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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G01N
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G01N
管理番号 1362832
審判番号 不服2019-6536  
総通号数 247 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-07-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-05-20 
確定日 2020-06-16 
事件の表示 特願2014-217689「検体用ホルダ」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 5月19日出願公開、特開2016- 85108、請求項の数(8)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年10月24日の出願であって、平成30年7月6日付けで拒絶理由が通知され、同年9月6日付けで意見書及び手続補正書が提出され、平成31年1月30日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。)されたところ、令和元年5月20日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。その後、当審において令和2年2月19日付けで拒絶理由が通知され、同年4月13日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 原査定の概要
原査定の概要は次のとおりである。

本願請求項1に係る発明は、以下の引用文献A及びBに基づいて、本願請求項2及び3に係る発明は、以下の引用文献AないしDに基づいて及び本願請求項4?7に係る発明は、以下の引用文献AないしEに基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
引用文献A:特開2010-249520号公報
引用文献B:後藤啓介,「5-ALA蛍光計測による脳腫瘍境界判定に関する研究」,ライフサポート,2010年 3月25日,Vol.22, No.1,第19頁
引用文献C:特開2005-134339号公報
引用文献D:特開2007-240245号公報
引用文献E:特表平9-508706号公報

第3 当審拒絶理由の概要
当審拒絶理由の概要は次のとおりである。

1 本願請求項4?7の記載は、請求項4の「前記蓋部又は前記基体部」との記載が、上記記載以前に記載されていないから、どの「蓋部」及び「基体部」を受けているのか理解できないし、「蓋部」及び「基体部」が、請求項1?3に係る発明の「腫瘍部位識別装置に使用される検体用ホルダ」に対して、どのような関係となっているのか、特定することができないから、請求項4に係る発明の「前記蓋部又は前記基体部」は、明確であるとはいえないから、請求項4に係る発明を引用する請求項5?7に係る発明も、同様に、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

2 本願請求項1?3に係る発明は、以下の引用文献1及び2に基づいて及び本願請求項4?7に係る発明は、以下の引用文献1ないし3に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
引用文献1:後藤啓介,「5-ALA蛍光計測による脳腫瘍境界判定に関する研究」,ライフサポート,2010年 3月25日,Vol.22, No.1,第19頁(原査定の引用文献B)
引用文献2:実用新案登録第3191179号公報(当審において新たに引用した文献)
引用文献3:特開2006-191834号公報(当審において新たに引用した文献)

第4 本願発明
本願請求項1?8に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」?「本願発明8」という。)は、令和2年4月13日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定される発明であり、以下のとおりの発明である。

「 【請求項1】
光源部から射出される励起光を検体に照射し、前記検体の腫瘍部位に存在するポルフィリン類が発する蛍光を分光して検出することで、前記腫瘍部位と非腫瘍部位の識別を行う腫瘍部位識別装置に使用される検体用ホルダであって、
基体部と、
前記基体部に対してヒンジ部によって連結され、前記基体部に対して回転可能に構成された蓋部と、
前記基体部のうち、周囲よりも深さが深い箇所に形成され、前記検体を収容する収容部と、
前記検体用ホルダの外側から射出された前記励起光を透過させて前記収容部に収容された前記検体に当該励起光を照射させるための窓部とを有し、
少なくとも前記窓部が低自家蛍光性材料で構成されていることを特徴とする検体用ホルダ。
【請求項2】
前記窓部が、芳香族ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、環状オレフィン系樹脂、又はアクリル系樹脂のいずれか一又は複数で構成されていることを特徴とする請求項1に記載の検体用ホルダ。
【請求項3】
前記窓部が、波長370nm以上の光に対する光透過率が80%以上の材料で構成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の検体用ホルダ。
【請求項4】
前記蓋部又は前記基体部の少なくとも一方には封止部材が設けられており、
前記蓋部を閉じると、前記封止部材を介して前記蓋部と前記基体部が接触し、前記収容部が密閉されることを特徴とする請求項1?3のいずれか1項に記載の検体用ホルダ。
【請求項5】
前記ポルフィリン類がプロトポルフィリン類であることを特徴とする請求項1?4のいずれか1項に記載の検体用ホルダ。
【請求項6】
前記プロトポルフィリン類はプロトポルフィリンIXであることを特徴とする請求項5に記載の検体用ホルダ。
【請求項7】
1つの前記収容部を有することを特徴とする、請求項1?6のいずれか1項に記載の検体用ホルダ。
【請求項8】
前記基体部及び前記蓋部が、芳香族ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、環状オレフィン系樹脂、又はアクリル系樹脂のいずれか一又は複数で構成されていることを特徴とする、請求項1?7のいずれか1項に記載の検体用ホルダ。」

