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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H04W
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H04W
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H04W
管理番号 1363932
審判番号 不服2018-15192  
総通号数 248 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-08-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-11-15 
確定日 2020-07-08 
事件の表示 特願2016-509090「シグナリングバックグラウンドのために未使用のアップリンクサイクリックシフトを利用すること」拒絶査定不服審判事件〔平成26年10月23日国際公開、WO2014/172515、平成28年 7月 7日国内公表、特表2016-519912〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,2014年(平成26年)4月17日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2013年4月17日 米国,2014年4月16日 米国)を国際出願日とする出願であって,その手続の経緯の概略は以下のとおりである。

平成30年 4月 4日付け:拒絶理由通知書
平成30年 7月 9日 :意見書,手続補正書の提出
平成30年 7月18日付け:拒絶査定
平成30年11月15日 :拒絶査定不服審判の請求
令和 1年 9月 6日付け:拒絶理由通知書(当審)
令和 1年12月 6日 :意見書,手続補正書の提出

第2 本願発明

本願の請求項1-12に係る発明は,令和1年12月6日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1-12に記載された事項により特定されるところ,その請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,以下のとおりのものと認める。

「 ユーザ機器(UE)によるワイヤレス通信のための方法であって,
アップリンクチャネルを送信するために使用される1つまたは複数のサイクリックシフトまたは直交カバーコードを選択すること,ここにおいて,前記1つまたは複数のサイクリックシフトまたは直交カバーコードは,前記UEのアンテナの選択に関する情報を伝達するために選択される,ここにおいて,前記UEのアンテナの前記選択に関する前記情報は,特定のワイヤレスプロトコルのため前記UEによって使用されるアンテナの数に関する情報である,ここにおいて,前記サイクリックシフトまたは直交カバーコードは,前記アップリンクチャネルで明示的に伝達されない情報を暗黙的に伝達するために選択される,と,
前記選択されたサイクリックシフトまたは直交カバーコードを使用して前記アップリンクチャネルを送信することによって前記情報を伝達すること,と,
を備える,方法。」

第3 拒絶の理由

令和1年9月6日付けで当審が通知した拒絶理由(以下,「当審拒絶理由」という。)の概要は,「1.(サポート要件)この出願は,特許請求の範囲の記載が下記の点で,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。」,「3.(新規性)この出願の下記の請求項に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから,特許法第29条第1項第3号に該当し,特許を受けることができない。」,「4.(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」というものであり,3.(新規性)及び4.(進歩性)に関して,請求項1について,以下の引用例2,3が引用されている。

引用例2:米国特許出願公開第2012/0051319号明細書
引用例3:特開2011-234286号公報

第4 当審の判断

1 特許法第29条第1項第3号(新規性),及び特許法第29条第2項(進歩性)について

以下,当審拒絶理由の「第2 理由3(新規性),理由4(進歩性)」に記載した「(1)」の解釈(「UEのアンテナの選択に関する情報」が「特定のワイヤレスプロトコルのため前記UEによって使用されるアンテナの数に関する情報」の単なる上位概念を意味するものと解釈する)に基づいて検討する。

(1) 引用発明
ア 引用発明1
当審拒絶理由に引用された米国特許出願公開第2012/0051319号明細書(引用例2)には,図面とともに以下の事項が記載されている。(下線は当審が付与。)

「[0029] Hereinafter, the preferred embodiments of the present invention correspond to examples wherein the technical characteristics of the present invention are applied in a 3GPP system. However, this is merely exemplary. And, therefore, the present invention will not be limited only to the exemplary embodiments presented herein.
[0030] Although the description of the present invention is based upon the LTE-A, the proposed concept or proposed methods and the exemplary embodiments of the same may also be applied to another type of system using multiple carriers (e.g., IEEE 802.16m) without any limitations.
(中略)
2. Second Embodiment

Control Information Transmission from the User Equipment to the Base Station

[0097] The user equipment may configure a DM-RS based upon DM-RS indicator information transmitted from the base station and may transmit the configured DM-RS.
(中略)
[0099] The user equipment may select a DM-RS, based upon the control information that the user equipment wishes to transmit. The DM-RS set that is used for selecting the DM-RS may be defined as a limited cyclic shift, which is defined by a total number of cyclic shifts or implicitly/explicitly defined by higher layer signaling or specific.
(中略)
[0101] Referring to FIG. 7 , the base station may transmit to the user equipment DM-RS configuration information respective to a mapping rule, which may be used for re-translating a DM-RS resource indicator as control information, to the user equipment (S 701 ). Since the description of the same is identical to the description of step S 601 shown in FIG. 6 , a detailed description of the same will be omitted for simplicity. Instead of being transmitted from the base station, the mapping rule translating the DM-RS resource indicator as control information may be predetermined in the base station and/or the user equipment.
[0102] Thereafter, the user equipment may select a DM-RS, which the user equipment wishes to transmit (S 702 ).
[0103] The DM-RS set includes a first DM-RS set, which is to be selected when transmitting data, and a second DM-RS set, which may be re-translated as control information. The second DM-RS set may be configured of DM-RSs that may be arbitrarily selected by the user equipment based upon unused cyclic shifts. And, when it is assumed that the number of DM-RSs included in the second DM-RS set is equal to Na (Na>1), among the Na number of DM-RSs, the user equipment may select one or more DM-RSs and may transmit the corresponding control information. Then, the selected control information may have been received from the base station in the previous process step or may be mapped to DM-RSs that are predetermined in accordance with a mapping rule. Thereafter, the user equipment transmits the DM-RSs, which are respectively mapped to the selected control information, to the base station (S 703 ).
(中略)
[0105] Hereinafter, diverse control information that may be transmitted through the DM-RS will now be described in detail.
(中略)
[0109] 2) Random Access and LTE-A User Equipment Capability Indicator Information
[0110] The control information that is reported by the user equipment to the base station may, for example, include information on a number of available physical antennae, information on a configuration of a power amplifier that may be used independently, and information on MIMO performance or multiple carrier performance.
(中略)
[0112] LTE-A user equipment capability, such as carrier aggregation capability, number of physical antennae, number of power amplifiers, and CoMP related capabilities, may be transmitted through a shared channel or a DM-RS index.
(中略)
[0114] If a PDCCH separately defined for the LTE-A user equipment does not exist, the LTE-A user equipment may differently translate the RAR, which is the same as that of the convention LTE. Accordingly, contents of the third message, which is transmitted by the LTE-A user equipment, may be different from the contents of the third message, which is transmitted by the legacy LTE user equipment. Information for differently translating the RAR may be defined in the LTE-A system information. If a shared channel is not used for the LTE-A capability transmission, the information on the corresponding LTE-A user equipment capability may be transmitted through a DM-RS cyclic shift selection. More specifically, information on a number of available physical antennae supported by the user equipment, information on a configuration of a power amplifier that may be used independently, and information on MIMO performance or multiple carrier performance may be indicated in accordance with a specific DM-RS, which is selected from a set of available DM-RS cyclic shifts.
(中略)
[0131] The above-described exemplary embodiments of the present invention may support the MIMO operations. More specifically, each transmission antenna (port) may support each DM-RS, and the DM-RS used in each antenna (port) may be independently selected from a pre-defined cyclic shift set.
(中略)
[0134] In the above-described method for transmitting diverse control information from the user equipment by using a DM-RS selection according to the second embodiment of the present invention, when using the PUSCH, and when transmitting control information through the DM-RS field over the PUSCH, only the DM-RS is transmitted without having to transmit other separate information.



