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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01N |
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管理番号 | 1362644 |
審判番号 | 不服2019-10246 |
総通号数 | 247 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2020-07-31 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2019-08-02 |
確定日 | 2020-05-22 |
事件の表示 | 特願2016- 85371「蛍光色素の濃度測定方法、及び蛍光色素の濃度測定装置」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 8月25日出願公開、特開2016-153806〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成23年11月2日に出願された特願2011-241650号の一部を、平成28年4月21日に新たに出願したものであって、平成29年4月12日付けで拒絶理由が通知され、同年6月19日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年11月22日付けで拒絶理由が通知され、平成30年3月26日付けで意見書が提出され、同年8月8日付けで拒絶理由が通知され、同年12月6日付けで意見書が提出され、平成31年4月25日付けで拒絶査定されたところ、同年8月2日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。 第2 本願発明 本願の請求項1?8に係る発明は、平成29年6月19日付けの手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定されるものであり、そのうち請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。 「第1の濃度の蛍光色素が含有された第1の蛍光ファントムと、前記第1の濃度とは異なる第2の濃度の蛍光色素が含有された第2の蛍光ファントムと、を有する蛍光ファントム装置を用いた蛍光色素の濃度測定方法であって、 励起光を測定対象および前記蛍光ファントム装置に照射する照射ステップと、 近赤外線カメラを用いて、前記第1の蛍光ファントムから発せられた第1の蛍光の像及び前記第2の蛍光ファントムから発せられた第2の蛍光の像と、前記測定対象に導入された蛍光色素から発せられた第3の蛍光の像と、を同時に撮像する撮像ステップと、 撮像された前記第3の蛍光の強度を、前記第1の蛍光の強度及び前記第2の蛍光の強度と比較することにより、前記測定対象内における前記蛍光色素の濃度を測定する測定ステップと、 を備える蛍光色素の濃度測定方法。」 第3 原査定の拒絶の理由 原査定の理由である、平成30年8月8日付けの拒絶理由通知の理由は、概略、次のとおりのものである。 本願発明は、本願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献2に記載された発明、引用文献1に記載された事項及び引用文献3に記載された周知技術に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。 引用文献1:特開2006-043002号公報 引用文献2:特開2005-300540号公報 引用文献3:特表2007-523335号公報(周知技術を示す文献) 第4 引用文献の記載及び引用発明 1 引用文献2について (1)引用文献2の記載 引用文献2には、以下の事項が記載されている(下線は、当審で付した。以下同じ。)。 (引2ア) 「【技術分野】 【0001】 本発明は蛍光測定用の較正補助手段に関する。」 (引2イ) 「【背景技術】 【0002】 蛍光測定への応用における重要分野は、患者の非浸潤組織灌流の定量化の分野である。非浸潤組織灌流の撮像兼定量化システムは特許文献1に記載されている。