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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C04B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C04B
管理番号 1364021
異議申立番号 異議2019-701042  
総通号数 248 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-08-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-12-19 
確定日 2020-07-13 
異議申立件数
事件の表示 特許第6534271号発明「セメント分散剤およびセメント組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6534271号の請求項1?10に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6534271号(以下、「本件特許」という。)は、平成27年3月24日(優先権主張 平成26年4月16日)に出願された特願2015-61555号の特許請求の範囲に記載された請求項1?10に係る発明について、令和元年6月7日に特許権の設定登録がされ、同年6月26日に特許掲載公報の発行がされたものであり、その後、その全請求項に係る特許について、令和元年12月19日付けで特許異議申立人岡本敏夫(以下、「申立人」という。)により甲第1号証?甲第4号証を証拠方法とする特許異議の申立てがされ、令和2年3月11日付けで特許権者に対し審尋したところ、同年4月14日付けで特許権者より乙1号証を添付した回答書の提出がされた。

(証拠方法)
(申立人より)
甲第1号証:特開2011-256064号公報
甲第2号証:特開2003-286058号公報
甲第3号証:特開2009-173527号公報
甲第4号証:特開2011-240224号公報
(以下、それぞれ「甲1」、・・・「甲4」という。)

(特許権者より)
乙1号証:中村明彦(日本製紙株式会社 化成品研究所)作成の令和2年4月9日付け実験成績証明書


第2 本件発明について
本件特許の請求項1?10に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」、・・・「本件発明10」といい、まとめて「本件発明」という。)は、本件特許の特許請求の範囲の請求項1?10に記載された事項により特定される以下のとおりのものと認める。
「【請求項1】
下記の条件A及び条件Bを満たす成分(C)を含有し、
成分(C)が、2種以上の下記一般式(2)で表される単量体(II)と、
下記一般式(1)で表される単量体(I)、不飽和モノカルボン酸系単量体(III)、及び単量体(I)?(III)と共重合可能なその他の単量体(IV)からなる群から選ばれる少なくとも1種と、の共重合体であるポリカルボン酸系共重合体またはその塩(AA)を含むセメント分散剤。
R^(1)-O-(A^(1)O)_(n1)-R^(2) ・・・(1)
(式中、R^(1)は、炭素原子数2?5のアルケニル基を表す。A^(1)Oは、同一若しくは異なって、炭素原子数2?18のオキシアルキレン基を表す。n1は、オキシアルキレン基の平均付加モル数であり、1?100の数を表す。R^(2)は、水素原子または炭素原子数1?30の炭化水素基を表す。)
【化1】

(式中、R^(3)、R^(4)およびR^(5)は、それぞれ独立に、水素原子または炭素原子数1?3のアルキル基を表す。mは、0?2の数を表す。A^(2)Oは、同一若しくは異なって、炭素原子数2?18のオキシアルキレン基を表す。n2は、オキシアルキレン基の平均付加モル数であり、1?100の数を表す。Xは、水素原子または炭素原子数1?30の炭化水素基を表す。)
条件A:成分(C)のゲルパーミエイションクロマトグラフィー(標準物質:ポリエチレングリコール)の測定において、最も高いピークの高さに対する、重量平均分子量20?150の範囲に存在するピークの高さの割合が3%未満であること。
条件B:成分(C)に対してJIS K 0070のケン化価測定法に準じてアルカリ処理を施したアルカリ処理成分(C’)のゲルパーミエイションクロマトグラフィー(標準物質:ポリエチレングリコール)の測定において、最も高いピークの高さに対する、重量平均分子量20?150の範囲に存在するピークの高さの割合が5%以上49%以下であること。
【請求項2】
前記単量体(II)が、一般式(2)中のn2が1?5である単量体(IIa)及び一般式(2)中のn2が6?100である単量体(IIb)を含む請求項1に記載のセメント分散剤。
【請求項3】
前記単量体(II)中の前記単量体(IIa)及び前記単量体(IIb)の重量比率(IIa)/(IIb)が1/99?99/1である請求項2に記載のセメント分散剤。
【請求項4】
前記ポリカルボン酸系共重合体またはその塩(AA)の重量平均分子量が、ポリエチレングリコール換算で5,000?60,000である請求項1?3のいずれか一項に記載のセメント分散剤。
【請求項5】
前記ポリカルボン酸系共重合体またはその塩(AA)が、共重合で得られる生成物のアルカリ性物質による中和物である、請求項1?4のいずれか一項に記載のセメント分散剤。
【請求項6】
前記単量体(I)をさらに含有する請求項1?5のいずれか一項に記載のセメント分散剤。
【請求項7】
リグニンスルホン酸系分散剤を含む請求項1に記載のセメント分散剤。
【請求項8】
リグニンスルホン酸系化合物と水溶性単量体の反応物であるリグニン誘導体を含む請求項1に記載のセメント分散剤。
【請求項9】
オキシカルボン酸系分散剤を含む請求項1に記載のセメント分散剤。
【請求項10】
請求項1?9のいずれか一項に記載のセメント分散剤を含有するセメント組成物。 」