(当審仮訳:
[0029] 以下,本発明の実施形態は,例として本発明の技術的特徴が3GPPシステムに適用される方法に対応する。しかし,これは単なる例示である。したがって,本発明は,本明細書に提示される例示的な実施形態にのみ限定されるものではない。
[0030] 本発明の説明はLTE-Aに基づくものであるが,提案された概念または提案された方法および例示的な実施形態は,何ら制限を受けることなく,複数のキャリアを使用する別のタイプのシステム(例えば,IEEE 802.16m)に適用することもできる。
(中略)
2. 第2の実施形態

ユーザ機器から基地局への制御情報送信

[0097] ユーザ機器は,基地局から送信されたDM-RSインジケータ情報に基づいてDM-RSを構成することができ,構成されたDM-RSを送信することができる。
(中略)
[0099] ユーザ機器は,ユーザ機器が送信を希望する制御情報に基づいて,DM-RSを選択してもよい。DM-RSを選択するために使用されるDM-RSセットは,制限されたサイクリックシフトとして定義されてもよく,これは,サイクリックシフトの総数,又は,より高い層のシグナリング又は仕様により暗示的/明示的に定義される。
(中略)
[0101] 図7を参照すると,基地局は,制御情報としてDM-RSリソースインジケータを再変換するために使用することができるマッピングルールにそれぞれ対応する,ユーザ機器DM-RS構成情報をユーザ機器に送信することができる(S 701 )。その説明は図6に示したステップS601の説明と同じであるので,詳細な説明は省略する。基地局から送信される代わりに,制御情報としてDM-RSリソースインジケータを変換するマッピングルールは,基地局及び/又はユーザ機器において予め決定されてもよい。
[0102] その後,ユーザ機器は,ユーザ機器が送信を希望するDM-RSを選択することができる(S 702 )。
[0103] DM-RSセットは,データを送信する際に選択される第1のDM-RSセットと,制御情報として再変換される第2のDM-RSセットとを含む。第2のDM-RSセットは,使用されていないサイクリックシフトに基づいてユーザ機器によって任意に選択され得るDM-RSで構成されてもよい。そして,第2のDM-RSセットに含まれるDM-RSの数がNa(Na>1)に等しいと仮定すると,DM-RSのNa個のうち,ユーザ機器は,一つ又は複数のDM-RSを選択して,対応する制御情報を送信することができる。そして,選択された制御情報は,前の処理ステップで基地局から受信されたものであってもよいし,マッピング規則に従って予め定められたDM-RSにマッピングされたものであってもよい。その後,ユーザ機器は,選択された制御情報にそれぞれマッピングされたDM-RSを基地局に送信する(S 703 )。
(中略)
[0105] 以下,DM-RSを通じて伝送される多様な制御情報について詳細に説明する。
(中略)
[0109] 2)ランダムアクセス及びLTE-Aユーザ機器能力インジケータ情報。
[0110] ユーザ機器が基地局に通知する制御情報として,例えば,多数の利用可能な物理アンテナに関する情報,独立して使用可能な電力増幅器の構成に関する情報,MIMO性能や複数キャリア性能に関する情報等を含み得る。
(中略)
[0112] キャリアアグリゲーション能力,物理アンテナ数,電力増幅器の数,CoMP関連能力などのLTE-Aユーザ機器能力は,共有チャネル又はDM-RSインデックスを通じて伝送され得る。
(中略)
[0114] LTE-Aユーザ機器に対して個別に定義されたPDCCHが存在しない場合,LTE-Aユーザ機器は,RARを異なる方法で変換できる。これは,従来のLTEと同じである。したがって,LTE-Aユーザ機器によって送信される第3メッセージの内容は,レガシーLTEユーザ機器によって送信される第3メッセージの内容とは異なる可能性がある。RARを異なる方法で変換するための情報は,LTE-Aシステム情報において定義され得る。LTE-A能力送信に共用チャネルが使用されない場合,対応するLTE-Aユーザ機器能力に関する情報は,DM-RSサイクリックシフト選択を通じて伝送され得る。具体的には,利用可能なDM-RSサイクリックシフトセットから選択された特定のDM-RSに従って,ユーザ機器によってサポートされる多数の利用可能な物理アンテナに関する情報,独立して使用され得る電力増幅器の構成に関する情報,MIMO性能に関する情報,又は多重キャリア性能に関する情報が示され得る。
(中略)
[0131] 本発明の上記の実施例は,MIMO動作をサポートすることができる。より具体的には,各送信アンテナ(ポート)が各DM-RSをサポートし,各アンテナ(ポート)に使用されるDM-RSは,予め定義されたサイクリックシフトセットから独立して選択され得る。
(中略)
[0134] 本発明の第2の実施形態によれば,DM-RS選択を用いてユーザ機器から多様な制御情報を伝送するための上述の方法において,PUSCHを使用する場合,及びPUSCH上のDM-RSフィールドを介して制御情報を送信する場合,他の別個の情報を伝送する必要なくDM-RSのみが伝送される。

(図面は省略)
)

上記の記載,並びに当業者の技術常識を考慮すると,以下のことがいえる。

(ア) [0029],[0030]の記載,及び「2. 第2の実施形態」のタイトルである「ユーザ機器から基地局への制御情報送信」との記載によれば,引用例2には,「LTE-Aシステムに適用される,ユーザ機器から基地局への制御情報送信の方法」について記載されていると認める。

