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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01L
審判 全部申し立て 2項進歩性  H01L
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  H01L
管理番号 1364029
異議申立番号 異議2018-700519  
総通号数 248 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-08-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-06-27 
確定日 2020-07-15 
異議申立件数
事件の表示 特許第6252092号発明「窒化物半導体積層体及びそれを用いた発光素子」の特許異議申立事件についての令和元年6月7日付け決定に対して、知的財産高等裁判所が、令和2年3月19日、上記決定を取り消す旨の判決を言い渡し、この判決が確定したので、さらに審理の上、次のとおり決定する。 
結論 特許第6252092号の請求項1ないし11に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6252092号の請求項1ないし11に係る特許についての出願は、平成25年10月17日に出願され、平成29年12月8日にその特許権の設定登録がされ、同年12月27日に特許掲載公報が発行された。その特許についての本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
平成30年 6月27日 : 特許異議申立人中野 圭二による特許
異議の申立て
平成30年 9月 7日付け : 取消理由通知書
平成30年11月 9日 : 特許権者による意見書の提出
平成30年11月30日付け : 取消理由通知書(決定の予告)
平成31年 2月 1日 : 特許権者による意見書の提出
平成31年 2月28日付け : 特許異議申立人中野 圭二への審尋
平成31年 4月26日 : 特許異議申立人中野 圭二による回答
書の提出
令和 元年 6月 7日付け : 異議の決定
令和 元年 6月17日 : 上記決定の特許権者への送達
令和 元年 7月12日 : 決定取消訴訟提起
(令和元年(行ケ)第10100号)
令和 2年 3月19日 : 上記決定の取消判決の言渡

以下、令和元年6月7日付けの上記異議の決定を「一次決定」といい、令和2年3月19日に言い渡され、確定した上記判決を「確定判決」という。

第2 本件特許発明
特許第6252092号の請求項1ないし11に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項1ないし11に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである(以下、請求項の項番に従い「本件特許発明1」ないし「本件特許発明11」という。)。

「【請求項1】
c面を上面に有するサファイアからなる下地基板上面に接して厚さ2μm以上4μm以下の窒化アルミニウムからなるバッファ層が形成されたテンプレート基板と、
前記テンプレート基板上面に接して形成され、窒化アルミニウムガリウム層及び窒化アルミニウム層を交互に積層してなる超格子層と、
前記超格子層の上面に接して形成され、アンドープの窒化アルミニウムガリウムからなり、前記アンドープの窒化アルミニウムガリウムのアルミニウム比m_(Al)1が前記超格子層側から上方向に順次減少する第一の組成傾斜層と、
前記第一の組成傾斜層の上面に接して形成され、n型不純物ドープの窒化アルミニウムガリウムからなり、前記n型不純物ドープの窒化アルミニウムガリウムのアルミニウム比m_(Al)2が前記第一の組成傾斜層側から上方向に順次減少する第二の組成傾斜層と、
前記第二の組成傾斜層の上面に接して形成され、III族窒化物半導体からなり、深紫外光を発する発光層を有する活性層と、
前記活性層の上面に接して形成されるp側層と、
を含む、窒化物半導体積層体。
【請求項2】
前記第一の組成傾斜層上面における前記m_(Al)1(≡m_(Al)1^(u))と、前記第二の傾斜層下面における前記m_(Al)2(≡m_(Al)2^(b))との比m_(Al)1u/m_(Al)2^(b)が、1.00以上1.02以下である、請求項1に記載の窒化物半導体積層体。
【請求項3】
前記第二の組成傾斜層における前記n型不純物がシリコンである、請求項1又は2に記載の窒化物半導体積層体。
【請求項4】
前記p側層が、p型不純物ドープの窒化アルミニウムガリウムからなる電子障壁層を有する、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の窒化物半導体積層体。
【請求項5】
前記電子障壁層における前記p型不純物がマグネシウムである請求項4に記載の窒化物半導体積層体。
【請求項6】
前記p側層が、p型不純物ドープの窒化アルミニウムガリウムからなり、前記p型不純物ドープの窒化アルミニウムガリウムのアルミニウム比m_(Al)3が前記活性層側から上方向に順次減少する第三の組成傾斜層を有する、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の窒化物半導体積層体。
【請求項7】
前記第三の組成傾斜層における前記p型不純物がマグネシウムである、請求項6に記載の窒化物半導体積層体。
【請求項8】
前記下地基板の前記上面が、c面からa軸方向又はm軸方向に0.2°以上2°以下傾いている、請求項1乃至7に記載の窒化物半導体積層体。
【請求項9】
前記バッファ層における前記窒化アルミニウムが、単結晶窒化アルミニウムである、請求項1乃至8に記載の窒化物半導体積層体。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれか一項に記載の窒化物半導体積層体と、
前記窒化物半導体積層体の前記第一の組成傾斜層に電気的に接続されたn電極と、
前記窒化物半導体積層体の前記p側層に電気的に接続されたp電極と、
を含む窒化物半導体発光素子。
【請求項11】
請求項1乃至9のいずれか一項に記載の窒化物半導体積層体と、
前記窒化物半導体積層体の前記第二の組成傾斜層に電気的に接続されたn電極と、
前記窒化物半導体積層体の前記p側層に電気的に接続されたp電極と、
を含む窒化物半導体発光素子。」

第3 取消理由の概要
請求項1ないし11に係る特許に対して、当審が平成30年11月30日付けの取消理由通知(決定の予告)において特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
本件特許発明1,2及び3は、引用文献1(甲1号証)に記載された発明及び引用文献4ないし6を挙げて示された周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、
本件特許発明4は、引用文献1(甲1号証)に記載された発明、引用文献2に記載された技術、及び上記周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、
本件特許発明5、6及び7は、引用文献1(甲1号証)に記載された発明、引用文献2に記載された技術、上記周知技術及び引用文献7(甲5号証)、引用文献8(甲6号証)及び引用文献9を挙げて示された周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、
本件特許発明8は、引用文献1(甲1号証)に記載された発明、引用文献2に記載された技術、引用文献3(甲7号証)に記載された発明及び上記周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、
本件特許発明9,10及び11は、引用文献1(甲1号証)に記載された発明、引用文献2に記載された技術、引用文献3(甲7号証)に記載された発明、上記周知技術及び引用文献10(甲8号証)を挙げて示した周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、本件特許発明1ないし11に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
よって、本件特許発明1ないし11に係る特許は、取り消されるべきものである。

