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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G02B
管理番号 1362852
審判番号 不服2019-13529  
総通号数 247 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-07-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-10-09 
確定日 2020-06-23 
事件の表示 特願2017-501566「光線方向制御素子及び表示装置」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 9月 1日国際公開、WO2016/135811、請求項の数(7)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 事案の概要
1 手続等の経緯
特願2017-501566号(以下「本件出願」という。)は、2015年(平成27年)2月23日に国際出願された特許出願であって、その手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。
平成30年12月27日付け:拒絶理由通知書
平成31年 2月27日付け:意見書
平成31年 2月27日付け:手続補正書
令和 元年 7月19日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
令和 元年10月 9日付け:審判請求書


2 原査定の概要
原査定の拒絶の理由は、概略、本件出願の請求項1?請求項7に係る発明は、本件出願前に日本国内において頒布された刊行物である引用文献1?4に記載された発明に基づいて、本件出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
引用文献1:特開2013-190608号公報
引用文献2:特開2008-107404号公報
引用文献3:特開2007-334279号公報
引用文献4:特開2008-89727号公報
(当合議体注:引用文献1?4は、いずれも主引用例となる文献であり、引用文献1は、引用文献2?4が主引用例である場合の周知例となる文献である。)

3 本願発明
本件出願の請求項1?請求項7に係る発明(以下、それぞれ、「本件発明1」?「本件発明7」という。)は、平成31年2月27日付け手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項、及び本件出願の願書に最初に添付した特許請求の範囲の請求項2?請求項7に記載された事項によって特定されるとおりの、以下のものである。
「【請求項1】
基板上に配列された光透過性材料からなる光透過領域と、前記光透過領域の隙間に充填された光吸収性材料からなる光吸収領域と、を有し、前記光吸収領域が前記基板を通過する光の光線方向を制限する光線方向制御素子であって、
前記光吸収領域は、基板面内で互いに直角の角度を成す第一の方向及び第二の方向に延在して設けられ、前記第一の方向に延在する前記光吸収領域と前記第二の方向に延在する前記光吸収領域とがL字状またはT字状に交差する交差部分を有するとともに、前記交差部分ではない、前記第一の方向又は前記第二の方向に延在する前記光吸収領域の部分に、前記光吸収領域を分断する複数の構造物を有しており、
前記複数の構造物と前記光透過領域とにより、前記光吸収領域が第一の方向及び第二の方向に対して閉じた領域となっていることを特徴とする光線方向制御素子。
【請求項2】
前記構造物が、前記光透過領域と同一材料で構成されることを特徴とする請求項1に記載の光線方向制御素子。
【請求項3】
前記構造物が、前記光透過領域であることを特徴とする請求項2に記載の光線方向制御素子。
【請求項4】
前記光透過領域と前記構造物とにより、前記光吸収領域が孤立した部分が含まれることを特徴とする請求項1に記載の光線方向制御素子。
【請求項5】
前記構造物が、前記光透過領域と同一材料で構成されることを特徴とする請求項4に記載の光線方向制御素子。
【請求項6】
前記光吸収領域は、前記孤立した部分の繰り返しであることを特徴とする請求項4または5に記載の光線方向制御素子。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか一に記載の光線方向制御素子を表示パネルの前面あるいは背面に設けたことを特徴とする表示装置。」


第2 当合議体の判断
1 引用文献の記載及び引用発明
(1) 引用文献1の記載
原査定の拒絶の理由で引用された上記引用文献1(特開2013-190608号公報)は、本件出願前に日本国内において、頒布された刊行物であるところ、そこには、以下の記載がある。なお、下線は当合議体が付したものであり、引用発明の認定及び判断等に活用した箇所を示す。
ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、覗き見防止フィルム、覗き見防止フィルムの製造装置および覗き見防止フィルムの製造方法に係り、たとえば、パーソナルコンピュータの画面に設置されて横方向から覗き見されることを防止する覗き見防止フィルム等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年のノートパソコン等の表示装置(たとえばLCD)は、視野角が広くなっている。LCDの画面を横から見ても、画面の表示内容をCRTの場合と同様にはっきり見ることができるようになっている。
【0003】
会議等多くの人が同時に画面を見る必要がある場合には、表示装置の視野角が大きいと都合がよいが、個人が使用するパソコンや携帯端末で表示装置の視野角が大きいと、秘密情報や秘密にしておきたい情報が覗き見されるおそれがある。
【0004】
そこで、上記覗き見を防止するために、表示装置の視野角を狭める覗き見防止フィルムが従来から知られている(たとえば、特許文献1参照)
・・・(省略)・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記従来の覗き見防止フィルムは、エッチング等の工程を経て、観察部や壁部を生成しているので、観察部と壁部との境界が不鮮明になり、覗き見防止フィルムを設置したLCD等の表示部が見にくくなるおそれがあるという問題がある。
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、覗き見防止フィルムを設置したLCD等の表示部が見にくくなるおそれを回避することができる覗き見防止フィルムとその製造方法等を提供することを目的とする。
・・・(省略)・・・
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、覗き見防止フィルムを設置したLCD等の表示部が見にくくなるおそれを回避することができるという効果を奏する。」

