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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H04R
管理番号 1364354
審判番号 不服2018-10024  
総通号数 249 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-09-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-07-23 
確定日 2020-07-13 
事件の表示 特願2015-524216「耳珠下耳ユニット」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 1月30日国際公開、WO2014/017922、平成27年 8月 6日国内公表、特表2015-523039〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2013年(平成25年)7月29日(優先権主張外国庁受理 2012年(平成24年)7月27日 欧州特許庁)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は、概略、以下のとおりである。
平成29年 4月20日:拒絶理由通知
平成29年10月20日:意見書
平成29年10月20日:手続補正書
平成30年 3月19日:拒絶査定
平成30年 7月23日:審判請求
令和 1年 6月21日:拒絶理由通知
令和 1年12月24日:意見書
令和 1年12月24日:手続補正書

第2 本願発明
本願の請求項1ないし7に係る発明は、令和1年12月24日付け手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。
なお、符号(A)?(E)は、説明のために当審において付与したものであり、以下、構成A?構成Eと称する。

(A)耳珠下(sub-tragus)耳ユニットであって、
(B)耳に対して前記耳ユニットの安定着用を提供するように構成されたアンカー(200)と、
(C1)音を提供するように構成された変換器を備えていて前記アンカーへ接続されている聴音要素(350)と、を備えていて、
(C2)前記聴音要素に開きが設けられている、
(A)耳珠下耳ユニット(100)において、
(D)前記耳ユニットが耳甲介(24)と耳珠(21)を有する耳の中へ位置付けられたとき、前記開き(352、356)が、前記耳珠(21)によって少なくとも部分的に覆われた耳甲介(24)の一部であって耳珠(21)のすぐ内側である耳珠下領域(28)に進入するように構成され、
(E)前記開きは、外耳道への開口部に面する、
(A)ことを特徴とする、耳珠下耳ユニット。

第3 拒絶の理由
令和1年6月21日付けで当審が通知した拒絶理由のうち理由2の請求項1に係る発明の拒絶の理由の概要は、次のとおである。
本件出願の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


引用文献1:特開2002-58086号公報
引用文献2:特開昭60-173995号公報
引用文献3:実願昭58-133359号(実開昭60-40187号)のマイクロフィルム(周知技術を示す文献)

