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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1362637
審判番号 不服2019-11395  
総通号数 247 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-07-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-08-30 
確定日 2020-05-21 
事件の表示 特願2014-245611「光学異方性膜の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 7月16日出願公開、特開2015-129920〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続等の経緯
特願2014-245611号(以下「本件出願」という。)は、平成26年12月4日(先の出願に基づく優先権主張 平成25年12月5日)の出願であって、その手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。

平成30年 9月28日付け:拒絶理由通知書
平成30年12月10日付け:意見書
平成30年12月10日付け:手続補正書
令和 元年 5月31日付け:拒絶査定
令和 元年 8月30日付け:審判請求書
令和 元年 8月30日付け:手続補正書


第2 補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和元年8月30日付け手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 本件補正について
(1) 本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の、平成30年12月10日付け手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである。
「 以下の工程(1)?(3)をこの順に行う液晶化合物が垂直配向した光学異方性膜の製造方法。
(1)液晶化合物と溶剤とを含む光学異方性膜形成用組成物を、基材に塗布する工程
(2)塗布された光学異方性膜形成用組成物を、風速0.01m/秒乃至0.2m/秒の環境下で、乾燥炉まで搬送する工程
(3)乾燥炉において、塗布された光学異方性膜形成用組成物に1m/秒以上の熱風を当て、溶剤を除去する工程。」

(2) 本件補正後の特許請求の範囲
本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである。なお、下線は当合議体が付したものであり、補正箇所を示す。
「 以下の工程(1)?(3)をこの順に行う液晶化合物が垂直配向した光学異方性膜の製造方法。
(1)液晶化合物と溶剤とを含む光学異方性膜形成用組成物を、基材に塗布する工程
(2)塗布された光学異方性膜形成用組成物を、風速0.01m/秒乃至0.2m/秒の環境下で、乾燥炉まで搬送する工程
(3)乾燥炉において、塗布された光学異方性膜形成用組成物に風速1m/秒以上で70℃?120℃の熱風を当て、溶剤を除去する工程。」

(3) 補正の適否
本件補正のうち、請求項1についてしたものは、本件補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である、「1m/秒以上の熱風」を、本件出願の願書に最初に添付した明細書の【0087】の記載に基づいて、「風速1m/秒以上で70℃?120℃の熱風」に限定する補正である。また、本件補正前の請求項1に係る発明と、本件補正後の請求項1に係る発明の、産業上の利用分野及び発明が解決しようとする課題は同一である(【0001】及び【0004】)。
以上勘案すると、請求項1についてした本件補正は、特許法17条の2第5項2号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とする補正である。 そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本件補正後発明」という。)が、同条6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

2 本件補正後発明
本件補正後発明は、前記1(2)に記載したとおりのものである。

3 引用文献の記載及び引用発明
(1) 引用文献1の記載
原査定の拒絶の理由において引用された、特開2004-290963号公報(以下「引用文献1」という。)は、先の出願前に、日本国内において頒布された刊行物であるところ、そこには、以下の記載がある。なお、下線は当合議体が付したものであり、引用発明の認定や判断等に活用した箇所を示す。

