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審決分類 |
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01B 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01B |
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管理番号 | 1364286 |
審判番号 | 不服2019-1748 |
総通号数 | 249 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2020-09-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2019-02-07 |
確定日 | 2020-07-16 |
事件の表示 | 特願2014-247463「絶縁電線」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 6月20日出願公開、特開2016-110847〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1.手続の経緯 本願は、平成26年12月5日の出願であって、平成30年2月22日付けで拒絶理由通知がされ、同年4月18日付けで意見書と補正書が提出され、同年8月17日付けで拒絶理由通知がされ、同年10月24日付けで意見書と補正書が提出されたが、同年11月13日付けで拒絶査定がなされた。これに対し、平成31年2月7日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に手続補正がなされたものである。 第2.平成31年2月7日にされた手続補正についての補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 平成31年2月7日にされた手続補正を却下する。 [理由] 1.本件補正について(補正の内容) 平成31年2月7日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲及び明細書についてするもので、 特許請求の範囲の記載が本件補正前に、 「 【請求項1】 線状の導体と、この導体の外周面側に被覆される絶縁層とを備える絶縁電線であって、 上記絶縁層が、気孔を含む1又は複数の気孔層と、この気孔層の外周面側に積層され、気孔を含まない1又は複数の中実層とを有し、 上記気孔層の主成分が熱可塑性樹脂であり、 上記中実層の主成分が熱可塑性樹脂であり、 上記熱可塑性樹脂がポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンサルファイド又はこれらの組合せであり、 上記熱可塑性樹脂が架橋している絶縁電線。 【請求項2】 上記気孔層の気孔率が5体積%以上80体積%以下である請求項1に記載の絶縁電線。 【請求項3】 上記気孔の平均径が0.1μm以上10μm以下である請求項1又は請求項2に記載の絶縁電線。 【請求項4】 上記絶縁層の平均厚さに対する上記1又は複数の気孔層の合計平均厚さの割合が、20%以上60%以下である請求項1、請求項2又は請求項3に記載の絶縁電線。 【請求項5】 上記絶縁層の平均厚さが、30μm以上200μm以下である請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の絶縁電線。 【請求項6】 上記導体と上記気孔層との間に補助層を有する請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の絶縁電線。 【請求項7】 上記気孔が、外殻を有するマイクロカプセルから形成される請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の絶縁電線。 【請求項8】 上記気孔が、中空フィラーで形成される請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の絶縁電線。 