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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 A61B
管理番号 1362643
審判番号 不服2019-13645  
総通号数 247 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-07-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-10-11 
確定日 2020-06-10 
事件の表示 特願2016- 35840「内視鏡」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 8月31日出願公開、特開2017-148406、請求項の数(12)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成28年2月26日の出願であって、平成30年12月4日付けで拒絶理由が通知され、平成31年1月7日付けで意見書が提出され、同年4月9日付けで拒絶理由が通知され、令和元年5月22日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年9月4日付けで拒絶査定されたところ、同年10月11日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同時に手続補正がなされたものである。

第2 原査定の概要
原査定(令和元年9月4日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

本願請求項1-4,12に係る発明は、以下の引用文献1-4,8-13、又は引用文献1,7-9,13に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであり、請求項5に係る発明は、以下の引用文献1-5,8-13、又は引用文献1,5,7-9,13に基づいて当業者が容易に発明できたものであり、請求項6,7に係る発明は、以下の引用文献1-6,8-13、又は引用文献1,5-9,13に基づいて当業者が容易に発明できたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

1.実願昭62-139196号(実開昭64-43902号)のマイクロフィルム
2.特開2006-289587号公報(周知技術を示す文献)
3.特開平11-353713号公報(周知技術を示す文献)
4.特開2005-253892号公報(周知技術を示す文献)
5.特開2009-101077号公報(周知技術を示す文献)
6.特開2010-207598号公報
7.特開2009-71967号公報
8.特開平8-33606号公報(周知技術を示す文献)
9.特開平4-2317号公報(周知技術を示す文献)
10.特開平3-30750号公報(周知技術を示す文献)
11.特開平9-46969号公報(周知技術を示す文献)
12.特開平6-278892号公報(周知技術を示す文献)
13.特開2007-135881号公報(周知技術を示す文献)

