• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A63B
管理番号 1362674
審判番号 不服2019-2923  
総通号数 247 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-07-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-03-04 
確定日 2020-05-20 
事件の表示 特願2015-187569「ボールのパネル用表皮層の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 5月 9日出願公開、特開2016- 67928〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成27年9月25日(パリ条約による優先権主張2014年9月25日、独国)の出願であって、平成30年6月15日付けで拒絶の理由が通知され、同年9月14日に意見書及び手続補正書が提出されたところ、同年12月4日付けで拒絶査定がなされ、それに対して、平成31年3月4日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に手続補正がなされたものである。

第2 平成31年3月4日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成31年3月4日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について(補正の内容)
本件補正は特許請求の範囲の請求項1の記載の補正を含むものであり、本件補正前の平成30年9月14日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載と本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は、それぞれ以下のとおりである(下線部は補正箇所を示す。また、A?Eについては発明を分節するため当審で付与した。)。

(本件補正前)
「【請求項1】
A ボールのパネル用表皮層を製造する方法であって、
B 型内で材料シートを成形するステップであって、前記型は、成形中に、前記材料シートが、三次元形状の前記パネルの前記表皮層を有するように形成されているステップと、
C 前記材料シートの第1の側部上の少なくとも第1の部分領域に、第1のテクスチャを生成するステップと、
D 前記材料シートの第2の側部上の少なくとも第2の部分領域に、第2のテクスチャを生成するステップと
を含み、
E 前記第1のテクスチャが、光の吸収および/または光の屈折を引き起こすことができる、
方法。」

(本件補正後)
「【請求項1】
A ボールのパネル用表皮層を製造する方法であって、
B 型内で材料シートを成形するステップであって、前記型は、成形中に、前記材料シートが、三次元形状の前記パネルの前記表皮層を有するように形成されているステップと、
C 前記材料シートの第1の側部上の少なくとも第1の部分領域に、第1のテクスチャを生成するステップと、
D 前記材料シートの第2の側部上の少なくとも第2の部分領域に、第2のテクスチャを生成するステップと
を含み、
E 前記第1のテクスチャが、光の吸収および/または光の屈折を引き起こすことができ、
F 前記材料シートが、少なくとも部分領域において光透過性であるプラスチック箔を含む、
方法。」

2 補正の適否
本件補正は、補正前の請求項1に記載された発明特定事項である各「ステップ」において扱われる「材料シート」について、当該「前記材料シート」が、「少なくとも部分領域において光透過性であるプラスチック箔を含む」ことを限定する補正を含むものである。
そして、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明とは、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一である。
そうすると、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
また、本件補正は、本願の願書に最初に添付した特許請求の範囲の請求項16の記載に基づいており、新規事項を追加するものではないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たす。

そこで、本件補正後の請求項1に記載されている事項により特定される発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

(1)本願補正発明
本願補正発明は、前記1(本件補正後)に記載したとおりのものである。

(2)引用文献に記載された事項
原査定の拒絶の理由で引用され本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である特開2009-153541号公報(以下、「引用文献」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている(下線は当審で付した。)。

「【請求項7】
芯部と、該芯部の外側に設けられた表皮材とを備え、該表皮材は、上記芯部の外周面に沿うように延びる板状の本体部と、該本体部の周縁部から上記芯部側へ向けて突出する突出壁部とを有するボールの製造方法であって、
樹脂材料を射出成形して上記表皮材を得る表皮材成形工程と、
上記表皮材を上記芯部と一体化する表皮材接合工程とを備えていることを特徴とするボールの製造方法。」

「【0001】
本発明は、例えば、球技等で使用されるボール、ボール用表皮材及びボールの製造方法に関する。」

「【0024】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係るボール1を示すものである。このボール1は、球技用のものであり、図2に示すように、芯部としてのチューブ2と、該チューブ2の外周面を覆う表皮を構成する複数の表皮パネル3、3、…とを備えている。この実施形態では、表皮パネル3の枚数を12枚としており、従って、各表皮パネル3の面積は、ボール1の総表面積の8%以上となっている。また、ボール1の直径は、16cm以上25cm以下に設定されている。尚、表皮パネル3の数や、ボール1の直径は上記に限られるものではない。」