第5 当審拒絶理由について
1 特許法第36条第6項第2号について
当審では、本願請求項4の「前記蓋部又は前記基体部」との記載が、上記記載以前に記載されていないから、どの「蓋部」及び「基体部」を受けているのか理解できないから不明確であるとの拒絶の理由を通知しているが、令和2年4月13日付けの手続補正により、本願請求項1が、「基体部と、前記基体部に対してヒンジ部によって連結され、前記基体部に対して回転可能に構成された蓋部と」「を有する」と補正されたことにより、本願発明4の「前記蓋部」及び「前記基体部」が、それぞれ本願発明1の「基体部」及び「蓋部」であることが明らかとなった結果、この拒絶の理由は解消した。

2 特許法第29条第2項について
(1) 引用文献、引用発明等
ア 引用文献1について
(ア)引用文献1に記載された事項
引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている。(下線は、当審にて付した。以下、同様。)

(引1a)「1.背景
悪性脳腫瘍の一腫である神経膠腫(Glioma)の治療において,腫瘍の摘出率は患者の予後に密接に関係している.しかし神経膠腫は正常な脳組織に浸潤しながら成長するため,腫瘍部位を肉眼で正確に特定することが困難である.そのため,蛍光物質Protoporphyrin IX(PpIX)に変化して腫瘍に選択的に蓄積する5-Aminolaebrinic Acid(5-ALA)を用いた脳腫瘍同定法が考案されてきた.^(1))しかし蛍光スペクトル計測結果と病理診断結果の正確な比較が不十分であった.そこで定量分析が可能な蛍光計測装置を開発し,計測結果と病理診断結果の比較を行う.」

(引1b)「2.計測装置の開発
波長405nmの励起光を照射と,約635nmにピークを持つ腫瘍組織のPpIX蛍光計測を同軸で行う.波長の異なる励起光と蛍光の分光にはダイクロイックミラーを用いた.
また先行研究では主に光ファイバを用いて導光していたが,ファイバ接続部の状態やファイバ形状によって出力値が安定せず,定量的な比較ができなかった.^(2))
本研究では光ファイバによる不安定性を改善するために,分光器への導光以外をレンズ・ミラーを用いて光学系を構築した.評価実験の結果,計測値に対する標準偏差は6%程度であり,十分な安定性であることがわかった.また蛍光スペクトルを取得可能なスポット径は272μmであった.
脳腫瘍組織を5mm×5mmの容器に入れ,XYステージを用いて260μmごとに組織を動かし,19×19点(計361点)の蛍光スペクトル計測を行った.」

(イ)引用文献1に記載された発明
a 上記(引1b)の「腫瘍組織」と「脳腫瘍組織」とは、同じ「脳腫瘍組織を指していることは明らかであるから、「脳腫瘍組織」として整理した。

b 上記aを踏まえると、上記(引1a)及び(引1b)より、引用文献1には以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

