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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 A61K 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 A61K 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 A61K |
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管理番号 | 1363153 |
異議申立番号 | 異議2019-700324 |
総通号数 | 247 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2020-07-31 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2019-04-24 |
確定日 | 2020-04-27 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6411717号発明「化粧料及び皮膚外用剤」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6411717号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1-4]について訂正することを認める。 特許第6411717号請求項1、2、および4に係る特許を維持する。 特許第6411717号の請求項3に係る特許についての特許異議申立を却下する。 |
理由 |
第1 主な手続の経緯 特許第6411717の請求項1?4に係る特許についての出願は、平成25年7月31日に出願され、平成30年10月5日にその特許権の設定登録がされ、同年10月24日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許について、平成31年4月24日に特許異議申立人 岡田拓也(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、その後の経緯は以下のとおりである。 令和1年 7月22日付け: 取消理由通知 同 年 9月13日 : 訂正請求書及び意見書(特許権者) 同 年11月 5日 : 意見書(申立人) 同 年 同月29日付け: 取消理由通知(決定の予告) 令和2年 1月21日 : 訂正請求書及び意見書(特許権者) 同 年 3月 4日 : 意見書(申立人) なお、令和2年1月21日付け訂正請求がされたため、令和1年9月13日付け訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。 第2 訂正請求について 1 本件訂正請求による訂正及び訂正事項 本件訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)は、一群の請求項である請求項1?4に対するものであり、本件特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり訂正することを求める、というものであって、その具体的な内容は以下のとおりである(下線は、訂正箇所を表す。)。 (1) 訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1の 「(A)コンブ科(Laminariaceae)コンブ属(Saccharina)藻類抽出物」を 「(A)コンブ科(Laminariaceae)コンブ属(Saccharina)ガゴメ(Saccharina sculpera)藻類抽出物」とし、 「前記(A)抽出物が、フコイダンを含む含水アルコール抽出物であり、」を 「前記(A)抽出物が、フコイダンを含む含水アルコール抽出物であり、当該含水アルコールがアルコール:水(v/v)=10:90?30:70であり、」 に訂正する。 (2) 訂正事項2 特許請求の範囲の請求項3を削除する。 (3) 訂正事項3 特許請求の範囲の請求項4の 「請求項1?3の何れか1項記載」との記載を、 「請求項1又は2記載」との記載に訂正する。 2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1) 訂正事項1について 訂正事項1のうち、「(A)コンブ科(Laminariaceae)コンブ属(Saccharina)藻類抽出物」を 「(A)コンブ科(Laminariaceae)コンブ属(Saccharina)ガゴメ(Saccharina sculpera)藻類抽出物」 とする訂正事項は、藻類抽出物を訂正前の請求項3に記載されていたものに限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正である。そして、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 また、訂正事項1のうち、「前記(A)抽出物が、フコイダンを含む含水アルコール抽出物であり、」を 「前記(A)抽出物が、フコイダンを含む含水アルコール抽出物であり、当該含水アルコールがアルコール:水(v/v)=10:90?30:70であり、」 とする訂正事項は、本件明細書の段落【0025】における「水・アルコール混合液の場合、アルコール:水(v/v)=10:90?90:10が好ましい」との記載と、【0051】の製造例1のガゴメコンブ抽出物を調製する際に使用した含水アルコールは30%1,3?ブチレングリコール水溶液(BG:DW=30:70(v/v))である旨の記載に基づいて含水アルコールの水とアルコールの割合を限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正である。 そして、この訂正事項も新規事項の追加には該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (2) 訂正事項2について 訂正事項2は、請求項3を削除するというものであって、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正である。そして、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (3) 訂正事項3について 訂正事項3は、訂正前の請求項4が訂正前の請求項1?3を引用するものであるところ、請求項3を引用しないものとする訂正であって、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正である。そして、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 3 小括 以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?4〕について訂正を認める。 第3 本件発明 本件訂正後の請求項1?4に係る発明(以下、「本件発明1?4」といい、請求項1、2、4に係る発明をまとめて「本件発明」ということがある。)は、令和2年1月21日付け訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?4に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 「【請求項1】 次の成分(A)?(C); (A)コンブ科(Laminariaceae)コンブ属(Saccharina)ガゴメ(Saccharina sculpera)藻類抽出物 (B)リン脂質 (C)ステロール、脂肪酸ステロールエステル及びそれらの塩から選ばれる1種又は2種以上;を含有し、 前記(A)抽出物が、フコイダンを含む含水アルコール抽出物であり、当該含水アルコールがアルコール:水(v/v)=10:90?30:70であり、 前記(A)の含有量が、0.00001?0.05質量%であり、 前記(C)の含有量が、0.05?20質量%であり、 前記(B):成分(C)の含有量比(質量)は、B/C=0.1?10である、 化粧料又は皮膚外用剤。 【請求項2】 前記成分(C)が、高級脂肪酸ステロールエステルである請求項1記載の化粧料又は皮膚外用剤。 【請求項3】 (削除) 【請求項4】 前記成分(B)が、水素添加リン脂質を含むものである請求項1又は2記載の化粧料又は皮膚外用剤。」 第4 取消理由の概要 1 令和1年11月29日付けで通知した取消理由の概要 令和1年11月29日付けで通知した取消理由は、下記1.及び2.のとおりであり、これらの具体的な内容は後記するとおりである。 1.(サポート要件)本件特許の請求項1、2、4に係る発明の特許は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 2.