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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 A61B
管理番号 1364305
審判番号 不服2020-1494  
総通号数 249 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-09-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-02-04 
確定日 2020-08-04 
事件の表示 特願2015- 12525「画像表示装置及び画像表示方法」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 8月 4日出願公開、特開2016-137007、請求項の数(5)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 結 論
原査定を取り消す。
本願の発明は、特許すべきものとする。

理 由
第1 手続の経緯
本願は、平成27年1月26日の出願であって、平成30年11月16日付けで拒絶理由が通知され、平成31年1月16日付けで意見書及び手続補正書が提出され、令和元年5月9日付けで拒絶理由が通知され、同年7月5日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年10月28日付けで拒絶査定されたところ、令和2年2月4日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がなされ、令和2年2月27日に前置報告がされたものである。

第2 原査定の概要
原査定(令和元年10月28日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

本願請求項1-5に係る発明は、以下の引用文献1に記載された発明、及び、引用文献2に例示される周知技術に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

1.特開平8-76741号公報
2.特開平8-336517号公報(周知技術を示す文献)

第3 審判請求時の補正について
審判請求時の補正(以下、「本件補正」という。)は、特許法第17条の2第3項から第6項までの要件に違反しているものとはいえない。
審判請求時の補正によって請求項1、5に記載された「特定の組織」に「画像処理により」という限定を付加する補正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、「原画像から画像処理により特定の組織を認識」することは、当初明細書の段落【0018】に記載されているから、当該補正は新規事項を追加するものではないといえる。
また、審判請求時の補正によって請求項1、5に記載された「減弱画像」に「前記原画像と前記減弱画像とを対応付ける対情報が登録されており、」という限定を付加する補正、及び、「減弱画像を交互に切り替えて表示する表示手段」に、「該対情報に基づいて前記原画像と前記減弱画像と」を交互に切り替えて表示する、という限定を付加する補正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、「減弱画像に、前記原画像と前記減弱画像とを対応付ける対情報が登録されており、該対情報に基づいて前記原画像と前記減弱画像とを交互に切り替えて表示する表示手段」は、当初明細書の段落【0034】-【0039】、【0051】に記載されているから、当該補正は新規事項を追加するものではないといえる。
そして、「第4 本願発明」から「第6 対比・判断」までに示すように、補正後の請求項1-5に係る発明は、独立特許要件を満たすものである。

第4 本願発明
本願請求項1-5に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明5」という。)は、令和2年2月4日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-5に記載された事項により特定される発明であり、以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
医用画像の原画像、及び、当該原画像から画像処理により特定の組織を認識し、認識した組織を減弱させた減弱画像に、前記原画像と前記減弱画像とを対応付ける対情報が登録されており、該対情報に基づいて前記原画像と前記減弱画像とを交互に切り替えて表示する表示手段と、
ユーザーによる操作を受け付ける操作手段と、
前記表示手段に前記原画像又は前記減弱画像が表示された状態で当該表示中の画像に対して、階調変更、拡大、縮小、パンニング、部分拡大及びマルチ周波数処理のうち少なくとも一つを含む所定の画像処理を行うよう前記操作手段から操作が行われた場合に、当該表示中の画像に対して前記所定の画像処理を行うとともに、当該表示中の画像に対応する前記減弱画像又は前記原画像に対しても、同一のパラメーターで前記所定の画像処理を行う制御手段と、
を備える画像表示装置。
【請求項2】
前記制御手段は、所定の時間間隔で、前記表示手段に表示される前記原画像と前記減弱画像とを切り替える請求項1に記載の画像表示装置。
【請求項3】
前記制御手段は、ユーザーによる前記操作手段からの切り替えを指示するための操作に基づいて、前記表示手段に表示される前記原画像と前記減弱画像とを切り替える請求項1に記載の画像表示装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記表示中の画像に対して前記所定の画像処理を行うとともに、バックグラウンドにて前記表示中の画像に対応する前記減弱画像又は前記原画像に対しても前記所定の画像処理を行う請求項1から3のいずれか一項に記載の画像表示装置。
【請求項5】
医用画像の原画像、及び、当該原画像から画像処理により特定の組織を認識し、認識した組織を減弱させた減弱画像に、前記原画像と前記減弱画像とを対応付ける対情報が登録されており、該対情報に基づいて前記原画像と前記減弱画像とを交互に切り替えて表示する表示手段と、ユーザーによる操作を受け付ける操作手段と、制御手段と、を備える画像表示装置における画像表示方法であって、
前記制御手段により、前記表示手段に前記原画像又は前記減弱画像が表示された状態で当該表示中の画像に対して、階調変更、拡大、縮小、パンニング、部分拡大及びマルチ周波数処理のうち少なくとも一つを含む所定の画像処理を行うよう前記操作手段から操作が行われた場合に、当該表示中の画像に対して前記所定の画像処理を行うとともに、当該表示中の画像に対応する前記減弱画像又は前記原画像に対しても、同一のパラメーターで前記所定の画像処理を行う工程を含む画像表示方法。」

第5 引用文献、引用発明等
1 引用文献1について
(1)原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている。なお、下線は当審が付したものである。


「【0001】
【産業上の利用分野】 本発明は画像表示装置に関し、特に、複数の医療用放射線画像に基づく診断に好適な画像の表示技術に関する。」


「【0007】
本発明は上記問題点に鑑みなさたものであり、画像の時系列的な変化部分を見やすい形で読影者に提示することにより、診断精度及び診断効率を向上させることを目的とする。また、注目する画像領域と、それに対応する時系列画像又は時系列画像を用いた画像処理によって得られた時系列処理画像(例えば差分画像)を対比しやすい形で提示することにより、経時変化に関する診断に適した情報を与え、診断精度及び診断効率を向上させることを目的とする。
【0008】
更に、比較読影させたい画像が多数ある場合であっても、これら多数の画像を対比しやすい形でかつ簡便に読影者に提供できるようにし、診断精度及び診断効率を向上させることを目的とする。」


