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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C07D
管理番号 1363469
審判番号 不服2019-4288  
総通号数 248 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-08-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-04-03 
確定日 2020-06-17 
事件の表示 特願2016-549045「2-(tert-ブチルアミノ)-4-((1R,3R,4R)-3-ヒドロキシ-4-メチルシクロヘキシルアミノ)-ピリミジン-5-カルボキサミドの固体形態、その組成物、及びその使用方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 8月 6日国際公開、WO2015/116755、平成29年 2月 9日国内公表、特表2017-504632〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願は、2015年1月29日(パリ条約による優先権外国庁受理 2014年1月30日(US)米国、2014年7月16日(US)米国)を国際出願日とするもので、平成30年1月12日及び同年3月6日に手続補正書が提出され、同年7月17日付けで拒絶理由が通知され、同年10月24日に手続補正書(2通)が提出され、同年10月25日(受付日)に手続補足書が提出され、同年11月27日付けで拒絶査定され、平成31年4月3日に拒絶査定不服審判が請求され、同日付けで手続補足書が提出されたものである。

第2 本願発明について
1 本願発明の認定
この出願の請求項1?36に係る発明は、平成30年10月24日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?36に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項2に係る発明は、以下のとおりのものである(以下「本願発明」という。)。
「 【請求項2】
およそ9.80、10.30、14.62、17.29、18.23、20.66、21.74及び30.55°2θのピークを含むX線粉末回折パターンを有する、化合物1又はその互変異性体の結晶形態B:
【化2】



第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由(平成30年7月17日付け拒絶理由通知の理由1)は、以下のとおりのものと認める。

この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献1?6刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

請求項1?36

1.引用文献1:国際公開第2012/145569号
2.引用文献2:Mino R.Caira,Crystalline Polymorphism of Organic Compounds,Topics in Current Chemistry,1998年,No.198,p.163-208
3.引用文献3:平山令明編,有機化合物結晶作製ハンドブック-原理とノウハウ-,丸善,2008年7月25日,p.17-23,37-40,45-51,57-65
4.引用文献4:松岡政邦,有機物の結晶化技術の高度化-粒径,形態,多形,純度の制御-,PHARM TECH JAPAN,2003年5月1日,第19巻,第6号,p.91-101
5.引用文献5:浅原照三 外4名編,溶剤ハンドブック,講談社,1985年9月1日,p.47-51
6.引用文献6:杉本 功,高橋嘉輝,溶媒和物,非晶質固体と医薬品製剤,粉体工学会誌,1985年,22(2),p.85-97

引用文献2?6は、本願優先日時点の技術常識を示す文献である。

第4 当審の判断
当審は,原査定の拒絶の理由のとおり、本願発明は、刊行物1に記載された発明および本願優先日時点の技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないと判断する。
理由は以下のとおりである。

刊行物1:国際公開第2012/145569号(原査定で引用された引用文献1)
刊行物2:Mino R.Caira,Crystalline Polymorphism of Organic Compounds,Topics in Current Chemistry,1998年,No.198,p.163-208
刊行物3:平山令明編,有機化合物結晶作製ハンドブック-原理とノウハウ-,丸善,2008年7月25日,p.17-23,37-40,45-51,57-65
刊行物4:松岡政邦,有機物の結晶化技術の高度化-粒径,形態,多形,純度の制御-,PHARM TECH JAPAN,2003年5月1日,第19巻,第6号,p.91-101
刊行物5:浅原照三 外4名編,溶剤ハンドブック,講談社,1985年9月1日,p.47-51
刊行物6:杉本 功,高橋嘉輝,溶媒和物,非晶質固体と医薬品製剤,粉体工学会誌,1985年,22(2),p.85-97
刊行物7:岡野定舗編著,新・薬剤学総論(改訂第3版),南江堂,1987年4月10日,p.26,111,256,257
刊行物8: C. G. WERMUTH編,長瀬博監訳,最新 創薬化学 下巻,株式会社テクノミック,1999年9月25日,p.452-453
刊行物9:平山令明編,有機化合物結晶作製ハンドブック-原理とノウハウ-,丸善,2008年7月25日,p.78-79
刊行物10:日本化学会編,「第5版 実験化学講座5 -化学実験のための基礎技術-」,丸善,平成17年2月28日,p.24-25

刊行物2?10は、本願優先日時点の技術常識を示す文献である。

1 引用刊行物の記載事項
(1)刊行物1
原査定の拒絶の理由に引用された本願の優先日前に頒布された刊行物である刊行物1には、以下の記載がある。
訳文にて示す。
(1a)「[0001]本書では、ある種のジアミノカルボキサミドおよびジアミノカルボニトリルピリミジン化合物、有効量の当該化合物を含む組成物、および、肝臓線維疾患またはJNK経路の阻害によって治療可能もしくは予防可能な症状を治療または予防する方法であって、有効量の当該ジアミノカルボキサミドおよびジアミノカルボニトリルピリミジン化合物を、それを必要とする対象に投与することを含む方法が提供される。」(1頁4?9行)