第3 本願発明
本願請求項1?12に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」?「本願発明12」という。)は、令和元年10月11日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1?12に記載された事項により特定される発明であり、以下のとおりの発明である。
「【請求項1】
先端と基端とを有する挿入部と、
前記挿入部の先端側に設けられた先端部本体と、
前記先端部本体に設けられた第1収容室と、
前記第1収容室内に設けられた回転軸により回転自在に保持されている起立台と、
前記先端部本体内において前記起立台から前記回転軸の軸方向に離れた位置に設けられ、前記先端部本体内で回転する前記起立台の回転軌跡に沿った形状を有するコイルと、
前記起立台に設けられた磁石と、
前記コイルに駆動電流を供給して、前記コイルと前記磁石との間で駆動力を発生するアクチュエータを構成し、前記アクチュエータにより前記起立台を回転させる電流供給部と、
前記先端部本体内において前記第1収容室から前記軸方向に離れた位置に設けられ、前記コイルを収容する気密且つ全体が非磁性体材料で形成されている第2収容室と、
を備える内視鏡。
【請求項2】
先端と基端とを有する挿入部と、
前記挿入部の先端側に設けられた先端部本体と、
前記先端部本体に設けられた第1収容室と、
前記第1収容室内に設けられた回転軸により回転自在に保持されている起立台であって、少なくとも一部が磁石で形成されている起立台と、
前記先端部本体内において前記起立台から前記回転軸の軸方向に離れた位置に設けられ、前記先端部本体内で回転する前記起立台の回転軌跡に沿った形状を有するコイルと、
前記コイルに駆動電流を供給して、前記コイルと前記磁石との間で駆動力を発生するアクチュエータを構成し、前記アクチュエータにより前記起立台を回転させる電流供給部と、
前記先端部本体内において前記第1収容室から前記軸方向に離れた位置に設けられ、前記コイルを収容する気密且つ全体が非磁性体材料で形成されている第2収容室と、
を備える内視鏡。
【請求項3】
前記挿入部の基端側には、操作部材を有する操作部が設けられており、
前記電流供給部は、前記操作部材の操作に応じて前記コイルに供給する前記駆動電流を調整して、前記アクチュエータによる前記起立台の回転を制御する請求項1又は2に記載の内視鏡。
【請求項4】
前記起立台の回転位置を検出する起立台回転位置検出部を備え、
前記電流供給部は、前記起立台回転位置検出部の検出結果に基づき前記コイルに供給する前記駆動電流を調整して、前記起立台を前記操作部材の操作に応じた前記回転位置まで回転させる請求項3に記載の内視鏡。
【請求項5】
前記操作部材の操作位置を検出する操作位置検出部を備え、
前記電流供給部は、前記コイルに供給する前記駆動電流を調整して、前記操作位置検出部が検出した前記操作部材の操作位置に対応した前記起立台の回転位置まで前記起立台を回転させる請求項3又は4に記載の内視鏡。
【請求項6】
前記操作部は、前記操作部材の操作に対して操作負荷を与える操作負荷付与部を備える請求項3から5のいずれか1項に記載の内視鏡。
【請求項7】
前記アクチュエータが消費する前記駆動電流の電流値を検出する電流値検出部を備え、
前記操作負荷付与部は、前記電流値検出部の検出結果に基づいて前記操作負荷の大きさを制御する請求項6に記載の内視鏡。
【請求項8】
前記起立台は、前記第1収容室内で前記軸方向に変位自在に保持されており、
前記先端部本体に設けられ、前記起立台を、前記軸方向のうちの前記コイルから離れて前記第1収容室の壁部に向かう方向に付勢する付勢部材を備え、
前記起立台は、前記電流供給部から前記コイルへの前記駆動電流の供給を停止した場合に、前記付勢部材の付勢により前記壁部に押し当てられて係止され、前記駆動電流の供給を開始した場合に、前記コイルと前記磁石との間に生じる引力により前記付勢部材の付勢に抗して前記壁部から離れる請求項3から7のいずれか1項に記載の内視鏡。
【請求項9】
先端と基端とを有する挿入部と、
前記挿入部の先端側に設けられた先端部本体と、
前記先端部本体に設けられた第1収容室と、
前記第1収容室内に設けられた回転軸により回転自在に保持されている起立台と、
前記先端部本体内において前記起立台から前記回転軸の軸方向に離れた位置に設けられ、前記先端部本体内で回転する前記起立台の回転軌跡に沿った形状を有するコイルと、
前記起立台に設けられた磁石と、
前記コイルに駆動電流を供給して、前記コイルと前記磁石との間で駆動力を発生するアクチュエータを構成し、前記アクチュエータにより前記起立台を回転させる電流供給部と、
を備え、
前記挿入部の基端側には、操作部材を有する操作部が設けられており、
前記電流供給部は、前記操作部材の操作に応じて前記コイルに供給する前記駆動電流を調整して、前記アクチュエータによる前記起立台の回転を制御し、
前記起立台は、前記第1収容室内で前記軸方向に変位自在に保持されており、
前記先端部本体に設けられ、前記起立台を、前記軸方向のうちの前記コイルから離れて前記第1収容室の壁部に向かう方向に付勢する付勢部材を備え、
前記起立台は、前記電流供給部から前記コイルへの前記駆動電流の供給を停止した場合に、前記付勢部材の付勢により前記壁部に押し当てられて係止され、前記駆動電流の供給を開始した場合に、前記コイルと前記磁石との間に生じる引力により前記付勢部材の付勢に抗して前記壁部から離れる内視鏡。
【請求項10】
先端と基端とを有する挿入部と、
前記挿入部の先端側に設けられた先端部本体と、
前記先端部本体に設けられた第1収容室と、
前記第1収容室内に設けられた回転軸により回転自在に保持されている起立台であって、少なくとも一部が磁石で形成されている起立台と、
前記先端部本体内において前記起立台から前記回転軸の軸方向に離れた位置に設けられ、前記先端部本体内で回転する前記起立台の回転軌跡に沿った形状を有するコイルと、
前記コイルに駆動電流を供給して、前記コイルと前記磁石との間で駆動力を発生するアクチュエータを構成し、前記アクチュエータにより前記起立台を回転させる電流供給部と、
を備え、
前記挿入部の基端側には、操作部材を有する操作部が設けられており、
前記電流供給部は、前記操作部材の操作に応じて前記コイルに供給する前記駆動電流を調整して、前記アクチュエータによる前記起立台の回転を制御し、
前記起立台は、前記第1収容室内で前記軸方向に変位自在に保持されており、
前記先端部本体に設けられ、前記起立台を、前記軸方向のうちの前記コイルから離れて前記第1収容室の壁部に向かう方向に付勢する付勢部材を備え、
前記起立台は、前記電流供給部から前記コイルへの前記駆動電流の供給を停止した場合に、前記付勢部材の付勢により前記壁部に押し当てられて係止され、前記駆動電流の供給を開始した場合に、前記コイルと前記磁石との間に生じる引力により前記付勢部材の付勢に抗して前記壁部から離れる内視鏡。
【請求項11】
前記電流供給部は、前記操作部材が静止状態である場合、前記コイルへの前記駆動電流の供給を停止する請求項8から10のいずれか1項に記載の内視鏡。
【請求項12】
前記先端部本体には、前記アクチュエータを冷却する冷却部が設けられている請求項1から11のいずれか1項に記載の内視鏡。」