ア 「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行する長尺状支持体に塗布される塗布液を連続的に乾燥させるための技術に関するものであり、特に、その乾燥方法、その方法によって形成される光学機能層を積層した構造を有する光学フィルム、その光学フィルムを有する偏光板、及び、その偏光板を備えた画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
走行する長尺状支持体に塗布液を塗布して形成される塗布膜を連続的に乾燥させる方法として、塗布面に対して一方向から空調された風を送り込むものがある(例えば、特許文献1)。またこの他にも、塗布後の乾燥装置において熱風を塗布面に吹き付けたり、遠赤外線を照射する等の乾燥方法がある。
【0003】
ところで、近年、液晶表示装置等の光学用途向けのフィルム等の分野において、使用用途によっては塗布後の外観に厳しい要求がなされている。特に10μm以下の薄層塗工がなされる商品では、塗布膜の斑(ムラ)によって生じる外観のムラが非常に顕著に現れやすい反面、そのような外観ムラを低減することが望まれている。
【0004】
【特許文献1】特開2001-170547号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の乾燥方法では、塗工装置において走行する長尺状支持体に塗布液を塗布してから、乾燥装置において乾燥させるまでの間は、装置周辺の周囲環境下にさらされる区間が存在し、例えば周囲環境からの不規則な速度・方向の風等による外乱因子の影響で乾燥速度にバラツキが生じることになる。その結果、塗布膜の表面張力に差が生じて塗布液が流動してしまうため、塗布膜の厚みにムラが生じ、これが外観ムラを生じさせるという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、厚みのバラツキの少ない塗布膜を安定して製造することのできる、塗布膜の乾燥方法を提供するとともに、その方法によって形成される光学機能層を積層した構造を有する光学フィルム、その光学フィルムを有する偏光板、及び、その偏光板を備えた画像表示装置を提供することをその目的としている。
【0007】
本発明者らは、走行する長尺状支持体に塗布液を塗布して形成された塗布膜を乾燥させる際、塗布直後の塗布液の蒸発速度(乾燥速度)を0.1g/m^(2)・s以下にすることで均一な状態で塗布膜を乾燥させることができ、厚みの均一な塗布膜が形成されることを見出した。
【0008】
よって、本発明は、走行する長尺状支持体に塗布液を塗布して形成される塗布膜の乾燥方法において、長尺状支持体に対して塗布液が塗布された直後、溶剤の蒸発速度を0.1g/m^(2)・s以下に保って乾燥を行う、塗布膜の乾燥方法にかかるものである。これにより、厚みのバラツキの少ない塗布膜を安定して製造することが可能になる。
【0009】
また、蒸発速度を0.1g/m^(2)・s以下にした乾燥は、塗布液の塗布された長尺状支持体が乾燥装置に入るまでの間に行われることが、より好ましい。ただし、蒸発速度を0.1g/m^(2)・s以下にした乾燥工程のみを行い、別に乾燥装置を設けることなく、乾燥を終了させるようにしてもよい。
【0010】
また、本発明では、蒸発速度を0.1g/m^(2)・s以下にするために、塗布液が塗布された直後の長尺状支持体に平行な板を塗布膜との間に空隙を設けて配置する。これにより、板と塗布膜との間の空隙に周辺環境からの風等が入ることを防止し、その空隙を溶剤の蒸気でほぼ満たし、蒸発速度を0.1g/m^(2)・s以下にすることができる。
【0011】
また、上記板の温度が塗布液の蒸気の露点以上に制御されることにより、蒸発速度を0.1g/m^(2)・s以下の範囲でコントロールすることができるとともに、蒸気の結露を防ぎ、安定した乾燥を行うことができる。
【0012】
また、上記板の長尺状支持体側の面にフィンを設けることにより、長尺状支持体の走行に伴う空気流れが未乾燥状態の塗布膜に影響を与えることを防止し、厚みの均一な塗布膜を得ることができる。
【0013】
また、塗布液の粘度が300mPa・s以下であれば、より安定した乾燥を行うことができる。さらに、50mPa・s以下であれば、特に安定した乾燥を行うことができる。
【0014】
また、塗布膜が光学機能を有する光学機能層として形成されることにより、近年、シビアな外観が要求される光学用途向けの塗工物であっても、外観ムラの少ない塗工物を得ることができる。
【0015】
また、以上のような乾燥方法によって、光学機能層を積層した構造を有する光学フィルムを製造することにより、外観ムラの少ない光学用途に適したフィルムを得ることができる。さらに、そのような光学フィルムを積層して偏光板を形成することにより、外観ムラの少ない光学用途に適した偏光板が得られる。
【0016】
また、その偏光板を用いて画像表示装置を製造すれば、外観ムラの少ない、高品位な装置を実現することができる。
【0017】
さらに、本発明は、走行する長尺状支持体に塗布液を塗布して形成される塗布膜の乾燥方法において、長尺状支持体の幅以上の板幅を有する板を、塗布液の塗工装置の下流側における長尺状支持体の走行経路に沿って配置しておき、塗工装置によって塗布膜が形成された直後の長尺状支持体を、塗布膜を前記板の板面と所定の間隙を隔てて対向させつつ、走行経路に沿って走行させることにより、前記間隙において塗布膜の乾燥の少なくとも一部を行なう、塗布膜の乾燥方法にかかるものである。これにより、周囲環境からの風等の影響を低減しつつ乾燥を行うことができ、厚みのバラツキの少ない塗布膜を安定して製造することが可能になる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、走行する長尺状支持体に塗布液を塗布して形成される塗布膜の乾燥方法において、長尺状支持体に対して塗布液が塗布された直後、溶剤の蒸発速度を0.1g/m^(2)・s以下に保って乾燥を行うので、均一な状態で塗布膜を乾燥させて、厚みのバラツキの少ない塗布膜を安定して製造することができる。そのため、塗布膜が形成された状態の外観は良好なものとして得られる。
【0019】
また、本発明によれば、走行する長尺状支持体に塗布液を塗布して形成される塗布膜の乾燥方法において、長尺状支持体の幅以上の板幅を有する板を、塗布液の塗工装置の下流側における長尺状支持体の走行経路に沿って配置しておき、塗工装置によって塗布膜が形成された直後の長尺状支持体を、塗布膜を前記板の板面と所定の間隙を隔てて対向させつつ、走行経路に沿って走行させることにより、前記間隙において塗布膜の乾燥の少なくとも一部が行なわれる。このため、周囲環境からの風等の影響を低減しつつ乾燥を行うことができ、厚みのバラツキの少ない塗布膜を安定して製造することが可能になる。」

