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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 B32B 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 B32B |
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管理番号 | 1363177 |
異議申立番号 | 異議2019-700480 |
総通号数 | 247 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2020-07-31 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2019-06-13 |
確定日 | 2020-06-05 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6439740号発明「積層ポリエステルフィルム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6439740号の請求項1ないし20に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6439740号(以下「本件特許」という。)の請求項1?20に係る特許についての出願は、平成28年4月21日に出願したものであって、平成30年11月30日にその特許権の設定登録がされ、平成30年12月19日に特許掲載公報が発行された。その特許についての本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。 令和1年6月13日:特許異議申立人松村隆久(以下「申立人」という。)による特許異議の申立て 令和1年8月2日付け:取消理由通知書 令和1年9月26日:特許権者による意見書の提出 令和1年10月17日付け:取消理由通知(決定の予告) 令和1年12月4日:特許権者による意見書の提出 令和2年1月9日付け:(申立人に対する)審尋 令和2年3月6日:申立人による回答書の提出 第2 本件特許発明 本件特許の請求項1?20に係る発明(以下「本件発明1?20」という。)は、特許請求の範囲の請求項1?20に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。 「【請求項1】 ポリエステルフィルムの一方の面に、ガラス転移点が0℃以下であるアクリル樹脂またはガラス転移点が0℃以下であるポリエステル樹脂を含有する、膜厚が10μm以下である粘着層を有し、当該粘着層と反対側のポリエステルフィルム面に、波長400?800nmの範囲における絶対反射率の最小値が4.0%以上である機能層を有することを特徴とする積層ポリエステルフィルム。 【請求項2】 前記ガラス転移点が0℃以下であるポリエステル樹脂が、脂肪族多価カルボン酸または脂肪族多価ヒドロキシ化合物を構成成分に含有する請求項1の積層ポリエステルフィルム。 【請求項3】 前記ガラス転移点が0℃以下であるポリエステル樹脂が、官能基としてスルホン酸、スルホン酸塩、カルボン酸、またはカルボン酸塩を含有する請求項1または2に記載の積層ポリエステルフィルム。 【請求項4】 前記ガラス転移点が0℃以下であるアクリル樹脂が、アルキル基の炭素数が4?30の範囲であるアルキル(メタ)アクリレートを構成成分として含有する請求項1?3のいずれかに記載の積層ポリエステルフィルム。 【請求項5】 前記ガラス転移点が0℃以下であるアクリル樹脂を構成するモノマーのうち、ホモポリマーとした場合のガラス転移点が0℃以下であるモノマーの含有量が、アクリル樹脂全体に対する割合として30重量%以上である請求項1?4のいずれかに記載の積層ポリエステルフィルム。 【請求項6】 前記ガラス転移点が0℃以下であるアクリル樹脂が、エステル基末端に含有する炭素数が2以下である化合物、または環状構造を有する化合物を構成成分として含有する請求項1?5のいずれかに記載の積層ポリエステルフィルム。 【請求項7】 前記ガラス転移点が0℃以下であるアクリル樹脂が、カルボン酸基、カルボン酸塩基、スルホン酸基、スルホン酸塩基、または水酸基を含有する請求項1?6のいずれかに記載の積層ポリエステルフィルム。 