イ 「【発明を実施するための形態】
【0023】
覗き見防止フィルム1は、ノートパソコンのLCD等の表示装置を覆うように設置されて使用されるものである。覗き見防止フィルム1が設置されたことで、LCDの視野角が狭くなり、横方向等の斜めの角度からの表示装置の覗き見が防止される。
【0024】
覗き見防止フィルム1は、図1で示すように、第1の基材(底材;ベース材)3と観察部(光透過部;透光部)5と壁部(遮光部)7と第2の基材(蓋材)9とを備えて構成されている。なお、図1等で示している寸法は参考寸法である。
【0025】
第1の基材3は、光(可視光)を透過する材料(たとえば透明なPET樹脂)で平板状に形成されている。
【0026】
観察部5も、光を透過する材料で構成されている。また、透明な観察部5は、たとえば、柱状に形成されて多数設けられており、第1の基材3の厚さ方向の一方の面から起立している。さらに、各観察部5は、お互いが、第1の基材3の面内方向で(第1の基材3の厚さ方向に直交する方向で)、所定のわずかな間隔を開けて配置されている。
【0027】
さらに説明すると、観察部5は、たとえば四角柱状(正六角柱状等他の柱状でもよい。)に形成されており、お互いが、第1の基材3の面内方向で僅かに離れ、第1の基材3に一体的に設けられている。柱状の観察部5の高さ方向が、第1の基材3の厚さ方向と一致している。
【0028】
また、観察部5は、高さ寸法が縦寸法や横寸法よりも大きく形成されており、底面が第1の基材3に面接触している。第1の基材3の厚さ方向から見ると、各観察部5は、行列をなして配置されており、各観察部5間の間隙は格子状になっている。格子状の間隙の幅は、観察部5の縦寸法や横寸法よりも小さくなっている。
【0029】
壁部7は、不透明な材料(光を透過しない材料;光の透過率が極めて低いものを含む)で構成されており、各観察部5の間の格子状の間隙に充填されている。これにより第1の基材3の厚さ方向から見ると、観察部5と壁部7とが交互に配置されていると言える。
【0030】
第2の基材9も、第1の基材3と同様にして、光(可視光)を透過する材料(たとえば透明なPET樹脂)で平板状に形成されている。第2の基材9は、この厚さ方向の一方の面が観察部5と壁部7とに対向し(たとえば接し)て、第1の基材3と協働して観察部5と壁部7とを挟み込んでいる。各基材3,9と観察部5と壁部7とは一体化している。
【0031】
覗き見防止フィルム1は、パソコンのLCD等の表示画面(表示装置の表示画面)に設置されて使用されるのであるが、この設置がなされた状態では、覗き見防止フィルム1の厚さ方向(各基材3,9の厚さ方向)が、パソコンのLCD等の表示画面と直交しており、また、表示画面の全面を覗き見防止フィルム1が覆っている。そして、壁部7によって光が遮られ、表示画面の視野角が狭まるようになっている。」

