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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 F02D
管理番号 1362829
審判番号 不服2019-10758  
総通号数 247 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-07-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-08-13 
確定日 2020-06-16 
事件の表示 特願2015- 95780「下流側空燃比センサの異常診断装置」拒絶査定不服審判事件〔平成28年12月15日出願公開、特開2016-211429、請求項の数(1)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成27年5月8日の出願であって、平成30年11月27日付け(発送日:同年12月4日)で拒絶理由が通知され、平成31年1月23日に意見書が提出されたが、平成31年5月10日付け(発送日:同年5月21日)で拒絶査定(以下、「原査定」という。)がされ、これに対して、令和元年8月13日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。


第2 原査定の概要
原査定の概要は、次のとおりである。
「この出願については、平成30年11月27日付け拒絶理由通知書に記載した理由1によって、拒絶をすべきものです。
備考
●理由1(特許法第29条第2項)について

・請求項1
・引用文献等1?2
<引用文献等一覧>
1.特開2003-247451号公報
2.特開2005-307961号公報」


第3 本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、願書に添付された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定された、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
内燃機関の排気通路において排気浄化触媒の排気流れ方向下流側に配置された下流側空燃比センサの異常診断装置であって、
前記排気浄化触媒に流入する排気ガスの目標空燃比を設定すると共に、前記排気浄化触媒に流入する排気ガスの空燃比が前記目標空燃比に一致するように燃焼室に供給する燃料量を制御する空燃比制御手段を備え、
前記空燃比制御手段は、前記下流側空燃比センサの異常診断を実施するために、該下流側空燃比センサによって検出された下流側出力空燃比が、理論空燃比よりもリッチ側及びリーン側のいずれか一方の側にあるときに、前記下流側出力空燃比が理論空燃比に向かって変化するように前記目標空燃比を理論空燃比に設定し、その後、前記下流側出力空燃比に基づいて前記下流側空燃比センサに到達した排気ガスの空燃比が理論空燃比であると判定されている間に前記目標空燃比を理論空燃比から理論空燃比よりも前記一方の側の空燃比に切り替え、
当該下流側空燃比センサの異常診断装置は、前記目標空燃比を理論空燃比から前記一方の側の空燃比に切り替えてから前記下流側出力空燃比が前記一方の側に向かって変化し始めるまでの時間が基準時間以上である場合に、前記下流側空燃比センサにむだ時間による異常が生じていると判定するように構成される、下流側空燃比センサの異常診断装置。」


第4 引用文献の記載及び引用発明

1 引用文献1
原査定の拒絶の理由で引用された、本願の出願前に頒布された又は電気通信回路を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、特開2003-247451号公報(以下、「引用文献1」という。)には、「排出ガスセンサの異常診断装置」に関して、図面(特に図1及び図3ないし5を参照。)とともに以下の事項が記載されている(下線は、理解の一助のために当審が付与したものである。以下同様。)。

ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、排出ガス浄化用の触媒の下流側に設置された排出ガスセンサの出力に基づいて該排出ガスセンサの異常の有無を診断する排出ガスセンサの異常診断装置に関するものである。」

イ 「【0003】しかし、触媒下流側に設置した排出ガスセンサの出力の挙動は、触媒の浄化能力(ストレージ効果)の影響を受けるため、触媒上流側の空燃比の変化が触媒下流側の空燃比(排出ガスセンサの出力)の変化として現れるまでに遅れ時間が生じると共に、その遅れ時間がその時点の触媒の浄化能力ひいては劣化度合によって変化する。このため、触媒下流側の排出ガスセンサの出力の挙動に基づいて該排出ガスセンサの劣化診断を行う場合、触媒下流側の排出ガスセンサの出力の挙動がその時点の触媒の浄化能力(ストレージ効果)の影響を受けて変化してしまい、触媒下流側の排出ガスセンサの劣化の有無を精度良く判定することができない。」

ウ 「【0016】一方、エンジン11の排気管22には、排出ガス中のCO,HC,NOx等を浄化する三元触媒等の触媒23が設けられ、この触媒23の上流側と下流側に、それぞれ排出ガスの空燃比又はリーン/リッチ等を検出する排出ガスセンサ24,25(空燃比センサ、酸素センサ等)が設けられている。
【0017】また、エンジン11のシリンダブロックには、冷却水温を検出する冷却水温センサ26や、エンジン回転速度を検出するクランク角センサ27が取り付けられている。
【0018】これら各種センサの出力は、エンジン制御回路(以下「ECU」と表記する)28に入力される。このECU28は、マイクロコンピュータを主体として構成され、内蔵されたROM(記憶媒体)に記憶された各種の制御プログラムを実行することで、エンジン運転状態に応じて燃料噴射弁20の燃料噴射量や点火プラグ21の点火時期を制御する。
【0019】また、ECU28は、図2に示す排出ガスセンサ異常診断メインルーチン及び図3に示す異常診断実行サブルーチンを実行することで、吸入空気量が所定の異常診断実行吸入空気量KQ(触媒23の浄化能力を越える排出ガス流量下限値に相当する吸入空気量)以上のときに、空燃比のリッチ/リーンを切り換えて触媒下流側の排出ガスセンサ(以下「下流側排出ガスセンサ」という)25の出力に基づいて下流側排出ガスセンサ25の異常診断を実行する。」

