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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B32B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B32B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B32B
管理番号 1363975
異議申立番号 異議2018-700708  
総通号数 248 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-08-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-08-31 
確定日 2020-05-07 
分離された異議申立 有 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6357834号発明「繊維強化プラスチック積層体及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6357834号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項〔1?7〕について訂正することを認める。 特許第6357834号の請求項1?3、6、7に係る特許を取り消す。 特許第6357834号の請求項4、5に係る特許についての申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6357834号の請求項1?7に係る特許についての出願は、平成26年3月31日を出願日とする出願であって、平成29年11月1日付けで拒絶理由が通知され、平成30年1月11日に意見書及び手続補正書が提出され、平成30年6月29日にその特許権の設定登録がされ、平成30年7月18日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立て以降の経緯は、次のとおりである。
平成31年1月17日 :特許異議申立人阿部貴史(以下「申立人」といい、本件特許異議申立書を、以下「申立書」という。)による請求項1?7に係る特許に対する特許異議の申立て
平成31年3月15日付け :取消理由通知
令和元年5月17日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和元年7月4日 :申立人による意見書の提出
令和元年9月30日付け :取消理由通知(決定の予告)
令和元年11月29日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和元年12月24日 :申立人による意見書の提出

第2 訂正の適否
1.訂正の内容
なお、令和元年11月29日に提出された訂正請求書による訂正の請求(以下「本件訂正請求」という。また、訂正自体を「本件訂正」という)がされたので、上記令和元年5月17日に提出された訂正請求書による訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。
本件訂正請求は、特許第6357834号の明細書及び特許請求の範囲を本件訂正請求書に添付した訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?7について訂正することを求めるものであり、その内容は、訂正箇所に下線を付して示すと、次のとおりである。
(1)訂正事項1
本件訂正前の請求項1の「前記繊維強化プラスチック積層体の積層方向断面において、前記独立発泡セルの長径と短径の比率で表される平均扁平率(短径/長径)が0.25?0.9であり、かつ前記独立発泡セルの平均短径が25?250μmであるとともに、表皮材を構成するマトリックス樹脂の芯材への最大進入長が130?450μmであることを特徴とする繊維強化プラスチック積層体。」という記載を、「前記繊維強化プラスチック積層体の積層方向断面において、マトリックス樹脂の進入方向と垂直ないし垂直方向に近い方向に扁平した前記独立発泡セルを有し、前記独立発泡セルの長径と短径の比率で表される平均扁平率(短径/長径)が0.25?0.9であり、かつ前記独立発泡セルの平均短径が25?250μmであるとともに、表皮材を構成するマトリックス樹脂の芯材への最大進入長が130?450μmであり、
芯材の両面に表皮材が積層され、前記表皮材のいずれか一方の板厚が、他方の表皮材の板厚の2?5倍の厚さであるとともに、板厚の薄い表皮材の少なくとも1層として一方向繊維強化プラスチック層を配し、板厚の厚い表皮材は積層構造を備え、少なくとも1層として織物繊維強化プラスチック層を配したことを特徴とする繊維強化プラスチック積層体。」に訂正する。
(請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2、3、6、7も同様に訂正する。)

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項4を削除する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項5を削除する。

(5)訂正事項4
本件訂正前の請求項6の「織物繊維強化プラスチックは、表皮材の最外層に配した請求項5に記載の繊維強化プラスチック積層体。」という記載を、
「表皮材の最外層として織物繊維強化プラスチックを配した請求項1に記載の繊維強化プラスチック積層体。」に訂正する。
(請求項6を引用する請求項7も同様に訂正する。)

(6)訂正事項5
本件訂正前の請求項7の「請求項1?6のいずれかに記載の繊維強化プラスチック積層体の製造方法であって、
少なくとも、前記芯材の両面に前記表皮材を積層して成形型に配置する工程、及び、
前記成形型を型締めして加熱・加圧し、前記芯材を圧搾するとともに、前記表皮材の強化繊維に含浸した熱硬化性樹脂を硬化させる工程を有し、
前記芯材の圧搾において、前記芯材の板厚の減少率が23?70%の範囲であることを特徴とする繊維強化プラスチック積層体の製造方法。」という記載を、
「請求項1?3、6のいずれかに記載の繊維強化プラスチック積層体の製造方法であって、
少なくとも、前記芯材の両面に前記表皮材を積層して成形型に配置する工程、及び、
前記成形型を型締めして加熱・加圧し、前記芯材を圧搾するとともに、前記表皮材の強化繊維に含浸した熱硬化性樹脂を硬化させる工程を有し、
前記芯材の圧搾において、前記芯材の板厚の減少率が35?70%の範囲であることを特徴とする繊維強化プラスチック積層体の製造方法。」に訂正する。

(7)訂正事項6
本件訂正前の明細書の段落【0016】の
「(1)少なくとも、独立発泡セルを有する樹脂発泡体から構成される芯材に、強化繊維とマトリックス樹脂からなる表皮材が積層された繊維強化プラスチック積層体であって、
前記繊維強化プラスチック積層体の積層方向断面において、前記独立発泡セルの長径と短径の比率で表される平均扁平率(短径/長径)が0.25?0.9であり、かつ前記独立発泡セルの平均短径が25?250μmであるとともに、表皮材を構成するマトリックス樹脂の芯材への最大進入長が130?450μmであることを特徴とする繊維強化プラスチック積層体。
(2)前記独立発泡セルの平均セル面積が0.001?0.06mm^(2)である(1)に記載の繊維強化プラスチック積層体。
(3)前記繊維強化プラスチック積層体の積層方向における表皮材中のマトリックス樹脂の芯材への平均進入長が50?180μmである(1)または(2)に記載の繊維強化プラスチック積層体。
(4)芯材の両面に表皮材が積層され、前記表皮材のいずれか一方の板厚が、他方の表皮材の板厚の2?5倍の厚さである(1)?(3)のいずれかに記載の繊維強化プラスチック積層体。
(5)板厚の薄い表皮材の少なくとも1層に一方向繊維強化プラスチック層を配し、板厚の厚い表皮材は積層構造を備え、少なくとも1層に織物繊維強化プラスチック層を配した、(4)に記載の繊維強化プラスチック積層体。
(6)織物繊維強化プラスチックは、表皮材の最外層に配した(5)に記載の繊維強化プラスチック積層体。
(7)(1)?(6)いずれかに記載の繊維強化プラスチック積層体の製造方法であって、
少なくとも、前記芯材の両面に前記表皮材を積層して成形型に配置する工程、及び、
前記成形型を型締めして加熱・加圧し、前記芯材を圧搾するとともに、前記表皮材の強化繊維に含浸した熱硬化性樹脂を硬化させる工程を有し、
前記芯材の圧搾において、前記芯材の板厚の減少率が23?70%の範囲であることを特徴とする繊維強化プラスチック積層体の製造方法。」という記載を
「(1)少なくとも、独立発泡セルを有する樹脂発泡体から構成される芯材に、強化繊維とマトリックス樹脂からなる表皮材が積層された繊維強化プラスチック積層体であって、
前記繊維強化プラスチック積層体の積層方向断面において、マトリックス樹脂の進入方向と垂直ないし垂直方向に近い方向に扁平した前記独立発泡セルを有し、前記独立発泡セルの長径と短径の比率で表される平均扁平率(短径/長径)が0.25?0.9であり、かつ前記独立発泡セルの平均短径が25?250μmであるとともに、表皮材を構成するマトリックス樹脂の芯材への最大進入長が130?450μmであり、
芯材の両面に表皮材が積層され、前記表皮材のいずれか一方の板厚が、他方の表皮材の板厚の2?5倍の厚さであるとともに、板厚の薄い表皮材の少なくとも1層として一方向繊維強化プラスチック層を配し、板厚の厚い表皮材は積層構造を備え、少なくとも1層として織物繊維強化プラスチック層を配したことを特徴とする繊維強化プラスチック積層体。
(2)前記独立発泡セルの平均セル面積が0.001?0.06mm^(2)である(1)に記載の繊維強化プラスチック積層体。
(3)前記繊維強化プラスチック積層体の積層方向における表皮材中のマトリックス樹脂の芯材への平均進入長が50?180μmである(1)または(2)に記載の繊維強化プラスチック積層体。
(6)表皮材の最外層に織物繊維強化プラスチックを配した(1)に記載の繊維強化プラスチック積層体。
(7)(1)?(3)、(6)いずれかに記載の繊維強化プラスチック積層体の製造方法であって、
少なくとも、前記芯材の両面に前記表皮材を積層して成形型に配置する工程、及び、
前記成形型を型締めして加熱・加圧し、前記芯材を圧搾するとともに、前記表皮材の強化繊維に含浸した熱硬化性樹脂を硬化させる工程を有し、
前記芯材の圧搾において、前記芯材の板厚の減少率が35?70%の範囲であることを特徴とする繊維強化プラスチック積層体の製造方法。」
に、訂正する。

2.一群の請求項、訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
ア.訂正事項1は、本件訂正前の請求項1に記載された「独立発泡セル」について、「マトリックス樹脂の侵入方向と垂直ないし垂直方向に近い方向に扁平した前記独立発泡セル」との構成を付加限定するものであり、かつ、「繊維強化プラスチック積層体」について、「芯材の両面に表皮材が積層され、前記表皮材のいずれか一方の板厚が、他方の表皮材の板厚の2?5倍の厚さであるともに、板厚の薄い表皮材の少なくとも1層として一方向繊維強化プラスチック層を配し、板厚の厚い表皮材は積層構造を備え、少なくとも1層として織物繊維強化プラスチック層を配した」との構成を付加限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
イ.訂正事項1のうち、「マトリックス樹脂の侵入方向と垂直ないし垂直方向に近い方向に扁平した前記独立発泡セル」との構成を付加する訂正は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に、独立発泡セルをマトリックス樹脂の参入方向と垂直方向ないし垂直方向に近い方向で扁平とすることを前提として、その平均扁平率、平均短径を適したものとすることで、「剛性、軽量性を保持したまま、構造体内部に発生する気泡空隙、いわゆる気泡ボイドの発生による表面外観不良を抑制し、意匠性に優れた良外観の表面状態を保持できる薄肉の繊維強化プラスチック積層体及びその製造方法を提供すること」との請求項1に係る課題を解決することが実質的に記載されているといえる(段落【0028】?【0030】)から、新規事項を追加するものではない。また、特許請求の範囲の拡張・変更をするものでもないことは明らかである。
ウ.訂正事項1のうち、「芯材の両面に表皮材が積層され、前記表皮材のいずれか一方の板厚が、他方の表皮材の板厚の2?5倍の厚さであるともに、板厚の薄い表皮材の少なくとも1層として一方向繊維強化プラスチック層を配し、板厚の厚い表皮材は積層構造を備え、少なくとも1層として織物繊維強化プラスチック層を配した」との構成を付加する訂正は、本件訂正前の請求項4に、「芯材の両面に表皮材が積層され、前記表皮材のいずれか一方の板厚が、他方の表皮材の板厚の2?5倍の厚さである」と記載され、本件訂正前の請求項5に、「板厚の薄い表皮材の少なくとも1層に一方向繊維強化プラスチック層を配し、板厚の厚い表皮材は積層構造を備え、少なくとも1層に織物繊維強化プラスチック層を配した」と記載されているから、新規事項を追加するものではない。また、実質上特許請求の範囲の拡張・変更するものではないことは明らかである。

(2)訂正事項2
ア.訂正事項2は、本件訂正前の請求項4を削除する訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定される特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
イ.訂正事項2は、新規事項を追加するものではなく、また、実質上特許請求の範囲を拡張・変更するものではないことは明らかである。

(3)訂正事項3
ア.訂正事項3は、本件訂正前の請求項5を削除する訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定される特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
イ.訂正事項3は、新規事項を追加するものではなく、また、実質上特許請求の範囲を拡張・変更するものではないことは明らかである。