患者は、患者にインドシアニングリーン(ICG,近赤外領域に最大吸収を示す蛍光色素)を注入し、着目する組織を近赤外領域の照射光を放出する照射源を使用して照射しながらデジタルカメラによりモニターされる。着目する組織の蛍光信号(すなわち、組織を流れる血液に含まれる蛍光色素から放出される光)から、特許文献1に開示されているような適切なアルゴリズムを使用して組織の灌流状態を判定することができる。更に、組織灌流を判定するICG測定を手術中に使用する装置が特許文献2に開示されている。 【0003】 有利には、外部の蛍光標準物質が測定時に使用される。この標準物質は着目する組織の傍に配置され、物質に対して照射が行われると所定の一定の蛍光信号を放出し、この蛍光信号は着目する組織の蛍光信号と一緒に記録される。 【0004】 蛍光標準物質を使用することにより、種々の測定を直接比較し、蛍光標準物質の所定の信号強度に基づいて測定結果を規準化することができる。蛍光標準物質の使用によって更に、測定中の測定条件の変化(周囲光強度の変化、カメラの露出パラメータの変化、又は照射パラメータの変化等)を補正することができる。 【特許文献1】欧州特許出願公開第1210906A2号 【特許文献2】ドイツ国特許第10,059,070C1号 【発明の開示】 【発明が解決しようとする課題】 【0005】 上述のような基準を作製するために、乾燥した純粋なICG色素は普通、使用前に水又はメタノールに溶解する。この液体サンプルを用いて、インビトロでの蛍光測定を上述のように行なうことができる。しかしながら、この測定を行なうには長い時間を要する。ICGは空気中の湿気及び光に晒されると安定しないので、標準品を使用直前に準備する必要があり、このことが緊急を要する外科手術に使用されるときに大きな不利となる。更に、このような溶解した純粋な標準サンプルの吸収特性及び蛍光特性は、患者への注入後のタンパク質結合色素の特性に等しくはなく、例えば最大吸収波長が780nmから805nmにシフトする。 【0006】 純粋なICG粉末は溶解したICGとは異なる吸収特性及び蛍光特性を示すため、乾燥した純粋なICG色素を上述のような基準として使用することもできない。更に、乾燥したICGは周囲湿度によってその特性が変化する。 【0007】 従って本発明の目的は、長時間に渡って安定し、且つ使用前に特殊な準備が要らず、使用が簡単なICG標準品を提供することである。更に、本発明の目的はこのような標準品を作製する方法を提供することである。」 (引2ウ) 「【発明を実施するための最良の形態】 【0012】 以下の記述において、非限定的実施例により、添付の概略的図面を参照しながら本発明を説明する。なお、添付図面の縮尺は実寸に基づいていない。 【0013】 図1?3に示す較正補助手段は扱い易いカード状物体に構成され、フリース製の担体シート1、表示3が印刷された白紙から成るバッキングシート2、及び枠領域5においてぴったりと積み重ねられた2つの透明プラスチック層4a,4bを備える。好適には、較正補助手段は使い捨ての無菌製品として提供され、Tyvek(登録商標)で覆われた発泡袋、又は較正補助手段の外側表面の汚染を防止する機能を備える他のパッケージング材料に収納される単一デバイスとしてパッケージングされる。 【実施例】 【0014】 フリース製の担体シート1は、化学物質を用いて架橋されたポリビニルアルコール繊維から構成することができる。このタイプのフリース製品は、例えばFreudenberg Hauhaltsprodukte KGから市販されている。担体シート1には、アルブミンタンパク質及びICG蛍光色素を含む基準標準物質6が詰まっている。 【0015】 白紙から成るバッキングシート2はフリース製の担体シート1を超えて延びる。中でも、80グラム/m2の市販の紙はバッキングシート2に適する材料である。しかしながら、バッキングシート2は、プラスチック材料によっても作成することができる。好適には、バッキングシート2は或るスペクトル範囲の電磁波照射に対して或る程度の透過性を示し、このスペクトル範囲の照射は、基準標準物質6を励起して蛍光を放出させ、この蛍光によって光が放出される。従って、較正補助手段は、正面から照射して見るとき高い照射強度の標準として、背面から照射して見るとき低い照射強度の標準として、使用することができる。プラスチックカードをひっくり返すと、バッキングシート2によって光照射強度が減衰するので第2基準の照射強度レベルを提供することができる。 