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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C23C
管理番号 1364036
異議申立番号 異議2020-700224  
総通号数 248 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-08-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-04-01 
確定日 2020-07-16 
異議申立件数
事件の表示 特許第6584439号発明「鋼帯を熱処理および溶融めっきするための多目的加工ライン」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6584439号の請求項1?10に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6584439号(請求項の数10。以下,「本件特許」という。)は,2015年(平成27年)7月3日(パリ条約による優先権主張外国庁受理:2014年7月3日,国際事務局(IB),2014年8月26日,国際事務局(IB))を国際出願日とする特許出願(特願2016-575830号)に係るものであって,令和1年9月13日に設定登録されたものである(特許掲載公報の発行日は,令和1年10月2日である。)。
その後,令和2年4月1日に,本件特許の請求項1?10に係る特許に対して,特許異議申立人である前田洋志(以下,「申立人」という。)により,特許異議の申立てがされた。

第2 本件発明
本件特許の請求項1?10に係る発明は,本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1?10に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(以下,それぞれ「本件発明1」等という。また,本件特許の願書に添付した明細書を「本件明細書」という。)。

【請求項1】
鋼帯を熱処理および溶融めっきするように構成された多目的連続加工ラインであって,当該多目的連続加工ラインは:
- 鋼帯を所定の焼鈍温度まで加熱し鋼帯を焼鈍温度において維持する焼鈍区域(1),
- 第1の輸送区域(2),
- 鋼帯を300℃から700℃の間での過時効温度で維持することが可能な過時効区域(3),
- 鋼帯の溶融めっきを可能にするために鋼帯の温度を調整することが可能な第2の輸送区域(4),および
- 被覆温度において鋼帯を溶融めっき被覆するための溶融めっき区域(5)
を順に含み,
第1の輸送区域(2)は,冷却手段(21)および加熱手段(22)を順に含み,および第2の輸送区域(4)が,冷却によってまたは加熱によって鋼帯の温度を調整するための,制御可能な冷却手段(41)および制御可能な加熱手段(42)を順に含み,
制御可能な冷却手段(41)が,被覆温度を超える過時効温度から被覆温度まで鋼帯を冷却することができるものであり,制御可能な加熱手段(42)が,被覆温度を下回る過時効温度から被覆温度まで鋼帯を加熱することができるものである,多目的連続加工ライン。
【請求項2】
第1の輸送区域(2)の冷却手段(21)は,第1の輸送区域(2)の冷却手段(21)の冷却能力が冷却なしと所定の焼入れ温度までの急速冷却との間で調整可能であるように制御可能であり,第1の輸送区域(2)の加熱手段(22)は,第1の輸送区域(2)の加熱手段(22)の加熱能力が加熱なしと所定の過時効温度までの急速加熱との間で調整可能であるように制御可能である,請求項1に記載の多目的連続加工ライン。
【請求項3】
第1の輸送区域(2)の冷却手段(21)は,冷却スピードを0℃/秒から70℃/秒の間で調整することができ,焼入れ温度を100℃から500℃の間で選択することができるような冷却手段である,請求項2に記載の多目的連続加工ライン。
【請求項4】
第1の輸送区域(2)の加熱手段(22)が,少なくとも1つの制御可能な誘導加熱器(221)を含む,請求項2または3に記載の多目的連続加工ライン。
【請求項5】
制御可能な冷却手段(41)が,厚さが2mmまでの鋼板を550℃から700℃の間の温度から溶融めっき温度まで少なくとも50℃/秒である冷却スピードにおいて冷却することが可能である,請求項1から4のいずれか一項に記載の多目的連続加工ライン。
【請求項6】
過時効区域(3)が,過時効温度付近で鋼帯の温度を維持することまたは鋼帯の温度を入口温度から出口温度の間でゆっくりと低下させることが可能な制御可能な手段を含む,請求項1から5のいずれか一項に記載の多目的連続加工ライン。
【請求項7】
所定の焼鈍温度を700℃から1000℃の間で選択できるように,焼鈍区域(1)が制御可能な手段を含む,請求項1から6のいずれか一項に記載の多目的連続加工ライン。
【請求項8】
溶融めっき区域(5)が少なくとも液体金属浴(51)を含む,請求項1から7のいずれか一項に記載の多目的連続加工ライン。
【請求項9】
溶融めっき区域(5)が被覆のための合金化手段(52)をさらに含む,請求項8に記載の多目的連続加工ライン。
【請求項10】
溶融めっき区域(5)が亜鉛めっき区域または合金化亜鉛めっき区域である,請求項8に記載の多目的連続加工ライン。