(4)訂正事項4について
ア.
(ア)訂正事項4のうち、本件訂正前の請求項6の「織物繊維強化プラスチックは、表皮材の最外層に配した」という記載を、「表皮材の最外層として織物繊維強化プラスチックを配した」に訂正することは、本件訂正前の「織物繊維強化プラスチック」が、「表皮材の最外層」の一層として配したものであるのか、「少なくとも一層」の別体として配したものであるのかが明確ではなかったところ、「最外層の一層」として配されたものであることを明確とする訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定された明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
(イ)上記(ア)の訂正事項は、本件特許明細書の段落【0063】に、上面表皮材において、織物炭素繊維を使用したプリプレグA1層を最表層として配置することが記載されているから、当該訂正事項は、新規事項を追加するものではない。また、実質上特許請求の範囲を拡張・変更するものではないことは明らかである。
イ.
(ア)訂正事項4のうち、本件訂正前の請求項6の「請求項5に記載の繊維強化プラスチック積層体」という記載を、「請求項1に記載の繊維強化プラスチック積層体」に訂正することは、上記訂正事項2及び3により、請求項4及び5が削除されたことに伴って、引用先の請求項を整合させる訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定された明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
(イ)上記(ア)の訂正事項は、引用先の請求項を、訂正前の請求項5が間接的に引用する請求項1とするものであるから、新規事項を追加するものではないことは明らかである。また、実質上特許請求の範囲を拡張・変更するものではないことは明らかである。

(5)訂正事項5について
ア.
訂正事項5のうち、本件訂正前の請求項7の「請求項1?6のいずれかに記載の繊維強化プラスチック積層体の製造方法」という記載を、「請求項1?3、6のいずれかに記載の繊維強化プラスチック積層体の製造方法」とする訂正は、本件訂正前の請求項7が、請求項1?6のいずれか一項を引用する請求項であったところ、上記訂正事項2及び3によって請求項4及び5が削除されたことに整合させるために、請求項4及び5を引用しないものとする訂正であるから、特許法第120条の5第2項第3号に規定される明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。また、訂正事項5は、新規事項を追加するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張・変更するものではないことは明らかである。
イ.
(ア)訂正事項5のうち、本件訂正前の請求項7の「前記芯材の板厚の減少率が23?70%の範囲である」という記載を、「前記芯材の板厚の減少率が35?70%の範囲である」とする訂正は、「減少率」を特定する数値範囲を狭くする訂正であるから、特許法第120条の5第2項第1号に規定された特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
(イ)本件特許明細書の段落【0055】には、「本発明においては、芯材2の圧搾において、芯材2の板厚の減少率が23?70%の範囲であることが重要である。・・・芯材2の板厚の減少率は、好ましくは35?65%・・・の範囲である。」という記載があるから、上記(ア)の訂正は、新規事項を追加するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張・変更するものではないことは明らかである。

(6)訂正事項6について
ア.訂正事項6は、訂正事項1?5による特許請求の範囲の請求項についての訂正と整合させるために、本件特許明細書の記載を訂正するものであるから、特許法第120条の5第2項第3号に規定される明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
イ.訂正事項6は、新規事項を追加するものではない訂正事項1?5による訂正後の特許請求の範囲の請求項の記載に、本件特許明細書の記載を整合させるものであるから、訂正事項6は新規事項を追加するものではない。また、実質上特許請求の範囲を拡張・変更するものではないことは明らかである。そして、上記訂正事項1?5による訂正後の請求項の記載に整合させるものであるから、訂正事項6は、請求項1?7に関係する訂正である。よって、訂正事項7は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第4項に適合する。

(7)一群の請求項
本件訂正前の請求項2?7は、いずれも直接あるいは間接的に本件訂正に係る請求項1を引用するものであるから、本件訂正請求は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項に対して請求項されたものである。

3.訂正についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号及び第3号に規定する事項を目的とするものに該当し、かつ、同条第4項、並びに、同条第9項において準用する同法第126条第4?6項の規定に適合するから、訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、明細書及び請求項〔1?7〕について訂正することを認める。

第3 本件訂正後の本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1?3、6、7に係る発明(以下「本件発明1」等という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1?3、6、7に、それぞれ記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

「【請求項1】
少なくとも、独立発泡セルを有する樹脂発泡体から構成される芯材に、強化繊維とマトリックス樹脂からなる表皮材が積層された繊維強化プラスチック積層体であって、
前記繊維強化プラスチック積層体の積層方向断面において、マトリックス樹脂の進入方向と垂直ないし垂直方向に近い方向に扁平した前記独立発泡セルを有し、前記独立発泡セルの長径と短径の比率で表される平均扁平率(短径/長径)が0.25?0.9であり、かつ前記独立発泡セルの平均短径が25?250μmであるとともに、表皮材を構成するマトリックス樹脂の芯材への最大進入長が130?450μmであり、
芯材の両面に表皮材が積層され、前記表皮材のいずれか一方の板厚が、他方の表皮材の板厚の2?5倍の厚さであるとともに、板厚の薄い表皮材の少なくとも1層として一方向繊維強化プラスチック層を配し、板厚の厚い表皮材は積層構造を備え、少なくとも1層として織物繊維強化プラスチック層を配したことを特徴とする繊維強化プラスチック積層体。
【請求項2】
前記独立発泡セルの平均セル面積が0.001?0.06mm^(2)であることを特徴とする請求項1に記載の繊維強化プラスチック積層体。
【請求項3】
前記繊維強化プラスチック積層体の積層方向における表皮材中のマトリックス樹脂の芯材への平均進入長が50?180μmである請求項1または2に記載の繊維強化プラスチック積層体。
【請求項6】
表皮材の最外層として織物繊維強化プラスチックを配した請求項1に記載の繊維強化プラスチック積層体。
【請求項7】
請求項1?3、6のいずれかに記載の繊維強化プラスチック積層体の製造方法であって、
少なくとも、前記芯材の両面に前記表皮材を積層して成形型に配置する工程、及び、
前記成形型を型締めして加熱・加圧し、前記芯材を圧搾するとともに、前記表皮材の強化繊維に含浸した熱硬化性樹脂を硬化させる工程を有し、
前記芯材の圧搾において、前記芯材の板厚の減少率が35?70%の範囲であることを特徴とする繊維強化プラスチック積層体の製造方法。」

第4 当審の判断
1.取消理由の概要
本件訂正前の請求項1?3、6、7に係る特許に対して、当審が令和元年9月30日付け取消理由通知(決定の予告)において示した、取消理由の概要は、次のとおりである。

理由1(サポート要件) 本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

理由2 (明確性) 本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

理由3(新規性) 本件特許の下記の請求項1及び2に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物1に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

理由4(進歩性) 本件特許の下記の請求項1?3、6、7に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物1に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明及び刊行物4?6に記載された事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



<刊 行 物 等 一 覧>
刊行物1.「2012年6月24日?28日、イタリア、ヴェニスで開催された第15回複合材料ヨーロッパ会議」(ECCM15-15TH EUROPEAN CONFERENCE ON COMPOSITE MATERIALS,Venice,Italy,24-28 June 2012)で発表された論文 タイトル:INFLUENCE OF MESOSCOPIC FOAM STRUCTURE ON FACE SHEET DEBONDING IN CFRP FOAM CORE SANDWICH PANELS(申立書添付の甲第1号証)
刊行物4.特開2013-188953号公報(申立書添付の甲第4号証)
刊行物5.特開2008-23795号公報(申立書添付の甲第5号証)
刊行物6.特開2004-322502号公報(申立書添付の甲第6号証)

2.取消理由についての判断
(1)理由2(明確性)について
事案に鑑み、まず、理由2について検討する。
ア.請求項1?3、6、7
(ア) 本件の請求項1には、「・・・前記独立発泡セルの長径と短径の比率で表される平均扁平率(短径/長径)が0.25?0.9であり、かつ前記独立発泡セルの平均短径が25?250μmである・・・」と記載されており、前記「平均扁平率」及び「平均短径」について、本件特許明細書の段落【0033】には、「撮影した画像を基に、画像範囲内に見える全ての独立発泡セル5について、長径6と短径7の長さをそれぞれ測定し、その平均値を算出することで、繊維強化プラスチック積層体1の平均扁平率が得られる。また平均短径とは独立発泡セル5の短径7を独立発泡セル毎に測定し一定面積内に存在する独立発泡セル5の個数について平均化したものを平均短径とした。」と記載されている。
(イ) しかしながら、本件特許において、独立発泡セルの「長径」及び「短径」がどのように定義されるのか不明確であるから、前記「長径」及び「短径」の長さに基づく「平均扁平率(短径/長径)」、前記「短径」の長さに基づく「平均短径」をもって規定される本件発明1は不明確である。また、当該本件発明1を直接または間接に引用する本件発明2、3、6、7についても同様である。
(ウ) この点、本件特許明細書の段落【0033】には、「・・・図1に示すように、扁平化した独立発泡セル5の長径6、扁平化した独立発泡セル5の短径7を、独立発泡セル毎に測定し・・・」と記載されており、図1には「6」で表される線分及び「7」で表される線分が示されてはいるものの、本件特許明細書において、これらの線分を得られた画像をもとに、どのような基準で定めるのか明確な説明がなされていない。
(エ) また、出願人は、平成30年1月11日に提出した意見書の【意見の内容】5.(1)において、「本願明細書では「長径・短径」との表現を用いてはいるものの、図1の矢印で図示するとおり、必ずしも長径と短径とが直交を要するものではありません。扁平形状であればその長径方向は容易に判別できることから、独立発泡セルの外縁にある屈曲部位等のうち、長径方向に近い屈曲部位等を結ぶ線分を長径とみなすことができます。また、長径と直交する方向に近い方向で、屈曲部位等であったり、屈曲部位等がない場合は長径の線分の中央の位置を結ぶ線分を短径とみなすことができます。」と主張している。しかしながら、上記「屈曲部位等」とは屈曲部位の他にどのような部位を含むのか不明確であるから「長径」及び「短径」が明確に定義されているとはいえず、また「長径の線分の中央の位置を結ぶ線分」は無数に存在するから「短径」が明確に定義されているとはいえない。

イ.請求項2、3、6、7について
(ア) 本件の請求項2には、「・・・前記独立発泡セルの平均セル面積が0.001?0.06mm^(2)である・・・」と記載されており、前記「平均セル面積」について、本件特許明細書の段落【0035】には、「ここで、独立発泡セル5の平均セル面積は、各独立発泡セル5から算出した長径6、短径7を元に、平均セル面積=(長径/2)×(短径/2)×円周率の式を用いて、単位面積内に存在する各独立発泡セルの面積を算出し、その平均を取ることにより特定することができる。」と記載されている。
(イ) しかしながら、上記したように、本件特許において、独立発泡セルの「長径」及び「短径」がどのように定義されるのか不明確であるから、前記「長径」及び「短径」の長さに基づく「平均セル面積」をもって規定される本件発明2は不明確である。また、当該本件発明2を直接または間接に引用する本件発明3、6、7についても同様に不明確である。

ウ.当事者の主張について
(ア)特許権者が令和元年5月17日に提出した意見書における主張について
a.特許権者は、令和元年5月17日に提出した意見書において、独立発泡セルの「長径」及び「短径」について、大要、次のとおり主張している。

