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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 補正却下を取り消さない。原査定の理由により拒絶すべきものである。 C12N
管理番号 1363712
審判番号 不服2019-1811  
総通号数 248 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-08-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-02-08 
確定日 2020-07-01 
事件の表示 特願2016- 89021「メチシリン耐性微生物の検出方法」拒絶査定不服審判事件〔平成28年10月 6日出願公開、特開2016-174610〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成15年9月23日を国際出願日とする特願2004-537238号出願(パリ条約による優先権主張外国庁受理2002年9月23日 フランス)の一部を平成21年3月31日に特許法第44条第1項の規定に基づき新たな出願とした特願2009-84877号の一部を平成25年11月1日に特許法第44条第1項の規定に基づき新たな出願とした特願2013-228133の一部を平成28年4月27日に特許法第44条第1項の規定に基づき新たな出願としたものであって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成29年 1月26日付け:拒絶理由通知書
平成29年 7月28日 :意見書、手続補正書の提出
平成29年11月30日付け:拒絶理由(最後の拒絶理由)通知書
平成30年 5月31日 :意見書、手続補正書の提出
平成30年10月 3日付け:平成30年5月31日の手続補正についての補正の却下の決定、拒絶査定
平成31年 2月 8日 :審判請求書、手続補正書の提出

第2 平成31年2月8日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成31年2月8日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された。(下線部は、補正箇所である。)
「メチシリン耐性黄色ブドウ球菌を直接検出するための培地であって、該微生物の増殖のための栄養分に加えて、セフォキシチンである抗生物質、および該黄色ブドウ球菌において活性のある酵素による加水分解後に発色団(chromophore)を放出する色原性物質(chromogenic agent)を含み、前記色原性物質が5-ブロモ-6-クロロ-3-インドキシルリン酸および5-ブロモ-4-クロロ-3-インドキシルグルコシドからなる群より選択され、前記培地は、少なくとも2カ月にわたる安定性を有する、培地。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の、平成29年7月28日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
「患者から直接得た試料中のメチシリン耐性黄色ブドウ球菌を検出するための培地であって、該微生物の増殖のための栄養分に加えて、セフォキシチンである抗生物質、および該黄色ブドウ球菌において活性のある酵素による加水分解後に発色団(chromophore)を放出する色原性物質(chromogenic agent)を含み、前記色原性物質が5-ブロモ-6-クロロ-3-インドキシルリン酸および5-ブロモ-4-クロロ-3-インドキシルグルコシドからなる群より選択され、前記培地は、少なくとも10^(4)個または10^(8)個のうちの1つがメチシリンに対し耐性であるメチシリン耐性黄色ブドウ球菌を検出する感度を有する、培地。」

2 補正の適否
本件補正は、本件補正前の「患者から直接得た試料中の」及び「前記培地は、少なくとも10^(4)個または10^(8)個のうちの1つがメチシリンに対し耐性であるメチシリン耐性黄色ブドウ球菌を検出する感度を有する」という直列的な発明特定事項の削除を含み、その点において特許請求の範囲を拡張するものであるから、改正前の特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮に該当せず、また、請求項の削除、誤記の訂正、明りようでない記載の釈明に該当しないことは明らかであるから、改正前の特許法第17条の2第4項に掲げるいずれの目的にも合致するものとはいえない。
したがって、本件補正は、改正前の特許法第17条の2第4項に規定する要件に違反するものであり、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成29年7月28日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、前記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。

第4 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由のうちの一つは、概略、以下のとおりのものである。

この出願の請求項1?8に係る発明は、本願の優先権主張の日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1?5に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1:Journal of Clinical Microbiology,2002年 7月,Vol.40, No.7,pp.2480-2482
引用文献2:Journal of Clinical Microbiology,2002年 8月,Vol.40, No.8,pp.2766-2771
引用文献3:国際公開第00/53799号
引用文献4:特開平5-227992号公報
引用文献5:Antimicrobial Agents and Chemotherapy,1986年,Vol.29, No.1,pp.85-92

