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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01M |
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管理番号 | 1362864 |
審判番号 | 不服2019-5657 |
総通号数 | 247 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2020-07-31 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2019-04-26 |
確定日 | 2020-06-23 |
事件の表示 | 特願2016-247639「二次電池用非水系電解液及びそれを用いた非水系電解液二次電池」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 3月16日出願公開、特開2017- 54833、請求項の数(6)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成18年10月26日(優先権主張:平成17年10月28日)を出願日とする特許出願(特願2006-291254号)の一部を、平成26年2月10日に新たな出願とした特許出願(特願2014-23030号)の一部を、平成27年12月14日に新たな出願とした特許出願(特願2015-242843)の一部を、さらに平成28年12月21日に新たな出願とした特許出願(特願2016-247639)であって、平成30年1月17日付けで拒絶理由が通知され、同年3月23日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年8月22日付けで拒絶理由が通知され、同年10月24日付けで意見書及び手続補正書が提出され(以下、同年10月24日付けで提出された手続補正書による補正を「手続補正1」という。)、平成31年1月30日付けで拒絶査定(原査定)がされ、これに対し、同年4月26日付けで拒絶査定不服審判の請求とともに手続補正書が提出されたものである(以下、同年4月26日付けで提出された手続補正書による補正を「手続補正2」という。) 第2 原査定の概要 本願の手続補正1によって補正された特許請求の範囲の請求項1?6に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である下記の引用文献1に記載された発明、及び、引用文献2、3に記載された事項に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。 <引用文献等一覧> 1.特開2004-165151号公報 2.特開2001-052682号公報(周知技術を示す文献) 3.特開2004-200122号公報(周知技術を示す文献) 第3 本願発明 本願請求項1?6に係る発明(以下、順に「本願発明1」?「本願発明6」といい、これらを総称して「本願発明」という。)は、手続補正2によって補正された特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。 「【請求項1】 非水溶媒とリチウム塩を含有してなる二次電池用非水系電解液において、該非水溶媒が、少なくともエチレンカーボネートを含有する混合溶媒であって、前記リチウム塩がLiPF_(6)を0.5mol/L以上含み、非水溶媒総量に対するエチレンカーボネートの割合が、1容量%以上、25容量%以下であり、更に、分子内にS-F結合を有する化合物であって、スルホニルフルオライド類あるいはフルオロスルホン酸エステル類である化合物を、非水系電解液全体中に合計で10ppm以上3質量%以下含有すること又は添加したことを特徴とする二次電池用非水系電解液。 【請求項2】 非水溶媒総量に対するエチレンカーボネートの割合が、20容量%以下である請求項1記載の二次電池用非水系電解液。 【請求項3】 非水溶媒総量に対するエチレンカーボネートの割合が、15容量%以下である請求項1又は請求項2記載の二次電池用非水系電解液。 【請求項4】 非水溶媒が、更に、少なくとも1種以上の鎖状カーボネート類を含有する請求項1ないし請求項3の何れかの請求項記載の二次電池用非水系電解液。 