イ 「【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明を画像表示装置の偏光板等の製造プロセスに適用可能に構成した実施の形態について図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0021】
図1は長尺状支持体の塗布膜形成側に板を設けた構成を示す図である。長尺状支持体10は塗布膜形成の基材となるものであって、例えば偏光板の製造においてはウエブ状のフィルムやシート等で構成された平坦な長尺可撓性の面状基材であり、複数のローラ35等に支持された状態で紙面右方向にほぼ一定速度で走行するようになっている。長尺状支持体10の走行経路には、長尺状支持体10の少なくとも一面側(図1では上面側、他図も同様)に塗布液を塗布するダイコーター等の塗工装置30が設けられており、長尺状支持体10が塗工装置30を走行する際、その上面側に塗布液が均一な状態で塗布されて塗布膜11が形成される。塗布液は、例えば偏光板の保護シートや光学機能層を形成するためのものである(具体例は後述)。
【0022】
長尺状支持体10の走行経路において塗工装置30の直後(製造プロセス上の下流側)には、長尺状支持体10に塗布された塗布膜11と対向するように、長尺状支持体10の主面(被塗布面)にほぼ平行な板20が設けられており、板20と塗布膜11との間には一定の空隙Gが設けられる。板20の塗布膜11と対向する面20s側はなるべく滑らかな状態に仕上げられ、板20は長尺状支持体10の幅方向(紙面垂直方向)について塗布膜11を全て覆うような板幅とされ、長尺状支持体10の走行経路に沿って配置される。また、板20は長尺状支持体10に形成された塗布膜11が未乾燥状態において走行経路周辺環境からの風等の影響を受けることを抑制することを主眼としているものであるため、板20と塗布膜11との間の空隙Gは好ましくは、10mm以下とされる。この結果、板20と塗布膜11との間の空隙は溶剤の蒸気でほぼ満たされることとなり、溶剤の蒸発速度を0.1g/m^(2)・s以下にまで低下させることができ、均一な状態で塗布膜が乾燥して、厚みの均一な塗布膜が形成される。
【0023】
したがって、板20は、塗布膜11が外部の気流に曝されることを防止しつつ、間隙G内における塗布膜11の溶剤蒸発環境を、(特許文献1のような強制送風などではなく)塗布膜11から蒸発した溶剤の蒸気圧自身で自律的かつ均一に制御する蒸発環境制御板として機能する。
・・・(省略)・・・
【0026】
上記のような板20を用いた乾燥工程は、塗布液の塗布直後であって、長尺状支持体10が乾燥装置40に入るまでに行われることが好ましく、そのようなタイミングで行われることにより、未乾燥状態の塗布液が乾燥装置40に入るまでの間に周囲環境からの風等による影響を良好に防止できる。
【0027】
その後、塗布膜11が形成されて板20の下方を通過した長尺状支持体10は従来の乾燥装置40に入り、加熱又は紫外線照射が行われて塗布膜11の完全な乾燥又は硬化が行われる。ただし、塗工装置30の直後に設けた板20が温度調整されていることから、板20の下方の空隙Gは室温よりも高い温度となっており、塗布膜11の乾燥加速作用がある。したがって、板20の作用によって塗布膜11を完全に乾燥させるようにしてもよく、その場合は乾燥装置40を設ける必要はない。
【0028】
なお、長尺状支持体10が板20の下方を通過した後、乾燥装置40にて別途乾燥処理が行われる場合には、溶剤の蒸発速度が0g/m^(2)・sとなるように制御されてもよい。この場合、塗布膜11が形成された長尺状支持体10が周囲環境によって全く乾燥しない状態で乾燥装置40に導かれるので、良好で均一な膜厚の塗布膜が形成される。これに対し、乾燥装置40が設けられない場合には、長尺状支持体10が板20の下方を通過している間に完全な乾燥を行う必要があるため、溶剤の蒸発速度は少なくとも0g/m^(2)・sよりも高い値に制御される。この場合における具体的な蒸発速度の下限値は、走行方向に対する板20の長さや、長尺状支持体10の移動速度などに基づいて完全な乾燥が可能な速度に定められる。
【0029】
以上のようにしてムラのない安定した塗布膜11を生成するためには、使用する塗布液の粘度が300mPa・s以下であることが好ましい。さらに好ましくは、塗布液の粘度を50mPa・s以下とすることで、特に安定した乾燥が可能になる。
・・・(省略)・・・
【0042】
以上のような塗布・乾燥工程により、上記塗布膜11を例えば光学機能を有する光学機能層として形成することができる。そして、画像表示装置に使用される光学フィルムや偏光板を、上記光学機能層が積層された構造として形成することができる。すなわち、上述した乾燥工程は、光学フィルムや偏光板に積層される光学機能層を形成する上で特に有益なものとなる。
【0043】
偏光板は、例えば、二色性物質含有のポリビニルアルコール系フィルム等からなる偏光子の片面又は両面に、保護シートやその他の光学フィルムを設けた構造として構成される。
・・・(省略)・・・
【0047】
また、以上のような偏光板は、実用に際して各種光学機能層を積層して用いられる。そして上述した乾燥方法は光学機能層を積層形成する際にも使用しうる。
【0048】
その光学機能層については特に限定されるものではないが、例えば、保護シートの偏光子を設けない面に対して、ハードコート処理や反射防止処理、スティッキング防止や、拡散ないしアンチグレアを目的とした表面処理を施したり、視角補償等を目的とした配向液晶層を積層することがあげられる。また、反射板や半透過板、位相差板(1/2や1/4等の波長板(λ板)を含む)、視角補償層等の画像表示装置の形成に用いられる光学機能層を1層又は2層以上積層したものがあげられる。特に、偏光板に反射板又は半透過反射板が積層されてなる反射型偏光板又は半透過型偏光板、位相差板が積層されてなる楕円偏光板又は円偏光板、視角補償層が積層されてなる広視野角偏光板、あるいは輝度向上層が積層されてなる偏光板が好ましい。
【0049】
視角補償層は、画像表示装置の画面を、画面に垂直でなくやや斜め方向から見た場合でも、画像が比較的鮮明に見えるように視野角を広げるための光学機能層である。このような視角補償層が積層された広視野角偏光板としては、例えば位相差板、液晶ポリマー等の配向フィルムや透明基材上に液晶ポリマー等の配向層を支持したものなどからなる。通常の位相差板は、その面方向に一軸延伸された複屈折を有するポリマーフィルムが用いられるのに対し、視角補償フィルムとして用いられる位相差板には、面方向に二軸に延伸された複屈折を有するポリマーフィルムとか、面方向に一軸に延伸され、厚さ方向にも延伸された、厚さ方向の屈折率を制御した複屈折を有するポリマーや傾斜配向フィルムのような二方向延伸フィルムなどが用いられる。傾斜配向フィルムとしては、例えばポリマーフィルムに熱収縮フィルムを接着して加熱によるその収縮力の作用下にポリマーフィルムを延伸処理または/および収縮処理したものや、液晶ポリマーを斜め配向させたものなどが挙げられる。位相差板の素材原料ポリマーは、液晶セルによる位相差に基づく視認角の変化による着色等の防止や良視認の視野角の拡大などを目的とした適宜なものを用いうる。
【0050】
また、良視認の広い視野角を達成する点などにより、液晶ポリマーの配向層、特にディスコティック液晶ポリマーの傾斜配向層からなる光学的異方性層をトリアセチルセルロースフィルムにて支持した光学補償位相差板が好ましく用いうる。そしてこの種の光学補償機能を示す視角補償層の形成には、上記乾燥方法を適用しうる。例えば長尺状のトリアセチルセルロースフィルムに液晶性ディスコティック化合物を含む塗布液を塗布し、その塗布膜を乾燥させる際に、上述の乾燥方法を適用することができ、それによって外観ムラの少ない位相差板を得ることができる。
・・・(省略)・・・
【0057】
このように各種光学機能層を形成する際、母材となる長尺状支持体(フィルムなど)に塗布液を塗布して塗布膜を形成し、その塗布膜を上述した乾燥方法によって乾燥させることにより、ムラのない光学機能層が形成される。よって、このような光学機能層が光学フィルムに積層されることで、ムラのない高品質な光学フィルムが得られる。さらに、この光学フィルムが偏光板に積層されることにより、ムラのない高品質な偏光板が得られる。
【0058】
また、偏光板は、偏光板と2層または3層以上の光学機能層とを積層したものからなっていてもよい。したがって、反射型偏光板や半透過型偏光板と位相差板を組み合わせた反射型楕円偏光板や半透過型楕円偏光板などであってもよい。また、光学フィルムや偏光板には、上述した乾燥方法によって形成される光学機能層が少なくとも1層設けられていればよい。そのため、多層構造を有する光学フィルムや偏光板において、少なくとも1層が上述した乾燥方法によって形成され、他の層が従来の手法によって形成された偏光板であってもよい。
【0059】
また、上記のような光学機能層を保護シートに積層する場合、その積層するタイミングは、保護シートを偏光子に貼り合わせる前でもよいし、貼り合わせた後であってもよい。保護シートに対して塗布液を塗布することで光学機能層を積層する場合には、保護シート単独又は偏光子と保護シートとの積層体を長尺状支持体10とし、この長尺状支持体10に対して塗工装置30にて光学機能を有する塗布液を塗布した直後、その塗布膜が乾燥装置40に入るまでの間に、上述した乾燥方法を採用することができる。そしてその乾燥方法によって、安定した乾燥を行うことができ、ムラのない光学機能層が形成されることになる。
【0060】
また、上記のような光学機能層を有する光学フィルムを、偏光板に積層する場合、光学フィルムと偏光板とを別個に生成して、液晶表示装置等の画像表示装置の製造プロセスでこれらを互いに貼り合わせることによって積層する方式にても形成することができるが、あらかじめ偏光板に対して光学フィルムを積層したものは、品質の安定性や組立作業等の優れていて画像表示装置の製造工程を効率化させるという利点がある。
【0061】
そして上記のようにして得られる偏光板は、液晶表示装置の形成に好ましく用いることができる。例えば、偏光板を液晶セルの片面又は両面に配置してなる反射型や半透過型、あるいは透過・反射両用型の液晶表示装置に用いることができる。液晶セル基板は、プラスチック基板、ガラス基板のいずれでもよい。また液晶表示装置を形成する液晶セルは任意であり、例えば薄型トランジスタ型に代表されるアクティブマトリクス駆動型のもの、ツイストネマチック型やスーパーツイストネマチック型に代表される単純マトリクス駆動型のものなど、適宜なタイプの液晶セルを用いたものであってもよい。そして上記乾燥方法によって形成された光学機能層を積層した構造を有する偏光板が、液晶表示装置に用いられることにより、液晶表示装置においてムラのない高品質な画像表示が実現される。
【0062】
また、上記のようにして得られる偏光板は、液晶表示装置に限られず、有機EL表示装置やプラズマ表示装置等の画像表示装置にも好ましく用いることができる。
【0063】
そして画像表示装置に、上述した乾燥方法によって形成される光学機能層を積層した偏光板を用いることにより、外観上ムラのない画像表示装置を実現することができるとともに、そのような画像表示装置を安定して得ることができる。また、画像表示装置においてムラのない高品質な画像表示が実現される。」

