• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1363711
審判番号 不服2019-195  
総通号数 248 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-08-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-01-09 
確定日 2020-07-01 
事件の表示 特願2016-537133「モノリシックに相互接続された薄膜ソーラーセルの製造のための、基板上の薄膜のレーザーによる構造化の方法、及び薄膜ソーラーモジュールの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 3月 5日国際公開、WO2015/027997、平成28年 9月23日国内公表、特表2016-529724〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2014年(平成26年)8月28日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2013年8月30日、ドイツ)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯の概要は以下のとおりである。

平成30年 2月28日付け:拒絶理由通知書
平成30年 5月31日 :意見書、手続補正書の提出
平成30年 9月 6日付け:拒絶査定(原査定)
平成31年 1月 9日 :審判請求書の提出

第2 本願発明
本願の請求項に係る発明は、平成30年5月31日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。

「モノリシックに相互接続された薄膜ソーラーセルの製造のための、基板上の薄膜のレーザーによる構造化の方法であって、以下のステップ、即ち
レーザー波長を有するレーザーを準備するステップと、
第1の側と第2の側を有し、前記レーザー波長に対し透明な基板(1)を準備するステップであって、当該基板の前記第1の側には金属製の後部電極薄膜(2)があり、前記金属製の後部電極薄膜(2)の上には薄膜ソーラーセルのための吸収薄膜(3)が配置されている、ステップと、
レーザー光線(L)を前記基板に照射するステップと、
前記基板(1)上でスクライブ線に沿って前記レーザー光線(L)を動かすステップ、及び/又はスクライブ線に沿って前記基板(1)を前記レーザー光線(L)に対して動かすステップと、
を含み、
前記レーザー光線(L)は、前記基板(1)の前記第2の側に照射され、前記基板(1)を通過して前記金属製の後部電極薄膜(2)に入射し、前記金属製の後部電極薄膜(2)の上に配置された前記吸収薄膜(3)が前記スクライブ線に沿って除去され、かつ前記基板の上にレーザーの影響を受けた金属製の後部電極薄膜(2)が残るよう、設定され、又動かされ、
前記レーザー光線のレーザーパルスは、ピコ秒、又はフェムト秒領域に設定され、
前記スクライブ線沿いでは前記レーザーパルスの空間的重なりが10?50%になることが保証されるよう、前記レーザー光線(L)及び/又は前記基板(1)が動かされ、
パルス当たりのパルスエネルギーが、15?30μJの範囲から選択される、
方法。」

第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の下記の請求項に係る発明は、本願の優先権主張の日(以下「優先日」という。)前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本願の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

●理由2(特許法第29条第2項)について
・請求項1-9
・引用文献等1-2

<引用文献等一覧>
引用文献1.特開2012-227188号公報
引用文献2.米国特許出願公開第2012/0238049号明細書

第4 引用文献の記載及び引用発明
1 原査定の拒絶の理由で引用された本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1には、図面とともに、次の記載がある(下線は、当審で付した。以下同じ。)。

(1)「【請求項1】
基板上に第一の電極膜、非シリコン系発電層及び第二の電極膜が積層されてなる薄膜太陽電池の製造方法であって、
基板母材の一方の表面に第一の電極膜に重ねて製膜される発電層の材料の沸点が第一の電極膜の材料の沸点よりも低く、
発電層をセル単位に分割する分離溝を形成するレーザ加工工程の際、レーザ光を第一の電極膜及び発電層が製膜される面の裏側から基板母材越しに照射して第一の電極膜に照射することにより、発電層のみまたは発電層及び第二の電極膜の両方を除去することを特徴とする薄膜太陽電池の製造方法。
【請求項2】
第一の電極膜がモリブデンを含むものであり、
発電層がCIGS系、CIS系またはカルコパイライト系の結晶構造を含むものである請求項1記載の薄膜太陽電池の製造方法。」