【請求項8】 前記粘着層が架橋剤を含有する請求項1?7のいずれかに記載の積層ポリエステルフィルム。 【請求項9】 前記機能層が樹脂を含有する請求項1?8のいずれかに記載の積層ポリエステルフィルム。 【請求項10】 前記機能層が芳香族含有化合物、縮合多環式芳香族化合物、金属含有化合物、硫黄元素を含有する化合物、またはハロゲン元素を含有する化合物のいずれか1種を含有する請求項1?9のいずれかに記載の積層ポリエステルフィルム。 【請求項11】 前記機能層が架橋剤を含有する請求項1?10のいずれかに記載の積層ポリエステルフィルム。 【請求項12】 前記機能層の膜厚が30?500nmの範囲である請求項1?11のいずれかに記載の積層ポリエステルフィルム。 【請求項13】 前記機能層の上に加工層を有する請求項1?12のいずれかに記載の積層ポリエステルフィルム。 【請求項14】 前記粘着層表面の算術平均粗さ(Sa)が50nm以下である請求項1?13のいずれかに記載の積層ポリエステルフィルム。 【請求項15】 前記ポリエステルフィルムが多層構成であり、前記粘着層側のポリエステルフィルム層に含有する粒子量が0.30重量%未満である請求項1?14のいずれかに記載の積層ポリエステルフィルム。 【請求項16】 前記粘着層のポリメチルメタクリレート板に対する粘着力が、1?5000mN/cmの範囲である請求項1?15のいずれかに記載の積層ポリエステルフィルム。 【請求項17】 ポリエステルフィルムの一方の面に、ガラス転移点が0℃以下であるアクリル樹脂またはガラス転移点が0℃以下であるポリエステル樹脂を含有する、膜厚が10μm以下である粘着層を設け、当該粘着層と反対側のポリエステルフィルム面に、波長400?800nmの範囲における絶対反射率の最小値が4.0%以上である機能層を設け、当該粘着層をフィルム製造の工程内でインラインコーティングにより形成することを特徴とする積層ポリエステルフィルムの製造方法。 【請求項18】 ポリエステルフィルムの一方の面に、ガラス転移点が0℃以下であるアクリル樹脂またはガラス転移点が0℃以下であるポリエステル樹脂を含有する、膜厚が10μm以下である粘着層を設け、当該粘着層と反対側のポリエステルフィルム面に、波長400?800nmの範囲における絶対反射率の最小値が4.0%以上である機能層を設け、当該粘着層を210?270℃の範囲の熱処理工程を経て形成することを特徴とする積層ポリエステルフィルムの製造方法。 【請求項19】 ポリエステルフィルムの一方の面に、ガラス転移点が0℃以下であるアクリル樹脂またはガラス転移点が0℃以下であるポリエステル樹脂を含有する、膜厚が10μm以下である粘着層を設け、当該粘着層と反対側のポリエステルフィルム面に、波長400?800nmの範囲における絶対反射率の最小値が4.0%以上である機能層を設け、当該粘着層を当該ガラス転移点が0℃以下である樹脂を含む水溶液または水分散体を塗布、乾燥して形成することを特徴とする積層ポリエステルフィルムの製造方法。 【請求項20】 前記粘着層のポリメチルメタクリレート板に対する粘着力が、1?5000mN/cmの範囲である請求項17?19のいずれかに記載の積層ポリエステルフィルムの製造方法。」 第3 特許異議の申立てについて 1 取消理由(決定の予告)の概要 本件特許に対して当審が通知した令和1年10月17日付け取消理由通知(決定の予告)(サポート要件)の概要は、以下のとおりである。 「特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。 本件特許発明について当てはめると、本件明細書の段落【0008】には、【発明が解決しようとする課題】として、「本発明は、上記実情に鑑みなされたものであって、その解決課題は、各種表面保護フィルム用等に使用する、フィッシュアイが少なく、機械的強度および耐熱性に優れ、良好な粘着特性と加工後にも良好な視認性を有する積層ポリエステルフィルムを提供することにある。」と記載され、同段落【0034】には、「一般的な粘着層は10μmを超える厚い膜厚であるが、本発明においては、粘着層の膜厚を10μm以下の薄い範囲とすることで、例えば、偏光板製造用に使用する場合、本発明のフィルムを偏光板などの被着体と貼り合わせて断裁する際等において、粘着層中の粘着剤のはみ出しを最小限に抑えることができ、また、フィルム上に存在する粘着層の絶対量が少ないこともあり、被着体に粘着層の成分が移行する、糊残りの低減にも効果的であることも見いだした。」と記載されている。 