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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61K
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A61K
審判 全部申し立て 2項進歩性  A61K
管理番号 1363976
異議申立番号 異議2018-700775  
総通号数 248 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-08-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-09-26 
確定日 2020-05-07 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6303045号発明「攪拌造粒法を用いたイミダフェナシンを含有する製剤の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6303045号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?6〕について訂正することを認める。 特許第6303045号の請求項1?3に係る特許を取り消す。 特許第6303045号の請求項4?6に係る特許を維持する。 
理由
第1 手続の経緯

特許第6303045号(以下「本件特許」という。)に係る特許出願(特願2017-067521号)は、平成29年3月30日に出願され、平成30年3月9日に設定の登録(請求項の数:6)がなされ、同年3月28日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後、本件特許に対して1件の特許異議の申立てがあり、次のとおりに手続が行われた。
平成30年 9月26日 : 特許異議申立人 吉田雅子(以下「申立
人」という。)による、請求項1?6に
係る特許に対する特許異議の申立て
平成31年 3月29日付け: 取消理由通知
令和 1年 5月31日 : 特許権者による意見書及び訂正請求書の
提出
令和 1年 7月17日 : 申立人による意見書の提出
令和 1年10月 3日付け: 取消理由通知(決定の予告)
令和 1年12月 6日 : 特許権者による意見書及び訂正請求書の
提出
令和 2年 1月17日 : 申立人による意見書の提出

第2 訂正の適否

1 訂正の内容

令和1年12月6日提出の訂正請求書による訂正の請求(以下「本件訂正請求」という。)による訂正(以下「本件訂正」という。)は、当該訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?6について訂正することを求めるものであって、その具体的な内容は、次のとおりである。なお、訂正箇所に当審合議体が下線を付した。また、本決定中の下線を付した箇所は、特に断りがない限り、いずれも当審合議体によるものである。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、「薬学的に許容される溶媒」と記載されているのを、「精製水、エタノール並びに精製水およびエタノールの混合溶媒からなる群から選ばれる溶媒」に訂正し、「イミダフェナシンを含有する造粒物の製造方法」と記載されているのを、「攪拌造粒法による、イミダフェナシンを含有する造粒物の製造方法」に訂正する(請求項1の記載を直接的に又は間接的に引用する請求項3?6も同様に訂正する)。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に、「薬学的に許容される溶媒」と記載されているのを、「精製水、エタノール並びに精製水およびエタノールの混合溶媒からなる群から選ばれる溶媒」に訂正し、「イミダフェナシンを含有する造粒物の製造方法」と記載されているのを、「攪拌造粒法による、イミダフェナシンを含有する造粒物の製造方法」に訂正する(請求項2の記載を直接的に又は間接的に引用する請求項3?6も同様に訂正する)。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に、「薬学的に許容される溶媒が精製水および/またはアルコール」と記載されているのを、「溶媒が精製水およびエタノールの混合溶媒」に訂正する(請求項3の記載を直接的に又は間接的に引用する請求項4?6も同様に訂正する)。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4に、「イミダフェナシンを含有する錠剤の製造方法」と記載されているのを、「イミダフェナシンを0.1mg含有する錠剤の製造方法」に訂正する(請求項4の記載を直接的に又は間接的に引用する請求項5、6も同様に訂正する)。

(5)一群の請求項について
訂正前の請求項1、3?6について、請求項3は、請求項1を引用しており、請求項4は、請求項1又は3を引用しており、請求項5、6は、それぞれ直前の請求項を引用しており、いずれも訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、訂正前の請求項1、3?6は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
また、訂正前の請求項2?6について、請求項3は、請求項2を引用しており、請求項4は、請求項2又は3を引用しており、請求項5、6は、それぞれ直前の請求項を引用しており、いずれも訂正事項2によって記載が訂正される請求項2に連動して訂正されるものであるから、訂正前の請求項2?6は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
そして、一群の請求項である訂正前の請求項1、3?6と、他の一群の請求項である訂正前の請求項2?6は、共通する請求項3?6を有するため、訂正前の請求項1?6は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。

2 訂正の目的の適否、新規事項の追加の有無、及び、特許請求の範囲の
拡張・変更の有無

(1)訂正事項1及び2について

ア 訂正の目的

訂正事項1及び2は、訂正前の請求項1及び2において、それぞれ「薬学的に許容される溶媒」と記載されているのを、いずれも「精製水、エタノール並びに精製水およびエタノールの混合溶媒からなる群から選ばれる溶媒」に訂正するとともに(以下、それぞれ「訂正事項1-1」及び「訂正事項2-1」という。)、訂正前の請求項1及び2において、それぞれ「イミダフェナシンを含有する造粒物の製造方法」と記載されているのを、いずれも「攪拌造粒法による、イミダフェナシンを含有する造粒物の製造方法」と訂正して、請求項1及び2に「攪拌造粒法による、」という事項を追加するものであって(以下、それぞれ「訂正事項1-2」及び「訂正事項2-2」という。)、請求項1又は2の記載を直接的に又は間接的に引用する請求項3?6についても、訂正の対象とするものである。
訂正事項1-1及び2-1による訂正は、訂正前の請求項1及び2に記載されている「薬学的に許容される溶媒」を、「精製水」、「エタノール」並びに「精製水およびエタノールの混合溶液」という3つの選択肢からなる群から選ばれる溶媒に具体的に特定し限定するものであって、これらの溶媒は薬学的に許容されるものであることは明らかであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、訂正前の請求項1及び2のいずれにも、「(ii)攪拌させた1または2以上の薬学的に許容される賦形剤・・・(略)・・・に上記溶液または懸濁液を添加し、造粒物を製造する工程、」との記載があり、訂正前の両請求項に記載された造粒物の製造方法は、「攪拌」の操作がある工程を含むことを特定しているところ、訂正事項1-2及び2-2による訂正は、それらの工程を含む造粒物の製造方法について、「攪拌造粒法による、」と具体的に特定し限定するものであるから、同法同条同項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

イ 新規事項追加の有無

(ア)訂正事項1-1及び2-1による新規事項追加の有無
本件特許の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の段落【0020】には、「本発明において、薬学的に許容される溶媒としては、製剤を製造する際に使用が許容され得る溶媒であれば特に制限されない。例えば、精製水、有機溶媒、および精製水と有機溶媒との混合溶媒が挙げられる。本発明においては、精製水および/またはアルコールが好ましく、精製水および/またはエタノールがさらに好ましく、精製水およびエタノールの混合溶媒が特に好ましい。」と記載されており、訂正事項1-1及び2-1による訂正後の請求項1及び2に記載されている「溶媒」の選択肢に該当する事項が記載されている。
したがって、訂正事項1-1及び2-1による訂正は、本件明細書に記載した事項の範囲内においてするものである。

(イ)訂正事項1-2及び2-2による新規事項追加の有無
本件明細書の段落【0007】には、「これまでに、イミダフェナシンを含有する製剤の製造に、流動層造粒法以外の製造方法が使用できるか否かについてはわかっていなかった。したがって、イミダフェナシンを含有する製剤の新たな製造方法を提供することが、本発明が解決しようとする課題である。」と記載され、同段落【0008】には、「本発明者らは鋭意検討した結果、攪拌造粒法を用いることで、製剤中のイミダフェナシンの光安定性が優れた製剤を製造することができることを見出し、本発明を完成した。」との記載に続いて、本発明が包含するものとして、本件特許の設定登録時の請求項1?6に記載された事項が、項目[1]?[6]として記載されているから、本件明細書には、攪拌造粒法による、イミダフェナシンを含有する造粒物の製造方法、及び当該造粒物を用いるイミダフェナシンを含有する錠剤の製造方法が記載されているといえる。
したがって、訂正事項1-2及び2-2による訂正は、本件明細書に記載した事項の範囲内においてするものである。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の有無

前記アで説示したとおり、訂正事項1及び2による訂正は、特許請求の範囲を減縮するものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)訂正事項3について

ア 訂正の目的

訂正事項3は、訂正前の請求項3に「薬学的に許容される溶媒」と記載されているのを、「溶媒」に訂正するとともに(以下「訂正事項3-1」という。)、訂正前の請求項3に「精製水および/またはアルコール」と記載されているのを、「精製水およびエタノールの混合溶媒」に訂正するものであって(以下「訂正事項3-2」という。)、請求項3の記載を直接的に又は間接的に引用する請求項4?6も同様に訂正するものである。
訂正事項3-1による訂正は、文言上、訂正前の請求項3に記載されている「薬学的に許容される溶媒」における「薬学的に許容される」という事項を削除しているが、同訂正は、前記(1)で検討した訂正事項1-1及び2-1による訂正により、訂正前の請求項3が引用する訂正前の請求項1及び2にそれぞれ記載されている「薬学的に許容される溶媒」が、いずれも「精製水、エタノール並びに精製水およびエタノールの混合溶媒からなる群から選ばれる溶媒」に訂正され、「薬学的に許容される」という事項が文言上は削除されたことに対応するために、訂正後の請求項3において同項が引用する訂正後の請求項1及び2の発明特定事項と記載を整合させるものである。そして、前記(1)アで説示したとおり、訂正事項1-1及び2-1による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するから、これらの記載に対応をするための訂正事項3-1による訂正も、同法同条同項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、訂正事項3-2による訂正は、訂正前の請求項3に記載されている「精製水および/またはアルコール」が、「精製水」、「アルコール」または「精製水およびアルコール」という3つの選択肢からなる群から選ばれるものであるところ、そのうちの「精製水およびアルコール」に限定したうえで、「アルコール」を「エタノール」に限定し、さらに「混合溶媒」であることを特定したものであるから、同法同条同項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

イ 新規事項追加の有無

本件明細書の段落【0020】には、「本発明において、薬学的に許容される溶媒としては、製剤を製造する際に使用が許容され得る溶媒であれば特に制限されない。例えば、精製水、有機溶媒、および精製水と有機溶媒との混合溶媒が挙げられる。本発明においては、精製水および/またはアルコールが好ましく、精製水および/またはエタノールがさらに好ましく、精製水およびエタノールの混合溶媒が特に好ましい。」と記載されており、訂正事項3による訂正後の請求項3に記載された特定の溶媒に該当する事項が記載されている。
したがって、訂正事項3による訂正は、本件明細書に記載した事項の範囲内においてするものである。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の有無

前記アで説示したとおり、訂正事項3による訂正は、特許請求の範囲を減縮するものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)訂正事項4について

ア 訂正の目的

訂正事項4による訂正は、訂正前の請求項4では、「イミダフェナシンを含有する錠剤の製造方法」として、製造される錠剤がイミダフェナシンを含有することを特定しているところ(請求項4の記載を直接的に又は間接的に引用する請求項5及び6も同様である)、イミダフェナシンについて、その含有量を「0.1mg」に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

イ 新規事項追加の有無

本件明細書の段落【0011】には、「本発明において、錠剤中のイミダフェナシンの含量は0.025?2mgが好ましく、0.05?0.25mgが更に好ましく、0.1mgが特に好ましい。」と記載されているから、訂正事項4による訂正は、本件明細書に記載した事項の範囲内においてするものである。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の有無

前記アで説示したとおり、訂正事項4による訂正は、特許請求の範囲を減縮するものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

3 特許出願の際に独立して特許を受けることができること

本件特許異議申立事件においては、訂正前のすべての請求項1?6に対して特許異議申立てがされているので、訂正事項1?4による訂正について、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する要件(独立特許要件)は課されない。

4 小括

以上のとおり、本件訂正請求による訂正事項1?4は、いずれも、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであって、かつ、同法同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものであるから、本件特許の特許請求の範囲を、令和1年5月31日に提出された訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?6〕について訂正することを認める。

第3 本件訂正後の本件特許発明

本件訂正後の請求項1?6に係る発明は、令和1年12月6日に提出された訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(以下、請求項番号に対応して、それぞれ「本件発明1」等といい、これらを総称して「本件発明」ということがある。) 。なお、下線は本件訂正による訂正箇所に付したものである。

「【請求項1】
(i)イミダフェナシンを精製水、エタノール並びに精製水およびエタノールの混合溶媒からなる群から選ばれる溶媒に溶解または懸濁させ、溶液または懸濁液を製造する工程、
(ii)攪拌させた1または2以上の薬学的に許容される賦形剤および薬学的に許容される結合剤に上記溶液または懸濁液を添加し、造粒物を製造する工程、および
(iii)上記造粒物を乾燥する工程
を含む、攪拌造粒法による、イミダフェナシンを含有する造粒物の製造方法。
【請求項2】
(i)イミダフェナシンおよび薬学的に許容される結合剤を精製水、エタノール並びに精製水およびエタノールの混合溶媒からなる群から選ばれる溶媒に溶解または懸濁させ、溶液または懸濁液を製造する工程、
(ii)攪拌させた1または2以上の薬学的に許容される賦形剤に上記溶液または懸濁液を添加し、造粒物を製造する工程、および
(iii)上記造粒物を乾燥する工程
を含む、攪拌造粒法による、イミダフェナシンを含有する造粒物の製造方法。
【請求項3】
薬学的に許容される結合剤がヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアルコールおよびポリビニルピロリドンからなる群から選ばれるものであり、溶媒が精製水およびエタノールの混合溶媒であり、薬学的に許容される賦形剤が部分アルファー化デンプンおよび/または結晶セルロースである、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
(iv)請求項1?3のいずれか一項に記載の製造方法で得られたイミダフェナシンを含有する造粒物と、薬学的に許容される添加剤とを混合し混合粉末を製造する工程、および
(v)上記混合粉末を圧縮成型する工程
を含む、イミダフェナシンを0.1mg含有する錠剤の製造方法。
【請求項5】
薬学的に許容される添加剤が薬学的に許容される賦形剤および/または滑沢剤である、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
薬学的に許容される賦形剤が結晶セルロースであり、薬学的に許容される滑沢剤がステアリン酸マグネシウムである、請求項5に記載の製造方法。」

第4 申立ての理由の概要及び証拠

申立人は、特許異議申立書(以下「申立書」という。)において、本件特許の設定登録時の請求項1?6について、これらの請求項に係る特許を取り消すべき理由として、以下の「1」に概要を示す(1)?(3)の申立ての理由を主張するとともに、証拠方法として、以下の「2」に示す甲第1?5号証(以下、それぞれ番号順に「甲1」等ということがある。)を提出している。

1 申立ての理由の概要

(1)申立ての理由1(特許法第29条第2項;甲1又は甲2を主引例と
する甲1?甲4に基づく進歩性の欠如)
請求項1に係る発明、及び請求項3?6に係る発明のうち請求項1を引用する発明は、甲1(主引例)の実施例6に記載された発明、甲1?4に記載された事項、及び本件特許出願時の技術常識に基いて、本件特許出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1、3?6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
また、請求項2に係る発明、及び請求項3?6に係る発明のうち請求項2を引用する発明は、甲2(主引例)の実施例1に記載された発明、甲1?4に記載された事項、及び本件特許出願時の技術常識に基いて、本件特許出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項2?6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

(2)申立ての理由2(特許法第36条第4項第1号;実施可能要件違反)
本件明細書の発明の詳細な説明には、請求項1に係る発明、及びこれを直接的に又は間接的に引用する請求項3?6に係る発明について、光安定性や含量均一性に優れた造粒物及び製剤(錠剤)が製造できたことを示す記載がなく、請求項2に係る発明、及びこれを直接的に又は間接的に引用する請求項3?6に係る発明ついては、製造実施例すら一切記載されていないため、当業者は当該造粒物及び錠剤を製造するために過度の試行錯誤を強いられ、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1?6に係る発明を実施できるように記載したものでないから、請求項1?6に係る特許は、本件明細書の発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

(3)申立ての理由3(特許法第36条第6項第1号;サポート要件違反)
請求項2に係る発明、及びこれを直接的に又は間接的に引用する請求項3?6に係る発明については、本件明細書の発明の詳細な説明に、製造実施例や試験例等が一切記載されていないから、請求項2?6に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

2 申立人が提出した証拠方法

(1)申立書に添付して提出された証拠方法
甲第1号証 特許第4610834号公報
甲第2号証 特許第4524502号公報
甲第3号証 「経口投与製剤の処方設計」,薬業時報社,
1998年4月15日発行,54?57頁
甲第4号証 「第十六改正日本薬局方」,平成23年3月24日,
前書き,目次,p.110?111

(2)令和2年1月17日付け意見書に添付して提出された証拠方法
甲第5号証 「新原薬及び新製剤の光安定性試験ガイドラインについて」
,平成9年5月28日

第5 取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由

本件訂正請求により取り下げられたものとみなされる令和1年5月31日提出の訂正請求書による訂正請求により訂正された請求項1?6に係る特許について、当審が令和1年10月3日付けの取消理由通知(決定の予告)により特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。なお、この取消理由は、申立ての理由1のうち、甲2を主引例とする進歩性欠如に対応するものである。

