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審決分類 |
審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載 C08L 審判 一部申し立て 2項進歩性 C08L |
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管理番号 | 1363187 |
異議申立番号 | 異議2020-700183 |
総通号数 | 247 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2020-07-31 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2020-03-18 |
確定日 | 2020-06-15 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6575893号発明「導電性樹脂組成物及び透明導電積層体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6575893号の請求項1?3、6に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6575893号に係る発明は、平成26年11月5日に特許出願され(優先権主張 平成25年11月13日)、令和元年8月30日にその特許権の設定登録がなされ、同年9月18日に特許公報への掲載がなされ、その後、令和2年3月18日に特許異議申立人 田中亜実(以下、「申立人」という。)により、本件の請求項1?3及び6に係る発明に対し、特許異議の申立てがされたものである。 第2 本件発明 本件の請求項1?11に係る発明(以下、「本件発明1」?「本件発明11」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1?11に記載された以下の事項によって特定されるとおりのものである。 「【請求項1】 (A)導電性ポリマー、(B)導電性向上剤、及び(C)バインダーを含有し、25℃における粘度が10?800dPa・sである導電性樹脂組成物であって、 バインダー(C)が、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン、エポキシ樹脂、アルコキシシランオリゴマー、及びポリオレフィン系樹脂からなる群より選択される少なくとも1つである導電性樹脂組成物(ただし、増粘剤を含むものを除く)。 【請求項2】 25℃におけるチクソトロピー指数が1?15である、請求項1に記載の導電性樹脂組成物。 【請求項3】 25℃における降伏値が2?500Paである、請求項1又は2に記載の導電性樹脂組成物。 【請求項4】 引火点を有しない、請求項1?3のいずれか1項に記載の導電性樹脂組成物。 【請求項5】 導電性ポリマー(A)がポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)とポリスチレンスルホン酸との複合体である、請求項1?4のいずれか1項に記載の導電性樹脂組成物。 【請求項6】 請求項1?5のいずれか1項に記載の導電性樹脂組成物を含む印刷用インキ。 【請求項7】 請求項6に記載の印刷用インキを基材上に印刷することにより得られ、0.1?1000Ω/□の表面抵抗率、及び50%以上の全光線透過率を示す透明導電積層体。 【請求項8】 印刷がスクリーン印刷、オフセット印刷及びパッド印刷からなる群より選択される少なくとも1つの手段によってなされる、請求項7記載の透明導電積層体。 【請求項9】 請求項6に記載の印刷用インキを基材上に印刷する工程を含むことを特徴とする請求項7に記載の透明導電積層体の製造方法。 【請求項10】 印刷がスクリーン印刷、オフセット印刷及びパッド印刷からなる群より選択される少なくとも1つの手段によってなされる、請求項9記載の製造方法。 【請求項11】 請求項7又は8記載の透明導電積層体を用いたタッチパネル又はタッチセンサー。」 第3 異議申立ての理由の概要 申立人の異議申立ての理由は、概要以下のとおりである。 ・申立ての理由1 本件請求項1、6に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号の規定に該当するから、係る発明の特許は同法第113条第2号の規定により取り消すべきものである。 ・申立ての理由2 本件請求項1?3、6に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2?4号証に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に想到したものであり、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであるから、係る発明の特許は同法第113条第2号の規定により取り消すべきものである。 ・申立ての理由3 本件請求項1?3、6に係る発明は、甲第5号証ないし甲第10号証に記載された発明及び甲第1?4、11、12号証に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に想到したものであり、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであるから、係る発明の特許は同法第113条第2号の規定により取り消すべきものである。 <証拠方法> 甲第1号証:特表2012-522079号公報 甲第2号証:国際公開第2010/073981号 甲第3号証:国際公開第2014/104053号 甲第4号証:日本スクリーン印刷技術協会編集委員会編、「新版スクリーン 印刷ハンドブック」、昭和63年1月31日、273頁 甲第5号証:特開昭64-75956号公報 甲第6号証:国際公開第03/052777号 甲第7号証:特開平11-297571号公報 甲第8号証:特開2014-95102号公報 甲第9号証:特開2012-246533号公報 甲第10号証:特開2013-222908号公報 甲第11号証:特開2005-60671号公報 甲第12号証:R.Jain, R.V.Gregory, Synthetic Metals, 74 (1995) p.263-266 (以下、「甲第1号証」?「甲第12号証」を、それぞれ「甲1」?「甲12」という。) 第4 異議申立ての理由についての判断 1 申立ての理由1及び2について (1)甲1に記載された事項 ア 「【請求項1】 少なくとも1つの導電性ポリマーと、少なくとも1つの対イオンと、少なくとも1つの分散剤とを含む分散液であって、前記分散液は少なくとも1つのフラボンを含有することを特徴とする、分散液。 【請求項2】 少なくとも1つの導電性ポリマーは、任意に置換されたポリチオフェン、任意に置換されたポリアニリンまたは任意に置換されたポリピロールの群から選択される、請求項1に記載の分散液。 【請求項3】 前記導電性ポリマーは、一般式(II)の繰り返し単位を含むポリアルキレンジオキシチオフェン 【化1】 (式中、 Aは、任意に置換されたC_(1)?C_(5)-アルキレンラジカルを表し、 Rは、直鎖状もしくは分枝状の、任意に置換されたC_(1)?C_(18)-アルキルラジカル、任意に置換されたC_(5)?C_(12)-シクロアルキルラジカル、任意に置換されたC_(6)?C_(14)-アリールラジカル、任意に置換されたC_(7)?C_(18)-アラルキルラジカル、任意に置換されたC_(1)?C_(4)-ヒドロキシアルキルラジカルまたはヒドロキシルラジカルを表し、 xは、0?8の整数を表し、 複数のラジカルRがAに結合されている場合、これらのラジカルRは同じであってもよいし異なっていてもよい) を含む、請求項2に記載の分散液。 【請求項4】 少なくとも1つの導電性ポリマーはポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)である、請求項3に記載の分散液。 【請求項5】 少なくとも1つの対イオンは単量体アニオンまたは高分子アニオンである、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の分散液。 【請求項6】 前記高分子アニオンは、高分子カルボン酸または高分子スルホン酸から選択される、請求項5に記載の分散液。 【請求項7】 前記高分子アニオンはポリスチレンスルホン酸である、請求項6に記載の分散液。 【請求項8】 前記分散液は、前記フラボンとしてケルセチンを含む、請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の分散液。 【請求項9】 前記分散液は、前記分散液中の導電性ポリマーの固形分含量に基づいて1?100重量%の量のフラボン(1種または複数種)を含む、請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の分散液。 