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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  G06Q
管理番号 1364000
異議申立番号 異議2020-700199  
総通号数 248 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-08-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-03-24 
確定日 2020-06-17 
異議申立件数
事件の表示 特許第6581281号発明「帳簿作成支援サーバ、情報処理端末、帳簿作成支援システム、帳簿作成支援方法及び帳簿作成支援プログラム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6581281号の請求項1ないし14に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯
特許第6581281号の請求項1?14に係る特許についての出願は、平成30年12月13日に出願され、令和元年9月6日にその特許権の設定登録がされ、令和元年9月25日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和2年3月24日に特許異議申立人岩井とし子(以下、「申立人」という。)による特許異議の申立てがなされた。

2 本件発明
特許第6581281号の請求項1?14の特許に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?14に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
ユーザ端末からの操作により、会計処理を行うための帳簿の試算表データにおける勘定科目の誤りを検出してアラートを前記ユーザ端末へ出力し、前記勘定科目の誤りの修正案をレコメンドする帳簿作成支援サーバであって、
前記帳簿を前記ユーザ端末に表示させ、前記ユーザ端末の操作により前記帳簿の前記勘定科目を選択すると、前記勘定科目に対応する内訳を表示する内訳表示欄を前記ユーザ端末に表示させ、前記試算表データの入力を前記勘定科目に対応する内訳ごとに受け付ける入力受付部と、
過去の前記試算表データに基づく機械学習により生成された前記試算表データの基準となる基準試算表データに基づき、前記試算表データにおける前記勘定科目の誤りを前記内訳ごとに検出する誤り検出部と、
前記試算表データにおける前記勘定科目の誤りの箇所について、前記帳簿が表示されている前記ユーザ端末に対してアラートの出力を行わせ、前記帳簿においてアラートの出力がされている前記勘定科目を選択すると、前記勘定科目に対応する前記内訳の誤りの箇所についてアラートの出力を行わせるアラート出力制御部と、
前記試算表データにおける前記勘定科目の誤りの箇所に対する、前記基準試算表データから抽出した前記勘定科目に対応する前記内訳の誤りの箇所についての修正案をレコメンドする修正案レコメンド部と、を備える帳簿作成支援サーバ。

【請求項2】
前記アラート出力制御部は、前記勘定科目の誤りの箇所について、誤りの内容を示すコメント表示と、前記勘定科目に対応する前記内訳の誤りの箇所を表示させるためのリンク表示と、を行い、前記リンク表示が選択された場合、前記内訳の誤りの箇所についてアラートの出力を行わせる、請求項1に記載の帳簿作成支援サーバ。

【請求項3】
前記入力受付部は、前記ユーザ端末に対して、前記内訳表示欄を前記帳簿に並列させて表示させる、請求項1または請求項2に記載の帳簿作成支援サーバ。

【請求項4】
前記アラート出力制御部が出力するアラートは、前記ユーザ端末に表示されている前記帳簿の前記勘定科目の誤りの箇所についての強調表示、ハイライト表示、またはコメント表示を含む、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の帳簿作成支援サーバ。

【請求項5】
前記帳簿は、損益計算書または貸借対照表を含む複数種類の帳簿である、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の帳簿作成支援サーバ。

【請求項6】
過去の前記試算表データに基づく機械学習を行い、前記基準試算表データを生成する機械学習部を備える、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の帳簿作成支援サーバ。

【請求項7】
前記基準試算表データは、前記誤り検出部において前記勘定科目の誤りを検出するためのルール一覧を含む、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の帳簿作成支援サーバ。

【請求項8】
前記基準試算表データを編集可能な基準試算表編集部を備える、請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の帳簿作成支援サーバ。

【請求項9】
前記修正案に対する修正入力を受け付け、前記勘定科目に対する前記修正入力の反映を行う修正入力反映部を備える、請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の帳簿作成支援サーバ。

【請求項10】
前記修正案レコメンド部は、1または複数の前記修正案を選択可能にレコメンドし、
前記修正入力反映部は、選択された前記修正案を受け付け、前記勘定科目に対する前記修正入力の反映を行う、請求項9に記載の帳簿作成支援サーバ。