[取消理由1](進歩性)
本件特許の請求項1?6に係る発明は、引用文献1に記載された発明及び周知技術に基いて、本件特許出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1?6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

引用文献1 特許第4524502号公報
(甲2、本件明細書の段落【0003】?【0006】で
引用する「特許文献3」)
引用文献2 「経口投与製剤の処方設計」,薬業時報社,
1998年4月15日発行,54?57頁
(甲3、周知技術を示す文献)
引用文献3 特表2007-517000号公報
(周知技術を示す文献)
引用文献4 国際公開第2002/049608号
(周知技術を示す文献)
引用文献5 特開2006-298810号公報
(周知技術を示す文献)
引用文献6 「製剤学」,株式会社南江堂,
2013年12月20日発行,第6版,第2刷,
p.182?184
(周知技術を示す文献)
引用文献7 「固形製剤の製造技術」,株式会社シーエムシー出版,
2003年1月27日発行,普及版第1刷,
p.129?137
(周知技術を示す文献)
引用文献8 特許第4610834号公報
(甲1、本件明細書の段落【0003】?【0006】で
引用する「特許文献1」、周知技術を示す文献)

第6 取消理由についての当審の判断

前記「第3」で認定した本件発明1?6に係る特許が、前記「第5」に示した取消理由により取り消されるべきものであるか否か、以下、検討する。

1 本件明細書の記載について

本件明細書には、以下の事項(摘記ア)?(摘記ク)が記載されている。

(摘記ア)
「【背景技術】
【0002】
イミダフェナシンはムスカリンM1受容体及びM3受容体を選択的に阻害する抗コリン薬であり、過活動膀胱における尿意切迫感、頻尿及び切迫性尿失禁の治療薬として広く使用されている。現在、イミダフェナシンを有効成分とする医薬品としては、フィルムコーティング錠(FC錠)と口腔内崩壊錠(OD錠)が市販されている(非特許文献1)。
【0003】
特許文献1には、イミダフェナシンを有効成分とするFC錠やその製造方法が開示されている。また、特許文献2?8には、イミダフェナシンを有効成分とするOD錠やその製造方法が開示されている。
【0004】
しかしながら、特許文献1?8には、流動層造粒法によりイミダフェナシンを含有する造粒物を製造し、これを用いて錠剤化する方法しか開示されておらず、その他の造粒法を用いてイミダフェナシンを含有する製剤を製造した報告はない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】ウリトス錠0.1mg、ウリトスOD錠0.1mg
添付文書、2014年6月改訂(第11版)
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許4610834公報
【特許文献2】特許4656672公報
【特許文献3】特許4524502公報
【特許文献4】特開2010-229075公報
【特許文献5】特開2010-229076公報
【特許文献6】特開2011-32183公報
【特許文献7】特開2011-68640公報
【特許文献8】特開2014-172855公報」

(摘記イ)
「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
これまでに、イミダフェナシンを含有する製剤の製造に、流動層造粒法以外の製造方法が使用できるか否かについてはわかっていなかった。したがって、イミダフェナシンを含有する製剤の新たな製造方法を提供することが、本発明が解決しようとする課題である。」

(摘記ウ)
「【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意検討した結果、攪拌造粒法を用いることで、製剤中のイミダフェナシンの光安定性が優れた製剤を製造することができることを見出し、本発明を完成した。すなわち、本発明は以下の発明を包含する。
[1](i)イミダフェナシンを薬学的に許容される溶媒に溶解または懸濁させ、溶液または懸濁液を製造する工程、
(ii)攪拌させた1または2以上の薬学的に許容される賦形剤および薬学的に許容される結合剤に上記溶液または懸濁液を添加し、造粒物を製造する工程、および
(iii)上記造粒物を乾燥する工程
を含む、イミダフェナシンを含有する造粒物の製造方法。
[2](i)イミダフェナシンおよび薬学的に許容される結合剤を薬学的に許容される溶媒に溶解または懸濁させ、溶液または懸濁液を製造する工程、
(ii)攪拌させた1または2以上の薬学的に許容される賦形剤に上記溶液または懸濁液を添加し、造粒物を製造する工程、および
(iii)上記造粒物を乾燥する工程
を含む、イミダフェナシンを含有する造粒物の製造方法。
[3]薬学的に許容される結合剤がヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアルコールおよびポリビニルピロリドンからなる群から選ばれるものであり、薬学的に許容される溶媒が精製水および/またはアルコールであり、薬学的に許容される賦形剤が部分アルファー化デンプンおよび/または結晶セルロースである、[1]または[2]に記載の製造方法。
[4](iv)[1]?[3]のいずれか一つに記載の製造方法で得られたイミダフェナシンを含有する造粒物と、薬学的に許容される添加剤とを混合し混合粉末を製造する工程、および
(v)上記混合粉末を圧縮成型する工程
を含む、イミダフェナシンを含有する錠剤の製造方法。
[5]薬学的に許容される添加剤が薬学的に許容される賦形剤および/または滑沢剤である、[4]に記載の製造方法。
[6]薬学的に許容される賦形剤が結晶セルロースであり、薬学的に許容される滑沢剤がステアリン酸マグネシウムである、[5]に記載の製造方法。」

(摘記エ)
「【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、攪拌造粒法を用いることで、製剤中のイミダフェナシンの光安定性が優れた製剤を製造することができる。」

(摘記オ)
「【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明において、イミダフェナシンとは4-(2-メチル-1H-イミダゾール-1-イル)-2,2-ジフェニルブタンアミドを表す。
【0011】
本発明において、錠剤中のイミダフェナシンの含量は0.025?2mgが好ましく、0.05?0.25mgが更に好ましく、0.1mgが特に好ましい。
【0012】
本発明の造粒物および錠剤は、任意の薬学的に許容される添加剤を含むことができる。添加剤は有効成分(イミダフェナシン)以外の成分を表し、医薬品添加物事典[日本医薬品添加剤協会、薬事日報社(2016年)]に記載されているものを適宜使用できる。例えば、賦形剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤、コーティング剤、着色剤、光沢剤などが挙げられる。
【0013】
本発明において、薬学的に許容される賦形剤としては、乳糖および白糖などの糖類、D-ソルビトールおよびマンニトールなどの糖アルコール類、結晶セルロース、カルメロース、カルメロースカルシウム、カルメロースナトリウム、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカルシウムおよび低置換度ヒドロキシプロピルセルロースなどのセルロース類、部分アルファー化デンプンおよびトウモロコシデンプンなどのデンプン類などが挙げられる。本発明においては、結晶セルロースおよび/または部分アルファー化デンプンが好ましく、結晶セルロースと部分アルファー化デンプンの両方を配合する場合、結晶セルロースと部分アルファー化デンプンの配合比率は流動性と成形性の観点から4:1が好ましい。
【0014】
本発明において、薬学的に許容される崩壊剤としては、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、クロスカルメロースナトリウムおよびメチルセルロースなどのセルロース類、部分アルファー化デンプンおよびトウモロコシデンプンなどのデンプン類、クロスポビドンなどが挙げられる。
【0015】
本発明において、薬学的に許容される結合剤としては、結晶セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、エチルセルロースおよびメチルセルロースなどのセルロース類、ポビドン、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、ポリビニルアルコール完全けん化物、ポリビニルアルコール部分けん化物、カルボキシビニルポリマー、ポリ塩化ビニルなどのビニル系高分子物質、アミノアルキルメタクリレートコポリマー(E、RS)、メタクリル酸コポリマー(L、S、LD)、アクリル酸エチル・メタクリル酸メチルコポリマー分散液などのアクリル系高分子物質、ステアリルアルコール、ゼラチン、デキストリン、アラビアゴム、プルラン、マクロゴール、デンプン、などが挙げられる。本発明においては、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアルコールおよび/またはポリビニルピロリドンが好ましく、ヒドロキシプロピルセルロースが特に好ましい。
【0016】
本発明において、薬学的に許容される滑沢剤としては、ステアリン酸およびその金属塩類、タルク、硬化油、軽質無水ケイ酸、含水二酸化ケイ素、ショ糖脂肪酸エステルなどが挙げられる。本発明においては、ステアリン酸マグネシウムが好ましい。
【0017】
本発明において、薬学的に許容されるコーティング剤としては、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、エチルセルロース、メチルセルロース、カルメロースカルシウム、カルメロースナトリウム、カルボキシメチルエチルセルロース、結晶セルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートおよびヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレートなどのセルロース類、アミノアルキルメタクリレートコポリマー(E、RS)、メタクリル酸コポリマー(L、S、LD)、アクリル酸エチル・メタクリル酸メチルコポリマー分散液などのアクリル系高分子物質、ポビドン、ステアリルアルコール、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテートなどが挙げられる。
・・・(略)・・・
【0020】
本発明において、薬学的に許容される溶媒としては、製剤を製造する際に使用が許容され得る溶媒であれば特に制限されない。例えば、精製水、有機溶媒、および精製水と有機溶媒との混合溶媒が挙げられる。本発明においては、精製水および/またはアルコールが好ましく、精製水および/またはエタノールがさらに好ましく、精製水およびエタノールの混合溶媒が特に好ましい。」

(摘記カ)
「【0021】
本発明の造粒物は、例えば、イミダフェナシンを薬学的に許容される溶媒に溶解させた溶液を、攪拌させた1または2以上の薬学的に許容される賦形剤と薬学的に許容される結合剤に添加することで造粒し、得られた造粒物を乾燥することで製造することができる。また、イミダフェナシンと薬学的に許容される結合剤を薬学的に許容される溶媒に溶解させた溶液を、攪拌させた1または2以上の薬学的に許容される賦形剤に添加することで造粒し、得られた造粒物を乾燥することで製造することができる。乾燥した造粒物は整粒した後、下記の錠剤の製造に用いることが好ましい。
【0022】
本発明の錠剤は、例えば、上記の方法で製造した造粒物を薬学的に許容される添加剤と混合することで混合粉末を製造し、これを任意の打錠機を用いて圧縮成型することで製造することができる。
【0023】
本発明の錠剤をフィルムコーティング錠とする場合は、例えば、国際公開WO2001/034147に記載の方法により行うことができる。」

(摘記キ)
「【0025】
(実施例1)
イミダフェナシン200mgをエタノール(95)106.8gに溶解した後、精製水106.8gを加え溶液を作製した。結晶セルロース211.4g、部分アルファー化デンプン52.8gおよびヒドロキシプロピルセルロース2.8gをハイスピードミキサー(商品名)(LFS-GA-2J、深江パウテック)を用いて30秒間混合した。得られた混合品に、上記溶液を全量添加しながら、ハイスピードミキサー(商品名)(LFS-GA-2J、深江パウテック)を用いて4分間練合した。得られた練合品を通気乾燥機(30C、不二パウダル製)を用いて65℃で75分間乾燥した。得られた乾燥品をコーミル(商品名)(QC-197S、パウレック製)を用いて整粒し、造粒物241.1gを得た。
【0026】
(実施例2)
実施例1で得た造粒物133.6gに、結晶セルロース104.6gおよびステアリン酸マグネシウム1.8gを加え、ポリエチレン袋中で混合した。得られた混合品を打錠機(VELA5、菊水製作所、直径9mmの臼、曲率半径12mmのR面杵)を用いて1錠あたり質量240mgとなるように打錠し、錠剤810錠を得た。
【0027】
(比較例1)
イミダフェナシン0.2g、結晶セルロース211.4g、部分アルファー化デンプン52.8gおよびヒドロキシプロピルセルロース2.8gをとり、ワンダーブレンダー(商品名)(WB-1、大阪ケミカル)を用いて1分間混合した。得られた混合品をローラーコンパクター(商品名)(TF-MINI、フロイント産業、ロール形状:DPS、ロール圧力:50kgf・cm^(2))を用いて造粒した。得られた造粒品をロールグラニュレーター(商品名)(GRN-T54S、日本グラニュレーター)を用いて整粒した。得られた整粒品をステンレス篩(目開き710μm)を用いて篩過し、造粒物243.5gを得た。
【0028】
(比較例2)
比較例1で得た造粒物133.6gに、結晶セルロース104.6gおよびステアリン酸マグネシウム1.8gを加え、ポリエチレン袋中で混合した。得られた混合品を打錠機(VELA5、菊水製作所、直径9mmの臼、曲率半径12mmのR面杵)を用いて1錠あたり質量240mgとなるように打錠し、錠剤788錠を得た。
【0029】
(比較例3)
イミダフェナシン800mgをエタノール(95)274gに溶解した後、精製水274gを加え混和した。得られた溶液にヒドロキシプロピルセルロース11.2gを溶解し結合液を作製した。結晶セルロース211.4gおよび部分アルファー化デンプン52.8gを、ポリエチレン袋中で混合した。得られた混合品にニューマルメライザー(商品名)(NQ-160、不二パウダル)を用いて結合液140gを噴霧し、造粒物254.6gを得た。
【0030】
(比較例4)
比較例3で得た造粒物133.6gに、結晶セルロース104.6gおよびステアリン酸マグネシウム1.8gを加え、ポリエチレン袋中で混合した。得られた混合品を打錠機(VELA5、菊水製作所、直径9mmの臼、曲率半径12mmのR面杵)を用いて1錠あたり質量240mgとなるように打錠し、錠剤756錠を得た。」

(摘記ク)
「【0031】
(含量均一性試験)
実施例1および比較例1、3で得られた造粒物について第十六改正日本薬局方の含量均一性試験に準じて含量均一性試験を実施した。ただし、含量は、造粒物133.6mgを1セットとし、10セットを精密に量り、重量補正を行い算出した。
【0032】
(光安定性試験)
実施例1、2および比較例1?4の製剤について光安定性試験を実施した。試験開始時とD65ランプ4000ルクス×約14日間照射時における不純物の割合を測定した。なお、不純物の定量は液体クロマトグラフ法(HPLC法)により評価した。
【0033】
HPLC法
カラム:オクタデシルシリル化シリカゲル(平均粒径5μm、内径4.6mm×長さ250mm)(ジーエルサイエンス株式会社 商品名Inertsil ODS-3)
A液:薄めたリン酸(1→200)にジエチルアミンを加え、pHを6.0に調整した液
B液:液体クロマトグラフィー用アセトニトリル
C液:液体クロマトグラフィー用メタノール
検出器:UV
測定波長:220nm
【0034】
実施例1および比較例1、3で得られた造粒物の処方(各成分の量の単位:mg/錠)と造粒法、並びに、それらの含量均一性試験と光安定性試験の結果を表1に示す。なお、表中、HPCはヒドロキシプロピルセルロースを表す。
【0035】
【表1】

【0036】
表1から明らかなように、他の造粒法(乾式造粒法、流動層造粒法)により得られた造粒物と比較して、攪拌造粒法により得られた造粒物は良好な含量均一性と光安定性を示した。
【0037】
実施例2および比較例2、4で得られた錠剤の処方(各成分の量の単位:mg/錠)と造粒法、並びに、それらの光安定性試験の結果を表2に示す。なお、表中、HPCはヒドロキシプロピルセルロースを表す。
【0038】
【表2】

【0039】
表2から明らかなように、他の造粒法(乾式造粒法、流動層造粒法)により得られた造粒物を含有する錠剤と比較して、攪拌造粒法により得られた造粒物を含有する錠剤は良好な光安定性を示した。」

2 引用文献に記載された事項

(1)引用文献1に記載された事項

取消理由通知(決定の予告)で引用した、特許第4524502号公報(引用文献1(甲2))には、以下の事項(摘記1a)?(摘記1g)が記載されている。

(摘記1a)(段落【0007】の上1行、及び段落【0007】?
【0009】)
「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、水分を摂取することなく服用可能で、光安定性に優れたイミダフェナシン含有口腔内速崩壊性錠剤を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、特定のコーティング剤で被覆したイミダフェナシン造粒物又はイミダフェナシン粒子を使用することにより、光安定性に優れるとともに、外層に崩壊剤を配合することにより、崩壊性に優れた口腔内速崩壊性錠剤が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、(1) ポビドン又は胃溶性高分子で被覆した、イミダフェナシンを含有する造粒物又はイミダフェナシン粒子と、
(2) 賦形剤及び崩壊剤を含む組成物と、
の混合物からなり、前記混合物が、圧縮成型されていることを特徴とする口腔内速崩壊性錠剤。
この口腔内速崩錠は、イミダフェナシンを含有する造粒物又はイミダフェナシン粒子をポビドン又は胃溶性高分子で被覆した後、賦形剤及び崩壊剤を含む組成物と混合し、次いでその混合物を圧縮成型することにより得られるものである。」

(摘記1b)(段落【0013】)
「【0013】
本発明の口腔内速崩壊性錠剤は、イミダフェナシン含有造粒物又はイミダフェナシン粒子をコーティング剤で被覆する。
イミダフェナシン含有造粒物は、乾式造粒法や、攪拌造粒法、押出造粒法、流動層造粒法、転動流動層造粒法、噴霧造粒法などの造粒方法により容易に製造することができる。これらの造粒法は、当業者に自明である。
造粒法としては、好ましくは、流動層造粒法や転動流動層造粒法が好適に挙げられる。・・・(略)・・・。」

