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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F28F
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F28F
管理番号 1362632
審判番号 不服2019-6457  
総通号数 247 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-07-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-05-17 
確定日 2020-05-21 
事件の表示 特願2017-129569号「熱交換器」拒絶査定不服審判事件〔平成31年 1月24日出願公開、特開2019-11923号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成29年6月30日に出願されたものであって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成30年8月31日 拒絶理由通知
平成30年11月5日 意見書、手続補正書の提出
平成31年2月14日 拒絶査定
令和1年5月17日 審判請求書、手続補正書の提出
令和1年8月6日 上申書

第2 令和1年5月17日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和1年5月17日にされた手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のように補正された(下線部は補正箇所である。)。

「【請求項1】
空気流れ方向に並んだ複数の冷媒流路(63b)を有する扁平多穴管(63)と、
空気流れ方向の風下側から風上側に向けて切り欠かれた箇所(64a)に前記扁平多穴管が挿入固定されており、前記扁平多穴管の風上側で上下に繋がった部分(64x)を有するフィン(64)と、
を備え、
L:前記扁平多穴管の風上端から前記フィンの風上端までの空気流れ方向の距離、
Wt:前記扁平多穴管の空気流れ方向の長さ、
a:前記扁平多穴管における風上側から1番目と2番目の前記冷媒流路の空気流れ方向の幅の合計値、
b:前記扁平多穴管における空気流れ方向中央の前記冷媒流路の空気流れ方向の幅、
とした場合に
0.21≦L/Wt≦0.32
であり、かつ、
2.5≦a/b≦16
であり、かつ、
L≧4mm、
の関係を満たす、
熱交換器(11)。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の平成30年11月5日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。

「【請求項1】
空気流れ方向に並んだ複数の冷媒流路(63b)を有する扁平多穴管(63)と、
空気流れ方向の風下側から風上側に向けて切り欠かれた箇所(64a)に前記扁平多穴管が挿入固定されており、前記扁平多穴管の風上側で上下に繋がった部分(64x)を有するフィン(64)と、
を備え、
L:前記扁平多穴管の風上端から前記フィンの風上端までの空気流れ方向の距離、
Wt:前記扁平多穴管の空気流れ方向の長さ、
a:前記扁平多穴管における風上側から1番目と2番目の前記冷媒流路の空気流れ方向の幅の合計値、
b:前記扁平多穴管における空気流れ方向中央の前記冷媒流路の空気流れ方向の幅、
とした場合に
0.18≦L/Wt≦0.32
であり、かつ、
2.5≦a/b≦16
の関係を満たす、
熱交換器(11)。」

2 補正の適否
本件補正は、本件補正前の請求項1を特定するために必要な事項である「L/Wt」の数値範囲について、その下限値を「0.18」から「0.21」とすることにより範囲を狭めて限定するものであり、また、「L」について、「L≧4mm」であることの限定を新たに付加する補正であって、本件補正前の請求項1に記載された発明と、本件補正後の請求項1に記載される発明とは、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許請求の範囲の請求項1に関する本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。そして、本件補正は、新規事項を追加するものではない。

そこで、本件補正によって補正された請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるかどうか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するかどうか)について、以下に検討する。

(1)本願補正発明
本願補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。

(2)引用例の記載事項
ア 引用例1
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願日前に頒布された引用例である特開平6-123587号公報には、図面とともに以下の記載がある(下線は理解の一助のために当審が付与した。以下同様。)。

(ア)引用例1の記載
1a)「【請求項1】 幅方向を通風方向と略平行にして配置され、内部に熱交換媒体が流通する偏平状の熱交換パイプと、通風方向風下側に開放する挿入孔を有しこの挿入孔に上記熱交換パイプを挿入することでこの熱交換パイプと直交する状態で組み合わされる帯板状の放熱フィンとを具備し、上記放熱フィンの上記熱交換パイプが設けられた部分の通風方向の幅w_(1) と上記放熱フィンの通風方向の全幅w_(2) の比w_(2) /w_(1 )を1.2?1.9としたことを特徴とする熱交換器。」

1b)「





1c)「【0011】図中1は熱交換パイプである。この熱交換パイプ1は偏平形状をなし、内部は仕切られて複数の通路1a…が形成されている。この熱交換パイプ1は、幅方向を略水平にして配置され、かつ図に矢印(イ)で示す通風方向と直交する縦方向に複数本並列に設けられている。
【0012】また、この熱交換パイプ1は水平面内で略コの字状に折曲され、その両端部は立設された第1、第2のヘッダ2、3の側面に接続されている。すなわち、冷媒は、まず上記第1、第2のヘッダ2、3にそれぞれ供給され、この第1、第2のヘッダ2、3から各熱交換パイプ1に分流するようになっている。
【0013】また、上記複数本の熱交換パイプ1…には、高さ方向に長尺なる帯板状の放熱フィン5が、通風方向(イ)と平行な状態で同方向に複数枚積層されて組み合わされている。次に、この放熱フィン5の構成について図1を参照して説明する。
【0014】この放熱フィン5は、厚さ約0.2mm程度のアルミニウム製の帯状の薄板である。この放熱フィン5には、長手方向に沿って、上記熱交換パイプ1が設けられる間隔eで、この放熱フィン5が挿入される挿入孔6…が複数個形成されている。」