(実施可能要件)本件特許の請求項1、2、4に係る発明の特許は、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 甲第1号証:金沢和樹著、「2.褐藻の食物繊維フコイダン」、Functional Food、2013年、VOL.7、No.1、p7-12 甲第2号証:酒井武 他2名、「機能性食品としてのフコイダン:その構造と生物活性」、藻類、2003年、第51巻、第1号、第19?25頁 甲第7号証:特開2003-81777号公報 (以下、「甲第1号証」、「甲第2号証」、「甲第7号証」をそれぞれ「甲1」、「甲2」、「甲7」ともいう。) 2 令和1年7月22日付けで通知した取消理由の概要 令和1年7月22日付けで通知した取消理由は、下記1.及び2.のとおりであり、これらの具体的な内容は後記するとおりである。 1.(サポート要件)本件特許の請求項1?4に係る発明の特許は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 2.(実施可能要件)本件特許の請求項1?4に係る発明の特許は、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 甲1:(同上。省略。) 甲2:(同上。省略。) 甲7:(同上。省略。) 3 本件特許の願書に添付した明細書(以下、「本件明細書」という。)に記載された事項 (1) 「【0006】 本発明は、斯かる実情に鑑み、ハリ感が良好な化粧料及び皮膚外用剤を提供しようとするものである。 【課題を解決するための手段】 【0007】 本発明者は、鋭意検討した結果、(A)褐藻類抽出物、(B)リン脂質、及び(C)ステロール、その誘導体及びそれらの塩から選ばれる1種又は2種以上のもので、成分(A)?(C)を組み合わせて併用することで、ハリ感が良好な化粧料又は皮膚外用剤を得ることができ、本発明を完成させた。しかも、当該化粧料又は皮膚外用剤は、ハリ感について使用直後のハリ感とハリ感の持続性の両方とも良好であるという利点を有していた。さらに、当該化粧料又は皮膚外用剤は、使用中のぬるつき感が少なく、後肌の膜感がありすぎないという利点を有していた。さらに、当該化粧料又は皮膚外用剤は、乳化不良や著しい分離が起こりにくく、経時安定性がよいという利点を有していた。」(【0006】?【0007】 ) (2) 「【0013】 本技術の成分(A)は、褐藻類の抽出物である。当該褐藻類の抽出物と、成分(B)及び成分(C)を組み合わせたときに、良好なハリ感のある皮膚外用剤を得ることができる。 本技術で使用される「褐藻類」とは、褐藻綱(Phaeophyceae)に分類されるものである。 褐藻類では概ね5?300g/kg程度のフコイダンが含まれているとされている。フコイダンは、L-フコースが数十?数十万個以上繋がった化合物で硫酸基を有する多糖類であり、その平均分子量は一般的に100,000?30,000,000と言われている。そして、フコイダンは、U-フコイダン、F-フコイダン及びG-フコイダン等に分類される。一般的に、U-フコイダンは基本糖残基のフコースの他にグルクロン酸を含む硫酸多糖であり、F-フコイダンは基本糖残基のL-フコースから構成される硫酸多糖であり、G-フコイダンは基本糖残基のL-フコースの他にガラクトースを含む硫酸多糖である。 ・・・」(【0013】) (3) 「【0019】 本技術で使用する「コンブ類」とは、褐藻綱(Phaeophyceae)コンブ目(Laminariales)コンブ科(Laminariaceae)に分類されるものである。 コンブ科(Laminariaceae)藻類には、ネコアシコンブ属(ArthrothamnusRuprecht)藻類、ミスジコンブ属(Cymathere J.Agardh)藻類、ゴヘイコンブ属(Laminaria J.V.Lamouroux)藻類、コンブ属(Saccharina)藻類、マクロサイトス属(Macrocystis)藻類が挙げられる。このうち、コンブ属藻類が好適である。 コンブ類として、例えば、マコンブ(Saccharina japonica)、オニコンブ(Saccharinadiabolica)、リシリコンブ(Saccharina ochotensis)、ホソメコンブ(Saccharina religiosa)、 ミツイシコンブ(L. Saccharinaangustata)、ナガコンブ(Saccharina longissima)、ガッガラコンブ(Saccharina coriacea)、ネコアシコンブ(Arthrothamnusbifidus)、ガゴメ(ガゴメコンブ)(Saccharina sculpera)、トロロコンブ(Saccharina gyrata)等が挙げられる。このうち、ガゴメ(ガゴメコンブ)(Saccharina sculpera)が好適である。」(【0019】) (4) 「【0023】 本技術の褐藻類の抽出に使用する溶媒としては、特に限定されないが、例えば、水、低級1価アルコール(メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール等)、液状多価アルコール(プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール等)、低級エステル類(酢酸エチル等)、炭化水素(ベンゼン、ヘキサン、ペンタン等)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン等)、エーテル類(ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジプロピルエーテル)、アセトニトリル等が挙げられる。なお、「低級」又は「液状多価」における炭素数は、1?4であるのが好ましい。このうち、水、エチルアルコール、1,3-ブチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール(好ましくは、水、エチルアルコール、1,3-ブチレングリコール)から選ばれる1種又は2種以上のものが、好適である。 本技術の抽出溶媒として、水及び水溶性有機溶媒から選ばれる1種又は2種の混合液が好適である。また、含水水溶性有機溶媒としてもよい。当該水溶性有機溶媒として、アルコール(例えば、低級1価アルコール、液状多価アルコール等)が好適である。 これにより、抽出物にフコイダンが0.1?99質量%程度含まれるようにすることが可能である。また、フコイダンは平均分子量10万以上の高分子量のものが好ましい。なお、分子量の測定はGel Permeation Chromatography System等で行うことができる。 【0024】 前記褐藻類抽出物の調製法は、特に限定はされないが、通常、低温(例えば4℃未満)若しくは室温(例えば4?40℃)?加温(例えば40?100℃)下での溶媒の沸点の範囲で行うのが好適である。抽出後は濾過又はイオン交換樹脂を用い、脱塩、吸着、脱色、精製して溶液状、ペースト状、ゲル状、粉末状とすればよい。 前記褐藻類抽出物は、そのままの状態で使用してもよいが、必要ならば、その効果に影響のない範囲で更に、脱塩、脱臭、脱色等の精製処理を加えてもよく、脱塩、脱臭、脱色等の精製処理手段としては、イオン交換樹脂カラム、活性炭カラム等から選ばれる1種以上を用いればよく、抽出物を一般的に適用される通常の手段を任意に選択して行えば良い。 【0025】 好ましい抽出方法の例としては、藻体(好適には、葉部及び茎部等の藻体全体)の乾燥物1kgを抽出溶媒1?20L(好適には5?10L)で浸漬を行う。 抽出溶媒は含水濃度0?100vol%のアルコール(好適には、エチルアルコール、1,3-ブチレングリコール)を用いるのが好適である。なお、含水濃度100vol%とは水のことである。水・アルコール混合液の場合、アルコール:水(v/v)=10:90?90:10が好ましく、アルコール:水=20:80?50:50がより好ましい。 抽出条件は、室温(0?40℃程度(好適には10℃±10℃))にて0.5?15日間(好適には1?5日間)抽出を行うのが好適である。 抽出溶媒で抽出した褐藻類抽出液を濾過し、得られたろ液をさらに1週間ほど放置して熟成させ、再びろ過を行う方法が挙げられる。ろ過の際に、活性炭等のろ過剤を用いて夾雑物や着色物等の不純物を除去してもよい。」(【0023】?【0025】) (5) 「【0051】 以下、本発明(本技術)を具体的に説明するために実施例及び比較例等を挙げるが、本発明(本技術)は実施例等に限定されるものではない。 〔製造例1:ガゴメコンブ抽出液〕 乾燥したガゴメコンブを細切したもの20gに30%1,3-ブチレングリコール水溶液(BG:DW=30:70(v/v))を100mL加えて静かに数回攪拌し、そのまま室温(20?30℃)にて一日静置した。