第3 特許異議申立理由について

1.特許異議申立理由の概要
申立理由1(新規性):本件発明1?7、10は、甲1、甲2又は甲3に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、その特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
申立理由2(進歩性):本件発明1?10は、甲1?甲4に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項に違反してされたものである。

2.当審の判断
(1)甲各号証の記載事項等
ア.甲1の記載事項及び甲1に記載された発明
甲1には、以下の(ア)?(エ)の記載がある(下線は当審で付した。また、「・・・」は記載の省略を表す。以下、同様である。)。

(ア)「【0006】 本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、高い減水性能を発揮するとともに、低空気連行性、初期フロー、スランプ保持性、及び、ワイドレンジ性に優れ、更にコンクリート状態及び混練速度を良好なものとすることができ、これらの性能のバランスのとれたセメント混和剤として好適に用いることができる重合体組成物を提供することを目的とする。なお、本発明では、特にコンクリートに配合される水とセメントの質量比(水セメント比)が低い場合にしばしば問題となるフローの急激な変化が小さい性質を「初期フロー」とし、コンクリートに連行される空気量が低い性質を「低空気連行性」とする。」

(イ)「【0008】 すなわち本発明は、以下に示す第1?第3の3種類の異なるポリカルボン酸系共重合体を含むセメント混和剤用共重合体組成物であって、上記組成物は、第1?第3のポリカルボン酸系共重合体をこれらの合計100質量%に対して、第1のポリカルボン酸系共重合体/第2のポリカルボン酸系共重合体/第3のポリカルボン酸系共重合体=15?70/5?60/15?60の質量比で含有するセメント混和剤用共重合体組成物である。
第1のポリカルボン酸系共重合体:
オキシアルキレン基の平均付加モル数が8?12のポリカルボン酸系共重合体であって、下記一般式(1);
【化1】

(式中、R^(1)は、水素原子又はメチル基を表す。AOは、同一又は異なって、炭素数2?3のオキシアルキレン基を表す。mは、AOで表されるオキシアルキレン基の平均付加モル数を表し、1?9の数である。)で表される不飽和ポリオキシアルキレングリコール系単量体(I)、
下記一般式(2);
【化2】

(式中、R^(2)は、水素原子又はメチル基を表す。BOは、同一又は異なって、炭素数2?3のオキシアルキレン基を表す。nは、BOで表されるオキシアルキレン基の平均付加モル数を表し、10?30の数である。n-mは、8?25である。)で表される不飽和ポリオキシアルキレングリコール系単量体(II)、及び、
下記一般式(3);
【化3】

(式中、Mは、水素原子、一価金属原子、二価金属原子、アンモニウム基又は有機アミン基を表す。)で表される不飽和カルボン酸系単量体(III)を 単量体(I)?(III)の合計100質量%に対して、単量体(I)/単量体(II)/単量体(III)=1?78/1?78/21?25の質量比で含む単量体成分を重合して得られる共重合体。
第2のポリカルボン酸系共重合体:
オキシアルキレン基の平均付加モル数が8?12のポリカルボン酸系共重合体であって、
上記一般式(1)で表される不飽和ポリオキシアルキレングリコール系単量体(I)、
上記一般式(2)で表される不飽和ポリオキシアルキレングリコール系単量体(II)、及び、上記一般式(3)で表される不飽和カルボン酸系単量体(III)を
単量体(I)?(III)の合計100質量%に対して、単量体(I)/単量体(II)/単量体(III)=1?86/1?86/13?20の質量比で含む単量体成分を重合して得られる共重合体。
第3のポリカルボン酸系共重合体:
オキシアルキレン基の平均付加モル数が4?7のポリカルボン酸系共重合体であって、
上記一般式(1)で表される不飽和ポリオキシアルキレングリコール系単量体(I)、
上記一般式(2)で表される不飽和ポリオキシアルキレングリコール系単量体(II)、及び、上記一般式(3)で表される不飽和カルボン酸系単量体(III)を
単量体(I)?(III)の合計100質量%に対して、単量体(I)/単量体(II)/単量体(III)=9?86/1?78/13?20の質量比で含む単量体成分を重合して得られる共重合体。
以下に、本発明を詳述する。」