第5 引用文献
原査定で引用された引用文献1?5には、それぞれ以下の事項が記載されている。引用文献1、2、5は英語、引用文献3は仏語で記載されているため、翻訳文を記載する。なお、引用文献1、2、5の翻訳は当審によるものであり、引用文献3については、引用文献3のパテントファミリーである特表2002-537852号公報の記載を翻訳文とする。また、下線は当審にて付したものである。

1 引用文献1に記載の事項
(引1-1)
「2つの新規な選択培地である、oxacillin resistance screening agar base(ORSAB)およびCHROMagar Staph aureus(CSA)は、これらの培地に抗菌剤を添加することにより、黄色ブドウ球菌の同定とメチシリン耐性のスクリーニングに関して評価された。1,140のブドウ球菌からなる明確に定義されたコレクションが使用された。計624は、358がメチシリン感受性で、266がメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)であり、516は、コアグラーゼ陰性ブドウ球菌であった。ファージタイピングの結果に基づいて、メチシリン耐性S. aureus(MRSA)菌株が選択された;247の異なるタイプが分析に含まれた。黄色ブドウ球菌の同定については、両方の培地共に、48時間後より24時間後の方が、より良好に機能した。24時間で感度は、同等(CSA、98.6%; ORSAB、97.1%)であったが、CSAの特異性は、有意に高かった(CSA、97.1%。ORSAB、92.1%)。メチシリン耐性のスクリーニングのため、抗生物質添加物が両培地に加えられた。感度は24時間後(CSA、58.6%; ORSAB、84.2%)に低く、48時間後(CSA、77.5%; ORSAB、91.4%)に有意に増加した。両時間では、ORSABはCSAより有意に感度がよかった。しかしながら、両方の培地の特異性は24時間後(CSA、99.1%; ORSAB、98.3%)が高く、インキュベーション48時間後に有意に減少した(CSA、94.7%; ORSAB、95.5%)。結論として、黄色ブドウ球菌の同定については、CSAは、有意に高い特異性があるので、ORSABより正確である。MRSAのスクリーニングのために、ORSABはCSAより良く機能するが、株のかなりの数が検出されないため、臨床の現場での有用性は限られる。」(2480頁、要約の項)

(引1-2)
「CSA(CHROMagar Microbiology、Paris、France)は黄色ブドウ球菌の同定用の新しい色原体の培地である。培地は次の成分を含んでいる:ペプトン、40.0g/リットル;寒天、15.0g/リットル;塩化ナトリウム、25.0g/リットル;そして色原体のミックス、3.5g/リットル。色原体のミックスの組成物は専売である。この寒天培地は、メーカー及び他(8)によって提案されているように、4.0mg/リットルのオキサシリンの添加有り(CSA+)、および、その添加なし(CSA)でテストされた。」(2481頁左欄13行?18行)

(引1-3)
「MRSAをスクリーニングするために、抗菌性の補助剤がプレートに加えられた。得られた結果はそれほど良好ではなかった。CSA+については、MSSA(メチシリン感受性黄色ブドウ球菌)分離株のどれもプレート上で成長せず、CNS(コアグラーゼ陰性スタフィロコッカス)の1.6%だけが24時間後に偽陽性の結果を与えたので、非常に高い特異性が観察された。しかしながら、24時間後、MRSA分離株の58.6%のみが陽性の結果を与えた。培養期間の延長は、77.5%まで感度を改善したが、偽陽性の結果を与えたCNSのパーセンテージもまた8.9%に増加した。」(2481頁右欄17行?末行)

