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審決分類 |
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B32B 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B32B |
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管理番号 | 1364291 |
審判番号 | 不服2019-5338 |
総通号数 | 249 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2020-09-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2019-04-22 |
確定日 | 2020-07-16 |
事件の表示 | 特願2014-196998「加飾シート及び加飾樹脂成形品」拒絶査定不服審判事件〔平成27年11月5日出願公開、特開2015-193210〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成26年9月26日(優先権主張 平成25年9月27日、平成26年3月24日)の出願であって、その手続の経緯は次のとおりである。 平成30年 6月29日付け:拒絶理由通知書 平成30年11月 5日 :意見書、手続補正書の提出 平成31年 1月16日付け:拒絶査定 平成31年 4月22日 :審判請求書の提出 令和 1年11月 8日付け:拒絶理由通知書 令和 2年 1月 8日 :意見書、手続補正書(以下、この手続補正書による手続補正を「本件補正」という。)の提出 第2 本願発明 本願の特許請求の範囲の請求項1?11のそれぞれに係る発明は、本件補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1?11にそれぞれ記載されたとおりのものであるところ、そのうち、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりである。 「【請求項1】 少なくとも、基材層と、電離放射線硬化性樹脂組成物により形成された表面保護層とが積層されており、 前記基材層と前記表面保護層との間に、前記表面保護層に接するようにプライマー層が設けられており、 前記電離放射線硬化性樹脂組成物が、ポリカーボネート(メタ)アクリレートを含み、 前記表面保護層が、ブロックイソシアネートを含み、 前記プライマー層は架橋剤を含まない、加飾シート。」 第3 当審における拒絶の理由の概要 令和1年11月8日付けで当審が通知した拒絶理由のうち、理由2の概要は、次のとおりのものである。 本願の請求項1?11に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 引用文献1:特開2012-218277号公報 引用文献2:特開2009-184284号公報 第4 引用文献の記載及び引用発明 引用文献1には、図面と共に、次の事項が記載されている。なお、下線は理解の便宜のために当審で付した。 「本発明は、このような状況下で、耐傷付き性、三次元成形性及び耐薬品性を鼎立し得る表面保護層を有する加飾シートを提供することを課題とする。」(段落0007) 「本発明の加飾シートは、その表面保護層が優れた耐傷付き性及び耐薬品性と良好な三次元成形性とを同時に満足するので、インサート成形法及び射出成形同時加飾法のいずれにおいても、表面保護層が傷つきにくく、薬品による白化や膨潤がなく、且つ三次元成形し易いため、これを用いて良好な加飾樹脂成形品を得ることができる。」(段落0010) 「本発明の加飾シートは、基材上に少なくとも表面保護層を有する加飾シートであって、表面保護層が、少なくともポリカーボネート(メタ)アクリレートと単官能(メタ)アクリレートとを含有し、該ポリカーボネート(メタ)アクリレートと該単官能(メタ)アクリレートの質量比がポリカーボネート(メタ)アクリレート:単官能(メタ)アクリレート=99:1?10:90である電離放射線硬化性樹脂組成物の硬化物からなることを特徴とする。 ここで、電離放射線硬化性樹脂組成物とは、電離放射線硬化性樹脂を含有する組成物をいう。電離放射線硬化性樹脂とは、電磁波又は荷電粒子線の中で分子を架橋、重合させ得るエネルギー量子を有するもの、すなわち、紫外線又は電子線などを照射することにより、架橋、硬化する樹脂を指す。 本発明においては、電離放射線硬化性樹脂として、少なくともポリカーボネート(メタ)アクリレートと単官能(メタ)アクリレートとが用いられる。単官能(メタ)アクリレートは粘度が低く、希釈効果が高いため、配合するとコーティング適正が向上する。一方で、過剰に配合すると十分な高度が得られない。具体的には、ポリカーボネート(メタ)アクリレートと単官能(メタ)アクリレートの質量比が99:1より大きくなると(即ち、ポリカーボネート(メタ)アクリレートの量が99質量%を超えると)、耐傷付き性が低下する。