(1b)「実施例32: 2-(tert-ブチルアミノ)-4-((1R,3R,4R)-3-ヒドロキシ-4-メチルシクロヘキシルアミノ)ピリミジン-5-カルボキサミド

[00394]A.(R)-tert-ブチル 4-メチルシクロヘキサ-3-エニルカルバメートおよび(S)-tert-ブチル 4-メチルシクロヘキサ-3-エニルカルバメート
・・・
[00395]B.tert-ブチル (1R,3R,4R)-3-ヒドロキシ-4-メチルシクロヘキシルカルバメート、tert-ブチル (1R,3S,4S)-3-ヒドロキシ-4-メチルシクロヘキシルカルバメート、tert-ブチル (1S,3R,4R)-3-ヒドロキシ-4-メチルシクロヘキシルカルバメート、tert-ブチル (1S,3S,4S)-3-ヒドロキシ-4-メチルシクロヘキシルカルバメート
・・・
[00402]C.(1R,2R,5R)-5-アミノ-2-メチルシクロヘキサノール塩酸塩
・・・
[00403]D.5-ブロモ-N-tert-ブチル-4-(メチルチオ)ピリミジン-2-アミン
・・・
[00404]E.2-(tert-ブチルアミノ)-4-(メチルチオ)ピリミジン-5-カルボニトリル
・・・
[00405]F.2-(tert-ブチルアミノ)-4-(メチルチオ)ピリミジン-5-カルボキサミド
・・・
[00406]G.2-(tert-ブチルアミノ)-4-(メチルスルフィニル)ピリミジン-5-カルボキサミド
・・・
[00407]H.2-(tert-ブチルアミノ)-4-((1R,3R,4R)-3-ヒドロキシ-4-メチルシクロヘキシル-アミノ)ピリミジン-5-カルボキサミド DMF(2mL)中の、2-(tert-ブチルアミノ)-4-(メチルスルフィニル)ピリミジン-5-カルボキサミド(0.092g,0.359mmol)および(1R,2R,5R)-5-アミノ-2-メチルシクロヘキサノール塩酸塩(0.065g,0.395mmol)の撹拌懸濁液に、N-エチル-N-イソプロピルプロパン-2-アミン(0.157mL,0.897mmol)を添加し、反応液を90℃にまで一晩加熱した。粗反応混合物を減圧下で濃縮し、次いで、残渣に氷冷水(20mL)を添加した。得られた混合物を1時間激しく撹拌し、次いで、生成物を濾過し、水で洗浄し、真空下で乾燥させて、2-(tert-ブチルアミノ)-4-((1R,3R,4R)-3-ヒドロキシ-4-メチルシクロヘキシルアミノ)ピリミジン-5-カルボキサミド(0.074g,0.230mmol,収率64.1%)を得た。^(1)H NMR (400 MHz, DMSO-d_(6)) δ ppm 8.94 (br. s., 1^( )H), 8.34 (s, 1 H), 6.69 (br. s., 1 H),4.59 (d, J=5.47 Hz, 1^( )H), 3.87 (br. s.,^( )1 H), 2.92 - 3.01(m, 1 H), 2.14 (d, J=10.15 Hz, 1 H), 1.91 (d, J=11.71 Hz, 1 H), 1.67 (dd,J=13.28, 3.12 Hz, 1H), 1.07 - 1.24 (m, 3 H), 0.91 - 0.99 (m, 4 H)。MS (ESI) m/z 322.3 [M+1]^(+)。」
(下線は当審にて、追加。以下同様。)(148頁9行?153頁10行)

(2)刊行物2
原査定の拒絶の理由に引用された本願の優先日前に頒布された刊行物である刊行物2には、以下の記載がある。
訳文にて示す。
(2a)「2
結晶多形-理論的原理と実用的意味

2.1
背景-物質の製造における多形の役割
化学、化学工学、エンジニアリング、薬学、食品、及び関連産業における製品効率の観点で見られる問題の多くが、多形を原因とする可能性がある。重要な例として、薬物の生物学的有効性に直接影響を与える可能性のある溶解に関するふるまいが一定でないことが挙げられる。これは、同じ薬の桁違いの溶解性をもつ多形形態の存在が原因である。」(165頁3?12行)

