• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C09D
審判 全部申し立て 2項進歩性  C09D
管理番号 1364006
異議申立番号 異議2020-700140  
総通号数 248 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-08-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-03-02 
確定日 2020-07-02 
異議申立件数
事件の表示 特許第6572069号発明「油性マーキングペン用金属粉顔料インキ組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6572069号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第6572069号の請求項1?5に係る特許についての出願は、平成27年9月7日になされたものであって、令和元年8月16日にその特許権の設定登録がなされ、同年9月4日にその特許掲載公報が発行されたものである。
その後、その特許に対し、特許異議申立人であるシヤチハタ株式会社により、令和2年3月2日に特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件特許発明

特許第6572069号の請求項1?5に係る発明(以下、「本件特許発明1」、「本件特許発明2」などともいい、まとめて、「本件特許発明」ともいう。)は、その特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。

「【請求項1】
有機溶媒、金属粉顔料及び樹脂を含む油性マーキングペン用金属粉顔料インキ組成物であって、上記樹脂がケトン樹脂、水添ロジン樹脂及び超淡色ロジン樹脂から選ばれる少なくとも1種の第1の樹脂とスチレン-アクリル樹脂及びスチレン-マレイン酸樹脂から選ばれる少なくとも1種の第2の樹脂の組み合わせである油性マーキングペン用金属粉顔料インキ組成物。
【請求項2】
インキ組成物の重量に基づいて、第1の樹脂を2?30重量%の範囲で含み、第2の樹脂を0.1?15重量%の範囲で含む請求項1に記載の油性マーキングペン用金属粉顔料インキ組成物。
【請求項3】
インキ組成物の重量に基づいて、第1の樹脂を5?25重量%の範囲で含み、第2の樹脂を0.5?10重量%の範囲で含む請求項1に記載の油性マーキングペン用金属粉顔料インキ組成物。
【請求項4】
金属粉顔料がアルミニウム粉顔料である請求項1に記載の油性マーキングペン用金属粉顔料インキ組成物。
【請求項5】
有機溶媒が脂肪族アルコール類、グリコール類、グリコールエーテル類及びグリコールエーテルエステル類から選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の油性マーキングペン用金属粉顔料インキ組成物。」

第3 申立理由の概要

特許異議申立人シヤチハタ株式会社(以下、「申立人」という。)は、全請求項(請求項1?5)に係る特許を取り消すべきであると主張し、その理由として、概ね、以下の取消理由1、2を主張している。また、取消理由1で引用する刊行物は、以下のとおりである。

<取消理由>
取消理由1
本件特許の請求項1?5に係る発明は、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が、その出願前日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
取消理由2
本件特許は、その明細書の記載により、スチレン-アクリル樹脂単独を入れた場合に比して、スチレン-アクリル樹脂にケトン樹脂、水添ロジン樹脂及び超淡色ロジン樹脂から選ばれる少なくとも1種を入れることに優位性があることは、明細書のいずれからも見出せるものでは無く、当業者にとって技術的な意義が理解されるものでは無いので、本件出願は、特許法第36条第4項第1号の規定を満たさない。

<取消理由1で引用する刊行物>
特開2004-51673号公報(申立人が提出した甲第1号証。以下、「甲1」という。)
特開2014-139295号公報(申立人が提出した甲第2号証。以下、「甲2」という。)
飯濱健治ら、「水性グラビアインキの樹脂組成と堅ろう性」、日本印刷学会誌、第44巻第5号(2007)、31?37頁(申立人が提出した甲第3号証。以下、「甲3」という。)
特開2001-158867号公報(申立人が提出した甲第4号証。以下、「甲4」という。)
国際公開第2013/031845号(申立人が提出した甲第5号証。以下、「甲5」という。)

