ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 一部申し立て 2項進歩性 C23C 審判 一部申し立て 1項2号公然実施 C23C 審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載 C23C |
---|---|
管理番号 | 1363171 |
異議申立番号 | 異議2019-700878 |
総通号数 | 247 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2020-07-31 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2019-11-08 |
確定日 | 2020-06-08 |
異議申立件数 | 2 |
事件の表示 | 特許第6508758号発明「研磨模様が施された金属部材及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6508758号の請求項1?3に係る特許を維持する。 |
理由 |
理 由 第1 手続の経緯 特許第6508758号の請求項1?5に係る特許(以下「本件特許」という。)についての出願は、平成30年12月12日の出願であって、平成31年4月12日にその特許権の設定登録がされ、令和元年5月8日に特許掲載公報が発行されたものであり、本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。 令和元年11月8日:特許異議申立人菊川工業株式会社による請求項2、3に係る特許に対する特許異議の申立て 令和元年11月8日:特許異議申立人有限会社サラサ・テクネによる請求項1?3に係る特許に対する特許異議の申立て 令和2年1月28日付:取消理由通知 令和2年4月3日:特許権者による意見書の提出 第2 本件発明 本件特許の請求項1?3に係る発明(以下「本件発明1?3」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1?3に記載された次の事項により特定されるとおりのものと認める。 「【請求項1】 研磨模様が施された金属部材であって、 金属からなる基部と、 該基部の表面に設けられた該基部とは異なる色の色層と、を備え、 前記色層は、前記基部とは反対側から前記基部の側へ色層を貫通する複数の線状の貫通部と、前記色層を前記基部とは反対側から前記基部の側へ貫通しない複数の線状の溝部とを有し、 前記色層が、顔料及び樹脂よりなるものであり、 前記貫通部は、前記色層の前記基部とは反対側の表面を研磨することにより形成されたものである金属部材。 【請求項2】 研磨模様が施された金属部材であって、 金属からなる基部と、 該基部の表面に設けられた該基部とは異なる色の色層と、を備え、 前記色層は、前記基部とは反対側から前記基部の側へ色層を貫通する複数の線状の貫通部と、前記色層を前記基部とは反対側から前記基部の側へ貫通しない複数の線状の溝部とを有し、 前記色層が、前記基部に着色効果を有する薬剤を反応させることにより形成されるものであり、 前記貫通部は、前記色層の前記基部とは反対側の表面を研磨することにより形成されたものである金属部材。 【請求項3】 前記色層の前記基部とは反対側の表面に設けられた透明層を更に備える請求項1又は2に記載の金属部材。」 第3 取消理由通知で通知した取消理由について 1 令和2年1月28日付けで通知した取消理由の概要は、以下のとおりである。 (1)(新規性)本件発明2及び3は、本件特許出願前に日本国内において、頒布された引用例1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項2及び3に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。 (2)(進歩性)本件発明2及び3は、引用例1に記載された発明及び引用例2?10に記載された事項に基いて、また、本件発明1は、引用例5に示される公然実施された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1?3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 <刊行物等> (異議申立人菊川工業株式会社による異議申立より) 甲第1号証:銅板の人工着色法、社団法人日本銅センター、1999年7月、p.3?13、54?64(引用例1) 甲第2号証:小嶋隆司、”銅および銅合金の黒色化処理”、表面技術、社団法人 表面技術協会、1999年4月、Vol.50、No.4、p.16?19(引用例2) 甲第3号証:菊川工業株式会社の「Bronze KIKUKAWA Material Samples」のサンプル付きカタログ、2017年(引用例3) 甲第4号証:甲第3号証の見本の拡大写真(引用例4) (異議申立人有限会社サラサ・テクネによる異議申立より) 甲第1号証:銅板の人工着色法、社団法人日本銅センター、1999年7月、p.2?13、24?25(引用例1) 