「【0044】
前記画像記憶部1及び画像情報記憶部2の記憶データは、操作卓4によって読み出し画像を任意に選択することで、前記画像管理部3(画像読み出し手段)によって随時読み出されるようになっており、読み出された画像データは、必要に応じて画像処理部5(画像処理手段)における画像処理を経た後、放射線画像の読影を行わせるべく、CRTからなる画像表示部6に表示される。
【0045】
従って、放射線フィルムをシャウカステンを用いて読影を行う場合に行われるような目的フィルムを探し出し、これをシャウカステンに掛けるといった作業が必要でなく、効率の良い読影作業が可能である。本実施例のシステムでは、それぞれに画像表示部6を有する2つの画像表示ユニットA,B(画像表示手段)が設けられており、各画像表示ユニットA,Bには、それぞれ画像表示部6の他に、画像メモリ7,表示制御部8が設けられている。
【0046】
前記画像記憶部1から読み出された画像データは、一旦画像表示ユニットAの画像メモリ7aに記憶され、画像表示ユニットBをも用いて画像を表示させる場合には、転送制御部9によって制御されて前記画像メモリ7aから画像メモリ7bに画像データが転送される構成としてある。即ち、2つの表示ユニットA,Bを備える構成としたことで、少なくとも異なる2画像を同時に表示することを可能としており、表示ユニットを3つ以上備える構成であっても良い。
【0047】
転送制御部9は、操作卓4を介して行われる表示フォーマットの指示に従って画像データの転送を行うが、前記表示フォーマットの指示は、画像表示ユニットAの表示制御部8aにも送られた後、前記転送制御部9によって制御されて他方の表示制御部8bにも指示されるようになっている。そして、表示制御部8では、指定された表示フォーマットに従って画像を表示すべく、画像表示部6に出力する画像データの加工を行う。
【0048】
前記画像データの加工には、画像を指定された表示サイズに適合させるための拡大,縮小処理や、画像の階調を表示装置の輝度特性に適合させるためのウィンドウ処理などの階調変換も含まれる。尚、前記拡大縮小処理や階調変換等は、画像が画像メモリに転送される以前に画像処理部5において施されるような構成としても良い。
【0049】
ところで、例えば定期検診などによって定期的に放射線撮影を行っている被検者については、被検者毎の経時的な画像系列(以下、時系列画像という)ができ上がる。そして、このようにして異なる時期に撮影された同一被検者の同一部分(例えば胸部)の複数の放射線画像間で差分処理(時系列処理)を行うことにより、変化のない正常構造陰影を打ち消して被検者の経時変化を選択的に強調することができ、前記差分画像(時系列処理画像)を原画像と共に表示することで、新たに発生した病変や病状の変化した病変の見落としを防ぐことができる。
【0050】
そこで、本実施例では、前記時系列画像(原画像)について予め前記差分処理を行ってかかる差分画像(時系列処理画像)を原画像と共に記憶部1に記憶させておくか、或いは、複数の時系列画像(原画像)を記憶部1から読み出し、これらに基づいて画像処理部5(時系列処理手段)において前記差分画像(時系列処理画像)を新たに生成し、原画像と共に前記時系列処理画像を提示することで、重要な経時変化の見落としがないようにしてある。」


「【0071】
そこで、以下に示す実施例では、経時変化部分の対比をより行いやすい形で表示させることができるようにして、診断精度及び診断効率の向上を図る。即ち、操作卓4(基準領域設定手段)等の操作によって表示画面上の画像における任意の領域を座標指定できるようになっており、例えば、2つの時系列画像(原画像)を各表示部6a,6bに同時に表示させた場合に、最新の時系列画像(基準画像)上での関心領域を基準領域として設定すると、過去の画像(参照画像)上で前記設定された関心領域と同じ被写体部分に対応する領域が参照領域として自動的に設定され(参照領域設定手段)、前記基準領域と参照領域とを示す窓枠状の図形表示が、図15に示すように、表示画面上の画像に重ねて表示されるようにしてある。
【0072】
前記基準領域の設定は、操作卓4に設けられたマウス等のポインティングデバイスを用いて指定するようにしても良いし、操作卓4に設けられたキーボードを用いて座標入力しても良い。また、各表示部にタッチパネルが設けられていて、表示画像上の任意の点に直接触れることにより指定できるような構成にしても良い。
【0073】
かかる構成によれば、経時変化を認識したい関心領域があるときに、基準画像上でその領域(基準領域)を指定することで、参照画像上での比較観察領域が参照領域として窓枠で囲まれて表示されるから、対比はそれぞれの窓枠内の画像のみに注目すれば良く、画像間での経時変化の程度等を効率良く検知できる。尚、過去の画像を基準画像として基準領域を設定し、最新の画像上で前記基準領域と対比すべき参照領域を設定させる構成であっても良い。また、時系列処理画像と原画像とのいずれか一方を基準画像とし他方を参照画像として、上記同様に基準領域,参照領域の設定を行わせても良い。」


「【0076】
ここで、基準領域と参照領域とが設定されると、画像間の対比は専ら前記領域内の画像について行われることになるから、基準領域と参照領域との少なくとも一方について表示画面上に設定された領域のみを拡大表示させる(拡大画像表示手段)ことができるようにすると良い(図15参照)。上記のように注目すべき領域が拡大表示されれば、経時変化の詳細な観察が可能になる。
【0077】
更に、基準領域を示す図形又は拡大表示された基準領域の画像を表示画面に対して操作卓4の操作によって上下左右にスクロールできるようにすると共に(スクロール表示手段)、かかる基準領域のスクロール量,方向に対応して、参照領域を示す図形又は拡大表示された参照領域の画像を、基準領域のスクロールに同期してスクロールさせる構成とすることが好ましい(スクロール制御手段)。」