(2)「【0015】
図2に示すように、第一のレーザ加工工程(b)では、レーザ光41を照射して、裏面電極膜1をセル単位に分割する複数本の分離溝11を切削形成する。レーザ光41は、図中左方に示すように基板0側から当該基板0を透過させて裏面電極膜1に照射してもよいし、図中右方に示すように膜面側から基板0を透過させず直接裏面電極膜1に照射してもよい。レーザ光41は例えば、波長1064nmの近赤外レーザ、または波長532nmの緑色レーザとする。レーザ光41のパルス幅は特に限定されず、ピコ秒レーザであってもナノ秒レーザであってもよい。
【0016】
図3に示すように、製膜工程(c)では、発電層2たる光吸収層、特にCIGS、CIGSS、CIS、CZTS等の半導体膜を、CVD法等により裏面電極膜1上に蒸着する。このとき、発電層2の構成材料が、先に裏面電極膜1に形成した分離溝11内に入り込む。さらに、半導体膜に重ねて、ZnS、InS等のバッファ層を蒸着することがある。このバッファ層は、発電層2の一部をなし、キャリアの移動を一部せき止めるような働きをする。
【0017】
図4に示すように、第二のレーザ加工工程(d)では、レーザ光42を照射して、発電層2をセル単位に分割する複数本の分離溝21を切削形成する。このレーザ光42は、基板0側から当該基板0を透過させて裏面電極膜1に照射する。レーザ光42は、第一のレーザ加工工程(b)におけるレーザ光41と同様のものとすることができる。
【0018】
レーザ加工工程(d)に関して詳述する。裏面電極膜1の材料であるMoは、融点が2623℃、沸点が4682℃である。これに対し、発電層2の材料である銅(Cu)の沸点は2571℃、イリジウム(In)の沸点は2072℃、ガリウム(Ga)の沸点は2204℃、セレン(Se)の沸点は648℃であって、何れもMoの融点より低い。CIGS、CIGSS、CIS、CZTS等の半導体膜を主体とする発電層2におけるSeの含有率は比較的大きい。
【0019】
裏面電極膜1はレーザ光42を殆ど透過させないが、レーザ光42の照射を受けた裏面電極膜1はレーザ光42のエネルギにより加熱される。この熱は、裏面電極膜1と発電層2との界面から発電層2に伝わる。結果、発電層2が加熱され、半導体膜の分解が生じ、顕著に沸点の低いSeが蒸発して圧力を増し、発電層2に微細な機械的破壊を生じさせ、遂には発電層2をあまり溶融させることなく爆発的に吹き飛ばす作用が営まれるものと推察される。
【0020】
第二のレーザ加工工程(d)では、レーザ光42の焦点合わせ、出力及び光軸の向き(レーザ光42の照射箇所におけるパワー密度に直結する)を緻密にコントロールすることが望ましい。つまるところ、裏面電極膜1及び/または発電層2において、裏面電極膜1の融点以下かつ発電層2の沸点以上の温度となるように、レーザ光42の出力等を制御する。基本的には、レーザ光42のパルス幅が短いほど発電層2の加工性が向上すると予想される。レーザ光42のピークパワーの上昇は加工性に寄与し、パルス幅の短縮は裏面電極膜1の溶融の抑制に寄与する。
【0021】
図5に示すように、製膜工程(e)では、第二の電極膜3たる透明導電膜、特にZnO等のTCO膜を、CVD法等により発電層2上に蒸着する。このとき、TCO膜3の構成材料が、先に発電層2に形成した分離溝21内に入り込む。
【0022】
しかして、図6に示すように、第三のレーザ加工工程(f)では、レーザ光43を照射して、TCO膜3をセル単位に分割する複数本の分離溝31を切削形成する。レーザ光43は、図中左方に示すように基板0側から当該基板0を透過させて裏面電極膜1に照射する。即ち、第二のレーザ加工工程(d)と同じ作用により発電層2を吹き飛ばし、その上に重なっているTCO膜3を諸共吹き飛ばすことで、TCO膜3及び発電層2を貫く分離溝31を形成する。レーザ光43は、第一のレーザ加工工程(b)または第二のレーザ加工工程(d)におけるレーザ光41、42と同様のものとすることができる。
【0023】
以上の工程(a)ないし(f)を経て、図7中矢印で表しているように電荷の通り道が完成し、複数のセルを直接接続した太陽電池の構造が完成する。
【0024】
本実施形態の製造方法に含まれるレーザ加工工程(d)を実施するためのレーザ加工機は、発電層2をセル単位に分割する分離溝21を形成するためのレーザ光42を、基板0側から当該基板0を透過させて第一の電極膜1に照射するレーザ光照射手段を具備する。
【0025】
レーザ光照射手段は、レーザ発振器が発振する波長1064nmまたは波長532nmのパルスレーザを伝搬させる光学系と、光学系を介して供給されるパルスレーザを基板0の被加工面に製膜された積層膜1、2、3に向けて出射させる加工ノズル52とを組み合わせてなる。光学系は、光ファイバ、ミラー、レンズ等の任意の光学要素を用いて構成することができる。加工ノズル52は、膜面を上にした基板0に対し、基板0の下方から上向きにレーザ光を打ち上げるものである。
【0026】
加工ノズル52は、基板0に対して相対変位可能に設ける。典型的には、薄膜1、2、3に形成する分離溝11、21、31が延伸するY軸方向に往復走行でき、かつY軸方向とは直交するX軸方向(光起電力素子として機能するセルが並ぶ方向、セルとセルとを分かつ分離溝11、21、31が並ぶ方向)にピッチ送り移動できるリニアモータ台車等に、加工ノズル52を支持させる。分離溝11、21によって多数のセルを区画する都合上、加工ノズル52はX軸方向に複数基配列させて設置することが望ましい。因みに、不動の基板0に対して加工ノズル52をX軸方向及び/またはY軸方向に移動させるのに替えて、基板0自体を加工ノズル52に対してX軸方向及び/またはY軸方向に移動させ得る機構を実装することも考えられる。」