【請求項10】 前記分散液は、少なくとも1つの高分子有機結合剤を含む、請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の分散液。 【請求項11】 前記分散液は、分散剤として、水、脂肪族アルコール、脂肪族ケトン、脂肪族カルボン酸エステル、芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素、塩素化炭化水素、脂肪族ニトリル、脂肪族スルホキシドおよびスルホン、脂肪族カルボン酸アミド、脂肪族エーテルおよび芳香族脂肪族エーテル、または上述の剤のうちの少なくとも2つの混合物を含む、請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の分散液。 【請求項12】 導電性コーティングまたは帯電防止コーティングの製造のための、請求項1から請求項11のいずれか1項に記載の分散液の使用。 【請求項13】 請求項1から請求項12のいずれか1項に記載の分散液から得ることができる導電性コーティングまたは帯電防止コーティング。」 イ 「【技術分野】 【0001】 本発明は、導電性ポリマーおよびフラボンを含むコーティング、その製造および使用、ならびにこのようなコーティングの製造のための分散液に関する。 … 【発明が解決しようとする課題】 【0005】 このように、公知のコーティングと比べて改善された熱安定性またはUV安定性を有する導電性コーティングまたは帯電防止コーティング、およびこのようなコーティングの製造に適した分散液に対するニーズが引き続き存在している。 【0006】 それゆえ、本発明の目的は、改善された熱安定性またはUV安定性を有するこのようなコーティング、およびそれらの製造のための適切な分散液を提供することであった。 【課題を解決するための手段】 【0007】 驚くべきことに、本発明において、少なくとも1つの導電性ポリマーと、少なくとも1つのフラボンとを含有する分散液は、例えば、著しくより良好な熱安定性およびUV安定性を有するコーティングの製造に適しているということが見出された。」 ウ 「【0043】 本発明に係る分散液は、電気伝導率を増大させるさらなる添加剤、例えばエーテル基を含む化合物(例えばテトラヒドロフラン);ラクトン基を含む化合物(γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトンなど);アミドまたはラクタム基を含む化合物(カプロラクタム、N-メチルカプロラクタム、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N-メチルホルムアミド、N-メチルホルムアニリド、N-メチルピロリドン(NMP)、N-オクチルピロリドン、ピロリドンなど);スルホンおよびスルホキシド(例えばスルホラン(テトラメチレンスルホン)、ジメチルスルホキシド(DMSO));糖類または糖類誘導体(例えばスクロース、グルコース、フルクトース、ラクトース)、糖アルコール(例えばソルビトール、マンニトール);フラン誘導体(例えば2-フランカルボン酸、3-フランカルボン酸)、および/またはジアルコールまたはポリアルコール(例えばエチレングリコール、グリセロールまたはジエチレングリコールまたはトリエチレングリコール)を含むことができる。電気伝導率増大添加剤として、テトラヒドロフラン、N-メチルホルムアミド、N-メチルピロリドン、エチレングリコール、ジメチルスルホキシドまたはソルビトールを使用することが特に好ましい。 【0044】 本発明に係る分散液はさらに、有機溶媒に可溶または水に可溶である1以上の結合剤を含んでもよく、その例としては例えば、ポリ酢酸ビニル、ポリカーボネート、ポリビニルブチラール、ポリアクリル酸エステル、ポリアクリルアミド、ポリメタクリル酸エステル、ポリメタクリルアミド、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニル、ポリビニルピロリドン、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリエーテル、ポリエステル、ポリウレタン、ポリアミド、ポリイミド、ポリスルホン、シリコーン、エポキシ樹脂、スチレン/アクリル酸エステル、酢酸ビニル/アクリル酸エステルおよびエチレン/酢酸ビニル共重合体、ポリビニルアルコール、またはセルロース誘導体などの高分子有機結合剤が挙げられる。 … 【0049】 本発明に係る分散液の粘度は、付与方法に応じて0.1?100,000mPa・sの間(20℃において100s^(-1)のせん断速度で測定される)であってよい。好ましくは、粘度は、1?10,000mPa・s、特に好ましくは10?1,000mPa・sの間である。」 エ 「【0063】 本発明に係るコーティングの製造のために、本発明に係る分散液は、例えば公知のプロセスによって、例えばスピンコーティング、含浸、注入、滴下、噴霧、ミスト形成(misting)、ナイフコーティング、ブラッシングまたは印刷、例えばインクジェット印刷、スクリーン印刷、グラビア印刷、オフセット印刷またはタンポン印刷によって、0.5μm?250μmの乾燥前膜厚で、好ましくは2μm?50μmの乾燥前膜厚で適切な基材へと付与され、次いで少なくとも20℃?200℃の温度で乾燥される。」 オ 「【実施例】 【0067】 比較例: 140/cmのメッシュ数を有するポリエステル布のスクリーンを使用して、市販のスクリーン印刷ペーストClevios S V3(製造業者H.C.Starck GmbH、ゴスラー(Goslar))を用いて試験印刷物を製造した。この印刷された領域は、10×2cm^(2)の寸法を有していた。この印刷物を、空気循環オーブン中、130℃で15分間乾燥した。次いで、その膜の中央に、長手方向に対して直角に2cmの距離で2つの導電性銀電極を付与し、この系を室温で24時間乾燥した。次いでこの導電性の銀電極をクランプによってマルチメーターに接続し、表面抵抗を測定した。 表面抵抗:400Ω/sq。 【0068】 本発明に係る実施例1: 1.0gのケルセチン(アルドリッチ(Aldrich))を、200gの比較例からのスクリーン印刷ペーストに撹拌しながら溶解し、比較例について記載したようにして試験印刷物を製造し、表面抵抗を測定した。 表面抵抗 410Ω/sq。 【0069】 次いでこの試験印刷物を空気中、150℃で保存し、316時間後に表面抵抗を測定した。 【表2】 表面抵抗[Ω/sq.] 保存前 150℃で316時間後 比較例 400 9700 実施例1 410 1340 【0070】 本発明に係る分散液から製造したコーティングは、公知の分散液、すなわち、フラボンを添加しなかった分散液から製造したコーティングよりも良好な熱安定性を有する。 【0071】 比較例2: 140/cmのメッシュ数を有するポリエステル布のスクリーンを使用して、市販のスクリーン印刷ペーストClevios S V3(製造業者H.C.Starck GmbH、ゴスラー(Goslar))を用いて試験印刷物を製造した。この印刷された領域は、10×2cm^(2)の寸法を有していた。この印刷物を、空気循環オーブン中、130℃で15分間乾燥した。次いで、その膜の中央に、長手方向に対して直角に1cmの距離で長さ2cmの2つの金電極を気相堆積によって付与した。次いでこれらの金電極を接触させ、電気抵抗をマルチメーターによって測定し、測定値から表面抵抗(二次元電気抵抗(doubled electrical resistance))を算出した。次いでこれらの印刷物を、Atlas Suntest CPS+を用いて500W/m^(2)で100時間および200時間曝露し、その後、表面抵抗を再度測定した。曝露前後での2つの印刷物の平均表面抵抗を表2に提示する。 【0072】 本発明に係る実施例2: 1.0gのケルセチン(アルドリッチ(Aldrich))を、200gの比較例2からのスクリーン印刷ペーストに撹拌しながら溶解し、比較例2について記載したようにして試験印刷物を製造し、曝露の前後で表面抵抗を測定した。曝露の前後での2つの印刷物の平均表面抵抗を表2に提示する。 【0073】 【表3】 表2: 表面抵抗[Ω/sq.] ┌──────┬─────┬────────┬────────┐ │ │曝露前 │100時間の曝露後 │200時間の曝露後 │ ├──────┼─────┼────────┼────────┤ │比較例2 │380 │1800 │10120 │ ├──────┼─────┼────────┼────────┤ │実施例2 │400 │690 │1180 │ └──────┴─────┴────────┴────────┘ 【0074】 本発明の分散液から調製したコーティングは、公知の分散液、すなわち、フラボンを添加しなかった分散液から調製したコーティングよりも良好なUV安定性を有する。」 (2)甲1に記載された発明 甲1請求項1を引用する請求項10から、甲1には以下の甲1発明が記載されているものといえる。 「少なくとも1つの導電性ポリマーと、少なくとも1つの対イオンと、少なくとも1つの分散剤とを含む分散液であって、前記分散液は少なくとも1つのフラボンを含有し、少なくとも1つの高分子有機結合剤を含むことを特徴とする、分散液。」 なお、甲1実施例の「試験印刷物」を得るためのもの(甲1発明でいう「分散液」に相当するものと認められる。)は、「Clevios S V3」とケルセチンとを含むものであるところ、「Clevios S V3」自体は何を含むものであるか、甲1明細書の記載からは明らかでないが、甲1請求項1に記載された成分を全て含有し、甲1発明の「少なくとも1つの導電性ポリマーと、少なくとも1つの対イオンと、少なくとも1つの分散剤とを含む」ものと解さざるを得ない。このため、甲1実施例から認定できる発明は、上記甲1発明と同様のものに留まるものといえる。 (3)本件発明1と甲1発明との対比及び判断 ア 甲1発明は「導電性ポリマー」を含むこと、また請求項13には、該分散液から導電性コーティングを得ることができることが示されていることからみて、甲1発明の「分散液」は「導電性樹脂組成物」となるものと認められる。甲1発明の「高分子有機結合剤」は、本件発明1の「バインダー」に相当するものと認められる。そして、甲1発明には増粘剤を含むことは規定されていない。 そうすると、本件発明1と甲1発明は以下の点で一致する。 「(A)導電性ポリマー、及び(C)バインダーを含有する導電性樹脂組成物(ただし、増粘剤を含むものを除く)。」 そして、両者は下記の点で相違する。 相違点1:本件発明1は「導電性向上剤」を含有するのに対し、甲1発明はその点が明らかでない。 相違点2:本件発明1は「25℃における粘度が10?800dPa・s」であるのに対し、甲1発明はその点が明らかでない。 相違点3:本件発明1は「バインダー(C)が、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン、エポキシ樹脂、アルコキシシランオリゴマー、及びポリオレフィン系樹脂からなる群より選択される少なくとも1つである」のに対し、甲1発明はその点が明らかでない。 イ 上記相違点について検討する。 相違点2及び3に関し、甲1【0044】には、「結合剤」の例として「ポリエステル、ポリウレタン、…エポキシ樹脂」(上記(1)ウ)が挙げられている。 しかし、同【0044】には、本件発明1で排除される増粘剤として挙げられる「ポリアクリル酸エステル、…ポリビニルピロリドン、…ポリビニルアルコール、またはセルロース誘導体」も挙げられており、記載された例の中から「ポリエステル、ポリウレタン、…エポキシ樹脂」を優位的に選択し、「ポリアクリル酸エステル、…ポリビニルピロリドン、…ポリビニルアルコール、またはセルロース誘導体」を選択しない分散液とすることについての記載ないし示唆を甲1から見いだすことができない。 また、それによって、「導電性樹脂組成物」を「25℃における粘度が10?800dPa・s」に調整することについても、その記載ないし示唆を甲1から見いだすことができない。 このため、相違点1について検討するまでもなく、本件発明1は甲1発明であるということはできない。 そして、本件発明1の「バインダー」に相当する甲1発明の「結合剤」を「ポリエステル系樹脂、ポリウレタン、エポキシ樹脂、アルコキシシランオリゴマー、及びポリオレフィン系樹脂からなる群より選択される少なくとも1つ」とすることや、「導電性樹脂組成物」である甲1発明の「分散液」を「25℃における粘度が10?800dPa・s」に調整することは、甲2?4のいずれの文献からも、当業者が容易に想到し得ることとはいえない。 (4)本件発明2、3、6について 本件発明2、3、6は、いずれも本件発明1を引用し、更に限定するものである。そして、上記(3)イに示したことと同様の理由により、本件発明6は甲1発明であるとはいえず、本件発明2、3、6は甲1発明、及び、甲2?4のいずれの文献からも当業者が容易になし得たものとはいえない。 (5)まとめ よって、本件発明1及び6は、甲1発明であるとはいえず、本件発明1?3及び6は甲1発明、及び、甲第2号証ないし甲第4号証に記載された技術的事項から当業者が容易になし得たものとはいえない。 したがって、本件発明1?3及び6に係る特許は、特許法第29条第1項ないし第2項の規定に違反してされたものとはいえず、申立ての理由1及び2には理由がない。 