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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04W
審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない。 H04W
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H04W
管理番号 1363648
審判番号 不服2019-2773  
総通号数 248 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-08-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-02-28 
確定日 2020-06-24 
事件の表示 特願2016-159130「携帯端末機の使用可能送信電力報告方法および装置」拒絶査定不服審判事件〔平成28年12月15日出願公開、特開2016-213894〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,2012年(平成24年)2月15日(パリ条約による優先権主張外国庁受理,2011年2月15日 米国,2011年2月21日 米国,2011年4月5日 米国,2011年5月3日 米国)を国際出願日とする特願2013-554391号(以下,「原出願」という。)の一部を,平成28年8月15日に新たな特許出願としたものであって,その手続の経緯の概略は以下のとおりである。

平成29年10月31日付け:拒絶理由通知書
平成30年 2月13日 :意見書,手続補正書の提出
平成30年 5月29日付け:拒絶理由通知書(最後の拒絶理由)
平成30年 9月 4日 :意見書,手続補正書の提出
平成30年10月19日付け:平成30年9月4日にされた手続補正につ
いての補正の却下の決定,拒絶査定
平成31年 2月28日 :拒絶査定不服審判の請求,手続補正書の
提出

第2 平成31年2月28日にされた手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成31年2月28日にされた手続補正(以下,「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正の概要
本件補正は,平成30年2月13日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された
「無線通信システムにおける端末の方法であって,
実際逆方向送信を行った最も最近の使用可能送信電力報告時点と,実際逆方向送信を行う現時点との間で,電力管理による電力バックオフ(power backoff)が任意の値よりも大きくなるように変更されたのかを判断する段階と,
電力管理による電力バックオフが任意の値よりも大きくなるように変更された場合,使用可能送信電力報告(power headroom report,PHR)がトリガされたものと決定する段階と,
拡張されたPHRが設定されたのかを確認する段階と,
前記拡張されたPHRが設定されたとき,拡張されたPH情報を生成する段階と,
前記拡張されたPH情報を基地局に送信する段階とを含む
ことを特徴とする端末の方法。」
との発明(以下,「本願発明」という。)を,
「無線通信システムにおける端末の方法であって,
任意のセルに対して,第1送信のための第1逆方向送信リソースが割り当てられるのかを判断する段階と,
前記任意のセルに対して,第2逆方向送信リソースが割り当てられ,使用可能送信電力報告(power headroom report,PHR)の第2逆方向送信が行われた後,電力管理による電力バックオフ(power backoff)が一定の基準値以上になるように変更されたのかを判断する段階と,
前記第1逆方向送信リソースが割り当てられ,前記電力管理による電力バックオフが前記一定の基準値以上になるように変更された場合,PHRがトリガされたものと決定する段階と,
拡張されたPHRが設定されたのかを確認する段階と,
前記拡張されたPHRが設定されたとき,拡張されたPH情報を生成する段階と,
前記拡張されたPH情報を含む前記拡張されたPHRを基地局に送信する段階とを含む
ことを特徴とする端末の方法。」(下線は補正箇所を示す。)
との発明(以下,「補正後の発明」という。)に補正することを含むものである。