そして、同段落【0188】には、 「比較例13: 比較例1で得られた粘着層がないポリエステルフィルム上に、下記表1に示す塗布液A21を粘着層の膜厚(乾燥後)が20μmとなるように、100℃で3分間の乾燥を行い、オフラインコーティングによる粘着層が形成されたポリエステルフィルムを得た。ポリエステルフィルムに粘着層側を貼り合わせた後に断裁したところ、実施例では見られなかった、粘着層の成分のはみ出しが見られ、粘着成分による汚染が懸念される結果であった。また粘着力はうまく測定ができなかった。その他の特性は表13に示すとおりであった。」 と記載されている。 ここで、粘着層の膜厚が20μmである比較例13では、実施例では見られなかった粘着層の成分のはみ出しが見られ、粘着成分による汚染が懸念され、良好な粘着特性を得るという本件特許発明の課題を解決できないと解される。 一方、本件明細書の表4?表12に実施例として示されている、粘着層の膜厚が90nm?440nm(=0.090μm?0.440μm)のものであれば、粘着層中の粘着剤のはみ出しを最小限に抑えることができ、本件特許発明の課題を解決できるとされている。 してみると、0.440μmを超えて20μm以下の範囲は、粘着成分のはみ出しが抑制できる粘着層の膜厚であるとは言えず、10μm以下であれば粘着成分のはみ出しを抑制でき、良好な粘着特性を得るという本件特許発明の課題を解決できると当業者が認識できるような、出願時の技術常識が存在しているとも解しがたい。 よって、実施例において粘着成分のはみ出しを抑制できるという本件特許発明の効果が確認されている「0.440μm以下」という粘着層の膜厚に比べてより厚い「10μm以下」という範囲を含む請求項1に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に記載された内容を拡張ないし一般化するための根拠を見いだすことができない。 したがって、請求項1に係る発明および請求項1を引用する請求項2?16に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。 また、製造方法に関する請求項17?20においても同様である。」 2 特許権者の主張 特許権者は、令和1年12月4日提出の意見書において、概略、以下のとおり主張している。 「本件特許明細書には、粘着層の膜厚は10μm以下とすることが必須である旨記載され、更に、段落0129に記載のとおり、10μmを超えると、被着体と貼り合わせて断裁する際等において、粘着層中の粘着剤のはみ出しが顕著に発生してしまう場合があり、また、粘着層の膜厚保が薄いほど、フィルム上に存在する粘着層の絶対量が少ないこともあり、被着体に粘着層の成分が移行する、糊残りの低減にも効果的である旨記載されている。」 「上述の効果は、本件特許明細書の記載に接した当業者であれば、接着層(「粘着層」の誤記(当審注))の有する接着剤(「粘着層」の誤記(当審注))の絶対量に鑑み、膜厚が厚くなれば、接着剤(「粘着層」の誤記(当審注))の絶対量が増大するので、はみ出し量が多くなる可能性があり、更に、粘着層の被着体への移行がおこる可能性があるという作用機序を技術常識に基づいて認識できるといえ、粘着層の膜厚をある特定の数値(本件特許発明では10μm)以下とすることで、上記はみ出し量及び移行の問題が解決できるという効果は、当業者が当然に認識できるといえる。」 「そして、令和1年9月26日付け意見書では、本件特許明細書に記載されている上記10μmの数値について、追加の実験例を示し、かかる数値が閾値として適切であることを確認的に示したのであって、事後的に提出した実験データのみに基づいてサポート要件違反を解消しようとするものではない。」 3 申立人の主張 申立人は、当審からの令和2年1月8日付け審尋に対して、令和2年3月6日提出の回答書において、概略、以下のとおり主張している。 「はみ出し量及び移行の問題が解決できるという効果を発現させるために、粘着層の厚みをある特定の数値(本件特許発明では10μm)以下とすることは、当業者が当然に認識できるものでは決してない。むしろ、粘着層の厚みだけではみ出し量及び移行の問題を解決できないことが当業者にとっての認識であり、はみ出し量及び移行の問題を解決するためには、粘着剤の種類および物性(例えば、ベースポリマーを構成する単量体組成、架橋剤の有無、ゲル分率、弾性率など)の影響が大きいことが当業者にはよく知られており、例えば、下記の参考資料1?参考資料4の記載からも明確である。」 