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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 A47C
管理番号 1363741
審判番号 不服2019-10923  
総通号数 248 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-08-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-08-19 
確定日 2020-07-21 
事件の表示 特願2014-55717号「クッション」拒絶査定不服審判事件〔平成27年10月8日出願公開、特開2015-177843号、請求項の数(4)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年3月19日の出願であって、平成30年1月31日付けで拒絶理由通知がされ、同年6月4日に意見書及び手続補正書が提出され、同年11月9日付けで最後の拒絶理由通知がされ、同年12月25日に意見書及び手続補正書が提出され、令和1年5月10日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。)がされ、これに対し、同年8月19日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。

第2 原査定の概要
原査定の概要は次のとおりである。

この出願の請求項1?4に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


・請求項 1
・引用文献 1?3

・請求項2?4
・引用文献 1?4

刊行物等一覧
引用文献1.特開2003-245167号公報
引用文献2.登録実用新案第3172315号公報(周知技術を示す文献)
引用文献3.特開2006-326274号公報(周知技術を示す文献)
引用文献4.登録実用新案第3154830号公報(周知技術を示す文献)

第3 本願発明
本願請求項1?4に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」?「本願発明4」という。)は、平成30年12月25日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定される以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
30?300%の伸び率を有する伸縮生地で形成された側生地の内部に、熱可塑性エラストマーによって形成され、径方向での圧縮変形率が40?80%であり、弾性変形する円筒状の中空パイプからなり、外径Dが3?8mm、長さLが3?10mmで、アスペクト比L/Dが1?3の中材を充填したことを特徴とするクッション。
【請求項2】
側生地が、弾性糸を用いた編み組織からなる請求項1記載のクッション。
【請求項3】
側生地の外面が、カバーによって覆われた請求項1又は2記載のクッション。
【請求項4】
カバーが、伸縮生地で形成された請求項3記載のクッション。」

第4 引用文献、引用発明等
1.引用文献1について
(1)引用文献1の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は当審で付与。以下同様。)。
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、枕、抱き枕、腕当て、座布団、敷布団、ソファー等に用いられるビーズクッションに関するものである。」

「【0004】このような問題点を解消するものとして、実用新案登録第3081750号公報に開示されたビーズクッションが提案されている。この公報に開示されたビーズクッションによれば、伸縮性を備える袋体の内部に粒子径の比較的小さい発泡ビーズが無数に充填されていることから、その使用時において発泡ビーズは、互いに流動を妨げ合うことなく自由に流動でき、ビーズクッションそのものも体形に沿って大きく変形できるため、接触している身体部位に対してより良いフィット感を付与できるようになっている。さらに、このビーズクッションは身体部位に接触している粒子数が従来に比して多いために、発泡ビーズ1粒子あたりにかかる体圧が小さくなり、接触している身体部位に対して柔らかな感触を付与するという特性を有している。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、前述のように粒子径の比較的小さな発泡ビーズを用いた場合には、充填される発泡ビーズの粒子径が小さくなるに従い、この発泡ビーズを袋体内に充填するための製造装置の周辺にその発泡ビーズが漏出し易くなり、この漏出した発泡ビーズが帯電の影響を受けるために、製造装置の周りに大量の発泡ビーズが付着してその製造装置の安定作動を妨げる恐れがある。
・・・
【0008】本発明はこのような問題点を解決するためになされたもので、粒子径が小さい発泡ビーズを充填する場合であっても、生産性が良く、家庭内での取扱いも容易なビーズクッションを提供することを目的とするものである。」

「【0018】図1および図2で示されるように、本実施形態におけるビーズクッション1は、外袋2の内部に中袋3が封入され、その中袋3の内部に発泡ビーズ4が充填されて構成されている。前記外袋2は、ニット地が縫製されてなる袋体で構成され、伸縮性を備えている。一方、前記中袋3は、伸縮性を有するように、かつ袋形状となるように編成されてなるものであり、従来公知の成型編と丸編とを組み合わせることにより成形される。また、前記中袋3の一側縁には発泡ビーズ4を充填する充填口5が設けられており、この充填口5には、図示されないファスナーが縫合されている。そして、このファスナーを閉じることで内部に充填された発泡ビーズ4が外部に漏出しないようにされている。
【0019】また、前記外袋2は、伸縮性を有するナイロンニットが縫製された袋体であり、その一側縁に前記中袋を封入する封入口6が設けられている。またこの封入口6にはファスナーが縫合され、このファスナーが閉じられて前記中袋3および、その内部に充填される発泡ビーズ4が封入されるようになっている。なお、中袋3の充填口5と外袋2の封入口6とは位置を異ならせて設けられている。
【0020】ここで、中袋3に充填される発泡ビーズ4としては、直径約1.0mmの略球状に加工された発泡スチレンが使用される。この発泡ビーズ4にはさらに、後述の製造過程において帯電防止剤(PEG300:日本油脂株式会社製)および、常温で動物や人の気分をほぐす鎮静作用(芳香効果)を発揮するとともに、抗菌性、抗カビ性、ダニに対する忌避効果(抗菌効果)を発揮するヒノキオイルを液状に加工したヒノキエキスが同時に噴霧されて吸着されている。ビーズクッション1。」