第4 引用文献
1 引用文献
当審が平成30年9月7日付けの取消理由通知で特許権者に通知した引用文献は、以下のとおりである。
引用文献1:Akira Fujioka et al,“Improvement in Output Power of 280-nm Deep Ultraviolet Light-Emitting Diode by Using AlGaN Multi Quantum Wells”,Applied Physics Express 3 (2010) 041001(甲1号証)
引用文献2:Jianchang Yan et al,“Improved performance of UV-LED by p-AlGaN with graded composition”,Physica Status Solidi C 8, No. 2, 461-463 (2011) / DOI 10.1002
引用文献3:国際公開2013/021464号(2013年2月14日公開:甲7号証)
引用文献4:特開2000-196143号公報
引用文献5:特開2001-44497号
引用文献6:特開平5-343739号公報
引用文献7:特開2012-146847号公報(甲5号証)
引用文献8:特開平11-186601号公報(甲6号証)
引用文献9:特開2013-80925号公報(2013年5月2日公開)
引用文献10:特開2010-258097号公報(甲8号証)

2 引用文献の記載
(1)引用文献1
取消理由で通知した引用文献1には、以下の事項が記載されている。(下線は、当審が付与した。以下同じ。)
ア「In this study we have fabricated FC type DUV LEDs emitting at 280 nm and demonstrated an improved EQE of over 2%. We attribute this resultto a high crystal quality AlN template, AlGaN multiple quantum well structure and AlN electron blocking layer.
All the epitaxial films were grown on a 2-in. c-face sapphire substrate by low-pressure metal-organic chemical vapor deposition (LP-MOCVD). Figure 1 shows a schematic of the LED structure. First, a 3-μm-thick AlN layer was deposited onto the sapphire substrate. Trimethylaluminum(TMA) and ammonia (NH_(3)) were supplied simultaneously and no migration-enhanced epitaxy or pulsed-supply method was adopted. The surface morphologies of the AlN templates were smooth and occasional bunching steps were observed in the Normarski microscope. Typical full width at half maximum (FWHM) values of 002 and 102 plane X-ray rocking curves were 60 and 600 arcsec, respectively. The FWHM value for the 102 plane is considerably smaller than that for a typical 1-μm-thick AlN template (1000 arcsec). A strain-relieving AlN/AlGaN superlattice buffer was employed before a 0.5-μm-thick undoped and 2.5-μm-thick Si doped Al_(0.6)Ga_(0.4)N n-contact layers were deposited. A 50-nm-thick electron supply layer was then grown as a first barrier layer. The active layers consist of two pairs of 4-nm-thick Al_(0.45)Ga_(0.55)N wells and 2.5-nm-thick Al_(0.56)Ga_(0.44)N barriers. As an electron blocking layer, a thin (10Å) undoped AlN layer was inserted between the last active well and the p-type cladding layers. We used a rather thick (3000Å) p-type GaN contact layer for current spreading.」(1ページ右欄4行?同欄最終行を参照。)
(当審訳:この研究では、我々はFCタイプの280nmで発光する深紫外発光ダイオードを作成した・・・(略)・・・
すべてのエピタキシャル膜は、2インチのc面サファイア基板上に作成した。・・・(略)・・・まず、3μmの厚さのAlN層をサファイア基板上に堆積した。・・・(略)・・・AlNテンプレートの表面形態は滑らかであり・・・(略)・・・0.5μmの厚さのアンドープ及び2.5μmの厚さのSiドーピングのAl_(0.6)Ga_(0.4)Nのn型コンタクト層の前に、応力を緩和するAlN/AlGaN超格子バッファを採用した。次に、50nmの電子供給層を第1のバリア層として成長させた。活性層は、2組の4nmの厚さのAl_(0.45)Ga_(0.55)Nの井戸層と2.5nmの厚さのAl_(0.56)Ga_(0.44)Nの障壁層から構成される。電子ブロック層として、薄い(10Å)のアンドープのAlN層が、最後の活性井戸層とp型クラッド層の間に挿入された。我々は、電流の拡散のために、かなり厚い(3000Å)p型GaNコンタクト層を用いた。)
イ「After the growth of the epitaxial layers, normal device processing was carried out using photolithography,reactive ion etching and sputtering techniques to form a 320 m square die. A Ti/Al n-type contact was then fabricated on the exposed n-AlGaN layer. As a p-type contact, indium-tin-oxide(ITO) was used.」(2ページ左欄1?6行を参照。)
(当審訳:エピタキシャル層の成長後・・・(略)・・・Ti/Alのn型電極を露出されたn-AlGaN層上に作製した。p型電極としては、インジウム-酸化スズ(ITO)を使用した。)
ウ Fig.1は次のものである。


(2)引用発明
したがって、上記ア及びイの記載から、引用文献1(甲1号証)には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
「c面サファイア基板上に3μmの厚さのAlN層を堆積したAlNテンプレートと、
該AlNテンプレート上に設けた、応力を緩和するAlN/AlGaN超格子バッファと、
該AlN/AlGaN超格子バッファ上の、0.5μmの厚さのアンドープ及び2.5μmの厚さのSiドーピングのAl_(0.6)Ga_(0.4)Nのn型コンタクト層と、
該n型コンタクト層上の、1番目の障壁層として成長された50nm厚の電子供給層と、
該電子供給層上の、2組の4nmの厚さのAl_(0.45)Ga_(0.55)Nの井戸層と2.5nmの厚さのAl_(0.56)Ga_(0.44)Nの障壁層から構成される活性層と、
該活性層上の10Åの厚さのアンドープのAlN層及びp型クラッド層と、
3000Åの厚さのp型GaNコンタクト層と、
からなる深紫外発光ダイオード。」