1d)「【0015】この挿入孔6…は、上記放熱フィン1の通風方向風下側の一端に開放し、この開放側から図に矢印(ロ)で示すように熱交換パイプ1が挿入されるようになっている。したがって、この放熱フィン1を同方向に複数枚積層保持し、上記各挿入孔6…に各熱交換パイプ5…を挿入することで、図2に示すように上記放熱フィン5と熱交換パイプ1は組み合わされる。なお、この挿入孔6の周部は図1(a)、(b)に示すように立ち上げ加工され、上記熱交換パイプ1の外周面を保持する保持片7となっている。
【0016】一方、隣り合う挿入孔6、6間には、この放熱フィン5の長手方向に沿うスリット8…が所定間隔で複数本設けられている。このスリット8…により分割されたフィン部9は、図1(b)に示すように、交互に反対側に突出するように成形されている。これにより、このフィン部9に空気を有効に接触させ、熱交換性能を向上させるようになっている。」

1e)「【0017】また、図に10で示すものは、隣合う放熱フィン5との間隔を規制するためにこの放熱フィン5の一面側に立ち上げ加工された間隔規制部(規制部材)である。この規制部10により、上記放熱フィン5を積層した状態でも、隣り合う放熱フィン5…同士は接触することなく常に一定の間隔が保たれるように規制されるようになっている。
【0018】また、上記放熱フィン5の全幅w_(2) と、この放熱フィン5の上記熱交換パイプ1の設けられた幅(放熱フィン5の風下側端から上記スリット8が設けられた範囲)w_(1 )の比は、w_(2) /w_(1) =1.2?1.9となるように形成されている。すなわち、この放熱フィン5の風上側端部5aは、上記熱交換パイプ1の風上側端から所定量風上側に延出されて設けられている。
【0019】次に、上述のように放熱フィン5の風上側端部5aを上記熱交換パイプ1から所定幅延出させ、かつw_(2) /w_(1) =1.2?1.9と設定した理由について説明する。まず、風上側端部5aを熱交換パイプ1から所定幅延出させた理由は、以下のとうりである。
【0020】すなわち、この室外側の熱交換器は、蒸発器として用いられるために、上記放熱フィン5の表面で冷却された水蒸気が凝縮しドレンが発生する。しかし、風上側端部5aは上下方向に連続しているので、放熱フィン1の表面で凝縮したドレンは、その部分で着霜する前にこの部分を伝って放熱フィン1の下側に排出されやすい。このため、着霜防止に有効である。
【0021】また、外気が最初に接触する放熱フィン1の風上側の端部に特にドレンが発生しやすい。図3に示すように、仮に風上側端部5a´の幅が狭い場合には、図3にA示すように、発生したドレンがこの風上側端部5a´に着霜し、通風を妨げることとなる。」

1f)「【0022】しかし、この発明のように風上側端部5aの幅を大きくとることで、この部分の温度は、熱交換パイプ1の温度と比較して高くなる。したがって、この部分に集中して着霜することは少なくなり、着霜は放熱フィン5の全幅に亘って平均化される。このことにより、放熱フィン5…間を風が有効に通過するようになり通風抵抗が低下することが少なく熱交換能力が維持されると考えられる。次に、この比w_(2 )/w_(1 )を決定するために行った実験の結果について説明する。
【0023】なお、実験に使用した空気調和機は、定格暖房能力4.2KWのものと、2℃定格暖房能力4.2KWのもので、上記w_(1) を16mmに固定し、放熱フィン5の積層ピッチは1.2mmとする。
【0024】図4(a)、(b)に示すグラフは、縦軸にw_(2) /w_(1) =1.15の場合の暖房能力を100%とした場合の暖房能力比率をとり、横軸に比w_(2) /w_(1) をとったものである。
【0025】w_(2 )/w_(1 )=1.15の付近では、風上側端部5aの延出量が少ないため、この部分の温度は熱交換パイプ1の温度とあまり変わらず低温となる。このため、この分に着霜が生じ通風が妨げられるために暖房能力はあまり良くない。また、w_(2) /w_(1 )=2.0の付近では、放熱フィン5の全幅w_(2) が大きくなる(32mm)が、かえって通風抵抗が増え暖房能力は低下する。
【0026】一方、w_(2) /w_(1) =1.2?1.9の付近では、このような欠点がなく、放熱フィン5の面積増加が熱交換に有効に働くと共に、風上側端部5aの温度が熱交換パイプ1よりも高くなるから着霜がこの部分に集中せず均一化する。この結果として暖房能力が向上する。なお、この測定は、騒音が一定になるように、送風量を調整した結果である。したがって、実際に用いる場合にも同様の結果を奏するものである。
【0027】ただし、図5に示すように、空気側熱伝達率と通風抵抗の上昇を調べた場合には、経済的にはw_(2) /w_(1) =1.2?1.6程度にしておくほうが良好であるこのような構成によれば、以下に説明する効果がある。まず、第1には、上述したように、風上側端部に集中して着霜することを防止できる結果、熱交換能力の高い熱交換器を得ることができる効果がある。」