2 補正の適否

(1)補正の目的要件

補正後の発明に新たに追加された「任意のセルに対して,第1送信のための第1逆方向送信リソースが割り当てられるのかを判断する段階」は,本願発明には存在しなかった新たな発明特定事項であって,本願発明の発明特定事項を限定するものではない。更に,本願発明の「実際逆方向送信を行った最も最近の使用可能送信電力報告時点と,実際逆方向送信を行う現時点との間で,電力管理による電力バックオフ(power backoff)が任意の値よりも大きくなるように変更されたのかを判断する段階」と補正後の発明の「前記任意のセルに対して,第2逆方向送信リソースが割り当てられ,使用可能送信電力報告(power headroom report,PHR)の第2逆方向送信が行われた後,電力管理による電力バックオフ(power backoff)が一定の基準値以上になるように変更されたのかを判断する段階」とでは,電力管理による電力バックオフ(power backoff)がある値より変更されたのかを判断する時間的な条件が,本願発明では「実際逆方向送信を行った最も最近の使用可能送信電力報告時点と,実際逆方向送信を行う現時点との間」であるのに対し,補正後の発明では「第2逆方向送信が行われた後」であり,仮に本願発明の「実際逆方向送信を行った最も最近の使用可能送信電力報告時点」が,補正後の発明の「第2逆方向送信が行われた」時点であるとしても,補正後の発明では,本願発明の「実際逆方向送信を行う現時点との間」との条件は削除されている。このため,補正後の発明は本願発明の発明特定事項を限定したものとはいえない。したがって,上記の補正は,特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の限縮(限定的限縮)を目的とするものではない。また,上記の補正は,特許法第17条の2第5項に規定される他のいずれの事項を目的とするものでもない。
したがって,本件補正は,特許法第17条の2第5項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

(2)独立特許要件

本件補正は上記(1)のとおり却下すべきものであるが,更に進めて,仮に上記補正を特許請求の範囲の減縮を目的とするものであると仮定して,本件補正後の請求項に係る発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるのか否かについて,以下検討する。

ア 補正後の発明
補正後の発明は,上記1の「補正後の発明」のとおりのものと認める。

イ 引用発明
[引用発明]
原査定の拒絶の理由に引用されたQualcomm Incorporated,PHR Trigger for Power Reduction Due to Power Management([当審仮訳]:電力管理による電力削減のためのPHRトリガ),3GPP TSG-RAN2 #73 R2-110797,2011年 2月14日アップロード(以下,「引用例1」という。)には,図面とともに,以下の事項が記載されている。(下線は当審が付与。)

「5.4.6 Power Headroom Reporting
The Power Headroom reporting procedure is used to provide the serving eNB with information about the difference between the nominal UE maximum transmit power and the estimated power for UL-SCH transmission per activated Serving Cell and also with information about the difference between the nominal UE maximum power and the estimated power for UL-SCH and PUCCH transmission on PCell.
The reporting period, delay and mapping of Power Headroom are defined in subclause 9.1.8 of [9]. RRC controls Power Headroom reporting by configuring the two timers periodicPHR-Timer and prohibitPHR-Timer, and by signalling dl-PathlossChange which sets the change in measured downlink pathloss to trigger a PHR [8].
A Power Headroom Report (PHR) shall be triggered if any of the following events occur:
(中略)
- prohibitPHR-Timer expires or has expired and the additional power backoff due to power management (as allowed by P-MPR [10]) for at least one activated Serving Cell with configured uplink has changed more than dl-PathlossChange dB since the last transmission of a PHR when UE has UL resources for new transmission.
If the UE has UL resources allocated for new transmission for this TTI:
(中略)
- if the allocated UL resources can accommodate a PHR MAC control element plus its subheader as a result of logical channel prioritization:
- if extendedPHR is configured:
(中略)
- instruct the Multiplexing and Assembly procedure to generate and transmit an Extended PHR MAC control element as defined in subclause 6.1.3.6a based on the values reported by the physical layer; - else:
(中略)
- instruct the Multiplexing and Assembly procedure to generate and transmit a PHR MAC control element as defined in subclause 6.1.3.6 based on the value reported by the physical layer;」(第3葉第1行-同第38行)