(3)引用文献2
引用文献2には、図面と共に、以下の事項が記載されている。
ア「AlGaN-based UV-LEDs were grown on c-plane (0001) sapphire substratesby a homemade low pressure, vertical showerhead metal organic chemical vapour deposition system. Trimethylgallium,trimethylaluminum and NH_(3) were used as Ga, Al and N precursors. Silane and biscyclopentadienyl magnesium were used as n and p-dopants. H_(2)and N_(2) were used as the carrier gases. A common structure UV-LED is shown in Fig.1(a). Prior to the growth, the substrates were treated in H_(2) ambient at 1080 °C for about 6 minutes. After that,the temperature was decreased to 575 °C to growa thin low temperature AlN buffer layer. Then the temperature was increased to 1200 °C to grow about 1 μm thick AlN template. After that the temperature was reduced to 1000-1100 °C to grow 20-period AlN/Al_(0.4)Ga_(0.6)N superlattices, and then the n-Al_(0.5)Ga_(0.5)N layer. Actually, there is considerable stress in the n-Al_(0.5)Ga_(0.5)N layer grown directly on top of the AlN template, which is caused by the lattice and thermal mismatch. And the 20-period AlN/Al_(0.4)Ga_(0.6)N superlattices here could effectively relieve the stress in the n-Al_(0.5)Ga_(0.5)N layer and improve the crystalline quality of the n-Al_(0.5)Ga_(0.5)N layer. 5-period Al_(0.5)Ga_(0.5)N/Al_(0.4)Ga_(0.6)N QWs were grown on the n- Al_(0.5)Ga_(0.5)N layer. After the QWs, there is a 20 nm p-Al_(0.65)Ga_(0.35)N layer which serves as the electron blocking layer. Then a 40 nm p-Al_(0.5)Ga_(0.5)N layer was grown. For all the above layers, the growth chamber pressure was kept at 50 Torr. The last 150 nm p-GaN contact layer was grown at 150 Torr. We paid attention to the p-Al_(0.5)Ga_(0.5)N layer, which is marked with an arrow in Fig. 1(a). In our newly designed structure, this layer is replaced by the graded compositional p-AlGaN layers, which consist of five 20 nm p-AlGaN layers with the Al composition varying from 50% down to 10%, as shown in Fig. 1(b). After the growth, the two samples were annealed in the reactor at 800 °C in flowing nitrogen for 20 minto activate the Mg acceptors. Then the standard device processing was carried out by photo lithography, reactive ion etching and sputtering techniques to make 300 μm square dies.Ti/Al/Ti/Au metal stack was evaporated as the n-type contact and Ni/Au stack was used as the p-type contact.」
(当審訳:AlGaN系紫外LEDは、・・・(略)・・・C面(0001)サファイア基板上に成長させた。・・・(略)・・・その後、温度を575℃に下げ、低温AlNバッファ層を成長させた。次いで、温度を1200℃に上昇させ、約1μmの厚さのAlNテンプレートを成長させた。その後、温度を1000-1100℃に低下させ、20周期のAlN/Al_(0.4)Ga_(0.6)N超格子、及び、n-Al_(0.5)Ga_(0.5)N層を成長させた。・・・(略)・・・n-Al_(0.5)Ga_(0.5)N層上に5周期のAl_(0.5)Ga_(0.5)N/Al_(0.4)Ga_(0.6)NQWを成長させた。・・・(略)・・・QWの後に電子阻止層として機能する20nmのp-Al_(0.65)Ga_(0.35)N層を有する。次いで、40nmのp-Al_(0.5)Ga_(0.5)N層を成長させた。最後に150nmのp-GaNコンタクト層を150Torrで成長させた。・・・(略)・・・本発明者らの新たに設計された構造では、図1に示すように、50%から10%へと変化するAl組成が520nmのp-AlGaN層からなり、この層は、傾斜組成AlGaN層と置換される(b)。・・・(略)・・・)
イ Figure.1(a)及び(b)は次のものである。


(4)引用文献3(甲7号証)
引用文献3(甲7号証)には、以下の事項が記載されている。
ア 「[0009]上述のように、サファイア(0001)基板を用いる窒化物半導体発光素子において、オフ角として、0.05°?0.5°程度のものが一般的に使用されているが、主として、活性層がGaN或いはInGaN系半導体である場合の発光波長が約365nmより長い発光素子に適合するものである(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。発光波長が約365nmより短い紫外線発光素子において、0.05°?0.5°程度の範囲のオフ角が最適であるか否かの検討は過去十分になされていなかった。
[0010]本発明は、上述の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、オフ角の最適化によりサファイア(0001)基板上に形成されるAlGaN系半導体層の結晶品質の向上を図り、窒化物半導体紫外線発光素子の発光出力の向上を図ることにある。」
イ 「[0012]本発明は、上記新知見に基づいて成されたものであり、サファイア(0001)基板と、前記基板の(0001)面上に形成されたAlN層を含む下地構造部、及び、前記下地構造部の結晶表面上に形成された、n型AlGaN系半導体層のn型クラッド層と、AlGaN系半導体層を有する活性層と、p型AlGaN系半導体層のp型クラッド層を含む発光素子構造部を備えてなり、前記基板の(0001)面が0.6°以上3.0°以下のオフ角で傾斜し、前記n型クラッド層のAlNモル分率が50%以上であることを特徴とする窒化物半導体紫外線発光素子を提供する。
[0013]尚、本発明では、AlGaN系半導体は、一般式Al_(x)Ga_(1-x)N(xはAlNモル分率、0≦x≦1)で表わされる3元(または2元)加工物を基本とし、そのバンドギャップエネルギがGaN(x=0)とAlN(x=1)のバンドギャップエネルギ(約3.4eVと約6.2eV)を下限及び上限とする範囲内の3族窒化物半導体であり、当該バンドギャップエネルギに関する条件を満たす限りにおいて、微量のInが含有されている場合も含まれる。
[0014]上記特徴の窒化物半導体紫外線発光素子によれば、n型クラッド層のAlNモル分率が50%以上の場合において、従来一般的に使用されていたオフ角の範囲を大幅に超えた0.6°以上3.0°以下の範囲において、下地構造部のAlN層より上層のn型AlGaN層の結晶性を示すツイスト分布のFWHMが所定値以下となる確率が大幅に向上し、高歩留まりで発光出力の向上が図れる。
[0015]更に、上記特徴の窒化物半導体紫外線発光素子は、前記オフ角が1.0°以上2.5°以下であることがより好ましい。これにより、更に、AlGaN層の結晶性が一層改善され、発光出力の向上がより高歩留まりで安定的に図れる。」