「【0084】
ところで、上記実施例では、時系列画像や時系列処理画像を同一表示画面上又は異なる表示画面上に同時に表示することで、これらの画像の比較読影による経時変化の検知を容易とし、以て、診断効率,診断精度を向上させる構成としたが、例えば比較したい同一被写体の画像が3枚以上ある場合などでは、複数の画像を同一表示面上の同一位置に切り替えて表示する方が、読影に好都合な場合がある。
【0085】
そこで、本実施例では、同一被写体の複数画像について、前述のような同時表示モードの他に、同一被写体の複数画像を同一表示面上の同一位置に切り替えて表示するモードを備えている。前記切り替え表示モートでは、例えば上記のような複数の時系列画像又は該時系列画像と時系列処理画像との組み合わせを読影対象とする場合に、これら複数の画像が、画像表示部6aの同一位置に順次切り替え表示される。
【0086】
前記切り替えの間隔は、予め設定された一定時間であっても良いが、任意に切り替え時間を変更できるようにすることが好ましく、また、切り替えタイミングをその都度医師等が操作卓4を介して指示する構成とすることもでき、更に、一定時間で切り替えを行わせる場合であっても、画像切り替えの一時停止を任意に行えるようにすると良い。
【0087】
また、表示される画像の順番は、任意に指定できるようにしても良いが、それぞれの画像に対応して記憶されている撮影日時の情報に基づいて撮影順に従って自動的に表示順が決定される構成とすることもできる。このように撮影順に画像が切り替え表示されれば、被写体の経時的な変化の様子を的確に捉えることが可能となる。
【0088】
更に、例えば上記のように時系列画像と時系列処理画像とからなる複数の画像を切り替え表示する場合には、前記複数画像の中で基準となる画像(例えば最新の時系列画像又は時系列処理画像)を、他の複数画像の切り替え表示の間毎に表示させる構成とすることもできる。即ち、基準画像を1枚置きに表示する構成とし、基準画像以外の画像の直前及び直後には必ず基準画像が表示され、基準画像以外の各画像について基準画像との比較が容易に行える構成とする。
【0089】
また、画像の切り替えは、画像全体を一時に切り替えるのではなく、例えば時系列処理画像(経時差分画像)から経時変化の大きい部分を検出し、該経時変化部分から切り替えを開始して切り替え領域を周囲に拡大していく構成としたり、例えば医師が異常陰影のあるものとしてポインティングデバイスで指定した部分又は過去に異常陰影部分として指定された部分を画像切り替えの開始点として、切り替え領域を前記開始点から周囲に徐々に拡大させる構成とすることができる。このように、関心領域から画像の切り替えを開始して複数画像を切り替え表示させる構成とすれば、関心領域の画像間での変化を捉えやすくなる。
【0090】
また、前記時系列処理画像は、予め記憶部1に記憶されたものであっても良い、前述のように、記憶された時系列画像を用いて新たに生成させる構成であっても良い(画像処理手段)。更に、複数の画像を切り替え表示させる場合に、画像毎に濃度,階調特性のばらつきがあったり、撮影時の被写体のポジショニングやX線の入射方向の差異による画像間での被写体の位置ずれがあったり、また、個々の画像毎に個別に拡大,縮小処理や回転などの画像処理が行われていて被写体形状が異なっていると、複数画像を同時に見比べることができないため、これらの被写体とは無関係な画像間の差異に影響されて本来の被写体の読影精度を悪化させる可能性が高い。
【0091】
従って、画像を同一表示画面上の同一位置に切り替え表示させるに当たっては、前記被写体とは無関係な画像間の差異を補正する処理を行ってから切り替え表示を行わせる構成とすることが好ましい。具体的には、例えば最新の撮影画像や複数画像の中で他の画像との差異が最も少ない画像を、同一被写体の複数画像の中の基準画像と特定し、この基準画像に合わせるように他の画像データを補正処理(階調,濃度補正、位置合わせ補正、拡大,縮小補正等)する。」

キ 図15



(2)上記記載から、引用文献1には、次の技術的事項が記載されているものと認められる。

ア 上記(1)カの
「【0085】
・・・前記切り替え表示モートでは、例えば上記のような複数の時系列画像又は該時系列画像と時系列処理画像との組み合わせを読影対象とする場合に、これら複数の画像が、画像表示部6aの同一位置に順次切り替え表示される。」
から、「複数の時系列画像と、時系列処理画像との組み合わせを読影対象とする場合に、これら複数の画像が、同一位置に順次切り替え表示される画像表示部6a」が読み取れる。
また、上記(1)ウの
「【0049】
・・・例えば定期検診などによって定期的に放射線撮影を行っている被検者については、被検者毎の経時的な画像系列(以下、時系列画像という)ができ上がる。そして、このようにして異なる時期に撮影された同一被検者の同一部分(例えば胸部)の複数の放射線画像間で差分処理(時系列処理)を行うことにより、変化のない正常構造陰影を打ち消して被検者の経時変化を選択的に強調することができ、前記差分画像(時系列処理画像)を原画像と共に表示する」
から、「時系列画像」は、「被検者毎の経時的な画像系列」であり、「時系列処理画像」は、「時系列画像間で差分処理を行うことにより、変化のない正常構造陰影を打ち消して被検者の経時変化を選択的に強調する画像」であることが読み取れる。
そして、上記(1)ウの
「【0045】
・・・本実施例のシステムでは、それぞれに画像表示部6を有する2つの画像表示ユニットA,B(画像表示手段)が設けられており、各画像表示ユニットA,Bには、それぞれ画像表示部6の他に、画像メモリ7,表示制御部8が設けられている。」
から、「画像表示部を備えた表示ユニット」が読み取れる。
上記のことから、引用文献1には、「複数の被検者毎の経時的な画像系列である時系列画像と、時系列画像間で差分処理を行うことにより、変化のない正常構造陰影を打ち消して被検者の経時変化を選択的に強調する時系列処理画像との組み合わせを読影対象とする場合に、これら複数の画像が、同一位置に順次切り替え表示される画像表示部6aを備えた表示ユニット」が記載されているものと認められる。

イ 上記(1)エの
「【0071】
・・・操作卓4(基準領域設定手段)等の操作によって表示画面上の画像における任意の領域を座標指定できるようになっており、・・・
【0072】
前記基準領域の設定は、操作卓4に設けられたマウス等のポインティングデバイスを用いて指定するようにしても良いし、操作卓4に設けられたキーボードを用いて座標入力しても良い。」
から、引用文献1には、「表示画面上の画像における任意の領域を座標指定でき、マウス等のポインティングデバイスやキーボードが設けられた操作卓4」が記載されているものと認められる。

