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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  D06M
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  D06M
審判 全部申し立て 2項進歩性  D06M
管理番号 1363972
異議申立番号 異議2019-700531  
総通号数 248 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-08-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-07-05 
確定日 2020-05-18 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6447136号発明「繊維構造物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6447136号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?7〕、〔8?14〕に訂正することを認める。 特許第6447136号の請求項1?14に係る特許を維持する。 
理由 第1.手続の経緯
特許第6447136号の請求項1?14に係る特許についての出願は、平成26年11月28日(優先権主張 平成25年12月2日 日本国)を国際出願日とする特許出願であって、平成30年12月14日に特許権の設定登録(特許掲載公報発行日:平成31年1月9日)がされたものであって、本件異議申立に係る主な手続の経緯は以下のとおりである。

令和元年7月5日
特許異議申立人 益川 教親(以下「申立人」という)による
本件特許の請求項1?14に係る特許に対する特許異議の申立て
令和元年12月10日付け
取消理由通知
令和2年1月27日
特許権者による意見書の提出及び訂正請求
(当該訂正請求による訂正を「本件訂正」という)
令和2年3月11日
申立人による意見書(以下「申立人意見書」という)の提出


第2.本件訂正
1.訂正の内容
本件訂正の内容は以下のとおりである。
なお、訂正箇所に下線を付した。
(1)訂正事項1(請求項1に係る訂正)
特許請求の範囲の請求項1に、
「炭化水素系化合物、シリコーン系化合物、メラミン化合物およびウレタン化合物を含有する樹脂皮膜が繊維表面に固着しており、該シリコーン系化合物の合計量が該炭化水素含有化合物に対して1?50質量%である繊維構造物。」
とあるのを
「炭化水素系化合物、シリコーン系化合物、メラミン化合物およびウレタン化合物を含有する樹脂皮膜が繊維表面に固着しており、該シリコーン系化合物の合計量が該炭化水素系化合物に対して5.2?17.2質量%であり、メラミン化合物の含有量が前記炭化水素系化合物に対して15?100質量%であり、ウレタン化合物の含有量が繊維に対して0.03?0.15質量%である繊維構造物。」
に訂正する。
(請求項1の記載を直接、又は間接に引用する請求項2?7も同様に訂正する。)

(2)訂正事項2(請求項8に係る訂正)
特許請求の範囲の請求項8に、
「繊維に、炭化水素基含有化合物、シリコーン系化合物およびメラミン化合物を含有する皮膜用組成物を接触させ、これらを繊維の表面に付着させる工程を有し、繊維に前記皮膜用組成物を接触させる前に、繊維にアニオン基を有する化合物を付着させる工程を有する繊維構造物の製造方法。」
とあるのを、
「繊維に、炭化水素系化合物、シリコーン系化合物およびメラミン化合物を含有する皮膜用組成物を接触させ、これらを繊維の表面に付着させる工程を有し、繊維に前記皮膜用組成物を接触させる前に、繊維にアニオン基を有する化合物を付着させる工程を有し、メラミン化合物の含有量が前記炭化水素系化合物に対して15?100質量%である繊維構造物の製造方法。」
に訂正する。
(請求項8の記載を直接、又は間接に引用する請求項9?14も同様に訂正する。)

(3)訂正事項3(請求項14に係る訂正)
特許請求の範囲の請求項14に、
「炭化水素基含有化合物、シリコーン系化合物およびメラミン化合物を含有する組成物を繊維に付着させる工程の後、カレンダー加工工程を行う請求項8?13いずれかに記載の繊維構造物の製造方法。」
とあるのを、
「炭化水素系化合物、シリコーン系化合物およびメラミン化合物を含有する組成物を繊維に付着させる工程の後、カレンダー加工工程を行う請求項8?13いずれかに記載の繊維構造物の製造方法。」
に訂正する。

2.一群の請求項
訂正前の請求項2?7は、訂正前の請求項1を直接又は間接に引用するものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであり、訂正前の請求項9?14は、訂正前の請求項8を直接又は間接に引用するものであって、訂正事項2によって記載が訂正される請求項8に連動して訂正されるものであるから、請求項〔1?7〕、〔8?14〕に係る本件訂正は、それぞれ特許法第120条の5第4項に規定する、一群の請求項ごとにされたものである。

3.本件訂正の適否
(1)訂正事項1のうち、訂正前の「該炭化水素含有化合物」を、「該炭化水素系化合物」とする訂正(以下「訂正事項1-1」という)について検討する。
訂正前の請求項1においては、「炭化水素系化合物」と「該炭化水素含有化合物」の記載があり、両者の異同が明らかでなかったところ、「炭化水素系化合物」に用語を統一して明確にするためのものであるから、訂正事項1-1は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、訂正事項1-1は、新規事項を追加するものではなく、また、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことが明らかであるから、特許法第120条の5第9項において準用する特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

(2)訂正事項1のうち、訂正前の
「1?50質量%である繊維構造物。」
を、
「5.2?17.2質量%であり、メラミン化合物の含有量が前記炭化水素系化合物に対して15?100質量%であり、ウレタン化合物の含有量が繊維に対して0.03?0.15質量%である繊維構造物。」
とする訂正(以下「訂正事項1-2」という)について検討する。
訂正事項1-2は、訂正前の「シリコーン系化合物の合計量」が「1?50質量%」であったところ、これを「5.2?17.2質量%」に限定するとともに、「メラミン化合物」及び「ウレタン化合物」の含有量について限定されていなかったところ、「メラミン化合物の含有量が前記炭化水素系化合物に対して15?100質量%」、「ウレタン化合物の含有量が繊維に対して0.03?0.15質量%」であることを限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

そして、本件特許明細書には、以下の記載がある。
ア.「【0029】
本発明の好ましい態様として、皮膜用組成物はさらにメラミン化合物を含有する。その量は、炭化水素基含有化合物に対し15?100質量%が好ましい。」

イ.「【0033】
かかるウレタン化合物は繊維に対し0.03?0.15質量%付着していることが好ましい。」

ウ.「【0073】
(実施例1?11、比較例1?8)
表1に記載のエマルジョン液に試験用基布1を浸漬しマングルで絞った後、ピンテンターを使用し130℃で2分間乾燥し、次いで同ピンテンターにより有り幅にて170℃で1分間乾熱処理を行った。マングルの絞り率は40%であった。
【0074】
(実施例12?14、比較例9?11)
実施例12?14、比較例9?11は試験用基布2を使用した。
実施例13、14は前処理として染色後に同液流染色機を用い下記に示した加工液で浴比1:20に調整し、常温から80℃まで2℃/分で昇温し、30分間浴中処理した。次いで50℃まで降温した後、廃液、水洗、脱水後にピンテンターを使用し140℃で乾燥した。得られた布帛を使用した。
実施例13に使用した薬剤は次に記載のものである。
ナイロンフィックス501(センカ(株) 製 多価フェノール系縮合物):5%owf
実施例14に使用した薬剤は次に記載のものである。
メナ25(明成化学工業(株)製 芳香族スルホン酸誘導体) : 5%owf
マレイン酸 : 2g/L 。
【0075】
実施例1?14、比較例1?11で得られた試験用基布について、初期、洗濯10回後の撥水性能および滑脱抵抗力を測定した結果を表1に示す。」

エ.「【表1】



オ.上記ウ.及びエ.の記載に記載された実施例8、10?14は、炭化水素系化合物、シリコーン系化合物、メラミン化合物及びウレタン化合物の4種すべてを含むものであり、その炭化水素系化合物に対するシリコーン系化合物の合計量を算出すると、実施例8、10、11は約5.2%質量、実施例12?14は約17.2質量%である。

上記ア.?オ.からみて、訂正事項1-2は、新規事項を追加するものではなく、また、実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことが明らかであるから、特許法第120条の5第9項において準用する特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

(3)訂正事項2のうち、訂正前の「炭化水素基含有化合物」を、「炭化水素系化合物」とする訂正(以下「訂正事項2-1」という)について検討する。
訂正前の請求項8においては、「炭化水素基含有化合物」と記載されていたほか、訂正前の請求項1には「炭化水素系化合物」と「炭化水素含有化合物」の記載があり、それらの異同が明らかでなかったところ、「炭化水素系化合物」に用語を統一して明確にするためのものであるから、訂正事項2-1は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、訂正事項2-1は、新規事項を追加するものではなく、また、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことが明らかであるから、特許法第120条の5第9項において準用する特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