ウ 「【実施例】
【0064】
以下に、実施例及び比較例を示しつつ、本発明をさらに具体的に説明する。ただし、本発明はこれら実施例及び比較例によって限定されるものではない。
【0065】
実施例1.
ダイコーターにてPETフィルム(厚さ75μm)上に、紫外線硬化型の液晶モノマーを有機溶剤(シクロペンタノン)で固形分30%に希釈した、粘度6mPa・s(測定装置:Haake社製レオメータRS-1)の塗布液を、乾燥後の厚みで4.0μmとなるように塗布し、この塗布膜を、図1の如く、塗布膜との間に一定の空隙Gを設けた板20の配置されたゾーンに通過させた後、乾燥装置40にて、70℃の熱風による乾燥後、紫外線照射(積算光量300mJ/cm^(2))により硬化させることによって、光学機能層を有するシートを得た。このとき、板20の配置されたゾーンにおける塗布液の蒸発速度を、発生する蒸気のガス濃度分布と風量(風速)とに基づいて測定すると、0.03g/m^(2)・sであった。
【0066】
ここでバッチ式の乾燥方式において、蒸発速度と発生する蒸気のガス濃度分布との間に相関関係があることは発明者らによって確認されている。バッチ式で電子天秤上に塗布液をのせ、ガス濃度と風速を監視しつつ経時的な重量変化を測定することで、ガス濃度および風速と、乾燥速度との関係(検量線)を予め算出しておき、本実施例ではこの関係を利用して蒸発速度を算出した。具体的には、板20における基材の流れ方向中央部分であって、かつ基材の幅方向中央部分に孔をあけ、その孔に、ガス濃度測定装置(横河電気社製ポータブルVOCモニター)および風速測定装置(日本カノマックス社製アネモマスター)の各センサーを配置してガス濃度および風速を測定し、上記方法によって予め求めておいた関係から上記の蒸発速度0.03g/m^(2)・sが求められた。
【0067】
なお、本実施例において風向きは基材進行方向と同じ方向(順方向)とし、測定された風速は0.1m/sであった。」

エ 【図1】


(2) 引用発明
前記(1)アないしエからみて、引用文献1の実施例1(【0065】?【0067】、図1)には、「光学機能層を有するシートを得」る方法として、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

「 ダイコーターにてPETフィルム(厚さ75μm)上に、紫外線硬化型の液晶モノマーを有機溶剤(シクロペンタノン)で固形分30%に希釈した、粘度6mPa・sの塗布液を、乾燥後の厚みで4.0μmとなるように塗布し、
この塗布膜を、塗布膜との間に一定の空隙Gを設けた板の配置されたゾーンに通過させた後、
乾燥装置にて、70℃の熱風による乾燥後、紫外線照射(積算光量300mJ/cm^(2))により硬化させることによって、光学機能層を有するシートを得る方法であって、
板における基材の流れ方向中央部分であって、かつ基材の幅方向中央部分に孔をあけ、その孔に、風速測定装置を配置して風速を測定し、風向きは基材進行方向と同じ方向(順方向)とし、測定された風速は0.1m/sである、
光学機能層を有するシートを得る方法。」

(3) 引用文献2の記載
原査定の拒絶の理由において引用された、特開2009-282373号公報(以下「引用文献2」という。)は、先の出願前に、日本国内において頒布された刊行物であるところ、そこには、以下の記載がある。なお、下線は当合議体が付したものであり、判断等に活用した箇所を示す。

ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂フィルム上に棒状の重合性液晶化合物を有機溶媒に溶解させた塗布液を塗布する塗布工程と、前記塗布液が塗布され前記樹脂フィルムの上に形成された塗膜を乾燥する乾燥工程と、前記乾燥工程の後に配向工程と、前記塗膜に対し活性放射線を照射する硬化工程とを有する光学補償フィルムの製造方法において、
前記乾燥工程は付与熱量増加部を有し、前記乾燥工程で前記塗膜の残留溶媒量が、0.20g/m^(2)?0.00010g/m^(2)の間で、付与熱量を増加させることを特徴とする光学補償フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記熱量は、式1)で示される熱量であり、該熱量が100℃・sec?1000℃・secであることを特徴とする請求項1に記載の光学補償フィルムの製造方法。
式1)
熱量=△T(熱量付与後の塗膜の温度-付与熱量を増加させる前の塗膜の温度)×t(熱量付与時間)
【請求項3】前記乾燥工程の付与熱量を増加させる前の過程での塗膜の溶媒の蒸発速度が15.0g/m^(2)・min?100.0g/m^(2)・minであることを特徴とする請求項1又は2に記載の光学補償フィルムの製造方法。
【請求項4】前記塗布液工程で基材の上に塗布液が塗布されてから、該基材が乾燥工程に入るまでの時間が15.0sec以内であることを特徴とする請求項1?3の何れか1項に記載の光学補償フィルムの製造方法。」

