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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 F16G
管理番号 1363616
審判番号 不服2019-13858  
総通号数 248 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-08-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-10-17 
確定日 2020-07-14 
事件の表示 特願2017- 96586「伝動ベルト」拒絶査定不服審判事件〔平成29年11月30日出願公開、特開2017-211084、請求項の数(7)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は平成29年5月15日(優先権主張:平成28年5月23日)の出願であって、平成31年4月12日付けで拒絶の理由が通知され、令和1年5月31日に手続補正がされ、同年6月20日付けで拒絶の理由が通知され、同年7月26日に手続補正がされたが、同年8月5日付け(発送日:同年8月13日)で拒絶査定(以下、「原査定」という。)され、これに対し、同年10月17日に、拒絶査定不服審判の請求がされたものである。

第2 原査定の概要
原査定(令和1年8月5日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

本願請求項1-6に係る発明は、以下の引用文献1、2に基いて、また、本願請求項7に係る発明は、以下の引用文献1-3に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1:特開2013-108564号公報
引用文献2:国際公開第2007/110974号
引用文献3:特開平8-4840号公報

第3 本願発明
本願請求項1-7に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明7」という。)は、令和1年 7月26日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-7に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1は以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
ベルト長手方向に沿って所定間隔で配置された複数の歯部と、芯体が埋設された背部とを含むベルト本体と、前記複数の歯部の表面を被覆するカバー布とを有する歯付ベルトであって、前記ベルト本体が、エチレン-α-オレフィンエラストマーを含むゴム成分と、シリカ及びカーボンブラックを含むフィラーと、硫黄系加硫剤を含む加硫剤と、アミノ樹脂を含み、かつレゾルシノール樹脂を実質的に含まない硬化性樹脂とを含むゴム組成物の加硫物で形成され、前記カーボンブラックの割合が、前記ゴム成分100質量部に対して10?100質量部であり、かつ前記アミノ樹脂の割合が、前記シリカ100質量部に対して10?50質量部である歯付ベルト。」

なお、本願発明2-7は、本願発明1を減縮した発明である。

第4 引用文献、引用発明等
1 引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている。(下線は当審で付した。以下同様。)
(1)「【0015】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
図1は、本発明の一実施形態における歯付きベルトを示す。歯付きベルト10は、無端状に形成されて、例えば内燃機関等において、従動及び原動プーリ(不図示)に掛け回されて使用されるものである。歯付きベルト10は、原動プーリのトルク(駆動力)を、噛み合い伝動により従動プーリに伝動させるタイミングベルトである。
【0016】
歯付きベルト10は、一方の面側に設けられた歯ゴム11と、他方の面側に設けられた背ゴム12により一体的に形成されたベルト本体13と、歯ゴム11と背ゴム12との境界部分において、スパイラル状に巻かれ、ベルトの長手方向に沿って延在して埋設される心線14とを備える。心線14は、歯ゴム11及び背ゴム12に接着される。
【0017】
歯ゴム11は、ベルト本体13の一方の面側に、ベルトの長手方向に沿って歯部15と歯底部16を交互に形成するものである。歯ゴム11の表面(すなわち、ベルト本体13の一方の面)には、歯ゴム11(歯部15及び歯底部16)を被覆する歯布(帆布)20が接着される。」

