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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B60G |
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管理番号 | 1363839 |
審判番号 | 不服2019-13125 |
総通号数 | 248 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2020-08-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2019-10-02 |
確定日 | 2020-07-28 |
事件の表示 | 特願2015-235814号「車両用スタビライザ装置」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 6月 8日出願公開,特開2017-100587号,請求項の数(6)〕について,次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は,平成27年12月2日の出願であって,平成30年6月11日に上申書が提出されるとともに手続補正がされ,同年12月27日付けで拒絶理由が通知され,平成31年3月7日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がされたが,令和1年6月27日付けで拒絶査定(以下,「原査定」という。)がされ,これに対し,同年10月2日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされたものである。 第2 原査定の概要 原査定の概要は次のとおりである。 1)本願の請求項1,2に係る発明は,以下の引用文献1-6,8に基いて,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下,「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 2)本願の請求項3-6に係る発明は,以下の引用文献1-8に基いて,当業者が容易に発明できたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 引用文献等一覧 1.特開2006-69233号公報 2.特開2006-123818号公報(周知技術を示す文献) 3.特開平3-86747号公報(周知技術を示す文献) 4.特開平10-110148号公報(周知技術を示す文献) 5.特開平11-352432号公報(周知技術を示す文献) 6.特開平10-306832号公報(周知技術を示す文献) 7.特開2005-319850号公報 8.特開2001-227463号公報(周知技術を示す文献,新たに引用) 第3 本願発明 本願請求項1?6に係る発明(以下,「本願発明1」?「本願発明6」という。)は,令和1年10月2日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定される,以下のとおりの発明である。 【請求項1】 車両の幅方向に延びるスタビライザと該スタビライザの支持部に設けられたブッシュユニットとを有する車両用スタビライザ装置であって, 前記スタビライザの表面を覆う塗料膜を有し, 前記ブッシュユニットは, 金属からなるブラケットと, 前記ブラケットの内側に配置され前記車両の上側に配される上側の第1ブッシュ片と前記車両の下側に配される下側の第2ブッシュ片とを含み前記スタビライザが通る孔を有したゴムブッシュと, 前記ゴムブッシュの前記孔の内面と前記スタビライザとの間に設けられ,前記内面上に形成された接着部材からなる接着材層と, 前記接着部材の一部からなり前記下側の第2ブッシュ片の一方の端面の前記内面寄りの隅部に前記一方の端面に沿って設けられ前記一方の端面と前記塗料膜との間に存し前記第2ブッシュ片に付着した第1の接着材露出部と, 前記接着部材の一部からなり前記下側の第2ブッシュ片の他方の端面の前記内面寄りの隅部に前記他方の端面に沿って設けられ前記他方の端面と前記塗料膜との間に存し前記第2ブッシュ片に付着した第2の接着材露出部と, を具備したことを特徴とする車両用スタビライザ装置。 