ウ 上記(1)エの
「【0071】
・・・操作卓4(基準領域設定手段)等の操作によって表示画面上の画像における任意の領域を座標指定できるようになっており、例えば、2つの時系列画像(原画像)を各表示部6a,6bに同時に表示させた場合に、最新の時系列画像(基準画像)上での関心領域を基準領域として設定すると、過去の画像(参照画像)上で前記設定された関心領域と同じ被写体部分に対応する領域が参照領域として自動的に設定され(参照領域設定手段)、前記基準領域と参照領域とを示す窓枠状の図形表示が、図15に示すように、表示画面上の画像に重ねて表示されるようにしてある。
・・・
【0073】
・・・また、時系列処理画像と原画像とのいずれか一方を基準画像とし他方を参照画像として、上記同様に基準領域,参照領域の設定を行わせても良い。」
と、上記(1)オの
「【0076】
・・・基準領域と参照領域との少なくとも一方について表示画面上に設定された領域のみを拡大表示させる(拡大画像表示手段)ことができるようにすると良い(図15参照)。上記のように注目すべき領域が拡大表示されれば、経時変化の詳細な観察が可能になる。」
、及び、上記(1)キの図15から、引用文献1には、「時系列処理画像と時系列画像を各表示部6a,6bに同時に表示させた場合に、いずれか一方を基準画像とし他方を参照画像として、操作卓4の操作によって、基準画像上での関心領域を基準領域として設定すると、参照画像上で前記設定された関心領域と同じ被写体部分に対応する領域が参照領域として自動的に設定され、基準領域と参照領域のみを拡大表示させることができる」ことが記載されているものと認められる。
また、上記(1)ウの
「【0047】
・・・表示制御部8では、指定された表示フォーマットに従って画像を表示すべく、画像表示部6に出力する画像データの加工を行う。
【0048】
前記画像データの加工には、画像を指定された表示サイズに適合させるための拡大,縮小処理や、画像の階調を表示装置の輝度特性に適合させるためのウィンドウ処理などの階調変換も含まれる。」
から、上記「時系列処理画像と時系列画像を各表示部6a,6bに同時に表示させた場合に、いずれか一方を基準画像とし他方を参照画像として、操作卓4の操作によって、基準画像上での関心領域を基準領域として設定すると、参照画像上で前記設定された関心領域と同じ被写体部分に対応する領域が参照領域として自動的に設定され、基準領域と参照領域のみを拡大表示させる」ことは、「表示制御部8」で行われることが読み取れる。

エ 上記(1)アの
「【0001】
【産業上の利用分野】 本発明は画像表示装置に関し、特に、複数の医療用放射線画像に基づく診断に好適な画像の表示技術に関する。」
から、引用文献1には、「画像表示装置」が記載されているものと認められる。

以上を踏まえると、上記引用文献1には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「複数の被検者毎の経時的な画像系列である時系列画像と、時系列画像間で差分処理を行うことにより、変化のない正常構造陰影を打ち消して被検者の経時変化を選択的に強調する時系列処理画像との組み合わせを読影対象とする場合に、これら複数の画像が、同一位置に順次切り替え表示される画像表示部6aを備えた表示ユニットと、
表示画面上の画像における任意の領域を座標指定でき、マウス等のポインティングデバイスやキーボードが設けられた操作卓4と、
時系列処理画像と時系列画像を各表示部6a,6bに同時に表示させた場合に、いずれか一方を基準画像とし他方を参照画像として、操作卓4の操作によって、基準画像上での関心領域を基準領域として設定すると、参照画像上で前記設定された関心領域と同じ被写体部分に対応する領域が参照領域として自動的に設定され、基準領域と参照領域のみを拡大表示させることができることができる表示制御部8と、
を備える画像表示装置。」

2 引用文献2について
原査定の拒絶の理由において、周知技術を示す文献として例示された引用文献2には、図面とともに次の事項が記載されている。なお、下線は当審が付したものである。


「【0030】
ところで、本実施例の前記放射線撮影装置2では、エネルギー差分処理を実現する撮影が行えるようになっている。前記エネルギー差分処理(エネルギーサブトラクション処理)とは、同一被写体でX線エネルギーの分布が異なる2種類の画像を用いて、骨を消去した軟部画像や、逆に、軟部組織を消去した骨部画像を得るなど、放射線吸収係数の異なる物質をそれぞれ別々に画像化する手法である(放射線医療技術学叢書(6)「CRの実用画像処理」1993年3月31日 社団法人 日本放射線技術学会 発行 等参照)。かかるエネルギー差分処理により、例えば胸部画像上で肋骨に重なって発見しにくい結節影が、肋骨を除去することにより発見しやすくなる。
【0031】
異なるエネルギー分布を持つX線による2種類の画像を得るための撮影法には、1ショット法又は2ショット法がある。前記2ショット法は、X線管電圧を切換えて2回曝射することで行う。具体的には、例えば、初めに60kVで低エネルギー像を撮影して、次にイメージングプレートを入れ換えると共に、管電圧を120kVに切換えて高エネルギー像を撮影するものである。
【0032】
一方、前記1ショット法は、2枚のイメージングプレートの間にフィルター(例えば銅板)を挟んで重ね、例えば100kV 程度の管電圧で曝射し、2枚のイメージングプレートをそれぞれ別に読み取って画像化するものである。前記1ショット法又は2ショット法による撮影で得られた高エネルギー,低エネルギー画像に対して、特開昭58-163338号公報に開示されるような加重減算処理を行うことにより、軟部画像(骨部消去画像)と骨部画像(軟部消去画像)とを生成することができる。しかし、単純な加重減算処理に基づく処理画像には診断上有用な情報以外のノイズ成分が多量に含まれているので、より診断しやすいエネルギー差分処理画像を生成するためには、図2に示す原理図で表されるようなノイズ除去機能を有する画像間演算処理を適用することが好ましい。」