【請求項5】 非水系電解液、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な負極並びに正極を備えた非水系電解液二次電池であって、該非水系電解液が、請求項1ないし請求項4の何れかの請求項記載の二次電池用非水系電解液であることを特徴とする非水系電解液二次電池。 【請求項6】 非水系電解液、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な負極並びに正極を備えた非水系電解液二次電池であって、該非水系電解液が、請求項1ないし請求項4の何れかの請求項記載の二次電池用非水系電解液であり、かつ、下記(1)、(2)及び/又は(3)の性質を有することを特徴とする非水系電解液二次電池。 (1)前記二次電池の外装の表面積に対する前記正極の電極面積の総和が面積比で20倍以上である。 (2)前記二次電池の直流抵抗成分が10ミリオーム(mΩ)以下である。 (3)前記二次電池の1個の電池外装に収納される電池要素のもつ電気容量が3アンペアーアワー(Ah)以上である。」 第4 当審の判断 1 引用文献1の記載事項及び引用文献1に記載された発明 (1)引用文献1には、以下の記載がある。なお、「・・・」は記載の省略を表す(以下同様)。 「【請求項9】 非水溶媒および溶質からなり、前記非水溶媒が、ラクトンからなり、前記ラクトンが、γ-ブチロラクトンからなり、前記溶質が、式(1):(F-O_(2)S-N-SO_(2)-F)Liで表されるリチウムビスフルオロスルフォニルイミドからなる非水電解質二次電池用電解質。」 「【請求項12】 前記溶質が、さらに、フッ素を含有する別のリチウム塩を含む請求項9記載の非水電解質二次電池用電解質。」 「【請求項13】 前記別のリチウム塩が、 LiPF_( m) (C_( k)F_(2 k + 1) )_(6 - m)(0≦m≦6、1≦k≦2)、 LiBF_( n) (C_( )jF _(2 j + 1 ))_(4 - n)(0≦n≦4、1≦j≦2)およびLiAsF_( 6)よりなる群から選ばれた少なくとも1種である請求項12記載の非水電解質。」 「【請求項14】 前記非水溶媒が、さらに、エチレンカーボネートおよび/またはプロピレンカーボネートを含む請求項9記載の非水電解質二次電池用電解質。」 「【0001】 本発明は、主に、リチウムビスフルオロスルフォニルイミドをリチウム塩として含む非水電解質を用いた二次電池に関する。」 「【0006】 非水電解質は、・・・現在では、高い誘電率を持つエチレンカーボネート(以下、ECという。)と、ジエチルカーボネート(以下、DECという。) 、ジメチルカーボネート(以下、DMCという。) 、エチルメチルカーボネート(以下、EMCという。) などの低粘性の鎖状カーボネートとを組み合わせた非水溶媒に、六フッ化燐酸リチウム(LiPF_(6))を溶解させたものが用いられている。 【0007】 しかしながら、この種の非水電解質は、低粘性で、しかも100℃近辺の沸点を有する鎖状カーボネートを含むため、高温での蒸気圧が高くなる。そのため、電池のパッケージが膨れてしまう可能性がある。また、熱的に不安定で加水分解しやすいLiPF_(6)を溶質として用いているため、電池内部でガス発生などが起こり、パッケージの膨れが助長されやすい。」 「【発明が解決しようとする課題】 【0010】 本発明は、高温環境暴露時や保存時に機器へのダメージにつながる非水電解質二次電池の膨れ等を最小限に抑制すること、高温時もしくは保存時においても安定な非水電解質や二次電池を提供すること、および前記のような性質を有しながらも従来と同等の特性を有する非水電解質二次電池を提供することの少なくともいずれかを目的とする。」 「【発明を実施するための最良の形態】 【0017】 本発明の非水電解質二次電池では、非水電解質の溶媒にラクトンを用い、溶質には、式(1): (F-O_(2)S-N-SO_(2)-F)Liで表されるリチウムビスフルオロスルフォニルイミド(以下、LiFSIという。)を用いる。LiFSIは、LiTFSIやLiPF_(6)よりも高いイオン伝導度を示す。このように、非水溶媒として、融点が高く蒸気圧の低いラクトンを用い、LiPF_(6)の代わりにLiF SIを用いることにより、高温暴露時のガス発生や保存時のガス発生が抑えられ、電池の膨れが抑制されるとともに、従来の電池と同等の特性を有する非水電解質二次電池を得ることが可能となる。」 