第5 取消理由通知(決定の予告)により通知された取消理由について
1 本件特許発明1について
(1)対比、一致点及び相違点の認定
本件特許発明1と引用発明とを対比する。
ア 引用発明の「c面サファイア基板」、「AlN層」、「AlNテンプレート」、「AlN/AlGaN超格子バッファ」、「『電子供給層』及び『活性層』」及び「深紫外発光ダイオード」は、本件特許発明1の「c面を上面に有するサファイアからなる下地基板」、「窒化アルミニウムからなるバッファ層」、「テンプレート基板」、「窒化アルミニウムガリウム層及び窒化アルミニウム層を交互に積層してなる超格子層」、「活性層」及び「窒化物半導体積層体」にそれぞれ相当する。

イ 引用発明の「AlN層」は「AlNテンプレート」上に堆積され3μmの厚さであるから、引用発明は、本件特許発明の「c面を上面に有するサファイアからなる下地基板上面に接して厚さ2μm以上4μm以下の窒化アルミニウムからなるバッファ層が形成されたテンプレート基板」を備える。

ウ 本件特許発明1の「アンドープの窒化アルミニウムガリウムからなり、前記アンドープの窒化アルミニウムガリウムのアルミニウム比m_(Al)1が前記超格子層側から上方向に順次減少する第一の組成傾斜層」及び「n型不純物ドープの窒化アルミニウムガリウムからなり、前記n型不純物ドープの窒化アルミニウムガリウムのアルミニウム比m_(Al)2が前記第一の組成傾斜層側から上方向に順次減少する第二の組成傾斜層」と、引用発明の「0.5μmの厚さのアンドープ及び2.5μmの厚さのSiドーピングのAl_(0.6)Ga_(0.4)Nのn型コンタクト層」とを対比すると、引用発明は、「0.5μmの厚さのアンドープ」のAl_(0.6)Ga_(0.4)Nのn型コンタクト層と「2.5μmの厚さのSiドーピング」のAl_(0.6)Ga_(0.4)Nのn型コンタクト層を備えているから、本件特許発明1と引用発明とは、「超格子層の上面に接して形成され、アンドープの窒化アルミニウムガリウムからなる第一の層」及び「第一の層の上面に接して形成され、n型不純物ドープの窒化アルミニウムガリウムからなる第二の層」を備える点で一致する。

エ 引用発明は「深紫外発光ダイオード」であって、その「活性層」は、「2組の4nmの厚さのAl_(0.45)Ga_(0.55)Nの井戸層と2.5nmの厚さのAl_(0.56)Ga_(0.44)Nの障壁層から構成され」るものであるので、引用発明は、本件特許発明1の「III族窒化物半導体からなり、深紫外光を発する発光層を有する活性層」を備える。そして、両者は、該「活性層」が上記ウの「第二の層」上に接して形成される点でも一致する。

オ 引用発明の「アンドープのAlN層及びp型クラッド層」及び「p型GaNコンタクト層」は「活性層」上にあるから、引用発明は、本件特許発明1の「活性層の上面に接して形成されるp側層」を備える。

カ したがって、本件特許発明1と引用発明との間には、次の一致点、相違点がある。
・一致点
「c面を上面に有するサファイアからなる下地基板上面に接して厚さ2μm以上4μm以下の窒化アルミニウムからなるバッファ層が形成されたテンプレート基板と、
前記テンプレート基板上面に接して形成され、窒化アルミニウムガリウム層及び窒化アルミニウム層を交互に積層してなる超格子層と、
前記超格子層の上面に接して形成され、アンドープの窒化アルミニウムガリウムからなる第一の層と、
前記第一の層の上面に接して形成され、n型不純物ドープの窒化アルミニウムガリウムからなる第二の層と、
前記第二の層の上面に接して形成され、III族窒化物半導体からなり、深紫外光を発する発光層を有する活性層と、
前記活性層の上面に接して形成されるp側層と、
を含む、窒化物半導体積層体。」

・相違点1
第一の層が、本件特許発明1では、「アルミニウム比m_(Al)1が前記超格子層側から上方向に順次減少する第一の組成傾斜層」であるのに対し、引用発明では、そのようなものではない点。
・相違点2
第二の層が、本件特許発明1では、「アルミニウム比m_(Al)2が前記第一の組成傾斜層側から上方向に順次減少する第二の組成傾斜層」であるのに対し、引用発明では、そのようなものではない点。

(2)当審の判断
ア 相違点1及び2について
(ア)一次決定は、引用文献4?6を周知例と位置づけた上で、これらの周知例に基づき、半導体発光素子の技術において、その駆動電圧を低くするという課題を解決するために、AlGaN層のAlの比率を傾斜させた組成傾斜層を採用するという技術(以下「本件技術」という。)が、本願の出願前に周知の技術である旨認定した。そして、一次決定は、当業者が、引用発明及び上記周知技術に基づき、相違点1及び相違点2に係る構成を容易に想到し得たものである旨判断した。
これに対し、確定判決は、本件技術が周知の技術的事項であると認めることはできないから、本件技術が周知の技術的事項であるとして、相違点1,2に係る構成に想到することが容易であるとした一次決定の判断には誤りがある旨判示した。
この判示事項は当審を拘束する(行政事件訴訟法第33条第1項)から、当審は、本件技術が周知の技術的事項であるとはいえないと認定し、一次決定が説示した理由によっては、相違点1及び2が、容易に想到し得たものではないと判断する。