第4 判断
1 取消理由1について
(1) 証拠の記載事項
a 甲1に記載されている事項
「【0017】
本発明のインキ組成物は、厚みが500Å以下、平均粒子径は50μm以下のアルミニウム粉末と必要に応じて配合される着色剤のほかに、固着材としての樹脂、樹脂エマルジョン、溶剤として水や有機溶剤が配合され、更に必要に応じて、アルミニウム粉末を酸化反応防止のために、ステアリン酸、無機リン酸等の高級脂肪酸で処理したり、界面活性剤や樹脂などの分散剤、増粘剤、保湿材、防菌剤、防錆剤やペン先の乾燥防止のために遅乾性溶剤を配合しても良い。使用される材料によって、ペイントマーカーやサインペン、油性、水性ボールペンやゲルインキボールペンなど様々な筆記具に応用することができる。
【0018】
【実施例】
以下実施例に基づき、更に詳細に説明する。
【0019】
実施例1
・アルミニウム顔料(平均粒子径10?15μm、厚み約300Å) 10重量部
(メタシーンスラリー1807:WOLSTENHOLME社製、プロピレングリコール・モノメチルエーテル溶剤、アルミニウム粉末含量10%)
・ケトン樹脂(ハイラック110H、日立化成工業製) 25重量部
・プロピレングリコール・モノメチルエーテル 65重量部
を撹拌混合し油性サインペン用銀色インキを得た。」

b 甲2に記載されている事項
「【請求項1】
少なくとも水、溶剤、アルミニウム顔料、カルボキシル基を有する酸性樹脂、2種以上のpH調整剤からなる筆記具用水性インキ組成物であって、前記筆記具用水性インキ組成物のpHが7?10であることを特徴とする筆記具用水性インキ組成物。」
「【0011】
本発明では、着色剤としては、金属光沢が優れ、筆跡に美感が得られるため、アルミニウム顔料を用いる。そのアルミニウム顔料の分散性を向上し、顔料沈降や凝集を抑制する目的で使用する顔料分散剤としては、酸性樹脂、塩基性樹脂、ノニオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤などが挙げられるが、その中でもアルミニウム顔料の分散性を考慮すれば、カルボキシル基を有する酸性樹脂を用いる必要がある。これは、カルボキシル基を有する酸性樹脂は、水や溶剤に溶解安定し、アルミニウム顔料を長期間分散安定化するためである。」
「【0022】
また、カルボキシル基を有する酸性樹脂については、アクリル樹脂、スチレン-アクリル樹脂、スチレン-マレイン酸樹脂などが挙げられる。これは、カルボキシル基を有すると、アルミニウム顔料を吸着しやすく、アルミニウム顔料を長期間顔料分散安定するためである。カルボキシル基を有する酸性樹脂の中でも、スチレン-アクリル樹脂が好ましい。これは、スチレン基の立体構造による障害によって、アルミニウム顔料を反発させやすくすることで、アルミニウム顔料を分散安定しやすい傾向があるためである。」

c 甲3に記載されている事項
「顔料表面に吸着した樹脂層による立体障害が大きくなることで顔料同士の凝集が抑えられて顔料の分散性安定化^(3))が図れ、高い光沢が得られたと考えられた.」(34頁左欄1?3行)

d 甲4に記載されている事項
「【0010】更に、本発明のインキ組成物には、上記成分の他、分散剤、pH調整剤、防腐剤等を添加することが出来る。なお、本発明の筆記具用光輝性インキ組成物は、インキ収容管とチップを直接連結するボールペンや、中綿式、蛇腹式及びプッシュ式等の筆記具に好適に用いられる。
【0011】次に実施例、比較例を挙げて、本発明を更に詳しく説明する。
【0012】
【実施例】
【実施例1】
RCFSX-2015PS (光輝性顔料) 4.00 重量%
スチレンアクリル酸共重合体樹脂エマルジョン 59.00重量%
(不揮発分41重量%)
架橋型アクリル樹脂 0.04重量%
プロピレングリコール 10.00 重量%
イオン交換水 26.90 重量%
トリエタノールアミン 0.06重量%
イオン交換水、架橋型アクリル樹脂及びトリエタノールアミンはプロペラ攪拌機で1時間混合攪拌し、その他の成分はバッチ式サンドミルを用いて分散処理し、双方をプロペラ攪拌機にて1時間混合攪拌し、実施例1の筆記具用光輝性顔料インキ組成物とした。」