(4)訂正事項2のうち、訂正前の
「繊維にアニオン基を有する化合物を付着させる工程を有する繊維構造物の製造方法。」
を、
「繊維にアニオン基を有する化合物を付着させる工程を有し、メラミン化合物の含有量が前記炭化水素系化合物に対して15?100質量%である繊維構造物の製造方法。」
とする訂正(以下「訂正事項2-2」という)について検討する。
訂正事項2-2は、訂正前には「メラミン化合物」の含有量について限定されていなかったところ、「メラミン化合物の含有量が前記炭化水素系化合物に対して15?100質量%」であることを限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、(2)ア.に示した本件特許明細書の記載からみて、訂正事項2-2は、新規事項を追加するものではなく、また、実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことが明らかであるから、特許法第120条の5第9項において準用する特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

(5)訂正事項3について検討する。
訂正前の請求項14においては、「炭化水素基含有化合物」と記載されていたほか、訂正前の請求項1には「炭化水素系化合物」と「炭化水素含有化合物」の記載があり、それらの異同が明らかでなかったところ、「炭化水素系化合物」に用語を統一して明確にするためのものであるから、訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、訂正事項3は、新規事項を追加するものではなく、また、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことが明らかであるから、特許法第120条の5第9項において準用する特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

4.小括
以上のとおり、本件訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、並びに同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、本件訂正後の請求項〔1?7〕、〔8?14〕についての訂正を認める。


第3.本件発明
上記第2.のとおり、本件訂正が認められるから、本件特許の請求項1?14は、それぞれ、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?14に記載された、次のとおりのものである。
なお、訂正特許請求の範囲の請求項1?14に係る発明を、以下「本件発明1」等という。

「【請求項1】
炭化水素系化合物、シリコーン系化合物、メラミン化合物およびウレタン化合物を含有する樹脂皮膜が繊維表面に固着しており、該シリコーン系化合物の合計量が該炭化水素系化合物に対して5.2?17.2質量%であり、メラミン化合物の含有量が前記炭化水素系化合物に対して15?100質量%であり、ウレタン化合物の含有量が繊維に対して0.03?0.15質量%である繊維構造物。
【請求項2】
該シリコーン系化合物がアミノ変性シリコーン、エポキシ変性シリコーン、カルボキシ変性シリコーン、メチルハイドロジェンシリコーンおよびジメチルシリコーンから選ばれる1種以上である請求項1記載の繊維構造物。
【請求項3】
該炭化水素系化合物が、炭素数12以上の脂肪族炭化水素およびポリオレフィンから選ばれる1種以上である請求項1または2記載の繊維構造物。
【請求項4】
該炭化水素系化合物が、炭素数12以上の脂肪族カルボン酸およびそのエステル化物から選ばれる1種以上である請求項1または2記載の繊維構造物。
【請求項5】
該炭化水素系化合物が、エステル結合を介して存在する炭化水素基の炭素数が12以上のアクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステルの重合体である請求項1または2記載の繊維構造物。
【請求項6】
繊維の形態が織物、編物、不織布および紐状のいずれかである請求項1?5いずれかに記載の繊維構造物。
【請求項7】
家庭洗濯10回後の撥水度が3級以上である請求項1?6いずれかに記載の繊維構造物。
【請求項8】
繊維に、炭化水素系化合物、シリコーン系化合物およびメラミン化合物を含有する皮膜用組成物を接触させ、これらを繊維の表面に付着させる工程を有し、繊維に前記皮膜用組成物を接触させる前に、繊維にアニオン基を有する化合物を付着させる工程を有し、メラミン化合物の含有量が前記炭化水素系化合物に対して15?100質量%である繊維構造物の製造方法。
【請求項9】
該シリコーン系化合物がアミノ変性シリコーン、エポキシ変性シリコーン、カルボキシ変性シリコーン、メチルハイドロジェンシリコーンおよびジメチルシリコーンから選ばれた1種以上である請求項8記載の繊維構造物の製造方法。
【請求項10】
該炭化水素系化合物が、炭素数12以上の脂肪族炭化水素およびポリオレフィンから選ばれる1種以上である請求項8または9記載の繊維構造物の製造方法。
【請求項11】
該炭化水素系化合物が、炭素数12以上の脂肪族カルボン酸およびそのエステル化物から選ばれる1種以上である請求項8または9記載の繊維構造物の製造方法。
【請求項12】
該炭化水素系化合物が、エステル結合を介して存在する炭化水素基の炭素数が12以上のアクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステルの重合体を必須成分であるとして含有する請求項8または9記載の繊維構造物の製造方法。
【請求項13】
アニオン基を有する化合物がスルホン基含有化合物および多価フェノール系化合物から選ばれた少なくとも1種である請求項8?12いずれかに記載の繊維構造物の製造方法。
【請求項14】
炭化水素基含有化合物、シリコーン系化合物およびメラミン化合物を含有する組成物を繊維に付着させる工程の後、カレンダー加工工程を行う請求項8?13いずれかに記載の繊維構造物の製造方法。」


第4.取消理由の概要
本件特許の請求項1?14に係る特許に対して、当審が特許権者に通知した令和元年12月10日付けの取消理由の要旨は、次のとおりである。
なお、甲第1号証を以下「甲1」といい、甲1に記載された事項を「甲1記載事項」、甲1に記載された発明を「甲1発明」という。甲2?11についても同様。

1)本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
2)本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
3)本件特許の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
4)本件特許の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

1.理由1(特許法第36条第6項第2号)
「炭化水素系化合物」(請求項1、3?5、10?12)、「炭化水素含有化合物」(請求項1)、「炭化水素基含有化合物」(請求項8、14)は、その異同が不明である。

2.理由2(特許法第36条第6項第1号)
(1)シリコーン系化合物の含有量について、出願時の技術常識に照らしても、本件発明1の「1?50質量%」まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。
(2)メラミン化合物の含有量について、本件発明1は、メラミン化合物の含有量を特定していないから、撥水性と洗濯耐久性の向上という本件発明の課題を解決できないものを含むものである。
本件発明8についても同様である。
(3)ウレタン化合物の含有量について、本件発明1は、ウレタン化合物の含有量を特定していないから、撥水性と洗濯耐久性の向上という本件発明の課題を解決できないものを含むものである。

3.理由3(甲第1号証を主とする特許法第29条第1項第3号)
本件発明1、2、6、7は、甲1発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

4.理由4(甲1または甲4を主とする特許法第29条第2項)
(1)甲1を主とする理由
本件発明1?14は、甲1発明、及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(2)甲4を主とする理由
本件発明1?14は、甲4発明、及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

<引用文献等一覧>
甲第1号証:特開平3-14676号公報
甲第2号証:特開2011-42698号公報
甲第3号証:特開平4-198375号公報
甲第4号証:特開2006-124866号公報
甲第5号証:特開2006-328624号公報
甲第6号証:特開平11-61647号公報
甲第7号証:特開2000-80568号公報
甲第8号証:特開2007-146322号公報
甲第9号証:特開昭58-70773号公報
甲第10号証:特開平5-320003号公報
甲第11号証:特開2005-187975号公報
甲第12号証:特開2017-144430号公報
(甲第12号証の公開日は平成29年8月24日であり、本件特許の優先日の平成25年12月2日、及び出願日の平成26年11月28日以降の公開である。)

引用文献A:特開昭63-54310号公報(当審が提示する文献)


第5.当審の判断
1.理由1(特許法第36条第6項第2号)について
本件訂正により、請求項1?14は、上記第3.に示したとおりのものとなった。
これにより、「炭化水素系化合物」に用語が統一されたから、請求項1?14の記載は明確である。
よって、本件特許の請求項1?14の記載は明確であり、特許法第36条第6項第2号の規定を満たしているから、その特許は特許法第113条第4号に該当するものとはいえない。


2.理由2(特許法第36条第6項第1号)について
(1)請求項1
ア.シリコーン系化合物の含有量について
本件訂正により、請求項1におけるシリコーン系化合物の含有量は、上記第3.に示したとおり、「該シリコーン系化合物の合計量が該炭化水素系化合物に対して5.2?17.2質量%」となった。