【請求項2】 前記接着部材が前記内面上に形成された接着剤を含み,前記第1および第2の接着材露出部が前記接着剤からなることを特徴とする請求項1に記載の車両用スタビライザ装置。 【請求項3】 前記接着部材が前記内面上に形成された接着剤と該接着剤上に形成されたプライマー層とを含み,前記第1および第2の接着材露出部が前記プライマー層からなることを特徴とする請求項1に記載の車両用スタビライザ装置。 【請求項4】 前記接着部材が前記内面上に形成された接着剤と該接着剤上に形成されたプライマー層とを含み,前記第1および第2の接着材露出部が前記接着剤と前記プライマー層とからな ることを特徴とする請求項1に記載の車両用スタビライザ装置。 【請求項5】 前記第1および第2の接着材露出部が前記隅部において前記孔の周方向の一部に形成されていることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の車両用スタビライザ装置。 【請求項6】 前記第1および第2の接着材露出部が前記隅部において前記孔の全周に形成されていることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の車両用スタビライザ装置。 第4 引用文献,引用発明等 (1)引用文献1 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には,図面とともに次の事項が記載されている(下線は当審で付与した。以下同様。)。 ・「【請求項1】 クランプ金具に内嵌するU字状の外周面を備えた筒状のゴムブッシュをスタビライザーバーの被嵌合部に外嵌固定するゴムブッシュ付きスタビライザーバーの製造方法であって, 前記ゴムブッシュを加硫成形する第1工程と, 前記スタビライザーバーの被嵌合部,及び/又は前記ゴムブッシュの中空孔の内周面に熱硬化性接着剤を塗布して,前記ゴムブッシュを前記被嵌合部に外嵌する第2工程と, 前記ゴムブッシュのU字状の外周面のうちの突曲面に第1押圧具の第1嵌合凹部を外嵌し,前記U字状の外周面のうちの一対の直線状の面と,前記一対の直線状の面の端縁同士を結ぶ前記ゴムブッシュの扁平外周面とに第2押圧具の第2嵌合凹部を外嵌する第3工程と, 前記第1押圧具と第2押圧具で前記ゴムブッシュを挟圧した状態で前記ゴムブッシュを加熱して前記被嵌合部に接着させる第4工程とから成り, 前記第4工程で,前記第2嵌合凹部の両側面に形成した1又は2以上の凹部内に前記ゴムブッシュの一部分を膨出させることで,前記ゴムブッシュの前記一対の直線状の面に,前記クランプ金具によって圧縮される凸部をそれぞれ形成するゴムブッシュ付きスタビライザーバーの製造方法。」 ・「【技術分野】 【0001】 本発明は,クランプ金具に内嵌するU字状の外周面を備えた筒状のゴムブッシュをスタビライザーバーの被嵌合部に外嵌固定するゴムブッシュ付きスタビライザーバーの製造方法に関する。」 ・「【発明の効果】 【0012】 本発明によれば,異音を防止できる構造でありながら,製作コストを低廉化できるとともに,ゴムブッシュをスタビライザーバーに強く固定できて耐久性に優れ,ゴムブッシュの車体側への組付け作業の作業性をよくすることができるゴムブッシュ付きスタビライザーバーを製造できる方法を提供することができた。 【発明を実施するための最良の形態】 【0013】 以下,本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1に,自動車のサスペンションと車体側のメンバとに取付けられるゴムブッシュ付きスタビライザーバーを示してある。このゴムブッシュ付きスタビライザーバーは,表面が塗装された金属丸棒状のスタビライザーバー1と,スタビライザーバー1の被嵌合部2に外嵌固定されたゴムブッシュ3とから成る。 【0014】 ゴムブッシュ3は,クランプ金具8のU字状のゴムブッシュ受け9に内嵌するU字状の外周面4と,このU字状の外周面4の両端に連続する直線状の扁平外周面5とを備えた筒状に形成され,ゴムブッシュ3の軸方向の両端部にフランジ6がそれぞれ形成されている。