(ウ)「【0035】
次に、本発明におけるポリカルボン酸系共重合体の製造方法における単量体成分の共重合方法を以下に説明する。
上記共重合方法としては、例えば、単量体成分と重合開始剤とを用いて、溶液重合や塊状重合等の公知の重合方法により行うことができる。・・・
・・・
【0040】
上記共重合方法において、単量体成分や重合開始剤等の反応容器への添加方法としては、反応容器に単量体成分の全てを仕込み、重合開始剤を反応容器内に添加することによって共重合を行う方法;反応容器に単量体成分の一部を仕込み、重合開始剤と残りの単量体成分を反応容器内に添加することによって共重合を行う方法、反応容器に重合溶媒を仕込み、単量体と重合開始剤の全量を添加する方法等が好適である。このような方法の中でも、得られる共重合体の分子量分布を狭く(シャープに)することができ、セメント組成物等の流動性を高める作用であるセメント分散性を向上することができることから、重合開始剤と単量体を反応容器に逐次滴下する方法で共重合を行うことが好ましい。また、単量体成分の共重合性が向上して得られる共重合体の保存安定性がより向上することから、共重合中の反応容器内の水の濃度を50%以下に維持して共重合反応を行うことが好ましい。より好ましくは、40%以下であり、更に好ましくは、30%以下である。
【0041】
上記共重合方法において、共重合温度等の共重合条件としては、用いられる共重合方法、溶媒、重合開始剤、連鎖移動剤により適宜定められるが、共重合温度としては、通常0℃以上であることが好ましく、また、150℃以下であることが好ましい。より好ましくは、40℃以上であり、更に好ましくは、50℃以上であり、特に好ましくは、60℃以上である。また、より好ましくは、120℃以下であり、更に好ましくは、100℃以下であり、特に好ましくは、85℃以下である。上記共重合方法により得られる重合体は、そのままでもセメント混和剤の主成分として用いられるが、必要に応じて、更にアルカリ性物質で中和して用いてもよい。アルカリ性物質としては、一価金属及び二価金属の水酸化物、塩化物及び炭酸塩等の無機塩;アンモニア;有機アミンを用いることが好ましい。」

(エ)「【0055】
共重合体の製造
表1に示すように、単量体(I)?(III)の3種、又は、単量体(II)及び(III)の2種を含む単量体成分を原料として共重合体(1)?(14)を製造した。本発明の第1?第3のポリカルボン酸系共重合体に該当するものは、いずれに該当するかを示した。各共重合体の原料となった単量体成分全体に占める単量体(III)の重量比、各共重合体の平均鎖長、単量体(I)のオキシアルキレン基の平均付加モル数と単量体(II)のオキシアルキレン基の平均付加モル数との差n-m、重量平均分子量を表1に示す。重量平均分子量は、上述した方法により測定した。
【0056】
【表1】

【0057】
表1における略称はそれぞれ以下のものを表す。
M4E:メトキシポリエチレングリコール(平均付加モル数4モル)モノメタクリレート
M6E:メトキシポリエチレングリコール(平均付加モル数6モル)モノメタクリレート
M10E:メトキシポリエチレングリコール(平均付加モル数10モル)モノメタクリレート
M25E:メトキシポリエチレングリコール(平均付加モル数25モル)モノメタクリレート
M2302E:メトキシポリエチレン(プロピレン)グリコール(エチレンオキシド平均付加モル数23モル、プロピレンオキシド平均付加モル数2モル)モノメタクリレート
H1E:ヒドロキシエチルメタクリレート
SMAA:メタクリル酸ナトリウム」

上記(ア)、(イ)より、甲1には、第1?第3の3種類の異なるポリカルボン酸系共重合体を含む共重合体組成物を含むセメント混和剤の発明について記載されており、上記(エ)より、具体的に【表1】に示されたポリカルボン酸系共重合体(1)?(6)及び(10)に係るものを含むセメント混和材、すなわち、
「単量体(I)であるM6E(メトキシポリエチレングリコール(平均付加モル数6モル)モノメタクリレート)、H1E(ヒドロキシエチルメタクリレート)または M4E(メトキシポリエチレングリコール(平均付加モル数4モル)モノメタクリレート)と、単量体(II)であるM25E(メトキシポリエチレングリコール(平均付加モル数25モル)モノメタクリレート)または M10E(メトキシポリエチレングリコール(平均付加モル数10モル)モノメタクリレート)と、
単量体(III)であるSMAA(メタクリル酸ナトリウム)との共重合体を含むセメント混和材」の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

イ.甲2の記載事項及び甲2に記載された発明
甲2には、以下の(カ)?(ク)の記載がある。

(カ)「【請求項1】 一般式(1)で示されるポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリル酸エステル系単量体(a)40?80重量%、一般式(2)で示されるモノ(メタ)アクリル酸エステル系単量体(b)5?30重量%、一般式(3)で示される不飽和結合を有するカルボン酸系単量体(c)10?40重量%、及びこれらと共重合可能な単量体(d)0?30重量%(但し、(a)+(b)+(c)+(d)=100重量%)の割合で反応して得られる共重合体及び/または該重合体を更にアルカリ性物質で中和して得られる共重合体塩であることを特徴とするセメント分散剤。
【化1】一般式(1)

R_(1):水素原子またはメチル基
R_(2)O:オキシエチレン基、またはオキシプロピレン基m:5?50の整数
R_(3):水素または炭素数1?3のアルキル基
【化2】一般式(2)