(引1-4)
「表2 CSA+とORSAB+における24と48時間の培養の結果



2 引用文献2に記載の事項
(引2-1)
「非常に低レベルのメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)、すなわちクラス1のMRSAは、メチシリン感受性黄色ブドウ球菌(MSSA)としてしばしば誤診される。私たちは、低レベルのメチシリン耐性の検知のための3つの方法の性能を評価した:セファマイシン抗生物質セフォキシチン、およびモキサラクタムを使用するディスク拡散法、Vitek 2システム(bioMerieux)およびMRSA-スクリーンテスト(Denka)である。PCRによるmecA遺伝子の検知は、"至適基準"であると考えられる。さらに、私たちは、5-μgと1-μgディスクを使って、オキサシリンディスク拡散の感度とMRSA検出のために6mg/lオキサシリンを使用したオキサシリン寒天分析の感度を決定した。私たちは、MRSA及びMSSA分離株に対し、E-test(AB Biodisk)によりオキサシリンとセフォキシンのそれぞれの最小阻止濃度(MIC)の分布と寒天中の希釈によりモキサラクタムのそれを比較した。研究された152の黄色ブドウ球菌臨床分離株は、69 のMSSA(mecA-陰性)と83の MRSA(mecA-陽性)に分けられ、63の不均一分離株及び26のクラス1の分離株(低レベルの抵抗)を含んでいた。セフォキシチンやモキサラクタムのディスク拡散テストは、すべてのMRSAクラスの100%を検知し:セフォキシチン阻止帯直径は<27mmで、そして、モキサラクタム阻止帯直径は<24mmであった。Vitek 2システムおよびMRSA-スクリーンテストは、それぞれすべてのMRSA分離株の94%および97.6%を検知した。5-及び1-μgオキサシリンディスクの感度は、それぞれ95.2および96.4%であったが、それに対してオキサシリン寒天選択分析のそれは94%であった。1-μgオキサシリンディスクテストを除く全てのテストは、100%特異的であった。クラス1のMRSA分離株については、Vitek 2テストの感度は92.3%であったが、しかし、セフォキシチンやモキサラクタムを使用したMRSA-スクリーンテスト及びディスク拡散法のそれは100%であった。したがって、セフォキシチン、およびモキサラクタムのディスク拡散法は、すべてのクラスのMRSAの規定通りの検出に対し最良の性能のテストであった。」(2766頁、要約)

(引2-2)
「MRSAの4つの表現型クラスがインビトロのメチシリンMIC集団分析に基づいてTomaszらによって特定された。これらのクラスのうち3つは不均一(クラス1から3)、そして、1つは同種だった(クラス4)。クラス4のメチシリンMICは>800 mg/lだった。クラス1?3の分離株の主要集団のメチシリンMICはそれぞれ1.5?100 mg/lであり、それぞれ10^(-8)?10^(-2)の少数集団については、メチシリンMICは>100 mg/lだった(27)。」(2766頁右欄2行?10行)

(引2-3)
「規定通りのオキサシリンによるテストではしばしば不均一MRSAを検知することができず、それらは大抵の非ベータラクタム系抗ブドウ球菌の抗生物質に対して通常の感受性であるため、メチシリン感受性黄色ブドウ球菌(MSSA)とみなされる。」(2766頁右欄22行?26行)

(引2-4)
「表1 83のMRSA臨床分離株の検出のための推奨されるオキサシリン法及び新規方法における感受性



(引2-5)
「表2 83のmecA-陽性(MRSA)及び69のmecA-陰性(MSSA)黄色ブドウ球菌分離株に対するセフォキシチン、及びモキサラクタムのディスク拡散試験における抑制ゾーン直径



(引2-6)
「セフォキシチン、およびモキサラクタムのディスク拡散試験。1つのクラス1 MRSA分離株(分離株112)および1つのMSSA分離株(分離株9)の30℃での低密度接種(いずれも26 mmのセフォキシチン抑制ゾーン直径を与えた(表2))を除き、MRSAおよびMSSA分離株の阻害ゾーン直径の範囲は非常に明確だった。 37℃の低密度接種では、すべてのMRSA分離株はセフォキシチン阻害ゾーン直径<27mm、モキサラクタム阻害ゾーン直径<24 mmを示し、すべてのMSSA分離株はより大きな直径を示した。これらの臨界的直径が得られ、セフォキシチンとモキサラクタムのディスク拡散法では感受性及び特異性が100%だった(表1)。」(2768頁左欄15行?2同右欄5行)