【請求項11】
請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の帳簿作成支援サーバに対して、前記試算表データを前記勘定科目に対応する内訳ごとに入力する試算表入力部と、
前記帳簿作成支援サーバからの指示により、前記試算表データにおける前記勘定科目の誤りの箇所についてアラートを出力し、前記勘定科目が選択されると、前記勘定科目に対応する前記内訳の誤りの箇所についてアラートの出力を行うアラート出力部と、
前記帳簿作成支援サーバからの指示により、前記試算表データにおける前記勘定科目の誤りの箇所に対する、前記勘定科目に対応する前記内訳の誤りの箇所についての前記修正案のレコメンドを出力するレコメンド出力部と、を備える情報処理端末。

【請求項12】
会計処理を行うための帳簿の試算表データにおける勘定科目の誤りを検出してアラートを出力し、前記勘定科目の誤りの修正案をレコメンドするサーバと、前記サーバに対する指示を行うユーザ端末と、を備える帳簿作成支援システムであって、
前記サーバは、
前記帳簿を前記ユーザ端末に表示させ、前記ユーザ端末の操作により前記帳簿の前記勘定科目を選択すると、前記勘定科目に対応する内訳を表示する内訳表示欄を前記ユーザ端末に表示させ、前記ユーザ端末から、前記試算表データの入力を前記勘定科目に対応する内訳ごとに受け付ける入力受付部と、
過去の前記試算表データに基づく機械学習により生成された前記試算表データの基準となる基準試算表データに基づき、前記試算表データにおける前記勘定科目の誤りを前記内訳ごとに検出する誤り検出部と、
前記試算表データにおける前記勘定科目の誤りの箇所について、前記帳簿が表示されている前記ユーザ端末に対してアラートの出力を行わせ、前記帳簿においてアラートの出力がされている前記勘定科目を選択すると、前記勘定科目に対応する前記内訳の誤りの箇所についてアラートの出力を行わせるアラート出力制御部と、
前記試算表データにおける前記勘定科目の誤りの箇所に対する、前記基準試算表データから抽出した前記勘定科目に対応する前記内訳の誤りの箇所についての修正案をレコメンドし、前記ユーザ端末に対して出力させる修正案レコメンド部と、を備え、
前記ユーザ端末は、
前記サーバに対して、前記試算表データを入力する試算表入力部と、
前記サーバからの指示により、前記試算表データにおける前記勘定科目の誤りの箇所についてアラートを出力し、前記勘定科目が選択されると、前記勘定科目に対応する前記内訳の誤りの箇所についてアラートの出力を行うアラート出力部と、
前記サーバからの指示により、前記試算表データにおける前記勘定科目の誤りの箇所に対する、前記勘定科目に対応する前記内訳の誤りの箇所についての前記修正案のレコメンドを出力するレコメンド出力部と、を備える、帳簿作成支援システム。

【請求項13】
ユーザ端末からの操作により、会計処理を行うための帳簿の試算表データにおける勘定科目の誤りを検出してアラートを前記ユーザ端末へ出力し、前記勘定科目の誤りの修正案をレコメンドする電子計算機が備える帳簿作成支援方法であって、
入力受付部が行う、前記帳簿を前記ユーザ端末に表示させ、前記ユーザ端末の操作により前記帳簿の前記勘定科目を選択すると、前記勘定科目に対応する内訳を表示する内訳表示欄を前記ユーザ端末に表示させ、前記試算表データの入力を前記勘定科目に対応する内訳ごとに受け付ける入力受付ステップと、
誤り検出部が行う、過去の前記試算表データに基づく機械学習により生成された前記試算表データの基準となる基準試算表データに基づき、前記試算表データにおける前記勘定科目の誤りを前記内訳ごとに検出する誤り検出ステップと、
アラート出力制御部が行う、前記試算表データにおける前記勘定科目の誤りの箇所について、前記帳簿が表示されている前記ユーザ端末に対してアラートを出力させ、前記帳簿においてアラートの出力がされている前記勘定科目を選択すると、前記勘定科目に対応する前記内訳の誤りの箇所についてアラートの出力を行わせるアラート出力ステップと、
修正案レコメンド部が行う、前記試算表データにおける前記勘定科目の誤りの箇所に対する、前記基準試算表データから抽出した前記勘定科目に対応する前記内訳の誤りの箇所についての修正案をレコメンドする修正案レコメンドステップと、を備える帳簿作成支援方法。

