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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16L
審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない。 F16L
管理番号 1363652
審判番号 不服2019-6438  
総通号数 248 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-08-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-05-17 
確定日 2020-06-24 
事件の表示 特願2017-151259号「複数の配管吊下支持具を具備する配管の吊下支持構造」拒絶査定不服審判事件〔平成31年 2月21日出願公開、特開2019- 27581号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成29年8月4日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成30年 7月12日付け :拒絶理由通知書
平成30年 9月21日 :意見書、手続補正書の提出
平成31年 2月26日付け :拒絶査定
令和 1年 5月17日 :審判請求書、手続補正書の提出

第2 令和1年5月17日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和1年5月17日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 本件補正について
(1) 本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された(下線は、補正箇所を示す。)。
「配管類を抱持するバンド抱持部と、該バンド抱持部の開放両端部に連設されたバンド端部とを有し、
天井スラブやトンネル天井等の取付面から吊り下げられる吊りボルトに、吊下接続部材を介して前記バンド端部を接続して、前記バンド抱持部に抱持した配管を前記取付面に吊下支持する配管吊下支持具であって、
配管すべき略全域に亘って前記取付面から複数本の吊りボルトが所定間隔毎に吊り下げられ、この複数本の吊りボルトの各々に、前記配管吊下支持具が個々に接続されることにより、配管の長尺スパンにおける配管の吊下支持が可能な複数の配管吊下支持具を具備する配管の吊下支持構造において、
前記配管吊下支持具は、
前記バンド抱持部には、配管軸に直交するバンド抱持部の左右の側方部から横方向外側に各々延伸する左係止部・右係止部が設けられ、且つ、これらの左係止部・右係止部には透孔が各々形成された構成であり、
バンド抱持部の左係止部の透孔には、前記取付面であって前記吊りボルトの吊下位置に対して配管軸方向の左前方位置と左後方位置に一端が固定されて斜めに吊下げられる2本の左前方吊下支持杆・左後方吊下支持杆の各々の他端が接続取付された状態で係合される構成であり、
バンド抱持部の右係止部の透孔には、前記取付面であって前記吊りボルトの吊下位置に対して配管軸方向の右前方位置と右後方位置に一端が固定されて斜めに吊下げられる2本の右前方吊下支持杆・右後方吊下支持杆の各々の他端が接続取付された状態で係合される構成であり、
この左前方吊下支持杆・左後方吊下支持杆・右前方吊下支持杆・右後方吊下支持杆による4点斜め吊下支持と、前記吊りボルトによる1点吊下支持と、によって合計5点吊下支持構成と成るサポート支持構成と、
更に、前記吊りボルトのみによる1点吊下支持構成と、
を有して成り、
前記5点吊下支持サポート支持構成を有する配管吊下支持具と、1点吊下支持構成を有する配管吊下支持具と、を配管軸方向において交互に吊下配設した構成とすることによって、1点吊下支持構成を挟んで隣接するサポート支持構成を有する配管吊下支持具同士が平面視した際に配管軸方向において対称のサポート支持構成を有する構成であること、
並びに上記5点吊下支持構成と、1点吊下支持構成との交互配設構成に基づく、地震波の入射方向が変わっても様々な振動方向にも対処する機能・特性を有すること、
かつ前記上接続板と下接続板との重層する一端の透孔に挿通したボルトに、該ボルトの螺旋部分に噛合うことによって該ボルトが該上接続板及び下接続板の透孔からの脱落を防止するボルトの脱落防止具が取り付けられる構成であること
を特徴とする複数の配管吊下支持具を具備する配管の吊下支持構造。」
(2) 本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の、平成30年9月21日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
「配管類を抱持するバンド抱持部と、該バンド抱持部の開放両端部に連設されたバンド端部とを有し、
天井スラブやトンネル天井等の取付面から吊り下げられる吊りボルトに、吊下接続部材を介して前記バンド端部を接続して、前記バンド抱持部に抱持した配管を前記取付面に吊下支持する配管吊下支持具であって、
配管すべき略全域に亘って前記取付面から複数本の吊りボルトが所定間隔毎に吊り下げられ、この複数本の吊りボルトの各々に、前記配管吊下支持具が個々に接続されることにより、配管の長尺スパンにおける配管の吊下支持が可能な複数の配管吊下支持具を具備する配管の吊下支持構造において、
前記配管吊下支持具は、
前記バンド抱持部には、配管軸に直交するバンド抱持部の左右の側方部から横方向外側に各々延伸する左係止部・右係止部が設けられ、且つ、これらの左係止部・右係止部には透孔が各々形成された構成であり、
バンド抱持部の左係止部の透孔には、前記取付面であって前記吊りボルトの吊下位置に対して配管軸方向の左前方位置と左後方位置に一端が固定されて斜めに吊下げられる2本の左前方吊下支持杆・左後方吊下支持杆の各々の他端が接続取付された状態で係合される構成であり、
バンド抱持部の右係止部の透孔には、前記取付面であって前記吊りボルトの吊下位置に対して配管軸方向の右前方位置と右後方位置に一端が固定されて斜めに吊下げられる2本の右前方吊下支持杆・右後方吊下支持杆の各々の他端が接続取付された状態で係合される構成であり、
この左前方吊下支持杆・左後方吊下支持杆・右前方吊下支持杆・右後方吊下支持杆による4点斜め吊下支持と、前記吊りボルトによる1点吊下支持と、によって合計5点吊下支持構成と成るサポート支持構成と、
更に、前記吊りボルトのみによる1点吊下支持構成と、
を有して成り、
前記5点吊下支持サポート支持構成を有する配管吊下支持具と、1点吊下支持構成を有する配管吊下支持具と、を配管軸方向において交互に吊下配設した構成とすることによって、1点吊下支持構成を挟んで隣接するサポート支持構成を有する配管吊下支持具同士が平面視した際に配管軸方向において対称のサポート支持構成を有する構成であること、
並びに上記5点吊下支持構成と、1点吊下支持構成との交互配設構成に基づく、地震波の入射方向が変わっても様々な振動方向にも対処する機能・特性を有すること
を特徴とする複数の配管吊下支持具を具備する配管の吊下支持構造。」