第4 引用文献の記載及び引用発明
1 引用文献1の記載
上記引用文献1には、以下の事項が記載されている(下線は、当審で付したものである。以下同じ。)。

「【0011】
【発明の実施の形態】以下、本発明に係るイヤホンカバーを図面で詳述する。図1(a),(b),(c)は本発明に係るイヤホンカバーの側面図、及び正面図,(c)はイヤホンに装着時のイヤホンカバー正面図である。尚、本実施の形態では図2(a),(b)に示すイヤホンに本発明を適用した場合として説明するが異なる形状のイヤホンにも適用することができるものである。更に本実施の形態では、左右対称な一対のイヤホンを用いるが一方のみにつき説明する。
【0012】図2(a),(b)に示す如くイヤホンは電気音響変換素子3が収納された合成樹脂から形成されたハウジング5とこのハウジング5の下端から延設されたコード保持部7と外部接続用コード9とを有し前記ハウジング5が耳介11の略中心である耳甲介腔13に嵌合されるようになされていることは、前述の通りである。
【0013】図2(c)はイヤホンに装着する従来のイヤホンカバーであり、従来のイヤホンカバー24のハウジング挿入部10aを、前記図2(a),(b)のイヤホン1のハウジング5の一端開放側より、被覆する如くして装着する。そして、装着状態となったイヤホンカバー24とイヤホン1の一体型を耳甲介腔に嵌合する。尚、従来のイヤホンカバー24の素材はポリウレタンやスポンジ素材が一般的である。
【0014】前記従来のイヤホンカバー24に本実施の形態では係止部材4が設けられている。その際ハウジング保持部14、出力ホール8を形成する材質はシリコンラバー等の軟質部材の適用が望ましい。尚、出力ホールの形状は、種々変形、変更できる。この係止部材4は、耳介11の略中心である耳甲介腔13より耳甲介舟15の後部15aに略円弧状に延び、先端4aが耳甲介舟15の前部15bの側頭部に近接する側の凹部17に嵌合されるようになされている。この時、係止部材4の基端から先端にかけての何れかの個所が、凸部15dの下側15gを押圧することにより、係止部材4の嵌合がなされる。また、係止部材4の先端4aが外方に湾曲されている。尚、係止部材4の先端4a側を外方に湾曲されるものに限定されず、内方に湾曲されることもある。これらの場合、先端4aが外側に湾曲されれば、先端4aは延設部15eもしくは前部15b付近の内側の壁面を押圧し、また先端4aが内側に湾曲されれば凹部17を押圧することで、ハウジング5を耳甲介腔13に密着させることができる。
【0015】前記、図1(a),(b)のイヤホンカバー2における係止部4の構造はハウジング保持部14、及び出力ホール8を構成するシリコンラバー等の軟質部材にて、単一構成の一体化として、係止部4を形成し、図3(i)に示す如く係止部4の一部もしくは全体に軟質樹脂等によるコーティング19を施すことにより係止部4の強度を得る。また、図3(g),(h)に示す如く軸材18を係止部の略中心に形成し、係止部4の強度を得ることもできる。尚、軸材18の形状は軸材18のみの形状に限定されず様々な変形、変更が可能である。軸材18(a)はその変形の一例である。
【0016】一般的に、耳介は、図4(a),(b)に示す如く、外耳道としての内端に鼓膜が形成された外耳道12と、この外耳道12と連通する耳甲介腔13と、この耳甲介腔13の上部の耳甲介腔15とを備え、下部には耳朶16が形成されている。この耳甲介舟15の前部15bの凹部17は耳甲介舟15の上端の壁部15cより下方に位置する略円弧状の凸部15dの下部に形成され、また凹ぶ17の前端17aは耳甲介舟の15の上端の壁部15cの側頭部に近接する側の延接部15eで被覆されている。前記凹部17の下部で耳甲介腔13の上部に小突起15fが形成され、また耳甲介腔13は外耳道12に近接するに従い奥深くなるように形成されている。
【0017】図1(a)、(b)のイヤホンカバー2をイヤホン1のハウジング5の一端開放側からハウジング挿入口10を当てがい、ハウジング5を被覆する如くして装着する。そして、前記係止部材4を略円弧状の凸部15dと小突起15fとの間に挿入し、係止部材4の先端4aを耳甲介舟15の前部15bの側頭部に近接する側の凹部17に嵌合させて係止状態とした後、耳甲介腔13にハウジング5を挿入することにより、図1(c)のカバー装着後のイヤホンが耳介11に取り付けられる。係止部材4は略円弧状に延びているので、耳甲介舟15の大きさに大小の個人差があったり、多少変形していても係止部材4の略円弧状の形状が個人差や多少の変形を吸収することができる。
【0018】これにより、外部接続用コード9を、図4(a)に矢印a及び矢印bで示す如く、下方または後方に引張力が加えられた場合に、ハウジング5が挿入された耳甲介腔13を中心に回動しようとするが、係止部4の先端4aが凹部17の前端17aに当たり、係止部材4の先端4aから基端4bの何れかの個所が凸部15dの下側15gを押圧するため、ハウジング5が耳甲介腔13よりずれたり脱落することがない。また、ハウジング5を無理に押し込むことなくハウジング5を耳甲介腔に係止することができる。
【0019】また、イヤホンカバー2をハウジング5に装着した後、イヤホンカバー2がハウジング5を中心に大きく回動することはない。このことは、前述の如くイヤホンカバー2のハウジング保持部14、出力ホール8を形成する材質をシリコンラバー等の軟質部材を用いることにより、樹脂などで形成されるハウジング5に対して、密着、係止状態になることから、明らかである。」

