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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G21G
管理番号 1363641
審判番号 不服2018-9555  
総通号数 248 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-08-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-07-11 
確定日 2020-06-24 
事件の表示 特願2016-103089「同位体の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 9月 1日出願公開、特開2016-156839〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、2011年(平成23年)4月29日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2010年(平成22年)4月30日、英国)を国際出願日とする特願2013-506543号の一部を平成28年5月24日に新たな出願としたものであって、その手続の経緯は次のとおりである。
平成28年 6月22日 :手続補正書
平成28年 6月30日 :手続補正書
平成29年 5月15日付け:拒絶理由通知書
平成29年11月27日 :意見書・手続補正書
平成30年 3月 1日付け:拒絶査定
平成30年 7月11日 :審判請求書
平成30年 8月29日 :手続補正書(方式、審判請求書に対する手続補正)
平成30年 8月30日 :手続補足書(平成30年8月29日提出の手続補正書に対する補足)
令和 元年 6月 4日付け:審尋(当審がしたもの)
なお、請求人は、令和元年6月4日付け審尋に対して回答をしなかった。

2 原査定の拒絶の理由の概要
原査定がした拒絶の理由は、要旨、次のものを含むものである。
本願の請求項1及び2に係る発明は、本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許を受けることができない。
引用文献1:Gjermund Henriksen, et al., "^(223)Ra for endoradiotherapeutic applications prepared from an immobilized ^(227)Ac/^(227)Th source", Radiochimica Acta 89, p.661-p.666(2001)

3 当審の判断
(1)本願発明の認定
本願の請求項に係る発明は、平成29年11月27日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1及び2に記載されたとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりである。
「^(223)Ra 1MBq当たり0.05Bq以下の^(227)Acを含有する^(223)Ra。」

(2)引用文献1の記載事項の認定
ア 原査定が引用した本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である上記引用文献1には、次の記載がある(当審による訳を角括弧内に付した。また、下線は当審が付した。)。
(ア)「In the present work it was a goal to develop a generator system suitable with both modes of production. For ease and safety in operation of the generator, a system based on an immobilized ^(227)Ac-source was chosen. When ^(227)Ac is used for generating ^(223)Ra, the system must retain both Ac and Th strongly and a highly efficient Ac/Ra separation is needed because significant amounts of ^(227)Ac cannot be accepted in radiopharmaceutical ^(223)Ra preparations due to its physical and biological features [15,16]. Herein is described a generator for ^(223)Ra based on ^(227)Ac deposited on the extraction chromatographic material Dipex-2, which is based on P,P'-di(2-ethylhexyl)methanediphosphonic acid. The highly selective retention of Ac and Th on this material facilitated routine production of ^(223)Ra of very high radiochemical purity in relevant yields from the generator.」(662頁右欄29行?43行)
[本研究では、両方の生産モードに適したジェネレーターシステムを開発することが目標であった。ジェネレーターの操作を簡単かつ安全にするために、固定化された^(227)Ac線源に基づくシステムが選択された。^(227)Acが^(223)Raを生成するために使用される場合、システムはAcとThの両方を強力に保持する必要があり、高効率のAc/Ra分離が必要とされる。なぜならば、有意な量の^(227)Acは、その物理的及び生物学的特性[15,16]のために、放射性医薬品^(223)Raの中に許容され得ないためである。ここでは、P,P'-ジ(2-エチルヘキシル)メタンジホスホン酸に基づく抽出クロマトグラフィー材料Dipex-2に堆積した^(227)Acに基づいた^(223)Raのジェネレーターについて説明する。この材料におけるAcとThの高度な選択的保持は、ジェネレーターからの関連する収率において、非常に高い放射化学的純度の^(223)Raの日常的な生産を容易にした。]