「【0027】
上記表皮パネル3の形状は、五角形又は六角形状とされている。表皮パネル3は、全体として、チューブ2の外周面形状に沿うように湾曲した形状をなしている。この表皮パネル3は、ボール2の最外層を構成する表皮材10と、表皮材10の裏側に設けられた発泡材11とを有する2層構造となっている。つまり、ボール1は、チューブ2と、チューブ2の外側に設けられた発泡材11と、発泡材11の外側に設けられた表皮材10とを備えた構造となっている。
【0028】
表皮材10は、例えば、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリ塩化ビニル等の樹脂材を射出成形してなる射出成形品である。表皮材10は、湾曲した板状の本体部10aと、本体部10aの周縁部から裏側(チューブ2側)へ向けて突出する突出壁部10bとが一体化されてなる。本体部10aの厚みは、その全体に亘って同じになっており、例えば、0.01mm?3.00mmの範囲で設定されている。突出壁部10bは、表皮材10の全周に亘って連続した環状をなしている。突出壁部10bの厚みは、本体部10aの厚みと同じに設定されている。突出壁部10bの突出方向先端部は、チューブ2の補強層5に接している。尚、本体部10aと突出壁部10bとは、同じ樹脂材料で形成してもよいし、異なる樹脂材料で形成してもよい。異なる樹脂材料で形成する場合には、突出壁部10bを形成する樹脂材料の方を柔らかくするのが好ましい。こうすることにより、突出壁部10bの剛性が低下して、ボール1の硬さを全体に亘って均一に近づけることが可能になる。」

「【0033】
上記本体部成形装置は、射出成形機(図示せず)と、成形型20(図3に示す)とを備えている。射出成形機は、樹脂材料を混練して溶融状態にしてノズルから射出するように構成された周知のものである。一方、成形型20は、上下に対向するように配置された上型21及び下型22と、上型21を上下方向に移動させて下型22に対し接離させる型駆動装置(図示せず)とを備えている。上型21の下面には、本体部10aの表面側を成形する表面側成形面21aが形成されている。この表面側成形面21aは、表皮材10の湾曲形状を形成するために上方へ湾曲している。下型22の上面には、本体部10aの裏面側を成形する裏面側成形面22aが形成されている。この裏面側成形面22aも同様に湾曲している。上型21と下型22とを型締めすると、表面側成形面21aと裏面側成形面22aとによってキャビティ(図示せず)が形成されるようになっている。図示しないが、下型22には、射出成形機のノズルに連通するランナが形成されている。ランナの下流端は、キャビティに開口するゲートに接続されている。」

「【0046】
次に、上記のように構成された製造装置によって表皮パネル3を製造する要領について説明する。まず、図3?図5に示すように、本体部成形装置によって表皮材10の本体部10aを成形する。すなわち、上型21及び下型22を型締めした状態で、射出成形機のノズルから溶融樹脂材料をキャビティに射出する(図4参照)。キャビティ内の樹脂材料が固化した後に型開きすると、表皮材10の本体部10aが得られる(図5参照)。
【0047】
次いで、図6に示すように、本体部10aを突出壁部成形装置の下型27の湾曲面27aに載置し、図7に示すように、上型26及び下型27を型締めした状態で、射出成形機のノズルから溶融樹脂材料をキャビティに射出する。すると、図8に示すように、溶融樹脂材料が、本体部10aの周縁部に溶着した状態で成形され、図9に示すように、固化後に型開きすると、本体部10aと突出壁部10bとが一体化した表皮材10が得られる。このように、本体部10a及び突出壁部10bを射出成形する際、成形型20、25のキャビティには、成形に必要なだけの樹脂材料を供給すればよいので、樹脂材料の無駄が殆どない。また、溶融樹脂材料を成形型20、25で成形することで、残留応力が生じ難く、高精度な表皮材10を得ることが可能になる。」

「【0060】
以上説明したように、この実施形態1によれば、突出壁部10bを有する表皮材10を射出成形によって精度良く得ることができるので、ボール1の外形状を設計通りにすることができ、使用者にとって扱い易いボールを得ることができる。」