ウ 「【0162】
ところで、覗き見防止フィルム1では、覗き見防止フィルム1をこの厚さ方向から見ると、壁部7が、格子状になっているが、必ずしも格子状になっている必要はなく、他の形状になっていてもよい(図19、図20、図23等参照)。
【0163】
たとえば、壁部7が図19や図20で示すように、波状(曲がりが90°の角度になっている三角波状)に形成されていてもよい。図19や図20で示すのもので真空引きによって第2の被成形物19を設ける場合、矢印ARの方向(ジグザク状の壁部7が延びている方向)が真空引きの方向になっていることが望ましい。また、壁部7の幅は、観察部5の幅よりも狭くなっている。
【0164】
なお、図23で示すものでは、各観察部5同士がお互いに離れている。このような覗き見防止フィルム1の製造では、最後に第2の基材9が設置されなければならない。
・・・(省略)・・・
【0168】
ところで、図21や図22で示すように、壁部7の角部を円弧状に形成してもよい。これにより、第2の被成形物19が間隙内をさらに一層流れやすくなる。」

エ 【図1】(a)




オ 【図1】(b)




カ 【図19】





キ 【図20】





ク 【図22】




ケ 【図23】




(2) 引用発明
引用文献1の【0024】?【0031】、図1(a)、(b)には、「覗き見防止フィルム」として、次の発明が記載されている(以下「引用発明」という。)。なお、用語を統一して記載した。
「第1の基材と観察部と壁部と第2の基材とを備えて構成されている覗き見防止フィルムであって、
第1の基材は、光(可視光)を透過する材料で平板状に形成され、
観察部は、光を透過する材料で構成され、柱状に形成されて多数設けられており、第1の基材3の厚さ方向の一方の面から起立しており、第1の基材の厚さ方向から見ると、各観察部は、行列をなして配置され、各観察部間の間隙は格子状になっており、
壁部は、不透明な材料で構成されており、各観察部の間の格子状の間隙に充填され、これにより第1の基材の厚さ方向から見ると、観察部と壁部とが交互に配置され、
第2の基材は、光(可視光)を透過する材料で平板状に形成され、
覗き見防止フィルムは、表示画面に設置されて使用され、この設置がなされた状態では、覗き見防止フィルムの厚さ方向が、表示画面と直交しており、また、表示画面の全面を覗き見防止フィルムが覆い、壁部によって光が遮られ、表示画面の視野角が狭まるようになっている、覗き見防止フィルム。」

(3) 引用文献2
原査定の拒絶の理由で引用された上記引用文献2(特開2008-107404号公報)は、本件出願前に日本国内において、頒布された刊行物であるところ、そこには、以下の記載がある。

ア 「【0001】
本発明は、透過光の出射方向の範囲を制限するマイクロルーバーを含む光学素子に関する。さらには、本発明は、そのような光学素子を用いた照明光学装置および液晶表示装置(LCD)やプラズマディスプレイに代表される表示装置に関する。」

イ 「【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
次に、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【0015】
(第1の実施形態)
図1は本発明の第1の実施形態に係る光学素子を示す断面図である。図2は図1に示したマイクロルーバーの平面図である。
【0016】
本実施形態の光学素子は、それぞれ直線形状の光吸収層2と透明層3とを一方向に交互に配置した周期構造体からなるマイクロルーバー1と、マイクロルーバー1上に貼り付けられた拡散層4とを有している。本実施形態におけるマイクロルーバー1は、光吸収層2と透明層3との配置周期のピッチが一定である。さらに、本実施形態のマイクロルーバー1は、その厚さDに対する透明層3の幅Sの比が、従来の一般的なマイクロルーバーよりも小さくなっている。したがって、本実施形態におけるマイクロルーバー1は、その全体にわたって、透明層3を透過した光の視野角が従来の一般的なマイクロルーバーよりも狭くなっている。なお、マイクロルーバー1の両面には不図示の透明基板が張り合わされている。」