(イ) [0099],[0103],図7には,ユーザ機器は,ユーザ機器が送信を希望する制御情報に基づいてDM-RSを選択し,制御情報にマッピングされたDM-RSを基地局に送信することが記載されている。
ここで,[0099],[0114]の記載によれば,DM-RSを選択することとは,制限されたサイクリックシフトとして定義されたDM-RSセットから特定のDM-RSを選択することといえる。
よって,引用例2には「ユーザ機器は,ユーザ機器が送信を希望する制御情報に基づいてDM-RSを選択し,制御情報にマッピングされたDM-RSを基地局に送信すること,DM-RSを選択することとは,制限されたサイクリックシフトとして定義されたDM-RSセットから特定のDM-RSを選択することであること」が記載されていると認める。

更に,[0105],[0110] ,[0112] ,[0114]の記載によれば, ユーザ機器が基地局に通知する制御情報として,ユーザ機器によってサポートされる多数の利用可能な物理アンテナに関する情報及び物理アンテナ数が含まれることが記載されているといえる。
また, [0110],[0114]には,ユーザ機器が基地局に通知する制御情報として,あるいはLTE-Aユーザ機器能力として,MIMO性能が含まれることが記載されている。更に,[0131]には,引用例2に記載された発明の実施例は,MIMO動作をサポートすることが記載されている。してみると,ユーザ機器は,MIMO動作をサポートするといえる。
よって,引用例2には「ユーザ機器が基地局に通知する制御情報として,ユーザ機器によってサポートされる多数の利用可能な物理アンテナに関する情報及び物理アンテナ数が含まれること,ユーザ機器はMIMO動作をサポートすること」について記載されていると認める。

更に,[0134]には,「PUSCH上のDM-RSフィールドを介して制御情報を送信する場合,他の別個の情報を伝送する必要なくDM-RSのみが伝送されること」について記載されていると認める。

以上を総合すると,引用例2には以下の発明(以下,「引用発明1」という。)が記載されていると認める。

「 LTE-Aシステムに適用される,ユーザ機器から基地局への制御情報送信の方法であって,
ユーザ機器は,ユーザ機器が送信を希望する制御情報に基づいてDM-RSを選択し,制御情報にマッピングされたDM-RSを基地局に送信すること,DM-RSを選択することとは,制限されたサイクリックシフトとして定義されたDM-RSセットから特定のDM-RSを選択することであること,ユーザ機器が基地局に通知する制御情報として,ユーザ機器によってサポートされる多数の利用可能な物理アンテナに関する情報及び物理アンテナ数が含まれること,ユーザ機器はMIMO動作をサポートすること,PUSCH上のDM-RSフィールドを介して制御情報を送信する場合,他の別個の情報を伝送する必要なくDM-RSのみが伝送されること
を含む方法。」

イ 引用発明2
当審拒絶理由に引用された特開2011-234286号公報(引用例3)には,以下の事項が記載されている。(下線は当審が付与。)

「【0001】
本発明は,複数のアンテナを備えた携帯通信端末,携帯通信端末の制御プログラム,及び携帯通信端末のアンテナ選択方法に関する。
(中略)
【0022】
ここで,LTEは,空間多重方式を用いて同じ周波数で通信されるデータを,複数のアンテナを用いて通信するMIMO(Multiple Input Multiple Output)である。このため,LTE通信に使用されるアンテナ(以下単に,通信アンテナという)の数が多くなる程(つまり,空間多重数が多い程),また通信アンテナ同士の相関が低い程,周波数利用率及びスループット等で表される通信効率が高い。
(中略)
【0028】
ROM143は,CPU141によって実行されるプログラムと,プロファイルとを記憶する。ここで,プロファイルとは,携帯通信端末100がある使用状態にある場合に,アンテナ11から16に対してそれぞれ最適な通信方法を割り当てるリストをいう。
【0029】
上記のように,LTEにおいて通信速度が最も向上する最適なアンテナの組合せは,通信アンテナ間の距離が長く,かつ通信アンテナの主偏波を直交した組合せである。また上記のように,携帯通信端末100のスタイルによってアンテナ11から16間の距離が変化し,かつアンテナ11から16の周波数特性が変化する。
(中略)
【0031】
クローズ時のプロファイルについて具体的に説明する。上記のように,LTEに適したクローズ時のアンテナの組合せは,アンテナ11及び13の組合せ(又はアンテナ12及び14の組合せ)である。このため,図2(d)に示すクローズ時のプロファイルは,LTEをアンテナ11及び13で使用することを表し,DTV,3G,WLAN,及びBTを,図2(c)の表に従って残りのアンテナ11,12,15,及び16で使用することを表す。尚,図2(d)に示すプロファイルは,アンテナ16の周波数特性をBTに適したものに変更させた上で,BTで使用すると記載する。プロファイルは,BT方式に適した周波数特性を有するアンテナ11及び12をそれぞれLTE及びWLANで使用すると記載するからである。
【0032】
同様に,LTEに適したオープン時のアンテナの組合せは,上記のように,アンテナ11及び15の組合せ(又はアンテナ12及び16の組合せ)である。このため,図3(d)に示すオープン時のプロファイルは,LTEをアンテナ11及び15で使用することを表し,DTV,3G,WLAN,及びBTを,図3(b)の表に従って残りのアンテナ12,13,14,及び16で使用することを表す。尚,図3(d)のプロファイルも,図2(d)のプロファイルと同様に,アンテナ16の周波数特性をBTに適したものに変更させると記載する。
(中略)
【0034】
携帯通信端末100は,図5で示したハードウェアを用いて,携帯通信端末100の使用状態に基づいて通信に使用するアンテナを選択する,図6に示すようなアンテナ選択処理を実行する。尚,図5のCPU141は,図6のアンテナ選択処理を実行することで,図7(a)に示すような信号取得部150,使用状態検出部160,アンテナ選択制御部170,及び周波数特性変更部180として機能し,ROM143と協働してプロファイルデータベース(以下単に,プロファイルDBという)175として機能する。
(中略)
【0038】
次に,アンテナ選択制御部170は,プロファイルDB175が記憶する図3(c)に示すような表から,検出されたオープンスタイル(つまり,姿勢)を表す「オープン」と,通信中の状態(つまり,通信状態)で表される使用状態に対応付けたプロファイル番号「1」を検索し,検索したプロファイル番号に基づいて,図3(d)に示すようなプロファイルを選択する(ステップS04)。
【0039】
その後,アンテナ選択制御部170は,アンテナ選択制御部170で選択されたプロファイルが有ると判断する(ステップS05;Yes)。次に,アンテナ選択制御部170は,選択されたプロファイルに従って,アンテナ11から16の接続端子と,プロファイルがそれぞれのアンテナ11から16に使用するように定める通信方式に対応した信号処理部145の入出力端子とを接続するように,図5のアンテナ選択部144を制御する(ステップS06)。
(中略)
【0052】
またこの構成によれば,アンテナ選択制御部170は,使用状態が変化することで低い相関を有するアンテナの組合せが変化しても,低相関のアンテナを空間多重方式のLTEに用いるアンテナとして選択し,かつ残りのアンテナの1つ以上をDTV,3G,WLAN,又はBTで使用されるアンテナとして選択するため,アンテナ毎に通信方式が割り当てられている場合と比べて,少ないアンテナで複数の通信方式を用いて通信効率良く携帯通信端末100が通信できる。またアンテナ数が少ないため筐体におけるアンテナの占有体積を削減できる。このため,携帯通信端末100を軽量化及びコンパクト化できるので,携帯通信端末100の携帯性が向上する。
(中略)
【0054】
(変形例1)
本実施形態の変形例1に係る携帯通信端末100は,携帯通信端末100が通信に用いる無線通信システムの状態に基づいて通信に使用するアンテナを選択する。また,無線通信システムの状態とは,当該システムにおいて携帯通信端末100が使用可能な通信方式で表される。つまり,図2(c)に示したように,システムの状態は,例えば,携帯通信端末100がDTVで通信可能な状態又は通信不能な状態などで表される。
【0055】
本変形例において,図7(a)の使用状態検出部160は,信号処理部145が正常に復調した通信方式を,使用可能な通信方式として検出する。また,アンテナ選択制御部170は,プロファイルが表すDTV,3G,WLAN,BT,及びLTEの通信方式の内で,使用状態検出部160が使用可能な通信方式として検出した通信方式についてのみ,信号処理部145の入出力端子と,アンテナ11から16がそれぞれ有する接続端子とを接続するようにアンテナ選択部144を制御する。」