「明細書【0035】段落において、「平均セル面積=(長径/2)×(短径/2)×円周率の式を用いて、単位面積内に存在する各独立発泡セルの面積を算出」すると規定しているように、独立発泡セルの形状を特定する手段として楕円近似するものとして取り扱うこととしている。
しかしながら、独立発泡セルの形状は必ずしも楕円ではないため、最も離れた点同士を結ぶ線分を長径と近似することは当業者であれば明確であるといえる。
この際、最も離れた点を特定する方法として、平成30年1月11日に提出した意見書では「独立発泡セルの外縁にある屈曲部位等のうち、長径方向に近い屈曲部位等を結ぶ線分を長径とみなすことができます。」と例示したものである。
具体的には、対向する凸状部に相当する部位の頂点同士を結ぶことができる場合には当該凸状部が「屈曲部位」となる。一方、曲線状や直線状の辺の場合には、凸状部の頂点のように最も離れた点が容易に特定できないため、曲線状や直線状の辺上の点のうち長径が最大値となる点との線分を長径とするものである。
短径について、楕円であれば短径は長径の垂直二等分線であることは当業者の技術常識であるものの、必ずしも楕円でない独立発泡セルの場合、短径としては極力長径の垂直二等分線に近い線分を選択しようとするものである。ここで、平成30年1月11日に提出した意見書における「長径と直交する方向に近い方向で、屈曲部位等であったり、屈曲部位等がない場合は長径の線分の中央の位置を結ぶ線分を短径とみなすことができます。」とは、楕円近似の場合、短径は長径の垂直二等分線との定義から極力外れないようにするため、長径と直交する方向に近い方向であること、長径の線分の中央の位置を結ぶ線分とすること、としたものである。独立発泡セルにおいても、短径に相当する線分の一方の点として凸状部のような頂点が特定しやすい「屈曲部位」がある場合はその屈曲部位とし、頂点が特定しづらいような曲線状や直線状の辺の場合には、「長径と直交する方向に近い方向であること、長径の線分の中央の位置を結ぶ線分とすること」を満足する最も近接した点同士を結ぶ線分を短径と近似するものである。したがって、短径を規定する「屈曲部位等」も、長径同様、凸状部や、当該曲線状や直線状の辺上の点といった短径となる線分の端部を総称して表現したものであるから、平成30年1月11日に提出した意見書における「長径と直交する方向に近い方向で、屈曲部位等であったり、屈曲部位等がない場合は長径の線分の中央の位置を結ぶ線分を短径とみなすことができます。」との主張は明確であると思料する。」(2ページ23行?10ページ最下行)

b.検討
上記a.に示したとおり、特許権者は「短径」について、「必ずしも楕円でない独立発泡セルの場合、短径としては極力長径の垂直二等分線に近い線分を選択しようとするものである」と主張している。しかし、特許権者が平成30年1月11日に提出した意見書には、「短径」を「極力長径の垂直二等分線に近い線分を選択しようとする」ことや、「短径は長径の垂直二等分線との定義から極力外れないようにするため、長径と直交する方向に近い方向であること、長径の線分の中央の位置を結ぶ線分とすること、としたものである。」という記載はない。
そして、当該意見書には、「長径や短径を測定した際の図」(5.(1))として【図5】が添付されているが、それをみると、以下に示すように、当審が白丸を付した「独立発泡セル」の「短径」は、「長径」の「垂直二等分線」とはいえないものや、「長径」の線分の中央の位置を結ぶ線分」とはいえないものがある。そうすると、上記a.の特許権者の主張は、一貫しておらず、採用することはできない
そもそも、「短径」を「長径と直交する方向に近い方向であること、長径の線分の中央の位置を結ぶ線分」にしようとすれば、そのようなものは、通常複数選択し得ることは明らかであるから、明確であるとはいえない。


(イ)特許権者が令和元年11月29日に提出した意見書における主張について
a.当審が令和元年9月30日付け取消理由通知(決定の予告)において示した判断について、特許権者は、令和元年11月29日に提出した意見書において、大要、次のとおり主張している。(なお、以下の特許権者の主張において、原文中で○囲み数字で、記載されているものは、例えば「○1」等と代用表記した。)

「特許権者が令和1年5月17日に提出した意見書(以下、「意見書2」という。)において、「短径としては極力長径の垂直二等分線に近い線分を選択しようとするものである。」と主張したことは、特許権者が平成30年1月11日に提出した意見書(以下、「意見書1」という。)における短径の規定に追加しようとしたものではなく、意見書1における「長径と直交する方向に近い方向で、屈曲部位等であったり、屈曲部位等がない場合は長径の線分の中央の位置を結ぶ線分を短径とみなすことができます。」との記載の技術的意義を説明したものである。
すなわち、・・・本件発明は最終的に楕円近似することを前提としたものであるから、短径についても「楕円であれば短径は長径の垂直二等分線であることは当業者の技術常識である」との前提としつつも、本件発明の扁平形状にそのまま適用することは困難であることから、楕円と共通する要素として、「長径と直交する方向に近い方向」を選択したり、「屈曲部位等」を選択したり、「屈曲部位等がない場合は長径の線分の中央の位置を結ぶ」ことを選択することで、楕円近似したものである。
したがって、意見書1に「長径や短径を測定した際の図」(5.(1))として添付した【図5】も、意見書1における「長径と直交する方向に近い方向で、屈曲部位等であったり、屈曲部位等がない場合は長径の線分の中央の位置を結ぶ線分を短径とみなすことができます。」との規定に基づいて特定した短径であるから、「当審が白丸を付した「独立発泡セル」の「短径」は、「長径」の「垂直二等分線」とはいえないものや、「長径の線分の中央の位置を結ぶ線分」とはいえないもの」は含まれておらず、意見書1と意見書2との主張は一貫したものであると思料する。

ここで、短径を特定する方法については、意見書2において「先に例示した数字のゼロ〔0〕の場合、短径は左右に膨らむ曲線の凸状部の頂点同士を結ぶ線分に相当することから、独立発泡セルにおいても、短径に相当する線分の一方の点として凸状部のような頂点が特定しやすい「屈曲部位」がある場合はその屈曲部位とし、頂点が特定しづらいような曲線状や直線状の辺の場合には、「長径と直交する方向に近い方向であること、長径の線分の中央の位置を結ぶ線分とすること」を満足する最も近接した点同士を結ぶ線分を短径と近似するものである。」との説明も参酌すれば、短径とみなす線分としては、○1屈曲部位同士を結ぶ線分、○2一方の屈曲部位から長径と直交する方向に近い方向の位置を結ぶ線分、○3屈曲部位等がない場合は長径の線分の中央の位置を結ぶ線分、等に分類できる。
・・・
すなわち、独立発泡セルの「長径」、「短径」及びそれらに基づく「扁平率」等は、明確に特定できるものである。したがって、訂正後の本件発明1?3、6、7は、特許法第36条第6項第2号の要件を満たすものであると思料する。」

b.検討
上記a.において、特許権者は、「短径とみなす線分」について、「○1屈曲部位同士を結ぶ線分、○2一方の屈曲部位から長径と直交する方向に近い方向の位置を結ぶ線分、○3屈曲部位等がない場合は長径の線分の中央の位置を結ぶ線分、等に分類できる」と主張している。
しかし、「独立発泡セル」の画像から、上記「○1屈曲部位同士を結ぶ線分」、「○2一方の屈曲部位から長径と直交する方向に近い方向の位置を結ぶ線分」、「○3屈曲部位等がない場合は長径の線分の中央の位置を結ぶ線分」のいずれに分類されうるのかとの記載が、本件特許明細書にはほとんど記載されておらず、技術常識に基づいて、本件特許明細書において記載されたに等しい事項であるともいえない。さらに、上記特許権者が令和元年11月29日に提出した意見書においては、「・・・○3屈曲部位等がない場合は長径の線分の中央の位置を結ぶ線分、等に分類できる」(当審注:下線は当審で付した)と上記「○1」?「○3」以外にも分類され得るカテゴリーの存在を主張している。しかしながら、それがどのようなものであるか、何らの説明もない。
そうすると、上記a.に示した特許権者令和元年11月29日に提出した意見書における主張は、採用できない。

(ウ)以上のように、「実施」されている独立発泡セルの「長径」、「短径」及びそれらに基づく「偏平率」等は、特許権者がいかようにも測定し得るものといえる。そうすると、本件特許1?3、6、7の記載は、第三者に不測の不利益を及ぼす不明確さがあるから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たさないものである。

(2)理由3(新規性)、理由4(進歩性)について
上記(1)に示したとおり、本件発明1?3、6、7は、明確であるとはいえないが、各「独立発泡セル」の「長径」及び「短径」を、申立書の13ページの[参考図]に示されたもののように仮定し、以下のとおり、「理由3(新規性)」、「理由4(進歩性)」について検討する。

ア. 刊行物1に記載された事項及び発明
上記刊行物1には、以下の事項が記載されている。なお、刊行物1は英文によって記載されているが、当審の和訳をもって示す。また、以下の「○R」は、原文において、○の中にRが記載された表記である。
(ア)表題には、「CFRP発泡コアサンドイッチパネルのフェースシートの剥離についてメゾスコピック発泡構造の影響」と記載されている。

(イ)「1 序論」欄の第3行?第6行には、「発泡コアの独立セルは、真空補助樹脂注入プロセス(VARI)[1]を通じて複雑な形状の部品について非常に効率的な製造を可能にする。このプロセスの中で、純粋な樹脂は、フェースシートの乾燥繊維に浸透し、独立気泡ポリマー発泡コアの表面上の切断されたセルを満たす。」と記載されている。

(ウ)「2.1 試料の製造方法」欄の第1行?第6行には、「サンドイッチパネルは、真空支援樹脂注入プロセス(VARI)を介して製造された。・・・サンドイッチパネルは、ポリメタクリルイミド(PMI)発泡コア(Evonik Industries AGのROHACELL○R)およびCFRPフェースシートから構成される。後者の材料は、一軸および二軸織物(+45°/-45°)のPANEX○R35炭素繊維と硬化剤CH80-6を使うSika社のエポキシ系BiresinCR80とによって構成される。」と記載されている。

(エ)「2.1 試料の製造方法」欄には、「表1 ROHACELL○R発泡コア材料の材料データ」として、次の表が掲載されている。



(オ)「3.1 発泡構造の形態的特徴」欄の第8?12行(当審注:ただし、表2は行数に算入していない。)には、「図2は、画像中の繊維束のより良いコントラストを有するものとして選択された、110RIST発泡コアおよびガラス繊維強化フェースシートを有するサンドイッチ試料のフェース/コア境界の3D画像による断面を示す。全ての撮影画像において、VARI製造プロセスにおいて、切断された発泡セルの第1層だけが樹脂によって充填されることが観察された。」と記載されている。

(カ)「3.1 発泡構造の形態的特徴」欄には、「図2 110RIST発泡コアを有するサンドイッチ試料の境界の3D画像における断面図」として、次の図が掲載されている。



(キ)上記ア.(イ)?(オ)の摘記事項及び(カ)の図示から、刊行物1について、次の技術的事項が読み取れる。
a.上記ア.(カ)の図2には、上側にフェースシート(「face sheet」)があり、下側に発泡コア(「foam core」)がある積層体が示されている。ここで「フェース」は表面を意味し、「コア」は芯を意味すること、上記ア.(カ)の図2の説明文には「110RIST発泡コアを有するサンドイッチ試料」と記載されていることからすると、この「フェースシート」及び「発泡コア」は、それぞれ、表皮材及び当該「表皮材」を両面に積層された「芯材」であるといえる。

b.上記ア.(オ)の記載及び上記ア.(カ)の図2の説明文には、発泡コアは「110RIST発泡コア」であることが示されている。ここで、「110RIST発泡コア」は、上記ア.(エ)の表1から、「ROHACELL○R発泡コア材料」の一種であるといえる。この「ROHACELL○R発泡コア材料」は、上記ア.(ウ)の記載から、ポリメタクリルイミド(PMI)発泡コアであるといえる。ゆえに、ア.(カ)の図2の発泡コアは、「110RIST発泡コア」であって、ポリメタクリルイミド(PMI)発泡コアであるといえる。

c.上記ア.(カ)の図2には、発泡コアにおいて、発泡セルが壁を隔てて独立して存在することが示されていることから、この発泡セルは独立発泡セルであるといえる。

d.上記ア.(オ)には、図2の「フェースシート」が「ガラス繊維強化フェースシート」であることが示されているものの、上記ア.(ウ)には、材料として「CFRPフェースシート」が記載されていること、上記ア.(ア)には、刊行物1の表題として「CFRP」の記載があることからすると、この「ガラス繊維強化フェースシート」は、「CFRPフェースシート」の誤記であるといえる。そして、上記ア.(ウ)には、「CFRPフェースシート」は、「一軸および二軸織物(+45°/-45°)のPANEX○R35炭素繊維と硬化剤CH80-6を使うSika社のエポキシ系BiresinCR80とによって構成される」ことが示されている。

e.上記ア.(カ)の図2のサンドイッチ試料において、発泡セルの上側に、発泡セル充填樹脂(「resin filled foam cells」)があることが示されている。ここで、当該図2のサンドイッチ試料について説明する記載である上記ア.(オ)には、「全ての撮影画像において、VARI製造プロセスにおいて、切断された発泡セルの第1層だけが樹脂によって充填されることが観察された。」と記載されており、この「VARI製造プロセス」についての上記ア.(イ)の説明を参酌すると、発泡セル充填樹脂は、フェースシートから発泡コアへ進入した樹脂であって、フェースシートを構成する樹脂と同一のものといえる。ゆえに、発泡セル充填樹脂は、上記エ.で示した「CFRPフェースシート」を構成する「エポキシ系BiresinCR80」であるといえる。

f.上記ア.(カ)の図2から、発泡セルの長径と短径の比率で表される平均扁平率(短径/長径)は、0.82であり、発泡セルの平均短径は192μmであり、発泡セルの平均面積は0.038mm2、発泡セル充填樹脂の上下方向最大長さは435μm、発泡セル充填樹脂の上下方向平均長さは223μmであることが看取できる(申立書の第11頁下から第3行?第15頁の[表2]参照。なお、申立書第12頁第15行の「0.82%」は、第14頁[表1]を参酌すると「0.82」の誤記であり、第14頁[表1]の「楕円近似μm2」は、同[表1]の短軸及び長軸の長さを参酌すると「楕円近似mm2」の誤記であるといえる。)。ここで、上記e.で示したように発泡セル充填樹脂は発泡コアへ進入した樹脂であることから、この発泡セル充填樹脂の上下方向最大長さ及び上下方向平均長さは、それぞれ、発泡セル充填樹脂の最大進入長及び平均進入長であるといえる。