(3)刊行物3
原査定の拒絶の理由に引用された本願の優先日前に頒布された刊行物である刊行物3には、以下の記載がある。
(3a)「医薬品結晶化法

4.1はじめに

医薬品の大半は化学合成あるいは天然物由来の有機化合物であり,それらは製造の最終工程で晶析により結晶性粉末として調製されることが多い.
結晶は晶析条件に依存してさまざまな構造,形状,大きさ,凝集状態などを示すが,それら固体物性あるいは粉体物性は,医薬品の生物学的有効性,安定性,製剤化などに重要な影響を与える.たとえば,結晶構造の異なる多形や晶癖の異なる結晶の溶解速度は一般的に異なるため,医薬品の生物学的有効性に相違が生じる.こうした相違は,散剤,錠剤,顆粒剤,カプセル剤などといった固体状態の医薬品を経口投与する場合においてとくに顕著に表れる.医薬品の作用部位への到達濃度を決定する要因の一つに投与部位からの吸収の効果があり,経口投与される医薬品では製剤から放出される主薬の溶解性が消化管での吸収に大きく影響するからである.
結晶多形の密度や融点,格子エネルギーなどは異なり,結果として熱や湿度,光といったストレスに対する結晶の物理的あるいは化学的な安定性に相違が生じる.このような理由から保存条件によっては準安定形から安定形への結晶転移が生じ,医薬品の生物学的有効性が変わることもあり得る.したがって,安定性の観点からは,一般に常温で安定な結晶形が選択されることが多い.しかし,一方で準安定形の溶解性が安定形と比較して有意に優れる場合があることから,あえて準安定形を開発の基本形として選択し,生物学的有効性に優れた製剤を設計することもある.
結晶中に溶媒が取り込まれた溶媒和物の結晶は,厳密な意味での結晶多形と区別するため疑似結晶多形と称される.・・・溶媒和物の中でも水和物はとくに重要である.・・・
医薬品は人体に直接作用するものである.疾病の治療や予防に有効であることはもとより,期待通りの薬効が発揮されるように一定の品質をもち,安全性が確保されることが強く要求されている.したがって,ICH(International Conference on Harmonisation of Technical Requirements for Registration of Pharmaceuticals for Human Use:日米EU医薬品規制調和国際会議)のガイドラインなどで結晶多形・溶媒和物の取り扱いに関するディシジョンツリーが提示されている.
医薬品の結晶化は通常、溶液の冷却,溶媒の蒸散,低溶解性の溶媒の添加,塩の形成などの方法と,種結晶をかくはん下添加する方法などをさまざまに組み合わせることによって達成される.これらの結晶化条件にかかわる溶媒の特性,過飽和度,温度などのさまざまな因子が,結晶の特性を決定する.したがって,晶析条件と析出する結晶のさまざまな特性の相関を明確にし^(1,2)),医薬品の品質を保証することが重要である^(3)).本章では,そのような医薬品の品質設計の観点から結晶化を概説する.」(57頁1行?58頁末行)

(3b)「4.2 結晶多形(polymorph)
4.2.1 結晶多形の検索
複数の結晶相が存在する結晶多形は,医薬品においてもしばしば認められる現象である.しかし,結晶構造と晶析条件との相関はいまだ解明されておらず,結晶多形の有無は試行錯誤を繰り返しつつ求めざるを得ないのが現状である.したがって,偶然に見いだされる場合も少なくないが,結晶多形の検索に重要な影響を与えると思われる各因子を適宜組み合わせ,比較的簡便な方法で検索しているいくつかの報告もある^(4,5)).
表4.1はその例の一つで,抗高血圧剤あるいは利尿剤として広く用いられているFurosemide(フロセミド)・・・での析出条件と,各結晶形の析出挙動をまとめたものである^(4)).医薬品における結晶多形の制御は溶媒の選択によってなされることが多いが,ここでも水を含めて18種類の溶媒が検討に用いられた.これら溶媒に対して,さまざまな冷却法や溶媒の蒸発法を組み合わせることにより温度や過飽和度の異なる条件を発生させた.

・・・
」(59頁1行?60頁下から8行)

(4)刊行物4
原査定の拒絶の理由に引用された本願の優先日前に頒布された刊行物である刊行物4には、以下の記載がある。
(4a)「5.多形の制御
(1)結晶多形
有機物結晶の多くは多形を生じることが知られており,多形を生じやすい分子構造についての統計的な整理結果が報告されている^(15))。一般に,多形間では結晶構造が異なるために融点や密度,融解熱,溶解度などの基本的な物性値が異なる。特に医薬品の場合には異なる多形間で生体内有効性が異なるので厳密な制御が不可欠である。
析出する多形の種類は溶媒の種類や温度,冷却速度などの析出条件によって異なる。」(98頁右欄7?16行)

(5)刊行物5
原査定の拒絶の理由に引用された本願の優先日前に頒布された刊行物である刊行物5には、以下の記載がある。
(5a)「3.2 再結晶
再結晶の目的達成には,その技術的操作法とともに適当な溶媒の使用が重要な要素となる.この適合した溶媒選びはもちろん少量の予備実験においてなされるわけであるが,なるべく早く最適の溶媒を見つけるにはいくつかのルール,または経験則がある.

3.2.1 溶媒の選び方
・・・
3.2.2 溶媒選択上の注意
・・・
3.2.3 再結晶溶媒の種類と特徴
再結晶溶媒として普通使用されるものを表3.3と表3.4にあげる.表3.3は最も一般的に使用される溶媒で,これらのもので成功しない場合に表3.4にあげられている少し特殊なものの使用が推奨される.なお表3.3の溶媒名においては,厳密な順序ではないが,上部から下部に向かって非極性溶媒→極性溶媒になるように配列されている.表3.5(p.51)は普遍的に用いられる混合溶媒である。
・・・

」(47頁右欄20行?51頁左欄上の表)