【請求項9】 線状の導体と、この導体の外周面側に被覆され、上記導体側から順に気孔層及び中実層を有する絶縁層とを備える絶縁電線の製造方法であって、 共押出しにより、上記導体の外周面側を気孔層及び中実層で被覆する工程と、 上記押出し被覆工程後に、電離放射線を照射する工程とを備え、 上記気孔層が気孔を含み、 上記中実層が気孔を含まず、 上記気孔層の主成分が熱可塑性樹脂であり、 上記中実層の主成分が熱可塑性樹脂であり、 上記熱可塑性樹脂がポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンサルファイド又はこれらの組合せである絶縁電線の製造方法。」 とあったところを、 本件補正により、 「 【請求項1】 線状の導体と、この導体の外周面側に被覆される絶縁層とを備える絶縁電線であって、 上記絶縁層が、気孔を含む1又は複数の気孔層と、この気孔層の外周面側に積層され、気孔を含まない1又は複数の中実層とを有し、 上記気孔層の主成分が熱可塑性樹脂であり、 上記中実層の主成分が熱可塑性樹脂であり、 上記熱可塑性樹脂がポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンサルファイド又はこれらの組合せであり、 上記熱可塑性樹脂が架橋しており、 上記絶縁層の平均厚さに対する上記1又は複数の気孔層の合計平均厚さの割合が、20%以上60%以下であり、 上記絶縁層の平均厚さに対する上記1又は複数の中実層の合計平均厚さの割合が、25%以上80%以下であり、 上記絶縁層の平均厚さが、30μm以上200μm以下であり、 モーターに用いられる絶縁電線。 【請求項2】 上記気孔層の気孔率が5体積%以上80体積%以下である請求項1に記載の絶縁電線。 【請求項3】 上記気孔の平均径が0.1μm以上10μm以下である請求項1又は請求項2に記載の絶縁電線。 【請求項4】 上記導体と上記気孔層との間に補助層を有する請求項1、請求項2又は請求項3に記載の絶縁電線。 【請求項5】 上記気孔が、外殻を有するマイクロカプセルから形成される請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の絶縁電線。 【請求項6】 上記気孔が、中空フィラーで形成される請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の絶縁電線。」 とすることを含むものである。(下線部は、補正箇所である。) 2.補正の適否 本件補正は、請求項1について補正前の「熱可塑性樹脂」に関する択一的記載から「ポリエチレンテレフタラート」を削除するとともに、「絶縁層」、「気孔層」及び「中実層」の厚さについて限定を加え、さらに、「絶縁電線」についてその用途を限定するものである。また、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一である。したがって、請求項1についての本件補正は特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 また、本件補正は、請求前の請求項4、5及び9を削除するものであり、 当該補正は特許法第17条の2第5項第1号に掲げる請求項の削除を目的とするものに該当する。 そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本件補正発明」という。)が特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか否か(特許出願の際独立して特許を受けることができるものか否か)を検討する。 (1)本件補正発明 本件補正発明は、上記1.に本件補正による請求項1として記載したとおりのものである。 (2)引用文献、引用発明 原査定の拒絶の理由において引用された、国際公開2011/118717号(以下、「引用文献1」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。(下線は、当審において付加した。以下、同じ。) a.「[0002] インバータは、効率的な可変速制御装置として、多くの電気機器に取り付けられるようになってきている。しかし、数kHz?数十kHzでスイッチングが行われ、それらのパルス毎にサージ電圧が発生する。このようなインバータサージは、伝搬系内におけるインピーダンスの不連続点、例えば接続する配線の始端または終端等において反射が発生し、その結果、最大でインバータ出力電圧の2倍の電圧が印加される現象である。特に、IGBT等の高速スイッチング素子により発生する出力パルスは、電圧俊度が高く、それにより接続ケーブルが短くてもサージ電圧が高く、更にその接続ケーブルによる電圧減衰も小さく、その結果、インバータ出力電圧の2倍近い電圧が発生するのである。 [0003] インバータ関連機器、例えば高速スイッチング素子、インバータモーター、変圧器等の電気機器コイルには、マグネットワイヤとして主にエナメル線である絶縁ワイヤが用いられている。従って、前述したように、インバータ関連機器では、インバータ出力電圧の2倍近い電圧がかかることから、インバータサージに起因する部分放電劣化を最小限にすることが、絶縁ワイヤに要求されるようになってきている。 [0004] 一般に、部分放電劣化は、電気絶縁材料の部分放電で発生した荷電粒子の衝突による分子鎖切断劣化、スパッタリング劣化、局部温度上昇による熱溶融或いは熱分解劣化、または、放電で発生したオゾンによる化学的劣化等が複雑に起こる現象である。実際の部分放電で劣化した電気絶縁材料では、厚さが減少したりすることが見られる。 [0005] このような部分放電による絶縁ワイヤの劣化を防ぐため、部分放電が発生しない絶縁ワイヤ、すなわち、部分放電の発生電圧が高い絶縁ワイヤを得るには、絶縁ワイヤの絶縁層の厚さを厚くするか、絶縁層に比誘電率が低い樹脂を用いるといった方法が考えられる。 [0006] しかし、絶縁層を厚くすると絶縁ワイヤが太くなり、その結果、電気機器の大型化を招く。このことは、近年のモーターや変圧器に代表される電気機器において、小型化という要求に逆行する。例えば、具体的には、ステータースロット中に何本の電線を入れられるかにより、モーターなどの回転機の性能が決定するといっても過言ではなく、その結果、ステータースロット断面積に対する導体断面積の比率(占積率)が、近年非常に高くなってきている。従って、絶縁層の厚さを厚くすると占積率が低くなってしまうため好ましくない。 [0007] 一方、絶縁層の比誘電率に対しては、絶縁層の材料として常用的に使用される樹脂のほとんどの比誘電率が3?4の間であるように比誘電率が特別低いものがない。また、現実的には、絶縁層に求められる他の特性(耐熱性、耐溶剤性、可撓性等)を考慮した場合、必ずしも比誘電率が低いものを選択できるという訳ではない。 [0008] 絶縁層の実質的な比誘電率を小さくする手段としては、絶縁層を発泡させることが考えられ、従来から、導体と発泡絶縁層とを有する発泡電線が通信電線として広く用いられている。従来は、例えばポリエチレン等のオレフィン系樹脂やフッ素樹脂を発泡させて得られた発泡電線がよく知られ、このような発泡電線として、例えば、特許文献1、2に発泡させたポリエチレン絶縁電線が記載され、特許文献3、4に発泡させたフッ素樹脂絶縁電線が記載され、特許文献5には両者について記載され、特許文献6に、発泡させたポリオレフィン絶縁電線が記載されている。 しかし、これらのような従来の発泡電線では、発泡倍率を大きくするほど絶縁破壊電圧が低下する。」 b.「[0012] 本発明の発泡電線により、発泡倍率を大きくしても絶縁破壊電圧が優れ、発泡化による低誘電率特性により耐部分放電性にも優れる。 ・・・・中略・・・・ また、発泡していない外側スキン層を前記発泡絶縁層より外側に有するか、発泡していない内側スキン層を前記発泡絶縁層より内側に有するか、あるいは、両者を有することにより、耐摩耗性および引張強度などの機械特性を良好に保つことができるという効果を得られた。スキン層は発泡工程で生じるものでもよい。内側スキン層はガスが飽和する前に発泡させることで形成することができる。この場合、発泡絶縁層の厚さ方向に気泡数を傾斜させることもできる。また、多層押出被覆などの方法で設けてもよい。この場合、内側に発泡しにくい樹脂を被覆しておくことで、内側スキン層を形成できる。 本発明の発泡電線の製造方法により、これらの発泡電線を製造することができる。 本発明の上記及び他の特徴及び利点は、適宜添付の図面を参照して、下記の記載からより明らかになるであろう。」 c.「[0014] 以下、本発明の発泡電線の実施態様について、図面を参照して説明する。 図1(a)に断面図を示した本発明の発泡電線の一実施態様では、導体1と、導体1を被覆した発泡絶縁層2とを有し、図1(b)に断面図を示した本発明の発泡電線の別の実施態様では、導体の断面が矩形である。図2(a)に断面図を示した本発明の発泡電線のさらに別の実施態様では、発泡絶縁層2の外側に外側スキン層4を有し、図2(b)に示した本発明の発泡電線のさらに別の実施態様では、発泡絶縁層2の内側に内側スキン層3を有し、図2(c)に断面図を示した本発明の発泡電線のさらに別の実施態様では、発泡絶縁層2の外側に外側スキン層4を有し、かつ、発泡絶縁層2の内側に内側スキン層3を有する。 [0015] 導体1は、例えば、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金又はそれらの組み合わせ等で作られている。導体1の断面形状は限定されるものではなく、円形、矩形(平角)などが適用できる。 [0016] 発泡絶縁層2は、平均気泡径を5μm以下とし、好ましくは1μm以下である。5μmを超えると、絶縁破壊電圧が低下し、5μm以下とすることにより絶縁破壊電圧を良好に維持できる。さらに、1μm以下とすることにより、絶縁破壊電圧をより確実に保持できる。平均気泡径の下限に制限はないが、1nm以上であることが実際的であり、好ましい。発泡樹脂層2の厚さに制限はないが、30?200μmが実際的であり、好ましい。 また、発泡絶縁層2は、耐熱性のある熱可塑性樹脂が好ましく、例えばポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリカーボネート(PC)、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリエーテルイミド(PEI)、熱可塑性ポリイミド(PI)等を用いることができる。本明細書において「耐熱性のある」とは、結晶性熱可塑性樹脂の融点または非晶性熱可塑性樹脂のガラス転移点が150℃以上であることを意味する。ここで、融点は、示差走査熱量計(Differential Scanning Calorimetry:DSC)で測定された値をいう。また、ガラス転移点は、示差走査熱量計(DSC)で測定された値をいう。さらに、結晶性の熱可塑性樹脂がより好ましい。例えば、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)等である。 結晶性の熱可塑性樹脂を用いることで、耐溶剤性、耐薬品性に優れる発泡電線が得られる。さらに、結晶性の熱可塑性樹脂を用いることで、スキン層を薄くすることができ、得られる発泡電線の低誘電特性が良好になる。本明細書において、スキン層とは発泡しない層を意味する。 [0017] また、比誘電率が4.0以下の熱可塑性樹脂を用いることが好ましく、3.5以下であることがさらに好ましい。 理由は、得られる発泡電線において、部分放電発生電圧の向上効果を得るためには、発泡絶縁層の実効的な比誘電率は2.5以下であることが好ましく、2.0以下であることがさらに好ましく、これらの発泡絶縁層が、前記比誘電率の熱可塑性樹脂を用いることで得られやすいことにある。 比誘電率は、市販の測定器を使用して測定することができる。測定温度および測定周波数については、必要に応じて変更できるが、本明細書において特に記載のない限り、測定温度を25℃とし、測定周波数を50Hzとして測定した。 [0018] なお、使用する熱可塑性樹脂は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。 [0019] 本発明においては、特性に影響を及ぼさない範囲で、発泡絶縁層を得る原料に、結晶化核剤、結晶化促進剤、気泡化核剤、酸化防止剤、帯電防止剤、紫外線防止剤、光安定剤、蛍光増白剤、顔料、染料、相溶化剤、滑剤、強化剤、難燃剤、架橋剤、架橋助剤、可塑剤、増粘剤、減粘剤、およびエラストマーなどの各種添加剤を配合してもよい。また、得られる発泡電線に、これらの添加剤を含有する樹脂からなる層を積層してもよいし、これらの添加剤を含有する塗料をコーティングしてもよい。 [0020] また、発泡絶縁層より外側に、発泡していない外側スキン層を有するか、発泡絶縁層より内側に、発泡していない内側スキン層を有するか、あるいは両者を有することが好ましい。ただし、この場合、比誘電率を低下させる効果を妨げないように、内側スキン層の厚さと外側スキン層の厚さの合計が、内側スキン層の厚さと外側スキン層の厚さと発泡絶縁層の厚さの合計に対して20%以下が好ましく、10%以下であることがより好ましい。前記内側スキン層の厚さと外側スキン層の厚さの合計の、内側スキン層の厚さと外側スキン層の厚さと発泡絶縁層の厚さの合計に対する割合の下限値には特に制限はないが、通常、1%以上である。内側スキン層または外側スキン層を有することにより、表面の平滑性が良くなるため絶縁性が良好になる。さらに、耐摩耗性および引張強度等の機械的強度を保つことができる。 [0021] 発泡倍率は、1.2倍以上が好ましく、1.4倍以上がより好ましい。これにより、部分放電発生電圧の向上効果を得るために必要な比誘電率を実現しやすい。