そして、本件発明1は、「炭化水素系化合物、シリコーン系化合物、メラミン化合物およびウレタン化合物を含有する樹脂皮膜」であるから、対応する実施例は、4種の化合物を備えた実施例8?14である。
この実施例における、シリコーン系化合物の合計量の炭化水素含有化合物に対する含有割合について算出すると、実施例8、10、11は約5.2質量%、実施例12?14は約17.2質量%であり、この値は、訂正後の請求項1における「5.2?17.2質量%」と整合する。
そして、実施例8、10、11は、「実施例1?11については、初期4級以上の高い撥水性と洗濯10回後も3級以上の洗濯耐久性を示す。また、滑脱抵抗力も3mm以下であり、物性的にも良好な撥水性繊維構造物が得られた。」(段落【0076】)ものであり、実施例12?14は、「試験用基布2を使用した12?14についても初期4級以上の高い撥水性と洗濯10回後も3級以上の洗濯耐久性を示すものである。」(段落【0077】)から、本件発明1は、「フッ素元素化合物を必須とせず、優れた撥水性と洗濯耐久性を示す繊維構造物を提供」(段落【0013】)するという本件発明の課題を解決するものである。

イ.メラミン化合物の含有量について
本件訂正により、請求項1におけるメラミン化合物の含有量は、上記第3.に示したとおり、「メラミン化合物の含有量が前記炭化水素系化合物に対して15?100質量%」となった。

本件特許の発明の詳細な説明によれば、
「メラミン化合物を含有する組成物から樹脂皮膜とすることにより炭化水素基およびシリコーンの撥水性を発現させるメチル基の配向が進むと考えられ」(段落【0030】)
ることから、
「その量は、炭化水素基含有化合物に対し15?100質量%が好ましい。」(段落【0029】)
ものであり、メラミン化合物の含有量を上記特定の範囲内とすることで、
「加工直後の撥水性が向上するのに加え、樹脂皮膜と繊維との密着性が向上し、洗濯耐久性が向上する。」(段落【0030】)
ものである。
すなわち、本件発明1は、「メラミン化合物の含有量が前記炭化水素系化合物に対して15?100質量%」とすることによって、撥水性と洗濯耐久性の向上という本件発明の課題を解決するものである。

ウ.ウレタン化合物の含有量について
本件訂正により、請求項1におけるウレタン化合物の含有量は、上記第3.に示したとおり、「ウレタン化合物の含有量が繊維に対して0.03?0.15質量%」となった。

本件特許の発明の詳細な説明によれば、
「ウレタン化合物は・・・少ないとバインダーとしての効果を十分に発揮できない場合がり、また多すぎると繊維構造物としての風合いを損ね、また硬くなるのに加え、撥水性能が低下する傾向がある。」(段落【0033】)(当審注:「発揮できない場合がり」は「発揮できない場合があり」の明らかな誤記)
ことから、
「ウレタン化合物は繊維に対し0.03?0.15質量%付着していることが好ましい。・・・加工上がりの撥水性と洗濯耐久性の観点からは0.02?0.08質量%がより好ましい。」(段落【0033】)
とするものである。
すなわち、本件発明1は、「ウレタン化合物の含有量が繊維に対して0.03?0.15質量%」とすることによって、撥水性と洗濯耐久性の向上という本件発明の課題を解決するものである。

(2)請求項8
本件訂正により、請求項8におけるメラミン化合物の含有量は、上記第3.に示したとおり、「メラミン化合物の含有量が前記炭化水素系化合物に対して15?100質量%」となった。
そして、上記(1)イ.に示した本件発明1と同様に、本件発明8は、「メラミン化合物の含有量が前記炭化水素系化合物に対して15?100質量%」とすることによって、撥水性と洗濯耐久性の向上という本件発明の課題を解決するものである。

(3)申立人の主張
ア.本件発明1のメラミン化合物について
申立人は、
「訂正後の請求項1には、『メラミン化合物の含有量が前記炭化水素系化合物に対して15?100質量%である』ことが規定されている。一方、本件特許明細書には、炭化水素含有化合物に対するメラミン化合物量が、固形分で換算したとき、約34.5質量%である実施例8?14が示されているのみである。
そのため、必須成分として3成分ないし4成分を含む複雑な樹脂被膜を含む本件特許発明において、出願時の技術常識に照らしても、請求項に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。」(申立人意見書4ページ下から10?1行)
と主張している。

しかしながら、本件特許の発明の詳細な説明には、
「メラミン化合物を含有する組成物から樹脂皮膜とすることにより炭化水素基およびシリコーンの撥水性を発現させるメチル基の配向が進むと考えられ」(段落【0030】)
ることから、
「その量は、炭化水素基含有化合物に対し15?100質量%が好ましい。」(段落【0029】)
ものであり、メラミン化合物の含有量を上記特定の範囲内とすることで、
「加工直後の撥水性が向上するのに加え、樹脂皮膜と繊維との密着性が向上し、洗濯耐久性が向上する。」(段落【0030】)
ものであることが記載されている。
すなわち、実施例の約34.5質量%の含有量で効果が確認され、メラミン化合物が含有されていれば、メチル基の配向が進みシリコーンの撥水性を発現させることができるとされており、約34.5質量%以上の含有量はもちろん、それ以下の含有量でも課題を解決し得るものと認識できるものといえるから、本件発明1は、「メラミン化合物の含有量が前記炭化水素系化合物に対して15?100質量%」とすることによって、撥水性と洗濯耐久性の向上という本件発明の課題を解決するものであることが当業者であれば理解できるものである。

イ.本件発明1のウレタン化合物について
申立人は、
「訂正後の請求項1には、『ウレタン化合物の含有量が繊維に対して0.03?0.15質量%である』ことが規定されている。一方、本件特許明細書には、繊維に対するウレタン化合物の含有量が不明である実施例が示されているのみである。
・・・
本件明細書には、生機として・・・しかし、試験用基布1および2の目付(単位面積当たりの質量)は不明である。
また、本件明細書には、・・・しかし、試験用基布1に付着したエマルジョン液の質量は不明である。
すなわち、本件明細書の実施例の記載からは、ウレタン化合物の繊維に対する含有量を導き出すことができない。そのため、ウレタン化合物を0.03?0.15質量%含有させることの技術的意義および臨界的意義が把握できず、訂正後の本件特許発明1が、特許権者の主張する繊維構造物の撥水性や洗濯耐久性の向上という発明の課題が解決できることを、当業者は認識することができない。」(申立人意見書5ページ1?29行)
と主張している。

しかしながら、本件特許の発明の詳細な説明には、
「ウレタン化合物は・・・少ないとバインダーとしての効果を十分に発揮できない場合がり、また多すぎると繊維構造物としての風合いを損ね、また硬くなるのに加え、撥水性能が低下する傾向がある。」(段落【0033】)(当審注:「発揮できない場合がり」は「発揮できない場合があり」の明らかな誤記)
ことから、
「ウレタン化合物は繊維に対し0.03?0.15質量%付着していることが好ましい。・・・加工上がりの撥水性と洗濯耐久性の観点からは0.02?0.08質量%がより好ましい。」(段落【0033】)
ものであることが記載されている。
すなわち、実施例において繊維に対するウレタン化合物の量が明示されていないとしても、多すぎても少なすぎても不具合があるとされており、本件発明1は、その間の範囲である「ウレタン化合物の含有量が繊維に対して0.03?0.15質量%」とすることによって、撥水性と洗濯耐久性の向上という本件発明の課題を解決するものであることが当業者であれば理解できるものである。

ウ.本件発明8のメラミン化合物について
申立人は、
「訂正後の請求項8には、『メラミン化合物の含有量が前記炭化水素系化合物に対して15?100質量%である』ことが規定されている。しかし、上記の(a)(i)と同様、本件特許明細書には、炭化水素含有化合物に対するメラミン化合物量が、固形分で換算したとき、約34.5質量%である実施例2?11、13、14が示されているのみである。
よって、出願時の技術常識に照らしても、請求項に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。」(申立人意見書6ページ1?9行)
と主張している。

上記主張は、上記ア.と同様の主張である。
よって、上記ア.と同様に、実施例として約34.5質量%の例しか記載されていないとしても、本件発明8は、「メラミン化合物の含有量が前記炭化水素系化合物に対して15?100質量%」とすることによって、撥水性と洗濯耐久性の向上という本件発明の課題を解決するものであることが当業者であれば理解できるものである。