エ 「【0025】一方、上記(丸1)?(丸4)(当審注:丸数字は(丸1)等と表記する。)の条件を全て満たした場合には、下流側排出ガスセンサ25の異常診断実行条件が成立して、ステップ103に進み、図3に示す異常診断実行サブルーチンを実行して、下流側排出ガスセンサ25の異常診断を次のようにして実行する。
【0026】図3の異常診断実行サブルーチンが起動されると、まず、ステップ201で、触媒上流側の空燃比(目標空燃比)を理論空燃比よりもリッチ(例えば目標空燃比=14)に制御するリッチ制御を実行し、このリッチ制御を開始してから下流側排出ガスセンサ25の出力が安定するのに十分な時間が経過した後に、触媒上流側の空燃比(目標空燃比)を理論空燃比よりもリーン(例えば目標空燃比=16)に制御するリーン制御に切り換える。
【0027】この後、ステップ202に進み、リッチ制御からリーン制御に切り換えた時点t1から下流側排出ガスセンサ25の出力が所定値V1以下に変化する時点t2までに要した時間をリーン応答時間TL(図4参照)として計測した後、ステップ203に進み、このリーン応答時間TLが所定のリーン応答判定値以下か否かを判定する。
【0028】このリーン応答時間TLがリーン応答判定値以下であれば、ステップ204に進み、下流側排出ガスセンサ25のリーン応答性が正常(劣化無し)と判定する。一方、リーン応答時間TLがリーン応答判定値よりも長ければ、ステップ205に進み、下流側排出ガスセンサ25のリーン応答性が異常(劣化有り)と判定する。
【0029】この後、ステップ206に進み、リーン制御を開始してから下流側排出ガスセンサ25の出力が安定するのに十分な時間が経過した後に、リーン制御からリッチ制御に切り換える。
【0030】この後、ステップ207に進み、リーン制御からリッチ制御に切り換えた時点t3から下流側排出ガスセンサ25の出力が所定値V1以上に変化する時点t4までに要した時間をリッチ応答時間TR(図4参照)として計測した後、ステップ208に進み、このリッチ応答時間TRが所定のリッチ応答判定値以下か否かを判定する。
【0031】このリッチ応答時間TRがリッチ応答判定値以下であれば、ステップ209に進み、下流側排出ガスセンサ25のリッチ応答性が正常(劣化無し)と判定する。一方、リッチ応答時間TRがリッチ応答判定値よりも長ければ、ステップ210に進み、下流側排出ガスセンサ25のリッチ応答性が異常(劣化有り)と判定する。
【0032】この後、ステップ211に進み、下流側排出ガスセンサ25のリーン応答性とリッチ応答性が両方とも正常か否かを判定し、両方とも正常であれば、ステップ212に進み、最終的に下流側排出ガスセンサ25が正常(劣化無し)と判定する。一方、下流側排出ガスセンサ25のリーン応答性とリッチ応答性のいずれか一方でも異常(劣化有り)と判定された場合には、ステップ213に進み、最終的に下流側排出ガスセンサ25が異常(劣化有り)と判定する。この際、リーン応答性とリッチ応答性が両方とも異常と判定された場合のみ、最終的に下流側排出ガスセンサ25が異常と判定するようにしても良い。」

オ 上記ウの記載事項及び図1の図示内容からみて、引用文献1記載のエンジン制御回路28は、触媒上流側の空燃比が目標空燃比に一致するように、燃料噴射弁20による燃料噴射量を燃焼室に供給するよう制御するものであるといえる。

カ 上記エの記載事項及び図3ないし4の図示内容からみて、
引用文献1記載の下流側排出ガスセンサ25の異常診断は、
下流側排出ガスセンサ25によって検出された触媒下流側の空燃比の出力が、理論空燃比よりもリッチ側にあるときに、下流側排出ガスセンサ25の空燃比の出力がリーン側に向かって変化するように触媒上流側の目標空燃比をリーン側に設定し、その後、下流側排出ガスセンサ25の空燃比の出力に基づいて下流側排出ガスセンサ25に到達した排出ガスの空燃比がリーン側であると判定されている間に前記目標空燃比をリーン側からリッチ側の空燃比に切り替えて、
前記目標空燃比をリーン側からリッチ側に切り替えてから下流側排出ガスセンサ25の出力がリッチ側に向かって変化し始めるまでのリッチ応答時間TRが所定のリッチ応答判定値より長い場合に、当該下流側排出ガスセンサ25にリッチ応答性の異常が生じていると判定するものである、
といえる。

キ 上記カと同様に、上記エの記載事項及び図3ないし4の図示内容からみて、
引用文献1記載の下流側排出ガスセンサ25の異常診断は、
下流側排出ガスセンサ25によって検出された触媒下流側の空燃比の出力が、理論空燃比よりもリーン側にあるときに、下流側排出ガスセンサ25の空燃比の出力がリッチ側に向かって変化するように触媒上流側の目標空燃比をリッチ側に設定し、その後、下流側排出ガスセンサ25の空燃比の出力に基づいて下流側排出ガスセンサ25に到達した排出ガスの空燃比がリッチ側であると判定されている間に前記目標空燃比をリッチ側からリーン側の空燃比に切り替え、
前記目標空燃比をリッチ側からリーン側に切り替えてから下流側排出ガスセンサ25の出力がリーン側に向かって変化し始めるまでのリーン応答時間TLが所定のリーン応答判定値より長い場合に、当該下流側排出ガスセンサ25にリーン応答性の異常が生じていると判定するものである、
といえる。

ク 上記カ及びキの記載事項を総合すると、
引用文献1記載の下流側排出ガスセンサ25の異常診断は、
下流側排出ガスセンサ25によって検出された触媒下流側の空燃比の出力が、理論空燃比よりもリッチ側及びリーン側のいずれか一方の側にあるときに、下流側排出ガスセンサ25の空燃比の出力がリッチ側及びリーン側のいずれか他方の側に向かって変化するように触媒上流側の目標空燃比を前記他方の側に設定し、その後、下流側排出ガスセンサ25の空燃比の出力に基づいて下流側排出ガスセンサ25に到達した排出ガスの空燃比が前記他方の側であると判定されている間に前記目標空燃比を前記一方の側の空燃比に切り替え、
前記目標空燃比を前記他方の側に切り替えてから下流側排出ガスセンサ25の出力が前記一方の側に向かって変化し始めるまでの応答時間が所定の応答判定値より長い場合に、当該下流側排出ガスセンサ25に応答性の異常が生じていると判定するものである、
といえる。

上記アないしクの記載事項及び図面の図示内容を総合し、本願発明1の記載ぶりに則って整理すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されている。

[引用発明1]
「エンジン11の排気管22において排出ガス中のCO,HC,NOx等を浄化する三元触媒等の触媒23の排出ガスの流れ方向下流側に配置された空燃比センサである下流側排出ガスセンサ25の異常診断装置であって、
前記触媒23に流入する排出ガスの目標空燃比を設定すると共に前記触媒23に流入する排出ガスの空燃比が前記目標空燃比に一致するように燃焼室に供給する燃料量を制御するエンジン制御回路28を備え、
前記エンジン制御回路28は、前記下流側排出ガスセンサ25の異常診断を実施するために、該下流側排出ガスセンサ25によって検出された触媒下流側の空燃比の出力が、理論空燃比よりもリッチ側及びリーン側のいずれか一方の側にあるときに、前記触媒下流側の空燃比の出力がリッチ側及びリーン側のいずれか他方の側に向かって変化するように前記目標空燃比を前記他方の側に設定し、その後、前記触媒下流側の空燃比の出力に基づいて前記下流側排出ガスセンサ25に到達した排出ガスの空燃比が前記他方の側の空燃比であると判定されている間に前記目標空燃比を前記他方の側から前記一方の側の空燃比に切り替え、
当該下流側排出ガスセンサ25の異常診断装置は、前記目標空燃比を前記他方の側の空燃比から前記一方の側の空燃比に切り替えてから前記触媒下流側の空燃比の出力が前記一方の側に向かって変化し始めるまでの応答時間が所定の応答判定値より長い場合に、前記下流側排出ガスセンサ25に応答性の異常が生じていると判定するように構成される、下流側排出ガスセンサ25の異常診断装置。」