2 目的要件について
本件補正により、本件補正前の請求項1に「かつ前記上接続板と下接続板との重層する一端の透孔に挿通したボルトに、該ボルトの螺旋部分に噛合うことによって該ボルトが該上接続板及び下接続板の透孔からの脱落を防止するボルトの脱落防止具が取り付けられる構成であること」という技術的事項が付加されたが、補正前の請求項1には、「上接続板」、「下接続板」、その透孔に挿通した「ボルト」、該ボルトの「脱落防止具」のいずれも、発明特定事項として記載されていない。そうすると、上記技術的事項は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項を限定するものではない。
よって当該技術的事項を付加する本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものには該当しない。また、当該補正事項は、請求項の削除、誤記の訂正、または明りょうでない記載の釈明のいずれにも該当しない。
よって本件補正は、特許法第17条の2第5項各号のいずれを目的とするものでもない。

3 独立特許要件について
仮に、上記補正事項が特許請求の範囲の減縮を目的とするものとした場合に、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本件補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について、以下、検討する。
(1) 本件補正発明
本件補正発明は、上記「1(1)」に記載したとおりのものである。
(2) 引用文献の記載事項
ア 引用文献1
(ア) 原査定の拒絶の理由で引用された引用文献である特開2014-222074号公報(以下「引用文献1」という。)には、図面とともに、次の記載がある(下線は、当審で参考のため、付与したものである。)。
「【請求項1】
支持面から配管を吊り下げて支持する配管の吊り下げ支持構造であって、
前記配管の保持位置から鉛直上方に位置する一点と、
前記保持位置の両側からそれぞれ上方かつ前記配管の軸方向の一方側及び他方側に位置する四点と、
の五点において前記支持面に前記配管が支持されることを特徴とする配管の吊り下げ支持構造。
【請求項2】
支持面から配管を吊り下げて支持する配管の吊り下げ支持装置であって、
前記配管を挿通させて保持する挿通保持部と、
前記挿通保持部から鉛直上方に延びて前記支持面に固定される鉛直支持部と、
前記挿通保持部の両側からそれぞれ上方かつ互いに離れる方向に延びるとともに、前記支持面に固定される一対の傾斜支持部と、を備え、
前記一対の傾斜支持部は、それぞれ、前記配管の軸方向一方側に延びる第一傾斜支持部と、前記配管の軸方向他方側に延びる第二傾斜支持部と、を有して構成されることを特徴とする配管の吊り下げ支持装置。
【請求項3】
前記挿通保持部は、前記配管が挿通される円環状の挿通保持部本体と、前記挿通保持部本体の上部において前記鉛直支持部を固定する鉛直固定部と、前記挿通保持部本体の径方向外側に向かって設けられるとともに前記一対の傾斜支持部を固定する一対の支持部固定部と、を有して構成され、
前記第一傾斜支持部は、前記支持部固定部に固定される第一連結部材と、一端部が前記第一連結部材に連結されるとともに他端部が前記支持面に延びて固定される第一棒状部材と、を有して構成され、
前記第二傾斜支持部は、前記支持部固定部に固定される第二連結部材と、一端部が前記第二連結部材に連結されるとともに他端部が前記支持面に延びて固定される第二棒状部材と、を有して構成されることを特徴とする請求項2に記載の配管の吊り下げ支持装置。」
「【背景技術】
【0002】
従来、支持面に配管を吊り下げて支持する方法として、種々提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載の配管支持装置は、配管をバンドで抱持支持した状態で床スラブ等の支持面から吊り下げ支持するとともに、一端が支持面に取り付けられる防振杆の他端がバンド端部を基準にバンド上の相対向する位置に取り付けられることにより配管の軸に交差する方向への揺れを防止することができる。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の吊り下げ支持構造は、配管の軸に交差する方向への揺れを防ぐことはできるが、配管の軸に沿う方向への揺れを防ぐことはできないという問題があった。
【0005】
従って、本発明は、上記のような問題点に着目し、配管を支持面から吊り下げて支持する際に、配管の軸に交差する方向のみならず、配管の軸に沿う方向への揺れをも防ぐことができる吊り下げ支持構造及び吊り下げ支持装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の吊り下げ支持構造は、支持面から配管を吊り下げて支持する配管の吊り下げ支持構造であって、前記配管の保持位置から鉛直上方に位置する一点と、前記保持位置の両側からそれぞれ上方かつ前記配管の軸方向の一方側及び他方側とに位置する四点と、の五点において前記支持面に前記配管が支持されることを特徴とする。
【0007】
本発明の吊り下げ支持構造によれば、配管の保持位置から鉛直上方に位置する一点と、保持位置の両側から軸交差方向に離れて位置し、かつ、配管の軸方向に沿った一方側及び他方側に位置する四点と、の五点において支持面に配管が支持されていることから、配管の軸に交差する方向のみならず、配管の軸に沿う方向への揺れをも防止することができる。」
「【発明の効果】
【0016】
以上のような本発明の吊り下げ支持構造及び吊り下げ支持装置によれば、配管の保持位置から鉛直上方に位置する一点と、保持位置の両側から軸交差方向に離れて位置し、かつ、配管の軸方向に沿った一方側及び他方側に位置する四点と、の五点において支持面に配管が支持されることにより、配管の軸方向と交差する方向のみならず、軸に沿った方向への揺れをも防止することができる。」
「【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の一実施形態に係る吊り下げ支持構造を図1?5を参照して説明する。本実施形態の吊り下げ支持構造は、図1に示すように、吊り下げ支持装置1を適宜な間隔で用いて、配管Pを天井Cの上部に設けられた床スラブの下面(支持面)Sから吊り下げ支持するものである。隣り合う吊り下げ支持装置1の間には、例えば、鉛直上方の一点において配管Pを支持する既存の支持装置Hが用いられる。」
「【0020】 挿通保持部2は、図3に示すように、金属板材を曲げ加工して形成され、配管Pを挿通させるとともに、ヒンジ211により回動可能に形成された略円環状の挿通保持部本体21と、挿通保持部本体21の上部に固定されるとともに、鉛直支持部3の下端部を固定する鉛直固定部22と、挿通保持部本体21の径方向外側に向かって設けられるとともに、傾斜支持部4を固定する一対の支持部固定部23と、を有して構成されている。挿通保持部本体21の上部には、挿通保持部本体21の端部がそれぞれ鉛直上方に屈曲した屈曲部212が形成され、鉛直固定部22の下端は屈曲部212に挟まれるとともに、ボルト等の固定具213により固定されている。また、支持部固定部23には、後述する固着具41が挿通される固着具挿通孔231が設けられている。」
「【0021】
鉛直支持部3は、図2に示すように、吊りボルト等の鉛直棒状部材31を有して構成され、鉛直棒状部材31の上端部は、例えば、支持面Sに設けられた埋め込みアンカーAに固定され、下端部は、挿通保持部2の鉛直固定部22に固定される。」
「【0024】 第一連結部材51及び第二連結部材61は、図3及び図4に示すように、金属板材を曲げ加工して形成され、それぞれ、挿通保持部2の支持部固定部23に固定される基端側連結面511,611と、第一棒状部材52、第二棒状部材62に固定される先端側連結面512,612と、基端側連結面511,611と先端側連結面512,612とを連結するとともに、上方かつ支持部固定部23から離れる方向に延びる傾斜面513,613と、を有して形成されている。基端側連結面511,611には、固着具41を挿通するための固着具挿通孔514,614が形成され、先端側連結面512,612には、第一棒状部材52、第二棒状部材62を挿通するための棒状部材挿通孔515,615が形成されている。」

