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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G06F
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G06F
管理番号 1363448
審判番号 不服2018-9034  
総通号数 248 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-08-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-07-02 
確定日 2020-06-17 
事件の表示 特願2016-536068「プロジェクティブコンピューティングシステム」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 2月26日国際公開、WO2015/026346、平成28年 9月15日国内公表、特表2016-528647〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、2013年8月22日を国際出願日とする出願であって、平成29年1月19日付けで拒絶理由が通知され、平成29年4月14日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされ、平成29年9月6日付けで拒絶理由が通知され、平成29年12月6日に意見書が提出されたが、平成30年3月20日付けで拒絶査定がなされ、これに対して平成30年7月2日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に手続補正がなされ、その後、令和元年6月11日付けで当審より拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)が通知され、令和元年10月7日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされたものである。

2 本願発明
本願の請求項に係る発明は、令和元年10月7日になされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし11に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項8に係る発明(以下、請求項8に係る発明を「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。

「【請求項8】
プロジェクティブコンピューティングシステムによって行われる方法であって、
前記プロジェクティブコンピューティングシステムのカメラによって、物体及び背景要素を含む画像を捕捉するステップと、
前記プロジェクティブコンピューティングシステムのプロジェクタアセンブリによって、前記物体の画像の少なくとも一部分に隣接する人工的な影を前記物体の周辺に投影すると共に、前記物体の画像を前記物体の上に投影するステップであって、該人工的な影は、前記カメラによる前記物体の画像の捕捉が完了したことを示すものである、投影するステップと、
を含む、方法。」

3 拒絶の理由
令和元年6月11日付けの当審が通知した拒絶理由のうち理由2は、概略、次のとおりのものである。
本願の請求項1-14に係る発明は、本願の出願日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献1-5に記載された発明に基いて、その出願日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1:“Next Generation UI that can be touched with fingers against objects in the real world”、[online]、2013年4月15日、YouTube、[平成30年8月2日検索]インターネット<URL:https://www.youtube.com/watch?v=I2l0qklSzks>
引用文献2:国際公開第2013/019217号
引用文献3:特表2006-505330号公報
引用文献4:特開2001-175374号公報
引用文献5:米国特許出願公開第2008/0316145号明細書

4 各引用文献の記載及び引用発明
(1) 引用文献1の記載及び引用発明
当審拒絶理由で引用された、本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、“Next Generation UI that can be touched with fingers against objects in the real world”、[online]、2013年4月15日、YouTube、[平成30年8月2日検索]インターネット<URL:https://www.youtube.com/watch?v=I2l0qklSzks>(2013年4月15日公開。以下「引用文献1」という。)の動画には、以下の開示があると認定できる(下線は当審付与。訳は当審訳。以下同様。)。

ア 0:00(タイトル)
「Next Generation UI that can be touched with fingers against objects in the real world」
(訳:実世界の物に対して指タッチ操作可能な次世代ユーザインタフェース)
また、動画の欄外には、「2013/04/15」に公開されたことが記載されていると認定できる。


イ 0:29(字幕)
「it consists of just a device like ordinary webcam, plus a commercial projector.」
(それは、単に、汎用のwebカメラのようなデバイスに加えて、市販のプロジェクタから構成される。)


ウ 2:03
画面右側には、利用者の前に白い丸テーブルが置かれており、該白い丸テーブル上には、基部と、該基部から上方に延在する垂直部材と、該垂直部材から外側に延在する片持ち頂部とを有する支持構造物が置かれており、画面左側には、ディスプレイが置かれており、ディスプレイの画面には、白い丸テーブルの上面と、その上面に置かれた写真を含む書類や、利用者の両手、ペン等をほぼ真上から撮影したカメラ画像が表示されていると共に、ディスプレイの画面下端には、「CAMERA(カメラ)」と文字表示されていると認定できる。


エ 2:14(字幕)
「Using a low-res webcam gives a fuzzy picture,…」
(訳:低解像度のウェブカメラを用いると、ぼやけた画像が得られるが、…)


