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審決分類 |
審判 判定 同一 属する(申立て不成立) H01Q |
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管理番号 | 1364040 |
判定請求番号 | 判定2019-600027 |
総通号数 | 248 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許判定公報 |
発行日 | 2020-08-28 |
種別 | 判定 |
判定請求日 | 2019-10-17 |
確定日 | 2020-06-25 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第5894635号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 |
結論 | イ号説明書及び図面に示す「情報コンセント型無線LANルータ(型番:AE1041)」は、特許第5894635号発明の技術的範囲に属する。 |
理由 |
1 請求の趣旨 本件判定の請求の趣旨は、イ号は、特許第5894635号発明の技術的範囲に属しない、との判定を求めるものである。 2 本件特許発明について (1)手続の経緯 特許第5894635号(以下「本件特許」という。)は、平成26年7月14日に出願(特願2014-143859号)され、平成28年3月4日に設定登録されたものであって、その後の手続の経緯は以下のとおりである。 令和 元年10月17日 本件判定の請求 令和 元年11月26日 上申書の提出 令和 2年 1月 9日 答弁書の提出 令和 2年 1月10日 上申書の提出 令和 2年 3月19日 弁駁書の提出 (2)本件特許発明の構成及びその分説 特許第5894635号発明は、判定請求書全体(特に6(3)冒頭)の記載を踏まえると、本件特許の請求項1に係る発明(以下「本件特許発明」という。)であると認められる。 そして、本件特許発明を構成要件ごとに記号A?Fを付して分説すると、次のとおりである(以下、各構成要件を「構成要件A」?「構成要件F」という。) 「A 無線LANの周波数帯域に感度を有する複数のアンテナの夫々のアンテナ素子をケーシングに内蔵し、 B 前記ケーシングが、設置面に設けられたコンセント部に埋設状態で設置可能に構成されている情報通信ユニットであって、 C 前記ケーシングが、外部に露出される表示面部と、当該表示面部の外縁部から後方に延出し前記コンセント部に内挿される内挿部とを有し、 D 前記複数のアンテナの夫々のアンテナ素子が、前記ケーシングの内壁面に沿う板状に形成されていると共に、 E 前記内挿部の互いに異なる内壁面において前記表示面部の後方側内部空間を挟んで離間する位置に分配配置されている F 情報通信ユニット。」 (3)本件特許発明の解決しようとする課題及び効果 ア 本件特許の願書に添付した明細書(以下「本件特許明細書」という。)には、「発明が解決しようとする課題」について、以下の記載がある(下線は当審による。以下同様。)。 「上記のような従来の情報通信ユニットにおいて、安定且つ広範囲の無線LAN通信を確立するためには、複数のアンテナ素子をケーシングに内蔵させるだけでなく、それら複数のアンテナ素子を、送受信波の相互干渉が十分に抑制されるような配置状態でケーシング内に配置する必要がある。そして、上記特許文献1に記載の情報通信ユニットのように、ケーシング全体が設置面から外部に露出する場合には、ケーシングの大きさや形状に制限が略無いので、その内部において夫々のアンテナ素子を十分な離間距離を設けて略自由に配置することができる。 しかしながら、上記特許文献2に記載の情報通信ユニットのように、ケーシングの少なくとも一部が設置面に設けられたコンセント部に埋設される場合には、そのコンセント部が標準化された市販の資材を利用したものであるために、ケーシングの大きさや形状に制限が生じる。そして、このような大きさなどに制限があるケーシング内では、複数のアンテナ素子を配置されていなかった。」