「【0075】
また、図20に示す変形例7のように、表皮材10の本体部10aの表側に、凹凸部を設けることによって波板形状に形成してもよい。この波板形状は、表皮材10の射出成形時に成形型20によって形成されたものである。このように表皮材10を射出成形することによって、凹部や凸部を容易に形成することができる。また、本体部10aを波板状にすることなく、ボール1の周方向に延びる凸条(凸部)や凹条(凹部)を設けてもよいし、ディンプル形状部(凹部)を設けてもよい。表皮材10の凹部や凸部の形状によって、カーブのかかり易いボール1や飛びやすいボール1とすることもできる。上記凸部及び凹部は、表皮材10の成形時に容易に形成できる。尚、上記のように本体部10aの表側に凹部や凸部を形成することで、それらに対応した形状が本体部10aの裏側にも形成されることになるが、本体部10aが射出成形してなるものであることから、裏側の形状と表側の形状とは異なる形状にすることも可能である。」

【0091】
また、上記実施形態1、2において、表皮材10を透光性のある樹脂材料で形成するようにしてもよい。これにより、発泡材11、57の色がボール1の表面から透けて見えるようになり、ボール1を、深みのあるデザインとすることができる。この場合、発泡材11、57の色を任意に設定することで、発泡材11、57をデザインの一部として利用することができる。また、表皮材10を有色の透明にすることで、発泡材11、57の色と表皮材10の色とが混ざって見えることになり、デザインの自由度が向上する。また、表皮材10に印刷を施す場合には、発泡材11、57の色を利用することで、その印刷色を減らすことが可能になる。また、表皮材10を無色透明とすることで、シースルーデザインのボール1を得ることができる。また、表皮材10の色を、多色が不完全に混ざったようなマーブル模様にしてもよいし、発泡材11、57の色を同様なマーブル模様にしてもよい。また、表皮材11を形成する樹脂材や発泡材11の材料には、蓄光材や、光を反射する反射材、蛍光材等を混ぜてもよい。

上記記載事項を総合すれば、引用文献には以下の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。

「ボールの最外層を構成する表皮材と表皮材の裏側に設けられた発泡材との2層構造からなる表皮パネルにおける表皮材を製造する方法であって、
前記表皮材の湾曲形状を形成するために上方へ湾曲している成形面がそれぞれ形成された成形型を構成する上型及び下型を型締めした状態で、射出成形機のノズルから溶融樹脂材料をキャビティに射出し、成形型によって前記表皮材の表側に凹凸部を形成するとともに前記表示材の裏側に表側の形状とは異なる形状の凹凸部を形成し、キャビティ内の樹脂材料が固化した後に型開きすると、表皮材本体部が得られる工程と、
前記表皮材本体部を突出壁部成形装置の下型の湾曲面に載置し、上型及び下型を型締めした状態で、射出成形機のノズルから溶融樹脂材料をキャビティに射出し、溶融樹脂材料が、本体部の周縁部に溶着した状態で成形され、固化後に型開きすると、前記表皮材本体部と突出壁部とが一体化した前記表皮材が得られる工程と
を含み、
前記表皮材が、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリ塩化ビニル等の樹脂材を射出成形してなる射出成形品であり、
前記表皮材本体部の厚みは、その全体に亘って同じになっており、0.01mm?3.00mmの範囲で設定されている
方法。」

また、上記記載事項を総合すれば、引用文献には以下の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されているものと認められる。

「ボールの最外層を構成する表皮材と表皮材の裏側に設けられた発泡材との2層構造からなる表皮パネルにおける表皮材を製造する方法であって、
前記表皮材の湾曲形状を形成するために上方へ湾曲している成形面がそれぞれ形成された成形型を構成する上型及び下型を型締めした状態で、射出成形機のノズルから溶融樹脂材料をキャビティに射出し、キャビティ内の樹脂材料が固化した後に型開きすると、表皮材本体部が得られる工程と、
前記表皮材本体部を突出壁部成形装置の下型の湾曲面に載置し、上型及び下型を型締めした状態で、射出成形機のノズルから溶融樹脂材料をキャビティに射出し、溶融樹脂材料が、前記表皮材本体部の周縁部に溶着した状態で成形され、固化後に型開きすると、前記表皮材本体部と突出壁部とが一体化した前記表皮材が得られる工程と
を含み、
前記表皮材が、有色の透明又は無色透明の透光性のあるポリウレタン、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリ塩化ビニル等の樹脂材を射出成形してなる射出成形品であり、
前記表皮材本体部の厚みは、その全体に亘って同じになっており、0.01mm?3.00mmの範囲で設定されている
方法。」

