明の第2のブスバーは、「一対の接続導体である上部導体および下部導体が絶縁物である絶縁シートを介して積層される構造を有」するものであるが、前記「上部導体」はフィルタコンデンサの負側直流端子に接続されるから、本件補正発明の「低電位導電層」に相当し、前記「下部導体」はフィルタコンデンサの正側直流端子に接続されるから、本件補正発明の「高電位導電層」に相当し、前記「絶縁物である絶縁シート」は本件補正発明の「介在絶縁層」に相当する。
そうすると、引用発明の第2のブスバーは、「高電位導電層と低電位導電層とそれらが対向面に配置された介在絶縁層とを有」するものである点で、本件補正発明の「積層バス・バー」と共通する。また、引用発明の第1のブスバーも「一対の接続導体である上部導体および下部導体が絶縁物である絶縁シートを介して積層される構造を有」するものであるから、「高電位導電層と低電位導電層とそれらが対向面に配置された介在絶縁層とを有」するものである点で、本件補正発明の「積層バス・バー」と共通する。
エ.引用発明の「フィルタコンデンサ」は、積層バス・バーであるラミネートブスバーの第2のブスバーに接続されるものであるから、本件補正発明の「バス・コンデンサ」に相当する。
オ.引用発明の「第2のブスバー」は、バス・コンデンサに相当するフィルタコンデンサに接続されるから、本件補正発明の「第1の積層バス・バー」に相当する。
ただし、本件補正発明の「第1の積層バス・バー」が「第1のウィングおよび前記第1のウィングと略直交して延びる第2のウィングを有する」形状(いわゆるL字形状)であるのに対して、引用発明の「第2のブスバー」は「クランク形状」である点で相違する。
カ.引用発明において、フィルタコンデンサと第2のブスバーを接続する「導体接続端子」は、前記第2のブスバーに設けられた孔を貫通して設けられているから、本件補正発明における「ビア」に相当する。
ただし、バス・コンデンサを第1の積層バスバーにビアで接続する位置に関しては、本件補正発明のバス・コンデンサは、「前記第1の積層バス・バーの前記第1のウィングに」「電気接続され」るのに対して、上記オで説示したとおり引用発明の第2のブスバーは「第1のウィングおよび前記第1のウィングと略直交して延びる第2のウィングを有する」形状ではないから、引用発明においてはその旨の特定はなされていない。
カ.引用発明の「第1のブスバー」は電力コンバータに相当する素子部に接続されるから、本件補正発明の「第2の積層バス・バー」に相当する。
キ.引用発明の第1のブスバー及び第2のブスバーは、フィルタコンデンサと素子部とを電気的に接続するためのものであるから、それらが「電気接続されて」いることは自明のことである。
ただし、第2のブスバーの部分A及び第1のブスバーの前記部分Aと接触する部分には、上記カで説示したビア(導体接続端子)が貫通する孔と同様の複数の孔が設けられているが、ビア(導体接続端子)で接続することまでは特定されていない。
また、第2の積層バス・バーを第1の積層バス・バーにビアで接続する位置に関しては、本件補正発明の第2の積層バス・バーは、「前記第1の積層バス・バーの前記第2のウィングに」「電気接続され」るのに対して、上記オで説示したとおり引用発明の第2のブスバーは「第1のウィングおよび前記第1のウィングと略直交して延びる第2のウィングを有する」形状ではないから、引用発明においてはその旨の特定はなされていない。
ク.引用発明の電力変換装置は、上記アで説示したとおり、その素子部において直流電力を交流電力に変換するものである。ここで、引用発明の電力変換装置が「鉄道車両に搭載される」ものであることを勘案すると、前記直流電力は、架線から取り込まれてラミネートブスバーを介して素子部に供給されることは明かである。そうすると、引用発明において、ラミネートブスバーの第2のブスバーの上部導体(低電位導電層)及び下部導体(高電位導電層)に接続されたフィルタコンデンサは、素子部と「並列に電気接続され」ていることも明かである。したがって、本件補正発明と引用発明は、電力コンバータ(素子部)がバス・コンデンサ(フィルタコンデンサ)と「並列状態にある」点で共通する。
ケ.引用発明は、「前記フィルタコンデンサと前記素子部とを前記ラミネートブスバーによって電気的に接続することによって、前記フィルタコンデンサと前記素子部との間のインダクタンス成分を大幅に低減する」ものであるが、本件補正発明のように「前記第1の積層バス・バーと前記バス・コンデンサとの合成インダクタンスは、前記バス・コンデンサが前記第1の積層バス・バーと効果的に並列に電気接続されるように十分に低く」とまでは特定されていない。
コ.本件補正発明は、「前記第2の積層バス・バーは、前記第2のウィングと電気接続されるビアから、前記第2のウィングとは逆方向に延びて、前記電力コンバータに電気接続する」ものであるのに対して、上記エで説示したとおり引用発明の第2のブスバーは「第1のウィングおよび前記第1のウィングと略直交して延びる第2のウィングを有する」形状ではないから、引用発明においてはその旨の特定はなされていない。
サ.引用発明の「電力変換装置」は、鉄道車両に電源を供給するためのものであるから、「電源装置」ということができる。