エ.本件発明8のウレタン化合物およびシリコーン化合物について
申立人は、
「訂正後の請求項8には、ウレタン化合物およびシリコーン化合物の含有量は規定されていない。・・・すなわち、特許権者は、同じ課題を解決するために、本件特許発明1では、特に構成要件AおよびBの双方が重要であると述べる一方、本件特許発明8では、特に構成要件C(構成要件Aと同じ内容)のみが重要であると述べており、合理性に欠ける。さらに、特許権者は、本件特許発明1に対するサポート要件違反を認め、シリコーン系化合物、メラミン化合物およびウレタン化合物の含有量をそれぞれ限定する訂正を行っている。これらを勘案すると、本件特許発明8もまた、ウレタン化合物およびシリコーン化合物の含有量が限定されるべきである。」(申立人意見書6ページ10?28行)
と主張している。

本件発明1は、「炭化水素系化合物、シリコーン系化合物、メラミン化合物およびウレタン化合物を含有する樹脂皮膜」であるから、対応する実施例は、4種の化合物を備えた実施例8?14である。
これに対して、本件発明8は、「炭化水素系化合物、シリコーン系化合物およびメラミン化合物を含有する皮膜用組成物」であるから、対応する実施例は、3種の化合物を備えた実施例1?7である。
そして、実施例1?7は、「実施例1?11については、初期4級以上の高い撥水性と洗濯10回後も3級以上の洗濯耐久性を示す。また、滑脱抵抗力も3mm以下であり、物性的にも良好な撥水性繊維構造物が得られた。」(段落【0076】)ものであり、撥水性と洗濯耐久性の向上という本件発明の課題を解決するものである。
よって、本件発明1が4種の化合物を必須成分とすることをもって、本件発明8も4種の化合物を必須成分とすべきであるとする申立人の上記主張には根拠がない。
そして、上記(2)及び上記ウ.で述べたとおり、本件発明8は、「メラミン化合物の含有量が前記炭化水素系化合物に対して15?100質量%」とすることによって、撥水性と洗濯耐久性の向上という本件発明の課題を解決していることが発明の詳細な説明に記載されているのだから、ウレタン化合物やシリコーン化合物の含有量を特定していないからといって、本件発明8が本件発明の課題を解決していないとまでいうことはできない。

オ.以上のとおり、申立人による上記ア.?エ.の主張は、いずれも採用することができない。

(4)小括
上述のとおり、本件発明1?14は、本件発明の課題を解決できるものであって発明の詳細な説明に記載した発明であり、特許法第36条第6項第1号の規定を満たしているから、その特許は特許法第113条第4号に該当するものとはいえない。


3.理由3(特許法第29条第1項第3号)について
(1)刊行物の記載
甲1には、以下の記載がある。
ア.「[発明が解決しようとする課題]
本発明の目的は高い撥水性と剥離強力を同時に満足する防水布帛の製造法を提供することにある。」
(1ページ右欄9?11行)

イ.「[実施例]
実施例1?7,比較例1?6
70デニール24フィラメントのナイロン6糸を経糸及び緯糸に使用したタフタ(経密度125本/in,緯密度92本/in)を次の条件で各種含フッ素化合物で低温プラズマ処理した。
(プラズマ条件)
ベルジャー型プラズマ処理機
周波数 110kHz
ガス流量 50ml/分
真空度 0.4?1.0Torr
印加電圧 1.5?2.5kV
処理時間 30秒
得られたプラズマ処理布帛に、下記組或からなるコーティング樹脂液をフローティングナイフ方式でコーティングした後、100℃×60秒間乾燥した。さらに160℃×30秒間熱処理した。
処理布帛のコーティング膜厚は12μであった。
コーティング樹脂液組成
ハイドラン HW-111 80部
(Hydran HW-111)
(大日本インキ(株)製:水系ウレタン樹脂)
ハイドラン HW-140 20
(Hydran HW-140)
(大日本インキ(株)製:水系ウレタン樹脂)
ディック シリコーン ソフナ500 3
(Dic Silicone Softner500)
(大日本インキ(株)製:シリコン系柔軟剤)
デカミン APM 2
(Deckamin APM)
(大日本インキ(株)製:水系メラミン樹脂)
カタリスト 376 0.2
(Catarist 376)
(大日本インキ(株)製:水系メラミン樹脂用触媒)
ボンコート V 4
(Voncoat V)
(大日本インキ(株)製:アクリル系増粘剤)
アンモニア水 0.4」
(3ページ右上欄6行?右下欄3行)

ウ.上記イ.の実施例によると、防水布帛は、コーティング樹脂液によりコーティングされてコーティング膜が形成されており、コーティング樹脂液の組成には以下のものを含有する。
(ア)ボンコート V 4部(大日本インキ(株)製:アクリル系増粘剤)
(イ)ディック シリコーン ソフナ500 3部(大日本インキ(株)製:シリコン系柔軟剤)
(ウ)デカミン APM 2部(大日本インキ(株)製:水系メラミン樹脂)
(エ)ハイドラン HW-111 80部(大日本インキ(株)製:水系ウレタン樹脂)
(オ)ハイドラン HW-140 20部(大日本インキ(株)製:水系ウレタン樹脂)

上記ア.?ウ.から、甲1には以下の甲1発明が記載されている。
「ボンコート V(大日本インキ(株)製:アクリル系増粘剤)、ディック シリコーン ソフナ500(大日本インキ(株)製:シリコン系柔軟剤)、デカミン APM(大日本インキ(株)製:水系メラミン樹脂)、及びハイドラン HW-111(大日本インキ(株)製:水系ウレタン樹脂)とハイドラン HW-140(大日本インキ(株)製:水系ウレタン樹脂)を含有するコーティング膜が布帛にコーティングされている、防水布帛。」

(2)本件発明1
本件発明1と甲1発明を対比すると、甲1発明の「コーティング膜」は、本件発明1の「樹脂皮膜」に相当し、以下同様に、「コーティング」は「固着」に、「防水布帛」は「繊維構造物」にそれぞれ相当する。

甲1発明の「ボンコート V(大日本インキ(株)製:アクリル系増粘剤)」は、「炭化水素系化合物」を含有する組成物である点で、本件発明1の「炭化水素系化合物」に相当する。
甲1発明の「ディック シリコーン ソフナ500(大日本インキ(株)製:シリコン系柔軟剤)」は、「シリコーン系化合物」を含有する組成物である点で、本件発明1の「シリコーン系化合物」に相当する。
甲1発明の「デカミン APM(大日本インキ(株)製:水系メラミン樹脂)」は、「メラミン化合物」を含有する組成物である点で、本件発明1の「シリコーン系化合物」に相当する。
甲1発明の「ハイドラン HW-111(大日本インキ(株)製:水系ウレタン樹脂)とハイドラン HW-140(大日本インキ(株)製:水系ウレタン樹脂)」は、「ウレタン化合物」を含有する組成物である点で、本件発明1の「ウレタン化合物」に相当する。

よって、本件発明1と甲1発明は、以下の点で一致している。
「炭化水素系化合物、シリコーン系化合物、メラミン化合物およびウレタン化合物を含有する樹脂皮膜が固着している、繊維構造物。」

そして、本件発明1と甲1発明は、以下の点で相違している。
<相違点1-1>
本件発明1は、樹脂皮膜が「繊維表面」に固着しているのに対して、甲1発明は、コーティング膜が布帛にコーティングされている点。

<相違点1-2>
本件発明1は、
「該シリコーン系化合物の合計量が該炭化水素系化合物に対して5.2?17.2質量%であり、メラミン化合物の含有量が前記炭化水素系化合物に対して15?100質量%であり、ウレタン化合物の含有量が繊維に対して0.03?0.15質量%である」
のに対して、甲1発明は、
ディック シリコーン ソフナ500(大日本インキ(株)製:シリコン系柔軟剤)に含まれるシリコーン系化合物量のボンコート V(大日本インキ(株)製:アクリル系増粘剤)に含まれる炭化水素系化合物量に対する含有量、
デカミン APM(大日本インキ(株)製:水系メラミン樹脂)に含まれるメラミン化合物量のボンコート V(大日本インキ(株)製:アクリル系増粘剤)に含まれる炭化水素系化合物量に対する含有量、
ハイドラン HW-111(大日本インキ(株)製:水系ウレタン樹脂)とハイドラン HW-140(大日本インキ(株)製:水系ウレタン樹脂)に含まれるウレタン化合物量の繊維に対する含有量、
が明記されていない点。

上記<相違点1-2>は、明らかに実質的な相違点である。
よって、本件発明1は、甲1発明であるとはいえないから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものであるとはいえない。