第4 引用文献、引用発明等
1 引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている。なお、下線は当審が付したものである。

(1)「[問題点を解決するための手段及び作用]
上記問題点を解決するためにこの考案は、内視鏡の挿入部の先端構成部に形成された収容室に、この収容室から導出される処置具を誘導する起上台が設けられた内視鏡において、上記起上台を超音波モータからなる駆動機構で駆動するようにする。それによって、上記起上台の操作性の向上を計るようにしたものである。」(第3頁第1-8行)

(2)「上記挿入部2は可撓管部7の先端に湾曲部8を介して先端構成部9が設けられてなり、上記湾曲部8は上記操作部1に設けられた一対の湾曲操作ノブ5によって上下左右方向に湾曲させることができるようになっている。
上記先端構成部9には照明窓11、観察窓12およびこれらの窓に洗浄水やエアーを噴出するノズル13が軸方向に沿って設けられているとともに、それらの側方には収容室14が形成されている。この収容室14には第1図と第2図にしめすように起上台15が一端を図示しない支軸によって回動自在に支持されて設けられている。この起上台15は駆動機構としての超音波モータ16によって回動駆動されるようになっている。この超音波モータ16は上記収容室14の内面に形成された凹部17にステータ18を構成する圧電素子19と弾性体21とが押え部材22を介して順次円弧状に設けられているとともに、上記弾性体21には上記起上台15の一側面に形成された凸条23が接合し、それによって起上台15が超音波モータ16のロータとなっている。また、起上台15の他側面には凹部23aが形成され、この凹部23aにはばね体24が設けられている。このばね体24は上記収容室14の内面に接合し、その反力によって起上台15の一側面が上記ステータ18の弾性体21に押付けられている。したがって、上記ステータ18に通電すれば、このステータ18の円弧方向に沿って進行波が発生するから、それによってロータである上記起上台15はステータ18に沿って回動させられるとともに、この超音波モータ16がもつ制動機能によって上記起上台15を任意の回動角度で保持できるようになっている。そして、その起上台15によって上記操作部2の処置具挿入口6から上記収容室14に挿通された処置具25の導出方向が決定されるようになっている。」(第4頁第1行?第5頁第11行)

(3)


(4)



上記(2)の「この収容室14には第1図と第2図にしめすように起上台15が一端を図示しない支軸によって回動自在に支持されて設けられている。」における「支軸」は、上記(3)の第1図に示された構造を踏まえると、「収容室14」内に設けられていると認められる。

したがって、上記(1)?(4)より、上記引用文献1には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「挿入部の先端構成部に形成された収容室に、この収容室から導出される処置具を誘導する起上台が設けられ、上記起上台を超音波モータからなる駆動機構で駆動する内視鏡であって、
挿入部2と、
挿入部2の可撓管部7の先端に設けられた先端構成部9と、
先端構成部9に形成された収容室14と、
収容室14内に設けられた支軸によって回動自在に支持されて設けられている起上台15と、
収容室14の内面に形成された凹部17にステータ18を構成する圧電素子19と弾性体21とが押え部材22を介して順次円弧状に設けられているとともに、上記弾性体21には上記起上台15の一側面に形成された凸条23が接合し、それによって起上台15がロータとなって起上台15を回転駆動する駆動機構としての超音波モータ16と、
を備える内視鏡。」

2 引用文献7について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献7には、図面とともに次の事項が記載されている。なお、下線は当審が付したものである。

(1)「【0002】
近年、血管内視鏡用デバイスの分野において、φ2mm以下の極小径の電磁モータあるいは、超音波モータ等を用いたアクチュエータの開発が進んでいる。」