甲第2号証:有限会社サラサ・テクネから株式会社TOMINAGA金井に提出された「硫化風塗装仕様書」、2017年9月28日(引用例5) 甲第3号証:有限会社サラサ・テクネから株式会社関工務店に提出された「国史跡称名寺境内平橋および反橋復元金物工事:硫化着色施工報告書」、2008年4月15日(引用例6) 甲第4号証:有限会社サラサ・テクネの「STEELKY BRONZE」のカタログ並びに「STEELKY BRONZE」に係る商標登録証及び出願取下書(引用例7) 甲第5号証:有限会社サラサ・テクネから有限会社柏央塗装に提出された「スティリーブロンズ(スチールにブロンズの美観と耐候性を)企画提案書」、2010年5月20日(引用例8) 甲第6号証:有限会社サラサ・テクネの「ARTS AND CRAFTS PAINTING SAMPLES OF ARCHITECTURE 建築用美術工芸塗装見本」(引用例9) 甲第7号証:有限会社サラサ・テクネの「STEELKY BRONZE」のカタログサンプル、2011年度新作 VOL.2(引用例10) 2 当審の判断 (1)本件発明2及び3について ア 引用例1記載の発明 引用例1には、以下の事項が記載されている。 (ア)「硫化着色 ここで着色の作業に入ります。硫化着色を行なうにはまず硫化液を用意します。硫化液は水10lに対し、硫化加里3.5g程度を混ぜ合わせます。 まず、脱脂研磨の終わった銅板を硫化液の中に漬け、銅板を平らにしながら硫化液が上下に流れ落ちるような作業を行います。この作業は、硫化液に銅板を漬けたりあげたり、銅板を空気中に触れさせながら銅板の表面を硫化液が上下に流れたりのぼったりする動作を繰り返し行ないます。 この繰り返し作業によって銅板の表面が酸化され、薄い硫化皮膜をつくりあげていきます。」(9頁1?11行) (イ)「仕上げ研磨 硫化着色作業が見本通りに仕上がったら次に炭酸水素ナトリウム(重曹)を用いて最終的な色仕上げを行います。 少しかための毛ブラシに重曹をたっぷりつけて着色を終えた銅板の表面を研磨します。研磨は銅板の大きさによって磨く方向を定めて作業を行います。重曹を使って研磨するのは硫化着色の色沢を安定させ、硫化銅の薄い皮膜を美しく仕上げるためです。 この作業は着色の濃淡を見本通りの色に十分仕上がっているかどうかを調べる仕上げ研磨の工程です。色沢が濃すぎた時は、たっぷり重曹をつけて研磨を繰り返すと、硫化皮膜がむけて薄くなってきます。」(11頁1?10行) (ウ)「写真21にブラッシングによる硫化着色表面(黒色)電子顕微鏡写真を示す。表面の条痕が多いのはブラッシングによる刷毛目である。」(55頁左欄下から2行?右欄2行) (エ)「写真21 」 上記摘記事項(ア)及び(イ)の記載を総合すると、引用例1には、以下の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されている。 「銅板を硫化液の中に漬けて、銅板の表面を酸化して薄い硫化被膜をつくり、 少しかための毛ブラシに重曹をたっぷりつけて着色を終えた銅板の表面を研磨し、色沢が濃すぎたときは、たっぷり重曹をつけて研磨を繰り返すことで、硫化膜を薄くした硫化着色銅板。」 イ 対比 本件発明2と引用発明1とを対比する。 (ア)引用発明1の「硫化着色銅板」は、「表面を研磨し」たものであるから、本件発明2の「研磨模様が施された金属部材」に相当する。 (イ)引用発明1の「銅板」は、本件発明2の「金属からなる基部」に相当する。 (ウ)引用発明1の「銅板の表面を酸化して薄い硫化被膜」は、銅板と色が異なることが技術常識であるから、本件発明2の「該基部の表面に設けられた該基部とは異なる色の色層」であって、「前記基部に着色効果を有する薬剤を反応させることにより形成されるものであ」る「色相」に相当する。 そうすると、本件発明2と引用発明1との一致点及び相違点は以下のとおりである。 <一致点> 「研磨模様が施された金属部材であって、 金属からなる基部と、 該基部の表面に設けられた該基部とは異なる色の色層と、を備え、 前記色層が、前記基部に着色効果を有する薬剤を反応させることにより形成されるものである 金属部材。」 <相違点1> 本件発明2は、「前記色層は、前記基部とは反対側から前記基部の側へ色層を貫通する複数の線状の貫通部と、前記色層を前記基部とは反対側から前記基部の側へ貫通しない複数の線状の溝部とを有し、」「前記貫通部は、前記色層の前記基部とは反対側の表面を研磨することにより形成されたものである」のに対して、引用発明1は、少しかための毛ブラシに重曹をたっぷりつけて着色を終えた銅板の表面を研磨するものの、貫通部と溝部を有するかどうか不明である点。 ウ 検討 上記相違点1について検討する。 (ア)新規性について 引用例1の写真21(55頁)を参照すると、写真下の説明には「条痕は研磨のきず」と記載されており、白い条痕と着色された条痕とが看取できる。また、上記摘記事項(ウ)には、「表面の条痕が多いのはブラッシングによる刷毛目である。」と記載されており、写真21の条痕は、引用発明において、「少しかための毛ブラシに重曹をたっぷりつけて着色を終えた銅板の表面を研磨」したことによるものである。 