1g)図1において、偏平形状の熱交換パイプ1の内部に設けられた複数の通路1aは、通風方向に並んで配置されることが示されている。

(イ)引用発明
上記(ア)の記載を総合すると、引用例1には以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

「通風方向に並んで配置された複数の通路1aを有する偏平形状をなす熱交換パイプ1と、
通風方向の風下側から開放された挿入孔6に熱交換パイプ1が挿入されるとともに保持されており、熱交換パイプ1の風上側で上下方向に連続した風上側端部5aを有する放熱フィン5とを、備え、
w_(1):放熱フィン5の熱交換パイプ1の設けられた幅
w_(2):放熱フィン5の全幅、
とした場合に、
w_(2)/w_(1)=1.2?1.9
である、熱交換器。」

イ 引用例2
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願日前に頒布された引用例である特開2005-127597号公報には、図面とともに以下の記載がある。

(ア)引用例2の記載
2a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒が流通する複数の冷媒流通路を内部に形成した偏平管と、隣接する前記偏平管の間に配置された放熱用フィンとを備えた熱交換器であって、前記冷媒流通路の形状を異ならせることにより、前記熱交換器を通過する風上側より風下側の熱交換能力を大きくしたことを特徴とする熱交換器。
【請求項2】
風上側から下流側にかけて熱交換能力を漸次大きくしたことを特徴とする請求項1記載の熱交換器。
【請求項3】
偏平管の冷媒流通路の数を風下側より風上側を少なし、且つ断面積を小さくしたことを特徴とする請求項1または2に記載の熱交換器。
【請求項4】
偏平管の冷媒流通路の断面積を風上側より風下側にかけて漸次小さくしたことを特徴とする請求項1または2に記載の熱交換器。」

2b)「【発明の効果】
【0012】
本発明の熱交換器によれば、蒸発器または凝縮器として使用した場合、風上側および風下側の熱交換器が有効に熱交換利用されるので、複雑な構成を必要とせずに熱交換性能を最大限に引き出すことが可能となると共に、また、熱交換器を暖房低温用の蒸発器とした場合でも、風上側の集中的な着霜による熱交換器の性能低下に伴って発生する急激な目詰まりを抑え、着霜による目詰まりに到るまでの時間を長くすることが可能となる。」

2c)「





2d)「【0021】
(実施の形態1)
図1は本発明の実施の形態1にかかるパラレルフロー型熱交換器の部分断面図であり、隣り合う扁平管2本の断面とその間のフィンを示している。 図1において、偏平管21の風上側部分A1には四角形の冷媒通路穴22a(例えば断面積3mm^(2))が3個、風下側部分B1に、A1の冷媒通路穴22aの断面積の半分となる四角形の冷媒通路穴22b(例えば断面積1.5mm^(2))が6個設けられている。よって、偏平管21の1本当りの冷媒通路穴の全断面積は風上側部分A1および風下側B1共に(例えば断面積9mm^(2))同等であるが、風下側部分B1の方が風上側部分A1よりも冷媒が流れる冷媒通路穴22bの流通路内表面積の方が大きくなるので、冷媒が偏平管21を介してフィン23から空気に熱伝達する表面積が大きくなる為に、熱交換効率も高くなる。従って、通常であれば流入した空気と熱交換器の風上側部分A1が先に熱交換した後に、風下側部分B1と熱交換するので、風下側部分B1では空気側と冷媒の温度差が小さい状態で熱交換が行なわれる為に熱交換量も風下側部分B1の方が小さくなる。よって、本実施の形態1の構成であれば風下側部分B1の伝熱性能が向上するので、熱交換器全体が空気側と熱交換することが可能となる。なおフィン23には放熱促進用のルーバー(切り起こし片)24が設けられている。
【0022】
また、風下側Bに風上側Aよりも熱交換効率の高い偏平管21の形状にしたことにより、着霜が発生する低外気温の暖房運転時においても、図1の風上側Aのフィン23に集中的に霜が付着して目詰まりを起こす事無く、熱交換器全体に霜が均一に付着し易くなるので、長時間に渡って暖房運転を持続させることが可能となる。」

2e)「【0023】
(実施の形態2)
図2は、本発明の実施の形態2にかかるパラレルフロー型熱交換器の部分断面図である。図2において、熱交換器の風上側Aから風下側Bにかけて、冷媒流速が次第に早くなるように流すことにより、風上側Aから風下側Bにかけての熱交換器出口の乾き度を等しくすることができる。その為には、図2に示すように、偏平管31の風上側Aを流れる冷媒通路穴32aの断面積を、風下側Bに向かって、漸次小さくし、32a(例えば8mm2)>32b(例えば6mm2)>32a(例えば5mm2)>32b(例えば4mm2)>32e(例えば3mm2)>32f(例えば2mm2)>32g(例えば1mm2)となるような断面積に配置することにより、風上側Bの熱交換器の出口だけが極端に乾き度が高くなること無く、空気と冷媒の熱交換を効率良くすることが可能となり、熱交換器性能を最大限に引出すことができる。
【0024】
従って、通常であれば流入した空気と熱交換器の風上側Aが先に熱交換した後に、熱交換器の風下側Bと熱交換するので、熱交換器の風下側Bでは空気側と冷媒の温度差が小さい状態で熱交換が行なわれる為に熱交換量も風上側Aの方が大きくなり、風上側Aの方が熱交換器出口での乾き度が大きくなって、風上側Aと風下側Bの熱交換器性能を充分に引出すことができないが、本実施の形態2の構成であれば風上側Aから順次風下側Bにかけて冷媒流速が漸次的に増加するので、冷媒が空気に伝える伝熱性能も漸次的に高くなり、熱交換器全体が空気側とバランス良く熱交換することが可能となる。」