(段落【0006】) 「この実情に鑑み、本発明の主たる課題は、無線LANを行うためのアンテナ素子を備えた情報通信ユニットにおいて、コンセント部へ埋設状態で設置可能なケーシング内に複数のアンテナ素子を配置するにあたり、夫々のアンテナ素子における送受信波の相互干渉を良好に抑制することで、安定且つ広範囲の無線LAN通信を実現可能な技術を提供する点にある。」(段落【0007】) イ また、本件特許明細書の段落【0009】には、「ケーシングの内挿部をコンセント部に内挿し、その前方側に連接する表示面部を室内に露出させる形態で、ケーシングをコンセント部に埋設状態で設置できる。そして、このような設置形態を採用することにより、設置面からの表示面部の突出量が極力小さくなり、設置箇所の美観が向上されると共に、歩行の妨げになることが抑制される。」と記載され、また、「コンセント部に対して埋設状態で設置可能なことで大きさ等に制限が生じるケーシング内において、複数のアンテナ素子を配置するにあたり、それら複数のアンテナ素子が、ケーシングの内壁面に沿う板状に形成され、更には、内挿部の内壁面において表示面部の後方側内部空間を挟んで離間する位置に分配配置されている。このことで、夫々のアンテナ素子間の離間距離を十分に大きくとって、当該夫々のアンテナ素子における送受信波の相互干渉を良好に抑制することができる。」と記載されている。 ウ 上記アの記載によれば、本件特許発明の解決しようとする課題は、「無線LANを行うためのアンテナ素子を備えた情報通信ユニット」において、「コンセント部へ埋設状態で設置可能なケーシング内」、すなわち「大きさや形状に制限が生じる」ケーシング内に「複数のアンテナ素子を配置するにあたり、夫々のアンテナ素子における送受信波の相互干渉を良好に抑制することで、安定且つ広範囲の無線LAN通信を実現可能な技術を提供する」ことであると認められる。 エ また、上記イの記載から、本件特許発明は以下の効果を奏するものと認められる。 (ア)「設置面からの表示面部の突出量が極力小さくなり、設置箇所の美観が向上されると共に、歩行の妨げになることが抑制される」という効果 (イ)「夫々のアンテナ素子間の離間距離を十分に大きくとって、当該夫々のアンテナ素子における送受信波の相互干渉を良好に抑制する」という効果 3 イ号の構成 イ号は、判定請求書全体(特に6(4))の記載を踏まえると、イ号説明書及び図面に示す「情報コンセント型無線LANルータ(型番:AE1041)」であると認められる。 (1)請求人の主張するイ号の構成 請求人は、判定請求書(6?8頁)において、甲第2号証及び甲第3号証に基づきイ号の構成について主張しているところ、甲第5号証によれば、甲第2号証は「情報コンセント型無線LANルータ」(「AE1041」他)のカタログであると認められる。また、甲第3号証はイ号図面である。なお、甲第3号証の図1のうちの左上図は甲第7号証により差し替えられている。 そして、請求人の主張するイ号の構成は次のとおりである。 「(a)無線LANの周波数帯域に感度を有する複数(2つ)のアンテナの夫々のアンテナ素子をケーシングに内蔵している。 (b)ケーシングはその一部が設置面に設けられたコンセント部に埋設状態で設置可能に構成されている。 (c)ケーシングが壁面(設置面)から外部に露出される表示面部と、コンセント部に内挿される内挿部と、を有している。 (d)複数のアンテナの夫々のアンテナ素子が、ケーシングの内壁面に沿う板状に形成されている。 (e)複数のアンテナの夫々のアンテナ素子が壁面から外部に露出している表示面部の内壁面に配置されている。 (f)情報通信ユニットである。」 (2)当審が認定するイ号の構成 ア 甲第2号証から、イ号について以下の事項が認められる。 冒頭に記載されている説明によれば、イ号は、2.4GHz帯及び5GHz帯で通信を行う情報コンセント型無線LANルータである。 「仕様」の表によれば、イ号の「アンテナ部」は、「内蔵アンテナ×2」、すなわち2個のアンテナで構成される。 「外観図」中の「AE1041」の「前面図」、「左側面図」及び「右側面図」によれば、イ号は、その前面に「TEL」や「LAN」の文字が表示された面、すなわち文字表示面と、左側面及び右側面を含む各側面とを有する筐体、すなわちケーシングを構成要素とする。