イ 「【技術分野】
【0001】
本発明は光学補償フィルムの製造方法に関し、更に詳しくは、棒状の重合性液晶化合物(以下、単に重合性液晶化合物とも云う)が垂直配向し、固定化された位相差層を有する光学補償フィルムの製造方法に関する。
・・・(省略)・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記状況に鑑みなされたものであり、その目的は棒状の重合性液晶化合物を有する位相差層を有し、広視野角化、コントラストの変化が少ない光学補償フィルムの製造方法を提供することである。」

ウ 「【0024】
本発明に係わる光学補償フィルムは、重合性液晶化合物の溶液を樹脂フィルム基材上に塗布し、乾燥と熱量付与処理と配向工程を経て、重合性液晶化合物の配向を活性放射線硬化もしくは熱重合などで固定化を行い、垂直配向した重合性液晶化合物による位相差層を有することが特徴である。尚、垂直配向とは、得られた位相差層の光学位相差を評価するために、偏光顕微鏡を用いて評価する時、位相差層をクロスニコル偏光膜の間に挟んだ場合に黒色に見え、クロスニコル偏光膜の間で位相差層を傾けた場合に白色に見えるものを垂直配向しているものと定義する。位相差層を形成する際には、いわゆる垂直配向膜を用いてもよく、垂直配向膜として特に制限はないが、液晶材料自身が空気界面で垂直配向する場合で、その配向規制力が空気界面と反対の界面まで及ぶ場合には該配向膜は特に必要ではなく、構成が簡素化出来る観点からもその方が好ましい。垂直配向膜を使用する場合は、特開2005-148473号公報などに記載されている(メタ)アクリル系ブロックポリマーを含有するブロックポリマー組成物の架橋体からなる配向膜等を用いることも好ましい。
・・・(省略)・・・
【0028】
次に、本発明の光学補償フィルムの製造方法に付き説明する。
【0029】
図2は光学補償フィルムの製造装置の模式図である。
【0030】
図中、2は製造装置を示す。製造装置2は基材供給工程201と、塗布工程202と、乾燥工程203と、配向工程204と、硬化工程205と、回収工程206とを順番に有している。
【0031】
基材供給工程201はロール状に巻かれた基材3の繰り出し装置(不図示)を有し、塗布工程202に基材3を供給する様になっている。
【0032】
塗布工程202は基材3を保持するバックロール202aと、塗布装置202bとを有している。塗布装置202bにより、重合性液晶化合物を有機溶媒に溶解した重合性液晶化合物層形成用塗布液を基材3の上に塗布し、重合性液晶化合物塗膜(以下、単に塗膜とも云う)が形成される。
・・・(省略)・・・
【0035】
乾燥工程203は乾燥部203aと、付与熱量増加部203bとを有している。乾燥部203aでは塗布工程202から送られて来る基材3の上に形成された塗膜の溶媒を蒸発させ重合性液晶化合物層を形成する工程である。
・・・(省略)・・・
【0045】
重合性液晶化合物は、1)基材3の上に棒状の重合性液晶化合物を含む重合性液晶化合物層形成用塗布液を塗布して形成された膜の溶媒を除去する乾燥過程が終了し、付与熱量増加過程に移行する時の塗膜面温度が重合性液晶化合物層形成用組成物のネマチック-等方性液体転移温度(転移温度)以上の場合は、加熱量が多過ぎると後工程の配向工程を経ても液晶化合物は垂直配向しきれない場合(配向が不均質)がある。また、2)乾燥過程が終了し、付与熱量増加過程に移行する時の塗膜面温度が重合性液晶化合物層形成用組成物のネマチック-等方性液体転移温度(転移温度)以下の場合も、溶媒が無くなってから転移温度まで上昇する温度履歴になり、この際の加熱量が多過ぎる、もしくは少な過ぎる場合に後工程の配向工程を経ても重合性液晶化合物は垂直配向しきれない場合(配向が不均質)がある。
【0046】
付与熱量増加部203bによる塗膜に付与する熱量は、等方相(イソトロピック相)になるまでの時間、若しくは等方相(イソトロピック相)になっている時間等を考慮し、100℃・sec?1000℃・secが好ましい。熱量は以下に示す式から計算で求めた値を示す。
【0047】
熱量(h1)=△T(熱量付与後の塗膜の温度-熱量付与前の塗膜の温度)×t(熱量付与時間)
塗膜面温度の測定は放射温度計により非接触で測定することが好ましく、例えば、EXERGEN社製赤外線熱電対IRt/cを用いることが出来る。
【0048】
乾燥工程203が終了し、形成された重合性液晶化合物層の厚さは、光学異方性、ヘイズ、コントラスト等を考慮し、0.1μm?20μmが好ましい。より好ましくは0.2μm?10μmの範囲内である。
【0049】
塗布工程202で基材3の上に重合性液晶化合物層形成用塗布液を塗布されてから基材3が乾燥工程203に入るまでの塗膜の溶媒の乾燥速度は、溶媒蒸気ムラ、乾燥速度ムラ等を考慮し、10g/m^(2)・min以下にすることが好ましい。
【0050】
乾燥工程203の付与熱量を増加させる前の過程での塗膜の溶媒の乾燥速度は、乾燥速度ムラ等を考慮し、15.0g/m^(2)・min?100.0g/m^(2)・minであることが好ましい。乾燥速度は、(株)チノー製のIR膜厚計(IRM-V)により、搬送される支持体上の塗布液の膜厚を測定し、その膜厚の変化から塗布液中の溶剤の蒸発速度を算出し(具体的には式:{膜厚変化[μm]×比重[-]}/膜厚変化所要時間(min)、1μm厚みは密度1000kg/m^(3)の場合に1g/m^(2)に相当)、単位時間における単位面積あたりの溶剤の蒸発速度[g/m^(2)・min]を乾燥速度とした。なお、測定に際しては、溶剤の揮発とともに乾燥速度が変化し、また乾燥温度の変化によっても乾燥速度が変化するため、10秒毎に塗布液の膜厚を測定し、乾燥速度を算出した。その結果を元にし、各工程内での中心値を示す。
【0051】
塗布工程202で基材3の上に重合性液晶化合物層形成用塗布液を塗布されてから基材3の乾燥工程203に入るまでの時間は、溶媒蒸気ムラ、外力の影響等を考慮し、0.5sec?15.0secであることが好ましい。
【0052】
乾燥工程203の終了後は速やかに配向工程204に移行することが好ましく、具体的には乾燥工程203の付与熱量増加部203bでの熱量付与後10秒以内に配向工程204の冷却ロール204aによる降温過程に移行することが好ましい。熱量付与後、温度が高い状態を長く維持していると等方相から液晶相になる温度に移動しても重合性液晶化合物層中液晶分子の動きが遅くなり垂直配向するのに要する時間が長くなってしまうことがある。
【0053】
重合性液晶化合物は、光学異方性の面から液晶相(ネマチック相)状態で固定化することが好ましいことが知られており、配向工程204は等方相(イソトロピック相)から液晶相(ネマチック相)状態にする工程であり、冷却されている区間を有している。冷却手段の一例として冷却ロールが挙げられる。本図は配向工程204に冷却ロール204aを用いた場合を示している。乾燥工程203から搬送されてくる重合性液晶化合物層を形成した基材の温度を下げることで重合性液晶化合物を垂直配向させる工程である。尚、冷却ロール204aは複数本を配設することも可能である。
【0054】
冷却ロール204aを冷却する方法は特に限定されないが、例えば冷水を流す方法、重合性液晶化合物層を形成した基材を支持していない部分への冷風の吹き付ける方法、ペルチェ素子を使用した冷却手段を使用する方法等が挙げられる。
【0055】
冷却ロール204aにより降温し、重合性液晶化合物を垂直配向した状態で硬化工程205で固定化するに当たり、冷却ロール204aから硬化工程205までの温度履歴により重合性液晶化合物の配向状態が異なる。付与熱量増加部203b以降から硬化工程までの環境は、重合性液晶化合物の配向状態を考慮し、15℃以上、40℃以下に10秒以上置くことが好ましい。10秒以上とは上限300秒を示す。
【0056】
尚、本図では基材の温度を下げる手段として冷却ロールを使用した場合を示したが、基材の温度を下げる手段は特に限定は無く、例えば冷風の吹き付けによる冷却ゾーンであってもよい。
【0057】
硬化工程205は垂直配向した重合性液晶化合物層を硬化し重合性液晶化合物の垂直配向を固定化することで、位相差層としての機能を付与する工程である。205aは紫外線照射装置を示す。」

