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審決分類 審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 補正却下を取り消す 原査定を取り消し、特許すべきものとする  A63F
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 補正却下を取り消す 原査定を取り消し、特許すべきものとする  A63F
管理番号 1363825
審判番号 不服2019-11413  
総通号数 248 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-08-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-08-30 
確定日 2020-07-21 
事件の表示 特願2016-102059号「遊技機」拒絶査定不服審判事件〔平成29年11月30日出願公開、特開2017-209124号、請求項の数(1)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成28年5月23日の出願あって、その手続の経緯は以下のとおりである。

平成29年 6月23日 :出願審査請求書の提出
平成29年12月28日 :手続補正書の提出
平成30年 3月19日付け :拒絶理由の通知
平成30年 5月23日 :意見書、手続補正書の提出
平成30年10月19日付け :最後の拒絶理由の通知
平成30年12月20日 :意見書、手続補正書の提出
令和 1年 5月30日付け :補正の却下の決定、拒絶査定
令和 1年 8月30日 :審判請求書の提出
令和 2年 2月27日付け :当審の拒絶理由の通知
令和 2年 4月24日 :意見書、手続補正書の提出

第2 原審における補正の却下の決定の適否について
審判請求人は、審判請求書の請求の趣旨において、「特願2016-102059について、令和1年5月30日になされた補正却下決定ならびに原査定を取り消す。本願発明は特許すべきものとする、との審決を求める。」としているので、令和1年5月30日付けの補正の却下の決定の適否について検討する。

1.原審における補正の却下の決定の概要
上記補正の却下の決定の理由は、平成30年12月20日付け手続補正書でした請求項1についての補正(以下、「本件補正」という。)は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「当初明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第第17条の2第3項の規定に違反するものであり、同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである、というものである。
そして、本件補正が、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものでないとする具体的な理由としては、
「補正前の請求項1における「複数の演出用可変表示領域における、それぞれの演出用識別情報の可変表示を同一の周期により開始かつ終了させ、」との記載が、補正後の請求項1(段落[0009]も同様)において、「複数の演出用可変表示領域における、全ての演出用識別情報の可変表示を同一の周期により開始かつ終了させ、」(下線は、補正箇所を示す。)との記載に補正された。
しかしながら、当該補正を考慮しても、依然として、各演出用識別情報の可変表示の開始及び終了タイミングが異なるものが含まれている。
したがって、平成30年10月19日付け拒絶理由通知書にて指摘したのと同様に、当初明細書等の段落[0359]には、各演出用識別情報の可変表示の開始及び終了タイミングが全て同じである点が記載されているのみであるから、各演出用識別情報の可変表示の開始及び終了タイミングが異なるものは当初明細書等には記載されておらず、また、自明の事項ということはできない。」と記載されている。

