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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G06F
管理番号 1363531
審判番号 不服2019-6616  
総通号数 248 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-08-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-05-21 
確定日 2020-07-14 
事件の表示 特願2016-519861「タッチセンサ装置」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 4月 9日国際公開、WO2015/048828、平成28年10月27日国内公表、特表2016-533562、請求項の数(11)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続きの経緯
本願は、2014年(平成26年) 10月 1日(パリ条約による優先権主張2013年10月4日 (AT)オーストリア国)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。

平成29年 8月 9日 手続補正書の提出
平成30年 3月27日付け 拒絶理由通知
平成30年 8月31日 手続補正書、意見書の提出
平成31年 1月11日付け 拒絶査定
令和 元年 5月21日 手続補正書、審判請求書の提出
令和 元年 6月17日付け 前置審査報告書


第2 原査定の概要
原査定(平成31年1月11日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。
理由1 請求項1に係る発明は、本願の請求項1に係る発明は引用文献1に記載されているから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができない。
理由2 また、請求項1-12に係る発明は、引用文献1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
理由3 請求項2-12は、不明確であるから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず特許を受けることができない。
引用文献等一覧
1.国際公開第2012/134174号


第3 審判請求時の補正について
審判請求時の補正は、以下のとおり、特許法第17条の2第3項から第6項までの要件に違反しているものとはいえない。
審判請求時の補正によって、請求項1-11は、以下のとおりとなった。(下線部は、補正された箇所を示す。)
「【請求項1】光学的に透明で電気絶縁性の基板(1)、該基板上に配列された少なくとも1つの光学的に透明で導電性のセンサ要素(2x、2y)、及び前記光学的に透明なセンサ要素に電気的に接触させるための少なくとも1つの接触構造(4、4’)を有するタッチセンサ装置(10)であって、前記接触構造が組成Mo_(a)X_(b)O_(C) N_(d) (ここで、0<b≦0.25a、0.5≦c≦0.75、0.01≦d≦0.2、a+b+c+d=1、且つ、c+d≦0.8であり、Xは、ニオブ及びタンタルからなる元素群から選ばれる1種又は2種の元素である。)を有する金属オキシニトリドからなる少なくとも1つの層を有することを特徴とするタッチセンサ装置。
【請求項2】前記組成Mo_(a)X_(b)O_(C) N_(d) を有する金属オキシニトリドからなる層が20%未満の反射率を有することを特徴とする請求項1に記載のタッチセンサ装置。
【請求項3】前記組成Mo_(a)X_(b)O_(C) N_(d) を有する金属オキシニトリドが窒素原子の3倍以上、9倍以下の酸素原子を有することを特徴とする請求項1又は2に記載のタッチセンサ装置。
【請求項4】前記接触構造が複数層状に構成されており、更に、Al、Mo、Cu、Ag若しくはAu又はこれらの金属の1つに基づく合金からなる金属層を有することを特徴とする請求項1?3のいずれか1項に記載のタッチセンサ装置。
【請求項5】センサ電極として形成された前記センサ要素が格子状に配列されており、複数の第一のセンサ要素が第一の方向において異なる位置に配列されており、複数の第二のセンサ要素が第二の方向において異なる位置に配列されており、前記センサ電極が、それぞれ、交点において少なくとも1つの電気絶縁層により互いに分離されており、前記複数の第一のセンサ電極が前記交点において金属オキシニトリドを有する前記接触構造(4)により接触
していることを特徴とする請求項1?4のいずれか1項に記載のタッチセンサ装置。
【請求項6】前記接触構造(4’)が前記センサ要素を活性化エレクトロニクス又は解析エレクトロニクスに電気的に接続するための接触端子として形成されていることを特徴とする請求項1?4のいずれか1項に記載のタッチセンサ装置。
【請求項7】投影型容量式タッチセンサとして形成されていることを特徴とする請求項1?6のいずれか1項に記載のタッチセンサ装置。
【請求項8】請求項1?7のいずれか1項に記載のタッチセンサ装置を有するタッチセンサディスプレイユニット(タッチパネル)であって、該タッチセンサ装置がディスプレイユニットの上流に搭載され(アウトセル)又はディスプレイユニット中に組み込まれている(オンセル、インセル)タッチセンサディスプレイユニット。
【請求項9】前記接触構造が少なくとも1つの金属層及び少なくとも1つの前記組成Mo_(a)X_(b)O_(C) N_(d)を有する金属オキシニトリドからなる層を有し、層の順序において、前記組成Mo_(a)X_(b)O_(C) N_(d)を有する金属オキシニトリドからなる層が、前記金属層からの間隔よりも更に大きい間隔をおいて前記ディスプレイユニットから離れて配置されている請求項8に記載のタッチセンサディスプレイユニット。
【請求項10】請求項1?7のいずれかに記載のタッチセンサ装置の接触構造を製造するためのスパッタリングターゲットMo_(1- z) X_(z) (ここで、Xは、ニオブ及びタンタルからなる元素群から選ばれる1種又は2種の元素であり、0<z≦0.2である。)。
【請求項11】請求項1?7のいずれかに記載のタッチセンサ装置を製造するための方法であって、前記組成Mo_(a)X_(b)O_(C) N_(d)を有する金属オキシニトリドからなる層が、酸素及び窒素の供給下に、スパッタリングターゲットMo_(1- z) X_(z) (ここで、Xは、ニオブ及びタンタルからなる元素群から選ばれる1種又は2種の元素であり、0<z≦0.2である。)を用いて、気相蒸着法により製造される方法。」