R_(4):水素原子またはメチル基
R_(5):炭素数1?4のアルキル基、該アルキル基の一部が水酸基で置換されたヒドロキシアルキル基、該アルキル基の一部がメトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基で置換されたアルコキシアルキル基、又は一部が水酸基あるいはアルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基等)で置換されてもよいベンジル基もしくはシクロヘキシル基
【化3】一般式(3)

R6,R7,R8:水素またはメチル基または(CH_(2))_(m)COOM (mは、0?2の整数)
M:水素原子、一価金属原子、二価金属原子、アンモニウム基または有機アミン基」

(キ)「【0002】
【従来の技術】近年、コンクリート構造物の大型化により、コンクリートの高強度化が要求されている。そのため、単位水量を減少させてより高い強度を実現するために、高い減水性と優れた経時安定性を併せ持った高性能AE減水剤が開発されている。高性能AE減水剤は、その主成分からポリカルボン酸系重合物、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、メラミンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、リグニンスルホン酸、アミノスルホン酸類に分類される。この中でも、グラフト鎖にオキシアルキレン基をもつ水溶性カルボン酸系ポリマーを主成分としたポリカルボン酸系高性能AE減水剤(例えば、特公昭59-18338号、特開平8-119701号、特開平9-286645号等)は、より高い減水性を示すものである。一方、コンクリート配合物に用いる骨材の品質悪化、及び都市部の交通事情の問題から、コンクリートの流動性を一定時間維持する性能が重視されている。この性能を経時安定性というが、従来の高性能AE減水剤では、この点はまだ不十分であり、経時安定性の優れた分散剤が強く要望されていた。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】従って、本発明の目的は、従来のセメント分散剤と比べ、より高い初期減水性を示し、強度発現性が高く、尚かつ経時安定性の高いセメント分散剤を提供することである。」

(ク)「【0031】[製造例1]撹拌装置、還流装置、及び滴下装置を備えた反応容器に水507重量部を仕込み、100℃に昇温した。その後、メトキシポリオキシエチレンメタクリレート(平均付加モル数9)114重量部、メタクリル酸エチル13重量部、アクリル酸30重量部、4,4‘-ジヒドロキシジフェニルスルホンのジアリル置換体4重量部及び水69重量部の混合液(1)と、過硫酸アンモニウム3.5重量部及び水60重量部の混合溶液(2)を各々2時間で、100℃に保持した反応容器に連続滴下した。更に、温度を100℃に保持し、1時間反応させることにより共重合物の水懸濁液を得た。この液を30%NaOH水溶液でpH7に調整した。共重合体について重量平均分子量を測定した結果23000であった。
【0032】[製造例2]撹拌装置、還流装置、及び滴下装置を備えた反応容器に水505重量部を仕込み、90℃に昇温した。その後、メトキシポリオキシエチレンメタクリレート(平均付加モル数9)99重量部、2-ヒドロキシエチルアクリレート26重量部、メタクリル酸34重量部、30%NaOH水溶液8重量部、4,4‘-ジヒドロキシジフェニルスルホンのジアリル置換体3重量部及び水69重量部の混合液(1)と、過硫酸アンモニウム3.8重量部及び水60重量部の混合溶液(2)を各々3時間で90℃に保持した反応容器に、連続滴下した。更に、温度を90℃に維持し、1時間反応させることにより共重合物の水懸濁液を得た。この液を30%NaOH水溶液でpH7に調整した。共重合体について重量平均分子量を測定した結果22000であった。
【0033】[製造例3?10]表1に示す条件で、実施例1と同様に共重合物を生成した。
【0034】
【表1】

【0035】
a1:メトキシポリオキシエチレンメタクリレート(平均付加モル数9)
a2:メトキシポリオキシエチレンメタクリレート(平均付加モル数23)
b1:メタクリル酸エチル
b2:2-ヒドロキシエチルアクリレート
b3:2-ヒドロキシプロピルメタクリレート
b4:メタクリル酸2-メトキシエチル
b5:メタクリル酸メチル
c1:アクリル酸
c2:メタクリル酸
c3:無水マレイン酸
d1:4,4‘-ジヒドロキシジフェニルスルホンのジアリル置換体
d2:4,4‘-ジヒドロキシジフェニルメタンのジアリル置換体
d3:4,4‘-ジヒドロキシジフェニルプロパンのジアリル置換体
d4:アクリルアミド
e1:過硫酸アンモニウム
e2:過硫酸ナトリウム
^(※1):表における各項目の単位は、製造例1と同じ。
^(※2):製造例2は、混合液(1)に、さらに30%NaOH水溶液8重量部添加。
^(※3):()内の数値は、使用した原材料の量を示す。」