(4) 引用文献3
原査定の拒絶の理由において引用された、特開2008-203386号公報(以下「引用文献3」という。)は、先の出願前に、日本国内において頒布された刊行物であるところ、そこには、以下の記載がある。なお、下線は当合議体が付したものであり、判断等に活用した箇所を示す。

「【0052】
また、上記風の風量は、好ましくはウェット塗膜100cm^(2)当り1リットル/分?100リットル/分であり、より好ましくはウェット塗膜100cm^(2)当り5リットル/分?50リットル/分である。
上記風の風速は、好ましくは0.2m/秒?10m/秒であり、さらに好ましくは3m/秒?8m秒である。
上記風を吹き付ける時間は、好ましくは2秒?10分であり、さらに好ましくは10秒?10分である。
風量及び/又は風速及び/又は吹き付け時間が、上記の条件であれば、塗膜面が乱れることなく、短時間で乾燥させることができるからである。
風を起こす手段は、特に限定されず、例えば、ドライヤー、送風機等の任意の適切な手段が採用され得る。」

(5) 引用文献4
原査定の拒絶の理由において引用された、特開2008-26824号公報(以下「引用文献4」という。)は、先の出願前に、日本国内において頒布された刊行物であるところ、そこには、以下の記載がある。なお、下線は当合議体が付したものであり、判断等に活用した箇所を示す。

「【0075】
<光学異方性層の作製>
204.0質量部のメチルエチルケトンに、下記一般式(6)に示すディスコティック液晶化合物91質量部、エチレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリアクリレート(V#360、大阪有機化学(株)製)9質量部、セルロースアセテートブチレート(CAB531-1、イーストマンケミカル社製)0.5質量部、セルロースアセテートブチレート(CAB551-0.2、イーストマンケミカル社製)0.2質量部、フルオロ脂肪族基含有ポリマー(メガファックF780、大日本インキ(株)製)を0.4質量部、光重合開始剤(イルガキュアー907、チバガイギー社製)3質量部、増感剤(カヤキュアーDETX、日本化薬(株)製)1質量部を溶解して塗布液を調製した。
その後、前記塗布液を、配向膜つきセルロースアセテートフィルム上に#3.1のワイヤーバーで塗布し、133℃の恒温槽中で膜面風速3.0m/secの乾燥風を当てながら2分間加熱し、ディスコティック液晶化合物を配向させた。
次に、80℃で120W/cm高圧水銀灯を用いて、1分間紫外線照射し、前記ディスコティック液晶化合物を重合させた。その後、室温まで放冷した。このようにして、第2の光学異方性層(ディスコティック液晶層)を形成し、光学補償フィルムを作製した。」

4 対比及び判断
(1) 対比
本件補正後発明と引用発明を対比すると、以下のとおりとなる。

ア 光学異方性膜、光学異方性膜形成用組成物
引用発明の「光学機能層」は、「ダイコーターにてPETフィルム(厚さ75μm)上に、紫外線硬化型の液晶モノマーを有機溶剤(シクロペンタノン)で固形分30%に希釈した、粘度6mPa・sの塗布液を、乾燥後の厚みで4.0μmとなるように塗布し、この塗布膜を、塗布膜との間に一定の空隙Gを設けた板の配置されたゾーンに通過させた後、乾燥装置にて、70℃の熱風による乾燥後、紫外線照射(積算光量300mJ/cm^(2))により硬化させることによって」形成されるものである。
引用発明の「光学機能層」の「層」は、「乾燥後の厚みで4.0μm」の「塗布膜」を「硬化させ」たものであるから、「膜」ということができる。 そうしてみると、引用発明の「光学機能層」と本件補正後発明の「光学異方性膜」とは、「光学」「膜」の点で共通する。
また、上記の製造工程からみて、引用発明の「紫外線硬化型の液晶モノマー」及び「有機溶剤(シクロペンタノン)」は、それぞれ、本件補正後発明の「液晶化合物」及び「溶剤」に相当し、引用発明の「紫外線硬化型の液晶モノマーを有機溶剤(シクロペンタノン)で固形分30%に希釈した、粘度6mPa・sの塗布液」と本件補正後発明の「液晶化合物と溶剤とを含む光学異方性膜形成用組成物」とは、「液晶化合物と溶剤とを含む光学」「膜形成用組成物」の点で共通する。