【請求項14】
ユーザ端末からの操作により、会計処理を行うための帳簿の試算表データにおける勘定科目の誤りを検出してアラートを前記ユーザ端末へ出力し、前記勘定科目の誤りの修正案をレコメンドする帳簿作成支援プログラムであって、
前記帳簿を前記ユーザ端末に表示させ、前記ユーザ端末の操作により前記帳簿の前記勘定科目を選択すると、前記勘定科目に対応する内訳を表示する内訳表示欄を前記ユーザ端末に表示させ、前記試算表データの入力を前記勘定科目に対応する内訳ごとに受け付ける入力受付ステップと、
過去の前記試算表データに基づく機械学習により生成された前記試算表データの基準となる基準試算表データに基づき、前記試算表データにおける前記勘定科目の誤りを前記内訳ごとに検出する誤り検出ステップと、
前記試算表データにおける前記勘定科目の誤りの箇所について、前記帳簿が表示されている前記ユーザ端末に対してアラートを出力させ、前記帳簿においてアラートの出力がされている前記勘定科目を選択すると、前記勘定科目に対応する前記内訳の誤りの箇所についてアラートの出力を行わせるアラート出力ステップと、
前記試算表データにおける前記勘定科目の誤りの箇所に対する、前記基準試算表データから抽出した前記勘定科目に対応する前記内訳の誤りの箇所についての修正案をレコメンドする修正案レコメンドステップと、を電子計算機に実行させるための、帳簿作成支援プログラム。」

3 申立理由の概要
申立人は、主たる証拠としてウェブサイト(https://cpa-navi.com/archives/32168)のアーカイブの写し(甲第1号証の1乃至甲第1号証の3。(以下、これらを合わせて甲第1号証という。))及び従たる証拠として特許6345856号公報(甲第2号証)、特開2018-173935号公報(甲第3号証)、国際公開第2018/189825号(甲第4号証)並びに特許6161229号公報(甲第5号証)を提出し、請求項1?14に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、請求項1?14に係る特許を取り消すべきものである旨主張する。

4 各甲号証の記載
(1)甲第1号証には、次のとおり、記載されている。
「去る2018年5月21日、freeeがAI月次監査という機能をリリースしました。
これは従来より会計事務所において行われてきた「月次巡回監査」という業務をAIがアシストする機能です。」(甲第1号証の1、第1頁)

「-AI月次監査とはどういったものなのでしょうか?

武地:会計ソフト内で、試算表の確認・修正作業をAIが支援する機能です。具体的には、
1.チェックリストを元に自動でエラーを検知し、試算表や元帳上の該当箇所をハイライトする
2.仕訳を修正するとその類似仕訳をAIが提示する
の2つの機能があります。」(甲第1号証、第2頁)

「-AI月次監査では具体的に何ができるのでしょうか?

武地:「AI月次監査」の第一弾としてまずは2つの機能をリリースしました。
1.特定のルールに基づいて該当取引にアラートを上げる
2.修正した仕訳に類似する仕訳を提示する
の2つです。

具体的には、下記のような流れでAIが月次監査をサポートします。
[1]クラウド会計freeeの、「試算表」「月次推移表」の画面でチェックにかかった項目がハイライトされます。
[2]対象の数値をクリックすると、元帳が開かれ、チェックにかかった仕訳がハイライトされます。
[3]会計事務所の担当者は、ハイライトされている仕訳をクリックし、修正します。
[4]仕訳修正すると類似仕訳が提示されます(1-3とは無関係に修正した仕訳に関しても推薦)」(甲第1号証の1、3?4頁)

「-さらにここから先の機能開発も考えておられるのでしょうか?