(2)「【0010】
また、血管内視鏡用デバイスに求められる微細で精密な動作を可動子に行わせることも、回転運動させるため交流電圧を印加する励磁コイル(ロータリ巻線)と直動運動をさせるための直流電圧を印加する励磁コイル(リニア巻線)を別々に配置する構造においては極めて困難であるといえる。
【0011】
一方、超音波モータは、微細で精密な動作が可能であるが、高速で駆動させることが困難であるとともに、駆動するため数10?100Vの駆動電圧を印加する必要があるため、生体内に使用するデバイスとしては好ましくない。
【0012】
これらの課題に対して、本発明は、極小径でありながら、回転、直動及び螺旋運動等の回転と直動の複合動作運動を、低電圧駆動で高精度に行うことが可能な電磁アクチュエータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この発明の請求項1記載の発明は、複数の励磁コイルを有する固定子と、異なる磁極を交互に配した磁極部を有し、回転可能であるとともに、軸方向への直動も可能な可動子と、前記可動子を支持する軸受部を備えた電磁アクチュエータである。」

したがって、引用文献7には、「極小径でありながら、回転、直動及び螺旋運動等の回転と直動の複合動作運動を、低電圧駆動で高精度に行うことが可能な電磁アクチュエータを提供することを目的」とする「血管内視鏡用デバイスの分野において用いられるアクチュエータであって、複数の励磁コイルを有する固定子と、異なる磁極を交互に配した磁極部を有し、回転可能であるとともに、軸方向への直動も可能な可動子と、前記可動子を支持する軸受部を備えた電磁アクチュエータ」という技術的事項と、「超音波モータは、生体内に使用するデバイスとしては好ましくない」という技術的事項が記載されていると認められる。

3 引用文献13について
原査定において周知技術を示す文献として引用された引用文献13(特開2007-135881号公報)の段落【0019】?【0022】には
「【0019】
処置具起上片15は、その部分の側面断面を図示する図2と図3に示されるように、先端部本体3に取り付けられた支軸16を中心に回動することができるように処置具突出口14内に配置されていて、処置具が沿うための処置具案内面15aが上面側に形成されている。
【0020】
処置具起上片15には、平面断面を図示する図1にも示されるように第1の永久磁石17が固着されている。第1の永久磁石17は、磁極中心線(即ち、S極の中心とN極の中心とを結ぶ線)が支軸16と平行になる向きに、処置具起上片15を側方に貫通する状態に処置具起上片15に取り付けられて固着されている。
【0021】
そして、操作ワイヤ7の先端には第2の永久磁石18が固着されている。第2の永久磁石18は、磁極中心線が第1の永久磁石17の磁極中心線と略真っ直ぐになる向きに配置されて、第2の永久磁石18のS極が第1の永久磁石17のN極と対向している。ただし、第2の永久磁石18のN極が第1の永久磁石17のS極と対向するように配置してもよい。
【0022】
第2の永久磁石18は、挿入部1が体内に挿入されたときに体内粘液等に触れないように先端部本体3内に可動に封止されており、第1の永久磁石17と第2の永久磁石18との間には先端部本体3を構成する隔壁19が存在している。」(下線は当審が付したものである。)
と記載されている。
したがって、上記引用文献13には、「処置具起上片15に固着された第1の永久磁石17と、操作ワイヤ7の先端に固着された第2の永久磁石18との間に先端部本体3を構成する隔壁19が設けられた内視鏡」が記載されていると認められる。

4 引用文献2について
原査定において周知技術を示す文献として引用された引用文献2(特開2006-289587号公報)の段落【0016】には「例えば、本実施形態においては、超音波モータで回転テーブル4を回転駆動したが、ダイレクトドライブモータ等の超音波モータ以外の駆動装置で回転テーブル4を回転駆動してもよい。」と記載されている。

5 引用文献3について
原査定において周知技術を示す文献として引用された引用文献3(特開平11-353713号公報)の段落【0070】には「また、上述したステッピングモータ76は、光ディスクDを位置決めするために十分な停止精度と分解能とを有するものであればよいものである。従って、他の形式の原動機、例えば、サーボモータ、超音波モータ、ダイレクトドライブモータ等の各種のアクチュエータを使用することができる。」と記載されている。