(3)対比・判断
ア 対比
本願補正発明と引用発明1とを対比する。なお、見出し(a)?(f)は、本願補正発明のA?Fに対応させている。

(a)引用発明1の「表皮材」は、「2層構造からなる表皮パネル」の「ボールの最外層を構成する」ものであるから、ボールのパネル用表皮層といえる。
したがって、引用発明1の「ボールの最外層を構成する表皮材と表皮材の裏側に設けられた発泡材との2層構造からなる表皮パネルにおける表皮材を製造する方法」は、本願補正発明の「A ボールのパネル用表皮層を製造する方法」に相当する。

(b)引用発明1の「表皮材本体部」は、「突出壁部」とともに「表皮材」を構成するものであるから「表皮材」の材料といえるし、「厚み」が「0.01mm?3.00mmの範囲で設定されている」から、シートといえる。
また、引用発明1の「湾曲形状」は、三次元形状といえる。
したがって、引用発明1の「前記表皮材の湾曲形状を形成するために上方へ湾曲している成形面がそれぞれ形成された成形型を構成する上型及び下型を型締めした状態で、射出成形機のノズルから溶融樹脂材料をキャビティに射出し」、「キャビティ内の樹脂材料が固化した後に型開きすると、表皮材本体部が得られる工程」は、本願補正発明の「B 型内で材料シートを成形するステップであって、前記型は、成形中に、前記材料シートが、三次元形状の前記パネルの前記表皮層を有するように形成されているステップ」に相当する。

(c)引用発明1の「成形型によって前記表皮材の表側に凹凸部を形成する」「工程」は、本願補正発明の「C 前記材料シートの第1の側部上の少なくとも第1の部分領域に、第1のテクスチャを生成するステップ」に相当する。

(d)引用発明1の「成形型によって」「前記表示材の裏側に表側の形状とは異なる形状の凹凸部を形成」する「工程」は、本願補正発明の「D 前記材料シートの第2の側部上の少なくとも第2の部分領域に、第2のテクスチャを生成するステップ」に相当する。

(f)引用発明1の「ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリ塩化ビニル等の樹脂材を射出成形してなる射出成形品」は「厚み」が「0.01mm?3.00mmの範囲で設定されている」から、プラスチック箔といえる。
したがって、引用発明1の「前記表皮材が、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリ塩化ビニル等の樹脂材を射出成形してなる射出成形品であり、前記表皮材本体部の厚みは、その全体に亘って同じになっており、0.01mm?3.00mmの範囲で設定されている」ことと、本願補正発明の「F 前記材料シートが、少なくとも部分領域において光透過性であるプラスチック箔を含む」こととは、「F’前記材料シートが、少なくとも部分領域においてプラスチック箔を含む」点で共通する。

してみると、本願補正発明と引用発明1とは、
「A ボールのパネル用表皮層を製造する方法であって、
B 型内で材料シートを成形するステップであって、前記型は、成形中に、前記材料シートが、三次元形状の前記パネルの前記表皮層を有するように形成されているステップと、
C 前記材料シートの第1の側部上の少なくとも第1の部分領域に、第1のテクスチャを生成するステップと、
D 前記材料シートの第2の側部上の少なくとも第2の部分領域に、第2のテクスチャを生成するステップと
を含み、
F’前記材料シートが、少なくとも部分領域においてプラスチック箔を含む、
方法。」
である点で一致し、次の点で相違する。

(相違点1)
本願補正発明は「E 前記第1のテクスチャが、光の吸収および/または光の屈折を引き起こすことができ」るのに対し、引用発明1はそのようなものか否か不明な点。