【0016】 表示3は取扱注意事項及び他の識別手段を含むことができる。従って、使用する標準品は、同じく蛍光測定に使用されるカメラによって簡単に記録することができる。 【0017】 Klockner Pentaplast(例えば、Pentafood LM 176)社から市販されているようなPVCフィルムは、透明プラスチック層4a,4bに適する材料であるが、周囲の湿気による水の侵入を防止するバリアとして作用する他の材料を使用することもできる。このようにして基準標準物質6は湿気から遮断されるので、長期間に渡って安定する。基準標準物質6の色素はタンパク質と結合するので、光特性は患者に導入したときの色素の特性と同様になる。 【0018】 較正補助手段は次のようにして組み立てることができる。 【0019】 まず、基準標準物質6を、ICG色素及びアルブミンタンパク質を水に溶解することにより準備する。次に、担体シート1を水に浸し、乾燥させる。担体シート1を乾燥させた後、タンパク質と結合した色素から成り、高精度に調整された薄層がフリース材料の表面に形成される。担体シート1及びバッキングシート2を積み重ねてプラスチックカードの内部に挿入する。この場合、プラスチック層4a,4bが枠領域5で密着するように、例えば溶接により、又は接着剤を使用することにより、これらのプラスチック層をぴったりと積み重ねることができる。 【0020】 次にプラスチックカードを殺菌し、シールしたパッケージに包装する。 【0021】 較正補助手段は殺菌されているので、手術中に使用することができる。しかしながら、較正補助手段は、組織から放出される蛍光信号が基準標準物質6から放出される蛍光信号と干渉する現象を防止するために組織自体の上に載置してはならない。通常、較正補助手段は着目する組織に近接して載置する必要がある(例えば、患者に近い手術台の上)。標準物質の規準が着目する組織からかけ離れていることにより較正補助手段を患者の傍に置くことができない場合、組織をまず近赤外光を透過しない不透明材料(例えば、不透明無菌ドレープ又は腹部パッド)により覆う必要があり、次に較正補助手段をこの不透明材料の上に載置する必要がある。 【0022】 較正補助手段は蛍光測定の間(通常、約8分の測定の間)に単独で使用することができるように構成されており、且つ測定後は廃棄する必要がある。 【図面の簡単な説明】 【0023】 【図1】本発明による較正補助手段の正面の平面図である。 【図2】図1の較正補助手段の背面の平面図である。 【図3】図1及び2の破線A-A’に沿った、図1及び2の描画平面に直交する断図1及び2の較正補助手段の断面図である。個々の層の厚さは、分かり易くするために大きな倍率で拡大している。 【符号の説明】 【0024】 1 担体シート 2 バッキングシート 3 表示 4a,4b プラスチック層 5 領域枠」 (引2エ)図1?3 (2)引用発明 引用文献2には、患者の非浸潤組織灌流を定量化する際、「蛍光測定用の較正補助手段」として、背景技術に記載のもの(「蛍光標準物質」)から、長期間に渡って安定な実施例に記載のもの(「蛍光測定用の較正補助手段」)とすることが記載され、その定量化する方法自体は、実施例(特に【0021】、【0022】参照。)においても背景技術の記載の方法と特段の変更がないことが理解できることから、背景技術に記載の方法を含め上記(1)の記載事項及び図面を総合すると、引用文献2には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「患者にインドシアニングリーン(ICG,近赤外領域に最大吸収を示す蛍光色素)を注入し、着目する組織を近赤外領域の照射光で照射しながらデジタルカメラによりモニターし、着目する組織の蛍光信号(すなわち、組織を流れる血液に含まれる蛍光色素から放出される光)から着目する組織の灌流状態を判定する、患者の非浸潤組織灌流の定量化方法であって、 着目する組織の蛍光測定時に、蛍光測定用の較正補助手段が使用され、この較正補助手段は着目する組織の傍に配置され、この較正補助手段に対して照射が行われると所定の一定の蛍光信号が放出され、この蛍光信号は着目する組織の蛍光信号と一緒に記録され、この較正補助手段の所定の信号強度に基づいて着目する組織の蛍光測定結果が規準化され、 この較正補助手段は、アルブミンタンパク質及びICG蛍光色素を含む基準標準物質6が詰まっている担体シート1を備える、 患者の非浸潤組織灌流の定量化方法。」 