(当審仮訳:
5.4.6 電力ヘッドルーム報告
電力ヘッドルーム報告手順は,活性化されたサービングセルごとのUL-SCH送信のための公称UE最大送信電力と推定電力との間の差に関する情報と,PCell 上のUL-SCH及びPUCCH送信のための公称UE最大電力と推定電力との差に関する情報とをサービングeNBに提供するために使用される。
報告期間,遅延及びマッピングは,[9]の9.1.8項において定義される。RRC制御は,periodicPHRタイマ及びprohibitPHRタイマの2つのタイマを構成することによって,及びPHR[8]をトリガするために測定されたダウンリンクパスロスの変化を示すdl-pathLossChangeをシグナリングすることによって,電力ヘッドルーム報告を制御する。
以下のイベントのいずれかが起こる場合には,電力ヘッドルーム報告(PHR)がトリガされる。
(中略)
- prohibitPHRタイマの期限が切れており,構成されたアップリンクを有する少なくとも1つの活性化されたサービングセルに対する電力管理(P-MPR[10]によって許容されるような)による追加の電力バックオフが,UEが新しい送信のためにULリソースを有する際に,PHRの先の送信以来,dl-pathLosschangedB以上変化した場合。
UEがこのTTIの新しい送信のために割り当てられたULリソースを有する場合,
(中略)
-割り当てられたULリソースが,論理チャネル優先順位付けの結果として,PHR MAC制御要素とそのサブヘッダとを収容することができる場合,
-extendedPHRが構成される場合,
(中略)
-物理層によって報告された値に基づいて,6.1.3.6a項で定義された拡張されたPHR MAC制御要素を生成し送信するように多重化及び組立手順を指示する。
-他の場合,
(中略)
-物理層によって報告された値に基づいて,6.1.3.6項で定義されたPHR MAC制御要素を生成し送信するように多重化及び組立手順を指示する。)

上記の記載,並びに当業者の技術常識を考慮すると,

(ア)引用例1には「UEの処理方法」が記載されていると認める。

(イ)引用例1の「活性化されたサービングセルごとのUL-SCH送信」という記載,及び「prohibitPHRタイマの期限が切れており,構成されたアップリンクを有する少なくとも1つの活性化されたサービングセルに対する電力管理(P-MPR[10]によって許容されるような)による追加の電力バックオフが,UEが新しい送信のためにULリソースを有する際に,PHRの先の送信以来,dl-pathLosschangedB以上変化した場合。」との記載から,UEが新しい送信のためにULリソースを有しているか否かを判断していることは明らかである。してみれば,引用例1において,「UEが,活性化されたサービングセルに対して,新しい送信のためのULリソースを有するのかを判断する」ものであることも明らかである。

(ウ)引用例1の「ULリソース」「電力ヘッドルーム報告(PHR)」に関して,PHRの先の送信以来,電力管理による追加の電力バックオフがdl-pathLosschange dB以上変化した場合にPHRがトリガされることから,UEがトリガ条件として,PHRの送信が行われた後,電力管理による追加の電力バックオフがdl-pathLosschange dB以上変化したかを判断していることは,当業者にとって自明の事項である。
したがって,引用例1にはUEが,「活性化されたサービングセルに対して, PHRの送信が行われた後,電力管理による追加の電力バックオフがdl-pathLosschange dB以上変化した場合,PHRがトリガされる」ことについて記載されていると認める。

(エ)引用例1の「電力ヘッドルーム報告手順は,(中略)サービングeNBに提供するために使用される。」,「extendedPHRが構成される場合,」「-物理層によって報告された値に基づいて,6.1.3.6a項で定義された拡張されたPHR MAC制御要素を生成し送信するように多重化及び組立手順を指示する。」との記載より,引用例1には「extendedPHRが構成される場合,拡張されたPHR MAC制御要素を生成しeNBに送信する」ことが記載されていると認める。

以上を総合すると,引用例1には以下の発明(以下,「引用発明1」という。)が記載されていると認める。

「UEの処理方法であって,
UEが,活性化されたサービングセルに対して,新しい送信のためのULリソースを有するのかを判断する段階と,
活性化されたサービングセルに対して, PHRの送信が行われた後,電力管理による追加の電力バックオフがdl-pathLosschangedB以上変化した場合,PHRがトリガされる段階と,
extendedPHRが構成される場合,拡張されたPHR MAC制御要素を生成しeNBに送信する段階とを含む,
UEの処理方法。」