上記(カ)、(キ)より、甲2には、一般式(1)で示されるポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリル酸エステル系単量体(a)と、一般式(2)で示されるモノ(メタ)アクリル酸エステル系単量体(b)と、一般式(3)で示される不飽和結合を有するカルボン酸系単量体(c)と、及び必要に応じてこれらと共重合可能な単量体(d)との共重合体を含むセメント分散剤の発明について記載されており、上記(ク)より、具体的に【表1】に示された製造例2?4に係るものを含むセメント混和材、すなわち、
「(a)メトキシポリオキシエチレンメタクリレート(平均付加モル数9)(a1)またはメトキシポリオキシエチレンメタクリレート(平均付加モル数23)(a2)の単量体と、
(b)2-ヒドロキシエチルアクリレート(b2)または2-ヒドロキシプロピルメタクリレート(b3)の単量体と、
(c)メタクリル酸(c2)の単量体と、
(d)4,4‘-ジヒドロキシジフェニルスルホンのジアリル置換体(d1)または4,4‘-ジヒドロキシジフェニルメタンのジアリル置換体(d2)の単量体との共重合体を含むセメント分散剤」の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。

ウ.甲3の記載事項及び甲3に記載された発明
甲3には、以下の(サ)?(ス)の記載がある。

(サ)「【請求項1】
一般式(1)で表される単量体1と一般式(2)で表される単量体2と一般式(3)で表される単量体3とを重合して得られる共重合体と、初期水和が抑制されたセメントとを含有する水硬性組成物であって、
前記共重合体の構成単量体中、単量体1の含有率が25?85重量%であり、単量体2の含有率が10?70重量%であり、単量体3の含有率が5?20重量%であり、単量体2/単量体3(重量比)で1超である水硬性組成物。
【化1】

〔式中、R^(1)?R^(3)は、それぞれ水素原子又はメチル基を表し、AOは炭素数2?4のオキシアルキレン基を表し、nはAOの平均付加モル数であり、20?50の数を表し、R^(4)は水素原子又は炭素数1?4のアルキル基、qは0?2の整数、pは0又は1を表す。〕
【化2】

〔式中、R^(5)は、炭素数1?4のヘテロ原子を含んでよい炭化水素基である。〕
【化3】

〔式中、R^(6)?R^(8)は、それぞれ水素原子、メチル基又は(CH_(2))_(s)COOM^(2)であり、(CH_(2))_(s)COOM^(2)はCOOM^(1)又は他の(CH_(2))_(s)COOM^(2)と無水物を形成していてもよく、その場合、それらの基のM^(1)、M^(2)は存在しない。sは0?2の整数を表す。M^(1)、M^(2)は、それぞれ水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属(1/2原子)、アンモニウム基、アルキルアンモニウム基、置換アルキルアンモニウム基、アルキル基、ヒドロキシアルキル基、又はアルケニル基を表す。〕」

(シ)「【0008】
本発明の課題は、水和発熱によるひび割れの回避に好適な初期水和発熱を抑制したセメントを用いた水硬性組成物について、初期流動性と流動保持性を向上させて作業性の良好な水硬性組成物を提供することである。」

(ス)「【実施例】
【0063】
<製造例>
製造例1
攪拌機付きガラス製反応容器(四つ口フラスコ)に水126.1gを仕込み、撹拌しながら窒素置換をし、窒素雰囲気中で80℃まで昇温した。ω-メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート(エチレンオキサイドの平均付加モル数23、水分35.3%、純度93.6%)165.6gとメタクリル酸16.0gと3-メルカプトプロピオン酸(シグマ アルドリッチ ジャパン株式会社、試薬)1.72gとを混合溶解した単量体溶液とヒドロキシエチルアクリレート(表中HEAと表記する)43.3g、過硫酸アンモニウム水溶液(I)〔過硫酸アンモニウム(和光純薬工業株式会社、試薬)2.66gを水45gに溶解したもの〕の3者を、同時に滴下を開始し、それぞれ1.5時間かけて滴下した後、過硫酸アンモニウム水溶液(II)〔過硫酸アンモニウム0.44gを水15gに溶解したもの〕を0.5時間かけて滴下した。その後、80℃で1時間熟成した。熟成終了後に20%水酸化ナトリウム水溶液で中和し、本発明品1の共重合体の水溶液を得た。なお、ヒドロキシエチルアクリレートは、一般式(2)で、R^(5)がヒドロキシエチル基の化合物(分子量116.1)であり、R^(5)-OHで表される化合物のlogP値が-1.369の分子量116.1の化合物である。よって、ヒドロキシエチルアクリレートは、[logP値/単量体(2)の分子量Mw]は-1.369/116.1=-0.0118である。
【0064】
なお、ω-メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレートは、特許第3874917号記載の方法に準じて、エステル化反応により合成し、未反応物として残留するメタクリル酸を留去により、1重量%未満にしたものを用いた。
【0065】
具体的には、メタクリル酸とポリアルキレングリコールモノアルキルエーテルを、酸触媒としてp-トルエンスルホン酸、重合禁止剤としてハイドロキノンを用いてエステル化反応させた後、アルカリ剤として水酸化ナトリウムを用いて酸触媒を失活させ、真空蒸留法により未反応のメタクリル酸を留去した。
【0066】
製造例9
攪拌機付きガラス製反応容器に、3-メチル-3-ブテン-1-オールにエチレンオキサイドを平均25モル付加した不飽和ポリアルキレングリコールエーテル185.8gとイオン交換水100.0gを仕込み、65℃まで昇温した。そこに2%過酸化水素水溶液42.7gを滴下した。滴下後、アクリル酸29.5gとイオン交換水16.0gを混合した水溶液、およびヒドロキシエチルアクリレート(表中HEAと表記する)80.1gをそれぞれ3.0時間かけて滴下し、それと同時に3-メルカプトプロピオン酸(シグマ アルドリッチ ジャパン株式会社、試薬)2.67g、L-アスコルビン酸1.11g、イオン交換水71.7gを混合溶解した水溶液を3.5時間かけて滴下した。滴下終了後、65℃を1時間維持し反応を終了した。その後、20%水酸化ナトリウム水溶液で中和し、本発明品9の共重合体の水溶液を得た。
【0067】
製造例2?8及び比較製造例1?6
表1の単量体及び比率で製造例1と同様に本発明品2?8及び比較製造例1?6の共重合体の水溶液を得た。
【0068】
比較製造例7
表1の単量体及び比率で製造例9と同様に比較品7の共重合体の水溶液を得た。
【0069】
得られた共重合体を以下の実施例及び比較例に用いた。
【0070】
【表1】