(摘記1c)(段落【0014】?【0017】)
「【0014】
イミダフェナシン含有造粒物及びイミダフェナシン粒子は、光安定化のためコーティング剤で被覆する。本発明で使用されるコーティング剤は、ポビドン又は胃溶性高分子である。
ポビドンは、水溶性の高分子であり、薬剤が口腔内で崩壊すると、通常、喉から胃にかけて溶解する非徐放性の物質として使用される。このようなポビドンとしては、例えば、アイフタクトK-30(第一工業製薬)、コリドン(BASFジャパン)、プラスドン(アイエスピー・ジャパン)、ポビドン(五協産業)が挙げられる。
胃溶性高分子は、胃液で溶解する性質を有する高分子化合物であり、アミノアルキルメタアクリレートコポリマーE(商品名:オイドラギットE100(Rohm GmbH & Co. KG)、オイドラギットEPO(Rohm GmbH & Co. KG))や、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート(商品名:AEA「三共」(三共ライフテック))などが好適に挙げられる。
・・・(略)・・・
また、コーティング剤を使用した被覆法は、医薬品製剤の製造に使用可能な方法であれば特に限定はない。
【0015】
本発明の口腔内速崩壊性錠剤において、被覆イミダフェナシン含有造粒物又はイミダフェナシン粒子と組合せて、賦形剤及び崩壊剤を含有する組成物が使用される。
ここで使用される賦形剤は、医薬品製剤の製造に使用可能なものであれば特に限定はなく適宜使用することができる。このような
賦形剤としては、例えば、医薬品添加物事典[日本医薬品添加剤協会、薬事日報社(2007年)]に記載されているものを好適に使用することができる。例えば、賦形剤としては、乳糖や、ブドウ糖などの糖類、D-ソルビトールや、マンニトールなどの糖アルコール類、結晶セルロースなどのセルロース類、部分アルファ化デンプン、トウモロコシデンプンなどの澱粉類などを好適に挙げることができる。賦形剤としては、好ましくは糖アルコールである。
【0016】
本発明で使用される崩壊剤としては、医薬品製剤の製造に使用可能なものであれば特に限定はなく、各種の崩壊剤が使用できる。このような崩壊剤としては、例えば、医薬品添加物事典[日本医薬品添加剤協会、薬事日報社(2007年)]に記載されているものを適宜使用できる。崩壊剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロースカルシウムや、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、クロスカルメロースナトリウム、メチルセルロースなどのセルロース類、クロスポビドンなどを使用することができ、速やかな崩壊性及び飲用のし易さ(口当たりのよさ)の点からクロスポビドンを使用することが好ましい。崩壊剤の配合量は、錠剤中1?10質量%が好ましく、さらに好ましくは2?6質量%である。
【0017】
本発明の口腔内速崩壊性錠剤は、必要により医薬品製剤の製造に使用可能な添加物を配合することができる。具体的には、医薬品添加物事典[日本医薬品添加剤協会、薬事日報社(2007年)]に記載されているものを使用でき、例えば、滑沢剤としてステアリン酸及びその金属塩類、並びにタルク、軽質無水ケイ酸、含水二酸化ケイ素、ショ糖脂肪酸エステル等、甘味剤として糖類、糖アルコール類、アスパルテーム、サッカリン及びその塩類、グリチルリチン酸及びその塩類、ステビア、並びにアセスルファムカリウム等、嬌味剤としてクエン酸、クエン酸ナトリウム、コハク酸、酒石酸及びフマル酸等、着色剤として三二酸化鉄、黄色三二酸化鉄、カラメル、リボフラビン及びアルミニウムレーキ等、香料としてメントール及びオレンジ油等が挙げられる。」

(摘記1d)(段落【0021】)
「【0021】
なお、以下の実施例及び比較例に用いた商品名で示される化合物は、下記の通りである。
1.商品名スターチ1500G(日本カラコン):部分α化デンプン
2.商品名セオラス PH-301及びPH-102(旭化成ケミカルズ):結晶セルロース
3.商品名コリドン90F(BASF):ポビドン
4.商品名オイドラギットEPO(Rohm GmbH Co. KG):メタアクリル酸メチル-メタアクリル酸ブチル-メタアクリル酸ジメチルアミノエチル共重合体又はアミノアルキルメタアクリレートコポリマーE
5.商品名HPC-SSL(日本曹達):ヒドロキシプロピルセルロース
6.商品名ノイシリンUS2(富士化学工業):メタケイ酸アルミン酸マグネシウム
7.商品名ステアリン酸マグネシウム(植物性)(太平化学産業)
8.商品名ペアリトール(ROQUETTE JAPAN):D-マンニトール
9.商品名コリドンCL-F(BASF):クロスポビドン
10.商品名ポリプラスドンXL-10(ISP):クロスポビドン
11.商品名カープレックス#67(DSLジャパン):含水二酸化ケイ素
12.商品名エトセル7Premium(日進化成):エチルセルロース
13.商品名TC-5RW(信越化学):ヒドロキシプロピルメチルセルロース
14.商品名AEA(三共ライフテック):ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート
15.商品名コリドン25(BASF):ポビドン」

(摘記1e)(段落【0022】?【0023】「実施例1」)
「【0022】
実施例1
イミダフェナシン4.0g、コリドン90F(BASF)2gを、精製水118.2g、エタノール275.8gの混液に溶解した。スターチ1500G(日本カラコン)394gを転動流動層造粒機(ダルトン製、NQ-160)に仕込み、トップスプレー法にてこの溶液をコーティングし(噴霧液量15g/min、噴霧空気圧0.1MPa、給気温度70℃)、イミダフェナシン含有造粒物を得た。
【0023】
別に、胃溶性高分子、オイドラギットEPO(Rohm GmbH Co. KG)60g、ステアリン酸マグネシウム(植物性)(太平化学産業)30gを精製水273g、エタノール637gの混液に溶解した。
イミダフェナシン含有造粒物300gを転動流動層造粒機(ダルトン製、NQ-160)に仕込み、トップスプレー法にてこの溶液をコーティングし(噴霧液量20g/min、噴霧空気圧0.15MPa、給気温度80℃)、コーティング被覆顆粒を得た。
さらに、このコーティング被覆顆粒5.2gを、ペアリトール(ROQUETTE JAPAN)63.76g、コリドンCL-F(BASF)2.16g及びカープレックス#67(DSLジャパン)0.16gと混合した後、ステアリン酸マグネシウム(植物性)(太平化学産業)0.72gを加え混合した後、単発打錠機を用いて打錠圧670kgにて1錠あたりイミダフェナシン0.1mgを含む180mgの錠剤を製した。得られた錠剤は硬度5.1kg(n=5)を示した。」

(摘記1f)(段落【0027】「実施例5」)
「【0027】
実施例5
イミダフェナシン25.0g、コリドン90F(BASF)12.5gを精製水738.75g、エタノール1723.75gの混液に溶解した。スターチ1500G(日本カラコン)2500g及びセオラス PH-301(旭化成ケミカルズ)2462.5gを流動層造粒機(フロイント産業製、FL-5)に仕込み、トップスプレー法にてこの溶液をコーティングし(噴霧液量100g/min、噴霧空気圧0.3MPa、給気温度70℃)、イミダフェナシン含有造粒物を得た(平均粒子径:85μm)。別に、オイドラギットEPO(Rohm & GmbH Co. KG)750g、ステアリン酸マグネシウム(植物性)(太平化学産業)375gを精製水3412.5g、エタノール7962.5gの混液に溶解した。イミダフェナシン含有造粒物3750gを流動層造粒機(フロイント産業製、FL-5)に仕込み、トップスプレー法にてこの溶液をコーティングし(噴霧液量100g/min、噴霧空気圧0.3MPa、給気温度80℃)、コーティング顆粒を得た(平均粒子径:118μm)。
さらに、このコーティング顆粒2600g、ペアリトール(ROQUETTE JAPAN)14640g、コリドンCL-F(BASF)540g及びカープレックス#67(DSLジャパン)40gを混合後、ステアリン酸マグネシウム(植物性)(太平化学産業)180gを加え混合後、ロータリー打錠機を用いて打錠圧7.7kNにて1錠あたりイミダフェナシン0.1mgを含む180mgの錠剤を製した。得られた錠剤は硬度5.2kg(n=5)、崩壊時間12秒(n=6)を示した。」

(摘記1g)(段落【0035】?【0038】)
「【0035】
試験例1
実施例1?6及び比較例1?6の製剤について光安定性試験を実施した。D65ランプ4500ルクス×約12日間における分解物の生成量の結果を表1に示す。なお,分解物の定量は液体クロマトグラフ法(HPLC法)により評価した。
【0036】
HPLC法
カラム:オクタデシルシリル化シリカゲル(平均粒径5 μm,内径4.6 mm×長さ250mm) (ジーエルサイエンス株式会社 商品名Inertsil ODS-3)
A液:薄めたリン酸(1→200)にジエチルアミンを加え,pHを6.0に調整する。
B液:液体クロマトグラフィー用アセトニトリル
C液:液体クロマトグラフィー用メタノール
送液:A液,B液及びC液の混合比を変えて濃度勾配制御する。
検出器:UV
測定波長:220 nm
【0037】
【表1】

【0038】
表1より、イミダフェナシン含有造粒物を被覆していない比較例1?6の製剤は、分解物の生成量が大きく、個々の最大の分解物の生成量は1%を越えていた。一方、オイドラギットEPOで被覆した造粒物を含有する実施例1?6の製剤は、個々の最大の分解物の生成量は1%を越えなかった。」

(2)引用文献2に記載された事項

取消理由通知(決定の予告)で引用した、「経口投与製剤の処方設計」,薬業時報社,1998年4月15日発行,54?57頁(引用文献2(甲3))には、以下の事項(摘記2a)が記載されている。なお、○囲み数字は括弧( )付き数字に変換した。

(摘記2a)(55頁下6行?57頁図から4行)
「(c)造粒機
造粒法は,造粒の機構および操作面から,(1)押出し造粒,(2)混合攪拌造粒,(3)高速混合攪拌造粒,(4)流動層造粒,(5)転動攪拌流動層造粒,(6)転動造粒,(7)乾式(圧縮)造粒,(8)破砕造粒,およびその他の造粒法(噴霧造粒法,マイクロカプセル化法など)に分類され,それぞれに対応する造粒機が使用されている^(21-25))。
(1) 押出し造粒機:・・・(略)・・・
・・・(略)・・・
(2) 混合攪拌造粒機:プラネタリミキサの1種である品川式万能混合器[図2-3-4(a)]がよく使用されている。2本の攪拌翼が自転しながら公転し,粉末の混合と,結合剤溶液を加えて練合が行われる。
(3) 高速混合攪拌造粒機:高速混合攪拌造粒機[図2-3-4(b)]が使用されるが,多数の機種が開発されており,主攪拌羽根のほかに,造粒塊を解砕するため,1,000?3,000rpmの高速で回転する解砕羽根(チョッパー)を備えた機種が多い。また,加温・冷却用の外浴(ジャケット)を付設したものもあり,加熱造粒にも使用される。
本造粒機では,原料粉体は主攪拌羽根で数分間混合され,次いで攪拌,流動する粉体層に結合剤溶液が滴下または噴霧され,主攪拌羽根による造粒とチョッパーによる解砕造粒により,造粒される。
(4) 流動層造粒機:空気流により原料粉末の流動層を形成することができる流動層造粒機[図2-3-6(a)]が使用される。流動層中の原料粉末は,スプレーノズルからの結合剤溶液の噴霧によって形成された液体架橋による粉末粒子の付着凝集により造粒される。同一装置内で,混合,造粒,乾燥の3種の単位操作を行うことができる利点を有する^(48))。
(5) 転動攪拌流動層造粒機:流動層造粒機に転動攪拌機能(ローター,アジテーター)を付加した装置[図2-3-6(b)]が使用される。原料粉体は流動,転動,攪拌を受けながら造粒されるので,流動層造粒機に比べてかさ密度と粒子形状の調節範囲が広いとされている^(48))。
・・・(略)・・・
(6) 転動造粒機:遠心流動型転動造粒コーティング装置[図2-3-7(a)]が一般的に使用されている。転動する原料の芯粒子のうえに,結合剤溶液を噴霧しながら原料粉末の散布を行うことにより,球形粒子がレイヤリング造粒される。厳密な溶出制御をする製剤の造粒やコーティングにも使用される^(38))。」

(3)引用文献3に記載された事項

取消理由通知(決定の予告)で引用した、特表2007-517000号公報(引用文献3)には、以下の事項(摘記3a)が記載されている。

(摘記3a)(請求項1、4?5)
「【請求項1】
経口的に有効なペプチド、又は医薬的に許容可能なその塩の固形製剤の製造方法であって、前記ペプチドと少なくとも1種の賦形剤、キャリヤーもしくは希釈剤又はその混合物を流動層造粒装置で造粒する工程を含み、得られた前記ペプチドを含有する粒状体が医薬的に許容可能な錠剤に打錠するのに適している前記方法。」
「【請求項4】
前記粒状体の製造工程が流動化空気流量と処理温度及び時間を調節することを含む請求項1から2のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記デスモプレシンを含有する粒状体が、
i)少なくとも1種の賦形剤、キャリヤーもしくは希釈剤、又はその混合物を含有する粉末を提供する段階と;
ii)溶媒とデスモプレシン、又は医薬的に許容可能なその塩と、場合により結合剤を含有する造粒液を提供する段階と;
iii)前記装置の内側で前記造粒液を前記粉末と接触させる段階を含む工程により製造され、混合剪断作用を提供するように流動化空気流量と処理温度及び時間を同時に調節する請求項4に記載の方法。」

(4)引用文献4に記載された事項

取消理由通知(決定の予告)で引用した、国際公開第2002/049608号(引用文献4)には、以下の事項(摘記4a)が記載されている。なお、邦訳は当審合議体による。

(摘記4a)(16頁、EXAMPLE 1)
「EXAMPLE 1
Tablets were compressed from the following ingredients based on a non-aqueous wet granulation process:

Cabergoline was dissolved in Isopropyl Alcohol and used to granulate the Microcrystalline Cellulose. Citric Acid Anhydrous was added and additional mixing was performed. Drying of the granulate was performed to give acceptable dry granules which were submitted to milling. The dried-milled granules were mixed with a dismtegrant (CrosCarmellose) and with a lubricant (Magnesium Stearate). Finally, the lubricated blend was compressed to manufacture tablets. The uncoated tablets had a friability of less than 0.8% and a crushing strength of at least 6 kilopond.」
(邦訳:
「実施例1
非水湿式造粒法により以下の成分から錠剤を圧縮成型した。

材料名 mg/tab
カベルゴリン 0.5
微結晶セルロース 75.1
無水クエン酸 1.2
クロスカルメロースナトリウム 2.4
ステアリン酸マグネシウム 0.8

カベルゴリンを、イソプロピルアルコールに溶解し、微結晶セルロースの造粒に用いた。無水クエン酸を添加し、さらなる混合を行った。粒状物を乾燥させ、乾燥顆粒を得て粉砕に供した。乾燥粉砕顆粒を、崩壊剤(クロスカルメロース)及び滑沢剤(ステアリン酸マグネシウム)と混合した。最後に、潤滑混合物を圧縮成型して錠剤を得た。非被覆錠剤は、0.8%より小さい破砕性を有し、少なくとも6キロポンドの圧縮強度を有していた。」)

(5)引用文献5に記載された事項

取消理由通知(決定の予告)で引用した、特開2006-298810号公報(引用文献5)には、以下の事項(摘記5a)及び(摘記5b)が記載されている。

(摘記5a)(段落【0009】)
「【0009】
難溶性医薬有効成分を溶解させる溶媒は特に限定されないが、好ましくは精製水、メタノール、エタノール、プロピルアルコール等のアルコール類、アセトン、塩化メチレン、酢酸エチルが挙げられる。・・・(略)・・・。
また、難溶性医薬有効成分を溶解させた溶液に必要に応じて水溶性高分子を更に溶解させることができる。この場合に使用することのできる水溶性高分子はヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルメロースナトリウムなどが挙げられる。特に好ましい水溶性高分子はヒドロキシプロピルセルロースである。水溶性高分子の割合については難溶性医薬有効成分が水膨潤性物質に吸着し、製造時に再粉化しなければ独断限定はされない。・・・(略)・・・。」

(摘記5b)(段落【0016】「実施例1」)
「【0016】
・・・(略)・・・。
実施例1
(担体として使用する部分)
カルメロースカルシウム 207.4 g
(主薬コーティング部分)
セフジトレンピボキシル 248.6 g
ヒドロキシプロピルメチルセルロース2910 14 g
セフジトレンピボキシル 248.6g、ヒドロキシプロピルメチルセルロース2910(TC-5(E):信越化学株式会社製) 14gをジクロロメタン600mLとメタノール200mLの混合溶媒に添加し完全に溶解させた。次にカルメロースカルシウム(ECG-505:五徳工業株式会社製)を流動層造粒機に入れ、先に調整した主薬入りの造粒液を噴霧して造粒を行った。」