「特開2015-105296号公報(参考資料1)には、画像表示装置の表面保護パネルに用いられるアクリル系の粘着剤樹脂組成物が記載され、実施例および比較例の粘着シート(粘着層の厚さ=150μm、基材はポリエチレンテレフタレートフィルム)を、トムソン打抜機を用いて50mm×80mmのトムソン刃でカットし、端部の潰れや糊はみだしを評価している(段落0070の加工特性の評価)。 参考資料1では、特許権者の上記主張によれば糊はみだしが当然に発生するはずの粘着層の厚み(150μm)であっても、比較例1以外の全ての実施例および比較例(実施例1?4、比較例2?3)においては糊はみだしが発生していない。」 「特開2014-019799号公報(参考資料2)には、光学部材に用いられ得るアクリル系の粘着シートが記載され、実施例および比較例の粘着シートを、打ち抜き機を用いてシール刃により打ち抜き、打ち抜いた粘着シート端部における糊はみ出しを評価している(段落0172の打ち抜き加工性の評価)。 参考資料2の比較例1では、特許権者の上記主張によれば糊はみだしの問題が解決できるはずの粘着層の厚み(3.0μm)であっても、評価結果が×となっている(表1)。」 「特開平11-256116号公報(参考資料3)には、光学部品に用いられる表面保護フィルムが記載され、実施例および比較例の表面保護フィルム(微粘着剤層として厚み20μmのアクリル系粘着剤、基材としてポリエステルフィルム)を裁断した後の裁断面からの糊はみ出しを評価している(段落0043の(2)汚れ防止性)。 参考資料3の比較例1および比較例3以外の全ての実施例および比較例(実施例1?3、比較例2)では、特許権者の上記主張によれば糊はみだしが当然に発生するはずの粘着層の厚み(20μm)であっても、糊はみだしが発生していない(表1)。」 「特開2014-145023号公報(参考資料4)には、段落0091に「粘着剤層Aの、23℃おけるせん断貯蔵弾性率は、特に限定されないが、良好な接着特性、特に粗面に対して良好な接着特性を得る点より、5.0×10^(4)MPa?2.5×10^(5)MPaであることが好ましい。上記23℃におけるせん断貯蔵弾性率が5.0×10^(4)MPa以上であると、粘着剤層が軟らかくなりすぎることによる不具合、例えば、「糊はみ出し」(貼り合わせたときに粘着剤層が変形して貼り合わせた部材の端部からはみ出す現象)を抑制でき、好ましい。」との記載がある。」 4 当審の判断 改めて、裁断時の粘着層のはみ出しについて検討する。 本件明細書の段落【0128】の「粘着層の膜厚は、10μm以下であることが必須であり、好ましくは1nm?5μm、より好ましくは5?2500nm、さらに好ましくは10?1000nm、特に好ましくは20?700nm、最も好ましくは30?400nmの範囲である。粘着層の膜厚を上記範囲で使用することにより、適度な粘着特性、ブロッキング特性を保持することが容易となる。」の記載、及び同段落【0129】の「一般的な粘着層は10μmを超える厚い膜厚であるが、そのような場合、例えば、偏光板製造用に使用する場合、粘着フィルムを偏光板、位相差板や視野角拡大板などとの被着体と貼り合わせて裁断する際等において、粘着層中の粘着剤のはみ出しが顕著に発生してしまう場合がある。ところが上述の範囲に膜厚を調整することで、当該はみ出しを最小限に抑えることができる。この効果は、粘着層の膜厚が薄いほど良好となる。」の記載から、粘着層の膜厚が10μm以下であれば、10μmを超える膜厚の場合よりも、相対的に裁断時のはみ出しを抑制できることは、当業者であれば認識し得るものである。 なお、申立人が提出した参考文献1及び参考文献3には、本件発明で特定されている粘着層の膜厚の範囲(10μm以下)よりも、厚い膜厚でも裁断時の粘着層のはみ出しに問題がなかったことが記載されているところ、より薄い膜厚を採用すれば、粘着層のはみ出しをより強力に抑制できることを当業者であれば認識し得るとする上記判断に影響を与えるものではない。 また、参考文献2の比較例1(【0166】)は、プラスチック基材(本件発明の「ポリエステルフィルム」に相当)を備えていない基材レス両面粘着シートであるから、その裁断時の粘着層のはみ出しに問題があったとしても、「ポリエステルフィルム」からなる基材を有する本件発明についての上記判断に影響を与えるものではない。 そして、参考文献4の「糊はみ出し」は、「貼り合わせたときに粘着剤層が変形して貼り合わせた部材の端部からはみ出す現象」(【0091】)であって、裁断時の粘着層のはみ出しを意味するものではないから、本件発明についての上記判断に影響を与えるものではない。 