2 引用文献2
原査定の拒絶の理由で引用された、本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、特開2005-307961号公報(以下「引用文献2」という。)には、「センサ応答特性検出装置」に関して、図面(特に図1ないし2及び4ないし5を参照。)とともに次の事項が記載されている。

ア「【0001】
本発明は、内燃機関の排出ガスの空燃比又は酸素濃度を検出するセンサの出力に基づいて内燃機関に供給する燃料量をフィードバック制御する空燃比制御システムにおいて、センサの応答特性を検出するセンサ応答特性検出装置に関する発明である。
【0002】
近年の電子制御化された自動車は、内燃機関(エンジン)の排出ガスの空燃比又は酸素濃度を検出するセンサを排気管に設置し、このセンサの出力に基づいて排出ガスの空燃比を目標空燃比付近に維持するように内燃機関に供給する燃料量をフィードバック制御することで、排気エミッション、燃費等のエンジン性能を向上させるようにしている。近年の空燃比フィードバック制御系は、制御対象である燃料供給量を変化させてから排出ガスの空燃比が変化する応答特性を無駄時間+1次遅れ特性(又は2次遅れ特性)でモデル化して設計されているため、排出ガスの空燃比を検出するセンサの特性劣化や故障によりセンサの応答特性が変化すると、空燃比検出精度ひいては空燃比制御精度が悪化して、エンジン性能の悪化に繋がってしまう。」

イ「【0005】
そこで、本発明の第1の目的は、本来の空燃比フィードバック制御系を設計している応答特性(無駄時間とn次遅れ特性)を検出して、センサの応答特性劣化や故障による空燃比フィードバック制御性の悪化を精度良く検出できるようにすることであり、また、第2の目的は、センサの異常を精度良く検出できるようにすることであり、更に、第3の目的は、センサの応答特性に応じて空燃比フィードバック制御パラメータを適正に修正できるようにすることである。」

ウ「【0027】
一方、エンジン11の排気管22には、排出ガス中のCO,HC,NOx等を浄化する三元触媒等の触媒23が設けられ、この触媒23の上流側に、排出ガスの空燃比(又は酸素濃度)を検出する空燃比センサ24が設けられている。また、エンジン11のシリンダブロックには、冷却水温を検出する冷却水温センサ25や、エンジン11のクランク軸が一定クランク角回転する毎にパルス信号を出力するクランク角センサ26が取り付けられている。このクランク角センサ26の出力信号に基づいてクランク角やエンジン回転速度が検出される。
【0028】
これら各種センサの出力は、エンジン制御回路(以下「ECU」と表記する)27に入力される。このECU27は、マイクロコンピュータを主体として構成され、内蔵されたROM(記憶媒体)に記憶された各種のエンジン制御プログラムを実行することで、空燃比センサ24で検出した排出ガスの空燃比を目標空燃比に一致させるように空燃比フィードバック補正係数を算出して、エンジン11に供給する燃料量(燃料噴射量)をフィードバック補正するようにしている。この空燃比フィードバック制御系は、制御対象である燃料供給量を変化させてから排出ガスの空燃比が変化する応答特性を無駄時間+1次遅れ特性でモデル化して設計されている。尚、この応答特性を無駄時間+2次遅れ特性でモデル化しても良く、要は、無駄時間+n次遅れ特性(nは正の整数)でモデル化すれば良い。
【0029】
更に、ECU27は、後述する図4乃至図6に示す各ルーチンを実行することで、エンジン11を目標空燃比近傍で安定して運転している定常運転中に、燃料供給量をステップ的に変化させて空燃比センサ24の応答特性を無駄時間と1次遅れ特性(n次遅れ特性)とに分けて検出するようにしている。
【0030】
以下、空燃比センサ24の応答特性の検出方法を図2及び図3のタイムチャートに基づいて説明する。図2のタイムチャートは、ECU27が、時刻t1で、エンジン運転状態が定常運転状態であると判定して、定常運転フラグがONに切り換え、その後、時刻t2で、応答特性検出実行条件が成立して計測処理フラグをONに切り換え、応答特性の計測処理を開始する。ここで、応答特性検出実行条件は、定常運転状態で空燃比センサ24の出力(以下単に「センサ出力」という)が目標空燃比近傍で安定してセンサ出力の変動量が小さいことである。センサ出力が不安定な状態では、空燃比センサ24の応答特性を精度良く検出できないためである。
【0031】
応答特性の計測開始時t2から所定時間T1が経過するまでの期間(t2?t3)は、空燃比フィードバック制御を継続して定常運転状態を維持しながら、センサ出力の平均値をなまし処理又は相加平均等の平均化処理によって算出する。このセンサ出力の平均値は“燃料増量前のセンサ出力の定常値BA”としてECU27のメモリに記憶される。尚、応答特性の計測開始時t2において、センサ出力が定常値BAで十分に安定している場合は、応答特性の計測開始時t2にサンプリングしたセンサ出力をそのまま燃料増量前のセンサ出力の定常値BAとしても良い。
【0032】
そして、燃料増量前のセンサ出力の定常値BAの計測を終了した時点t3で、空燃比フィードバック制御を停止して、燃料増量フラグをONに切り換え、燃料供給量(燃料噴射量)をステップ的に増量して、無駄時間TAの計測を開始する。この後は、センサ出力の変化勾配がしきい値を越えた点を変化開始点として検出する。」

エ「【0036】
以上のようにして変化開始点を検出した後、燃料増量タイミングt3から変化開始点t4までの時間を無駄時間TAとして検出する。変化開始点を検出した時点t4で、変化開始点検出フラグをONに切り換えて、1次遅れ特性の計測処理を開始する。」