2.原審における補正の却下の決定に関する当審の判断
上記補正の却下の決定では、本件補正後の請求項1における「複数の演出用可変表示領域における、全ての演出用識別情報の可変表示を同一の周期により開始かつ終了させ、」との記載は、各演出用識別情報の可変表示の開始及び終了タイミングが異なるものを含み、かつ、各演出用識別情報の可変表示の開始及び終了タイミングが異なるものは、当初明細書等には記載されていないとの判断に基づいて、本件補正が、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものでないとしているところ、本件補正後の請求項1の上記記載事項が、当初明細書等に記載されたものか否かを検討する。
まず、「複数の演出用可変表示領域における」「演出用識別情報の可変表示」に関して、願書に最初に添付した特許請求の範囲の請求項1には、「複数の演出用可変表示領域における演出用識別情報を同一の周期により可変表示させ」と記載(以下、「記載事項A」という。)されている。
次に、願書に最初に添付した明細書の【0009】には、「・・・演出用可変表示実行手段は、複数の演出用可変表示領域における演出用識別情報を同一の周期により可変表示させ(例えば、ステップS513で選択されるプロセステーブルは、左中右の3つのシステム用小図柄をそれぞれ同じ変動速度(同じ周期)で変動表示されるように設計されており、演出用マイクロコンピュータ100は、ステップS513で選択したプロセステーブルを用いてステップS515,S524を実行することによって、左中右の3つのシステム用小図柄をそれぞれ同じ変動速度(同じ周期)で変動表示する)、・・・」と記載され、同【0344】には、「なお、この実施の形態では、ステップS513で選択されるプロセステーブルは、左中右の3つのシステム用小図柄をそれぞれ同じ変動速度(同じ周期)で変動表示されるように設計されており、ステップS513で選択したプロセステーブルを用いてステップS515および後述するステップS524の処理が実行されることによって、左中右の3つのシステム用小図柄がそれぞれ同じ変動速度(同じ周期)で変動表示される。この実施の形態では、左中右の3つのシステム用小図柄を、「1」?「8」の図柄配列上の全図柄を7秒間で1回転させる変動速度で変動表示させるとともに、変動開始から変動終了まで一定の変動速度でシステム用小図柄の変動表示を実行するものとする。」と記載されている(下線は当審にて付した。)。
願書に最初に添付した明細書の上記記載を参酌すると、願書に最初に添付した特許請求の範囲の請求項1における上記記載事項Aは、複数の演出用可変表示領域における演出用識別情報(左中右の3つのシステム用小図柄)をそれぞれ同一の変動速度により可変表示させることを意味するものと認められる。
上記記載事項Aが示す技術事項の認定に基づくと、本件補正後の請求項1の「複数の演出用可変表示領域における、全ての演出用識別情報の可変表示を同一の周期により開始かつ終了」させるという記載中の「同一の周期により開始かつ終了」させることが示す技術事項は、不明であるというほかない。
なお、請求人は、平成30年12月20日付け意見書において、「この補正は、例えば段落0359の『変動パターンコマンドの受信を契機として左中右のシステム用小図柄の変動表示が一斉に開始され、変動中に変動速度が加速したり減速したりすることなく一定の変動速度で変動表示が実行され、さらに変動中にリーチ状態や仮停止状態、再変動状態となることなく、図柄確定指定コマンドの受信を契機として左中右のシステム用小図柄の変動表示が一斉に停止される。』という記載を根拠としています。」と主張するが、上記「同一の周期により開始かつ終了」させるという記載自体を、日本語の文として、請求人の主張のとおり解釈することはできないから、当該主張を採用することはできない。
したがって、本件補正後の請求項1の上記記載事項は、不明確である。
そうすると、不明確である本件補正後の請求項1の上記記載事項について、当初明細書等に記載されたものか否かを判断することはできないから、原審において、本件補正後の請求項1の上記記載事項が、当初明細書等に記載されたものでないとした判断は、妥当なものとはいえない。

よって、原審における補正の却下の決定は、不適法なものであって、取り消されるべきものである。

第3 当審の判断
1.当審拒絶理由の概要
令和1年5月30日付けでなされた補正の却下の決定は、取り消されるべきものであるから平成30年12月20日付け手続補正書によって補正された明細書、特許請求の範囲及び図面に基づいて通知した令和2年2月27日付けの当審拒絶理由の概要は、次のとおりである。

「1.(明確性)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
2.(サポート要件)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。」

●理由1(明確性)について
「請求項1には、「複数の演出用可変表示領域における、全ての演出用識別情報の可変表示を同一の周期により開始かつ終了させ、」と記載(以下、「記載事項B」という。)されている。・・・上記記載事項Bが示す技術事項は・・・次の(ア)、(イ)のような事項を意味するとも思われる。
(ア)可変表示の開始時及び終了時において、複数の演出用可変表示領域における、全ての演出用識別情報の可変表示の周期(変動速度)が同一であること(各演出用識別情報の可変表示について、可変表示の開始時と可変表示の終了時とで可変表示の周期(変動速度)が同一でなくてもよいし、開始時及び終了時以外の中間においては、全ての演出用識別情報の可変表示の周期(変動速度)が同一でなくてもよい)。
(イ)複数の演出用可変表示領域における、全ての演出用識別情報の可変表示について、(各々の)可変表示の開始時における周期(変動速度)と可変表示の終了時における周期(変動速度)とが同一であること(開始時及び終了時以外の中間においては、可変表示の周期(変動速度)が開始時及び終了時とは同一でなくてもよいし、ある演出用可変表示領域における演出用識別情報の可変表示と、別の演出用可変表示領域における演出用識別情報の可変表示とで、可変表示の周期(変動速度)が同一でなくてもよい)。
以上のとおり、請求項1の記載は多義的に解されるうえ、上記(ア)及び(イ)のような事項は、明細書に記載されていないことも考慮すると、請求項1に係る発明は明確でない。」