これを濾過して、ガゴメコンブ抽出液を得た。ガゴメコンブ抽出液1mLあたりの乾燥質量は4mgであった。GPCシステム分析により、褐藻エキスに含まれるフコイダンの平均分子量は10万以上であった。 【0052】 〔美容液:実施例1?9及び比較例1?5〕 表1に示す組成及び下記の製造方法にて美容液を調製し、表1に示す評価項目を確認し、その結果を表1に示す。 【0053】 【表1】 ・・・ 【0056】 (評価方法) (1)使用中のぬるつきのなさ、(2)後肌の膜感のなさ、(3)直後のハリ感及び(4)ハリ感の持続について 20?40代女性の化粧品評価専門パネル20名に、調製した美容液を使用してもらい、使用感として、(1)使用中のぬるつきのなさ、(2)後肌の膜感のなさ、(3)直後のハリ感及び(4)ハリ感の持続について、以下の(i)及び(ii)の5段階評価基準に従って官能評価し、更に全パネルの評点の平均値を(iii)4段階判定基準に従って、判定した。なお、(4)ハリ感の持続については、使用後3時間経過した時点の評価である。 【0057】 (i)5段階評価基準: (1)使用中のぬるつきのなさ、(2)後肌の膜感のなさ (評価) :(評点) 感じない : 5点 あまり感じない: 4点 普通 : 3点 やや感じる : 2点 非常に感じる : 1点 【0058】 (ii)5段階評価基準:(3)直後のハリ感、(4)ハリ感の持続 (評価) :(評点) 非常に感じる : 5点 やや感じる : 4点 普通 : 3点 あまり感じない: 2点 感じない : 1点 【0059】 (iii)4段階判定基準 (全パネルの評点の平均値) :(判定) 平均点4.5点以上 : ◎ 平均点3.5点以上4.5点未満: ○ 平均点2.5点以上3.5点未満: △ 平均点2.5点未満 : × 【0060】 (5)経時安定性について 経時安定性は、各試料を40℃恒温下2ヶ月間保管したものと、室温2ヶ月間保管したものとを比較し、分離の有無について目視で評価を行い、以下のような(iv)3段階判定基準に従って判定した。 (iv)経時安定性の3段階判定基準 (経時安定性) :(判定) 外観に変化なし : ○ 外観にやや分離がみられる : △ 乳化不良もしくは著しく分離: × 【0061】 表1から明らかなように、本発明の成分(A)?(C)の3成分を含む実施例1?9の美容液は、使用直後のハリ感及びハリ感の持続性の何れのハリ感も良好であることが確認された。これに対し、本発明の成分(A)?(C)の3成分の何れかを欠いた、比較例1?3の美容液は、使用直後のハリ感及びハリ感の持続性の何れのハリ感も悪いものであった。また、本発明の成分(B)以外の界面活性剤を使用した比較例4?5の美容液も使用直後のハリ感及びハリ感の持続性の何れのハリ感も非常に悪いものであった。 このことから、本発明の成分(A)?(C)の3成分を組み合わせることが、優れたハリ感を有する化粧料又は皮膚外用剤を得る際に重要である。しかも、得られた本発明の化粧料又は皮膚外用剤は、使用中の不快なぬるつき感が少なく、また後肌の膜感が適度にあることからも、使用感に非常に優れた化粧料又は皮膚外用剤である。さらに、長期間保管しても乳化不良等といった外観に変化が少なく経時安定性にも優れた化粧料又は皮膚外用剤である。」(【0051】?【0061】) 4 甲第1、2、7号証に記載された事項 (1) 甲第1号証(金沢和樹著、「2.褐藻の食物繊維フコイダン」、Functional Food、2013年、VOL.7、No.1、p7-12)に記載された事項 ア 「コンブ,ワカメ,モズクなどの褐色の海藻である褐藻に特異的に含まれている食物繊維がある。フコースという糖の水酸基が硫酸化された硫酸化フコースを主構成糖とする,フコイダンと総称される多糖である。」(第7頁上欄第1?3行) イ 「フコイダンが共通して多様な機能性を持っているのではない。褐藻の種類によって,混在糖がガラクトースであったりウロン酸であったりと異なり,その違いによって機能性が異なる。」(第7頁上欄第4?6行) ウ 「褐藻の種類は多様で約240属1,500種あまりある。種類が多様なので,含まれるフコイダンの化学構造も多様である。硫酸化フコースを主構成糖とする点は共通しているが,それ以外の構成糖の種類が多様であり,混在糖の種類によってその生理活性も大きく異なる^(1)2))。表1に、日本人になじみが深い褐藻のフコイダンの構成糖を整理した。ワカメのフコイダンは,フコース以外にガラクトースを多く含むので,ガラクトースGを含むフコイダンという意味で,G-フコイダンとよばれる。モズクのフコイダンはウロン酸を多く含むのでU-フコイダン,マコンブのフコイダンはその構成糖のほとんどがフコースと硫酸化フコースなので,F-フコイダンと称する。」(第7頁左欄第3行?右欄第9行) エ 「 」(第8頁) (2) 甲第2号証(酒井武 他2名、「機能性食品としてのフコイダン:その構造と生物活性」、藻類、2003年、第51巻、第1号、第19?25頁)に記載された事項 ア 「フコイダンは褐藻類と呼ばれる一群の藻類にのみ含まれている。」(第19頁、左欄第2?3行) イ 「フコイダンには多くの分子種があり,それぞれの分子により,L-フコースの結合様式,構成糖,硫酸基の含量等が異なる。しかも,1種の海藻に数種のフコイダンが含まれているので,分子種ごとに分離するのは非常に困難であった。」(第19頁左欄第8?12行) ウ 「フコイダンには,抗ガン作用や抗血液凝固作用をはじめとするいろいろな生物活性があり,それらの活性を担う構造の解明が試みられたが,部分構造や平均構造が提唱された程度で,構造と活性との関係を解明するには程遠い状況であった。」(第19頁左欄第12?16行) (3) 甲第7号証(特開2003-81777号公報)に記載された事項 ア 「【0005】 【発明が解決しようとする課題】メカブとは、成熟期にワカメの茎の両側に生じる胞子製造器官である胞子葉のことを言うが、粘滑質で分厚く折り畳まれたような形状のため食品その他の用途が少なく、漁師たちに厄介物扱いされている。」(【0005】) イ 「【0009】メカブの水抽出液は、前述したように粘稠である。そこで、この水抽出液にアルコール(エチルアルコール)を加えてみたところ、アルコール濃度45%程度まではドロドロの状態であったが、50?65%ではサラサラした状態になった。これは、メカブの成分である分子量の大きいフコイダンやアルギン酸などの多糖類(粘質)が45%程度までのアルコール溶液には溶解して粘稠な状態を示すが、50?65%のアルコール溶液には溶解しないことによる。一方、同じくメカブの成分であるエキス分、即ち、低分子量のサッカロイドやアミノ酸、低分子ポリペプチド、或いはミネラル分は、50?65%のアルコール溶液にも溶解するし、当然水にも溶解する。」(【0009】) ウ 「【0018】 【実施例】(実施例 1)以下、本発明を実施例により更に詳細に説明する。メカブの乾燥粉末20gを400gの水に溶解し、沈殿物(繊維やたんぱく質)を遠心分離して除去した後、アスピレータを用いて減圧濃縮して約180gの薄緑色の水溶液を得た。この水溶液に200gのアルコールを加えたところ(アルコール濃度約56%)、懸濁が生じた。この懸濁物は、フコダインやアルギン酸等の分子量が大きい粘質であり、水溶液を頭髪に塗布した場合のこわばりや、悪臭の原因となるものである。そしてこれら粘質は、水には溶解するが50?65%のアルコール溶液には不溶である。尚、水溶液を減圧濃縮した場合、色素や臭い成分がとれにくい難点はあるが、低コストで処理できる。減圧濃縮にかえて、真空濃縮(フリーズドライ)を行なうと、品質低下が起こりにくく、色素や臭い成分も少なくなる。 【0019】従って、この懸濁物を濾別すると、頭髪への塗布に邪魔になる繊維やたんぱく質、及び分子量の大きな粘質が除去される。しかも、これらには発毛を促す効果は見られない。また、色素のうち着色が強くまた悪臭の原因となる油溶性の色素は、水溶液の段階で殆ど除去されるので、これらの色素はアルコール溶液中には殆ど存在しない。その結果、アルコール溶液中には低分子サッカロイドやアミノ酸、低分子ポリペプチドなど、エキス分やミネラル分のみが存在することになる。」(【0018】?【0019】) 5 令和1年11月29日付けで通知した取消理由に対する当審の判断 (1) 理由1、2の具体的な内容 「本件発明1の「(A)コンブ科(Laminariaceae)コンブ属(Saccharina)ガゴメ(Saccharina sculpera)藻類抽出物」は「フコイダンを含む含水アルコール抽出物」であり、「当該含水アルコールがアルコール:水(v/v)=10:90?50:50」で抽出されるものである。 また、本件発明の課題は、摘記事項(1)の段落【0006】にあるとおり、ハリ感が良好な化粧料及び皮膚外用剤を提供することである。 