そして、冒頭の上記説明の下に示されている斜め方向から見た写真も勘案すると、各側面は、(文字表示面を手前にしてケーシングを置いたとき)文字表示面の外縁(最も外側の縁)から後方に向かって延びる、すなわち後方に延出する面である。 「仕様」の表と「外観図」の間に示されている「コンセントプレート取付け例」の写真によれば、イ号には「コンセントプレート」が取り付けられる。 イ 甲第3号証から、イ号について、上記アに加えて以下の事項が認められる。 図1(左上図は、弁駁書6(1)のとおりアンテナの配置に誤りがあることから、甲第7号証により差し替えられている。)の「アンテナ配置図」によれば、「アンテナ部」の2個のアンテナは、ケーシングに内蔵され、ケーシングの内側の壁面、すなわち内壁面に沿う板状に形成されるものであり、ケーシングの互いに異なる側面の内壁面において、文字表示面の後方側の内部空間を挟んで、互いに離れた位置に分けて配置されている、すなわち離間する位置に分配配置されている。 図2の「コンセントカバー枠」の写真及び「左図にコンセントカバーを付けた写真」について、甲第2号証の上記「コンセントプレート取付け例」の写真を勘案すると、「コンセントカバー」と「コンセントプレート」とは同じものを指しており、更に甲第2号証の「外観図」中の「AE1041」の「左側面図」及び「右側面図」も勘案すると、イ号は、そのケーシングが、「コンセントプレート」の表面よりも後方で、部分的に埋設された状態で設置対象に設置されるものであって、具体的には、ケーシングの各側面の一部が、「コンセントプレート」の表面よりも後方で埋設された状態で設置されるものである。 ウ 上記ア及びイで検討した点を踏まえると、以下のことがいえる。 (ア)イ号は「2.4GHz帯及び5GHz帯で通信を行う情報コンセント型無線LANルータ」であるところ、「2.4GHz帯及び5GHz帯」は無線LANの周波数帯域であることが明らかである。 また、通信装置のアンテナが、通信を行う周波数帯域に感度を有するアンテナ素子からなることは技術常識である。 (イ)「情報コンセント型無線LANルータ」は、換言すれば「情報通信ユニット」である。 (ウ)コンセントは、一般に、建物の壁面に設けられる設備であって、コンセントプレート等からなるコンセント部を備えており、コンセントプレートは壁面に沿って取り付けられること、を踏まえると、イ号のケーシングの各側面の一部が、「コンセントプレート」の表面よりも後方で埋設された状態で設置されることは、ケーシングの一部が、壁面、すなわち設置面に設けられたコンセント部に埋設状態で設置可能に構成されていることを意味するといえる。 エ 上記ア?ウに基づき、当審は、イ号の構成は次のとおりのものであると認める(なお、本件特許発明の分説に対応するように、記号a?fを付して構成を分説し、以下、分説した各構成を「構成a」?「構成f」という。)。 「a 無線LANの周波数帯域に感度を有する複数(2つ)のアンテナの夫々のアンテナ素子をケーシングに内蔵し、 b 前記ケーシングは、その一部が設置面に設けられたコンセント部に埋設状態で設置可能に構成されている情報通信ユニットであって、 c 前記ケーシングが、文字表示面と、当該文字表示面の外縁から後方に向かって延出し、コンセントプレートの表面よりも後方で一部が埋設される各側面とを有し、 d 前記複数のアンテナの夫々のアンテナ素子が、前記ケーシングの内壁面に沿う板状に形成されていると共に、 e 前記ケーシングの互いに異なる側面の内壁面において、前記文字表示面の後方側内部空間を挟んで離間する位置に分配配置されている、 f 情報通信ユニット。」 4 本件特許発明とイ号との対比 イ号の構成aないしfがそれぞれ本件特許発明の構成要件AないしFを充足するか、検討する。 (1)構成要件A、D、F 構成a、d、fが、それぞれ構成要件A、D、Fを充足することは明らかである。 (2)構成要件B 構成bの「ケーシング」の「一部」が「設置面に設けられたコンセント部に埋設状態で設置可能」であることは、ケーシングが設置面に設けられたコンセント部に埋設状態で設置可能であることに含まれる。 