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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F04D
管理番号 1362621
審判番号 不服2018-11173  
総通号数 247 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-07-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-08-16 
確定日 2020-05-21 
事件の表示 特願2016-171573「真空ポンプのローター、又は真空ポンプの回転ユニットのローターのバランス取りの為の方法」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 5月18日出願公開、特開2017- 82764〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成28年9月2日(パリ条約による優先権主張 2015年9月4日、欧州特許庁)の出願であって、平成29年8月29日付けの拒絶理由の通知に対し、平成29年11月28日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がなされたが、平成30年4月26日付けで拒絶査定がなされ(発送日 平成30年5月9日)、これに対して同年8月16日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに同時に手続補正がなされ、平成31年1月22日付けで上申書が提出され、その後、当審において、令和元年8月27日付けで拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)が通知され、同年11月26日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされたものである。

第2 本願発明

本願の請求項1?14に係る発明は、令和元年11月26日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?14に記載された事項により特定されるとおりのものであって、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。
「真空ポンプ(111)のローター(149)、又は真空ポンプ(111)の為のローター(149)のバランスを取るための方法であって、真空ポンプ(111)のステーターに対して、ローター(149)が回転軸(151)を中心として回転可能に支承されており、当該方法が、
回転軸(151)を中心として回転するローター(149)におけるローター(149)のアンバランスを測定するステップ、
測定されたアンバランスに応じて、少なくとも一つの計算された箇所(P1,P2,P3,P4,P5)において線(304)、つまりレーザー光線、イオン線、又は電子線によってローター(149)を当てるステップであって、当該線(304)によって、アンバランスのできる限り完全な排除又は少なくとも減少の為にローター(149)から材料が除去されるよう当てるステップを含み、
箇所(P1,P2,P3,P4,P5)及び箇所(P1,P2,P3,P4,P5)において除去すべき材料量が、箇所(P1,P2,P3,P4,P5)における材料量の除去によって可能な限り大きなアンバランスの補正が達成されるよう計算され、
箇所(P1,P2,P3,P4,P5)において除去すべき材料量が、材料除去がローター(149)の回転方向で見て、所定の角度領域(Δφ)にわたって延在するよう計算され、角度領域(Δφ)が、3度から60度の間の回転角度の領域にあることを特徴とする方法。」

第3 当審拒絶理由の概要

当審拒絶理由のうち、本願の請求項1に係る発明についての理由Aは、概略、次のとおりのものである。
本願の請求項1に係る発明は、本願の優先権主張の日(以下、「優先日」という。)前に日本国内または外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、以下の引用例1に記載された発明及び引用例2?4に記載された周知の事項に基いて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
引用例1.特開昭58-2719号公報
引用例2.特開昭47-2348号公報
引用例3.特開昭53-9183号公報
引用例4.特開昭57-19637号公報