上記請求項における下線部は、補正前の請求項4(明細書【0018】)に記載されたものであるから、新規事項を追加するものではない。
また、審判請求時の補正によって、補正前の請求項4を新たな請求項1とした補正は、請求項の削除を目的としたものである。
また、請求項2?3において、「金属オキシニトリドMo_(a)X_(b)O_(C) N_(d) 」という記載を、「組成Mo_(a)X_(b)O_(C) N_(d)を有する金属オキシニトリド」とした補正は、明りょうでない記載の釈明を目的としたものであると認められる。


第4 本願発明
本願請求項1?11にかかる発明(以下、「本願発明1?11」という)は、令和元年5月21日の手続補正で補正された上記「第3 1(2)」のとおりの発明である。


第5 引用文献、引用発明等

1. 引用文献1について

原査定の拒絶理由に引用された引用文献1である、国際公開第2012/134174号(2012年(平成24年)3月28日公開)には、図面とともに、次の記載がある。
なお、合議体仮訳には、原則として、引用文献1の公表公報である特表2014-514648号公報を用いた(【】は公表公報における段落番号。下線は,当審が付加した。以下、同様。)。

(第1頁第8?10行目)

(当審仮訳:
【技術分野】
【0002】
本発明は、伝導性構造体、タッチパネルおよびその製造方法に関する。具体的には、本発明は、伝導性パターンを含む伝導性構造体、タッチパネルおよびその製造方法に関する。」)

(第1頁第24行?第2頁第行4行目)

(当審仮訳:
【0005】
本発明は、
a)基材;
b)前記基材の少なくとも一面に備えられた伝導性パターン;および
c)前記伝導性パターンの上部面および下部面に備えられ、前記伝導性パターンの側面の少なくとも一部に備えられ、前記伝導性パターンに対応する領域に備えられた暗色化層 を含む伝導性構造体を提供する。
【0006】
また、本発明は、前記伝導性構造体を含むタッチパネルを提供する。)

(第2頁第16?22行目)

(当審仮訳:
【発明の効果】
【0008】
本発明では、有効画面部に備えられた伝導性パターンを含むタッチパネルにおいて、伝導性パターンの可視面に暗色化層を導入することにより、伝導性パターンの伝導度に影響を及ぼすことなく伝導性パターンによる反射を防止し、可視面の側面暗色化層をさらに導入することによって暗色化度を向上させ、伝導性パターンの隠蔽性を向上させることができる。また、前記のような暗色化層の導入によってタッチパネルのコントラスト特性をさらに向上させることができる。)

(第9頁第3?5行目)

(当審仮訳:
【0036】基材としては透明基板を用いることができるが、特に限定されず、例えば、ガラス、プラスチック基板、プラスチックフィルムなどを用いることができる。)