ウ 「【0058】
(その他の実施形態)
図13は、本発明の光学素子に適用可能な各種のマイクロルーバーを示す平面図である。
【0059】
図13(a)に示すマイクロルーバーは、光吸収層2が中央領域から周囲領域へ渦巻き状に延びている。光吸収層2の隣接する部分同士の間における透明層3の幅は、マイクロルーバーの中心から周囲領域へ向かう任意の方向において、マイクロルーバーの中央領域で広く、その周囲領域では中央領域における幅よりも狭くなっている。このマイクロルーバー上に貼り付けられる拡散層(不図示)は、マイクロルーバーの中心から周囲領域へ向かう任意の方向において、光学素子の周囲領域における拡散度が中央領域における拡散度よりも低くなるように構成されている。
【0060】
図13(b)に示すマイクロルーバーは、複数の正方形の光吸収層2が同心状に配置されている。隣接する正方形の光吸収層2同士の間における透明層3の幅は、マイクロルーバーの中心から周囲領域へ向かう任意の方向において、マイクロルーバーの中央領域で広く、その周囲領域では中央領域における幅よりも狭くなっている。このマイクロルーバー上に貼り付けられる拡散層(不図示)は、マイクロルーバーの中心から周囲領域へ向かう任意の方向において、光学素子の周囲領域における拡散度が中央領域における拡散度よりも低くなるように構成されている。」

エ 【図1】




オ 【図2】




カ 【図13】(a)?(b)




(4) 引用文献3
原査定の拒絶の理由で引用された上記引用文献3(特開2007-334279号公報)は、本件出願前に日本国内において、頒布された刊行物であるところ、そこには、以下の記載がある。

ア 「【0001】
本発明は、出射光の指向性を制御する光線方向制御素子(ルーバー)とその製造方法、そのような光線方向制御素子を用いた光源及び表示装置とに関する。」

イ 「【0029】
本実施形態の光線方向制御素子55は、基板面上に光吸収領域12と光硬化性材料からなる透明領域13とが交互に配置したものであって、図1に示すように、断面構造としては、2枚の透明な基板11,14の間に透明領域13がとびとびに配置し、これらの透明領域13間の空隙を充填するように光吸収領域12が形成されている。このように透明領域13に隣接して光吸収領域12が配置されていることから、基板11または14を介して透明領域13に入射した光のうち、入射角度が小さい光、すなわち基板面に対して垂直に近い光は透明領域13を通過するが、入射角度が大きい光は、光吸収領域12に吸収されることになる。したがって、光吸収領域12は、光線方向を制御するルーバーとして機能しており、光線方向制御素子55を通過させることで入射光の角度分布を制限することが可能となる。
【0030】
この光線方向制御素子55は、図2に示すように、透明領域13が基板面内において透明パターンを形成しており、これによって、光吸収領域12の平面的にみた連続形状が、正弦波状の曲線形状を形成している。このような形状によれば、入射光からみて基板面内あらゆる方向に光吸収領域12が存在することになり、基板面内あらゆる方向の入射光の角度分布を制限する。
【0031】
ところで、光吸収領域12の形状及び配置は、図2に示したような正弦波状のものを周期的に面内に配置するものに限られるものではない。例えば、図3(a)に示すように、正弦波状の光吸収領域12の幅自体は一定のものとして、光吸収領域12の間の透明パターン(透明領域13)の幅が変動するようにして光吸収領域12を面内に配置してもよい。この場合、光吸収領域12のx方向の配置が一定周期のものではなくなるが、その場合であっても、上述と同様の効果を得ることができる。また、図3(b)に示すように、それぞれが正弦波状であってy方向に延びる光吸収領域12について、x方向に隣接する光吸収領域間で正弦波における位相が180°だけずれるようにしたものにおいても同様の効果を得ることができる。
【0032】
なお、ここでは、光吸収領域12は図示y方向に延びる周期曲線形状としているが、x方向、y方向の定め方は便宜的なものであり、周期曲線の方向を上述のように定める必要はない。さらに言えば、光吸収領域12は、周期曲線形状でなくでも、複数の曲線形状であれば、どのような曲線に形成されていてもよい。
【0033】
このように本実施の形態の光線方向制御素子では、あらゆる方向においても光の広がりを制限できるようにするために、基板面に垂直な方向から見て、折れ線形状,曲線形状,格子形状,網目形状のいずれか1つの形状を有するように光吸収領域を形成することができる。このような形状の光吸収領域は、光吸収性のフィルムと透明なフィルムとを交互に積層して溶融、圧着して所望の厚さとしたブロックとし、積層面に対して垂直方向から薄くスライスしてマイクロルーバーフィルムとする従来の方法では、形成し得ないものであり、本発明の方法によって初めて形成できるものである。当然のことであるが、本実施形態の方法によれば、図22に示したように直線状の光吸収領域12が一定周期であるいは可変ピッチで基板上に配列している光線方向制御素子も、容易に作製することができる。
【0034】
あるいは本実施形態の光線方向制御素子55では、図4(a)あるいは図4(b)に示すように、光吸収領域12は、複数の折れ線形状に形成されていてもよく、あるいは、図5(a)あるいは図5(b)に示すように、網目形状、格子形状に形成されていてもよい。このように折れ線形状、網目形状、格子形状に光吸収領域12が形成されていても、上述と同様の効果が得られる。」

