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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 C30B |
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管理番号 | 1362688 |
審判番号 | 不服2019-4238 |
総通号数 | 247 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2020-07-31 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2019-04-02 |
確定日 | 2020-06-10 |
事件の表示 | 特願2015-123187「ニオブ酸リチウム単結晶基板とその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 1月12日出願公開、特開2017- 7882、請求項の数(5)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成27年6月18日の出願であって、平成30年11月2日付けで拒絶理由通知がされ、平成30年12月6日付けで手続補正がされ、平成30年12月27日付けで拒絶査定(原査定)がされ、これに対し、平成31年4月2日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。 第2 原査定の概要 原査定(平成30年12月27日付け拒絶査定)の理由の概要は次のとおりである。 本願請求項2?5に係る発明は、以下の引用文献1、2に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 (引用文献等一覧) 1 特開2005-314137号公報 2 特開2005-179177号公報 第3 本願発明 本願請求項1?5に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」?「本願発明5」という。)は、平成30年12月6日付けで手続補正された特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定されるとおりの発明であり、その本願発明2?5は以下のとおりの発明である。 「【請求項2】 チョコラルスキー法で育成したニオブ酸リチウム単結晶を用いてニオブ酸リチウム単結晶基板を製造する方法において、 単結晶中のFe濃度が50質量ppm以上、1000質量ppm以下でかつ基板の状態に加工されたニオブ酸リチウム単結晶を、Al粉末若しくはAlとAl_(2)O_(3)の混合粉末に埋め込み、450℃以上、500℃未満の温度で熱処理して、体積抵抗率が1×10^(8)Ω・cm以上、1×10^(10)Ω・cm以下の範囲に制御され、かつ、ニオブ酸リチウム単結晶基板面内における体積抵抗率のバラつき(σ/Ave)が3%未満であるニオブ酸リチウム単結晶基板を製造することを特徴とするニオブ酸リチウム単結晶基板の製造方法。 但し、Aveはニオブ酸リチウム単結晶基板の中心部1点と外周部4点の面内5点測定の体積抵抗率の平均値、σはそれらの標準偏差であり、体積抵抗率はJISK-6911に準拠した3端子法により測定した数値である。 【請求項3】 前記基板の状態に加工されたニオブ酸リチウム単結晶表面の算術平均粗さRaが0.2μm以上、0.4μm以下であることを特徴とする請求項2に記載のニオブ酸リチウム単結晶基板の製造方法。 【請求項4】 上記熱処理を、真空雰囲気若しくは不活性ガスの減圧雰囲気下で行うことを特徴とする請求項2または3に記載のニオブ酸リチウム単結晶基板の製造方法。 【請求項5】 上記熱処理を、1時間以上行うことを特徴とする請求項2、3または4に記載のニオブ酸リチウム単結晶基板の製造方法。」 第4 引用文献、引用発明等 1 引用文献1について (1)原査定の拒絶理由に引用された上記引用文献1には、次の事項が記載されている。(下線は当審が付した。以下、同じ。) ア 「【特許請求の範囲】 【請求項1】 タンタル酸リチウム単結晶またはニオブ酸リチウム単結晶から作製されたウエーハと、 アルカリ金属化合物を含む還元剤と、を処理容器に収容し、 該処理容器内を減圧下、200℃以上1000℃以下の温度に保持することにより、該ウエーハを還元することを特徴とする圧電性酸化物単結晶の帯電抑制処理方法。 ・・・ 【請求項4】 前記アルカリ金属化合物は、リチウム化合物である請求項1に記載の圧電性酸化物単結晶の帯電抑制処理方法。 