(ク)上記ア.(ア)?(オ)の摘記事項、ア.(カ)の図2の図示、及び項(キ)のa.?f.の認定事項を踏まえると、刊行物1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

「少なくとも、独立発泡セルを有するポリメタクリルイミド(PMI)発泡コアである110RIST発泡コアに、PANEX○R35炭素繊維とエポキシ系BiresinCR80からなるCFRPフェースシートが積層されたサンドイッチ試料であって、
前記サンドイッチ試料の積層方向断面において、前記独立発泡セルの長径と短径の比率で表される平均扁平率(短径/長径)が0.82であり、かつ前記独立発泡セルの平均短径が192μmであり、前記独立発泡セルの平均セル面積が0.038mm2であるとともに、CFRPフェースシートを構成するエポキシ系BiresinCR80の110RIST発泡コアへの最大進入長が435μm、平均進入長が223μmである、
上記ポリメタクリルイミド(PMI)発泡コアである110RIST発泡コアの両面にCFRPフェースシートが積層されたサンドイッチ試料。」

イ. 本件発明1について
(ア)引用発明との対比
本件発明1と引用発明を対比すると、引用発明における「独立発泡セル」、「ポリメタクリルイミド(PMI)発泡コアである110RIST発泡コア」、「PANEX○R35炭素繊維」、「エポキシ系BiresinCR80」、「CFRPフェースシート」、「サンドイッチ試料」は、それぞれ、本件発明1における「独立発泡セル」、「樹脂発泡体から構成される芯材」、「強化繊維」、「マトリックス樹脂」、「表皮材」、「繊維強化プラスチック積層体」に、それぞれ相当する。また、引用発明における「独立発泡セルの長径と短径の比率で表される平均扁平率(短径/長径)が0.82」は、本件発明1における「独立発泡セルの長径と短径の比率で表される平均扁平率(短径/長径)が0.25?0.9」に相当する。また、引用発明における「独立発泡セルの平均短径が192μm」は、本件発明1における「独立発泡セルの平均短径が25?250μm」に相当する。さらに、引用発明における「CFRPフェースシートを構成するエポキシ系BiresinCR80の110RIST発泡コアへの最大進入長が435μm」は、本件発明1における「表皮材を構成するマトリックス樹脂の芯材への最大進入長が130?450μm」に相当する。
そうすると、本件発明1と引用発明は、次の<相違点1>及び<相違点2>において相違する。

<相違点1>
本件発明1の「独立発泡セル」は、「マトリックス樹脂の進入方向と垂直ないし垂直方向に近い方向に扁平した」ものであるのに対し、引用発明の「独立発泡セル」は、そのようなものであるのかが不明である点。
<相違点2>
本件発明1の「芯材」の両面に積層された「表皮材」は、「表皮材のいずれか一方の板厚が、他方の表皮材の板厚の2?5倍の厚さであるとともに、板厚の薄い表皮材の少なくとも1層として一方向繊維強化プラスチック層を配し、板厚の厚い表皮材は積層構造を備え、少なくとも1層として織物繊維強化プラスチック層を配した」であるのに対し、引用発明の「ポリメタクリルイミド(PMI)発泡コアである110RIST発泡コア」の両面に積層された「CFRPフェースシート」の厚さがそのようなものであるかが、不明である点。

(イ)相違点についての検討
a.<相違点1>について


上記刊行物1の図2に図示された独立発泡セルのうち、上記白丸にて示される独立発泡セルは、「マトリックス樹脂の進入方向と垂直ないし垂直方向に近い方向に扁平した」ものであるといえるから、上記<相違点1>は、実質的な相違点であるとはいえない。
また、当該図2には、サンドイッチ試料において、発泡セルの上側に発泡セル充填樹脂が存在することの図示があるが、当該図示から、当該サンドイッチ試料に対して、厚さ方向の「圧力が加わった」ことの示唆がされている。そして、申立人が提出した令和元年7月4日提出の意見書において添付された甲第8号証(特開2012-58610号公報)の段落【0012】に例示されているように、発泡樹脂が厚さを方向の圧力を受けて、扁平に変形することは技術常識であるから、上記示唆にしたがって、引用発明を加圧して、「独立発泡セル」を「マトリックス樹脂の進入方向と垂直ないし垂直方向に近い方向に扁平した」形状を得ることに格別の困難性は認められない。

b.<相違点2>について
例えば、上記刊行物6の「繊維基材による被覆は1層でも良いし、目的、用途に応じて2層以上としても良い。層数の増加によってFRPの強度を向上することができる。」(段落【0023】)という記載から、強度向上等の目的や用途に応じて、「繊維基材」による被覆の厚さを変化させることは、従来周知の事項であるといえる。そして、引用発明の「CFRPフェースシート」の厚さを、「ポリメタクリルイミド(PMI)発泡コアである110RIST発泡コア」の両面で等しくしなくてはならない、との格段の事情もない。
しかし、引用発明の「ポリメタクリルイミド(PMI)発泡コアである110RIST発泡コア」の両面に積層された「CFRPフェースシート」を、「一方の厚さを他方の厚さの2?5倍の厚さとし、板厚の薄い方の少なくとも1層として一方向強化プラスチック層を配し、板厚の厚い方が、積層構造を備え、少なくとも1層として織物繊維強化プラスチック層を配した」ものとすることの記載は、刊行物1には記載されていないし、示唆する記載もない。また、他の刊行物にも直接的な記載はないし、示唆する記載もない。
上記<相違点2>は、「発泡」した層の両面に積層する層の厚さの関係と構造についての実質的な相違点であるから、本件発明1は、引用発明であるとはいえず、本件発明1が、特許法第29条第1項第3号に該当するとはいえない。
また、本件発明1は、当該構成を備えることで、「また、板厚の薄い方の表皮材に一方向繊維強化プラスチック層を配し、板厚の厚い方の表皮材の少なくとも1層に織物繊維強化プラスチック層を配した構成とすることが好ましい。板厚の薄い方の表皮材は、相対的に薄い構成とすることで剛性が低下する傾向にあるため、一方向強化繊維プラスチック層を配することにより、剛性の低下を補えることができる。また、織物繊維強化プラスチック層は、表皮材3、4の最外層に配した構成とすることが好ましい。表皮材3、4の最外層に織物を配することにより、高剛性を保持するとともに、外観意匠性も向上させることができる。」(本件特許明細書、【0045】)との、当業者が予測し得る以上の効果を奏するものである。
そうすると、引用発明が上記<相違点2>に係る構成を備えたものとすることは、当業者が容易になし得た事項であるとはいえない。

(ウ)申立人が令和元年12月24日に提出した意見書について
a.申立人は、令和元年12月24日に意見書を提出し、理由4(進歩性)について、大要、次のとおり主張している。
「訂正後の請求項1に係る発明は、令和1年5月17日の訂正請求に係る請求項1(以下、元の構成)に、令和1年5月17日の訂正請求に係る請求項5に記載の構成(以下、追加の構成)を加えたものである。
異議申立書に添付した甲第3号証(特開2009-220478号公報)には、異議申立書にて説明したように、甲3発明が開示されている。
甲3発明は、「1層または複数の層の繊維強化材によってコアを挟むサンドイッチ構造積層体であって、繊維強化材は、フィラメントを含む強化繊維シート、一方向引き揃え(UD)の強化繊維シート、織物(クロス)の強化繊維シート、および組み物(ブレンド)の強化繊維シートのうち、単独で、または2種類以上が併用されたものである、サンドイッチ構造積層体。」が開示されている。
訂正後の請求項1に係る発明は、元の構成に、「板厚の薄い表皮材の少なくとも1層として一方向繊維強化プラスチック層を配し、板厚の厚い表皮材は積層構造を備え、少なくとも1層として織物繊維強化プラスチックを配した」という構成を加えたものである。
請求項1の元の構成に係る発明は、令和1年9月30日付けの取消理由通知の理由と同様の理由によって、甲第1号証に基づいて、進歩性を有しない。
一方向繊維強化プラスチック層や織物繊維強化プラスチックを配することは、甲第3号証に示されるように周知であるし、サンドイッチ構造において一方の表皮を他方の表皮よりも薄くしたり厚くしたりすることは、用途によって適宜決められることであるから、甲第1号証および甲第3号証に基づいて、当業者は、訂正後の請求項1に係る発明を容易に想到できる。したがって、訂正後の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定を満たさない。」

b.検討
異議申立書に添付した甲第3号証(特開2009-220478号公報)に記載されたものは、「中間層にコア基材を有し、該コア基材の両面に、連続した繊維とマトリックス樹脂とを有してなる繊維強化材が設けられたサンドイッチ構造複合体であって、前記コア基材の少なくとも一部に、該コア基材の厚み方向に貫通している複数の貫通穴が設けられており、前記コア基材の両面に設けられた繊維強化材が、前記複数の貫通穴において前記マトリックス樹脂により接合されていることを特徴とする繊維強化サンドイッチ構造複合体。」(甲第3号証、【請求項1】)である。しかしながら、当該「基材」が「気泡」を発生させたものであるとの記載はないし、示唆する記載もない。そうすると、甲第3号証にも、気泡を発生させた「コア基材」の両面に、一方の厚さを他方の厚さの2?5倍の厚さとし、板厚の薄い方の少なくとも1層として一方向強化プラスチック層を配し、板厚の厚い方が、積層構造を備え、少なくとも1層として織物繊維強化プラスチック層を配したものが記載されてはいないし、示唆する記載もない。むしろ甲第3号証に記載されたものは、「コア基材」に設けた複数の貫通穴を設け、それら貫通穴において繊維強化材が、複数の貫通穴においてマトリックス樹脂により接合されたものであるから、そのような甲第3号証に記載されたものを、引用発明に適用するならば、引用発明の「独立発泡セル」がセルとしての構造を保てなくなるから、むしろ当該適用には阻害事由が存在するというべきである。
したがって、上記a.に示した申立人の主張は採用できない。

(エ)小括
以上のとおりであるから、本件発明1は、引用発明ではなく、また、引用発明、刊行物4及び5に記載された事項、及び、従来周知の事項に基いて、当業者が容易に発明することができたものであるとはいえない。