イ 光学異方性膜の製造方法
引用発明は、「光学機能層を有するシートを得る方法」であって、「光学機能層」を製造する工程を含むものである。
そうしてみると、引用発明の「光学機能層を有するシートを得る方法」と本件補正後発明の「光学膜の製造方法」とは、「光学」「膜の製造方法」の点で共通する。

ウ 塗布する工程
引用発明は、「ダイコーターにてPETフィルム(厚さ75μm)上に、紫外線硬化型の液晶モノマーを有機溶剤(シクロペンタノン)で固形分30%に希釈した、粘度6mPa・sの塗布液を、乾燥後の厚みで4.0μmとなるように塗布」する工程(以下「工程A」という。)を具備する。
引用発明の「PETフィルム」は、技術的にみて、本願発明の「基材」に相当する。また、引用発明の「塗布膜」は、「PETフィルム(厚さ75μm)上に、」「塗布」されたものである。
そうしてみると、引用発明の「工程A」と本件補正後発明の「(1)液晶化合物と溶剤とを含む光学膜形成用組成物を、基材に塗布する工程」とは、「(1)液晶化合物と溶剤とを含む光学」「膜形成用組成物を、基材に塗布する工程」の点で共通する。

エ 搬送する工程
引用発明は、「紫外線硬化型の液晶モノマーを有機溶剤(シクロペンタノン)で固形分30%に希釈した、粘度6mPa・sの塗布液」を塗布してなる「塗布膜」を、「塗布膜との間に一定の空隙Gを設けた板の配置されたゾーンに通過させた後、乾燥装置にて、70℃の熱風による乾燥後、紫外線照射(積算光量300mJ/cm^(2))により硬化させる」工程を具備する。
引用発明の「乾燥装置」は、技術的にみて、本件補正後発明の「乾燥炉」に相当する。そうしてみると、引用発明の上記工程は、「紫外線硬化型の液晶モノマーを有機溶剤(シクロペンタノン)で固形分30%に希釈した、粘度6mPa・sの塗布液」を塗布してなる「塗布膜」を、「乾燥装置まで搬送する工程」(以下「工程B」という。)を内在するものである。
したがって、引用発明の「工程B」と本件補正後発明の「(2)塗布された光学異方性膜形成用組成物を、風速0.01m/秒乃至0.2m/秒の環境下で、乾燥炉まで搬送する工程」とは、「(2)塗布された光学」「膜形成用組成物を、」「乾燥炉まで搬送する工程」の点で共通する。

オ 溶剤を除去する工程
引用発明は、「紫外線硬化型の液晶モノマーを有機溶剤(シクロペンタノン)で固形分30%に希釈した、粘度6mPa・sの塗布液を、乾燥後の厚みで4.0μmとなるように塗布し、」「この塗布膜を、塗布膜との間に一定の空隙Gを設けた板の配置されたゾーンに通過させた後、乾燥装置にて、70℃の熱風による乾燥後、紫外線照射(積算光量300mJ/cm^(2))により硬化させることによって、光学機能層を有するシートを得る」工程を具備する。
引用発明の「熱風」は、文言通り、本件補正後発明の「熱風」に相当する。また、引用発明の「乾燥装置」は、「塗布液」を「乾燥」するものであるから、「溶剤」を除去するものであることは明らかである。
そうしてみると、引用発明の上記工程のうち、「乾燥装置にて、70℃の熱風による乾燥」の工程(以下「工程C」という。)と本件補正後発明の「(3)乾燥炉において、塗布された光学異方性膜形成用組成物に風速1m/秒以上で70℃?120℃の熱風を当て、溶剤を除去する工程」とは、「(3)乾燥炉において、塗布された光学」「膜形成用組成物に」「70℃?120℃の熱風を当て、溶剤を除去する工程」の点で共通する。

カ 工程(1)、(2)、(3)の順
引用発明の上記「工程A」、「工程B」及び「工程C」は、この順に行われるものである。
そうしてみると、引用発明の「光学機能層を有するシートを得る方法」と本件補正後発明の「光学異方性膜の製造方法」とは、「以下の工程(1)?(3)をこの順に行う」の点で共通する。

(2) 一致点及び相違点
ア 一致点
本件補正後発明と引用発明は、次の構成で一致する。
「 以下の工程(1)?(3)をこの順に行う光学膜の製造方法。
(1)液晶化合物と溶剤とを含む光学膜形成用組成物を、基材に塗布する工程
(2)塗布された光学膜形成用組成物を、乾燥炉まで搬送する工程
(3)乾燥炉において、塗布された光学膜形成用組成物に70℃?120℃の熱風を当て、溶剤を除去する工程。」

イ 相違点
本件補正後発明と引用発明は、以下の点で相違する。
(相違点1)
「光学膜」が、本件補正後発明は、「液晶化合物が垂直配向した」光学「異方性」膜であるのに対して、引用発明の「光学機能層」は、このような特定がなされたものではない点。

(相違点2)
上記相違点1に伴い、「光学膜形成用組成物」が、本件補正後発明は、光学「異方性」膜形成用組成物であるのに対して、引用発明は、このような特定がなされたものではない点。

(相違点3)
「工程(2)」が、本件補正後発明は、「風速0.01m/秒乃至0.2m/秒の環境下で」なされるのに対して、引用発明は、「塗布膜との間に一定の空隙Gを設けた板の配置されたゾーンに通過させた後、乾燥装置にて、70℃の熱風による乾燥」するものであって、「板における基材の流れ方向中央部分であって、かつ基材の幅方向中央部分に孔をあけ、その孔に、風速測定装置を配置して風速を測定し、風向きは基材進行方向と同じ方向(順方向)とし、測定された風速は0.1m/sである」点。