ウ 対比・判断
補正後の発明と引用発明1とを対比すると,

(ア)引用発明1の「UE」は無線通信システムで用いられる「UE」であることは明らかである。してみれば,引用発明1の「UE」は,補正後の発明の「無線通信システムにおける端末」に相当する。また,引用発明1の「eNB」は補正後の発明の「基地局」に相当する。

(イ)引用発明1の「新しい送信のためのULリソース」を「第1送信のための第1逆方向送信リソース」と称することは任意である。更に,補正後の発明の「任意のセル」と,引用発明1の「活性化されたサービングセル」は,いずれも送信のための逆方向送信リソースを割り当てられるセルといえるから,引用発明1の「活性化されたサービングセル」は,補正後の発明の「任意のセル」に含まれる。
したがって,引用発明1の「UEが,活性化されたサービングセルに対して,新しい送信のためのULリソースを有するのかを判断する段階」は,補正後の発明の「任意のセルに対して,第1送信のための第1逆方向送信リソースが割り当てられるのかを判断する段階」に相当する。

(ウ)引用発明1の「PHR」は,補正後の発明の「使用可能送信電力報告(power headroom report,PHR)」に相当する。また,引用発明1の「活性化されたサービングセルに対して,PHRの送信が行われた後」との事項によれば,当該PHRの送信のためのULリソースの割り当てが行われていることは明らかである。そして,当該PHRの送信を「使用可能送信電力報告(power headroom report,PHR)の第2逆方向送信」と称することは任意である。更に,当該PHRの送信のためのULリソースを「第2逆方向送信リソース」と称することは任意である。
また,引用発明1の「dl-pathLosschange dB」は一定の基準値といえるから,引用発明1の「電力管理による追加の電力バックオフがdl-pathLosschangedB以上変化した」ことは,補正後の発明の「電力管理による電力バックオフ(power backoff)が一定の基準値以上になるように変更された」ことに相当する。また,引用発明1では,「電力管理による追加の電力バックオフがdl-pathLosschange dB以上変化した場合,PHRがトリガされる」のであるから,「電力管理による追加の電力バックオフがdl-pathLosschange dB以上変化した」かを判断していることは明らかである。
したがって,引用発明1の「活性化されたサービングセルに対して,PHRの送信が行われた後,電力管理による追加の電力バックオフがdl-pathLosschange dB以上変化した場合,PHRがトリガされる段階」は,補正後の発明の「前記任意のセルに対して,第2逆方向送信リソースが割り当てられ,使用可能送信電力報告(power headroom report,PHR)の第2逆方向送信が行われた後,電力管理による電力バックオフ(power backoff)が一定の基準値以上になるように変更されたのかを判断する段階」に相当する。

(エ)本願出願時点において,活性化されたサービングセルに対して,PHRの送信を繰り返し実施すること,及びPHRの送信を繰り返し実施するために,PHRのトリガ条件が満たされたか否かの判断を繰り返し実施することは,当業者にとって技術常識である。してみれば,引用発明1において,「活性化されたサービングセルに対して,PHRの送信が行われた後,電力管理による追加の電力バックオフがdl-pathLosschange dB以上変化した場合,PHRがトリガされる段階」は繰り返し実施されることは明らかである。そして,当該段階が,「第2逆方向送信リソース」が割り当てられた場合だけでなく,それ以外の「逆方向送信リソースが割り当てられ」た場合にも適用されることは明らかである。更に,そのような逆方向送信リソースを「第1逆方向送信リソース」と称することは任意である。
したがって,引用発明1の「活性化されたサービングセルに対して, PHRの送信が行われた後,電力管理による追加の電力バックオフがdl-pathLosschangedB以上変化した場合,PHRがトリガされる段階」は,補正後の発明の「前記第1逆方向送信リソースが割り当てられ,前記電力管理による電力バックオフが前記一定の基準値以上になるように変更された場合,PHRがトリガされたものと決定する段階」に相当する。