したがって、申立人の令和2年3月6日提出の回答書における主張は採用できない。 以上のことから、本件発明は、「裁断時の粘着層のはみ出し」を抑制するという本件明細書の詳細な説明に記載された課題を解決できると当業者が認識できる範囲のものであるといえる。 そうすると、本件発明は、発明の詳細な説明に記載された発明である。 したがって、本件特許は、明細書、特許請求の範囲および図面の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえない。 5 取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由について (1)申立人は、甲第1号証(特開2011-230437号公報 )及び甲第2号証(技術常識を示す証拠)(特開2016-53121号公報)、甲第3号証(技術常識を示す証拠)(特開2015-140396号公報)を示して、本件特許の請求項1、4?14及び16に記載の発明は、いずれも、甲第1号証に記載された発明と同一であるか、もしくは、甲第1号証に記載された発明に、甲第2、3号証の記載事項を組み合わせて、当業者が容易に想到できた発明であると、特許異議の申立てをしている。 (2)甲第1号証に記載された発明 申立人は、甲第1号証には、以下の記載があると主張している。 ア「ポリエステルフィルムの少なくとも片面に、金属酸化物、オキサゾリン化合物由来の化合物、およびエポキシ化合物由来の化合物を含有する塗布層を有し、当塗布層の絶対反射率が波長400?800nmの範囲で極小値を1つ有し、当該極小値における絶対反射率が4.0%以上であることを特徴とする積層ポリエステルフィルム。」(【請求項1】) イ「本発明のポリエステルフィルムにおいて、上述した塗布層を設けた面と反対側の面にも塗布層を設けることも可能である。例えば、ハードコート層等の表面機能層を形成する反対側にマイクロレンズ層、プリズム層、スティッキング防止層、光拡散層、ハードコート層、粘着層、印刷層等の機能層を形成する場合に、当該機能層との密着性を向上させることが可能である。反対側の面に形成する塗布層の成分としては、従来公知のものを使用することができる。例えば、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂等のバインダーポリマー、オキサゾリン化合物、エポキシ化合物、メラミン化合物、イソシアネート系化合物等の架橋剤等が挙げられ、これらの材料を単独で用いてもよいし、複数種を併用して用いてもよい。また、上述してきたような金属酸化物、オキサゾリン化合物由来の化合物、およびエポキシ化合物由来の化合物を含有する塗布層(ポリエステルフィルムに両面同一の塗布層)であってもよい。」(【0050】) そして、これらの記載によれば、甲第1号証には以下の発明が記載されていると主張している。 「ポリエステルフィルムの少なくとも片面に、金属酸化物、オキサゾリン化合物由来の化合物、およびエポキシ化合物由来の化合物を含有する塗布層を有し、上述した塗布層を設けた面と反対側の面に塗布層が設けられ、 反対側の面に形成する塗布層の成分としては、従来公知のものを使用することができ、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂が挙げられ、 反対側の面に形成する塗布層は粘着層を形成し、 当該粘着層と反対側のポリエステルフィルム面に、 金属酸化物、オキサゾリン化合物由来の化合物、およびエポキシ化合物由来の化合物を含有する塗布層を有し、当塗布層の絶対反射率が波長400?800nmの範囲で極小値を1つ有し、当該極小値における絶対反射率が4.0%以上であることを特徴とする積層ポリエステルフィルム。」 (3)甲第2号証記載の事項 申立人は、甲第2号証には、以下の事項が記載されていると主張している。 ア「本発明の粘着付与剤は、変性イソシアネート化合物(A)であり、水酸基および/またはカルボキシル基を有する樹脂および架橋剤(C)と混合して粘着剤組成物とした際に、高い透明性及び高い粘着物性を付与する。本明細書における粘着物性とは、低極性被着体への粘着力と曲面被着体への密着性、再剥離性、および耐熱下での保持力等の諸物性を意味する。」(【0019】) イ「本明細書でいうアクリル重合体(B)とは、少なくとも(メタ)アクリル酸エステルモノマーを含むエチレン性不飽和結合を有するモノマーの重合体や共重合体を意味し、水酸基および/またはカルボキシル基を有するアクリル重合体を意味する。