(イ)引用例2記載事項
上記(ア)の記載を総合すると、引用例2には以下の事項(以下、「引用例2記載事項」という。)が記載されている。

「冷媒が流通する複数の冷媒流通路を内部に形成した偏平管21と、隣接する前記偏平管21の間に配置された放熱用フィン23とを備えた熱交換器において、偏平管21の風上側部分A1に複数の断面積3mm^(2)の四角形の冷媒通路穴22a、風下側部分B1にA1の冷媒通路穴22aの断面積の半分となる複数の断面積1.5mm^(2)の四角形の冷媒通路穴22bを設け、風上側部分A1と風下側部分B1とでバランス良く熱交換することにより、着霜が発生する低外気温の暖房運転時においても、風上側Aのフィン23に集中的に霜が付着して目詰まりを起こすことがなく、熱交換器全体に霜が均一に付着し易くなること。」

ウ 引用例3
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願日前に頒布された引用例である特開2005-201491号公報には、図面とともに以下の記載がある。

(ア)引用例3の記載
3a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の距離を置いて延在する一対のヘッダーと、該一対のヘッダー間には内部に冷媒が流通する、冷媒流通穴が形成された偏平管と、前記偏平管に略直行し密着している同一ピッチで複数配置されたプレートフィンと、前記偏平管が前記プレートフィンを貫通した構成を備えた熱交換器であって、前記偏平管の流通路を風上側に低性能タイプ、風下側には高性能タイプの形状としたことを特徴とする熱交換器。
【請求項2】
所定の距離を置いて延在する一対のヘッダーと、該一対のヘッダー間には内部に冷媒が流通する複数の冷媒流通穴が形成された偏平管と、前記偏平管に略直行し密着している同一ピッチで複数配置されたプレートフィンと、前記偏平管が前記プレートフィンを貫通した構成を備えた熱交換器であって、前記偏平管の流通路を風上側から下流側にかけて漸次低性能タイプから高性能タイプの形状としたことを特徴とする熱交換器。」

3b)「【発明の効果】
【0011】
本発明の熱交換器は、蒸発器または凝縮器として使用した場合、風上側および風下側の熱交換器が有効に熱交換利用されるので、複雑な構成を必要とせずに熱交換性能を最大限に引き出すことが可能となると共に、また、熱交換器を暖房低温用の蒸発器とした場合、風上側の集中的な着霜による熱交換器の性能低下に伴って発生する急激な目詰まりを抑え、着霜による目詰まりに到るまでの時間を長くすることが可能となり、暖房低温の運転効率を向上させて、高い高効率運転を実現する熱交換器を提供することができる。」

3c)「



3d)「【0018】
(実施の形態1)
図1は本発明の実施の形態1にかかる熱交換器の一部を示す斜視図であり、図2は図1の矢印イの方向から見た本発明の実施の形態1にかかる熱交換器の断面図である。
【0019】
図2において、風上に近い偏平管1の風上側A1には四角形の冷媒通路穴9a(例えば断面積3mm^(2))が3個、風下側B1にも同様にA1の冷媒通路穴9aの断面積の半分となる四角形の冷媒通路穴9b(例えば断面積1.5mm^(2))が6個設けられている。よって、偏平管1の1本当りの冷媒通路穴の全断面積は風上側A1および風下側B1共に(例えば断面積9mm^(2))同等であるが、風下側B1の方が風上側A1よりも冷媒が流れる冷媒通路穴9bの流通路内表面積の方が大きくなるので、冷媒が偏平管1を介してフィン10から空気に熱伝達する表面積が大きくなる為に、熱交換効率も高くなる。
【0020】
従って、通常であれば風上Aから流入した空気と熱交換器の風上側A1が先に熱交換した後に、風下側B1と熱交換するので、風下側B1では空気側と冷媒の温度差が小さい状態で熱交換が行なわれる為に熱交換量も風下側B1の方が小さくなる。よって、本実施の形態1の構成であれば風下側B1の伝熱性能が向上するので、熱交換器全体が空気側と熱交換することが可能となる。
【0021】
また、風下側B1に風上側A1よりも熱交換効率の高い偏平管1の形状にしたことにより、着霜が発生する低外気温の暖房運転時においても、図7および図2の風上側A1のフィン10に集中的に霜が付着して目詰まりを起こす事無く、熱交換器全体に霜が均一に付着し易くなるので、長時間に渡って暖房運転を持続させることが可能となる。なお、所定の距離を置いて延在する一対のヘッダーは、説明の為に垂直方向に配置したが、水平方向に配置した場合でも、同様な効果を奏する。」