そして、本件明細書には、コンブ属藻類抽出物のフコイダンを含む含水抽出物としては、本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0051】の製造例1に、30%1,3-ブチレングリコール水溶液を用いたガゴメコンブの抽出物についての記載があり、これを配合した美容液についても表1で示す組成及び効果を有するものが記載され、ハリが良好な化粧料又は皮膚外用剤が得られることが示されている(摘記事項(5)【0051】?【0061】)。 ここで、フコイダンは、甲1、2に記載のあるとおり、褐藻に含まれる多糖であって、硫酸化フコースを主構成糖とし、ウロン酸やガラクトースなどの混合糖が含む多糖であって、多くの種類があることが知られている(甲1の摘記事項(1)ア?エ、甲2の摘記事項(2)ア?ウ)。 そして、甲7には、ワカメの胞子葉であるメカブの水抽出物について、分子量の大きいフコイダンやアルギン酸などの多糖類(粘質)が45%までのアルコール溶液には溶解して粘調な状態を示すが、50?60%のアルコール溶液には溶解しないことが記載されている(摘記事項(3)イ)。 上記摘記事項(3)イの記載はメカブの水抽出物に関するものではあるものの、フコイダンに関する当該記載を考慮すると、本件発明1の水:アルコールが50:50の含水アルコールを用いた場合に、本件発明の課題を解決するのに十分なフコイダンが含まれるガゴメ藻類抽出物が得られると直ちにいうことはできない。 請求項1を直接又は間接的に引用する本件発明2、4は、含水アルコール抽出溶媒の水:アルコール比を更に限定するものでもないから、同じ理由が該当する。 同様に、本件明細書の発明の詳細な説明は、本件発明1、2、4について、水:アルコールが50:50の含水アルコール抽出溶媒を用いた場合に、本件発明を当業者が実施できるように明確かつ十分に記載されていない。」 (2) 判断 本件訂正により、請求項1における含水アルコールについて、アルコールと水の割合が、アルコール:水(v/v)=10:90?30:70と特定する訂正がなされた。 まず、本件発明が解決しようとする課題は、本件明細書の段落【0006】に記載されたとおり、「ハリ感が良好な化粧料及び皮膚外用剤を提供することである。 そして、本件明細書に実施例として、段落【0051】の製造例1に30%1,3-ブチレングリコール水溶液、すなわち、アルコール:水(v/v)=30:70の含水アルコールを用いたガゴメコンブの抽出物についての記載があり、これを配合した美容液について、表1に組成及び効果が記載され、ハリが良好な化粧料又は皮膚外用剤が得られることが示されていること、甲7にフコイダンやアルギン酸などの多糖類は45%までのアルコール溶液には溶解することが記載されていることからみて、甲7に記載された45%より低いアルコール濃度の溶液である実施例に記載されたアルコール:水(v/v)=30:70の割合から、それよりも水の割合が多い(つまりアルコールが少ない)アルコール:水(v/v)=10:90までの範囲であれば、フコイダンは含水アルコール溶液に十分に溶解するものと合理的に推認できる。 また、アルコールと水の割合が30:70の場合と10:90の場合で抽出物におけるフコイダンの含有量が大きく異なるなどの特別の事情が存在するものでもない。 そうすると、含水アルコールのアルコールと水の割合について、本件発明1の含水アルコールのアルコール:水の割合がアルコール:水(v/v)=10:90?30:70の範囲であれば、抽出物にフコイダンが十分に含まれ、本件発明1の課題を解決できるものといえるし、また、本件明細書の発明の詳細な説明は、本件発明1を当業者が実施できるように明確かつ十分に記載されていると認められる。 請求項1を直接又は間接的に引用する本件発明2、4についても同様である。 したがって、本件訂正により、理由1、2は、解消した。 (3) 小括 よって、本件発明1、2、4は、特許法第36条第6項第1号及び同法同条第4項第1号に規定する要件を満たさないものではないから、これらの発明に係る特許は、同法第113条第4項に該当せず、取り消すべきものではない。 6 令和1年7月22日付けで通知した取消理由に対する当審の判断 (1) 理由1、2の具体的な内容 ア 「3 フコイダンの種類について」 (ア) 具体的な内容 「本件発明1は、(A)コンブ科(Laminariaceae)コンブ属(Saccharina)藻類抽出物、(B)リン脂質、(C)ステロール、脂肪酸ステロールエステル及びそれらの塩から選ばれる1種又は2種以上を含有する化粧料又は皮膚外用剤の発明であって、前記(A)について、前記(A)抽出物が、フコイダンを含む含水アルコール抽出物であり、前記(A)の含有量が、0.00001?0.05質量%であることを特徴とするものである。 本件発明の課題は、本件明細書の段落【0006】にあるとおり、ハリ感が良好な化粧料及び皮膚外用剤を提供することである。 そして、本件明細書には、コンブ属藻類抽出物のフコイダンを含む含水抽出物としては、本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0051】の製造例1に、ガゴメコンブの30%1,3-ブチレングリコール水溶液を用いた抽出物についての記載があり、これを配合した美容液についても表1で示す組成及び効果を有するものが記載され、ハリが良好な化粧料又は皮膚外用剤が得られることが示されている(摘記事項1(5)【0051】?【0061】)。 一方、甲1の摘記事項ア?エ、甲2の摘記事項ア?オには、フコイダンには多くの分子種があり、フコースの水酸基が硫酸化された硫酸化フコースを主構成糖とするものであるが、混在糖としてガラクトースやウロン酸を含むものがあり、その違いによって機能性が異なることが記載され、また、記載事項エ2には、コンブ属のミツイシコンブ、マコンブ、カラフトコンブに含まれるフコイダンの構造が異なることが記載されている。また、本件明細書にもフコイダンに種類のあることは記載されている(摘記事項1(2)【0013】)。 ここで、甲1、2には、同属または同種の海藻であってもフコイダンの構造が異なり、機能性が異なると記載されているから、本件発明のガゴメコンブの30%1,3-ブチレングリコール水溶液を用いた含水アルコール抽出物の実施例の結果に基づいて、これとは構造が異なるフコイダンを含む、他のコンブ属の含水アルコール抽出物を用いた場合についても同様に本件発明の課題を解決できるものとは直ちに認めることはできない。 よって、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明ではない。 請求項1を直接又は間接的に引用する他の本件発明2、4についても同様である。 同様に、本件明細書の発明の詳細な説明は、フコイダンとして、ガゴメコンブの含水抽出物に含まれるフコイダンと異なる構造のものを含む場合に、本件発明1、2、4を当業者が実施できるように明確かつ十分に記載されていない。」 (イ) 判断 訂正前の請求項1に記載の「(A)コンブ科(Laminariaceae)コンブ属(Saccharina)藻類抽出物」は、本件訂正により「(A)コンブ科(Laminariaceae)コンブ属(Saccharina)ガゴメ(Saccharina sculpera)藻類抽出物」と特定され、コンブ科コンブ属藻類抽出物のうち、実施例に用いられたガゴメコンブ抽出物に限定されたから、当該理由は解消した。 イ 「4 コンブ属藻類抽出物の抽出溶媒について」 (ア) 具体的な内容 「本件発明1は、コンブ属(Saccharina)藻類抽出物について、フコイダンを含む含水アルコール抽出物であると特定されているが、抽出溶媒におけるアルコールの割合(アルコール濃度)について特定はない。 そして、本件明細書には、抽出物の抽出溶媒について、摘記事項1(4)に説明があり、実施例では、30%1,3-ブチレングリコール水溶液を抽出溶媒とした例のみが記載されている(摘記事項1(5)【0051】?【0061】)。 一方、甲7には、ワカメ属のワカメの成熟期にワカメの茎の両側に生じる胞子製造器官である胞子葉であるめかぶの水抽出物において、アルコール(エチルアルコール)を加えたところ、アルコール濃度45%程度まではどろどろの状態であったが、50?65%ではさらさらした状態となり、分子量の大きいフコイダンやアルギン酸などの多糖類(粘質)が50?65%のアルコール溶液には溶解しないことが記載されている(摘示事項(3)ア、イ)。 上記甲7の記載内容を本件発明1に当てはめて考えると、本件発明1でも、抽出溶媒のアルコール濃度が高い場合に、抽出溶媒にフコイダンが溶解せず、フコイダンがごく微量にしか含まれない場合が存在するものと推測される。 そうすると、本件発明1において、アルコール濃度が高い含水アルコール抽出溶媒を用いてフコイダンがごく微量しか含まれない場合には、本件明細書の表1の比較例1に近い評価となって、ハリ感に優れた化粧料又は皮膚外用剤が得られるとはいえず、本件発明の課題が解決できるものと認めることはできない。 