ここで、「(メタ)アクリル酸エステルモノマー」とは、「アクリル酸エステルモノマー」と「メタクリル酸エステルモノマー」の総称を指す。」(【0045】) ウ「また、アクリル重合体(B)のガラス転移温度は、粘着シートにした場合に、バランスの良い粘着物性(特に、タックと凝集力の両立)を発揮し得るように、-60?0℃が好ましく、-50?-10℃がより好ましい。ガラス転移温度が-60℃以上であると、十分な凝集力が得られ、粘着力や耐久性を高める事が出来る。ガラス転移温度が0℃以下であると、十分な濡れ性が得られ、粘着力を高める事が出来る。」(【0058】) エ「本発明の粘着剤組成物を使用して、粘着剤層が基材に積層された積層体(以下、「粘着シート」という。)を得ることができる。」(【0072】) オ「粘着剤層の膜厚は、乾燥後で、1μm?100μmの範囲であることが好ましく、1μm?50μmの範囲であることがより好ましい。」(【0077】) (4)甲第3号証記載の事項 申立人は、甲第3号証には、以下の事項が記載されていると主張している。 「また、代表的なモノマーから調製されたホモポリマーのガラス転移温度は、下記表1に示されるが、より具体的には、たとえば、ポリマーハンドブック4版(Polymer Handbook Third Edition, Wiley-Interscience,2003)などに記載されている。」(【0056】) (5)当審の判断 甲第1号証に記載の事項を検討する。 甲第1号証の段落【0050】には、 「本発明のポリエステルフィルムにおいて、上述した塗布層を設けた面と反対側の面にも塗布層を設けることも可能である。例えば、ハードコート層等の表面機能層を形成する反対側にマイクロレンズ層、プリズム層、スティッキング防止層、光拡散層、ハードコート層、粘着層、印刷層等の機能層を形成する場合に、当該機能層との密着性を向上させることが可能である。反対側の面に形成する塗布層の成分としては、従来公知のものを使用することができる。」と記載されている。 これは、ポリエステルフィルムの両面に塗布層を設け、片面の塗布層の上には表面機能層を形成し、反対側の塗布層の上には粘着層を含む機能層を形成している積層フィルムを開示しているものと解される。 つまり、甲第1号証には、ポリエステルフィルムの一方の面に、直接、粘着層を形成する積層フィルムは開示されていない。 してみると、本件発明の「ポリエステルフィルムの一方の面に、ガラス転移点が0℃以下であるアクリル樹脂またはガラス転移点が0℃以下であるポリエステル樹脂を含有する、膜厚が10μm以下である粘着層を有し」という構成は、甲第1号証にも甲第2、3号証にも記載されておらず、しかも、当該構成を備えることで、本件発明は、良好な粘着特性を有する積層ポリエステルフィルムを提供するという発明の詳細な説明に記載の効果を奏しているといえる。 したがって、本件特許の請求項1、4?14及び16に記載の発明は、甲第1号証に記載された発明であるとも、甲第1号証に記載された発明に甲第2、3号証の記載事項を組み合わせて、当業者が容易に発明できたものともいうことはできない。 第4 むすび 以上のとおりであるから、取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、本件発明1?20に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件発明1?20に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2020-05-27 |
出願番号 | 特願2016-85009(P2016-85009) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Y
(B32B)
P 1 651・ 537- Y (B32B) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 市村 脩平 |
特許庁審判長 |
間中 耕治 |
特許庁審判官 |
佐々木 正章 高山 芳之 |
登録日 | 2018-11-30 |
登録番号 | 特許第6439740号(P6439740) |
権利者 | 三菱ケミカル株式会社 |
発明の名称 | 積層ポリエステルフィルム |
代理人 | 田口 昌浩 |
代理人 | 虎山 滋郎 |