ウ. 本件発明1?3、6、7について
本件発明1?3、6、7は、直接あるいは間接に本件発明1を引用する発明である。上記イ.に示したように、本件発明1は、引用発明ではなく、また、引用発明、刊行物4及び5に記載された事項、及び、従来周知の事項に基いて、当業者が容易に発明することができたものであるとはいえないから、本件発明1を引用する本件発明2、3、6、7も、引用発明、刊行物4及び5に記載された事項、及び、従来周知の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3)理由1(サポート要件)について
本件発明1?3、6、7が解決しようとする課題は、「剛性、軽量性を保持したまま、構造体内部に発生する気泡空隙、いわゆる気泡ボイドの発生による表面外観不良を抑制し、意匠性に優れた良外観の表面状態を保持できる薄肉の繊維強化プラスチック積層体及びその製造方法を提供すること」といえる(本件特許明細書の段落【0015】参照)。
そして、本件特許の発明の詳細な説明には、「繊維強化プラスチック積層体1表面に生ずる外観不良は、繊維強化プラスチック積層体1の内部に発生する気泡、いわゆる気泡ボイドの発生による要因が大きいと考えられる。すなわち、表皮材3、4の中に含浸されているマトリックス樹脂が芯材2内に漏れ出して進入することにより、マトリックス樹脂が脱落して生じた空隙が気泡ボイドとなり、これが表皮材3、4表面に一部陥没した状態を作り出すことになる。この陥没が外観上の不良を生じさせる原因となる。」(本件特許明細書の段落【0028】参照)、「この点について詳述すると、加熱・加圧成形時の芯材2の圧搾する際、あらかじめ形成された独立発泡セル5を有する芯材2には、復元しようとする反発力が表皮材3、4に作用し、その反発力によって表皮材からのマトリックス樹脂の進入を阻害できると考えられる。」(同明細書の段落【0029】参照)、「本発明においては、独立発泡セル5の平均扁平率(短径/長径)を0.25?0.9とし、独立発泡セル5の平均短径を25?250μmとすることが重要である。独立発泡セル5の形状をこの範囲にすることで、表皮材3、4中の気泡ボイドの発生を抑えられ、外観不良を抑制することができる。前述のように、加熱・加圧成形時において発泡体に生じる反発力により、表皮材に圧力がかるとともに、圧搾された独立発泡セル5の壁がマトリックス樹脂の進入障壁となり、表皮材3、4から芯材2へのマトリックス樹脂の進入を抑制できる。」(同明細書の段落【0030】参照)と記載されている。
この点、独立発泡セル5が表皮材3、4のマトリックス樹脂の進入方向と垂直方向ないし垂直方向に近い方向で扁平であれば、上記反発力が生じやすく、マトリックス樹脂の進入障壁となることが期待できる。一方、独立発泡セル5が表皮材3、4のマトリックス樹脂の進入方向と平行方向ないし平行方向に近い方向で扁平であれば、上記反発力は生じにくく、マトリックス樹脂の進入障壁となることは期待できない。
そうすると、本件特許の発明の詳細な説明には、独立発泡セルをマトリックス樹脂の進入方向と垂直方向ないし垂直方向に近い方向で扁平とすることを前提に、その平均扁平率、平均短径を適したものとすることで、上記課題を解決することが実質的に記載されているといえる。このように理解することは、本件特許明細書の段落【0041】における「独立発泡セル5が扁平形状でないと、加圧方向における独立発泡セル5の壁間隔が長いままであり、独立発泡セル5の壁がマトリックス樹脂の進入障壁となりにくく、表皮材3、4から芯材2へのマトリックス樹脂の進入を抑制しにくい。」との記載に整合する。
この点、本件訂正の訂正事項1により、本件発明1?3、6、7の訂正前の「独立発泡セル」は、「前記繊維強化プラスチック積層体の積層方向断面において、マトリックス樹脂の進入方向と垂直ないし垂直方向に近い方向に偏平した前記独立発泡セル」と訂正された。しかし、上記(1)「理由2(明確性)について」に示したように、本件発明1?3、6、7に特定された「長径」及び「短径」は明確であるとはいえない。そして、そのような「長径」及び「短径」をもとに算出される「平均扁平率」や「平均短径」も明確であるとはいえないから、本件発明1?3、6、7の、「平均扁平率」や「平均短径」が上記課題を解決することができる範囲のものであるということはできない。
よって、本件発明1?3、6、7は、本件特許明細書に記載された発明であるとはいえず、本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号の規定に適合するとはいえない。