そしてゴムブッシュ3に,径方向及び軸方向に沿う装着用の切断部7が形成されている。 【0015】 上記のゴムブッシュ3をクランプ金具8で車体側に押圧固定して,ゴムブッシュ3の扁平外周面5を車体の取付け面に圧接させる。クランプ金具8は,ゴムブッシュ3の両フランジ6間のU字状の外周面4をややきつく内嵌させる上記のU字状のゴムブッシュ受け9と,このゴムブッシュ受け9の開放した両端から横外方側に張出す取付け部としての取付け片10とから成り,取付け片10にボルト挿通孔11が形成されている。 【0016】 上記のゴムブッシュ付きスタビライザーバーの製造方法は次の第1?第4工程から成る。 【0017】 [第1工程] ゴムブッシュ3を加硫成形し(図8(a),図8(b)参照),スタビライザーバー1の外周面をカチオン電着塗装や粉体塗装により塗装する。 【0018】 [第2工程] スタビライザーバー1の被嵌合部2の塗装膜面(及び/又はゴムブッシュ3の中空孔38の内周面38C)に熱硬化性エポキシ系接着剤(熱硬化性接着剤の一例)を塗布し,ゴムブッシュ3に形成した切断部7を開放してゴムブッシュ3を被嵌合部2に外嵌する。 【0019】 [第3工程] 図6に示すように,ゴムブッシュ3のU字状の外周面4のうちの突曲面12に第1押圧具13の第1嵌合凹部14を外嵌するとともに,U字状の外周面4のうちの一対の直線状の面15と,前記扁平外周面5,すなわち前記一対の直線状の面15の端縁同士を結ぶゴムブッシュ3の扁平外周面5とに第2押圧具16の第2嵌合凹部17を外嵌する。 【0020】 [第4工程] 図7に示すように,第1押圧具13と第2押圧具16でゴムブッシュ3を挟圧してゴムブッシュ3を5%?10%圧縮した状態でゴムブッシュ3を加熱し,第1押圧具13と第2押圧具16を取外してゴムブッシュ付きスタビライザーバーを得る。ゴムブッシュ3に対する加熱温度は120℃?200℃,加熱時間は15分?60分である。」 ・図1及び図6には以下の内容が示されている 【図1】 これらの記載事項からみて,引用文献1には,以下の発明(以下,[引用発明]という。)が記載されていると認められる。 「自動車のサスペンションと車体側のメンバとに取付けられるゴムブッシュ付きスタビライザーバーであって,前記ゴムブッシュ付きスタビライザーバーは,表面が塗装された金属丸棒状のスタビライザーバー1と,スタビライザーバー1の被嵌合部2に外嵌固定されたゴムブッシュ3とから成り, スタビライザーバー1の外周面をカチオン電着塗装や粉体塗装により塗装され, ゴムブッシュ3は,クランプ金具8のU字状のゴムブッシュ受け9に内嵌するU字状の外周面4と,このU字状の外周面4の両端に連続する直線状の扁平外周面5とを備えた筒状に形成され,ゴムブッシュ3に,径方向及び軸方向に沿う装着用の切断部7が形成され, スタビライザーバー1の被嵌合部2の塗装膜面及びゴムブッシュ3の中空孔38の内周面38Cに熱硬化性エポキシ系接着剤を塗布し,ゴムブッシュ3に形成した切断部7を開放してゴムブッシュ3を被嵌合部2に外嵌する, 自動車のサスペンションと車体側のメンバとに取付けられるゴムブッシュ付きスタビライザーバー。」 (2)引用文献2 原査定の拒絶の理由に周知技術として引用された引用文献2には,図面とともに次の事項が記載されている。 ・「【技術分野】 【0001】 この発明は車両のスタビライザバーを車体に弾性支持させるスタビライザブッシュに関する。」 ・「【0004】 図6はスタビライザブッシュを用いたスタビライザバーの車体への弾性支持の例を示している(下記特許文献1に開示)。 同図において200は金属棒から成るスタビライザバーで,全体として平面形状が概略コ字形状をなしており,車幅方向(車両の左右方向)にほぼ直線状に延びる中央部200Aが一対のスタビライザブッシュ202にて車体204に固定され,また両端の腕部200Bの各端部が車輪206を支持するサスペンションアーム208に固定されている。 