発泡倍率の上限に、制限はないが、通常、5.0倍以下とすることが好ましい。 発泡倍率は、発泡のために被覆した樹脂の密度(ρf)および発泡前の密度(ρs)を水中置換法により測定し、(ρs/ρf)により算出する。」 d.「[0041][実施例9] 直径1mmの銅線の外側に、PPS樹脂からなる押出被覆層を厚さ30μmで形成し、圧力容器に入れ、炭酸ガス雰囲気で、-32℃、1.2MPa、24時間、加圧することにより、炭酸ガスを飽和するまで浸透させた。次に、圧力容器から取り出し、200℃に設定した熱風循環式発泡炉に1分間、投入することにより発泡させ、図2(c)に断面図が示された実施例9の発泡電線を得た。なお、用いたPPS樹脂には適度のエラストマー成分や添加剤が含まれている。得られた実施例9の発泡電線について、後述する方法により測定を行った。結果を表2に示す。」 e.「[0060] [表2] 」 f.「[0065] 本発明は、自動車をはじめ、各種電気・電子機器等、耐電圧性や耐熱性を必要とする分野に利用可能である。」 g.「[図2] 」 ・上記cの段落[0014]及び図2(c)(上記g)には、導体1と、導体1の外側に内側スキン層3と、発泡絶縁層2と、外側スキン層4とをこの順序で有する発泡電線が記載されている。 ・上記cの段落[0016]には、発泡絶縁層2は結晶性の熱可塑性樹脂であるポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)を用いることで耐溶剤性、耐薬品性に優れること、さらに、その厚さが、30?200μmであること、さらに、段落[0018]には、使用する熱可塑性樹脂は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよいことが記載されている。 してみると、引用文献1には、発泡絶縁層2は、結晶性の熱可塑性樹脂であるポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)を1種を単独で、又は、2種以上を混合して用いることで耐溶剤性、耐薬品性に優れ、さらに、発泡絶縁層2の厚さが30?200μmであることが記載されているといえる。 ・上記cの段落[0019]には、発泡絶縁層を得る原料に、添加剤として架橋剤、架橋助剤を配合することが記載されている。 ・上記cの段落[0016]には、スキン層は発泡しない層であること、また、段落[0020]には、内側スキン層または外側スキン層を有することにより、表面の平滑性が良くなるため絶縁性が良好になり、さらに、耐摩耗性および引張強度等の機械的強度を保つことができることが記載されている。 ・上記fには、発泡電線は、自動車をはじめ、各種電気・電子機器等、耐電圧性や耐熱性を必要とする分野に利用可能であること、また、上記aの段落[0002]、[0003]には、耐電圧性を必要とする電子機器としてインバータモーターが記載されている。 してみると、引用文献1には、モーターに用いられる発泡電線が記載されているといえる。 したがって、上記引用文献1の記載及び図面を考慮すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が開示されていると認められる。 「導体1と、導体1の外側に内側スキン層3と、発泡絶縁層2と、外側スキン層4とをこの順序で有する発泡電線において、 発泡絶縁層2は、結晶性の熱可塑性樹脂であるポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)を1種を単独で、又は、2種以上を混合して用いることで耐溶剤性、耐薬品性に優れ、さらに、発泡絶縁層2の厚さが30?200μmであり、また、発泡絶縁層2を得る原料に、添加剤として架橋剤、架橋助剤を配合しているものであって、 スキン層4は発泡しない層であって、また、内側スキン層または外側スキン層を有することにより、表面の平滑性が良くなるため絶縁性が良好になり、さらに、耐摩耗性および引張強度等の機械的強度を保つことができる、 モーターに用いられる発泡電線。」 (3)対比 本件補正発明と引用発明とを対比する。 a.引用発明の「導体1」は、電線の導体であって線状であることは明らかであるから、本件補正発明の「線状の導体」に相当する。 また、引用発明の「内側スキン層3」、「発泡絶縁層2」及び「外側スキン層4」は「導体1」の外側にあり外周面側を被覆しているといえ、また、「内側スキン層3」及び「外側スキン層4」は絶縁性を良好にするものである。