第5 むすび
以上のとおり、本件特許請求の範囲は、特許法第36条第6項第1号及び同項第2号に規定する要件を満たしていないから、本件発明1?3、6、7に係る特許は、特許法第113条第4号に該当することを理由として、取り消されるべきものである。
そして、本件発明4及び5に係る特許は、本件訂正により削除されたため、本件特許の請求項4及び5に対して、申立人がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。よって、本件発明4及び5に係る特許異議の申立ては不適法であって、その補正をすることができないものであるから、特許法第120条の8で準用する同法第135条の規定により、却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (54)【発明の名称】
繊維強化プラスチック積層体及びその製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軽量かつ高剛性で厚みが薄い繊維強化プラスチック積層体に関するものであって、電子機器用筺体部材や医療機器用部材などに好適な繊維強化プラスチック積層体パネルに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器や医療機器には軽量、高剛性で、厚みが薄いCFRP(Carbon Fiber Reinforce Plastic)製の構造体が提案されている。
【0003】
CFRP構造体は、自重および荷重に対する撓みの低減や、衝撃に対して、必要な剛性、強度を確保するのに有効であり、パソコン等の電子機器や医療機器の中には作業者が直接持ち運び取り扱うものがあり、軽量であることが求められている。
【0004】
また、最近では、持ち運びに便利な薄型、軽量で高剛性を図った電子機器用筺体部材や、X線透過性を高めて、X線診断画像の鮮鋭化や人体へのX線被爆量低減を図るための医療機器用部材として、表皮材で芯材を挟んだ構造、いわゆるサンドイッチ積層体構造において、表皮材をCFRPで構成し、芯材を低密度の発泡体で構成したパネルが検討されている。上記いずれのパネル構造の場合でも、パネルの面内で均一なX線透過性分布を得るため、パネルの断面形状は均一な厚みを備えた平板構造を用いるが、表皮材をCFRPで構成し、芯材を低密度の樹脂発泡体で構成したサンドイッチ構造のパネルにおいて、構造体内部に発生する気泡空隙、いわゆる気泡ボイドの発生により表面外観に不具合を生じる場合がある。
【0005】
特許文献1(特開2005-313613号公報)においては、サンドイッチパネルにおいて、表皮材の強化繊維の引張弾性率、表皮材中の強化繊維含有率を規定し、芯材に表皮材より見かけ密度が小さい樹脂を使用するとともに、サンドイッチパネルの全体厚みを特定した構成が記載され、表皮材が剛性の高い繊維強化樹脂で構成され、芯材が表皮材よりも見かけ密度の小さい樹脂で構成され、剛性を保時したまま軽量性およびX線透過性に優れた効果が開示されている。また、そのサンドイッチパネルとして、芯材に一定密度のポリプロピレンまたはポリメタクリルイミドの発泡性樹脂を使用し、表皮材と芯材とを積層後、加熱、加圧同時成形するサンドイッチパネルの製造方法も開示されている。
【0006】
しかし、特許文献1の構成では、表皮材の高剛性と見かけ密度の小さい樹脂で構成された芯材により、剛性を保持したままで軽量性に優れたパネルを得ることができるが、芯材として見かけ密度の小さい発泡性樹脂で構成したときのサンドイッチパネル構造体内部に発生する気泡空隙、いわゆる気泡ボイドの発生による表面外観不良の課題に対する示唆はなされていない。
【0007】
また、特許文献2(特開2006-35671号公報)においては、熱可塑性樹脂発泡体層、連続炭素繊維を強化繊維とするFRP層、および薄肉のシート状樹脂層が順に配された積層構造で、熱可塑性樹脂発泡体層をFRP層で両面から挟んだサンドイッチ構造が記載され、これにより、曲げ荷重に対して、曲げ応力が大きくなる両外層に曲げ弾性率が高いFRP層を配置し、曲げ応力が零である中立面付近に曲げ弾性率が小さい熱可塑性樹脂発泡体層を配置することによって、同一見かけ密度の下でFRP構造体の曲げ剛性を向上させる高剛性、軽量かつX線透過性が高く、制振性に優れた効果が開示されている。
【0008】
しかし、特許文献2の構成は、熱可塑性樹脂発泡体層、連続炭素繊維を強化繊維とするFRP層、および薄肉のシート状樹脂層が順に配された積層構造で、薄肉のシート状樹脂層が外部に配された構成であり、制振性に秀でているが、軽量で剛性を保持しながら構造体内部に発生する気泡空隙、いわゆる気泡ボイドの発生による表面外観不良の改善に対する示唆はなされていない。
【0009】
また、発泡コアを用いたサンドイッチパネルとして、特許文献3(特開2009-274284号公報)、特許文献4(国際公開WO2006/028107号公報)、特許文献5(特開2007-144919号公報)等に開示がなされている。
【0010】
特許文献3(特開2009-274284号公報)においては、例えば、繊維強化樹脂製サンドイッチパネルにおいて、一定の温度を超えると、成形が困難になり、反りの問題が発生するため、マトリックス樹脂のガラス転移温度が一定温度以下に限定せざるを得ないため、十分な耐熱性を実現できていないという課題背景の下、長繊維強化付加型ポリイミドシートの間に芯材の発泡ポリイミドが挟まれて一体成形されたポリイミド複合材料耐熱性サンドイッチパネル構成が開示されている。これにより、十分な耐熱性を有し、且つ軽量、高強度、断熱性及び成形性等の特性が優れる効果が開示されている。
【0011】
特許文献4(国際公開WO2006/028107号公報)においては、発泡体の気泡により形成された空隙を有する芯材の両面に、連続した強化繊維とマトリックス樹脂からなる繊維強化材を配置したサンドイッチ構造体が記載され、軽量性、薄肉性に優れた一体化成形体のサンドイッチ構造体が開示されている。
【0012】
特許文献5(特開2007-144919号公報)においては、液状のマトリックス樹脂を型内に注入した際に、強化繊維基材のみならず、フォーム材のセル内にまでマトリックス樹脂が注入されてサンドイッチ構造体の重量が重くなる問題を回避するため、フォーム材の両面に配置されたスキン材とからなるサンドイッチ構造体において、フォーム材は表面から少なくとも厚み100μmまでの平均セル径が10μm以下であり、かつ独立気泡率が70%以上のサンドイッチ構造体が開示されている。
【0013】
しかし、いずれの構成も、耐熱性、高剛性、軽量化を主要観点とした発明であり、軽量、薄肉でさらに構造体内部に発生する気泡、いわゆる気泡ボイドの発生による表面外観不良に対する改善対策に関する示唆はなされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2005-313613号公報
【特許文献2】特開2006-35671号公報
【特許文献3】特開2009-274284号公報
【特許文献4】国際公開WO2006/028107号公報
【特許文献5】特開2007-144919号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、かかる従来技術の問題点に鑑み、軽量、高剛性の電子機器筺体用や、X線透過性に優れた医療機器用部材に使用する繊維強化プラスチック積層体であり、剛性、軽量性を保持したまま、構造体内部に発生する気泡空隙、いわゆる気泡ボイドの発生による表面外観不良を抑制し、意匠性に優れた良外観の表面状態を保持できる薄肉の繊維強化プラスチック積層体及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するために種々検討を行った結果、本発明者は、以下に示す繊維強化プラスチック積層体及びその製造方法を見いだすに至った。
(1)少なくとも、独立発泡セルを有する樹脂発泡体から構成される芯材に、強化繊維とマトリックス樹脂からなる表皮材が積層された繊維強化プラスチック積層体であって、
前記繊維強化プラスチック積層体の積層方向断面において、マトリックス樹脂の進入方向と垂直ないし垂直方向に近い方向に扁平した前記独立発泡セルを有し、前記独立発泡セルの長径と短径の比率で表される平均扁平率(短径/長径)が0.25?0.9であり、かつ前記独立発泡セルの平均短径が25?250μmであるとともに、表皮材を構成するマトリックス樹脂の芯材への最大進入長が130?450μmであり、
芯材の両面に表皮材が積層され、前記表皮材のいずれか一方の板厚が、他方の表皮材の板厚の2?5倍の厚さであるとともに、板厚の薄い表皮材の少なくとも1層として一方向繊維強化プラスチック層を配し、板厚の厚い表皮材は積層構造を備え、少なくとも1層として織物繊維強化プラスチック層を配したことを特徴とする繊維強化プラスチック積層体。
(2)前記独立発泡セルの平均セル面積が0.001?0.06mm^(2)であることを特徴とする(1)に記載の繊維強化プラスチック積層体。
(3)前記繊維強化プラスチック積層体の積層方向における表皮材中のマトリックス樹脂の芯材への平均進入長が50?180μmである(1)または(2)に記載の繊維強化プラスチック積層体。
(6)表皮材の最外層として織物繊維強化プラスチックを配した(1)に記載の繊維強化プラスチック積層体。
(7)(1)?(3)、(6)いずれかに記載の繊維強化プラスチック積層体の製造方法であって、
少なくとも、前記芯材の両面に前記表皮材を積層して成形型に配置する工程、及び、
前記成形型を型締めして加熱・加圧し、前記芯材を圧搾するとともに、前記表皮材の強化繊維に含浸した熱硬化性樹脂を硬化させる工程を有し、
前記芯材の圧搾において、前記芯材の板厚の減少率が35?70%の範囲であることを特徴とする繊維強化プラスチック積層体の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明の繊維強化プラスチック積層体及びその製造方法によれば、芯材の特性を規定することにより、積層体の表皮材に発生する気泡、いわゆる気泡ボイドによる表面外観不良を抑制し、意匠性に優れた良外観の表面状態を保持できるとともに、薄肉、軽量、高剛性に優れた繊維強化プラスチック積層体を得ることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本実施形態に係る繊維強化プラスチック積層体の積層方向断面における模式断面図である。
【図2】作製した繊維強化プラスチック積層体の断面撮影図である。
【図3】芯材への平均進入長を算出した断面の構造模型図である。
【図4】実施例1において使用した芯材前駆体の断面撮影図である。
【図5】実施例1において生成された繊維強化プラスチック積層体の断面撮影図である。
【図6】実施例5において使用した芯材前駆体の断面撮影図である。
【図7】実施例5において生成された繊維強化プラスチック積層体の断面撮影図である。
【図8】比較例1において生成された繊維強化プラスチック積層体の断面撮影図である。
【図9】本実施形態における、平均扁平率と単位面積当たりの表面の陥没箇所である不良箇所数との関係を示した特性図である。
【図10】本実施形態における空隙セルの短径と単位面積当たりの表面の陥没箇所である不良箇所数との関係を示した特性図である。
【図11】本実施形態における平均セル面積と単位面積当たりの表面の陥没箇所である不良箇所数との関係を示した特性図である。
【図12】本実施形態における芯材板厚の減少率と単位面積当たりの表面の陥没箇所である不良箇所数との関係を示した特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る繊維強化プラスチック積層体を、図を用いて説明する。なお、本発明は図示された構成になんら限定されるものではない。
【0020】
本発明に係る構成は、少なくとも独立発泡セルを有する樹脂発泡体から構成される芯材に、強化繊維とマトリックス樹脂から構成される表皮材が積層された繊維強化プラスチック積層体であって、前記繊維強化プラスチック積層体の積層方向断面において、前記独立発泡セルの長径と短径の比率で表される平均扁平率(短径/長径)が0.25?0.9であり、かつ前記独立発泡セルの平均短径が25?250μmであるとともに、表皮材を構成するマトリックス樹脂の芯材への最大進入長が130?450μmであることを特徴としている。
【0021】
図1は、本実施形態に係る繊維強化プラスチック積層体1の積層方向断面における模式断面図である。繊維強化プラスチック積層体1は、樹脂発泡体から構成される芯材2の上下面に表皮材3,4を積層した積層体構成を有する。図2は、実際に製造した繊維強化プラスチック積層体1の断面撮影図の一例を示したものであり、芯材2において周囲よりもやや濃い黒で見えている箇所が独立発泡セル5である。
【0022】
独立発泡セル5が集まった芯材2の発泡樹脂としては、ポリウレタン樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、アクリル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリメタクリルイミド樹脂などがある。具体的には、軽量性およびX線透過性を確保するために表皮材3、4より見かけ密度が小さい樹脂を用いることが好ましく、特にポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリメタクリルイミド樹脂が好ましく使用できる。
【0023】
本発明において独立発泡セル5とは、内部に気泡が存在するが、気泡同士が繋がっておらず壁で仕切られている独立気泡型のことをいう。本発明では、表皮材3、4に発生する気泡ボイドと区別するため、独立発泡セルと称する。独立発泡セル5が集まった芯材2は一般的に合成樹脂中に気相を細かく分散させ発泡させることで成形される。合成樹脂を発泡させる気相を得る方法は主に、化学反応を利用する方法(化学反応ガス活用法)、沸点が低い溶剤を用いる方法(低沸点溶剤活用法)、空気を混入させる方法(機械的混入法)、含ませた溶剤を除去する過程で空隙を作る方法(溶剤除去法)などがある。
【0024】
表皮材3、4の強化繊維としては、炭素繊維、ガラス繊維、アルミナ繊維、シリコンカーバイド繊維、ボロン繊維、炭化ケイ素繊維などの高強度、高弾性率繊維などが挙げられるが、これらから上記強度、弾性率を有するものを単独で用いても良い。中でも高い剛性を保持したまま軽量性を確保するために、弾性率と密度との比である比弾性率が高い炭素繊維を使用することが好ましく、例えばポリアクリロニトリル(PAN系)、ピッチ系、セルロース系、炭化水素による気相成長系炭素繊維、黒鉛繊維などを用いることができ、これらを2種類以上併用してもよい。好ましくは、剛性と価格のバランスに優れるPAN系炭素繊維がよい。
【0025】
表皮材3、4は、高い剛性を確保するため、その強化繊維の引張弾性率は、積層体の剛性の点から好ましくは200?850GPaの範囲内であるものが使用できる。強化繊維の引張弾性率が、200GPaよりも小さい場合は、軽量性を保持したまま、必要な高い剛性を確保することができない場合があり、850GPaよりも大きい場合は、強化繊維の圧縮強度が弱く折れやすいため、強化繊維にマトリックス樹脂を含浸し、繊維強化樹脂を成形することが困難である。強化繊維の引張弾性率が、前記範囲内であると積層体の更なる剛性向上、強化繊維の製造性向上の点で好ましい。
【0026】
表皮材3、4のマトリックス樹脂としては、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂を使用することができる。例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、ABS樹脂、ポリエチレンテレフタラート樹脂、ナイロン樹脂、シアネート樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、マレイミド樹脂、ポリイミド樹脂などがある。好ましくは、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂で熱または光や電子線などの外部からのエネルギーにより硬化して、少なくとも部分的に三次元硬化物を形成する樹脂であるが、特に限定されない。
【0027】
さらに、マトリックス樹脂のガラス転移温度は80?250℃の範囲内であることが好ましく、100?250℃であることがより好ましい。繊維強化プラスチック積層体1は、成形後80℃前後で加熱処理することもあるため、マトリックス樹脂のガラス転移温度が80℃未満であると加熱処理中に繊維強化プラスチック積層体1の剛性が低下し、変形や反りが発生する問題が起きるからである。また、250℃を超えると、成形温度が高くなるため、成形が困難になり、反りの問題の発生やコストアップの問題が起きることが懸念される。
【0028】
上述のとおり、独立発泡セル5を有する芯材2に、強化繊維とマトリックス樹脂から構成される表皮材3、4を積層させた繊維強化プラスチック積層体1とすることで、軽量化と強度の保持の両立を図ることができる。ここで、繊維強化プラスチック積層体1表面に生ずる外観不良は、繊維強化プラスチック積層体1の内部に発生する気泡、いわゆる気泡ボイドの発生による要因が大きいと考えられる。すなわち、表皮材3、4の中に含浸されているマトリックス樹脂が芯材2内に漏れ出して進入することにより、マトリックス樹脂が脱落して生じた空隙が気泡ボイドとなり、これが表皮材3、4表面に一部陥没した状態を作り出すことになる。この陥没が外観上の不良を生じさせる原因となる。
【0029】
この点について詳述すると、加熱・加圧成形時の芯材2の圧搾する際、あらかじめ形成された独立発泡セル5を有する芯材2には、復元しようとする反発力が表皮材3、4に作用し、その反発力によって表皮材からのマトリックス樹脂の進入を阻害できると考えられる。
【0030】
本発明においては、独立発泡セル5の平均扁平率(短径/長径)を0.25?0.9とし、独立発泡セル5の平均短径を25?250μmとすることが重要である。独立発泡セル5の形状をこの範囲にすることで、表皮材3、4中の気泡ボイドの発生を抑えられ、外観不良を抑制することができる。前述のように、加熱・加圧成形時において発泡体に生じる反発力により、表皮材に圧力がかるとともに、圧搾された独立発泡セル5の壁がマトリックス樹脂の進入障壁となり、表皮材3、4から芯材2へのマトリックス樹脂の進入を抑制できる。
【0031】
ここで、平均扁平率が小さくても、平均短径が長いと、独立発泡セル5の壁間隔が長くなり、表皮材3、4から芯材2へのマトリックス樹脂の進入が抑えにくくなる場合がある。平均扁平率が0.25未満で、平均短径が250μmを超えると、芯材2から表皮材3、4への圧力も小さく、独立発泡セルの壁間隔が長くなるため、マトリックス樹脂の進入が抑えにくくなり、ボイドの発生数を低減できない場合がある。一方、平均扁平率が0.9を超え、平均短径が25μm未満であると、繊維強化プラスチック積層体1自身の剛性が低下する場合がある。
【0032】
平均扁平率は、好ましくは0.3?0.75、より好ましくは0.3?0.65、さらに好ましくは0.35?0.45である。また、平均短径は、好ましくは25?220μm、より好ましくは50?150μm、さらに好ましくは80?150μmである。
【0033】
ここで、平均扁平率は独立発泡セルの短径を長径で除した値で規定される。図1に示すように、扁平化した独立発泡セル5の長径6、扁平化した独立発泡セル5の短径7を、独立発泡セル毎に測定し、同一の独立発泡セルにおける短径を長径で除した値を扁平率とし、一定面積内に存在する独立発泡セル5の個数について平均化したものを平均扁平率とした。具体的には、繊維強化プラスチック積層体1から接合部を含んだ小片を切り出し、エポキシ樹脂に包埋した後、繊維強化プラスチック積層体1の垂直方向断面を研磨した試料を作製する。レーザー顕微鏡(キーエンス(株)製、VHX-1000)を用いて、芯材2を形成する独立発泡セル5を拡大倍率100倍で撮影し、画像計測ツール(キーエンス(株)製、VHX-1000 Software VHXAnalyzer)を用いて、撮影した画像を基に、画像範囲内に見える全ての独立発泡セル5について、長径6と短径7の長さをそれぞれ測定し、その平均値を算出することで、繊維強化プラスチック積層体1の平均扁平率が得られる。また平均短径とは独立発泡セル5の短径7を独立発泡セル毎に測定し一定面積内に存在する独立発泡セル5の個数について平均化したものを平均短径とした。平均長径も同様に求めた。