6 引用文献4について
原査定において周知技術を示す文献として引用された引用文献4(特開2005-253892号公報)の段落【0033】には「一方、実施例1における磁界印加部材15の機能を持つ電磁石61を内視鏡2の先端部5の外周面に、この電磁石61の外周側に回転部材17に設けたマグネット16が対向する位置に設けて、ダイレクトドライブ方式により回転部材17のマグネット16を回転させるようにしている。
つまり、実施例1と同様の回転部材17と固定部材19、20を用いる。本実施例において、実施例1と異なるのは内視鏡2に回転磁場発生作用の電磁石61を内蔵させたことである。電磁石61は外部から水分が侵入しないように密封されている。」と記載されている。

7 引用文献5について
原査定において周知技術を示す文献として引用された引用文献5(特開2009-101077号公報)の段落【0144】【0146】には「このように、処置具を構成する処置具挿入部の先端湾曲部を構成する湾曲駒に、突出量取得マーカと、回転量取得マーカとを設けている。加えて、統合コントローラに、画像処理回路で生成された画像データを取得する画像データ取得部を設けている。また、統合コントローラに、画像データから処置具挿入部の姿勢データを取得するとともに、姿勢データと、各関節の現在の回転角度と目標値とを基に駆動モータ及び駆動アクチュエーを駆動させる駆動制御信号を生成する制御部とを設けている。このため、処置具の処置具挿入部の曲がり癖部と、内視鏡の処置具チャンネルの曲がり部とで構成される既定手段を設けることなく、操作レバーを傾倒操作して目標値を入力することにより、目標値に対応する目標湾曲方向と目標角度とを達成することができる。」「このため、例えば通電のパターン或いは抵抗値の変化でθ4を直接取得する回転センサ、或いは抵抗値の違い、光のONとOFFとの回数、通電のONとOFFとの回数によってL5を直接取得するリニアセンサを設けて、θ4、L5を常に測定可能にするようにしてもよい。」と記載されている。

8 引用文献6について
原査定において周知技術を示す文献として引用された引用文献6(特開2010-207598号公報)の段落【0032】には「このモータ電流検知回路51は、モータにかかる負荷が大きくなったときにモータ電流が大きくなる特性を利用したものであり、モータ電流を検知し、その検知結果に基づいて湾曲レバー31の操作力量を制御する。具体的には、モータ電流が大きくなったとき、湾曲レバー31の操作力量を重くすることによって、モータ35にかかっている負荷が大きいことを使用者に告知してモータ35に過剰な負荷がかかることを未然に防止する。」と記載されている。

9 引用文献8について
原査定において周知技術を示す文献として引用された引用文献8(特開平8-33606号公報)の段落【0118】には「また、処置具起上台133とこの処置具起上台133を起上させるワイヤ135が一体であり、接着剤等で接続した場合の接続部よりも強度のバラツキを少なくでき、必要とされる強度を確実に達成でき、接続部でワイヤが外れてしまう等の故障の発生を少なくでき、信頼性を向上できる。また、弾性に富むコイルスプリングで処置具起上台133を構成することにより、ワイヤ135を引っ張る操作をやめると、コイルスプリングの弾性力により速やかに処置具起上台133は起上状態から起上しない状態に復帰し、起上(及び起上停止)操作に対する応答性が良い。」と記載されている。

10 引用文献9について
原査定において周知技術を示す文献として引用された引用文献9(特開平4-2317号公報)の第20頁左下欄第11-17行には「このように、本実施例では、湾曲用のモータ68、69を内視鏡1外の湾曲装置65に設けると共に、処置具起上用のモータ144を操作部6内に設けている。従って、処置具起上の応答性の低下を防止しながら、処置具起上操作を電動化でき、また、湾曲用のモータ68,69を内視鏡1外に設けることにより操作部6の大型化を防止できる。」と記載されている。

11 引用文献10について
原査定において周知技術を示す文献として引用された引用文献10(特開平3-30750号公報)の第5頁右上欄第17行-左下欄第11行には「また、本実施例は、図示しないが、先端部に固体撮像素子を有する電子スコープの例である。
このように、本実施例によれば、全てのモータをコネクタ51内に設けたので、コネクタ51をビデオプロセッサを接続した状態での内視鏡50は、極めて軽量になる。
その他の構成1作用及び効果は、第1ないし第3実施例と同様である。
尚、本発明は、上記各実施例に限定されず、例えば、モータは、超音波モータに限らず、ステッピングモータ5DCモータ、ACモータ等でも良いし、リニアモータでも良い。
また、内視鏡は、医療用でも良いし工業用でも良い。また、ファイバスコープも良いし電子スコープでも良い。」と記載されている。