(オ)引用発明1の「extendedPHR」は,補正後の発明の「拡張されたPHR」に相当する。また,引用発明1の「extendedPHRが構成される場合」との事項から,引用発明1においてextendedPHRが構成されたかを確認していることは明らかである。そして,引用発明1の「拡張されたPHR MAC制御要素を生成しeNBに送信する段階」において,拡張されたPHR MAC制御要素を生成するためには,「拡張されたPH情報を生成する」必要があることは明らかである。
したがって,引用発明1の「extendedPHRが構成される場合,拡張されたPHR MAC制御要素を生成しeNBに送信する段階」は,補正後の発明の「拡張されたPHRが設定されたのかを確認する段階と」,「前記拡張されたPHRが設定されたとき,拡張されたPH情報を生成する段階と」,「前記拡張されたPH情報を含む前記拡張されたPHRを基地局に送信する段階」に相当する。

以上を総合すると,補正後の発明と引用発明1とは,

(一致点)
「無線通信システムにおける端末の方法であって、
任意のセルに対して、第1送信のための第1逆方向送信リソースが割り当てられるのかを判断する段階と、
前記任意のセルに対して、第2逆方向送信リソースが割り当てられ、使用可能送信電力報告(power headroom report、PHR)の第2逆方向送信が行われた後、電力管理による電力バックオフ(power backoff)が一定の基準値以上になるように変更されたのかを判断する段階と、
前記第1逆方向送信リソースが割り当てられ、前記電力管理による電力バックオフが前記一定の基準値以上になるように変更された場合、PHRがトリガされたものと決定する段階と、
拡張されたPHRが設定されたのかを確認する段階と、
前記拡張されたPHRが設定されたとき、拡張されたPH情報を生成する段階と、
前記拡張されたPH情報を含む前記拡張されたPHRを基地局に送信する段階とを含む
ことを特徴とする端末の方法。」

で一致し,相違するところはない。
そして,補正後の発明の作用効果も,引用発明1に基づいて当業者が予測できる範囲のものである。
したがって,補正後の発明は,引用発明1と同一である。また,引用発明1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

ここで,請求人は平成31年2月28日に提出された審判請求書の「(一)進歩性要件について」において,「すなわち,補正の却下の決定では,引用発明1の
1)電力バックオフがトリガ条件である特徴と,
2)活性化したサービスセルごとにトリガ条件を判断する特徴とを組み合わせれば,
本願発明の
所定セルにおける直前のPHRの伝送の時から,上記所定セルにおける現時点の新規伝送のためのULリソースを保持した時までの間において,電力バックオフ発生の有無をトリガ条件として構成する特徴が自明なものであると判断していますが,
補正の却下の決定でご指摘を受けている引用発明1の内容を組み合わせたとしても,単に,活性化したサービスセルごとに電力バックオフが発生したのかが導き出されるに過ぎず,
本願発明の「所定セルにおける直前のPHRの伝送の時から,上記所定セルにおける現時点の新規伝送のためのULリソースを保持した時までの間において,電力バックオフ発生の有無をトリガ条件として構成する特徴」は導き出されるものではないと請求人は思料致します。」と主張している。
しかしながら,補正後の発明は
「任意のセルに対して,第1送信のための第1逆方向送信リソースが割り当てられるのかを判断する段階と,
前記任意のセルに対して,第2逆方向送信リソースが割り当てられ,使用可能送信電力報告(power headroom report,PHR)の第2逆方向送信が行われた後,電力管理による電力バックオフ(power backoff)が一定の基準値以上になるように変更されたのかを判断する段階と,
前記第1逆方向送信リソースが割り当てられ,前記電力管理による電力バックオフが前記一定の基準値以上になるように変更された場合,PHRがトリガされたものと決定する段階」
とを含むものであり,明らかに,請求人の主張する,「所定セルにおける直前のPHRの伝送の時から,上記所定セルにおける現時点の新規伝送のためのULリソースを保持した時までの間において,電力バックオフ発生の有無をトリガ条件として構成する特徴」を含むものではない。特に「所定セルにおける直前のPHRの伝送の時から,上記所定セルにおける現時点の新規伝送のためのULリソースを保持した時まで」との事項は,補正後の発明には何ら特定されておらず,また,補正後の発明から自明の事項でもない。このため,上記の請求人の主張は採用できない。
更に,平成30年10月19日付けで補正の却下の決定によって却下された平成30年9月4日付け手続補正書の特許請求の範囲に記載された,請求項1に係る発明は
「任意のセルに対して実際逆方向送信を行った最も最近の使用可能送信電力報告時点と、
前記任意のセルで実際逆方向送信を行う現時点との間で、電力管理による電力バックオフ(power backoff)が一定基準値以上になるように変更されたのかを判断する段階と、
電力管理による電力バックオフが前記一定基準値以上になるように変更された場合、使用可能送信電力報告(power headroom report、PHR)がトリガされたものと決定する段階」とを含むものであり,明らかに,請求人の主張する,「所定セルにおける直前のPHRの伝送の時から,上記所定セルにおける現時点の新規伝送のためのULリソースを保持した時までの間において,電力バックオフ発生の有無をトリガ条件として構成する特徴」を含むものではない。特に「所定セルにおける直前のPHRの伝送の時から,上記所定セルにおける現時点の新規伝送のためのULリソースを保持した時まで」との事項は,平成30年9月4日付け手続補正書の特許請求の範囲に記載された,請求項1に係る発明には何ら特定されておらず,また,当該請求項1に係る発明から自明の事項でもない。このため,上記の請求人の主張は採用できない。

