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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C01B
管理番号 1363699
審判番号 不服2017-11567  
総通号数 248 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-08-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-08-03 
確定日 2020-07-01 
事件の表示 特願2015-120779号「リチウムまたはナトリウムビス(フルオロスルホニル)イミダイドを製造する方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年11月19日出願公開、特開2015-205815号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2012年(平成24年)4月6日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2011年5月24日(FR)フランス国、2012年3月23日(FR)フランス国)を国際出願日とする特願2014-511928号の一部を平成27年6月16日に新たな特許出願としたものであって、その後の手続の概要は、以下のとおりである。
平成28年 5月25日 拒絶理由通知書
同年 8月24日 意見書・手続補正書
同年10月28日 拒絶理由通知書
平成29年 2月 1日 意見書
同年 3月30日 拒絶査定
同年 8月 3日 審判請求
平成30年 4月18日 当審による(1回目)拒絶理由通知書
同年10月23日 意見書・補正書
平成31年 1月 8日 当審による(2回目)拒絶理由通知書
令和 1年 7月 9日 意見書・補正書
同年 9月24日 当審による(3回目)拒絶理由通知書
同年12月 2日 意見書・補正書

第2 本願発明について
本願請求項1ないし3に係る発明(以下、これらを纏めて「本願発明」という。)は、令和1年9月24日付けの当審による(3回目)拒絶理由通知書に対して提出された同年12月2日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載の事項により特定される、以下のとおりのものである。(当審注:下線は、「重量」から「質量」に補正された箇所を示すものであり、当審が付与した。)
「 【請求項1】 少なくとも99.9質量%のリチウムまたはナトリウムビス(フルオロスルホニル)イミドと、各々最大でも1000ppmのLiCl、LiF、およびLiFSO_(3)、またはNaCl、NaF、およびNaFSO_(3)を含み、周期表の11?15族および4?6周期のカチオンからの塩を含有せず、トルエンを含まない、組成物。
【請求項2】 各々最大でも500ppmのLiCl、LiF、およびLiFSO_(3)、またはNaCl、NaF、およびNaFSO_(3)を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】 最大でも5ppmのLiFSO_(3)を含む、請求項1または2に記載の組成物。」

第3 当審による拒絶理由
平成31年1月8日付けの当審による(2回目)拒絶理由通知書における理由3(以下、「拒絶理由(実施可能要件)」という。)は、平成30年4月18日付けの当審による(1回目)拒絶理由通知書に対して提出された同年10月23日付け手続補正書において補正された特許請求の範囲の請求項1ないし3に係る発明(以下、これらを纏めて「本願補正前発明」という。)に対して、『発明の詳細な説明は、当業者が「少なくとも99.9重量%のリチウムまたはナトリウムビス(フルオロスルホニル)イミド」を「含」む「組成物(最終生成物)」を実際に得ることができる程度に明確かつ十分に(実質的に)記載するものではないので、特許法第36条第4項第1号の規定に適合するものではない。』とするものであるところ、本願補正前発明と[補正後の]本願発明とは、前者が「重量%」であり、後者が「質量%」であるというだけの違いであって、両者の技術的内容は、実質的に同一であるということができる。
そこで、本願発明が、上記拒絶理由(実施可能要件)により拒絶されるものであるか否かについて、以下、検討することとする。