e 甲5に記載されている事項
「その他の顔料として、蛍光顔料、パール顔料、蓄光顔料、金属顔料、複合金属顔料、金属酸化物顔料等を使用しても良い。例えば、蛍光顔料としては、FZ-5000シリーズ(シンロイヒ(株)製)などが挙げられる。パール顔料としては、パールグレイズ MRY-100や同ME-100等(日本光研工業(株)製)が挙げられる。蓄光顔料としては、GSS(根本特殊化学(株)製)などが挙げられる。また、金属顔料としては、筆跡の色と異なる光輝感を醸し出す目的として使用するもので、アルミニウム粉やブロンズ粉、亜鉛粉等が、具体例として、市販されているアルミニウム粉末としては、スーパーファイン No.22000、同No.18000、ファイン No.900、同No.800(以上、大和金属粉工業(株)製)等が挙げられる。」(7頁1?11行)
「(実施例12) 三菱カーボン#25(カーボンブラック、三菱化学(株)製)
19.90重量部
マイクロリスブラック C-A(顔料をエチルセルロースキャリアーに微分散させた加工顔料、ピグメントブラック7とエチルセルロースとの比率が6:4、BASF(株)製、ドイツ
14.20重量部
ジョンクリル682(スチレンアクリル酸樹脂、BASFジャパン(株)製)
2.80重量部
ハイラック901(ケトン樹脂、日立化成工業(株)製) 5.00重量部
PVP K-90(ポリビニルピロリドン、ISPジャパン(株)製)
0.40重量部
ヘキシレングリコール(多価アルコール、SP値10.5)
47.40重量部
3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール(SP値9.3)
5.00重量部
ベンジルアルコール(SP値11.6) 5.30重量部

上記成分中のジョンクリル682と全溶剤とを加熱攪拌し、三菱カーボン#25を添加し、ビーズミルで1時間分散した。得られた顔料分散体と残りの成分とをラボミキサーにて混合加熱撹拌し、25℃において剪断速度0.019s^(-1)での粘度が1635000mPa・s、剪断速度10000s^(-1)での粘度が1950mPa・s、0.019rad/secにおける貯蔵弾性率が15Pa、0.019rad/secにおけるtanδが0.51の黒色インキを得た。」(37頁4?末行)

(2) 甲1に記載されている発明

甲1には、実施例1(【0019】)の記載に基づき、以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
<甲1発明>
「アルミニウム顔料(平均粒子径10?15μm、厚み約300Å、メタシーンスラリー1807:WOLSTENHOLME社製、プロピレングリコール・モノメチルエーテル溶剤、アルミニウム粉末含量10%)10重量部、ケトン樹脂(ハイラック110H、日立化成工業製) 25重量部、プロピレングリコール・モノメチルエーテル65重量部を撹拌混合して得た油性サインペン用銀色インキ」

(3) 本件特許発明1について

本件特許発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明のアルミニウム顔料(平均粒子径などの説明の記載を省略)に含まれている「アルミニウム粉末」、「ケトン樹脂(ハイラック110H、日立化成工業製)」、「プロピレングリコール・モノメチルエーテル溶剤」及び「油性サインペン用銀色インキ」は、それぞれ、本件特許発明1の「金属粉顔料」、「ケトン樹脂、水添ロジン樹脂及び超淡色ロジン樹脂から選ばれる少なくとも1種の第1の樹脂」、「有機溶媒」及び「油性マーキングペン用金属粉顔料インキ組成物」に相当する。