(3)本件発明2、6、7
本件発明2、6、7は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、更に限定するものである。
そして、上記(2)に示したように、本件発明1は引用発明1であるとはいえないから、本件発明2、6、7についても同様に、本件発明2、6、7は引用発明1であるとはいえず、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものであるとはいえない。

(4)小括
以上のとおり、本件発明1、2、6、7は、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、その特許は、特許法113条2号に該当せず、取り消すことはできない。


4.理由4(特許法第29条第2項)について
(1)甲1を主な引用例とする理由
ア.刊行物の記載
甲1記載事項、及び甲1発明は、上記3.(1)のとおり。

イ.本件発明1
(ア)本件発明1と甲1発明の対比、一致点、相違点は、上記3.(2)のとおり。

(イ)事案に鑑み、まず<相違点1-2>について検討する。
a.シリコーン系化合物について
甲1の記載事項をみると、上記(1)に摘記したように、ディック シリコーン ソフナ500(大日本インキ(株)製:シリコン系柔軟剤)は3部、ボンコート V(大日本インキ(株)製:アクリル系増粘剤)は4部含まれている。
ここで、ディック シリコーン ソフナ500(大日本インキ(株)製:シリコン系柔軟剤)は、その不揮発分が15質量%であり、ボンコート V(大日本インキ(株)製:アクリル系増粘剤)は、その固形分が30%である。
(不揮発分、固形分の値については、製造元である大日本インキ(株)が公表する値によって示されるものであるが、必要であれば、ディック シリコーン ソフナ500(大日本インキ(株)製:シリコン系柔軟剤)については甲12(段落【0068】)を、ボンコート V(大日本インキ(株)製:アクリル系増粘剤)については甲10(段落【0009】)、甲11(段落【0059】)をそれぞれ参照されたい。なお、甲12は、本件特許の出願日以降の公開ではあるけれども、大日本インキ(株)製の製品であるディック シリコーン ソフナ500の製品成分を示す一般的な文献として示す。)
そして、甲1発明におけるディック シリコーン ソフナ500(大日本インキ(株)製:シリコン系柔軟剤)に含まれるシリコーン化合物量の、ボンコート V(大日本インキ(株)製:アクリル系増粘剤)に含まれる炭化水素系化合物量に対する含有量を算出すると、37.5質量%となる。

b.メラミン化合物について
甲1のデカミン APM(大日本インキ(株)製:水系メラミン樹脂)に含まれるメラミン化合物量がどの程度であるのか不明であるから、甲1発明は、デカミン APM(大日本インキ(株)製:水系メラミン樹脂)に含まれるメラミン化合物量の、ボンコート V(大日本インキ(株)製:アクリル系増粘剤)に含まれる炭化水素系化合物量に対する含有量が不明であるといわざるを得ない。

c.ウレタン化合物について
甲1のハイドラン HW-111(大日本インキ(株)製:水系ウレタン樹脂)とハイドラン HW-140(大日本インキ(株)製:水系ウレタン樹脂)に含まれるウレタン化合物量が程度であるのか不明であるし、繊維の量(目付)も不明であるから、甲1発明は、ハイドラン HW-111(大日本インキ(株)製:水系ウレタン樹脂)とハイドラン HW-140(大日本インキ(株)製:水系ウレタン樹脂)に含まれるウレタン化合物量の、繊維に対する含有量が不明であるといわざるを得ない。

d.上記a.?c.のとおり、甲1発明は、シリコーン化合物の炭化水素系化合物に対する含有量が37.5質量%であり、本件発明1の「5.2?17.2質量%」から大きく外れたものであるとともに、メラミン化合物の炭化水素系化合物に対する含有量、及びウレタン化合物の繊維に対する含有量が不明なものであって、これらの含有量を<相違点1-2>に係る本件発明1の範囲内に特定する動機付けについての記載も示唆もない。
また、他の証拠をみても、甲1発明のシリコーン化合物、メラミン化合物、ウレタン化合物それぞれの含有量を<相違点1-2>に係る本件発明1の範囲内とする根拠がない。
そして、本件発明1は、上記2.(1)ア.?ウ.で述べたとおり、<相違点1-2>に係る本件発明1の構成とすることで、撥水性と洗濯耐久性の向上という課題を解決し、格別の効果を奏するものである。

e.よって、<相違点1-1>について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

(ウ)申立人の主張
申立人は、
「特許権者は、・・・本件発明1におけるウレタン化合物は任意付加成分であり、・・・ウレタン化合物の含有量が本件特許発明1の特徴であると言うならば、その含有量を繊維に対して0.03?0.15質量%とすることの臨界的意義を示すべきであるが、本件明細書には全く示されていない。
加えて、甲第7号証には、・・・この付加重合体(ポリウレタン)の繊維に対する含有量は、『0.03?0.15質量%』の範囲を満たす蓋然性が高い。
また、甲第5号証は、・・・洗濯耐久性向上のためにメラミン化合物を使用することは公知の技術であり、メラミン化合物を炭化水素系化合物に対して15?100質量%とすることは、単なる設計的事項に過ぎない。」
(申立人意見書7ページ1行?8ページ2行)
と主張している。

しかしながら、申立人の上記主張においては、上記<相違点1-2>のうち、甲1発明のシリコーン化合物の炭化水素系化合物に対する含有量が37.5質量%であるものを、本件発明1の「5.2?17.2質量%」の範囲内に変更する点につき、何らの主張もされていない。
さらに、本件特許の発明の詳細な説明には、
「メラミン化合物を含有する組成物から樹脂皮膜とすることにより炭化水素基およびシリコーンの撥水性を発現させるメチル基の配向が進むと考えられ」(段落【0030】)
ることから、
「その量は、炭化水素基含有化合物に対し15?100質量%が好ましい。」(段落【0029】)
ものであり、メラミン化合物の含有量を上記特定の範囲内とすることで、
「加工直後の撥水性が向上するのに加え、樹脂皮膜と繊維との密着性が向上し、洗濯耐久性が向上する。」(段落【0030】)
ものであることが記載されている。
すなわち、本件発明1は、メラミン化合物の含有量を炭化水素系化合物に対して「15?100質量%」とすることにより格別の効果を奏するものであるから、「15?100質量%」という含有量の設定が単なる設計的事項とはいえないし、上記主張においても設計的事項とする根拠はない。

よって、申立人の上記主張は、採用することができない。

(エ)以上のとおり、本件発明1は、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明とはいえない。

ウ.本件発明2?7
本件発明2?7は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、更に限定するものであるから、本件発明2?7についても同様に、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明とはいえない。

エ.本件発明8
(ア)刊行物の記載
甲1には、上記3.(1)で示した記載事項によれば、甲1発明の防水布帛を製造する方法として、布帛にコーティング樹脂液をフローティングナイフ方式でコーティングした後、乾燥、熱処理してコーティング膜を形成する防水布帛の製造方法が記載されている。
そうすると、甲1には以下の甲1’発明が記載されている。
「布帛に、ボンコート V(大日本インキ(株)製:アクリル系増粘剤)、ディック シリコーン ソフナ500(大日本インキ(株)製:シリコン系柔軟剤)、デカミン APM(大日本インキ(株)製:水系メラミン樹脂)を含有するコーティング樹脂液をフローティングナイフ方式でコーティングした後、乾燥、熱処理してコーティング膜を形成する工程を有する、防水布帛の製造方法。」

(イ)対比
本件発明8と甲1’発明を対比すると、甲1’発明の「コーティング樹脂液」は、本件発明8の「皮膜用組成物」に相当し、甲1’発明の「防水布帛の製造方法」は、本件発明8の「繊維構造物の製造方法」に相当する。

甲1’発明の「ボンコート V(大日本インキ(株)製:アクリル系増粘剤)」は、「炭化水素系化合物」を含有する組成物である点で、本件発明8の「炭化水素系化合物」に相当する。
甲1’発明の「ディック シリコーン ソフナ500(大日本インキ(株)製:シリコン系柔軟剤)」は、「シリコーン系化合物」を含有する組成物である点で、本件発明8の「シリコーン系化合物」に相当する。
甲1’発明の「デカミン APM(大日本インキ(株)製:水系メラミン樹脂)」は、「メラミン化合物」を含有する組成物である点で、本件発明1の「シリコーン系化合物」に相当する。

