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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61B
管理番号 1364300
審判番号 不服2019-9683  
総通号数 249 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-09-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-07-22 
確定日 2020-07-16 
事件の表示 特願2016-531180「測定装置」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 1月 7日国際公開、WO2016/002363〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2015年(平成27年)5月15日(優先権主張 平成26年7月3日)を国際出願日とする出願であって、平成31年4月4日付けで拒絶理由が通知され、令和元年5月14日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年6月14日付けで拒絶査定されたところ、同年7月22日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

第2 本願発明
本願の請求項に係る1ないし4に係る発明は、令和元年5月14日になされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。

「筐体と、
前記筐体の一部に設けられた開口と、
前記開口内に位置し、第1波長の光を透過させ、測定部位に押し当てられる透光部材と、
前記筐体の内部に配置され、第1波長を含む光を、前記透光部材に、当該透光部材の外面に対して斜めに放射する発光手段と、
前記筐体の内部に配置され、前記透光部材に向いており、前記測定部位により散乱された前記第1波長の光を検出する光検出手段と、
前記筐体の内部に配置され、前記発光手段と前記光検出手段の間に位置し、一部が前記筐体に接している仕切部材と、
を備える測定装置。」

第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、令和元年5月14日になされた手続補正により補正された特許請求の範囲における請求項1ないし4に係る発明は、本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明、及び、引用文献2に記載された周知技術に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1:特開2008-154873号公報
引用文献2:国際公開第2014/054488号

第4 引用文献の記載事項及び引用発明
1 引用文献1の記載事項
(1)原査定の拒絶の理由で引用された上記引用文献1は、本願の優先日前に頒布された文献であり、図面とともに、次の記載がある。なお、下線は当審で付与したものである。

(引1?ア)
「【0037】
図3は、光学測定装置(血糖値測定装置)100の第1の押圧部3および第2の押圧部30を示す概略図であり、図3(A)が被測定部位と接する当接面3a,30aを示す平面図、図3(B)が図3(A)のb-b線断面図である。
【0038】
図3(A)の如く、第1の押圧部3は、その被測定部位との当接面3aが例えば平面視略円環状であり、その内側に平面視略円状の第2の押圧部30が配置される。図3(A)(B)の如く、略中空円筒状をした第1の押圧部3の内側に、略円板状をした第2の押圧部30が移動可能に位置する。また、第1の押圧部3と第2の押圧部30とは、例えばスペーサ31等により所定の距離(例えば1mm?1cm程度)で離間される。
【0039】
図3(B)の如く、第1の押圧部3は、光学測定装置100を構成する外部筐体8の上部8bの一主面8a側に固定され、第2の押圧部30は、同一主面8aに弾性体32により接続される。弾性体32は例えばコイル状バネであり、これにより第2の押圧部30は、第1の押圧部3に対して昇降可能に設けられる。コイル状バネ32は、円形の第2押圧部30に例えば4箇所設けられる。弾性体32として「圧縮コイルばね」が用いられた。また、弾性体として、例えば、板ばね、低反発クッション等が用いられてもよい。
【0040】
第1の押圧部3と、第2の押圧部30とは、コイル状バネ32の非収縮時、すなわち非測定時には、被測定部位との当接面3a,30aが異なる高さに位置する。詳しく説明すると、弾性体32が自然状態のときに、第2の押圧部30の当接面30aは、第1の押圧部3の当接面3aと一致した面上に位置することなく、第2の押圧部30の当接面30aは、第1の押圧部3の当接面3aよりも第1の押圧部3の外側に位置する。尚、図3(B)では第2の押圧部30が第1の押圧部3より突出された場合を示したが、第1の押圧部3が第2の押圧部30より突出されていてもよい。
【0041】
第2の押圧部30には光学測定ユニット1の発光部11および受光部12が収納される。以下光学測定ユニット1について説明する。
【0042】
図3(A)の如く、第2の押圧部30は、その被測定部位との当接面30aが例えば平面視略円形であり、発光部11側および受光部12側が遮蔽板17により分離されている。中央付近の黒丸は、それぞれ出射光および拡散反射光のスポット径を示している。受光部12では反射光22をできる限り多く集光することが望ましいので、そのスポット径は、発光部11に比べて大きく設定される。
【0043】
図3(B)の如く、光学測定ユニット1は、発光部11と受光部12とを有する。発光部11は、発光素子LDと各レンズ11a、11a’とを有する。発光素子LDは、例えば、被測定部位25に対して近赤外レーザ光を出力する半導体レーザダイオード(laser diode)である。発光素子LDは、測定方法に応じて1つまたは複数設けられ、それぞれ単一波長のレーザ光21を出力する。
【0044】
レーザ光21は、レンズ開口数NAの第1集光レンズ11aで集光され、小さいスポットで被測定部位25に照射される。なお、図3(B)に示す光学測定ユニット1には、第1集光レンズ11aに加えて他の集光レンズ11a’を設けた2枚のレンズ11a、11a’を備える発光部11が構成されているが、レンズ11a、11a’の数は、この数に限られない。
【0045】
受光部12は、第2集光レンズ12aおよび光検出素子(photo detector)PDを有し、被測定部位25で反射したレーザ光21の拡散反射光22をそれぞれ検出する。光検出素子PDは、例えばフォトダイオード等である。
【0046】
反射光22もレンズ開口数NA’の第2集光レンズ12aにより集光され、受光部12で検知される。
【0047】
発光部11および受光部12は、遮光板17を介して隣接して配置される。遮光板17は、少なくとも第2の押圧部30の外周と略同一の高さに設けられる。被測定部位25に第2の押圧部30を当接させ、被測定部位25にレーザ光21を照射させた場合、レーザ光21の一部は表皮251で反射する。このような直接反射光が受光部12に到達することを防止するため、遮光板17を設ける。遮光板17により、発光部11および受光部12がそれぞれ分離された空間に配置される。」