(引2-7)
「オキサシリン、セフォキシチンおよびモキサラクタムの最少阻止濃度(MIC)。E-testで不均一成長の場合では、記録されたMICは、最も抵抗性の集団の成長阻害の最高限度と一致していた。E-testでのオキサシリンのMICは、MSSA分離株では全て2mg/l未満であり、MRSA分離株では0.38?256mg/lであった(91.6%のMRSA分離株のMICは2mg/lを超えており、8.4%のMRSA分離株のMICは0.38?1.5mg/lであって、それらは全てクラス1の分離株であった)(図1)。E-testでのセフォキシチンのMICは、MSSA分離株では4mg/l未満である一方、MRSA分離株は全て4mg/l以上であった(図1)。MSSA分離株ではセフォキシチンのMICの中央値は2mg/lであり、クラス1、クラス2及びクラス3、並びにクラス4のMRSA分離株のセフォキシチンのMICの中央値はそれぞれ、32、48、256mg/lであった。全てのMSSA分離株のモキサラクタムのMICは、8mg/l以下であり、一つを除きMRSA分離株は全て8mg/lを超えていた(128の分離株、MICは4mg/lであった)(図1)。MSSA分離株ではモキサラクタムのMICの中央値は8mg/lであり、不均一MRSA分離株と均一なMRSA分離株のMICの中央値はそれぞれ32mg/lと32mg/l超であった。」(2768頁右欄6行?25行)

(引2-8)


図1 黄色ブドウ球菌mecA-陰性(MSSA)及びmecA-陽性(MRSA)分離株における、オキサシリン、セフォキシチン、及びモキサラクタムの累積最小阻止濃度の分布」(2769頁 図1)

(引2-9)
「セフォキシチンとモキサラクタムのディスク拡散試験はすべての条件下(低密度の接種と30℃でのインキュベーションのテスト条件下の1分離株を除く)で、MRSAに対して100%敏感で特異的であることが判明した。これは、セファマイシンディスク試験(セフォキシチンまたはモキサラクタム)が常用の37度での抗生物質感受性試験のためのオキサシリンディスク法の代替として利用可能であることを示す(24)。」(2769頁 右欄1行?7行)

(引2-10)
「結論として、セフォキシチン、およびモキサラクタムのディスク拡散法は、MRSA、特にクラス1分離株の検出に非常に適していた。」(2771頁 最終段落1行?3行)

3 引用文献3に記載の事項
(引3-1)
「【請求項1】黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)の検出用培地であって、黄色ブドウ球菌培地中に、下記2種類の色素産生剤:
・5-ブロモ-6-クロロ-3-インドキシルホスフェートおよび
・5-ブロモ-4-クロロ-3-インドキシルグルコシド、
の少なくとも一方を含み、かつデフェロキサミンをさらに含むことを特徴とする培地。」

(引3-2)
「【0012】
「色素産生剤」なる用語は、特定の菌株の存在下で、特に該菌株の酵素系の作用下に色を変化させる化合物を意味するものである。
本発明に係る培地を使用すると、黄色ブドウ球菌の存在下で5-ブロモ-6-クロロ-3-インドキシルホスフェートによる藤紫色の染色を観察することが可能となり、一方、5-ブロモ-4-クロロ-3-インドキシルグルコシドは、黄色ブドウ球菌を染色することなく、大多数のストレプトコッカス菌株を青に染色する。」(引用文献3(国際公開第00/53799号)の2頁26?32行に相当)