(6)刊行物6
原査定の拒絶の理由に引用された本願の優先日前に頒布された刊行物である刊行物6には、以下の記載がある。
(6a)「5.非晶質固体
・・・
医薬品製剤分野にこの非晶質固体の有用性が紹介されたのは比較的新しい。MullinsとMacekが抗菌剤ノボビオシンについて2つの形(結晶と非晶質固体)の性質を1960年に発表した。
・・・
このように非晶質固体の製剤研究が報告されたのは比較的新しいが,報告は大変少ない。結晶状態にくらべて非晶質体の位置エネルギーが高いので,調製法がむずかしかったり,たやすく安定形に転移してしまうためこの分野における研究が遅れているものと思われる。上記ノボビオシンの場合はNa塩水溶液を酸性として非晶質ノボビオシン(酸)を得ているが,たやすく,特に高温下では安定な結晶形に転移してしまうと述べられている。」(89頁右欄20行?90頁右欄16行)

(7)刊行物7
本願優先日前に頒布された刊行物である上記「刊行物7」には、以下の記載がある。
(7a)「1.2.3 化学構造と溶解性
・・・
ix.結晶多形では準安定形(低融点)のものの方が安定形(高融点)のものより溶けやすい(例.インドメタシン).^(*)
x.同種薬品で無晶性のものは結晶より溶けやすい(例.novobiocin)^(**).」(26頁10?27行)

(7b)「多形polymorphism:同一化合物が異なる結晶構造,結晶形をもつ現象を多形という.多形の結晶はX線回折像,融点,屈折率,溶解度などが異なる.多くの化合物は多形で,医薬品でも,アスピリン,インドメタシン,カカオ脂,グリセリド,脂肪酸,スルホンアミド類,セファロリジン,バルビタール類,chloramphenicol palmitate,ステロイドホルモン(プレドニゾロン,エストロンなど),リボフラビンなど多くのものについて結晶多形が報告されている.^(3))プロゲステロンには5種の結晶形が知られている.
結晶多形によって溶解度が異なる事実は製剤学的に重要で,多くの場合,結晶の溶解度(または溶解速度)は消化管吸収を律速するが,溶解度の大きい方が吸収が速い.多形のうち安定性の低い結晶(準安定形meta-stable form)の方が安定形stable formより融点が低く,溶解度も大きい.Ostwaldによれば,溶液から結晶が析出するさいには,準安定形の方がさきに結晶化する(逐次転移の法則law of successive transformation).結晶形の移行は,再結溶媒,結晶化の速さ(冷却温度)および保存の温度条件,粉砕などによって起きる.たとえばアスピリンを95%エタノールから再結したものと,n-ヘキサンから再結したものは結晶形が異なるが,後者の方がはるかに速やかに水に溶解する.」(111頁3?18行)

(7c)「c)結晶形crystal form
すでに述べたように,多くの薬物は結晶多形^(*) を示し,多形のうち準安定形の方が安定形より溶解度が大きい.
Chloramphenicol palmitateの結晶には少なくともA,B2種の多形があり,B型の方が易溶性である.懸濁液を経口投与するとき,B型のC_(max) はA型の7倍であることが報告されている.^(5)) また,インドメタシンには3種の結晶多形があるが,このうちα,γ両型が実用される.坐剤にした場合,α型の溶出性はγ型の約2倍とすぐれており・・・血中濃度もα型の坐剤の方が高い・・・.
・・・
結晶多形のうち,溶解度の大きい準安定形は安定形より熱力学的に不安定で,時間がたつにつれて前者は後者に転移する.したがって準安定形の薬物を用いて製剤をつくる場合は,そのバイオアベイラビリティが保存中に低下することに留意する必要がある.
薬物の無晶形のものは溶解時に結晶の格子エネルギーに打ち勝つ必要がないので,結晶性のものに比べて溶解しやすい.インスリン-亜鉛錯体には結晶性のものと無晶性のものがあるが,後者の方が吸収が速やかである・・・.」(256頁下から3行?257頁下から8行)