2 引用文献1について (1)引用文献1の記載 引用文献1には、以下の事項が記載されている。 (引1ア) 「【背景技術】 【0002】 従来、生体組織に励起光を照射して発生した蛍光を観察する蛍光内視鏡装置として、例えば、特許文献1に示される構造のものがある。 この蛍光内視鏡装置は、生体に対して励起光を照射して、生体からの自家蛍光や生体に注入した薬剤からの蛍光を2次元画像として検出するものであり、その蛍光像から生体組織の変性や癌等の疾患状態を診断することを可能にしている。 ・・・ 【0009】 本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであって、蛍光物質の存在のみならず、その絶対的な量の検出を可能として、細胞等の活性度等を高い分解能で定量化することができる内視鏡観察装置および内視鏡観察方法を提供することを目的としている。」 (引1イ) 「【0057】 また、上記実施形態においては、蛍光物質の濃度と得られる蛍光強度とが、図14に示されるような比例関係にあるものとして、単一の濃度の基準ファントム33によりキャリブレーションを行う場合について説明したが、これに代えて、例えば、図15に示されるように、蛍光物質の濃度と得られる蛍光強度とが比例関係にない場合には、図9および図10に示されるように画像処理部42を構成してもよい。 【0058】 画像処理部42は、撮像素子14により取得された蛍光画像を処理する蛍光画像処理部43と、濃度インデックス発生部36とを備えている。 蛍光画像処理部43は、図11あるいは図12に示されるように、異なる濃度の均一な濃度分布を有する複数のファントム部33a,33b(,33c,33d)を有する基準ファントム33′,33″用意し、図9に示されるように、キャリブレーションON状態においては、変換関数算出部44において、各ファントム部33a,33b(,33c,33d)について得られた蛍光強度FNと、該基準ファントムの蛍光物質濃度DNとの関係をプロットしていくことで、近似的な変換関数D=f(F)を求めるようになっている。」 (2)引用文献1に記載の技術事項 上記(1)の記載を総合すると、引用文献1には、次の技術事項が記載されていると認められる。 「生体組織における蛍光物質の絶対的な量(濃度)の検出を可能とする内視鏡観察方法であって、 キャリブレーションに、異なる濃度の複数の基準ファントムから得られた蛍光強度と該基準ファントムの蛍光物質濃度との関係を用いる、内視鏡観察方法。」 3 引用文献3について (1)引用文献3の記載 引用文献3には、以下の事項が記載されている。 (引3ア) 「【0059】 本発明は、更に、試験片が被検試料との接触後に光学的に検出可能な信号を発生できる少なくとも1つの限定領域を有する形式の試験片を光学的に検出する方法に関する。この場合、少なくとも1つの試験片を、画像生成装置に設置できる位置決め装置の受け部に設置し、少なくとも1つの限定領域を画像生成装置によって画像的に検知する。この場合、位置決め装置の受け部に複数の試験片を設置すれば好ましい。 【0060】 検知結果は、画像解析装置に転送され、画像解析装置は、各試験片及び/又は限定領域の位置を探し出し、特定して、各試験片について光学的に検出可能な信号を定性的及び/又は定量的に評価する。 ・・・ 【0065】 本発明に係る方法の特に好ましい実施例に基づき、画像生成装置が、位置決め装置に配置されたグレースケール及び/又はカラースケールを画像的に検知し、検知結果を画像解析装置に転送し、画像解析装置が、各試験片の光学的に検出可能な信号の評価のための目盛校正に上記結果を使用する。この場合、定量的な評価は、例えば、1つ又は複数の限定領域の濃度測定、比色測定又は蛍光測定によって行うことができる。 (2)引用文献3に記載の技術事項 上記(1)の記載を総合すると、引用文献3には、次の技術事項が記載されていると認められる。 「試験片が被検試料との接触後に光学的に検出可能な信号を発生できる少なくとも1つの限定領域を有する形式の試験片を光学的に検出する方法であって、 少なくとも1つの限定領域を画像的に検知し、各試験片について光学的に検出可能な信号を定量的に評価し、グレースケールを画像的に検知し、検知結果を各試験片の光学的に検出可能な信号の評価のための目盛校正に使用する、方法。」 第5 対比 本願発明と引用発明とを対比する。 