「【0072】
上記実施例では、時系列処理画像とオリジナル画像又はエネルギー差分処理画像を同一表示画面上又は異なる表示画面上に同時に表示することで、これらの画像の比較読影による経時変化の検知を容易とし、以て、診断効率,診断精度を向上させる構成としたが、例えば比較したい同一被写体の画像が3枚以上ある場合などでは、複数の画像を同一表示面上の同一位置に切り換えて表示する方が、読影に好都合な場合がある。
【0073】
従って、同一被写体の複数画像について、前述のように同時に表示するモードの他に、同一被写体の複数画像を同一表示面上の同一位置に切り換えて表示するモードを備えるようにすることが好ましい。前記切り換え表示モードでは、複数の画像(例えば時系列処理画像,最新のエネルギー差分処理画像,過去のエネルギー差分処理画像)が、一方の画像表示部6aの同一位置に順次切り換え表示される。」

上記記載から、引用文献2には、「同一被写体でX線エネルギーの分布が異なる2種類の画像を用いて、骨を消去した軟部画像や、軟部組織を消去した骨部画像であるエネルギー差分処理画像を得ることができ、エネルギー差分処理画像を含む複数の画像を同一表示面上の同一位置に切り換えて表示する」という技術的事項が記載されていると認められる。

3 その他の引用文献について
(1)本願の明細書中に記載された先行技術文献について
本願の明細書段落【0019】に記載された文献(米国特許出願公開第2014/0079309号明細書、以下、「引用文献3」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。なお、下線は当審が付したものである。


「[0042]
The logic flow diagram of FIG. 1 shows a sequence for automated rib suppression consistent with an embodiment of the present invention for chest x-ray image processing. In a lung segmentation process 20, the lung and rib cage portions of the image are segmented, thus extracting the lung region of interest from the image. A number of approaches to lung segmentation have been proposed, including, for example, that described in U.S. Pat. No. 7,085,407 entitled “Detection of Ribcage Boundary from Digital Chest Image” to Ozaki that employs landmark detection and other utilities to detect the boundaries of the rib cage. Other methods for lung detection and segmentation include methods that detect the spine structure and use a bounding box for coarse detection, with subsequent processing for more closely identifying the boundaries of the lung or rib cage. Neural network-based logic can also be employed for generating a pixel-based lung segmentation. Boundary smoothing can also be employed, such as by using morphological filtering or other suitable processing technique, for example.
[0043]
Continuing with FIG. 1 processing, with the lung region of interest or area including the lungs identified, a rib detection process 30 follows, in which structural information about the rib features is used in conjunction with image pixel intensities to separate likely rib content from non-rib image content. This step helps to eliminate from processing the image content that is not obstructed by rib features and has been found to provide improved results. Further processing of the candidate rib content is executed in a rib labeling step 40 that groups and organizes the detected rib contents. In rib labeling step 40, classification of the rib content groups likely rib pixels into corresponding categories for labeling as part of individual ribs, labels these pixels as part of the rib content of the image, and helps to remove false positives from rib detection process 30. Position, shape information, and gradient are used, for example, to help eliminate false positives. Processing in step 40 provides for classifying pixels into one or more of multiple ribs, by using some amount of prior knowledge of rib structures, such as shape, position, and general direction, and by applying morphological filtering. Among features that have been found to be particularly useful for rib classification are rib width and position, including percentage of pixels initially determined to be part of a rib feature. Other features could similarly be extracted and used for false-positive removal. Rib labeling in labeling step 40 alternately calculates a medial axis for one or more ribs to generate a skeletal image for validating rib detection and for subsequent processing including rib modeling, also used for retrieving missing or missed-labeled ribs or portion of ribs. The skeletal image has medial axis information and, optionally, other anatomical data relevant to rib location.
[0044]
Characteristics such as gradient orientation and shape for the labeled rib content can then be used for subsequent processing in a rib edge segmentation step 50. In rib edge segmentation step 50, edge portions of the ribs are identified, and this identification is refined using iterative processing. Guided growth processing may alternately be used to enhance rib edge detection. A cross rib profiling step 56 generates a cross rib profile that provides values for rib compensation along the detected ribs. Finally, a rib subtraction step 80 is executed, subtracting rib edges and values from the rib profile from the chest x-ray image, to condition the image and provide a rib-suppressed x-ray image as the conditioned image for display. Weighted subtraction and various other types of conditioning familiar to those skilled in the image processing art can be used for combining the detected rib information with the original x-ray image, suppressing rib content to generate a rib-suppressed image for display or for further analysis.」

(仮訳)
「[0042]
図1の論理流れ図は、胸部X線画像を処理するための本発明の一実施形態による、自動化肋骨抑制のためのシーケンスを示している。肺のセグメント化プロセス20では、画像の肺と肋骨ケージ部分を切り出し、その画像から対象の肺領域が抽出される。肺のセグメント化に関するいくつかの方法が提案されており、これは、例えばランドマーク検出および他のユーティリティを使用して胸郭の境界を検出するU.S. Pat. No. 7,085,407 entitled#201;Digital Chest Image#201dからRibcage Boundary Detection;Ozakiに記載されているものが挙げられる。肺癌の検出及びセグメント化のための他の方法は、脊椎構造を検出し、coarse検出のためのバウンディングボックスを使用することで、肺または胸郭の境界を識別するためにさらに厳密にして続いて処理する方法が挙げられる。ニューラルネットワークベースのロジックはまた、ピクセルに基づいた肺のセグメント化を生成するために使用することができる。また、形態学的フィルタリングまたは他の適切な処理技術を用いることによって得ることができる境界平滑化する。
[0043]
図1に示す処理に進み、特定された肺を含む関心領域の肺領域を、肋骨検出プロセス30は、以下の、構造情報における肋骨は、肋骨を肋骨無しの画像内容から分離する画像画素強度に関連して使用される。このステップは、肋骨特徴によって妨害されないように画像コンテンツを処理することから排除するのに役立つ、改良された結果を提供することが見出された。さらにグループ化し、検出された肋骨の内容を編成する肋骨ラベリングステップ40で実行される候補肋骨の内容の処理である。ラベル付けステップ40では、コンテンツの分類は、個々の肋骨の一部を標識するために高い肋骨の画素をグループ化するように、これらの画素をラベル付けする画像のコンテンツの一部として、検出プロセス30から偽陽性を除去するのに役立つ。位置・形状情報と勾配は、例えば、偽陽性を排除するのを助けるために使用される。ステップ40において、処理は、1つまたは複数の肋骨の内の画素を分類するために、肋骨構造に関する従来の知識のいくつかの量、形状、位置、方向などを用いて、形態学的フィルタリングを適用することである。肋骨分類に特に有用であることが明らかにされた特徴のうち、肋骨の幅および位置は、肋骨の一部であることが最初に判定された画素の割合である。他の特徴は、同様に偽陽性を除去するために抽出して用いることができる。ステップ40で肋骨ラベリングは、代替的に、1つ又はそれ以上の肋骨の中央軸を算定する有効肋骨検出のため、ならびにその後の工程を含む肋骨、肋骨の欠落または欠損した標識された肋骨又は部分を取り出すためにも使用する骨格画像を生成する。骨格画像は中間軸情報、および任意選択で、位置に関連する他の解剖学的データを有している。
[0044]
次いで肋骨辺縁セグメント化ステップ50において、後続の処理のために使用することがラベル付けされた肋骨の勾配角度や形状などの特性を得ることができる。肋骨のエッジのセグメント化ステップ50において、肋骨の縁部が識別され、この識別は、反復処理を用いて改善される。誘導成長処理を交互に肋骨エッジ検出を高めるために使用することができる。クロス肋骨プロファイリングステップ56は、検出された肋骨に沿って肋骨の分散補償を提供する横断肋骨プロフィールを生成する。最後に、胸部X線像から肋骨形状から肋骨辺縁の値を減算することにより、実行された画像を調整し表示するために条件付けされたイメージとして肋骨が抑制されX線画像を提供する肋骨を減算する(ステップ80)。重み付き減算と画像処理技術における当業者に周知の種々の他のタイプは、検出された肋骨を元のX線画像と組み合わせることにより、肋骨含量を抑制した表示のため、またはさらなる分析のために肋骨を抑えた画像を生成するために使用することができる。」