(第11頁第5?14行目)


(当審仮訳:
【0045】
前記暗色化層の材料としては、吸光性材料であって、好ましくは、全面層を形成した時、前述した物理的特性を有する金属、金属酸化物、金属窒化物または金属酸窒化物からなる材料であれば、特に制限されることなく用いることができる。
【0046】
例えば、前記暗色化層は、Ni、Mo、Ti、Crなどを用いて当業者が設定した蒸着条件などにより、酸化物膜、窒化物膜、酸化物-窒化物膜、炭化物膜、金属膜またはこれらの組み合わせであってもよい。本発明者らは、Moを用いる場合において、酸化物単独の場合に比べて窒化物を同時に用いる場合が、本発明で言及した暗色化層により好適な光学的特性を有することを確認した。
【0047】
具体的な例として、前記暗色化層は、NiおよびMoを同時に含むことができる。前記暗色化層は、Ni50?98原子%およびMo2?50原子%を含むことができ、その他の金属、例えば、Fe、Ta、Tiなどの原子0.01?10原子%をさらに含むことができる。ここで、前記暗色化層は、必要な場合、窒素0.01?30原子%または酸素および炭素4原子%以下をさらに含むこともできる。)

(第15頁第4?9行目)

(当審仮訳:
【0066】
本発明の一実施状態において、前記伝導性パターンは規則的パターンであり、伝導性パターンを構成する線のうち任意の複数の線が交差して形成される交差点を含み、この時、このような交差点の数は3.5cm×3.5cmの面積で3,000?122,500個であってもよく、13,611?30,625個であってもよく、19,600?30,625個であってもよい。また、本発明の一実施状態によれば、ディスプレイに取り付ける時、4,000?123,000個である場合が、ディスプレイの光学特性を大きく阻害しない光特性を示すことを確認した。)

(第17頁第6?15行目)

(当審仮訳:
【0076】
本発明の一実施状態によるタッチパネルは、下部基材;上部基材;および前記下部基材の上部基材に接する面および前記上部基材の下部基材に接する面のうちいずれか一面または両面に備えられた電極層を含むことができる。前記電極層は、各々、X軸位置検出およびY軸位置検出のための信号の送信および受信の機能を遂行することができる。
【0077】
この時、前記下部基材および前記下部基材の上部基材に接する面に備えられた電極層;および前記上部基材および前記上部基材の下部基材に接する面に備えられた電極層のうち1つまたは2つの全てが前述した本発明の一実施状態による伝導性構造体であってもよい。前記電極層のうちいずれか1つだけが本発明による伝導性構造体である場合、残りの他の1つは当技術分野で知られているパターンを有してもよい。)

したがって、上記引用文献1には次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「a)基材;b)前記基材の少なくとも一面に備えられた伝導性パターン;およびc)前記伝導性パターンの上部面および下部面に備えられ、前記伝導性パターンの側面の少なくとも一部に備えられ、前記伝導性パターンに対応する領域に備えられた暗色化層を含む伝導性構造体を含むタッチパネルにおいて、
前記基材としてガラス又はプラスチックの透明基板を用いることができ、
前記伝導性パターンの可視面に暗色化層を導入することにより、伝導性パターンの伝導度に影響を及ぼすことなく伝導性パターンによる反射を防止し、伝導性パターンの隠蔽性を向上させるものであって、
暗色化層の材料としては、吸光性材料であって、好ましくは、全面層を形成した時前述した物理的特性を有する金属、金属酸化物、金属窒化物または金属酸窒化物からなる材料であれば、特に制限されることなく用いることができ、
前記暗色化層は、NiおよびMoを同時に含むことができ、Ni50?98原子%およびMo2?50原子%を含むことができ、その他の金属、例えば、Taなどの原子0.01?10原子%をさらに含むことができ、また、必要な場合、窒素0.01?30原子%または酸素および炭素4原子%以下をさらに含むこともでき、
伝導性パターンの材料は金属であることが好ましく、伝導度に優れ、
前記伝導性パターンは規則的パターンであり、伝導性パターンを構成する線のうち任意の複数の線が交差し、
前記タッチパネルは電極層を含み、前記電極層は、各々、X軸位置検出およびY軸位置検出のための信号の送信および受信の機能を遂行し、
上記電極層のうち1つまたは2つの全てが上記伝導性構造体であっても良い、
タッチパネル。」