(8)刊行物8
本願優先日前に頒布された刊行物である上記「刊行物8」には、以下の記載がある。
(8a)「IV.メソモルフィック結晶(mesomorphic crystalline)^(〔訳註5〕) の取扱い□
ある種の物質は結晶となるときに複数の結晶状態をとりうることが知られている.その結晶状態に決定する要因には,結晶化溶媒の物性,結晶化するときの温度,不純物の有無などがある.このような性質を結晶多形または単に多形(polymorphism)という.可能な結晶状態のなかには準安定な結晶がある.準安定状態(metastable state)の結晶はより安定な状態に変化して異なる物理化学性質を示すことになる.この変化は2つのタイプに分けられる.可逆的転移である互変(enantiotropy)と不可逆的転移の単変(monotropy)である.前者は文字どおり多形のそれぞれの状態が相互変換可能な場合である.後者は,熱力学的に不安定な状態からより安定な状態へ変化する現象であり,一般的にはこの種の転移が多い.ある薬物が異なる結晶形を示すときに,それぞれの結晶形を識別する方法には,融点測定,溶解度測定,示差走査熱量測定,熱重量分析,赤外分光,X線回折,走査電子顕微鏡による形態観察などがある.
一般論として,準安定状態の物質には安定状態に比べてその溶解度および溶解速度が大きいという特徴がある.極端な場合,両状態の溶解速度の差が4倍以上にもなることがあるが^(21,22),通常よく観察されるのは溶解度が50?100%程度上昇する現象である^(23).一例としてここではリボフラビン(riboflavin)を挙げる.この薬物には3種の多形があり,その溶解度はそれぞれ60mg/L,810mg/L,1200mg/Lと大きな開きがみられる^(24).また,準安定状態の結晶を溶媒と接触できるようにしておくと,この結晶は最も安定な状態に徐々に変化し,これに伴って溶解度が低下することがある.たとえば,ノボビオシン(novobiocin)は酸性のアモルファス固体(無定形または非晶質固体)であるが,溶解度の非常に低い結晶に変化しやすい^(25).このためにノボビオシンを懸濁液として投与することは困難である.薬物を噴霧乾燥(spray drying)によって溶解度の高いアモルファス固体とすることがある.この場合,純粋な薬物を噴霧しても良いが,実際には均質な分散薬物を得るために添加剤を加えることが多い^(26).
ある結晶状態が他の状態に変化する現象すなわち転移は,工業的な製造プロセスにおいても起こりうる.たとえば,クロロキン二リン酸(chloroquine diphosphate)の一水和物の結晶を高温で保存しておくと無水物となることがある.この脱水反応は薬物を粉砕する際にも起こりやすい.さらにクロロキン二リン酸無水物を湿度の高い状態で保存していると他の水和物に転移することもある.また,薬物の原末を圧縮する際にも結晶形の変化が起こりうる^(27).クロラムフェニコール(chloramphenicol)のステアリン酸塩の場合は,A結晶(form A)をコロイドシリカ(colloidal silica)の存在下で粉砕するとB結晶(form B)に変化することが知られている^(28).以上の事例から明らかなことではあるが,固体の薬物を製造する場合は,プロセスを標準化するのと同時に,品質管理の一環として固体薬物の結晶状態に関するより精密な検査を行うことが特に重要であることをここで強調しておきたい.」(452頁下から12行?453頁20行)

(9)刊行物9
本願優先日前に頒布された刊行物である上記「刊行物9」には、次の記載がある。
(9a)「4.5 医薬品の結晶化例
4.5.1 一般的な結晶化条件
医薬品を開発するうえで,初期段階においては種々の条件下における結晶多形の検索を行い,製剤化検討の結果なども考慮して開発の基本形となる結晶形を選択する.その後,工業化に向けたスケールアップの検討を行い,工場での生産が安定に行えるように準備する必要がある.したがって,開発初期段階における結晶多形の有無などを含めた結晶状態の検討は,医薬品の開発を効率的に進めるうえで非常に重要である.・・・ここでは,医薬品を結晶化する一般的な条件を示し,さらに医薬品の結晶化の実例を記述する.
一般に使用される晶析溶媒としては,・・・アセトン・・・などである.
結晶化はおよそ以下のような方法を用いる.
(1)試料を水浴上で加温した溶媒に加え,飽和溶液を調製する.熱時ろ過し(「ろ過し」の「ろ」は、原文では、さんずいに戸),残留試料を除いた後,室温付近まで徐々に冷却する.
・・・
(3)試料を適当な溶媒に溶かした液に,試料が溶けにくい溶媒を滴下する.
(4)試料を適当な溶媒に溶かした液をエバポレータなどを用いて脱溶媒する.
・・・」(78頁14行?79頁9行)」

(10)刊行物10
本願優先日前に頒布された刊行物である上記「刊行物10」には、次の記載がある。
(10a)「(i)再結晶: 物質の精製法として蒸留法および再結晶法は基本操作である.・・・再結晶法は加熱下で溶質を溶媒に溶解して飽和溶液とし,次にこの溶液を冷却すると溶質の溶解度が下がり,飽和の溶質は沈殿(結晶)し,一方,不純物は飽和溶液に達せず,そのまま溶液に留まる.・・・不純物・・・は再結晶により除去できることになる.
(1)試料の純度 再結晶を行う試料の純度は,とくに有機化合物では最初に薄層クロマトグラフィーで確認しておく.その際,用いた展開剤の極性と薄層上のR_(f) 値との関係は再結晶の溶媒選択に有用で,不純物についてもそのR_(f)値からおおよその極性がわかる.精製する物質の純度は高い方が望ましく,純度が低すぎる場合には、一般には蒸留,カラムクロマトグラフィーによる精製や活性炭による脱色などの前処理を行い,夾雑物をある程度除去しておくのがよい.もちろん,精製が可能かどうかは再結晶の原理から溶解度曲線に関係するので,不純物が多い場合にも純粋な結晶が得られることも少なくない.
(2)溶媒と溶解 再結晶の溶媒の選択には一定の規則があるわけではないので,試行錯誤により選択するのが基本である.したがって,数mgの試料を用いてサンプル管で溶媒に対する溶解性や結晶性をあらかじめ調べてみるのがよい.既知化合物であれば,化合物辞典などでデータを参照する^(1)).手元にデータがない場合,古くから同族体は同族体をよく溶かすという経験則があり,これを基本にして選ぶとよい選択ができる.つまり精製しようとする化合物が,水素結合性であるのか非水素結合性か,極性基または疎水基の有無,イオン性であるかどうかなどである.一般には,水素結合性,極性を考慮すると,次の6種の溶媒の中から選択すれば十分であろう.
ヘキサン<ベンゼン(トルエン)<酢酸エチル<アセトン<エタノール<水(極性小から大の順)
この溶媒の中間の極性をもつものが欲しい場合には,2種の溶媒を混合するか,表1.4を参照されたい.その際,極性値(誘電率ε,溶解度パラメータδ,極性値E_(T),双極子能率d.p;いずれも数値が大きいと極性は大きい)や沸点,融点を選択の基準とすればよい.反応性溶媒や沸点が高い溶媒はできれば避けた方がよい.このような溶媒では試料の加熱中に脱離や置換が起きる可能性がある.
・・・」(24頁6行?25頁9行)