(引1?イ)
「【0076】
図4(B)の如く、血糖値の測定時にはまず、光学測定装置100を被測定部位25に向けて押下させる。本実施形態では、例えば第2の押圧部30が第1の押圧部3より突出しているため、第2の押圧部30が最初に被測定部位25に当接する。被測定部位25が生体の皮膚の場合、弾力性および可撓性を有するため、第2の押圧部30を当接させる圧力に応じて、第2の押圧部30と接触する被測定部位25は例えば緊張状態となる。
【0077】
次に、図4(C)の如く、更に光学測定装置100を押下させ、第1の押圧部3を被測定部位に当接させる。先に接触している第2の押圧部30により被測定部位25の表面25aはある程度の緊張状態となっている。この状態でさらに第1の押圧部3が被測定部位25に当接(又は更に押下)することにより、第2の押圧部30は、例えば縦長の外部筐体8の長手方向に略沿った方向で外部筐体8に向けて加圧され、これに伴ってコイル状バネ32が収縮する。
【0078】
従って、被測定部位25の表面25aは、ある程度緊張した状態で更にコイル状バネ32の反発力により加圧される。第2の押圧部30は、被測定部位25の表面25aを、第2の押圧部30の当接面30aと略水平に緊張保持(緊張維持)させることができ、この状態で、レーザ光21の照射および反射光22の受光を行うことができる。
【0079】
光学測定ユニット1は、ある水平な基準面に対して正常な測定が可能なように発光部11および受光部12の位置や角度等が設定されている。本実施形態によれば、被測定部位25の表面25aが、第2の押圧部30の当接面30aと略水平に緊張保持(緊張維持)され、その水平な基準面にほぼ近づけることができる。また加圧によって、被測定部位25の表面25aをほぼ平坦面にすることができる。
【0080】
これにより、発光部11および受光部12を通るレーザ光21は、当初想定した経路を通るので、例えば圧力センサなどにより照射ビーム角度をその都度補正するなどの構成としなくても、測定誤差を低減できる。従って、低コストで小型化された光学測定装置100を実現できる。」