12 引用文献11について
原査定において周知技術を示す文献として引用された引用文献11(特開平9-46969号公報)の段落【0018】には「また、図2はDCモータと超音波モーターの特性比較図であるが、一般的に図2(a)に示す電磁型モータのDCモータは、電磁誘導現象のために高速回転、低トルクで効率が高くなるが、図2(b)の圧電セラミックを利用した超音波モーターは逆に、低速高トルクで高効率を示すという特性を持つので、複数モーターのトルク合成の効果は文字通り超音波モーター等の場合の方が有効である。」と記載されている。

13 引用文献12について
原査定において周知技術を示す文献として引用された引用文献12(特開平6-278892号公報)の段落【0002】には「一般に、超音波モータは、電磁モータに比べて低速域で高トルクが得られ、保持トルクがあり、構造が単純である点などの利点がある。」と記載されている。

14 引用文献2-4,10の記載事項について
上記引用文献2-4,10の記載から、「モータとして、超音波モータに替えて磁石又は電磁石から構成されるモータを用いることができること」は、本願出願前に周知の事項であったと認められる。

15 引用文献5,6の記載事項について
上記引用文献5,6には、内視鏡に用いられるモータの駆動制御に関して記載されているが、起立台を回転させるアクチュエータの具体的な機構については記載されていない。

16 引用文献8,9の記載事項について
上記引用文献8,9の記載から、「内視鏡の起上台の操作に高い応答性が好ましいこと」ことは、本願出願前に周知の事項であったと認められる。

17 引用文献11,12の記載事項について
上記引用文献11,12の記載から、「超音波モータが電磁モータと比較して、低速域で高トルクが得られること」は、本願出願前に周知の事項であったと認められる。


第5 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比すると、次のことがいえる。
ア 引用発明における「挿入部2」は、内視鏡における人体に挿入される管状の部分を意味することは技術常識から明らかであるので、先端と基端を有することは明らかである。したがって、引用発明における「挿入部2」は、本願発明1における「先端と基端とを有する挿入部」に相当する。

イ 引用発明における「挿入部2の可撓管部7の先端に設けられた先端構成部9」、「先端構成部9に形成された収容室14」はそれぞれ、本願発明1における「前記挿入部の先端側に設けられた先端部本体」、「前記先端部本体に設けられた第1収容室」に相当する。

ウ 引用発明における「収容室14内に設けられた支軸によって回動自在に支持されて設けられている起上台15」は、本願発明1における「前記第1収容室内に設けられた回転軸により回転自在に保持されている起立台」に相当する。

エ 引用発明における「収容室14の内面に形成された凹部17にステータ18を構成する圧電素子19と弾性体21とが押え部材22を介して順次円弧状に設けられているとともに、上記弾性体21には上記起上台15の一側面に形成された凸条23が接合し、それによって起上台15がロータとなって起上台15を回転駆動する駆動機構としての超音波モータ16」は、本願発明1における「前記先端部本体内において前記起立台から前記回転軸の軸方向に離れた位置に設けられ、前記先端部本体内で回転する前記起立台の回転軌跡に沿った形状を有するコイル」、「前記起立台に設けられた磁石」、及び、「前記コイルに駆動電流を供給して、前記コイルと前記磁石との間で駆動力を発生するアクチュエータを構成し、前記アクチュエータにより前記起立台を回転させる電流供給部」と、起立台を回転させるアクチュエータである点で共通する。

オ 引用発明における「収容室14の内面に形成された凹部17」は、「ステータ18を構成する」「圧電素子19と弾性体21とが」設けられるものであり、本願発明1における「第2収容室」と、起立台を回転させるアクチュエータにおけるステータを構成する部材を収容する空間である点で共通する。

カ 引用発明における「内視鏡」は、本願発明1における「内視鏡」に相当する。

したがって、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。

(一致点)
「先端と基端とを有する挿入部と、
前記挿入部の先端側に設けられた先端部本体と、
前記先端部本体に設けられた第1収容室と、
前記第1収容室内に設けられた回転軸により回転自在に保持されている起立台と、
起立台を回転させるアクチュエータと、
起立台を回転させるアクチュエータにおけるステータを構成する部材を収容する第2収容室と、
を備える内視鏡。」