4 引用文献4に記載の事項
(引4-1)
「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は細菌培養用培地に関し、黄色ブドウ球菌特にはメチシリン耐性黄色ブドウ球菌の同定に有用な細菌培養用培地に関する。さらに詳しくは、細菌感染症が疑われる患者から採取した臨床材料又は細菌感染が疑われる環境から採取した試料(以下これらを単に試料と略記する)を直接塗布して培養した場合に、簡易かつ正確に黄色ブドウ球菌、特にはメチシリン耐性黄色ブドウ球菌を同定することができる細菌培養用培地に関する。」

5 引用文献5に記載の事項
(引5-1)
「不均一なメチシリン耐性黄色ブドウ球菌は以下の2つのサブ集団からなる:高濃度メチシリンに37℃で耐性な少数の細胞(10^(-5)?10^(-3)、MIC 600?1,000μg/ml)及び当該薬に37℃で感受性を維持する多数の細胞(MIC5μg/ml)。」(85頁、要約4行?7行)

(引5-2)
「メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)分離株は、しばしば不均一性と呼ばれる特性を持つ(1,10,18,23,24)。 この用語は、MRSAの特定の株内で、わずかな割合のCFU(コロニー形成単位)のみが、通常のインキュベーション温度37℃およびpH7.0の成長培地でベータラクタム抗生物質に対する耐性を発現できるという事実を指す。 不均一性の程度は可変だが、通常、10^(4)?10^(7)CFUのうち1CFUだけが耐性の表現型を有する。」(85頁、左欄1行?9行)

第6 引用文献1に記載の発明
(引1-1)には「2つの新規な選択培地である、oxacillin resistance screening agar base(ORSAB)およびCHROMagar Staph aureus(CSA)は、これらの培地に抗菌剤を添加することにより、黄色ブドウ球菌の同定とメチシリン耐性のスクリーニングに関して評価された。」と記載されており、引用文献1において、CSA培地に抗菌剤を添加した培地が黄色ブドウ球菌のメチシリン耐性のスクリーニングに用いられたと認められる。
そして、(引1-2)には、「CSA(CHROMagar Microbiology、Paris、France)は黄色ブドウ球菌の同定用の新しい色原体の培地である。・・(途中省略)・・この寒天培地は、メーカー他によって示唆されるような4.0mg/リットルでオキサシリンの添加(CSA+)、およびその添加なしで(CSA)テストされた。」と記載されており、CSAは、黄色ブドウ球菌の同定用の色原体の寒天培地であり、CSA+は、CSAにオキサシリンを添加して調製されたものであることが理解される。また、(引1-2)には、CSA培地がペプトンを含むことが記載されている。
さらに、(引1-3)及び(引1-4)には、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)をスクリーニングするためにCSA+を用いたところ、メチシリン感受性黄色ブドウ球菌(MSSA)の成長が抑止され、MRSAについては、58.6%の感度であるとはいえ、非常に高い特異性で検出できたことが記載されていると認められる。
以上の事項から、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「MRSAのスクリーニングに用いる培地であって、ペプトン及びオキサシリンを含み、かつ色原体ミックスを含む、CSA+培地。」

第7 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明における「MRSAのスクリーニングに用いる」とは、スクリーニングされた黄色ブドウ球菌はMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)と同定されることに鑑みれば、本願発明の「メチシリン耐性黄色ブドウ球菌を検出する」ことに相当する。
引用発明のペプトンは、本願発明の「該微生物の増殖のための栄養分」に相当する。
引用発明の「オキサシリン」と本願発明の「セフォキシチン」は、抗生物質である点で共通する。
引用発明の「色原体ミックス」は本願発明の「該黄色ブドウ球菌において活性のある酵素による加水分解後に発色団(chromophore)を放出する色原性物質(chromogenic agent)」と「色原性物質(chromogenic agent)」である点で共通する。