2 刊行物1に記載された発明について
刊行物1は、摘記(1a)によれば、肝臓線維疾患またはJNK経路の阻害によって治療可能もしくは予防可能な症状を治療または予防するジアミノカルボキサミド化合物に関する文献であり、摘記(1b)によれば、刊行物1記載の発明として、2-(tert-ブチルアミノ)-4-((1R,3R,4R)-3-ヒドロキシ-4-メチルシクロヘキシルアミノ)ピリミジン-5-カルボキサミドを、具体的製造方法を伴って合成し、生成物を濾過し、水で洗浄し、真空下で乾燥させた実施例が記載されている。

そうすると、刊行物1には、

「2-(tert-ブチルアミノ)-4-((1R,3R,4R)-3-ヒドロキシ-4-メチルシクロヘキシルアミノ)ピリミジン-5-カルボキサミドの真空乾燥物」
の発明(以下「引用発明」といい、その化合物を「引用発明化合物」という。)が記載されているということができる。

3 対比・判断
(1)対比
本願発明と引用発明とを対比する。
引用化合物である「2-(tert-ブチルアミノ)-4-((1R,3R,4R)-3-ヒドロキシ-4-メチルシクロヘキシルアミノ)ピリミジン-5-カルボキサミド」は、本願発明の「化合物1」と同じ化学構造の化合物であり、「化合物1又はその互変異性体」に該当し、生成物を濾過し、水で洗浄し、真空下で乾燥させた真空乾燥物であるから、固体として取得できるものである。
そうすると、本願発明と引用発明とは、
「化合物1又はその互変異性体の固体」
である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点:
本願発明においては、化合物1が
、「およそ9.80、10.30、14.62、17.29、18.23、20.66、21.74及び30.55°2θのピークを含むX線粉末回折パターンを有する、結晶形態B」と、特定の2θピークの組を含むX線粉末回折パターンによって特徴付けられる結晶形態と特定されているのに対し、引用発明においてそのように特定されていない点

(2)相違点についての判断

ア 化合物1を特定の2θピークの組を含むX線粉末回折パターンを有する結晶とすることについて検討

(ア)この出願の優先日当時、一般に、医薬化合物については、製造の最終工程で晶析により結晶性粉末を得ることが多いこと、結晶多形は医薬品においてもしばしば認められる現象であること、結晶多形が医薬品の生物学的有効性、溶解性、安定性、製剤化などに重要な影響を与えるので厳密な制御が不可欠であることが良く知られている(摘記(2a)、摘記(3a)、摘記(3b)、摘記(4a)、摘記(7b)、摘記(8a))。
また、安定性、純度、扱いやすさ等の観点において結晶性の物質が優れていることから、その物質を結晶化することについては強い動機付けがあり、医薬化合物が結晶で得られる条件を検討することは、当業者がごく普通に行うことであるものと認められる。結晶化の条件により得られる結晶が異なることがあることも、よく知られている(摘記(7a)?(7c)、摘記(8a))。
そうすると、化合物1についても、当業者が結晶が得られる条件を検討したり、得られた結晶について分析することには、十分な動機付けを認めることができる。