【0005】 スタビライザブッシュ202は,挿通孔216を有するゴム弾性体210を有していて,その挿通孔216にスタビライザバー200が挿通され,その状態で外筒部212を有するブラケット214により,ゴム弾性体210が外筒部212の内側の凹部220に内嵌した状態で車体204に固定されている。」 ・「【0034】 尚,ゴム弾性体16とブラケット14とはゴム弾性体16の加硫成形の際に一体に加硫接着されている。 上記中間板18は挿通孔20回りに回曲した断面形状,具体的にはここでは挿通孔20 を取り巻く断面円形状をなしており,ゴム弾性体16のスタビライザバー10に対する軸直角方向断面の中間部に埋設されている。 そしてこれによりゴム弾性体16が,図3に示しているように中間板18よりも内周側の内ゴム層16-1と外周側の外ゴム層16-2とに分かれている。 【0035】 内ゴム層16-1と外ゴム層16-2とは同一のゴム材料にて一体成形されており,また内ゴム層16-1は外ゴム層16-2に対して薄肉をなしている。そのように中間板18の埋設位置が挿通孔20に近い位置に選ばれている。 尚中間板18は,実質的にゴム弾性体16の軸方向全長に亘る長さを有している。 即ち実質的にゴム弾性体16の全長に亘って中間板18がゴム弾性体16に埋設されている。」 ・図4及び図6には,以下の内容が示されている。 ・段落【0004】の下線部の記載事項と図6からみて,車両の幅方向に延びるスタビライザーバー200が理解できる。 ・図4からみて,ゴム弾性体16を車両の上側の部分と車両の下側の部分に分割されたブッシュ片とすることが理解できる。 (3)引用文献3 原査定の拒絶の理由に周知技術として引用された引用文献3には,次の事項が記載されている。 ・「〔産業上の利用分野〕 この発明は,硬質塩化ビニル管用接着剤に関し,特にたとえば給水や排水用の硬質塩化ビニル管と継手との接合に用いられる,硬質塩化ビニル管用接着剤に関する。 〔従来技術〕 一般に,硬質塩化ビニル管と継手とを接合するとき,硬質塩化ビニル管の管端外周面と継手の受口内周面とに接着剤を塗布し,その後継手受口部に硬質塩化ビニル管の管端を差し込んだ状態で保持乾燥することによって接合が完了する。このとき,継手端面から接着剤がはみ出るが,この“はみ出し”を目視することによって接着剤の塗布の有無判断を行っていた。」(公報1ページ左下欄9行?右下欄2行) (4)引用文献4 原査定の拒絶の理由に周知技術として引用された引用文献4には,次の事項が記載されている。 ・「【0001】 【産業上の利用分野】この発明は,硬質塩化ビニル管用接着剤に関し,特にたとえば給水や排水用の硬質塩化ビニル管と継手との接合に用いられる,硬質塩化ビニル管用接着剤に関する。 【0002】 【従来の技術】建屋内等で配管する場合,寸法合わせ等により,接着剤を塗らないでまず仮接合しておき,その後接着剤を接合部に塗って配管することがある。しかしながら,接着剤の塗り忘れがあり,通水試験時等に漏水事故を起こし,多大な被害を受けてしまうことがある。そこで,このような接着剤の塗り忘れがないかどうかを目視によって確認しなければならない。 【0003】一方,硬質塩化ビニル管と継手とを接合するときは,硬質塩化ビニル管の管端外周面と継手の内周面とに接着剤を塗布し,その後継手受口部に硬質塩化ビニル管の管端を差し込んだ状態で保持乾燥することによって,接合が完了するが,このとき,継手断面から接着剤がはみ出る。このため,従来はこの“はみ出し”を目視することによって,接着剤の塗布の有無を判断していた。」 (5)引用文献5 原査定の拒絶の理由に周知技術として引用された引用文献5には,図面とともに次の事項が記載されている。 ・「【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明はレーザプリンタやデジタル複写機等の書き込み用偏向光学装置に用いられる,光源装置およびその組み立て方法に関するものである。」 ・「【0010】 次に,本実施例の作用を図2,図3を用いて説明する。まず,紫外線硬化型接着剤9は接着剤塗布部2に塗布されると,図2(a)の様に,表面張力によって盛り上がる。