してみると、引用発明の「内側スキン層2」、「発泡絶縁層2」及び「外側スキン層4」を合わせた層は、本件補正発明の「導体の外周面側に被覆される絶縁層」に相当する。 そうすると、引用発明の「発泡電線」は、「線状の導体」と「導体の外周面側に被覆される絶縁層」とを備える「絶縁電線」ということができる。 b.引用発明の「発泡絶縁層2」は、発泡した層であって気孔を含む層といえるから、本件補正発明の「気孔を含む1の気孔層」に相当する。 また、引用発明の「外側スキン層4」は、発泡絶縁層2の外側にあって、さらに、発泡しない層であり中実の層といえるから、本件補正発明の「気孔層の外周面側に積層され、気孔を含まない1の中実層」に相当する。 c.引用発明の「発泡絶縁層2」は、「結晶性の熱可塑性樹脂であるポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)を1種を単独で、又は、2種以上を混合して用いる」ものであるから、本件補正発明の「気孔層」とは「主成分が熱可塑性樹脂であり」かつ「上記熱可塑性樹脂がポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンサルファイド又はこれらの組合せであ」る点で共通する。 また、引用発明の「発泡絶縁層2」は、その原料に架橋剤を配合しているから、当該発泡絶縁層2の主成分である熱可塑性樹脂は架橋されているものと認められる。 d.引用発明の「発泡電線」と本件補正発明の「絶縁電線」は、モーターに用いられる点で共通する。 e.本件補正発明では「上記中実層の主成分が熱可塑性樹脂であり、上記熱可塑性樹脂がポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンサルファイド又はこれらの組合せであ」って、さらに「上記熱可塑性樹脂が架橋して」いるのに対して、引用発明では外側スキン層4の材質についてその旨の特定がされていない点で相違する。 f.本件補正発明では「上記絶縁層の平均厚さに対する上記1又は複数の気孔層の合計平均厚さの割合が、20%以上60%以下であり、上記絶縁層の平均厚さに対する上記1又は複数の中実層の合計平均厚さの割合が、25%以上80%以下であり、上記絶縁層の平均厚さが、30μm以上200μm以下であ」るのに対して、引用発明では、発泡絶縁層2の厚さが30?200μmであって、外側スキン層4の厚さの、内側スキン層と外側スキン層4と発泡絶縁層とを合わせた層(絶縁層)の厚さの合計に対する割合、発泡絶縁層2の絶縁層に対する割合及び絶縁層の厚さに関してその旨の特定がされていない点で相違する。 したがって、本件補正発明と引用発明とを対比すると、両者は、以下の点で一致し、また、相違している。 (一致点) 「線状の導体と、この導体の外周面側に被覆される絶縁層とを備える絶縁電線であって、 上記絶縁層が、気孔を含む1の気孔層と、この気孔層の外周面側に積層され、気孔を含まない1の中実層とを有し、 上記気孔層の主成分が熱可塑性樹脂であり、 上記熱可塑性樹脂がポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンサルファイド、又はこれらの組合せであり、 上記熱可塑性樹脂が架橋している、 モーターに用いられる絶縁電線。」 (相違点1) 本件補正発明では「上記中実層の主成分が熱可塑性樹脂であり、上記熱可塑性樹脂がポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンサルファイド又はこれらの組合せであ」って、さらに「上記熱可塑性樹脂が架橋して」いるのに対して、引用発明では外側スキン層4の材質についてその旨の特定がされていない点。 (相違点2) 本件補正発明では「上記絶縁層の平均厚さに対する上記1又は複数の気孔層の合計平均厚さの割合が、20%以上60%以下であり、上記絶縁層の平均厚さに対する上記1又は複数の中実層の合計平均厚さの割合が、25%以上80%以下であり、上記絶縁層の平均厚さが、30μm以上200μm以下であ」るのに対して、引用発明では、発泡絶縁層2の厚さが30?200μmであって、外側スキン層4の厚さの、内側スキン層と外側スキン層4と発泡絶縁層とを合わせた層(絶縁層)の厚さの合計に対する割合、発泡絶縁層2の絶縁層に対する割合及び絶縁層の厚さに関してその旨の特定がされていない点。 (4)判断 上記各相違点について検討する。 ア.相違点1について 通常、絶縁電線の外側の層には、耐溶剤性や耐薬品性が求められるものである。 