【請求項5】 前記還元剤は前記アルカリ金属化合物からなり、 該還元剤と前記ウエーハとを別々に配置して、または該ウエーハを該還元剤に埋設して該ウエーハの還元を行う請求項1に記載の圧電性酸化物単結晶の帯電抑制処理方法。・・・」 イ 「【0010】 本発明は、このような実状を鑑みてなされたものであり、圧電性を損なうことなく、タンタル酸リチウム単結晶およびニオブ酸リチウム単結晶の帯電を抑制することのできる処理方法を提供することを課題とする。また、その処理方法を簡便に実施できる処理装置を提供することを課題とする。」 ウ 「【0013】 還元によりウエーハの抵抗は低下する。よって、還元されたウエーハは、温度が変化しても電荷を生じ難い。また、仮にウエーハ表面に電荷が発生しても速やかに自己中和して、電荷を除去することができる。このように、本発明の帯電抑制処理方法によれば、LT単結晶またはLN単結晶から作製されたウエーハの帯電を、効果的に抑制することができる。」 エ 「【0017】 上述したように、LT単結晶は、600℃を超える高温に曝されると、その圧電性が失われるおそれがある。よって、LT単結晶から作製されたウエーハを還元する場合には、600℃以下の比較的低温で処理することが望ましい。本発明の帯電抑制処理方法では、還元性の高いアルカリ金属化合物を用いるため、600℃以下の温度でもウエーハ全体を充分に還元することができる。このように、比較的低温で還元処理を行うことで、圧電性を損なうことなく、LT単結晶およびLN単結晶の帯電を抑制することができる。」 オ 「【0019】 (4)LT単結晶やLN単結晶中の酸素は、リチウムとの結合力が強い。このため、還元処理では、酸素はリチウムと結合した状態、つまり酸化リチウムの状態で放出され易い。その結果、単結晶中のリチウム濃度が減少し、リチウム:タンタル(ニオブ)比が変化することで、圧電性が変化するおそれがある。 【0020】 したがって、還元剤として用いるアルカリ金属化合物をリチウム化合物とすることが望ましい。これより、還元剤から供給されるリチウム原子で、単結晶中の酸素を反応させることができる。このため、単結晶中のリチウム原子は放出され難い。よって、リチウム:タンタル(ニオブ)比は変化せず、圧電性が低下することはない。また、リチウムは、単結晶の構成成分であるため、他元素の混入による汚染の心配もない。」 カ 「【0021】 (5)本発明の帯電抑制処理方法では、アルカリ金属化合物からなる還元剤を用い、還元剤とウエーハとを別々に配置して、またはウエーハを還元剤に埋設してウエーハの還元を行う態様を採用することができる。本態様では、還元剤としてアルカリ金属化合物の粉末、ペレット等を用いることができる。アルカリ金属化合物の粉末、ペレット等をそのまま使用できるため、本態様は実施し易い。また、ウエーハを還元剤に埋設させた場合には、還元剤がウエーハの表面に高濃度で接触する。よって、ウエーハの還元をより促進することができる。」 キ 「【0043】 例えば、上記実施形態では、LT単結晶から作製されたウエーハに対して帯電抑制処理を行った。しかし、LN単結晶から作製されたウエーハを処理してもよく、また、各々の単結晶から作製されたウエーハを同時に処理してもよい。さらに、鉄等の金属が添加されたLT単結晶あるいはLN単結晶から作製されたウエーハを処理してもよい。この場合、添加金属としては、例えば、鉄、銅、マンガン、モリブデン、コバルト、ニッケル、亜鉛、炭素、マグネシウム、チタン、タングステン、インジウム、錫、希土類元素等が挙げられる。また、その添加量は、単結晶の重量全体を100wt%とした場合の、0.01wt%以上1.00wt%以下であるとよい。鉄等の金属が添加されたLT単結晶等は、表面電荷を自己中和し除去する電荷中和特性を有する。そのような単結晶から作製されたウエーハを還元することで、ウエーハの帯電をより効果的に抑制することができる。・・・」 (2)引用文献1に記載された発明 上記(1)ア、ウ?キの記載を本願請求項2の記載ぶりに則して整理すると、引用文献1には、 「鉄の添加量が0.01wt%以上1.00wt%以下のニオブ酸リチウム単結晶から作製されたウエーハを、リチウム化合物からなる還元剤粉末に埋設して、減圧下、200℃以上600℃以下の温度に保持することにより、該ウエーハを還元して、ウエーハの抵抗を低下させる圧電性酸化物単結晶の帯電抑制処理方法。」 の発明(以下、「引用1発明」という。)が記載されていると認められる。 2 引用文献2について (1)原査定の拒絶理由に引用された上記引用文献2には、次の事項が記載されている。 