3e)「【0022】
(実施の形態2)
図3は、本発明の実施の形態2にかかるパラレルフロー型熱交換器を、図7の矢印ロ方向から見た断面図である。上記実施の形態と重複する内容と原理は省き、同一機能を示すものであれば同一番号にて以下に説明する。
【0023】
図3において、熱交換器の風上側A1から風下側B1にかけて、冷媒流速が次第に早くなるように流すことにより、風上側A1から風下側B1にかけての熱交換器出口の乾き度を等しくすることができる。その為には、図3に示すように、偏平管1の風上側A1を流れる冷媒通路穴9cの断面積を、風下側B1に向かって、漸次小さくし、9c(例えば8mm^(2))>9d(例えば6mm^(2))>9e(例えば5mm^(2))>9f(例えば4mm^(2))>9g(例えば3mm^(2))>9h(例えば2mm^(2))>9i(例えば1mm^(2))となるような断面積に配置することにより、風上側A1の熱交換器の出口だけが極端に乾き度が高くなること無く、空気と冷媒の熱交換を効率良くすることが可能となり、熱交換器性能を最大限に引出すことができる。
【0024】
従って、通常であれば風上側Aから流入した空気と熱交換器の風上側A1が先に熱交換した後に、熱交換器の風下側B1と熱交換するので、熱交換器B1では空気側と冷媒の温度差が小さい状態で熱交換が行なわれる為に熱交換量も風上側A1の方が大きくなり、風上側A1の方が熱交換器出口での乾き度が大きくなって、風上側A1と風下側B1の熱交換器性能を充分に引出すことができないが、本実施の形態2の構成であれば風上側A1から順次風下側B1にかけて冷媒流速が漸次的に増加するので、冷媒が空気に伝える伝熱性能も漸次的に高くなり、熱交換器全体が空気側とバランス良く熱交換することが可能となる。」

(イ)引用例3記載事項
上記(ア)の記載を総合すると、引用例3には以下の事項(以下、「引用例3記載事項」という。)が記載されている。

「冷媒流通穴が形成された偏平管1と、前記偏平管1に略直行し密着している同一ピッチで複数配置されたプレートフィンと、前記偏平管1が前記プレートフィンを貫通した構成を備えた熱交換器において、風上に近い偏平管1の風上側A1に複数の断面積3mm^(2)の四角形の冷媒通路穴9a、風下側B1にも同様にA1の冷媒通路穴9aの断面積の半分となる複数の断面積1.5mm^(2)の四角形の冷媒通路穴9bを設け、風上側A1と風下側B1とでバランス良く熱交換することにより、熱交換器を暖房低温用の蒸発器とした場合、風上側の集中的な着霜による熱交換器の性能低下に伴って発生する急激な目詰まりを抑え、着霜による目詰まりに到るまでの時間を長くすること。」

(3)対比・判断
本願補正発明と引用発明とを対比する。
引用発明における「通風方向」は、本願補正発明における「空気流れ方向」に相当し、以下同様に、「並んで配置された」は「並んだ」に、「通路1a」は「冷媒流路」に、「偏平形状をなす熱交換パイプ1」及び「熱交換パイプ1」は「扁平多穴管」に、「風下側から開放された挿入孔6」は「風下側から風上側に向けて切り欠かれた箇所」に、「挿入されるとともに保持され」ることは「挿入固定され」ることに、「上下方向に連続した風上側端部5a」は「上下に繋がった部分」に、「放熱フィン5」は「フィン」に、それぞれ相当する。

したがって、両者の一致点及び相違点は次のとおりである。

[一致点]
「空気流れ方向に並んだ複数の冷媒流路を有する扁平多穴管と、
空気流れ方向の風下側から風上側に向けて切り欠かれた箇所に前記扁平多穴管が挿入固定されており、前記扁平多穴管の風上側で上下に繋がった部分を有するフィンと、を備える、熱交換器。」

[相違点1]
本願補正発明においては、
「L:前記扁平多穴管の風上端から前記フィンの風上端までの空気流れ方向の距離、
Wt:前記扁平多穴管の空気流れ方向の長さ、」
とした場合に、
「0.21≦L/Wt≦0.32」
であり、かつ
「L≧4mm、
の関係を満たす」のに対して、
引用発明においては、
「w_(1):放熱フィン5の熱交換パイプ1の設けられた幅
w_(2):放熱フィン5の全幅
とした場合に、
w_(2)/w_(1)=1.2?1.9」
である点。

[相違点2]
本願補正発明においては、
「a:前記扁平多穴管における風上側から1番目と2番目の前記冷媒流路の空気流れ方向の幅の合計値、
b:前記扁平多穴管における空気流れ方向中央の前記冷媒流路の空気流れ方向の幅、」
とした場合に
「2.5≦a/b≦16」
の関係を満たすのに対して、
引用発明においては、「偏平形状をなす熱交換パイプ1」が有する「通風方向に並んで配置された複数の通路1a」の風上側から1番目と2番目の通風方向の幅の合計値及び通風方向の中央の幅について不明である点。