武地:月次監査での自動チェック項目を事務所様ごとにカスタマイズできる機能や、修正方法まで提案する機能を実装すべく、開発を進めております。」(甲第1号証の1、4?5頁)

「AI月次監査機能は弊社のパートナープログラム(無料)にご登録いただければ無償でご利用いただけますので、ご興味を持っていただけた方はぜひご登録いただきお試しいただければと思います。」(甲第1号証の1、5頁)

これらの記載のうち、「クラウド会計ソフト」は、サーバーを含むシステムによって実現されるものである。してみると、甲第1号証には、
パートナープログラムへの登録により無償利用可能であるクラウド会計ソフトのAI月次監査機能を実現するサーバを含むシステムであって、
このAI月次監査機能は、会計ソフト内で、試算表の確認・修正作業をAIが支援する機能であって、具体的には、特定のルールに基づいて該当取引にアラートを上げる機能であって、チェックリストを元に自動でエラーを検知し、試算表や元帳上の該当箇所をハイライトする機能と、仕訳を修正するとその類似仕訳をAIが提示する機能であり、
「試算表」「月次推移表」の画面でチェックにかかった項目をハイライト表示し、対象の数値のクリックに応じて元帳を開いてチェックにかかった仕訳をハイライト表示し、会計事務所の担当者によるハイライトされている仕訳のクリック及び修正を可能とし、仕訳修正に応じて類似仕訳を提示する、という流れでAIが月次監査をサポートするものである、
システム
の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。

(2)甲第2号証には、次のとおり、記載されている。
「【0019】・・・図1の財務分析装置1は、第1ベクトル生成部2と、第1行列生成部3と、推定部4と、残差検出部5と、異常候補特定部6と、仕訳限定部7と、仕訳抽出部8と、異常検知部9と、異常仕訳抽出部10とを備えている。
【0020】第1ベクトル生成部2は、会計データの第1期間内における複数の勘定科目の変動値を要素とする第1ベクトルを生成する。第1期間とは、例えば一日または一月である。より具体的な一例では、第1ベクトル生成部2は、残高資産表(TB:Trial Balance)の日次(月次)変動を、それぞれの勘定科目の借方と貸方別に集計し、これを要素に含む第1ベクトルを生成する。以下では、第1ベクトルをTB変動ベクトルと呼ぶこともある。よって、TB変動ベクトルは、例えば、現預金、商品、買掛金、資本金、売上高、売上原価等の複数の勘定科目の変動値(変動金額)を要素として含んでいる。
【0021】第1行列生成部3は、複数の第1期間を含む第2期間内における複数の第1ベクトルを行方向に並べた第1行列を生成する。第1行列の各行は、例えば日付の異なる第1ベクトルである。以下では、第1行列を日次(月次)の貸借別のTB変動行列と呼ぶこともある。第2期間は、第1期間の整数倍の期間の長さを有し、例えば、3ヶ月、半年、一年などである。
【0022】推定部4は、第1行列に基づいて、第2期間内の個々の第1期間内における複数の勘定科目の各変動値を推定する。これにより、例えば、日次(月次)ごとに、各勘定科目の貸借別の変動値が推定される。以下では、推定された変動値を予測値と呼ぶこともある。推定部4は、後述するように、例えば所定の変動モデルに基づいて各勘定科目の変動値を推定する。具体的な一例として、推定部4は、第1行列(TB変動行列)に基づいて、複数の勘定科目の各変動値の誤差の二乗と、複数の勘定科目のそれぞれに対応付けられる複数の回帰係数の絶対値の合計との和を最小化することにより、複数の勘定科目の各変動値を推定する。
【0023】残差検出部5は、推定部4で推定された変動値(予測値)と実際の変動値(実績値)との残差を検出する。例えば、残差検出部5は、日次(月次)ごとに、各勘定科目の貸借別の残差を検出する。
【0024】異常候補特定部6は、残差に相関する値が所定の閾値を超える特定の第1期間における特定の勘定科目の変動値を抽出する。残差に相関する値とは、残差検出部5で検出された残差そのものでもよいし、残差を正規化した値でもよい。閾値の値は任意であり、残差に相関する値に応じて、適切な値を定めればよい。異常候補特定部6で抽出された特定の第1期間における特定の勘定科目の変動値は、異常の候補となる。ここで、異常とは、通常の取引傾向では想定できない勘定科目の動きを意味し、不正な会計処理が行われた疑いがある場合やそうでない場合も含まれる。
【0025】仕訳限定部7は、異常候補特定部6で抽出された第2期間内の特定の第1期間について会計データの仕訳を特定し、各仕訳についての複数の勘定科目の各変動値を要素とする第2ベクトルを生成し、生成された第2ベクトルを行方向に並べた第2行列を生成する。以下では、第2ベクトルを仕訳ベクトルと呼び、第2行列を仕訳行列と呼ぶこともある。仕訳行列の各行が仕訳ベクトルである。例えば、仕訳限定部7は、異常候補特定部6で抽出された特定の日に発生した全仕訳について、それぞれ仕訳ベクトルを生成し、異なる仕訳の仕訳ベクトルを行方向に並べた仕訳行列を生成する。
【0026】仕訳抽出部8は、第2行列(仕訳行列)から、残差に相関する値が閾値を超える勘定科目を含む仕訳を抽出する。仕訳行列に含まれる仕訳の中には、残差に相関する値が閾値を超える勘定科目を含む仕訳以外の仕訳も含まれているため、仕訳抽出部8は、仕訳行列から、残差に相関する値が閾値を超える勘定科目を含む仕訳のみを抽出する。より具体的には、仕訳抽出部8は、残差に相関する値の正負を考慮に入れずに、残差に相関する値の絶対値が閾値を超える勘定科目を含む仕訳を抽出する。残差に相関する値の正負を考慮に入れると、正負2種類の閾値が必要となり、残差が上振れした場合と下振れした場合の2通りの勘定科目を区別して仕訳を抽出することになって、処理が複雑化する。仕訳抽出部8は、残差が上振れしたか、下振れしたかを区別することなく、残差に相関する値の絶対値が閾値を超える勘定科目を含む仕訳をまとめて抽出するため、仕訳抽出部8の処理負担を軽減できる。
【0027】異常検知部9は、仕訳抽出部8で抽出された仕訳に含まれる少なくとも一つの勘定科目に含まれる異常を検知する。異常検知部9は、後述するように、k近傍法やLOF(Local Outlier Factor)法などを用いて異常検知を行う。異常検知部9は、例えば異常度という数値化した値を出力する。異常度の数値が大きければ、異常の疑いが大きいことを示す。異常仕訳抽出部10は、異常検知部9にて異常が検知された仕訳を抽出する。異常検知部9から異常度が出力された場合には、異常仕訳抽出部10は、異常度を所定の閾値と比較し、異常度が閾値よりも大きい勘定科目を含む仕訳を抽出する。」