2. その他の文献について

(1)国際予備審査報告で引用された文献である、特開平11-119676号公報(以下、「引用文献2」という。)(例えば【請求項25】など)には、図面とともに次の事項が記載されている。

「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、液晶カラーディスプレイ装置や電極材料、フォトマスクに用いられるブランクス又はブラックマトリクスに関する。
【0002】
【従来の技術】ここで、ブランクスとは、透明基板の表面上に、一様に形成した薄膜層からなる遮光用の層を言い、ブランクスの所定の部分にエッチング処理等を施し薄膜層を除去した開口部分と、該開口部分に相補的に残る遮光層を形成してパターン状としたものをブラックマ
トリクスと言う。従って、ブランクスとブラックマトリクスは、パターンの有無が相違するだけで、その材料、機能は同一であるから、以下に於いて特別に両者を区別しない限り同等物として扱う。
【0003】液晶ディスプレイ装置のディスプレイ部は、画素開口部のコントラスト及び表示品質を向上させるため、ガラス基板上に規則的な格子状等に形成された高い遮光性を有するブラックマトリクスが設けられている。ブラックマトリクスのパターンの間には、ブルー、グリーン、レッドの各着色パターンから構成されるフィルタ色パターンが設けられ、ブラックマトリクスとフィルター色パターンの上部には、透明導電膜、保護膜又は平坦化膜を積層してカラーフィルタに構成される。 ブラックマトリクスは、0.3μm以下の膜厚が要求され、同時に可視光域での光学濃度(O.D)が3.5以上という高い遮光性、及び優れた耐食性が要求されている。このため従来は、ブランクス又はブラックマトリクスには、優れた耐食性と高い遮光性を有するCr金属またはCrの酸化物、窒化物等のCr化合物からなる薄膜が用いられており、近年では、Crの金属やその化合物の優れた光学特性を利用した2層膜構成等からなり、優れた低反射性をも兼備したものが用いられている。
【0004】一方、生産性の観点から樹脂製ブラックマトリクスが提案され、その開発が進められている。これの場合、顔料を分散させた樹脂溶液を基板に塗布し、光リソグラフによりパターンを作製している。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】Crの金属やその化合物からなるブラックマトリクスは、パターン形成工程等のエッチング工程において、Crを含有する廃棄物が生ずる。6価のCrは有害であり、環境に影響を及ぼすため、廃棄物の取扱い、保管に厳重な注意が必要となるだけでなく、廃棄物の処理に多大な費用が生じる問題がある。
【0006】一方、Cr以外の金属等からなる薄膜では、高い遮光性、低反射性が得られないこと、或いは、ブラックマトリクスに要求される耐酸性、耐アルカリ性等の耐食性が満足されていないこと、或いは、従来用いているCr用ウエットエッチング液(例えば、硝酸第2セリウムアンモニウム165gと70%過塩素酸42mlを純水に混合し、1000mlに調製した溶液等)によるエッチング速度が非常に遅いこと、などの理由によりパターン作製が困難で、ブラックマトリクスとして実用できない問題があり、更に耐水性も乏しいという問題がある。
【0007】また、樹脂製ブラックマトリクスは、顔料濃度を高くすることが困難で、光学濃度3.5を得るために膜厚1μm以上が必要となり、カラーフィルタに段差が生じて平坦性を阻害し、ディスプレイの解像度を低下させる等の欠点があった。
【0008】本発明は、前記の欠点や問題を解決するもので、Crを含有せず、環境への影響が小さく、優れた耐食性を有すると共に従来のCr用ウエットエッチング液によるパターン形成が簡易で生産性に優れ、高い遮光性と優れた低反射性を有するブラックマトリクスを提供することを目的とするものである。」