第3 特許異議の申立ての理由の概要
本件特許の請求項1?10に係る特許は,下記1のとおり,特許法113条2号に該当する。証拠方法は,下記2の甲第1号証?甲第5号証(以下,単に「甲1」等という。)である。

1 申立理由1(進歩性)
本件発明1?10は,甲1に記載された発明及び甲2?5に記載された事項に基いて,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下,「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから,本件特許の請求項1?10に係る特許は,同法113条2号に該当する。

2 証拠方法
・甲1 特表2012-514131号公報
・甲2 特開2010-222631号公報
・甲3 特表2010-519415号公報
・甲4 国際公開第2013/047836号
・甲5 特開2013-234340号公報

第4 当審の判断
以下に述べるように,特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては,本件特許の請求項1?10に係る特許を取り消すことはできない。

1 申立理由1(進歩性)
(1)甲1に記載された発明
甲1の記載(請求項1,5,6,9,【0001】,【0017】,【0020】,【0027】,【0028】,【0055】,図1?3)によれば,甲1には,鋼板の焼鈍装置を含む溶融メッキ鋼板の製造装置について記載されているところ,特に,図3に示される焼鈍工程の熱処理サイクルを実施するための鋼板の連続焼鈍ラインに着目すると,甲1には,以下の発明が記載されていると認められる。

「鋼板の連続焼鈍ラインを含む溶融メッキ鋼板の製造装置であって,
予熱セクション101,加熱セクション102,ソーキングセクション103,徐冷セクション104,急冷セクション105,オーバーエージングセクション309,再加熱セクション310,最終冷却セクション106を順に含み,
上記1以上のセクションに非還元性雰囲気又は弱還元性雰囲気のガスが充填されており,
予熱セクション101,加熱セクション102,ソーキングセクション103は,鋼板を800℃まで加熱し800℃に維持するものであり,
徐冷セクション104は,鋼板を800℃から680℃まで徐冷するものであり,
急冷セクション105は,鋼板を680℃から400℃まで急冷するものであり,
オーバーエージングセクション309は,鋼板を400℃に維持するものであり,
再加熱セクション310は,鋼板を400℃から485℃に再加熱するものであり,
最終冷却セクション106は,鋼板を485℃から460℃に冷却するものである,
鋼板の連続焼鈍ラインを含む溶融メッキ鋼板の製造装置。」(以下,「甲1発明」という。)