そして、引用発明の発泡絶縁層に用いられるポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンサルファイドは耐溶剤性や耐薬品性に優れる結晶性の熱可塑性樹脂である。また、引用発明のスキン層に関して、引用文献1の段落[0012](上記(2)のb参照)には、発泡工程で生じてもよいこと、さらに、段落[0041](上記(2)のd参照)には、銅線にPPS樹脂(ポリフェニレンサルファイド)を被覆し発泡させることで、内側スキン層、発泡絶縁層、外側スキン層からなる層が得られることが記載されており、これらの記載からみて、外側スキン層と発泡絶縁層は同じ材料を用いて形成してもよいものである。また、引用発明の発泡絶縁層の原料は「添加剤として架橋剤、架橋助剤を配合」されるものである。そうすると、外側スキン層と発泡絶縁層を同じ材料で形成する際には、外側スキン層の材料にも添加剤として架橋剤、架橋助剤が配合され、外側スキン層の熱可塑性樹脂も架橋されるものと認められる。 してみると、引用発明における外側スキン層として、発泡絶縁層と同じ材料を用いることで上記相違点1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。 イ.相違点2について 引用発明の発泡絶縁層は、上記(2)のbの段落[0005]?[0008]等の記載によれば、発泡によって比誘電率(誘電率)を低下させ放電電圧を高くするために設けられた層である。 また、引用発明のスキン層は、上記(2)のb、及びcの段落[0020]等の記載によれば、耐摩耗性および引張強度等の機械的強度を保つための層である。 ここで、一般的に、発泡電線(絶縁電線)が用いられるモーターは様々な用途や環境で用いられるものであるから、発泡電線(絶縁電線)に必要とされる放電電圧及び機械強度は、いずれも広い範囲のものとなる。 そして、引用発明の発泡絶縁層(気孔層)及び外側スキン層(中実層)の厚さは、必要とされる放電電圧及び機械強度を得ることができるように適宜選択し得るものであるから、必要とされる放電電圧及び機械強度が広い範囲であることに伴って、選択される発泡絶縁層(気孔層)及び外側スキン層(中実層)の厚さや、それらを合わせた絶縁層全体の厚さに対するそれぞれの割合も広い範囲となり得るものである。(必要であれば、それらの厚さや割合の例として、発泡絶縁層及び外側スキン層(外側絶縁層)の実際的な厚さがそれぞれ10?200μm及び20?150μm、機械強度及び放電電圧を両立できる、発泡絶縁層及び外側スキン層との厚さの比(発泡絶縁層/外側スキン層)が5/95?95/5という広い範囲であることが記載されている国際公開2014/103665号(段落[0030][0048]等参照)を参照されたい。) 一方、本件補正発明の気孔層及び中実層の厚さの絶縁層の厚さに対する割合の下限値及び上限値に関しては、本願の発明の詳細な説明には、段落【0039】及び【0048】に誘電率を十分に低下でき、機械的強度を維持できる値であることは記載されているが、いずれも「好ましい」数値であるとしか記載されておらず数値の臨界的意義を裏付ける具体的な実施例の記載はされていない。 また、本件補正発明の絶縁層の厚さの下限値及び上限値に関しては、段落【0031】に絶縁が不十分とならなく、絶縁電線の体積効率が低くならないようにできる値であることは記載されているが、数値の臨界的意義を裏付ける具体的な実施例の記載はされていない。 してみると、引用発明において、モーターの用途や使用環境に応じて必要とされる放電電圧及び機械強度を得るために、発泡絶縁層(気孔層)及びスキン層(中実層)を合わせた絶縁層の平均厚さ、絶縁層の平均厚さに対する発泡絶縁層の平均厚さの割合、及び、絶縁層の平均厚さに対する外側スキン層の平均厚さの割合が、本件補正発明と同様の数値範囲内の値となるような、発泡絶縁層(気孔層)及び外側スキン層(中実層)の厚さを選択することは、当業者が適宜なし得ることであって、格別の技術的困難性を伴うことではない。 この点に関して、審判請求人は審判請求書において、 「(4)本願発明の進歩性について ・・・中略・・・ 特に、本願発明は、発明が解決しようとする課題に記載されているように、機械的強度及び可撓性の維持と低誘電率化とを両立できる絶縁電線を提供することを目的としているものです。このことは、本願発明が、気孔層の平均厚さを本願の特定範囲とすること(構成要件D)により、低誘電率化と機械的強度の維持を実現していることについて記載されていることからも明らかであると考えます。