「【0009】
【課題を解決するための手段】本発明では、上記の目的を達成するため、透明基板の表面上に直接若しくは間接に付着させて形成した遮光膜又は遮光膜と反射防止膜からなるブランクス又はブラックマトリクスに於いて、該遮光膜又は反射防止膜の金属成分をMoとNiとAlを主成分とする薄膜とし、或いはその金属成分をMoとNiとTiを主成分とする薄膜とした。
【0010】ブラックマトリクスの耐食性、特に、耐酸性、耐アルカリ性、耐水性のいずれにも優れた特性を持たせるため、遮光膜を金属の原子%で、Niが40?85%、Moが5?30%、Alが10?30%の範囲内で含有した遮光膜又は反射防止膜とし、或いは、Niが48?83%、Moが10?37%、Tiが7?15%の範囲内で含有した遮光膜又は反射防止膜とするのが望ましく、さらに、遮光膜又は反射防止膜の金属の不純物成分の比率%は0.01%未満とし、その全金属成分に対するNiとMoとAlの総和、或いはNiとMoとTiの総和は、原子%で99.9%以上とするのが望ましい」

「【0019】光学特性の見地から、2層膜構成での反射防止膜の元素構成は、
(金属成分)_(m)-O_(x)-N_(y)
と表すと、原子%で、
30≦m≦40 %
40≦x≦50 %
10≦y≦20 %
の範囲が望ましく、550nmの光学定数n、kが
2.4≦n≦2.7
0.5≦k≦0.8
の範囲の所定値を有する薄膜を設計することが望ましい。」

したがって、上記引用文献2には次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。

「ディスプレイ装置に用いられるブラックマトリクスであって、
Crを含有せず、環境への影響が小さく、高い遮光性と優れた低反射性を有するブラックマトリクスにおいて、
透明基板の表面上に付着させて形成した遮光膜と反射防止膜からなるブラックマトリクスに於いて、該遮光膜又は反射防止膜その金属成分をMoとNiとTiを主成分とする薄膜とし、
前記反射防止膜の元素構成は、
(金属成分)m-O_(x)-N_(y)
と表すと、原子%で、
30≦m≦40 %
40≦x≦50 %
10≦y≦20 %
の範囲が望ましい、ブラックマトリクス。」

(2)前置審査報告で引用された文献である、特開2011-165191号公報(以下、「引用文献3」という。)は、図面とともに次の事項が記載されている。
「【0039】
上述のタッチセンサ装置を製作するための製造プロセスにおいて、接触構造体2及び接触端子6が、陰極スパッタリング(スパッタ成膜)により、基板1上に成膜される。この成膜においては、Mo_(x)Ta_(y)(ここで、0.02≦y≦0.15である。)から成るターゲット領域を有するスパッタリングターゲットが用いられる。Mo_(x)Ta_(y)をスパッタリングターゲットとすることにより、この構造体を製作するための被覆法として、低コストな陰極スパッタリングを用いることができる。成膜条件を適正に選択することにより、特にガラス基板の場合に、基板上の接触構造体2及び接触端子6の優良な付着性を達成することができる。」

よって、次の発明(以下、「引用発明3」という)が記載されているといえる。
「Mo_(x) Ta_(y) (ここで、0.02≦y≦0.15である)から成るスパッタリングターゲット。」

(3)前置審査報告で引用された文献である、特表2013-535571号公報(以下、「引用文献4」という。)(例えば、請求項25)には、次の発明(以下、「引用発明4」という)が記載されているといえる。
「Mo_(x)Nb_(1-x) の合金からなる合金層を含み、xは合金相におけるモリブデン原子の原子分率であり、xは約0.5以上かつ1未満であるスパッタ標的」


第6 対比・判断

1.本願発明1について(1)対比

本願発明1と引用発明1とを対比すると、次のことが認められる。

引用発明1における「基材」は、透明な基板であり、その材料として、電気絶縁性を有する「ガラス」や「プラスチック」などを用いることができるから、本願発明1の「光学的に透明で電気絶縁性の基板(1)」に等しい。

引用発明1において、電極層は、X軸位置検出・Y軸位置検出を行うものであるから、「センサ」といえるものであり、また、「伝導性パターン」は、基材の一面に備えられ、「パターン」とは、通常、配列されたものを含むことは明らかであるから、本願発明1の「該基板上に配列された少なくとも1つの光学的に透明で導電性のセンサ要素(2x、2y)」と共通する。