次に,レンズ鏡筒4をレーザホルダー1の接着剤塗布部2に被せるのであるが,この時,高粘度の接着剤であると,図2(b)の様に紫外線硬化型接着剤9の一部が後ろに押し出され,接着剤塗布部2と接着部6の間に空いた隙間12に十分充填されず,強度不良を起こすとともに,後ろにはみ出した接着剤13は硬化時の収縮で図2の右方向にレンズ鏡筒4を引張るので,ピント調整も狂ってしまう。また,後ろにはみ出した接着剤13はピント,光軸調整の間に自重で下に垂れて溜まってしまい,そこだけ硬化時の収縮が大きくなり,光軸調整も狂わしてしまう。しかし,紫外線硬化型接着剤9の粘度が適度に低ければ,紫外線硬化型接着剤9は隙間12に浸透していき,図2(c)の様に接着剤塗布部2と接着部6の間に完全に充填され,接着剤のはみ出し13がほとんど発生しないので,前述の様な光軸やピントの狂いが生じない。」 ・図2には,以下の内容が示されている。 (6)引用文献6 原査定の拒絶の理由に周知技術として引用された引用文献6には,図面とともに次の事項が記載されている。 ・「【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は,同軸円筒型トルクリミッタおよび同軸円筒型トルクリミッタの製造方法に関し,さらに詳しくは,永久磁石の接着剤層からはみ出た余剰の接着剤が接着面外に付着することによる不都合を防止できる同軸円筒型トルクリミッタおよび同軸円筒型トルクリミッタの製造方法に関する。」 ・「【0026】 次に,前記永久磁石2を接着する手順について説明する。図2の(a)に示すように,回転軸1の外周面に接着剤3aを塗布する。次に,図2の(b)に示すように,永久磁石2を嵌め被せ,永久磁石2の下端面が小径部1cからの中径部1bの突出面Rに当接するまで押し下げる。永久磁石2の押し下げに伴って,接着剤層3から接着剤3eがはみ出す。ここで,永久磁石2は無着磁とする。その理由は,接着剤3aの硬化を待っている永久磁石2が,他の永久磁石(2)と相互に吸着し合ったり,周囲の磁性粉を吸着したりするのを防止するためである。すなわち,永久磁石2が他の永久磁石(2)と相互に吸着し合うと未硬化の接着剤3aにかかる圧力が不均等になるから,これを防ぐ必要がある。しかし,着磁した永久磁石同士が相互に吸着するのを防ぐには,それぞれを離して置く必要があり,広い場所を要し,取り扱いに不便になる。また,着磁した永久磁石2が周囲の磁性粉を吸着すると,滑らかな回転の障害になるため,これを後で除去する必要があり,管理の負担が重くなる。」 ・図2には,以下の内容が示されている。 (7)引用文献8 原査定の拒絶の理由に周知技術として引用された引用文献8には,図面とともに次の事項が記載されている。 ・「【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は2部材を接着により結合する方法に関するものであり,特に,圧縮機用中空ピストンの製造方法に関するものである。」 ・「【0030】 接着剤は前述のようにキャップ側に塗布してもよいし,中空円筒状部側に塗布してもよい。また,両部材に塗布することも可能である。中空円筒状部側に接着剤を塗布した場合の一例を図5に示す。なお,本体部材162およびキャップ164の形状は図1ないし図4に示す実施形態と同じであるため,同じ符号を付して説明を省略する。本形態の中空ピストン製造方法においては,本体部材162へのキャップ164の嵌合に先立って,中空円筒状部170の大径穴部174の内周面175と内周面175と交差する肩面178とに接着剤が塗布される。図示しない治具に保持された本体部材162が,回転駆動装置(図示省略)により矢印で示すように軸線まわりに回転させられつつ,接着剤吐出ノズル300から接着剤が吐出されることにより,これら内周面175の肩面178近傍と肩面178とに全周にわたって接着剤が塗布される。接着剤内部に気泡が閉じ込められないようにするためには,接着剤は内周面175の肩面178近傍に集中的に塗布されることが望ましいため,本実施形態においては,円形断面の吐出口を有する接着剤吐出ノズル300が,内周面175の肩面178近傍に向かって接着剤を吐出する。 【0031】 接着剤塗布後,前記実施形態と同様に,キャップ164が中空円筒状部170内部に嵌合される。