(相違点)
(相違点1)起立台を回転させるアクチュエータとして、本願発明1は「前記先端部本体内において前記起立台から前記回転軸の軸方向に離れた位置に設けられ、前記先端部本体内で回転する前記起立台の回転軌跡に沿った形状を有するコイル」、「前記起立台に設けられた磁石」、及び、「前記コイルに駆動電流を供給して、前記コイルと前記磁石との間で駆動力を発生するアクチュエータを構成し、前記アクチュエータにより前記起立台を回転させる電流供給部」を備えるのに対し、引用発明は「収容室14の内面に形成された凹部17にステータ18を構成する圧電素子19と弾性体21とが押え部材22を介して順次円弧状に設けられているとともに、上記弾性体21には上記起上台15の一側面に形成された凸条23が接合し、それによって起上台15がロータとなって起上台15を回転駆動する駆動機構としての超音波モータ16」を備える点。

(相違点2)起立台を駆動するためのアクチュエータにおけるステータを構成する部材を収容する空間として、本願発明1は「前記先端部本体内において前記第1収容室から前記軸方向に離れた位置に設けられ、前記コイルを収容する気密且つ全体が非磁性体材料で形成されている第2収容室」を備えるのに対し、引用発明は「ステータ18を構成する圧電素子19と弾性体21とが押え部材22を介して順次円弧状に設けられている」、「収容室14の内面に形成された凹部17」を備える点。


(2)相違点についての判断
ア 相違点1について
「第4 引用文献、引用発明等」の「2 引用文献7について」に記載のとおり、引用文献7には、「極小径でありながら、回転、直動及び螺旋運動等の回転と直動の複合動作運動を、低電圧駆動で高精度に行うことが可能な電磁アクチュエータを提供することを目的」とする「血管内視鏡用デバイスの分野において用いられるアクチュエータであって、複数の励磁コイルを有する固定子と、異なる磁極を交互に配した磁極部を有し、回転可能であるとともに、軸方向への直動も可能な可動子と、前記可動子を支持する軸受部を備えた電磁アクチュエータ」という技術的事項と、「超音波モータは、生体内に使用するデバイスとしては好ましくない」という技術的事項が記載されていると認められる。
そして、上記「第4 引用文献、引用発明等」の「14 引用文献2-4,10の記載事項について」「16 引用文献8,9の記載事項について」「17 引用文献11,12の記載事項について」に記載のとおり、「モータとして、超音波モータに替えて磁石又は電磁石から構成されるモータを用いることができること」、「内視鏡の起上台の操作に高い応答性が好ましいこと」、「超音波モータが電磁モータと比較して、低速域で高トルクが得られること」は、本願出願前に周知の事項であったと認められる。
しかしながら、仮に引用発明において、「起上台15を回転駆動する駆動機構としての超音波モータ16」を、「超音波モータは、生体内に使用するデバイスとしては好ましくない」ために、また、「起上台の操作において高い応答性を得る」ために、周知技術である「磁石又は電磁石から構成されるモータ」に置換することは当業者が容易に想到し得ることであるとしても、本願発明1の「コイル」が、「前記先端部本体内において前記起立台から前記回転軸の軸方向に離れた位置に設けられ」ること、「前記先端部本体内で回転する前記起立台の回転軌跡に沿った形状を有する」こととする構成、及び、「磁石」が「起立台に設けられ」ることは、いずれの引用文献にも開示されておらず、周知の事項ということもできない。
よって、引用発明に、引用文献7に記載される技術事項又は引用文献2-4,8-12に記載される周知技術を適用しても、相違点1に係る構成には至らず、当業者が容易に想到し得ることであるということはできない。

