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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A63B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A63B
管理番号 1363455
審判番号 不服2018-14216  
総通号数 248 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-08-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-10-26 
確定日 2020-06-17 
事件の表示 特願2015-213692「ゴルフボールを製造するための、可塑剤を含む、ポリエステルに基づく熱可塑性エラストマー組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 5月26日出願公開、特開2016- 93489〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成27年10月30日(パリ条約による優先権主張2014年11月4日、米国)の出願であって、平成29年2月20日に手続補正がされ、平成30年1月9日付けで拒絶の理由が通知され、同年6月19日に意見書が提出されるとともに、手続補正がなされ、同年6月27日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年10月26日付けで拒絶査定に対する不服審判請求がなされ、令和1年8月9日付けで拒絶の理由(以下、「当審拒絶理由通知」という。)が通知され、同年11月20日に意見書が提出されるとともに、手続補正がなされたものである。


第2 本願発明
本願の請求項1に係る発明は、令和1年11月20日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める。
「ゴルフボールにおいて、
(a)二重コアであって、内側コアおよび外側コア層を有し、上記内側コアは外側表面および幾何中心を具備し、上記外側コア層は外側表面および内側表面を有し、上記内側コアはゴム組成物を有し、上記外側コア層はポリエステルに基づく熱可塑性エラストマー組成物を有し、上記ポリエステルに基づく熱可塑性エラストマー組成物は、
(i)40から99重量%のポリエステル-ポリエーテルブロックコポリマーと、
(ii)1から60重量%の可塑剤とを有し、
上記内側コアの上記中心および上記外側コア層の表面が各々硬度を有し、上記外側コア層の上記表面の硬度が上記内側コアの上記中心硬度より大きい、
上記二重コアと、
(b)上記コアの回りに配された少なくとも1つの層を具備するカバーとを有し、
上記可塑剤は、メチルオレエート、エチルオレエート、プロピルオレエート、ブチルオレエート、およびオクチルオレエート、ならびにこれらの混合物からなるグループから選択されたアルキルオレエートであり、
上記ポリエステル-ポリエーテルブロックコポリマーおよび上記可塑剤の重量%比が、上記ポリエステルに基づく熱可塑性エラストマー組成物のCORおよび圧縮の所望の組み合わせ実現するように選択されることを特徴とするゴルフボール。」


第3 当審拒絶理由通知の概要
令和1年8月9日付けの当審拒絶理由通知の概要は以下のとおりである。
「1.この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

2.この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
1.サポート要件について
本願発明には、本願発明の課題を解決する手段が記載されているとはいえないし、前述の通り、そもそも、可塑剤をポリエステルに添加することで、本願発明の課題を解決する手段が定かでないのであるから、特許請求の範囲の記載は、課題を解決する手段が記載されたものとはいえないことは明らかである。

2.進歩性について
・請求項 1、2
・引用文献等 1?4
引 用 文 献 等 一 覧
1.特開2001-29511号公報
2.特開2002-126130号公報
3.特開2005-185836号公報
4.特開2008-6269号公報」


第4 当審の判断
1.引用発明等
当審の拒絶の理由において引用され、本願の優先日前である平成13年2月6日に頒布された刊行物である特開2001-29511号公報(以下「引用文献」という。)には、次の事項が記載されている。
(1)「【0004】本発明は上記事情に鑑みなされたもので、反発性が高く、飛距離の向上を計ることができると共に、フィーリングに優れたソリッドゴルフボールを提供することを目的とする。」
(2)「【0031】
【表1】

【0032】
【表2】

【0033】
【表3】

【0034】
【表4】

【0035】
【表5】


(3)【表5】より、実施例3のコアはコアC、中間層は樹脂I、カバーは樹脂Bからなるなることが認められる。
(4)【表1】より、実施例3のコアを構成するコアCは、JSR BR01:日本合成ゴム社製、ポリブタジエンを有することが認められる。
(5)【表2】より、実施例3のカバーを構成する樹脂Bは、ハイラミン1605及びハイラミン1706からなり、ハイラミンは、三井・デュポンポリケミカル社製、アイオノマー樹脂であり、ハイトレルは、東レ・デュポン社製、ポリエステル樹脂であることが認められる。
(6)【表3】より、実施例3の中間層を構成する樹脂Iは、ハイトレル4047を105重量部中50重量部有し、ゴム粉を105重量部中50重量部有し、モノサイザーDOPを105重量部中5重量部有し、モノサイザーDOPは、大日本インキ化学社製、ジ-(2-エチルヘキシン)フタレートであることが認められる。