上記の記載,並びに当業者の技術常識を考慮すると,以下のことがいえる。

(ア)【0001】,【0028】,【0034】,【0039】,【0052】,【0054】,【0055】の記載によれば,携帯通信端末のアンテナ選択方法において,携帯通信端末が,携帯通信端末の使用状態と無線通信システムの状態に基づいて,LTEで使用するアンテナと,WLANを含むその他の通信方式で使用するアンテナを選択するといえる。
また,【0022】,【0052】によれば,携帯通信端末は,LTE通信においてMIMOによる通信を行うといえる。

以上を総合すると,引用例3には以下の発明(以下,「引用発明2」という。)が記載されていると認める。

「 携帯通信端末のアンテナ選択方法であって,
携帯通信端末が,
携帯通信端末の使用状態と無線通信システムの状態に基づいて,LTEで使用するアンテナと,WLANを含むその他の通信方式で使用するアンテナを選択すること,
LTE通信においてMIMOによる通信を行うこと,
を含む方法。」

(2) 対比・判断
本願発明と引用発明1とを対比する。

ア 引用発明1の「ユーザ機器」は,本願発明の「ユーザ機器(UE)」に相当する。
また,引用発明1の「ユーザ機器から基地局への制御情報送信」は,ユーザ機器が,LTE-Aシステムにおいてワイヤレス通信を行うためのものであることは明らかである。
したがって,引用発明1の「LTE-Aシステムに適用される,ユーザ機器から基地局への制御情報送信の方法」は,本願発明と同様に「ユーザ機器(UE)によるワイヤレス通信のための方法」といえる。

イ 引用発明1の「制限されたサイクリックシフトとして定義されたDM-RSセットから特定のDM-RSを選択すること」について,選択される特定のDM-RSは,特定のDM-RSに対応するサイクリックシフトによって定義されているので,特定のDM-RSを選択することは,特定のDM-RSを定義するサイクリックシフトを選択することを含むといえる。また,引用発明1の「特定のDM-RSを選択すること」は,制御情報にマッピングされたDM-RSを基地局にアップリンク送信を行うための処理であることは明らかである。更に,アップリンク送信においてアップリンクチャネルを用いていることは自明である。
そして,「または」は択一的であることを意味するから,本願発明の「1つまたは複数のサイクリックシフトまたは直交カバーコードを選択すること」は,「1つのサイクリックシフトを選択すること」を含む。
してみれば,引用発明1の「ユーザ機器は,ユーザ機器が送信を希望する制御情報に基づいてDM-RSを選択し,制御情報にマッピングされたDM-RSを基地局に送信すること,DM-RSを選択することとは,制限されたサイクリックシフトとして定義されたDM-RSセットから特定のDM-RSを選択することであること」は,「アップリンクチャネルを送信するために使用される1つのサイクリックシフトを選択すること」の点で本願発明と一致している。

また,引用発明1の「ユーザ機器によってサポートされる多数の利用可能な物理アンテナに関する情報及び物理アンテナ数が含まれること,ユーザ機器はMIMO動作をサポートすること」に関して,「ユーザ機器によってサポートされる多数の利用可能な物理アンテナに関する情報及び物理アンテナ数」に基づいて,ユーザ機器がMIMO動作を行う際のアンテナの数が選択・決定されること(例えば,ユーザ機器が有する「物理アンテナ数」を上限とし,「ユーザ機器によってサポートされる多数の利用可能な物理アンテナに関する情報」を考慮して,MIMO動作を行う際の物理アンテナの数や論理アンテナの数が選択・決定されること)は,当業者にとって明らかである。
また,引用発明1は,「LTE-Aシステムに適用される,ユーザ機器から基地局への制御情報送信の方法」であるから,引用発明1の「ユーザ機器によってサポートされる多数の利用可能な物理アンテナに関する情報及び物理アンテナ数」は,LTE-Aシステムの通信プロトコルのための情報であるといえる。
してみれば,引用発明1の「ユーザ機器によってサポートされる多数の利用可能な物理アンテナに関する情報及び物理アンテナ数」は,本願発明の「前記UEのアンテナの選択に関する情報」である「特定のワイヤレスプロトコルのため前記UEによって使用されるアンテナの数に関する情報」に相当する。