ウ 【図1】




エ 【図2】




オ 【図3】(a)?(b)




カ 【図4】(a)?(b)




キ 【図5】(a)?(b)




(5) 引用文献4
原査定の拒絶の理由で引用された上記引用文献4(特開2008-89727号公報)は、本件出願前に日本国内において、頒布された刊行物であるところ、そこには、以下の記載がある。

ア 「【0001】
本発明は、透過光の出射方向の範囲が制限されるマイクロルーバーと呼ばれる光学素子に関する。さらには、本発明は、そのような光学素子を用いた照明光学装置および液晶表示装置(LCD)やプラズマディスプレイに代表される表示装置に関する。」

イ 「【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
次に、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【0025】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の光学素子の第1の実施形態であるマイクロルーバーの周期構造を示す模式図、図2は、そのマイクロルーバーの断面図である。
【0026】
本実施形態のマイクロルーバーは、図2に示すように、光吸収層10と透明層11を交互に配置した周期構造体を2枚の透明基板12、13で狭持したものである。周期構造体は、図1に示すように、複数の周期構造1?5を有する。周期構造1?5のそれぞれにおける、光吸収層10と透明層11からなる部分の繰り返し周期PIは同じである。周期PIは、図2に示す光吸収層10と透明層11からなる部分のピッチPに対応する。また、光吸収層10の幅w1および厚さt1、透明層11の幅w2および厚さt2(=t1)は、周期構造1?5の間で同じである。
【0027】
周期構造1、3、5は、それぞれの空間周波数の位相が同じとされている。周期構造2、4も、それぞれの空間周波数の位相が同じとされているが、この周期構造2、4における空間周波数の位相は、周期構造1、3、5における空間周波数の位相に対してπだけずれている。ここでは、周期構造1、3、5における空間周波数の位相を「0」、周期構造2、4における空間周波数の位相を「π」として表す。
・・・(省略)・・・
【0032】
(第2の実施形態)
図4は、本発明の第2の実施形態であるマイクロルーバーの周期構造を示す模式図である。本実施形態のマイクロルーバーも、図2に示したような、光吸収層10と透明層11を交互に配置した周期構造体を2枚の透明基板12、13で狭持した構成となっているが、周期構造体を構成する複数の周期構造1?5の空間周波数の位相の関係が、第1の実施形態のものと異なる。本実施形態では、位相「0」の周期構造と位相「π」の周期構造の配置は、数列の生成則や乱数に基づいて決定される。
・・・(省略)・・・
【0043】
(第3の実施形態)
図7は、本発明の第3の実施形態であるマイクロルーバーの周期構造を示す模式図である。本実施形態のマイクロルーバーも、図2に示したような、光吸収層10と透明層11を交互に配置した周期構造体を2枚の透明基板12、13で狭持した構成となっているが、周期構造体を構成する複数の周期構造1?5の空間周波数の位相の関係が、第1の実施形態のものと異なる。本実施形態では、位相「0」の周期構造、位相「π/4」の周期構造、位相「π/2」の周期構造、位相「π」の周期構造の4種類の周期構造を用いて周期構造体を構成する。
【0044】 図7に示した構造において、周期構造1、5は位相「0」の周期構造とされ、周期構造2は位相「π/4」の周期構造とされ、周期構造3は位相「π/2」の周期構造とされ、周期構造4は位相「π」の周期構造とされている。すなわち、周期構造2、3、4における空間周波数の位相はそれぞれ、周期構造1、5の空間周波数の位相に対して、π/4、π/2、πだけずれている。この実施形態でも、第1の実施形態と同様に、周期構造1?5のそれぞれにおける、光吸収層10と透明層11からなる部分の繰り返し周期PIは同じである。また、各周期構造の大きさは0.1mm程度以下とされる。空間周波数の位相がずれた周期構造の間において、それぞれの周期構造は、その位相差に応じた透過特性(位相差がπの周期構造の間は、図3に示すような透過特性となる)を有する。光吸収層と透過層は図3のx軸の方向に交互に配置される。」