甲1’発明の「布帛に」「コーティング樹脂液をフローティングナイフ方式でコーティングした後、乾燥、熱処理してコーティング膜を形成する工程」は、「繊維構造物に」「皮膜用組成物を付着させる工程」の限りにおいて、本件発明8の「繊維に」「皮膜用組成物を接触させ、これらを繊維の表面に付着させる工程」に相当する。

よって、本件発明8と甲1’発明は、以下の点で一致している。
「繊維構造物に、炭化水素系化合物、シリコーン系化合物およびメラミン化合物を含有する皮膜用組成物を付着させる工程を有する、繊維構造物の製造方法。」

そして、本件発明1と甲1’発明は、以下の点で相違している。
<相違点1’-1>
本件発明1は、「繊維に」「皮膜用組成物を接触させ、これらを繊維の表面に付着させる工程」であるのに対して、甲1’発明は、布帛にコーティング樹脂液をフローティングナイフ方式でコーティングした後、乾燥、熱処理してコーティング膜を形成する工程である点。

<相違点1’-2>
本件発明8は、「繊維に前記皮膜用組成物を接触させる前に、繊維にアニオン基を有する化合物を付着させる工程を有」するのに対して、甲1’発明は、そのような前処理工程が記載されていない点。

<相違点1’-3>
本件発明8は、「メラミン化合物の含有量が前記炭化水素系化合物に対して15?100質量%である」のに対して、甲1’発明は、デカミン APM(大日本インキ(株)製:水系メラミン樹脂)に含まれるメラミン化合物量の、ボンコート V(大日本インキ(株)製:アクリル系増粘剤)に含まれる炭化水素系化合物量に対する含有量が明記されていない点。

(ウ)事案に鑑み、まず<相違点1’-3>について検討する。
上記イ.(イ)b.で述べたのと同様に、甲1’発明においても、デカミン APM(大日本インキ(株)製:水系メラミン樹脂)に含まれるメラミン化合物量の、ボンコート V(大日本インキ(株)製:アクリル系増粘剤)に含まれる炭化水素系化合物量に対する含有量は、不明であるといわざるを得ない。また、この含有量を<相違点1’-3>に係る本件発明8の範囲内に特定する動機付けについての記載も示唆もない。

そして、本件特許の発明の詳細な説明には、
「メラミン化合物を含有する組成物から樹脂皮膜とすることにより炭化水素基およびシリコーンの撥水性を発現させるメチル基の配向が進むと考えられ」(段落【0030】)
ることから、
「その量は、炭化水素基含有化合物に対し15?100質量%が好ましい。」(段落【0029】)
ものであり、メラミン化合物の含有量を上記特定の範囲内とすることで、
「加工直後の撥水性が向上するのに加え、樹脂皮膜と繊維との密着性が向上し、洗濯耐久性が向上する。」(段落【0030】)
ものであることが記載されている。
すなわち、本件発明8は、メラミン化合物の含有量を炭化水素系化合物に対して「15?100質量%」とすることにより格別の効果を奏するものであるから、「15?100質量%」という含有量の設定が単なる設計的事項とはいえないし、甲1’発明においてメラミン含有量を「15?100質量%」に設定する根拠もない。

(エ)よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明8は、甲1’発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明とはいえない。

オ.本件発明9?14
本件発明9?14は、本件発明8の発明特定事項を全て含み、更に限定するものであるから、本件発明9?14についても同様に、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明とはいえない。


(2)甲4を主な引用例とする理由
ア.刊行物の記載
甲4には、以下の記載がある。
(ア)「【請求項5】
シリコン系化合物、ワックス系化合物、ワックス-ジルコニウム系化合物の少なくとも1種(A)ならびに/もしくは、アルキル尿素系化合物、脂肪族アマイド系化合物の少なくとも1種(C)と架橋剤(B)からなる繊維用加工剤が付着あるいは固着してなる繊維製品」

(イ)「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明はコートやゴルフパンツ、カジュアルウエアなどの繊維製品において、環境汚染問題視されているフッ素系の化合物を用いることなく、洗濯耐久性のある良好な撥水性能を付与するための加工剤、加工方法の提供、ならびにそれを用いて処理をした繊維製品の提供を課題とする。」

(ウ)「【0009】
本発明に言う シリコン系化合物(A)とは、メチルハイドロジエンポリシロキサン、ジメチルシロキサン、反応型(OH基)ジメチルポリシロキサンなどのシリコン系化合物を言うが、これに限定されるものではない。
【0010】
また、ワックス系化合物(A)とは、通常の蝋などのワックスを始め、合成パラフィンワックス、パラフィン蝋などを言うが、これに限定されるものではない。なお、合成パラフィンでは低融点のもの、高融点のものなどいろいろあるが、高融点のパラフィン・ワックスが好適である。またパラフィンにアクリル酸エステル系の重合物を共存させた変性物も本発明の目的を達成させるために活用できる。」

(エ)「【0014】
本発明に言う架橋剤(B)とは、カルボジイミドならびに その誘導体であるカルボジイミド系化合物、尿素とグリオキザール、ホルムアルデヒドとの反応物、あるいはジメチル尿素とグリオキザールの反応物の如きグリオキザール系化合物、ヘキサメチロールメラミン、トリメチロールメラミンなどのメラミン系化合物、
【0015】
イソシアネート系架橋剤としては、トリイソシアネート化合物、ジイソシアネート化合物がよく、それらのポリイソシアネート化合物でも良い。・・・」

上記(ア)?(エ)から、甲4には以下の甲4発明が記載されている。
「シリコン系化合物、ワックス系化合物、ワックス-ジルコニウム系化合物の少なくとも1種、及び架橋剤としてのメラミン化合物を含有する繊維用加工剤が付着あるいは固着してなる繊維製品。」

イ.本件発明1
(ア)対比
本件発明1と甲4発明を対比すると、甲4発明の「シリコン系化合物」は、本件発明1の「シリコーン系化合物」に相当し、以下同様に「ワックス系化合物」、「ワックス-ジルコニウム系化合物」は「炭化水素系化合物」に、「架橋剤としてのメラミン化合物」は「メラミン化合物」に、「繊維製品」は「繊維構造物」にそれぞれ相当する。

甲4発明は、「シリコン系化合物、ワックス系化合物、ワックス-ジルコニウム系化合物の少なくとも1種」であるから、2種あるいは3種全ても選択肢として包含するものである。そうすると、甲4発明の選択肢の一つである「シリコン系化合物、ワックス系化合物、ワックス-ジルコニウム系化合物の全て」の場合、甲4発明は、「シリコン系化合物、ワックス系化合物、ワックス-ジルコニウム系化合物、及び架橋剤としてのメラミン化合物を含有する繊維用加工剤」であるから、これは、本件発明1の「炭化水素系化合物、シリコーン系化合物、メラミン化合物」を含有することに相当する。

甲4(段落【0020】)には、「加工剤を用いて繊維に加工剤を付与する方法」として、「浸漬法、パディング法、印捺法、コーティング法、スプレー法」などが例示されているから、甲4発明は、繊維用加工剤が繊維に付着あるいは固着して樹脂皮膜を形成していることが明らかである。
そうすると、甲4発明の「繊維用加工剤が付着あるいは固着」していることは、本件発明1の「樹脂皮膜が繊維表面に固着」していることに相当する。

よって、本件発明1と甲4発明は、以下の点で一致している。
「炭化水素系化合物、シリコーン系化合物、メラミン化合物を含有する樹脂皮膜が固着している、繊維構造物。」

そして、本件発明1と甲4発明は、以下の点で相違している。
<相違点4>
本件発明1は、
「炭化水素系化合物、シリコーン系化合物、メラミン化合物およびウレタン化合物を含有する」
ものであって、
「該シリコーン系化合物の合計量が該炭化水素系化合物に対して5.2?17.2質量%であり、メラミン化合物の含有量が前記炭化水素系化合物に対して15?100質量%であり、ウレタン化合物の含有量が繊維に対して0.03?0.15質量%である」のに対して、
甲4発明は、
シリコン系化合物、ワックス系化合物、ワックス-ジルコニウム系化合物の少なくとも1種、及び架橋剤としてのメラミン化合物を含有するものであって、ウレタン化合物が明記されておらず、
シリコン系化合物の、ワックス系化合物及びワックス-ジルコニウム系化合物の含有量、
メラミン化合物の、ワックス系化合物及びワックス-ジルコニウム系化合物の含有量、
ウレタン化合物の繊維に対する含有量、
が不明な点。