そうすると、上記(1)乃至(6)の記載事項から、引用文献には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
「JSR BR01:日本合成ゴム社製、ポリブタジエンからなるコアと、ハイトレル4047が50/105重量部(47.6%)、ゴム粉が50/105重量部(47.6%)及び大日本インキ化学社製、ジ-(2-エチルヘキシン)フタレートが5/105重量部(4.8%)からなる中間層と、ハイラミン1605及びハイラミン1706からなるカバーからなるソリッドゴルフボール。」

2.対比
本願発明と引用発明とを対比すると、
(1)後者の「コア」、及び「ソリッドゴルフボール」は、それぞれ、前者の「内側コア」、及び「ゴルフボール」に相当する。
(2)後者の「JSR BR01:日本合成ゴム社製、ポリブタジエン」は、ゴムの一種であるから、前者の「内側コア」と後者の「コア」とは「ゴム組成物を有」する点で共通する。
(3)後者の「中間層」は、コアとカバーとの間にあるものであるから、前者の「外側コア層」に相当する。
(4)後者の「ハイトレル4047」は、東レ・デュポン社製、ポリエステル樹脂であるから、前者の「ポリエステルに基づく熱可塑性エラストマー組成物」及び「ポリエステル-ポリエーテルブロックコポリマー」に相当する。
(5)後者の「大日本インキ化学社製、ジ-(2-エチルヘキシン)フタレート」は、可塑剤の一種であるから、前者の「可塑剤」に相当する。
(6)後者の「中間層」の「ハイトレル4047」は「50/105重量部(47.6%)」を占め、前者の「40から99重量%」に包含されるものである。
また、後者の「中間層」の「大日本インキ化学社製、ジ-(2-エチルヘキシン)フタレート」は「5/105重量部(4.8%)」を占め、前者の「1から60重量%」に包含されるものである。
そして、上記(3)?(5)より、前者の「外側コア層」と後者の「中間層」とは、「(i)47.6重量%のポリエステル-ポリエーテルブロックコポリマーと、(ii)4.8重量%の可塑剤とを有」する点で共通する。
(7)後者の「コア」及び「中間層」は「ソリッドゴルフボール」を構成するものであるから、コアの中心および中間層の表面が各々硬度を有することは明らかである。
(8)後者の「カバー」は、その機能からして「コア」及び「中間層」の周りに配されたものであることは明らかである。

したがって、両者は、
「ゴルフボールにおいて、
(a)二重コアであって、内側コアおよび外側コア層を有し、上記内側コアは外側表面および幾何中心を具備し、上記外側コア層は外側表面および内側表面を有し、上記内側コアはゴム組成物を有し、上記外側コア層はポリエステルに基づく熱可塑性エラストマー組成物を有し、上記ポリエステルに基づく熱可塑性エラストマー組成物は、
(i)47.6重量%のポリエステル-ポリエーテルブロックコポリマーと、
(ii)4.8重量%の可塑剤とを有し、
上記内側コアの上記中心および上記外側コア層の表面が各々硬度を有し、
上記二重コアと、
(b)上記コアの回りに配された少なくとも1つの層を具備するカバーとを有するゴルフボール。」
の点で一致し、以下の点で相違する。

[相違点1]
外側コア層の表面の硬度と内側コアの中心硬度とが、本願発明は、外側コア層の表面の硬度が内側コアの中心硬度より大きいのに対し、引用発明は、中間層の表面とコアの中心が硬度を有するものの硬度の大小関係については定かでない点。

[相違点2]
可塑剤が、本願発明は、メチルオレエート、エチルオレエート、プロピルオレエート、ブチルオレエート、およびオクチルオレエート、ならびにこれらの混合物からなるグループから選択されたアルキルオレエートであるのに対し、引用発明は大日本インキ化学社製、ジ-(2-エチルヘキシン)フタレートである点。

[相違点3]
ポリエステル-ポリエーテルブロックコポリマーおよび可塑剤の重量%比が、本願発明では、「上記ポリエステルに基づく熱可塑性エラストマー組成物のCORおよび圧縮の所望の組み合わせ実現するように選択されること」であるのに対し、引用発明は、そのようなものなのか定かでない点。