「【0049】図12は異常検知部9が行う異常検知処理の処理結果を模式的に示す図である。図12の丸プロット群p1は、通常の売上を表しており、現金と売掛金がそれなりにあり(50?100程度)、両者の合計にマイナスの符号を付した金額が売上である。これに対して、一方のひし形プロットp2は、現金がゼロ、売掛金が?100、売上が100であり、売掛金売上の返品という特殊な取引についての仕訳である。また、他方のひし形プロットp3は、現金がゼロ、売掛金が100、売上が?100であり、通常は現金と売掛金を組み合わせて売上が計上されるのに対して、全額が売掛金である特殊な取引についての仕訳である。これらひし形プロットp2、p3の仕訳は、丸プロット群p1の各仕訳とはベクトル空間上の離れた場所に位置するため、これらのプロット間の距離によって、異常と検知できる。」

「【0055】ただし、監査実務において検討する科目数は、数百?数千に及ぶため、仕訳ベクトルや仕訳抽出ベクトルの次元が非常に多くなる。この場合、データ間の距離が互いに等しくなることで異常検知が困難になるおそれがある。このため、高次元空間における異常検知手法や、次元を何らかの形で少なくしてから異常検知を行うといった工夫が必要になる。」

「【0057】このように、本実施形態では、各勘定科目の変動モデルを推定し、推定した変動モデルに基づいて各勘定科目の変動値を予測し、予測した変動値(予測値)と実績値との残差に相関する値が閾値よりも大きい特定の日付における特定の勘定科目を抽出する。次に、特定した日付における全仕訳の各勘定科目を列方向に並べた仕訳ベクトルを各仕訳ごとに生成し、生成した複数の仕訳ベクトルの中から、特定の勘定科目を含む仕訳ベクトルを抽出し、抽出した仕訳ベクトルに基づいて、勘定科目に異常があるか否かの異常検知を行う。これにより、それぞれが多数の勘定科目を含む多数の仕訳の中から、勘定科目に異常がある仕訳を自動的かつ的確に抽出できる。したがって、今までは、会計士等が手作業で行っていたために、想定できなかったパターンの不正などを迅速かつ的確に検出することができ、不正会計の防止に役立てることができる。」