(引1?ウ)【図3】




(2)上記記載から、引用文献1には、次の技術的事項が記載されているものと認められる。

ア 上記(引1?ア)の
「【0037】
図3は、光学測定装置(血糖値測定装置)100の第1の押圧部3および第2の押圧部30を示す概略図であり、」との記載から、引用文献1には「第1の押圧部3および第2の押圧部30を備える光学測定装置100」が記載されていると認められる。

イ (引1?ウ)の図3から、第2の押圧部30の上部には「開口」があることが見て取れる。そして、上記(引1?ア)の
「【0041】
第2の押圧部30には光学測定ユニット1の発光部11および受光部12が収納される。」との記載、及び、上記(引1?ウ)の図3から
「光学測定ユニット1の発光部11および受光部12が収納され、上部に開口がある第2の押圧部30」が記載されているといえる。

ウ 上記(引1?ア)の
「【0041】
第2の押圧部30には光学測定ユニット1の発光部11および受光部12が収納される。・・・
【0043】
図3(B)の如く、光学測定ユニット1は、発光部11と受光部12とを有する。発光部11は、発光素子LDと各レンズ11a、11a’とを有する。発光素子LDは、例えば、被測定部位25に対して近赤外レーザ光を出力する半導体レーザダイオード(laser diode)である。発光素子LDは、測定方法に応じて1つまたは複数設けられ、それぞれ単一波長のレーザ光21を出力する。」
との記載、及び、上記(引1?ウ)の図3からして、「第2の押圧部30に収納され、単一波長のレーザ光21を照射する発光部11」が読み取れる。
さらに、上記(引1?ウ)の図3から、発光部11から照射される単一波長のレーザ光21は、第2の押圧部30の開口に対して斜めに照射されることが見て取れる。

エ 上記(引1?ア)の
「【0041】
第2の押圧部30には光学測定ユニット1の発光部11および受光部12が収納される。・・・
【0045】
受光部12は、第2集光レンズ12aおよび光検出素子(photo detector)PDを有し、被測定部位25で反射したレーザ光21の拡散反射光22をそれぞれ検出する。」
との記載、及び、上記(引1?ウ)の図3からして、「第2の押圧部30に収納され、被測定部位25で反射したレーザ光21の拡散反射光22を検出する受光部12」が読み取れる。
さらに、上記(引1?ウ)の図3から、受光部12の検出面は、第2の押圧部30の開口の方向を向いていることが見て取れる。

オ 上記(引1?ア)の
「【0047】
発光部11および受光部12は、遮光板17を介して隣接して配置される。遮光板17は、少なくとも第2の押圧部30の外周と略同一の高さに設けられる。被測定部位25に第2の押圧部30を当接させ、被測定部位25にレーザ光21を照射させた場合、レーザ光21の一部は表皮251で反射する。このような直接反射光が受光部12に到達することを防止するため、遮光板17を設ける。遮光板17により、発光部11および受光部12がそれぞれ分離された空間に配置される。」
との記載、及び、上記(引1?ウ)の図3からして、「発光部11及び受光部12に隣接して配置される遮光板17」が読み取れる。
また、上記記載から、上記遮光板17は、第2の押圧部30の内部に配置され、発光部11と受光部12の間に位置し、遮光板17の一部(第3図(B)の遮光板17の下端)が第2の押圧部30の下部と接していることが見て取れる。

以上をふまえると、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「第1の押圧部3と第2の押圧部30を備える光学測定装置であって、
発光部11および受光部12が収納される第2の押圧部30と、
第2の押圧部30の上部に設けられた開口と、
第2の押圧部30に収納され、単一波長のレーザ光21を、第2の押圧部30の開口に対して斜めに照射する発光部11と、
第2の押圧部30に収納され、第2の押圧部30の開口の方向を向いており、被測定部位25で反射したレーザ光21の拡散反射光22を検出する受光部12と、
第2の押圧部30の内部に配置され、発光部11と受光部12の間に位置し、一部が第2の押圧部30の下部と接している遮光板17と、
を備える、
光学測定装置100。」