「【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係るイヤホンカバーを示すもので、(a)は側面図、(b)は正面図、(c)はイヤホンに装着後の正面図。
【図2】従来のイヤホン及びイヤホンカバーを示すもので、(a)は側面図、(b)は使用状態の正面図、(c)は従来のイヤホンカバーの正面図。
【図3】本発明に係るイヤホンカバーの係止部材の異なる実施の形態、及び係止部材の構造を夫々示すもので、(a)?(f)は係止部材の先端の一部正面図。(g)?(i)は係止部材の構造の正面図。
【図4】本発明に係るイヤホンカバーを示すもので(a)は使用状態の正面図、(b)は耳介の一部拡大正面図。
【符号の説明】
1 イヤホン
2 イヤホンカバー
3 電気音響変換素子
4 係止部
4a 先端
4b 基端
4c 突出部
5 ハウジング
6 保護板
7 コード保持部
8 出力ホール
9 外部接続用コード
10 ハウジング挿入口
10a ハウジング挿入部
11 耳介
12 外耳道
13 耳介甲腔
14 ハウジング保持部
15 耳甲介舟
15a 後部
15b 前部
15c 壁部
15d 凸部
15e 延設部
15f 小突起
15g 下側
16 耳朶
17 凹部
17a 前端
18 軸材
18a 軸材変形例
19 樹脂コーティング
24 従来のイヤホンカバー」

「【図1】



「【図2】



「【図4】



2 引用発明
(1)イヤホン1
引用文献1の段落【0011】と段落【0017】の図1(c)に関する記載によれば、引用文献1には、「イヤホンカバー2を装着したイヤホン1」が記載されている。

(2)イヤホンカバー2の構成
上記「イヤホンカバー2」は、【0015】の記載、及び、図1(a)(b)の記載によれば、「係止部材4、ハウジング挿入口10と出力ホール8を形成したハウジング保持部14を、シリコンラバー等の軟質部材にて単一構成の一体化としたもの」である。

(3)イヤホン1の構成
上記「イヤホン1」は、段落【0012】の記載によれば、「電気音響変換素子3が収納されたハウジング5、コード保持部7、外部接続用コード9」を有するものである。

(4)イヤホンカバー2のイヤホン1への装着
上記「イヤホンカバー2」と「イヤホン1」は、段落【0017】の記載によれば、「イヤホンカバー2をイヤホン1のハウジング5の一端開放側からハウジング挿入口10を当てがい、ハウジング5を被覆する如くして装着」するものである。

(5)係止の構成
上記「イヤホンカバー2を装着したイヤホン1」は、【0017】の記載によれば、「係止部材4の先端4aを耳甲介舟15の前部15bの側頭部に近接する側の凹部17に嵌合させて係止状態とした後、耳甲介腔13にハウジング5を挿入することにより、カバー装着後のイヤホンが耳介11に取り付けられる」ものである。

(6)引用発明
以上(1)?(5)によれば、引用文献1には、図面とともに、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
なお、引用発明の符号(a)?(e)は、説明のために当審において付与したものであり、以下、構成a?構成eと称する。

[引用発明]
(a)イヤホンカバー2を装着したイヤホン1であって、
(b)イヤホンカバー2は、係止部材4、ハウジング挿入口10と出力ホール8を形成したハウジング保持部14を、シリコンラバー等の軟質部材にて単一構成の一体化としたものであり、
(c)イヤホン1は、電気音響変換素子3が収納されたハウジング5、コード保持部7、外部接続用コード9を有し、
(d)イヤホンカバー2をイヤホン1のハウジング5の一端開放側からハウジング挿入口10を当てがい、ハウジング5を被覆する如くして装着し、
(e)係止部材4の先端4aを耳甲介舟15の前部15bの側頭部に近接する側の凹部17に嵌合させて係止状態とした後、耳甲介腔13にハウジング5を挿入することにより、カバー装着後のイヤホンが耳介11に取り付けられる、
(a)イヤホンカバー2を装着したイヤホン1。

3 周知のイヤホンの例
(1)実願昭58-133359号(実開昭60-40187号)のマイクロフィルム

「1はイヤホーンユニット本体の収納ケースで全体を肌触りの良いレザー,スポンジ等の被覆体2で包んである。3は収納ケース1から引出したリード線,4は収納ケース1と一体に設けた掛止部材で,その先端部はU字状に折曲げられており,耳介5の耳輪5aと連続し外耳道入口7の上部に突出する軟骨でできた耳輪脚6に掛止するようになっている。」(第2頁第9-17行)