第4 引用例の記載及び引用発明

1.引用例1の記載及び引用発明
(1)引用例1には、図面とともに、以下の事項が記載されている(下線は、当審で付加した。)。
ア.「真空容器内で回転可能に設けた回転体と、この回転体の振動を検出する振動検出装置と、この装置によって得た検出信号を入力として前記回転体の不釣合量を計算するコンピュータと、このコンピュータにより制御され、パルス状レーザ光を発振するレーザ発振装置と、前記レーザ光を集光させ、前記回転体の表面に照射する集光レンズとを具備することを特徴とする回転体のバランシング装置。」(第1ページ左下欄第5?13行(空白行を除く。以下同じ)
イ.「本発明は、真空容器内で高速回転する回転体のバランシング装置に係る。」(第1ページ左下欄第15?16行)
ウ.「例えば、ターボモレキュラーポンプの回転体(ロータ)のように真空容器内で高速回転するロータのバランシングは、従来、大気中において汎用のバランシングマシン上で適当な回転数まで回転させて不釣合量を検出し、研削等の機械加工による修正を施した後、真空容器内に組み込み、常用回転数に至るまでの回転試験を行っている。そしてロータが過大な振動を生ずる場合には、真空状態を解除し、真空容器よりロータを取り出し、大気中で再びバランス修正を行うという工程を採用している。
上記のようなバランス修正方法では、真空容器内でのロータの真空状態解除、分解、取り出し、大気中でのバランシング修正、再組立、真空引き等作業工数が多く、多くの労力を必要としかつ、高精度のバランスを得るのに長時間要するという欠点があった。」(第1ページ左下欄第17行?右下欄第14行)
エ.「本発明は、上記の事情に基きなされたもので、真空容器内で高速回転するロータのバランシングを真空状態を解除することなく、迅速にかつ高精度に自動的に行うバランシング装置を提供することを目的とする。」(第2ページ左上欄第2?6行)
オ.「以下に、本発明の一実施例を図面を参照して説明する。
第1図において、真空容器1内にはロータ2が軸受3により支持されている。このロータ2の外周近傍に振動センサ4及びパルスセンサ5を配置する。」(第2ページ左上欄第7?12行)
カ.「次に、上記構成のバランシング装置の作用について説明する。
真空容器1内で回転するロータ2の振動は、振動センサ4により検出され、また、ロータ2の位相基準信号がパルスセンサ5により作られ、パルス整形器7に入力される。このパルス整形器7の出力は1回転1周期の矩形波であり、この出力信号は、振動センサ4の信号増巾器6の出力信号とともにトラッキングフィルタ8に入力される。このトラッキングフィルタ8により、パルス信号を参照信号としたバンドパスフィルタがかけられ、フィルタリングされた振動波形はコンピュータ9に送られる。
このコンピュータ9において、波形分析が行われ、ロータ2の回転数と、振動の振巾と位相とが読み取られる。そこで、あらかじめコンピュータ9にメモリーされた影響係数、すなわち1パルスのレーザ照射による振動振巾の変化量を基準にバランス解析が行われ、バランス修正に必要なレーザ照射のパルス数と照射位相とがデータとしてレーザコントローラ10に送られる。」(第2ページ右上欄第10行?左下欄第10行)
キ.「レーザコントローラ10では、パルス整形器7の出力信号を基準としてコンピュータ9の指示した照射位相の分だけの時間遅れをもったトリガーパルス信号を作り、所要の照射回数だけトリガーパルス信号をレーザ発振器11へ送る。
レーザ発振器11は、このトリガーパルス信号により励起されてパルス状のレーザ光lを発振する。このレーザ光lは、集光レンズ12を介してロータ2の表面に集光される。
レーザ光lが通過する部分の真空容器1に設けたレーザ透過窓13は、例えばレーザ光の波長が1.06μmのときには石英ガラス製のものが好適である。
上記のようにしてロータ2の表面に集光されたレーザ光lにより、ロータ2の表面金属は瞬時に加熱され、融解、蒸発し、バランス除去される。」(第2ページ左下欄第11行?右下欄第6行)
ク.「以上、述べたように本発明のバランシング装置によれば概略以下のような効果を有する。
(1)一度、真空容器内に組み込み、真空引きして回転しさえすれば、バランシング作業が完了するまで、真空破壊、分解、再組立、真空引き等の手作業が不要となり、しかもロータの高速回転時にバランシング作業が行なえ、作業工数、作業時間の短縮化を図ることができる。
(2)レーザカットバランスにおける単位レーザパルス当りの除去量は約0.1mg以下と小さく、したがって非常に高精度のバランス修正が可能である。
(3)コンピュータ制御により自動的に、迅速かつ適確にバランシング作業を行うことができる。」(第2ページ右下欄第20行?第3ページ左上欄第13行)
以上の引用例1の記載、特に記載ウを踏まえれば、引用例1には、引用例1に記載された回転体のバランシング装置を用いた、ターボモレキュラーポンプのロータのバランス修正方法が開示されていることが理解できる。
記載オ及び第1図の記載からみて、次の事項が理解できる。
ケ.ロータ2は、軸部を有し、真空容器1内にはロータ2がその軸部を介して軸受3により支持されている。
記載カ及び第1図の記載からみて、次の事項が理解できる。
コ.コンピュータ9は、真空容器1内で回転するロータ2の、振動センサ4により検出された振動と、位相基準信号とから、ロータ2の回転数と、振動の振巾と位相とを読み取り、あらかじめ求められている影響係数を基準にバランス解析を行い、バランス修正に必要なレーザ照射のパルス数と照射位相を求め、レーザコントローラ10に送る。
記載カ及びキ、第1図の記載並びに事項コからみて、次の事項が理解できる。
サ.レーザコントローラ10は、レーザ発振器11に、コンピュータ9から送られたパルス数と照射位相に従ってパルス状のレーザ光lを発振させ、レーザ光lは、ロータ2の表面に集光され、ロータ2の表面金属を融解、蒸発させ、バランス除去する。
(2)そうすると、これらの事項からみて、本願の請求項1の記載に倣って整理すれば、引用例1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「ターボモレキュラーポンプのロータのバランス修正方法であって、真空容器1内にはロータ2がその軸部を介して軸受3により支持されており、
真空容器内1で回転するロータ2の、振動センサ4により検出された振動と、位相基準信号とから、ロータ2の回転数と、振動の振巾と位相とを読み取り、あらかじめ求められている影響係数を基準にバランス解析を行い、バランス修正に必要なレーザ照射のパルス数と照射位相を求め、
前記パルス数と前記照射位相に従ってパルス状のレーザ光lを発振させ、ロータ2の表面に集光して、ロータ2の表面金属を融解、蒸発させ、バランス除去する、
方法。」