「【0020】 本発明で用いることのできるラクトンには、γ-ブチロラクトン(GBL)、γ-バレロラクトン(GVL)、α-メチル-γ-ブチロラクトンなどを挙げることができる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらのうちでは、特に、GBLを用いることが好ましい。 【0021】 正極に、アルミニウムからなる集電体を用いる場合には、非水電解質の溶質として、LiFSIとともに、フッ素を含有する別のリチウム塩を併用することが、集電体の腐食を抑制する上で特に有効である。腐食抑制の機構は明らかではないが、フッ素を含有する別のリチウム塩が、少量のフッ素イオンを生成し、AlF_(3)の被膜を集電体上に形成することによるものと考えられる。 【0022】 別のリチウム塩は何を用いてもよいが、・・・なかでもLiPF_(6)、LiBF_(4)を用いることが好ましい。 【0023】 LiFSIと別のリチウム塩との比率は、モル比で、(LiFSI):(別のリチウム塩)=9:1?5:5であることが好ましい。また、非水電解質に含まれる溶質濃度は、0 .5?1 .5 mol/Lであることが好ましいが、特に限定はない。」 「【0029】 非水電解質と電極やセパレータとの濡れ性を向上させる観点から、非水溶媒には、ラクトン以外の溶媒を含ませることができる。ラクトン以外の溶媒は、特に限定されないが、非プロトン性溶媒であることが好ましく、環状カーボネート、鎖状カーボネート、環状エーテル、鎖状エーテル、鎖状カルボン酸エステルなどを好ましく用いることができる。・・・」 「【0032】 特に、好ましい組成の非水溶媒としては、例えば、ラクトン50?70重量%、環状カーボネート20?30重量%および鎖状カーボネート5?30重量%からなる非水溶媒を挙げることができる。 【0033】 環状カーボネートには、EC、PCなどを用いることが好ましく、鎖状カーボネートには、EMC、DMC、DECなどを用いることが好ましい。」 「【実施例4】 【0044】 非水溶媒には、30重量%のECと、70重量%のGBLとからなる混合溶媒を用いた。溶質には、LiFSIとLiPF_(6)とをモル比7:3で併用した。ここでは、上記混合溶媒に、LiF SIを0.7 mol/L、LiPF_(6)を0.3 mol/Lの濃度で溶解させ、100重量部の混合溶媒に対して2重量部のVCを添加剤として添加して非水電解質を調製した。・・・」 (2)前記(1)の記載によれば、引用文献1には、以下の事項が記載されている。 ア 引用文献1に記載された発明は、リチウムビスフルオロスルフォニルイミドをリチウム塩として含む非水電解質を用いた二次電池に関する(【0001】)。 イ 現在、非水電解質は、高い誘電率を持つエチレンカーボネートと、ジエチルカーボネートなどの低粘性の鎖状カーボネートとを組み合わせた非水溶媒に、六フッ化燐酸リチウム(LiPF_(6))を溶解させたものが用いられたところ(【0006】)、次のような課題があった。 すなわち、低粘性で、しかも100℃近辺の沸点を有する鎖状カーボネートを含むため、高温での蒸気圧が高くなる。そのため、電池のパッケージが膨れてしまう可能性がある。また、熱的に不安定で加水分解しやすいLiPF_(6)を溶質として用いているため、電池内部でガス発生などが起こり、パッケージの膨れが助長されやすい(【0007】)。 そこで、本発明では、高温環境暴露時や保存時に機器へのダメージにつながる非水電解質二次電池の膨れ等を最小限に抑制すること、高温時もしくは保存時においても安定な非水電解質や二次電池を提供すること、および前記のような性質を有しながらも従来と同等の特性を有する非水電解質二次電池を提供することの少なくともいずれかを目的とする(【0010】)。 以上を鑑み、引用文献1に記載された発明は、上記課題の解決を目的とする。 ウ 引用文献1に記載された発明は、上記イの目的のため、非水溶媒および溶質からなり、前記非水溶媒が、ラクトンからなり、前記ラクトンが、γ-ブチロラクトンからなり、前記溶質が、式(1):(F-O_(2)S-N-SO_(2)-F)Liで表されるリチウムビスフルオロスルフォニルイミドからなる非水電解質二次電池用電解質である(【請求項9】)。 上記の非水電解質二次電池用電解質は、非水溶媒として、融点が高く蒸気圧の低いラクトンを用い、LiPF_(6)の代わりにLiFSI(式(1):(F-O_(2)S-N-SO_(2)-F)Liで表されるリチウムビスフルオロスルフォニルイミド)を用いることにより、高温暴露時のガス発生や保存時のガス発生が抑えられ、電池の膨れが抑制されるとともに、従来の電池と同等の特性を有する非水電解質二次電池を得ることが可能となる(【0017】)。 