この時,内周面175および肩面178に塗布された接着剤はキャップ164の嵌合が進むにつれて大径部192側の隙間に押し出され,大径部192の外周面202と大径穴部174の内周面175との隙間に充満させられるとともに,余分の少量が外部に押し出され,上記隙間の開口全長にわたってはみ出す。小径部196の外周面204と小径穴部176の内周面177とはしまり嵌合されるため,小径穴部176側に接着剤が押し出されることは回避される。本実施形態においても,大径部192の外周面202と大径穴部174の内周面175とが強固に接合される。」 ・図5,図6には,以下の内容が示されている。 第5 対比・判断 1.本願発明1について (1)対比 ア.本願発明1と引用発明とを対比すると,後者の「スタビライザーバー1」は前者の「スタビライザ」に相当し,以下同様に,「スタビライザーバー1の被嵌合部2」は「スタビライザの支持部」に,「塗装膜」は「塗料膜」に,「ゴムブッシュ3」は「ゴムブッシュ」に,「クランプ金具8」は「金属からなるブラケット」に,「ゴムブッシュ3の中空孔38」は「スタビライザの通る孔」に,「中空孔38の内周面38C」は「孔の内面」に,「熱硬化性エポキシ系接着剤」は「接着部材」に,それぞれ相当する。 イ.後者の「自動車のサスペンションと車体側のメンバとに取付けられるゴムブッシュ付きスタビライザーバー」は前者の「車両用スタビライザ装置」に相当する。 ウ.後者の「クランプ金具8」と「ゴムブッシュ3」と「熱硬化性エポキシ系接着剤」とからなるものは,前者の「ブッシュユニット」に相当する。 エ.後者は「自動車のサスペンションと車体側のメンバとに取付けられるゴムブッシュ付きスタビライザーバーであって,前記ゴムブッシュ付きスタビライザーバーは,表面が塗装された金属丸棒状のスタビライザーバー1と,スタビライザーバー1の被嵌合部2に外嵌固定されたゴムブッシュ3とから成」るから,後者の「ゴムブッシュ付きスタビライザーバー」と,前者の「車両の幅方向に延びるスタビライザと該スタビライザの支持部に設けられたブッシュユニットとを有する車両用スタビライザ装置」とは,「スタビライザと該スタビライザの支持部に設けられたブッシュユニットとを有する車両用スタビライザ装置」において共通する。 オ.後者は「スタビライザーバー1の外周面をカチオン電着塗装や粉体塗装により塗装され」るとともに「スタビライザーバー1の被嵌合部2」には「塗装膜面」が存在するから,後者の「スタビライザーバー1」が表面を覆う塗装膜を有することは明らかであり,上記アの相当関係を踏まえると前者の「スタビライザの表面を覆う塗料膜を有」することに相当する。 カ.後者の「ゴムブッシュ3」は「クランプ金具8のU字状のゴムブッシュ受け9に内嵌するU字状の外周面4と,このU字状の外周面4の両端に連続する直線状の扁平外周面5とを備えた筒状に形成され,ゴムブッシュ3に,径方向及び軸方向に沿う装着用の切断部7が形成され」るものであり,「スタビライザーバー1の被嵌合部2の塗装膜面及びゴムブッシュ3の中空孔38の内周面38Cに熱硬化性エポキシ系接着剤を塗布し,ゴムブッシュ3に形成した切断部7を開放してゴムブッシュ3を被嵌合部2に外嵌する」ものであり,「塗布」された「熱硬化性エポキシ系接着剤」が,「接着材層」を形成することは明らかであるから,図1の図示内容を踏まえると,前者の「前記ブラケットの内側に配置され前記車両の上側に配される上側の第1ブッシュ片と前記車両の下側に配される下側の第2ブッシュ片とを含み前記スタビライザが通る孔を有したゴムブッシュと,前記ゴムブッシュの前記孔の内面と前記スタビライザとの間に設けられ,前記内面上に形成された接着部材からなる接着材層と」とは,「前記ブラケットの内側に配置され前記車両の上側に配される上側の部分と前記車両の下側に配される下側の部分とを含み前記スタビライザが通る孔を有したゴムブッシュと,前記ゴムブッシュの前記孔の内面と前記スタビライザとの間に設けられ,前記内面上に形成された接着部材からなる接着剤層と」において共通する。 キ.後者の「クランプ金具8」と「ゴムブッシュ3」と「熱硬化性エポキシ系接着剤」とからなるものは,上記ウ.及び上記カ.を踏まえると,前者の「ブッシュユニットは」「金属からなるブラケットと」,「ゴムブッシュと」,前記「接着剤層と」,「を具備したこと」に相当する。 