• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C09J
管理番号 1363936
審判番号 不服2019-405  
総通号数 248 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-08-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-01-11 
確定日 2020-07-08 
事件の表示 特願2016-508971「(メタ)アクリレート基及びオレフィン基を有する架橋剤を含む接着剤並びに方法」拒絶査定不服審判事件〔平成26年10月23日国際公開、WO2014/172185、平成28年 7月21日国内公表、特表2016-521306〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2014年4月11日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2013年4月15日 (US)米国)を国際出願日とする出願であって、平成29年2月23日に手続補正書が提出され、平成30年3月1日付けで拒絶理由が通知され、その指定期間内である同年7月23日に意見書及び手続補正書が提出され、同年9月3日付けで拒絶査定され、これに対し、平成31年1月11日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、令和元年9月19日付けで当審から拒絶理由が通知され、その指定期間内である同年12月24日に意見書及び手続補正書が提出されたものである

第2 本願発明
本願の請求項1ないし9に係る発明は、令和元年12月24日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、単に「本願発明」という。)は、次のとおりである。
「 【請求項1】
感圧性接着剤組成物であって、
アルキル(メタ)アクリレートモノマーから誘導される重合単位を含むポリマーと、
(メタ)アクリレート基及びC_(8)?C_(20)のオレフィン基を含む少なくとも1つの架橋モノマー0.2?15重量%とを含み、前記オレフィン基は直鎖又は分枝鎖であり、置換されていてもよく、
前記アルキル(メタ)アクリレートモノマーは0℃以下のガラス転移温度を有するアルキル(メタ)アクリレートモノマーであり、
前記アルキル(メタ)アクリレートモノマーから誘導される重合単位の含有量は前記感圧性接着剤組成物の全重量を基準として少なくとも50重量%であり、
前記少なくとも1つの架橋モノマーの少なくとも一部は前記ポリマーに重合単位として組み込まれていてもよく、
架橋された前記感圧性接着剤組成物が感圧性接着剤である、感圧性接着剤組成物。」

第3 令和元年9月19日付けの当審拒絶理由の内容
当審において通知した拒絶理由のうち、理由3は次のとおりである。
3 (進歩性)本願発明は、その優先日前に日本国内又は外国において頒布された後記刊行物1、2に記載された発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4 当審の判断(理由3(進歩性)について)
(1)刊行物及びその記載事項
ア 引用刊行物
刊行物1:特開平5-9230号公報(原査定における引用文献1)
刊行物2:特開平8-165269号公報(前置報告書における引用文献3)

イ 刊行物の記載
(ア)刊行物1の記載事項
本願優先日前に頒布された刊行物1には、以下の事項が記載されている。
(1a)「【請求項1】 (a) アルキル基の炭素数が1?12であるアクリル酸アルキルエステルおよびメタクリル酸アルキルエステルからなる群から選択される少なくとも1種のアクリレート系モノマー60?98重量%と、
(b) アクリレート系モノマー(a) と共重合可能な不飽和二重結合を有するビニル化合物系モノマー2?40重量%と、
(c) アクリレート系モノマー(a) とビニル化合物系モノマー(b) の総和100重量部に対して、0.005?5重量部配合される、1分子中に1つの(メタ)アクリル基、および反応性がアクリル基より低い不飽和基を1つ以上有する多機能不飽和化合物と、
(d) 光重合開始剤0.001?5重量部とを含む
光重合性組成物。
・・・
【請求項3】 光透過性の部位を有する容器中で、請求項1または2記載の組成物に光照射することにより前記組成物の一部分をポリマーに転化し増粘することによって得られる部分光重合増粘組成物。」

(1b)「【0013】また、本発明の目的は、該光重合性組成物を用いたアクリル系粘弾性製品の製造方法およびアクリル系粘弾性製品を提供することにある。
【0014】
【課題を解決するための手段】本発明は上記目的を達成すべく工夫されたもので、モノマー成分として、アクリレート系モノマー(a) とビニル化合物系モノマー(b) にさらに架橋剤として1分子中に1つの(メタ)アクリル基、および反応性がアクリル基より低い不飽和基を1つ以上有する多機能不飽和化合物を第三の不可欠成分として含有せしめることにより、塗工特性および粘着性能とを共に高水準に保持したアクリル系粘弾性製品を得ることができるという知見を得て完成されたものである。」