上記アないしサを勘案すると、本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は次のとおりである。

<一致点>
「 高電位導電層と低電位導電層とそれらが対向面に配置された介在絶縁層とを有する第1の積層バス・バーと、
前記第1の積層バス・バーにビアで電気接続された複数のバス・コンデンサと、
高電位導電層と低電位導電層とそれらが対向面に配置された介在絶縁層とを有する第2の積層バス・バーと、
前記第2の積層バス・バーに電気接続され、整流コンデンサを収容していない少なくとも1つの電力コンバータであって、前記第1の積層バス・バーと前記第2の積層バス・バーとが電気接続されて前記バス・コンデンサと並列状態にある電力コンバータと、
を備える、
電源装置。」

<相違点1>
第1の積層バス・バーの形状に関して、本件補正発明においては「第1のウィングおよび前記第1のウィングと略直交して延びる第2のウィングを有する」形状(いわゆるL字形状)であるのに対して、引用発明においては「クランク形状」である点。

<相違点2>
バス・コンデンサが、本件補正発明においては「前記第1の積層バス・バーの前記第1のウィング」に電気接続されるのに対して、引用発明においてはその旨の特定はなされていない点。

<相違点3>
第2の積層バス・バーが、本件補正発明においては「前記第1の積層バス・バーの前記第2のウィング」に「ビアで」電気接続されるのに対して、引用発明においてはその旨の特定はなされていない点。

<相違点4>
本件補正発明においては「前記第1の積層バス・バーと前記バス・コンデンサとの合成インダクタンスは、前記バス・コンデンサが前記第1の積層バス・バーと効果的に並列に電気接続されるように十分に低」いのに対して、引用発明においてはその旨の特定はなされていない点。

<相違点5>
本件補正発明においては「前記第2の積層バス・バーは、前記第2のウィングと電気接続されるビアから、前記第2のウィングとは逆方向に延びて、前記電力コンバータに電気接続する」のに対して、引用発明においてはその旨の特定はなされていない点。

(4)判断
上記各相違点について検討する。

ア.相違点1について
電源装置において、スイッチング素子及びコンデンサをどのような向きに配置するかは、当業者が適宜選択し得る設計事項であり、上記(2)イで説示したとおり、引用文献2には、スイッチング素子が電気的に接続される面とコンデンサが電気的に接続される面が直交するようにそれらを配置すること、及び、そのために平板状の電気的接続手段と断面L字形の電気的接続手段とを用いることが記載されている。
そうすると、引用発明においても、スイッチング素子に相当する素子部が電気的に接続される面とコンデンサに相当するフィルタコンデンサが電気的に接続される面が直交するように配置することは、当業者が適宜なし得ることであり、その際に、電気的接続手段である第2のブスバー(第1の積層バス・バー)として、クランク形状のものに代えてL字形のものを用いるようにすることは、当業者にとって格別の技術的困難性を伴うことではない。
以上のとおりであるから、引用発明の第2のブスバー(第1の積層バス・バー)をL字形とすること、すなわち、「第1のウィングおよび前記第1のウィングと略直交して延びる第2のウィングを有する」形状とすることは、当業者が容易になし得ることである。