したがって,補正後の発明は,引用例1に記載された発明であるから,特許法第29条第1項第3号に該当し,特許を受けることができない。
また,当業者が引用例1に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

3 結語

したがって,平成31年2月28日にされた手続補正(本件補正)は,特許法第17条の2第5項の規定に違反し,更に,補正後の発明が特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから,特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

よって,上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について

1 本願発明

平成31年2月28日にされた手続補正は上記のとおり却下されたので,本願の請求項1に係る発明は,上記「第2」の項の「1 本件補正の概要」の項の「本願発明」のとおりのものと認める。

2 原査定の拒絶の理由

原査定の拒絶理由の概要は,「(新規性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。」及び「(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」というものであり,請求項1に対して主引用例として引用例1が引用されている。

3 引用発明

引用発明1は,上記「第2 平成31年2月28日にされた手続補正についての補正の却下の決定」の項中の「2 補正の適否」の項中の「(2)独立特許要件」の項中の「イ 引用発明」の項で認定したとおりである。

4 対比・判断

本願発明と引用発明1とを対比すると,

ア 引用発明1の「UE」は無線通信システムで用いられる「UE」であることは明らかである。してみれば,引用発明1の「UE」は,本願発明の「無線通信システムにおける端末」に相当する。また,引用発明1の「eNB」は本願発明の「基地局」に相当する。

イ 本願出願時点において,活性化されたサービングセルに対して,PHRの送信を繰り返し実施すること,及びPHRの送信を繰り返し実施するために,PHRのトリガ条件が満たされたか否かの判断を繰り返し実施することは,当業者にとって技術常識である。してみれば,引用発明1において,「活性化されたサービングセルに対して,PHRの送信が行われた後,電力管理による追加の電力バックオフがdl-pathLosschange dB以上変化した場合,PHRがトリガされる段階」は繰り返し実施されており,PHRがトリガされた後に,次のPHRの送信が行われていることは明らかである。また,活性化されたサービングセルに対して行う送信が逆方向送信であることは自明である。してみると,引用発明1において,逆方向送信されたPHRの送信時点と,次に逆方向送信されるPHRの送信時点との間で,電力管理による追加の電力バックオフがdl-pathLosschange dB以上変化した場合,PHRがトリガされているといえる。そして,逆方向送信されたPHRの送信時点と,次に逆方向送信されるPHRの送信時点のことを,それぞれ「実際逆方向送信を行った最も最近の使用可能送信電力報告時点」,「実際逆方向送信を行う現時点」と称することは任意である。