ウ 【図1】




エ 【図2】




オ 【図4】




カ 【図7】




2 引用文献1を主引用例とした場合の判断
(1) 本件発明1について
ア 対比
本件発明1と引用発明を対比すると、以下のとおりとなる。

(ア)基板
引用発明は、「第1の基材と観察部と壁部と第2の基材とを備えて構成されている覗き見防止フィルムであって、第1の基材は、光(可視光)を透過する材料で平板状に形成され」るものである。
上記構成からみて、引用発明の「第1の基材」は、本件発明1の「基板」に相当する。

(イ)光透過領域
引用発明の「観察部」は、「光を透過する材料で構成され、柱状に形成されて多数設けられており、第1の基材3の厚さ方向の一方の面から起立しており、第1の基材の厚さ方向から見ると、各観察部は、行列をなして配置され、各観察部間の間隙は格子状になって」いるものである。
上記構成及び材料からみて、引用発明の「観察部」は、本件発明1の「光透過領域」に相当する。また、引用発明の「観察部」が「第1の基材」上に配列したものであることは明らかである。
そうしてみると、引用発明は、本件発明1の「基板上に配列された光透過性材料からなる光透過領域」「を有」するという要件を満たす。

(ウ)光吸収領域
引用発明の「壁部」は、「不透明な材料で構成されており、各観察部の間の格子状の間隙に充填され、これにより第1の基材の厚さ方向から見ると、観察部と壁部とが交互に配置され」るものである。
上記構成及び材料からみて、引用発明の「壁部」は、本件発明1の「光吸収領域」に相当する。また、引用発明の「壁部」が「観察部」の隙間に充填されていることは明らかである。
そうしてみると、引用発明は、本件発明1の「前記光透過領域の隙間に充填された光吸収性材料からなる光吸収領域」「を有」するという要件を満たす。

(エ)光線方向制御素子
引用発明は、「第1の基材と観察部と壁部と第2の基材とを備えて構成されている覗き見防止フィルムであって、」「覗き見防止フィルムは、表示画面に設置されて使用され、この設置がなされた状態では、覗き見防止フィルムの厚さ方向が、表示画面と直交しており、また、表示画面の全面を覗き見防止フィルムが覆い、壁部によって光が遮られ、表示画面の視野角が狭まるようになっている」ものである。
上記構成及び機能からみて、引用発明の「覗き見防止フィルム」は、「前記光吸収領域が前記基板を通過する光の光線方向を制限する」とされる、本件発明1の「光線方向制御素子」に相当する。

イ 一致点及び相違点
(ア)一致点
本件発明1と引用発明は、次の構成で一致する。
「 基板上に配列された光透過性材料からなる光透過領域と、前記光透過領域の隙間に充填された光吸収性材料からなる光吸収領域と、を有し、前記光吸収領域が前記基板を通過する光の光線方向を制限する光線方向制御素子。」

(イ)相違点
本件発明1と引用発明は、次の点で相違する。
(相違点)
「光吸収領域」が、本件発明1は、[A]「基板面内で互いに直角の角度を成す第一の方向及び第二の方向に延在して設けられ、前記第一の方向に延在する前記光吸収領域と前記第二の方向に延在する前記光吸収領域とがL字状またはT字状に交差する交差部分を有する」とともに、[B]「前記交差部分ではない、前記第一の方向又は前記第二の方向に延在する前記光吸収領域の部分に、前記光吸収領域を分断する複数の構造物を有しており、」[C]「前記複数の構造物と前記光透過領域とにより、」「第一の方向及び第二の方向に対して閉じた領域となっている」のに対して、引用発明は、「各観察部の間の格子状の間隙に充填され、これにより第1の基材の厚さ方向から見ると、観察部と壁部とが交互に配置され」ている点。