更に,引用発明1は,「ユーザ機器は,ユーザ機器が送信を希望する制御情報に基づいてDM-RSを選択し,制御情報にマッピングされたDM-RSを基地局に送信すること」及び「ユーザ機器が基地局に通知する制御情報として,ユーザ機器によってサポートされる多数の利用可能な物理アンテナに関する情報及び物理アンテナ数が含まれること」を含むから,引用発明1の「ユーザ機器」は,「ユーザ機器によってサポートされる多数の利用可能な物理アンテナに関する情報及び物理アンテナ数」が含まれる制御情報を基地局に通知するために,DM-RSを選択していることは明らかである。そして,上述したとおり,DM-RSを選択することは,DM-RSを定義するサイクリックシフトを選択することを含むといえる。

したがって,引用発明1の「ユーザ機器は,ユーザ機器が送信を希望する制御情報に基づいてDM-RSを選択し,制御情報にマッピングされたDM-RSを基地局に送信すること,DM-RSを選択することとは,制限されたサイクリックシフトとして定義されたDM-RSセットから特定のDM-RSを選択することであること,ユーザ機器が基地局に通知する制御情報として,ユーザ機器によってサポートされる多数の利用可能な物理アンテナに関する情報及び物理アンテナ数が含まれること,ユーザ機器はMIMO動作をサポートすること」は,本願発明の「アップリンクチャネルを送信するために使用される1つのサイクリックシフトを選択すること,ここにおいて,前記1つのサイクリックシフトは,前記UEのアンテナの選択に関する情報を伝達するために選択される,ここにおいて,前記UEのアンテナの前記選択に関する前記情報は,特定のワイヤレスプロトコルのため前記UEによって使用されるアンテナの数に関する情報である」ことに相当する。

ウ 引用発明1の「PUSCH上のDM-RSフィールドを介して制御情報を送信する場合,他の別個の情報を伝送する必要なくDM-RSのみが伝送されること」について, DM-RSのみが伝送されているから,アップリンクチャネルであるPUSCHにおいて,制御情報に関する明示的な情報が伝達されていないことは明らかである。そして,明示的な情報を伝達せずに制御情報を送信するということは,暗黙的に制御情報を送信することに他ならない。
また,「イ」で上述した事項を考慮すれば,引用発明1において「PUSCH上のDM-RSフィールドを介して制御情報を送信する」場合に,送信される制御情報に対応したDM-RSの選択が行われていることは明らかである。そして,「イ」で上述したとおり,DM-RSを選択することは,DM-RSを定義するサイクリックシフトを選択することを含むといえる。

したがって,引用発明1の「PUSCH上のDM-RSフィールドを介して制御情報を送信する場合,他の別個の情報を伝送する必要なくDM-RSのみが伝送されること」は,本願発明の「ここにおいて,前記サイクリックシフトは,前記アップリンクチャネルで明示的に伝達されない情報を暗黙的に伝達するために選択される」ことに相当する。

エ 「イ」で上述したとおり,引用発明1の「ユーザ機器」は,「ユーザ機器によってサポートされる多数の利用可能な物理アンテナに関する情報及び物理アンテナ数」が含まれる制御情報を基地局に通知するために,DM-RSを選択していることは明らかである。そして,「イ」で上述したとおり,DM-RSを選択することは,DM-RSを定義するサイクリックシフトを選択することを含むといえる。

したがって,引用発明1の「ユーザ機器は,ユーザ機器が送信を希望する制御情報に基づいてDM-RSを選択し,制御情報にマッピングされたDM-RSを基地局に送信すること,DM-RSを選択することとは,制限されたサイクリックシフトとして定義されたDM-RSセットから特定のDM-RSを選択することであること,ユーザ機器が基地局に通知する制御情報として,ユーザ機器によってサポートされる多数の利用可能な物理アンテナに関する情報及び物理アンテナ数が含まれること,ユーザ機器はMIMO動作をサポートすること」は,本願発明の「前記選択されたサイクリックシフトを使用して前記アップリンクチャネルを送信することによって前記情報を伝達すること」に相当する。

オ 本願発明の「1つまたは複数のサイクリックシフトまたは直交カバーコード」,「前記サイクリックシフトまたは直交カバーコード」,「前記選択されたサイクリックシフトまたは直交カバーコード」に関して,「または」は択一的であることを意味するから,引用発明1が「複数のサイクリックシフトまたは直交カバーコード」,「または直交カバーコード」との事項を有しないことは,相違点とはならない。

以上を総合すると,本願発明と引用発明1とは,

(一致点)
「 ユーザ機器(UE)によるワイヤレス通信のための方法であって,
アップリンクチャネルを送信するために使用される1つのサイクリックシフトを選択すること,ここにおいて,前記1つのサイクリックシフトは,前記UEのアンテナの選択に関する情報を伝達するために選択される,ここにおいて,前記UEのアンテナの前記選択に関する前記情報は,特定のワイヤレスプロトコルのため前記UEによって使用されるアンテナの数に関する情報である,ここにおいて,前記サイクリックシフトは,前記アップリンクチャネルで明示的に伝達されない情報を暗黙的に伝達するために選択される,と,
前記選択されたサイクリックシフトを使用して前記アップリンクチャネルを送信することによって前記情報を伝達すること,と,
を備える,方法。」

で一致し,相違するところはない。

そして,本願発明の作用効果も,引用発明1に基づいて当業者が予測できる範囲のものである。
したがって,本願発明は,引用発明1と同一である。また,引用発明1に基づいて本願発明をすることは当業者にとって容易である。