「図1


図2













図3



(イ) 上記(ア)の記載事項から、以下の事項が認められる。
a.天井Cの上部に設けられた床スラブの下面である支持面から配管を吊り下げて支持する、配管の吊り下げ支持構造は、配管の吊り下げ支持装置と既存の支持装置Hとから構成され、隣り合う前記吊り下げ支持装置の間に、前記既存の支持装置Hが用いられるものである(【0018】、図1 )。
b.配管の吊り下げ支持装置の鉛直支持部は、床スラブの下面である支持面から吊り下げられる吊りボルトを有して構成され、前記吊りボルトに、鉛直固定部を介して、ヒンジにより回動可能に形成された略円環状の挿通保持部本体の端部をそれぞれ鉛直上方に屈曲した屈曲部を接続し、前記挿通保持部本体に挿通した配管を前記下面に吊り下げ支持する(【0020】、【0021】、図1、図3)。
c.挿通保持部本体の径方向外側に向かって設けられる、一対の支持部固定部には、各々固着具挿通孔が形成される(【0020】、図3)。
d.挿通保持部の両側に配置された第一連結部材及び第二連結部材は、端部にボルト(固着具)を挿通するための固着具挿通孔が形成され、前記第一連結部材及び前記第二連結部材の前記固着具挿通孔が重ねられて、支持部固定部に形成された固着具挿通孔に、ボルト(固着具)を挿通して固定される(【0024】、請求項3、図2?図5)。
(ウ) 上記(ア)及び(イ)から総合して、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「天井Cの上部に設けられた床スラブの下面である支持面から配管を吊り下げて支持する、配管の吊り下げ支持構造であって、
前記配管の吊り下げ支持構造は、配管の吊り下げ支持装置と既存の支持装置Hとから構成され、隣り合う前記吊り下げ支持装置の間に、前記既存の支持装置Hが用いられるものであり、
前記吊り下げ支持装置は、
前記配管を挿通させて保持する挿通保持部と、
前記挿通保持部から鉛直上方に延びて前記支持面に固定される鉛直支持部と、
前記挿通保持部の両側からそれぞれ上方かつ互いに離れる方向に延びるとともに、前記下面である支持面に固定される一対の傾斜支持部と、を備え、
前記挿通保持部は、前記配管が挿通される円環状の挿通保持部本体と、前記挿通保持部本体の上部において前記鉛直支持部を固定する鉛直固定部と、前記挿通保持部本体の径方向外側に向かって設けられるとともに前記一対の傾斜支持部を固定する一対の支持部固定部と、を有して構成され、
前記一対の傾斜支持部は、それぞれ、前記配管の軸方向一方側に延びる第一傾斜支持部と、前記配管の軸方向他方側に延びる第二傾斜支持部と、を有し、
前記第一傾斜支持部は、前記支持部固定部に固定される第一連結部材と、一端部が前記第一連結部材に連結されるとともに他端部が前記下面である支持面に延びて固定される第一棒状部材と、を有して構成され、
前記第二傾斜支持部は、前記支持部固定部に固定される第二連結部材と、一端部が前記第二連結部材に連結されるとともに他端部が前記下面である支持面に延びて固定される第二棒状部材と、を有して構成され、
前記鉛直支持部は、前記支持面から吊り下げられる吊りボルトを有して構成され、前記吊りボルトに、前記鉛直固定部を介して、ヒンジにより回動可能に形成された略円環状の前記挿通保持部本体の端部をそれぞれ鉛直上方に屈曲した屈曲部を接続し、前記挿通保持部本体に挿通した配管を前記下面に吊り下げ支持し、
前記一対の支持部固定部には、各々固着具挿通孔が形成され、
前記挿通保持部の両側に配置された前記第一連結部材及び前記第二連結部材は、それぞれ端部にボルトを挿通するための固着具挿通孔が形成され、前記第一連結部材及び前記第二連結部材の前記固着具挿通孔が重ねられて、前記支持部固定部に形成された前記固着具挿通孔に、ボルトを挿通して固定され、
前記既存の支持装置Hは、配管の保持位置から鉛直上方の一点において配管を支持する、
配管の吊り下げ支持構造。」
イ 引用文献4
(ア) 原査定の拒絶の理由で引用された引用文献である特開昭62-98015号公報(以下「引用文献4」という。)には、図面とともに、次の記載がある。
「ボルトのねじ軸に回転自在に装着され、ボルトの軸方向に弾性をもたせた脱落防止部材を具備し、ボルトを取付板を介して固定部材に締付けるとき、前記脱落防止部材が取付板と固定部材との間に装着されるようにしたことを特徴とするボルトの脱落又は紛失防止装置。」(特許請求の範囲)
「第1実施例
第1図、第2図が第1実施例であって、ボルト1は頭部2を有する通常のねじ軸である。ボルト1に装着する脱落防止部材は第1実施例ではリング10である。リング10は内周縁に中心部に向って突設させた3個の爪11,11と、外周縁に放射方向に突設し、交互に反対方向に折曲した6個の支持片12,12,13,13が設けられている。
上記脱落防止リング10の爪11,11によって形成される内径は、ボルト1のねじ谷部の直径と等しく、又、リング内径はボルト外径よりも若干大きく形成されている。
上記ボルト1を取付板3の透孔4に緩く挿通し、ねじ軸に脱落防止リング10を装着してボルト先端を固定部材5にねじ込む。固定部材5が薄くてねじが切れないときは、図示したようにナット6を固着すればよい。
これによりボルト1をナット6にねじ込んで締付けるとき、脱落防止リング10がナット6(固定部材5)に当接しても同リング10は供回りをするのでボルトを回転して締付けることができる。
又、ボルト1をナット6から緩めたときは、脱落防止リング10が取付板3に係合するのでボルト1は取付板3から抜け出るのを阻止される。」(公報2ページ右上欄13行?左下欄16行)