これらの記載からみて、甲第2号証には、
残高資産表(TB:Trial Balance)の日次(月次)変動等の、会計データの例えば一日または一月である第1期間内における複数の勘定科目の変動値を要素とすTB変動ベクトルを生成し、
第1期間の複数倍の長さを有する第2期間内における複数のTB変動ベクトルを行方向に並べ、各行が例えば日付の異なるTBベクトルである、TB変動行列を生成し、
TB変動行列に基づいて、第2期間内の個々の第1期間内における複数の各勘定科目の各変動値(予測値)を推定し、
推定された変動値(予測値)と実際の変動値(実績値)との残差を検出し、
残差に相関する値が所定の閾値を超える第2期間内の特定の第1期間における特定の勘定科目の変動値を抽出し、
抽出された特定の第1期間について会計データの仕訳を特定し、各仕訳についての複数の勘定科目の各変動値を要素とする仕訳ベクトルを生成し、生成された仕訳ベクトルを行方向に並べた仕訳行列を生成し、
仕訳行列から、残差に相関する値が閾値を超える勘定科目を含む仕訳を抽出し、
抽出された仕訳に含まれる勘定科目に含まれる異常を検知する、技術
が記載されている。

(3)甲第3号証には、次のとおり、記載されている。
「【0062】・・・また、個別のユーザの事情は変化することもある。そこで、ルール122aを更新可能なデータとして保持し、ユーザが結果24を参照しつつ変更(更新、追加、削除)できるようにする。」

(4)甲第4号証には、次のとおり、記載されている。
「[0060]これらプルダウンメニュー内の勘定科目候補のいずれかをクリック又はタップして選定することで、勘定科目の欄にその選定された勘定科目候補が反映される。そして、登録ボタンをクリック又はタップすることで、この仕訳が確定する。」

(5)甲第5号証には、次のとおり、記載されている。
「【0032】・・・ユーザは、仕訳帳画面に表示された仕訳一覧において、確認要求が付された仕訳(すなわち、ユーザにとって正しい期待結果でない可能性がある仕訳)を視覚的に容易に抽出できる。また、プルダウンリスト等で勘定科目の候補を提示すれば、ユーザは容易に修正作業を行うことができる。」

「【0037】また、上述した自動仕訳ネットワークシステムは、曖昧な取引を税理士等がチェックする用途で用いることもできる。この場合、顧客毎の事情に応じてしきい値LV1等を個別に設定しておき、確認要求(警告)が付された仕訳を曖昧な仕訳とみなして、税理士等が内容をチェックする。これにより、税理士等にとってのチェック作業の効率化を図ることができる。」

5 当審の判断
(1)請求項1に係る発明(本件発明1)について
ア 対比
甲1発明は、クラウド会計ソフトにおける月次監査に係るものであり、ユーザ端末からの操作により、会計処理を行うための帳簿の試算表データにおける勘定科目の誤りを検出してアラートを前記ユーザ端末へ出力する帳簿作成支援サーバであるといえ、また、帳簿をユーザ端末に表示させ、ユーザ端末の操作により帳簿の勘定科目を選択すると、勘定科目に対応する内訳を表示する内訳表示欄をユーザ端末に表示させ、試算表データの入力を勘定科目に対応する内訳ごとに受け付ける入力受付部を備えるといえるから、これらの点において、本件発明と一致する。