そうすると,両者は, 「スタビライザと該スタビライザの支持部に設けられたブッシュユニットとを有する車両用スタビライザ装置であって, 前記スタビライザの表面を覆う塗料膜を有し, 前記ブッシュユニットは, 金属からなるブラケットと, 前記ブラケットの内側に配置され前記車両の上側に配される上側の部分と前記車両の下側に配される下側の部分とを含み前記スタビライザが通る孔を有したゴムブッシュと, 前記ゴムブッシュの前記孔の内面と前記スタビライザとの間に設けられ,前記内面上に形成された接着部材からなる接着剤層と, を具備した,車両用スタビライザ装置。」 の点で一致し,以下の各点で相違する。 <相違点1> スタビライザが,本願発明1では,「車両の幅方向に延びる」ものであるのに対して,引用発明では,そのような特定がなされていない点。 <相違点2> 前記ブラケットの内側に配置され前記車両の上側に配される上側の部分と前記車両の下側に配される下側の部分とを含み前記スタビライザが通る孔を有したゴムブッシュに関して,「上側の部分」と「下側の部分」が,本願発明1では,「上側の第1ブッシュ片」と「下側の第2ブッシュ片」であるのに対して,引用発明では,「ゴムブッシュ3に,径方向及び軸方向に沿う装着用の切断部7が形成され」ており,切断部7のない部分で,「上側の部分」と「下側の部分」がつながっている点。 <相違点3> ブッシュユニットが,本願発明1では,「前記接着部材の一部からなり前記下側の第2ブッシュ片の一方の端面の前記内面寄りの隅部に前記一方の端面に沿って設けられ前記一方の端面と前記塗料膜との間に存し前記第2ブッシュ片に付着した第1の接着材露出部と,記接着部材の一部からなり前記下側の第2ブッシュ片の他方の端面の前記内面寄りの隅部に前記他方の端面に沿って設けられ前記他方の端面と前記塗料膜との間に存し前記第2ブッシュ片に付着した第2の接着材露出部と」を具備したのに対して,引用発明では,そのような特定はなされていない点。 (2)相違点の判断 <相違点1,2について> 引用文献2には,スタビライザーバー200(スタビライザ)を車両の幅方向に延びるようにすることやスタビライザーバー200を支持するゴム弾性体16(ゴムブッシュ)を車両の上下方向で分割したブッシュ片とするという周知技術が記載されており,引用文献2に記載された周知技術を引用発明の車両用スタビライザ及びゴムブッシュに適用して,相違点1,2にかかる本願発明1の発明特定事項とすることは,当業者が適宜なし得た事項にすぎない。 <相違点3について> ア.引用文献3?6,8に記載された技術は,いずれも車両用スタビライザ装置に関するものではない。 また,引用文献3?6,8には,本願発明1の「接着部材の一部からなり前記下側の第2ブッシュ片の一方の端面の前記内面寄りの隅部に前記一方の端面に沿って設けられ前記一方の端面と前記塗料膜との間に存し前記第2ブッシュ片に付着した第1の接着材露出部」と「接着部材の一部からなり前記下側の第2ブッシュ片の他方の端面の前記内面寄りの隅部に前記他方の端面に沿って設けられ前記他方の端面と前記塗料膜との間に存し前記第2ブッシュ片に付着した第2の接着材露出部」が開示されていない。 したがって,引用発明に引用文献3?6,8に記載された技術を適用する動機付けはなく,仮に,引用発明に引用文献3?6,8に記載された技術を適用できたとしても,相違点3における本願発明1の発明特定事項には,至らない。 イ.引用文献3,4には,それぞれ,継手の受け口部に液状の接着剤を塗布し,この受け口部に硬質塩化ビニル管を差し込んだときに液状の接着剤の一部が継手端面からはみ出る旨,記載されている。 また,引用文献3,4は,はみ出た接着剤を塩化ビニル管の表面の色調(灰,青,黒)と区別できるようにするために,接着剤に白色顔料を配合していることからわかるように,引用文献3,4の接着剤が付着するのは塩化ビニル管の表面である。塩化ビニル管の場合には表面に接着剤が付着しても問題ないかもしれないが,スタビライザの場合には接着剤がスタビライザの表面に付着すると接着剤自体が外観を損ねるし,接着剤に汚れが付きやすいなど,外観が悪くなり商品価値が下がってしまうので好ましくない。 