(6)引用文献6に記載された事項

取消理由通知(決定の予告)で引用した、「製剤学」,株式会社南江堂,2013年12月20日発行,第6版第2刷,182?184頁(引用文献6)には、以下の事項(摘記6a)が記載されている。なお、○囲み数字は括弧( )付き数字に変換した。

(摘記6a)
(182?183頁)
「造粒方法は,(1)粉体に溶液(結合剤溶液)を加えて,そのまま造粒するか,いったん練合した湿塊を造粒するかによる湿式法,(2)粉体を乾燥状態のままいったん圧縮成形したものを破砕して造粒する乾式法,および(3)粉体を大量の水でスラリー状としたものを噴霧乾燥して造粒する噴霧造粒法の3つに大別される.・・・(略)・・・.以下によく用いられる数種の機種について紹介する.
・・・(略)・・・
(ii) 攪拌造粒機
本造粒機は種々あるので,ここでは高速混合造粒機について述べる.図4・18は垂直型の一種であるスーパーミキサーの概略図を示す.原料粉末は攪拌羽根で数分混合したのち,結合剤溶液を滴下して攪拌造粒を行う.本機種には,混合,造粒,乾燥ができる真空乾燥機付も開発されている.
(iii) 流動層造粒機
流動層造粒機は,粉体の混合,造粒,乾燥,さらに部品を交換すればコーティングも1台の機械で行える造粒機である.粉体原料を空気で流動化させて混和し,これに液(結合剤溶液)を,対流または向流でノズルからスプレーして,スプレー液滴により粉体原料を凝集させ,さらに乾燥して,粒子の成長を促す造粒方式である.コーティング機能をも含めた流動層造粒機の一種である転動流動造粒機の機構を図4・19に示した.
(iv) 乾式造粒機
粉体に強圧を加えて乾燥状態のまま塊状とし(スラッギング),それを破砕して適切な粒子径をもつ粉粒体とする.水や熱に不安定なため湿式法では造粒しにくい抗生物質などの造粒に適している.図4・20に破砕機構をも備えた乾式造粒機を示した.圧縮ロールは粉体物性に応じて平板や波形が選定できる.
・・・(略)・・・」

(7)引用文献7に記載された事項

取消理由通知(決定の予告)で引用した、「固形製剤の製造技術」,株式会社シーエムシー出版,2003年1月27日発行,普及版第1刷,129?137頁(引用文献7)には、以下の事項(摘記7a)及び(摘記7b)が記載されている。

(摘記7a)(129頁)
「4.2 造粒機の機構的分類
前項で紹介した造粒方法に応じて,種々の造粒機が存在しているが,つぎのように分類するのがもっとも妥当なように思われる。
(1) 湿式法
A 押し出し造粒機
B 押し出し造粒機-球形処理
C 転動造粒機
D 湿式解砕造粒機
E 流動層造粒機
(2) 乾式法
A スラッグマシン
B 乾式造粒機
C 解砕造粒機
(3) 噴霧造粒法
A 噴霧乾燥造粒機」

(摘記7b)(134頁)
「4.3.6 流動層造粒機
粉体原料の混合,造粒,乾燥(パーツを変えればコーティングも行える)を1台の機械で行える利点がある造粒機である。粉体原料を空気で流動化させて混合し,これに結合剤溶液を,対流または向流でノズルからスプレーして,スプレー液滴により粉粒体を凝集させると同時に乾燥させて,粒子成長を促す造粒方式である。」

3 引用文献1に記載された発明

(1)引用発明1-1

(摘記1e)の段落【0022】の記載からみて、引用文献1(「実施例1」の前半)には、「スターチ1500G」を「転動流動層造粒機」に仕込み、イミダフェナシンと「コリドン90F」とを精製水およびエタノールの混液に溶解した溶液をトップスプレー法でコーティングし(給気温度は70℃)、造粒物を製造する方法が記載されている。
そして、「転動流動層造粒機」は、「流動層造粒機」の一種であり、同一装置内で混合、造粒、乾燥の操作を行うものであって(要すれば、(摘記2a)、(摘記6a)、(摘記7b)を参照)、溶液をコーティングする工程を含む上記「実施例1」の造粒物の製造方法において、給気温度は70℃とされ途中で変更するものとはされていないから、造粒と同時に乾燥が行われていることは自明である。
そうすると、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明1-1」という。)が記載されているといえる。

≪引用発明1-1≫
「(A)イミダフェナシン、及び、コリドン90Fを、精製水とエタノールの混液に溶解させ、溶液を製造する工程、
(B1)転動流動層造粒機により、スターチ1500Gに、上記溶液をトップスプレー法によりコーティングして、造粒と同時に乾燥する工程
を含む、イミダフェナシンを含有する造粒物の製造方法。」

(2)引用発明1-2

(摘記1f)によれば、引用文献1(「実施例5」の前半)には、「スターチ1500G」と「セオラス PH-301」を「流動層造粒機」に仕込み、イミダフェナシンと「コリドン90F」とを精製水およびエタノールの混液に溶解した溶液を、トップスプレー法でコーティングし、造粒物を製造する方法が記載されている。
そして、「流動層造粒機」は、同一装置内で混合、造粒、乾燥の操作を行うものであって(前記(1)を参照)、溶液をコーティングする工程を含む上記「実施例5」の造粒物の製造方法において、給気温度は70℃とされていて途中で変更するものとはされていないから、上記「実施例5」の造粒物の製造方法において造粒と同時に乾燥が行われていることは自明である。
そうすると、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明1-2」という。)も記載されているといえる。

≪引用発明1-2≫
「(A)イミダフェナシン、及び、コリドン90Fを、精製水とエタノールの混液に溶解させ、溶液を製造する工程、
(B2)流動層造粒機により、スターチ1500G及びセオラス PH-301に、上記溶液をトップスプレー法によりコーティングして、造粒と同時に乾燥する工程
を含む、イミダフェナシンを含有する造粒物の製造方法。」

(3)引用発明1-3

(摘記1c)の段落【0014】において「オイドラギットEPO」が「胃溶性高分子」の具体例として記載されていることからみて、(摘記1e)の段落【0023】における「別に、胃溶性高分子、オイドラギットEPO(Rohm GmbH Co. KG)60g、ステアリン酸マグネシウム(植物性)(太平化学産業)30gを精製水273g、エタノール637gの混液に溶解した。」との記載は、「胃溶性高分子」として「オイドラギットEPO(Rohm GmbH Co. KG)」を用いたことを意味するものと解される。
(摘記1e)の段落【0023】の記載より、引用文献1(「実施例1」の後半)には、前記(1)の製造方法で得られたイミダフェナシンを含有する造粒物を「転動流動層造粒機」に仕込み、「オイドラギットEPO」と「ステアリン酸マグネシウム(植物性)」を精製水とエタノールの混液に溶解した溶液を、トップスプレー法によりコーティングし、コーティング被覆顆粒を得た後、さらに、このコーティング被覆顆粒に、「ペアリトール」、「コリドンCL-F」、「カープレックス#67」及び「ステアリン酸マグネシウム」を加えて混合し、得られた混合物を打錠して、1錠あたりイミダフェナシン0.1mgを含む錠剤を製造したことが記載されている。
そうすると、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明1-3」という。)も記載されているといえる。

≪引用発明1-3≫
「(A)イミダフェナシン、及び、コリドン90Fを、精製水とエタノールの混液に溶解させ、溶液を製造する工程、
(B1)転動流動層造粒機により、スターチ1500Gに、上記溶液をトップスプレー法によりコーティングして、造粒と同時に乾燥する工程、
(C1)上記工程(B1)で得られた造粒物を、転動流動層造粒機により、オイドラギットEPOとステアリン酸マグネシウム(植物性)を精製水とエタノールの混液に溶解した溶液をトップスプレー法によりコーティングする工程、
(D1)上記工程(C1)で得られた、イミダフェナシンを含有するコーティング被覆顆粒に、ペアリトール、コリドンCL-F、カープレックス#67及びステアリン酸マグネシウムを加えて混合し、混合物を製造する工程、および
(E)上記工程(D1)で得られた混合物を打錠する工程
を含む、1錠あたりイミダフェナシンを0.1mg含有する錠剤の製造方法。」

(4)引用発明1-4

(摘記1f)の記載より、引用文献1(「実施例5」の後半)には、前記(2)の製造方法で得られた造粒物を「流動層造粒機」に仕込み、「オイドラギットEPO」と「ステアリン酸マグネシウム(植物性)」を精製水とエタノールの混液に溶解した溶液を、トップスプレー法によりコーティングし、コーティング顆粒を得た後に、さらに、このコーティング顆粒を、「ペアリトール」、「コリドンCL-F」、「カープレックス#67」及び「ステアリン酸マグネシウム」を加えて混合し、得られた混合物を打錠して、1錠あたりイミダフェナシン0.1mgを含む錠剤を製造したことが記載されている。
そうすると、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明1-4」という。)も記載されているといえる。

≪引用発明1-4≫
「(A)イミダフェナシン、及び、コリドン90Fを、精製水とエタノールの混液に溶解させ、溶液を製造する工程、
(B2)流動層造粒機により、スターチ1500G及びセオラス PH-301に、上記溶液をトップスプレー法によりコーティングして、造粒と同時に乾燥する工程、
(C2)上記工程(B2)で得られた造粒物を、流動層造粒機により、オイドラギットEPOとステアリン酸マグネシウム(植物性)を精製水とエタノールの混液に溶解した溶液をトップスプレー法によりコーティングする工程、
(D2)上記工程(C2)で得られた、イミダフェナシンを含有するコーティング顆粒に、ペアリトール、コリドンCL-F、カープレックス#67及びステアリン酸マグネシウムを加えて混合し、混合物を製造する工程、および
(E)上記工程(D2)で得られた混合物を打錠する工程
を含む、1錠あたりイミダフェナシンを0.1mg含有する錠剤の製造方法。」

4 本件発明についての判断

(1)本件発明2について

事案に鑑み、先に本件発明2について検討する。

ア 対比

本件発明2と引用発明1-1とを対比する。
引用発明1-1における「コリドン90F」は、(摘記1d)によれば、「ポビドン」であり、本件明細書の(摘記オ)の段落【0015】に「薬学的に許容される結合剤」として例示されているものであるから、本件発明2の「薬学的に許容される結合剤」に相当する。
引用発明1-1における「精製水とエタノールの混液」は、本件発明2における「精製水、エタノール並びに精製水およびエタノールの混合溶媒からなる群から選ばれる溶媒」に相当する。
引用発明1-1における「スターチ1500G」は、(摘記1d)によれば、「部分α化デンプン」であり、(摘記1c)に、好適な「賦形剤」として挙げられているものであり、本件明細書の(摘記オ)の段落【0013】に「薬学的に許容される賦形剤」として「部分アルファー化デンプン」が例示されているから、本件発明2における「1または2以上の薬学的に許容される賦形剤」に相当する。
そして、引用発明1-1における「スターチ1500Gに、溶液をトップスプレー法によりコーティングして、造粒」することは、本件発明2における「1または2以上の薬学的に許容される賦形剤に上記溶液または懸濁液を添加し、造粒物を製造」することに相当する。
そうすると、本件発明2と引用発明1-1との一致点及び相違点は、次のとおりである。

<一致点>
「(i)イミダフェナシンおよび薬学的に許容される結合剤を精製水、エタノール並びに精製水およびエタノールの混合溶媒からなる群から選ばれる溶媒に溶解または懸濁させ、溶液または懸濁液を製造する工程、
(ii)' 1または2以上の薬学的に許容される賦形剤に上記溶液または懸濁液を添加し、造粒物を製造する工程、
を含む、イミダフェナシンを含有する造粒物の製造方法。」

<相違点ア>
本件発明2の造粒物の製造方法は、
「(ii)攪拌させた1または2以上の薬学的に許容される賦形剤に上記溶液または懸濁液を添加し、造粒物を製造する工程、および
(iii)上記造粒物を乾燥する工程
を含む、攪拌造粒法による」
ものであって、造粒の後に乾燥を行う「攪拌造粒法」によるものであるのに対し、引用発明1-1の造粒物の製造方法は、
「(B1)転動流動層造粒機により、賦形剤に上記溶液を添加して、造粒と同時に乾燥する工程
を含む」
ものであって、造粒と乾燥とを同時に行う「転動流動造粒法」によるものである点。

イ 判断

(ア)相違点アについて

固形医薬製剤を製造する際の造粒法として、「攪拌造粒法」と、「転動流動層造粒法」や「流動層造粒法」とは、いずれも周知慣用の方法であって、溶媒を添加した溶液を用いる湿式造粒法である点で共通している(例えば、(摘記2a)及び(摘記6a)を参照)。
そして、(摘記1b)のとおり、引用文献1には、イミダフェナシン含有造粒物を製造する方法として、「攪拌造粒法」が、「転動流動層造粒法」及び「流動層造粒法」とともに、いずれも当業者に自明な方法として並列して記載されており、これらの造粒方法によって、イミダフェナシン含有造粒物を容易に製造できることも記載されている。
そうすると、引用発明1-1の造粒物の製造方法において、転動流動層造粒機を用いた造粒法に代えて、同じく周知の湿式造粒法であって、引用文献1にも「転動流動層造粒法」と置換可能な容易に製造することができる方法として並列して記載されている、「攪拌造粒法」を採用し、本件発明2における上記の工程(ii)及び工程(iii)の条件を満たすような製造方法とすることは、当業者ならば容易になし得たことである。

(イ)本件発明2の効果について

(a)
本件明細書には、【発明の効果】として、「本発明によれば、攪拌造粒法を用いることで、製剤中のイミダフェナシンの光安定性が優れた製剤を製造することができる」と記載されている((摘記エ)【0009】)。
そして、本件明細書には、造粒物の具体的な製造例として、「実施例1」(攪拌造粒法)、「比較例1」(乾式造粒法)、及び「比較例3」(流動層造粒法)の3例のみが記載され((摘記キ)【0025】、【0027】、【0029】)、製剤の具体的な製造例として、上記の「実施例1」、「比較例1」及び「比較例3」の3つの製造例で得られた造粒物から、それぞれ錠剤を製造した「実施例2」、「比較例2」及び「比較例4」の3例のみが記載され((摘記キ)【0026】、【0028】、【0030】)、これらの造粒物の3つの製造例及び錠剤の3つの製造例について、「含量均一性試験」及び「光安定性試験」を行った方法及び結果が記載されている((摘記ク)【0031】?【0039】)。

(b)
本件訂正後の請求項2の記載によれば、本件発明2は、溶液または懸濁液を製造する工程(i)において、「イミダフェナシン」とともに「薬学的に許容される結合剤」を「エタノール並びに精製水およびエタノールの混合溶媒からなる群から選ばれる溶媒」に溶解または懸濁させることを特定する一方で、造粒物を製造する工程(ii)において、上記工程(i)で製造した溶液または懸濁液を添加する対象である攪拌させた成分については、「薬学的に許容される結合剤」を含むものとはしていない。
これに対して、本件明細書に記載された上記「実施例1」の造粒物の製造方法は、攪拌造粒法によるものではあるが、溶液を作製する工程において、溶媒であるエタノール及び精製水に、イミダフェナシンのみを溶解させており、「薬学的に許容される結合剤」に該当する成分を溶解させておらず、また、ハイスピードミキサーを用いた練合の工程においては、「薬学的に許容される結合剤」に該当する「ヒドロキシプロピルセルロース」及び「結晶セルロース」((摘記オ)【0015】)に、上記溶液を添加しているから、本件発明2における上記工程(i)及び工程(ii)の条件を満たしておらず、本件発明2の造粒物の製造法の実施例に該当しないものである。
また、本件明細書には、その他に本件発明2の造粒物の製造方法の実施例に相当するといえるような具体的な記載は認められない。
そうすると、本件明細書に記載された上記「実施例1」の製造例で得られた造粒物及び当該造粒物を用いた「実施例2」の製造例で得た錠剤についての「含量均一性試験」及び「光安定性試験」の結果に基づいて、本件発明2の造粒物の製造方法の効果を確認することはできず、本件明細書の記載からは、その他に本件発明2が予測し得ない程の顕著な効果を奏したと認めるに足る根拠も見いだせない。

(c)
以上のとおり、本件明細書には本件発明2の造粒物の製造方法の実施例に該当する具体的な製造例が記載されていないから、本件発明2の効果を確認することはできず、本件発明2が、「攪拌造粒法」を採用したことにより、当業者が予測し得ない程の格別な効果を奏したものとは認められない。

ウ 特許権者の主張について

特許権者は、平成31年3月29日付け取消理由通知に対して、令和1年5月31日に提出した意見書、及び、令和1年10月3日付け取消理由通知(決定の予告)に対して、令和1年12月6日に提出した意見書において、概ね以下の(ア)及び(イ)の主張をしている。