3.相違点についての判断
以下、上記各相違点について検討する。
(1)[相違点1]について
ゴルフボールの技術分野において、打撃時のフィーリングを維持したまま飛距離を向上させるべくセンターコアからカバーに向かって、各層の硬度を順次高くすることは特開2002-126130号公報(【0009】、【0044】参照。)に記載されているように周知の技術手段(以下「周知技術1」という。)である。
そして、引用発明も上記周知技術1も、反発性が高く、飛距離が大きく、フィーリングが優れたゴルフボールとすることを課題とする点で共通する。
してみると、引用発明において、中間層の表面の硬度とコアの中心硬度に、上記周知技術1を適用し、外側コア層の表面の硬度が内側コアの中心硬度より大きくすることにより、上記相違点1とすることは、当業者が容易になし得ることである。
よって、相違点1に係る本願発明は、引用発明において、上記周知技術1を参酌することにより、当業者が容易に想到し得るものである。

(2)[相違点2]について
ゴルフボールに可塑剤としてブチルオレエートを添加することは特開2005-185836号公報(【0034】参照。)及び特開2008-6269号公報(【0014】参照。)に記載されているように周知の技術手段(以下「周知技術2」という。)である。
そして、ゴルフボールにおいて、反発性が高く、飛距離が大きく、フィーリングが優れたものとすることは自明の課題といえるものであって、上記周知技術2においても内在するものである。
してみると、引用発明において、大日本インキ化学社製、ジ-(2-エチルヘキシン)フタレートの代わりに、上記周知技術2を適用し、ブチルオレエートとすることにより、上記相違点2とすることは、当業者が容易になし得ることである。
よって、相違点2に係る本願発明は、引用発明において、上記周知技術2を参酌することにより、当業者が容易に想到し得るものである。

(3)[相違点3]について
引用発明は、中間層を構成するハイトレル4047を50/105重量部(47.6%)、及び大日本インキ化学社製、ジ-(2-エチルヘキシン)フタレートを5/105重量部(4.8%)とすることにより、ゴルフボールの飛距離を向上させ、フィーリング性能を優れたものとしている(【0035】【表5】実施例3のキャリー(m)及びトータル(m)が比較例1?4と比べて大きいこと、並びにフィーリング評価が〇であること参照。)。
そうすると、引用発明のゴルフボールも、ポリエステル-ポリエーテルブロックコポリマーおよび可塑剤の重量%比を特定の比率を選択して、飛距離が向上し、フィーリング性能が優れた、すなわち、所望のCORおよび圧縮としたゴルフボールを実現している点で、本願発明と何ら差異のあるものではない。
してみると、相違点3は、実質的な相違点とはいえない。

そして、本願発明によって奏される効果も、引用発明及び上記周知技術1及び2から、当業者が予測し得る範囲内のものである。

よって、本願発明は、引用発明及び上記周知技術1及び2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

4.サポート要件について
(1)本願発明の課題について
願書に添付した明細書等(以下「明細書等」という。)に、
「【0002】
多層、ソリッドゴルフボールは、昨今、趣味またはプロのゴルファにより採用されている。…通常、コア層は、天然または合成ゴム材料、または高度に中和されたアイオノマーポリマー(HNP)から製造される。これらアイオノマーポリマーは、典型的には、エチレンおよびメタクリル酸またはアクリル酸のコポリマーであり、これは部分的または充分に中和される。ナトリウム、リチウム、亜鉛、およびマグネシウムのような金属イオンがコポリマーの酸基を中和するのに用いられる。
【0003】
そのようなエチレン酸コポリマーのアイオノマー樹脂は比較的硬い材料であり、良好な耐久性、切断耐性、および堅牢性を具備する。アイオノマーはカバー、中間層およびコア層を製造するのに使用できる。硬いアイオノマー樹脂は、コア材料として使用されるときに、大きな初速度をゴルフボールに付与するのを支援する。これはティーからのドライバショットにとくに有利である。ボールは良好な飛行距離を伴う傾向がある。しかしながら、そのようなボールの1つの欠点は、それらが硬い「フィーリング」を伴いがちであるということである。幾人かのプレーヤは、クラブフェースがこれらの硬いボールに接したときに耳障りに心地のよくない感じを経験する。プレーヤは、制御しにくさを感じ、硬いボールは初期スピンを小さくしがちである。硬いボールを適切な感触および制御の下で打撃することは一般的により困難である。グリーンの近くで、アイアンを用いてアプローチショットを行うときに、とりわけ問題が生じやすい。
【0004】
したがって、業界では、数多くの非アイオノマー性の材料、例えば、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリエステル、ポリウレタン、ポリ尿素、フルオロポリマー、ポリビニルクロライド、ポリカーボネート、ポリエーテル、ポリイミド、その他をゴルフボールの種々の要素および層を製造するために検討してきた。