以上のとおり,本願発明は,引用例2に記載された発明であるから,特許法第29条第1項第3号に該当し,特許を受けることができない。
また,本願発明は,引用例2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(請求人の主張について)
請求人は令和1年12月6日に提出された意見書の「3-2.拒絶理由3及び4(新規性及び進歩性)についての意見」の「(1)」において,「ここで,「能力情報には,ユーザ機器によってサポートされる利用可能な物理アンテナの数が含まれること」とは,文献2の[0114]の記載に基づくものと思料いたします。
(中略)
ここには,「information on a number of available physical antennae supported by the user equipment」(ユーザ機器がサポートする多数の利用可能な物理アンテナに関する情報)と記載されていますが,「supported by the user equipment」(ユーザ機器がサポートする)の技術的意味が不明です。したがって,ここには,「the number of antennas utilized by the UE」(UEによって使用されるアンテナの数)は明記されていないと思料いたします。文献2の段落[0110]の記載も同様です。
これに対して,審判官殿は指摘されていませんが,文献2の請求項18には,
(中略)
これらの記載から,[0114]に記載された「information on anumber of available physical antennae supported by the user equipment」(ユーザ機器がサポートする多数の利用可能な物理アンテナに関する情報)とは,ユーザ機器がサポートする多数の利用可能な基地局の物理アンテナに関する情報であると理解すべきであると思料いたします。」と主張している。

しかしながら,「第4 当審の判断」の「1 特許法第29条第1項第3号(新規性),及び特許法第29条第2項(進歩性)について」の「(1) 引用発明」の「ア 引用発明1」において上述したとおり,引用例2の[0112]には,「物理アンテナ数」を含むLTE-Aユーザ機器能力が,共有チャネル又はDM-RSインデックスを通じて伝送され得ることが記載されている。更に,引用例2の[0114]には,DM-RSサイクリックシフト選択を通じて伝送され得るLTE-Aユーザ機器能力として,「ユーザ機器によってサポートされる多数の利用可能な物理アンテナに関する情報」が示されうることが記載されている。そして,MIMO動作を行うユーザ機器が,ユーザ機器の能力情報として,ユーザ機器の物理アンテナ数や論理アンテナ数の情報を基地局に通知することは技術常識である。
また,引用例2の [0105]の「以下,DM-RSを通じて伝送される多様な制御情報について詳細に説明する。」との記載から,[0109]-[0115]に記載されている,DM-RSを介して通知されるLTE-Aユーザ機器能力,すなわち,上述した[0112]の「物理アンテナ数」や,[0114]の「ユーザ機器によってサポートされる多数の利用可能な物理アンテナに関する情報」を含むLTE-Aユーザ機器能力が,ユーザ機器が基地局に通知する制御情報に含まれることは明らかである。
したがって,上記の請求人の主張((UEによって使用されるアンテナの数)は明記されていないという主張,及び(ユーザ機器がサポートする多数の利用可能な物理アンテナに関する情報)とは,ユーザ機器がサポートする多数の利用可能な基地局の物理アンテナに関する情報であると理解すべきという主張)は採用することができない。

更に,請求人は令和1年12月6日に提出された意見書の「3-2.拒絶理由3及び4(新規性及び進歩性)についての意見」の「(2)」において,「しかしながら,「information on a number of available physical antennae supported by the user equipment」(ユーザー機器がサポートする多数の利用可能な物理アンテナに関する情報)が,LTEプロトコルに基づく通信で送信されたとしても,それは単に情報を伝送した通信プロトコルがLTEであったにすぎず,「information on a number of available physical antennae supported by the user equipment」(ユーザー機器がサポートする多数の利用可能な物理アンテナに関する情報)が,LTEプロトコルのためにUEによって使用されるアンテナの数に関する情報であるとは言えないと思料いたします。」と主張している。

しかしながら,本願発明の「特定のワイヤレスプロトコルのため前記UEによって使用されるアンテナの数に関する情報」は,特定のワイヤレスプロトコルのためUEによって使用されるアンテナの数だけではなく,特定のワイヤレスプロトコルのためUEによって使用されるアンテナの数に関連する情報を包含するものといえる。そして,「(2) 対比・判断」の「イ」の検討を考慮すれば,「ユーザ機器によってサポートされる多数の利用可能な物理アンテナに関する情報及び物理アンテナ数」に基づいて,LTE-Aシステムの通信プロトコルを用いた通信のために,ユーザ機器がMIMO動作を行う際のアンテナの数が選択・決定されること(例えば,ユーザ機器が有する「物理アンテナ数」を上限とし,「ユーザ機器によってサポートされる多数の利用可能な物理アンテナに関する情報」を考慮して,MIMO動作を行う際の物理アンテナの数や論理アンテナの数が選択・決定されること)は,当業者にとって明らかである。
してみれば,引用発明1の「ユーザ機器によってサポートされる多数の利用可能な物理アンテナに関する情報及び物理アンテナ数」が,LTE-Aシステムの通信プロトコルを用いた通信のために,アンテナ数を含むアンテナ条件を選択・決定するための情報であることは明らかである。
したがって,上記の請求人の主張は採用することができない。

(付記)
以下,当審拒絶理由の「第2 理由3(新規性),理由4(進歩性)」に記載した「(2)」の解釈(発明の詳細な説明の段落[0071]の記載を勘案し,「UEのアンテナの選択に関する情報」を,UEのアンテナについて,LTEで使用するのかWiFiで使用するのかの選択に関する情報を意味すると解釈する)に基づいた検討についても付記する。

上述の「(2)」の解釈に従い,本願発明の「前記UEのアンテナの選択に関する情報」及び「前記UEのアンテナの前記選択に関する前記情報は,特定のワイヤレスプロトコルのため前記UEによって使用されるアンテナの数に関する情報」は,複数のワイヤレスプロトコルのうち,特定のワイヤレスプロトコルのため前記UEによって選択され使用されるアンテナの数に関する情報のことを示しているものと仮定する。

ここで,引用発明1は,「LTE-Aシステムに適用される,ユーザ機器から基地局への制御情報送信の方法」であるから,引用発明1の「ユーザ機器によってサポートされる多数の利用可能な物理アンテナに関する情報及び物理アンテナ数」は,LTE-Aシステムの通信プロトコルにおいて使用されるアンテナの数に関する情報であるといえる。
そうすると,本願発明の「前記UEのアンテナの選択に関する情報」及び「前記UEのアンテナの前記選択に関する前記情報は,特定のワイヤレスプロトコルのため前記UEによって使用されるアンテナの数に関する情報」と,引用発明1の「ユーザ機器によってサポートされる多数の利用可能な物理アンテナに関する情報及び物理アンテナ数」は,「前記UEのアンテナの使用に関する情報」及び「前記UEのアンテナの前記使用に関する前記情報は,特定のワイヤレスプロトコルのため前記UEによって使用されるアンテナの数に関する情報」である点で一致する。