(イ)そして、本願発明の上記「およそ9.80、10.30、14.62、17.29、18.23、20.66、21.74及び30.55°2θのピークを含むX線粉末回折パターンを有する、結晶形態B」の結晶とは、本願明細書の【0332】?【0335】に「【0332】
(形態B)
特定の実施態様において、形態Bが本明細書に提供される。
【0333】
一実施態様において、形態Bは化合物1の固体形態である。別の実施態様において、形態Bは結晶性である。一実施態様において、形態Bは、化合物1の溶媒和された形態である。一実施態様において、形態Bは、化合物1のアセトン溶媒和された形態である。一実施態様において、形態Bは、化合物1のアセトン半溶媒和された形態である。
【0334】
特定の実施態様において、本明細書に提供される形態Bは、平衡実験、蒸発実験、及び貧溶媒再結晶化実験により得られる(表1、表2、及び表3参照)。特定の実施態様において、形態Bは、アセトン、MEK、DCM、THF、THF/H2O(約1:1)、及びヘプタンを貧溶媒とするIPAを含む特定の溶媒系から得られる。
【0335】
特定の実施態様において、本明細書に提供される固体形態、例えば、形態Bは、例えば、X線粉末回折測定値により示される通り、実質的に結晶性である。一実施態様において、形態Bは、実質的に図10に示されるX線粉末回折パターンを有する。一実施態様において、形態Bは、図10に示される通り、およそ9.80、10.30、12.23、14.62、16.70、17.29、18.23、18.59、19.61、20.19、20.66、20.94、21.74、23.03、23.84、24.32、24.58、25.88、26.27、26.86、27.52、28.35、28.62、29.63、30.55、30.87、31.44、32.12、33.71、33.95、34.96、35.94、36.14、36.56、37.22、又は38.76°に1つ以上の特性X線粉末回折ピークを有する具体的な実施態様において、形態Bは、およそ9.80、10.30、14.62、17.29、18.23、20.66、21.74、又は30.55°2θに1、2、3、4、5、6、7、又は8つの特性X線粉末回折ピークを有する。別の実施態様において、形態Bは、およそ9.80、17.29、18.23、又は21.74°2θに1、2、3、又は4つの特性X線粉末回折ピークを有する。別の実施態様において、形態Bは、表9に説明される通り、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、又は36個の特性X線粉末回折ピークを有する。」(下線は当審にて追加。以下同様。)と記載されていることからみて、本願明細書において、形態Bとして記載されている結晶であると認められる。
そして、本願明細書には、本願発明の化合物1の形態Bを製造するための方法については、【0489】、【0504】?【0507】に、
「【0489】
表5.化合物1結晶性形態の物理的特性化の概要
【表8】
・・・
形態 説明 代表的な条件・・・
・・・
B 溶媒和物 スラリー又はアセトン
(又はDCM、THF)から
の再結晶
・・・ 」
「【0504】
(形態B)
形態Bは、アセトン、CH_(2)Cl_(2)、若しくはTHF中の再結晶化又は形態Aのスラリー実験から得られた。形態Bは、図10に示される結晶性のXRPDパターンを有した。アセトンから得られた形態BのTGA及びDSCサーモグラムを、それぞれ図11及び図12に示す。8.5wt%のTGA重量減少は、147℃付近の小さいブロードなDSCピークに相当し、形態B中の溶媒の喪失に帰することができる。223℃のオンセット温度を有する大きなDSCピークは、形態Aの融解/分解に相当した。形態B試料の^(1)H-NMRスペクトルが得られ、およそ0.5モル当量のアセトンを示した(図13参照)。化合物1の半溶媒和物の理論的なアセトン含量は8.3wt%であり、観察されるTGA重量減少と合致する。これらの観察は、形態Bが、化合物1のアセトン半溶媒和物であることを示唆した。形態転移実験は、形態Bを、脱溶媒和温度より上に加熱すると形態Aが生じたことを示した。形態Bの水中のスラリーも形態Aをもたらした。
【0505】
形態BのX線回折ピークのリストを以下の表9に与える。
【0506】
表9.形態BのX線回折ピーク
【表12】
・・・
【0507】
図13は、形態Bの以下の^(1)H NMR(DMSO-d_(6))を与える。」
と記載されている。

また、化合物1の固体形態を製造する方法としては、本願明細書の【0312】?【0314】に
「【0312】
特定の実施態様において、化合物1の固体形態を製造する方法であって、1)形態Aを溶媒に溶解させて、溶液をもたらすこと;2)形態Aが完全に溶解しない場合、該溶液を濾過すること;及び3)該溶液を、特定の気圧下で(例えば、約1気圧)、特定の温度で(例えば、約25℃又は約50℃)で蒸発させて、固体をもたらすことを含む方法が本明細書に提供される。・・・特定の実施態様において、化合物1の固体形態を製造する方法は、蒸発実験である。
【0313】
特定の実施態様において、化合物1の固体形態を製造する方法であって、1)第一の温度の(例えば、約60℃)溶媒中の形態Aの飽和溶液を得ること;2)該溶液を、該第一の温度で、ある期間(例えば、10分)撹拌すること;3)該溶液を濾過すること;4)該溶液を、ゆっくりと、第二の温度に(例えば、約-5℃から約15℃)冷却すること;及び5)該溶液から固体を単離し、任意に乾燥させることを含む方法が本明細書に提供される。・・・特定の実施態様において、化合物1の固体形態を製造する方法は、冷却再結晶化実験である。
【0314】
特定の実施態様において、化合物1の固体形態を製造する方法であって、1)第一の温度の(例えば、約60℃)溶媒中の形態Aの飽和溶液を得ること;2)貧溶媒を、該第一の温度の該飽和溶液に加えること;3)第二の温度に(例えば、約-5℃から約15℃)に冷却すること;及び4)沈殿物がある場合、固体を回収し、沈殿物がない場合、溶媒を蒸発させて固体を回収すること;及び5)任意に乾燥させることを含む方法が本明細書に提供される。・・・特定の実施態様において、化合物1の固体形態を製造する方法は、貧溶媒再結晶化実験である。」
と種々の方法が記載されている。

ここで、表5の化合物1の結晶性形態の物理的特性化の概要をまとめた表において、形態Bは、代表的条件としてアセトンからの再結晶化と記載されており、【0504】でも、形態Bは、アセトンの再結晶化から得られたとされている。