したがって、構成bは、構成要件Bを充足する。 (3)構成要件C ア 本件特許発明の「表示面部」、「内挿部」及び「外縁部」の技術的意味 本件特許発明において、「ケーシング」は「表示面部」と「内挿部」とを有するものであるところ、「外部に露出される表示面部」との記載及び「当該表示面部の外縁部から後方に延出し前記コンセント部に内挿される内挿部」との記載では、「表示面部」及び「内挿部」がそれぞれ「ケーシング」のどの範囲を占める部位であり、更に、「外縁部」がどの位置に存在するのかが判然としない点で、「表示面部」、「外縁部」及び「内挿部」の技術的意味は、文言上直ちに明らかとはいえないから、本件特許明細書の記載等を参酌して検討する。 (ア)「表示面部」及び「外縁部」について a 本件特許明細書には、「本発明に係る情報通信ユニットの実施形態」(段落【0023】)について、以下の記載がある。 「図4に示すように、情報通信ユニットU1は、無線LANの周波数帯域に感度を有する複数のアンテナ素子51をケーシング10に内蔵し、ケーシング10が、設置面に設けられたコンセント部1に埋設状態で設置可能に構成されている。 図2?図4に示すように、ケーシング10は、設置面Wに対して直交する前後方向(設置面Wの表裏方向)から互いに脱着自在に嵌合する前側分割ケーシング10Aと後側分割ケーシング10Bとで二分割された合成樹脂製のケーシングである。」(段落【0026】) 「図2に示すように、前側分割ケーシング10Aは、コンセントカバー3の取付け窓4を通して前方に突出して外部に露出される表示面部11と、当該表示面部11の外縁部から後方に延出しコンセントカバー3に形成された取付け窓4に内挿される内挿部12と、内挿部12の後端部から側方に延出し、設置面Wの背面側、具体的にはコンセントカバー3の背面側で固定されるフランジ部13とを有する。」(段落【0027】) 「図2及び図4に示すように、表示面部11の上側表面部11aには、電話回線用モジュラーアダプタ31の接続口部31aが外部に臨む接続窓14と、情報通信ユニットU1に電源が投入されており、ルーティング機能(有線LANや無線LANを利用した情報通信機能)が利用可能であるときに点灯する電源インジケータ33の光を透過させる表示孔16と、ネットワークのアクセス状態を点灯によって表示するアクセスインジケータ34の光を透過させる表示孔17と、ケーシング10内のリセットスイッチ35を爪楊枝等の細い棒状の操作具でリセット操作するための操作孔18などが設けられている。」(段落【0029】) 「図5及び図6に示すように、内挿部12は、表示面部11の両側縁部の夫々から後方に延出し互いに対向する一対の平面状側壁部12a、12bを有する。」(段落【0030】) 「2つのアンテナ素子51A,51Bが、前側分割ケーシング10Aの内壁面に沿う板状に形成された上で、表示面部11の外縁部から後方に延出する内挿部12の内壁面において、表示面部11の後方側内部空間を挟んで離間する位置に分配配置されている。」(段落【0035】) 「第1アンテナ50Aのアンテナ素子51Aは、前方方向視(図1における手前方向視)において左側にある平面状側壁部12aの内面側に配置され、一方、第2アンテナ50Bのアンテナ素子51Bは、同前方方向視において右側にある平面状側壁部12bの内面側に配置されている。」(段落【0037】) 「一方、アンテナ素子51Aの後方屈曲部P2aよりも先端側では、当該後方屈曲部P2aを基点に平面状側壁部12aの内壁面に沿って当該内壁面と平行に水平方向前方側に延出する第2延出部P3aが形成されている。 更に、この第2延出部P3aの先端側には、鉛直方向下方側に屈曲する前方屈曲部P4aが形成されており、この前方屈曲部P4aの先端側では、当該前方屈曲部P4aを基点に平面状側壁部12aに沿って当該平面状側壁部12aと平行に鉛直方向下方側に延出する第3延出部P5a(前方領域の一例)が形成されている。」(段落【0040】) 「このアンテナ素子51Aの第3延出部P5aについては、コンセントカバー3の表面から最も突出代の大きな下側表面部11cの内壁部に隣接する位置に配置されており、具体的には、前方屈曲部P4aの先端側の前方領域である第3延出部P5aは、設置面Wに相当する部位よりも前方に位置することになる。」