【0007】
先に述べたポリエステルを含む、いくつかの非アイオノマー性組成物は、ゴルフボールにおける所定の要素や層を製造するのにある程度有益であるけれども、高品質の性能をボールに付与することができる新しい組成物に対する要望が依然としてある。とりわけ、ゴルフボールにおける間然された(注:「改善された」の誤記と認める。)コア構造のための要請が引き続き存在する。コア材料は良好な堅牢性を伴う必要があり、ボールに弾力性を付与する必要がある。ただし、コア材料は、過剰に硬く剛性があり、そのためフィーリングおよびスピン制御等の特性が犠牲になってはならない。」
と記載されていることからすると、従来のコア材料としてアイオノマー樹脂を使用した多層ゴルフボールに比べて、良好な堅牢性をともない、ボールに弾力性を付与するコア材料を用いることにより、コア材料の剛性を硬く維持しつつ、フィーリングおよびスピン制御等の特性が良好なゴルフボールを実現することが、本願発明の課題と認める。

(2)本願発明の課題を解決するための手段について
明細書等を見ると、上記課題に対して、明細書等には、
「可塑剤は、また、可塑剤なしの条件に較べて、組成物の硬度および圧縮を減少させることができる。」(【0036】)
「可塑剤をポリエステルに添加すると、組成物をより柔らかく、…可塑剤を組成物に添加すると組成物の剛性を減少させるのに役立つ。すなわち、可塑剤は、組成物の曲げ弾性率を低下させるのに役立つ。…曲げ弾性率は、弾性係数であり、曲げ試験の際の応力-歪み曲線の線形部分のスロープを計算して決定される。…スロープが比較的平らなときには、材料は比較的小さな曲げ弾性率を有し、これは材料がより容易に曲げられることを意味する。材料はより柔軟性がある。」(【0053】)
「可塑剤をポリエステルに添加すると、材料の曲げ弾性率を減少させるのに役立ち、これは、ある程度、硬度を減少させるのにも役立つ。」(【0054】)
「ポリエステル/可塑剤の組成物は比較的柔らかく、DCM圧縮は100以下である。」(【0055】)
「可塑剤をポリエステルに添加すると、多くの場合、組成物のガラス転移点(Tg)が減少するのに役立つと信じられる。」(【0056】)
「組成物を可塑化すると、CORを若干減少させ、他方、これと同時に、圧縮を大幅に減少させ、これによって、非可塑化組成物に較べて、圧縮/CORの関係を全体的に改善することができる。」(【0057】)
「一般的に、ポリエステル/可塑剤の組成物を有する組成物から製造された急派、所与の圧縮および硬度の値において比較的大きな反発係数(COR)を有する。」(【0066】)
と記載されており、可塑剤をポリエステルに添加することにより、硬度及び圧縮が減少すること理解できる。
しかし、上記明細書等の記載だけでは、可塑剤をポリエステルに添加することで、従来のコア材料としてアイオノマー樹脂を使用した多層ゴルフボールに比べて、フィーリングおよびスピン制御等の特性が良好となるのか、すなわち、上記本願発明の課題が解決し得るのか、は当業者であってもは理解できない。