エ また、正極に、アルミニウムからなる集電体を用いる場合には、非水電解質の溶質として、LiFSIとともに、フッ素を含有する別のリチウム塩を併用することにより、少量のフッ素イオンが生成し、AlF_(3)の被膜が集電体上に形成されるため、集電体の腐食を抑制する上で特に有効であるところ(【請求項12】、【0021】)、そのようなフッ素を含有する別のリチウム塩として、LiPF_(6)、LiBF_(4)を用いることが好ましい(【請求項13】、【0022】)。 上記フッ素を含有する別のリチウム塩を併用する場合について、LiFSIと別のリチウム塩との比率は、モル比で、(LiFSI):(別のリチウム塩)=9:1?5:5であることが好ましい。また、非水電解質に含まれる溶質濃度は、0.5?1.5mol/Lであることが好ましいが、特に限定はない(【0023】)。 オ さらに、非水電解質と電極やセパレータとの濡れ性を向上させる観点から、非水溶媒には、ラクトン以外の溶媒を含ませることができる。ラクトン以外の溶媒は、特に限定されないが、非プロトン性溶媒であることが好ましく、環状カーボネート、鎖状カーボネート、環状エーテル、鎖状エーテル、鎖状カルボン酸エステルなどを好ましく用いることができるところ(【0029】)、好ましい組成の非水溶媒としては、例えば、ラクトン50?70重量%、環状カーボネート20?30重量%および鎖状カーボネート5?30重量%からなる非水溶媒を挙げることができ(【0032】)、また、環状カーボネートには、EC(エチレンカーボネート)、PC(プロピレンカーボネート)などを用いることが好ましい(【請求項14】、【0033】)。 カ 実施例4においては、非水溶媒を30重量%のEC(エチレンカーボネート)と70重量%のGBL(γ-ブチロラクトン)からなる混合溶媒とし、上記混合溶媒に溶質としてLiFSIを0.7mol/L、LiPF_(6)を0.3mol/Lの濃度で溶解している。 (3)前記(2)ウ?カによれば、引用文献1には、請求項9、12?14及び実施例4に基づいて以下の「引用発明」が記載されていると認められる。 (引用発明) 「非水溶媒および溶質からなり、前記非水溶媒が、30重量%のエチレンカーボネートと70重量%のγ-ブチロラクトンからなる混合溶媒であり、前記溶質が、0.7mol/LのLiFSIと0.3mol/LのLiPF_(6)からなる非水電解質二次電池用電解質。」 2 引用文献2、3の記載事項 (1)原査定で周知技術を示す文献として引用された引用文献2には、以下の記載がある。 「【0011】 【発明の実施の形態】 以下、本発明を詳細に説明する。本発明のリチウムイオン二次電池において、電解液の溶媒としては、ジエチルカーボネート(以下「DEC」という。)およびエチルメチルカーボネート(以下「EMC」という。)から選ばれる少なくとも一種と、エチレンカーボネート(以下「EC」という。)と、プロピレンカーボネート(以下「PC」という。)と、ジメチルカーボネート(以下「DMC」という。)との混合溶媒が用いられる。」 「【0013】 上記混合溶媒において、ECの混合比は4体積%?10体積%、好ましくは6体積%?9体積%とする。これは、4体積%未満であるとリチウム塩の解離が十分に行われず、イオン伝導度が低くなって、低温特性の向上が図れないからである。また、10体積%を越えると電解液の粘度が高くなり、その結果イオン伝導度が低くなって、低温特性の向上が図れないからである。」 (2)同様に、原査定で周知技術を示す文献として引用された引用文献3には、以下の記載がある。 「【0007】 しかしながら、電解液中の電解質濃度を高くすると、初充電時に負極表面上にLiが析出しやすくなるため、遊離Liの発生によって充放電効率が低下すると共に、サイクル経過に伴う電解質濃度の低下が顕著に生じる。このため、十分な充放電サイクル特性が得られないという問題点を生じる。また、電解液中の電解質濃度が高くなると電解液粘度が増加するため、組立時の電解液注液性の低下を招く恐れもある。」 3 対比・判断 (1)本願発明1について ア 本願発明1と引用発明との対比 本願発明1と引用発明とを対比する。 (ア)引用発明において、非水溶媒総量に対するエチレンカーボネート、γ-ブチロラクトンの各割合はそれぞれ30重量%、70重量%であるところ、各割合を容量%で表すと、エチレンカーボネートは、約27容量%(=30/1.32/(30/1.32+70/1.13)×100)、γ-ブチロラクトンは、約73容量%(=70/1.13/(30/1.32+70/1.13)×100)である(なお、エチレンカーボネート及びγ-ブチロラクトンの各比重は、 https://www.m-chemical.co.jp/products/departments/mcc/c2/product/1200267_7112.html、 及び、 https://www.m-chemical.co.jp/products/departments/mcc/c4/product/1200292_7124.html を参照して、それぞれ1.32、1.13とした)。 (イ)引用発明の「LiFSI」は(F-O_(2)S-N-SO_(2)-F)Liであり、FSO_(2)-の部分構造を有する化合物である。 一方、スルホニルフルオライド類とは、FSO_(2)-の部分構造を有する化合物群のことである。 したがって、引用発明の「LiFSI」は、本願発明1の「分子内にS-F結合を有する化合物であって、スルホニルフルオライド類あるいはフルオロスルホン酸エステル類である化合物」に相当する。 また、引用発明において、非水電解質二次電池用電解質全体に含まれるLiFSIの濃度を質量%で表すと、約12質量%(=0.7×187.1/(1000+0.7×187.1)×100)である(なお、LiFSIの分子量は187.1とした。以下同様)。 (ウ)引用発明の「非水電解質二次電池用電解質」は、「非水溶媒」に「溶質」としてリチウム塩が溶解されているものであるから、本願発明1の「非水溶媒とリチウム塩を含有してなる二次電池用非水系電解液」に相当する。 (エ)以上によれば、本願発明1と引用発明との「一致点」及び「相違点1」?「相違点3」は以下のとおりである。 (一致点) 「非水溶媒とリチウム塩を含有してなる二次電池用非水系電解液において、該非水溶媒が、少なくともエチレンカーボネートを含有する混合溶媒であって、前記リチウム塩がLiPF_(6)を含み、更に、分子内にS-F結合を有する化合物であって、スルホニルフルオライド類あるいはフルオロスルホン酸エステル類である化合物を含有すること又は添加した二次電池用非水系電解液。」である点。 (相違点1) LiPF_(6)の濃度について、本願発明1では、「0.5mol/L以上」であるのに対し、引用発明では、「0.3mol/L」である点。 (相違点2) 非水溶媒総量に対するエチレンカーボネートの割合について、本願発明1では、「1容量%以上、25容量%以下」であるのに対し、引用発明では、「30重量%(約27容量%)」である点。 (相違点3) 分子内にS-F結合を有する化合物であって、スルホニルフルオライド類あるいはフルオロスルホン酸エステル類である化合物の非水系電解液全体における濃度について、本願発明1では、「10ppm以上3質量%以下」であるのに対し、引用発明では、「0.7mol/L(約12質量%)」である点。 イ 相違点2及び相違点3についての判断 (ア)事案に鑑み、相違点2及び相違点3について併せて検討する。 本願明細書の記載(【0030】、【0049】、【0052】)によれば、本願発明1は、非水溶媒とリチウム塩を含有してなる二次電池用非水系電解液において、「該非水溶媒が、少なくともエチレンカーボネートを含有する混合溶媒であって」、(A)「非水溶媒総量に対するエチレンカーボネートの割合が、1容量%以上、25容量%以下」とし、(B)「分子内にS-F結合を有する化合物であって、スルホニルフルオライド類あるいはフルオロスルホン酸エステル類である化合物を、非水系電解液全体中に合計で10ppm以上3質量%以下含有すること又は添加した」ことにより、以下に示すとおり、低温放電特性の改善効果が得られるものと解される。 すなわち、本願明細書には、低温放電特性について、本願発明に係る二次電池用非水系電解液から作製した二次電池(【0163】?【0165】)を用いて、以下に示す低温出力の測定方法により評価したことが記載され、その結果が表1に示されている。 「【0166】 [電池の評価] (初期容量の測定方法) 充放電を経ていない新たな電池に対して、25℃で電圧範囲4.1V?3.0Vの25℃で5サイクル初期充放電を行った(電圧範囲4.1V?3.0V)。この時の5サイクル目0.2C(1時間率の放電容量による定格容量を1時間で放電する電流値を1Cとする、以下同様)放電容量を初期容量とした。 