(段落【0042】) b 上記aの各記載によれば、「情報通信ユニットの実施形態」では、以下のことがいえる。 (a)設置面に設けられたコンセント部1に埋設状態で設置可能なケーシング10が、表示面部11と内挿部12とを有しており(段落【0026】、【0027】)、ここで、表示面部11は、コンセントカバー3の取付け窓4を通して前方に突出して外部に露出され(段落【0027】)電源インジケータ33の光を透過させる表示孔16及びネットワークのアクセス状態を点灯によって表示するアクセスインジケータ34の光を透過させる表示孔17(段落【0029】)による情報表示が行われる。 一方、内挿部12は、表示面部11の外縁部から後方に延出しコンセントカバー3に形成された取付け窓4に内挿される(段落【0027】)とともに、表示面部11の両側縁部の夫々から後方に延出し互いに対向する一対の平面状側壁部12a、12bを有し(段落【0030】)、アンテナ素子51A、51Bが、表示面部11の外縁部から後方に延出する内挿部12の内壁面において、表示面部11の後方側内部空間を挟んで離間する位置に分配配置され(段落【0035】)、具体的には、それぞれ平面状側壁部12a、12bの内面側に配置され(段落【0037】)、アンテナ素子51Aにおける、平面状側壁部12aと平行に鉛直方向下方側に延出する第3延出部P5aは、コンセントカバー3の表面から最も突出代の大きな下側表面部11cの内壁部に隣接する位置に配置されており、設置面Wに相当する部位よりも前方に位置している(段落【0040】、【0042】)ものである。 ここで、図2を参照すると、平面状側壁部12aは、ケーシング10の側面として1つの面を形成しており、表示面部11の最も外側の縁において表示面部11と概ね直交しているといえる。 【図2】 (b)そうすると、表示面部11が、コンセントカバー3の取付け窓4を通して前方に突出して外部に露出されることに伴い、平面状側壁部12aが形成する面も、その少なくとも一部の領域(特に、コンセントカバー3の表面から最も突出代の大きな下側表面部11cの付近)がコンセントカバー3の取付け窓4を通して外部に露出されるといえる。この点は、平面状側壁部12bについても同様であることが明らかである。 また、表示面部11は、ケーシング10の側面と異なる面であって、その面の最も外側の縁である外縁部から、平面状側壁部12a、12bが後方に延出するものであるといえる。 (c)そして、平面状側壁部12a、12bがそれぞれ形成する面の少なくとも一部の領域が外部に露出されるものの、ケーシング10が設置面に設けられたコンセント部1に埋設状態で設置可能であることから、上記「実施形態」は、上記2(3)アの段落【0006】の記載における「ケーシング全体が設置面から外部に露出する場合」には該当せず、「ケーシングの少なくとも一部が設置面に設けられたコンセント部に埋設される場合」に該当することが理解でき、更には、ケーシング10が設置面に設けられたコンセント部1に埋設状態で設置可能であるために表示面部11の突出代を小さくできることから、本件特許明細書に記載されている上記2(3)エ(ア)の効果を奏することが理解できる。 また、上記「実施形態」では、平面状側壁部12a、12bがいずれも1つの面を形成しており、しかも、それらの少なくとも一部の領域がコンセントカバー3の取付け窓4を通して外部に露出されるために、平面状側壁部12a、12bの間隔が取付け窓4の寸法による制約を受けることから、「大きさや形状に制限が生じる」ケーシング内に「複数のアンテナ素子を配置するにあたり、夫々のアンテナ素子における送受信波の相互干渉を良好に抑制することで、安定且つ広範囲の無線LAN通信を実現可能な技術を提供する」との上記2(3)ウの課題が生じることが理解でき、更には、アンテナ素子51A、51Bが表示面部11の後方側内部空間を挟んで離間する位置に分配配置されていることにより、当該課題が解決されて、本件特許明細書に記載されている上記2(3)エ(イ)の効果を奏することが理解できる。 (d)上記(a)?