さらに、明細書等(【0059】?【0066】及び図1)に記載された実施例(下記(1)?(3))が、上記本願発明の課題を解決するものであるのかについて、以下検討する。
ア 「90%のHytel 3078(ポリエステルコポリマー)および10%のエチルオレエート(可塑剤)のブレンドから製造されるサンプル球」(表4上から2つ目のサンプル球)
このサンプル球の特性値は、「CORは0.701、DCM圧縮は-27、ショアD硬度は27.8」(【0059】及び表4)と記載されている。
しかし、DCM圧縮の特性値について、明細書等には、「約90%のポリエステルおよび約10%の可塑剤からなるポリエステル組成物を有する成型された球は、…70より大きなDCM圧縮を有し、…5から65の範囲のDCM圧縮、…を有する。」(【0013】)と記載されており、上記サンプル球のDCM圧縮の特性値は、明細書等で可塑剤が添加されたポリエステルのDCM圧縮の特性値とは整合しない。
また、明細書等の図1には、良好な弾力性-硬度関係および弾力性-圧縮関係を具備する商業的に入手可能な、高度に中和されたポリマー(HNP)、例えば、HPF AD1035、HPF AD1035Soft、およびHPF2000の特性から構築される高性能商用HNPインデックス線(【0061】参照。)が記載されており、明細書等の【0058】を参酌すると、「商業的に入手可能な、高度に中和されたポリマー(HNP)、例えば、HPF AD1035、HPF AD1035Soft、およびHPF2000」は、アイオノマー樹脂であることが理解できる。
そして、明細書等には、
「この発明の他の可塑化組成物(10%のEOを有するHytel3078のサンプル球)では、このサンプルのCORは、所与の圧縮において、HNPインデックスラインと同じである。」(【0062】)と記載され、また、図1において、このサンプル球がHNPインデックスライン上記プロットされていることから明らかなように、このサンプル球は、アイオノマー樹脂からなるソリッド球と比べて、DCM圧縮及びCOR反撥係数が変わらないものと認められる。
そうすると、アイオノマー樹脂からなるソリッド球と比べて、DCM圧縮及びCOR反撥係数が変わらないこのサンプル球は、本願発明の課題を解決するものではない。

イ 「20%のEOを有するHytel3078のサンプル球」(表4上から3つ目のサンプル球)
このサンプル球の特性値は、「CORは0.682、DCM圧縮は-72、ショアD硬度は23.1、SFIDCM圧縮は0.040」(表4)と記載されている。
しかし、このサンプル球のDCM圧縮の特性値も、上記(1)のサンプル球と同様に、明細書等(【0013】)で可塑剤が添加されたポリエステルのDCM圧縮の特性値と整合しないから、本願発明の課題を解決するのか否か不明である。

ウ 「10%のEOを有するHytel4069(90%)から製造されるサンプル球」(表4上から5つ目のサンプル球。以下「Hytel4069(90%)」と言う。)
Hytel4069(90%)の特性値は、「CORは0.723であり、DCM圧縮は28、ショアD硬度は33.4」(表4)と記載されている。
そして、Hytel4069(90%)のCORインデックスについてみると、【0062】、表4及び図1より、-0.051であると認められる。
また、図1をみると、Hytel4069(90%)のプロットは高性能商用HNPインデックス線よりもCOR反撥係数が低い位置にプロットされていることが認められる。
そうすると、Hytel4069(90%)は、同じDCM圧縮特性を有するアイオノマー樹脂からなるソリッド球と比べて、COR反撥係数が低いことが認められる。
そして、明細書等に「可塑剤をポリエステル組成物中に導入すると、一般的には、非可塑化組成物と較べたときに、圧縮を増大し、かつ/あるいは、組成物のCORを増大させるのに役立つ((ソリッド球に成型されて試験されたとき)。」(【0057】)と記載されていることから、アイオノマー樹脂からなるソリッド球と比べて、COR反撥係数が低いHytel4069(90%)は、本願発明の課題を解決するものではない。

以上、明細書等に記載された実施例(上記ア?ウ)を見ても、可塑剤をポリエステルに添加することで、従来のコア材料としてアイオノマー樹脂を使用した多層ゴルフボールに比べて、フィーリングおよびスピン制御等の特性が良好となるのか、すなわち、上記本願発明の課題が解決し得るのか、は当業者であっても理解できない。
そして、上記の検討を含め、明細書等には、本願発明の課題を解決するための手段について、作用機序もしくは実験例を以て、本願発明の課題が解決されたことを客観的に記載するところはなく、何を以て課題を解決する手段とするのか、不明である。
さらに、従来技術として挙げられているエチレン酸コポリマーのアイオノマー樹脂との比較においても、本願発明が、上記課題を解決するのか否か定かでない。
そうすると、本願発明には、本願発明の課題を解決する手段が記載されているとはいえないし、前述の通り、そもそも、可塑剤をポリエステルに添加することで、本願発明の課題を解決する手段が定かでないのであるから、特許請求の範囲の記載は、課題を解決する手段が記載されたものとはいえないことは明らかである。
よって、請求項1及び2に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。