(2)「【0024】
歯ゴム11を成形するためのゴム組成物は、さらに内添型接着剤として、レゾルシノールと、メラミン化合物を含有する。本実施形態では、これら化合物が含まれることにより、例えば加硫成型時の加熱により、メラミン化合物やレゾルシノールが重合されて網目構造が構築されて、歯ゴム11自体の引裂強度等が高められるとともに、心線14、歯布20及び短繊維25に対する歯ゴム11の接着強度も高められる。
【0025】
上記メラミン化合物としては、例えば、アミノ基の少なくとも一部がメトキシメチル化されたメラミン化合物であって、具体的には、ヘキサメトキシメチロールメラミン、その部分縮合物であるオリゴマー、又はその混合物である、ヘキサメトキシメチロールメラミン化合物が使用される。このようなメラミン化合物は、その25℃における粘度(DIN19268による)が3000?8000mPa・s程度となるものが好ましい。
【0026】
レゾルシノールは、ゴム組成物のマトリックス100重量部に対して、0.3?8重量部、好ましくは0.5?4.5重量部、より好ましくは1.5?3.0重量部配合される。また、メラミン化合物は、レゾルシノールよりも配合部数(重量)が少ないことが好ましく、ゴム組成物のマトリックス100重量部に対して、0.2?5重量部、好ましくは0.3?2.7重量部、より好ましくは0.9?1.8重量部配合される。メラミン化合物やレゾルシノールの配合量が、上記範囲よりも多くなると、引裂強度や破断強度等が良好になりにくくなる一方で、上記範囲より少ないと接着強度が向上しにくくなる。
【0027】
歯ゴム11を成形するためのゴム組成物は、シリカを含むことが好ましい。シリカとしては、微粒子又は粉末状等のものが使用される。本実施形態では、シリカに含まれる水分によって、メラミン化合物からホルムアルデヒドが供与され、そのホルムアルデヒドによりレゾルシノールが重合されるとともに、メラミン化合物も重合され、上記したように接着力や引裂強度等が良好となる。シリカは、ゴム組成物のマトリックス100重量部に対して、5?50重量部、好ましくは20?40重量部である。
【0028】
歯ゴム11を成形するためのゴム組成物は、添加物として、さらに、加硫剤、可塑剤、滑剤、カーボンブラック等の公知のゴム添加剤を含む。本実施形態では、加硫剤としては、有機過酸化物系の加硫剤が使用されることが好ましい。」

(3)引用文献1の段落【0047】の【表1】には、実施例12または13として、マトリックスのEPDM100重量部及びZDMA14重量部、合わせて114重量部に対して、添加剤としてシリカ40重量部及びカーボンブラック5重量部、有機過酸化物系の加硫剤6重量部、内添型接着剤としてヘキサメトキシメチロールメラミン化合物1.7または3.4重量部及びレゾルシノール2.8または5.7重量部を含むゴム組成物が記載されている。

(4)【図1】からは、歯底部16より背ゴム12側の部分に、心線14が埋設された構造が見て取れる。

上記記載事項及び図示内容を総合し、本願の請求項1の記載ぶりに則って整理すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

[引用発明]
「ベルトの長手方向に沿って歯底部16と交互に形成された複数の歯部15と、歯ゴム11と背ゴム12の境界部分において心線14が埋設された、歯底部16より背ゴム12側の部分とを含むベルト本体13と、前記複数の歯部15の表面を被覆する歯布20とを有する歯付きベルト10であって、前記ベルト本体13の歯ゴム11が、EPDMを含むゴム組成物のマトリックスと、シリカ及びカーボンブラックを含む添加剤と、有機過酸化物系の加硫剤と、内添型接着剤としてヘキサメトキシメチロールメラミン化合物及びレゾルシノールを含むゴム組成物の加硫物で形成され、カーボンブラックの割合が、EPDM及びZDMAからなるゴム組成物のマトリックス114重量部に対して5重量部であり、かつ、ヘキサメトキシメチロールメラミン化合物の割合が、前記シリカ40重量部に対して1.7重量部である歯付きベルト10。」

2 引用文献2について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献2には、図面とともに次の事項が記載されている。
(1)「[0018](省略)また、これらのゴムは、単独または複数混合されたものを用いることができるが、ベースゴムとしては、耐熱性、耐寒性に優れ、Vリブドベルト1aにさらに長期耐久性を付与させ得る点においてエチレン-α-オレフィンエラストマ一が好適である。(省略)」