よって引用文献3,4は,相違点3に係る本願発明1の発明特定事項を開示するものではなく,本願発明1の効果を予測させるものでもない。 ウ.引用文献5は,液状の接着剤9をレーザホルダー1の接着剤塗布部2に塗布したのち,レンズ鏡筒4を接着剤塗布部2に嵌合させ,その際に接着剤の一部が接着部6の外側にはみ出ることがある,旨記載されている。その場合,接着剤塗布部2の周面に接着剤9が付着することになり,製品の外部から見えないようなレーザホルダー1の場合には接着剤9の一部が接着剤塗布部2の周面に付着しても問題ないかもしれないが,スタビライザの場合には接着剤がスタビライザの表面に付着すると外観が悪くなり商品価値が下がってしまうので好ましくない。 よって,引用文献5は,相違点3に係る本願発明1の発明特定事項を開示するものではなく,本願発明1の効果を予測させるものでもない。 エ.引用文献6は,液状の接着剤3aを回転軸1の周面に塗布したのち,永久磁石2を回転軸1嵌合させ,その際に接着剤3aの一部が接着部6の外側にはみ出ていることが記載されている。その場合,回転軸1の周面に接着剤3aが付着することになり,製品の外部から見えないような回転軸1の場合には接着剤3aの一部が回転軸1の周面に付着しても問題ないかもしれないが,スタビライザの場合には接着剤がスタビライザの表面に付着すると外観が悪くなり商品価値が下がってしまうので好ましくない。 よって,引用文献6は,相違点3に係る本願発明1の発明特定事項を開示するものではなく,本願発明1の効果を予測させるものでもない。 オ.引用文献8には余分な接着剤を隙間の開口から外部にはみ出させて外部から確認できるようにすること記載されているにすぎず,相違点3に係る本願発明1の発明特定事項を開示するものではなく,本願発明1の効果を予測させるものでもない。 カ.そして,相違点3に係る本願発明1の発明特定事項により,本願発明1は,スタビライザ(20)の下面に付着した水がゴムブッシュ(60)の接着部に浸入することを抑制でき,接着部が劣化することを防止でき,「ゴムブッシュをスタビライザに取付けた後であっても,車両の下側から接着材露出部の有無を目視することにより,接着材層が設けられている否かを確認することができ,ブッシュ接着タイプの場合に誤って接着剤が設けられていないという不具合を車両の下側から見つけ出すことができる」という格別の作用効果を奏することができるものである。 キ.したがって,本願発明1は,引用発明,引用文献2?引用文献6に記載された技術,引用文献8に記載された技術に基いて,当業者が,容易に発明をすることができたものではない。 また,本願発明3?6について引用された引用文献7にも,相違点3に係る本願発明1の発明特定事項は開示されていない。 2.本願発明2?6について 本願発明2?6は,本願発明1の発明特定事項を全て含み,さらに限定して発明を特定するものであるから,本願発明1と同じ理由により,引用発明,引用文献2?引用文献8に記載された技術に基いて当業者が容易に発明をできたものではない。 第6 むすび 以上のとおり,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。 また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって,結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2020-06-30 |
出願番号 | 特願2015-235814(P2015-235814) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(B60G)
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最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 菅 和幸、高橋 武大 |
特許庁審判長 |
島田 信一 |
特許庁審判官 |
佐々木 一浩 藤井 昇 |
発明の名称 | 車両用スタビライザ装置 |
代理人 | 特許業務法人スズエ国際特許事務所 |