したがって、両者は、
「メチシリン耐性黄色ブドウ球菌を検出するための培地であって、該微生物の増殖のための栄養分に加えて、抗生物質、および色原性物質(chromogenic agent)を含む、培地。」である点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点1)
培地が含む抗生物質が、本願発明ではセフォキシチンであるのに対して、引用発明ではオキサシリンである点。
(相違点2)
色原性物質について、本願発明では「該黄色ブドウ球菌において活性のある酵素による加水分解後に発色団(chromophore)を放出する色原性物質(chromogenic agent)を含み、前記色原性物質が5-ブロモ-6-クロロ-3-インドキシルリン酸および5-ブロモ-4-クロロ-3-インドキシルグルコシドからなる群より選択され」と特定されているのに対し、引用発明では具体的な色原性物質が特定されていない点。
(相違点3)
本願発明では「患者から直接得た試料中の」メチシリン耐性黄色ブドウ球菌を検出することが特定されているのに対し、引用発明ではスクリーニングに供する検出試料の由来が特定されていない点。
(相違点4)
本願発明では「前記培地は、少なくとも10^(4)個または10^(8)個のうちの1つがメチシリンに対し耐性であるメチシリン耐性黄色ブドウ球菌を検出する感度を有する」と特定されているのに対し、引用発明はかかる割合で耐性菌を有するメチシリン耐性黄色ブドウ球菌を検出するものではない点。

第8 判断
1 相違点1及び4について
(引2-1)に「非常に低レベルのメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)、すなわちクラス1のMRSAは、メチシリン感受性黄色ブドウ球菌(MSSA)としてしばしば誤診される」こと、(引2-3)に「規定通りのオキサシリンによるテストではしばしば不均一MRSAを検知することができず、それらは…メチシリン感受性黄色ブドウ球菌(MSSA)とみなされる」ことが記載されていることから、引用文献2には、規定通りのオキサシリンによるテストではしばしば不均一メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)を検知できず、メチシリン感受性黄色ブドウ球菌(MSSA)と誤診されることがあったことが記載されているといえる。
また、(引2-9)に「セファマイシンディスク試験(セフォキシチンまたはモキサラクタム)が常用の37度での抗生物質感受性試験のためのオキサシリンディスク法の代替として利用可能であることを示す」、(引2-10)に「結論として、セフォキシチン、およびモキサラクタムのディスク拡散法は、MRSA、特にクラス1分離株の検出に非常に適していた。」と記載されることから、引用文献2には、セフォキシチンを用いたディスク拡散法は、MRSA、特にクラス1のMRSAの検出に適しており、常用のオキサシリンディスク法の代替として利用可能であることが記載されているといえる。このことは、(引2-4)、(引2-5)に記載の試験データに言及した(引2-6)において、「セフォキシチンとモキサラクタムのディスク拡散法では感受性及び特異性が100%だった」と記載され、また、(引2-8)に記載の試験データに言及した(引2-7)においても、「E-testでのセフォキシチンのMICは、MSSA分離株では4mg/l未満である一方、MRSA分離株は全て4mg/l以上であった」と、セフォキシチンではMSSAとMRSAとでMIC(最小抑止濃度)に重なりがなく、MSSAの成長を阻害しつつMRSAを成長させるような選択的な濃度条件を設定することが理論上可能であったことから裏付けられる。
そして、(引2-2)の「クラス1?3の分離株の主要集団のメチシリンMICはそれぞれ1.5?100 mg/lであり、それぞれ10^(-8)?10^(-2)の少数集団については、メチシリンMICは>100 mg/lだった」という記載から、最もMRSAの混入量が少ないMRSAクラス1の分離株は、主要集団が1.5mg/lのメチシリンMICを有し、10^(-8)の少数集団が>100mg/lのメチシリンMICを有するものであると理解できる。
以上より、引用文献2には以下の事項が記載されていると認める。
(引2-11)
「オキサシリンによるテストではしばしば不均一メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)を検知できず、メチシリン感受性黄色ブドウ球菌(MSSA)と誤診されることがあった一方、セフォキシチンを用いたディスク拡散法は、MRSA、特に主要集団が1.5mg/lのメチシリンMICを有し、10^(-8)の少数集団が>100mg/lのメチシリンMICを有する、クラス1のMRSAの検出に適しており、常用のオキサシリンディスク法の代替として利用可能である。」