また、甲1発明は、試算表の確認・修正作業をAIが支援し、試算表や元帳上の該当箇所をハイライトすべく、特定のルールに基づいて該当取引にアラートを上げるものであるから、誤りの検出を過去の前記試算表データに基づく機械学習により生成された前記試算表データの基準となる基準試算表データに基づいて行うことは示されていないものの、試算表データにおける勘定科目の誤りを該当取引を示す内訳ごとに検出する誤り検出部を備える点において、本件発明と共通するといえる。
さらに、甲1発明は、試算表や元帳上の該当箇所をハイライトするものであるから、試算表データにおける勘定科目の誤りの箇所について、帳簿が表示されているユーザ端末に対してアラートの出力を行わせ、帳簿においてアラートの出力がされている勘定科目を選択すると、勘定科目に対応する内訳の誤りの箇所についてアラートの出力を行わせるアラート出力制御部を備えるといえ、この点でも、本件発明と一致するといえる。

なお、ウ(ア)において後述するとおり、甲1発明は、勘定科目の誤りの修正案をリコメンドするものでなく、本件発明の修正案リコメンド部に対応する構成を備えていないから、この点は相違点となる。

してみると、両者の一致点及び相違点は、次のとおりである。

<一致点>
ユーザ端末からの操作により、会計処理を行うための帳簿の試算表データにおける勘定科目の誤りを検出してアラートを前記ユーザ端末へ出力する帳簿作成支援サーバであって、
前記帳簿を前記ユーザ端末に表示させ、前記ユーザ端末の操作により前記帳簿の前記勘定科目を選択すると、前記勘定科目に対応する内訳を表示する内訳表示欄を前記ユーザ端末に表示させ、前記試算表データの入力を前記勘定科目に対応する内訳ごとに受け付ける入力受付部と、
前記試算表データにおける前記勘定科目の誤りを前記内訳ごとに検出する誤り検出部と、
前記試算表データにおける前記勘定科目の誤りの箇所について、前記帳簿が表示されている前記ユーザ端末に対してアラートの出力を行わせ、前記帳簿においてアラートの出力がされている前記勘定科目を選択すると、前記勘定科目に対応する前記内訳の誤りの箇所についてアラートの出力を行わせるアラート出力制御部と、
を備える帳簿作成支援サーバ

<相違点>
(相違点1)
本件発明においては、「過去の前記試算表データに基づく機械学習により生成された前記試算表データの基準となる基準試算表データ」に基づいて誤りを検出するのに対し、甲1発明においては、過去の前記試算表データに基づく機械学習により生成された前記試算表データの基準となる基準試算表データに基づいて誤りを検出するか否かが明らかでない点

(相違点2)
本件発明は、「勘定科目の誤りの修正案をレコメンドする」ものであって「前記試算表データにおける前記勘定科目の誤りの箇所に対する、前記基準試算表データから抽出した前記勘定科目に対応する前記内訳の誤りの箇所についての修正案をレコメンドする修正案レコメンド部」を備えるのに対し、甲1発明は、勘定科目の誤りの修正案をリコメンドするものでなく、修正案リコメンド部を備えない点

相違点の判断
(ア)相違点1について
甲第2乃至5号証には、「過去の前記試算表データに基づく機械学習により生成された前記試算表データの基準となる基準試算表データ」に基づいて誤りを検出することが記載されておらず、他にも相違点1について容易想到と判断する根拠となる公知技術乃至周知技術を示す証拠はない。
この点、甲第2号証には、4(2)において上記した技術が記載されている。しかし、甲第2号証の技術において、異常を検知するために生成されるTB変動ベクトル、TB変動行列、仕訳ベクトル、仕訳行列は、いずれも、試算表についてのものでなく、さらに、異常が検知される第1期間を含む第2期間に対して過去となる第1期間及び第2期間についてのデータを含んでいないから「過去の前記試算表データに基づく機械学習により生成された」ものでもない。よって、甲第2号証は、本件発明の「過去の前記試算表データに基づく機械学習により生成された前記試算表データの基準となる基準試算表データ」に基づいて誤りを検出することに対応する技術を開示するものということはできないし、甲1発明において甲第2号証の技術を適用する動機付けも存在しない。
よって、相違点1について容易想到ということはできない。

(イ)相違点2について
甲第2乃至5号証には、「勘定科目の誤りの修正案をレコメンドする」こと及びそのために「前記試算表データにおける前記勘定科目の誤りの箇所に対する、前記基準試算表データから抽出した前記勘定科目に対応する前記内訳の誤りの箇所についての修正案をレコメンドする修正案レコメンド部」を備えることが記載されておらず、他にも相違点2について容易想到と判断する根拠となる公知技術乃至周知技術を示す証拠はない。
よって、相違点2について容易想到ということはできない。

