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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61D
管理番号 1364353
審判番号 不服2018-3264  
総通号数 249 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-09-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-03-06 
確定日 2020-07-14 
事件の表示 特願2014-551574「ワクチン免疫剤調製用キット」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 7月18日国際公開、WO2013/104550、平成27年 3月19日国内公表、特表2015-508312〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2013年(平成25年)1月14日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2012年(平成24年)1月13日 独国(DE) 2012年(平成24年)1月13日 米国(US))を国際出願日とする出願であって、平成28年12月12日付けで拒絶理由が通知され、平成29年6月19日に意見書が提出されるとともに手続補正がされたが、平成29年10月31日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。)がされ、平成30年3月6日に拒絶査定不服審判の請求がされ、その審判の請求と同時に手続補正がされた。その後、令和元年9月2日付けで拒絶理由が通知され、これに対し、令和元年12月5日に意見書が提出されたものである。

第2 本願発明
平成30年3月6日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載の発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりである。

「【請求項1】
ワクチン免疫剤を現場で調製するためのキットであって、該キットが、第一の出発物質、第一のものと異なる第二の出発物質、該第一の出発物質で部分的にのみ満たされた第一の容器、及び該第二の出発物質を含む第二の容器を含み、
該容器の少なくとも1つが操作側で閉鎖装置により閉鎖されており、さらにアダプター装置によって該閉鎖装置が貫通されて初めて及び/又はそのときだけ、第二の容器が第一の容器とつながることができ、それによって第二の出発物質が第一の容器に入り、そこで第一の出発物質とともにワクチン免疫剤を形成し、
第一の出発物質は液体であり、
第二の出発物質は液体であり、
第二の容器は第二の出発物質で少なくとも実質的に満たされ、
第一の容器の総体積が、第一の出発物質の体積を少なくとも第二の出発物質の体積だけ超え、
第一の容器中の気体の体積が、第二の出発物質の体積を2%より多く超え、
第一の出発物質は、マイコプラズマワクチン及びシルコウイルスワクチンのうちの第一の成分を含み、第二の出発物質は、マイコプラズマワクチン及びシルコウイルスワクチンのうちの他方の成分を含む、
前記キット。」

第3 拒絶の理由
当審が通知した拒絶理由は、次の理由を含むものである。
本願発明は、本願の優先権主張の日(以下「優先日」という。)前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明、引用文献1、2に記載された事項及び引用文献3、4にみられるような周知の事項に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1.特表2011-516601号公報
引用文献2.特表2011-520771号公報
引用文献3.実願昭57-127720号(実開昭59-30243号)のマイクロフィルム(周知の事項を示す文献)
引用文献4.実願昭54-78556号(実開昭55-180444号)のマイクロフィルム(周知の事項を示す文献)

第4 引用文献及び引用発明
1 引用文献1の記載事項
(1-1)上記引用文献1には、次の記載がある(下線は、当審が付与したものである。以下同様。)。
ア.「【0011】
ローソニア・イントラセルラーリスを駆除し、同時に、1つ又はそれ以上の他のブタ病原体を駆除するためのワクチンを提供することが、本発明の課題である。この目的のために、ローソニア・イントラセルラーリス、マイコプラズマ・ヒオニューモニアエ及びブタサーコウイルスの非生抗原の組み合わせ及び医薬として許容される担体を含むワクチンを考案した。」
イ.「【0012】
一般に、ワクチンは、抗原を担体と混合することを基本的に含む、本分野で公知の方法を使用することによって製造することができる。典型的には、抗原は抗原を担持する媒体と組み合わされ、単に、担体又は「医薬として許容される担体」としばしば称される。このような担体は、例えば、とりわけ無菌にすることによって、標的動物と生理的に適合し、標的動物にとって許容され得る、あらゆる溶媒、分散媒、コーティング剤、抗菌剤及び抗真菌剤、等張剤及び吸収遅延剤などであり得る。このような担持媒体の幾つかの例は、水、生理的食塩水、リン酸緩衝化された生理的食塩水、細菌培養液、デキストロース、グリセロール、エタノールなど及びこれらの組み合わせである。これらは、意図される投与様式に応じて、液体、半固体及び固体剤形を与え得る。一般に知られているように、担持媒体の存在はワクチンの効力にとって不可欠ではないが、抗原の投薬及び投与を著しく簡略化し得る。従って、産業環境中でワクチンの製造を行うことができるのみならず、例えば、動物へ実際に投与する(直)前に、その場で(すなわち、獣医、農場などで)、抗原を他のワクチン構成成分と混合することができる。ワクチンでは、抗原は、免疫学的に有効な量で、すなわち、野生型微生物によるワクチン接種後の攻撃誘発の負の効果を少なくとも低減させるのに十分に、標的動物の免疫系を刺激することができる量で存在すべきである。ワクチンの意図される使用又は必要とされる特性に応じて、場合によって、アジュバント、安定化剤、粘度改変剤又は他の成分などの他の物質が添加される。」
ウ.「【0019】
本発明は、ローソニア・イントラセルラーリスの非生抗原をその中に含有する第一の容器と、マイコプラズマ・ヒオニューモニアエ及びブタサーコウイルス抗原をその中に含有する1つ又はそれ以上の他の容器と並びに全身的ワクチン接種に適した1つの組み合わせワクチンを調合するために、ローソニア・イントラセルラーリス、マイコプラズマ・ヒオニューモニアエ及びブタサーコウイルスの抗原を混合するための指示書とを含むキットにも関する。この実施形態では、他の抗原(従来技術から公知のように1つの容器中に組み合わされ、又はキットの内容物の一部を形成する別個の容器中に存在する場合さえある。)も含有するキットにおいて、ローソニア・イントラセルラーリス抗原のための別個の容器が提供される。この実施形態の利点は、ワクチンの投与の直前まで、ローソニア抗原が他の抗原と相互作用しないようにできることである。また、抗原が別個の容器中に存在するので、製造上の無駄がより少なくなる。一実施形態において、マイコプラズマ・ヒオニューモニアエ及びブタサーコウイルス抗原は、1つの容器中に含有され、水中油アジュバント中に調合される。この実施形態において、ローソニア抗原は、使用直前に、他の抗原と混合され得る。」