(イ)さらに、以下のとおり、引用文献4?6をそれぞれ副引例として位置づけたとしても、当業者が、これらのいずれかに記載された技術的事項に基づいて、相違点1及び2に係る構成に容易に想到することはない。
a(a)引用文献4には、次の記載がある。
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、半導体発光素子に関し、特に窒化ガリウム系材料による可視波長の光を効率よく発する半導体発光素子および低閾値電流を有し、高信頼性を実現する半導体レーザ素子に関するものである。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】上記のように、従来技術によるGaN系半導体発光素子においては、LEDの場合、光出力が1.5mWと小さく、また発光スペクトルの半値全幅が23nmと広く、単色性が悪いという問題があった。
【0007】また、半導体レーザの場合は、閾値電流値が78mAと高く、駆動電流が120mAと100mAを越えたることより、駆動電圧も5.3Vと高くなり、その結果素子寿命が35時間と実用的な時間(5000時間以上)を得ることが出来なかった。
【0032】(実施例2)次に本発明を半導体レーザに適用した例を図6の断面構造図を用いて説明する。201はn型GaN基板、202はn型AlGaNクラッド層、203はGaNのn型ガイド層、204はn型InGaNからなるn側緩衝層、205は多重量子井戸構造の活性層、206はp型InGaNからなるp側緩衝層、207はp型AlGaN保護層、208はGaNからなるp型ガイド層、209はAlGaNからなるp型クラッド層、210はp型GaNコンタクト層、211はメサストライプ、212はn型AlGaN電流狭窄層、213はp型GaN第2コンタクト層、220はp型電極、221はn型電極である。
【図6】

【0037】本実施例素子の特性と従来例2のレーザ素子の特性を比較すると明らかなように、上下のn側緩衝層204、p側緩衝層206を挿入することにより、活性層205でのゲインスペクトルの半値全幅が従来例素子の74%と狭くなり、かつ発光強度が2.7倍増加したことが分かる。よって、この2つの効果の相乗作用により、波長当たりにおける光出力は3.6倍も向上できたこととなり、レーザ発振の閾値電流を従来素子の半分以下に効果的に低減させることができたものと推察される。また、実施例2の駆動電圧の低減は駆動電流が上記の効果により60mAだけ低減できたことにより、レーザ素子の直列抵抗分で消費されていた電圧分が低減できたものである。この、駆動電流の低減と駆動電圧の低減により、35mW光出力時のレーザ素子への投入電力は従来例素子の640mWに対し、本実施例では260mWと半分以下に低減できた。このことが、レーザ素子内部での発熱を抑制でき、高温動作における長期信頼性を確保できるに至ったものである。
【0038】以上のように、n側緩衝層204とp側緩衝層206を多重量子井戸構造の活性層205の量子井戸層に接触させて形成することにより、発光効率の向上と、発光スペクトル(レーザ素子の場合ゲインスペクトル)の半値全幅を狭くすることができ、ひいては、低閾値電流、低駆動電流、低駆動電圧、長寿命の窒化物系半導体レーザ素子を得ることが可能となった。なお、上記の実施例2におけるn側緩衝層204、p側緩衝層206の望ましい厚みとn型不純物、p型不純物の望ましい濃度はそれぞれ実施例1と同じであった。
【0044】(実施例4)本実施例は、実施例2と同様の層構成ではあるが、個々の層の組成や厚み、不純物ドーピング濃度を下記の通りとした。実施例2と同じ工程によりn型AlGaNクラッド層202まで形成の後、n型ガイド層203をAl_(0.2)Ga_(0.8)Nから成長方向に徐々にGaNまでAl混晶比が減少する0.15μm厚のSiが9×10^(17)cm^(-3)ドーピングされた傾斜組成層に、n側緩衝層204をSiが5×10^(17)cm^(-3)ドーピングされた厚さ15nmのn型In_(0.06)Ga_(0.94)Nに、活性層205をSiを1×10^(17)cm^(-3)の濃度でドープした厚さ2.0nmのIn_(0.18)Ga_(0.82)N単一量子井戸層に、p側緩衝層206をMgを濃度3×10^(18)cm^(-3)ドーピングされた厚さ5nmのIn_(0.03)Ga_(0.97)N層に、p型ガイド層208をGaNからAl_(0.2)Ga_(0.8)Nまで徐々にAl組成が増加するMgが5×10^(19)cm^(-3)ドーピングされた厚さ0.15μmの傾斜組成層とした。これ以後は実施例2と同様の方法により、p型クラッド層209とp型GaNコンタクト層210を形成した構成となっている半導体レーザ素子である。
【0045】本実施例素子では、閾値電流18mA、35mW出力時の室温での動作電流50mA、同駆動電圧4.5V、60℃35mW条件で18000時間の寿命が確認できた。これらの特性は、本構成のn側緩衝層204、p側緩衝層206を使用しない半導体レーザ素子の場合の、閾値電流=59mA、35mW動作電流=102mA、動作電圧=5.2V、素子寿命=300時間よりも格段の改善ができた。
【0046】また、実施例2に対して、さらなる低電流化、長寿命化が達成されているが、これは、n型ガイド層203およびp型ガイド層208に傾斜組成層を適用したことにより、n側緩衝層204およびp側緩衝層206と量子井戸構造の活性層205における、結晶格子歪みが緩和された効果である。さらに、この傾斜組成のn型ガイド層203、p型ガイド層208はもっとも堅いAlGaNからなるn型クラッド層202およびp型クラッド層209の結晶割れを低減する効果や、n側緩衝層204、p側緩衝層206の結晶歪みを低減する効果もあり、実施例2に比べて、本実施例素子では、素子作製歩留まりを45%から78%へと改善させることができた。・・・
【0051】
【発明の効果】以上のように、本発明を適用することにより、発光強度が大きく、単色性に優れた半導体発光素子(LED)を実現することが可能となった。また、本発明を窒化ガリウム系半導体レーザに適用することにより、閾値電流・動作電流が低く、高温高出力条件における信頼性の高いレーザ素子を得ることが出来るようになった。さらに、当該半導体レーザのガイド層に傾斜組成層を適用することにより、さらなる低電流化や長寿命化が実現でき、同時に作製歩留まりの向上を実現できた。