(c)において、特に「実施形態」の表示面部11について検討した点に着目すると、本件特許発明の「表示面部」は、情報表示が行われるケーシングの面であって、ケーシングの側面とは異なる面であると解される。 また、「外縁部」は、「表示面部」の最も外側の縁であって、その位置からケーシングの側面が後方に延出するものと解される。 (イ)「内挿部」について 上記(ア)b(a)?(c)において、特に「実施形態」の内挿部12が有する平面状側壁部12a、12bについて検討した点に着目すると、本件特許発明の「内挿部」は、ケーシングの各側面から構成されるものであって、外部に露出される領域を含んでいると解される。 イ 構成要件Cの充足性 構成cの「各側面」は、それぞれ、「文字表示面の外縁から後方に向かって延出」する、「ケーシング」の面であり、「文字表示面」は、「各側面」とは異なる、「ケーシング」の面である。 また、構成cの「文字表示面」は、文字が見えるように外部に露出されることが明らかである。 更に、上記3(2)ウ(ウ)で検討した点も考慮すると、構成cの「コンセントプレートの表面よりも後方で一部が埋設される」ことは、構成要件Cの「前記コンセント部に内挿される」ことに相当する。 そして、上記ア(ア)b(d)、(イ)の「内挿部」、「表示面部」及び「外縁部」の技術的意味に照らすと、構成cの「文字表示面」、「各側面」、「外縁」は、それぞれ構成要件Cの「表示面部」、「内挿部」、「外縁部」に相当する。 したがって、構成cは、構成要件Cを充足する。 (4)構成要件E 上記(3)ア(ア)b(d)、(イ)の「内挿部」、「表示面部」の技術的意味及び上記(3)イで検討した点に照らすと、構成eの「前記ケーシングの互いに異なる側面の内壁面」、「文字表示面の後方側内部空間」は、それぞれ構成要件Eの「前記内挿部の互いに異なる内壁面」、「前記表示面部の後方側内部空間」に相当する。 したがって、構成eは、構成要件Eを充足する。 (5)小括 以上のとおりであるから、イ号の構成aないしfは、それぞれ本件特許発明の構成要件AないしFを充足する。 5 請求人の主張について (1)請求人は、イ号は「(e)複数のアンテナの夫々のアンテナ素子が壁面から外部に露出している表示面部の内壁面に配置されている。」との特徴を有している旨主張し(判定請求書6(4)(7?8頁))、その上で、構成要件Eの充足性に関して、「非該当」、すなわち充足しない旨、主張する(同6(5A)の「表」(5)(9頁))。 しかしながら、構成要件Eに対応するイ号の構成eにおいて、アンテナ素子が配置されているのは、「ケーシングの互いに異なる側面の内壁面」であって、「表示面部の内壁面」とすることはできない。そして、構成eが構成要件Eを充足することは、上記4(4)のとおりである。 (2)請求人は、本件特許明細書の段落【0009】には、「埋設状態で設置可能なことで大きさ等に制限が生じるケーシング内において・・・相互干渉を良好に抑制することができる。」と記載されており、壁面(設置面)から外部に露出している部分には、本件特許の「発明が解決しようとする課題」である「コンセント部によって受ける制限」が生じないから、壁面(設置面)から外部に露出している部分が「内挿部」に該当するという解釈は成り立たず、従って、本件特許明細書の記載によれば、本件特許請求項1に記載の「アンテナ素子が・・・分配配置されている」「内挿部」は、設置面から「コンセント部に内挿され」ている部分のみを意味すると解釈されるべきであり、コンセント部の外部に露出している部分は「内挿部」から除外されると解釈されるべきであって、一方、イ号は、複数のアンテナの夫々のアンテナ素子は壁面(設置面)の外部に露出しているイ号表示面部の内壁面にのみ配置されているものであり、本件特許発明とは相違する旨、主張する(判定請求書6(5B)(9頁)、弁駁書6(2)○1ア?ウ(3頁))(「○1」は丸囲み数字の1を表す。以下同様。)。 しかしながら、上記4(3)ア(ア)b(c)から明らかなように、本件特許明細書に記載されている「実施形態」では、平面状側壁部12a、12bがそれぞれ形成する面の少なくとも一部、すなわち内挿部12の一部が、コンセントカバー3の取付け窓4を通して外部に露出されるために、「大きさや形状に制限が生じる」ケーシング内に「複数のアンテナ素子を配置するにあたり、夫々のアンテナ素子における送受信波の相互干渉を良好に抑制することで、安定且つ広範囲の無線LAN通信を実現可能な技術を提供する」との上記2(3)ウの課題が生じることが理解できる。 