イ 図1


上記記載から、引用文献3には、「胸部X線画像において、肋骨を検出し、肋骨辺縁の値を減算することにより、肋骨が抑制されたX線画像を提供する」という技術的事項が記載されていると認められる。

(2)前置報告書で引用された文献について
令和2年2月27日付の前置報告書において、引用された引用文献(特開2002-209142号公報、以下、「引用文献4」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。なお、下線は当審が付したものである。


「【0042】
EsSource:同一組に属する画像データであることを示す組情報を表す組番号であり、その組番号は4レコード分同じ番号が情報付加手段12によって自動的に割り振られる。
【0043】
EsType:低エネルギ画像データ(L)、高エネルギ画像データ(H)、軟部画像データ(S)、または骨部画像データ(B)であることを表す記号。」


「【0057】
情報付加手段12に入力された軟部画像データは、図6に示すEsSorce番号12番を持つID番号12番と13番の画像データを用いて生成された画像データであるので、同じEsSorce番号12番を有する同一組に属する画像データとして、ID番号21番(EsTypeがS)のカラムの画像ファイル名の欄にファイル名が登録された後(このファイル名は画像データ取扱装置100内で自動的に生成される)、記憶蓄積手段14に出力されて記憶される。これにより上記軟部画像データと上記一対の原画像データとに同じEsSorce番号が割り振られ、これらの画像データが同一組に属するものであることの関連付けがなされる。」

ウ 図6



上記記載から、引用文献4には、「低エネルギ画像データ(L)、高エネルギ画像データ(H)と、上記低エネルギ画像データ(L)、高エネルギ画像データ(H)から生成された軟部画像データ(S)、骨部画像データ(B)に同じEsSource番号が割り振られ、これらの画像データが同一組に属するものであることの関連付けがなされる。」という技術的事項が記載されていると認められる。


第6 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比すると、次のことがいえる。

ア 引用発明における「複数の被検者毎の経時的な画像系列である時系列画像」は、本願発明1における「医用画像の原画像」に相当する。
また、引用発明における「変化のない正常構造陰影」は、本願発明1の「組織」に相当するから、引用発明の「時系列画像間で差分処理を行うことにより、変化のない正常構造陰影を打ち消して被検者の経時変化を選択的に強調する画像」は、本願発明1の「当該原画像から」「組織を減弱させた減弱画像」に相当する。
そうすると、引用発明の「複数の被検者毎の経時的な画像系列である時系列画像と、時系列画像間で差分処理を行うことにより、変化のない正常構造陰影を打ち消して被検者の経時変化を選択的に強調する画像との組み合わせを読影対象とする場合に、これら複数の画像が、同一位置に順次切り替え表示される画像表示部6aを備えた表示ユニット」と、本願発明1の「医用画像の原画像、及び、当該原画像から画像処理により特定の組織を認識し、認識した組織を減弱させた減弱画像に、前記原画像と前記減弱画像とを対応付ける対情報が登録されており、該対情報に基づいて前記原画像と前記減弱画像とを交互に切り替えて表示する表示手段」とは、「医用画像の原画像、及び、当該原画像から組織を減弱させた減弱画像とを交互に切り替えて表示する表示手段」である点で共通する。

イ 引用発明における「表示画面上の画像における任意の領域を座標指定でき、マウス等のポインティングデバイスやキーボードが設けられた操作卓4」は、本願発明1における「ユーザーによる操作を受け付ける操作手段」に相当する。