【0167】 (低温出力の測定方法) 25℃環境下で0.2Cの定電流により150分間充電を行ない-30℃環境下で各々0.1C、0.3C、1.0C、3.0C、5.0Cで10秒間放電させ、その10秒目の電圧を測定した。電流-電圧直線と下限電圧(3V)とで囲まれる3角形の面積を出力(W)とした。」 表1 上記表1の実施例7は上記(A)及び(B)を充足する実施例であるところ、比較例1は上記(B)を充足しない比較例であり、また、比較例8は上記(A)を充足しない比較例である。 そして、低温出力の測定結果について、実施例7は19.8W、比較例1は15.9W、及び、比較例8は17.5Wである。 したがって、本願発明1は、上記(A)及び(B)を充足することにより、低温放電特性の改善効果が得られるものと認められる。 (イ)一方、前記1(2)オによれば、引用文献1には、非水電解質と電極やセパレータとの濡れ性を向上させる観点から、非水溶媒には、ラクトン以外の溶媒としてエチレンカーボネードを含ませることについて記載されている。 また、前記1(2)ウによれば、引用文献1には、高温暴露時のガス発生や保存時のガス発生を抑え、電池の膨れを抑制する観点から、LiFSIを用いることについて記載されている。 しかしながら、引用文献1には、非水電解質二次電池用電解質において、非水溶媒総量に対するエチレンカーボネートの割合及びLiFSIの濃度について、両値を規定することにより低温放電特性の改善効果が得られることは記載も示唆もされていない。 (ウ)また、前記1(2)エによれば、引用文献1には、LiFSIとLiPF_(6)を併用する場合について、両者のモル比は、9:1?5:5とし、かつ、非水電解質に含まれる溶質濃度は、0.5?1.5mol/Lとすることが記載されている。 すなわち、LiFSIの濃度は最小でも0.25mol/L(=0.5mol/L×0.5)、約4.5質量%(=0.25×187.1/(1000+0.25×187.1)×100)とすることが記載されているにすぎない。 したがって、引用発明において、LiFSIの濃度を「0.7mol/L(約12質量%)」から低減して、「10ppm以上3質量%以下」とすることが動機付けられるとはいえず、むしろ阻害要因がある。 (エ)さらに、前記2によれば、引用文献2には、低温特性の観点からエチレンカーボネードの混合比を規定することについて記載されており、引用文献3には、電解液中の電解質濃度を高くなると、十分な充放電サイクル特性が得られないことについて記載されているものの、これら記載を参酌しても、引用発明において、非水溶媒総量に対するエチレンカーボネートの割合及びLiFSIの濃度を、本願発明1で規定される範囲まで低減することの指針となる記載を見いだすことはできない。 (オ)したがって、引用発明において、非水溶媒総量に対するエチレンカーボネートの割合を「1容量%以上、25容量%以下」とすること、及び、分子内にS-F結合を有する化合物であって、スルホニルフルオライド類あるいはフルオロスルホン酸エステル類である化合物の非水系電解液全体における濃度を「10ppm以上3質量%以下」とすることは、当業者であっても容易になし得たことであるとはいえない。 ウ 小括 したがって、相違点1について検討するまでもなく、本願発明1は、引用文献1に記載された発明、及び、引用文献2、3に記載された事項に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (2)本願発明2?6について 本願発明2?6は、引用により本願発明1の発明特定事項を全て備えているから、本願発明1と同様の理由により、引用文献1に記載された発明、及び、引用文献2、3に記載された事項に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 第5 むすび 以上のとおりであるから、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2020-06-02 |
出願番号 | 特願2016-247639(P2016-247639) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(H01M)
|
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 鈴木 雅雄、赤樫 祐樹 |
特許庁審判長 |
亀ヶ谷 明久 |
特許庁審判官 |
井上 猛 本多 仁 |
発明の名称 | 二次電池用非水系電解液及びそれを用いた非水系電解液二次電池 |
代理人 | 特許業務法人たかはし国際特許事務所 |