(相違点4)
「工程(3)」が、本件補正後発明は、「1m/秒以上」であるのに対して、引用発明の「熱風」は、風速が明らかでない点。

(3) 判断
上記相違点について検討する。

ア 上記相違点1について
引用文献1の【0048】に「光学機能層」について、「視角補償等を目的として配向液晶層を積層することがあげられる。」と記載されている。引用文献1には、視角補償を目的とする配向液晶層について具体的には記載されていない。しかしながら、引用文献2には、「樹脂フィルム上に棒状の重合性液晶化合物を有機溶媒に溶解させた塗布液を塗布する塗布工程と、前記塗布液が塗布され前記樹脂フィルムの上に形成された塗膜を乾燥する乾燥工程と、前記乾燥工程の後に配向工程と、前記塗膜に対し活性放射線を照射する硬化工程とを有する製造方法により製造され、重合性液晶化合物が垂直配向された位相差層を有する、広視野角化、コントラストの変化が少ない光学補償フィルム」が記載されており、このような事項は周知である。
そして、広視野角化等視角補償とするという課題は周知のものであるから、広視野角化等視角補償をするために、引用発明の「光学機能層」を、引用文献2に例示される周知の重合性液晶化合物が垂直配向された位相差層として、上記相違点1に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

イ 上記相違点2について
前記アで述べたとおり引用発明と引用文献2に例示される周知技術を組み合わせてなる、引用発明の「紫外線硬化型の液晶モノマーを有機溶剤(シクロペンタノン)で固形分30%に希釈した、粘度6mPa・sの塗布液」は、「光学異方性膜形成用組成物」といえるから、上記相違点2に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

ウ 上記相違点3について
引用発明の「塗布膜」は、「塗布膜との間に一定の空隙Gを設けた板の配置されたゾーンに通過させた後、乾燥装置にて、70℃の熱風による乾燥後、紫外線照射(積算光量300mJ/cm^(2))により硬化させる」ものであって、「板における基材の流れ方向中央部分であって、かつ基材の幅方向中央部分に孔をあけ、その孔に、風速測定装置を配置して風速を測定し、風向きは基材進行方向と同じ方向(順方向)とし、測定された風速は0.1m/sである」ものである。
ここで、引用発明の「測定された風速」は、「板における基材の流れ方向中央部分であって、かつ基材の幅方向中央部分に孔をあけ、その孔に、風速測定装置を配置して風速を測定し」たものである。風の流れを考慮すると、風の流れは板における基材の流れ方向中央部分のみではなく、板における基材の流れ方向に沿って風が流れていることは明らかである。また、引用文献1の【0005】に記載された、「従来の乾燥方法では、塗工装置において走行する長尺状支持体に塗布液を塗布してから、乾燥装置において乾燥させるまでの間は、装置周辺の周囲環境下にさらされる区間が存在し、例えば周囲環境からの不規則な速度・方向の風等による外乱因子の影響で乾燥速度にバラツキが生じることになる。」という発明が解決しようとする課題に関する記載を考慮すると、引用発明において、「塗布膜との間に一定の空隙Gを設けた板の配置されたゾーン」と「乾燥装置」との間に、装置周辺の周囲環境下にさらされる区間は存在しないと認められる(引用文献1の【図1】の「板20」と「乾燥装置40」との間の区間は、模式図として設けられたものである。)。そうしてみると、引用発明において、塗布膜を塗布後、乾燥装置40までの間、風速0.1m/s程度の風が流れているといえる。
したがって、上記相違点3は実質的な差異ではない。仮に、差異があるとしても、引用発明において、塗布膜を塗布後、乾燥装置40までの間、風速を0.01m/秒乃至0.2m/秒とすることは、当業者にとって適宜選択可能な設計事項にすぎない。

エ 上記相違点4について
引用発明は、「熱風」、すなわち、「熱」い「風」により乾燥を行うものであるところ、塗布液を乾燥する際の風速を1m/秒以上とすることは、引用文献3に、「乾燥させる風速は、3m/秒?8m/秒であること。」(上記3(4))、引用文献4に「風速3.0m/secの乾燥風。」(上記3(5))と記載されているように、周知技術である。
そうしてみると、引用発明において、「熱風」の風速を1m/秒以上とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

オ 発明の効果について
本件補正後発明の効果に関して、本件出願の明細書の【0006】には、「透明性が高い光学異方性膜の製造方法を提供することができる。」と記載されている。
しかしながら、このような効果は、引用発明及び引用文献2?4に記載された事項から予測できる範囲内のものである。

カ 審判請求人の主張について
審判請求人は、令和元年8月30日付けで提出された審判請求書において、「これらの引用文献1の教示によれば、当業者は、長尺状支持体に対して前記塗布液が塗布された直後から乾燥装置に入るまで塗布液に風を当てないはずであり、本願発明のように一定の風速下に塗布膜を乾燥炉まで搬送することは到底動機づけられないはずです。」、「本願発明における工程(2)及び工程(3)のような塗布膜の搬送工程と乾燥工程とを含む製造方法は、引用文献1?引用文献4に示唆すらされていないはずです。」と主張している。
しかしながら、前記ウ及びエにおいて述べたとおりであり、審判請求人の主張は、いずれも採用することができない。

(4) 小括
以上のとおりであるから、本件補正後発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

5 補正の却下の決定の結び
本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので、同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって、補正の却下の決定の結論の通り決定する。


第3 本願発明
1 本願発明
以上のとおり、本件補正は却下されたので、本件出願の請求項1?10に係る発明は、平成30年12月10日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?10に記載された事項によって特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明は、前記「第2」1(1)に記載のとおりのものである(以下「本願発明」という。)。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、本願発明は、先の出願前に、日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができない、というものである。

3 引用文献の記載及び引用発明
原査定の拒絶の理由において引用された引用文献1?4の記載及び引用発明は、前記「第2」3に記載したとおりである。

4 対比、判断
本願発明は、前記「第2」4で検討した本件補正後発明から、前記「第2」1で述べた限定事項を除いたものである。
そうしてみると、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。


第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2020-03-23 
結審通知日 2020-03-24 
審決日 2020-04-06 
出願番号 特願2014-245611(P2014-245611)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G02B)
P 1 8・ 121- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 横川 美穂  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 高松 大
井口 猶二
発明の名称 光学異方性膜の製造方法  
代理人 坂元 徹  
代理人 中山 亨  

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