したがって、本件特許発明1と甲1発明は、「有機溶媒、金属粉顔料及び樹脂を含む油性マーキングペン用金属粉顔料インキ組成物であって、上記樹脂がケトン樹脂、水添ロジン樹脂及び超淡色ロジン樹脂から選ばれる少なくとも1種の第1の樹脂である油性マーキングペン用金属粉顔料インキ組成物。」である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1>
「樹脂」について、本件特許発明1は、「スチレン-アクリル樹脂及びスチレン-マレイン酸樹脂から選ばれる少なくとも1種の第2の樹脂の組み合わせである」ことが特定されているのに対し、甲1発明は、そのような特定を備えていない点

相違点1について検討する。

甲1には、甲1発明に含有させる樹脂について、「固着材としての樹脂、樹脂エマルジョン」が配合されることが記載され、さらに、「必要に応じて、アルミニウム粉末を酸化反応防止のために、ステアリン酸、無機リン酸等の高級脂肪酸で処理したり、界面活性剤や樹脂などの分散剤、増粘剤、保湿材、防菌剤、防錆剤やペン先の乾燥防止のために遅乾性溶剤を配合しても良い」ことが記載されている(【0017】)。
そうすると、甲1発明の「ケトン樹脂(ハイラック110H、日立化成工業製)」は、「固着材」として用いられるものであるといえるところ、「固着材」として、「ケトン樹脂(ハイラック110H、日立化成工業製)」に加えて、「スチレン-アクリル樹脂及びスチレン-マレイン酸樹脂から選ばれる少なくとも1種の第2の樹脂の組み合わせ」を用いることは、甲1には記載も示唆もない。また、甲1発明において、そのような第2の樹脂の組み合わせを用いた場合に、甲1発明に係る「油性サインペン用銀色インキ」がどのようなものとなるかについては、当業者にとって明らかではないことから、甲1発明において、「スチレン-アクリル樹脂及びスチレン-マレイン酸樹脂から選ばれる少なくとも1種の第2の樹脂の組み合わせ」を用いる動機付けも見いだすことができない。

上記相違点1に関し、申立人は、甲1には組成物に分散剤を入れてもよいことが記載されおり、甲1発明に記載のアルミニウム顔料を分散させるために、好適とされるスチレン-アクリル樹脂を追加して組成物を形成することは当業者が容易になし得ることであり、甲1発明にスチレン-アクリル樹脂を追加することで光輝性が高まることは、容易に予想できる旨主張しているので(特許異議申立書12頁11?18行)、甲1発明において、分散剤としてスチレン-アクリル樹脂を配合することが当業者が容易になし得たことであるかどうかについて検討する。
まず、甲1の上記【0017】の記載は、分散剤が酸化防止剤や増粘剤などと同列に列記されているだけであり、かつ、必要に応じて配合しても良いことが記載されているに過ぎないから、そのような記載から、酸化防止剤や増粘剤などではなく特に分散剤に着目してこれをさらに配合することを動機付けるものではない。
また、甲2には、アルミニウム顔料、カルボキシル基を有する酸性樹脂を含有する筆記具用水性インキ組成物(請求項1)について、カルボキシル基を有する酸性樹脂がアルミニウム顔料の分散性を向上すること(【0011】)が記載されており、甲3には顔料表面に吸着した樹脂層による立体障害が大きくなることで顔料同士の凝集が抑えられて顔料の分散性安定化が図れることが記載されているとしても、甲2、3はいずれも水性インキ組成物に関するものであって、しかも、甲3に記載された水性グラビアインキの顔料は、たとえば、銅フタロシアニンブルー(280頁右下欄下から4?3行)であって、アルミニウム顔料を想定したものとはいえないことから、甲2、3には、油性マーキングペン用金属粉顔料インキ組成物において、スチレン-アクリル樹脂を追加することで、金属粉顔料の分散性が向上することや、金属粉顔料の安定化が図られることについては記載されていないというべきである。
また、甲4に記載のインキ組成物も、イオン交換水を26.90 重量%含有するので、水性インキ組成物であり、甲5は、ボールペン用油性インキ組成物に関するものであり、いずれも、油性マーキングペン用インキ組成物とは異なる技術分野に係るものである。
なお、甲1の比較例3(【0024】)は、スチレン-アクリル樹脂であるスチレン-アクリル共重合物エマルジョンを含有した水性サインペン用銀色インキであるものの、光輝感に劣るものであり(【0029】【表1】)、スチレン-アクリル樹脂を追加することで光輝性が高まるものとなると、直ちにはいうことができない。