「本考案イヤホーンは上記の構成であるから,第2図に示すように収納ケース1を外耳道7の入口に一致させて,耳甲介腔8内に装着し,掛止部材4の先端掛止部4aを耳輪脚6に引掛けると,収納ケースの重量および下方に垂下するリード線3の重量が耳甲介腔8の底部8aにかかるとともに収納ケース1の後面が耳珠9,対珠10で押えられるため,収納ケース1は耳甲介腔8内に確実に装着保持される。」(第3頁第3-11行)





(2)特開昭60-173995号公報

「上述した構成のイヤースピーカは第3図に示す耳介に装着されるものであるが、耳介には外耳道(耳孔)aの入口の直前に耳甲介腔bなるくぼみ部があり、後頭部側に拡っている。また側頭部のつけ根に耳珠cがあり、耳珠cと耳甲介腔bをはさんで対する所に対珠dがあり、結局耳珠cと対珠dにより外耳道aの入口と耳甲介腔bが覆われる形となっている。前記耳珠c,対珠d,耳甲介腔bは主に軟骨によってその形が作られ、それらが表面の弾性をもって皮膚等の表面組織で包まれており、全体として曲げ弾性力を有する。
従って、上述したイヤースピーカを耳介の耳甲介腔bに挿入して装着した場合、前部ケース4の先端Aは耳甲介腔bの壁面に当り、球中心よりある一定角をもった軸B2と球面が交わる付近に外耳道aの入口が位置することになる。」(第2頁左下欄第19行-右下欄第14行)





(3)国際公開第2007/063726号

「第8図は、第7図で示された実施例2のイヤースピーカが耳甲介腔に保持された状態を示す図である。耳甲介腔に張り出た耳珠42と対珠43および対耳輪44によりハウジング32の後側が保持され、耳珠42と対珠43の間の窪んだ耳珠間切痕45にハウジング32と一体化されたコード導出部46が配置される。コード導出都46によって隠される耳珠間切痕45、および耳珠42と対珠43によって覆われるハウジング32とイヤーパッド33の一部は破線で示される。」(第9頁第3-8行)






(4)特開2010-283643号公報

「すなわち、耳甲介腔装着型イヤホン装置は、例えば図8に示すように、耳珠17、対珠19、耳甲介21で囲まれた耳甲介腔23に、振動膜7を耳甲介21に近接させるようにしてケース本体1を挿入して使用する構成を有している。」(段落【0006】)

「【図8】



(5)実願昭56-193959号(実開昭58-104077号)のマイクロフィルム

「外筐本体10の背部外周面10bは、外筐本体10を耳甲介腔13内に挿入したとき、耳珠部20及び対珠部21の二箇所A、Bで充分に当接支持される」(第5頁第2-5行)





第5 本願発明と引用発明との対比
1 構成A、構成Dについて
構成aの「イヤホンカバー2を装着したイヤホン1」は、構成Aの「耳ユニット」に相当し、本願発明と引用発明は、「耳ユニット」である点で共通する。
しかしながら、本願発明は、「(D)前記耳ユニットが耳甲介(24)と耳珠(21)を有する耳の中へ位置付けられたとき、前記開き(352、356)が、前記耳珠(21)によって少なくとも部分的に覆われた耳甲介(24)の一部であって耳珠(21)のすぐ内側である耳珠下領域(28)に進入するように構成され」た「(A)耳珠下(sub-tragus)耳ユニット」であるのに対し、引用発明は、「耳ユニット」とはいえるものの、そのように構成された「耳珠下耳ユニット」といえるものであるか否か明らかではない点で両者は相違する。

2 構成Bについて
構成bの「イヤホンカバー2」にもうけられた「係止部材4」は、構成eによれば、「先端4aを耳甲介舟15の前部15bの側頭部に近接する側の凹部17に嵌合させて係止状態とした後、耳甲介腔13にハウジング5を挿入することにより、カバー装着後のイヤホンが耳介11に取り付けられる」ようにするためのものであり、これにより、段落【0018】に記載された、「ハウジング5が耳甲介腔13よりずれたり脱落することがない。また、ハウジング5を無理に押し込むことなくハウジング5を耳甲介腔に係止することができる。」との効果が得られるものであるから、構成Bの「耳に対して前記耳ユニットの安定着用を提供するように構成されたアンカー(200)」に相当するものである。
したがって、本願発明と引用発明は、構成Bを備える点で一致する。