(b)引用文献5には、次の記載がある。
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は窒化物半導体素子に関し、特に低温堆積緩衝層上に成長させた比較的厚いAlN含有層を備えた窒化物半導体素子に関する。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】・・・本発明の目的は比較的厚いAlN含有層を備える窒化物半導体素子をクラック発生無くかつ簡単な構造で形成することである。・・・
【0014】
【発明の実施の形態】図1に示す従来技術によるレーザ素子10のクラックはAlGaNクラッド層であるn型AlGaN層14と電流注入用n型GaN層13との格子不整合により発生し、レーザ素子製造における歩留まりを大きく下げていた。クラックが発生しないためにはAlGaNクラッド層はAlNモル分率0.06、膜厚0.6μmが限界であった。・・・
【0015】そこで、前の発明では、n型AlGaNクラッド層14の直下に低温堆積緩衝層(膜厚:30nm)を挿入することによってクラック発生を防止し、AlGaNクラッド層のAlNモル分率と膜厚とを10%、1μmと大きく向上した。ところで、コンタクト層として作用する電流注入用n型GaN層13をn型AlGaNクラッド層14を延伸して置換すれば、n型AlGaNクラッド層14の直下に設けた低温堆積緩衝層を挿入することなく、光の閉じ込めを向上できることが推察された。・・・一方n型AlGaN層はAlNモル分率が増えるにしたがって、そのバルク抵抗や接触比抵抗が増大する。したがって、低温堆積層上に成長したn型AlGaN層にn電極を形成して横方向電流注入層とすると、AlNモル分率の高いn型AlGaN層の高抵抗により駆動電圧が上昇し、素子特性の悪化を招く。
【0016】そこで本発明では、コンタクト層として作用するn型AlGaN層を低抵抗で電流注入可能なAlNモル分率が小さく膜厚が厚い層と、充分な光閉じ込めのためのAlNモル分率が大きく膜厚が薄い層の二層構造を採用した。この二層構造にすることで、レーザ素子の端子間抵抗を十分低減させつつ、構成層にクラックを発生せずに光閉じ込め係数を増大させることが可能となった。・・・
【0017】(実施例1)図2に本発明の一実施例のレーザ素子40の構造を示す。・・・
【図2】

【0018】図2に示すように、有機金属気相成長法(MOVPE法)によりサファイア基板41のC面上に、AlGaN低温堆積緩衝層42(500℃、膜厚:30nm、モル分率:0.03)、Siドープn型AlGaN層43(1050℃、膜厚:3μm、Alモル分率:0.03)、Siドープn型AlGaNクラッド層44(1050℃、膜厚:1μm、Alモル分率:0.06)、Siドープn型GaN光導波層45(1050℃、膜厚:0.10μm)、{Ga_(0.9)Ina_(0.1)N(3nm)/Ga_(0.97)In_(0.03)N(6nm)}^(5)活性層46(800℃、膜厚:45nm)、Mgドープp型Al_(0.15)Ga_(0.85)N電子ブロック層47(1050℃、膜厚:15nm)、Mgドープp型GaN光導波層48(1050℃、膜厚:0.10μm)、Mgドープp型Al_(0.06)Ga_(0.94)Nクラッド層49(1050℃、膜厚:0.5μm)およびMgドープp型GaNコンタクト層50(1050℃、膜厚:0.1μm)が順次成長形成され、本発明の一実施例のレーザ素子40が組み立てられる。以下に形成工程を例示する。
【0042】上述の実施例において、AlGaNクラッド層やAlGaNコンタクト層のAlNモル分率と厚さとを変える方法としてAlNモル分率を直線状あるいは放物線状に変化させた傾斜組成AlGaN層とすることもできる。ヘテロギャップの低減による素子抵抗の低減が期待される。
【発明の効果】本発明の実施により、クラックの発生を防ぎ、かつ光閉じ込めの観点において充分な膜厚およびAlNモル分率のn型あるいはp型のAlGaN層を持つレーザ構造が簡易な構成で得られる。その際、AlGaN層をAlNモル分率の多い光閉じ込め層(クラッド層)とAlNモル分率が少なく低抵抗である電流注入層(コンタクト層)の二層にわけることで、(1)クラックがなく歩留まりが高い、(2)光閉じ込めが充分で遠視野像が単峰性になる、さらに(3)駆動電圧が充分低い、レーザ素子を実現する方法もえられる。レーザビームが単峰性であるため、光情報記録装置への組み込みが極めて容易になる。また、駆動電圧が大幅に低減されたため、消費電力が押さえられるとともに、素子内部で余分な熱の発生が押さえられ、素子の寿命が大幅に改善される。