オ「【0040】
応答特性計測処理終了後は、目標空燃比を通常運転時の目標空燃比に切り換えて空燃比フィードバック制御を実行する。尚、本実施例1では、応答特性検出のために燃料供給量を増量して空燃比をリッチ側に変化させたが、これとは反対に燃料供給量を減量して空燃比をリーン側に変化させるようにしても良い。或は、応答特性計測開始時に燃料供給量をステップ的に減量(又は増量)して空燃比をリーン側(又はリッチ側)にずらしてセンサ出力の定常値BAを算出した後、燃料供給量をステップ的に増量(又は減量)して空燃比をリッチ側(又はリーン側)にずらしてセンサ出力の定常値AAを算出し、燃料増量前(又は減量前)のセンサ出力の定常値BAからのセンサ出力の変化量が、燃料増量後(又は減量後)のセンサ出力の定常値AAまでの変化量(AA-BA)の所定割合(例えば63%)に達するまでの応答時間TBを算出するようにしても良い。
【0041】
更に、ECU27は、後述する図7に示す空燃比センサ異常診断ルーチンを実行することで、空燃比センサ24の応答特性(無駄時間TAと応答時間TB)の検出結果に基づいて空燃比センサ24の異常の有無を判定する。図3に示すように、無駄時間TAと応答時間TB(1次遅れ特性)との関係は、空燃比センサ24の故障モードによって異なってくる。例えば、ある故障モード(1)では、無駄時間TAのみが異常に長くなり、応答時間TBが正常時とあまり変わらないが、他の故障モード(2)では、無駄時間TAが正常時とあまり変わらず、応答時間TBのみが異常に長くなることがある。そこで、本実施例1では、次の3つの条件(a)?(c)のうち1つでも該当する条件があれば、空燃比センサ24の異常と判定するようにしている。
(a) 無駄時間TAが許容範囲外であること
(b) 応答時間TBが許容範囲外であること
(c) 無駄時間TAと応答時間TBとの合計時間(TA+TB)が許容範囲外であること」

カ「【0043】
[空燃比センサ応答特性検出メインルーチン]
図4の空燃比センサ応答特性検出メインルーチンは、エンジン運転中に周期的に実行され、特許請求の範囲でいう応答特性検出手段としての役割を果たす。本ルーチンが起動されると、まずステップ101で、応答特性検出実行条件が成立しているか否か(計測処理フラグがONであるか否か)を判定する。ここで、応答特性検出実行条件は、エンジン運転状態が定常運転状態(定常運転フラグがON)で、空燃比センサ24の出力(センサ出力)が目標空燃比近傍で安定してことである。センサ出力が不安定な状態では、空燃比センサ24の応答特性を精度良く検出できないためである。
【0044】
このステップ101で、応答特性検出実行条件が成立していないと判定されれば、以降の処理を行うことなく、本ルーチンを終了するが、応答特性検出実行条件が成立していると判定されれば、次のようにして応答特性の検出処理が実行される。まず、ステップ102で、応答特性の計測を開始し、所定時間T1が経過するまで待機する(ステップ103)。応答特性計測開始後は、燃料増量前のセンサ出力の定常値BAを算出するデータとなるセンサ出力の時系列データをECU27のメモリに記憶する。そして、応答特性計測開始から所定時間T1が経過するまでの期間に、空燃比フィードバック制御を継続して定常運転状態を維持しながら、燃料増量前のセンサ出力の定常値BA(平均値)をなまし処理又は相加平均等の平均化処理によって算出する。
【0045】
そして、応答特性計測開始から所定時間T1が経過した時点で、ステップ104に進み、空燃比フィードバック制御を停止して、燃料増量フラグをONに切り換え、次のステップ105で、燃料供給量(燃料噴射量)をステップ的に増量する。この後、ステップ106に進み、燃料増量タイミングから所定時間T0が経過するまで待機する。ここで、所定時間T0は、燃料増量後にセンサ出力が定常値AAで安定するまでに必要な時間に設定されている。燃料増量開始から所定時間T0が経過するまでの期間には、応答時間TBを算出するデータとなるセンサ出力の時系列データがECU27のメモリに記憶される。
【0046】
その後、燃料増量開始から所定時間T0が経過した時点で、ステップ107に進み、空燃比フィードバック制御を再開して、所定時間T2が経過するまで(ステップ108)、燃料増量分だけ目標空燃比をリッチ側にずらして燃料供給量をフィードバック補正することで、センサ出力を目標空燃比近傍(定常値AA)で安定させる。この期間のセンサ出力の平均値をなまし処理又は相加平均等の平均化処理によって算出し、この平均値を、“燃料増量後のセンサ出力の定常値AA”として用いる。
【0047】
そして、所定時間T2が経過した時点で、ステップ109に進み、応答特性の計測を終了し、目標空燃比を通常運転時の目標空燃比に切り換えて空燃比フィードバック制御を実行する。
【0048】
この後、ステップ110に進み、後述する図7の空燃比センサ異常診断ルーチンを実行して、無駄時間TAと応答時間TBに基づいて空燃比センサ24の異常の有無を判定した後、ステップ111に進み、後述する図8の空燃比フィードバック制御パラメータ修正ルーチンを実行して、無駄時間TAと応答時間TBに基づいて空燃比フィードバック制御パラメータの修正が必要と判断されたときには、該パラメータを修正する。
【0049】
[無駄時間算出ルーチン]
図5の無駄時間算出ルーチンは、エンジン運転中に周期的に実行され、特許請求の範囲でいう応答特性検出手段としての役割を果たす。本ルーチンが起動されると、まずステップ201で、無駄時間算出条件が成立しているか否かを判定する。この無駄時間算出条件は、(1) 計測処理フラグがON(応答特性の計測処理中)であること、(2) 無駄時間TAがまだ算出されていないことであり、これら2つの条件(1)、(2)のうちのいずれか一方でも満たさない条件があれば、無駄時間算出条件が不成立となり、以降の処理を行うことなく、本ルーチンを終了する。
【0050】
一方、上記2つの条件(1)、(2)を同時に満たせば、無駄時間算出条件が成立して、ステップ202に進み、燃料供給量が増量されるまで待機する。このステップ202の処理が特許請求の範囲でいう燃料変化タイミング判定手段としての役割を果たす。
【0051】
この後、燃料供給量が増量された時点で、ステップ203に進み、現在のセンサ出力の変化勾配[AF(N)-AF(N-1)]をしきい値と比較し、センサ出力の変化勾配[AF(N)-AF(N-1)]がしきい値を越えるまで待機する。
【0052】
そして、センサ出力の変化勾配[AF(N)-AF(N-1)]がしきい値を越えたときに、変化開始点と判断して、ステップ204に進み、変化開始点検出カウンタCountをカウントアップして、ステップ205に進み、変化開始点検出カウンタCountのカウント値が所定値Mに達したか否かを判定して、所定値Mに達していなければ、ステップ203に戻り、上述した処理を繰り返す。これにより、センサ出力の変化勾配[AF(N)-AF(N-1)]がしきい値を所定回数(M回)越えるまで、変化開始点の検出を継続する。
【0053】
その後、センサ出力の変化勾配[AF(N)-AF(N-1)]がしきい値を所定回数(M回)越えて変化開始点検出カウンタCountのカウント値が所定値Mに達した時点で、ステップ206に進み、燃料増量タイミング(j)から変化開始点(N-M)までの無駄時間TAを次式により算出する。
TA={(N-M)-J}×演算周期
【0054】
ここで、(N-M)は、センサ出力の変化勾配[AF(N)-AF(N-1)]が最初にしきい値を越えた点を変化開始点とみなして、この変化開始点をそれまでの累積演算回数で表したものであり、Jは、燃料増量タイミングをそれまでの累積演算回数で表したものである。」