(相違点2)
「プラスチック箔を含む」「前記材料シート」について、本願発明は「少なくとも部分領域において光透過性である」のに対し、引用発明1はそのようなものか否か不明な点。

イ 判断
事案に鑑み、相違点2から検討する。
(相違点2について)
引用発明2の「前記表皮材が、有色の透明又は無色透明の透光性のあるポリウレタン、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリ塩化ビニル等の樹脂材を射出成形してなる射出成形品であり、前記表皮材本体部の厚みは、その全体に亘って同じになっており、0.01mm?3.00mmの範囲で設定されている」ことは、相違点2に係る本願補正発明の構成の「前記材料シートが、少なくとも部分領域において光透過性であるプラスチック箔を含む」ことに相当する。なお、本願補正発明の「少なくとも部分領域において光透過性である」とは、「少なくとも」という特定により、全体的に光透過性である構成を排除するものではない。
そして、引用発明1は実施形態1の変形例7として記載され(【0060】、【0070】等参照)、引用発明2は実施形態1の応用例として記載されている(「【0091】・・・上記実施形態1、2において、表皮材10を透光性のある樹脂材料で形成するようにしてもよい。」参照)から、引用文献1には、実施形態1の範疇に含まれる引用発明1に実施形態1の応用例である引用発明2の適用が示唆されているといえること、及び、引用発明2は、表皮材を透光性のある樹脂材料で形成することにより、発泡材の色がボールの表面から透けて見えるようになり、ボールを深みのあるデザインとすることができる方法であり(【0091】参照)、これを引用発明1の表皮材を製造する方法で扱われる樹脂材に適用して、ボールを深みのあるデザインとすることに十分な合理性があることを考慮すれば、引用発明1の方法で扱われる樹脂材について、引用発明2の方法で扱われる有色の透明又は無色透明の透光性のある樹脂材を適用することに十分な動機付けが見出せる。
したがって、引用発明1の方法で扱われる樹脂材に、引用発明2の方法で扱われる有色の透明又は無色透明の透光性のある樹脂材を適用して、相違点2に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たものである。

(相違点1について)
上記(相違点2について)で検討したように、引用発明1の方法で扱われる樹脂材に、引用発明2の方法で扱われる有色の透明又は無色透明の透光性のある樹脂材を適用することは、当業者が容易になし得たものである。そして、その適用により、表側に凹凸部が形成され、裏側に表側の形状とは異なる形状の凹凸部が形成された表皮材が、有色の透明又は無色透明の透光性のある樹脂材で形成されることとなり、有色の透明又は無色透明の透光性のある樹脂材で形成された表皮材の表側及び裏側の凹凸部が、有色の場合に光の吸収を引き起こすこと、及び有色の場合でも無色の場合でも、凹凸部と空気との境界面で光の屈折を引き起こすことは、光の吸収及び屈折の物理現象に係る技術常識に鑑みれば、明らかである。
そうすると、相違点1に係る本願補正発明の構成は、引用発明1の方法で扱われる樹脂材に引用発明2の方法で扱われる有色の透明又は無色透明の透光性のある樹脂材を適用した際に生じる自明の構成にすぎない。

そして、本願補正発明の奏する作用効果は、引用発明1及び引用発明2の奏する作用効果から予測される範囲のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

したがって、本願補正発明は、引用発明1及び引用発明2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(4)審判請求書における請求人の主張について
請求人は、審判請求書において、
ア 引用文献1では、表皮材に凹部と凸部を形成する構成と透光性の樹脂材料で形成する構成とは、互いに異なる目的に対応する構成として記載され、また、表皮材に凹部と凸部を形成する構成と透光性の樹脂材料で形成する構成を同時に採用することについて記載も示唆もされておらず、表面全体に凹部や凸部を形成された表皮材に、透光性の樹脂材料を用いようと動機付けられることはない、
イ 引用文献1の表皮材の表面全体に凹凸が設けられている表皮材を用いたボールにおいて、表皮材に透光性の樹脂材料を用いようとすると、外部から表皮材に入射する光が表皮材の外側の凹凸および内側の凹凸において乱反射ないしランダムに入射するため、表皮材の外側から内側の発泡材のデザインを視認することが極めて困難となり、表皮材の内側に設けられた発泡材を可視化することによるデザインの自由度の向上という作用効果を十分に奏さなくなってしまうから、表皮材に凹部と凸部を形成する構成と透光性の樹脂材料で形成する構成を同時に採用することには、阻害要因がある、
ウ 仮に、当業者が表皮材に凹部と凸部を形成する構成と透光性の樹脂材料で形成する構成を同時に採用することを容易に想到し得たとしても、表皮材全体に凹部と凸部を形成することまで想到するのであって、表皮材の部分領域にテクスチャを設けることまで容易に想到し得ない
旨主張する。