オ 2:25
白い丸テーブルの上面には、手書きメモが書かれた、4枚の付箋が貼られており、利用者がテーブルの上面に投影された「スキャン」ボタンにタッチしており、4枚の付箋の左上側には「付箋の枚数:」という文字が投影されていると認定できる。


カ 2:26
白い丸テーブルの上面には、4枚の付箋が貼られており、カメラにより撮影した4枚の付箋の画像を各付箋の上に投影し、当該投影された各付箋の画像の周辺の4辺を白く表示しており、4枚の付箋の左上側には「付箋の枚数: 4」という文字が投影されていると認定できる。

(中央部の拡大)


キ 2:28
白い丸テーブルの上面には、4枚の付箋のうち右下の付箋は既に剥がされており、右上の付箋を利用者が剥がしており、カメラにより撮影した4枚の付箋の画像を各付箋の上、又は、付箋があった位置に投影し、当該投影された各付箋の画像の周辺の4辺を白く表示していると認定できる。


ク 2:30
白い丸テーブルの上面には、4枚の付箋が剥がされた後も、カメラにより撮影した4枚の付箋の画像を各付箋があった位置に投影し、当該投影された各付箋の画像の周辺の4辺を白く表示していると認定できる。


ケ 引用発明
よって、上記各記載事項を関連図面と技術常識に照らし、下線部に着目すれば、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

「実世界の物に対して指タッチ操作可能な次世代ユーザインタフェースであって、
単に、汎用のwebカメラのようなデバイスに加えて、市販のプロジェクタから構成され、
白い丸テーブル上には、基部と、該基部から上方に延在する垂直部材と、該垂直部材から外側に延在する片持ち頂部とを有する支持構造物が置かれており、
ディスプレイの画面には、白い丸テーブルと、その上面に置かれた写真を含む書類や、利用者の両手、ペン等をほぼ真上から撮影したカメラ画像が表示されていると共に、ディスプレイの画面下端には、「CAMERA(カメラ)」と文字表示され、
白い丸テーブルの上面には、手書きメモが書かれた、4枚の付箋が貼られており、利用者がテーブルの上面に投影された「スキャン」ボタンにタッチしたとき、4枚の付箋の左上側に「付箋の枚数:」という文字が投影されており、
カメラにより撮影した4枚の付箋の画像を各付箋の上に投影し、当該投影された各付箋の画像の周辺の4辺を白く表示したとき、4枚の付箋の左上側に「付箋の枚数: 4」という文字が投影されており、
4枚の付箋が剥がされた後も、カメラにより撮影した4枚の付箋の画像を各付箋があった位置に投影し、当該投影された各付箋の画像の周辺の4辺を白く表示している、
実世界の物に対して指タッチ操作可能な次世代ユーザインタフェースによって行われる方法。」

また、引用文献1の動画には、引用発明を認定した部分以外の部分に、以下の2つの事項も開示されていると認定できる。

コ 1:25から1:34までの部分
「単行本」のスキャン操作において、スキャン範囲を指定するために、指で斜めの対角線を描くと(1:25)、
スキャン範囲を示す長方形の枠が白線で表示され(1:27)、
次いで、長方形の枠の内部を、上から下に向けて明るく変化させるアニメーション表示が行われ(1:27-1:28)、
その後、再びアニメーション表示により、長方形の枠が徐々にアイコンに縮小しつつ、画面の左側に移動して、本の左上側にアイコンが追加され(1:28-1:29)、
さらに、再び、指でスキャン範囲を同様に指定すると、指定されたスキャン範囲を示す長方形の枠が白線で表示され(1:32)、
その後、2つ目のアイコンが本の左上側に追加される(1:34)、ことが認定できる。

(1:25)

(1:27)

(1:27-1:28)

(1:28-1:29)

(1:32)

(1:34)


サ 2:37から2:42までの部分
(引用発明を認定した、4枚の付箋のスキャン操作に続けて)、スキャンされた4枚の付箋の画像を、2枚ずつの2組のグループに「グルーピング」する操作において、
左下の付箋の画像の周囲の4辺の左上の角部に表示された白い点と、指先と共に移動する白い点とを結ぶ白線が表示された状態で(2:37)、
指先で左上の付箋にタッチすると、白線が指先から離れて、左下の付箋の画像の周囲の4辺の左上の角の白い点と、左上の付箋の画像の周囲の4辺の左上の角の白い点とを結ぶ白線が表示され、この白線と同様に、右下の付箋の画像の周囲の4辺の左上の角の白い点と、右上の付箋の画像の周囲の4辺の左上の角の白い点とを結ぶ白線が表示されている(2:42)、と認定できる。