2 引用文献2の記載事項
(1)原査定の拒絶の理由で引用された引用文献2は、本願の優先日前に頒布された文献であり、図面とともに、次の記載がある。なお、下線は当審で付与したものである。

(引2?ア)
「[0013]
図1は実施例1に係る血糖値センサ10の全体構成を示している。血糖値センサ10は、分光測定部16と該分光測定部16の動作を制御する制御部40とを備えている。
[0014]
分光測定部16は、光源161、対物レンズ162、位相シフタ163、結像レンズ164、検出部165、減光装置166から構成されている。」

(引2?イ)
「[0032]
図5は実施例3に係る血糖値センサ110の全体構成を示している。この血糖値センサ110は、矩形箱状のケーシング112内に分光測定部16を収容してなる。ケーシング112の外周側面の一つ、例えば上面には矩形板状の窓部114が固定されている。
[0033]
ケーシング112は、例えばプラスチックや金属などの、光を透過しない材料から作製されている。窓部114は、光透過性を有する材料、例えばガラスやプラスチックから作製されており、その上面に指先Fが載置されるようになっている。そして、光源161は、その出射光が窓部114の光照射面に照射されたときに正反射光L0が対物レンズ162に入射しないような向きに配置されている。
[0034]
本実施例では、窓部114の上面に指先Fを強く押し当て、指先Fと窓部114を密着させて測定を行う。このため、光源161の光は、窓部114を通して指先Fの内部に入射し、内部の様々な生体成分によって散乱された後、再び指先Fから出射され、窓部114を通ってケーシング112内に至り、測定光として対物レンズ162に入射する。このとき、指先Fが窓部114に密着しているため、指先Fの表面の凹凸構造が平坦化し、光源161からの光が前記凹凸構造によって散乱、反射して測定光に混入することを抑制できる。また、指先Fを窓部114に強く押し当てることにより、測定中、対物レンズ162の合焦位置を指先F内の所定の位置(深度)に維持することができる。以上より、本実施例に係る血糖値センサ110では、血糖値を精度良く測定することができる。」

(引2?ウ)[図5]


(2)上記記載から、引用文献2には、次の技術的事項が記載されているものと認められる。

「矩形箱状のケーシング112内に分光測定部16を収容してなる血糖値センサ110であって、ケーシング112の外周側面の上面に矩形板状の窓部114が固定され、光源161の光が、窓部114を通して指先Fの内部に入射し、内部の様々な生体成分によって散乱された後、再び指先Fから出射され、窓部114を通ってケーシング112内に至り、測定光として対物レンズ162及び検出部165に入射するように構成された血糖値センサ110。」

第5 対比
1 本願発明と引用発明とを対比すると、以下のとおりとなる。なお、下線は当審が付したものである。

(1)引用発明の「発光部11および受光部12が収納される第2の押圧部30」は、本願発明の「筐体」に相当する。

(2)引用発明の「第2の押圧部30の上部に設けられた開口」は、本願発明の「筐体の一部に設けられた開口」に相当する。

(3)本願発明の「透光部材」は、「開口内に位置」するので、「当該透光部材の外面に対して斜め」の方向は、「開口に対して斜め」と同じ方向を意味するものと認められる。
したがって、引用発明の「第2の押圧部30に収納され、単一波長のレーザ光21を、第2の押圧部30の開口に対して斜めに照射する発光部11」と、本願発明の「前記筐体の内部に配置され、第1波長を含む光を、前記透光部材に、当該透光部材の外面に対して斜めに放射する発光手段」とは、「筐体の内部に配置され、第1波長を含む光を開口に対して斜めに放射する発光手段」である点で共通する。