よって、壁面(設置面)から外部に露出している部分には、本件特許の「発明が解決しようとする課題」である「コンセント部によって受ける制限」が生じないとの請求人の主張は、本件特許明細書の記載と整合しておらず、失当である。 また、本件特許発明の「内挿部」の技術的意味は、上記4(3)ア(イ)のとおりであって、コンセント部の外部に露出している部分は「内挿部」から除外されると解することはできない。 (3)請求人は、特許請求の範囲の記載からすれば、形式的にはその範囲内に包含されるものであっても、その発明の作用効果を奏しないものは技術的範囲に属しないから、大きさ、形状等の制約が及ばない、「外部に露出するケーシング部位(発明の作用効果を奏しないもの)」が、本件特許の技術的範囲に属しないことが明らかである旨、主張する(弁駁書6(2)○1セ?チ(6?7頁))。 しかしながら、本件特許明細書の段落【0009】の記載から、本件特許発明は、コンセント部に対して埋設状態で設置可能(構成要件B)なことで大きさ等に制限が生じるケーシング内において、複数のアンテナ素子が、ケーシングの内壁面に沿う板状に形成される(構成要件D)、及び、内挿部の内壁面において表示面部の後方側内部空間を挟んで離間する位置に分配配置されている(構成要件E)との構成を備えているから、「夫々のアンテナ素子間の距離を十分大きくとって、当該夫々のアンテナ素子における送受信波の相互干渉を良好に抑制できる」という効果を奏するものである。 一方、イ号は、「前記ケーシングは、その一部が設置面に設けられたコンセント部に埋設状態で設置可能に構成されている」(構成b)、「前記複数のアンテナの夫々のアンテナ素子が、前記ケーシングの内壁面に沿う板状に形成されている」(構成d)及び「前記ケーシングの互いに異なる側面の内壁面において、前記文字表示面の後方側内部空間を挟んで離間する位置に分配配置されている」(構成e)との構成を備えており、上記4(1)、(2)及び(4)で検討したように、構成b、d及びeは、それぞれ構成要件B、D及びEを充足するため、イ号においても本件特許発明と同様の作用効果を奏するといえるから、請求人の上記主張は前提において失当である。 (4)請求人は、甲第11号証(特開2004-15731号公報)の図26に示されているように、蓋12aには、無線拡張部11iに取り付ける際にアンテナ外付け端子120Tと接続されるアンテナ121及び122が面に沿ってそれぞれ水平及び垂直となるように配置されており、この場合、蓋12aの面に沿って水平及び垂直に配置されたアンテナ121及び122は、壁面Wの外側に位置する、つまり、イ号の「複数のアンテナの夫々のアンテナ素子を壁面(設置面)の外部に露出しているイ号表示面部の内壁面にのみ配置する技術」、及び、「複数のアンテナの夫々のアンテナ素子が、被請求人主張の内挿部の互いに異なる内壁面において表示部の後方側空間を挟んで離間する位置に分配配置されている技術」は、いずれも甲第11号証に記載された従来公知の技術であるとした上で、そうである以上、アンテナ素子の配置に係る公知技術は特許発明の技術的範囲に属しないと解釈されるべきである旨、主張する(弁駁書6(2)○2カ?ケ(9?10頁))。 しかしながら、甲第11号証の 「蓋12aは、同軸ケーブル9を介してアンテナ外付け端子120Tと接続される線状のアンテナ121,122を、面に沿ってそれぞれ水平および垂直となるように備え(例えば内蔵し)ている。」(段落【0099】) との記載及び図26(a)によれば、線状のアンテナ121,122は、蓋12aの面に沿って互いに直交して配置されるものであるから、蓋12aの「互いに異なる内壁面において表示部の後方側空間を挟んで離間する位置に分配配置されている」ものではない。 そうすると、本件特許発明が具備するアンテナ素子に関する事項は、甲第11号証に記載された「従来公知の技術」であるとはいえないから、請求人の上記主張は前提において失当である。 (5)請求人は、甲第12号証?甲第17号証の各特許文献には、いずれも甲第11号証と同様に、複数のアンテナが距離をおいて分配配置されていることが開示されており、本件特許発明の技術的範囲に属するとされる技術「複数のアンテナの夫々のアンテナ素子が、被請求人主張の内挿部の互いに異なる内壁面において表示部の後方側空間を挟んで離間する位置に分配配置されている技術」は、従来公知の技術ということが裏付けられる旨、主張する(弁駁書6(2)○2タ?チ(11頁))。 しかしながら、甲第12号証?甲第17号証は、携帯端末等におけるアンテナ配置に関するものであり、いずれも、設置面に設けられたコンセント部に埋設状態で設置可能に構成されている、情報通信ユニットのケーシングにおけるアンテナの配置を開示するものではないから、それらによって本件特許発明の構成が「従来公知の技術」であることが裏付けられるとはいえない。 なお、甲第12号証?甲第17号証に開示されている技術事項の概要は、以下のとおりである。 ア 甲第12号証(特開2014-42123号公報) 「携帯電話機31a」の「筐体1」(段落【0047】、【0048】)内に、「給電用基板7」を介して「第1アンテナ素子部11」及び「第2アンテナ素子部12」を対向配置すること(段落【0058】、【0060】、図1)が記載されている。 イ 甲第13号証(特開2013-135258号公報) 「携帯電話機100の筐体内部」(段落【0028】、図1)に、「薄板形状」の「第1アンテナ素子111」及び「第2アンテナ素子112」を互いに対向配置すること(段落【0030】?【0031】、図2?図4)が記載されている。 ウ 甲第14号証(特開2013-126120号公報) 「アンテナ装置100」において、「結合素子131」の「パッド部分1311」を「給電素子111」の「グラウンド導体102」との「短絡部分」に対向配置し、「結合素子131」の「パッド部分1312」を「給電素子121」の「グラウンド導体102」との「短絡部分」に対向配置すること(段落【0027】、【0028】、図7、図9)が記載されている。 エ 甲第15号証(特開2013-110706号公報) 「携帯電話機100」が、「筐体の主表面の表面左上隅」に「第1アンテナ110」を備え、「主平面に対向する面」「の表面において、第1アンテナ110に対して、略直方体である筐体の中心点を中心として略点対称となる位置」に「第2アンテナ120」を備えること(段落【0014】、図1)が記載されている。 オ 甲第16号証(特開2003-209419号公報) 「ノート型パーソナルコンピュータ等の電子機器」(段落【0015】、図1)の「筐体本体1の左右両側壁」に、「アンテナ素子23,23」を実装すること(段落【0017】)が記載されている。 カ 甲第17号証(特開2002-312070号公報) 「ノートブックコンピュータ」(段落【0060】、図5)の「ディスプレーケース62」の「ディスプレイパネル67の左右側面」に「2個のアンテナ40」を内蔵すること(段落【0064】)が記載されている。 (6)小括 したがって、請求人の主張はいずれも採用できない。 6 むすび 以上のとおり、イ号、すなわちイ号説明書及び図面に示す「情報コンセント型無線LANルータ(型番:AE1041)」は、本件特許発明の技術的範囲に属する。 よって、結論のとおり判定する。 |
別掲 |
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判定日 | 2020-06-16 |
出願番号 | 特願2014-143859(P2014-143859) |
審決分類 |
P
1
2・
1-
YB
(H01Q)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 佐藤 当秀 |
特許庁審判長 |
佐藤 智康 |
特許庁審判官 |
岡本 正紀 富澤 哲生 |
登録日 | 2016-03-04 |
登録番号 | 特許第5894635号(P5894635) |
発明の名称 | 情報通信ユニット |
代理人 | 小池 眞一 |
代理人 | 吉原 崇晃 |
代理人 | 宮地 正浩 |
代理人 | 工藤 一郎 |