一方、ポリカーボネート(メタ)アクリレートと単官能(メタ)アクリレートの質量比が10:90より小さくなると(即ち、ポリカーボネート(メタ)アクリレートの量が10質量%未満となると)、耐傷付き性や耐薬品性が低下してしまう。好ましくは、ポリカーボネート(メタ)アクリレートと単官能(メタ)アクリレートの質量比は95:5?50:50である。 本発明において、「(メタ)アクリレート」とは「アクリレート又はメタクリレート」を意味し、他の類似するものも同様の意である。」(段落0012) 「また本発明における表面保護層を構成する電離放射線硬化性樹脂組成物には、得られる硬化樹脂層の所望物性に応じて、各種添加剤を配合することができる。この添加剤としては、例えば耐候性改善剤、耐摩耗性向上剤、重合禁止剤、架橋剤、赤外線吸収剤、帯電防止剤、接着性向上剤、レベリング剤、チクソ性付与剤、カップリング剤、可塑剤、消泡剤、充填剤、溶剤、着色剤などが挙げられる。・・・」(段落0031) 「・・・架橋剤としては、例えばポリイソシアネート化合物、エポキシ化合物、金属キレート化合物、アジリジン化合物、オキサゾリン化合物などが用いられる。・・・」(段落0032) 「次に、本発明の加飾シートの構成について図1を用いて詳細に説明する。 図1はインサート成形に用いる場合の本発明の加飾シート10の一態様の断面を示す模式図である。図1に示す例では、基材11上に絵柄層12、プライマー層13及び表面保護層14が順次積層されている。ここで、表面保護層14は上述の電離放射線硬化性樹脂組成物を架橋硬化して形成されるものである。」(段落0033) 「基材11としては、真空成形適性を考慮して選定され、代表的には熱可塑性樹脂からなる樹脂シートが使用される。該熱可塑性樹脂としては、一般的には、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン樹脂(以下「ABS樹脂」という)、アクリル樹脂、ポリプロピレン,ポリエチレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリカーボネート樹脂、塩化ビニル樹脂などが使用される。また、基材11は、これら樹脂の単層シート、あるいは同種又は異種樹脂による複層シートとして使用することができる。・・・」(段落0034) 「本発明の加飾シート10は、表面保護層14の延伸部に微細な割れや白化を生じにくくするため、所望により、絵柄層12と表面保護層14との間にプライマー層13を設けることができる。プライマー層13を構成するプライマー組成物は、(メタ)アクリル樹脂、ウレタン樹脂、(メタ)アクリル・ウレタン共重合体樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、ポリエステル樹脂、ブチラール樹脂、塩素化ポリプロピレン、塩素化ポリエチレンなどが用いられる。 これらの樹脂の中では、ウレタン樹脂、(メタ)アクリル樹脂、及び(メタ)アクリル/ウレタン共重合体樹脂が好ましい。また、絵柄層12、表面保護層14との密着性の観点から、プライマー層13の形成においては架橋剤を用いることが好ましい。すなわち、本発明におけるプライマー層13としては、架橋剤又は硬化剤としてのイソシアネートと、ポリオールとを混合する2液硬化タイプの材料により構成されることが好ましい。」(段落0039) 前記段落0039の記載及び図1の図示から、基材と表面保護層との間に、表面保護層に接するようにプライマー層が設けられていることがわかる。 したがって、以上の引用文献1の記載、図1の図示、及び、認定事項を総合すると、引用文献1には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。 「基材上に、少なくとも電離放射線硬化性樹脂組成物の硬化物からなる表面保護層が積層されており、基材と表面保護層との間に、表面保護層に接するようにプライマー層が設けられ、電離放射線硬化性樹脂組成物が、少なくともポリカーボネート(メタ)アクリレートと単官能(メタ)アクリレートとを含有し、架橋剤としてポリイソシアネート化合物を配合することができる加飾シート。」 第5 対比 本願発明と引用発明とを対比する。 上記段落0034の記載から、引用発明の「基材」は単層シートもしくは複層シートとして使用できるから、本願発明の「基材層」に相当し、以下同様に、「電離放射線硬化性樹脂組成物の硬化物からなる」ことは、「電離放射線硬化性樹脂組成物により形成された」ことに、「表面保護層」は「表面保護層」に、「プライマー層」は「プライマー層」に、「電離放射線硬化性樹脂組成物が、少なくともポリカーボネート(メタ)アクリレートと単官能(メタ)アクリレートとを含有」することは、「電離放射線硬化性樹脂組成物が、ポリカーボネート(メタ)アクリレートを含」むことに、「加飾シート」は、「加飾シート」に相当する。 また、引用発明の「電離放射線硬化性樹脂組成物が、」「架橋剤としてポリイソシアネート化合物を配合することができる」ことは、「表面保護層が、イソシアネートを含む」限りにおいて、本願発明の「表面保護層が、ブロックイソシアネートを含む」ことに一致する。 