(4)上記(3)を踏まえると、引用発明の「第2の押圧部30に収納され、第2の押圧部30の開口の方向を向いており、被測定部位25で反射したレーザ光21の拡散反射光22を検出する受光部12」と、本願発明の「前記筐体の内部に配置され、前記透光部材に向いており、前記測定部位により散乱された前記第1波長の光を検出する光検出手段」とは、「前記筐体の内部に配置され、開口に向いており、前記測定部位により散乱された前記第1波長の光を検出する光検出手段」である点で共通する。

(5)引用発明の「第2の押圧部30の内部に配置され、発光部11と受光部12の間に位置し、一部が第2の押圧部30の下部と接している遮光板17」は、本願発明の「前記筐体の内部に配置され、前記発光手段と前記光検出手段の間に位置し、一部が前記筐体に接している仕切部材」に相当する。

(6)引用発明の「光学測定装置100」は、本願発明の「測定装置」に相当する。

2 以上のことから、本願発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。

【一致点】
「筐体と、
前記筐体の一部に設けられた開口と、
前記筐体の内部に配置され、第1波長を含む光を、開口に対して斜めに放射する発光手段と、
前記筐体の内部に配置され、開口に向いており、前記測定部位により散乱された前記第1波長の光を検出する光検出手段と、
前記筐体の内部に配置され、前記発光手段と前記光検出手段の間に位置し、一部が前記筐体に接している仕切部材と、
を備える測定装置。」

【相違点】
開口に、本願発明は、「前記開口内に位置し、第1波長の光を透過させ、測定部位に押し当てられる透光部材」を備えるのに対し、引用発明では、開口内に「透光部材」があるかどうか不明である点。
また、本願発明と引用発明は、「発光手段」が「第1波長を含む光を、開口に対して斜めに放射する」点、「光検出手段」が「開口に向いて」いる点で共通しているものの、引用発明は「透光部材」があるかどうか不明であることから、「発光手段」が「第1波長を含む光を、前記透光部材に、当該透光部材の外面に対して斜めに放射する」こと、及び、「光検出手段」が「前記透光部材に向いて」いることについて、特定されていない点。