(イ) 上記(ア)から総合して、引用文献4には、次の事項(以下「引4事項」という。)が記載されていると認められる。
「ボルトを取付板を介して固定部材に締付けるとき、脱落防止部材が取付板と固定部材との間に装着されるようにし、ボルトをナットから緩めたときは、脱落防止部材が取付板に係合するのでボルトは取付板から抜け出るのを阻止されること。」
(3) 引用発明との対比
ア 本件補正発明と引用発明とを対比する。
(ア) 引用発明の「鉛直固定部」は、文言の意味、機能又は作用からみて、本件補正発明の「吊下接続部材」に相当する。
(イ) 引用発明の「天井Cの上部に設けられた床スラブの下面である支持面」は、「配管を吊り下げて支持」し、配管の取付面をなすから、本件補正発明の「天井スラブやトンネル天井等の取付面」に相当する。
そうすると、引用発明の「吊りボルト」は、「前記支持面から吊り下げられる」ものであるから、本件補正発明の「取付面から吊り下げられる吊りボルト」に相当する。
(ウ) 引用発明の「挿通保持部」の「前記配管が挿通される円環状の挿通保持部本体」は、本件補正発明の「配管類を抱持するバンド抱持部」に相当する。
(エ) 引用発明の「挿通保持部本体」には、「端部をそれぞれ鉛直上方に屈曲した屈曲部」が接続されているところ、該「屈曲部」は、本件補正発明の「該バンド抱持部の開放両端部に連設されたバンド端部」に相当する。
そうすると、引用発明の「前記吊りボルトに、前記鉛直固定部を介して、ヒンジにより回動可能に形成された略円環状の前記挿通保持部本体端部をそれぞれ鉛直上方に屈曲した屈曲部を接続」する態様は、本件補正発明の「吊りボルトに、吊下接続部材を介して前記バンド端部を接続」する態様に相当する。
(オ) 引用発明の「配管の吊り下げ支持装置」は、「挿通保持部」を備えるものであり、上記のとおり「挿通保持部」の「挿通保持部本体」は、本件補正発明の「配管類を抱持するバンド抱持部」に相当する。
そうすると、該「配管の吊り下げ支持装置」は、本件補正発明の「前記バンド抱持部に抱持した配管を前記取付面に吊下支持する配管吊下支持具」に相当する。
(カ) 引用発明の「配管の吊り下げ支持構造」を構成する「配管の吊り下げ支持装置」は、「前記支持面から吊り下げられる吊りボルトを有して構成され」、「隣り合う前記吊り下げ支持装置の間に、前記既存の支持装置Hが用いられるものであ」るから、「配管の吊り下げ支持装置」は、所定の間隔で複数配置されて、配管の長尺スパンにおける吊下支持が可能なものであることは明らかである。
そうすると、引用発明の「配管の吊り下げ支持構造」は、本件補正発明の「配管すべき略全域に亘って前記取付面から複数本の吊りボルトが所定間隔毎に吊り下げられ、この複数本の吊りボルトの各々に、前記配管吊下支持具が個々に接続されることにより、配管の長尺スパンにおける配管の吊下支持が可能な複数の配管吊下支持具を具備する配管の吊下支持構造」に相当するものと認められる。
(キ) 引用発明の「一対の支持部固定部」は、「前記挿通保持部本体の径方向外側に向かって設けられ」るものであるから、本件補正発明の「配管軸に直交するバンド抱持部の左右の側方部から横方向外側に各々延伸する左係止部・右係止部」に相当する。そして、引用発明の「前記一対の支持部固定部には、各々固着具挿通孔が形成され」ることは、本件補正発明の「これらの左係止部・右係止部には透孔が各々形成された構成であ」ることに相当する。
(ク) 引用発明の「挿通保持部の両側からそれぞれ上方かつ互いに離れる方向に延びるとともに、前記下面である支持面に固定される一対の傾斜支持部」は、「それぞれ、前記配管の軸方向一方側に延びる第一傾斜支持部と、前記配管の軸方向他方側に延びる第二傾斜支持部と、を有し」、「前記第一傾斜支持部は、前記支持部固定部に固定される第一連結部材と、一端部が前記第一連結部材に連結されるとともに他端部が前記下面である支持面に延びて固定される第一棒状部材と、を有して構成され」、「前記第二傾斜支持部は、前記支持部固定部に固定される第二連結部材と、一端部が前記第二連結部材に連結されるとともに他端部が前記下面である支持面に延びて固定される第二棒状部材と、を有して構成され」ることから、上記「一対の傾斜支持部」のうち、一方についてみれば、「前記配管の軸方向一方側」及び「前記配管の軸方向他方側」は、本件補正発明の「前記取付面であって前記吊りボルトの吊下位置に対して配管軸方向」の「左前方」及び「左後方」に相当し、引用発明の「第一棒状部材」及び「第二棒状部材」は、本件補正発明の「左前方吊下支持杆」及び「左後方吊下支持杆」に相当する。