また,その余の事項については,「(2) 対比・判断」の「ア」?「オ」で述べたとおりである。

そうすると,本願発明と引用発明1とは,以下の点で一致し,また,相違している。

(一致点)
「 ユーザ機器(UE)によるワイヤレス通信のための方法であって,
アップリンクチャネルを送信するために使用される1つのサイクリックシフトを選択すること,ここにおいて,前記1つのサイクリックシフトは,前記UEのアンテナの使用に関する情報を伝達するために選択される,ここにおいて,前記UEのアンテナの前記使用に関する前記情報は,特定のワイヤレスプロトコルのため前記UEによって使用されるアンテナの数に関する情報である,ここにおいて,前記サイクリックシフトは,前記アップリンクチャネルで明示的に伝達されない情報を暗黙的に伝達するために選択される,と,
前記選択されたサイクリックシフトを使用して前記アップリンクチャネルを送信することによって前記情報を伝達すること,と,
を備える,方法。」

(相違点)
「前記UEのアンテナの使用に関する情報」及び「前記UEのアンテナの前記使用に関する前記情報は,特定のワイヤレスプロトコルのため前記UEによって使用されるアンテナの数に関する情報」に関し,本願発明は,「前記UEのアンテナの選択に関する情報」及び「前記UEのアンテナの前記選択に関する前記情報は,特定のワイヤレスプロトコルのため前記UEによって使用されるアンテナの数に関する情報」であり,複数のワイヤレスプロトコルのうち,特定のワイヤレスプロトコルのためUEによって選択され使用されるアンテナの数に関する情報のことを示していると解することができるのに対し,引用発明1は,複数のワイヤレスプロトコルのうち,特定のワイヤレスプロトコルのためUEによって選択され使用されるアンテナの数に関する情報については,特定されていない点。

以下,上記相違点について検討する。

上記「第4 当審の判断」の「1 特許法第29条第1項第3号(新規性),及び特許法第29条第2項(進歩性)について」の「(1) 引用発明」の「イ 引用発明2」で認定したとおり,
「 携帯通信端末のアンテナ選択方法であって,
携帯通信端末が,
携帯通信端末の使用状態と無線通信システムの状態に基づいて,LTEで使用するアンテナと,WLANを含むその他の通信方式で使用するアンテナを選択すること,
LTE通信においてMIMOによる通信を行うこと
を含む方法。」との引用発明2は公知である。

そして,複数の通信プロトコルで通信可能な端末に関して,特定の通信プロトコルで通信するために,端末内の装置の設定を当該特定の通信プロトコルにあわせた設定とすることは一般的な課題である。したがって,当該一般的課題を解決するために,引用発明1に引用発明2の構成を採用することは格別困難なことではない。
したがって,引用発明1に引用発明2を適用して,引用発明1の「ユーザ機器によってサポートされる多数の利用可能な物理アンテナに関する情報及び物理アンテナ数」を,複数のワイヤレスプロトコル(LTE及びWLANを含むその他の通信方式)のうち,特定のワイヤレスプロトコル(LTE)のためUEによって選択され使用されるアンテナについての情報及び物理アンテナ数とすることは,当業者が容易に想到しうることである。

そして,本願発明の作用効果も,引用発明1及び引用発明2に基づいて当業者が予測できる範囲のものである。
したがって,本願発明は,引用発明1及び引用発明2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない。

2 特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について

(1)本願の特許請求の範囲の請求項1及び請求項8の記載
令和1年12月6日にされた手続補正により補正された,本願の特許請求の範囲の請求項1及び請求項8には,以下の記載がある。

「 【請求項1】
ユーザ機器(UE)によるワイヤレス通信のための方法であって,
アップリンクチャネルを送信するために使用される1つまたは複数のサイクリックシフトまたは直交カバーコードを選択すること,ここにおいて,前記1つまたは複数のサイクリックシフトまたは直交カバーコードは,前記UEのアンテナの選択に関する情報を伝達するために選択される,ここにおいて,前記UEのアンテナの前記選択に関する前記情報は,特定のワイヤレスプロトコルのため前記UEによって使用されるアンテナの数に関する情報である,ここにおいて,前記サイクリックシフトまたは直交カバーコードは,前記アップリンクチャネルで明示的に伝達されない情報を暗黙的に伝達するために選択される,と,
前記選択されたサイクリックシフトまたは直交カバーコードを使用して前記アップリンクチャネルを送信することによって前記情報を伝達すること,と,
を備える,方法。」

「 【請求項8】
前記アップリンクチャネルは,サウンディング基準信号(SRS)を備える,請求項1に記載の方法。」

(2) 発明の詳細な説明の記載
本願の請求項8の記載に関連して,本願の詳細な説明には次のような記載がある。(下線は当審が付与。)

「【0049】
シグナリングのためにアップリンクシーケンスシフトを利用する例
[0055] 図1において例示されているシステムのような,LTEワイヤレス通信システムにおいて,UEは,サウンディング基準信号(SRS:sounding reference signals)および他のアップリンク(UL)基準信号をeNBに送信しうる。UL基準信号は,信号が2つのリソースブロック(RB)よりも大きい場合にザアドフ・チュー(Zadoff-Chu)・シーケンス(Zadoff-Chu sequence)に基づき,1つまたは2つのRBの信号に対するコンピュータ生成シーケンス(CGS:computer generated sequence)に基づく。例えば,図1におけるUE120のようなUEが送信のために使用するための4つのRBの割り当てを受信し,4つのRBでSRSを送信するよう決定する場合,UEは,SRSを生成するためにザアドフ・チュー・シーケンスを使用しうる。この例において,割り当てが2つのRBのみである場合,UEは,SRSを生成するためにCGSを使用しうる。加えて,グループ・ホッピング,シーケンス・シフティングおよびシーケンス・ホッピングは,UL基準信号においてサポートされる。グループ・ホッピング,シーケンス・シフティング,およびシーケンス・ホッピングは,「Evolved Universal Terrestrial Radio Access (E-UTRA);Physical Channels and Modulation」と題された,3GPP TS 36.211に説明されており,これは,公に入手可能である。
(中略)
【0054】
[0060] 加えて,サウンディング基準信号(SRS)チャネルは,奇数および偶数のコーム(combs),すなわち,SRSを送信するために割り当てられたRB内の奇数および偶数のトーン上での送信,を利用しうる。例えば,UEは,SRSを送信するために2つのサブフレームの各々内に1つのRBを割り当てられ,第1のサブフレーム内のRBのトーン0,2,4,6,8,および10上でSRSを送信し,第2のサブフレーム内のRBのトーン1,3,5,7,9,および11上でSRSを送信しうる。
(中略)
【0066】
[0072] シグナリングのためにULシーケンスシフトを利用することに関する第1のスキームにおいて,セル内に利用可能な(すなわち,既にUEに割り振られていない)DM-RSシフト,PUCCHシフト,直交カバーコード(OCC)またはSRSのリソースが存在する場合,送信のためにUEをスケジューリングするときにeNBがUEに割り当てるリソースに加えて,eNBは,それら残りのリソースのうちのいくつかを送信のためにスケジューリングされたUEに割り当てることができる。結果として,UEによるこれらのリソースからの特定の選択は,情報をeNBに伝達するために使用されうる。
(中略)
【0084】
[0090] 図4は,本開示のある特定の態様にしたがって,ユーザ機器によって遂行されうる実例的な動作400を例示する。402では,UEは,アップリンクチャネルを送信するために使用される1つまたは複数のサイクリックシフトまたは直交カバーコードを選択し得,ここにおいて,1つまたは複数のサイクリックシフトまたは直交カバーコードは,情報を伝達するために選択される。404では,UEは,選択されたサイクリックシフトまたは直交カバーコードを使用してアップリンクチャネルを送信することによって情報を伝達しうる。」