(イ)a 「Separation using TRU-Resin」(663頁右欄3行)
[TRU樹脂を用いた分離]

b 「^(231)Pa could be retained in the TRU-resin while ^(227)Ac, ^(227)Th and ^(223)Ra elute [18], (Fig. 2). In this study, a column of 4mm internal diameter (i.d.) and length of 70mm containing 0.35g of TRU-resin was used. The column was operated at a flow rate of 0.2-0.3ml/cm^(2) min. Prior to loading of the radionuclides, the resin was conditioned by washing with 20ml of 1M HCl.」(663頁右欄4行?10行)
[^(227)Ac、^(227)Th及び^(223)Raが溶出する間、^(231)PaがTRU樹脂中に保持されることができた[18](図2)。この研究では、0.35gのTRU樹脂を含む内径4mm、長さ70mmのカラムが使用された。カラムは、0.2-0.3ml/cm^(2) minの流速で操作された。放射性核種を添加する前に、樹脂は、20mlの1M HClで洗浄することによって、調整された。]

c 「The source preparations were performed starting with portions of approximately 200kBq of ^(231)Pa. A volume of 1M HCl amounting to 10 times the sample volume was added. Immediately thereafter, the solution was loaded onto the TRU-Resin column. When the loading was completed, the column was rinsed with 10ml of 1M HCl. In preparation for the next extraction chromatographic procedure using Dipex-2 the two eluates containing ^(227)Ac and its daughters were pooled (Fig. 2).」(663頁右欄11行?19行)
[線源調製は、^(231)Paの約200kBqの部分から出発して行われた。サンプル容量の10倍の容量の1M HClが添加された。その直後に、その溶液がTRU樹脂カラムに投入された。投入が完了したら、そのカラムは、10mlの1M HClですすがれた。Dipex-2を用いた次の抽出クロマトグラフィー手順の準備として、^(227)Acとその娘を含む2つの溶出液がプールされた(図2)。]

d 「^(231)Pa was stripped from the TRU resin in > 85% yield by using 20ml of 0.1M HCl/0.1M HF (Fig.2).」(663頁右欄20行?21行)
[20mlの0.1M HCl / 0.1M HFを使用することによって、^(231)PaがTRU樹脂から85%超の収率で回収された(図2)。]

(ウ)a 「The ^(223)Ra generator」(663頁右欄22行)
[^(223)Raジェネレーター]

b 「Dipex-2 was used for the ^(223)Ra generator to retain ^(227)Ac and ^(227)Th. The resin was preconditioned with 1M HCl prior to column packing.」(663頁右欄23行?25行)
[Dipex-2が、^(227)Acと^(227)Thを保持するために^(223)Raジェネレーターに使用された。その樹脂は、カラム充填前に1M HClで予備調整された。]

c 「The column packing technique described by Wu et al. [19] was used in order to obtain a more evenly distribution of Ac and Th on the resin. To the solution containing ^(227)Ac and its daughters prepared by the TRU-Resin procedure was added an amount of Dipex-2 corresponding to approximately one half of the pre-determined column volume. After 4 hours of agitation at room temperature, the slurry was loaded onto the column. The generator column was then prepared by first positioning the inactive resin at the bottom, followed by the part containing the ^(227)Ac on top (Fig. 2). In this manner, a bottom layer of inactive resin was introduced in order to function as a catcher for small amounts of Ac and Th mobilized during operation of the generator. Finally, the column was washed with 5ml of 1M HCl. Typically, the final generator column had an i.d. of 5mm, length of 70mm and contained 0.7g of Dipex-2.」(663頁右欄26行?664頁左欄4行)
[Wu et al.[19]に記載されているカラム充填技術が、樹脂においてAc及びThのより均一な分布を得るために使用された。TRU樹脂手順により調製された^(227)Ac及びその娘を含む溶液に、所定のカラム容量の約半分に相当する量のDipex-2が加えられた。室温で4時間撹拌した後、そのスラリーがカラムに投入された。それから、ジェネレーターのカラムが、最初に不活性樹脂を下部に配置し、続いて上部に^(227)Acを含む部分を配置することで、作製された(図2)。このようにして、不活性樹脂の下部層が、ジェネレーターの動作中に移動する少量のAc及びThに対するキャッチャーとして機能するために、導入された。最後に、カラムは、5mlの1M HClで洗浄された。通常、最後のジェネレーターカラムは、内径が5mmで長さ70mmであり、Dipex-2を0.7g含む。]

d 「In routine operation of the generator, ^(223)Ra was eluted from this generator by means of 2-3ml of 1M HCl or HNO_(3) at a flow rate of 0.1-0.2ml/cm^(2)min.」(664頁左欄5行?7行)
[ジェネレーターの日常的な操作においては、^(223)Raが、0.1-0.2ml/cm^(2)minの流速で、2-3mlの1M HClまたはHNO_(3)を用いて、このジェネレーターから溶出された。]