よって、抽出溶媒のアルコール濃度の高い含水抽出物の場合を含む本件発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明ではない。 請求項1を直接又は間接的に引用する他の本件発明2?4についても同様である。 同様に、本件明細書の発明の詳細な説明は、本件発明1?4について、アルコール濃度が高い含水アルコール抽出溶媒を用いた場合に、本件発明を当業者が実施できるように明確かつ十分に記載されていない。」 (イ) 判断 上記理由は、上記5(1)の理由と同趣旨であって、訂正前の「フコイダンを含む含水アルコール抽出物」は、含水アルコール抽出物に用いる含水アルコールのアルコール:水の割合について特定がなかったところ、本件訂正により、「含水アルコールがアルコール:水(v/v)=10:90?30:70」と特定されたことにより、当該理由は解消した。 (2) 小括 よって、本件発明1、2、4は、特許法第36条第6項第1号及び同法同条第4項第1号に規定する要件を満たさないものではないから、これらの発明に係る特許は、同法第113条第4号に該当せず、取り消すべきものではない。 第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について 1 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由の概要 申立人は、特許異議申立書において、訂正前の特許請求の範囲について、取消理由通知で採用した理由の他に以下の理由について申立てをしている。 (1) 申立理由1(特許法第36条第6項第1号)、理由2(同法同条第4項第1号)(同法第113条第4号) ・成分(A)の含有量について 本件の請求項1は、「(A)抽出物が、フコイダンを含む含水アルコール抽出物であり、成分(A)の含有量が、0.00001?0.05質量%であ」ると規定する一方で、フコイダンの含有量については何ら規定していない。 しかしながら、本件明細書の記載に基づき、あらゆるコンブ属(Saccharina)藻類抽出物について、成分(A)が含水アルコール抽出物であり、フコイダンを含みさえすれば、成分(A)の含有量にわたり、本件特許の課題を解決し、所期の効果を奏するとはいえない。 また、成分(A)の含有量において、本件発明の課題を解決できるものを広範な範囲の抽出物から見いだそうとすれば、当業者といえども過度の試行錯誤を強いられるものである。 よって、本件の請求項1?4に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件、同法同条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当する。 (2) 申立理由3(特許法第29条第2項(同法第113条第2号)) ア 理由3-1:甲第4号証を主引用例としたもの 本件の請求項1?4に係る発明は、甲第4号証に記載された発明並びに甲第1?3、5、8、9号証に記載された事項及び周知慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず、本件の請求項1?4に係る特許は、同法第113条第2号に該当する。 イ 理由3-2:甲第6号証を主引用例としたもの 本件の請求項1?4に係る発明は、甲第6号証に記載された発明並びに甲第1?3、8、9号証に記載された事項及び周知慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず、本件の請求項1?4に係る特許は、同法第113条第2号に該当する。 (3) 証拠方法 甲第1号証:金沢和樹著、「2.褐藻の食物繊維フコイダン」、Functional Food、2013年、VOL.7、No.1、p7-12 (取消理由に用いた甲1と同じ) 甲第2号証:酒井武 他2名、「機能性食品としてのフコイダン:その構造と生物活性」、藻類、2003年、第51巻、第1号、第19?25頁 (取消理由に用いた甲2と同じ) 甲第3号証:特開2005-330454号公報 甲第4号証:特開2013-40123号公報 甲第5号証:特開2012-180305号公報 甲第6号証:国際公開第2013/081147号 甲第7号証:特開2003-81777号公報 甲第8号証:特開2010-105978号公報 甲第9号証:特開2009-225791号公報 (以下、「甲第1号証」、「甲第2号証」、「甲第3号証」、「甲第4号証」、「甲第5号証」、「甲第6号証」、「甲第7号証」、「甲第8号証」、「甲第9号証」をそれぞれ「甲1」、「甲2」、「甲3」、「甲4」、「甲5」、「甲6」、「甲7」、「甲8」、「甲9」ともいう。) 2 甲1?9に記載された事項 甲1?9には、以下の記載がある。(下線は当審で付した。以下、同様。) (1) 甲1、2、7には、それぞれ第4 4(1)の摘記事項ア?エ、同(2)の摘記事項ア?ウ、同(3)の摘記事項ア?ウのとおりの事項が記載されている。 (2) 甲3には、褐藻類の粘液を採取する方法が記載され、生のガゴメ葉状体を茎部から19cmのところで切断し、300mLの人工海水に入れ、16時間振盪して得られた粘液溶出液を分析したところ、当該溶出液の粉末の50?80%はラミナランで、フコイダン及びアルギン酸は検出限定以下であったことが記載されている(請求項1、【0015】、図7)。 (3) 甲4には、保湿感の持続性に優れ、かつ、きしみ感を抑えた感触の良好な皮膚外用剤に関する発明として(【0001】)、請求項1に、 「次の成分(A)?(D)を含有することを特徴とする皮膚外用剤。 (A)一般式(1)又は(2)で表されるビフェニル化合物、コレステロール、フィトステロール、セラミド及び25℃で固体の紫外線吸収剤よりなる群から選択される1種以上 (B)IOB値が0.3?0.5の極性油 (C)ポリアクリルアミド化合物 (D)リン脂質 【化1】 (式中、R^(1)及びR^(2)は、それぞれ水素原子又は炭素数1?10の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基若しくはアルケニル基を示す) 【化2】 (式中、R^(3)及びR^(4)は、それぞれ炭素数1?5の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基、アルケニル基、ヒドロキシアルキル基若しくはヒドロキシアルケニル基、アルデヒド基、又はアセチル基を示す)」 が記載され、段落【0075】?【0076】に、 「【0075】 応用例2 クリーム 1.マカデミアナッツ油脂肪酸コレステリル 2.0 2.ベヘニルアルコール 1.5 3.フィトステロール 0.4 4.植物性スクワラン 4.0 5.ミリスチン酸オクチルドデシル 2.5 6.水素添加大豆リン脂質 0.5 7.イソステアリン酸プロピレングリコール 5.0 8.2,2’-ジヒドロキシ-5,5’-ジ-n-プロピルビフェニル 0.7 9.(2S,3R)-2-オクタデカノイルアミノオクタデカン-1,3-ジオール 0.1 10.濃グリセリン 3.0 11.1,3-ブチレングリコール 2.0 12.ジプロピレングリコール 5.0 13.エデト酸二ナトリウム 0.12 14.カルボキシビニルポリマー 0.24 15.PEG-75 2.0 16.SIMULGEL EG(SEPPIC社製) 2.56 17.サンショウ抽出液 (*6) 0.1 18.酵母エキス (*7) 0.1 19.海草エキス (*8) 0.1 20.甜茶エキス (*9) 0.1 21.チンピエキス (*10) 0.1 22.シーグラスエキス (*11) 0.1 23.加水分解シルク液 0.1 24.月桃葉エキス (*12) 0.1 25.N-アセチルグルコサミン (*13) 0.1 26.香料 0.05 27.フェノキシエタノール 0.4 28.エタノール 3.0 29.精製水 残部 (*6)サンショウ抽出液-J(丸善製薬社製) (*7)サイトダイン(ブルックス インダストリー社製) (*8)LAMINAINE-BG(Biotech Marine社 製) (*9)甜茶抽出液BGW(丸善製薬社製) (*10)チンピエキスK65B(日油社製) (*11)エメラス(テクノーブル社製) (*12)月桃葉抽出液BG(丸善製薬社製) (*13)マリンスウィートF(焼津水産化学工業社製) 【0076】 (製造方法) (1)成分1?12を80℃に加熱し、均一に混合する。 (2)成分13?15および31を80℃に加熱し、均一に混合する。 (3)(1)に、(2)を80℃に加熱保持しながら、徐々に添加して均 一に混合させる。 (4)(3)を40℃まで徐々に冷却し、成分16?30を40℃で添加し、均一に混合させる。」 と記載されている。 (4) 甲5には、「ラミナリアオクロロイカエキス (商品名:LAMINAINE-BG:Biotech Marine社製)」が記載されている(【0043】)。 (5) 甲6には、美白効果に優れた化粧料の提供、安定性及び安全性の高いメラニン産生抑制用組成物の提供との課題を達成する、美白効果に優れた化粧料として([0005]、[0006])、請求項1に、 「【請求項1】 (A)一般式(I)で表されるシステイン誘導体またはその塩: 【化1】 [式中、 X及びYは、それぞれ独立して、OR^(1)_(、)NHR^(2)(式中、R^(1)及びR^(2)は、それぞれ独立して、水素原子またはC_(1-22)アルキル基を示す。)であり; Zは、水素原子またはC_(1-22)アルキル基を示し; Wは、C_(1-22)アルキル基、C_(1-22)アルコキシ基またはC_(1-22)アルキルアミノ基を示す。] および (B)美白剤 を含有する化粧料。」 が記載され、請求項5には 「【請求項5】 (A)システイン誘導体またはその塩がN-アセチル-2-メチルチアゾリジン-2,4-ジカルボン酸-2-エチルエステルまたはその塩であり、 (B)美白剤がコウジ酸である請求項1記載の化粧料。」 が記載されている。 また、甲6の表5-1、表5-2には、処方例27として、「N-アセチル-2-メチルチアゾリジン-2,4-ジカルボン酸-2-エチルエステル」、「コウジ酸」、「マカデミアナッツ油脂肪酸フィトステリル」、「長鎖分岐脂肪酸コレステリル」、「水素添加大豆リン脂質」、「抽出物*1」を含有するクリームが記載され、当該「抽出物*1」として、表17-1から表17-3の抽出物1から94のいずれをも使用できることが記載され、表17-3に抽出物79としてコンブの抽出物が記載されている(請求項1、表5-1、表5-2、[0137]、表17-1?17-3)。 (6) 甲8には、皮膚の健康を維持または改善する化粧料として、2-アミノエタンスルフィン酸、ジメチルシラノールヒアルロネート及びシコンを含有する化粧料が記載されており(請求項1、【0001】)、実施例として、褐藻エキス(もずく、わかめ、昆布などの褐藻類の滑り成分として得られるエキスでありフコイダンなどの糖類や高分子、水溶性ミネラルを含む)を配合したゲルクリームを調製することが記載されている(【0036】)。 (7) 甲9には、請求項1に、「(1)湿式加熱より海藻を膨潤させる工程、および(2)膨潤した海藻から有機溶媒又は含水有機溶媒により海藻抽出物を抽出する工程を含有する製造方法で得られる海藻抽出物」が記載されており、当該抽出物にフコイダンが含まれること(【0012】)、褐藻類を使用した場合に機能性成分であるフコイダンを含む海藻抽出物が得られること、コンブ科のガゴメなどを用いることができること(【0013】)、抽出に含水有機溶媒を用いる場合は、含水エタノール又は含水1,3-ブチレングリコールが例示され、含水有機溶媒の有機溶媒含量は、1?60%(v/v)から選択可能であり、10?50%(v/v)が特に好ましいことも記載されている(【0017】、【0018】)。 3 判断 (1) 申立理由1、2について(成分(A)の含有量について) 当該申立理由は、訂正前の請求項1?4に対するものであるところ、訂正前の「(A)コンブ科(Laminariaceae)コンブ属(Saccharina)藻類抽出物」は、本件訂正により、「(A)コンブ科(Laminariaceae)コンブ属(Saccharina)ガゴメ(Saccharina sculpera)藻類抽出物」と特定されて、実施例で用いたガゴメコンブの抽出物となり、また、訂正前の「前記(A)抽出物が、フコイダンを含む含水アルコール抽出物」は、含水アルコールのアルコールと水の割合の特定がなかったところ、本件訂正により、「当該含水アルコールがアルコール:水(v/v)=10:90?30:70」と特定されて、実施例に記載された30%1,3-ブチレングリコール水溶液の含水アルコールの割合であるアルコール:水(v/v)=30:70なる割合又はそれよりも水の割合が多い範囲となり、フコイダンが十分な量で抽出される範囲となったものである。 また、成分(A)の含有量の「0.00001?0.05質量%」との範囲について、本件明細書の表1の実施例1?9として、具体的に、成分(A)を0.00004質量%、0.004質量%、0.04質量%で配合した美容液の例が記載され、これら実施例の成分(A)の含有量は、本件発明1の成分(A)の含有量の上記範囲に含まれ、かつ、範囲の下限値、中間値、上限値に近い含有量であるから、この範囲全般において、ハリ感等に優れるとの効果が奏されることが示唆されているといえる。 そうすると、本件発明1の成分(A)の含有量である「0.00001?0.05質量%」の範囲にわたり、本件発明1の課題が解決され、ハリ感等に優れるとの所期の効果を奏することが本件明細書の記載から理解できるものである。 また、訂正により、「コンブ科(Laminariaceae)コンブ属(Saccharina)藻類抽出物」から「(A)コンブ科(Laminariaceae)コンブ属(Saccharina)ガゴメ(Saccharina sculpera)藻類抽出物」に特定され、その抽出溶媒の含水アルコールのアルコール:水の割合も特定されたから、本件発明1の抽出物は、広範なコンブ科コンブ属藻類抽出物から選択する必要はなく、過度の試行錯誤なく得られるものでもある。 したがって、当該理由は採用できず、本件発明1、2、4は、特許法第36条第6項第1号及び同法同条第4項第1号に規定する要件を満たすから、これらの発明に係る特許は、同法第113条第4号に該当せず、取り消すべきものではない。 (2) 申立理由3について ア 理由3-1:甲4を主引用例としたもの (ア) 甲4に記載された発明 甲4の段落【0075】には、マカデミアナッツ油脂肪酸コレステリル 2.0質量%、フィトステロール 0.4質量%、水素添加大豆リン脂質 0.5質量%、海藻エキス(LAMINAINE-BG(Biotech Marine社製))、その他成分を含有するクリームが記載されており、当該海藻エキスは、甲5の段落【0043】によれば、ラミナリアアオクロロイカエキス(商品名:LAMINAINE-BG:Biotech Marine社製)である。 そうすると、甲4には、 「マカデミアナッツ油脂肪酸コレステリル 2.0質量%、フィトステロール 0.4質量%、水素添加大豆リン脂質 0.5質量%、ラミナリアアオクロロイカエキス (商品名:LAMINAINE-BG:Biotech Marine社製)0.1質量%、ミリスチン酸オクチルドデシル 2.5質量%、SIMULGEL EG(SEPPIC社製) 2.56質量、その他の成分を含有するクリーム。」(以下、「甲4発明」という。) の発明が記載されている。 (イ) 本件発明1について a 対比 本件発明1と甲4発明を対比する。 本件発明1の「(A)コンブ科(Laminariaceae)コンブ属(Saccharina)ガゴメ(Saccharina sculpera)藻類抽出物」と、甲4発明の「ラミナリアアオクロロイカエキス (商品名:LAMINAINE-BG:Biotech Marine社製)」とは、「藻類抽出物」との限りにおいて一致する。 甲4発明の「マカデミアナッツ油脂肪酸コレステリル」、「フィトステロール」は、本件発明1の「(C)ステロール、脂肪酸ステロールエステル及びそれらの塩から選ばれる1種又は2種以上」に相当し、甲4発明の「水素添加大豆リン脂質」は、本件発明1の「(B)リン脂質」に相当する。 また、本件発明1の成分(C)に相当する甲4発明の「マカデミアナッツ油脂肪酸コレステリル」及び「フィトステロール」の配合量の合計は2.4質量%であり、本件発明1の成分(C)の含有量である「0.05?20質量%」に包含され、また、本件発明1の成分(B)に相当する甲4発明の水素添加大豆リン脂質の配合量は0.5質量%であるから、リン脂質/(マカデミアナッツ油脂肪酸コレステリル+フィトステロール)は、 0.5質量%/2.4質量%=0.208 となり、本件発明1の前記(B):成分(C)の含有量比(質量)の範囲の「B/C=0.1?10」に包含される。 甲4発明の「クリーム」は、甲4の請求項1の記載からみて皮膚外用剤であるから、本件発明1の「化粧料又は皮膚外用剤」に相当する。 そして、本件発明1は、成分(A)?(C)を含有する化粧料又は皮膚外用剤の発明であり、本件明細書の段落【0046】の記載からみて、本件発明の効果を損なわない範囲で、通常化粧料又は皮膚外用剤に使用される成分を加えることができるものであるから、甲4発明が上記「その他の成分」を含む点は両発明の相違点とはならない。 そうすると、本件発明1と甲4発明は、 「次の成分; 藻類抽出物 (B)リン脂質 (C)ステロール、脂肪酸ステロールエステル及びそれらの塩から選ばれる1種又は2種以上;を含有し、 前記(C)の含有量が、0.05?20質量%であり、 前記(B):成分(C)の含有量比(質量)は、B/C=0.1?10である、 化粧料又は皮膚外用剤。」 