「蛍光物質Protoporphyrin IX(PpIX)に変化して腫瘍に選択的に蓄積する5-Aminolaebrinic Acid(5-ALA)を用いた脳腫瘍同定法を行う定量分析が可能な蛍光計測装置において、
波長405nmの励起光を照射と,約635nmにピークを持つ脳腫瘍組織のPpIX蛍光計測を同軸で行い、
波長の異なる励起光と蛍光の分光にはダイクロイックミラーを用い、
脳腫瘍組織を5mm×5mmの容器に入れ,XYステージを用いて260μmごとに組織を動かし,19×19点(計361点)の蛍光スペクトル計測を行う
蛍光計測装置の上記容器」

イ 引用文献2について
(ア)引用文献2に記載された事項 引用文献2には、図面とともに次の事項が記載されている。

(引2a)「【0004】
スチロール樹脂の光学特性が好ましくないことから、スチロール樹脂を透過した光からは、微分干渉顕微鏡では、観察像を得ることができない。また、スチロール樹脂の自家蛍光が高いことから、蛍光顕微鏡にて、スチロール樹脂を透過した励起光から観察像を得ると、バックグラウンドノイズが大きくなる。このようなことから、従来の培養容器では、光学特性に優れた透明なガラス板材を底部に配置することで、微分干渉顕微鏡や蛍光顕微鏡を含む各種顕微鏡にて、当該ガラス板材上にある被培養物について、良好な観察像を得ることが可能とされている。」

(引2b)「【0007】
本考案は、上記の問題を解決するものであって、従来の培養容器よりも被培養物の接着性が高く、且つ、底部にガラス板材を設けなくとも各種顕微鏡にて良好な顕微鏡観察が行える樹脂製の培養容器を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本考案の培養容器は、被培養物を培養するのに使用される培養容器において、樹脂で一体成形された有底の容器本体を備えており、前記樹脂は、環状オレフィンコポリマーであることを特徴としている。」

(引2c)「【0014】
以下、本考案の培養容器について、図を用いて説明する。図1は、本考案の第1実施形態である培養容器(1)の斜視図である。第1実施形態の培養容器(1)は、有底の容器本体(11)と、容器本体(11)に着脱自在に装着される蓋体(31)とを備えている。図2は、容器本体(11)の上面図であり、図3は、図2に示すA-A線を通る平面で破断して矢視した容器本体(11)の断面図である。
【0015】
容器本体(11)は、円筒状の周壁部(13)とその下側を塞ぐ円盤状の底部(15)とを有しており、その内部に、培地又は培養液と、被培養物とが収容されて、被培養物が培養される。被培養物は、例えば、細胞、組織片、細菌や微生物であるが、これらに限定されない。
【0016】
図3に示すように、底部(15)は、円筒状の周壁部(13)の下端から若干上方に配置されており、底部(15)の下面が、培養容器(1)が載置される支持面と接触しないように構成されている。底部(15)の下面は平坦であるが、底部(15)の上面の中央には窪み(17)又は薄肉部分が、周壁部(13)に対して同心円状に形成されており、当該窪み(17)の底面に付着した(移動しない)被培養物が、顕微鏡観察の対象とされる。
【0017】
培養容器(1)にて培養された被培養物の観察像を得るための光は、窪み(17)を、より具体的には、窪み(17)で規定される底部(15)の薄肉部分を通る。一般的に、顕微鏡の対物レンズは、カバーグラスの厚さが0.16?0.19mmであることを想定して設計されていることから、底部(15)の薄肉部分の厚さは、0.19mm以下、より具体的には0.04?0.19mmとされるのが好ましく、例えば、0.17mmとされる。」