ア 「【請求項5】 チョコラスキー法で育成したニオブ酸リチウム結晶を用いてニオブ酸リチウム基板を製造する方法において、 ニオブ酸リチウム結晶を、Al、Ti、Si、Ca、Mg、Cからなる群より選択される少なくとも1種の元素で構成された粉末に埋め込んだ状態で、または、Al、Ti、Si、Ca、Mg、Cからなる群より選択される少なくとも1種の元素で構成された容器中に収容させた状態で、300℃以上、500℃未満の温度で熱処理することを特徴とするニオブ酸リチウム基板の製造方法。」 イ 「【0008】 そこで、この問題を解決するため特許文献1?2においては、LN結晶を500?1140℃の範囲内で、アルゴン、水、水素、窒素、二酸化炭素、一酸化炭素、酸素およびこれ等の組合せから選択されたガスといった化学的還元性雰囲気に晒して黒化させることにより、基板の高い光透過率を抑制すると共に電気伝導度を高くし、もって基板裏面からの戻り光を抑制し同時に焦電性を低減させる方法が提案されている。・・・ 【0009】 ところで、特許文献1?2に記載された方法は、LN結晶を500℃以上の高い温度に加熱するため処理時間は短い反面、処理バッチ間の黒化のばらつきが生じ易く、また、熱処理した基板に黒化による色ムラ、すなわち体積抵抗率の面内分布が生じ易く、素子製造プロセスでの歩留まり低下が依然として十分に防止できない問題点があった。 ・・・ 【0010】 本発明はこのような問題点に着目してなされたもので、その課題とするところは、500℃未満の低温での処理にも拘わらず、処理した基板に黒化による色ムラ、すなわち体積抵抗率の面内分布が少ないニオブ酸リチウム基板とその製造方法を提供することにある。」 ウ 「【0022】 ところで、焦電効果(焦電性)は、結晶の温度が変化することによって生ずる格子の変形に起因する。電気双極子を持つ結晶では、双極子間の距離が温度で変わるために生じると理解できる。焦電効果は、電気抵抗の高い材料でのみで生じる。イオンの変位により、結晶表面には双極子方向に電荷を生じるが、電気抵抗の低い材料ではこの電荷は結晶自身の持つ電気伝導性のために中和されてしまう。通常の透明なLN結晶は、上述したようにその体積抵抗率が10^(15) Ω・cmのレベルであるために焦電効果が顕著に現れる。しかし、黒化した不透明LN結晶ではその体積抵抗率が10^(12)Ω・cm以下に向上するため、焦電性が見られなくなる。」 エ 「【0024】 また、LN結晶の熱処理は、酸化物生成自由エネルギーの低いAl、Ti、Si、Ca、Mg、Zn、Cからなる群より選択される少なくとも1種の元素で構成された粉末に埋め込まれた状態、または、Al、Ti、Si、Ca、Mg、Zn、Cからなる群より選択される少なくとも1種の元素で構成された容器中に収容された状態で行われる。また、LN結晶の加熱温度は、Al、Ti、Si、Ca、Mg、Cの元素が選択された場合は、300℃以上、500℃未満であり、Znが選択された場合は、Znの融点が419.6℃であるため、上限がZnの融点未満となる。また、加熱温度が高いほど短時間で黒化が進行するため、Zn以外の元素を選択した場合、好ましい温度は450℃から500℃未満の範囲である。また、熱処理の雰囲気は、真空または不活性ガス(窒素ガスやアルゴンガス等)であることが好ましく、処理時間は1時間以上であることが望ましい。また、Al、Ti、Si、Ca、Mg、Znの元素で構成された粉末が選択された場合、これ等元素の粉末とこれ等元素の酸化物との混合物を用いることも有効である。」 (2)引用文献2に記載された技術的事項 上記(1)ア?エの記載から、引用文献2には、 「チョコラスキー法で育成したニオブ酸リチウム結晶を、酸化物生成自由エネルギーの低いAl、Ti、Si、Ca、Mg、Cからなる群より選択される少なくとも1種の元素で構成された粉末、又は、これ等元素の粉末とこれ等元素の酸化物との混合物に埋め込んだ状態で、300℃以上、500℃未満の温度で熱処理することによって、ニオブ酸リチウム基板の体積抵抗率を10^(12)Ω・cm以下にして、焦電性を低下させ、体積抵抗率の面内分布も少なくする」 という技術的事項が記載されていると認められる。 第5 対比・判断 1 本願発明2について (1)対比 本願発明2と引用1発明とを対比すると、引用1発明の「ニオブ酸リチウム単結晶から作製されたウエーハ」は、本願発明2の「基板の状態に加工されたニオブ酸リチウム単結晶」に相当し、さらに、引用1発明の「該ウエーハを還元する圧電性酸化物単結晶の帯電抑制処理方法」は、ニオブ酸リチウム単結晶から還元処理されたニオブ酸リチウム単結晶ウエーハを得る方法といえるから、本願発明2の「ニオブ酸リチウム単結晶を用いてニオブ酸リチウム単結晶基板の製造方法」に相当する。 また、引用1発明の「200℃以上600℃以下の温度に保持すること」は、本願発明2の「熱処理」に相当する。 