(1-2)上記(1-1)イ.及びウ.の記載事項から、引用文献1には、使用直前にその場で混合して投与するワクチンに関し、次の技術的事項が記載されているものと認められる。
a 引用文献1に記載されたキットは、ローソニア・イントラセルラーリス抗原及び液体の担体をその中に含有する第一の容器と、マイコプラズマ・ヒオニューモニアエ及びブタサーコウイルス抗原及び液体の担体をその中に含有する1つ又はそれ以上の他の容器とを含む組み合わせワクチンを調合するためのキットである。
b ローソニア抗原は、容器内で液体の存在下で他の抗原と混合すると、当該他の抗原との間で相互作用するおそれがあることから、ローソニア抗原を他の抗原とは別の容器に格納しておき、ワクチン投与の直前に混合するように構成している。

(1-3)上記(1-1)、(1-2)を踏まえると、引用文献1には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「ローソニア・イントラセルラーリス抗原及び液体の担体をその中に含有する第一の容器と、マイコプラズマ・ヒオニューモニアエ抗原、ブタサーコウイルス抗原及び液体の担体をその中に含有する1つ又はそれ以上の他の容器とを備えた、組み合わせワクチンを調合するためのキットであって、ローソニア・イントラセルラーリス抗原のための別個の容器が提供され、使用直前にその場で他の抗原と混合されるよう構成された組み合わせワクチンを調合するためのキット。」

2 引用文献2の記載事項
(2-1)上記引用文献2には、次の記載がある。
エ.「【0013】
本発明の他の側面において、ブタにおいてM.hyoに対する防御免疫反応を誘導する方法が提供される。一般に、本方法は、それを必要とする動物、好ましくはブタに、本発明記載の免疫原性組成物を投与する段階を含む。好ましくは、免疫原性組成物は、ブタサーコウイルス2型抗原およびM.hyo抗原を含む。よりさらに好ましくは、1回当たりのM.hyo抗原量は少なくとも1.22という相対力価(RP)値を有し、M.hyoのRP値1.22は、前記M.hyo抗原量の40分の1が投与されたマウスの95%、好ましくは100%が、M.hyo特異抗体検出アッセイにおいて、処理後21日以内または21日目に検出可能な量の抗体を発生することを意味する。従って、本発明はまた、ブタにおいてマイコプラズマ・ハイオニューモニエ(M.hyo)に対する防御免疫反応を誘導する方法において、ブタサーコウイルス2型抗原およびM.hyo抗原を含む免疫原性組成物を前記ブタに投与することを含む前記方法であって、1回当たりのM.hyo抗原量が少なくとも1.22という相対力価値を有し、前記RP値1.22が、処理後21日以内または21日目に少なくとも95%、好ましくは100%のマウスにおいて検出可能なM.hyo特異的抗体反応を誘導するのに必要なM.hyo抗原量の40倍に相当する前記方法に関する。」
オ.「【0017】
本発明の他の側面において、PCV2およびM.hyoに対する免疫反応を引き起こす組成物、好ましくは抗原または免疫原性組成物、例えばワクチンなどの製造方法が提供される。一般に、本方法は、ウイルスに構築物をトランスフェクトする工程を含む。ここで前記構築物はi)PCV2のORF2からの組換えDNAを含み、ii)トランスフェクトされたウイルスで増殖培地中の細胞を感染し、iii)ウイルスにPCV2 ORF2からの組換えタンパク質を発現させ、iv)発現されたORF2タンパク質を上清から回収し、v)M.hyoバクテリンおよび適切なアジュバントと共に、適切なアジュバントおよび/または他の薬学的に許容される担体と回収されたタンパク質とを混合することにより組成物を製造する工程を含む。本免疫原性組成物の成分の長期安定性によって、混合後最大3年まで組成物を動物に投与することができる。本明細書記載の組成物の好ましい形態は、約1.22を超えるRP値、より好ましくは約1.22?約4.5、よりさらに好ましくは約1.22?3.5、最も好ましくは約1.22?2.8のRP値を有するM.hyo部分を有する。1.22というRP値と関連するM.hyo抗原量の40分の1で処理されたマウスの95%、より好ましくは100%が、M.hyo特異抗体検出アッセイを用いて処理後21日以内または21日目に、またはM.hyo抗原の投与後に、検出可能な量の抗体を発生する場合、M.hyoのRP値は約1.22より大きいという。」