e 「For further purification of ^(223)Ra, a column of 2mm i.d., length of 50mm containing 80mg of Dipex-2 was used (Fig. 2). The eluate from the generator column was applied directly onto the second column followed by washing with 3×1ml 1M HNO_(3).」(664頁左欄8行?11行)
[^(223)Raのさらなる精製のために、80mgのDipex-2を含む内径2mm、長さ50mmのカラムが使用された(図2)。ジェネレーターカラムからの溶出液は、第2のカラムに直接適用され、続いて3×1mlの1M HNO_(3)で洗浄された。]

f 「When the eluate from the Dipex-2 generator column was evaporated to dryness, a small amount (0.1mg or less) of solid material was observed. For further purification, a few ml 1M HNO_(3) was added in order to dissolve the residue and ^(223)Ra was thereafter concentrated on a column of 3mm i.d. and length of 20mm, containing 0.1g of AG 50W-X12 cation exchange resin (Fig. 2) at a flow rate of 2ml/cm^(2)min. Thereafter, the column was washed with 10ml 1M HNO_(3). ^(223)Ra was stripped from the column with 2-3ml 8M HNO_(3). This final purification and concentration procedure was performed with nearly quantitative recovery of ^(223)Ra. The stripping solution from the cation-exchange resin was then evaporated and ^(223)Ra dissolved in the desired medium.」(664頁左欄12行?右欄5行)
[Dipex-2ジェネレーターカラムからの溶出液が蒸発乾固されると、少量(0.1mg以下)の固形物が観察された。さらなる精製のために、数mlの1M HNO_(3)が、残渣を溶解するために添加され、その後、^(223)Raが、0.1gのAG 50W-X12陽イオン交換樹脂(図2)を含有する、内径3mm長さ20mmのカラムで、2ml/cm^(2)の流速で、濃縮された。その後、カラムは、10mlの1M HNO_(3)で洗浄された。^(223)Raは、2-3mlの8M HNO_(3)でカラムから除去された。この最終精製及び濃縮手順は、^(223)Raのほぼ定量的な回収率で行われた。陽イオン交換樹脂からの除去溶液は、次いで蒸発され、^(223)Raが所望の媒体に溶解された。]

(エ)a 「In our laboratory, the ^(223)Ra generators have been used regularly for one and a half years without detectable decrease in product purity. A small decrease in the yield of ^(223)Ra with time was observed. The production yield of ^(223)Ra for the first three months was routinely greater than 70%. After this, yields have ranged from 57%-65% (Table 2). The breakthrough of ^(227)Ac was determined to be less than 6×10^(-6) of the activity of ^(223)Ra. Using a second column of Dipex-2 for further purification reduced the content of ^(227)Ac to < 7×10^(-8) (Table 2).」(664頁右欄28行?37行)
[我々の研究室では、^(223)Raジェネレーターは、生産物の純度が検出可能な程度に低下することなしで、1年半にわたり定期的に使用されてきた。時間が経つにつれて、^(223)Raの収率のわずかな減少が観察された。最初の3ヶ月間の^(223)Raの生産収率は、日常的に、70%を超えていた。これ以降、収率は57%-65%の範囲だった(表2)。^(227)Acの漏出は、^(223)Raの放射能の6×10^(-6)未満であると決定された。さらなる精製のためにDipex-2の2番目のカラムを使用すると、^(227)Acの含有量が<7×10^(-8)に減少した(表2)。]

b 「Radionuclide generator systems intended for production of medical radionuclides must be capable of delivering the nuclide in question at high chemical and radiochemical purity in high yield on a routine basis. The time needed for each sample preparation must be compatible with the half-life of the product. In addition, due to radiation safety requirements, the procedures for routinely handling of multi-MBq of ^(227)Ac must be simple and rapid.」(664頁右欄38行?665頁左欄3行)
[医療用放射性核種の製造を意図した放射性核種発生器システムは、問題の核種を高い化学的純度及び放射化学的純度で、日常的に高収率で供給することができなければならない。各サンプル調製に必要な時間は、製品の半減期と両立する必要がある。さらに、放射線の安全性要件により、複数MBqの^(227)Acを日常的に取り扱うための手順は、単純かつ迅速でなければならない。]