2.引用例2の記載
引用例2には、図面とともに、以下の事項が記載されている。
ア,「この発明は,ロータなど回転体を釣合せるための装置に関するものであって,ロータの回転中に,高強度のレーザ光線を短時間ずつ周期的に放射することによって,不釣合を徐々に除いていくものである。」(第2ページ右上欄第2?6行)
イ.「精密な焦点合せの場合次のような不利な点が生じる。すなわち,レーザ光線によって得られる穴の直径がわずか数10分の1mmにしかならず,比較的大きな不釣合の場合には,材料削除の結果得られる穴がかなり深く工作物の内部に入りこむことになるが,これは非常に不利な点である。」(第2ページ左下欄第9?15行)
ウ.「本発明の課題は,上記の不利な点を除去し,改良された技術とこの技術を具体化するための装置とを提案することにある。この場合,材料削除の結果生じる穴が被試験ロータ中に深く入りこまないようにしなければならない。この課題は,本発明によって次のように解決された。すなわち,ロータの正確な不釣合位置に対して,その周囲のいくつかの場所にレーザ光線を移動し(あるいは)傾けて不釣合を除去する方法であって,それらのいくつかの場所の中心点が,正確な不釣合位置ということになる。」(第3ページ左上欄第17行?右上欄第7行)
エ.「本発明によれば,ロータの内部に深い修正穴を作らないで済むのであるが,第4図と第5図にはその原理が示してある。第4図に示されているように,いくつかの修正穴(13)がロータ周囲方向の一定角度範囲に正確に連続して作られる。この修正穴を作る角度範囲は,不釣合の正確な角位置(14)を中心に対称的に拡がっている。すなわち,正確な不釣合位置がこの角度範囲の中心点を成している。」(第4ページ右下欄第5?13行)

3.引用例3の記載
引用例3には、図面とともに、以下の事項が記載されている。
ア.「自動車用フライホイール,クランクシャフトや電動機回転子などの回転体の不釣合を修正することは前記回転体を内蔵する回転機器の振動,雑音を防止し、性能および耐久性の劣化を防止する上において、非常に重要な意味を持っている」(第1ページ右下欄第14?18行)
イ.「上記不釣合修正装置は、不釣合物体と修正加工装置を同速で回転させ、かつその回転の位相差を前記した値に固定する事によって、回転中レーザビームを常に不釣合物体の被修正箇所に合致させ、不釣合物体を回転させながら不釣合修正加工を行なわせるようにしたものであるが、・・・(中略)・・・この方法は、一方では修正点に比較的径が小さくかつ深さの深い穴をあける事になるため、十分な量の修正が制限されたり、あるいは不釣合物体の形状もしくは構造によっては望ましくない穿孔をするなどの不都合を生じることになる。」(第2ページ右下欄第16行?第3ページ左上欄第11行)
ウ.「本発明は、上記欠点を解決するため、十分に集光された入射レーザビームで、被修正箇所を中心とした適当な面積の領域内を、適当な速度で走査するようにしたものであり、比較的径が大きく、かつ深さの浅い穿孔を行なう事によって修正量を大きくとることが出来、さらには酸化反応の助けをかりて修正を行なう場合においても、穿孔が深くなって酸化剤との接触が不十分になるために発生する除去能力の低下などをおさえる事が出来るという特徴を有するものである。」(第3ページ左上欄第15行?右上欄第4行)
エ. 「第3図において、301は不釣合物体101の被修正面であり、302は回転軸、303は被修正箇所である。被修正箇所303の位置を被修正面の直径上のどの位置にもってくるかは不釣合物体101の形状,構造および修正量との兼合いより決定される。」(第3ページ右上欄第9?13行)
オ.「以上説明したように、本発明は、レーザビームを用いた自動不釣合修正方法において、被修正箇所を中心に一定面積を走査することにより、従来の不釣合修正装置が有していた修正量を多く取る事が困難であるなどの欠点を解消するものであり、修正除去量を増大することが出来るとともに、修正速度を早めることが出来、さらに穿孔に起因する回転体などの構造上や性能上の不都合を避けることが出来るなどの多くの利点を有するものである。」(第4ページ左上欄第20行?右上欄第9行)