(2)「[0021] なかでも心線4aとの接着力をより一層向上させることができ、接着ゴム層3aと心線4aとの界面での剥離を抑制させてVリブドベルト1aの長期耐久性の向上効果をより顕著なものとさせ得る点において、この接着ゴム層3aに用いるゴム組成物に含有される前記有機補強剤としては、熱硬化性のフェノール樹脂あるいはメラミン樹脂のいずれかであることが好ましい。(省略)」

(3)「[0025] 前記架橋剤としては、硫黄や有機過酸化物などを用いることができ、硫黄を用いる場合の方が、有機過酸化物を用いる場合よりも引き裂き強さなどを向上させ得る点ならびに接着ゴム層3aと圧縮ゴム層5aあるいは接着ゴム層3aと心線4aとの接着性を向上させ得る点において好適である。」

(4)引用文献2の段落[0058]の[表1]には、配合2として、EPDM100重量部、変性メラミン樹脂3重量部、カーボンブラック45重量部、シリカ20重量部、及び硫黄1重量部を含む接着ゴム層用のゴム組成物が記載されている。

3 引用文献3について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献3には、図面とともに次の事項が記載されている。
「【0025】上記心線3を構成する無機繊維としては、例えばEガラス,Sガラス等の高強力ガラスやカーボン繊維等であり、例えば、フィラメント径8μm又は9μmのガラス繊維を集束剤で200本程度集束したガラス繊維(ストランド)が好適に使用できるが、これに限定されるものではない。そして、このようなガラス繊維(ストランド)を2本引揃え、これをゴム系の水分散系第1接着剤で含浸処理する。」

第5 対比・判断
1 本願発明1につて
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比すると、
引用発明の「ベルトの長手方向」は本願発明1の「ベルト長手方向」に相当し、以下同様に、
「歯底部16と交互に形成され」ることは「所定間隔で配置され」ることに、
「歯部15」は「歯部」に、
「心線14」は「芯体」に、
「歯底部16より背ゴム12側の部分」は「背部」に、
「歯布20」は「カバー布」に、
「歯付きベルト10」は「歯付ベルト」に、
「EPDM」は「エチレン-α-オレフィンエラストマ一」に(本願明細書段落【0022】)、
「ゴム組成物のマトリックス」は「ゴム成分」に、
「添加剤」は「フィラー」に、それぞれ相当する。

そして、引用発明の「ベルト本体13の歯ゴム11」と、本願発明1の「ベルト本体」とは、「ベルト本体の少なくとも歯側の部分」という限りにおいて共通する。

また、引用発明の「有機過酸化物系の加硫剤」と、本願発明1の「硫黄系加硫剤を含む加硫剤」とは、「加硫剤」である限りにおいて共通する。

さらにまた、引用発明の「ヘキサメトキシメチロールメラミン化合物」は本願発明1の「アミノ樹脂」に相当するので(本願明細書段落【0042】及び【0046】)、引用発明の「ヘキサメトキシメチロールメラミン化合物及びレゾルシノール」を含む「内添型接着剤」と、本願発明1の「アミノ樹脂を含み、かつレゾルシノール樹脂を実質的に含まない硬化性樹脂」とは、「アミノ樹脂を含む硬化性樹脂」である限りにおいて共通する。

したがって、本願発明1と引用発明とは
「ベルト長手方向に沿って所定間隔で配置された複数の歯部と、芯体が埋設された背部とを含むベルト本体と、前記複数の歯部の表面を被覆するカバー布とを有する歯付ベルトであって、前記ベルト本体の少なくとも歯側の部分が、エチレン-α-オレフィンエラストマーを含むゴム成分と、シリカ及びカーボンブラックを含むフィラーと、加硫剤と、アミノ樹脂を含む硬化性樹脂とを含むゴム組成物の加硫物で形成される歯付ベルト。」
の点で一致し、以下の相違点で相違する。