以下、相違点について検討する。

[相違点1について]
本願明細書には、「扁平多穴管の風上端よりも更に風上側においてもフィンを設けることで、扁平多穴管の風上側部分に集中的に霜が付着する状態を緩和させる」(段落【0005】)こと、「フィンの扁平多穴管よりも風上側の部分について0.21≦L/Wtの関係を満たしL≧4mmも満たすように構成されているため、フィンのうち扁平多穴管よりも風上側の部分をより十分に確保することで、着霜可能な面積が広く確保されており、着霜耐力をより確実に向上させることが可能となっている」こと、及び「フィンの扁平多穴管よりも風上側の部分についてL/Wt≦0.32の関係を満たすように構成されているため、着霜耐力の向上に寄与しにくい不必要な部分を削減することにより、フィンの材料費を抑えることが可能になっている」(段落【0011】)ことが記載されている。
一方、引用例1には、「風上側端部5aの幅を大きくとることで、この部分の温度は、熱交換パイプ1の温度と比較して高くなる。したがって、この部分に集中して着霜することは少なくなり、着霜は放熱フィン5の全幅に亘って平均化される。このことにより、放熱フィン5…間を風が有効に通過するようになり通風抵抗が低下することが少なく熱交換能力が維持されると考えられる」、及び「w_(2 )/w_(1 )=1.15の付近では、風上側端部5aの延出量が少ないため、この部分の温度は熱交換パイプ1の温度とあまり変わらず低温となる。このため、この分に着霜が生じ通風が妨げられるために暖房能力はあまり良くない。また、w_(2) /w_(1 )=2.0の付近では、放熱フィン5の全幅w_(2) が大きくなる(32mm)が、かえって通風抵抗が増え暖房能力は低下する。
一方、w_(2) /w_(1) =1.2?1.9の付近では、このような欠点がなく、放熱フィン5の面積増加が熱交換に有効に働くと共に、風上側端部5aの温度が熱交換パイプ1よりも高くなるから着霜がこの部分に集中せず均一化する。この結果として暖房能力が向上する」(上記(2)ア(ア)1f)段落【0022】、及び【0025】ないし【0026】)と記載されている。
また、引用例1の上記(2)ア(ア)1b)における図1からみて、w_(2)-w_(1)は、放熱フィン5に熱交換パイプ5が挿入された場合、熱交換パイプ1の風上端から放熱フィン5の風上端までの距離、すなわち放熱フィン5の風上側端部5aの延出量と略等しく、上記(2)ア(ア)1f)段落【0023】において、w_(1)=16mmであることが記載され、引用発明においてw_(2) /w_(1) =1.2?1.9であることから、w_(1)=16mmの場合、w_(2)=19.2?30.4mmとなり、w_(2)-w_(1)=3.2?14.4mmの範囲となることが分かる。
さらに、引用発明においてw_(2)/w_(1)=1.2?1.9であることは、(w_(2)-w_(1))/w_(1)(=w_(2)/w_(1)-1)=0.2?0.9であることに等しい。
そして、引用例1には、放熱フィン5の風上側端部5aの幅を所定量とることにより、この部分に集中して着霜することを防止することが記載(段落【0019】、【0020】及び【0022】)されているから、引用発明は、放熱フィン5の風上側端部5aの延出量であるw_(2)-w_(1)に着目したものともいえる。
そうすると、引用発明がw_(2)/w_(1)の上下限値を定めていることは、実質上、(w_(2)-w_(1))/w_(1)(=w_(2)/w_(1)-1)の上下限値を定めることと同じであって、そのw_(2)/w_(1、)いいかえれば(w_(2)-w_(1))/w_(1)の下限は着霜防止の観点から、上限は通風抵抗の増加による暖房能力の低下防止の観点から定めたものである。
そして、引用例1の上記(2)ア(ア)1b)における図1及び図2の記載からみて、熱交換パイプ1の通風方向の長さは、放熱フィン5の挿入孔6の長さと略等しいことからw_(1)はWtに略等しく、さらに、w_(2)-w_(1)はLに、(w_(2)-w_(1))/w_(1)はL/Wtにそれぞれ略等しいと認められる。
一方、本願補正発明においてL/Wt及びLの下限を定めた技術的意義は、フィンの風上側の部分を十分確保することで着霜可能な面積が広く確保され、着霜耐力が向上するというものであって、引用発明と同様といえる。
また、L/Wtの上限を定めた技術的意義は、着霜耐力の向上に寄与しにくい不必要な部分を削減することであって当業者であれば通常考慮すべきことである。
そうすると、引用発明においてw_(2)-w_(1)、(w_(2)-w_(1))/w_(1)と略等しいL、L/Wtをパラメータとして選択し、それらの上下限値を定めることに困難性はない。
具体的な数値範囲についてみれば、引用発明において上記のとおり、(w_(2)-w_(1))/w_(1)=0.2?0.9、w_(2)-w_(1)=3.2?14.4mmも想定されており、(w_(2)-w_(1))/w_(1)はL/Wtに、w_(2)-w_(1)はLに、それぞれ略等しいと認められることから、本願補正発明におけるL/Wt及びLの数値範囲は引用発明において想定される範囲内のものである。
加えて、本願補正発明におけるL/Wt及びLの数値範囲はフィン同士の間隔や冷媒の温度、気温、湿度、空気流の流速などの種々の条件によっても好適な範囲は変化し得ると認められるところ、引用発明においても、w_(2)-w_(1)や(w_(2)-w_(1))/w_(1)の数値範囲を好適化することは設計事項である。
そして、本願補正発明において「0.21≦L/Wt≦0.32」及び「L≧4mm」としたことに臨界的意義は認められない。
よって、引用発明において、w_(1)、w_(2)を適宜に定めることにより、本願補正発明のように0.21≦L/Wt≦0.32、かつL≧4mmを満たすものとすることは、当業者が容易になし得たことである。