(引2d)「【0020】
図1に示すように、蓋体(31)は、円状の天板と円筒状の周壁部とを有しており、被培養物を培養する間、容器本体(11)に嵌められる。蓋体(31)の当該天板と容器本体(11)の周壁部(13)とが当接して容器本体(11)の上部の開口が塞がれて、容器本体(11)の内部が、外界から遮断される。被培養物の顕微鏡観察が行われる際、蓋体(31)は、容器本体(11)から取り外される。上述したように、容器本体(11)の形状は、例えば、多角形状に変更されてよく、その場合、蓋体(31)の形状も、容器本体(11)の形状に合わせて変更される。
【0021】
容器本体(11)は、無色透明の樹脂を一体成形したものであり、例えば、加熱により軟化した樹脂を射出成形することで作製される。本考案の主要な特徴は、容器本体(11)を形成する樹脂として、環状オレフィンコポリマーを用いて、容器本体(11)を一体成形したことにある。環状オレフィンコポリマーは、1種又は2種以上の環状オレフィンと1種又は2種以上の非環状オレフィンとの共重合体又はその水素添加物であって、ノルボルネンとエチレンを、メタロセン触媒にて共重合した環状オレフィンコポリマーが、光学特性と流動性の点で特に好ましい。本考案で使用可能な市販の環状オレフィンコポリマーとしては、例えば、TOPAS(登録商標)(Topas Advanced Polymers GmbH社)がある。なお、蓋体(31)は、従来より使用されているスチロール樹脂などの環状オレフィンコポリマー以外の樹脂で形成されてよい。
【0022】
環状オレフィンコポリマーを用いて容器本体(11)を一体成形して、従来の培養容器の容器本体でガラス板材を接着するために使用されていた接着剤を排除することで、被培養物の容器への接着性が高められる。さらには、ガラス板材を用いた場合と同等又はそれ以上の光学特性が容器本体(11)に与えられることから、容器本体(11)内の被培養物の顕微鏡観察、特に、微分干渉顕微鏡、位相差顕微鏡や蛍光顕微鏡による観察が良好に行われる。」

(引2e)「【0044】
<透過率測定> 実施例及び比較例2の底部(17)の薄肉部分と、比較例1のガラス板材について、紫外分光器(株式会社島津製作所製)を用いて、光の透過率を測定した。図11にその結果を示す。実施例の透過率は、可視領域(380nm<)においては、比較例1(即ちガラス)と同等であり、紫外領域(<380nm)においては、比較例1を越えている。このように、本考案の培養容器の容器本体では、可視領域において、ガラス板材を用いた従来の容器本体と同程度に明るい観察像が得られる。本考案の培養容器の容器本体では、さらに、紫外領域の波長の光を用いた被培養物の観察も可能とされている。」

(引2f)「【図11】



(イ)引用文献2に記載された技術事項について
a 上記(引2a)及び(引2b)より、引用文献2は、「スチロール樹脂の自家蛍光が高いことから、蛍光顕微鏡にて、スチロール樹脂を透過した励起光から観察像を得ると、バックグラウンドノイズが大きくなる」という「問題を解決する」ために、「培養容器は」、「環状オレフィンコポリマーである」「樹脂で一体成形された有底の容器本体を備え」るものであるから、「有底の容器本体」を形成する「樹脂」である「環状オレフィンコポリマー」は、「スチロール樹脂」に比べ「自家蛍光」が低いものであることは明らかである。

b 上記(引2e)より、(引2f)の「図11」は、「実施例及び比較例2の底部(17)の薄肉部分と、比較例1のガラス板材について、紫外分光器(株式会社島津製作所製)を用いて、光の透過率を測定」した「結果を示す」ものである。そして、(引2f)より、実施例の波長370nm以上の光に対する透過率は、80%以上である点が見て取れる。すると、実施例は、「環状オレフィンコポリマー」を使用したものであるから、「環状オレフィンコポリマー」を使用した「容器本体(11)」の「底部(17)の薄肉部分」の波長370nm以上の光に対する透過率は、80%以上であるといえる。