●理由2(サポート要件)について
「・・・請求項1においては、上記課題の前提となる構成、すなわち、複数の演出用可変表示領域における演出用識別情報の可変表示が、全て同じ変動速度(同じ周期)で行われるとともに、複数の演出用可変表示領域における演出用識別情報の可変表示が、一斉に開始され、かつ、一斉に停止されることが、明確に特定されていないため、複数の演出用可変表示領域における演出用識別情報の可変表示が、それぞれ異なる変動速度(異なる周期)で行われるものや、複数の演出用可変表示領域における演出用識別情報の可変表示が、異なるタイミングにて開始され、異なるタイミングにて停止されるものも含むものとなっている。
そして、複数の演出用可変表示領域における演出用識別情報の可変表示が、それぞれ異なる変動速度(異なる周期)で行われるものや、複数の演出用可変表示領域における演出用識別情報の可変表示が、異なるタイミングにて開始され、異なるタイミングにて停止されるものにおいては、そもそも、常に3図柄が揃った状態のまま変動終了まで変動表示が行われたり、常にリーチはずれ図柄の状態のまま変動終了まで変動表示が行われたりすることはないと解されるから、本願発明が解決しようとする上記の課題が生じることもない。
したがって、請求項1の記載は、発明の詳細な説明に記載された、発明が解決しようとする課題を生じる前提構成を欠いており、発明の課題を解決するための手段を反映したものとはいえないから、本願の請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものでない。」

2.当審拒絶理由の判断
(1)本願の請求項1に係る発明は、令和2年4月24日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものと認められる。
「【請求項1】
遊技を行うことが可能な遊技機であって、
複数の演出用可変表示領域において演出用識別情報の可変表示を実行可能な演出用可変表示実行手段と、
複数の演出用可変表示領域において演出用識別情報の組み合わせが特定結果で停止表示されたときに、遊技者に価値を付与可能な価値付与手段と、
演出用識別情報と比較して認識しやすい態様により特定演出用識別情報の可変表示を実行可能な特定演出用可変表示実行手段と、を備え、
前記演出用可変表示実行手段は、
複数の演出用可変表示領域における演出用識別情報の可変表示を全て同じ変動速度で実行させるとともに、複数の演出用可変表示領域における演出用識別情報の可変表示を一斉に開始かつ一斉に終了させ、
前回の可変表示により複数の演出用可変表示領域において停止表示された演出用識別情報の組み合わせを、前記特定結果とは異なる組み合わせに差し替えて表示した後に、新たな可変表示を開始可能であり、
前記特定演出用識別情報を表示する表示領域よりも小さい表示領域において演出用識別情報を表示し、可変表示の実行中に、常に演出用識別情報を表示するとともに常に視認可能な表示領域において演出用識別情報を表示する
ことを特徴とする遊技機。」(下線は補正箇所を示す。)。

(2)理由1(明確性)について
補正前の請求項1における上記記載事項Bは、多義的に解釈(上記「第3 1. ●理由1(ア)及び(イ)」参照)される記載であったが、上記(1)の補正により、上記記載事項Bが、「複数の演出用可変表示領域における演出用識別情報の可変表示を全て同じ変動速度で実行させるとともに、複数の演出用可変表示領域における演出用識別情報の可変表示を一斉に開始かつ一斉に終了させ」るとの記載に補正された。
このことより、本願の請求項1に係る発明において、「複数の演出用可変表示領域における演出用識別情報の可変表示」を、「全て同じ変動速度で実行させる」こと及び「一斉に開始かつ一斉に終了させ」ることが明らかとなり、その技術的内容が一義的に解釈できることから、本願の請求項1に係る発明は明確である。

(3)理由2(サポート要件)について
補正前の請求項1に係る発明においては、上記「第3 1. ●理由2」において述べたとおり、発明が解決しようとする課題の前提となる構成(「複数の演出用可変表示領域における演出用識別情報の可変表示が、全て同じ変動速度(同じ周期)で行われるとともに、複数の演出用可変表示領域における演出用識別情報の可変表示が、一斉に開始され、かつ、一斉に停止されること」)が、明確に特定されていなかったが、上記(1)の補正により、本願の請求項1に係る発明において、「複数の演出用可変表示領域における演出用識別情報の可変表示を全て同じ変動速度で実行させるとともに、複数の演出用可変表示領域における演出用識別情報の可変表示を一斉に開始かつ一斉に終了させ」ることが明らかとなった。
このことより、本願の請求項1に係る発明は、発明が解決しようとする課題の前提となる構成が特定され、その課題を解決する手段と合わせて発明の詳細な説明に記載されたものになった。

(4)小括
以上のとおりであるから、本願の請求項1に係る発明は、特許法第36条第6項第2号(明確性)及び特許法第36条第6項第1号(サポート要件)に規定された要件を満たすものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願については、原査定及び当審の拒絶理由を検討してもその理由によって拒絶すべきものとすることはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2020-06-30 
出願番号 特願2016-102059(P2016-102059)
審決分類 P 1 8・ 537- WYA (A63F)
P 1 8・ 561- WYA (A63F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 進藤 利哉  
特許庁審判長 伊藤 昌哉
特許庁審判官 長崎 洋一
鷲崎 亮
発明の名称 遊技機  
代理人 木村 満  

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