引用発明1における「暗色化層」は、金属酸窒化物、つまり、金属、酸素(O)、及び窒素(N)の化合物からなる材料であり、その金属は、Mo、Niなどを含み、また、Ta、Tiなどから選ばれる元素であることから、Mo、X(Ta)、O、Nからなる層を有する点で、本願発明1の「接触構造」と共通する。

引用発明1における上記窒素の割合は0.01?30原子%であり、これは割合にすると0.0001?0.3の範囲であるが、0.01?0.2の範囲で、本願発明1の条件「0.01≦d≦0.2」と共通する。

引用発明1において、酸素が4原子%以下(0.04以下)であり、窒素が0.01?30原子%(0.0001?0.3)であることを考慮すると、窒素と酸素の総和は0.0001?0.34となるから、これは、本願発明1の条件「c+d≦0.8」に含まれる。

引用発明1における「伝導性構造体」は、上記の、基材、伝導性パターン及び暗色化層を有するから、本願発明1の「タッチセンサ装置(10)」と共通する。

したがって、本願発明1と引用発明1には、次の一致点、相違点があるといえる。

(一致点)
光学的に透明で電気絶縁性の基板、該基板上に配列された導電性のセンサ要素、前記センサ要素に電気的に接触させるための少なくとも1つの接触構造を有するタッチセンサ装置であって、前記接触構造が、Mo_(a)、X_(b)、O_(C) 、N_(d) (ここで、0<b≦0.25a、0.01≦d≦0.2、且つ、c+d≦0.8の条件を満たし、Xは、タンタルなどからなる元素群から選ばれる元素である。)を含む組成を有する金属オキシニトリドからなる少なくとも1つの層を有することを特徴とするタッチセンサ装置。

(相違点)
(相違点1)
引用発明1は、接触構造において、Niを同時に含む場合のみについて、Mo_(a)、X_(b)、O_(C) 、N_(d)の組成割合a、b、c、dの条件が示されているが、本願発明1における組成Mo_(a)、X_(b)、O_(C) 、N_(d)では、Niについて全く考慮されておらず、Niを含む組成割合についても示唆がされていない点。

(相違点2)
接触構造における酸素の割合について、引用発明では、4原子%以下(b≦0.04)であるのに対し、本願発明1では、0.5≦b≦0.75である点。

(相違点3)
本願発明1のセンサ要素は、光学的に透明であるが、引用発明1の伝導性パターンが透明であるとはされていない点。

(2)相違点についての判断
上記相違点1について検討すると、引用発明1のように、接触構造において、Mo及びXだけでなくNiを同時に含む場合、Niを含まない場合に比較して、電気伝導性の点においても、安定性の点においても、その物性が大きく異なる。また、引用発明1において、安価で比較的安定性の高いNiを排除する動機付けがあるともいえない。
また、相違点2について検討すると、引用発明2は、ディスプレイ装置の技術分野において、カラーディスプレイ等に用いられるブラックマトリクスにおいて、有害なCrを使用しないための反射防止膜として、(金属成分)_(m)-O_(x)-N_(y)のO(酸素)の割合を0.4≦x≦0.5(40≦x≦50%)とするものであり、本願発明1における酸素の割合0.5≦b≦0.75と比較すると、数値としては、b=0.5の一点で一致するといえる。しかしながら、引用発明1は、タッチパネル装置の技術分野において、伝導性パターンの伝導度を損ねることなく、伝導性パターンの隠蔽性を向上させるためのものであり、技術分野も発明の課題及び効果が大きく異なる引用発明2と組み合わせる動機付けがあるとはいえない。
したがって、上記相違点3について判断するまでもなく、本願発明1は、引用発明および引用発明2に基づいて当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。

2.本願発明2ないし本願発明9について
本願発明2ないし本願発明9も、本願発明の「組成Mo_(a)X_(b)O_(C) N_(d)(0<b≦0.25a、0.5≦c≦0.75、0.01≦d≦0.2、a+b+c+d=1、且つ、c+d≦0.8)」と同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明1および引用発明2に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