(2)認定事項
上記(1)の記載事項から、以下のことが認定できる。
ア 段落【0018】及び段落【0020】の記載から、ビーズクッション1は、外袋2の内部に中袋3が封入され、前記中袋3の内部に直径約1.0mmの略球状に加工された発砲スチレンからなる発泡ビーズ4が充填されて構成されていること。

(3)引用発明
したがって、上記引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「外袋2の内部に中袋3が封入され、前記中袋3の内部に直径約1.0mmの略球状に加工された発砲スチレンからなる発泡ビーズ4が充填されて構成されており、
前記外袋2は、ニット地が縫製されてなる袋体で構成され、伸縮性を備えており、
前記中袋3は、伸縮性を有するように、かつ袋形状となるように編成されてなるものであり、また、前記中袋3の一側縁には発泡ビーズ4を充填する充填口5が設けられており、前記充填口5には、ファスナーが縫合されていて、前記ファスナーを閉じることで内部に充填された発泡ビーズ4が外部に漏出しないようにされているビーズクッション1。」

2.引用文献2ついて
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献2には、図面とともに次の事項が記載されている。
「【0001】
本考案は、体圧を分散するためのクッション、特に、車椅子で好適に用いることができるクッションに関する。」

「【0005】
そこで、本考案は、適切な体圧分散効果が得られるとともに、着座部に熱がこもりにくく、蒸れにくいクッションを実現することを目的とする。」

「【0023】
図3(A)に示すように、クッション体10は、伸縮性を有する素材、例えば伸縮性が高いポリエステルからなる袋体10aにパイプ状ビーズ10bを充填して外形がブロック状に形成されている。本実施形態では、クッション体10は、80mm角で高さが100mmの直方体形状に形成されている。また、本実施形態では、クッション体10は、1列4個で4列の合計16個が配置されている。個々のクッション体10は、図4に示すようにK1?K16とする。
【0024】
パイプ状ビーズ10bは、図3(B)に示すように、パイプ状に形成されたビーズである。本実施形態では、パイプ状ビーズ10bとして、オレフィン系の熱可塑性エラストマーに活性炭を配合して、径5mm、長さ6.5mm程度に形成したものを80g程度、袋体10aに充填して用いた。」

3.引用文献3ついて
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献3には、図面とともに次の事項が記載されている
「【0001】
本発明は、感触が良好であって通気性及び体圧分散性を兼ね備えた枕等のクッション材に関するものである。本発明における「クッション材」は、一般に見られる背もたれ用のクッションのほか、枕、座布団、敷布団などを含む。」

「【0037】
図1(a)は本発明のクッション材である枕を例示した部分断面を含む斜視図であり、芯充填材としてポリエチレン製の短チューブ状芯充填材(樹脂製パイプ)を使用したものである。枕10は、樹脂製パイプからなる芯充填材12、該芯充填材12を収容した低反発の軟質ポリウレタンフォーム層16、及び軟質ポリウレタンフォーム層16を被覆する繊維製の表皮材18とから構成されている。
【0038】
図1(b)は、樹脂製パイプからなる芯充填材12の形状を拡大して示した斜視図である。芯充填材の形状は、樹脂の特性などを考慮して適宜設定されるが、厚さは10?200μm、外径が2?8mm、より好ましくは3?7mmであり、長さは3?20mm、より好ましくは5?10mmである。熱可塑性エラストマーの場合にはパイプの肉厚が大きくてもよいが、硬度の大きい樹脂の場合には、肉厚を薄くすることにより、適度なクッション性を有する芯充填材となる。」