キ「【0061】
[空燃比センサ異常診断ルーチン]
図7の空燃比センサ異常診断ルーチンは、前記図4の空燃比センサ応答特性検出メインルーチンのステップ110で実行されるサブルーチンであり、特許請求の範囲でいう異常判定手段としての役割を果たす。本ルーチンが起動されると、まずステップ400で、前記図5及び図6の各ルーチンによって無駄時間TAと応答時間TBが算出されるまで待機する。そして、無駄時間TAと応答時間TBが算出された時点で、ステップ401に進み、現在のエンジン運転状態に応じて、標準無駄時間TAref、標準応答時間TBref、標準検出時間TABrefをマップ等により算出する。ここで、標準無駄時間TArefは標準的な無駄時間TAであり、標準応答時間TBrefは標準的な応答時間TBであり、標準検出時間TABrefは、無駄時間TAと応答時間TBの合計時間(=検出時間TAB)の標準値である。
【0062】
この後、ステップ402に進み、無駄時間TA、応答時間TB、検出時間TABに対する許容誤差ΔTA、ΔTB、ΔTABを現在のエンジン運転状態に応じてマップ等により算出する。
【0063】
そして、次のステップ403で、無駄時間TAと標準無駄時間TArefとの差が許容誤差ΔTA以下であるか否かを判定し、無駄時間TAと標準無駄時間TArefとの差が許容誤差ΔTAよりも大きければ、ステップ407に進み、空燃比センサ24が異常であると判定する。」

ク 上記ウの記載事項及び図1の図示内容からみて、引用文献2記載のエンジン制御回路27は、触媒23の上流側の空燃比センサ24で検出した排出ガスの空燃比が目標空燃比に一致するように、燃料量を燃焼室に供給するよう制御するものであるといえる。

ケ 上記ウないしキの記載事項及び図2、4、5及び7の図示内容からみて、
引用文献2記載のエンジン制御回路27は、前記空燃比センサ24の異常診断を実施するために、該空燃比センサ24によって検出された触媒上流側の空燃比の出力が、定常運転状態での目標空燃比近傍にあると判定されている間に、燃料量をステップ状に増加させて、前記目標空燃比を理論空燃比よりもリッチ側の空燃比に切り替え、
引用文献2記載の上流側の空燃比センサ24の異常診断装置は、前記目標空燃比をリッチ側の空燃比に切り替えてから前記触媒上流側の空燃比の出力がリッチ側に向かって変化し始めるまでの無駄時間TAが標準無駄時間TArefとの許容誤差ΔTAを超える場合に、前記空燃比センサ24に無駄時間TAによる異常が生じていると判定するように構成される
ものであるといえる。

コ 上記ケの記載事項とともに、上記オにおける【0040】の記載事項「本実施例1では、応答特性検出のために燃料供給量を増量して空燃比をリッチ側に変化させたが、これとは反対に燃料供給量を減量して空燃比をリーン側に変化させるようにしても良い。」を総合すると、
引用文献2記載のエンジン制御回路27は、前記空燃比センサ24の異常診断を実施するために、該空燃比センサ24によって検出された触媒上流側の空燃比の出力が、定常運転状態での目標空燃比近傍にあると判定されている間に、燃料量をステップ状に減少させて、前記目標空燃比を理論空燃比よりもリーン側の空燃比に切り替え、
引用文献2記載の上流側の空燃比センサ24の異常診断装置は、前記目標空燃比をリーン側の空燃比に切り替えてから前記触媒上流側の空燃比の出力がリーン側に向かって変化し始めるまでの無駄時間TAが標準無駄時間TArefとの許容誤差ΔTAを超える場合に、前記空燃比センサ24に無駄時間TAによる異常が生じていると判定するように構成される
ものであるといえる。

サ 上記ケ及びコの記載事項を総合すると、
引用文献2記載のエンジン制御回路27は、前記空燃比センサ24の異常診断を実施するために、該空燃比センサ24によって検出された触媒上流側の空燃比の出力が、定常運転状態での目標空燃比近傍にあると判定されている間に、燃料量をステップ状に増加または減少させて、前記目標空燃比を理論空燃比よりもリッチ側とリーン側のいずれか一方の側の空燃比に切り替え、
引用文献2記載の上流側の空燃比センサ24の異常診断装置は、前記目標空燃比を理論空燃比から前記一方の側の空燃比に切り替えてから前記触媒上流側の空燃比の出力が前記一方の側に向かって変化し始めるまでの無駄時間TAが標準無駄時間TArefとの許容誤差ΔTAを超える場合に、前記空燃比センサ24に無駄時間TAによる異常が生じていると判定するように構成される
ものであるといえる。

上記アないしサの記載事項及び図面の図示内容を総合し、本願発明1の記載ぶりに則って整理すると、引用文献2には、次の事項(以下、「引用発明2」という。)が記載されている。
[引用発明2]
「エンジン11の排気管22において排出ガス中のCO,HC,NOx等を浄化する三元触媒等の触媒23の排出ガスの流れ方向上流側に配置された上流側の空燃比センサ24のセンサ応答特性検出装置における異常判定手段であって、
前記触媒23に流入する排出ガスの目標空燃比を設定すると共に、前記触媒23に流入する排出ガスの空燃比が前記目標空燃比に一致するように燃焼室に供給する燃料量を制御するエンジン制御回路27を備え、
前記エンジン制御回路27は、前記空燃比センサ24の異常診断を実施するために、該空燃比センサ24によって検出された触媒上流側の空燃比の出力に基づいて前記空燃比センサに到達した排出ガスの空燃比が定常運転状態での目標空燃比近傍にあると判定されている間に、前記目標空燃比を理論空燃比よりもリッチ側とリーン側のいずれか一方の側の空燃比に切り替え、
当該空燃比センサ24の異常判定手段は、前記目標空燃比を定常運転状態での目標空燃比近傍から前記一方の側の空燃比に切り替えてから前記触媒上流側の空燃比の出力が前記一方の側に向かって変化し始めるまでの無駄時間TAが標準無駄時間TArefとの許容誤差ΔTAを超える場合に、前記空燃比センサ24に無駄時間TAによる異常が生じていると判定するように構成される、
上流側の空燃比センサ24のセンサ応答特性検出装置における異常判定手段。」