[相違点2について]
上記引用例2及び3記載事項によれば「冷媒が流通する複数の冷媒流通路を内部に形成した偏平管と放熱用フィンとを備えた熱交換器において、偏平管の風上側部分に設けられた冷媒通路穴の断面積を、風下側部分に設けられた冷媒通路穴の断面積よりも大きくして風上側部分と風下側部分とでバランスよく熱交換すること」は周知技術(以下、「周知技術」という。)である。
そして、上記周知技術は、偏平管における冷媒流路に関して、風上側、風下側におけるそれぞれの熱交換量に対応した大きさの冷媒流路とすることにより冷媒流路の熱交換器出口での乾き度に大きく差がないようにしてバランス良く熱交換を行ない、熱交換器全体の性能を向上させることにおいて本願補正発明における熱交換器と共通するものである(本願明細書段落【0006】、【0007】、【0012】、及び【0013】、引用例2(上記(2)イ(ア)2d)及び2e)の段落【0021】ないし【0024】)、引用例3(上記(2)ウ(ア)3d)及び3e)の段落【0019】ないし【0024】の記載参照。)。
さらに、上記各周知例の冷媒通路穴の幅についてみれば、引用例2の上記(2)イ(ア)2c)における図1、引用例3の上記(2)ウ(ア)3c)における図2において、偏平管内部に高さがほぼ等しい複数の四角形の冷媒通路穴が示されているから、偏平管の風上側部分に設けられた断面積3mm^(2)の四角形の冷媒通路穴の空気流れ方向の幅は、風下側部分に設けられた断面積1.5mm^(2)の四角形の冷媒通路穴の幅の2倍である。
つまり、風上側から1番目と2番目の冷媒通路穴の空気流れ方向の幅の合計値を、風下側部分に設けられた冷媒通路穴のうち、偏平管の中央近傍に位置する風上側からみて1番目の冷媒通路穴の幅で除した値は4となるから、本願補正発明における2.5≦a/b≦16の範囲内である。
また、本願補正発明における2.5≦a/b≦16の範囲における上限値、下限値については、風上側のフィンに集中的に霜が付着して目詰まりを起こすのを防止する程度等に応じて当業者が適宜に設定し得る設計事項である。
そして、本願補正発明において「2.5≦a/b≦16」としたことに臨界的意義は認められない。
そうすると、引用発明の偏平形状をなす熱交換パイプ1が有する通風方向に並んで配置された複数の通路1aにおいて、風上側のフィンに集中的に霜が付着して目詰まりを起こすのを防止するために上記周知技術を採用して上記相違点2に係る本願補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易になし得たことである。