イ.相違点2、3、及び5について
(ア)相違点2及び3について
上記アで説示したように引用発明の第2のブスバー(第1の積層バス・バー)を「第1のウィングおよび前記第1のウィングと略直交して延びる第2のウィングを有する」形状とした場合、第1のブスバー(第2の積層バス・バー)と平行な部分(すなわち、第2のウィング)で第1のブスバー(第2の積層バス・バー)と接続することになり、かつ、第1のブスバー(第2の積層バス・バー)と略直交する部分(すなわち、第1のウィング)でフィルタコンデンサ(バス・コンデンサ)を電気的に接続することになる。
また、第1のブスバー(第2の積層バス・バー)と第2のブスバー(第1の積層バス・バー)との電気接続を、第2のブスバー(第1の積層バス・バー)とフィルタコンデンサ(バス・コンデンサ)の電気接続と同様に、孔を貫通する導体接続端子すなわちビアで行うことは、当業者が普通になし得る程度のことであって格別の創意工夫を要することではない。
(イ)相違点5について
引用発明の第1のブスバー(第2の積層バス・バー)は、第2のブスバー(第1の積層バス・バー)の部分Aと接触する部分から、前記部分Aとは逆方向に延びた部分で素子部を接続するものである。
そして、上記アで説示したように引用発明の第2のブスバー(第1の積層バス・バー)を「第1のウィングおよび前記第1のウィングと略直交して延びる第2のウィングを有する」形状とした場合、上記イ(ア)で説示したように第1のブスバー(第2の積層バス・バー)は、第2のブスバー(第1の積層バス・バー)の「第2のウィング」と「ビア」で接続することになる。
そうすると、引用発明の第2のブスバー(第1の積層バス・バー)を「第1のウィングおよび前記第1のウィングと略直交して延びる第2のウィングを有する」形状とした場合、第1のブスバー(第2の積層バス・バー)は、第2のブスバー(第1の積層バス・バー)の「第2のウィング」と電気接続されるビアから、前記第2のウィングとは逆方向に延びた部分で素子部(電力コンバータ)を接続することになる。
(ウ)まとめ
以上のとおり、本件補正発明における相違点2、3、及び5に係る発明特定事項は、引用発明の第2のブスバー(第1の積層バス・バー)をL字形とすること、すなわち、「第1のウィングおよび前記第1のウィングと略直交して延びる第2のウィングを有する」形状とするとともに、第1のブスバー(第2の積層バス・バー)と第2のブスバー(第1の積層バス・バー)との電気接続をビアで行うことによって導き出せる事項にすぎず、格別のものであるとは認められない。

ウ.相違点4について
引用発明は、「前記フィルタコンデンサと前記素子部とを前記ラミネートブスバーによって電気的に接続することによって、前記フィルタコンデンサと前記素子部との間のインダクタンス成分を大幅に低減する」ものであるから、フィルタコンデンサと第1のブスバー及び第2のブスバーを有するラミネートブスバーとの合成インダクタンスも大幅に低減されることは明かである。そうすると、引用発明においても、第2のブスバー(第1の積層バス・バー)とフィルタコンデンサ(バス・コンデンサ)との合成インダクタンスは、前記フィルタコンデンサ(バス・コンデンサ)が前記第2のブスバー(第1の積層バス・バー)と効果的に並列に電気接続されるように十分に低いものであるといえるから、相違点4は実質的な相違点であるとは認められない。

エ.作用効果について
本件補正発明の奏する作用効果は、引用発明及び周知技術の奏する作用効果、特に、引用発明の「前記フィルタコンデンサと前記素子部との間のインダクタンス成分を大幅に低減する」点から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

したがって、本件補正発明は、引用発明及び引用文献2に記載の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3.本件補正についてのむすび
よって、本件補正後の請求項8に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかを検討するまでもなく、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について

1.本願発明
平成30年11月29日にされた手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし13に係る発明は、平成30年1月19日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし13に記載された事項により特定されたものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記第2の[理由]の1(2)に本件補正前の請求項1として記載したとおりのものである。

2.原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1ないし13に係る発明は、引用文献1(国際公開第2012/108048号)に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、という理由を含むものである。

3.引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1の記載事項等は、上記第2の[理由]の2(2)のアに記載したとおりである。

4.対比
本願発明は、本件補正発明から、前記第2の[理由]2(3)、(4)で検討した相違点1ないし3、5に関係する次の限定を削除したものである。
・「第1の積層バス・バー」についての、「第1のウィングおよび前記第1のウィングと略直交して延びる第2のウィングを有する」という限定
・「複数のバス・コンデンサ」についての、第1の積層バス・バーの「前記第1のウィングにビアで」電気接続されるという限定
・「電力コンバータ」が電気接続される「第2の積層バス・バー」についての、第1の積層バス・バーの「前記第2のウィング」とビアで電気接続されるという限定及び「前記第2のウィングと電気接続されるビアから、前記第2のウィングとは逆方向に延びて、前記電力コンバータに電気接続する」という限定
そうすると、前記[理由]2(3)で検討した内容を踏まえて、本願発明と引用発明とを対比すると、次の点で相違し、その余の点で一致する。