1 引用発明の「ICG蛍光色素を含む」「担体シート1」は、本願発明の「第1の濃度の蛍光色素が含有された第1の蛍光ファントム」に相当する。 2 引用発明の「蛍光測定用の較正補助手段」は、本願発明の「蛍光ファントム装置」に相当する。 3 上記1及び2を踏まえると、引用発明の「ICG蛍光色素を含む」「担体シート1を備える」「蛍光測定用の較正補助手段」と、本願発明の「第1の濃度の蛍光色素が含有された第1の蛍光ファントムと、前記第1の濃度とは異なる第2の濃度の蛍光色素が含有された第2の蛍光ファントムと、を有する蛍光ファントム装置」とは、「第1の濃度の蛍光色素が含有された第1の蛍光ファントムを有する蛍光ファントム装置」の点で共通する。 4 引用発明の「デジタルカメラによりモニター」された「組織を流れる血液に含まれる蛍光色素から放出される光」「から着目する組織の灌流状態を判定する、患者の非浸潤組織灌流の定量化方法」は、組織の灌流状態を、蛍光色素の2次元像濃度分布として定量的に判定する方法、すなわち、組織の灌流状態を定量的に判定するための、蛍光色素の濃度分布測定方法であると理解できるから、本願発明の「蛍光色素の濃度測定方法」に相当する。 5 引用発明は、「近赤外領域の照射光」により「着目する組織」及び「着目する組織の傍に配置され」る「較正補助手段」から「蛍光信号」が放出されることが理解できるから、引用発明の「近赤外領域の照射光」は、本願発明の「励起光」に相当する。また、引用発明の「着目する組織」は、本願発明の「測定対象」に相当する。 よって、引用発明の「近赤外領域の照射光」を「着目する組織」及び「較正補助手段」に「照射」することは、本願発明の「励起光を測定対象および前記蛍光ファントム装置に照射する照射ステップ」に相当する。 6 引用発明において、「デジタルカメラによりモニター」される「蛍光信号」が、近赤外領域の照射光より、やや長波長側の近赤外領域の蛍光であることは明らかであるから、引用発明の「デジタルカメラ」は、本願発明の「近赤外線カメラ」に相当する。また、引用発明は、「蛍光測定用の較正補助手段は着目する組織の傍に配置され、この較正補助手段に対して照射が行われると所定の一定の蛍光信号が放出され、この蛍光信号は着目する組織の蛍光信号と一緒に記録され」ることから、「デジタルカメラにより」「着目する組織の蛍光信号」の像と「蛍光測定用の較正補助手段」の「蛍光信号」の像とを同時に「モニター(撮像)」することが理解できるところ、引用発明の「着目する組織の蛍光信号」及び「蛍光測定用の較正補助手段」の「蛍光信号」は、本願発明の「第1の蛍光の像」及び「第3の蛍光の像」に相当するといえる。 よって、引用発明の「着目する組織の蛍光測定時に、蛍光測定用の較正補助手段が使用され、」「着目する組織の蛍光信号」と「蛍光測定用の較正補助手段」の「蛍光信号」とを「デジタルカメラによりモニター」することと、本願発明の「近赤外線カメラを用いて、前記第1の蛍光ファントムから発せられた第1の蛍光の像及び前記第2の蛍光ファントムから発せられた第2の蛍光の像と、前記測定対象に導入された蛍光色素から発せられた第3の蛍光の像と、を同時に撮像する撮像ステップ」とは、「近赤外線カメラを用いて、前記第1の蛍光ファントムから発せられた第1の蛍光の像と、前記測定対象に導入された蛍光色素から発せられた第3の蛍光の像と、を同時に撮像する撮像ステップ」の点で共通する。 7 本願明細書の【0016】に「図2(当審注:下図参照。)において、蛍光ファントムからの蛍光を表す縦に並んだ点の周囲に、白く光る部分が広がっている。これは測定対象物である生体に導入されたICGから発生した蛍光を表す。この生体内のICGからの蛍光強度と、蛍光ファントムの蛍光強度とを比較することにより、生体内のICGの濃度と蛍光ファントムのICGの含有濃度との大小関係が分かり、生体内のICGの濃度を定量的に評価し、例えば生体内においてICGを含みながら流れる血流の有無やその血流の量を定量的に評価することができる。」との記載を踏まえると、本願発明の「測定ステップ」において、「前記第1の蛍光の強度及び前記第2の蛍光の強度」は、「撮像された前記第3の蛍光の強度」から「前記測定対象内における前記蛍光色素の濃度を測定する(定量的に評価する)」ための観測用の尺度(スケール)であることが理解できる。 