上記(引2-11)における「10^(-8)」は1/10^(8)と同義であることから、「10^(-8)の少数集団」とは10^(8)個のうちの1個の割合で存在する集団を意味すると理解される。そうすると、上記(引2-11)における「主要集団が1.5mg/lのメチシリンMICを有し、10^(-8)の少数集団が>100mg/lのメチシリンMICを有する、クラス1のMRSA」は、本願発明の「10^(8)個のうちの1つがメチシリンに対し耐性であるメチシリン耐性黄色ブドウ球菌」に相当するといえる。
また、引用文献5の(引5-1)、(引5-2)には、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌の中には、メチシリンに耐性である少数の細胞と、メチシリンに感受性である多数の細胞との2つのサブ集団からなる不均一なメチシリン耐性黄色ブドウ球菌が存在することが記載され、特に(引5-2)には、10^(4) CFU (コロニー形成単位)のうち1CFUだけが耐性の表現型を有するメチシリン耐性黄色ブドウ球菌についても記載されており、これは、本願発明の「10^(4)個…のうちの1つがメチシリンに対し耐性であるメチシリン耐性黄色ブドウ球菌」に相当する。
さらに、本願優先時において、オキサシリンとセフォキシチンはいずれもメチシリン耐性黄色ブドウ球菌検出培地における汎用の抗生物質であったと認められる(要すれば特開平6-217760号公報【0018】、特開平7-303477号公報特許請求の範囲参照)。
ここで、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌検出培地において、感度及び特異性を向上させ、誤診のリスクを低減させることは、当業者にとり自明の課題である。してみると、かかる課題を解決しようとし、抗生物質として、オキサシリンに替えて、引用文献2にオキサシリンの代替物として記載され、MRSA検出培地において汎用のものでもあるセフォキシチンを用い、クラス1のMRSA(10^(8)個のうちの1つがメチシリンに対し耐性であるメチシリン耐性黄色ブドウ球菌)の高感度・高特異的な検出を可能せしめることは当業者が容易に想到し得たことである。さらに、引用文献5に記載された10^(4)個のうちの1つがメチシリン耐性であるメチシリン耐性黄色ブドウ球菌は、上記クラス1のMRSAよりも耐性菌の存在割合が高く、MRSA検出培地での検出がクラス1のMRSAよりは容易であると考えられるところ、かかる引用文献5に記載されたメチシリン耐性黄色ブドウ球菌についても同様に検出できることを確認することも、当業者が適宜なし得たことである。
したがって、抗生物質としてオキサシリンを含むという相違点1に係る構成、及び、「前記培地は、少なくとも10^(4)個または10^(8)個のうちの1つがメチシリンに対し耐性であるメチシリン耐性黄色ブドウ球菌を検出する感度を有する」という相違点4に係る構成に至ることは、当業者が容易になし得たことである。