ウ 引用発明における「時系列処理画像」は、「時系列画像間で差分処理を行うことにより」生成される画像であるから、「時系列画像」と「時系列処理画像」は、特段の処理を加えない限り、同じサイズを有するものと認められるので、引用発明における「基準領域と参照領域のみを拡大表示させる」際の拡大処理は同一のパラメーター(拡大率)で画像処理を行われるものと認められる。
そうすると、引用発明における「時系列処理画像と時系列画像を各表示部6a,6bに同時に表示させた場合に、いずれか一方を基準画像とし他方を参照画像として、操作卓4の操作によって、基準画像上での関心領域を基準領域として設定すると、参照画像上で前記設定された関心領域と同じ被写体部分に対応する領域が参照領域として自動的に設定され、基準領域と参照領域のみを拡大表示させることができることができる表示制御部8」と、本願発明1における「前記表示手段に前記原画像又は前記減弱画像が表示された状態で当該表示中の画像に対して、階調変更、拡大、縮小、パンニング、部分拡大及びマルチ周波数処理のうち少なくとも一つを含む所定の画像処理を行うよう前記操作手段から操作が行われた場合に、当該表示中の画像に対して前記所定の画像処理を行うとともに、当該表示中の画像に対応する前記減弱画像又は前記原画像に対しても、同一のパラメーターで前記所定の画像処理を行う制御手段」とは、「前記原画像又は前記減弱画像に対して、階調変更、拡大、縮小、パンニング、部分拡大及びマルチ周波数処理のうち少なくとも一つを含む所定の画像処理を行うよう前記操作手段から操作が行われた場合に、当該表示中の画像に対して前記所定の画像処理を行うとともに、前記減弱画像又は前記原画像に対しても、同一のパラメーターで前記所定の画像処理を行う制御手段」である点で共通する。

エ 引用発明における「画像表示装置」は、本願発明1における「画像表示装置」に相当する。

したがって、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。

(一致点)
「医用画像の原画像、及び、当該原画像から組織を減弱させた減弱画像とを交互に切り替えて表示する表示手段と、
ユーザーによる操作を受け付ける操作手段と、
前記原画像又は前記減弱画像に対して、階調変更、拡大、縮小、パンニング、部分拡大及びマルチ周波数処理のうち少なくとも一つを含む所定の画像処理を行うよう前記操作手段から操作が行われた場合に、当該表示中の画像に対して前記所定の画像処理を行うとともに、当該表示中の画像に対応する前記減弱画像又は前記原画像に対しても、同一のパラメーターで前記所定の画像処理を行う制御手段と、
を備える画像表示装置。」

(相違点)
(相違点1)表示手段に関して、本願発明1は、「医用画像の原画像、及び、当該原画像から画像処理により特定の組織を認識し、認識した組織を減弱させた減弱画像に、前記原画像と前記減弱画像とを対応付ける対情報が登録されており、該対情報に基づいて前記原画像と前記減弱画像とを交互に切り替えて表示する表示手段」であるのに対して、引用発明の「時系列処理画像」は、「時系列画像間で差分処理を行うことにより、変化のない正常構造陰影を打ち消して被検者の経時変化を選択的に強調する」ものであって、「原画像から画像処理により特定の組織を認識し、認識した組織を減弱させた」ものではなく、また、引用発明の「時系列画像」と、「時系列処理画像」は、「同一位置に順次切り替え表示される」ものの、「前記原画像と前記減弱画像とを対応付ける対情報が登録されており、該対情報に基づいて前記原画像と前記減弱画像とを交互に切り替えて表示する」ものではない点。

(相違点2)所定の画像処理を行う制御手段に関して、本願発明1は、「前記原画像と前記減弱画像とを交互に切り替えて表示する」「前記表示手段」において、「前記原画像又は前記減弱画像が表示された状態で当該表示中の画像に対して、」所定の画像処理を行うのに対して、引用発明の「表示制御部8」は、「時系列処理画像と時系列画像を各表示部6a,6bに同時に表示させた場合に」、基準画像、及び、参照画像の拡大表示を行うものである点。

(2)相違点についての判断
まず、相違点1について、検討する。
「第5 引用文献、引用発明等」の「2 引用文献2について」に記載のとおり、引用文献2には、「同一被写体でX線エネルギーの分布が異なる2種類の画像を用いて、骨を消去した軟部画像や、軟部組織を消去した骨部画像であるエネルギー差分処理画像を得ることができ、エネルギー差分処理画像を含む複数の画像を同一表示面上の同一位置に切り換えて表示する」という技術的事項が記載されている。
しかしながら、引用文献2記載の技術事項における「エネルギー差分処理画像」は、X線エネルギーの分布が異なる2種類の画像を用いて、骨を消去した軟部画像や、軟部組織を消去した骨部画像であるエネルギー差分処理画像を得るものであり、本願発明1の「原画像から画像処理により特定の組織を認識し、認識した組織を減弱させた減弱画像」のように、「原画像から画像処理により特定の組織を認識」しているものではなく、上記「エネルギー差分処理画像」は「認識した組織を減弱させた減弱画像」に相当するものということはできない。
そして、引用文献2には、「前記原画像と前記減弱画像とを対応付ける対情報が登録されており、該対情報に基づいて前記原画像と前記減弱画像とを交互に切り替えて表示する」ことについて、何ら記載されていない。
したがって、引用発明、及び、引用文献2記載の技術事項に基づいて、相違点1に係る構成をなすことは、当業者が容易に想到しうるものではない。

また、「第5 引用文献、引用発明等」の「3(1)本願の明細書中に記載された先行技術文献について」に記載のとおり、引用文献3には、「胸部X線画像において、肋骨を検出し、肋骨辺縁の値を減算することにより、肋骨が抑制されたX線画像を提供する」という技術的事項が記載されている。
上記引用文献3記載の技術的事項において、「胸部X線画像において、肋骨を検出」することは、本願発明1の、「原画像から画像処理により特定の組織を認識」することに相当し、「肋骨辺縁の値を減算することにより、肋骨が抑制されたX線画像」は、「認識した組織を減弱させた減弱画像」に相当するといえる。
そして、「第5 引用文献、引用発明等」の「3(2)前置報告書で引用された文献について」に記載のとおり、引用文献4には、「低エネルギ画像データ(L)、高エネルギ画像データ(H)と、上記低エネルギ画像データ(L)、高エネルギ画像データ(H)から生成された軟部画像データ(S)、骨部画像データ(B)に同じEsSource番号が割り振られ、これらの画像データが同一組に属するものであることの関連付けがなされる。」という技術的事項が記載されている。
上記引用文献4記載の技術的事項において、「低エネルギ画像データ(L)、高エネルギ画像データ(H)」は、本願発明1の、「医用画像の原画像」に相当し、「上記低エネルギ画像データ(L)、高エネルギ画像データ(H)から生成された軟部画像データ(S)、骨部画像データ(B)」は、本願発明1の「原画像」から「組織を減弱させた減弱画像」に相当するといえ、「低エネルギ画像データ(L)、高エネルギ画像データ(H)と、上記低エネルギ画像データ(L)、高エネルギ画像データ(H)から生成された軟部画像データ(S)、骨部画像データ(B)に同じEsSource番号が割り振られ、これらの画像データが同一組に属するものであることの関連付けがなされる。」ことは、本願発明1の「前記原画像と前記減弱画像とを対応付ける対情報が登録され」ることに相当するといえる。