(3) 判断
本願の請求項8に係る発明は「前記アップリンクチャネルは,サウンディング基準信号(SRS)を備える,請求項1に記載の方法。」であるところ,本願の請求項1に係る発明は「前記選択されたサイクリックシフトまたは直交カバーコードを使用して前記アップリンクチャネルを送信することによって前記情報を伝達すること」なる事項を含んでいるから,本願の請求項8に係る発明は,選択された直交カバーコードを使用して,サウンディング基準信号(SRS)を送信することを含んでいる。

一方,発明の詳細な説明の記載によると,段落【0049】には,UEは,サウンディング基準信号(SRS)および他のアップリンク(UL)基準信号をeNBに送信しうることが記載されている。
また,段落【0054】には,サウンディング基準信号(SRS)チャネルは,奇数および偶数のコーム(combs),すなわち,SRSを送信するために割り当てられたRB内の奇数および偶数のトーン上での送信,を利用しうることが記載されている。
また,段落【0066】には,セル内に利用可能なSRSのリソースが存在する場合,eNBは,それら残りのリソースのうちのいくつかを送信のためにスケジューリングされたUEに割り当てることができることが記載されている。
また,段落【0084】には,選択されたサイクリックシフトまたは直交カバーコードを使用してアップリンクチャネルを送信することが記載されている。

しかしながら,発明の詳細な説明には,選択された直交カバーコードを使用して,サウンディング基準信号(SRS)を送信することについては記載されていない。
そして,直交カバーコードは,DM-RSのように,1つのサブフレーム内に2つ以上のシンボルが配置されている情報に対して適用可能なものであって,SRSのように1つのサブフレーム内に1つのシンボルのみが配置される情報に適用することはできない。すなわち,選択された直交カバーコードを使用して,サウンディング基準信号(SRS)を送信することは,本願の優先日時点における技術常識に照らしても自明のこととはいえない。

してみれば,発明の詳細な説明に発明として記載されたものは,選択されたサイクリックシフトを使用してサウンディング基準信号(SRS)を送信するものであって,選択された直交カバーコードを使用してサウンディング基準信号(SRS)を送信するものではない。

したがって,「前記アップリンクチャネルは,サウンディング基準信号(SRS)を備える,請求項1に記載の方法。」との事項を含む請求項8に係る発明は,発明の詳細な説明に記載されたものではない。

(請求人の主張について)

請求人は令和1年12月6日に提出された意見書の「3-1.拒絶理由1及び2(サポート要件及び明確性)についての意見」の「5.に関して」において,「段落[0049]にも記載されているように,LTEワイヤレス通信システムにおいて,UEは,サウンディング基準信号(SRS:sounding reference signals)をeNBに送信することができます。SRSはeNBがアップリンクのチャネル状態の推定を可能にするために種々のアップリンク帯域で送信されるもので,当業者に周知な技術事項であると思料いたします。そして,段落[0084]には,直交化カバーコードを使用してアップリンクチャネルを送信することが記載されています。したがって,SRSを備えるアップリンクチャネルを送信するために直行カバーコードを使用することは,実質的に発明の詳細な説明に記載されていると思料いたします。」と主張している。
しかしながら,上述したとおり,直交カバーコードは,DM-RSのように,1つのサブフレーム内に2つ以上のシンボルが配置されている情報に対して適用可能なものであって,SRSのように1つのサブフレーム内に1つのシンボルのみが配置される情報に適用することはできない。してみると,サウンディング基準信号(SRS)および他のアップリンク(UL)基準信号をeNBに送信しうること(段落【0049】),及び選択されたサイクリックシフトまたは直交カバーコードを使用してアップリンクチャネルを送信すること(段落【0084】)が,それぞれ個別に発明の詳細な説明に記載されているからといって,選択された直交カバーコードを使用して,サウンディング基準信号(SRS)を送信することが,発明の詳細な説明に記載されていると認めることはできない。
したがって,請求人の上記主張を採用することはできない。

第5 むすび

本願発明は,引用例2に記載された発明であるから,特許法第29条第1項第3号に該当し,特許を受けることができない。
また,本願発明は,当業者が引用例2に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
また,本願は,特許法第36条条6項1号に規定する要件を満たしていないから,特許を受けることができない。

したがって,本願は,他の請求項について検討するまでもなく,拒絶すべきものである。

よって,結論のとおり審決する。

 
別掲
 
審理終結日 2020-02-10 
結審通知日 2020-02-12 
審決日 2020-02-26 
出願番号 特願2016-509090(P2016-509090)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H04W)
P 1 8・ 537- WZ (H04W)
P 1 8・ 113- WZ (H04W)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 古市 徹  
特許庁審判長 菅原 道晴
特許庁審判官 畑中 博幸
相澤 祐介
発明の名称 シグナリングバックグラウンドのために未使用のアップリンクサイクリックシフトを利用すること  
代理人 福原 淑弘  
代理人 中丸 慶洋  
代理人 岡田 貴志  
代理人 蔵田 昌俊  
代理人 井関 守三  

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