(2:37)

(2:42)


(2) 引用文献3
当審拒絶理由で引用された、本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、特表2006-505330号公報(平成18年2月16日公開。以下「引用文献3」という。)には、図面(特に、【図5】)と共に、次の事項が記載されている。

「【0047】
差ビデオ又はカメラ106からの出力を反転することによって(再び図5を参照)、赤外線の影における領域を明るくすることができる。この反転された画像をインタラクティブ領域に投影し、一方赤外線画像において明るい領域(すなわち、インタラクティブ表面の残りの大部分)を暗くすることができ(すなわち、投影された光を受けることができない)、赤外線画像において暗い領域が投影された光を受けることができる。客は赤外線の影を見ることができず、投影された反転された“影”のみを見るため、彼らの日常の体験において影は暗く、明るくないため、彼らは驚かされ、楽しまされるであろう。当業者には、物理的歪み、色、ストライプ、スポット(しかしこれらに限定されない)等を含むが代わりの効果が、“影”領域に加えることができることが明らかであるべきである。」

「図5」


(3) 引用文献4
当審拒絶理由で引用された、本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、特開2001-175374号公報(平成13年6月16日公開。以下「引用文献4」という。)には、図面(特に、【図8】、【図14】、【図37】)と共に、次の事項が記載されている。

ア 図8、及び、図8に関連する、
「【0160】情報空間1へのインストールの有無を視覚的にフィードバックするために、図8に示すように、物理オブジェクト(同図に示す例ではVCRテープ・カートリッジ)に対してオブジェクト・オーラを投影表示させてもよい。オブジェクト・オーラとは、対象となるオブジェクトを取り囲むような楕円表示のことであり、オブジェクト・オーラは該当する物理オブジェクトが持つデータ空間を定義する。したがって、ユーザは、テーブル11上にあるデジタル・オブジェクトをハイパードラッグし(図9を参照のこと)、オブジェクト・オーラ内にドロップすることによって(図10を参照のこと)、該デジタル・オブジェクトを物理オブジェクトに添付すなわちリンク形成することができる。」との記載。

イ 図14、及び、図14に関連する、
「【0175】ページ番号を認識した帰結として、当該ページは情報空間1にインストールされたことになる。したがって、このページを取り囲むようなオブジェクト・オーラが投影表示される。
【0176】当該ページには、リンク情報、すなわち、リンクされたデジタル・オブジェクトの名前(例えばオブジェクト識別子)と、ページ識別子(若しくはページ番号)と、リンク情報が埋め込まれた座標位置とからなるデータ・エントリが、既に幾つかデータベース登録されているものとする。このような場合には、ページが情報空間1にインストールされたことに応答して、該ページ上でリンク情報が埋め込まれた各場所には、視覚的なフィードバックとしてのオブジェクト・オーラが投影表示される(ステップS24)(図14を参照のこと)。」との記載。

ウ 図37、及び、図37に関連する、
「【0284】図37?図39には、実世界上のオブジェクトをデジタル空間へ取り込む様子を描写している。
【0285】図37に示すように、ユーザがテーブル11上に自分の携帯型コンピュータを設置すると、カメラ18/19がこれを撮像し、環境型コンピュータは貼設されたビジュアル・マーカーを識別して携帯型コンピュータを情報空間1内にインストールする。また、携帯型コンピュータを取り囲むようなオブジェクト・オーラが投影表示される。
【0286】ユーザは、ハイパードラッグ操作により、マウス・カーソルをディスプレイ・スクリーンを飛び越えて、テーブル上まで移動させることができる。さらに、テーブル上に置かれた所定の物理オブジェクト(図37に示す例では「名刺」)を取り囲むようにカーソルをドラッグさせる。
【0287】一連のドラッグ操作はカメラ18/19が撮像しているので、環境型コンピュータは、ハイパードラッグによって指定された領域を認識することができる。環境型コンピュータは、認識した指定領域を取り囲むような「ラバーバンド」を投影表示させることによって、ユーザに対して視覚的なフィードバックを与えることができる。
【0288】ラバーバンドで囲まれた領域の撮像画像は、デジタル・オブジェクトとして情報空間1内に取り込まれている。したがって、ユーザは、ラバーバンド領域内の画像をハイパードラッグすることができる(図38を参照のこと)。」との記載。