そうすると、仮に甲1発明において、分散剤をさらに配合することを着想し得たとしても、当業者は、甲1発明と同じ油性マーキングペン用金属粉顔料インキ組成物の技術分野において周知の分散剤を選択しようと強く動機づけられるのであって、甲1発明とは技術分野が異なる甲2?5に記載の分散剤等に着目することはなく、しかも、多数の分散剤の中から、甲2に記載されたスチレン-アクリル樹脂を選択する動機付けはないと認められる。
したがって、当業者といえども、甲1?5に記載された事項に基づいて、甲1発明を、相違点1に係る構成を備えるものとすることを容易になしえたとは認められない。

効果について検討する。

本件特許発明1は、油性マーキングペン用金属粉顔料インキ組成物に含まれている樹脂について、「ケトン樹脂、水添ロジン樹脂及び超淡色ロジン樹脂から選ばれる少なくとも1種の第1の樹脂とスチレン-アクリル樹脂及びスチレン-マレイン酸樹脂から選ばれる少なくとも1種の第2の樹脂の組み合わせである」という相違点1に係る構成を備えることによって、「光輝性の改善された筆跡を与える」(【0010】)という効果を奏するものである。また、甲1発明に該当する比較例1と比べて本件特許発明1の実施例は、いずれも光輝性が改善されていることが裏付けられている(【表1】)。

以上によれば、本件特許発明1は、甲1に記載された発明及び甲1?5に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとは認められない。

(4) 本件特許発明2?5について

本件特許発明2?5は、本件特許発明1を引用し、さらに限定したものに該当する。
また、上記(3)のとおり、本件特許発明1は、甲1に記載された発明及び甲1?5に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとは認められないものである。
そうすると、さらに検討するまでもなく、本件特許発明2?5は、本件特許発明1と同様の理由により、甲1に記載された発明及び甲1?5に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとは認められない。

2 取消理由2について
a 判断手法

特許法第36条第4項第1号は、発明の詳細な説明の記載が適合しなければならない要件として、「経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであること。」と規定し、特許法施行規則第24条の2(委任省令)は、「第二十4条の2 特許法第三十6条第4項第1号の経済産業省令で定めるところによる記載は、発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他のその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項を記載することによりしなければならない。」と規定している。

そこで、本願明細書の発明の詳細な説明(以下、「発明の詳細な説明」という。)の記載により、発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他のその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が本願発明の技術上の意義を理解するために必要な事項を記載したものであるかについて検討することとする。

b 「本願発明の解決しようとする課題」について

【0006】より、本願発明の解決しようとする課題は「従来の金属粉顔料インキ組成物における上述した問題を解決するためになされたものであって、特に、光輝性の改善された筆跡を与える油性マーキングペン用金属粉顔料インキ組成物を提供すること」であると理解でき、「従来の金属粉顔料インキ組成物における上述した問題」とは、具体的には、【0003】、【0004】より、マーキングペン用金属粉顔料インキ組成物の一例として、脂肪酸(塩)で表面処理したアルミニウム粉顔料と共に、有機溶媒としてプロピレングリコールモノメチルエーテルを用い、樹脂としてフェノール樹脂を用いてなるものが知られていたが、保存安定性やインキ流出性等の筆記性に問題があるうえに、筆跡の光輝性が十分でないので、樹脂として、ケトン樹脂を用いて、保存安定性や筆記性の向上を図ったマーキングペン用金属粉顔料インキ組成物も提案されているが、筆跡の光輝性が依然として十分でないことであると理解できる。