(3)請求人の主張
請求人は、令和1年11月20日付けの手続補正(下線は補正箇所を示す。)により、段落【0007】を
「先に述べたポリエステルを含む、いくつかの非アイオノマー性組成物は、ゴルフボールにおける所定の要素や層を製造するのにある程度有益であるけれども、高品質の性能をボールに付与することができる新しい組成物に対する要望が依然としてある。とりわけ、ゴルフボールにおける改善されたコア構造のための要請が引き続き存在する。コア材料は良好な堅牢性を伴う必要があり、ボールに弾力性を付与する必要がある。ただし、コア材料は、過剰に硬く剛性があり、そのためフィーリングおよびスピン制御等の特性が犠牲になってはならない。一般的に、後に[試験方法]で説明するように、ゴルフボールの硬さ、弾力性の指標として「圧縮」が知られている。これはゴルフボールに荷重をかけて直径の10%を変更させるのに必要な力(ポンド)を表す。圧縮が小さいほど柔らかいボールといえる。また、ゴルフボールがどのくらい飛びやすいかを示す指標としてCOR(Coefficient of Restitution。反発係数)が知られている。これは、ゴルフボールをスチール板に衝突させたときに入射速度に対する射出速度(COR=Vout/Vin)で表される。CORが大きいほど遠くに飛ぶボールといえる。通常は、圧縮とCORとは正の相関があり、圧縮を大きくするとボールが良く飛ぶようになりCORも大きくなり、その反面、ボールがソフトでなくなり、他方、圧縮を小さくしてソフトなボールを実現しようとするとCORも大幅に減少して飛距離が小さくなりがちである。例えば、ゴルフボール素材として典型的に使用されるアイオノマー(HNP:高度に中和したアイオノマーポリマー)の場合、後に図1に点線で示すように、圧縮とCORとが翁傾きでほぼ直線的に変化し、小さな圧縮で柔らかなボールを設計する場合、CORも大きなドロップオフ(減少)を伴う。この発明は、圧縮を小さくしてソフトなフィーリングを実現する場合でも、CORがほとんど変化しないか、または比較的小さな減少で済むような、圧縮およびCORの特性の最適な組合せを伴うボールを実現する。換言すれば、圧縮を大幅に変化させてもCORの変化は少なく、もって、ほぼ同一のCORのゴルフボールについて幅広い圧縮の許容値を実現する。例えば図1の線Bで示すHytel4069ポリエーテル-エステルブロックコポリマーの場合、CORが約0.72(すなわち0.723?0.727)の場合、圧縮を28?60の範囲で変化させることができ、この範囲で所望の柔らかさを選択できる。」
と補正することにより、本願発明の課題は、
「圧縮を小さくしてソフトなフィーリングを実現する場合でも、CORがほとんど変化しないか、または比較的小さな減少で済むような、圧縮およびCORの特性の最適な組合せを伴うボールを実現する。換言すれば、圧縮を大幅に変化させてもCORの変化は少なく、もって、ほぼ同一のCORのゴルフボールについて幅広い圧縮の許容値を実現する。」
ことであって、本願の実施例である、「Hytel 3078/20%EO」及び「Hytel 3078/10%EO」を含む線Aの傾きがほぼ平坦であり、また、「Hytel4069/10%EO」及び「Hytel4069」含む線Bの傾きがほぼ平坦であるから、本願発明の課題を解決することが理解できます、と主張する。

(4)発明の詳細な説明に記載された実施例について
外側コア層のポリエステルに基づく熱可塑性エラストマー組成物が「Hytel 3078(ポリエステルコポリマー)」の場合について検討する。

ア 「90%のHytel 3078(ポリエステルコポリマー)及び10%のエチルオレエート(可塑剤)のブレンドから製造されるサンプル球」(【0064】【表4】上から2つ目のサンプル球。以下「サンプル球ア」という。)
このサンプル球の特性値は、「CORは0.701、DCM圧縮は-27、ショアD硬度は27.8」(【0059】及び【0064】【表4】)と記載されている。