イ 相違点2について
「第4 引用文献、引用発明等」の「3 引用文献13について」に記載のとおり、引用文献13には、「処置具起上片15に固着された第1の永久磁石17と、操作ワイヤ7の先端に固着された第2の永久磁石18との間に先端部本体3を構成する隔壁19が設けられた内視鏡」が記載されていると認められる。
しかしながら、引用発明における「超音波モータ16」は、「ステータ18を構成する圧電素子19と弾性体21とが」「起上台15の一側面に形成された凸条23が接合」することにより、「起上台15がロータとなって起上台15を回転駆動する」ものであるので、「収容室14の内面に形成された凹部17」に設けられた、「ステータ18を構成する圧電素子19と弾性体21」は、「起上台15」と接触しなければならないものである。
そして、引用発明における「収容室14の内面に形成された凹部17」を本願発明1のように、「前記第1収容室から前記軸方向に離れた位置に設け」、「気密且つ全体が非磁性体材料で形成」する構成を採用すると、「ステータ18を構成する圧電素子19と弾性体21」と、「起上台15」とは離隔する構成となり、超音波モータによる起上台15の回転駆動が行えないものとなる。
したがって、引用発明において、相違点2に係る構成を採用する動機を見出すことができず、当業者が容易に想到し得ることとはいえない。
また、上記「ア 相違点1について」に示したように、仮に引用発明において、「起上台15を回転駆動する駆動機構としての超音波モータ16」を、「磁石又は電磁石から構成されるモータ」に置換することは当業者が容易に想到し得ることであるとしても、さらに、引用発明において「収容室14の内面に形成された凹部17」にコイルを収容することとし、上記「凹部17」を「気密且つ全体が非磁性体材料で形成」することは、上記引用文献13に記載される事項等を参酌しても、当業者であれば当然に採用される構成ということはできず、上記構成を採用する動機が各引用文献に示唆されているとは認められない。
よって、引用発明に、引用文献7,13に記載される技術事項又は引用文献2-4,8-12に記載される周知技術を適用しても、相違点2に係る構成には至らず、当業者が容易に想到し得ることであるということはできない。

ウ したがって、本願発明1は、当業者が、引用発明及び引用文献7,13に記載された技術的事項、引用文献2-4,8-12に記載される周知技術に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

2 本願発明2について
本願発明2も、本願発明1の「前記先端部本体内において前記起立台から前記回転軸の軸方向に離れた位置に設けられ、前記先端部本体内で回転する前記起立台の回転軌跡に沿った形状を有するコイル」、「前記コイルに駆動電流を供給して、前記コイルと前記磁石との間で駆動力を発生するアクチュエータを構成し、前記アクチュエータにより前記起立台を回転させる電流供給部」、「前記先端部本体内において前記第1収容室から前記軸方向に離れた位置に設けられ、前記コイルを収容する気密且つ全体が非磁性体材料で形成されている第2収容室」と同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者が、引用発明及び引用文献7,13に記載された技術的事項、引用文献2-4,8-12に記載される周知技術に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

3 本願発明3-8,12について
本願発明3-8,12も、本願発明1の「前記先端部本体内において前記起立台から前記回転軸の軸方向に離れた位置に設けられ、前記先端部本体内で回転する前記起立台の回転軌跡に沿った形状を有するコイル」、「前記起立台に設けられた磁石」、「前記コイルに駆動電流を供給して、前記コイルと前記磁石との間で駆動力を発生するアクチュエータを構成し、前記アクチュエータにより前記起立台を回転させる電流供給部」、「前記先端部本体内において前記第1収容室から前記軸方向に離れた位置に設けられ、前記コイルを収容する気密且つ全体が非磁性体材料で形成されている第2収容室」と同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者が、引用発明及び引用文献7,13に記載された技術的事項、引用文献2-6,8-12に記載される周知技術に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

4 本願発明9,11について
本願発明9,11も、本願発明1の「前記先端部本体内において前記起立台から前記回転軸の軸方向に離れた位置に設けられ、前記先端部本体内で回転する前記起立台の回転軌跡に沿った形状を有するコイル」、「前記起立台に設けられた磁石」、「前記コイルに駆動電流を供給して、前記コイルと前記磁石との間で駆動力を発生するアクチュエータを構成し、前記アクチュエータにより前記起立台を回転させる電流供給部」と同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者が、引用発明及び引用文献7,13に記載された技術的事項、引用文献2-4,8-12に記載される周知技術に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

5 本願発明10について
本願発明10も、本願発明1の「前記先端部本体内において前記起立台から前記回転軸の軸方向に離れた位置に設けられ、前記先端部本体内で回転する前記起立台の回転軌跡に沿った形状を有するコイル」、「前記コイルに駆動電流を供給して、前記コイルと前記磁石との間で駆動力を発生するアクチュエータを構成し、前記アクチュエータにより前記起立台を回転させる電流供給部」と同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者が、引用発明及び引用文献7,13に記載された技術的事項、引用文献2-4,8-12に記載される周知技術に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

第6 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2020-05-26 
出願番号 特願2016-35840(P2016-35840)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (A61B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 佐藤 秀樹  
特許庁審判長 福島 浩司
特許庁審判官 森 竜介
松谷 洋平
発明の名称 内視鏡  
代理人 松浦 憲三  
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