第5 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「使用直前にその場で他の抗原と混合されるよう構成された組み合わせワクチンを調合するためのキット」は、本願発明の「ワクチン免疫剤を現場で調製するためのキット」に相当する。
引用発明の「マイコプラズマ・ヒオニューモニアエ抗原」「及び液体の担体」は、本願発明の「液体」である「マイコプラズマワクチン」に、同様に、「ブタサーコウイルス抗原」「及び液体の担体」は、「液体」である「シルコウイルスワクチン」に、それぞれ相当する。
そうすると、引用発明の「キット」が「ローソニア・イントラセルラーリス抗原及び液体の担体をその中に含有する第一の容器」と「マイコプラズマ・ヒオニューモニアエ抗原、ブタサーコウイルス抗原及び液体の担体をその中に含有する1つ又はそれ以上の他の容器」とを備えたものであることと、本願発明の「キット」が「マイコプラズマワクチン及びシルコウイルスワクチンのうちの第一の成分を含」む「液体」である「第一の出発物質」で「満たされた第一の容器」及び「マイコプラズマワクチン及びシルコウイルスワクチンのうちの他方の成分を含」む「液体」である「第一のものと異なる第二の出発物質」「を含む第二の容器」を含むものであることとは、「少なくともマイコプラズマワクチン及びシルコウイルスワクチンを含む二種以上の液体の出発物質を分けて含むようにした2つ以上の容器を備えている」点で共通している。

そうすると、両者は、
「ワクチン免疫剤を現場で調製するためのキットであって、該キットが、少なくともマイコプラズマワクチン及びシルコウイルスワクチンを含む二種以上の液体の出発物質を分けて含むようにした2つ以上の容器を備えている、
前記キット。」
である点で一致し、次の点で相違する。

(1)相違点1
キットが少なくともマイコプラズマワクチン及びシルコウイルスワクチンを含む二種以上の液体の出発物質を分けて含むようにした2つ以上の容器を備えている点に関して、本願発明の「キット」は、「マイコプラズマワクチン及びシルコウイルスワクチンのうちの第一の成分を含」む「液体であ」る「第一の出発物質」で「満たされた第一の容器」及び「マイコプラズマワクチン及びシルコウイルスワクチンのうちの他方の成分を含」む「液体であ」る「第一のものと異なる第二の出発物質」「を含む第二の容器」を含むものであるのに対して、引用発明の「キット」は、「ローソニア・イントラセルラーリス抗原及び液体の担体をその中に含有する第一の容器」と「マイコプラズマ・ヒオニューモニアエ抗原、ブタサーコウイルス抗原及び液体の担体をその中に含有する1つ又はそれ以上の他の容器」とを備えたものである点。

(2)相違点2
本願発明では、キットが、「容器の少なくとも1つが操作側で閉鎖装置により閉鎖されており、さらにアダプター装置によって該閉鎖装置が貫通されて初めて及び/又はそのときだけ、第二の容器が第一の容器とつながることができ、それによって第二の出発物質が第一の容器に入り、そこで第一の出発物質とともにワクチン免疫剤を形成」するものであり、かつ、「第一の容器」は「第一の出発物質で部分的にのみ満たされ」、「第二の容器は第二の出発物質で少なくとも実質的に満たされ、第一の容器の総体積が、第一の出発物質の体積を少なくとも第二の出発物質の体積だけ超え、第一の容器中の気体の体積が、第二の出発物質の体積を2%より多く超え」る構成とされているのに対し、引用発明では、キットがそのような構成を備えるか否か明らかでない点。