ウ 判断
上記相違点について検討する。
引用文献1の【0162】?【0163】、【0168】、図19、20、22においては、「壁部が格子状でない覗き見防止フィルムとして、壁部が波状である覗き見防止フィルム」(以下「引用文献1に記載された事項1」という。)、引用文献1の【0164】、図23には、「各壁部同士がお互いに離れている覗き見防止フィルム」(以下「引用文献1に記載された事項2」という。)が、それぞれ記載されている。上記引用文献1に記載された事項1により、引用文献1には、上記相違点に係る構成[A]、引用文献1に記載された事項2により、引用文献1には、上記相違点に係る構成[B]及び[C]が、それぞれ記載されているといえる。
しかしながら、引用文献1には、上記相違点に係る構成[A]、[B]及び[C]の全てを満たす構成は記載されていない。そして、壁部が格子状である覗き見防止フィルム(【0024】?【0031】、図1)、壁部が格子状でない覗き見防止フィルム(【0162】?【0163】、【0168】、図19、20、22)、各壁部同士がお互いに離れている覗き見防止フィルム(【0164】、図23)を組み合わせることは、記載も示唆もされていない。
そうしてみると、引用発明並びに引用文献1に記載された事項1及び2から、上記相違点に係る本件発明1の構成に到ることができたとはいえない。

エ 効果
本件発明1は、上記相違点に係る構成を有することにより、「生産性を落とすことなく、光吸収性材料の熱収縮による反りを抑制し、透明な基板同士の接着力を高め信頼性を向上させた、光線方向制御素子及び当該光線方向制御素子を備える表示装置の実現が可能となる。」(【0015】)、「光吸収性材料23の熱収縮の応力の分散が図られるため、ある特定の直線方向(X方向あるいはY方向)への応力の集中、蓄積を防ぐことができ、透明基板12の反りの発生を抑制し、透明基板同士の接着力を高め、光線方向制御素子の信頼性を向上させることができる。」(【0034】)という効果を奏するものである。
そして、当該効果は、引用文献1?4から当業者が予測し得る範囲内の事項ではない。

オ 小括
以上のとおりであるから、本件発明1は、たとえ当業者といえども、引用発明並びに引用文献1に記載された事項1及び2に基づいて、容易に発明をすることができたとはいえない。

(2) 本件発明2?本件発明7について
本件発明2?本件発明7は、いずれも、上記相違点1に係る本件発明1の構成を具備するものである。
そうしてみると、これら発明についても、たとえ当業者といえども、引用発明及び引用文献1に記載された事項1及び2に基づいて、容易に発明をすることができたとはいえない。

3 引用文献2ないし引用文献4のうち、いずれかに記載された発明を主引用例とした場合の判断
(1) 本件発明1について
ア 対比
本件発明1と引用文献2ないし引用文献4のうち、いずれかに記載された発明を対比すると、上記相違点と同様の相違点(特に、構成[B]及び[C])で相違する。

イ 判断
上記2で示したように、引用文献1には、上記相違点に係る構成[A]、[B]及び[C]の全てを満たす構成は記載されていない。そして、引用文献2ないし引用文献4には、引用文献2ないし引用文献4に記載された発明に引用文献1に記載された事項1及び2を適用することは、記載も示唆もされていない。
そうしてみると、引用文献2ないし引用文献4に記載された発明並びに引用文献1に記載された事項1及び2から、上記相違点に係る本件発明1の構成に到ることができたとはいえない。

ウ 小括
以上のとおりであるから、本件発明1は、たとえ当業者といえども、引用文献2ないし引用文献4に記載された発明並びに引用文献1に記載された事項1及び2に基づいて、容易に発明をすることができたとはいえない。

(2) 本件発明2?本件発明7について
本件発明2?本件発明7は、いずれも、上記相違点に係る本件発明1の構成を具備するものである。
そうしてみると、これら発明についても、たとえ当業者といえども、引用文献2ないし引用文献4に記載された発明並びに引用文献1に記載された事項1及び2に基づいて、容易に発明をすることができたとはいえない。


第3 原査定について
前記「第2」で述べたとおりであるから、原査定の理由を維持することはできない。

第4 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては本件出願を拒絶することはできない。
また、他に本件出願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2020-06-03 
出願番号 特願2017-501566(P2017-501566)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G02B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 池田 博一  
特許庁審判長 里村 利光
特許庁審判官 井口 猶二
関根 洋之
発明の名称 光線方向制御素子及び表示装置  
代理人 河野 英仁  

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