(1c)「【0023】これらモノマーは、それぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて用いられる。粘着性と凝集性のバランスなどから、通常、ホモポリマーのガラス転移温度が-50℃以下のアクリル酸アルキルエステルを主成分とし、コモノマーとして、低級アルキル基の(メタ)アクリル酸エステルや下記のビニル系モノマーを用いることが好ましい。」

(1d)「【0033】
【化1】

【0034】上式において、R_(1 )はHまたはCH_(3) であり、R_(2 )はアクリル基よりも低ラジカル反応性の不飽和基である。このような不飽和基の好ましいものとしては、例えば、アリル基、ジシクロペンテニル基、ジシクロペンテニルオキシアルキル基、アルコキシ化シクロデカトリエン基等を挙げることができる。」

(1e)「【0075】[実施例4]実施例1において、ジシクロペンテニルオキシエチルアクリレートを用いるかわりにアリルアクリレートを用いて、部分光重合増粘組成物を得た。」

(イ)刊行物2の記載事項
本願優先日前に頒布された刊行物2には、以下の事項が記載されている。
(2a)「【請求項1】 一般式(1)で表されるアルケニル基含有(メタ)アクリレート。
【化1】

【請求項2】 一般式(4)で表されるアルケニル基含有(メタ)アクリレート。
【化2】



(2b)【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、単独で重合あるいは種々のアクリル系単量体と共重合することにより、塗料、光硬化性樹脂、接着剤の硬化反応に利用可能な側鎖にアルケニル基を導入することができるアルケニル基を有する(メタ)アクリレートに関する。また本発明の(メタ)アクリレートは、シランカップリング剤、エポキシ(メタ)アクリレートの原料として、あるいは、シリコン樹脂の変性剤、不飽和ポリエステル樹脂変性剤、アクリルゴムの架橋剤としても有用である。
【0002】
【従来の技術】ビニル基を有する不飽和カルボン酸エステルは、酸化硬化型のコーティング樹脂の合成、不飽和ポリエステル樹脂原料、光硬化性樹脂原料、アクリルゴムの架橋剤、シランカップリング剤の合成原料として有用である。この様な用途には現在、アリルメタクリレートが広く用いられている。しかし、アリルメタクリレートは二重結合の安定性が低く、アリルメタクリレートの重合体の合成時はもちろん、各種アクリルモノマーをラジカル共重合する場合、ゲル化するという問題点があった。また、アリル基は炭素数が短くリジッドであるため、それを用いて得られる樹脂の可撓性が不十分である。さらに、シランカップリング剤を合成する際のヒドロシリル化反応速度も遅く、未反応の二重結合が系内に残存する場合が多く認められた。」

(2)刊行物1に記載された発明
刊行物1の請求項1には「(a) アルキル基の炭素数が1?12であるアクリル酸アルキルエステルおよびメタクリル酸アルキルエステルからなる群から選択される少なくとも1種のアクリレート系モノマー60?98重量%と、
(b) アクリレート系モノマー(a) と共重合可能な不飽和二重結合を有するビニル化合物系モノマー2?40重量%と、
(c) アクリレート系モノマー(a) とビニル化合物系モノマー(b) の総和100重量部に対して、0.005?5重量部配合される、1分子中に1つの(メタ)アクリル基、および反応性がアクリル基より低い不飽和基を1つ以上有する多機能不飽和化合物と、
(d) 光重合開始剤0.001?5重量部とを含む
光重合性組成物。」と記載され、請求項3には「光透過性の部位を有する容器中で、請求項1または2記載の組成物に光照射することにより前記組成物の一部分をポリマーに転化し増粘することによって得られる部分光重合増粘組成物。」と記載されている(摘記1a参照)。
そうすると、刊行物1には「(a) アルキル基の炭素数が1?12であるアクリル酸アルキルエステルおよびメタクリル酸アルキルエステルからなる群から選択される少なくとも1種のアクリレート系モノマー60?98重量%と、
(b) アクリレート系モノマー(a) と共重合可能な不飽和二重結合を有するビニル化合物系モノマー2?40重量%と、
(c) アクリレート系モノマー(a) とビニル化合物系モノマー(b) の総和100重量部に対して、0.005?5重量部配合される、1分子中に1つの(メタ)アクリル基、および反応性がアクリル基より低い不飽和基を1つ以上有する多機能不飽和化合物と、
(d) 光重合開始剤0.001?5重量部とを含む
光重合性組成物の一部分をポリマーに転化し増粘することによって得られる部分光重合増粘組成物。」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているといえる。