第5 対比・判断
1 本願発明1について
本願発明1と引用発明1とを対比すると、その機能、構成及び技術的意義からみて、後者の「エンジン11」は前者の「内燃機関」に相当し、以下同様に、「排気管22」は「排気通路」に、「排出ガス中のCO,HC,NOx等を浄化する三元触媒等の触媒23」は「排気浄化触媒」に、「排出ガスの流れ方向下流側」は「排気流れ方向下流側」に、「空燃比センサである下流側排出ガスセンサ25」は「下流側空燃比センサ」に、「異常診断装置」は「異常診断装置」に、「エンジン制御回路28」は「空燃比制御手段」に、「触媒下流側の空燃比の出力」は「下流側出力空燃比」に、それぞれ相当する。

後者の「理論空燃比よりもリッチ側及びリーン側のいずれか一方の側にあるときに、前記触媒下流側の空燃比の出力がリッチ側及びリーン側のいずれか他方の側に向かって変化するように前記目標空燃比を前記他方の側に設定し、その後、前記触媒下流側の空燃比の出力に基づいて前記下流側排出ガスセンサ25に到達した排出ガスの空燃比が前記他方の側の空燃比であると判定されている間に前記目標空燃比を前記他方の側から理論空燃比よりも前記一方の側の空燃比に切り替え」と前者の「理論空燃比よりもリッチ側及びリーン側のいずれか一方の側にあるときに、前記下流側出力空燃比が理論空燃比に向かって変化するように前記目標空燃比を理論空燃比に設定し、その後、前記下流側出力空燃比に基づいて前記下流側空燃比センサに到達した排気ガスの空燃比が理論空燃比であると判定されている間に前記目標空燃比を理論空燃比から理論空燃比よりも前記一方の側の空燃比に切り替え」とは、「理論空燃比よりもリッチ側及びリーン側のいずれか一方の側にあるときに、前記下流側出力空燃比が所定の空燃比に向かって変化するように前記目標空燃比を所定の空燃比に設定し、その後、前記下流側出力空燃比に基づいて前記下流側空燃比センサに到達した排気ガスの空燃比が所定の空燃比であると判定されている間に前記目標空燃比を所定の空燃比から理論空燃比よりも前記一方の側の空燃比に切り替え」という限りで一致する。

後者の「前記目標空燃比を前記他方の側の空燃比から前記一方の側の空燃比に切り替えてから前記触媒下流側の空燃比の出力が前記一方の側に向かって変化し始めるまでの応答時間」と前者の「前記目標空燃比を理論空燃比から前記一方の側の空燃比に切り替えてから前記下流側出力空燃比が前記一方の側に向かって変化し始めるまでの時間」とは、「前記目標空燃比を所定の空燃比から前記一方の側の空燃比に切り替えてから前記下流側出力空燃比が前記一方の側に向かって変化し始めるまでの時間」という限りで一致する。

後者の「応答性の異常」は、上記「第4 1」の記載事項イにおける「触媒上流側の空燃比の変化が触媒下流側の空燃比(排出ガスセンサの出力)の変化として現れるまでに遅れ時間が生じると共に、その遅れ時間がその時点の触媒の浄化能力ひいては劣化度合いによって変化する」ことからみて、前者の「むだ時間による異常」を包含するものであるといえる。そして、後者の「所定の応答判定値」は前者の「基準時間」に相当するから、後者の「変化し始めるまでの応答時間が所定の応答判定値より長い場合に、前記下流側排出ガスセンサ25に応答性の異常が生じていると判定する」と前者の「変化し始めるまでの時間が基準時間以上である場合に、前記下流側空燃比センサにむだ時間による異常が生じていると判定する」とは、「変化し始めるまでの時間が基準時間より長い場合に、前記下流側空燃比センサに応答性による異常が生じていると判定する」という限りで一致する。

そうすると、本願発明1と引用発明1とは、次の一致点、相違点がある。

[一致点]
「内燃機関の排気通路において排気浄化触媒の排気流れ方向下流側に配置された下流側空燃比センサの異常診断装置であって、
前記排気浄化触媒に流入する排気ガスの目標空燃比を設定すると共に、前記排気浄化触媒に流入する排気ガスの空燃比が前記目標空燃比に一致するように燃焼室に供給する燃料量を制御する空燃比制御手段を備え、
前記空燃比制御手段は、前記下流側空燃比センサの異常診断を実施するために、該下流側空燃比センサによって検出された下流側出力空燃比が、理論空燃比よりもリッチ側及びリーン側のいずれか一方の側にあるときに、前記下流側出力空燃比が所定の空燃比に向かって変化するように前記目標空燃比を前記所定の空燃比に設定し、その後、前記下流側出力空燃比に基づいて前記下流側空燃比センサに到達した排気ガスの空燃比が前記所定の空燃比であると判定されている間に前記目標空燃比を前記所定の空燃比から理論空燃比よりも前記一方の側の空燃比に切り替え、
当該下流側空燃比センサの異常診断装置は、前記目標空燃比を所定の空燃比から前記一方の側の空燃比に切り替えてから前記下流側出力空燃比が前記一方の側に向かって変化し始めるまでの時間が基準時間より長い場合に、前記下流側空燃比センサに応答性による異常が生じていると判定するように構成される、下流側空燃比センサの異常診断装置。」

[相違点1]
本願発明1は、「前記空燃比制御手段は、前記下流側空燃比センサの異常診断を実施するために、該下流側空燃比センサによって検出された下流側出力空燃比が、理論空燃比よりもリッチ側及びリーン側のいずれか一方の側にあるときに、前記下流側出力空燃比が理論空燃比に向かって変化するように前記目標空燃比を理論空燃比に設定し、その後、前記下流側出力空燃比に基づいて前記下流側空燃比センサに到達した排気ガスの空燃比が理論空燃比であると判定されている間に前記目標空燃比を理論空燃比から理論空燃比よりも前記一方の側の空燃比に切り替え」るのに対して、
引用発明1は、前記エンジン制御回路28が、前記下流側排出ガスセンサ25の異常診断を実施するために、該下流側排出ガスセンサ25によって検出された触媒下流側の空燃比の出力が、理論空燃比よりもリッチ側及びリーン側のいずれか一方の側にあるときに、前記触媒下流側の空燃比の出力が「リッチ側及びリーン側のいずれか他方の側」に向かって変化するように前記目標空燃比を「前記他方の側」に設定し、その後、前記触媒下流側の空燃比の出力に基づいて前記下流側排出ガスセンサ25に到達した排出ガスの空燃比が「前記他方の側の空燃比」であると判定されている間に前記目標空燃比を「前記他方の側」から前記一方の側の空燃比に切り替えるものであって、
触媒下流側の空燃比の出力が理論空燃比よりもリッチ側及びリーン側のいずれか一方の側にあるときに、前記触媒下流側の空燃比の出力が「理論空燃比」に向かって変化するように前記目標空燃比を「前記理論空燃比」に設定し、その後、前記下流側出力空燃比に基づいて前記下流側空燃比センサに到達した排気ガスの空燃比が「理論空燃比」であると判定されている間に前記目標空燃比を「理論空燃比」から理論空燃比よりも前記一方の側の空燃比に切り替えるものではない点。