そうすると、引用発明は、第一棒状部材及び第二棒状部材が、第一連結部材及び第二連結部材を介して支持部固定部の固着具挿通孔に接続されているといえるから、引用発明の「吊り下げ支持装置」は、本件補正発明の「バンド抱持部の左係止部の透孔には、前記取付面であって前記吊りボルトの吊下位置に対して配管軸方向の左前方位置と左後方位置に一端が固定されて斜めに吊下げられる2本の左前方吊下支持杆・左後方吊下支持杆の各々の他端が接続取付された状態で係合される構成」を備えるものである。
同様に、上記「一対の傾斜支持部」のうち他方についてみれば、引用発明の「吊り下げ支持装置」は、本件補正発明の「バンド抱持部の右係止部の透孔には、前記取付面であって前記吊りボルトの吊下位置に対して配管軸方向の右前方位置と右後方位置に一端が固定されて斜めに吊下げられる2本の右前方吊下支持杆・右後方吊下支持杆の各々の他端が接続取付された状態で係合される構成」を備えるものである。
(ケ) 引用発明の「前記配管の吊り下げ支持装置」は、挿通保持部から鉛直上方に延びる「鉛直支持部」及び挿通保持部の両側からそれぞれ上方に延びる「一対の傾斜支持部」を備えることから、当該支持の態様は、4点の斜めの吊り下げ支持と、吊りボルトによる1点の吊り下げ支持の5点で支持された構成となるから、引用発明の吊り下げ支持装置の上記構成は、本件補正発明の「この左前方吊下支持杆・左後方吊下支持杆・右前方吊下支持杆・右後方吊下支持杆による4点斜め吊下支持と、前記吊りボルトによる1点吊下支持と、によって合計5点吊下支持構成と成るサポート支持構成」に相当する。
また、引用発明の「既存の支持装置H」の「配管の保持位置から鉛直上方の一点において配管を支持する」構成は、本件補正発明の「前記吊りボルトのみによる1点吊下支持構成」と、「1点吊下支持構成」との限りで一致する。
(コ) 引用発明の「隣り合う前記吊り下げ支持装置の間に、前記既存の支持装置Hが用いられる」態様と、本件補正発明の「前記5点吊下支持サポート支持構成を有する配管吊下支持具と、1点吊下支持構成を有する配管吊下支持具と、を配管軸方向において交互に吊下配設した構成とすることによって、1点吊下支持構成を挟んで隣接するサポート支持構成を有する配管吊下支持具同士が平面視した際に配管軸方向において対称のサポート支持構成を有する構成であること」とは、「前記5点吊下支持サポート支持構成を有する配管吊下支持具と、1点吊下支持構成を有する配管吊下支持具と、を配管軸方向において吊下配設した構成とすること」の限りで一致する。
イ 以上のことから、本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
[一致点]
「配管類を抱持するバンド抱持部と、該バンド抱持部の開放両端部に連設されたバンド端部とを有し、
天井スラブやトンネル天井等の取付面から吊り下げられる吊りボルトに、吊下接続部材を介して前記バンド端部を接続して、前記バンド抱持部に抱持した配管を前記取付面に吊下支持する配管吊下支持具であって、
配管すべき略全域に亘って前記取付面から複数本の吊りボルトが所定間隔毎に吊り下げられ、この複数本の吊りボルトの各々に、前記配管吊下支持具が個々に接続されることにより、配管の長尺スパンにおける配管の吊下支持が可能な複数の配管吊下支持具を具備する配管の吊下支持構造において、
前記配管吊下支持具は、
前記バンド抱持部には、配管軸に直交するバンド抱持部の左右の側方部から横方向外側に各々延伸する左係止部・右係止部が設けられ、且つ、これらの左係止部・右係止部には透孔が各々形成された構成であり、
バンド抱持部の左係止部の透孔には、前記取付面であって前記吊りボルトの吊下位置に対して配管軸方向の左前方位置と左後方位置に一端が固定されて斜めに吊下げられる2本の左前方吊下支持杆・左後方吊下支持杆の各々の他端が接続取付された状態で係合される構成であり、
バンド抱持部の右係止部の透孔には、前記取付面であって前記吊りボルトの吊下位置に対して配管軸方向の右前方位置と右後方位置に一端が固定されて斜めに吊下げられる2本の右前方吊下支持杆・右後方吊下支持杆の各々の他端が接続取付された状態で係合される構成であり、
この左前方吊下支持杆・左後方吊下支持杆・右前方吊下支持杆・右後方吊下支持杆による4点斜め吊下支持と、前記吊りボルトによる1点吊下支持と、によって合計5点吊下支持構成と成るサポート支持構成と、
更に、1点吊下支持構成と、
を有して成り、
前記5点吊下支持サポート支持構成を有する配管吊下支持具と、1点吊下支持構成を有する配管吊下支持具と、を配管軸方向において吊下配設した構成とする、
複数の配管吊下支持具を具備する配管の吊下支持構造。」