4.引用例4の記載
引用例4には、図面とともに、以下の事項が記載されている。
ア.「従来、電動機の回転子等、回転体のダイナミックバランスを調整する一手法として、回転中の回転体の不平衡部位にパルスレーザビームを照射して上記不平衡部位を除去加工し、これにより回転体のダイナミックバランスをとることが行なわれている。」(第2ページ左上欄第3?8行)
イ.「このように低速回転領域にて加工する場合に、パルスレーザビームの照射エネルギ密度を高速速回転用に高く定めておくと、加工除去される溝の深さが非常に深くなるおそれがある。このように溝が深くなり過ぎると、回転体の強度上好ましくなく、また比較的肉厚の薄い回転体の場合には孔が穿たれて使用できなくなる危険があった。」(第2ページ左上欄第20行?右上欄第7行)
ウ.「したがって、回転体1の不平衡部位は、第4図(a)のように低速であるにもかかわらず加工溝がそれほど深くならず、しかも長めに除去加工される。」(第4ページ左上欄第6?9行)
エ.「したがって、このパルスレーザビーム24により加工される回転体1の不平衡部位は、第4図(b)に示す如く高速回転しているにもかかわらず、ある程度深く、しかもそれほど加工溝が長くならない程度に加工される。」(第4ページ右上欄第18行?左下欄第3行)