c 上記a及びbを踏まえると、上記(引2c)及び(引2d)より、引用文献2には、以下の技術事項(以下「技術事項2」という。)が記載されている。

「有底の容器本体(11)と、容器本体(11)に着脱自在に装着される蓋体(31)とを備えた培養容器(1)であって、
容器本体(11)は、円筒状の周壁部(13)とその下側を塞ぐ円盤状の底部(15)とを有し、
被培養物は、細胞であり、
底部(15)の下面は平坦であるが、底部(15)の上面の中央には窪み(17)が、周壁部(13)に対して同心円状に形成され、
当該窪み(17)の底面に付着した被培養物が、顕微鏡観察の対象とされ、
被培養物の観察像を得るための光は、窪み(17)で規定される底部(15)の薄肉部分を通り、
蓋体(31)は、円状の天板と円筒状の周壁部とを有し、容器本体(11)に嵌められるものであり、
蓋体(31)の当該天板と容器本体(11)の周壁部(13)とが当接して容器本体(11)の上部の開口が塞がれて、容器本体(11)の内部が、外界から遮断され、
容器本体(11)は、無色透明の樹脂を一体成形したものであり、
容器本体(11)を形成する樹脂として、スチロール樹脂に比べ自家蛍光が低い環状オレフィンコポリマーを用いて、容器本体(11)を一体成形し、
容器本体(11)の底部(17)の薄肉部分の波長370nm以上の光に対する透過率が80%以上であり、
容器本体(11)内の被培養物の蛍光顕微鏡による観察が良好に行われる培養容器(1)。」

ウ 引用文献3について
(ア)引用文献3に記載された事項
引用文献3には、図面とともに次の事項が記載されている。

(引3a)「【0001】
本発明は、ウェルを備えた生化学用容器の上面を覆う生化学用容器の蓋体に関する。
【背景技術】
【0002】
このような生化学用容器としては、従来からガラス蓋付きの皿状ガラス容器であるシャーレが知られている。シャーレは、その容器も蓋も共にガラス製ではあるが、きわめて分厚く、しかも、平面度も低いガラスで構成されているので、板ガラスに比して光の透過率が低く、かつ、自己蛍光もあり、例えば、シャーレ内で細胞を培養した後、シャーレ内の細胞をそのまま観察または測定するには不向きである。 そこで、生化学用容器の少なくとも底部を光透過率が高くて自己蛍光強度の低い材料で構成し、容器内で培養した細胞をそのまま観察または測定できるようにした細胞培養容器が提案された(例えば、特許文献1参照)。 しかしながら、この種の生化学用容器の蓋体に関しては、依然として従来のままであり、樹脂製の板や樹脂製のフィルムにより構成された蓋体が使用されている(実際に使用されてはいるが、適切な特許公報などは見当たらない)。」

(引3b)「【0007】
本発明の第1の特徴構成によれば、ウェルを備えた生化学用容器の上面を覆う蓋体が、ウェル上面を覆う板ガラスと、その板ガラスを補強するために板ガラス周囲に取り付けられた枠体により構成されているので、板ガラスの使用によって耐有機溶剤性が向上するのみならず、枠体を耐熱性材料で構成すれば、蓋をしたまま加熱殺菌処理を行うこともでき、その上、枠体による補強効果によって、ウェル上面を覆う板ガラスの板厚を極力薄くすることができる。 そのため、板ガラスの光透過率を高くし、かつ、自己蛍光強度を低く抑えることが可能となり、観察や測定時に蓋体を外す必要もなく、したがって、細かい塵埃や他物の侵入、さらには、たとえ培養液中に揮発性の成分が含まれていても、その揮発成分の揮発を抑制することができる。」

(引3c)「【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明による生化学用容器の蓋体につき、その実施の形態を図面に基づいて説明する。 生化学用容器としては、例えば、マイクロプレートがあり、マイクロプレート1は、図1および図2に示すように、平面視において矩形の形状を有し、光透過性のガラスで構成されていて、その上面に多数のウェル2を備えている。 このマイクロプレート1に用いる蓋体3は、図3に分解して示すように、多数のウェル2の上面を覆う1枚の板ガラス4と、その板ガラス4を補強するために板ガラス4の周囲に取り付けられた枠体5により構成されている。」