c 課題を解決するための手段について

【0007】、【0010】より、本願発明の解決しようとする課題(以下、「本願発明の課題」という。)を解決するための手段は、有機溶媒、金属粉顔料及び樹脂を含む油性マーキングペン用金属粉顔料インキ組成物において、上記樹脂がケトン樹脂、水添ロジン樹脂及び超淡色ロジン樹脂から選ばれる少なくとも1種の第1の樹脂とアクリル樹脂、スチレン-アクリル樹脂及びスチレン-マレイン酸樹脂から選ばれる少なくとも1種の第2の樹脂の組み合わせであるものとすることであると理解できる。

d 申立人の主張について

申立人は、スチレン-アクリル樹脂を入れた場合に比して、スチレン-アクリル樹脂にケトン樹脂、水添ロジン樹脂及び超淡色ロジン樹脂から選ばれる少なくとも1種を入れることに優位性があることは、明細書のいずれからも見いだせるものでは無く、当業者にとって技術的な意義が理解されるものでは無い」(特許異議申立書の特に14頁3?7行)と主張する。
申立人の主張は、要するに、樹脂として、スチレン-アクリル樹脂のみを含む比較例が記載されていないので、そのような比較例と比べた場合における本件特許発明の優位性が不明であるから、本件特許発明の技術的な意義が理解できないというものであるが、上記のとおり、スチレン-アクリル樹脂のみを含む比較例がなくても、本件特許発明の技術的な意義は、明細書の記載に基づいて理解できるものである。
また、実施例1?8は、いずれも、第1の樹脂として、ケトン樹脂、水添ロジン樹脂及び超淡色ロジン樹脂から選ばれる少なくとも1種と、第2の樹脂として、アクリル樹脂、スチレン-アクリル樹脂及びスチレン-マレイン酸樹脂から選ばれる少なくとも1種を含ものであって、その課題を解決することができるものであることが確認できるものであることから、アクリル樹脂、スチレン-アクリル樹脂及びスチレン-マレイン酸樹脂は、いずれも、第2の樹脂として等価な選択肢であることが理解できる。
また、樹脂として、スチレン-マレイン酸樹脂のみを含む比較例2も記載されている。
そうすると、申立人がいう、樹脂として、スチレン-アクリル樹脂のみを含む比較例を具体的に記載するまでもなく、スチレン-アクリル樹脂にケトン樹脂、水添ロジン樹脂及び超淡色ロジン樹脂から選ばれる少なくとも1種を入れることに優位性があることも理解できる。
したがって、申立人の主張は採用できない。

e まとめ

以上のとおりであるから、発明の詳細な説明の記載は、その記載により、発明が解決しようとする課題及びその解決手段を、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が理解することができるものであるといえるので、当業者が、発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他の、発明の技術上の意義を理解するために必要な事項を記載することによりされていると認められる。

したがって、本件特許発明1?5は、その発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるとは認められないので、その特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものであるとはいえない。


第5 むすび

以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2020-06-23 
出願番号 特願2015-176203(P2015-176203)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C09D)
P 1 651・ 536- Y (C09D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 川嶋 宏毅井上 能宏  
特許庁審判長 川端 修
特許庁審判官 瀬下 浩一
蔵野 雅昭
登録日 2019-08-16 
登録番号 特許第6572069号(P6572069)
権利者 株式会社サクラクレパス
発明の名称 油性マーキングペン用金属粉顔料インキ組成物  
代理人 綿貫 達雄  
代理人 山本 文夫  
代理人 牧野 逸郎  
代理人 綿貫 敬典  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