(ア)攪拌造粒法を採用することの困難性・阻害要因についての主張

「転動流動層造粒法」及び「流動層造粒法」は、同一装置内で混合、造粒及び乾燥の3種の単位操作を行うことができる利点を有する造粒方法であって、造粒装置の下部から熱風を送り込みながら、粉末に造粒液体を噴霧し、乾燥させながら凝集または被覆させることにより粒状物に成長させる方法であり、粉末に下方から上流へ熱風を当てて、水分を蒸発させながら造粒する方法である。
これに対し、「攪拌造粒法」は、一般的に造粒工程と乾燥工程とを分けて造粒物を製造する方法であり、攪拌造粒機等の中で、水等の溶媒と、有効成分、結合剤及び賦形剤等の粉末を混合することにより、大きな粒状物(造粒物)を調製し、その後、流動乾燥機や棚式乾燥機等の乾燥機に造粒物を投入し、湿った造粒物を熱風等で一気に加温し、乾燥する方法である。
令和1年5月31日提出の意見書に添付して提出した乙第1号証(ウリトス錠0.1mg インタビューフォーム 2011年11月改訂(第7版)、以下「乙1」という。)の5頁に記載されるように、本件特許出願前に、イミダフェナシンは加水分解して不純物を生成することが知られていた。
また、例えば、令和1年12月6日提出の意見書に添付して提出した乙第3号証(脇山尚樹「医薬品の安定性と有効期間」マテリアルライフ(1991年)3巻2号104?109頁、以下「乙3」という。)の105頁に、「加水分解反応の防止としては,・・・(略)・・・,また固体の場合にはその原因となる水分を除去することが重要である。」と記載されている。
単一の工程で造粒と乾燥とを同時に行う「転動流動層造粒法」や「流動層造粒法」は、絶えず造粒物を乾燥(水分を除去)しているため、加水分解のリスクが低い製法と位置づけられるのに対して、造粒と乾燥とを別々に行う「攪拌造粒法」は、有効成分及び種々の添加剤が水分に晒されている期間が存在するため、加水分解のリスクが高い製法といえる。
さらに、加水分解のリスクだけではなく、作業性の面からみても、単一の工程よりも複数の工程を要する「攪拌造粒法」に煩わしさがあることは明白である。
そうすると、加水分解の可能性がある有効成分であるイミダフェナシンを含有する造粒物を製造する際の方法として、加水分解のリスクが高く、しかも複数の工程を要し煩わしい「攪拌造粒法」を採用することには、阻害要因がある。
また、引用文献1の段落【0013】には、イミダフェナシン含有造粒物の製造方法として、「攪拌造粒法」と並列して「乾式造粒法」も例示されているが、本件明細書に記載された「比較例1」(乾式造粒法)で製造された造粒物は光に対して不安定であったことから、光安定性等の品質変化は全く予想できないことは明らかであり、「攪拌造粒法」に着目して採用する動機付けがあるとはいえない。
加えて、引用文献1に記載された方法は、引用文献1の段落【0014】に、「イミダフェナシン含有造粒物及びイミダフェナシン粒子は、光安定化のためコーティング剤で被覆する。」と記載され、既に造粒されたイミダフェナシン含有造粒物の表面に更にポビドン等をコーティングすることにより光安定性が向上するというものであり、本件発明は、引用文献1に記載された発明とは、全く別の製造原理であるから、引用文献1における製造方法の例示をもって、本件発明とする動機づけがあるとはいえない。

(イ)本件発明の顕著な効果についての主張

造粒物の製造方法において、結合剤をどの段階で添加するかは当業者が適宜設定できる事項であるから、その違い(結合剤を練合工程で後から添加する「実施例1」の製造方法と、結合剤を溶液製造工程で先に添加する本件発明2の製造方法との違い)による差は、通常大きなものではないと考えられる。それと比較して、造粒方法の違いによる差は大きなものであると考えられるので、本件発明で奏される顕著な効果は、「攪拌造粒法」を採用したことによるものである。
医薬品の光安定性試験は、令和1年12月6日提出の意見書に添付して提出した乙第4号証(「新原薬及び新製剤の光安定性試験のガイドラインについて」(平成9年5月28日)、以下「乙4」という。)のガイドラインにしたがって行われることが推奨されているから、本件明細書に記載された光安定性試験も、当然、同ガイドラインに則って、1ロットに20錠を用いて行った結果であり、20錠分をまとめて測定しているため、錠剤個々のばらつきの概念はなく、有意差検定をしていなくとも、造粒物(「実施例1」と「比較例3」)と錠剤(「実施例2」と「比較例4」)ともに「流動層造粒法」のほうが不純物量が多いことから、「攪拌造粒法」による光安定化効果は明らかである。
前記乙1の11頁の記載によれば、イミダフェナシンの最大1日投与量は0.4mgであることが、本件特許出願前に知られており、令和1年5月31日提出の意見書に添付して提出した乙第2号証(「新有効成分含有医薬品のうち製剤の不純物に関するガイドライン」(平成15年6月2日改訂)、以下「乙2」という。)の別紙1によれば、イミダフェナシンの分解生成物に関し、報告が必要とされる閾値は、0.1%となり、構造決定及び安全性確認が必要な閾値は、1.0%となる。
即ち、イミダフェナシンの分解生成物に関する閾値は、0.1%、1.0%と微量であり、仮に1.0%を超えた場合には、不純物の安全性の確認をしなくてはならないから、非臨床試験及び臨床試験が必要となる。
そのような不純物の安全性の確認という、費用も時間も要する作業を回避するためには、少なくとも不純物が1.0%以下となるような品質管理をすることが求められる。
医薬品の不純物量は、1.0%未満であれば問題ないというのではなく、むしろ、1.0%という微量の不純物でさえも医薬品分野では問題となると理解するのが適切であり、乙2のガイドラインにも記載されているとおり、0.1%以上の分解物量は報告が必要な量であることからも、0.1%の差は当業者にとって重要な数値といえるから、光安定性試験開始時の「実施例1」の造粒物と「比較例3」の造粒物での差が0.4%であり、光安定性試験開始時の「実施例2」の錠剤と「比較例4」の錠剤での差が0.3%であることは、顕著な差と評価すべきである。
そして、通常、医薬品は自然光や蛍光灯などの可視光がある中で製造するため、その過程の光安定性も重要であり、光安定性に優れた製剤の製造方法には、製造時の光安定性も含まれるので、光安定性試験の開始時の不純物量も効果の裏付けになるものである。
また、本件明細書に記載された光安定性試験の条件は、4000ルクス×約14日間であるのに対して、引用文献1に記載された光安定性試験の条件は、4500ルクス×約12日間であり、照射量も期間も異なる両者を比較することは適切でない。
さらに、引用文献1に記載の発明は、「転動流動造粒法」によりスターチ1500Gにイミダフェナシンを含有する溶液をトップスプレー法でコーティングすることでイミダフェナシン含有造粒物とし、さらに、この造粒物をポビドンや胃溶性高分子でコーティングすることでコーティング被膜顆粒を得て、それを圧縮した口腔内崩壊錠が、光安定性に優れる、というものであるのに対し、本件発明は、口腔内崩壊錠ではないから、処方成分も異なり、全体からみても製剤学的な形態が全く異なり、引用文献1された発明と比較することは誤りである。

しかしながら、特許権者の上記主張(ア)及び(イ)は、いずれも失当であり採用できない。その理由は次のとおりである。

(ウ)特許権者の主張(ア)について

乙1の5頁には、イミダフェナシンの強制分解による生成物として、その分子中のアミド基がカルボキシル基に変換された化合物(PSA-402)が、溶液中での加水分解生成物として認められたことが記載されているが、そもそも、引用発明1-1における「転動流動層造粒法」でも、本件発明における「攪拌造粒法」でも、イミダフェナシンは、大量の水に晒される含水溶媒に溶解又は懸濁させた状態で造粒工程に供されているから、加水分解の問題が如何ほど懸念されるものであったのかは明らかでない。
仮に、湿式造粒の工程において、イミダフェナシンの加水分解が生じ得るとしても、有機化合物の加水分解は、水との接触時間とともに、温度の影響も受けるものであり、温度が高いほど加水分解が促進されることは技術常識であるところ、「転動流動層造粒法」や「流動層造粒法」では、粉体及び造粒液体が熱風に晒されるため(引用発明1-1では、給気温度は70℃)、イミダフェナシンは、水分に晒される時間は短くても、むしろ加水分解が促進することが懸念されるといえるから、乾燥の工程でイミダフェナシンが水分に晒される時間が長くなることが、「攪拌造粒法」を採用する阻害要因となるとはいえない。
乙3には、加水分解に関する一般論が記載されているものの、水に晒される時間や温度と加水分解の進行との関係についての記載は見いだせず、乙3の記載は、「転動流動層造粒法」及び「流動層造粒法」と比較して「攪拌造粒法」のほうが加水分解のリスクが高いとする、特許権者の主張の根拠とはなり得ない。
また、「攪拌造粒法」は、「転動流動層造粒法」及び「流動層造粒法」と同様に、周知慣用の造粒法であり、当業者が適宜選択し得るものに過ぎないものであるから、若干の工程数の多さが、その採用を妨げる程の要因となるとはいえないし、「乾式造粒法」で製造された造粒物が光に対して結果的に不安定であったからといって、「攪拌造粒法」を採用することの動機が阻害されるわけでもない。
さらに、引用発明1-1は、あくまでイミダフェナシンを含有する造粒物の製造方法についての発明であり、イミダフェナシンを含有する造粒物を光安定化のためコーティング剤で被覆する工程までも含むものではないから、本件発明と全く別の製造原理の発明であるとはいえない。
そして、前記イ(ア)で説示したとおり、引用文献1には、イミダフェナシン含有造粒物の製造方法として、「攪拌造粒法」が「転動流動層造粒法」及び「流動層造粒法」とともに、当業者に自明な方法として並列して記載されており、これらの造粒方法により、イミダフェナシン含有造粒物を容易に製造できることが記載されているから、引用発明1-1において、「転動流動層造粒機」を用いた造粒法に代えて、「攪拌造粒法」を採用することは、当業者ならば容易になし得たことである。

(エ)特許権者の主張(イ)について

(a)
特許権者が主張するように、結合剤を練合工程で後から添加する「実施例1」の製造方法と、結合剤を溶液製造工程で先に添加する本件発明2の製造方法との違いによる差は、大きなものではないと仮定して、念のため、「実施例1」の製造例で得られた造粒物及び「実施例2」の製造例で得られた錠剤と、「比較例1」及び「比較例3」の製造例で得られた造粒物並びに「比較例2」及び「比較例4」の製造例で得られた錠剤とを、「含量均一性試験」及び「光安定性試験」の結果に基づいて比較することにより、「攪拌造粒法」を採用した本件発明2の効果について、以下、検討する。
なお、後述するように、「実施例1」の造粒物の製造例は、本件発明1及びこれを引用する本件発明3の造粒物の製造方法の具体例に該当するものであり、「実施例2」の錠剤の製造例は、本件発明4?6の錠剤の製造方法のうち、本件発明1及びこれを引用する本件発明3を引用する錠剤の製造方法に該当するものである。
また、「実施例1」は、前記イ(イ)(b)で既述のとおり、溶液の作製の工程と、ハイスピードミキサーを用いた練合の工程を有する、「攪拌造粒法」によるものである。
「比較例1」は、溶媒を添加した溶液を用いないで造粒を行う「乾式造粒法」によるものである。
「比較例3」は、イミダフェナシンのエタノール・精製水の溶液に、さらにヒドロキシプロピルセルロースを溶解し、結合液を作製する工程と、結晶セルロースと部分アルファー化デンプンとを混合したものに、「ニューマルメライザー(商品名)(NQ-160、不二パウダル)」を用い、結合液を噴霧して造粒する工程を有する、「流動層造粒法」によるものである。
そして、前記イ(ア)で既述のとおり、上記「実施例1」における「攪拌造粒法」と、上記「比較例3」における「流動層造粒法」は、いずれも溶媒を添加した溶液を用いて造粒を行う「湿式造粒法」である点で共通する。

(b)
本件明細書の(摘記ク)の段落【0035】【表1】には、「実施例1」、「比較例1」及び「比較例3」の、3つの造粒法によって得られた造粒物について、それぞれ「含量均一性試験」と「光安定性試験」の結果が記載されている。
造粒の際に溶液を使用しない「乾式造粒法」である「比較例1」については、「含量均一性試験」の結果も、「光安定性試験」の光線照射後の不純物増加の結果も、「実施例1」(攪拌造粒法)及び「比較例3」(流動層造粒法)と比べて大きく劣っているが、「湿式造粒法」である点で共通する「実施例1」と「比較例3」との間では、結果に顕著な差があるとはいえない。
具体的には、「光安定性試験」における不純物の割合が、「実施例1」では、試験開始時の0.1%から、光線照射後の20.1%へと、20.0%増加しているのに対して、「比較例3」では、試験開始時の0.5%から、光線照射後の21.8%へと、21.3%増加している。
「実施例1」と「比較例3」との間において、不純物の割合の測定値の差は、試験開始時では0.4%、光線照射後では1.7%であり、光線照射による不純物の増加量の差は1.3%であり、いずれも大きな値ではないし、測定値自体が約20%であるところ、その数%程度の差に過ぎないうえ、そもそも、この光安定性試験はサンプル数もサンプル間のばらつきも不明であることを考慮すれば、上記の数値に有意差があるといえるのかも明らかでない。
また、「含量均一性試験」の結果については、「実施例1」の0.8%に対して、「比較例3」の1.9%は、数値としては倍の開きがあるものの、測定値自体が2%未満と小さいうえ、10セットの測定をしたとされているところ(段落【0031】)、セット間のばらつきも不明であるため、0.8%と1.9%との差を、予測できない程の顕著なものと評価することはできない。

(c)
本願明細書の(摘記ク)の段落【0038】【表2】には、上記3つの造粒法で得た造粒物を用い、それぞれ製造した錠剤(「実施例2」、「比較例2」、「比較例4」)について、「光安定性試験」の結果が示されているが、前記【表1】に示された光安定性試験の結果と概ね同様の傾向であって、「実施例1」(攪拌造粒法)の造粒物から製造した「実施例2」の錠剤が、「比較例3」(流動層造粒法)の造粒物から製造した「比較例4」の錠剤と比較して、顕著な効果を奏したとは認められない。
具体的には、不純物の割合が、「実施例2」では、試験開始時の0.3%から、光線照射後の9.4%へと、9.1%増加しているのに対して、「比較例4」では、試験開始時の0.6%から、光線照射後の10.4%へと、10.1%増加している。
「実施例2」と「比較例4」との間において、不純物の割合の測定値の差は、試験開始時では0.3%、光線照射後では1.3%であり、光線照射による不純物の増加量の差は1.0%であり、いずれも大きな値ではないし、上述したとおり、そもそも、この光安定性試験はサンプル数もサンプル間のばらつきも不明であることを考慮すれば、上記の数値に有意差があるといえるのかも明らかでない。

(d)
上記(b)及び(c)のとおり、本件発明2の造粒物の製造方法により製造した造粒物及び当該造粒物から製造した錠剤が、「実施例1」の製造例で得られた造粒物及び当該造粒物を用いた「実施例2」の製造例で得た錠剤と、「含量均一性試験」及び「光安定性試験」において同等程度の効果を奏すると仮定したとしても、いずれも湿式造粒法である「攪拌造粒法」と「流動層造粒法」により、それぞれ製造された造粒物及び錠剤についての光安定性試験等の結果からみて、「攪拌造粒法」を採用した場合に、予測し得ない程の格別の効果が奏されたとは認められない。

(e)
前記(b)及び(c)で指摘したとおり、そもそも本件明細書に記載された光安定性試験は、サンプル数もサンプル間のばらつきも不明であり、実施例と比較例の間の数値の差に有意差があるといえるかさえ明らかでない。この点について、特許権者は、同試験は、乙4のガイドラインに則り、1ロットに20錠を用いて行った結果である旨を主張しているが、本件明細書には、例えば、含量均一性試験については、「第十六改正日本薬局方の含量均一性試験に準じて含量均一性試験を実施した。」(段落【0031】)との記載があるのに対し、光安定性試験については、光の照射条件以外のサンプルの取り扱いに関する記載は一切なく、乙4のガイドラインに則り試験が実施されたと推認し得る根拠となるような記載もない。

(f)
特許権者は、1.0%という微量の不純物でさえも医薬品分野では問題となること、0.1%の差は当業者にとって重要な数値といえることなども、縷々主張するが、本件明細書に記載された光安定性試験では、光照射後の不純物の含有量は、「実施例1」の造粒物で「20.1%」、「実施例2」の錠剤で「9.4%」、という高い値であるから、比較例の不純物の含有量との間に1.0%前後の僅かな差があることをもって、本件発明が光安定性の点で顕著な効果を奏したものとは認められない。