一方、引用発明は、「蛍光測定用の較正補助手段」「の蛍光信号は着目する組織の蛍光信号と一緒に記録され、この較正補助手段の所定の信号強度に基づいて着目する組織の蛍光測定結果が規準化され」ることから、「蛍光測定用の較正補助手段」「の蛍光信号」「強度」は、「着目する組織の蛍光信号」「強度」を規準化する、すなわち蛍光濃度を測定するための観測用の尺度(スケール)であることが理解できる。このことは、引用文献2の背景技術に記載されている特許文献1及び2(対応日本語公報である特開2002-219129号公報の「【0036】電子映像処理および評価装置11をデータ伝送速度を400MBit/sまで可能とするIEEE1394に従って撮影する個々の映像要素(ピクセル)の明るさを定量的に蛍光の放射強度の尺度としてとることができるCCDカメラ2にインターフェース10を介して接続することができる。そのため、さまざまな映像領域(関連する領域)をユーザによって映像シーケンスの第1の映像上に記しこの領域のピクセルの明るさを映像ごとに観測し、その結果を図式的に表示する。この場合、通常の潅流または周知の強度の外部基準(例えば蛍光フォイル)を使って検査する組織の領域を直接基準領域と比較することができる。また、外部基準を使用した場合には、異なる照射と検出器のパラメータで受け取った映像シーケンスを、互いに比較することもできる。全体の映像シーケンスの評価により、評価に、例えば、発色要素の盛衰の速さや組織の範囲の発色要素による蛍光の放射強度変化などのようなさまざまな判定基準を適用することができる。」を参照。)の記載からも裏付けられている。 よって、引用発明の「蛍光測定用の較正補助手段」「の蛍光信号は着目する組織の蛍光信号と一緒に記録され、この較正補助手段の所定の信号強度に基づいて着目する組織の蛍光測定結果が規準化され」ることと、本願発明の「撮像された前記第3の蛍光の強度を、前記第1の蛍光の強度及び前記第2の蛍光の強度と比較することにより、前記測定対象内における前記蛍光色素の濃度を測定する測定ステップ」とは、「撮像された前記第3の蛍光の強度を、前記第1の蛍光の強度と比較することにより、前記測定対象内における前記蛍光色素の濃度を測定する測定ステップ」の点で共通する。 したがって、本願発明と引用発明とは、以下の点で一致し、以下の点で相違する。 (一致点) 「第1の濃度の蛍光色素が含有された第1の蛍光ファントムを有する蛍光ファントム装置を用いた蛍光色素の濃度測定方法であって、 励起光を測定対象および前記蛍光ファントム装置に照射する照射ステップと、 近赤外線カメラを用いて、前記第1の蛍光ファントムから発せられた第1の蛍光の像と、前記測定対象に導入された蛍光色素から発せられた第3の蛍光の像と、を同時に撮像する撮像ステップと、 撮像された前記第3の蛍光の強度を、前記第1の蛍光の強度と比較することにより、前記測定対象内における前記蛍光色素の濃度を測定する測定ステップと、 を備える蛍光色素の濃度測定方法。」 (相違点) 本願発明は、第1の濃度の蛍光色素が含有された第1の蛍光ファントムを有する蛍光ファントム装置が、「第1の濃度とは異なる第2の濃度の蛍光色素が含有された第2の蛍光ファントム」を有する蛍光色素の濃度測定方法であって、励起光を測定対象及び第1の濃度の蛍光色素が含有された第1の蛍光ファントムを有する蛍光ファントム装置に照射する照射ステップが、前記「第2の蛍光ファントム」にも照射し、前記第1の蛍光ファントムから発せられた第1の蛍光の像と、前記測定対象に導入された蛍光色素から発せられた第3の蛍光の像と、を同時に撮像する前記撮像ステップが、「前記第2の蛍光ファントムから発せられた第2の蛍光の像」も同時に撮像し、撮像された前記第3の蛍光の強度を、前記第1の蛍光の強度と比較することにより、前記測定対象内における前記蛍光色素の濃度を測定する測定ステップが、撮像された第3の蛍光の強度を、前記第1の蛍光の強度「及び前記第2の蛍光の強度」と比較することにより、前記測定対象内における蛍光色素の濃度を測定する、方法であるのに対し、 引用発明は、蛍光ファントム装置に相当する「蛍光測定用の較正補助手段」が、第1の濃度の蛍光色素が含有された第1のファントムに相当する「ICG蛍光色素を含む」「担体シート1」を有する蛍光色素の濃度測定方法であって、前記「蛍光測定用の較正補助手段」が、第1の濃度とは異なる第2の濃度の「ICG蛍光色素を含む」「担体シート1」を有することの特定がないことから、蛍光色素の濃度測定方法における照射、撮影及び測定ステップにおいても、第2の濃度の「ICG蛍光色素を含む」「担体シート1」に関連する本願発明のような特定がない点。 