(3)図4は、以下のとおりである。



2 引用発明
上記1の記載から、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「基板上にモリブデンを含む第一の電極膜、非シリコン系発電層及び第二の電極膜が積層されてなる薄膜太陽電池の製造方法であって、
発電層をセル単位に分割する分離溝を形成するレーザ加工工程を含み、
基板母材の一方の表面に第一の電極膜に重ねて製膜される発電層の材料の沸点が第一の電極膜の材料の沸点よりも低く、
基板に対してパルスレーザを出射させる加工ノズルを分離溝が延伸するY軸方向に移動させ、又は、基板自体をパルスレーザを出射させる加工ノズルに対して分離溝が延伸するY軸方向に移動させ、
発電層をセル単位に分割する分離溝を形成するレーザ加工工程の際、レーザ光を第一の電極膜及び発電層が製膜される面の裏側から基板母材越しに照射して第一の電極膜に照射することにより、発電層のみを除去し、
ここで、発電層に微細な機械的破壊を生じさせ、遂には発電層をあまり溶融させることなく爆発的に吹き飛ばす作用が営まれるものと推察され、
前記レーザ加工工程では、レーザ光はピコ秒レーザであり、
前記レーザ加工工程では、レーザ光出力及び光軸の向き(レーザ光42の照射箇所におけるパワー密度に直結する)を緻密にコントロールし、レーザ光のパルス幅が短いほど発電層の加工性が向上すると予想される、
薄膜太陽電池の製造方法。」

第5 対比
本願発明と引用発明を対比する。
1 引用発明の「『基板上にモリブデンを含む第一の電極膜、非シリコン系発電層及び第二の電極膜が積層されてなる薄膜太陽電池の』『レーザ加工工程』による『製造方法』」は、本願発明の「モノリシックに相互接続された薄膜ソーラーセルの製造のための、基板上の薄膜のレーザーによる構造化の方法」に、
引用発明の「レーザ加工工程」は、本願発明の「レーザー波長を有するレーザーを準備するステップ」、「レーザー光線(L)を前記基板に照射するステップ」に、
引用発明の「『基板母材の一方の表面』、『レーザ光を第一の電極膜及び発電層が製膜される面の裏側』を有する『基板母材』」は、本願発明の「第1の側と第2の側を有し、前記レーザー波長に対し透明な基板(1)」に、
引用発明の「『基板母材の一方の表面に』『モリブデンを含む』『第一の電極膜に重ねて製膜される発電層』」は、本願発明の「当該基板の前記第1の側には金属製の後部電極薄膜(2)があり、前記金属製の後部電極薄膜(2)の上には薄膜ソーラーセルのための吸収薄膜(3)」に、
引用発明の「基板に対してパルスレーザを出射させる加工ノズルを分離溝が延伸するY軸方向に移動させ、又は、基板自体をパルスレーザを出射させる加工ノズルに対して分離溝が延伸するY軸方向に移動させ」は、本願発明の「『前記基板(1)上でスクライブ線に沿って前記レーザー光線(L)を動かすステップ、』『又はスクライブ線に沿って前記基板(1)を前記レーザー光線(L)に対して動かすステップ』」に、
引用発明の「発電層をセル単位に分割する分離溝を形成するレーザ加工工程の際、レーザ光を第一の電極膜及び発電層が製膜される面の裏側から基板母材越しに照射して第一の電極膜に照射することにより、発電層のみを除去し」は、本願発明の「前記レーザー光線(L)は、前記基板(1)の前記第2の側に照射され、前記基板(1)を通過して前記金属製の後部電極薄膜(2)に入射し、前記金属製の後部電極薄膜(2)の上に配置された前記吸収薄膜(3)が前記スクライブ線に沿って除去され、かつ前記基板の上にレーザーの影響を受けた金属製の後部電極薄膜(2)が残るよう、設定され、又動かされ」に、
それぞれ相当する。