第5 対比・判断

1.対比
本願発明と引用発明を対比する。
ア.引用発明の「ターボモレキュラーポンプ」は、本願発明の「真空ポンプ」に相当するから、引用発明の「ターボモレキュラーポンプのロータ」は、本願発明の「真空ポンプのローター、又は真空ポンプの為のローター」に相当する。そして、引用発明の「バランス修正」は、本願発明の「バランスを取る」ことに相当するから、引用発明の「ターボモレキュラーポンプのロータのバランス修正方法」は、本願発明の「真空ポンプのローター、又は真空ポンプの為のローターのバランスを取るための方法」に相当する。
イ.引用発明は、真空容器1内でロータ2が回転するものであるところ、ロータ2が軸受3により支持されている軸部を中心として回転することは明らかであるから、引用発明の「軸部」は、本願発明の「回転軸」に相当し、引用発明の「ロータ2がその軸部を介して軸受3により支持されて」いることは、本願発明の「ローターが回転軸を中心として回転可能に支承されて」いることに相当する。
そして、引用発明は、従来、大気中で施していた、真空容器内で高速回転するロータのバランス修正を、真空容器内に組み込んだまま施すものであり(前記「第4 1(1)ウ,エ,ク」参照)、ターボモレキュラーポンプは、ロータが真空容器を構成するハウジング内でステータに対して回転するものであることからすれば、引用発明の「真空容器1内にはロータ2がその軸部を介して軸受3により支持されて」いることは、本願発明の「真空ポンプのステーターに対して、ローターが回転軸を中心として回転可能に支承されて」いることに相当する。
ウ.引用発明は、レーザ光lをロータ2の表面に集光して、ロータ2の表面金属を融解、蒸発させ、バランス除去するものであるから、バランス修正に必要なレーザ照射のパルス数と照射位相を求めることは、バランス修正のためにロータ2から除去する金属の量及び除去する位置を求めていることにほかならない。
そして、ロータ2から除去する金属の量及び除去する位置を求めるためには、バランス修正前の時点におけるロータ2のアンバランスを求める必要があることは当然であり、引用発明は、ロータ2のバランス解析を行って、バランス修正に必要なレーザ照射のパルス数と照射位相を求めるものである。
そうすると、引用発明の「真空容器内1で回転するロータ2の、振動センサ4により検出された振動と、位相基準信号とから、ロータ2の回転数と、振動の振巾と位相とを読み取り、あらかじめ求められている影響係数を基準にバランス解析を行」うことは、本願発明の「回転軸(151)を中心として回転するローター(149)におけるローター(149)のアンバランスを測定するステップ」「を含」むことに相当する。
エ.引用発明の「レーザ光l」は、本願発明の「レーザー光線」に相当するから、引用発明の「パルス状のレーザ光lを発振させ、ロータ2の表面に集光する」ことは、本願発明の「線(304)、つまりレーザー光線、イオン線、又は電子線によってローター(149)を当てる」ことに相当する。
引用発明の「バランス修正に必要なレーザ照射のパルス数」及び「バランス修正に必要なレーザ照射の」「照射位相」は、前記ウで検討したことからみて、それぞれ、本願発明の「箇所において除去すべき材料量」及び「少なくとも一つの計算された箇所」に相当する。
そして、引用発明は、ロータ2のバランス解析を行って、バランス修正に必要なレーザ照射のパルス数と照射位相を求めるものであるから、引用発明の「バランス修正に必要なレーザ照射のパルス数と照射位相を求め、前記パルス数と前記照射位相に従ってパルス状のレーザ光lを発振させ、ロータ2の表面に集光する」ことは、本願発明の「測定されたアンバランスに応じて、少なくとも一つの計算された箇所(P1,P2,P3,P4,P5)において線(304)、つまりレーザー光線、イオン線、又は電子線によってローター(149)を当てる」むことに相当する。
更に、引用発明の「ロータ2の表面金属を融解、蒸発させ」ることは、本願発明の「ローターから材料が除去される」ことに相当し、引用発明の「バランス除去」は、本願発明の「アンバランスのできる限り完全な排除又は少なくとも減少」に相当する。
してみれば、引用発明の「バランス修正に必要なレーザ照射のパルス数と照射位相を求め、前記パルス数と前記照射位相に従ってパルス状のレーザ光lを発振させ、ロータ2の表面に集光して、ロータ2の表面金属を融解、蒸発させ、バランス除去する」ことは、本願発明の「測定されたアンバランスに応じて、少なくとも一つの計算された箇所において線、つまりレーザー光線、イオン線、又は電子線によってローターを当てるステップであって、当該線によって、アンバランスのできる限り完全な排除又は少なくとも減少の為にローターから材料が除去されるよう当てるステップを含」むことに相当する。
オ.以上のことから、本願発明と引用発明との一致点及び相違点は、以下のとおりと認められる。
【一致点】
真空ポンプのローター、又は真空ポンプの為のローターのバランスを取るための方法であって、真空ポンプのステーターに対して、ローターが回転軸を中心として回転可能に支承されており、当該方法が、
回転軸を中心として回転するローターにおけるローターのアンバランスを測定するステップ、
測定されたアンバランスに応じて、少なくとも一つの計算された箇所において線、つまりレーザー光線、イオン線、又は電子線によってローターを当てるステップであって、当該線によって、アンバランスのできる限り完全な排除又は少なくとも減少の為にローターから材料が除去されるよう当てるステップを含む、方法。
【相違点】
本願発明は、箇所及び箇所において除去すべき材料量が、箇所における材料量の除去によって可能な限り大きなアンバランスの補正が達成されるよう計算され、箇所において除去すべき材料量が、材料除去がローターの回転方向で見て、所定の角度領域にわたって延在するよう計算され、角度領域が、3度から60度の間の回転角度の領域にあるのに対し、
引用発明は、箇所(バランス修正に必要なレーザ照射の照射位相)及び箇所において除去すべき材料量(バランス修正に必要なレーザ照射のパルス数)がどのように計算されているのか不明である点。
(2)判断
相違点について検討する。
回転体のバランス修正は、本来的に、当該回転体のアンバランスを除去するために施されるものであるところ、引用発明は、非常に高精度のバランス修正が可能であることからすれば(前記「第4 1(1)ク」参照)、引用発明においても、前記箇所及び前記箇所において除去すべき材料量を計算するにあたり、可能な限り大きなアンバランスの補正が達成されるようにすることは明らかであり、当業者が通常発揮し得る創作力の範囲内のものともいえる。
レーザー光線によってローターから材料を除去することによりローターのバランスをとる方法において、ローターの一点から集中して材料を除去すると当該ローターが過度に弱体化してしまうという課題、及び当該課題を解決するために材料除去を所定の角度領域にわたって延在させることは、いずれも周知である(例えば引用例2?4参照)。引用発明にも前記周知の課題は、当然、内在しているから、前記周知の事項を引用発明に適用することは、当業者にとって容易である。
そして、前記周知の課題からして、前記周知の事項を引用発明に適用するにあたり、前記所定の角度領域の大きさに下限値を設けることは、当業者が当然に考慮する事項である。また、前記所定の角度領域が大きくなる程、一定のアンバランスの補正を達成するために除去すべき材料量が多くなることは、力学的に明らかであり、除去する材料量が多くなる程、ローターが弱体化するおそれが高くなることも明らかである。そうすると、前記周知技術を引用発明に適用するにあたり、前記所定の角度領域の大きさに上限値を設けることもまた、当業者が当然に考慮する事項である。そして、前記所定の角度領域を具体的にどの程度にするかは、アンバランスの補正を達成するために除去すべき材料量及びロータの弱体化を防ぐために一点から除去する材料量の限度に応じて、当業者が適宜定め得る事項である。
してみれば、引用発明において、前記相違点に係る本願発明を特定する事項を備えるようにすることは、前記周知の事項に基いて、当業者が容易に想到し得る事項である。
更に、本願発明の奏する効果に、引用例1に記載された事項及び前記周知の事項に基いて、当業者が容易に想到し得る範囲を越えるものは見いだせない。