2 申立ての理由3について (1)甲5?10の各々に記載された発明 ア 甲5には、特に実施例及び3頁右下欄10行?4頁左上欄5行の記載からみて、以下の甲5発明が記載されているものと認められる。 「ポリアニリン、及び、高分子化合物を含有し、 高分子化合物が、ポリエステル、ポリウレタンまたはエポキシ樹脂である、 スクリーン印刷に使用できるペースト」 イ 甲6には、特に実施例1及び7頁6?15行の記載からみて、以下の甲6発明が記載されているものと認められる。 「ポリ(3-メチル-4-ピロールカルボン酸ブチル、ジメチルアセトアミド、及び、樹脂を含有し、 樹脂が、ポリエステル、ポリウレタンまたはエポキシ樹脂である、 スクリーン印刷に使用できる有機NTC組成物溶液」 ウ 甲7には、特に【0062】の記載からみて、以下の甲7発明が記載されているものと認められる。 「ポリピロールの導電性微粉末、及び、ポリビニルプチラールを含有する、 スクリーン印刷に使用できる導電性微粉末溶液」 エ 甲8には、特に【0021】、【0043】、【0045】の記載からみて、以下の甲8発明が記載されているものと認められる。 「ポリピロール粒子、及び、バインダーを含有し、 バインダーが、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂またはエポキシ系樹脂である、スクリーン印刷に使用できるめっき下地塗料」 オ 甲9には、特に【0023】、【0024】、【0039】、【0040】の記載からみて、以下の甲9発明が記載されているものと認められる。 「還元性ポリピロール微粒子、及び、バインダーを含有し、 バインダーが、ポリエステル、ポリウレタン樹脂またはエポキシ樹脂である、 スクリーン印刷に使用できるめっき下地塗料」 カ 甲10には、特に【0022】、【0032】、【0033】の記載からみて、以下の甲10発明が記載されているものと認められる。 「ポリピロール微粒子、及び、バインダーを含有し、 バインダーがポリエステル、ポリウレタン樹脂またはエポキシ樹脂である、 スクリーン印刷に使用できるめっき下地塗料」 (2)本件発明1と甲5?7発明との対比及び判断 ア 本件発明1と甲5?7発明とは、少なくとも以下の点で相違する。 相違点4:本件発明1は「導電性向上剤」を含有するのに対し、甲5?7発明はその点が明らかでない。(なお、甲6発明は「ジメチルアセトアミド」を含有するものである。) 相違点5:本件発明1は「25℃における粘度が10?800dPa・s」であるのに対し、甲5?7発明はその点が明らかでない。 相違点6:本件発明1は「バインダー」を含有するのに対し、甲5?7発明は「ポリエステル、ポリウレタンまたはエポキシ樹脂」(甲5?6発明)、「ポリビニルブチラール」(甲7発明)を含有するものの、これが「バインダー」に相当するか明らかでない。 イ 上記相違点について検討する。 相違点5及び6に関し、甲5?7のいずれからも、「ポリエステル、ポリウレタンまたはエポキシ樹脂」(甲5?6発明)、「ポリビニルブチラール」(甲7発明)が本件発明1のバインダーに相当すると解される根拠を見いだすことができない。 加えて、甲5では、「ポリエステル、ポリウレタンまたはエポキシ樹脂」は、係る「高分子化合物」として、本件発明1において除かれる「増粘剤」に相当する「ポリビニルアルコール」や、「バインダー」として認識することができない「ポリ四フッ化エチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、四フッ化エチレン-六フッ化プロピレン共重合体、四フッ化エチレン-エチレン共重合体などのフッ素系樹脂」と並立して記載されており、甲6では、「ポリエステル、ポリウレタンまたはエポキシ樹脂」は、係る「樹脂」として、「バインダー」として認識することができない「ポリフェニレンサルファイド」と並立して記載されている。甲7発明の「ポリビニルブチラール」はそもそも「ポリエステル系樹脂、ポリウレタン、エポキシ樹脂、アルコキシシランオリゴマー、及びポリオレフィン系樹脂からなる群より選択される少なくとも1つ」ではない。 そして、「ポリエステル、ポリウレタンまたはエポキシ樹脂」や「ポリビニルブチラール」を「導電性樹脂組成物」の「バインダー」とすること、あるいは甲5?7発明に対して更に「バインダー」を加えることは、甲1?4、11、12のいずれからも当業者が容易に想到しうることとはいえない。 