「図37」


(4) 引用文献5
当審拒絶理由で引用された、本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、米国特許出願公開第2008/0316145号明細書(平成20年(2008年)12月25日公開。以下「引用文献5」という。)には、図面(特に、【図3】、【図4】)と共に、次の事項が記載されている。

「[0015] ・・・(中略)・・・ Thus, upon a physical object being placed at a location on the display surface 14, the presence of the object at this location is detected, and in response the display device 16 displays a virtual shadow on the display surface 14 that corresponds to the physical object.

[0016] FIG. 3 shows the interactive display system 10 in which exemplary virtual shadows for physical objects are being displayed, according to an embodiment of the invention. In the exampleof FIG. 3, the physical objects placed on the display surface 14 are physical gamepieces, such as chess pieces like the chess piece 302. Virtual shadows for these physical objects are displayed on the display surface 14, such as the virtual shadow 304 for the chess piece 302. The virtual shadows are generated as can be appreciated by those of ordinary skill within the art, utilizing ray-tracing technology or other types of technologies.

・・・(中略)・・・

[0018] FIG. 4 shows how the virtual shadow 304 for the physical object 302 can be manipulated to signifythe passage of time, according to an embodiment of the invention. As before, the physical object 302 has been placed on the display surface 14 of the interactive display system. The virtual shadow 304 is displayed on the display surface 14 by being generated in relation to the position of a virtual light source 402. The virtual light source 402 is not an actual or real light source, but rather is a virtual light source, the position of which in relation to the physical object 302 dictates the length of the virtual shadow 304 based on a virtual light ray 404 emanating from the virtual light source 402.」
(当審訳:
[0015] ・・・(中略)・・・ これにより、ディスプレイの表面14上の位置に物理的オブジェクトが置かれると、当該位置でオブジェクトの存在が検出されたことに応答して、表示装置16は、物理的オブジェクトに対応するディスプレイの表面14上に、仮想的な影を表示する。

[0016] 図3は、本発明の実施の形態に基づいて、物理的オブジェクトに対して例示の仮想的な影が表示されているインタラクティブ・ディスプレイシステム10を示している。図3の例では、ディスプレイ表面14上に置かれた物理的オブジェクトは、例えば、チェスの駒302のようなチェスの駒である、物理的なゲーム用の駒である。これらの物理的オブジェクトの仮想的な影が、ディスプレイ表面14に表示される。例えば、チェスの駒302の仮想的な影304などである。仮想的な影は、当技術分野の通常の知識を有する者によって理解されるように、レイ・トレーシング技術またはその他の技術を利用している。

・・・(中略)・・・

[0018] 図4は、本発明の実施の形態に基づいて、どのようにして、物理的オブジェクト302の仮想的な影304が、時間の経過を表現するように、操作できるかを示している。前述のように、物理的オブジェクト302は、インタラクティブ・ディスプレイシステムの表面14上に配置されている。仮想的な影304は、仮想的な光源402の位置に応じて生成されて、表示面14に表示される。仮想的な光源402は、現実の本物の光源ではなく、むしろ仮想的な光源であって、物理的オブジェクト302との位置関係によって、仮想的な光源402から放射される仮想的な光線404に基づいて、仮想的な影304の長さが決定される。)

「図3」

「図4」

5 対比
本願発明と引用発明とを対比すると以下のことがいえる。

(1) 引用発明の「市販のプロジェクタ」を含む、「実世界の物に対して指タッチ操作可能な次世代ユーザインタフェースによって行われる方法」は、本願発明の「プロジェクティブコンピューティングシステムによって行われる方法」に相当する。