この点に関し、請求人は、令和元年11月26日付けの意見書において、本願発明及び引用発明は、真空ポンプのローターのバランスをとる方法に関するものであって、ローターは極めて高速で回転し、そのバランスとりは極めて微妙なバランスをとるということであり、ローターから除去されるべき材料量は、ローターが弱体化してしまうなどといった量ではとうていなく、引用発明においてローターの弱体化の課題は内在しておらず、課題が存在しない以上、技術分野が異なる引用例2から4の技術を引用発明に適用し、当業者が本願発明に想到するということはない旨主張している(「【意見の内容】3」参照)。
しかしながら、請求人が主張するように、高速で回転する回転体においては、バランスとりに際して、きわめて微妙なアンバランスまでもが問題となるが、アンバランスの絶対量が大きければ、当然、除去されるべき材料量は多くなる。すなわち、真空ポンプのロータのバランスとりに際してローターから除去されるべき材料量は、ローターが弱体化してしまうなどといった量ではないとは限らない。更に、除去されるべき材料量が少なくても、ローターが高速で回転すれば、それだけローターに作用する遠心力が大きくなるから、材料を除去した箇所での応力集中等、ローターの弱体化の問題は大きくなる。したがって、真空ポンプのローターのバランスをとる方法に関するものであっても、引用発明にローターの弱体化の課題は内在しているといえる。そして、引用発明と引用例2?4に記載された技術は、レーザー光線によってローターから材料を除去することによりローターのバランスをとる方法という点において、同一又は関連する技術分野に属するものであるから、引用例2?4に記載された周知技術を引用発明に適用することは、先に検討したとおり、当業者にとって容易であり、請求人の前記主張は、採用することができない。
なお、真空ポンプのローターのバランスをとる方法において、ローターから除去されるべき材料量は、ローターが弱体化してしまうなどといった量ではとうていないとの請求人の前記主張は、本願発明においては、アンバランスの除去の為にローターから材料量が比較的大きな角度領域にわたって除去されることによってローターの点に集中した過度の弱体化が防止されることが可能となる旨の、平成31年1月22日付けの上申書における請求人の主張(「【上申の内容】3」参照)とも相いれないものである。

したがって、本願発明は、引用発明及び前記周知の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第6 むすび

以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。


 
別掲
 
審理終結日 2019-12-24 
結審通知日 2019-12-25 
審決日 2020-01-07 
出願番号 特願2016-171573(P2016-171573)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (F04D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田谷 宗隆  
特許庁審判長 佐々木 芳枝
特許庁審判官 久保 竜一
窪田 治彦
発明の名称 真空ポンプのローター、又は真空ポンプの回転ユニットのローターのバランス取りの為の方法  
代理人 鍛冶澤 實  
代理人 江崎 光史  
代理人 篠原 淳司  
代理人 中村 真介  

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