【0071】
表中の記号は以下の意味である。なお、単量体の重量%は、共重合体の構成単量体中の重量%である。
・ME-PEG:ω-メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート、カッコ内の数値は、エチレンオキサイドの平均付加モル数である。
・IPN:3-メチル-3-ブテン-1-オールにエチレンオキサイドを付加した不飽和ポリアルキレングリコールエーテル、カッコ内の数値は、エチレンオキサイドの平均付加モル数である。
・HEA:2-ヒドロキシエチルアクリレート(エチレングリコールlogP:-1.369、logP/Mw:-1.369/116.1=-0.0118、和光純薬工業株式会社、試薬)」

上記(サ)、(シ)より、甲3には、一般式(1)で表される単量体1と、一般式(2)で表される単量体2と、一般式(3)で表される単量体3との共重合体を含む水硬性組成物の発明について記載されており、上記(ス)より、具体的に【表1】に示された製造例1?8に係るものを含む水硬性組成物、すなわち、
「ME-PEG(23)(ω-メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート、エチレンオキサイドの平均付加モル数23)またはME-PEG(45)(ω-メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート、エチレンオキサイドの平均付加モル数45)の単量体1と、HEA(2-ヒドロキシエチルアクリレート)の単量体2と、メタクリル酸またはアクリル酸の単量体3との共重合体を含む水硬性組成物」の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されていると認められる。

エ.甲4の記載事項
甲4には、以下の(タ)?(ツ)の記載がある。

(タ)「【請求項1】
リグニンスルホン酸系化合物と水溶性単量体との反応物であるリグニン誘導体を含有する分散剤。」

(チ)「【0127】
本発明の分散剤は、前述した種々の用途に利用することができるが、セメント分散剤、油田掘削用泥水分散剤、染料分散剤として利用することが好ましく、セメント分散剤としての利用がより好適である。そこで、以下に、本発明の分散剤をセメント分散剤として使用する場合について詳しく説明する。」

(ツ)「【0137】
本発明の分散剤をセメント分散剤として用いる場合には、その有効成分であるリグニン誘導体を含んでいればよく、さらに他のセメント分散剤の有効成分や他のコンクリート用添加剤の有効成分を含んでいてもよいし、また本発明の分散剤を他のセメント分散剤や他のコンクリート用添加剤と併用することも可能である。」

(2)申立理由1について
ア.本件発明1について
(ア)甲1発明との対比・判断
本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明の単量体(I)及び(II)は、何れも本件発明1の一般式(1)で表される単量体(II)に相当し、甲1発明の単量体(III)は、本件発明1の不飽和モノカルボン酸系単量体(III)に相当するから、
両者は、「2種以上の下記一般式(2)で表される単量体(II)と、 不飽和モノカルボン酸系単量体(III)と、の共重合体である成分を含有するポリカルボン酸系共重合体を含むセメント分散剤。
【化1】