[相違点2]
本願発明1では、「当該下流側空燃比センサの異常診断装置は、前記目標空燃比を理論空燃比から前記一方の側の空燃比に切り替えてから前記下流側出力空燃比が前記一方の側に向かって変化し始めるまでの時間が基準時間以上である場合に、前記下流側空燃比センサにむだ時間による異常が生じていると判定するように構成される」のに対し、
引用発明1では、当該下流側排出ガスセンサ25の異常診断装置は、前記目標空燃比を「前記他方の側の空燃比」から前記一方の側の空燃比に切り替えてから前記触媒下流側の空燃比の出力が前記一方の側に向かって変化し始めるまでの応答時間が所定の応答判定値「より長い」場合に、前記下流側排出ガスセンサ25に「応答性の異常」が生じていると判定するように構成されるものであって、
目標空燃比を「前記理論空燃比」から前記一方の側の空燃比に切り替えてから触媒下流側の空燃比の出力が変化し始めるまでの時間が所定の応答判定値「以上」である場合に、前記下流側排出ガスセンサ25に「むだ時間による異常」が生じていると判定するように構成されるものではない点。

相違点について検討する。
事案に鑑み、上記相違点1について検討する。
上記「第4」の2で述べたとおり、引用発明2は、
「エンジン11の排気管22において排出ガス中のCO,HC,NOx等を浄化する三元触媒等の触媒23の排出ガスの流れ方向上流側に配置された上流側の空燃比センサ24のセンサ応答特性検出装置における異常判定手段であって、
前記触媒23に流入する排出ガスの目標空燃比を設定すると共に、前記触媒23に流入する排出ガスの空燃比が前記目標空燃比に一致するように燃焼室に供給する燃料量を制御するエンジン制御回路27を備え、
前記エンジン制御回路27は、前記空燃比センサ24の異常診断を実施するために、該空燃比センサ24によって検出された触媒上流側の空燃比の出力に基づいて前記空燃比センサに到達した排出ガスの空燃比が定常運転状態での目標空燃比近傍にあると判定されている間に、前記目標空燃比を理論空燃比よりもリッチ側とリーン側のいずれか一方の側の空燃比に切り替え、
当該空燃比センサ24の異常判定手段は、前記目標空燃比を定常運転状態での目標空燃比近傍から前記一方の側の空燃比に切り替えてから前記触媒上流側の空燃比の出力が前記一方の側に向かって変化し始めるまでの無駄時間TAが標準無駄時間TArefとの許容誤差ΔTAを超える場合に、前記空燃比センサ24に無駄時間TAによる異常が生じていると判定するように構成される、
上流側の空燃比センサ24のセンサ応答特性検出装置における異常判定手段。」である。

ここで、本願発明1と引用発明2とを対比すると、その機能、構成及び技術的意義からみて、後者の「エンジン11」は前者の「内燃機関」に相当し、以下同様に、「排気管22」は「排気通路」に、「排出ガス中のCO,HC,NOx等を浄化する三元触媒等の触媒23」は「排気浄化触媒」に、「排出ガスの流れ方向」は「排気流れ方向」に、「センサ応答特性装置における異常判定手段」は「異常診断装置」に、「エンジン制御回路27」は「空燃比制御手段」に、「無駄時間TAによる異常」は「むだ時間による異常」に、それぞれ相当する。
後者の「空燃比センサ24」と前者の「下流側空燃比センサ」とは、「空燃比センサ」という限りで一致する。
後者の「該空燃比センサ24によって検出された触媒上流側の空燃比の出力」と前者の「下流側空燃比センサによって検出された下流側出力空燃比」とは、「空燃比センサによって検出された、触媒近傍の出力空燃比」という限りで一致する。また、後者の「定常運転状態での目標空燃比」と前者の「理論空燃比」とは、「特定の空燃比」という限りで一致する。そして、後者の「前記エンジン制御回路27は、前記空燃比センサ24の異常診断を実施するために、該空燃比センサ24によって検出された触媒上流側の空燃比の出力に基づいて前記空燃比センサに到達した排出ガスの空燃比が定常運転状態での目標空燃比近傍にあると判定されている間に、前記目標空燃比を理論空燃比よりもリッチ側とリーン側のいずれか一方の側の空燃比に切り替え」ることと、前者の「前記空燃比制御手段は、前記下流側空燃比センサの異常診断を実施するために、該下流側空燃比センサによって検出された下流側出力空燃比が、理論空燃比よりもリッチ側及びリーン側のいずれか一方の側にあるときに、前記下流側出力空燃比が理論空燃比に向かって変化するように前記目標空燃比を理論空燃比に設定し、その後、前記下流側出力空燃比に基づいて前記下流側空燃比センサに到達した排気ガスの空燃比が理論空燃比であると判定されている間に前記目標空燃比を理論空燃比から理論空燃比よりも前記一方の側の空燃比に切り替え」ることとは、「前記空燃比制御手段は、前記空燃比センサの異常診断を実施するために、該空燃比センサによって検出された触媒近傍の出力空燃比に基づいて、前記空燃比センサに到達した排出ガスの空燃比が特定の空燃比にあると判定されている間に、前記目標空燃比を理論空燃比よりもリッチ側とリーン側のいずれか一方の側の空燃比に切り替え」るという限りで一致する。
また、後者の「前記触媒上流側の空燃比の出力が前記一方の側に向かって変化し始めるまでの無駄時間TA」と前者の「前記下流側出力空燃比が前記一方の側に向かって変化し始めるまでの時間」とは、「空燃比センサの出力空燃比が前記一方の側に向かって変化し始めるまでの時間」という限りで一致する。
後者の「標準無駄時間TArefとの許容誤差ΔTAを超える場合」と前者の「基準時間以上である場合」とは、「基準時間を超える場合」という限りで一致する。
後者の「前記空燃比センサ24の異常判定手段は、前記目標空燃比を定常運転状態での目標空燃比近傍から前記一方の側の空燃比に切り替えてから前記触媒上流側の空燃比の出力が前記一方の側に向かって変化し始めるまでの無駄時間TAが標準無駄時間TArefとの許容誤差ΔTAを超える場合に、前記空燃比センサ24に無駄時間TAによる異常が生じていると判定するように構成される」ことと、前者の「当該下流側空燃比センサの異常診断装置は、前記目標空燃比を理論空燃比から前記一方の側の空燃比に切り替えてから前記下流側出力空燃比が前記一方の側に向かって変化し始めるまでの時間が基準時間以上である場合に、前記下流側空燃比センサにむだ時間による異常が生じていると判定するように構成される」こととは、「当該空燃比センサの異常診断装置は、前記目標空燃比を特定の空燃比から前記一方の側の空燃比に切り替えてから前記空燃比センサで検出された出力空燃比が前記一方の側に向かって変化し始めるまでの時間が基準時間を超える場合に、前記下流側空燃比センサにむだ時間による異常が生じていると判定するように構成される」という限りで一致する。