更に、甲5?7発明を「25℃における粘度が10?800dPa・s」に調整することについては、甲12にはポリアニリンを含有する溶液が約20dPa・sの粘度を有することが記載されているものの、「導電性樹脂組成物」の25℃における粘度「10?800dPa・s」とすることで、「沈殿物が観測されず、該組成物から得られる透明導電膜は、外観が良好で、かつ透明性にも優れる」ものとなることは記載も示唆もされていない。したがって、この点についても、甲1?4、11、12のいずれからも当業者が容易に想到し得ることとはいえない。 (3)本件発明1と甲8?10発明との対比及び判断 ア 本件発明1と甲8?10発明とは、少なくとも以下の点で相違する。 相違点7:本件発明1は「導電性ポリマー」を含有するのに対し、甲8?10発明は「ポリピロール(微)粒子」を含有する。 相違点8:本件発明1は「導電性向上剤」を含有するのに対し、甲8?10発明はその点が明らかでない。 相違点9:本件発明1は「25℃における粘度が10?800dPa・s」であるのに対し、甲8?10発明はその点が明らかでない。 イ 上記相違点について検討する。 相違点7及び9に関し、本件発明1の「導電性樹脂組成物」に使用される「導電性ポリマー」は、「粘度は、25℃の1?5重量%水分散体、好ましくは2?5重量%水分散体において、5?500dPa・sであることが好ましく、10?500dPa・sがより好ましい。」(【0032】)、「チクソトロピー指数(Ti)は、25℃の1?5重量%水分散体、好ましくは2?5重量%水分散体において、0.1?10であることが好ましく、1?10であることがより好ましく、1?8であることがさらに好ましい。」(【0033】)、「降伏値は、25℃の1?5重量%水分散体、好ましくは2?5重量%水分散体において、1?100Paであることが好ましく、2?100Paであることがより好ましい。」(【0034】)との物性を採用することのできる物質である。 これに対し、甲8?10のいずれからも、甲8?10発明で使用される「ポリピロール(微)粒子」がこのような物性を採用しうるような物質であると解される記載ないし示唆を見いだすことができない。そして、該「ポリピロール(微)粒子」を上記のような粘度、チクソトロピー指数、降伏値を有するものとすることは、甲1?4、11、12のいずれからも当業者が容易に想到しうることとはいえない。 更に、上記(2)イで検討したことと同様、甲8?10発明を「25℃における粘度が10?800dPa・s」に調整することについても、甲1?4、11、12のいずれからも当業者が容易に想到し得ることとはいえない。 (4)本件発明2、3、6について 本件発明2、3、6は、いずれも本件発明1を引用し、更に限定するものである。そして、上記(2)イ及び(3)イに示したことと同様、本件発明2、3、6は甲5?10発明、及び、甲1?4、11、12のいずれの文献からも当業者が容易になし得たものとはいえない。 (5)まとめ よって、本件発明1?3及び6は甲5?10発明、及び、甲1?4、11、12に記載された技術的事項から当業者が容易になし得たものとはいえない。 したがって、本件発明1?3及び6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものとはいえず、申立ての理由3には理由がない。 3 まとめ 以上検討したとおり、申立人が主張する申立ての理由1?3には、いずれも理由がなく、これらの理由によって、本件発明1?3及び6の特許を取り消すことはできない。 第5 むすび 以上のとおりであるから、異議申立ての理由によっては、本件発明1?3及び6に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件発明1?3及び6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2020-06-04 |
出願番号 | 特願2014-225382(P2014-225382) |
審決分類 |
P
1
652・
113-
Y
(C08L)
P 1 652・ 121- Y (C08L) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 大久保 智之 |
特許庁審判長 |
近野 光知 |
特許庁審判官 |
安田 周史 大熊 幸治 |
登録日 | 2019-08-30 |
登録番号 | 特許第6575893号(P6575893) |
権利者 | ナガセケムテックス株式会社 |
発明の名称 | 導電性樹脂組成物及び透明導電積層体 |
代理人 | 特許業務法人 安富国際特許事務所 |