2 相違点2について
(引1-1)に記載されるように、CSA培地とは「CHROMagar Staph aureus」であり、(引1-2)の記載から、これは「CHROMagar Microbiology、Paris、France」が販売する製品の名称であると認められる。
一方、本願発明の培地、すなわち「…黄色ブドウ球菌において活性のある酵素による加水分解後に発色団(chromophore)を放出する色原性物質(chromogenic agent)を含み、前記色原性物質が5-ブロモ-6-クロロ-3-インドキシルリン酸および5-ブロモ-4-クロロ-3-インドキシルグルコシドからなる群より選択される、培地」に該当するものとして、本願明細書の実施例2には、同じ製品名の「CHROMagar Staph aureus(CSA)」を使用したことが記載されている。
そうすると、引用発明のCSA+培地に含まれる「色原体ミックス」は、本願発明にいう「黄色ブドウ球菌において活性のある酵素による加水分解後に発色団(chromophore)を放出する色原性物質(chromogenic agent)を含み、前記色原性物質が5-ブロモ-6-クロロ-3-インドキシルリン酸および5-ブロモ-4-クロロ-3-インドキシルグルコシドからなる群より選択される」ものに相当すると認められる。
したがって、相違点2は実質的な相違点とはいえない。
また、仮に相違点2が実質的な相違点だとしても、以下の通りである。
引用発明の「色原体ミックス」として、引用文献3に記載される黄色ブドウ球菌を検出するための色素産生剤である「5-ブロモ-6-クロロ-3-インドキシルホスフェートおよび5-ブロモ-4-クロロ-3-インドキシルグルコシドの少なくとも一方」を用いることは、当業者が容易になし得ることである。ここで、引用文献3の色素産生剤は、(引3-2)の記載からみて、本願発明にいう「黄色ブドウ球菌において活性のある酵素による加水分解後に発色団(chromophore)を放出する色原性物質(chromogenic agent)」に相当すると認められる。
したがって、相違点2に係る構成に至ることは当業者が適宜なし得たことである。

3 相違点3について
相違点3の「患者から直接得た試料」とは、患者から採取した試料であって、菌培養等の追加の処理をしていない試料を意味すると認められる。
ここで、上記(引4-1)のとおり、引用文献4に、細菌感染症が疑われる患者から採取した臨床材料を直接塗布して培養した場合に、簡易かつ正確にメチシリン耐性黄色ブドウ球菌を同定することが出来る細菌培養培地が記載されていることを考慮すると、患者から採取した試料を、追加の処理をせずに培地に適用することは、当業者が適宜なし得たことといえる。
したがって、相違点3に係る構成に至ることは当業者が適宜なし得たことである。

第9 請求人の主張についての検討
1 請求人の主張
請求人は、本願発明に対し、平成29年7月28日付意見書において、引用文献2に記載の低レベル耐性のMRSAは、本発明の異種混交的なMRSAとは異なる性質を有するMRSAを対象とするものであるから、引用文献1?3を考慮しても本願発明は容易に想到できる発明とはいえない旨を主張している。

2 検討
上記(引2-1)に「非常に低レベルのメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)、すなわちクラス1のMRSA」と記載されているとおり、引用文献2でいう「非常に低レベルのメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)」は「クラス1のMRSA」、すなわち「主要集団が1.5mg/lのメチシリンMICを有し、10^(-8)の少数集団が>100mg/lのメチシリンMICを有する」MRSA(上記(引2-11)の認定の基礎となった(引2-2)参照)と同義であることは明らかである。そして、上記第8 1で述べたとおり、そのようなMRSAは本願発明の「10^(8)個のうちの1つがメチシリンに対し耐性であるメチシリン耐性黄色ブドウ球菌」に相当する。したがって、請求人の、引用文献2に記載の低レベル耐性のMRSAは、本発明の異種混交的なMRSAとは異なる性質を有するMRSAを対象とするものという指摘はあたらない。
よって、請求人の主張は前提において誤りがあり、採用できない。

第10 小活
以上のとおり、本願発明は、引用文献1?5に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第11 むすび
本願発明は、本願の優先権主張の日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1?5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の原査定の拒絶の理由及び他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。






 
別掲
 
審理終結日 2020-01-29 
結審通知日 2020-02-04 
審決日 2020-02-20 
出願番号 特願2016-89021(P2016-89021)
審決分類 P 1 8・ 121- ZB (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 吉門 沙央里藤井 美穂  
特許庁審判長 中島 庸子
特許庁審判官 高堀 栄二
松浦 安紀子
発明の名称 メチシリン耐性微生物の検出方法  
代理人 大森 規雄  
代理人 小林 浩  
代理人 日野 真美  
代理人 鈴木 康仁  
代理人 吉光 真紀  
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