(引3d)「【0029】
(1)先の実施形態では、蓋体3がマイクロプレート1への係止部6aを備えた構成を示したが、この係止部6aについては、必ずしも必要不可欠なものではない。 例えば、図4に示すように、マイクロプレート1の上面に載置可能な枠体5と板ガラス4により蓋体3を構成して、蓋体3をマイクロプレート1の上面に載置することによって、多数のウェル2の上面を覆うように構成することもできる。 また、図5に示すように、シリコンゴムなどからなるシール材9を枠体5の下面に貼着して設け、蓋体3によりマイクロプレート1のウェル2上面を覆った際、蓋体3とマイクロプレート1上面との間をシールするように構成することもできる。 なお、図示はしないが、図1?図3に示した実施形態においても、同様なシール材9を蓋体3に設けて実施することもできる。」

(引3e)「【図5】



(イ)引用文献3に記載された技術事項
a 上記(引3a)より、引用文献3の技術は、「生化学用容器の少なくとも底部を光透過率が高くて自己蛍光強度の低い材料で構成し、容器内で培養した細胞をそのまま観察または測定できるようにした細胞培養容器」に関する問題を解決するための「ウェルを備えた生化学用容器の上面を覆う生化学用容器の蓋体に関する」ものであるから、引用文献3の「生化学用容器」は、「細胞をそのまま観察または測定できる」容器である。

b 上記(引3b)より、引用文献3の技術は、「生化学用容器の上面を覆う蓋体」「の光透過率を高くし、かつ、自己蛍光強度を低く抑えることが可能とな」ることにより、「観察や測定時に蓋体を外す必要もなく、したがって、細かい塵埃や他物の侵入、さらには、たとえ培養液中に揮発性の成分が含まれていても、その揮発成分の揮発を抑制することができる」ものである。

c 上記a及びbを踏まえると、上記(引3c)?(引3e)より、引用文献3には、以下の技術(以下「技術事項3」という。)が記載されている。

「細胞をそのまま観察または測定できる生化学用容器は、
上面に多数のウェル2を備えたマイクロプレート1と、
多数のウェル2の上面を覆う1枚の板ガラス4と、板ガラス4の周囲に取り付けられた枠体5により構成されたマイクロプレート1に用いる蓋体3とからなり、
蓋体3によりマイクロプレート1のウェル2上面を覆った際、蓋体3とマイクロプレート1上面との間をシールするように構成するために、シリコンゴムなどからなるシール材9を枠体5の下面に貼着して設け、
生化学用容器の上面を覆う蓋体3の光透過率を高くし、かつ、自己蛍光強度を低く抑えることにより、観察や測定時に蓋体を外す必要もなく、細かい塵埃や他物の侵入、さらには、たとえ培養液中に揮発性の成分が含まれていても、その揮発成分の揮発を抑制することができる
生化学用容器。」

(2)対比・判断
ア 本願発明1について
(ア)対比
本願発明1と引用発明とを対比する。

a 引用発明の「波長405nmの励起光」及び「脳腫瘍組織」は、それぞれ、本願発明1の「励起光」及び「検体」に相当する。そして、引用発明の「波長405nmの励起光」は、光源部から射出される光であることは明らかであって、「波長405nmの励起光を照射」は、「波長405nmの励起光」を「脳腫瘍組織」に「照射」することも明らかである。
すると、引用発明の「波長405nmの励起光を照射」は、本願発明1の「光源部から射出される励起光を検体に照射」することに相当する。

b 引用発明の「蛍光物質Protoporphyrin IX(PpIX)」は、本願発明1の「ポルフィリン類」に相当し、引用発明の「約635nmにピークを持つ脳腫瘍組織のPpIX蛍光」は、本願発明1の「前記検体の腫瘍部位に存在するポルフィリン類が発する蛍光」に相当する。そして、引用発明の「波長の異なる励起光と蛍光」は、「ダイクロイックミラーを用い」て「分光」されるから、引用発明の「分光」された「約635nmにピークを持つ脳腫瘍組織のPpIX蛍光計測」を「行」うことは、本願発明1の「前記検体の腫瘍部位に存在するポルフィリン類が発する蛍光を分光して検出すること」に相当する。