イ 「80%のHytel 3078(ポリエステルコポリマー)及び20%のエチルオレエート(可塑剤)のブレンドから製造されるサンプル球」(【0064】【表4】上から3つ目のサンプル球。以下「サンプル球イ」という。)
このサンプル球の特性値は、「CORは0.682、DCM圧縮は-72、ショアD硬度は23.1、SFIDCM圧縮は0.040」(【0064】【表4】)と記載されている。

ウ 「100%のHytel 3078(ポリエステルコポリマー)から製造されるサンプル球」(【0064】【表4】上から1つ目のサンプル球。以下「サンプル球ウ」という。)
このサンプル球の特性値は、「CORは0.721、DCM圧縮は-12、ショアD硬度は29.9、SFIDCM圧縮は0.000」(【0064】【表4】)と記載されている。

上記3つのサンプル球ア、イ、ウを比較すると、外側コア層におけるエチルオレエート(可塑剤)の割合が増加するにつれて、DCM圧縮が減少していることが認められる。
そして、外側コア層におけるエチルオレエート(可塑剤)の割合が増加するにつれて、DCM圧縮が減少するということは、打撃時のフィーリングが柔らかく(ソフト)になることを示している。
しかし、外側コア層におけるエチルオレエート(可塑剤)の割合が増加するにつれて、CORが減少しており、飛距離が減少することが認められる。
そうすると、発明の詳細な説明に記載された実施例である上記サンプル球ア及びイでは、請求人が主張する上記課題を解決するものとはいえない。

次に、外側コア層のポリエステルに基づく熱可塑性エラストマー組成物が「Hytel 4069」の場合について検討する。

エ 「90%のHytel4069及び10%のエチルオレエート(可塑剤)のブレンドから製造されるサンプル球」(【0064】【表4】上から5つ目のサンプル球。以下「サンプル球エ」という。)
このサンプル球の特性値は、「CORは0.723であり、DCM圧縮は28、ショアD硬度は33.4」(【0064】【表4】)と記載されている。

オ 「100%のHytel4069から製造されるサンプル球」(【0064】【表4】上から4つ目のサンプル球。以下「サンプル球オ」という。)
このサンプル球の特性値は、「CORは0.727、DCM圧縮は60、ショアD硬度は41.4」(【0064】【表4】)と記載されている。

上記2つのサンプル球エ、オを比較すると、外側コア層にエチルオレエート(可塑剤)をブレンドすると、CORはほとんど変わらないものの、DCM圧縮が減少していることが認められる。
しかし、外側コア層にエチルオレエート(可塑剤)をブレンドしたサンプル球は一例のみであって、本願発明の課題を解決するための手段について、作用機序を以て、本願発明の課題が解決されたことを客観的に記載するところはないから、この一例を以て、出願人が主張する「外側コア層に可塑剤をブレンドすることにより、CORはほとんど変化せず、圧縮を小さくしてソフトなフィーリングのゴルフボールを実現できる」との上記課題を解決できるものとは認められない。
よって、本願の出願時の技術常識に照らしても、発明の詳細な説明に開示された事項を本願発明にまで拡張ないし一般化できるとはいえない。

なお、段落【0007】に新たに追加された事項(本願発明の課題及びその解決手段についての記載)は、本願の出願当初の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載されたものではなく、また、自明の事項といえるものでもないから、上記補正された段落【0007】の記載に基づくサポート要件違反に対する主張は、そもそも採用できるものではない。

上記のとおり、発明の詳細な説明に記載された実施例では、本願発明の課題を解決するものではなく、また、発明の詳細な説明に記載された実施例から本願発明の範囲まで一般化できるものではないから、本願発明は、上記本願発明の解決しようとする課題を解決できると認識できる範囲のものであるとはいえない。
よって、本願発明は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすものではない。


第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び上記周知技術1及び2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願出願は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
また、本願発明は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。


よって、結論のとおり審決する。

 
別掲
 
審理終結日 2020-01-10 
結審通知日 2020-01-14 
審決日 2020-01-27 
出願番号 特願2015-213692(P2015-213692)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (A63B)
P 1 8・ 121- WZ (A63B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 吉田 英一  
特許庁審判長 尾崎 淳史
特許庁審判官 藤本 義仁
畑井 順一
発明の名称 ゴルフボールを製造するための、可塑剤を含む、ポリエステルに基づく熱可塑性エラストマー組成物  
代理人 澤田 俊夫  

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