2 引用発明の「レーザ加工工程では、レーザ光はピコ秒レーザであり」は、本願発明の「前記レーザー光線のレーザーパルスは、ピコ秒、又はフェムト秒領域に設定され」と、「前記レーザー光線のレーザーパルスは、ピコ秒領域に設定され」の点で一致する。

3 以上のことから、本願発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。

【一致点】
「モノリシックに相互接続された薄膜ソーラーセルの製造のための、基板上の薄膜のレーザーによる構造化の方法であって、以下のステップ、即ち
レーザー波長を有するレーザーを準備するステップと、
第1の側と第2の側を有し、前記レーザー波長に対し透明な基板(1)を準備するステップであって、当該基板の前記第1の側には金属製の後部電極薄膜(2)があり、前記金属製の後部電極薄膜(2)の上には薄膜ソーラーセルのための吸収薄膜(3)が配置されている、ステップと、
レーザー光線(L)を前記基板に照射するステップと、
前記基板(1)上でスクライブ線に沿って前記レーザー光線(L)を動かすステップ、又はスクライブ線に沿って前記基板(1)を前記レーザー光線(L)に対して動かすステップと、
を含み、
前記レーザー光線(L)は、前記基板(1)の前記第2の側に照射され、前記基板(1)を通過して前記金属製の後部電極薄膜(2)に入射し、前記金属製の後部電極薄膜(2)の上に配置された前記吸収薄膜(3)が前記スクライブ線に沿って除去され、かつ前記基板の上にレーザーの影響を受けた金属製の後部電極薄膜(2)が残るよう、設定され、又動かされ、
前記レーザー光線のレーザーパルスは、ピコ秒領域に設定される、
方法。」

【相違点1】
レーザー光線(L)及び/又は前記基板の動かすステップが、本願発明は「前記スクライブ線沿いでは前記レーザーパルスの空間的重なりが10?50%になることが保証されるよう」にするのに対し、引用発明はそのようなものか明らかでない点。

【相違点2】
レーザー光線のパルス当たりのパルスエネルギーについて、本願発明は「パルス当たりのパルスエネルギーが、15?30μJの範囲から選択される」のに対し、引用発明はそのようなものか明らかでない点。

第6 判断
1 相違点1について
(1)引用発明は「レーザ加工工程では、レーザ光はピコ秒レーザであり」、「基板に対してパルスレーザを出射させる」、「発電層をセル単位に分割する分離溝を形成するレーザ加工工程」と特定されている。
当該特定のパルスレーザで、発電層をセル単位に分割する分離溝を形成するためには、パルスレーザを基板の分割溝に沿って、一部重ねて照射させているものと解される。
その場合に、パルスレーザの重なりを10%以上にして照射することは、当業者が適宜なし得た事項にすぎない。

(2)また、引用発明は「基板に対してパルスレーザを出射させる加工ノズルを分離溝が延伸するY軸方向に移動させ、又は、基板自体をパルスレーザを出射させる加工ノズルに対して分離溝が延伸するY軸方向に移動させ」と特定されている。
その場合に、パルスレーザの重なりを50%以下にして、上記特定の移動を行うことは、当業者が適宜なし得た事項にすぎない。

(3)上記(1)、(2)から、引用発明において、パルスレーザの空間的重なりが10?50%になるように、基板に対してパルスレーザを出射させる加工ノズルを分離溝が延伸するY軸方向に移動させ、又は、基板自体をパルスレーザを出射させる加工ノズルに対して分離溝が延伸するY軸方向に移動させ、適切な分割溝を形成するようになすことは、当業者が適宜なし得た事項にすぎない。