[相違点1]
1点吊下支持構成について、本件補正発明は、「吊りボルトのみによ」り、吊り下げられたものであるのに対して、引用発明は、「既存の支持装置H」をなす「吊り下げ構造」の吊り部材については、具体的な特定はなされていない点。

[相違点2]
5点吊下支持サポート支持構成を有する配管吊下支持具と、1点吊下支持構成を有する配管吊下支持具と、を配管軸方向において吊下配設した構成について、本件補正発明は、「配管軸方向において交互に吊下配設した構成とすることによって、1点吊下支持構成を挟んで隣接するサポート支持構成を有する配管吊下支持具同士が平面視した際に配管軸方向において対称のサポート支持構成を有する構成であること、並びに上記5点吊下支持構成と、1点吊下支持構成との交互配設構成に基づく、地震波の入射方向が変わっても様々な振動方向にも対処する機能・特性を有すること」とされているのに対して、引用発明は、「隣り合う前記吊り下げ支持装置の間に、前記既存の支持装置Hが用いられる」とされるものの、配管の吊り下げ支持装置と既存の支持装置Hとを交互に配置することについては特定されておらず、また、地震波の入射方向が変わっても様々な振動方向にも対処する機能・特性を有することについても特定されていない点。

[相違点3]
本件補正発明は、「前記上接続板と下接続板との重層する一端の透孔に挿通したボルトに、該ボルトの螺旋部分に噛合うことによって該ボルトが該上接続板及び下接続板の透孔からの脱落を防止するボルトの脱落防止具が取り付けられる構成であること」とされているのに対して、引用発明は、そのような特定はなされていない点。