ここで、引用発明において、上記引用文献3,4記載の技術的事項に基づいて、相違点1に係る構成をなすことが、当業者であれば容易に想到しうるものであるかについて検討を行う。

引用発明は、
「【0007】
本発明は上記問題点に鑑みなさたものであり、画像の時系列的な変化部分を見やすい形で読影者に提示することにより、診断精度及び診断効率を向上させることを目的とする。また、注目する画像領域と、それに対応する時系列画像又は時系列画像を用いた画像処理によって得られた時系列処理画像(例えば差分画像)を対比しやすい形で提示することにより、経時変化に関する診断に適した情報を与え、診断精度及び診断効率を向上させることを目的とする。
【0008】
更に、比較読影させたい画像が多数ある場合であっても、これら多数の画像を対比しやすい形でかつ簡便に読影者に提供できるようにし、診断精度及び診断効率を向上させることを目的とする。」(「第5 引用文献、引用発明等」の「1(1)イ」参照。)

と記載されるように、時系列画像又は時系列処理画像を対比しやすい形で提示することにより、経時変化に関する診断に適した情報を与え、診断精度及び診断効率を向上させることを目的とするものであり、引用発明において、「画像表示部6a」の「同一位置に順次切り替え表示される」画像は、「時系列画像」又は「時系列処理画像」である。
他方、引用文献3記載の技術事項における「胸部X線画像において、肋骨を検出し、肋骨辺縁の値を減算することにより、肋骨が抑制されたX線画像」は、経時変化に関する診断を行うための画像ではなく、また、引用文献3には、本願発明1や、引用発明のように、「画像を交互に切り替えて表示する」ことについて何ら記載されていない。
そうすると、引用発明において、「時系列処理画像」に替えて、上記引用文献3記載の技術事項における「胸部X線画像において、肋骨を検出し、肋骨辺縁の値を減算することにより、肋骨が抑制されたX線画像」を適用するとしても、「時系列画像」と、「肋骨が抑制されたX線画像」とを、「同一位置に順次切り替え表示」することで、「経時変化に関する診断に適した情報を与え、診断精度及び診断効率を向上させる」という、引用発明の目的を達成することはできないため、引用発明に上記引用文献3記載の技術事項を適用することには阻害要因があるというべきである。

そして、引用文献4には、「前記原画像と前記減弱画像とを対応付ける対情報が登録され」ることに相当する技術的事項が開示されているが、「原画像」と、「原画像から画像処理により特定の組織を認識し、認識した組織を減弱させた減弱画像」とを「対応付ける対情報」が登録されるものではない。
したがって、「医用画像の原画像」と、「原画像から画像処理により特定の組織を認識し、認識した組織を減弱させた減弱画像」とを「対応付ける対情報が登録されており、該対情報に基づいて前記原画像と前記減弱画像とを交互に切り替えて表示」することについては、いずれの引用文献にも記載されたものではない。

また、本願発明1の効果について、本願の明細書には、以下の記載がある。
「【0004】
また、特定の正常組織を含む原画像と、特定の正常組織が減弱(除去)された減弱画像と、を交互に切り替えて表示させることで、2次元撮影の画像でありながら、時間的な動きが加わり、コントラストが低くて見づらい異常陰影(病変)が浮かび上がるように見える効果が生じる。これは、人間の視覚効果(仮現運動)を利用したものであり、異常陰影を効果的に印象づけることができる。このように、原画像と減弱画像とを切り替えて表示させることで、原画像のみの読影や減弱画像のみの読影より、効果的で見落としが少ない読影を行うことができる。
・・・
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、原画像と減弱画像とを交互に切り替えて表示する際の読影精度及び読影効率を向上させることができる。」

上記記載によれば、本願発明1は、「原画像」と、「特定の組織」が減弱された「減弱画像」とを「交互に切り替えて表示させる」ことで、「2次元撮影の画像でありながら、時間的な動きが加わり、コントラストが低くて見づらい異常陰影(病変)が浮かび上がるように見える効果」を生じさせるものと認められる。
他方、引用発明は、複数の「時系列画像」、及び、「時系列処理画像」を、「画像表示部6a」の「同一位置に順次切り替え表示される」ものの、本願発明1の上記効果を生じるものとはいえない。
また、本願発明1のように、「原画像」と、「特定の組織」が減弱された「減弱画像」とを「交互に切り替えて表示させる」ことにより、上記本願発明1の効果を奏する技術は、上記いずれの引用文献にも開示されておらず、引用発明に上記いずれの引用文献に記載された技術事項を適用しても、上記本願発明1の効果を生ずるものともいえない。

よって、引用発明に、上記引用文献2-4に記載される技術的事項を適用しても、相違点1に係る構成を採用することは当業者が容易に想到し得ることであるということはできない。

イ そうすると、相違点2について判断するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても引用発明、及び、引用文献2-4に記載された技術的事項に基づいて、容易に発明できたものとはいえない。

2 本願発明2-5について
本願発明2-5も、本願発明1の「医用画像の原画像、及び、当該原画像から画像処理により特定の組織を認識し、認識した組織を減弱させた減弱画像に、前記原画像と前記減弱画像とを対応付ける対情報が登録されており、該対情報に基づいて前記原画像と前記減弱画像とを交互に切り替えて表示する表示手段」と同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明、及び、引用文献2-4に記載された技術的事項に基づいて、容易に発明できたものとはいえない。

第7 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。

 
審決日 2020-07-20 
出願番号 特願2015-12525(P2015-12525)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (A61B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 遠藤 直恵  
特許庁審判長 森 竜介
特許庁審判官 伊藤 幸仙
松谷 洋平
発明の名称 画像表示装置及び画像表示方法  
代理人 特許業務法人光陽国際特許事務所  

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