(g)
また、特許権者が本件発明の顕著な効果の根拠として主張する造粒物及び錠剤が含有する不純物の量は、いずれも光安定性試験の開始時(光線照射前)の数値であり、光線照射後のものでないから、本件明細書(特に段落【0009】)に記載された「光安定性が優れた」という効果の裏付けにはならず、特許権者の主張は、本件明細書の効果の記載に基づいたものではない。この点について、特許権者は、医薬品は自然光や蛍光灯等の可視光がある中で製造するため、その過程での光安定性も重要であって、光安定性試験の開始時の不純物量も効果の裏付けになる旨を主張するが、本件明細書には、本件発明における光安定性に、そのような製造時のものまでが含まれることを認識できるような記載は見いだせない。

(h)
なお、引用文献1の段落【0037】【表1】には、イミダフェナシンを含む錠剤について、本件明細書に記載された光安定性試験とほぼ同様の試験を行った結果が記載されており、比較例3を除いた全ての実施例と比較例の錠剤において、光線照射後の分解物(不純物)の量が「7.7%以下」となっているのに対し、本件明細書に記載された「実施例2」の錠剤では、光線照射後の不純物の量が「9.4%」であることからみても、本件発明の製造方法が何ら顕著な効果を有するものでないことは明らかである。
さらに、引用文献1に記載された上記【表1】には、光線照射前の分解物(不純物)の量も示されており、全ての実施例及び比較例において検出無し(N.D)ないし0.3%以下であって、例えば、「転動流動層造粒法」で得られた「実施例1」の錠剤では「0.1%」、「流動層造粒法」で得られた「実施例2」の錠剤では「0.3%」とされているから、製造時の不純物の生成抑制の点を参酌したとしても、本件発明の製造方法は、引用文献1に記載の製造方法と比較して、何ら予測し得ない程の顕著な効果を奏したものとはいえない。
特許権者は、引用文献1の光安定性試験と本件明細書の光安定性試験との条件の違い等も主張しているが、特許権者が提出した乙4から省かれている頁も含む「新原薬及び新製剤の光安定性試験ガイドライン」の全文(甲5)には、「(3)試験の実施方法」という項目があり、そこには、『光安定性を確証するための試験(以下「確証試験」という。)では,・・・(略)・・・,試料を,総照度として120万lux・hr以上及び総近紫外放射エネルギーとして200W・h/m^(2)以上の光に曝さなければならない。』と記載されているところ、引用文献1と本件明細書に記載された光安定性試験の総照度を概算すると、
引用文献1: 4500(lux)*12(日)*24(hr/日)≒130万(lux・hr)
本件明細書: 4000(lux)*14(日)*24(hr/日)≒134万(lux・hr)
となり、いずれの試験でも、総照度は、上記ガイドラインに記載された指標である120万lux・hrを超える、130万lux・hr以上の照度であって、両試験の照度の差は4万lux・hr(総照度の3%程度)に過ぎないから、両試験の条件はほぼ同様であり、両者を比較することは適切でないとする特許権者の主張は失当である。

(i)
特許権者は、引用文献1に記載の発明は口腔内崩壊錠であるのに対し、本件発明は口腔内崩壊錠ではないから、両者を比較することは誤りである旨も主張しているが、引用発明1-1も、本件発明1?3も、錠剤の製造に供する前の造粒物の製造方法に係る発明であるから、特許権者の主張は失当である。

エ 小括

本件発明2は、引用文献1に記載された発明及び周知技術に基いて、本件特許出願前に当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2)本件発明1について

ア 対比

本件発明1と引用発明1-2とを、前記(1)アの本件発明2と引用発明1-1との対比結果も併せて対比すると、引用発明1-2における「セオラス PH-301」は、(摘記1d)より、「結晶セルロース」であって、(摘記1c)に好適な賦形剤として記載されており、本件明細書の(摘記オ)の段落【0013】に「薬学的に許容される賦形剤」として例示されているものであるから、「スターチ1500G」とともに、本件発明1における「薬学的に許容される賦形剤」に相当する。
そうすると、両者の一致点及び相違点は、次のとおりである。

<一致点>
「(i)' イミダフェナシンを精製水、エタノール並びに精製水およびエタノールの混合溶媒からなる群から選ばれる溶媒に溶解または懸濁させ、溶液または懸濁液を製造する工程、
(ii)'' 1または2以上の薬学的に許容される賦形剤に上記溶液または懸濁を添加し、造粒物を製造する工程、
を含む、イミダフェナシンを含有する造粒物の製造方法。」

<相違点ア' >
本件発明1の造粒物の製造方法は、
「(ii)攪拌させた1または2以上の薬学的に許容される賦形剤および薬学的に許容される結合剤に上記溶液または懸濁液を添加し、造粒物を製造する工程、および、
(iii)上記造粒物を乾燥させる工程
を含む、攪拌造粒法による」
ものであって、造粒の後に乾燥を行う「攪拌造粒法」によるものであるのに対し、引用発明1-2の造粒物の製造方法は、
「(B2)流動層造粒機により、賦形剤に上記溶液を添加して、造粒と同時に乾燥する工程
を含む」
ものであって、造粒と乾燥とを同時に行う「流動層造粒法」によるものである点。

<相違点イ>
本件発明1の方法は、結合剤を、賦形剤とともに攪拌させ、そこにイミダフェナシンを溶解または懸濁させた溶液または懸濁液を添加するのに対し、引用発明1-2の方法は、結合剤(コリドン90F)をイミダフェナシンとともに溶媒中に溶解させる点。

イ 判断

(ア)相違点イについて

事案に鑑み、先に<相違点イ>について検討する。
引用発明1-2の造粒物の製造方法は、造粒の工程において、結合剤を、賦形剤とともに流動層造粒装置に仕込むのではなく、予めイミダフェナシン溶液に添加して溶解させたものである。
造粒物の製造方法において、結合剤を用いる場合に、どの段階で添加するかは当業者が適宜設定できる事項に過ぎず、原料粉末を付着させ粒子にする際に、造粒液や結合液等と呼ばれる溶媒を使用する湿式造粒法においては、結合剤を造粒液に添加してもしなくてもよいということは、本件特許出願前に周知である(例えば、(摘記3a)、(摘記4a)、(摘記5a)?(摘記5b)を参照)。
そうすると、上記の引用発明1-2の造粒物の製造方法において、結合剤を、予めイミダフェナシン溶液に添加することに代えて、賦形剤とともに、造粒装置に仕込むものとすることは、当業者が容易になし得ることである。

(イ)相違点ア' について

<相違点ア' >は、要するに、本件発明1は「攪拌造粒法」を用いるのに対し、引用発明1-2は「流動層造粒法」を用いる、というものであるが、前記(1)イ(ア)で説示したとおり、「攪拌造粒法」と「流動層造粒法」とは、いずれも周知の造粒法であって、湿式造粒法である点で共通し、引用文献1にも、イミダフェナシン含有造粒物を製造する際の方法として、「攪拌造粒法」が、「流動層造粒法」とともに、当業者に自明な方法として並列して記載されており、これらの造粒方法によってイミダフェナシン含有造粒物を容易に製造できることが記載されている。
そうすると、引用発明1-2の造粒物の製造方法において、流動層造粒機を用いた造粒法に代えて、同じく周知の湿式造粒法であり、引用文献1にも「流動層造粒法」と置換可能な容易に製造することができる方法として並列して記載されている、「攪拌造粒法」を採用し、本件発明1における上記の工程(ii)及び工程(iii)の条件を満たすような製造方法とすることは、当業者ならば容易に想到し得たことである。

(ウ)本件発明1の効果について

前記(1)ウ(エ)(a)?(d)で説示したとおり、本件明細書に記載された、本件発明1の造粒物の製造方法の具体例に該当する、「実施例1」(攪拌造粒法)により製造した造粒物、及び、「実施例1」(攪拌造粒法)の造粒物から製造した「実施例2」の錠剤は、それぞれ、比較例3(流動層造粒法)により製造した造粒物、及び、比較例3(流動層造粒法)の造粒物から製造した「比較例4」の錠剤と比較しても、予測し得ない顕著な効果を奏したものとは認められないから、本件発明1の効果は予測し得ない顕著なものであるとはいえない。

ウ 特許権者の主張について

特許権者の令和1年5月31日提出の意見書及び令和1年12月6日提出の意見書における主張は、本件発明1についての主張も含んでいると認められるところ、前記(1)ウの(ウ)及び(エ)(e)?(i)で説示したとおり、いずれも失当であり採用できない。

エ 小括

本件発明1は、引用文献1に記載された発明及び周知技術に基いて、本件特許出願前に当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)本件発明3について

本件発明3の製造方法は、本件発明1又は2の製造方法において、
「薬学的に許容される結合剤」を、「ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアルコールおよびポリビニルピロリドンからなる群から選ばれるもの」に、
「エタノール並びに精製水およびエタノールの混合溶媒からなる群から選ばれる溶媒」を、「精製水およびエタノールの混合溶媒」に、
「薬学的に許容される賦形剤」を、「部分アルファー化デンプンおよび/または結晶セルロース」に、
それぞれ限定して特定するものである。

前記(1)及び(2)で説示したとおり、引用発明1-1及び引用発明1-2の造粒物の製造方法は、結合剤として、「ポビドン」である「コリドン90F」を、溶媒として、「精製水とエタノールとの混液」を、賦形剤として、「部分α化デンプン」である「スターチ1500G」(及び「結晶セルロース」である「セオラス PH-301」)を、用いるものであるから、結局、本件発明3のうち本件発明2を引用するものと、引用発明1-1とは、前記<相違点ア>でのみ相違しており、本件発明3のうち本件発明1を引用するものと、引用発明1-2とは、前記<相違点ア' >及び前記<相違点イ>で相違している。

これらの相違点については、前記(1)イ(ア)並びに(2)(ア)及び(イ)にて判断を示したとおりであって、本件発明3の効果が予測し得ない顕著なものであるとはいえないことについても、前記(1)イ(イ)(c)?(f)にて判断を示したとおりである。

そして、特許権者の令和1年5月31日提出の意見書及び令和1年12月6日提出の意見書における主張は、本件発明3についての主張も含んでいると認められるところ、前記(1)ウで説示したとおり、いずれも失当であり採用できない。

したがって、本件発明3は、引用文献1に記載された発明及び周知技術に基いて、本件特許出願前に当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)本件発明4について

本件発明4は、本件発明1?3のいずれかの製造方法で得られたイミダフェナシンを含有する造粒物と、薬学的に許容される添加剤とを混合して混合粉末を製造し、その混合粉末を圧縮成型し、イミダフェナシンを0.1mg含有する錠剤を製造する方法である。

ア 本件発明2を引用する本件発明4について

(ア)対比

本件発明4の錠剤の製造方法のうち、本件発明2を引用するものと、引用発明1-3とを、前記(1)アの本件発明2と引用発明1-1との対比結果も併せて対比する。
(摘記1d)より、引用発明1-3における「ペアリトール」は「D-マンニトール」であり、「コリドンCL-F」は「クロスポビドン」であり、「カープレックス#67」は「含水二酸化ケイ素」であって、(摘記1c)より、これらの成分は、それぞれ「賦形剤」、「崩壊剤」及び「滑沢剤」である。また、引用発明1-3における「ステアリン酸マグネシウム」は、(摘記1c)より、「滑沢剤」である。そして、これらの成分は、いずれも本件発明4における「薬学的に許容される添加剤」に相当する(本件明細書の段落【0012】を参照)。
引用発明1-3における「打錠」は、錠剤を形成するための圧縮成型方法であるから、本件発明4における「圧縮成型」に相当する。
本件発明4において、錠剤のイミダフェナシンの含有量が0.1mgであることは、引用発明1-3も同じであるから、相違点とならない。
引用発明1-3における「オイドラギットEPO」は、(摘記1d)より、「アミノアルキルメタアクリレートコポリマーE」であって、(摘記1c)より、「胃溶性高分子」に該当する「コーティング剤」である。
引用発明1-3は、イミダフェナシンを含有する造粒物をコーティングしコーティング被覆顆粒としたものを、薬学的に許容される添加剤と混合し、その混合物を打錠するとしている。
一方、本件発明4は、本件発明2の製造方法で得られたイミダフェナシンを含有する造粒物と、薬学的に許容される添加剤とを混合し混合粉末を製造した後、当該混合粉末を圧縮成型するとしており、本件明細書全体の記載を見ても、造粒物の製造から圧縮成型の間に別の工程を経るものとはされておらず、コーティングについては、段落【0023】に、「錠剤をフィルムコーティング錠とする場合は、例えば、国際公開WO2001/034147に記載の方法により行うことができる」と記載されているから、造粒物と添加剤とは直接混合されるものと認められる。
したがって、引用発明1-3と本件発明4とは、イミダフェナシンを含有する造粒物を用い、薬学的に許容される添加剤と混合して混合物とし、その混合物を圧縮成型するという点においては、共通しているといえる。
そうすると、本件発明2を引用する本件発明4と引用発明1-3との一致点及び相違点は、次のとおりである。

<一致点>
「(i)イミダフェナシンおよび薬学的に許容される結合剤を精製水、エタノール並びに精製水およびエタノールの混合溶媒からなる群から選ばれる溶媒に溶解または懸濁させ、溶液または懸濁液を製造する工程、
(ii)' 1または2以上の薬学的に許容される賦形剤に上記溶液または懸濁液を添加し、造粒物を製造する工程、
を含む製造方法で得られた、
(iv)' イミダフェナシンを含有する造粒物を用い、薬学的に許容される添加剤と混合し混合物を製造する工程、および
(v)' 上記混合物を圧縮成型する工程
を含む、イミダフェナシンを0.1mg含有する錠剤の製造方法。」

<相違点ア''>
本件発明4の錠剤の製造方法は、イミダフェナシンを含有する造粒物が、
「(ii)攪拌させた1または2以上の薬学的に許容される賦形剤に上記溶液または懸濁液を添加し、造粒物を製造する工程、および
(iii)上記造粒物を乾燥する工程
を含む、攪拌造粒法による」
製造方法で得られたものであり、当該製造方法が造粒の後に乾燥を行う「攪拌造粒法」による工程を含むものであるのに対し、引用発明1-3の錠剤の製造方法は、イミダフェナシンを含有する造粒物が、
「(B1)転動流動層造粒機により、賦形剤に上記溶液を添加して、造粒と同時に乾燥する工程
を含む」
製造方法で得られたものであり、当該製造方法が造粒と乾燥とを同時に行う「転動流動造粒法」による工程を含むものである点。

<相違点ウ>
本件発明4の錠剤の製造方法は、イミダフェナシンを含有する造粒物と、薬学的に許容される添加物とを混合し混合粉末を製造する工程、即ち、造粒物と添加物とを直接混合する工程を含むものであるのに対し、引用発明1-3の錠剤の製造方法は、イミダフェナシンを含有する造粒物を、転動流動層造粒機により胃溶性高分子のコーティング剤でコーティングする工程を経た後、当該工程で得られたイミダフェナシンを含有するコーティング被覆顆粒に、薬学的に許容される添加剤を混合し、混合物を製造する工程を含むものである点。

(イ)判断

(a)相違点ア''について

<相違点ア''>は、本件発明2と引用発明1-1との<相違点ア>と実質的に同じことであるから、前記(1)イ(ア)で説示したのと同様の理由により、引用発明1-3の錠剤の製造方法において、転動流動層造粒機を用いた造粒法に代えて、「攪拌造粒法」を採用し、本件発明4における上記工程(ii)及び工程(iii)の条件を満たすような製造方法とすることは、当業者ならば容易になし得たことである。

(b)相違点ウについて

引用文献1の段落【0007】には、【発明が解決しようとする課題】として、「本発明は、・・・(略)・・・、光安定性に優れたイミダフェナシン含有口腔内速崩壊性錠剤を提供する。」と記載され、段落【0008】には、「本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、特定のコーティング剤で被覆したイミダフェナシン造粒物又はイミダフェナシン粒子を使用することにより、光安定性に優れるとともに、・・・(略)・・・、崩壊性に優れた口腔内速崩壊性錠剤が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。」と記載され、段落【0014】には、「イミダフェナシン含有造粒物及びイミダフェナシン粒子は、光安定化のためコーティング剤で被覆する。本発明で使用されるコーティング剤は、ポビドン又は胃溶性高分子である。」と記載されている。
そうすると、引用発明1-3の錠剤の製造方法において、胃溶性高分子のコーティング剤でコーティングする工程は、「光安定性に優れたイミダフェナシン含有口腔内速崩壊性錠剤を提供する」という課題の解決のための必須の技術手段であると認められ、当該コーティングの工程を経ないものとすることは、特段の事情がない限り、当業者が想起しないというべきである。
したがって、引用発明1-3の錠剤の製造方法において、コーティングの工程を経ることなく、造粒物と添加物とを直接混合し、本件発明4の錠剤の製造方法のように、得られたイミダフェナシンを含有する造粒物と、薬学的に許容される添加物とを混合し混合粉末を製造する工程とすることは、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。