また、上記の化合物1の形態B(結晶形態B)の製造方法は、刊行物5摘記(5a)に最も一般的に使用される再結晶溶媒の一つにアセトンが挙げられるように、ごく一般的な、溶媒からの再結晶による結晶化であって(摘記(5a)(9a)(10a))、再結晶化の方法も、上記のとおり、蒸発法、冷却法、貧溶媒法といった周知の方法として知られたもの(摘記(9a))が用いられている。

(ウ)したがって、本願発明の化合物1の結晶形態Bの結晶は、引用発明において、当業者が、通常行う再結晶の操作により得られるものであると認められる。
そして、相違点に係る、特定の2θピークの組を含むX線粉末回折パターンを有する結晶である点は、当業者が、結晶性が期待される医薬化合物の分析において通常用いるX線回折の結果を提示しただけのことに過ぎない。
以上によれば、引用発明において、化合物1の結晶を得ることを試み、その際に結晶化条件を検討したり、得られた結晶について分析することにより、相違点に係る本願発明の構成を備えたものとすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

(エ)審判請求人の主張の検討
審判請求人は、手続補足書(平成30年10月25日受付)を提出し、平成30年10月24日付け意見書2頁21行?3頁29行において、結晶形態やアモルファス形態の製造の発見の保証がされていない点や予測不可能な点について主張している。

しかしながら、上述のとおり、本願発明の医薬としての使用を想定した化合物1の固体から安定な結晶を得ようとする強い動機付けの下、ごく一般的な、溶媒であるアセトンを選択して、かつ周知の再結晶化手法を用いて、本願発明の結晶形態Bを作製することは、当業者が、通常行う再結晶の操作により得られるものであるといえる。
したがって、上記審判請求人の主張を採用することはできない。

イ 本願発明の効果についての検討
(ア)本願発明の効果は、本願明細書の【0002】に「2-(tert-ブチルアミノ)-4-((1R,3R,4R)-3-ヒドロキシ-4-メチルシクロヘキシルアミノ)-ピリミジン-5-カルボキサミドの固体形態を製造する方法、その組成物、疾患、障害、又は病態の治療のためのそれらの使用方法、並びにそのような方法に使用するための固体形態が本明細書に提供される。」と記載され、【0332】に「【0332】
(形態B)
特定の実施態様において、形態Bが本明細書に提供される。」と記載され、他の結晶形態とともに結晶形態Bが提供されることが記載されている。
結晶の安定性や溶解性が結晶毎に異なることや、結晶形態の方がアモルファス形態に比較して熱安定性が高いことは技術常識であり(摘記(2a)摘記(3a)摘記(4a)摘記(6a)、摘記(7a)?(7c)、摘記(8a)、摘記(9a))、化合物1の他の結晶形態と共に、本願発明の物理的特性や分析結果があるからといって、当業者の予測を超える顕著な効果を有しているとはいえない。
また、他の結晶形態に比較しても特に顕著な特性を有していることが示されていない、本願発明である結晶形態Bの効果は、その点でも顕著な効果を奏しているとはいえない。

(イ)審判請求人の主張の検討
審判請求人は、平成30年10月24日付け意見書3頁30?39行、審判請求書の5頁26行?6頁23行において、本願発明である結晶形態Bを含めて結晶形態A?Iの融点がアモルファス形態のガラス転移点よりも100℃以上高いこと等、高い熱安定性を有していることを平成31年4月4日付け手続補足書等に示した参考例(ビス(2-エチルヘキシル)フタレートの場合は、34℃高い程度であると主張)の場合と比較して、当業者の予測を超えた顕著な効果である旨主張している。
しかしながら、化合物毎、結晶形態毎に熱安定性が異なるのは当然であり、逆にいえば参考例の場合においても、結晶形態の方がアモルファス形態に比較して熱安定性が高いことに変わりがないともいえる。
そして、上述のとおり、結晶形態の方がアモルファス形態に比較して熱安定性が高いことは、当業者にとって技術常識となっていたことを考慮すると、本願発明のアモルファス形態に比較した熱安定性を顕著な効果を奏していると認めることはできない。
したがって、上記審判請求人の主張を採用することはできない。

4 まとめ
以上のとおり、本願発明は、刊行物1に記載された発明および刊行物2?10の本願優先日時点の技術常識に基いて、本願優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、本願の優先日前に日本国内において頒布された刊行物1に記載された発明および本願優先日時点の技術常識に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項について検討するまでもなく、本願は、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2020-01-16 
結審通知日 2020-01-21 
審決日 2020-02-03 
出願番号 特願2016-549045(P2016-549045)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C07D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 吉海 周  
特許庁審判長 村上 騎見高
特許庁審判官 櫛引 智子
瀬良 聡機
発明の名称 2-(tert-ブチルアミノ)-4-((1R,3R,4R)-3-ヒドロキシ-4-メチルシクロヘキシルアミノ)-ピリミジン-5-カルボキサミドの固体形態、その組成物、及びその使用方法  
代理人 石川 徹  

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