第6 判断
1 相違点について
発光手段から被測定対象に光を照射し、被測定対象から散乱ないし反射される光を光検出手段により検出し、被測定対象の検査を行う装置において、発光手段及び光検出手段に異物が付着することを防止するために、発光手段及び光検出手段を所定の密閉された筐体内に収納することは本願の優先日前に周知の技術であり、上記のように密閉された筐体内に発光手段及び光検出手段を収納する際に、被測定対象に照射する光及び被測定対象から散乱ないし反射される光が通過する光路において、当該光が通過するように筐体の一部に透光部材を設けることも周知技術であると認められる(必要であれば、特開平5-256947号公報の特に段落【0001】、【0002】、【0007】、特開平7-160924号公報の特に段落【0001】、【0008】、【0026】参照)。
また、血糖値を光学的に測定する装置においても、発光手段を収納する筐体の内部の部品の保護のために、筐体の一部に出射光に対して透明な透光部材を設けることは、周知技術であったものといえる(必要であれば、特開2010-139510号公報の特に【0853】-【0855】、第47,48図参照)。
そして、引用文献2には、上記「第4 2(2)」で記載したとおり、「矩形箱状のケーシング112内に分光測定部16を収容してなる血糖値センサ110であって、ケーシング112の外周側面の上面に矩形板状の窓部114が固定され、光源161の光が、窓部114を通して指先Fの内部に入射し、内部の様々な生体成分によって散乱された後、再び指先Fから出射され、窓部114を通ってケーシング112内に至り、測定光として対物レンズ162及び検出部165に入射するように構成された血糖値センサ110。」という技術的事項が記載されており、上記周知技術に鑑みると、上記引用文献2記載の技術的事項においても、光源161及び検出部165を収容するケーシング112の一部に設けられた窓部114は、上記「第4 2(1)(引2?イ)」の[0034]に記載されている「指先Fの表面の凹凸構造」を「平坦化」するという機能の他に、ケーシング112の内部の部品を保護する機能をも有していると解するのが相当である。
一方、引用発明においても、「単一波長のレーザ光21を照射する発光部11」、「被測定部位25で反射したレーザ光21の拡散反射光22を検出する受光部12」があり、これらは異物の付着を防がなければならない部品であることから、上記周知技術を踏まえた上記引用文献2記載の技術的事項に接した当業者であれば、引用発明において、第2の押圧部30の内部に配置された発光部11、受光部12等の内部部品を保護しようとして、引用文献2記載の「窓部」すなわち「透光部材」を採用し、「第2の押圧部30の上部に設けられた開口」に、光部11が照射する光及び拡散反射光22を透過する「透光部材」を設けることは、容易に想到しうることである。
そして、引用発明においても、「図4(B)の如く、血糖値の測定時にはまず、光学測定装置100を被測定部位25に向けて押下させる。本実施形態では、例えば第2の押圧部30が第1の押圧部3より突出しているため、第2の押圧部30が最初に被測定部位25に当接する。被測定部位25が生体の皮膚の場合、弾力性および可撓性を有するため、第2の押圧部30を当接させる圧力に応じて、第2の押圧部30と接触する被測定部位25は例えば緊張状態となる。」(第4 1(1)(引1?イ) 段落【0076】) と記載されているとおり、被測定部位の皮膚を開口に押圧する(押し当てる)ものであるから、引用発明において「第2の押圧部30の上部に設けられた開口」に「透光部材」を設けると、「透光部材」は「測定部位に押し当てられる」ものとなる。
また、引用発明の「発光部11」は、「単一波長のレーザ光21を、第2の押圧部30に設けられた開口に対して斜めに照射する」ものであり、「受光部12」は、「第2の押圧部30に設けられた開口の方向を向いて」いるものであるので、引用発明において、「前記開口」に「透光部材」を設けると、本願発明の「前記筐体の内部に配置され、第1波長を含む光を、前記透光部材に、当該透光部材の外面に対して斜めに放射する発光手段と、
前記筐体の内部に配置され、前記透光部材に向いており、前記測定部位により散乱された前記第1波長の光を検出する光検出手段」の構成を満たすことは明らかである。

2 効果について
本願発明の効果として、本願明細書には「本発明によれば、測定部位の深さを高い精度で制御することができ、かつ、光源からの光が皮膚などの測定対象を経由せずに受光素子に入射しないようにすることができる。」(段落【0008】)と記載されているが、引用発明も「発光部11と受光部12の間に位置」する「遮光板17」があることから、本願発明の奏する作用効果は、引用発明及び周知技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