の発明の点で一致し、以下の点で相違する。 <相違点1> 藻類抽出物が、本件発明1では、「(A)コンブ科(Laminariaceae)コンブ属(Saccharina)ガゴメ(Saccharina sculpera)藻類抽出物」であって「前記(A)抽出物が、フコイダンを含む含水アルコール抽出物であり、当該含水アルコールがアルコール:水(v/v)=10:90?30:70であり」と特定されるのに対し、甲4発明では、「ラミナリアアオクロロイカエキス (商品名:LAMINAINE-BG:Biotech Marine社製)」であり、「(A)コンブ科(Laminariaceae)コンブ属(Saccharina)ガゴメ(Saccharina sculpera)藻類抽出物」であって「前記(A)抽出物が、フコイダンを含む含水アルコール抽出物であり、当該含水アルコールがアルコール:水(v/v)=10:90?30:70であり」との特定がない点。 <相違点2> 藻類抽出物の含有量が、本件発明1では、本件明細書の【0029】の記載からみて、溶媒を除いた乾燥純分換算で「0.00001?0.05質量%」であるのに対し、甲4発明では、抽出物として「0.1質量%」の割合で含まれる点。 b 判断 相違点1について検討する。 甲4発明の「ラミナリアオクロロイカエキス」は、「ラミナリア」との用語からみてコンブ科ラミナリア属の褐藻類の抽出物ではあるものの、「(A)コンブ科(Laminariaceae)コンブ属(Saccharina)ガゴメ(Saccharina sculpera)藻類抽出物」ではなく、甲4には、「(A)コンブ科(Laminariaceae)コンブ属(Saccharina)ガゴメ(Saccharina sculpera)藻類抽出物」であって「前記(A)抽出物が、フコイダンを含む含水アルコール抽出物であり、当該含水アルコールがアルコール:水(v/v)=10:90?30:70であり」と特定される抽出物についての記載はない。 そして、甲1には、褐藻はフコイダンを含むことが記載され、甲2には、ガゴメ由来フコイダンは、紫外線が原因となる皮膚の老化現象(しわ形成、弾力低下、コラーゲン生産低下)を抑制できることが記載され、甲3には、ガゴメをはじめとする褐藻類の海藻は、化粧品原料として利用される機能性成分を含む旨が記載されているにすぎず、甲4発明において、「ラミナリアアオクロロイカエキス」に代えて、「(A)コンブ科(Laminariaceae)コンブ属(Saccharina)ガゴメ(Saccharina sculpera)藻類抽出物」であって「前記(A)抽出物が、フコイダンを含む含水アルコール抽出物であり、当該含水アルコールがアルコール:水(v/v)=10:90?30:70であり」と特定される抽出物を用いることを動機づけるような記載はない。 また、その他の証拠の甲5、8、9にも、甲4発明の「ラミナリアアオクロロイカエキス」に代えて、「(A)コンブ科(Laminariaceae)コンブ属(Saccharina)ガゴメ(Saccharina sculpera)藻類抽出物」であって「前記(A)抽出物が、フコイダンを含む含水アルコール抽出物であり、当該含水アルコールがアルコール:水(v/v)=10:90?30:70であり」と特定される抽出物を用いることを動機づけるような記載はない。 一方、本件発明1は、当該構成とすることにより、ハリ感に優れた化粧料等が得られるとの格別顕著な効果が奏するものである。 そうすると、相違点1は、当業者が容易になし得たことではないから、他の相違点2を検討するまでもなく、本件発明1は、甲第4号証に記載された発明並びに甲第1?3、5、8、9号証に記載された事項及び周知慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (ウ) 本件発明2、4について 本件発明2、4は、本件発明1をさらに限定したものであるところ、本件発明1が甲第4号証に記載された発明並びに甲第1?3、5、8、9号証に記載された事項及び周知慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、それをさらに限定した本件発明2、4も同様に判断される。 イ 理由3-2:甲6を主引用例としたもの (ア) 甲6に記載された発明 甲6には、表5-1、表5-2の処方例27の記載からみて、 「マカデミアナッツ油脂肪酸フィトステリル0.50重量%、長鎖分岐脂肪酸コレステリル 2.00重量%、水素添加大豆リン脂質 0.50重量%、抽出物*1 0.10重量%、その他の成分を含有するクリーム。」 の発明が記載されている(以下、「甲6発明」という。)。 (イ) 本件発明1について a 対比 甲6発明の「マカデミアナッツ油脂肪酸フィトステリル」、「長鎖分岐脂肪酸コレステリル」は、本件発明1の「(C)ステロール、脂肪酸ステロールエステル及びそれらの塩から選ばれる1種又は2種以上」に相当し、甲6発明の「水素添加大豆リン脂質」は本件発明1の「(B)リン脂質」に相当する。 また、本件発明1の成分(C)に相当する甲6発明の「マカデミアナッツ油脂肪酸コレステリル」及び「フィトステロール」の配合量の合計は2.5質量%であり、本件発明1の成分(C)の含有量である「0.05?20質量%」に包含され、また、本件発明1の成分(B)に相当する甲6発明の「水素添加大豆リン脂質」の配合量は0.5質量%であるから、水素添加大豆リン脂質/(マカデミアナッツ油脂肪酸コレステリル+フィトステロール)を計算すると、 0.5質量%/2.5質量%=0.2 となり、本件発明1の前記(B):成分(C)の含有量比(質量)の範囲の「B/C=0.1?10」に包含される。 本件発明1の「(A)コンブ科(Laminariaceae)コンブ属(Saccharina)ガゴメ(Saccharina sculpera)藻類抽出物」と、甲6発明の「抽出物*1」とは、「抽出物」との限りにおいて一致する。 甲6発明の「クリーム」は,、甲6の請求項1の記載からみて化粧料であるから、本件発明1の「化粧料又は皮膚外用剤」に相当する。 そして、本件発明1は、成分(A)?(C)を含有する化粧料又は皮膚外用剤の発明であり、本件明細書の段落【0046】の記載からみて、本件発明の効果を損なわない範囲で、通常化粧料又は皮膚外用剤に使用される成分を加えることができるものであるから、甲6発明において、上記「その他の成分」を含む点は両発明の相違点とはならない。 そうすると、本件発明1と甲6発明は、 「抽出物、 (B)リン脂質、 (C)ステロール、脂肪酸ステロールエステル及びそれらの塩から選ばれる1種又は2種以上;を含有し、 前記(C)の含有量が、0.05?20質量%であり、 前記(B):成分(C)の含有量比(質量)は、B/C=0.1?10である、 化粧料又は皮膚外用剤。」 の発明の点で一致し、以下の点で相違する。 <相違点3> 抽出物が、本件発明1では、「(A)コンブ科(Laminariaceae)コンブ属(Saccharina)ガゴメ(Saccharina sculpera)藻類抽出物」であって「前記(A)抽出物が、フコイダンを含む含水アルコール抽出物で含水アルコールであり、当該含水アルコールがアルコール:水(v/v)=10:90?30:70であり」と特定されるのに対し、甲6発明では、表17-1?17-3に記載のいずれかの「抽出物」であり、「(A)コンブ科(Laminariaceae)コンブ属(Saccharina)ガゴメ(Saccharina sculpera)藻類抽出物」であって「前記(A)抽出物が、フコイダンを含む含水アルコール抽出物であり、当該含水アルコールがアルコール:水(v/v)=10:90?30:70であり」との特定がない点。 <相違点4> 抽出物の含有量が、本件発明1では、本件明細書の【0029】の記載からみて、溶媒を除いた乾燥純分換算で「0.00001?0.05質量%」であるのに対し、甲6発明では、抽出物として「0.10重量%」の割合で含まれる点。 b 判断 相違点3について検討する。 甲6の表17-1?17-3には、94種類の抽出物が記載され、その中にコンブの抽出物の記載はあるものの(表17-4 抽出物79)、「(A)コンブ科(Laminariaceae)コンブ属(Saccharina)ガゴメ(Saccharina sculpera)藻類抽出物」ではなく、甲6には、「(A)コンブ科(Laminariaceae)コンブ属(Saccharina)ガゴメ(Saccharina sculpera)藻類抽出物」であって「前記(A)抽出物が、フコイダンを含む含水アルコール抽出物であり、当該含水アルコールがアルコール:水(v/v)=10:90?30:70であり」と特定される抽出物についての記載はない。 