また,引用発明1の「dl-pathLosschange dB」は任意の値といえるから,引用発明1の「電力管理による追加の電力バックオフがdl-pathLosschange dB以上変化した」ことは,本願発明の「電力管理による電力バックオフ(power backoff)が任意の値よりも大きくなるように変更された」ことに相当する。更に,引用発明1では,「電力管理による追加の電力バックオフがdl-pathLosschange dB以上変化した場合,PHRがトリガされる」のであるから,「電力管理による追加の電力バックオフがdl-pathLosschange dB以上変化した」かを判断していることは明らかである。

してみれば,引用発明1の「活性化されたサービングセルに対して,PHRの送信が行われた後,電力管理による追加の電力バックオフがdl-pathLosschange dB以上変化した場合,PHRがトリガされる段階」は,本願発明の「実際逆方向送信を行った最も最近の使用可能送信電力報告時点と,実際逆方向送信を行う現時点との間で,電力管理による電力バックオフ(power backoff)が任意の値よりも大きくなるように変更されたのかを判断する段階と,電力管理による電力バックオフが任意の値よりも大きくなるように変更された場合,使用可能送信電力報告(power headroom report,PHR)がトリガされたものと決定する段階」に相当する。

ウ 引用発明1の「extendedPHR」は本願発明の「拡張されたPHR」に相当する。また,引用発明1の「extendedPHRが構成される場合」との事項から,引用発明1においてextendedPHRが構成されたかを確認していることは明らかである。更に,引用発明1の「拡張されたPHR MAC制御要素を生成しeNBに送信する段階」において,拡張されたPHR MAC制御要素を生成しeNBに送信するためには,「拡張されたPH情報を生成し,拡張されたPH情報をeNBに送信する」必要があることは明らかである。

してみれば,引用発明1の「extendedPHRが構成される場合,拡張されたPHR MAC制御要素を生成しeNBに送信する段階」は,本願発明の「拡張されたPHRが設定されたのかを確認する段階と」,「前記拡張されたPHRが設定されたとき,拡張されたPH情報を生成する段階と」,「前記拡張されたPH情報を基地局に送信する段階」に相当する。

以上を総合すると,本願発明と引用発明1とは,

(一致点)
「無線通信システムにおける端末の方法であって,
実際逆方向送信を行った最も最近の使用可能送信電力報告時点と,実際逆方向送信を行う現時点との間で,電力管理による電力バックオフ(power backoff)が任意の値よりも大きくなるように変更されたのかを判断する段階と,
電力管理による電力バックオフが任意の値よりも大きくなるように変更された場合,使用可能送信電力報告(power headroom report,PHR)がトリガされたものと決定する段階と,
拡張されたPHRが設定されたのかを確認する段階と,
前記拡張されたPHRが設定されたとき,拡張されたPH情報を生成する段階と,
前記拡張されたPH情報を基地局に送信する段階とを含む
ことを特徴とする端末の方法。」

で一致し,相違するところはない。
そして,本願発明の作用効果も,引用発明1に基づいて当業者が予測できる範囲のものである。
したがって,本願発明は,引用発明1と同一である。また,引用発明1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

5 むすび

以上のとおり,本願発明は,引用例1に記載された発明であるから,特許法第29条第1項第3号に該当し,特許を受けることができない。
また,当業者が引用例1に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。

よって,結論のとおり審決する。

 
別掲
 
審理終結日 2020-01-21 
結審通知日 2020-01-27 
審決日 2020-02-10 
出願番号 特願2016-159130(P2016-159130)
審決分類 P 1 8・ 57- Z (H04W)
P 1 8・ 575- Z (H04W)
P 1 8・ 121- Z (H04W)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田部井 和彦  
特許庁審判長 岩間 直純
特許庁審判官 本郷 彰
相澤 祐介
発明の名称 携帯端末機の使用可能送信電力報告方法および装置  
代理人 阿部 達彦  
代理人 木内 敬二  
代理人 実広 信哉  
代理人 崔 允辰  

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