3 請求人の主張について
請求人は、審判請求書の「3 本願が特許されるべき理由」において、
「また、5月14日付提出の意見書にて説明したとおり、引用文献1の測定装置では、開口が設けられている第2の押圧部30と、第2の押圧部30を囲むように配置されて被測定部位25に食い込む第1の押圧部3とを用いて、開口の内側で被測定部位25aの表面が略水平となるように被測定部位25を周方向全周に亘って引っ張るようになっている。そのため、引用文献1から出発した当業者は、第2の押圧部30と、第1の押圧部3とを用いることにより、被測定部位25aを略水平にするため、第2の押圧部30の開口内に被検体に接触する透光部材をあえて配置する必要がなく、また、当該開口内に被検体に接触する透明部材を配置することにより、引用文献1の技術思想に対して真っ向から対立する思想(被検体に接触する透明部材)を組み合せることになる。
以上のとおりであるから、本願出願人は、引用文献1の測定装置から出発した当業者が、第2の押圧部30の当接面30aに形成されている開口(引用文献1の図4等参照)内に、透光部材(窓等)を設けるとしても、わざわざ透光部材を測定部位に押し当てられるような位置に配置するはずがないと確信する。」
と主張する。
しかしながら、引用文献2記載の技術的事項における窓部114は、「指先Fの表面の凹凸構造を平坦化させ、指先Fを窓部114に強く押し当てることにより、測定中、対物レンズ162の合焦位置を指先F内の所定の位置(深度)に維持する」(第4 2 (1)(引2?イ)段落[0034])ために設けられていると記載されているものの、それは周知技術に鑑みれば、上記「1 相違点について」で示したとおり、内部部品を保護する機能をも持ち合わせていると解するのが相当である。
したがって、引用発明において、筐体の内部に配置された発光部11、受光部12等の内部部品を保護するために、引用文献2記載の「窓部」すなわち「透光部材」を採用し、「第2の押圧部30の上部に設けられた開口」に、発光部11が照射する光及び拡散反射光22を透過する「透光部材」を設けることは、当業者が容易に想到しうることであるとの判断に変わりはない。
また、請求人は、
「拒絶査定の謄本には、その2頁目中段において、
「しかし、技術常識で考えて、発光部や受光部をむき出しの状態とすることは、発光部や受光部に塵や体液が入り込む危険性があることから、それを防ぐ為にも、発光部や受光部に何らかの窓(この窓が光を透過しなくてはならないことは自明。)を設けることは当業者が当然考えることであり、引用文献2にも記載されているように周知の技術である。そして、引用文献1において、発光部や受光部以外の筺体部分は、十分に広い面積を以て被検体と接することが明らかであるところ([0073]に「第2の押圧部30いわゆる当接部は十分に広い」との記載あり。)、加えて発光部や受光部分においても被検体と接する構成としても(つまり、透光部材を設けたとしても)、開口内の被測定部位25aは周方向全周に亘り外側に引っ張られ難くなるとは言えない。よって、出願人の上記主張を採用することはできない。」との記載がある。
ここで、上記の引用の一部には、「発光部や受光部分においても被検体と接する構成としても(つまり、透光部材を設けたとしても)、開口内の被測定部位25aは周方向全周に亘り外側に引っ張られ難くなるとは言えない。」との見解が記載されている。
しかしながら、本願出願人は、この見解及びこの見解により導き出される結論は以下の理由により明らかに失当であると確信する。周方向全周に亘り外側に引っ張られる被検体の部分に接触する透明部材は、被検体を元の位置から当該外側に引っ張られないように作用することは明らかなためである。」
と主張するが、引用発明において、「第2の押圧部30の上部に設けられた開口」に「透光部材」を設けた際に「透明部材は、被検体を元の位置から当該外側に引っ張られないように作用する」ことの証拠を示しておらず、あらゆる透明部材においてそのような現象が生ずることが周知ともいえない。 そして、引用文献2の「窓部」は、指先を窓部に押し当てることにより、皮膚の「表面の凹凸構造」を「平坦化」するものであるから、少なくとも、皮膚に窓部表面に沿う力が作用し皮膚が伸ばされる、すなわち、皮膚と窓部表面とに滑りが生じているとも解されることから、引用文献2の「窓部」を採用しても、上記請求人の主張する現象が生じることが「明らか」であるとはいえない。
したがって、引用発明に引用文献2記載の技術的事項を採用することをもって「引用文献1の技術思想に対して真っ向から対立する思想(被検体に接触する透明部材)を組み合せることになる」ということはできない。
よって、請求人の主張は採用できない。

4 小括
したがって、本願発明は、引用発明及び引用文献2に記載された周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができないものである。


第7 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

 
審理終結日 2020-05-07 
結審通知日 2020-05-12 
審決日 2020-05-26 
出願番号 特願2016-531180(P2016-531180)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A61B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 姫島 あや乃  
特許庁審判長 三崎 仁
特許庁審判官 松谷 洋平
森 竜介
発明の名称 測定装置  
代理人 速水 進治  

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