第4 当審の判断(実施可能要件)
本願発明は、「少なくとも99.9質量%のリチウムまたはナトリウムビス(フルオロスルホニル)イミド」を「含」む「組成物(最終生成物)」を発明特定事項にするものである。
ここで、実施可能要件を定めた特許法第36条第4項第1号は、明細書の発明の詳細な説明の記載は、「その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したもの」でなければならないと定めるところ、この規定にいう「実施」とは、物の発明においては、当該発明にかかる物の生産、使用等をいうものであるから、実施可能要件を満たすためには、明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が当該発明に係る物を生産し、使用することができる程度のものでなければならない。
そこで、明細書の発明の詳細な説明が、上記発明特定事項における「少なくとも99.9質量%のリチウムまたはナトリウムビス(フルオロスルホニル)イミド」(以下、「本願発明に係るイミド(化合物)」という。)を当業者が生産し、使用することができる程度に記載するものであるか否かについて検討する。
最初に、本願発明に係るイミド(化合物)を製造する工程がどのようなものであるかについて、明細書の発明の詳細な説明をみてみると、式(III)のビス(スルホナト)イミド三塩を調製する工程(第1部【0035】-【0050】)、式(V)のビス(フルオロスルホニル)イミド酸を調製する工程(第2部【0051】-【0064】)、式(VII)のMFSI(リチウム又はナトリウムビス(フルオロスルホニル)イミド塩)を調製する工程(第3部【0065】-【0070】)を経ることで本願発明に係るイミド(化合物)が得られることの記載があり、次いで、上記工程においてどのような精製が行われているかについて、明細書の発明の詳細な説明をみてみると、
「【0064】 続いてビス(フルオロスルホニル)イミド酸を精製する。反応の最後に、有機溶媒を用いて残留固形物からこの酸を抽出する。不純物は、有機溶媒に不溶であるか、またはわずかしか溶けないためである。この有機溶媒は、好ましくはジメチルカーボネートである。」
「【0075】実施例1-カリウムビス(スルホナト)イミド三塩の合成 乾燥したガラスの丸底フラスコ中、溶媒なしで反応を行う。スルファミン酸1.61gに、撹拌しながらクロロスルホン酸1.1mlを添加する。続いて、トリエチルアミン2mlを添加する。この反応混合物を1日撹拌しながら放置する。水20mlの添加によって反応を停止させる。続いて、水酸化カリウム2.79gを添加する。最終生成物が沈殿し、ろ過によって回収され、CH_(2)Cl_(2)30ml×2で洗浄される。
【0076】実施例2-カリウムビス(クロロスルホニル)イミドの合成 250mlの丸底フラスコに、三塩15.3gを添加する。続いて塩化オキサリル60mlを液滴添加し、その後ジメチルホルムアミド1mlを液滴添加する。この反応媒質を3時間還流撹拌すると、溶液は色が黄色くなる。反応の最後には、溶液をろ過し、塩素化合物および塩化カリウムを含む白色固体(w=19.0g)を得る。
【0077】実施例3-ビス(フルオロスルホニル)イミドの合成 800mlのオートクレーブに、カリウムビス(クロロスルホニル)イミドと塩化カリウムとの混合物19.0gを添加する。続いて、フッ化水素20gを周囲温度で添加する。この反応媒質を3時間撹拌する。続いて、過剰なフッ化水素および放出される塩化水素を、気流によって取り除く。その後、明るい黄色を有する固体を得る。」等の記載がある。
上記記載からみて、【0064】(第2部の工程)、【0075】実施例1(第1部の工程)、【0076】実施例2(第2部の工程)、【0077】実施例3(第2部の工程)において精製が行われているといえるものの、ここで得られているものは、ビス(フルオロスルホニル)イミド酸(【0064】)、カリウムビス(スルホナト)イミド三塩(【0075】実施例1)、カリウムビス(クロロスルホニル)イミド(【0076】実施例2)、ビス(フルオロスルホニル)イミド(【0077】実施例3)であって、本願発明に係るイミド(化合物)が得られている訳ではないことからして、上記精製は、本願発明に係るイミド(化合物)そのものを得るためのものではない。
加えて、本願発明におけるLiCl、LiF、FSO_(3)Li、またはNaCl、NaF、FSO_(3)Naを含む不純物の総計を0.1質量%未満にするための技術は、複数の[それぞれ特性が異なる]不純物の除去に最も適切な精製手段(単独または組合せ)の選択及び精製条件の設定を必要とする技術(特化された精密な技術)であるといえるところ、このような技術は、明細書の発明の詳細な説明において具体的に記載されておらず、また、本願出願時の技術常識であるともいえない。
したがって、明細書の発明の詳細な説明は、本願出願時の技術常識を考慮したとしても、当業者が本願発明に係るイミド(化合物)を生産し、使用することができる程度に記載するものではない。

次に、請求人の主張について検討する。
請求人は、平成30年4月24日付けの当審による(1回目)拒絶理由通知書に対して提出した同年7月9日付け意見書において、
『本願明細書段落[0005]に記載された国際公開第2010/113483号は、実施例において、ビス(フルオロスルホニル)イミド塩の抽出による精製、及び濾過による分離等を記載しています。
本願明細書段落[0006]に記載された国際公開第2010/113835号は、実施例において、アセトニトリルに溶解し、未溶解成分を濾過し、次いでアセトニトリルを留去することによるビス(フルオロスルホニル)イミド塩の精製方法を記載しています。
本願明細書段落[0007]に記載された国際公開第2009/123328号は、第32頁第8行-第24行において、「本発明においては、水、有機溶媒、及びこれらの混合溶媒を用いた分離抽出法により目的物を容易に精製することができる。」こと、及び「上記溶媒で洗浄する方法、再沈殿法、分離抽出法、再結晶法、結晶化法、クロマトグラフィーによる精製法等の従来公知の精製方法を採用することができる。」ことを記載しています。
更に、引用文献1(国際公開第2011/149095号)には、水、有機溶媒およびこれらの混合溶媒を用いたデカンテーション、遠心分離、濾過などの分離方法によるビス(フルオロスルホニル)イミド塩の精製方法が記載されています(引用文献1の明細書段落[0088]、[0090]、[0092]-[0095])。
従って、本願明細書に記載された文献中の記載及び引用文献1中の記載に基づいて、当業者が、ビス(フルオロスルホニル)イミド塩の、水、有機溶媒、及びこれらの混合溶媒を用いた分離抽出法、再沈殿法、分離抽出法、再結晶法、結晶化法、クロマトグラフィーによる精製法等の、従来公知の精製方法を採用することは困難ではなかったものと思料致します。』との主張をしているものの、LiCl、LiF、FSO_(3)Li、またはNaCl、NaF、FSO_(3)Naを含む不純物の総計を0.1質量%未満にするのに最も適切な精製手段(単独または組合せ)の選択及び精製条件の設定について何ら具体的に示すものではないことからして、請求人の主張をもって、本願発明の実施可能要件が満たされることになるとはいえないので、請求人の主張を採用することはできない。

よって、本願発明は、平成31年1月8日付けの当審による(2回目)拒絶理由通知書における理由3(実施可能要件)により拒絶すべきものである。

第5 むすび
以上のとおり、本願請求項1ないし3に係る発明は、特許法第36条第4項第1号の要件に適合するものではなく、特許を受けることができないものである。
したがって、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2020-01-30 
結審通知日 2020-02-04 
審決日 2020-02-17 
出願番号 特願2015-120779(P2015-120779)
審決分類 P 1 8・ 536- WZ (C01B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 壷内 信吾  
特許庁審判長 服部 智
特許庁審判官 金 公彦
豊永 茂弘
発明の名称 リチウムまたはナトリウムビス(フルオロスルホニル)イミダイドを製造する方法  
代理人 園田・小林特許業務法人  

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