しかし、写真21は電子顕微鏡写真であるところ(上記摘記事項(ウ))、当該倍率を考慮すると、白い条痕と着色された条痕とは、光の当たっている部分と陰となっている部分とであることは理解できるが、その白い条痕が、銅板が見えている部分であるとまでは、理解できない。 また、上記摘記事項(イ)の「色沢が濃すぎた時は、たっぷり重曹をつけて研磨を繰り返すと、硫化皮膜がむけて薄くなってきます。」の記載を参酌しても、研磨の結果、硫化皮膜の薄い部分が存在することは明らかであるが、硫化皮膜がなく、銅板まで貫通する条痕が存在するとはいえない。 そうすると、引用発明1は、本件発明2の「前記色層を前記基部とは反対側から前記基部の側へ貫通しない複数の線状の溝部」を有しているといえるが、「前記基部とは反対側から前記基部の側へ色層を貫通する複数の線状の貫通部」を有しているとはいえない。 したがって、相違点1は実質的な相違点であり、本件発明2は引用発明1であるとはいえない。 (イ)進歩性について 引用例4は、引用例3の見本の拡大写真とされているところ、引用例3の見本のどれをどのように移した拡大写真であるのか明確でない。さらに、引用例4の「硫化イブシ(淡色)」と「硫化イブシ(濃色)」が、引用例3の見本中の「丹銅 HL+硫化イブシ(淡色)+クリアー」と「丹銅 HL+硫化イブシ(濃色)+クリアー」の見本の表面の拡大写真であるとしても、引用例3の「ブロンズの材質種類と用途・化学成分」の表中の「丹銅 Bronze」の「用途・特徴」の欄に「赤黄色で展延性、絞り加工性、耐食性が良い。」との記載から、丹銅は赤黄色であるところ、引用例4の両写真は、不鮮明であり、赤黄色の丹銅の地金が看取できない。 また、引用例5は「仕様書」、引用例8は「企画提案書」であって、公然実施された発明を示しているとはいえず(引用例5についての詳細は下記(2)参照。)、引用例6は、「国史跡称名寺境内平橋および反橋復元金物工事:硫化着色施工報告書」であるが、具体的に公然実施されたことは証されておらず、「工業用研磨布(スコッチブライト#7447)を用いて硫化皮膜を研磨しながら着色皮膜の色調を調整する。」と記載されているものの、研磨後の状態は示されていない。 さらに、引用例2、7、9、10には、上記相違点1に係る本件発明2の事項について、記載も示唆もない。 したがって、引用例2?10には、上記相違点1に係る本件発明2の事項について、記載も示唆もないから、本件発明2は、引用発明1及び引用例2?10に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (ウ)本件発明3について 本件発明3は、本件発明2の発明特定事項を全て含み、さらに限定を加える発明であるから、本件発明3と引用発明1とを比較すると、少なくとも上記相違点1の点で相違する。 そして、相違点1については、上記(ア)及び(イ)と同様の理由により、本件発明3は引用発明1であるとはいえず、本件発明3は、引用発明1及び引用例2?10に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (2)本件発明1及び3について ア 公然実施発明 引用例5の1頁は、「硫化風塗装仕様書」であって、有限会社サラサ・テクネから株式会社TOMINAGA金井に2017年9月28日に提出されたものであるが、当該仕様書が提出されたことをもって、2017年9月28日時点で当該仕様書通りの硫化風塗装が公然実施されたとはいえない。また、2頁は、「スチール製家具硫化風塗装完了写真」であって、2017年12月6日と記載されているところ、当該写真は工場等の敷地内とみられ、公然と実施されていることは見て取れない。 そうすると、引用例5に示される硫化風塗装が本件特許出願前に公然実施されていたとはいえないから、本件発明1及び3は、当業者が引用例5に示される硫化風塗装に基いて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 第4 むすび 以上のとおりであるから、当審で通知した取消理由によっては、本件請求項1?3に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項1?3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2020-05-29 |
出願番号 | 特願2018-232604(P2018-232604) |
審決分類 |
P
1
652・
121-
Y
(C23C)
P 1 652・ 112- Y (C23C) P 1 652・ 113- Y (C23C) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 弘實 由美子 |
特許庁審判長 |
間中 耕治 |
特許庁審判官 |
佐々木 正章 杉山 悟史 |
登録日 | 2019-04-12 |
登録番号 | 特許第6508758号(P6508758) |
権利者 | 株式会社フロント |
発明の名称 | 研磨模様が施された金属部材及びその製造方法 |
代理人 | 勝木 俊晴 |
代理人 | 白崎 真二 |
代理人 | 阿部 綽勝 |
代理人 | 岡崎 紳吾 |
代理人 | 特許業務法人磯野国際特許商標事務所 |
代理人 | 中川 洋子 |