したがって、本願発明と引用発明とは、次の点で一致し、かつ、相違する。 [一致点] 「少なくとも、基材層と、電離放射線硬化性樹脂組成物により形成された表面保護層とが積層されており、前記基材層と前記表面保護層との間に、前記表面保護層に接するようにプライマー層が設けられており、前記電離放射線硬化性樹脂組成物が、ポリカーボネート(メタ)アクリレートを含み、前記表面保護層が、イソシアネートを含む、加飾シート。」 [相違点1] 「表面保護層」が含むイソシアネートについて、本願発明は、「ブロックイソシアネート」であるのに対し、引用発明の「イソシアネート」がブロックイソシアネートであるか不明である点。 [相違点2] 「プライマー層」について、本願発明は、「架橋剤を含まない」のに対し、引用発明は、そのような特定がなされていない点。 第6 判断 1 [相違点1]について 本願発明の「ブロックイソシアネート」について、本願明細書の段落0043には、「・・・ブロックイソシアネートとは、イソシアネート化合物のイソシアネート基をブロック剤により保護したもの」であるとの記載がある。 また、架橋剤としてイソシアネート化合物を使用する場合に、イソシアネート基をブロック剤により保護することは、成形性を向上しようとして採用する本願出願前に当業者に周知の技術である(以下「周知技術」という。周知例:引用文献2の段落0023)。 そして、引用文献1の段落0007及び0010に記載されているように、引用発明は、「耐傷付き性、三次元成形性及び耐薬品性を鼎立し得る表面保護層を有する加飾シートを提供することを課題」とするものであるから、引用発明において、三次元成型性を考慮し、成型性の向上に寄与する前記周知技術を適用することは、当業者が容易に想到し得たことである。 また、架橋により樹脂の機械的強度や対薬品性が向上することは当業者の技術常識であるから、引用発明に「架橋剤としてポリイソシアネート化合物を配合する」ことで、表面保護層の機械的強度や対薬品性が向上するという効果は、前記当業者の上記技術常識に基いて、当業者が予測可能な範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。 2 [相違点2]について 「プライマー層」について、引用文献1には「また、絵柄層12、表面保護層14との密着性の観点から、プライマー層13の形成においては架橋剤を用いることが好ましい。すなわち、本発明におけるプライマー層13としては、架橋剤又は硬化剤としてのイソシアネートと、ポリオールとを混合する2液硬化タイプの材料により構成されることが好ましい。」(段落0039)と記載されており、「架橋剤を用いることが好ましい」場合とは、「プライマー層」と「表面保護層」との「密着性の観点から」であるから、「プライマー層」と「表面保護層」とのさらなる密着性が不要であるのであれば、「架橋剤を用いる」必要はないものと解される。 そこで検討する。本願優先日前に、ポリイソシアネート化合物、ブロック化ポリイソシアネート化合物等の架橋剤が含まれている層から、この層に接する架橋剤を含まない層へ架橋剤が浸透し、架橋剤を含まない層の樹脂を架橋させることができることは技術常識(以下、単に「技術常識」という。例:国際公開2013/125705号(2013年8月29日国際公開)段落0031)であるから、当該技術常識を踏まえれば、「プライマー層」に接している「表面保護層」にイソシアネート化合物である架橋剤を含んでいる引用発明では、「プライマー層」が架橋剤を含まないものであっても、「プライマー層」と「表面保護層」との密着性がすでに確保されているといえるから、さらなる「架橋剤を用いる」態様としなくても良いといえる。 したがって、引用発明の「プライマー層」を「架橋剤を含まない」ものとすることは、当業者が適宜になし得たことである。 そして、これらの相違点を総合的に勘案しても、本件発明の奏する作用効果は、引用発明及び周知技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。 第7 むすび 上記のとおり、本願発明は、本願出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用発明、周知技術及び技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2020-05-07 |
結審通知日 | 2020-05-13 |
審決日 | 2020-05-29 |
出願番号 | 特願2014-196998(P2014-196998) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(B32B)
P 1 8・ 537- WZ (B32B) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 鈴木 祐里絵、團野 克也、岩田 行剛 |
特許庁審判長 |
久保 克彦 |
特許庁審判官 |
杉山 悟史 石井 孝明 |
発明の名称 | 加飾シート及び加飾樹脂成形品 |
代理人 | 水谷 馨也 |
代理人 | 田中 順也 |