第6 判断
上記相違点について検討する。
(1)相違点1について
引用発明のローソニア・イントラセルラーリス抗原、マイコプラズマ・ヒオニューモニアエ抗原及びブタサーコウイルス抗原からなる組み合わせワクチンを調合するためのキットにおいて、マイコプラズマ・ヒオニューモニアエ抗原とブタサーコウイルス抗原とは「1つ又はそれ以上」の容器に格納されるものであるところ、特に、上記第4の1(1-1)ウ.の「従来技術から公知のように1つの容器中に組み合わされ、又はキットの内容物の一部を形成する別個の容器中に存在する場合さえある。」という記載からもわかるとおり、ローソニア・イントラセルラーリス抗原とは異なる他の抗原であるマイコプラズマ・ヒオニューモニアエ抗原及びブタサーコウイルス抗原を、別個の容器中に存在させることについて示唆されているということができる。そして、優先日前において、マイコプラズマ・ヒオニューモニアエ抗原及びブタサーコウイルス抗原は、それぞれ個別に単独の容器に保存され販売されていたことが知られている。(例えば、特開平7-118167号公報の段落【0006】及び「マイコバスター」(http://www.kashiken.co.jp/products/cat02/000060.html)、「動薬検ニュース」No.283の「新薬等紹介」欄の「サーコバック」(http://www.maff.go.jp/nval/kouhou/dyknews/gaiyou/pdf/no283.pdf)を参照。)
そして、上記第4の2(2-1)オ.に記載されたとおり、マイコプラズマ抗原とブタサーコウイルス抗原の組み合わせワクチンは長期安定性(混合後最大3年まで動物に投与可能)を有することも知られているが、一方で、同上ウ.に記載されたとおり、抗原が別個の容器中に存在することで製造上の無駄をより少なくするという利点のあることも知られている。
してみると、上記の示唆及び利点を踏まえれば、引用発明の組み合わせワクチンを調合するためのキットについて、ローソニア・イントラセルラーリス抗原とは別個の容器に含有させる限りにおいて、ローソニア抗原、マイコプラズマ抗原及びブタサーコウイルス抗原用にそれぞれ別個の容器からなるキットとすること、すなわち、相違点1に係る本願発明の構成とすることに、何ら困難性はない。ここで、本願発明は、第一の出発物質であるマイコプラズマワクチン及びシルコウイルスワクチンのうちの第一の成分を含む第一の容器と、第二の出発物質であるマイコプラズマワクチン及びシルコウイルスワクチンのうちの他方の成分を含む第二の容器を「含む」キットであることが発明特定事項として特定されるところ、当該容器が2つのみである場合だけでなく、第三の出発物質及び第三の容器をさらに含むことについて排除するものではないと解される。また、上記第4の2(2-1)エ.に記載のとおり、マイコプラズマ・ハイオニューモニエ抗原およびブタサーコウイルス2型抗原を混合した組み合わせワクチンについて、他のワクチンをさらに混合せずに利用することも知られていることからも、引用発明の「1つ又はそれ以上の容器」として具体的に容器を2個以上とし、マイコプラズマ抗原用及びブタサーコウイルス抗原用は別個の容器に含有させるキットとすることに、格段の困難性はない。