(2) 引用発明の「白い丸テーブル」について、「その上面に置かれた写真を含む書類や、利用者の両手、ペン等」、及び、白い丸テーブルの上面に張られた「4枚の付箋」等などの「実世界の物」は、本願発明の「物体」に相当する。
また、引用発明の「白い丸テーブル」について、「その上面」のうちで、上記のような「実世界の物」が置かれたり、張られたりしていない部分は、本願発明の「背景要素」に相当する。
よって、引用発明において、「汎用のwebカメラのようなデバイス」を用いて、「白い丸テーブル」について、例えば、「ディスプレイの画面には、白い丸テーブルと、その上面に置かれた写真を含む書類や、利用者の両手、ペン等をほぼ真上から撮影したカメラ画像が表示されている」こと、及び、「利用者がテーブルの上面に投影された「スキャン」ボタンにタッチしたとき、4枚の付箋の左上側に「付箋の枚数:」という文字が投影されており」、「カメラにより撮影した4枚の付箋の画像を各付箋の上に投影し」ていることは、ここで、カメラ画像を「表示」や「投影」することに先立って、「実世界の物」、及び、「実世界の物」の周辺の領域のカメラ画像を捕捉していることが明らかであるから、本願発明が「前記プロジェクティブコンピューティングシステムのカメラによって、物体及び背景要素を含む画像を捕捉するステップ」に相当するといえる。

(3) 引用発明の「市販のプロジェクタ」は、本願発明の「プロジェクタアセンブリ」に対応する。
よって、引用発明において、「市販のプロジェクタ」を用いて、「利用者がテーブルの上面に投影された「スキャン」ボタンにタッチしたとき」、「カメラにより撮影した4枚の付箋の画像を各付箋の上に投影し、当該投影された各付箋の画像の周辺の4辺を白く表示したとき、4枚の付箋の左上側に「付箋の枚数: 4」という文字が投影されて」いることは、本願発明が「前記プロジェクティブコンピューティングシステムのプロジェクタアセンブリによって、前記物体の画像の少なくとも一部分に隣接する人工的な影を前記物体の周辺に投影すると共に、前記物体の画像を前記物体の上に投影するステップであって、該人工的な影は、前記カメラによる前記物体の画像の捕捉が完了したことを示すものである、投影するステップ」を備えることと、「前記プロジェクティブコンピューティングシステムのプロジェクタアセンブリによって、前記物体の画像を前記物体の上に投影するステップであって、投影するステップ」を備える点で共通するといえる。

よって、本願発明と引用発明との一致点・相違点は次のとおりであるといえる。

[一致点]
「プロジェクティブコンピューティングシステムによって行われる方法であって、
前記プロジェクティブコンピューティングシステムのカメラによって、物体及び背景要素を含む画像を捕捉するステップと、
前記プロジェクティブコンピューティングシステムのプロジェクタアセンブリによって、前記物体の画像を前記物体の上に投影するステップであって、投影するステップと、
を含む、方法。」

[相違点1]
本願発明は、「前記プロジェクティブコンピューティングシステムのプロジェクタアセンブリによって、前記物体の画像の少なくとも一部分に隣接する人工的な影を前記物体の周辺に投影すると共に、前記物体の画像を前記物体の上に投影するステップであって、該人工的な影は、前記カメラによる前記物体の画像の捕捉が完了したことを示すものである、投影するステップ」を備えているのに対して、引用発明は、「カメラにより撮影した4枚の付箋の画像を各付箋の上に投影し、当該投影された各付箋の画像の周辺の4辺を白く表示し」ているものであって、「前記物体の画像の少なくとも一部分に隣接する人工的な影を前記物体の周辺に投影すること」、及び、「該人工的な影は、前記カメラによる前記物体の画像の捕捉が完了したことを示すものである」ことが、明確には特定されていない点。