<相違点6>
第2の積層バス・バーが、本願発明においては第1の積層バス・バーに「ビアで」電気接続されるのに対して、引用発明においてはその旨の特定はなされていない点。

<相違点7>
本願発明においては「前記第1の積層バス・バーと前記バス・コンデンサとの合成インダクタンスは、前記バス・コンデンサが前記第1の積層バス・バーと効果的に並列に電気接続されるように十分に低」いのに対して、引用発明においてはその旨の特定はなされていない点。

5.判断
上記各相違点について検討する。

ア.相違点6について
前記[理由]2(4)イ(ア)で説示したとおり、第1のブスバー(第2の積層バス・バー)と第2のブスバー(第1の積層バス・バー)との電気接続を、第2のブスバー(第1の積層バス・バー)とフィルタコンデンサ(バス・コンデンサ)の電気接続と同様に、孔を貫通する導体接続端子すなわちビアで行うことは、当業者が普通になし得る程度のことであって格別の創意工夫を要することではない。

イ.相違点7について
前記[理由]2(4)ウで説示したとおり、引用発明は、「前記フィルタコンデンサと前記素子部とを前記ラミネートブスバーによって電気的に接続することによって、前記フィルタコンデンサと前記素子部との間のインダクタンス成分を大幅に低減する」ものであるから、フィルタコンデンサと第1のブスバー及び第2のブスバーを有するラミネートブスバーとの合成インダクタンスも大幅に低減されることは明かである。そうすると、引用発明においても、第2のブスバー(第1の積層バス・バー)とフィルタコンデンサ(バス・コンデンサ)との合成インダクタンスは、前記フィルタコンデンサ(バス・コンデンサ)が前記第2のブスバー(第1の積層バス・バー)と効果的に並列に電気接続されるように十分に低いものであるといえるから、相違点4は実質的な相違点であるとは認められない。

ウ.作用効果について
本願発明の奏する作用効果は、引用発明の奏する作用効果、特に、引用発明の「前記フィルタコンデンサと前記素子部との間のインダクタンス成分を大幅に低減する」点から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

したがって、本願発明は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

6.上申の内容について
審判請求人は、令和1年11月27日提出の上申書において、以下のとおりの補正案を作成するとともに、「上記補正案によれば、本願発明が進歩性を具備することが明らかであります。よって、何卒、補正案のように補正する機会をお与え下さるよう、衷心よりお願い申しあげます。」と述べている。
<補正案(下線は補正箇所を示す。)>
「 [請求項1]高電位導電層と低電位導電層とそれらが対向面に配置された介在絶縁層とを有し、第1 のウィングおよび前記第1のウィングと略直交して延びる第2のウィングを有する第1の 積層バス・バーと、前記第1の積層バス・バーの前記第1のウィングにおいてビアによって電気的に並列に接続された複数のバス・ コンデンサと、高電位導電層と低電位導電層とそれらが対向面に配置された介在絶縁層とを有する第2 の積層バス・バーと、前記第2の積層バス・バーに電気接続され、整流コンデンサを収容していない少なくと も1つの電力コンバータであって、前記第1の積層バス・バーの前記第2のウィングと前記第2の積層バス・バーとがビアで電気接続されて前記バス・コンデンサと並列状態にある電力コンバータと、を備え、前記第1の積層バス・バーと前記バス・コンデンサとの合成インダクタンスは、前記バス・コンデンサが前記第1の積層バス・バーと効果的に並列に電気接続されるように十分に低く、前記第2の積層バス・バーは、前記第2のウィングと電気接続されるビアから、前記第2のウィングとは逆方向に延びて、前記電力コンバータに電気接続する、電源装置。
(請求項2以降は省略)」
しかしながら、上記第2で説示したとおり本件補正は却下すべきものであり、かつ、上記第3の1ないし5で説示したとおり原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が当業者が容易に発明をすることができたものであるから、補正の機会を再度与える合理的な理由を見出すことはできない。
なお、引用文献1に記載の複数のフィルタコンデンサも電気的に並列に接続されている(特に、図6ないし図8参照。)ことを勘案すると、上記補正案に記載の請求項1に係る発明も、引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。

 
別掲
 
審理終結日 2019-12-24 
結審通知日 2019-12-25 
審決日 2020-01-07 
出願番号 特願2013-187848(P2013-187848)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H02M)
P 1 8・ 121- Z (H02M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 北嶋 賢二  
特許庁審判長 酒井 朋広
特許庁審判官 國分 直樹
山田 正文
発明の名称 コンデンサ・バンク、積層バス・バー、および電源装置  
代理人 清原 義博  

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