(c)引用文献6には、次の記載がある。
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、面発光型発光ダイオードや面発光レーザなどに用いられる半導体多層膜反射鏡の改良に関するものである。
【0002】
【従来の技術】組成が異なる2種類の半導体が交互に積層され、入射した光を光波干渉によって反射する半導体多層膜反射鏡が、面発光型発光ダイオードや面発光レーザなどに用いられている。・・・
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、このように組成が異なる2種類の半導体を交互に積層した半導体多層膜反射鏡は、両半導体の層界面におけるバンドの不連続により電気抵抗が高くなるため、発光ダイオードや半導体レーザの駆動電圧を大きくする必要があるとともに、発熱により素子寿命が低下するという問題があった。また、駆動電圧の制約を受ける電池駆動の場合には、十分な光出力が得られなくなることがある。
【0004】本発明は以上の事情を背景として為されたもので、その目的とするところは、バンドの不連続に起因する電気抵抗の増加を抑制することにある。
【0006】
【作用および発明の効果】このような半導体多層膜反射鏡においては、第1半導体と第2半導体との境界に、バンドギャップが一方の半導体から他方の半導体に連続的に近ずくように組成が変化している傾斜組成層が設けられているため、それ等の半導体間におけるバンドの不連続が緩和され、電気抵抗が低減されて発光ダイオード等の駆動電圧が小さくなるとともに、発熱に起因する素子寿命の低下が抑制される。特に、本発明では、バンドギャップの不連続に起因するポテンシャル障壁の高さが50meV以下、すなわち室温における熱雑音の2倍程度以下、となるように上記傾斜組成層の厚さが定められているため、電気抵抗の低減効果が十分に得られ、電気抵抗は5Ω程度以下になる。・・・
【0007】一方、傾斜組成層の厚さが大きくなるに従って反射鏡としての機能は低下し、例えば反射率が90%以上の反射光スペクトルの帯域幅W_(R)は、・・・傾斜組成層の厚さtが大きくなる程狭くなる。このため、所定の波長帯域で光を発する発光ダイオードにおいては、前記傾斜組成層の厚さtを、バンドギャップの不連続に起因するポテンシャル障壁の高さPが50meV以下で、且つ反射率が90%以上の反射光スペクトルの帯域幅WR が入射光スペクトルの半値幅WH より大きい範囲内で定めることが望ましい。・・・
【0012】・・・反射鏡14は、図3に示されているように、p-Al_(X1)Ga_(1-X1)Asから成る第1半導体32、傾斜組成層34、p-Al_(X2)Ga_(1-X2)Asから成る第2半導体36、および傾斜組成層38を順次積層した単位半導体40を繰り返し積層したものである。上記第1半導体32の混晶比X1および第2半導体36の混晶比X2は前記(1)式を満足するように定められており、傾斜組成層34および38は、バンドギャップが一方の半導体から他方の半導体に連続的に近ずくように組成が変化している。・・・
【図3】


b 上記引用文献4の記載によれば、引用文献4に記載された技術的事項は、緩衝層及び活性層における結晶格子歪の緩和を目的として緩衝層に隣接するガイド層を組成傾斜層とするものである。
上記引用文献5の記載によれば、引用文献5に記載された技術的事項は、隣接する2つの層(コンタクト層及びクラッド層)の間のヘテロギャップの低減を目的として当該2つの層自体を組成傾斜層とするものであるところ、技術常識に照らせば、ヘテロギャップの低減による素子抵抗の低減は、駆動電圧の低減につながるものと認められる。
上記引用文献6の記載によれば、引用文献6に記載された技術的事項は、隣接する2つの半導体層の間のヘテロギャップの低減を目的として2つの層の間に新たに組成傾斜層を設けるものであり、当該2つの半導体層の間に組成傾斜層を設けることで、バンドの不連続に起因する電気抵抗の増加を抑制して,素子の駆動電圧を低減するものと認められる。

c 上記bの認定を踏まえ、引用文献4?6をそれぞれ副引例として位置づけた場合に、当業者が、これらのいずれかに記載された技術的事項に基づいて、相違点1及び2に係る構成に容易に想到することができるか否かについて検討する。
引用文献4に記載された技術的事項について、引用発明は、当該技術的事項が備えるところの緩衝層やそれに隣接するガイド層を備えるものではないから、引用発明に当該技術的事項を採用する動機付けはない。
引用文献5に記載された技術的事項について、引用発明にこれを採用する動機付けはない。すなわち、引用発明は、「第一の層」に相当する構成が「0.5μmの厚さのアンドープ」のAl_(0.6)Ga_(0.4)Nのn型コンタクト層(以下「アンドープ層」という。)であり、「第二の層」に相当する構成が「2.5μmの厚さのSiドーピング」のAl_(0.6)Ga_(0.4)Nのn型コンタクト層(以下「ドーピング層」という。)であるから、アンドープ層とドーピング層との間にヘテロギャップが存在しないと考えられる。また、「AlN/AlGaN超格子バッファ」に着目するとしても、引用発明において、n側電極はコンタクト層であるドーピング層又はアンドープ層に形成されるから、それより下層(p側電極とは反対側)にある超格子バッファとの間のヘテロギャップは、駆動電圧にほとんど影響しないと考えられる。よって,引用発明のアンドープ層について、隣接するドーピング層との関係においても、超格子バッファとの関係においても、駆動電圧の低下を目的としてヘテロギャップの低減を図るために、組成傾斜層とする動機付けがあるとはいえないのであり、そのため、当業者は、少なくとも相違点1に係る構成に至らない。
引用文献6に記載された技術的事項について、これは、新たな組成傾斜層を設けるものであるから、引用発明にこれを採用しても、相違点1及び2に係る構成に至らない。
そして、半導体積層体の格子不整合を緩和するために組成傾斜層を用いることが周知の技術事項であるとしても、以上の判断を左右しない。
したがって、引用文献4?6をそれぞれ副引例として位置づけたとしても、当業者が、これらのいずれかに記載された技術的事項に基づいて、相違点1及び2に係る構成に容易に想到することはない。

イ 小括
以上のとおりであるから、本件特許発明1は、引用発明及び引用文献4?引用文献6に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

2 本件特許発明2?11について
本件特許発明2?11は、いずれも本件特許発明1を直接又は間接に引用してさらに限定したものである。
そうすると、上記1と同様の理由により、本件特許発明2?11は、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

3 取消理由通知(決定の予告)により通知された取消理由についての小括
以上のとおりであるから、当該取消理由により、本件特許発明1?11に係る特許を取り消すことはできない。