c 引用発明の「蛍光物質Protoporphyrin IX(PpIX)に変化して腫瘍に選択的に蓄積する5-AminolaebrinicAcid(5-ALA)を用いた脳腫瘍同定法を行う定量分析が可能な蛍光計測装置」は、本願発明1の「前記腫瘍部位と非腫瘍部位の識別を行う腫瘍部位識別装置」に相当し、引用発明の「脳腫瘍組織を」「入れ」る「5mm×5mmの容器」は、本願発明1の「検体用ホルダ」に相当する。そして、引用発明の「5mm×5mmの容器」は、上記「蛍光計測装置」に使用されるものである。
すると、引用発明の「蛍光物質Protoporphyrin IX(PpIX)に変化して腫瘍に選択的に蓄積する5-AminolaebrinicAcid(5-ALA)を用いた脳腫瘍同定法を行う定量分析が可能な蛍光計測装置」に使用される「脳腫瘍組織を」「入れ」る「5mm×5mmの容器」は、本願発明1の「前記腫瘍部位と非腫瘍部位の識別を行う腫瘍部位識別装置に使用される検体用ホルダ」に相当する。

d 引用発明の「5mm×5mmの容器」は、「脳腫瘍組織」が「入れ」られ、「XYステージを用いて260μmごとに組織を動かし」、「19×19点(計361点)の蛍光スペクトル計測を行う」ためのものであるから、引用発明の「5mm×5mmの容器」には、「脳腫瘍組織」を収容する収容部があることは明らかであるから、引用発明の「5mm×5mmの容器」と本願発明1の「検体用ホルダ」とは、「前記検体を収容する収容部」を有している点で一致する。

e 引用発明の「波長405nmの励起光」は、「5mm×5mmの容器」の外側から射出され、前記収容部に収容された「脳腫瘍組織」に「波長405nmの励起光」を照射させているから、本願発明1と「前記検体用ホルダの外側から射出された前記励起光を前記収容部に収容された前記検体に当該励起光を照射させる」点で一致する。

f 以上、a?eより、本願発明1と引用発明との間には、以下の一致点及び相違点が有る。

(一致点)「光源部から射出される励起光を検体に照射し、前記検体の腫瘍部位に存在するポルフィリン類が発する蛍光を分光して検出することで、前記腫瘍部位と非腫瘍部位の識別を行う腫瘍部位識別装置に使用される検体用ホルダであって、
前記検体を収容する収容部を有し、
前記検体用ホルダの外側から射出された前記励起光を前記収容部に収容された前記検体に当該励起光を照射させる
検体用ホルダ。」

(相違点1)検体用ホルダが、本願発明1は、「基体部と、前記基体部に対してヒンジ部によって連結され、前記基体部に対して回転可能に構成された蓋部と、前記基体部のうち、周囲よりも深さが深い箇所に形成され」た「収容部」を有しているのに対し、引用発明は、そのような特定がない点。

(相違点2)前記検体用ホルダの外側から射出された前記励起光を前記収容部に収容された前記検体に照射させるにあたり、本願発明1は、「前記検体用ホルダの外側から射出された前記励起光を透過させて前記収容部に収容された前記検体に当該励起光を照射させるための窓部」を有し、「少なくとも前記窓部が低自家蛍光性材料で構成されている」のに対し、引用発明は、そのような特定がない点。