(イ)<相違点4>について検討する。
甲4の実施例をみても、シリコン系化合物、ワックス系化合物、ワックス-ジルコニウム系化合物、及び架橋剤としてのメラミン化合物を含有する繊維用加工剤の具体例についての記載がないから、甲4発明は、シリコン系化合物の、ワックス系化合物及びワックス-ジルコニウム系化合物の含有量、及びメラミン化合物の、ワックス系化合物及びワックス-ジルコニウム系化合物の含有量が不明であると言わざるを得ない。
そして、甲4発明において、シリコン系化合物の、ワックス系化合物及びワックス-ジルコニウム系化合物の含有量を「5.2?17.2質量%」に設定する根拠はなく、また、メラミン化合物の、ワックス系化合物及びワックス-ジルコニウム系化合物の含有量を「15?100質量%」に設定する根拠もない。
さらに、甲4発明の繊維用加工剤にウレタン化合物を追加したとしても、ウレタン化合物の繊維に対する含有量を「0.03?0.15質量%」に設定する根拠がない。
また、他の甲号証を参酌しても、甲4発明において、シリコン系化合物、メラミン化合物、ウレタン化合物を上記<相違点4>に係る本件発明1の構成とする動機付けも根拠もない。

そして、本件発明1は、上記2.(1)ア.?ウ.で述べたとおり、<相違点4>に係る本件発明1の構成とすることで、撥水性と洗濯耐久性の向上という課題を解決し、格別の効果を奏するものである。
よって、本件発明1は、甲4発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない

(ウ)申立人の主張について
申立人は、
「ウレタン化合物(D)を含まない実施例2が実施例8と同等の優れた撥水性を示すことは、ウレタン化合物(D)が、他の公知の化合物・・・と互いに機能的又は作用的に関連しているものではないということを意味する。
よって、本件特許発明1は、先行技術の単なる寄せ集めである。」
(特許異議申立書 36ページ下から6?1行)
と主張している。

しかしながら、本件発明1は、
「メラミン化合物を含有する組成物から樹脂皮膜とすることにより炭化水素基およびシリコーンの撥水性を発現させるメチル基の配向が進むと考えられ」(段落【0030】)
とあるように、少なくとも炭化水素系化合物、シリコーン系化合物、メラミン化合物の3つの加工物は相互に作用するものであり、その具体的な含有量が上記<相違点4>に係る本件発明1の構成として特定されているものであるから、先行技術の単なる寄せ集めということはできない。
よって、申立人の上記主張は、採用することができない。

(エ)以上のとおり、本件発明1は、甲4発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明とはいえない。

ウ.本件発明2?7
本件発明2?7は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、更に限定するものであるから、本件発明2?7についても同様に、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明とはいえない。

エ.本件発明8
(ア)刊行物の記載
甲4には、上記ア.で示した記載事項に加えて、以下の記載がある。
「【実施例1】
【0025】
メチルハイドロジェンポリシロキサンの非イオン系界面活性剤による乳化物(パラシリコンSY-30E:大原パラヂウム化学(株)社製)10部、2官能型エポキシ架橋剤1部、残りが水でトータル100部の加工液を調液した。かかる加工液にポリエステル100%加工糸織物を浸し、マングルにて絞り率が100%になるように絞った。次いで100℃で予備乾燥後、160℃で1分間熱処理をした。このものの撥水度は100であった。なお家庭用洗濯機で洗濯後、タンブルドライヤーで乾燥する作業を繰り返し20回実施した後の撥水度を測定したところ90であり、撥水度の洗濯耐久性が良好であることが確認できた。」

上記の記載によれば、甲4発明の繊維製品を製造する方法として、繊維用加工剤に織物を浸し、乾燥、熱処理する繊維製品の製造方法が記載されている。
そうすると、甲4には以下の甲4’発明が記載されている。
「織物をシリコン系化合物、ワックス系化合物、ワックス-ジルコニウム系化合物の少なくとも1種、及び架橋剤としてのメラミン化合物を含有する繊維用加工剤に浸し、乾燥、熱処理して繊維用加工剤を織物に付着あるいは固着する工程を有する、繊維製品の製造方法。」

(イ)対比
本件発明1と甲4’発明を対比すると、甲4’発明の「シリコン系化合物」は本件発明8の「シリコーン系化合物」に、以下同様に「ワックス系化合物」、「ワックス-ジルコニウム系化合物」は「炭化水素系化合物」に、「架橋剤としてのメラミン化合物」は「メラミン化合物」に、「繊維用加工剤」は「皮膜用組成物」に、「繊維製品の製造方法」は「繊維構造物の製造方法」にそれぞれ相当する。

上記ア.で述べたとおり、甲4’発明の選択肢の一つである「シリコン系化合物、ワックス系化合物、ワックス-ジルコニウム系化合物の全て」の場合、甲4’発明は、「シリコン系化合物、ワックス系化合物、ワックス-ジルコニウム系化合物、及び架橋剤としてのメラミン化合物を含有する繊維用加工剤」であるから、これは、本件発明8の「炭化水素系化合物、シリコーン系化合物、メラミン化合物」を含有することに相当する。

また、上記ア.で述べたとおり、甲4’発明は、繊維用加工剤が繊維に付着あるいは固着して樹脂皮膜を形成していることが明らかである。
そうすると、甲4’発明の「織物を」、「繊維用加工剤に浸し、乾燥、熱処理して繊維用加工剤を織物に付着あるいは固着する工程」は、本件発明8の「繊維に」、「皮膜用組成物を接触させ、これらを繊維の表面に付着させる工程」に相当する。

よって、本件発明8と甲4’発明は、以下の点で一致している。
「繊維に、炭化水素系化合物、シリコーン系化合物およびメラミン化合物を含有する皮膜用組成物を接触させ、これらを繊維の表面に付着させる工程を有する繊維構造物の製造方法。」

そして、本件発明8と甲4’発明は、以下の点で相違している。
<相違点4’-1>
本件発明8は、「繊維に前記皮膜用組成物を接触させる前に、繊維にアニオン基を有する化合物を付着させる工程を有する」のに対して、甲4’発明は、そのような前処理工程が記載されていない点。

<相違点4’-2>
本件発明8は、「メラミン化合物の含有量が前記炭化水素系化合物に対して15?100質量%であ」るのに対して、甲4発明は、メラミン化合物の、ワックス系化合物及びワックス-ジルコニウム系化合物の含有量が不明な点。

(ウ)事案に鑑み、まず<相違点4’-2>について検討する。
上記イ.(イ)で述べたのと同様に、甲4’発明においても、メラミン化合物の、ワックス系化合物及びワックス-ジルコニウム系化合物の含有量が不明であると言わざるを得ない。

そして、本件特許の発明の詳細な説明には、
「メラミン化合物を含有する組成物から樹脂皮膜とすることにより炭化水素基およびシリコーンの撥水性を発現させるメチル基の配向が進むと考えられ」(段落【0030】)
ることから、
「その量は、炭化水素基含有化合物に対し15?100質量%が好ましい。」(段落【0029】)
ものであり、メラミン化合物の含有量を上記特定の範囲内とすることで、
「加工直後の撥水性が向上するのに加え、樹脂皮膜と繊維との密着性が向上し、洗濯耐久性が向上する。」(段落【0030】)
ものであることが記載されている。
すなわち、本件発明8は、メラミン化合物の含有量を炭化水素系化合物に対して「15?100質量%」とすることにより格別の効果を奏するものであるから、「15?100質量%」という含有量の設定が単なる設計的事項とはいえないし、甲4’発明においてメラミン含有量を「15?100質量%」に設定する根拠もない。

(エ)よって、<相違点4’-1>について検討するまでもなく、本件発明8は、甲4’発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明とはいえない。

オ.本件発明9?14
本件発明9?14は、本件発明8の発明特定事項を全て含み、更に限定するものであるから、本件発明9?14についても同様に、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明とはいえない。

(3)小括
以上のとおり、本件発明1?14は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明とはいえないから、その特許は、特許法第113条第2号に該当せず、取り消すことはできない。