(3)対比・判断
ア 本願発明と引用発明を対比する。
引用発明の「アルキル基の炭素数が1?12であるアクリル酸アルキルエステルおよびメタクリル酸アルキルエステルからなる群から選択される少なくとも1種のアクリレート系モノマー60?98重量%」は、ガラス転移温度が-50℃以下のアクリル酸アルキルエステルを主成分とするものであるから(摘記1c参照)、本願発明1の「前記アルキル(メタ)アクリレートモノマーは0℃以下のガラス転移温度を有するアルキル(メタ)アクリレートモノマーであり、
前記アルキル(メタ)アクリレートモノマーから誘導される重合単位の含有量は前記感圧性接着剤組成物の全重量を基準として少なくとも50重量%であり」に相当する。
引用発明の「アクリレート系モノマー(a) とビニル化合物系モノマー(b) の総和100重量部に対して、0.005?5重量部配合される、1分子中に1つの(メタ)アクリル基、および反応性がアクリル基より低い不飽和基を1つ以上有する多機能不飽和化合物」は、架橋剤であり(摘記1b参照)、ポリマーに重合単位として組み込まれ、かつ、未反応のものも残っていることは明らかであり、多機能不飽和化合物をアクリレート系モノマー(a) とビニル化合物系モノマー(b) の総和100重量部に対して、0.005?5重量部配合することは、本願発明の架橋モノマー0.2?15重量%とを含みと重複しているから、本願発明の「(メタ)アクリレート基及びオレフィン基を含む少なくとも1つの架橋モノマー0.2?15重量%とを含み、前記オレフィン基は直鎖又は分枝鎖であり、置換されていてもよく、・・・前記少なくとも1つの架橋モノマーの少なくとも一部は前記ポリマーに重合単位として組み込まれていてもよく、」に相当する。
引用発明の「光重合性組成物の一部分をポリマーに転化し増粘することによって得られる」ポリマーは、本願発明の「アルキル(メタ)アクリレートモノマーから誘導される重合単位を含むポリマー」に相当する。
引用発明の「部分光重合増粘組成物」は、粘着性能を保持したアクリル系粘弾性製品を得るための原料であり(摘記1b参照)、一方、本願発明の組成物もいわゆるシロップ等の原料に対応する態様を含むものであるから、本願発明の「架橋された前記感圧性接着剤組成物が感圧性接着剤である、感圧性接着剤組成物」に相当する。
そうすると、本願発明と引用発明は、「感圧性接着剤組成物であって、
アルキル(メタ)アクリレートモノマーから誘導される重合単位を含むポリマーと、
(メタ)アクリレート基及びオレフィン基を含む少なくとも1つの架橋モノマー0.2?15重量%とを含み、前記オレフィン基は直鎖又は分枝鎖であり、置換されていてもよく、
前記アルキル(メタ)アクリレートモノマーは0℃以下のガラス転移温度を有するアルキル(メタ)アクリレートモノマーであり、
前記アルキル(メタ)アクリレートモノマーから誘導される重合単位の含有量は前記感圧性接着剤組成物の全重量を基準として少なくとも50重量%であり、
前記少なくとも1つの架橋モノマーの少なくとも一部は前記ポリマーに重合単位として組み込まれていてもよく、
架橋された前記感圧性接着剤組成物が感圧性接着剤である、感圧性接着剤組成物。」である点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点)
「(メタ)アクリレート基及びオレフィン基を含む少なくとも1つの架橋モノマー」について、本願発明1は「C_(8)?C_(20)のオレフィン基を含む」と特定されているに対し、引用発明の「多機能不飽和化合物」は「反応性がアクリル基より低い不飽和基」と特定されている点。