しかしながら、請求人の主張の上記アについて、上記(3)の (相違点2について)で検討したように、引用発明1は実施形態1の変形例7として記載され、引用発明2は実施形態1の応用例として記載されているから、引用文献1には、実施形態1の範疇に含まれる引用発明1に実施形態1の応用例である引用発明2の適用が示唆されているといえること、及び、引用発明2は、表皮材を透光性のある樹脂材料で形成することにより、発泡材の色がボールの表面から透けて見えるようになり、ボールを深みのあるデザインとすることができる方法であり、これを引用発明1の表皮材を製造する方法で扱われる樹脂材に適用して、ボールを深みのあるデザインとすることに十分な合理性があることを考慮すれば、引用発明1の方法で扱われる樹脂材について、引用発明2の方法で扱われる有色の透明又は無色透明の透光性のある樹脂材を適用することに十分な動機付けが見出せる。

つぎに、請求人の主張の上記イについて、引用文献1に記載された発明の透光性を有する表皮材が該表皮材の内側の発泡材の色が透けて見えるようにデザインするために用いられるとしても、表皮材として透光性を有する構成と凹凸を有する構成との両者を採用することで、凹凸の形成により必ずしも発泡材の色が視認不可能となるまでに透過光が妨げられるとはいえず、透光性のある樹脂材で形成された凹凸を介して発泡材の色が視認できるようなデザインとすることにも十分に合理性があり、両者を同時に採用することに阻害要因があるとはいえない。

さらに、請求人の主張の上記ウについて、本願補正発明は「少なくとも第1の部分領域に、第1のテクスチャを生成」し「少なくとも第2の部分領域に、第2のテクスチャを生成する」のであるから、「少なくとも」という特定により、全体的に凹凸を形成する構成を排除するものではない。したがって、請求人の主張は請求項の記載に基づくものではないから採用できない。
仮に、部分領域のみにテクスチャを設けることが、本願補正発明の構成要件であったとしても、引用発明1の表皮材の本体部の表側及び裏側に凹凸を設けない領域を設けることは、当業者にとっての設計的事項である。ここで、凹凸を設けない領域を多少なりとも設けることにより、必ずしもカーブのかかり易いボールや飛びやすいボールとするという課題の解決が不可能とまではいえないことは明らかである。よって、請求人の主張は採用できない。

(5)本件補正についてのむすび
以上より、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?24に係る発明は、平成30年9月14日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?24に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、前記第2[理由]1の(本件補正前)に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶理由
原査定の拒絶の理由のうち請求項1に係るものは、
(進歩性)この出願の請求項1に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、
・特開2009-1153541号公報(引用文献)
というものである。

3 引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献の記載事項は、前記第2[理由]2(2)に記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明は、前記第2の[理由]2で検討した本願補正発明から、「前記材料シートが、少なくとも部分領域において光透過性であるプラスチック箔を含む」との限定を省いたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記第2[理由]2(3)イに記載したとおり、引用発明1及び引用発明2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明1及び引用発明2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2019-12-20 
結審通知日 2019-12-24 
審決日 2020-01-07 
出願番号 特願2015-187569(P2015-187569)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A63B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 金田 理香  
特許庁審判長 藤本 義仁
特許庁審判官 藤田 年彦
尾崎 淳史
発明の名称 ボールのパネル用表皮層の製造方法  
代理人 小林 浩  
代理人 大森 規雄  
代理人 鈴木 康仁  
代理人 古橋 伸茂  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