ウ 申立人の主張について
(ア)申立人は、本件発明1の「前記試算表データにおける前記勘定科目の誤りの箇所に対する、前記基準試算表データから抽出した前記勘定科目に対応する前記内訳の誤りの箇所についての修正案をレコメンドする修正案レコメンド部」について、甲第1号証には、「前記試算表データにおける前記勘定科目の誤りの箇所に対する、チェックリストに基づく前記勘定科目に対応する前記内訳の誤りの箇所についての修正案をレコメンドする修正案レコメンド部」が記載されており(異議申立書18?19頁)、本件発明1と甲1発明とは「前記試算表データにおける前記勘定科目の誤りの箇所に対する、基準となるデータに基づく前記勘定科目に対応する前記内訳の誤りの箇所についての修正案をレコメンドする修正案レコメンド部」で一致する(同21?22頁)と主張している。(申立人主張の相違点2は、当審認定の相違点1に対応する内容であり、当審認定の相違点2に対応する内容のものではない。)
しかし、甲第1号証においては、「-さらにここから先の機能開発も考えておられるのでしょうか?・・・武地:月次監査での自動チェック項目を事務所様ごとにカスタマイズできる機能や、修正方法まで提案する機能を実装すべく、開発を進めております。」(甲第1号証の1、4?5頁)と記載されている。この記載からみて、甲第1号証記載の「AI月次監査機能」において「修正方法まで提案する機能」の「実装」は「ここから先の機能開発」に含まれており、甲第1号証においては実装されていないのであるから、甲1発明として「前記勘定科目に対応する前記内訳の誤りの箇所についての修正案をレコメンドする修正案レコメンド部」を認定することはできないし、この点を本件発明1と甲1発明との一致点とすることもできない。
よって、この点の申立人の主張を採用することはできない。

(イ)申立人は、本件発明1と甲1発明との相違点(当審が認定した相違点のうち相違点1に対応する相違点)について、甲1発明に甲第2号証開示の構成を組み合わせることで容易に発明できたと主張する(異議申立書22?24頁)が、イにおいて上述したとおり、申立人の主張の相違点に対応する本件発明1と甲1発明との相違点1について容易想到とすることはできず、この点の申立人の主張も採用することはできない。

エ 小括
してみると、請求項1に係る発明は、甲1発明及び甲第2号証乃至甲第5号証記載の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)請求項2?10に係る発明について
請求項2?10は、請求項1を引用する請求項であって、これらの請求項に係る発明は、請求項1に係る発明に対してさらに技術的事項を追加したものである。
よって、請求項1?10に係る発明は、上記(1)アに示した相違点1及び相違点2を有しており、上記(1)イに示した判断により、甲1発明及び甲第2号証乃至甲第5号証記載の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)請求項11?14について
請求項11は、「請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の帳簿作成支援サーバ」を前提とした「情報処理端末」の発明を特定したものであり、請求項12は、請求項1の「サーバ」の発明に対応する「システム」の発明を特定したものである。また、請求項13及び請求項14は、それぞれ、請求項1の「サーバ」の発明(装置発明)に対応する方法発明及びプログラム発明を特定したものである。
よって、請求項11?14に係る発明は、いずれも、上記(1)アに示した相違点1及び相違点2に対応する相違点を有しており、上記(1)イに示したものと同様の判断により、甲1発明及び甲第2号証乃至甲第5号証記載の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

6 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?14に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?14に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2020-06-04 
出願番号 特願2018-233159(P2018-233159)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (G06Q)
最終処分 維持  
前審関与審査官 松野 広一  
特許庁審判長 渡邊 聡
特許庁審判官 相崎 裕恒
速水 雄太
登録日 2019-09-06 
登録番号 特許第6581281号(P6581281)
権利者 フリー株式会社
発明の名称 帳簿作成支援サーバ、情報処理端末、帳簿作成支援システム、帳簿作成支援方法及び帳簿作成支援プログラム  
代理人 IPTech特許業務法人  
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