イ 相違点について検討する。
刊行物1には「多機能不飽和化合物」としてアリルメタクリレートが例示されている(摘記1e参照)。
一方、刊行物2には、一般式(1)で表されるアルケニル基含有(メタ)アクリレートが記載されており、アルケニル基含有(メタ)アクリレートを単独で重合あるいは種々のアクリル系単量体と共重合することにより、塗料、光硬化性樹脂、接着剤の硬化反応に利用可能なアルケニル基をポリマーの側鎖に導入することができることも記載されている(摘記2a、2b参照)。
そして、「ビニル基を有する不飽和カルボン酸エステルは、酸化硬化型のコーティング樹脂の合成、不飽和ポリエステル樹脂原料、光硬化性樹脂原料、アクリルゴムの架橋剤、シランカップリング剤の合成原料として有用である。この様な用途には現在、アリルメタクリレートが広く用いられている。しかし、アリルメタクリレートは二重結合の安定性が低く、アリルメタクリレートの重合体の合成時はもちろん、各種アクリルモノマーをラジカル共重合する場合、ゲル化するという問題点があった。また、アリル基は炭素数が短くリジッドであるため、それを用いて得られる樹脂の可撓性が不十分である。さらに、シランカップリング剤を合成する際のヒドロシリル化反応速度も遅く、未反応の二重結合が系内に残存する場合が多く認められた。」と記載されている(摘記2b参照)。
そうすると、引用発明の多機能不飽和化合物として、例示されたアリルメタクリレートではなく、刊行物2に記載の一般式(1)で表される反応性がアクリル基より低い不飽和基のうち炭素数の多いC_(8)?C_(20)のオレフィン基を採用することは、当業者が容易に想到し得ることである。

(4)本願発明の効果について
本願発明が奏する効果は、要するに、接着剤を製造することができるという程度のものにすぎず、刊行物1に記載された事項から当業者が予測できない効果を奏したものとも認められない。

(5)請求人の主張について
請求人は、令和元年12月24日付けの意見書において、刊行物2には、接着剤の硬化反応に利用可能な側鎖にアルケニル基を導入することができるアルケニル基を有する(メタ)アクリレートに関すると記載されているが、刊行物2ではアルケニル基がどのような硬化反応に供されるのか定かではく、刊行物2に記載の発明は、アリルメタクリレートが抱える問題点を解消するために新規の化合物を合成することを目的としていることが理解でき、刊行物2には、環構造を有するアルケニル基を含む(メタ)アクリレートについて一切記載されておらず、分岐鎖又は直鎖のアルケニル基を有するもののみが具体例として記載されているから、刊行物1に記載の発明から出発して仮に刊行物2を参酌できたとしても、当業者が本願発明1及び9に係る発明に想到することは容易ではない旨を主張する。
しかし、刊行物2の「光硬化性樹脂・・・の硬化反応に利用可能な側鎖にアルケニル基を導入することができる」(摘記2b参照)との記載からみて、刊行物2のアルケニル基を「光硬化」反応に用い得ることは当業者に自明であり、刊行物2の「接着剤の硬化反応」も刊行物1に記載されるような光硬化架橋反応が想定されていることは自明である。
そして、上記(3)イのとおり、刊行物2には問題のあるアリルメタクリレートの代わりとなる問題のない新規のアルケニル基含有(メタ)アクリレートが記載されているのであるから、当業者であれば、刊行物1の引用発明において、「多機能不飽和化合物」として、例示されたアリルメタクリレートではなく、刊行物2に記載の新規のアルケニル基含有(メタ)アクリレートを採用することは容易である。
よって、請求人の上記主張は採用できない。

(6)進歩性についてのまとめ
上記のとおり、本願発明は、引用発明及び引用文献1、2の記載に基いて当業者が容易に想到し得るものと認められるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

第5 むすび
以上のとおりであるから、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許をすることができないものである。
したがって、本願は、その他の請求項及びその他の理由について検討するまでもなく、同法第49条の規定により、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2020-02-07 
結審通知日 2020-02-12 
審決日 2020-02-26 
出願番号 特願2016-508971(P2016-508971)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C09J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松原 宜史  
特許庁審判長 蔵野 雅昭
特許庁審判官 瀬下 浩一
牟田 博一
発明の名称 (メタ)アクリレート基及びオレフィン基を有する架橋剤を含む接着剤並びに方法  
代理人 酒巻 順一郎  
代理人 清水 義憲  
代理人 阿部 寛  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 池田 成人  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