そして、本願補正発明による効果は、全体としてみても、引用発明及び周知技術から予測される範囲内であって格別顕著なものではない。

(4)審判請求書における主張について
請求人は、「単に、扁平多穴管の風上側の冷媒流路を大きく構成するのではなく、扁平多穴管の風上側のフィンを十分に長く設けた構造に対応させるほど扁平多穴管の風上側の冷媒流路を大きく構成した本願発明の技術的思想は、いずれの引用文献においても開示が無く、示唆すらございません。」(審判請求書4ページ下から3行ないし5ページ1行)、及び、「本願発明は、扁平多穴管の風上側において集中的な熱流束とそれを処理する大きさの冷媒流路との相互の関係、すなわち、「L/Wt」のパラメータと「a/b」のパラメータと「L」のパラメータとの相互の関係による技術的思想に基づくものです。したがいまして、「L/Wt」と「a/b」と「L」とは、別個独立に捉えられるべきものではなく、相互に密接に関連したひとまとまりの構成として捉えた上で、容易相当性を判断すべきものと思量いたします・・・。そして、このような「L/Wt」と「a/b」と「L」とによるひとまとまりの構成について開示する引用文献はございません。」(審判請求書5ページ下から9行ないし6ページ1行)と主張する。
そこで、本願明細書段落【0102】、【表1】の実施例1ないし12について検討する。
ア 実施例9と実施例10とを比較すると、L、L/Wtの値は、それぞれ8mm、0.320と共通する一方、a/bの値は、実施例9においては4、実施例10においては16であり、実施例10において、実施例9よりa/bの値を大きくしたにもかかわらず、扁平多穴管63の風上側端部、中央部、風下側端部の表面における熱流束q1、q2,q3は、実施例9及び実施例10において、それぞれ40000、10000、2500W/m^(2)と同一の値を示している。
イ 実施例2と実施例9とを比較すると、L、L/Wt、a/bの値は、実施例2においてL=4mm、L/Wt=0.211、a/b=4であるのに対して、実施例9においてはL=8mm、L/Wt=0.320、a/b=4となっており、L及びL/Wtの値の増加にもかかわらず、a/bの値は同一である。
ウ 実施例9と実施例11とを比較すると、L、a/bの値は、それぞれ8mm、4と共通する一方、L/Wtの値は、実施例9においては0.320、実施例11においては0.291であり、実施例9において実施例11よりもL/Wtの値を大きく構成したにもかかわらず、扁平多穴管63の風上側端部、中央部、風下側端部の表面における熱流束q1、q2、q3は、実施例9及び実施例11において40000、10000、2500W/m^(2)と同一の値を示している。
エ 実施例1ないし4(L=4mm、q1=20000、q2=10000、q3=5000)、実施例5ないし8(L=6mm、q1=30000、q2=10000、q3=3333)、実施例9ないし12(L=8mm、q1=40000、q2=10000、q3=2500)によると、熱流束q1,q2,q3の値はLの値によって決定されることが分かる。
しかしながら、上記アないしエの検討によっても、本願明細書段落【0102】、【表1】における実施例1ないし12に関するデータが、「L/Wt」のパラメータと「a/b」のパラメータと「L」のパラメータとの相互の関係性を示すものとは認められない。
そして、他に「扁平多穴管の風上側のフィンを十分に長く設けた構造に対応させるほど扁平多穴管の風上側の冷媒流路を大きく構成した本願発明の技術的思想」及び「L/Wt」と「a/b」と「L」がひとまとまりの構成であることを裏付ける記載は明細書の実施例の記載において見出せない。
さらに、本願補正発明においても、L/Wt、a/bの上限値、下限値及びLの下限値が、それぞれ別個に特定されるのみであり、「扁平多穴管の風上側のフィンを十分に長く設けた構造に対応させるほど扁平多穴管の風上側の冷媒流路を大きく構成した」こと、及び各パラメータの相互の関係については特定されていない。
よって、上記請求人の主張は採用できない。

(5)小括
したがって、本願補正発明は、引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(6)上申書の補正案について
令和1年8月6日に提出された上申書において請求人は、本願補正発明において特定された「冷媒流路の空気流れ方向の幅」対して、さらに「空気流れ方向の幅について、前記扁平多穴管における最も風上側の前記冷媒流路(a1)のみが空気流れ方向中央の前記冷媒流路の幅よりも大きいか、最も風上側から2番目の前記冷媒流路(a2)のみが空気流れ方向中央の前記冷媒流路の幅よりも大きいか、または、最も風上側の前記冷媒流路(a1)と最も風上側から2番目の前記冷媒流路(a2)の2つのみが空気流れ方向中央の前記冷媒流路の幅よりも大きいか、のいずれかである」ことをさらに特定することにより限定する補正案を示している。
しかし、上記限定事項は、いずれも扁平多穴管における風上側の冷媒流路合計幅aを空気流れ方向中央の前記冷媒流路の幅bの2.5倍以上とするための一形態を示すものにすぎず、当業者が適宜採用し得る設計事項であるから、本願補正発明において上記限定がされたとしても、依然として引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
よって、上記上申書における補正案は採用できない。

3 むすび
以上のとおり、本件補正は特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項により読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

よって、[補正却下の決定の結論]のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記第2 1(2)に記載したとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
本願発明に対する原査定の拒絶の理由の概要は以下のとおりである。

本願発明は、本願の出願日前に頒布された下記引用例1または2に記載された発明及び引用例7、8及び11に示される周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

<引用例一覧>
1.特開平06-123587号公報(当審における引用例1)
2.特開2014-156990号公報
3.特開平11-108576号公報
4.特開2003-161589号公報
5.特開2000-234883号公報
6.実願平01-140491号(実開平03-079058号)のマイクロフィルム
7.特開2005-127597号公報(当審における引用例2)
8.米国特許第7059399号明細書
9.特開2013-019596号公報
10.実願昭54-056776号(実開昭55-158485号)のマイクロフィルム
11.特開2005-201491号公報(当審における引用例3)

3 引用例
原査定の拒絶の理由で引用された引用例1、引用例7(当審における引用例2)及び引用例11(当審における引用例3)の記載事項は、前記第2 2(2)に記載したとおりである。

4 判断
本願発明は、前記第2 2で検討した本願補正発明から、「L/Wt」の数値範囲について、その下限値を「0.18」から「0.21」とすることの限定、及び「L」について、「L≧4mm」であることの限定を省いたものであって、本願発明の発明特定事項を全て含んだものに相当する本願補正発明が、第2 2(3)ないし(5)に記載したとおり、引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2020-03-19 
結審通知日 2020-03-24 
審決日 2020-04-07 
出願番号 特願2017-129569(P2017-129569)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F28F)
P 1 8・ 575- Z (F28F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 庭月野 恭  
特許庁審判長 紀本 孝
特許庁審判官 平城 俊雅
松下 聡
発明の名称 熱交換器  
代理人 新樹グローバル・アイピー特許業務法人  

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