【0034】
また、芯材2の独立発泡セル5の平均セル面積が0.001?0.06mm^(2)であることが好ましい。独立発泡セル5の平均セル面積が0.06mm^(2)を超えると、隣接する独立発泡セル5間の空隙が大きくなるため、マトリックス樹脂の芯材2への進入長が増大し、気泡ボイドの発生を抑制することが困難になる場合がある。一方、独立発泡セル5の平均セル面積が0.001mm^(2)未満の場合、芯材2の材料コストが増大する。また、独立発泡セル5自身の反発力が発揮されにくくなり、繊維強化プラスチック積層体1の強度が低下する場合がある。独立発泡セル5の平均セル面積は好ましくは0.0015?0.05mm^(2)、より好ましくは0.002?0.04mm^(2)である。
【0035】
ここで、独立発泡セル5の平均セル面積は、各独立発泡セル5から算出した長径6、短径7を元に、平均セル面積=(長径/2)×(短径/2)×円周率の式を用いて、単位面積内に存在する各独立発泡セルの面積を算出し、その平均を取ることにより特定することができる。
【0036】
また、積層体平面に対して垂直な方向における表皮材3、4を構成するマトリックス樹脂の芯材2への平均進入長が50?180μmであることが好ましい。
【0037】
表皮材3、4を構成するマトリックス樹脂の一部の、芯材2への平均進入長を一定範囲に抑えることにより、気泡ボイドの発生を抑えられ、外観不良を抑制する効果が得られる。繊維強化プラスチック積層体1は、後述するように加熱・加圧成形により作製されるが、圧力や加熱温度が高過ぎると、芯材2を構成する独立発泡セル5を突き破って奥深くまでマトリックス樹脂が進入する場合があり、独立発泡セル5の大きさに係らずにボイドの発生が増加してしまう場合がある。表皮材3、4を構成するマトリックス樹脂の芯材2への平均進入長を制御するための因子としては、繊維強化プラスチック積層体1形成時の加圧力、加熱温度、加圧時間が挙げられる。また、芯材2の独立発泡セル5の面積が大きく短径が長い場合には、独立発泡セル5の形状が扁平し、隣接する独立発泡セル5との空隙が大きくなるため、マトリックス樹脂の進入長が大きくなる傾向にある。一方、芯材2の独立発泡セル5の面積が小さく、短径が短い場合には、進入長が小さくなる傾向にある。
【0038】
平均進入長が180μmを超えると外観不良が目立つ状態となる場合がある。平均進入長が50μm未満であると積層体の接合強度が低下する場合がある。好ましくは60?160μm、より好ましくは90?150μmである。
【0039】
ここで、平均進入長とは、積層体平面に対して垂直な方向の断面において、表皮材を構成するマトリックス樹脂の一部が、芯材と表皮材の境界を基準として、芯材側へ進入する距離を平準化した値である。図3に芯材への平均進入長を算出した断面の構造模型図を示す。樹脂の芯材への進入箇所10において、芯材2と表皮材3、4との境界線8、9から樹脂が進入した先端までの距離を、断面撮影図における横幅3470μmあたり100箇所測定し、その平均値を取って、平均進入長とした。
【0040】
また、マトリックス樹脂の芯材2への最大進入長が130?450μmであることが重要である。
【0041】
気泡ボイドの発生により、表皮材3、4の表面に一部陥没した不良箇所においては、その部分のマトリックス樹脂の芯材2への進入が他の部分よりも進行している。平均進入長が小さくても、一部において深く進入している箇所があると、表面外観に大きく陥没した目立つ不良が発生する場合がある。独立発泡セル5が扁平形状でないと、加圧方向における独立発泡セル5の壁間隔が長いままであり、独立発泡セル5の壁がマトリックス樹脂の進入障壁となりにくく、表皮材3、4から芯材2へのマトリックス樹脂の進入を抑制しにくい。マトリックス樹脂の進入状態を一定深さに抑えることで、不均一に存在する気泡ボイドによる外観上不良を抑える効果が得られる。
【0042】
最大進入長が450μmを超えると、部分的にボイドによる外観上不良が強く目立ちやすくなる傾向にある。最大進入長が130μm未満であると、芯材2と表皮材3、4間の接合強度が低下する場合がある。最大進入長は好ましくは130?400μm、より好ましくは200?350μmである。
【0043】
また、芯材2の両面に表皮材3、4が積層され、表皮材3、4のいずれか一方の板厚が、他方の板厚の2?5倍の厚さであることが好ましい。
【0044】
表皮材3、4の厚みを薄くすることで軽量性とX線透過性を確保するとともに、厚い表皮材の板厚を他方の薄い表皮材よりも2?5倍の厚さとすることで、高い剛性を確保することができる。製品外観として表れる面(例えば上面)を相対的に厚い構成とし、製品外観として表れない面(例えば下面)を相対的に薄い構成とすることが好ましい。より好ましくは2?4倍、さらに好ましくは2?3倍である。
【0045】
また、板厚の薄い方の表皮材に一方向繊維強化プラスチック層を配し、板厚の厚い方の表皮材の少なくとも1層に織物繊維強化プラスチック層を配した構成とすることが好ましい。板厚の薄い方の表皮材は、相対的に薄い構成とすることで剛性が低下する傾向にあるため、一方向強化繊維プラスチック層を配することにより、剛性の低下を補えることができる。また、織物繊維強化プラスチック層は、表皮材3、4の最外層に配した構成とすることが好ましい。表皮材3、4の最外層に織物を配することにより、高剛性を保持するとともに、外観意匠性も向上させることができる。
【0046】
また、上面と下面を合計した表皮材3、4の板厚は0.5?1.2mmであることが好ましい。表皮材3、4の板厚が0.5mm未満の場合には高い剛性を確保することができず、1.2mmを超える場合には、高い剛性は保持できるが、軽量性およびX線透過性を確保することができない場合がある。
【0047】
また、芯材2の両面に配される表皮材3、4の合計板厚が全体板厚の40?70%の範囲内であることが好ましい。繊維強化プラスチック積層体1の全体板厚が小さいほど軽量性およびX線透過性に優れ、X線機器用部材に用いた際には、低照射量のX線で高コントラストのクリアな画像が得られる。表皮材3、4の板厚が0.5?1.2mmの範囲内であっても、表皮材3、4の合計板厚が繊維強化プラスチック積層体1の全体板厚の40%未満である場合には、剛性が不十分になる場合があり、70%を超える場合には、高い剛性は保持できるが、軽量性およびX線透過性が不十分な場合がある。
【0048】
また、繊維強化プラスチック積層体1の全体板厚が1?3.5mmであることが好ましい。全体板厚が1?3.5mmの範囲とすることにより、軽量化、剛性及びX線透過性との両立を図ることができる。全体板厚が1mm未満であると剛性が不足する場合がある。また、全体板厚が3.5mmを超えると、軽量化及びX線透過性が低下する場合がある。好ましくは1.2?2.2mm、より好ましくは1.4?2mmである。さらに好ましくは1.5?1.8mmである。
【0049】
表皮材3、4中の強化繊維としては、表皮材に対して40?80重量%の範囲内で含まれていることが好ましい。重量含有率が40%未満の場合には、軽量性を保持したまま、必要な高い剛性を確保することができない。その反面、強化繊維の含有率が80%を超える場合には、強化繊維にマトリックス樹脂を均一に含浸することが困難となり、成形した後の繊維強化プラスチック積層体1の強度不足やX線透過性が悪化するなどの品質上の問題が発生する可能性がある。好ましくは45?75重量%、より好ましくは50?70重量%である。
【0050】
また、芯材2の見かけ密度が0.03?1.4g/cm^(3)であることが好ましい。軽量性およびX線透過性を確保するために見かけ密度が小さい樹脂を用いることが好ましい。剛性を保持したまま、軽量性およびX線透過性を確保することができる。密度は好ましくは0.05?1.0g/cm^(3)、より好ましくは0.07?0.7g/cm^(3)の範囲内である。
【0051】
X線透過性は、構造体材質の分子量および厚みに依存する。分子量および/または厚みが小さい程、一般的にX線透過性は向上する。すなわち繊維強化プラスチック積層体1は、見かけ密度が小さな熱可塑性樹脂発泡体層を備え、かつ全体厚みが小さいほど、X線が透過しやすいため、低照射量で高コントラストのクリアな画像が得られる。
【0052】
次に、本発明に係る繊維強化プラスチック積層体の製造方法について説明する。
【0053】
本発明は、少なくとも独立発泡セル5を有する発泡体から構成される芯材2の両面に強化繊維と熱硬化性マトリックス樹脂からなる表皮材3、4を積層させる製造方法であり、予め一定の大きさの独立発泡セル5が形成された樹脂発泡体からなる芯材2の両面に、強化繊維にマトリックス樹脂を含浸させた表皮材3、4で挟み、プレス成形により加圧・加熱して芯材2を圧搾するとともに、マトリックス樹脂を硬化して表皮材3、4を形成するとともに芯材2と表皮材3、4とを一体積層化させて繊維強化プラスチック積層体1を形成するものである。
【0054】
より具体的には、熱硬化性樹脂のマトリックス樹脂を、強化繊維に含浸されたプリプレグを表皮材前駆体として準備する。また、芯材前駆体として一定の大きさの独立発泡セル5を有した熱可塑性樹脂発泡体を準備する。芯材前駆体の両側を表皮材前駆体で挟み込んだ構造体を形成し、この構造体をプレス成形により加熱し、0.3?10MPaの圧力を付与して加圧圧搾することにより、表皮材の熱硬化性樹脂が硬化して、芯材2と表皮材3、4が一体化した繊維強化プラスチック積層体1を形成することが出来る。
【0055】
本発明においては、芯材2の圧搾において、芯材2の板厚の減少率が23?70%の範囲であることが重要である。芯材2の板厚の減少率が23%未満であると、芯材2の独立発泡セル5の平均扁平率が小さくなりにくく、芯材2から表皮材3、4への圧力も小さく、独立発泡セル5の壁間隔が長くなるため、マトリックス樹脂の進入が抑えにくく、気泡ボイドの発生数を低減できない場合がある。一方、芯材2の板厚の減少率が70%を超えると、繊維強化プラスチック積層体1の強度が低下する場合がある。芯材2の板厚の減少率は、好ましくは35?65%、より好ましくは45?55%の範囲である。
【0056】
さらに、圧搾作用を確実にして、所定の扁平率を確保するために、プレス成形時にキャビティーの空間制御を行うことが好ましい。空間制御の方法としては、スペーサーを使用することができる。また、圧力をかける前に予熱を一定時間かけることも、圧力調整の精度が向上でき、好ましい態様である。
【0057】
繊維強化プラスチック積層体1は、表皮材前駆体と芯材前駆体とを積層後、ホットプレス装置および/またはオートクレーブ装置などを用いて、加熱、加圧同時成形することにより製造されることが好ましい。同時成形することで低コストの繊維強化プラスチック積層体1を提供することができる。
【0058】
また、電子機器用筺体や医療機器用部材として、繊維強化プラスチック積層体の外周部に筐体の一部を構成する枠材と接合することができる。例えば、アウトサート射出成形により、繊維強化プラスチック積層体の外周に、熱可塑樹脂のボスリブ部やヒンジ部を有する枠材としての部材を形成することが出来る。
【実施例】
【0059】
以下、実施例によって、本発明の一体化成形体およびその製造方法について具体的に説明するが、下記の実施例は本発明を制限するものではない。
【0060】
(実施例1)
繊維強化プラスチック積層体を以下の条件にて製造した。
【0061】
まず、表皮材の前駆体として、引張弾性率が230GPaの織物炭素繊維とガラス転移温度が135℃であるエポキシ樹脂で構成される、目付が198g/m^(2)、炭素繊維含有率が56重量%のプリプレグA、
引張弾性率が230GPaの一方向炭素繊維とガラス転移温度が135℃であるエポキシ樹脂で構成される、目付が100g/m^(2)、炭素繊維含有率が63重量%のプリプレグB、及び、
引張弾性率が370GPaの一方向炭素繊維とガラス転移温度が135℃であるエポキシ樹脂で構成される、目付が116g/m^(2)、炭素繊維含有率が67重量%のプリプレグC、をそれぞれ準備した。
【0062】
また、芯材の前駆体として、ポリメタクリルイミド発泡体(密度0.11g/cm^(3)、厚み1.5mm、独立発泡セルの平均長径が287μm、平均短径が260μm、平均セル面積が0.059mm^(2))を準備した。図4に、実施例1において使用した芯材前駆体の断面撮影図を示す。
【0063】
上面表皮材3として、最表層にプリプレグAを1層、その下にプリプレグBを4層積層して板厚0.62mmとした上面表皮材前駆体を準備し、下面表皮材4としてプリプレグCを2層積層して板厚0.22mmとした下面表皮材前駆体を準備し、これらを芯材前駆体の両面に積層して、金型内において、130℃で予熱時間1.5分保持し、面圧1.5MPaで加圧しながら130℃で60分間保持することで繊維強化プラスチック積層体を得た。
【0064】
図5に作製された繊維強化プラスチック積層体の断面撮影図を示す。図5において、上面の膜厚の厚い方の上面表皮材3には、最外層に織物繊維強化プラスチックを配し、その下には一方向繊維強化プラスチックを配置した構成である。また下面の膜厚の薄い方の下面表皮材4には、一方向繊維強化プラスチックを配置した構成である。
【0065】
得られた積層体1の全体厚みは1.17mm、上面表皮材の厚みは0.52mm、下面表皮材の厚みは0.17mm、上面表皮材板厚は下面表皮材板厚の3.04倍であった。また積層体全体の厚みに対する上面と下面表皮材の厚みは58.8%であった。
【0066】
積層体中の独立発泡セルの平均短径は82μm、平均長径は276μm、平均扁平率は0.30、独立発泡セルの平均セル面積は0.018mm^(2)、積層体中の芯材の板厚は0.48mm、芯材への表皮材を構成するマトリックス樹脂の平均進入長171μm、最大進入長は436μm、芯材の厚さの減少率は67.7%であった。
【0067】
また、JIS K 7074(1988)炭素繊維強化プラスチックの曲げ試験方法に準じて、幅15mm、長さ100mmの短冊状試験片を最外層の炭素繊維方向が長手方向になるよう切りだし、半径5mmの丸型圧子を用い、試験速度5mm/minおよび支点間距離80mmで3点曲げ試験を行った。その結果、0°方向の曲げ弾性率は44.1GPa、90°方向の曲げ弾性率は39.2GPaであった。表面の陥没箇所である不良箇所数は7個(300cm^(2)あたり)で、高剛性で軽量であり、表面外観性に優れた積層体が得られた。
【0068】
(実施例2)
上面表皮材前駆体、下面表皮材前駆体及び芯材の前駆体は実施例1と同様のものを使用した。
【0069】
上面表皮材3として、最表層にプリプレグAを1層、その下にプリプレグBを4層積層して板厚0.62mmとした上面表皮材前駆体を準備し、下面表皮材4としてプリプレグCを2層積層して板厚0.22mmとした下面表皮材前駆体を準備し、これらを芯材前駆体の両面に積層して、金型内に、130℃で予熱時間1.5分保持し、面圧1.0MPaで加圧しながら130℃で60分間保持することで繊維強化プラスチック積層体を得た。
【0070】
(実施例3)
上面表皮材前駆体、下面表皮材前駆体及び芯材の前駆体は実施例1と同様のものを使用した。
【0071】
上面表皮材3として、最表層にプリプレグAを1層、その下にプリプレグBを4層積層して板厚0.62mmとした上面表皮材前駆体を準備し、下面表皮材4としてプリプレグCを2層積層して板厚0.22mmとした下面表皮材前駆体を準備し、これらを芯材前駆体の両面に積層して、金型内に、130℃で予熱時間1.5分保持し、面圧0.85MPaで加圧しながら130℃で60分間保持することで繊維強化プラスチック積層体を得た。
【0072】
(実施例4)
上面表皮材前駆体、下面表皮材前駆体及び芯材の前駆体は実施例1と同様のものを使用した。
【0073】
上面表皮材3として、最表層にプリプレグAを1層、その下にプリプレグBを4層積層して板厚0.62mmとした上面表皮材前駆体を準備し、下面表皮材4としてプリプレグCを2層積層して板厚0.22mmとした下面表皮材前駆体を準備し、これらを芯材前駆体の両面に積層して、金型内に、130℃で予熱時間1.5分保持し、面圧0.8MPaで加圧しながら130℃で60分間保持することで繊維強化プラスチック積層体を得た。
【0074】
(実施例5)
上面表皮材前駆体及び下面表皮材前駆体は実施例1と同様のものを使用した。
【0075】
芯材の前駆体として、ポリメタクリルイミド発泡体(密度0.11g/cm_(3)、厚み1.5mm、独立発泡セルの平均長径が49μm、平均短径が47μm、平均セル面積が0.002mm^(2))を準備した。図6に、実施例5において使用した芯材前駆体の断面撮影図を示す。
【0076】
上面表皮材3として、最表層にプリプレグAを1層、その下にプリプレグBを4層積層して板厚0.62mmとした上面表皮材前駆体を準備し、下面表皮材4としてプリプレグCを2層積層して板厚0.22mmとした下面表皮材前駆体を準備し、これらを芯材前駆体の両面に積層して、金型内に、130℃で予熱時間2分保持し、面圧1.8MPaで加圧しながら130℃で60分間保持することで繊維強化プラスチック積層体を得た。図7に生成された繊維強化プラスチック積層体の断面撮影図を示す。
【0077】
得られた積層体の全体厚みは1.68mm、上面表皮材の厚みは0.55mm、下面表皮材の厚みは0.20mm、上面表皮材板厚は下面表皮材板厚の2.83倍であった。また積層体全体の厚みに対する上面と下面表皮材の厚みは44.5%であった。
【0078】
積層体中の独立発泡セルの平均短径は29μm、平均長径は47μm、平均扁平率は0.62、独立発泡セルの平均セル面積は0.001mm^(2)、積層体中の芯材の板厚は0.93mm、芯材への表皮材を構成するマトリックス樹脂の平均進入長は52μm、最大進入長は132μm、芯材の厚さの減少率は38.0%であった。
【0079】
0°方向の曲げ弾性率は43.1GPa、90°方向の曲げ弾性率は37.9GPaで、表面の陥没箇所である不良箇所数は4個(300cm^(2)あたり)で、高剛性で軽量であり、表面外観性に優れた積層体が得られた。
【0080】
(比較例1)
上面表皮材前駆体及び下面表皮材前駆体実施例1と同様のものを使用した。
【0081】
また、芯材の前駆体として、ポリメタクリルイミド発泡体(密度0.11g/cm^(3)、厚み1.5mm、独立発泡セルの平均長径が305μm、平均短径が301μm、平均セル面積が0.072mm^(2))を準備した。
【0082】
上面表皮材3として、最表層にプリプレグAを1層、その下にプリプレグBを4層積層して板厚0.62mmとした上面表皮材前駆体を準備し、下面表皮材4としてプリプレグCを2層積層して板厚0.22mmとした下面表皮材前駆体を準備し、これらを芯材前駆体の両面に積層して、金型内に、130℃で予熱時間1.5分保持し、面圧0.5MPaで加圧しながら130℃で60分間保持することで繊維強化プラスチック積層体を得た。図8に生成された繊維強化プラスチック積層体の断面撮影図を示す。平均扁平率が大きく、独立発泡セルの平均短径も長く、表面の陥没箇所である不良箇所数が増加した。
【0083】
次に、実施例及び比較例の積層体の特性を表1に示す。列の上段から、積層体の上面表皮材板厚、積層体の下面表皮材板厚、上面/下面表皮材板厚(下面表皮材板厚に対する上面表皮材板厚の倍率)、表皮材板厚の合計、積層体全体の板厚、表皮材板厚/全体板厚(積層体全体の板厚に対する表皮材板厚の比率)、独立発泡セルの平均短径、独立発泡セルの平均長径、独立発泡セルの平均扁平率(短径/長径)、独立発泡セルの平均セル面積、積層体の芯材板厚、マトリックス樹脂の独立発泡セルへの平均進入長、マトリックス樹脂の独立発泡セルへの最大進入長、成形前後での芯材板厚の減少率、積層体の比重、積層体の0°及び90°における曲げ弾性率、積層体300cm^(2)当たりの不良箇所数を示す。表面の陥没箇所である不良箇所数(0.1mm^(2)以上/個)が25個以下程度であれば実使用上耐えられるレベルである。実施例では平均扁平率が小さく、独立発泡セルの平均短径が短く、表面の陥没箇所である不良箇所数は25個以下であった。またX線透過性に優れ、高剛性で軽量であり、表面外観性に優れた積層体が得られた。
【0084】
【表1】