(4)なお、「レーザーパルスの空間的重なりが10?50%になる」との数値範囲について、本願明細書の【0021】には「好適には、スクライブ線沿いではレーザーパルスの空間的重なりが10?50%になることが保証されるよう、レーザー光線及び/又は基板が動かされることにより、きれいなカット線(Schnittlinien)が実現される。」と記載されているものの、当該数値限定に臨界的意義は認められない。

2 相違点2について
(1)引用発明は「発電層に微細な機械的破壊を生じさせ、遂には発電層をあまり溶融させることなく爆発的に吹き飛ばす作用が営まれるものと推察され、前記レーザ加工工程では、レーザ光はピコ秒レーザであり、前記レーザ加工工程では、レーザ光出力及び光軸の向き(レーザ光42の照射箇所におけるパワー密度に直結する)を緻密にコントロールし、レーザ光のパルス幅が短いほど発電層の加工性が向上すると予想される」と特定されている。

(2)また、レーザに関する技術において、パルスレーザのパルス当たりのパルスエネルギーを、15?30μJの範囲から選択することは、周知技術(必要ならば、特表2011-517622号公報(特に、請求項3、【0003】参照)、特開2012-176420号公報(特に、【0024】参照)を参照されたい。)である。

(3)そうすると、引用発明において、レーザ光出力を緻密にコントロールし、上記作用を発生させるに際し、パルスレーザのパルス当たりのパルスエネルギーを、15?30μJの周知技術の範囲から選択するようになすことは、当業者が適宜なし得た事項にすぎない。

(4)なお、「パルス当たりのパルスエネルギーが、15?30μJの範囲から選択される」との数値範囲について、本願明細書の【0022】には「好適には、使用されるレーザーパルスのパルスエネルギーの更に好適な範囲として、パルス当たりのパルスエネルギーは1?100μJの範囲から、好ましくは15?30μJの範囲から選択されるとする。」と記載されているものの、当該数値限定に臨界的意義は認められない。

3 そして、相違点を総合的に勘案しても、本願発明の奏する作用効果は、引用発明及び周知技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

4 したがって、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

5 審判請求人の主張について
(1)審判請求人は、平成31年1月9日付けで提出された審判請求書において、「引用文献1には、ピコ秒レーザーは欠点を有し、高価であることが記載されています(引用文献1の段落[0004])。したがって、引用文献1はピコ秒レーザーを用いることとは逆の教示をするものです。」、「レーザー光線のレーザーパルスをピコ秒またはフェムト秒領域に設定し、所定のレーザーパルスの空間的重なりおよびパルスエネルギーに設定することにより、爆発方式にて薄膜を吹き飛ばし、機械的に除去します。本願発明の如く、薄膜を蒸発させることを目的とすることなく機械的に除去するという技術的思想を引用文献1が開示しない以上、引用文献1の記載内容から本願発明のレーザー光の照射条件には容易に想到し得ません。しかも、レーザー光の照射条件の検討には非常に費用がかかりますので、単なる条件の最適化には相当しません。」と、主張している。

(2)しかしながら、上記第4の2で認定した引用発明は、ピコ秒レーザが特定されている。なお、引用文献1には「レーザ光のパルス幅が短いほど発電層の加工性が向上すると予想される」とレーザ光のパルス幅を短くすることの利点も記載されている。
また、上記第4の2で認定した引用発明は「発電層に微細な機械的破壊を生じさせ、遂には発電層をあまり溶融させることなく爆発的に吹き飛ばす作用が営まれるものと推察され」と特定され、引用発明は機械的に除去するという技術的思想を開示していると解される。

したがって、審判請求人の主張は採用することはできない。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2020-01-28 
結審通知日 2020-02-04 
審決日 2020-02-17 
出願番号 特願2016-537133(P2016-537133)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 吉野 三寛  
特許庁審判長 瀬川 勝久
特許庁審判官 野村 伸雄
近藤 幸浩
発明の名称 モノリシックに相互接続された薄膜ソーラーセルの製造のための、基板上の薄膜のレーザーによる構造化の方法、及び薄膜ソーラーモジュールの製造方法  
代理人 特許業務法人はるか国際特許事務所  
  • この表をプリントする

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