そうすると、引用発明2は、本願発明1の部材名で整理すると、
「内燃機関の排気通路において排気浄化触媒の排気流れ方向上流側に配置された空燃比センサの異常診断装置であって、
前記排気浄化触媒に流入する排気ガスの目標空燃比を設定すると共に、前記排気浄化触媒に流入する排気ガスの空燃比が前記目標空燃比に一致するように燃焼室に供給する燃料量を制御する空燃比制御手段を備え、
前記空燃比制御手段は、前記空燃比センサの異常診断を実施するために、該空燃比センサによって検出された触媒近傍の出力空燃比に基づいて、前記空燃比センサに到達した排気ガスの空燃比が特定の空燃比にあると判定されている間に、前記目標空燃比を理論空燃比よりもリッチ側とリーン側のいずれか一方の側の空燃比に切り替え、
当該下流側空燃比センサの異常診断装置は、前記目標空燃比を特定の空燃比から前記一方の側の空燃比に切り替えてから前記出力空燃比が前記一方の側に向かって変化し始めるまでの時間が基準時間を超える場合に、前記空燃比センサにむだ時間による異常が生じていると判定するように構成される、空燃比センサの異常診断装置。」
と言い換えることができる。

しかしながら、引用発明2は、理論空燃比よりもリッチ側及びリーン側のいずれか一方の側にあるときに、理論空燃比に向かって変化するように目標空燃比を理論空燃比に設定するものではなく、かつ、その後に理論空燃比から一方の側の空燃比に切り替えるときに異常診断を行うものではない(引用文献2記載の「定常運転状態での目標空燃比」は理論空燃比であるとはいえない)から、上記相違点1に係る本願発明1の発明特定事項を開示ないし示唆するものではない。
それに加え、引用発明1は、排気浄化触媒の排気流れ方向下流側に配置された空燃比センサの異常診断装置であり、一方、引用発明2は、排気浄化触媒の排気流れ方向上流側に配置された空燃比センサの異常診断装置であり、異常診断の対象となる空燃比センサの配置が同じではない。
また、引用発明1が解決しようとする課題は、触媒のストレージ効果の影響を少なくした条件下で、触媒下流側の排出ガスセンサの異常診断を精度良く実行できるようにすることであり、一方、引用発明2が解決しようとする課題は、空燃比センサの応答特性を無駄時間とn次遅れ特性とに分けて検出できるようにするとともに、センサの異常を精度良く検出することであり、両者は空燃比センサの異常を精度良く検出しようとする点では同じであるものの、触媒のストレージ効果の影響を考慮するか否かの点で異なることから、両者は解決しようとする課題も同じとはいえない。
そうすると、引用発明1と引用発明2とは、空燃比センサの異常診断装置の点で共通する部分はあるものの、上記のとおり、排気浄化触媒の排気流れ方向における空燃比センサの配置が異なるものであり、かつ、解決しようとする課題も異なるものであるから、当業者であっても、直ちに引用発明1に引用発明2を組み合わせることはできず、阻害要因があるというべきである。

仮に引用発明1に引用発明2を組み合わせたとしても、「触媒下流側の空燃比の出力が理論空燃比よりもリッチ側及びリーン側のいずれか一方の側にあるときに、前記触媒下流側の空燃比の出力が理論空燃比に向かって変化するように前記目標空燃比を前記理論空燃比に設定し、その後、前記下流側出力空燃比に基づいて前記下流側空燃比センサに到達した排気ガスの空燃比が理論空燃比であると判定されている間に前記目標空燃比を理論空燃比から理論空燃比よりも前記一方の側の空燃比に切り替える」点、即ち、上記相違点1に係る本願発明1の発明特定事項については、当業者であっても容易に想到することができたものとはいえない。また、上記相違点1に係る本願発明1の発明特定事項は、当業者にとって出願前の周知技術といえる証拠もなく、また、当業者が適宜なし得た設計的な事項であるともいえない。
そして、相違点1に係る発明特定事項を有する本願発明1は、「上記一方の側がリッチ側である場合には排気浄化触媒の酸素吸蔵量がゼロの状態で下流側出力空燃比が理論空燃比からリッチ側に変化するときのむだ時間を検出することができ」(本願明細書の段落【0041】、【0042】及び【0047】参照。)、「上記一方の側がリーン側である場合には排気浄化触媒の酸素吸蔵量が最大の状態で下流側出力空燃比が理論空燃比からリーン側に変化するときのむだ時間を検出することができ」(本願明細書の段落【0064】、【0065】及び【0071】参照。)、「下流側空燃比センサの出力空燃比が理論空燃比からリッチ側又はリーン側に変化するときのむだ時間の異常を精度良く診断することができる」(本願明細書の【0011】参照。)という、引用発明1及び引用発明2からは予測できない、格別の効果を奏するものといえる。
そうすると、本願発明1は、引用発明1及び引用発明2に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

したがって、他の相違点について判断するまでもなく、本願発明1は、引用発明1及び引用発明2に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。


2 小括
本願発明1は、原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1ないし2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。


第6 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり審決する。

 
審決日 2020-05-27 
出願番号 特願2015-95780(P2015-95780)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (F02D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 戸田 耕太郎  
特許庁審判長 渡邊 豊英
特許庁審判官 金澤 俊郎
西中村 健一
発明の名称 下流側空燃比センサの異常診断装置  
代理人 三橋 真二  
代理人 関根 宣夫  
代理人 鶴田 準一  
代理人 河野 努  
代理人 伊藤 公一  
代理人 利根 勇基  
代理人 青木 篤  

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