そして、甲1には、褐藻はフコイダンを含むことが記載され、甲2には、ガゴメ由来フコイダンは、紫外線が原因となる皮膚の老化現象(しわ形成、弾力低下、コラーゲン生産低下)を抑制できることが記載され、甲3には、ガゴメをはじめとする褐藻類の海藻は、化粧品原料として利用される機能性成分を含む旨が記載されているにすぎず、甲6発明において、「抽出物」として、「(A)コンブ科(Laminariaceae)コンブ属(Saccharina)ガゴメ(Saccharina sculpera)藻類抽出物」であって「前記(A)抽出物が、フコイダンを含む含水アルコール抽出物であり、当該含水アルコールがアルコール:水(v/v)=10:90?30:70であり」と特定される抽出物を用いることを動機づけるような記載はない。 また、その他の甲号証をみても、甲6発明の抽出物として、甲6発明の「抽出物」として、「(A)コンブ科(Laminariaceae)コンブ属(Saccharina)ガゴメ(Saccharina sculpera)藻類抽出物」であって「前記(A)抽出物が、フコイダンを含む含水アルコール抽出物であり、当該含水アルコールがアルコール:水(v/v)=10:90?30:70であり」と特定される抽出物を用いることを動機づけるような記載はない。 一方、本件発明1は、当該構成とすることにより、ハリ感に優れた化粧料等が得られるとの格別顕著な効果が奏するものである。 そうすると、相違点3は、当業者が容易になし得たことではないから、他の相違点4を検討するまでもなく、本件発明1は、甲第6号証に記載された発明並びに甲第1?3、8、9号証に記載された事項及び周知慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (ウ) 本件発明2、4について 本件発明2、4は、本件発明1をさらに限定したものであるところ、本件発明1が甲第6号証に記載された発明並びに甲第1?3、8、9号証に記載された事項及び周知慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、それをさらに限定した本件発明2、4も同様に判断される。 ウ 小括 よって、申立理由3は採用できず、本件発明1、2,4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものではなく、同法第113条第2号に該当せず、取り消すべきものではない。 4 特許異議申立理由のまとめ 以上のとおり、申立人の主張する申立理由1?3-2により、本件発明1、2、4に係る特許を取り消すことはできない。 第6 令和2年3月4日付け意見書における請求人の主張について 請求人は、令和2年3月4日付け意見書において、30%1,3-ブチレングリコール以外のアルコールの種類及び濃度を含む訂正後の本件発明1、2、4は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載された発明ではなく、また、本件明細書の発明の詳細な説明は、30%1,3-ブチレングリコール以外のアルコールの種類及び濃度を含む場合に、訂正後の本件発明1、2、4を当業者が実施できるように明確かつ十分に記載されたものではない旨の新たな主張をしている。 上記主張は、訂正請求により新たに生じた取消理由に係るものではなく、そもそも採用できるものではないが、念のため以下のとおり付言する。 まず、アルコールの種類について検討する。 本件明細書の段落【0023】に 「本技術の褐藻類の抽出に使用する溶媒としては、特に限定されないが、例えば、水、低級1価アルコール(メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール等)、液状多価アルコール(プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール等)・・・が挙げられる。なお、「低級」又は「液状多価」における炭素数は、1?4であるのが好ましい。このうち、水、エチルアルコール、1,3-ブチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール(好ましくは、水、エチルアルコール、1,3-ブチレングリコール)から選ばれる1種又は2種以上のものが、好適である。 本技術の抽出溶媒として、水及び水溶性有機溶媒から選ばれる1種又は2種の混合液が好適である。また、含水水溶性有機溶媒としてもよい。当該水溶性有機溶媒として、アルコール(例えば、低級1価アルコール、液状多価アルコール等)が好適である。」 と記載があり、また、【0025】にも 「好ましい抽出方法の例としては、藻体(好適には、葉部及び茎部等の藻体全体)の乾燥物1kgを抽出溶媒1?20L(好適には5?10L)で浸漬を行う。 抽出溶媒は含水濃度0?100vol%のアルコール(好適には、エチルアルコール、1,3-ブチレングリコール)を用いるのが好適である。なお、含水濃度100vol%とは水のことである。水・アルコール混合液の場合、アルコール:水(v/v)=10:90?90:10が好ましく、アルコール:水=20:80?50:50がより好ましい。 抽出条件は、室温(0?40℃程度(好適には10℃±10℃))にて0.5?15日間(好適には1?5日間)抽出を行うのが好適である。」 と記載があるから、本件発明では、エチルアルコールも含水アルコール溶媒に用いる好ましい溶媒として認識されているといえる。 そして、甲9には、ガゴメ等の褐藻類からフコイダンを含む海藻抽出物を得ることが記載されているところ、好ましいアルコールとして、エタノール、1,3-ブチレングリコールが挙げられ、具体的に実施例1、4に、30%(v/v)エタノールを用いて膨潤ガゴメ粉砕物から低分子量のフコイダンを含む抽出物が得られることが記載されている(【0011】?【0013】、【0018】、【0038】、【0042】)ことや、フコイダンが、海藻から(熱)水で抽出できるものであることが周知であること(甲2 第19頁図1、第19頁右欄第6?10行、甲9【0003】)からすれば、水を90?70%含有する含水エタノール溶液によっても、水を70%含有する1,3-ブチレングリコール溶媒と同様に、フコイダンを含む抽出物が得られるであろうと合理的に推認できる。 よって、上記請求人の主張は採用できない。 第7 むすび 以上のとおり、請求項1、2、4に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては取り消すことはできない。 また、他に、請求項1、2、4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 請求項3は削除されたので、この請求項に係る特許異議の申立ては、申立対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下すべきものである。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 次の成分(A)?(C); (A)コンブ科(Laminariaceae)コンブ属(Saccharina)ガゴメ(Saccharina sculpera)藻類抽出物 (B)リン脂質 (C)ステロール、脂肪酸ステロールエステル及びそれらの塩から選ばれる1種又は2種以上;を含有し、 前記(A)抽出物が、フコイダンを含む含水アルコール抽出物であり、当該含水アルコールがアルコール:水(v/v)=10:90?30:70であり、 前記(A)の含有量が、0.00001?0.05質量%であり、 前記(C)の含有量が、0.05?20質量%であり、 前記(B):成分(C)の含有量比(質量)は、B/C=0.1?10である、 化粧料又は皮膚外用剤。 【請求項2】 前記成分(C)が、高級脂肪酸ステロールエステルである請求項1記載の化粧料又は皮膚外用剤。 【請求項3】 (削除) 【請求項4】 前記成分(B)が、水素添加リン脂質を含むものである請求項1又は2記載の化粧料又は皮膚外用剤。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2020-04-13 |
出願番号 | 特願2013-159873(P2013-159873) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
YAA
(A61K)
P 1 651・ 537- YAA (A61K) P 1 651・ 536- YAA (A61K) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 田中 則充 |
特許庁審判長 |
關 政立 |
特許庁審判官 |
冨永 みどり 岡崎 美穂 |
登録日 | 2018-10-05 |
登録番号 | 特許第6411717号(P6411717) |
権利者 | 株式会社コーセー |
発明の名称 | 化粧料及び皮膚外用剤 |
代理人 | 井上 美和子 |
代理人 | 渡邊 薫 |
代理人 | 井上 美和子 |
代理人 | 渡邊 薫 |