(オ)「

」(664頁右欄の最下部)
[表2 ^(223)Raの生産
手順 ^(223)Raの収率 ^(227)Ac/^(223)Ra(Bq/Bq)
Dipex-2ジェネレーターカラム 57-65%^(a) 6×10^(-6)
からの溶出液
Dipex-2の第2のカラム >99%^(a) <7×10^(-8)
からの溶出液
カチオン交換カラム >99%^(b) <7×10^(-8)
からの溶出液
a:カラムに含まれる最初に生産された放射能に対する溶出された放射能、N=7
b:適用された放射能に対する溶出された放射能]

イ 上記アによれば、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「^(227)Ac/^(223)Ra(Bq/Bq)が、Dipex-2ジェネレーターカラムからの溶出液において、6×10^(-6)であり、Dipex-2の第2のカラムからの溶出液において、7×10^(-8)未満である、^(223)Ra。」

(3)本願発明と引用発明との対比、一致点及び相違点の認定
引用発明においては、「Dipex-2の第2のカラムからの溶出液」における「^(227)Ac/^(223)Ra (Bq/Bq)」が、「7×10^(-8)未満である」から、引用発明は、「^(223)Ra 1MBq当たり0.07Bq未満の^(227)Acを含有する^(223)Ra。」であることになる。
よって、本願発明と引用発明とは、
「^(223)Ra 1MBq当たり所定量の^(227)Acを含有する^(223)Ra。」である点で一致し、次の点で相違する。
[相違点]
^(223)Ra 1MBq当たりの^(227)Acの所定量が、本願発明は0.05Bq以下であるのに対し、引用発明は0.07Bq未満である点。

(4)相違点の判断
ア 引用文献1(上記3(2)ア(ア))は、^(227)Acが^(223)Raを生成するために使用される場合、有意な量の^(227)Acは、その物理的及び生物学的特性のために、放射性医薬品^(223)Raの中に許容され得ない旨を開示する。そして、引用文献1(上記3(2)ア(ウ)e、同(オ))は、Dipex-2の第2のカラムを使用する目的が、^(223)Raのさらなる精製のためであることをも開示するところ、かかる第2のカラムによる分離比は、85倍超(6×10^(-6)/7×10^(-8))であると認められる。
さらに、引用発明は、クロマトグラフィーを用いた分離技術に関するものといえるところ、かかる技術分野において、純度を向上させるべく、カラムの長さを大きくしたり、カラムを更に設けたりすることは、例示するまでもなく技術常識である。
そうすると、当業者であれば、引用発明において、^(227)Acに対する^(223)Raの純度を更に上げるべく、Dipex-2の第2のカラムの長さを大きくしたり、更なるカラムを設けたりすることは、適宜設計し得たことであり、そのようにすることにより、当業者は相違点に係る構成に至るものといえる。

イ 請求人は審判請求書(なお、審判請求書は、平成30年8月29日提出の手続補正書により補正されており、同手続補正書は、同年8月30日提出の手続補足書により補足されている。)において、引用文献1には、^(223)Ra 1Mq当たり^(227)Acを0.05Bq以下に抑えることができる「具体的」かつ「実際的」な精製方法が記載されていない旨主張する。
しかしながら、「具体的」性については、上記アで判断したとおりである。
他方、「実際的」性については、請求人が主張する意図に判然としないところがあるが、上記判断が説示した手法によっては、実験室的にはともかくとしても、商業的は成立しない、ということであると解される。しかしながら、かかる主張は、本願発明に基づかないものである。なぜならば、本願発明は、その特定事項からみて、コストを度外視した、実験室的に得られた物であっても、排除していないからである。
請求人の主張は採用できない。

ウ そして、本願発明の効果は、当業者が予測しうるものである。

エ したがって、本願発明は、引用発明及び引用文献1の記載並びに技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2020-01-22 
結審通知日 2020-01-27 
審決日 2020-02-10 
出願番号 特願2016-103089(P2016-103089)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G21G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 藤本 加代子  
特許庁審判長 瀬川 勝久
特許庁審判官 井上 博之
山村 浩
発明の名称 同位体の製造方法  
代理人 村山 靖彦  
代理人 実広 信哉  
代理人 阿部 達彦  

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