(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
(ア)甲1発明における「鋼板」,「連続焼鈍」は,それぞれ,本件発明1における「鋼帯」,「熱処理」に相当するから,甲1発明における「鋼板の連続焼鈍ラインを含む溶融メッキ鋼板の製造装置」は,本件発明1における「鋼帯を熱処理および溶融めっきするように構成された」「連続加工ライン」に相当する。
(イ)甲1発明における「予熱セクション101,加熱セクション102,ソーキングセクション103」は,「鋼板を800℃まで加熱し800℃に維持する」ものであるから,本件発明1における「鋼帯を所定の焼鈍温度まで加熱し鋼帯を焼鈍温度において維持する焼鈍区域(1)」に相当する。
(ウ)甲1発明における,「予熱セクション101,加熱セクション102,ソーキングセクション103」に続く,「徐冷セクション104」は,「鋼板を800℃から680℃まで徐冷する」ものであり,「急冷セクション105」は,「鋼板を680℃から400℃まで急冷する」ものであるから,冷却手段を有することは明らかである。
一方,本件発明1における,「焼鈍区域(1)」に続く,「第1の輸送区域(2)」は,「冷却手段(21)および加熱手段(22)を順に含」むものである。
そうすると,本件発明1と甲1発明とは,「冷却手段(21)」を含む「第1の輸送区域(2)」を含む限りで共通する。
(エ)甲1発明における「鋼板を400℃に維持する」「オーバーエージングセクション309」は,本件発明1における「鋼帯を300℃から700℃の間での過時効温度で維持することが可能な過時効区域(3)」に相当する。
(オ)甲1発明における,「オーバーエージングセクション309」に続く,「再加熱セクション310」は,「鋼板を400℃から485℃に再加熱する」ものであり,「最終冷却セクション106」は,「鋼板を485℃から460℃に冷却する」ものであるから,制御可能な加熱手段及び制御可能な冷却手段を順に有することは明らかである。
一方,本件発明1における,「過時効区域(3)」に続く,「第2の輸送区域(4)」は,「冷却によってまたは加熱によって鋼帯の温度を調整するための,制御可能な冷却手段(41)および制御可能な加熱手段(42)を順に含」むものである。
そうすると,本件発明1と甲1発明とは,「冷却によってまたは加熱によって鋼帯の温度を調整するための,制御可能な冷却手段(41)および制御可能な加熱手段(42)」を含む「第2の輸送区域(4)」を含む限りで共通する。
(カ)甲1発明は,「溶融メッキ鋼板の製造装置」であり,所定の温度において鋼板を溶融メッキするための設備を有していることは明らかであるから,本件発明1と甲1発明とは,「被覆温度において鋼帯を溶融めっき被覆するための溶融めっき区域(5)」を含む限りで共通する。
(キ)以上によれば,本件発明1と甲1発明とは,
「鋼帯を熱処理および溶融めっきするように構成された連続加工ラインであって,当該連続加工ラインは:
- 鋼帯を所定の焼鈍温度まで加熱し鋼帯を焼鈍温度において維持する焼鈍区域(1),
- 第1の輸送区域(2),
- 鋼帯を300℃から700℃の間での過時効温度で維持することが可能な過時効区域(3),
- 第2の輸送区域(4)
を順に含み,
- 被覆温度において鋼帯を溶融めっき被覆するための溶融めっき区域(5)
を含み,
第1の輸送区域(2)は,冷却手段(21)を含み,および第2の輸送区域(4)が,冷却によってまたは加熱によって鋼帯の温度を調整するための,制御可能な冷却手段(41)および制御可能な加熱手段(42)を含む,連続加工ライン。」
の点で一致し,以下の点で相違する。
・相違点1
本件発明1では,第1の輸送区域(2)は,「冷却手段(21)」及び「加熱手段(22)」を「順に」含むものであるのに対して,甲1発明では,徐冷セクション104及び急冷セクション105は,「冷却手段」を有するものの,「加熱手段」を有するものではなく,「冷却手段」及び「加熱手段」を「順に」含むものではない点。
・相違点2
本件発明1では,第2の輸送区域(4)は,「制御可能な冷却手段(41)」及び「制御可能な加熱手段(42)」を「順に」含むものであるのに対して,甲1発明では,再加熱セクション310及び最終冷却セクション106は,「制御可能な加熱手段」及び「制御可能な冷却手段」を「順に」有するものである点。
・相違点3
本件発明1では,第2の輸送区域(4)は,「鋼帯の溶融めっきを可能にするために鋼帯の温度を調整することが可能な」ものであり,当該第2の輸送区域(4)に含まれる「制御可能な冷却手段(41)」は,「被覆温度を超える過時効温度から被覆温度まで鋼帯を冷却することができる」ものであり,同「制御可能な加熱手段(42)」は,「被覆温度を下回る過時効温度から被覆温度まで鋼帯を加熱することができる」ものであるのに対して,甲1発明では,再加熱セクション310及び最終冷却セクション106が,「鋼帯の溶融めっきを可能にするために鋼帯の温度を調整することが可能な」ものであるかどうか不明であり,当該再加熱セクション310及び最終冷却セクション106に含まれる「制御可能な冷却手段」が,「被覆温度を超える過時効温度から被覆温度まで鋼帯を冷却することができる」ものであるかどうか不明であり,同「制御可能な加熱手段」が,「被覆温度を下回る過時効温度から被覆温度まで鋼帯を加熱することができる」ものであるかどうか不明である点。
・相違点4
本件発明1では,第2の輸送区域(4)に続けて,溶融めっき区域(5)を「順に」含むのに対して,甲1発明では,再加熱セクション310及び最終冷却セクション106に続けて,溶融メッキするための設備を「順に」含むかどうか不明である点。
・相違点5
本件発明1では,鋼帯を熱処理および溶融めっきするように構成された連続加工ラインが,「多目的」のものであるのに対して,甲1発明では,鋼板の連続焼鈍ラインを含む溶融メッキ鋼板の製造装置が,「多目的」のものであるかどうか不明である点。