イ 本件発明1を引用する本件発明4について

(ア)対比

本件発明4の錠剤の製造方法のうち、本件発明1を引用するものと、引用発明1-4とを、前記(2)アの本件発明1と引用発明1-2との対比結果及び前記ア(ア)の対比結果とも併せて対比すると、本件発明1を引用する本件発明4と引用発明1-4との一致点及び相違点は、次のとおりである。

<一致点>
「(i)' イミダフェナシンを精製水、エタノール並びに精製水およびエタノールの混合溶媒からなる群から選ばれる溶媒に溶解または懸濁させ、溶液または懸濁液を製造する工程、
(ii)'' 1または2以上の薬学的に許容される賦形剤に上記溶液または懸濁液を添加し、造粒物を製造する工程、
を含む製造方法で得られた、
(iv)'' イミダフェナシンを含有する造粒物を用い、薬学的に許容される添加剤と混合し混合物を製造する工程、および
(v)' 上記混合物を圧縮成型する工程
を含む、イミダフェナシンを0.1mg含有する錠剤の製造方法。」

<相違点ア'''>
本件発明4の錠剤の製造方法は、イミダフェナシンを含有する造粒物が、
「(ii)攪拌させた1または2以上の薬学的に許容される賦形剤および薬学的に許容される結合剤に上記溶液または懸濁液を添加し、造粒物を製造する工程、および、
(iii)上記造粒物を乾燥する工程
を含む、攪拌造粒法による」
製造方法で得られたものであり、当該製造方法が造粒の後に乾燥を行う「攪拌造粒法」による工程を含むものであるのに対し、引用発明1-4の錠剤の製造方法は、イミダフェナシンを含有する造粒物が、
「(B2)流動層造粒機により、賦形剤に上記溶液を添加して、造粒と同時に乾燥する工程
を含む」
製造方法で得られたものであり、当該製造方法が造粒と乾燥とを同時に行う「流動層造粒法」による工程を含むものである点。

<相違点イ' >
イミダフェナシンを含有する造粒物が、本件発明4の方法は、結合剤を、賦形剤とともに攪拌させ、そこにイミダフェナシンを溶解または懸濁させた溶液または懸濁液を添加して製造されるのに対し、引用発明1-4の方法は、結合剤(コリドン90F)をイミダフェナシンとともに溶媒中に溶解させて製造される点。

<相違点ウ' >
本件発明4の錠剤の製造方法は、イミダフェナシンを含有する造粒物と、薬学的に許容される添加物とを混合し混合粉末を製造する工程、即ち、造粒物と添加物とを直接混合する工程を含むものであるのに対し、引用発明1-4の錠剤の製造方法は、イミダフェナシンを含有する造粒物を、流動層造粒機により胃溶性高分子のコーティング剤でコーティングする工程を経た後、当該工程で得られたイミダフェナシンを含有するコーティング被覆顆粒に、薬学的に許容される添加剤を混合し、混合物を製造する工程を含むものである点。

(イ)判断

(a)相違点ア'''について

<相違点ア'''>は、本件発明1と引用発明1-2との<相違点ア' >と実質的に同じことであるから、前記(2)イ(イ)で説示したのと同様の理由により、引用発明1-4の錠剤の製造方法において、流動層造粒機を用いた造粒法に代えて、「攪拌造粒法」を採用し、本件発明4における上記工程(ii)及び工程(iii)の条件を満たすような製造方法とすることは、当業者ならば容易になし得たことである。

(b)相違点イ'

<相違点イ'>は、本件発明1と引用発明1-2との<相違点イ>と実質的に同じことであるから、前記(2)イ(ア)で説示したのと同様の理由により、引用発明1-4の錠剤の製造方法において、結合剤を、予めイミダフェナシン溶液に添加することに代えて、賦形剤とともに、造粒装置に仕込むものとすることは、当業者が容易になし得たことである。

(c)相違点ウ' について

<相違点ウ'>は、前記の<相違点ウ>と実質的に同じことであるから、前記ア(イ)(b)で説示したのと同様の理由により、引用発明1-4の錠剤の製造方法において、コーティングの工程を経ることなく、造粒物と添加物とを直接混合し、本件発明4の錠剤の製造方法のように、得られたイミダフェナシンを含有する造粒物と、薬学的に許容される添加物とを混合し混合粉末を製造する工程とすることは、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。

ウ 本件発明3を引用する本件発明4について

前記(3)でも説示したとおり、本件発明3の製造方法は、本件発明1又は2の製造方法において、
「薬学的に許容される結合剤」を、「ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアルコールおよびポリビニルピロリドンからなる群から選ばれるもの」に、
「エタノール並びに精製水およびエタノールの混合溶媒からなる群から選ばれる溶媒」を、「精製水およびエタノールの混合溶媒」に、
「薬学的に許容される賦形剤」を、「部分アルファー化デンプンおよび/または結晶セルロース」に、
それぞれ限定して特定するものである。
そして、前記アで検討したとおり、本件発明2を引用する本件発明4については、引用発明1-3の錠剤の製造方法において、コーティングの工程を経ることなく、造粒物と添加物とを直接混合し、薬学的に許容される添加物とを混合し混合粉末を製造する工程とすることは、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。
また、前記イで検討したとおり、本件発明1を引用する本件発明4については、引用発明1-4の錠剤の製造方法において、コーティングの工程を経ることなく、造粒物と添加物とを直接混合し、得られたイミダフェナシンを含有する造粒物と、薬学的に許容される添加物とを混合し混合粉末を製造する工程とすることは、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。
そうすると、本件発明1又は2の発明特定事項を全て含み、それらのうちの複数の事項を限定して特定している本件発明3を引用する本件発明4も、引用発明1-3又は引用発明1-4の錠剤の製造方法において、コーティングの工程を経ることなく、造粒物と添加物とを直接混合し、得られたイミダフェナシンを含有する造粒物と、薬学的に許容される添加物とを混合し混合粉末を製造する工程とすることは、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。

エ 小括

以上のとおり、本件発明4は、引用文献1に記載された発明及び周知技術に基いて、本件特許出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(5)本件発明5及び6について

本件発明5は、本件発明4における「薬学的に許容される添加剤」を「薬学的に許容される賦形剤および/または滑沢剤」と、限定して特定するものである。
また、本件発明6は、本件発明5における「薬学的に許容される賦形剤」及び「薬学的に許容される滑沢剤」を、それぞれ、「結晶セルロース」及び「ステアリン酸マグネシウム」と、さらに限定して特定するものである。
そして、前記(4)で説示したとおり、本件発明4は、引用文献1に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないのであるから、本件発明4の発明特定事項を全て含み、そのうち「薬学的に許容される添加剤」を限定して特定している、本件発明5及び6も、引用文献1に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(6)取消理由についての判断のまとめ

本件発明1?3は、引用文献1に記載された発明及び周知技術に基いて、本件特許出願前に当業者が容易に発明をすることができたものである。
本件発明4?6は、引用文献1に記載された発明及び周知技術に基いて、本件特許出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

第7 取消理由通知(決定の予告)で採用しなかった申立ての理由について

請求項4?6を対象に、前記「第4」の「1」に示した、申立人が申し立てている本件特許を取り消すべき理由のうち、取消理由通知(決定の予告)で採用しなかった、申立ての理由1(甲1を主引例とする進歩性の欠如)、申立ての理由2(実施可能要件違反)、及び申立ての理由3(サポート要件違反)について、以下、検討する。

1 申立ての理由1(甲1を主引例とする進歩性の欠如)について

(1)本件発明4について

ア 甲1に記載された事項

特許第4610834号公報(甲1)には、以下の事項(摘記甲1a)?(摘記甲1k)が記載されている。

(摘記甲1a)(1頁18?20行)
「本発明は、膀胱に選択的な抗コリン作用を有する頻尿・尿失禁治療薬である、4-(2-メチル-1-イミダゾリル)-2,2-ジフェニルブチルアミド(以下KRP-197と略す)の微量粉末を服用の容易な経口錠剤とする経口固形製剤に関するものである。」

(摘記甲1b)(2頁7?9行)
「本発明の課題は、微量に含まれるKRP-197の含量が均一で、定量的に服用できる経口固形製剤を提供することである。更には、KRP-197は添加剤の影響で光に対して不安定となるため、光に対し優れた安定性を有する経口固形製剤を提供することである。」

(摘記甲1c)(2頁16?19行)
「本発明によれば、微量のKRP-197の粉末を製剤担体と配合し錠剤とすることにより、定量的に服用することが容易な製剤が提供されるものである。また、結合剤としてポリビニルピロリドンを用い、更に酸化チタン及び三二酸化鉄を含むコーティング液でコーティングすることにより、含量が均一で光安定性の良い製剤が提供されるものである。」

(摘記甲1d)(2頁20?32行)
「本発明の製剤の製造方法は微粉末状のKRP-197に賦形剤(例えば、乳糖、ブドウ糖などの糖類、D-ソルビトール、マンニトールなどの糖アルコール類、結晶セルロースなどのセルロース類、部分アルファ化デンプン、トウモロコシデンプンなどの澱粉類などで、好ましくは部分アルファ化デンプン、乳糖あるいは結晶セルロース)及び崩壊剤(例えば、カルボキシメチルセルロースカルシウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、クロスカルメロースナトリウム,メチルセルロースなどのセルロース類、クロスポビドンなどで、好ましくは低置換度ヒドロキシプロピルセルロース)を混合し、さらに結合剤(例えば、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、エチルセルロース、メチルセルロースなどのセルロース類、ゼラチン、ポリビニルアルコール、ポリビニルアルコール部分けん化物、ポリビニルピロリドンなどで、好ましくはポリビニルアルコール部分けん化物あるいはポリビニルピロリドン)を添加して造粒する。造粒には、例えば湿式造粒法,流動層造粒法あるいは乾式造粒法により行うことができるが、この際、流動層造粒法が良好に使用できる。」

(摘記甲1e)(2頁33?40行)
「次いで、滑沢剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、タルク、硬化油などで、好ましくはステアリン酸マグネシウム)を加えて、打錠し、さらにコーティング剤(例えば、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、エチルセルロース、メチルセルロースなどのセルロース類、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、メタアクリル酸コポリマー、酸化チタン、三二酸化鉄、カルナウバロウなどで、好ましくはヒドロキシプロピルメチルセルロース、酸化チタン、三二酸化鉄あるいはカルナウバロウ)を施すことにより、一層服用しやすい経口固形製剤、錠剤が得られる。」

(摘記甲1f)(2頁41?49行)
「さらに光安定性が向上した経口固形製剤を調製するには、結合剤としてポリビニルピロリドンを用い、更に酸化チタン及び三二酸化鉄を含むコーティング液でコーティングすることにより達成できる。この際の造粒にあたっては、KRP-197とポリビニルピロリドンを含むエタノール水溶液を噴霧して造粒・乾燥後、滑沢剤を加えて打錠、コーティングする。この際、酸化チタン及び三二酸化鉄を含むコーティング液でコーティングすれば、含量が均一であるばかりではなく、光に対する安定性が向上した錠剤が得られる。
こうして得られた錠剤には、1錠当りの有効成分としてKRP-197を0.025mgから2mgを均一に含有させることができ、経口服用によって、定量的に服用することができる。」

(摘記甲1g)(3頁21?27行)
「(実施例4)
1錠当たり、KRP-197を2mg、乳糖86.85mg、結晶セルロース29mg及び低置換度ヒドロキシプロピルセルロース13.5mgを加えて混合し、ポリビニルアルコール部分けん化物2.7mg相当の水溶液を加えて練合、造粒し、乾燥した。これにステアリン酸マグネシウム5mgを加えて混合し、打錠して素錠を得た。得られた素錠に5mg相当のヒドロキシプロピルメチルセルロース2910をコーティングし、カルナウバロウ0.002mgを加えて混合し、フィルムコーティング錠を得た。」

(摘記甲1h)(3頁35?42行)
「(実施例6)
1錠あたり、部分アルファー化デンプン18.7mg、結晶セルロース74.975mgをとり、流動層造粒装置を用いて、これにKRP-197を0.025mg及びポリビニルピロリドン1mg相当のエタノール水溶液を噴霧して造粒・乾燥し、篩過・整粒後、ステアリン酸マグネシウム0.3mgを加えて混合し、打錠して素錠を得た。得られた素錠に4.5mg相当のヒドロキシプロピルメチルセルロース2910、0.43mg相当の酸化チタン及び0.07mg相当の三二酸化鉄懸濁液をコーティングし、カルナウバロウ0.002mgを加えて混合し、フィルムコーティング錠を得た。」

(摘記甲1i)(4頁1?8行)
(実施例8)
1錠あたり、部分アルファー化デンプン26.4mg、結晶セルロース105.7mgをとり、流動層造粒装置を用いて、これにKRP-197を0.1mg及びポリビニルピロリドン1.4mg相当のエタノール・水溶液を噴霧して造粒・乾燥し、篩過・整粒後、ステアリン酸マグネシウム0.4mgを加えて混合し、打錠して素錠を得た。得られた素錠に5.4mg相当のヒドロキシプロピルメチルセルロース2910、0.52mg相当の酸化チタン及び0.08mg相当の三二酸化鉄懸濁液をコーティングし、カルナウバロウ0.002mgを加えて混合し、フィルムコーティング錠を得た。」

(摘記甲1j)(4頁17?29行)
「(実験例1)
安定性において最も添加剤の影響を受けやすい、実施例5と実施例6で得られたKRP-197を0.025mg含有する錠剤について、無包装の状態で光線照射120万Lux・hrまでの分解物を高速液体クロマトグラフ法で測定した結果、実施例6で得られた錠剤は安定性が良く、ポリビニルピロリドン、酸化チタン及び三二酸化鉄添加の効果が認められた。分解物の測定結果を表1に示す。〔表1〕



(摘記甲1k)(4頁30?45行)
「(実験例2)
実施例1から実施例9の各実施例で得られた錠剤につき第十三改正日本薬局方の含量均一性試験に準じて行った結果を表2に示す。
〔表2〕



イ 甲1に記載された発明

甲1の「実施例6」(摘記甲1h)には、部分アルファー化デンプンと結晶セルロースをとり、流動層造粒装置を用いて、これにKRP-197(1錠あたり0.025mg)及びポリビニルピロリドンのエタノール水溶液を噴霧して造粒・乾燥し、篩過・整粒後に、ステアリン酸マグネシウムを加えて混合し、打錠して素錠を得たことが記載されている。
ここで、噴霧に用いられたエタノール水溶液は、その前にKRP-197及びポリビニルピロリドンをエタノール水溶液に溶解させて製造されたものであることは明らかであるし、「流動層造粒装置」は、同一装置内で混合、造粒、乾燥の操作を行うものであるから(必要ならば、(摘記2a)、(摘記6a)、(摘記7b)を参照)、上記「実施例6」の造粒物の製造方法において造粒と同時に乾燥が行われていることは自明である。
そうすると、甲1には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているものと認められる。

≪甲1発明≫
「(A)' KRP-197およびポリビニルピロリドンをエタノール水溶液に溶解させ、溶液を製造する工程、
(B)' 流動層造粒装置を用いて、部分アルファー化デンプン及び結晶セルロースに、上記工程(A)' で製造された溶液を噴霧して、造粒と同時に乾燥する工程、
(C)' 上記工程(B)' で得られた造粒物を、篩過・整粒後に、ステアリン酸マグネシウムを加えて混合し、混合物を製造する工程、
(D)' 上記混合物を打錠する工程
を含む、KRP-197を1錠あたり0.025mg含有する素錠の製造方法。」

ウ 対比

本件発明4の錠剤の製造方法のうち、本件発明1を引用するものと、甲1発明とを、対比する。
甲1(摘記甲1a)には、「4-(2-メチル-1-イミダゾリル)-2,2-ジフェニルブチルアミド(以下KRP-197と略す)」と記載され、本件明細書の段落【0010】には、「本発明において、イミダフェナシンとは4-(2-メチル-1H-イミダゾール-1-イル)-2,2-ジフェニルブタンアミドを表す。」と記載されていることから、甲1と本件明細書との間で化合物名の表記の形式的な差異はあるが、甲1発明における「KRP-197」は、本件発明4における「イミダフェナシン」に該当する。
甲1発明における「ポリビニルピロリドン」は、(摘記甲1c)及び(摘記甲1d)によれば、造粒の際の結合剤として用いられる成分であるから、本件発明4における「薬学的に許容される結合剤」に相当する。
甲1発明における「エタノール水溶液」は、本件発明4における「精製水、エタノール並びに精製水およびエタノールの混合溶媒からなる群から選ばれる溶媒」に相当する。
甲1発明における「部分アルファー化デンプン」及び「結晶セルロース」は、(摘記甲1d)に賦形剤として例示されているから、本件発明4における「1または2以上の薬学的に許容される賦形剤」に相当する。
甲1発明における「流動層造粒装置を用いて、部分アルファー化デンプン及び結晶セルロースに、上記工程(i)で製造された溶液を噴霧して、造粒と同時に乾燥する工程」は、本件発明4における「1または2以上の薬学的に許容される賦形剤」に「上記溶液または懸濁液を添加し、造粒物を製造」することに相当する。
甲1発明における「ステアリン酸マグネシウム」は、(摘記甲1e)より、好ましい滑沢剤とされるものであって、本件発明4における「薬学的に許容される添加剤」に相当するから(本件明細書の段落【0012】を参照)、甲1発明における「得られた造粒物を、篩過・整粒後に、ステアリン酸マグネシウムを加えて混合し、混合物を製造する工程」は、本件発明4における「得られたイミダフェナシンを含有する造粒物と、薬学的に許容される添加剤とを混合し混合粉末を製造する工程」に相当する。
甲1発明における「打錠」は、錠剤を形成するための圧縮成型方法であるから、本件発明4における「圧縮成型」に相当する。
甲1発明における「素錠」は、本件発明4における「錠剤」に相当する。 そうすると、本件発明1を引用する本件発明4と甲1発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。