[相違点]
本願発明1は、
ゴム組成物の加硫物で形成される対象が「ベルト本体」であり、
加硫剤が「硫黄系加硫剤を含む」ものであり、
硬化性樹脂が「レゾルシノール樹脂を実質的に含まない」ものであり、
「前記カーボンブラックの割合が、前記ゴム成分100質量部に対して10?100質量部であり、かつ前記アミノ樹脂の割合が、前記シリカ100質量部に対して10?50質量部である」のに対し、
引用発明は、
ゴム組成物の加硫物で形成される対象が「ベルト本体13の歯ゴム11」であり、
加硫剤が「有機過酸化物系」であり、
内添型接着剤が「レゾルシノールを含む」ものであり、
「カーボンブラックの割合が、EPDM及びZDMAからなるゴム組成物のマトリックス114重量部に対して5重量部であり、かつ、ヘキサメトキシメチロールメラミン化合物の割合が、前記シリカ40重量部に対して1.7重量部である」点。

(2)相違点についての判断
以下、上記相違点について検討する。

上記「第4 2」の引用文献2の記載事項を、本願発明1の記載ぶりに則って整理すると、引用文献2には、
「ゴム成分としてのEPDMを含み、シリカ及びカーボンブラックを含み、加硫剤としての硫黄を含み、変性メラミン樹脂を含む接着ゴム層用のゴム組成物であって、カーボンブラックの割合が、EPDMからなるゴム成分100重量部に対して45重量部であり、かつ、変性メラミン樹脂の割合が、前記シリカ20重量部に対して3重量部(100重量部に対して15重量部)である接着ゴム層用のゴム組成物。」
が記載されているといえる。

しかしながら、引用文献2に記載された接着ゴム層用のゴム組成物は、VベルトまたはVリブドベルトの接着ゴム層用のものであって、プーリーに掛かる際等に歯の近辺に応力集中が生ずるような形式のベルト本体のものではない。
そして、引用文献2に記載された接着ゴム層用のゴム組成物は、接着強度及び引裂強度を向上させたものであるといえども、それはVベルトまたはVリブドベルトの接着ゴム層として要求される範囲での接着強度及び引裂強度であって、歯付ベルトの歯の近辺に生ずる応力集中部分に耐え得る接着強度及び引裂強度に達しているかどうかは不明である。
そうであれば、引用文献2に記載された接着ゴム層用のゴム組成物を、引用発明のベルト本体13の歯ゴム11のゴム組成物とする動機付けはなく、ましてや、引用文献2に記載された接着ゴム層用のゴム組成物を、引用発明の背ゴム12を含むベルト本体13のゴム組成物とすることは、当業者といえども容易になし得たこととは認められない。

また、引用文献3は、ゴム組成物について記載したものではない。

さらに、引用文献1には、「加硫成型時の加熱により、メラミン化合物やレゾルシノールが重合されて網目構造が構築されて、歯ゴム11自体の引裂強度等が高められるとともに、心線14、歯布20及び短繊維25に対する歯ゴム11の接着強度も高められる」(段落【0024】)と記載されており、「メラミン化合物は、レゾルシノールよりも配合部数(重量)が少ないことが好ましく」(段落【0026】)とも記載されていることから、レゾルシノールを含まないゴム組成物を用いることは、引用発明においては想定されていないともいえる。

そうすると、本願発明1は、引用発明から当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、また、引用発明及び引用文献2、3に記載された技術的事項から当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

2 本願発明2-7について
本願発明2-7は、本願発明1の発明特定事項をすべて含み、さらに限定を加えた発明であるから、本願発明1と同様の理由により、引用発明及び引用文献2、3に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明1-7は、当業者が引用発明及び引用文献2、3に記載された技術的事項に基いて容易に発明をすることができたものではない。したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2020-06-29 
出願番号 特願2017-96586(P2017-96586)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (F16G)
最終処分 成立  
前審関与審査官 塚本 英隆  
特許庁審判長 平田 信勝
特許庁審判官 内田 博之
尾崎 和寛
発明の名称 伝動ベルト  
代理人 阪中 浩  
代理人 鍬田 充生  

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