イ 相違点1の検討
(ア)甲1には,図1の連続焼鈍ラインの各セクションを鋼板が連続的に通過するとき,各々の役割によって鋼板を加熱するか又は冷却して連続的な焼鈍処理が行われること(【0017】,【0020】,図1),図1の一般的な連続焼鈍ラインのほかに,図3のように,急冷セクション105及び最終冷却セクション106の間に,オーバーエージングセクション309,再加熱セクション310又は加熱機能,維持機能及び冷却機能を有する異なる種類のセクションを追加できること(【0028】,図3),連続焼鈍ラインには,必要に応じて追加的なセクションをさらに存在させることもでき,図1に示す6つセクションのうち一部が除外されてもよいこと(【0028】)が記載されている。
しかしながら,甲1には,冷却手段を有する徐冷セクション104及び急冷セクション105において,上記冷却手段に続けて,さらに加熱手段を順に設けることについては,記載されておらず,また,冷却手段を有する急冷セクション105とオーバーエージングセクション309との間に,加熱手段を有するセクションをさらに設けることについても,記載されていない。また,これらのことが技術常識であるともいえない。
以上のとおり,甲1の記載によっては,甲1発明の徐冷セクション104及び急冷セクション105において,冷却手段に続けて,さらに加熱手段を順に設けること,また,甲1発明の急冷セクション105とオーバーエージングセクション309との間に,加熱手段を有するセクションをさらに設けることが,動機付けられるとはいえない。

(イ)a 甲2には,予熱帯,加熱帯,均熱帯,冷却帯,再加熱帯,過時効帯,最終冷却帯を,この順に有する鋼板の連続焼鈍設備であって,前記再加熱帯から前記最終冷却帯までの間に,鋼板を加熱速度:15℃/秒以上で急速加熱できる急速加熱領域と,該急速加熱領域で急速加熱された鋼板を冷却速度:10℃/秒以上で急速冷却できる急速冷却領域を有する鋼板の連続焼鈍設備について記載されている(請求項1,【0002】)。
上記「予熱帯,加熱帯,均熱帯」,「冷却帯,再加熱帯」,「過時効帯」は,それぞれ,本件発明1における「焼鈍区域(1)」,「冷却手段(21)および加熱手段(22)を順に含む」「第1の輸送区域(2)」,「過時効区域(3)」に相当する。
すなわち,甲2には,相違点1に係る構成である「第1の輸送区域(2)」に相当する,冷却帯及び再加熱帯をこの順に有するという構成が記載されているといえる。
b また,甲2には,上記の連続焼鈍設備によれば,軟鋼材,ハイテン鋼材,超ハイテン鋼材という,軟質鋼板から超ハイテンまでの多種類の薄鋼板製品を熱処理することができることが記載されている(【0020】,【0036】?【0038】)。
当該記載によれば,甲2に記載される連続焼鈍設備が対象とする鋼種は,軟鋼材,ハイテン鋼材,超ハイテン鋼材であることが理解できる。
c 一方,甲1発明は,上記(1)のとおり,図3に示される焼鈍工程の熱処理サイクルに着目して認定したものであるが,甲1において,実際に図3に示される焼鈍工程の熱処理サイクルが適用されるのは,引張強度590MPa級TRIP鋼(変態誘起焼成鋼,【0004】)のみである(実施例1,【0031】?【0033】)。このTRIP鋼は,甲2に記載される連続焼鈍設備が対象とする軟鋼材,ハイテン鋼材,超ハイテン鋼材と同じものであるとはいえない。
なお,甲1には,図3に示される焼鈍工程の熱処理サイクルが適用されるものではないものの,TRIP鋼のほかに,引張強度980MPa級高マンガン鋼(TWIP),引張強度780MPa級二相組織鋼(DP),300MPa級加工用鋼板(DQ)が記載されているが(実施例2,【0042】?【0048】,表2),これらについても,甲2に記載される連続焼鈍設備が対象とする軟鋼材,ハイテン鋼材,超ハイテン鋼材と同じものであるとはいえない。
d 以上のとおり,甲2には,相違点1に係る構成である「第1の輸送区域(2)」に相当する,冷却帯及び再加熱帯をこの順に有するという構成が記載されているが,甲1発明が対象とする鋼種と,甲2に記載される連続焼鈍設備が対象とする鋼種は,同じものであるとはいえない。
そして,鋼種が異なれば,必要とされる熱処理サイクル及び当該熱処理サイクルを実施するための連続焼鈍ラインも異なるのが通常であるところ,甲1発明が対象とする鋼種と,甲2に記載される連続焼鈍設備が対象とする鋼種とでは,必要とされる熱処理サイクル及び当該熱処理サイクルを実施するための連続焼鈍ラインが同じであるとの技術常識があるともいえない。
そうすると,甲1発明において,(甲1とは,対象とする鋼種が同じものであるとはいえない)甲2に記載される上記構成を適用する動機付けがあるとはいえない。