(4) 判断
ア 相違点1について
引用文献1の発明の詳細な説明には、引用発明の「鉛直上方の一点において前記配管を支持する既存の支持装置H」の吊り部材について、記載はなされていない。
しかしながら、引用文献1の図1(a)、(b)における配管の吊り下げ支持装置の鉛直支持部(3)と、「鉛直上方の一点において前記配管を支持する既存の支持装置H」の吊り部材とを比べると、支持装置Hも鉛直支持部(3)と同様に鉛直上方に吊り下げ支持するものであって、これらの構成を殊更違ったものとする理由はないから、引用発明の「配管の吊り下げ支持装置」の「鉛直支持部」が「吊りボルト」であることからすると、引用発明の「鉛直上方の一点において前記配管を支持する既存の支持装置H」の吊り部材も、吊りボルトであると理解するのが自然である。
また、仮に、そのように理解できないとしても、配管の吊り下げ支持装置の鉛直支持部(3)に用いられている吊りボルトを、引用発明の「鉛直上方の一点において前記配管を支持する既存の支持装置H」の吊り部材として採用することに困難性はない。
したがって、上記相違点1は、実質的な相違点でないか、または、引用発明において、上記相違点1に係る本件補正発明の構成を採用することは当業者が容易に想到し得たことである。
イ 相違点2について
引用発明は、「隣り合う前記吊り下げ支持装置の間に、前記既存の支持装置Hが用いられる」と特定しているが、当該吊り下げ支持装置の間に用いられる既存の支持装置Hの個数については、限定するものではない。また、引用文献1の図1において、支持装置Hが4個用いられている態様が図示されているが、発明の詳細な説明には、「その他、本発明を実施するための最良の構成、方法などは、以上の記載で開示されているが、本発明は、これに限定されるものではない。すなわち、本発明は、主に特定の実施形態に関して特に図示され、且つ、説明されているが、本発明の技術的思想および目的の範囲から逸脱することなく、以上述べた実施形態に対し、形状、材質、数量、その他の詳細な構成において、当業者が様々な変形を加えることができるものである。」(【0036】)と記載されており、当該吊り下げ支持装置の間に用いる支持装置Hの個数は、当業者が様々な変形を加えることができるものであり、支持装置Hの個数を1個とすることは、当業者にとって困難なことではない。
そして、当該吊り下げ支持装置の間に用いる支持装置Hの個数を1個としても、引用発明が「配管の軸方向と交差する方向のみならず、軸に沿った方向への揺れをも防止することができる」という課題を解決できることは、当業者には明らかである。
したがって、引用発明において、隣り合う配管の吊り下げ支持装置の間に、鉛直上方の一点において前記配管を支持する既存の支持装置Hを1個配置し、吊り下げ支持装置と支持装置Hとを、交互に配置することは、当業者が容易に想到し得たことである。
さらに、引用発明において、吊り下げ支持装置と支持装置Hとを、交互に配置することにより、支持装置Hを挟んで隣接する吊り下げ支持装置同士が平面視した際に配管軸方向において対称の構成となることは、各装置の配置からみて明らかである。
加えて、本件補正発明が、「地震波の入射方向が変わっても様々な振動方向にも対処する機能・特性を有すること」と特定することは、装置の構成を特定するものではなく、「5点吊下支持構成と、1点吊下支持構成との交互配設構成に基づ」いて奏する効果を説明しているに過ぎない。
そして、引用発明においても、「配管の軸方向と交差する方向のみならず、軸に沿った方向への揺れをも防止することができる」ものであり、本件補正発明と同様に、「地震波の入射方向が変わっても様々な振動方向にも対処する機能・特性を有する」ものと認められる。
以上のことから、引用発明において、上記相違点2に係る本件補正発明の構成を採用することは当業者が容易に想到し得たことである。
ウ 相違点3について
(ア) 本件補正発明は、「かつ前記上接続板と下接続板との重層する一端の透孔に挿通したボルトに、・・・」と特定しているが、当該記載箇所より前に「上接続板と下接続板」について特定する箇所はなく、「上接続板と下接続板」は判然としないものである。
(イ) そこで、本件明細書を参酌するに、以下の事項が記載されている(「・・・」は、省略を意味する。)。
「【図面の簡単な説明】
【0027】
・・・
【図7】右係止部(左係止部)と右前方吊下支持杆(左前方吊下支持杆)・右後方吊下支持杆(左後方吊下支持杆)の接続構成の更に他の例を示す要部概略平面図
【図8】図7の上接続板と下接続板とを重ね合わせた状態を示す側面図
【図9】図7の上接続板と下接続板とを一端部分において重層した状態を示す底面図」
「図7