6 判断
[相違点1]について
ア 引用発明の「各付箋の画像の周辺の4辺を白く表示するもの」に基づく判断
上記引用文献3(上記4「(2) 引用文献3」の記載を参照。)から、一般に、「影」には、周囲よりも暗い、通常の「影」以外に、周囲よりも明るい「影」が含まれ得るといえる。
よって、引用発明の「各付箋の画像の周辺の4辺を白く表示するもの」も、「前記物体の画像の少なくとも一部分に隣接する」、「影を前記物体の周辺に投影する」ものといえる。

ここで、引用発明の「各付箋の画像の周辺の4辺を白く表示するもの」は、「人工的な」ものである場合以外に、カメラ画像から付箋の画像を切り出す際、付箋の周りの「白い丸テーブル」の上面の「自然画像」も、同時に所定の幅で切り出したものである場合も一応想定できる。よって、これが「人工的な」表示か否かは、直ちに明確ではない。
しかし、引用文献1の動画には、引用発明を認定した以外の、以下の2つの部分がある。
(ア) 「単行本」のスキャン操作において、スキャン範囲を示す、長方形の枠が白線で表示されており、この白線の長方形の枠は、利用者が「単行本」上でスキャン範囲を任意に指定することによって表示されるものであるから、明らかに「人工的な」白線である(上記4「(1) 引用文献1の記載及び引用発明」の「コ」を参照。)。
(イ) (引用発明を認定した、4枚の付箋のスキャン操作に続けて)、スキャンされた4枚の付箋の画像を、2枚ずつの2組のグループに「グルーピング」する操作において、「左下の付箋の画像の周囲の4辺の左上の角部に表示された白い点」や、「指先と共に移動する白い点」、さらに、これら2点を結ぶ「白線」が表示されており、これらの「白い点」や「白線」は、いずれも、付箋やテーブルにはないものであるから、明らかに「人工的な」表示である(上記4「(1) 引用文献1の記載及び引用発明」の「サ」を参照。)。
そして、これら他の「白線」や「白い点」が、明らかに「人工的な」表示であること、さらに、実物の「4枚の付箋」自体は四隅が多少めくれており、不均一な形状である一方、「各付箋の画像の周辺の4辺を白く表示するもの」は、その形状や幅がほぼ均一であるように見えること(上記4「(1) 引用文献1の記載及び引用発明」の「カ」(2:26)の中央部の拡大図を参照。)を考慮すると、引用発明の「各付箋の画像の周辺の4辺を白く表示するもの」も、同様に「人工的な」表示と解するのが自然である。

また、「付箋の画像」は、カメラによる付箋の画像の捕捉が完了しない限り、これを投影したり、枚数を数えたりできないことは明らかであることを考慮すれば、引用発明において、「利用者がテーブルの上面に投影された「スキャン」ボタンにタッチしたとき」、これによって、「4枚の付箋の左上側に「付箋の枚数: 4」という文字が投影され」るとともに、「カメラにより撮影した4枚の付箋の画像を各付箋の上に投影し、当該投影された各付箋の画像の周辺の4辺を白く表示」されるという視覚的な効果を与えることの結果として、「当該投影された各付箋の画像の周辺の4辺を白く表示」されていることから、利用者が「前記カメラによる前記物体の画像の捕捉が完了したこと」を知ることは明らかであるといえる。

したがって、引用発明において、「スキャン」ボタンにタッチしたとき、「カメラにより撮影した4枚の付箋の画像を各付箋の上に投影し、当該投影された各付箋の画像の周辺の4辺を白く表示」していることは、本願発明における「前記プロジェクティブコンピューティングシステムのプロジェクタアセンブリによって、前記物体の画像の少なくとも一部分に隣接する人工的な影を前記物体の周辺に投影すると共に、前記物体の画像を前記物体の上に投影するステップであって、該人工的な影は、前記カメラによる前記物体の画像の捕捉が完了したことを示すものである、投影するステップ」に、実質的に相当するといえる。

イ なお、仮に引用発明において、「スキャン」ボタンにタッチしたとき、「カメラにより撮影した4枚の付箋の画像を各付箋の上に投影し、当該投影された各付箋の画像の周辺の4辺を白く表示」していることが、本願発明における「人工的な影」の表示に相当しないとしても、引用発明にこのような表示を付加する点は、以下に述べるように、当業者が適宜選択すべき設計的事項にすぎない。