<一致点>
「(i)' イミダフェナシンを精製水、エタノール並びに精製水およびエタノールの混合溶媒からなる群から選ばれる溶媒に溶解または懸濁させ、溶液または懸濁液を製造する工程、
(ii)''' 1または2以上の薬学的に許容される賦形剤に上記溶液または懸濁液を添加し、造粒物を製造する工程、
を含む製造方法で得られた、
(iv)イミダフェナシンを含有する造粒と、薬学的に許容される添加剤とを混合し混合粉末を製造する工程、および
(v)上記混合粉末を圧縮成型する工程
を含む、イミダフェナシンを含有する錠剤の製造方法。」

<相違点ア''''>
本件発明4の錠剤の製造方法は、イミダフェナシンを含有する造粒物が、「(ii)攪拌させた1または2以上の薬学的に許容される賦形剤および薬学的に許容される結合剤に上記溶液または懸濁液を添加し、造粒物を製造する工程、および、
(iii)上記造粒物を乾燥する工程
を含む、攪拌造粒法による」
製造方法で得られたものであり、当該製造方法が造粒の後に乾燥を行う「攪拌造粒法」による工程を含むものであるのに対し、甲1発明の錠剤の製造方法は、イミダフェナシンを含有する造粒物が、
「(B)' 流動層造粒装置を用いて、部分アルファー化デンプン及び結晶セルロースに、上記工程(A)' で製造された溶液を噴霧して、造粒と同時に乾燥する工程」を含む製造方法で得られたものであり、当該製造方法が造粒と乾燥とを同時に行う「流動層造粒法」による工程を含むものである点。

<相違点イ''>
イミダフェナシンを含有する造粒物が、本件発明4の方法は、結合剤を、賦形剤とともに攪拌させ、そこに、イミダフェナシンを溶解または懸濁させた、溶液または懸濁液を添加して、製造されるのに対し、甲1発明の方法は、結合剤(ポリビニルピロリドン)をイミダフェナシンとともに溶媒中に溶解させて製造される点。

<相違点エ>
錠剤が含有するイミダフェナシンの量が、本件発明4では「0.1mg」であるのに対し、甲1発明では「0.025mg」である点。

エ 判断

(ア)相違点エについて

事案に鑑み、先に相違点エについて検討する。
甲1には、「1錠当りの有効成分としてKRP-197を0.025mgから2mgを均一に含有させることができ、・・・(略)・・・。」(摘記8f)と記載されており、実際に、1錠あたりKRP-197を0.1mg
含有する素錠を製造した具体例((摘記8i)(実施例8))も記載されているから、甲1発明において、KRP-197の量を調整し、イミダフェナシンを0.1mg含有する錠剤の製造方法とすることは、当業者ならば容易になし得たことである。

(イ)相違点ア''''について

固形医薬製剤を製造する際の造粒法として、「攪拌造粒法」は、「流動層造粒法」とともに、周知慣用の方法であって、溶媒を添加した溶液を用いる湿式造粒法である点で共通するが(例えば、(摘記2a)及び(摘記6a)を参照)、甲1には、「造粒には、例えば湿式造粒法,流動層造粒法あるいは乾式造粒法により行うことができるが、この際、流動層造粒法が良好に使用できる。」(摘記甲1d)と記載されるに留まり、「攪拌造粒法」について明示的な記載はなく、他の具体的な製造例である「実施例4」の製造方法においては、「1錠当たり、KRP-197を2mg、乳糖86.85mg、結晶セルロース29mg及び低置換度ヒドロキシプロピルセルロース13.5mgを加えて混合し、ポリビニルアルコール部分けん化物2.7mg相当の水溶液を加えて練合、造粒し、乾燥した。」(摘記甲1g)と記載されてはいるが、如何なる装置で「練合、造粒」を行ったのかは不明であり、「攪拌造粒法」によるものであったとは認められない。
そうすると、甲1発明の錠剤の製造方法に用いられる、イミダフェナシン造粒物を製造する工程において、流動層造粒装置を用いた造粒法に代えて、「攪拌造粒法」を採用することは、敢えて積極的に行うべき動機付けは見いだせず、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。

(ウ)相違点イ''について

甲1には、「本発明の課題は、・・・(略)・・・。更には、KRP-197は添加剤の影響で光に対して不安定となるため、光に対し優れた安定性を有する経口固形製剤を提供することである。」(摘記甲1b)と記載され、「さらに光安定性が向上した経口固形製剤を調製するには、結合剤としてポリビニルピロリドンを用い、・・・(略)・・・により達成できる。この際の造粒にあたっては、KRP-197とポリビニルピロリドンを含むエタノール水溶液を噴霧して造粒・乾燥後、滑沢剤を加えて打錠、コーティングする。・・・(略)・・・。」(摘記甲1f)」と記載されている。
そうすると、甲1発明の錠剤の製造方法においては、結合剤(ポリビニルピロリドン)をイミダフェナシンとともに溶媒中に溶解させることが、「光に対し優れた安定性を有する経口固形製剤を提供する」という課題の解決のために、より好ましい技術手段であると認められるから、結合剤を添加する段階や対象を変更することは、特段の事情がない限り、当業者が想起しないというべきである。
したがって、甲1発明の錠剤の製造方法において、イミダフェナシンを含有する造粒物を製造する際に、結合剤(ポリビニルピロリドン)をイミダフェナシンとともに溶媒中に溶解させて用いるのに代えて、結合剤を、賦形剤とともに攪拌させ、そこに、イミダフェナシンを溶解または懸濁させた、溶液または懸濁液を添加するものとすることは、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。

オ 小括

本件発明4は、甲1に記載された発明及び周知技術に基いて、本件特許出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(2)本件発明5及び6について

本件発明5は、本件発明4における「薬学的に許容される添加剤」を「薬学的に許容される賦形剤および/または滑沢剤」と、限定して特定するものである。
また、本件発明6は、本件発明5における「薬学的に許容される賦形剤」及び「薬学的に許容される滑沢剤」を、それぞれ、「結晶セルロース」及び「ステアリン酸マグネシウム」と、さらに限定して特定するものである。
そして、前記(1)で説示したとおり、本件発明4は、甲1に記載された発明及び周知技術に基いて、本件特許出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないのであるから、本件発明4の発明特定事項を全て含み、そのうち「薬学的に許容される添加剤」を限定して特定している、本件発明5及び6も、甲1に記載された発明及び周知技術に基いて、本件特許出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3)申立ての理由1についての判断のまとめ

本件発明4?6は、甲1に記載された発明及び周知技術に基いて、本件特許出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

2 申立ての理由2(実施可能要件違反)について

(1)検討の前提

特許法第36条第4項第1号は、明細書の発明の詳細な説明の記載が適合するものでなければならない要件として、「その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであること。」(いわゆる「実施可能要件」。)を規定している。
そして、この規定にいう「実施」とは、物を生産する方法の発明においては、その方法の使用をする行為のほか、その方法により生産した物の使用等をする行為をいうものであるから(特許法第2条第3項第3号)、物を生産する方法の発明について実施可能要件を満たすためには、明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が当該発明に係る方法により物を生産することができ、かつ、生産された物の使用をすることができる程度のものでなければならない。
以上のことを前提として、本件明細書の発明の詳細な説明の記載が、本件発明4?6について実施可能要件を満たすか否か、以下、検討する。

(2)本件発明4?6について

本件発明4は、本件発明1?3のいずれか1つの製造方法で得られたイミダフェナシンを含有する造粒物と、薬学的に許容される添加剤とを混合し混合粉末を製造する工程、及び、当該混合粉末を圧縮成型する工程、を含む、イミダフェナシンを0.1mg含有する錠剤の製造方法であるところ、本件明細書の段落【0025】には、「実施例1」として、本件発明1及びこれを引用する本件発明3の造粒物の製造方法に該当する具体例が記載され、段落【0026】には、「実施例2」として、実施例1で得た造粒物を用いて錠剤を製造した、本件発明4?6の錠剤の製造方法のうちの本件発明1及びこれを引用する本件発明3を引用するものに該当する具体例が記載されており、段落【0012】?【0023】には、上記の各実施例で用いられたもの以外にも、本件発明1の造粒物の製造方法及び本件発明4?6の錠剤の製造方法で用いられる、賦形剤、結合剤、その他の薬学的に許容される添加剤の例示や説明が記載されているから、これらの記載に基づき、当業者は、本件発明4?6の製造方法によって錠剤を製造することができるといえる。
本件発明4?6の錠剤の製造方法のうち、本件発明2を直接的に又は間接的に引用するものは、本件明細書の発明の詳細な説明に、その具体例に該当する実施例等が記載されていないが、結合剤を、イミダフェナシンとともに、溶液に溶解させて、攪拌造粒法により造粒物を製造することは、当業者において過度の試行錯誤を伴わずに、なし得ることであるといえる。
そして、本件発明4?6の製造方法によって製造された錠剤は、含有成分であるイミダフェナシンが、ムスカリンM1受容体及びM3受容体を選択的に阻害する抗コリン薬であって、過活動膀胱における尿意切迫感、頻尿及び切迫性尿失禁の治療薬として広く使用されているものであることから(本件明細書の段落【0002】)、当業者が、その使用をすることができるものであるといえる。

(3)申立人の主張について

申立人は、本件発明の効果は、攪拌造粒法を用いることにより、製剤中の光安定性が優れた製剤を製造することである、としたうえで、本件明細書の発明の詳細な説明には、本件発明1及びこれを直接的に又は間接的に引用する本件発明3?6について、光安定性や含量均一性に優れた造粒物や製剤(錠剤)が製造できたことを示す記載はなく、本件発明2及びこれを直接的に又は間接的に引用する本件発明3?6については、実施例すら一切記載されていないから、優れた光安定性ないし含量均一性を有するイミダフェナシン含有造粒物及びそれを用いて製造される錠剤を製造するには、どのようにすれば良いのか、技術常識に照らしても当業者には全く分からないし、当該造粒物ないし錠剤を製造するために当業者に過度の試行錯誤を強いるものである、と主張している。
しかしながら、前記(2)で説示したように、本件明細書の発明の詳細な説明の「実施例1」及び「実施例2」等の記載に基づいて、当業者は、本件発明4?6の製造方法により錠剤を製造することができ、製造された錠剤を使用することができるといえるので、当業者が本件発明4?6を実施することができないとはいえない。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。

(4)申立ての理由2についての判断のまとめ

本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、その記載及び本件特許の出願当時の技術常識に基づいて、当業者が、本件発明4?6に係る方法により物を製造することができ、かつ、製造された物を使用することができる程度に、明確かつ十分に記載したものであるといえるから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たすものである。

3 申立ての理由3(サポート要件違反)について

(1)検討の前提

特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
以上のことを前提として、本件発明4?6に係る請求項4?6の記載が、サポート要件を満たすか否か、以下、検討する。

(2)本件発明の課題について

本件明細書の段落【0007】には、【発明が解決しようとする課題】として、
「これまでに、イミダフェナシンを含有する製剤の製造に、流動層造粒法以外の製造方法が使用できるか否かについてはわかっていなかった。したがって、イミダフェナシンを含有する製剤の新たな製造方法を提供することが、本発明が解決しようとする課題である。」
と記載されている。
本件明細書の上記記載と請求項4?6の記載を併せみると、本件発明4?6の解決すべき課題は、
「イミダフェナシンを含有する錠剤の、攪拌造粒法を用いた新たな製造方法を提供すること。」
であると認められる。
そこで、上記の課題を解決できると当業者が認識できるか否かという観点から、請求項4?6の記載と本件明細書の発明の詳細な説明の記載との対応関係について、以下、検討する。

(3)本件発明4?6について

前記2で説示したとおり、本件明細書の発明の詳細な説明には、攪拌造粒法による本件発明1?3のいずれかの造粒物の製造方法により得られた造粒物を用いる、本件発明4?6の錠剤の製造方法について、その実施ができる程度に明確かつ十分に記載されているといえるから、本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び本件特許出願時の技術常識に照らし、当業者は、本件発明4?6の課題を解決できると認識できるといえる。

(4)申立人の主張について

申立人は、本件発明2及びそれを直接的に又は間接的に引用する本件発明3?6については、本件明細書の発明の詳細な説明において実施例も試験結果も記載されていないから、請求項4?6の記載はサポート要件を満たさない旨を主張している。
しかしながら、前記2(2)で説示したとおり、結合剤を、イミダフェナシンとともに、溶液に溶解させて、攪拌造粒法により造粒物を製造することは、当業者において過度の試行錯誤を伴わずに、なし得ることであるといえるから、本件明細書の発明の詳細な説明の記載により、また、本件特許出願時の技術常識に照らし、当業者は、本件発明2を引用する本件発明4?6の課題を解決できると認識できるといえる。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。

(5)申立ての理由3についての判断のまとめ

本件発明4?6は、発明の詳細な説明に記載された発明であって、発明の詳細な説明の記載により、また、本件特許出願時の技術常識に照らし、当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲内のものであるから、請求項4?6の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすものである。

第8 むすび

以上のとおり、本件発明1?3は、引用文献1(甲2)に記載された発明及び周知技術に基いて、本件特許出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1?3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
請求項4?6に係る特許は、取消理由通知書(決定の予告)に記載した取消理由、又は、特許異議申立書に記載された申立ての理由によっては、取り消すことはできない。また、その他に請求項4?6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)イミダフェナシンを精製水、エタノール並びに精製水およびエタノールの混合溶媒からなる群から選ばれる溶媒に溶解または懸濁させ、溶液または懸濁液を製造する工程、
(ii)攪拌させた1または2以上の薬学的に許容される賦形剤および薬学的に許容される結合剤に上記溶液または懸濁液を添加し、造粒物を製造する工程、および
(iii)上記造粒物を乾燥する工程
を含む、攪拌造粒法による、イミダフェナシンを含有する造粒物の製造方法。
【請求項2】
(i)イミダフェナシンおよび薬学的に許容される結合剤を精製水、エタノール並びに精製水およびエタノールの混合溶媒からなる群から選ばれる溶媒に溶解または懸濁させ、溶液または懸濁液を製造する工程、
(ii)攪拌させた1または2以上の薬学的に許容される賦形剤に上記溶液または懸濁液を添加し、造粒物を製造する工程、および
(iii)上記造粒物を乾燥する工程
を含む、攪拌造粒法による、イミダフェナシンを含有する造粒物の製造方法。
【請求項3】
薬学的に許容される結合剤がヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアルコールおよびポリビニルピロリドンからなる群から選ばれるものであり、溶媒が精製水およびエタノールの混合溶媒であり、薬学的に許容される賦形剤が部分アルファー化デンプンおよび/または結晶セルロースである、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
(iv)請求項1?3のいずれか一項に記載の製造方法で得られたイミダフェナシンを含有する造粒物と、薬学的に許容される添加剤とを混合し混合粉末を製造する工程、および
(v)上記混合粉末を圧縮成型する工程
を含む、イミダフェナシンを0.1mg含有する錠剤の製造方法。
【請求項5】
薬学的に許容される添加剤が薬学的に許容される賦形剤および/または滑沢剤である、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
薬学的に許容される賦形剤が結晶セルロースであり、薬学的に許容される滑沢剤がステアリン酸マグネシウムである、請求項5に記載の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-03-25 
出願番号 特願2017-67521(P2017-67521)
審決分類 P 1 651・ 537- ZDA (A61K)
P 1 651・ 121- ZDA (A61K)
P 1 651・ 536- ZDA (A61K)
最終処分 一部取消  
前審関与審査官 原口 美和  
特許庁審判長 光本 美奈子
特許庁審判官 藤原 浩子
井上 典之
登録日 2018-03-09 
登録番号 特許第6303045号(P6303045)
権利者 杏林製薬株式会社
発明の名称 攪拌造粒法を用いたイミダフェナシンを含有する製剤の製造方法  
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