【0085】
図9に、平均扁平率と積層体300cm^(2)当たりの表面の陥没箇所である不良箇所数との関係を示す。平均扁平率が小さい程、表面の陥没箇所である不良箇所数は少ない傾向にあることが分かる。
【0086】
図10に、独立発泡セルの平均短径と積層体300cm^(2)当たりの表面の陥没箇所である不良箇所数との関係を示す。独立発泡セルの平均短径が小さい程、表面の陥没箇所である不良箇所数は少ない傾向にあることが分かる。
【0087】
図11に、独立発泡セルの平均セル面積と積層体の300cm^(2)当たりの表面の陥没箇所である不良箇所数との関係を示す。平均セル面積が小さい程、表面の陥没箇所である不良箇所数は少ない傾向にあることが分かる。
【0088】
図12に、芯材板厚の減少率と積層体の300cm^(2)当たりの表面の陥没箇所である不良箇所数との関係を示す。芯材板厚の減少率が大きい程、表面の陥没箇所である不良箇所数は少ない傾向にあることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明に係る繊維強化プラスチック積層体は、軽量で力学特性が要求される分野における各種製品に適用することができる。例えば、ノートパソコン、携帯電話、デジタルスチルカメラ、PDA、ポータブルMD、プラズマディスプレーなどの電気または電子機器の部品、部材および筐体、電話、ファクシミリなどに代表される家庭または事務製品部品の部材および筐体、顕微鏡、双眼鏡、カメラ、時計などの光学機器、精密機械関連部品の部材および筐体、X線医療機器用途などが挙げられ、特に軽量と高剛性の要求が強い部材や筐体に好適に使用される。
【符号の説明】
【0090】
1 繊維強化プラスチック積層体
2 芯材
3 上面の表皮材
4 下面の表皮材
5 独立発泡セル
6 扁平化した独立発泡セルの長径
7 扁平化した独立発泡セルの短径
8 上面表皮材と芯材との境界面
9 下面表皮材と芯材との境界面
10 樹脂の芯材への進入箇所
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、独立発泡セルを有する樹脂発泡体から構成される芯材に、強化繊維とマトリックス樹脂からなる表皮材が積層された繊維強化プラスチック積層体であって、
前記繊維強化プラスチック積層体の積層方向断面において、マトリックス樹脂の進入方向と垂直ないし垂直方向に近い方向に扁平した前記独立発泡セルを有し、前記独立発泡セルの長径と短径の比率で表される平均扁平率(短径/長径)が0.25?0.9であり、かつ前記独立発泡セルの平均短径が25?250μmであるとともに、表皮材を構成するマトリックス樹脂の芯材への最大進入長が130?450μmであり、
芯材の両面に表皮材が積層され、前記表皮材のいずれか一方の板厚が、他方の表皮材の板厚の2?5倍の厚さであるとともに、板厚の薄い表皮材の少なくとも1層として一方向繊維強化プラスチック層を配し、板厚の厚い表皮材は積層構造を備え、少なくとも1層として織物繊維強化プラスチック層を配したことを特徴とする繊維強化プラスチック積層体。
【請求項2】
前記独立発泡セルの平均セル面積が0.001?0.06mm^(2)であることを特徴とする請求項1に記載の繊維強化プラスチック積層体。
【請求項3】
前記繊維強化プラスチック積層体の積層方向における表皮材中のマトリックス樹脂の芯材への平均進入長が50?180μmである請求項1または2に記載の繊維強化プラスチック積層体。
【請求項4】(削除)
【請求項5】(削除)
【請求項6】
表皮材の最外層として織物繊維強化プラスチックを配した請求項1に記載の繊維強化プラスチック積層体。
【請求項7】
請求項1?3、6のいずれかに記載の繊維強化プラスチック積層体の製造方法であって、
少なくとも、前記芯材の両面に前記表皮材を積層して成形型に配置する工程、及び、
前記成形型を型締めして加熱・加圧し、前記芯材を圧搾するとともに、前記表皮材の強化繊維に含浸した熱硬化性樹脂を硬化させる工程を有し、
前記芯材の圧搾において、前記芯材の板厚の減少率が35?70%の範囲であることを特徴とする繊維強化プラスチック積層体の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-03-27 
出願番号 特願2014-71868(P2014-71868)
審決分類 P 1 651・ 537- ZAA (B32B)
P 1 651・ 121- ZAA (B32B)
P 1 651・ 113- ZAA (B32B)
最終処分 取消  
前審関与審査官 岩田 行剛  
特許庁審判長 門前 浩一
特許庁審判官 横溝 顕範
久保 克彦
登録日 2018-06-29 
登録番号 特許第6357834号(P6357834)
権利者 東レ株式会社
発明の名称 繊維強化プラスチック積層体及びその製造方法  

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