3.本願発明10について

引用発明3は、第5 2(2)で示したとおりのものであり、(第3 で示した、)本願発明10と対比すると、相違点は下記のとおりである。
「スパッタリングターゲットが、光学的に透明で電気絶縁性の基板(1)、該基板上に配列された少なくとも1つの光学的に透明で導電性のセンサ要素(2x、2y)、及び前記光学的に透明なセンサ要素に電気的に接触させるための少なくとも1つの接触構造(4、4’)を有するタッチセンサ装置(10)であって、前記接触構造が組成Mo_(a)X_(b)O_(C) N_(d) (ここで、0<b≦0.25a、0.5≦c≦0.75、0.01≦d≦0.2、a+b+c+d=1、且つ、c+d≦0.8であり、Xは、ニオブ及びタンタルからなる元素群から選ばれる1種又は2種の元素である。)を有する金属オキシニトリドからなる少なくとも1つの層を有することを特徴とするタッチセンサ装置を製造するためのものであること」
しかしながら、引用発明3は、上記相違点の構成について全て記載されているとはいえず、当業者であっても、引用発明3に基づいて、容易に発明できたものであるともいえない。

また、引用発明4は、第5 2(3)で示したとおりのものであり、(第3 で示した、)本願発明10と対比すると、相違点は下記のとおりである。
「スパッタリングターゲットが、光学的に透明で電気絶縁性の基板(1)、該基板上に配列された少なくとも1つの光学的に透明で導電性のセンサ要素(2x、2y)、及び前記光学的に透明なセンサ要素に電気的に接触させるための少なくとも1つの接触構造(4、4’)を有するタッチセンサ装置(10)であって、前記接触構造が組成Mo_(a)X_(b)O_(C) N_(d)(ここで、0<b≦0.25a、0.5≦c≦0.75、0.01≦d≦0.2、a+b+c+d=1、且つ、c+d≦0.8であり、Xは、ニオブ及びタンタルからなる元素群から選ばれる1種又は2種の元素である。)を有する金属オキシニトリドからなる少なくとも1つの層を有することを特徴とするタッチセンサ装置を製造するためのものであること」
しかしながら、引用発明4は、上記相違点の構成について全て記載されているとはいえず、当業者であっても、引用発明4に基づいて、容易に発明できたものであったともはいえない。

4.本願発明11について
本願発明11は、組成Mo_(a)X_(b)O_(C) N_(d)を有する金属オキシニトリドからなる層が、酸素及び窒素の供給下に、請求項10のスパッタリングターゲットを用いて、気相蒸着法により製造される方法である。
よって、請求項11は、請求項10と同様に、引用発明3または引用文献4に記載されているとはいえず、また、引用発明3または引用文献4に基づいて、容易に発明できたものであったともはいえない。


第7 原査定について
・理由1(第29条第1項第3号)、理由2(第29条第2項)について
審判請求時の補正により、本願発明1-11は、「組成Mo_(a)X_(b)O_(C) N_(d)(0<b≦0.25a、0.5≦c≦0.75、0.01≦d≦0.2、a+b+c+d=1、且つ、c+d≦0.8)」という事項を備えるものとなっており、拒絶査定において引用された引用文献1に記載されているものであるとはいえず、また、引用文献1に基づいて、当業者であっても、容易に発明できたものとはいえない。したがって、原査定の理由1,2を維持することはできない。
・理由3(第36条第2項)について
審判請求時の補正により、本願発明1は、「金属オキシニトリドMo_(a)X_(b)O_(C) N_(d) 」という記載を「組成Mo_(a)X_(b)O_(C) N_(d) を有する金属オキシニトリド」と変更されており、原査定の理由3を維持することはできない。


第8 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。

 
審決日 2020-06-23 
出願番号 特願2016-519861(P2016-519861)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G06F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 ▲高▼橋 徳浩  
特許庁審判長 ▲吉▼田 耕一
特許庁審判官 林 毅
永野 志保
発明の名称 タッチセンサ装置  
代理人 山本 浩  
代理人 山口 巖  
代理人 竹本 美奈  

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