一般に、利用者に対して、対象が占める範囲を強調したり、対象に注意を向けさせたりするために、対象の周辺に、「人工的な画像」として「人工的な影」などを付加することは、例えば、ワープロ文書における「影付き」文字や、「枠囲み」文字のように普通に行われている事項であって、必要ならば、上記引用文献3-5にそれぞれ記載されるように周知技術である(上記4「(2) 引用文献3」-上記4「(4) 引用文献5」の記載を参照。)。

また、一般に、画像のスキャンや捕捉などの画像処理の開始、終了等の進行状況を、視覚効果によって、利用者に適宜知らせることは、極めて普通に行われていることである。
すなわち、例えば、画像のスキャン用ソフトウエアにおいて、スキャン範囲を、枠囲みで表示したり、スキャン範囲の輝度を変化させるなど、適宜表示を変化させることは文献を挙げるまでもなく普通のことである。
そして、引用文献1の動画においても、「単行本」のスキャン操作についてではあるが、上記4「(1) 引用文献1の記載及び引用発明」の「コ」を参照すると、「スキャン範囲を示す、長方形の枠が白線で表示され(1:27)、次いで、長方形の枠の内部を、上から下に向けて明るく変化させるアニメーション表示が行われ(1:27-1:28)、その後、再びアニメーション表示により、長方形の枠が徐々にアイコンに変形しつつ、画面の左側に移動して、本の左上側にアイコンが追加され(1:28-1:29)」るものことによって、スキャン処理の、開始や、処理中、終了の各時点で、進行状況を視覚効果によって、利用者に適宜知らせているものと認められる。

さらに、引用発明において、「利用者がテーブルの上面に投影された「スキャン」ボタンにタッチしたとき」、これによって、「4枚の付箋の左上側に「付箋の枚数: 4」という文字が投影され」、「カメラにより撮影した4枚の付箋の画像を各付箋の上に投影」するとともに、利用者に対して、対象が占める範囲を強調したり、対象に注意を向けさせたりするために、対象の周辺に、「人工的な画像」として「人工的な影」などを付加するという周知技術の視覚的な効果を付加すれば、その結果として、利用者が「前記カメラによる前記物体の画像の捕捉が完了したこと」を知ることは明らかである。

よって、仮に引用発明において、「スキャン」ボタンにタッチしたとき、「カメラにより撮影した4枚の付箋の画像を各付箋の上に投影し、当該投影された各付箋の画像の周辺の4辺を白く表示」していることが、本願発明における「人工的な影」の表示に相当しないとしても、引用発明において、「スキャン」ボタンにタッチしたとき、「各付箋の画像の周辺の4辺を白く表示する」ことに替えて、または、これに加えて、「人工的な画像」として「人工的な影」などを付加する周知技術を付加することによって、「前記プロジェクティブコンピューティングシステムのプロジェクタアセンブリによって、前記物体の画像の少なくとも一部分に隣接する人工的な影を前記物体の周辺に投影すると共に、前記物体の画像を前記物体の上に投影するステップであって、該人工的な影は、前記カメラによる前記物体の画像の捕捉が完了したことを示すものである、投影するステップ」を備えるように構成することは、当業者が通常の創作能力の発揮により行い得るものであって、当業者が適宜選択すべき設計的事項にすぎない。

ウ 上記ア、イより、[相違点1]は、実質的な相違点ではない、若しくは、当業者が容易に想到し得たものである。


エ さらに、本願発明の効果も、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が予測し得る範囲内のものである。

7 むすび
したがって、本願発明は、引用発明、及び、周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2020-01-15 
結審通知日 2020-01-21 
審決日 2020-02-03 
出願番号 特願2016-536068(P2016-536068)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G06F)
P 1 8・ 575- WZ (G06F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 ▲はま▼中 信行若林 治男  
特許庁審判長 ▲吉▼田 耕一
特許庁審判官 野崎 大進
稲葉 和生
発明の名称 プロジェクティブコンピューティングシステム  
代理人 中村 綾子  
代理人 松島 鉄男  
代理人 森本 聡二  
代理人 奥山 尚一  
代理人 有原 幸一  

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