(ウ)甲2に記載される連続焼鈍設備は,上記(イ)で述べたとおり,軟鋼材,ハイテン鋼材,超ハイテン鋼材という,軟質鋼板から超ハイテンまでの多種類の薄鋼板製品を熱処理することができるものである。
しかしながら,甲2のほか,甲1にも,甲1発明が対象とする鋼種とともに,甲2に記載される連続焼鈍設備が対象とする鋼種についても,同じ連続焼鈍設備で熱処理することができるようにすることについては,記載されていない。また,甲2に記載される連続焼鈍設備は,そもそも,溶融メッキすることを意図したものではない。
そうすると,甲1発明に係る鋼板の連続焼鈍ラインを含む溶融メッキ鋼板の製造装置において,甲1発明が対象とする鋼種とともに,甲2に記載される連続焼鈍設備が対象とする鋼種についても,熱処理及び溶融メッキをすることができるように,甲2に記載される冷却帯及び再加熱帯をこの順に有するという構成を適用する動機付けがあるとはいえない。

(エ)甲3には,冷間圧延されかつ連続的に焼きなましされた高強度鋼ストリップの製造方法において,過時効温度から亜鉛めっき温度まで冷却されることなく,加熱することについて記載され(請求項10,図1),甲4には,亜鉛めっき鋼板の製造方法において,めっき浴に浸漬する前に,冷却停止温度から冷却することなく,再加熱することについて記載され(請求項8,[0144]),甲5には,高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法において,亜鉛めっきを行う前に,所定の保持温度から冷却することなく,加熱することについて記載されている(請求項8,【0036】)。
しかしながら,甲3?5には,甲1発明の徐冷セクション104及び急冷セクション105において,冷却手段に続けて,さらに加熱手段を順に設けること,また,甲1発明の急冷セクション105とオーバーエージングセクション309との間に,加熱手段を有するセクションをさらに設けることを動機付ける記載は,見当たらない。
また,甲3?5には,甲1発明において,甲2に記載される冷却帯及び再加熱帯をこの順に有するという構成を適用することを動機付ける記載は,見当たらない。

(オ)以上の(ア)?(エ)の検討を踏まえると,甲1発明の徐冷セクション104及び急冷セクション105において,冷却手段に続けて,さらに加熱手段を順に設けること,また,甲1発明の急冷セクション105とオーバーエージングセクション309との間に,加熱手段を有するセクションをさらに設けることが,当業者が容易に想到することができたということはできない。

ウ 相違点2の検討
甲1発明は,上記(1)のとおり,図3に示される焼鈍工程の熱処理サイクルに着目して認定したものであり,再加熱セクション310及び最終冷却セクション106を順に含むものである。
甲1には,図3に示される焼鈍工程の熱処理サイクルに関し,再加熱セクション310と最終冷却セクション106を設ける順序を逆にすることについては,記載されておらず,また,そのようなことが技術常識であるともいえない。また,甲2?5にも,そのようなことを動機付ける記載は,見当たらない。
そうすると,甲1発明において,再加熱セクション310と最終冷却セクション106を設ける順序を逆にして,最終冷却セクション106及び再加熱セクション310を順に設けることが,当業者が容易に想到することができたということはできない。

エ 小括
したがって,相違点3?5について検討するまでもなく,本件発明1は,甲1に記載された発明及び甲2?5に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)本件発明2?10について
本件発明2?10は,本件発明1を引用するものであるが,上記(2)で述べたとおり,本件発明1が,甲1に記載された発明及び甲2?5に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上,本件発明2?10についても同様に,甲1に記載された発明及び甲2?5に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4)まとめ
したがって,申立理由1(進歩性)によっては,本件特許の請求項1?10に係る特許を取り消すことはできない。

第5 むすび
以上のとおり,特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては,本件特許の請求項1?10に係る特許を取り消すことはできない。
また,他に本件特許の請求項1?10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2020-07-06 
出願番号 特願2016-575830(P2016-575830)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C23C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 印出 亮太國方 康伸  
特許庁審判長 中澤 登
特許庁審判官 平塚 政宏
井上 猛
登録日 2019-09-13 
登録番号 特許第6584439号(P6584439)
権利者 アルセロールミタル
発明の名称 鋼帯を熱処理および溶融めっきするための多目的加工ライン  
代理人 特許業務法人川口國際特許事務所  

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