第5 対比・判断
1.本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比すると、その意味、機能または構造からみて、
ア 後者の「伸縮性を有するように、かつ袋形状となるように編成されてなるものであ」る「中袋3」は、側生地といえるものであり、また、「伸縮性を有する」ものであって、何らかの伸び率を有することは明らかであるから、前者の「30?300%の伸び率を有する伸縮生地で形成された側生地」とは、「伸び率を有する伸縮生地で形成された側生地」の点で共通する。

イ 後者の「前記中袋3の内部に」「充填され」る「直径約1.0mmの略球状に加工された発砲スチレンからなる発泡ビーズ4」と、前者の「側生地の内部に、」「充填される」「熱可塑性エラストマーによって形成され、径方向での圧縮変形率が40?80%であり、弾性変形する円筒状の中空パイプからなり、外径Dが3?8mm、長さLが3?10mmで、アスペクト比L/Dが1?3の中材」とは、両者はクッション内に充填されるものであるから、「中材」である点で共通する。

そうすると、両者は、本願発明1の用語を用いて表現すると、次の点で一致する。
[一致点]
「伸縮生地で形成された側生地の内部に、中材を充填したクッション。」

そして、両者は次の点で相違する。
[相違点1]
「側生地」に関し、
本願発明1は、「30?300%の」伸び率を有するのに対し、
引用発明は、かかる伸び率が特定されていない点。

[相違点2]
「中材」に関し、
本願発明1は、「熱可塑性エラストマーによって形成され、径方向での圧縮変形率が40?80%であり、弾性変形する円筒状の中空パイプからなり、外径Dが3?8mm、長さLが3?10mmで、アスペクト比L/Dが1?3」であるのに対し、
引用発明は、「直径約1.0mmの略球状に加工された発砲スチレンからなる発泡ビーズ4」である点。

(2)判断
事案に鑑み、上記相違点2を先に検討する。
引用発明の「前記中袋3の内部に直径約1.0mmの略球状に加工された発砲スチレンからなる発泡ビーズ4が充填されて構成」における「直径約1.0mmの略球状」の技術的意義は、引用文献1の段落【0004】の「伸縮性を備える袋体の内部に粒子径の比較的小さい発泡ビーズが無数に充填されていることから、その使用時において発泡ビーズは、互いに流動を妨げ合うことなく自由に流動でき、ビーズクッションそのものも体形に沿って大きく変形できるため、接触している身体部位に対してより良いフィット感を付与できるようになっている。」との記載によれば、発泡ビーズの流動性の促進にあるところ、引用発明は、段落【0008】に「本発明はこのような問題点を解決するためになされたもので、粒子径が小さい発泡ビーズを充填する場合であっても、生産性が良く、家庭内での取扱いも容易なビーズクッションを提供することを目的とするものである。」と記載さているように、粒子径が小さい発泡ビーズ4を採用することを前提として、生産性を良くすることを目的としているものであるから、「中材」に関し、引用発明の「直径約1.0mmの略球状」のものを、上記相違点2に係る本願発明1の「外径Dが3?8mm、長さLが3?10mm」といった流動性が悪くなるような大きいサイズの円筒状の中空パイプに変更する動機付けがあるとはいえない。
仮に、引用発明において大きいサイズの中材に変更することが想定できたとしても、引用文献2及び3の各記載事項からは、本願発明1の「外径Dが3?8mm、長さLが3?10mmで、アスペクト比L/Dが1?3」の数値限定を充たす中空パイプが周知技術であることに留まるものであり、「径方向での圧縮変形率が40?80%であ」ることは開示されていないから、引用発明に上記引用文献2及び3に記載された周知技術を適用できたとしても、上記相違点2に係る本願発明1の構成には至るものではない。
したがって、上記相違点1について判断するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても、引用発明及び引用文献2、3に記載された周知技術に基いて容易に発明できたものとはいえない。
また、本願発明2?4に対して周知技術として引用された引用文献4にも「径方向での圧縮変形率が40?80%であ」ることは開示されていない。

2.本願発明2?4について
本願発明2?4は、本願発明1の全ての構成を含み、さらに限定を加えたものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明、引用文献2、3に記載された周知技術及び引用文献4に記載された周知技術に基いて容易に発明できたものとはいえない。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明1?4は、当業者が引用発明及び引用文献2?4に記載された周知技術に基いて容易に発明をすることができたものではない。
したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。

 
審決日 2020-06-30 
出願番号 特願2014-55717(P2014-55717)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (A47C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 須賀 仁美  
特許庁審判長 藤井 昇
特許庁審判官 島田 信一
一ノ瀬 覚
発明の名称 クッション  
代理人 森 寿夫  
代理人 田中 秀明  

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