(式中、R^(3)、R^(4)およびR^(5)は、それぞれ独立に、水素原子または炭素原子数1?3のアルキル基を表す。mは、0?2の数を表す。A^(2)Oは、同一若しくは異なって、炭素原子数2?18のオキシアルキレン基を表す。n2は、オキシアルキレン基の平均付加モル数であり、1?100の数を表す。Xは、水素原子または炭素原子数1?30の炭化水素基を表す。)」の点で一致し、
本件発明1は、共重合体である成分(C)が下記条件Aおよび条件B、
条件A:成分(C)のゲルパーミエイションクロマトグラフィー(標準物質:ポリエチレングリコール)の測定において、最も高いピークの高さに対する、重量平均分子量20?150の範囲に存在するピークの高さの割合が3%未満であること。
条件B:成分(C)に対してJIS K 0070のケン化価測定法に準じてアルカリ処理を施したアルカリ処理成分(C’)のゲルパーミエイションクロマトグラフィー(標準物質:ポリエチレングリコール)の測定において、最も高いピークの高さに対する、重量平均分子量20?150の範囲に存在するピークの高さの割合が5%以上49%以下であること。
を満たすのに対し、甲1発明の共重合体である成分が上記条件Aおよび条件Bを満たすかが不明な点(以下、「相違点1」という。)で相違する。

(相違点について)
相違点1について検討するに、本件発明1の条件A及び条件Bは、本件明細書【0013】?【0020】、特に【0020】の記載から、何れも、共重合体において極性基に結合している重量平均分子量20?150の物質の量や、その極性基との結合の外れやすさに依存した条件であって、その意味から、共重合体を構成する単量体の組成だけでなく、共重合体を重合するときの反応条件などによっても左右されるものであるといえる。そして、甲1発明の共重合体の反応条件については、上記(1)(ウ)に記載が認められるところ、共重合体の極性基に結合している重量平均分子量20?150の物質の量や、その極性基との結合の外れやすさに着目した条件設定については、特に見当たらない。
そうすると、上記した対比から、本件発明1の共重合体と甲1発明の共重合体とでそれらを構成する単量体の組成においては類似しているといえるものの、少なくとも両者の反応条件が全く同じとはいえない状況下、甲1発明の共重合体である成分が上記条件A及び条件Bを満たしているかは不明というほかなく、相違点1は実質的なものである。
よって、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明であるとはいえない。

(申立人の主張について)
申立人は、本件特許は、成分(C)について2種以上の単量体(II)と他の所定の単量体との共重合体であることを特定して認められたという審査経過から見て、成分について2種以上の単量体(II)と他の所定の単量体との共重合体である甲1発明は条件A及び条件Bを満たす蓋然性が極めて高い旨主張する。
しかし、条件A及び条件Bが、共重合体を構成する単量体の組成だけでなく、その重合反応の条件によっても左右されることは上記したとおりである。そうすると、2種以上の単量体(II)と他の所定の単量体との共重合体であることのみをもって十分には条件A及び条件Bを満たすとはいえないと推認されるところ、特許権者が令和2年4月9日付けで提出した乙1号証においても、例えば、窒素置換の有無や温度保持条件の違いで条件を満たさなくなることは裏付けられている。
よって、申立人の主張は採用できない。

(イ)甲2発明との対比・判断
本件発明1と甲2発明とを対比すると、甲2発明の(a)の単量体及び(b)の単量体は、何れも本件発明1の一般式(1)で表される単量体(II)に相当し、甲2発明の(c)の単量体は、本件発明1の不飽和モノカルボン酸系単量体(III)に相当し、甲2発明の(d)の単量体は、本件発明1のその他の単量体(IV)に相当するから、
両者は、「2種以上の一般式(2)(式の記載は省略)で表される単量体(II)と、 不飽和モノカルボン酸系単量体(III)と、単量体(II)及び(III)と共重合可能なその他の単量体(IV)との共重合体である成分を含有するポリカルボン酸系共重合体を含むセメント分散剤。」の点で一致し、
本件発明1は、共重合体である成分(C)が下記条件Aおよび条件B、
条件A:成分(C)のゲルパーミエイションクロマトグラフィー(標準物質:ポリエチレングリコール)の測定において、最も高いピークの高さに対する、重量平均分子量20?150の範囲に存在するピークの高さの割合が3%未満であること。
条件B:成分(C)に対してJIS K 0070のケン化価測定法に準じてアルカリ処理を施したアルカリ処理成分(C’)のゲルパーミエイションクロマトグラフィー(標準物質:ポリエチレングリコール)の測定において、最も高いピークの高さに対する、重量平均分子量20?150の範囲に存在するピークの高さの割合が5%以上49%以下であること。
を満たすのに対し、甲2発明の共重合体である成分が上記条件Aおよび条件Bを満たすかが不明な点(以下、「相違点1’」という。)で相違する。

相違点1’については、上記(ア)で検討したと同様であり、本件発明1の共重合体と甲2発明の共重合体とでそれらを構成する単量体の組成においては類似しているといえるものの、少なくとも両者の反応条件が窒素置換の有無など全く同じとはいえない状況下、甲2発明の共重合体である成分が上記条件A及び条件Bを満たしているかは不明というほかなく、相違点1’は実質的なものである。
よって、本件発明1は、甲第2号証に記載された発明であるとはいえない。