第6.取消理由としなかった特許異議の申立理由について
1.上記取消理由として採用しなかった特許異議の申立理由は、以下のとおり。
(1)甲2を主な引用例とする理由
本件発明1、2、6、7は、甲2、及び甲3に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(2)甲6を主な引用例とする理由
本件発明8、9、12?14は、甲6、及び甲1、甲3?5、甲9に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(3)甲7を主な引用例とする理由
本件発明8、9、12?14は、甲7、及び甲1、甲3?5、甲9に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(4)甲8を主な引用例とする理由
本件発明8、9、12?14は、甲8、及び甲5、甲6、甲9に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

2.以下、それぞれ検討する。
(1)甲2を主な引用例とする理由
申立人が主張するとおり、ポリオレフィン(炭化水素系化合物)に対するアミノ基含有ポリオルガノシロキサン(シリコーン系化合物)の含有量が37.5質量%であることが甲2に記載されているとしても、この値は、本件発明1の「5.2?17.2質量%」から大きく外れたものであるとともに、甲2には、メラミン化合物が記載されておらず、ウレタン化合物の繊維に対する含有量も不明なものである。
そして、甲2において、
ア.アミノ基含有ポリオルガノシロキサン(シリコーン系化合物)のポリオレフィン(炭化水素系化合物)に対する含有量を「5.2?17.2質量%」に変更すること、
イ.メラミン化合物を追加し、かつ炭化水素系化合物に対する含有量を「15?100質量%」に設定すること、
ウ.ウレタン化合物の繊維に対する含有量を「0.03?0.15質量%」に設定すること
という3種類の化合物の変更・追加・設定について、甲2の他の記載や甲3記載事項を参酌しても、動機付けも根拠もない。
そして、本件発明1は、「該シリコーン系化合物の合計量が該炭化水素系化合物に対して5.2?17.2質量%であり、メラミン化合物の含有量が前記炭化水素系化合物に対して15?100質量%であり、ウレタン化合物の含有量が繊維に対して0.03?0.15質量%」とすることで、撥水性と洗濯耐久性の向上という課題を解決し、格別の効果を奏するものである。

よって、本件発明1は、甲2、および甲3に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
本件発明2、6、7は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、更に限定するものであるから、本件発明2、6、7についても同様に、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

(2)甲6を主な引用例とする理由
申立人が主張するとおり、甲6には、処理液が炭化水素系化合物を含むことは示されていない。
そして、甲6において、処理液に炭化水素系化合物を追加した上で、メラミン化合物の炭化水素系化合物に対する含有量を15?100質量%に設定することにつき、他の証拠を参酌しても、その動機付けも根拠もない。
よって、本件発明8は、甲6、及び甲1、甲3?5、甲9に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
本件発明9、12?14は、本件発明8の発明特定事項を全て含み、更に限定するものであるから、本件発明9、12?14についても同様に、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

(3)甲7を主な引用例とする理由
申立人が主張するとおり、甲7には、処理液がシリコーン系化合物を含むことは示されていない。
これは、甲7がフッ素系撥水剤を用いている(段落【0019】、【0021】)ためシリコーン系化合物を要しないためである。
そして、甲7には、フッ素系撥水剤に換えてシリコーン系化合物を用いることにつき、示唆も動機付けもない。
さらに、甲7は、メラミン系架橋剤の炭化水素系化合物に対する含有量が不明であって、これを15?100質量%に設定することにつき、他の証拠を参酌しても、その動機付けも根拠もない。
よって、本件発明8は、甲7、及び甲1、甲3?5、甲9に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
本件発明9、12?14は、本件発明8の発明特定事項を全て含み、更に限定するものであるから、本件発明9、12?14についても同様に、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

(4)甲8を主な引用例とする理由
申立人が主張するとおり、甲8には、処理液がシリコーン系化合物とメラミン化合物を含むことは示されていない。
これは、甲8が耐久制電性、防汚性を課題(段落【0004】)とするものであって、その効果を阻害しない程度の範囲で撥水処理をしてもかまわない(段落【0027】)ものであるため、撥水に関する技術思想が明記されていないものである。
そうすると、甲8において、撥水処理のためにシリコーン系化合物とメラミン化合物を追加した上で、さらにメラミン化合物の炭化水素系化合物に対する含有量を15?100質量%に設定することにつき、その動機付けはないといわざるを得ない。
また、他の証拠を参酌しても、甲8において、耐久制電性、防汚性を阻害しない程度の範囲の撥水処理のため、シリコーン系化合物とメラミン化合物を追加した上で、さらにメラミン化合物の炭化水素系化合物に対する含有量を15?100質量%に設定することの根拠がない。
よって、本件発明8は、甲8、及び甲5、甲6、甲9に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
本件発明9、12?14は、本件発明8の発明特定事項を全て含み、更に限定するものであるから、本件発明9、12?14についても同様に、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。


第7.むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1?14に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1?14に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化水素系化合物、シリコーン系化合物、メラミン化合物およびウレタン化合物を含有する樹脂皮膜が繊維表面に固着しており、該シリコーン系化合物の合計量が該炭化水素系化合物に対して5.2?17.2質量%であり、メラミン化合物の含有量が前記炭化水素系化合物に対して15?100質量%であり、ウレタン化合物の含有量が繊維に対して0.03?0.15質量%である繊維構造物。
【請求項2】
該シリコーン系化合物がアミノ変性シリコーン、エポキシ変性シリコーン、カルボキシ変性シリコーン、メチルハイドロジェンシリコーンおよびジメチルシリコーンから選ばれる1種以上である請求項1記載の繊維構造物。
【請求項3】
該炭化水素系化合物が、炭素数12以上の脂肪族炭化水素およびポリオレフィンから選ばれる1種以上である請求項1または2記載の繊維構造物。
【請求項4】
該炭化水素系化合物が、炭素数12以上の脂肪族カルボン酸およびそのエステル化物から選ばれる1種以上である請求項1または2記載の繊維構造物。
【請求項5】
該炭化水素系化合物が、エステル結合を介して存在する炭化水素基の炭素数が12以上のアクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステルの重合体である請求項1または2記載の繊維構造物。
【請求項6】
繊維の形態が織物、編物、不織布および紐状のいずれかである請求項1?5いずれかに記載の繊維構造物。
【請求項7】
家庭洗濯10回後の撥水度が3級以上である請求項1?6いずれかに記載の繊維構造物。
【請求項8】
繊維に、炭化水素系化合物、シリコーン系化合物およびメラミン化合物を含有する皮膜用組成物を接触させ、これらを繊維の表面に付着させる工程を有し、繊維に前記皮膜用組成物を接触させる前に、繊維にアニオン基を有する化合物を付着させる工程を有し、メラミン化合物の含有量が前記炭化水素系化合物に対して15?100質量%である繊維構造物の製造方法。
【請求項9】
該シリコーン系化合物がアミノ変性シリコーン、エポキシ変性シリコーン、カルボキシ変性シリコーン、メチルハイドロジェンシリコーンおよびジメチルシリコーンから選ばれた1種以上である請求項8記載の繊維構造物の製造方法。
【請求項10】
該炭化水素系化合物が、炭素数12以上の脂肪族炭化水素およびポリオレフィンから選ばれる1種以上である請求項8または9記載の繊維構造物の製造方法。
【請求項11】
該炭化水素系化合物が、炭素数12以上の脂肪族カルボン酸およびそのエステル化物から選ばれる1種以上である請求項8または9記載の繊維構造物の製造方法。
【請求項12】
該炭化水素系化合物が、エステル結合を介して存在する炭化水素基の炭素数が12以上のアクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステルの重合体を必須成分であるとして含有する請求項8または9記載の繊維構造物の製造方法。
【請求項13】
アニオン基を有する化合物がスルホン基含有化合物および多価フェノール系化合物から選ばれた少なくとも1種である請求項8?12いずれかに記載の繊維構造物の製造方法。
【請求項14】
炭化水素系化合物、シリコーン系化合物およびメラミン化合物を含有する組成物を繊維に付着させる工程の後、カレンダー加工工程を行う請求項8?13いずれかに記載の繊維構造物の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-04-30 
出願番号 特願2014-559974(P2014-559974)
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (D06M)
P 1 651・ 121- YAA (D06M)
P 1 651・ 537- YAA (D06M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 平井 裕彰  
特許庁審判長 井上 茂夫
特許庁審判官 横溝 顕範
中村 一雄
登録日 2018-12-14 
登録番号 特許第6447136号(P6447136)
権利者 東レ株式会社
発明の名称 繊維構造物  
代理人 特許業務法人朝日奈特許事務所  
代理人 特許業務法人朝日奈特許事務所  
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