一方、引用文献1には、比誘電率を低下させることを目的として、内側スキン層の厚さと外側スキン層の厚さの合計が、絶縁層の厚さ(内側スキン層の厚さと外側スキン層の厚さと発泡絶縁層の厚さの合計)に対して20%以下が好ましいと記載されています。すなわち、引用文献1には、少なくとも機械的強度の維持を目的とすることについて記載されておらず、本願の課題を解決できるような絶縁電線とは異なると考えます。」と主張している。 しかしながら、上記で検討したように引用発明は機械的強度の維持も目的とするものである。(上記(2)のb、及びcの段落[0020]等参照。)。また、その際に比誘電率を低下させる効果を妨げないように20%以下が好ましいとするものであるが、20%以上とすることを排除するものではない。したがって、上記主張は採用できない。 そして、本件補正発明の作用効果も、引用発明に基づいて当業者が予測できる範囲のものである。 したがって、本件補正発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 (5)結語 以上検討したとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3.本願発明について 1.本願発明 平成31年2月7日付けの手続補正(本件補正)は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし9に係る発明は、平成30年10月24日に補正された特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は上記「第2 1.」に本件補正前の請求項1として記載したとおりのものである。 2.原査定の拒絶の理由 原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1ないし9に係る発明は、引用文献1(国際公開第2011/118717号)に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、という理由を含むものである。 3.引用文献、引用発明 原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1及びその記載事項並びに引用発明は、上記第2の2.(2)引用文献、引用発明で説示したとおりである。 4.対比・判断 本願発明は、上記第2の2.で検討した本件補正発明の発明特定事項である「絶縁層」、「気孔層」、及び「中実層」の厚さについての限定と、「絶縁電線」の用途についての限定を省き、さらに、「熱可塑性樹脂」に関する択一的記載に「ポリエチレンテレフタラート」を加えたものである。 そうすると、本願発明と引用発明は、以下の点で相違し、その余の点で一致する。 (相違点3) 本願発明では、「上記中実層の主成分が熱可塑性樹脂であり、上記熱可塑性樹脂がポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンサルファイド又はこれらの組合せであ」って、さらに「上記熱可塑性樹脂が架橋して」いるのに対して、引用発明では外側スキン層4の材質についてその旨の特定がされていない点。 しかしながら、上記相違点3は、上記第2の2.(3)における相違点1の「熱可塑性樹脂」に関する択一的記載の選択肢が増えただけのものであるから、上記第2の2.(4)で相違点1について説示したのと同様の理由で当業者が容易になし得たことである。 したがって、本願発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものである。 5.むすび 以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2020-04-28 |
結審通知日 | 2020-05-12 |
審決日 | 2020-05-29 |
出願番号 | 特願2014-247463(P2014-247463) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(H01B)
P 1 8・ 575- Z (H01B) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 和田 財太 |
特許庁審判長 |
國分 直樹 |
特許庁審判官 |
山澤 宏 山田 正文 |
発明の名称 | 絶縁電線 |
代理人 | 天野 一規 |
代理人 | 天野 一規 |