図8








図9


「【0044】
図5に示す接続構成は、左係止部14(右係止部15)に、複数の透孔が設けられた板状部材から成る接続板部材10Aをボルト・ナット10Dにより接続し、この接続板部材10Aに設けられた2つの透孔の内の一方の透孔に左前方吊下支持杆6(右前方吊下支持杆8)を挿通してナット61(ナット81)により緊締すると共に、他方の透孔に左後方吊下支持杆7(右後方吊下支持杆9)を挿通してナット71(ナット91)により緊締する構成である。図5において、( )内に示す符号は、右係止部15の各構成、即ち、右係止部15、右前方吊下支持杆8、ナット81、右後方吊下支持杆9、ナット91を各々示す。尚、左係止部14に接続した接続板部材10Aは同構成のままで右係止部15に接続可能である。」
「【0046】
図7に示す接続構成は、2つの透孔及び屈曲部を有する同一形状又は近似形状の2枚の板部材である上接続板10Bと下接続板10Cとを、各々の一方の端部を重層した状態で右係止部15(左係止部14)にボルト・ナット10Dにより接続し、上接続板10Bの他方の端部に設けられた透孔に右前方吊下支持杆8(左前方吊下支持杆6)を挿通してナット81(ナット61)により緊締すると共に、下接続板10Cの他方の透孔に右後方吊下支持杆9(左後方吊下支持杆7)を挿通してナット91(ナット71)により緊締する構成である。図7において、( )内に示す符号は、左係止部14の各構成、即ち、左係止部14、左前方吊下支持杆6、ナット61、左後方吊下支持杆7、ナット71を各々示す。図7に示す実施例に用いられる上接続板10B・下接続板10Cは、図8の重ね合わせた状態を示す側面図から判るように同形・同大の同一形状となっている。かかる構成によれば、上接続板10Bと下接続板10Cとを重層する際に上下関係に注意を払うことな
く、どちらが上でも下でも接続板部材として機能し、更に、その製造に際しては金型等の製造設備が一種でよいために生産効率が高く、製造コストを下げることができ、一種類の板部材のみが製造されるため在庫管理・発注受注管理・納品管理が容易である。
【0047】
更に、図9に示すように、上接続板10Bと下接続板10Cの重層部分の透孔に挿通したボルトにクリップ等の脱落防止具10Eを装着することによってナットを外してもボルトが透孔から脱落することを防止できる。従って、取付け作業における作業性が良好であり、ボルト等のパーツ落下や紛失等を抑制することができるので、作業効率が高いだけでなく安全性向上にも寄与する。」
(ウ) 上記(イ)の記載事項から、「上接続板と下接続板」について、次の事項が認められる。
「上接続板と下接続板」は、2枚の板部材であり、各々の一方の端部を重層した状態で右係止部(左係止部)にボルト・ナットにより接続し、上接続板の他方の端部に設けられた透孔に右前方吊下支持杆(左前方吊下支持杆)を挿通してナットにより緊締すると共に、下接続板の他方の透孔に右後方吊下支持杆(左後方吊下支持杆)を挿通してナットにより緊締するものである。
(エ) そうすると、引用発明の「第二連結部材」及び「第一連結部材」は、各文言の意味、機能又は作用からみて、本件補正発明の「上接続板」及び「下接続板」に相当する。
そして、引用発明の「前記第一連結部材及び前記第二連結部材の前記固着具挿通孔が重ねられて、前記支持部固定部に形成された前記固着具挿通孔に、ボルトを挿通して固定され」る態様は、本件補正発明の「前記上接続板と下接続板との重層する一端の透孔に挿通したボルト」を用いる態様に相当する。
また、引用発明において、ボルトを用いて部材を固定する場合に、作業時におけるボルトの脱落を防止を図りたいことは、自明の課題である。
さらに、上記引4事項の「ボルトを取付板を介して固定部材に締付けるとき、脱落防止部材が取付板と固定部材との間に装着されるようにし、ボルトをナットから緩めたときは、脱落防止部材が取付板に係合するのでボルトは取付板から抜け出るのを阻止されること」から、脱落防止部材がボルトの螺旋部分に噛合うことで抜け止めとなっていることは自明である。
加えて、ボルトを用いて部材を固定する場合に、作業時におけるボルトの脱落防止を図るために、ボルトの螺旋部分に噛合う、ボルトの脱落防止具を取り付けることは、本願出願前に周知の事項でもある。
以上のことから、引用発明において、上記引4事項を適用することには動機付けがあり、上記相違点3に係る本件補正発明の構成を採用することは、当業者が容易に想到し得たことである。
なお、請求人は、以下の主張をしている。
「先ず、引用文献4に記載のボルトの脱落防止具は、上接続板及び下接続板の透孔からボルトが脱落するのを防止する構成については、全く触れておらず、示唆さえもありません。かかる引用文献4の技術は、ボルト脱落防止部10が取付板3と固定部材5との間に装着される構成であり、かかる固定部材5が可動部材であることについて全く触れていないだけでなく示唆さえもなく、本願発明とは作用効果に大差があります。」(「3-1)本願発明の技術的本質について」参照。)
しかしながら、上記引4事項は、ボルトを用いて部材を固定するものにおいて、ボルトが脱落することを防ぐために脱落防止具を設けることを示すものであり、ボルトの脱落防止具を用いる対象が異なっても、ボルトに脱落防止具を用いること自体は、当業者が容易に想到し得たことであるので、上記請求人の主張は採用できない。
(5) 小括
したがって、本件補正発明は、引用発明及び引4事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4 本件補正についてのむすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項に規定する要件に違反するものであり、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。
また、仮に本件補正が特許請求の範囲の減縮を目的とするものと解釈した場合であっても、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
令和1年5月17日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?8に係る発明は、平成30年9月21日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、前記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
請求項1についての原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1に係る発明は、本願の出願前に頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
引用文献1:特開2014-222074号公報

3 引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された上記引用文献1の記載事項は、前記第2[理由]3(2)アに記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明は、本件補正発明から、「かつ前記上接続板と下接続板との重層する一端の透孔に挿通したボルトに、該ボルトの螺旋部分に噛合うことによって該ボルトが該上接続板及び下接続板の透孔からの脱落を防止するボルトの脱落防止具が取り付けられる構成である」との限定を省いたものである。
そうすると、本願発明と引用発明とを対比するに、上記相違点1及び相違点2においてのみ、両者は相違することとなり、上記相違点1及び相違点2についての判断は、前記第2[理由]3(4)判断に記載したとおりであるから、本願発明は、同様に引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2020-03-31 
結審通知日 2020-04-07 
審決日 2020-05-01 
出願番号 特願2017-151259(P2017-151259)
審決分類 P 1 8・ 57- Z (F16L)
P 1 8・ 121- Z (F16L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 西塚 祐斗柳本 幸雄岩▲崎▼ 則昌  
特許庁審判長 紀本 孝
特許庁審判官 平城 俊雅
山崎 勝司
発明の名称 複数の配管吊下支持具を具備する配管の吊下支持構造  
代理人 坂口 信昭  

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