さらに、引用1発明の「鉄の添加量が0.01wt%以上1.00wt%以下のニオブ酸リチウム単結晶」は、本願発明2と「単結晶中」に「Fe」を含有する点で共通し、また、引用1発明の「ウエーハを、リチウム化合物からなる還元剤粉末に埋設」することは、本願発明2と「基板の状態に加工されたニオブ酸リチウム単結晶」を「粉末に埋め込」む点で共通している。 したがって、本願発明2は、引用1発明と、 「ニオブ酸リチウム単結晶を用いてニオブ酸リチウム単結晶基板を製造する方法において、 単結晶中にFeを含有し、かつ基板の状態に加工されたニオブ酸リチウム単結晶を粉末に埋め込み、熱処理して、ニオブ酸リチウム単結晶基板を製造することを特徴とするニオブ酸リチウム単結晶基板の製造方法」である点で一致し、以下の点で相違している。 (相違点1) 本願発明2のニオブ酸リチウム単結晶は、「チョコラルスキー法で育成した」単結晶であるのに対して、引用1発明のニオブ酸リチウム単結晶は、その点が明らかでない点。 (相違点2) 本願発明2の単結晶中のFe濃度は、「50質量ppm以上、1000質量ppm以下」であるのに対して、引用1発明の単結晶中のFe濃度(添加量)は、0.01wt%(100質量ppm)以上1.00wt%(10000質量ppm)以下である点。 (相違点3) 本願発明2の粉末は、「Al粉末若しくはAlとAl_(2)O_(3)の混合粉末」であるのに対して、引用1発明の粉末は、「リチウム化合物からなる還元剤粉末」である点。 (相違点4) 本願発明2の熱処理の温度は、「450℃以上、500℃未満」であるのに対して、引用1発明の熱処理の温度は、「200℃以上600℃以下」である点。 (相違点5) 本願発明2の熱処理後のニオブ酸リチウム単結晶基板は、「体積抵抗率が1×10^(8)Ω・cm以上、1×10^(10)Ω・cm以下の範囲に制御され、かつ、ニオブ酸リチウム単結晶基板面内における体積抵抗率のバラつき(σ/Ave)が3%未満である(但し、Aveはニオブ酸リチウム単結晶基板の中心部1点と外周部4点の面内5点測定の体積抵抗率の平均値、σはそれらの標準偏差であり、体積抵抗率はJISK-6911に準拠した3端子法により測定した数値である。)」のに対して、引用1発明の熱処理後のウエーハは、その抵抗が低下しているものの、その物性値は明らかでない点。 (2)相違点についての判断 事案に鑑み、まず上記相違点3について検討すると、上記相違点3に係る本願発明2のニオブ酸リチウム単結晶基板を「Al粉末若しくはAlとAl_(2)O_(3)の混合粉末」に埋め込んで熱処理することは、上記第4の2(2)に記載のとおり、引用文献2に記載された技術的事項である。 しかしながら、引用1発明において、「リチウム化合物からなる還元剤粉末」を用いることは、上記第4の1(1)イ及びオに摘示したとおり、ニオブ酸リチウム単結晶中のLi原子が還元処理により酸化リチウムの状態で放出されることを防止し、リチウム:ニオブ比が変化して圧電性が低下することを防止するためであるから、引用1発明の「リチウム化合物からなる還元剤粉末」を、引用文献2に記載された「Al粉末若しくはAlとAl_(2)O_(3)の混合粉末」に置き換えることには阻害要因がある。 したがって、上記相違点1、2、4及び5について判断するまでもなく、本願発明2は、引用文献1に記載された発明、及び、引用文献2に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 2 本願発明3?5について 本願発明3?5は、本願発明2を減縮した発明であって、本願発明2の特定事項を備えるものであるから、本願発明2と同じ理由により、当業者であっても、引用文献1に記載された発明、及び、引用文献2に記載された技術的事項に基いて容易に発明をすることができたものとはいえない。 第6 むすび 以上のとおり、原査定の理由によっては本願を拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2020-05-26 |
出願番号 | 特願2015-123187(P2015-123187) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(C30B)
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最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 神▲崎▼ 賢一 |
特許庁審判長 |
服部 智 |
特許庁審判官 |
宮澤 尚之 川村 裕二 |
発明の名称 | ニオブ酸リチウム単結晶基板とその製造方法 |
代理人 | 上田 章三 |