第6 取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由について
1 特許法第29条第1項第3号について
特許異議申立人は、本件特許発明1ないし3並びに10及び11に対して、窒化アルミニウムガリウムのアルミニウム比が下面側の層から上方向に順次減少することは、窒化アルミニウムガリウム層の形成過程における必然的な現象であることを前提として、甲1号証(引用文献1)に記載された発明のアンドープ及びSiドーピングのAl_(0.6)Ga_(0.4)Nのn型コンタクト層についても、それぞれ必然的に「アルミニウム比が下面側の層から上方向に順次減少」していると考えられるため、甲1号証(引用文献1)に記載された発明と同一である旨を主張している。
しかし、本件特許の明細書の段落0010の「バンドギャップが大きい半導体層においてこれら表面抵抗率及び接触抵抗を低下させるには、半導体層を組成傾斜層とし、不純物濃度を高めることが必要になる。」の記載等によれば、本件特許発明1ないし3並びに10及び11における「組成傾斜層」は、意図的に組成比に傾斜を設けることにより、表面抵抗率及び接触抵抗を低下させるためのものであって、半導体層の上方と下方の間で、形成過程で必然的に生じる程度の差が生じているものを意味するものではないと理解できる。
したがって、上記第5の1(1)で認定したとおり、本件特許発明1と甲1号証(引用文献1)に記載された発明との間には相違点があるから、両者は同一ではない。そして、本件特許発明2、3、10及び11も、本件特許発明1を直接又は間接に引用してさらに限定したものである以上、同様の議論が成り立つ。
よって、特許異議申立人の主張する特許異議申立理由によっては、本件特許発明1ないし3並びに10及び11に係る特許を取り消すことはできない。

2 特許法第29条第2項について
(1)本件特許発明1ないし3について
特許異議申立人は、本件特許発明1ないし3に対して、甲1号証及び甲2号証で例示されるような、窒化アルミニウムガリウムの層は、甲3号証及び甲4号証に基づき、その形成過程において、窒化アルミニウムガリウムのアルミニウム比が下面側の層から上方向に順次減少することが明らかであると考えられ、この考え方に基づけば、甲1号証(引用文献1)に記載された発明の「アンドープ及びSiドーピングのAl_(0.6)Ga_(0.4)Nのn型コンタクト層」を「組成傾斜層」とすることを導き出せる旨主張している。
しかし、上記1のとおり、本件特許発明1ないし3における「組成傾斜層」は、面抵抗率及び接触抵抗を低下させることを目的としたものであり、形成過程で必然的に生じるようなものを意味するものではないと理解できるから、特許異議申立人の上記考え方を適用したとしても、甲1号証(引用文献1)に記載された発明は本件特許発明1ないし3の発明特定事項を備えたものとはならない。
したがって、特許異議申立人の主張する特許異議申立理由によっては、本件特許発明1ないし3に係る特許を取り消すことはできない。

(2)本件特許発明4ないし11について
上記(1)で検討したとおりであるから、特許異議申立人の主張する特許異議申立理由によっては、本件特許発明4ないし11に係る特許を取り消すことはできない。

3 特許法第36条第4項第1号について
特許異議申立人は、特許異議申立書において、本件特許発明1ないし11の「組成傾斜層」において、窒化アルミニウムガリウムのアルミニウム比を、上記1で特許異議申立人が主張するような必然的に生じる程度を超えて減少させるためには、当業者に期待し得る程度を越える試行錯誤、複雑高度な実験を行う必要があるのに対し、発明の詳細な説明にはその手段についての記載がないことから、本件特許の明細書の発明の詳細な説明は、本件特許発明1ないし11について、当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものではない旨を主張している。
この点について、本件特許の明細書の段落0033には、半導体積層体の製造方法として、有機気相金属成長法(MOCVD)、分子線エピタキシー法(MBE)、液相成長法(LPE)、水素化物気相反応法(HVPE)等が例示されているほか、同段落0036ないし0039には、窒化アルミニウムからなるバッファ層が形成されたテンプレート基板を反応容器に設置し、原料ガスとしてアンモニア、トリメチルアルミニウム(TMA)を用いて、超格子層、第一の組成傾斜層及び第二の組成傾斜層を形成すること、及び、第一の組成傾斜層及び第二の組成傾斜層のアルミニウム比も具体的に記載されている。
そして、AlGaN層のAlの比率を傾斜させた組成傾斜層は、例えば、引用文献4の段落0044及び引用文献5の段落0042に記載されているように、本願の出願前に知られている。
そうすると、本件特許発明1ないし11を実施するにあたり、所望の組成傾斜層を得るために、当業者であれば上記周知技術を採用することは適宜なし得ることであるから、当業者に期待し得る程度を越える試行錯誤、複雑高度な実験を行う必要があるとはいえない。
したがって、特許異議申立人の主張する特許異議申立理由によっては、本件特許発明1ないし11に係る特許を取り消すことはできない。

4 特許法第36条第6項第1号について
特許異議申立人は、特許異議申立書において、本件特許発明1ないし11は、本件特許の明細書の発明の詳細な説明に、当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものでないから、発明の詳細な説明に記載されたものではない旨を主張している。
しかし、上記3で検討したとおりであるから、本件特許発明1ないし11は、本件特許の明細書の発明の詳細な説明に記載されたものといえる。
したがって、特許異議申立人の主張する特許異議申立理由によっては、本件特許発明1ないし11に係る特許を取り消すことはできない。

第7 むすび
したがって、本件特許発明1ないし11に係る特許は、取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由及び特許異議申立人が主張する特許異議申立理由によっては、取り消すことはできない。
また、他に本件特許発明1ないし11に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2020-06-30 
出願番号 特願2013-215904(P2013-215904)
審決分類 P 1 651・ 536- Y (H01L)
P 1 651・ 121- Y (H01L)
P 1 651・ 113- Y (H01L)
P 1 651・ 537- Y (H01L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 大和田 有軌  
特許庁審判長 瀬川 勝久
特許庁審判官 山村 浩
井上 博之
登録日 2017-12-08 
登録番号 特許第6252092号(P6252092)
権利者 日亜化学工業株式会社
発明の名称 窒化物半導体積層体及びそれを用いた発光素子  
代理人 山尾 憲人  
代理人 言上 惠一  
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