(2)相違点2について
引用発明においては、キットを構成するものとして、それぞれ別の容器に格納された抗原が開示されており、これらの抗原は混合されて混合ワクチンを形成するものであるが、この混合を具体的にどのように行うかについては、引用文献1に開示されていない。
しかし、本願の優先日前に頒布された、周知の事項を示す文献として例示した引用文献3の明細書第3ページ第1-13行には、「液体移送針はそれぞれ平行となった導液路2および通気路3を具えた両刃針4と該両刃針の中央部を支持するホルダー5とによって構成され、図示のごとく両刃針4を上下の医薬瓶の口部を密閉しているゴム栓6、6に穿入させ該瓶の口部外端面をホルダー5に当接せしめるとき、導液開口7の基端部8と外端部9との間にゴム栓6の内端面10が位置するごとく構成されているので液体移送に際して上方の瓶内に薬液の残留を生じることがなく全量が下方の粉末薬品瓶内に移送され、また溶解を完全とするために全体の逆転を繰り返しても常に薬液残留のない液体移送が行われる。」と記載されている。
また、本願の優先日前に頒布された、周知の事項を示す文献として例示した引用文献4の明細書第2ページ第7-16行には、「二通路を有する針1、針基口径部2及び2a、ステー3、補強板4とが一体に硬質の合成樹脂等で成型された二薬剤を混合する針基イを構成し、この針基イのステー3に嵌合するアダプター5は該針基イの材質と同様の硬質な合成樹脂で成型し内径壁5aと外径壁5bとを二重に構成し各々が弾力性を有している。該針基イに小径の口栓を有する薬剤容器ロをアダプター5を介して保持し、被混合用薬剤の容器は容器イよりも口径が大きく針基イの口径大の側の針基口径部2aに嵌合している。」と記載されている。
したがって、一方の容器に格納された薬剤に対して他方の容器に格納された薬液を導液して混合する技術において、それぞれ閉鎖装置によって閉鎖された2つの容器と、これら2つの容器の閉鎖装置を貫通して一方の容器を他方の容器につなげる液体移送針や針基に相当する部材(本願発明の「アダプター装置」に相当。)とを用いることは、本願の優先日前周知の事項であるといえる。
また、上記引用文献3の明細書第3ページ第9-13行には「液体移送に際して上方の瓶内に薬液の残留を生じることがなく全量が下方の粉末薬品瓶内に移送され、また溶解を完全とするために全体の逆転を繰り返しても常に薬液残留のない液体移送が行われる。」と記載され、上記引用文献4の第1図には、導液される側の容器ハの総体積が、導液される側の薬剤の体積を少なくとも導液する側の薬液の体積だけ超え、導液される側の容器ハ中の気体の体積が、導液する側の薬液の体積を超えている点が記載されているように、薬剤に対して薬液の全量を導液して混合を行う場合に、導液される側の容器の総体積が、導液される側の薬剤の体積を少なくとも導液する側の薬液の体積だけ超える構造とされるべきことは当業者にとって明らかであり、さらに、どの程度超える構造とするかは、当業者が必要に応じて適宜設定し得る事項というべきである。
そして、上記相違点1、2を総合的に勘案しても、本願発明の奏する作用効果は、引用発明、引用文献1、2の記載事項及び引用文献3、4にみられるような周知の事項の奏する作用効果から当業者が予測し得る範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。
よって、本願発明は、引用発明、引用文献1、2に記載の技術的事項及び引用文献3、4にみられるような周知の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第7 請求人の主張に対して
請求人は、令和1年12月5日提出の意見書において、「仮に、引用文献1に記載の発明において、当業者が、「マイコプラズマ・ヒオニューモニアエ」と「ブタサーコウイルス抗原」とを別々の容器に充填しておこうと考えたとすると、「ローソニア抗原」用の容器に加えて、「マイコプラズマ・ヒオニューモニアエ」用の容器と、「ブタサーコウイルス抗原」用の容器とが必要になります。すなわち、3個の容器が必要になります。一方、引用文献3及び4に記載されたキットは、2つの容器しか含んでおりません。2つの容器しか含まない引用文献3及び4に記載されたキットを、3つの容器を必要とする引用文献1に記載の発明において採用することは、物理的に不可能です。従って、引用文献3及び4に接した当業者といえども、引用文献1に記載の発明において、相違点2に係る構成に至ることは容易ではなく、本発明は進歩性を有しているものと思量します。」と主張する。
引用発明に対し、引用文献3、4に例示された周知の事項の適用を試みる場合に、仮にローソニア抗原用の容器を含む3つの容器があったとしても、2つの容器の閉鎖装置を貫通して一方の容器を他方の容器につなげる液体移送針や針基に相当する部材を適宜利用して混合できることは、当業者であれば当然理解できることである。そして、キットを3つの容器とする際には、それらに含有された液体を混合するための容器の容量をキットの容器が3つになったことを踏まえた分だけ多くしておく等の調整は、当業者が当然配慮すべき設計事項にすぎない。
よって、請求人の上記主張は当を得たものではなく、採用することができない。

第8 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明、引用文献1、2に記載の技術的事項及び引用文献3、4にみられるような周知の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2020-02-14 
結審通知日 2020-02-17 
審決日 2020-02-28 
出願番号 特願2014-551574(P2014-551574)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A61D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 宮部 愛子  
特許庁審判長 芦原 康裕
特許庁審判官 栗山 卓也
関谷 一夫
発明の名称 ワクチン免疫剤調製用キット  
代理人 服部 博信  
代理人 市川 さつき  
代理人 山崎 一夫  
代理人 田中 伸一郎  
代理人 浅井 賢治  
代理人 弟子丸 健  
代理人 箱田 篤  
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