第6 判断 上記相違点について検討する。 引用文献1(上記「第4 2」を参照。)には、生体組織における蛍光物質の濃度を検出する際のキャリブレーションに、異なる濃度の複数の基準ファントムから得られた蛍光強度と該基準ファントムの蛍光物質濃度との関係を用いることが記載されている。 そして、上記「第5 7」で述べたように、引用発明において、「蛍光測定用の較正補助手段」「の蛍光信号」「強度」は、「着目する組織の蛍光信号」「強度」を規準化する、すなわち蛍光濃度を測定するための観測用の尺度(スケール)であると理解されるところ、測定技術一般において、測定対象の長さや発光強度などを観測により定量化するために、複数の基準レベルを有する観測用の尺度(スケール)を用いることは、例えば、引用文献3(上記「第4 3」を参照。)などに記載されているように周知技術であるから、引用発明の観測用の尺度(スケール)として、複数の基準レベルを有する観測用の尺度(スケール)を採用することに何ら困難性はない。 してみると、引用発明と同様の技術分野である引用文献1に記載の上記「異なる濃度の複数の基準ファントム」を参照し、引用発明の「蛍光測定用の較正補助手段」として、第1濃度のICG蛍光色素を含む担体シート1と第2濃度のICG蛍光色素を含む担体シート1(異なる濃度の2つの基準ファントム)を有する較正補助手段を用いることは、当業者が容易になし得ることといえるから、よって、引用発明において、当該較正補助手段が放出する第1の蛍光信号強度及び第2の蛍光信号強度を観測用の尺度(スケール)として用い、第2の濃度のICG蛍光色素を含む担体シート1にも照射し、当該担体シート1から発せられた第2の蛍光の像も同時に撮像し、撮像された第3の蛍光強度を、第2の蛍光強度とも比較する、上記相違点に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易になし得ることといえる。 そして、本願発明の奏する作用効果は、引用文献1?3から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。 したがって、本願発明は、引用発明、引用文献1に記載の技術事項及び上記周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 第7 請求人の主張 請求人は、審判請求書において、「平成31年4月25日に起案の拒絶査定書においては、「測定技術一般において、異なる濃度の標準を用意し、それぞれと比較し濃度を求めることは広く知られている」と判断されている。しかしながら、上述したように、引用文献1?3のいずれにも、異なる蛍光色素の濃度の標準から発せられる蛍光の強度と測定対象に導入された蛍光色素から発せられる蛍光の強度とを同時に検出することは開示も示唆もない。よって、上記の拒絶査定書の判断は、根拠が無いものである。」と主張するが、引用発明は、上記「第5 6」で述べたとおり、蛍光色素の濃度の標準から発せられる蛍光の強度と測定対象に導入された蛍光色素から発せられる蛍光の強度とを同時に検出するものといえるところ、引用発明において、異なる蛍光色素の濃度の標準から発せられる蛍光の強度と測定対象に導入された蛍光色素から発せられる蛍光の強度とを同時に検出することが当業者にとって容易であることは、上記「第6」で検討したとおりであるから、請求人の上記主張は採用できない。 第8 むすび 以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2020-03-17 |
結審通知日 | 2020-03-24 |
審決日 | 2020-04-06 |
出願番号 | 特願2016-85371(P2016-85371) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(G01N)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 伊藤 裕美 |
特許庁審判長 |
福島 浩司 |
特許庁審判官 |
▲高▼見 重雄 信田 昌男 |
発明の名称 | 蛍光色素の濃度測定方法、及び蛍光色素の濃度測定装置 |
代理人 | 阿部 寛 |
代理人 | 黒木 義樹 |
代理人 | 長谷川 芳樹 |
代理人 | 柴山 健一 |
代理人 | 諏澤 勇司 |