(ウ)甲3発明との対比・判断
本件発明1と甲3発明とを対比すると、甲3発明の単量体1及び単量体2は、何れも本件発明1の一般式(1)で表される単量体(II)に相当し、甲3発明の単量体3は、本件発明1の不飽和モノカルボン酸系単量体(III)に相当し、甲3発明の水硬性組成物にセメントが含まれることからその水硬性組成物に含まれる共重合体は、本件発明1のセメント分散剤に相当する。
そうすると、両者は、「2種以上の一般式(2)(式の記載は省略)で表される単量体(II)と、 不飽和モノカルボン酸系単量体(III)との共重合体である成分を含有するポリカルボン酸系共重合体を含むセメント分散剤。」の点で一致し、
本件発明1は、共重合体である成分(C)が下記条件Aおよび条件B、
条件A:成分(C)のゲルパーミエイションクロマトグラフィー(標準物質:ポリエチレングリコール)の測定において、最も高いピークの高さに対する、重量平均分子量20?150の範囲に存在するピークの高さの割合が3%未満であること。
条件B:成分(C)に対してJIS K 0070のケン化価測定法に準じてアルカリ処理を施したアルカリ処理成分(C’)のゲルパーミエイションクロマトグラフィー(標準物質:ポリエチレングリコール)の測定において、最も高いピークの高さに対する、重量平均分子量20?150の範囲に存在するピークの高さの割合が5%以上49%以下であること。
を満たすのに対し、甲3発明の共重合体である成分が上記条件Aおよび条件Bを満たすかが不明な点(以下、「相違点1”」という。)で相違する。

相違点1”について検討するに、本件発明1の条件A及び条件Bは、本件明細書【0013】?【0020】、特に【0020】の記載から、何れも、共重合体において極性基に結合している重量平均分子量20?150の物質の量や、その極性基との結合の外れやすさに依存した条件であって、その意味から、共重合体を構成する単量体の組成だけでなく、共重合体を重合するときの反応条件などによっても左右されるものであるといえる。
これに対し、甲3発明の共重合体の反応条件については、上記(1)(ス)より、窒素置換などを行っている点で本件発明1との類似性が認められるものの、何れも連鎖移動剤と認識される3-メルカプトプロピオン酸を用いている点で、本件明細書の製造例5または6に類似した反応条件であって、本件明細書【表2】の共重合体C-1またはD-1に相当するものとして、条件Bの加水分解後の重量平均分子量20?150の範囲に存在するピーク高さの割合が5%に満たないと推認されるものである。
そうすると、上記した対比から、本件発明1の共重合体と甲3発明の共重合体とでそれらを構成する単量体の組成においては類似しているといえるものの、少なくとも両者の反応条件が全く同じとはいえず、相違点1”は実質的なものである。
よって、本件発明1は、甲第3号証に記載された発明であるとはいえない。

イ.本件発明2?7、10について
本件発明2?7、10は、何れも本件発明1の発明特定事項をすべて含みさらに限定が付されたものであって、上記ア.で検討したと同様に、少なくとも甲1発明、甲2発明又は甲3発明との対比において、それぞれ相違点1、相違点1’又は相違点1”を有するものであるから、同様に、甲第1号証、甲第2号証又は甲第3号証に記載された発明であるとはいえない。

ウ.小括
以上のとおりであるから、申立理由1は理由がない。

(3)申立理由2について
ア.本件発明1について
上記(2)で検討した相違点1、1’又は1”に関し、甲1?甲3には、本件発明1の条件A及び条件Bを満たすようにするための技術思想、すなわち、本件明細書【0013】?【0020】の記載に係る、共重合体の極性基に結合している重量平均分子量20?150の物質の量や、その極性基との結合の外れやすさに着目した記載は、特に見当たらない。また、甲4には、上記(1)エ.のとおり、リグニン誘導体をセメント分散剤に含ませることが記載されるに留まり、条件A及び条件Bを満たすようにすることは記載も示唆もない。
そうすると、甲1発明、甲2発明又は甲3発明において、相違点1、相違点1’又は相違点1”を解消することは、当業者といえども、容易なことではない。
よって、本件発明1は、甲1?甲4に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

イ.本件発明2?10について
本件発明2?10は、何れも本件発明1の発明特定事項をすべて含みさらに限定が付されたものであるから、本件発明1と同様、甲1?甲4に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

ウ.小括
以上のとおりであるから、申立理由2も理由がない。


第4 むすび

以上のとおり、請求項1?10に係る特許については、特許異議申立書に記載された特許異議申立理由及び証拠方法によっては、取り消すことができない。
また、他に請求項1?10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2020-06-30 
出願番号 特願2015-61555(P2015-61555)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C04B)
P 1 651・ 113- Y (C04B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 原 和秀小川 武  
特許庁審判長 日比野 隆治
特許庁審判官 菊地 則義
金 公彦
登録日 2019-06-07 
登録番号 特許第6534271号(P6534271)
権利者 日本製紙株式会社
発明の名称 セメント分散剤およびセメント組成物  
代理人 特許業務法人酒井国際特許事務所  
代理人 酒井 宏明  

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