(イ)判断
上記相違点1について検討する。
技術事項2の「容器本体(11)」及び「蓋体(31)」は、それぞれ、本願発明1の「基体部」及び「蓋部」に相当し、技術事項2の「容器本体(11)」の「底部(15)の上面の中央に」「形成された」「窪み(17)」は、「被培養物が」、「当該窪み(17)の底面に付着し」、「顕微鏡観察の対象とされ」るから、本願発明1の「前記基体部のうち、周囲よりも深さが深い箇所に形成され」た「収容部」に相当する。また、技術事項3の「マイクロプレート1」及び「蓋体3」は、それぞれ、本願発明1の「基体部」及び「蓋部」に相当し、技術事項3の「マイクロプレート1」に備えられた「ウェル2」は周囲よりも深さが深い箇所に細胞を収容するものであるから、本願発明1の「前記基体部のうち、周囲よりも深さが深い箇所に形成され」た「収容部」に相当する。
すると、技術事項2及び3は、相違点1に係る本願発明1の「基体部」と、「蓋部」と、「前記基体部のうち、周囲よりも深さが深い箇所に形成され」た「収容部」とを有しているものの、技術事項2の「蓋体(31)」と「容器本体(11)」及び技術事項3の「蓋体3」と「マイクロプレート1」は、ともに、ヒンジ部によって連結されておらず、回転可能に構成されていないから、相違点1に係る本願発明1の「検体用ホルダ」が、「前記基体部に対してヒンジ部によって連結され、前記基体部に対して回転可能に構成された蓋部」を有するという構成について、技術事項2及び3は有していない。
してみれば、引用発明に、技術事項2及び3を適用しても、相違点1に係る本願発明1の「検体用ホルダ」が、「前記基体部に対してヒンジ部によって連結され、前記基体部に対して回転可能に構成された蓋部」を有するという構成を充足しない。
加えて、基体部と蓋部をヒンジ部によって連結し、基体部と蓋部を回転可能にすること自体は機械要素として慣用的なことではあるが、ポルフィリン類が発する蛍光を分光し検出することで腫瘍部位を識別する装置において、基体部と蓋部をヒンジ部によって連結し、基体部と蓋部を回転可能にする検体ホルダーを用いることが本願出願前において周知技術であるとはいえず、そして、引用発明は「脳腫瘍組織を5mm×5mmの容器に入れ,XYステージを用いて260μmごとに組織を動か」すものであるから、その容器を、「前記基体部に対してヒンジ部によって連結され、前記基体部に対して回転可能に構成された蓋部」を有するという構成にする動機もない。
したがって、他の相違点について判断するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても引用発明、技術的事項2及び3に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

イ 本願発明2?8について
本願発明1を引用する本願発明2?8も、本願発明1の「検体用ホルダ」が、「基体部と、前記基体部に対してヒンジ部によって連結され、前記基体部に対して回転可能に構成された蓋部と、前記基体部のうち、周囲よりも深さが深い箇所に形成され」た「収容部」とを有するという構成と同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明、引用文献2及び3に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

第6 原査定についての判断
令和2年4月13日付けの補正により、補正後の請求項1?8は、「検体用ホルダ」が、「基体部と、前記基体部に対してヒンジ部によって連結され、前記基体部に対して回転可能に構成された蓋部と、前記基体部のうち、周囲よりも深さが深い箇所に形成され」た「収容部」とを有するという技術的事項を有するものとなった。当該「検体用ホルダ」が、「基体部と、前記基体部に対してヒンジ部によって連結され、前記基体部に対して回転可能に構成された蓋部」とを有するという構成は、原査定における引用文献A?E(引用文献Bは当審拒絶理由における引用文献1)には記載されておらず、上記引用文献Aを主引用例としても、上記第5の2(2)ア(イ)で示した判断のとおり、当業者が容易になし得たものとはいえない。
よって、本願発明1?8は、当業者であっても、原査定における引用文献A?Eに基づいて容易に発明できたものではない。したがって、原査定を維持することはできない。

第7 むすび
以上のとおり、原査定の理由及び当審の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。

 
審決日 2020-06-01 
出願番号 特願2014-217689(P2014-217689)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G01N)
P 1 8・ 537- WY (G01N)
最終処分 成立  
前審関与審査官 横尾 雅一  
特許庁審判長 三崎 仁
特許庁審判官 信田 昌男
福島 浩司
発明の名称 検体用ホルダ  
代理人 特許業務法人 ユニアス国際特許事務所  
代理人 特許業務法人 ユニアス国際特許事務所  
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