3 構成C1、C2について
構成bの「ハウジング挿入口10と出力ホール8を形成したハウジング保持部14」は、構成c、dによれば、電気音響変換素子3が収納されたハウジング5が、ハウジング挿入口10から挿入されて装着されているといえ、また、係止部材4と一体化されている。ここで、「電気音響変換素子3」、「係止部材4」は、構成C1の「音を提供するように構成された変換器」、「アンカー(200)」に相当するから、構成bの「ハウジング保持部14」は、構成C1の「音を提供するように構成された変換器を備えていて前記アンカーへ接続されている聴音要素(350)」に相当する。
また、構成bの「ハウジング保持部14」に「出力ホール8」が形成されていることは、構成C2の「前記聴音要素に開きが設けられている」ことに相当する。
したがって、本願発明と引用発明は、構成C1、C2の点で一致する。

4 構成Eについて
構成bの「出力ホール8」(構成Eの「開き」に相当)は、カバー装着後のイヤホンが耳介11に取り付けられたときに、電気音響変換素子3が収納されたハウジング5から音を外耳道12へ出力するためのものであり、外耳道12への開口部に面することは明らかである。
このことは、構成Eの「前記開きは、外耳道への開口部に面する」ことに相当する。
したがって、本願発明と引用発明は、構成Eの点で一致する。

5 一致点、相違点
以上をまとめると、本願発明と引用発明の一致点、相違点は、次のとおりである。

(一致点)
(A’)耳ユニットであって、
(B)耳に対して前記耳ユニットの安定着用を提供するように構成されたアンカー(200)と、
(C1)音を提供するように構成された変換器を備えていて前記アンカーへ接続されている聴音要素(350)と、を備えていて、
(C2)前記聴音要素に開きが設けられている、
(A’)耳ユニット(100)において、
(E)前記開きは、外耳道への開口部に面する、
(A’)ことを特徴とする、耳ユニット。

(相違点)
本願発明は、「(D)前記耳ユニットが耳甲介(24)と耳珠(21)を有する耳の中へ位置付けられたとき、前記開き(352、356)が、前記耳珠(21)によって少なくとも部分的に覆われた耳甲介(24)の一部であって耳珠(21)のすぐ内側である耳珠下領域(28)に進入するように構成され」た「(A)耳珠下(sub-tragus)耳ユニット」であるのに対し、引用発明は、「耳ユニット」とはいえるものの、そのように構成された「耳珠下耳ユニット」といえるものであるか否か明らかではない点。

第6 判断
上記相違点について検討する。
耳介の構造において、耳甲介腔は、その下部の一部が耳珠に覆われている。
耳甲介腔に挿入すると、耳甲介腔の耳珠に覆われた部分にも進入する構造のイヤホンはごく普通に知られた周知のものであり(上記「第4 3 周知のイヤホンの例」を参照されたい。)、そのような構造とすることによりイヤホンの装着が確実となることは当業者に明らかなことである。
したがって、引用発明において、装着を確実とするために、耳甲介腔13に、ハウジング5(及びハウジング5を被覆するイヤホンカバー2の出力ホール8)を挿入すると、耳珠に覆われた部分にも進入する構造とすること、すなわち、引用発明において、「(D)前記耳ユニットが耳甲介(24)と耳珠(21)を有する耳の中へ位置付けられたとき、前記開き(352、356)が、前記耳珠(21)によって少なくとも部分的に覆われた耳甲介(24)の一部であって耳珠(21)のすぐ内側である耳珠下領域(28)に進入するように構成され」た「(A)耳珠下(sub-tragus)耳ユニット」とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。
したがって、本願発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第7 むすび
以上のとおりであるから、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2020-02-17 
結審通知日 2020-02-18 
審決日 2020-03-03 
出願番号 特願2015-524216(P2015-524216)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H04R)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 岩田 淳  
特許庁審判長 清水 正一
特許庁審判官 菊池 智紀
千葉 輝久
発明の名称 耳珠下耳ユニット  
代理人 宮前 徹  
代理人 小野 新次郎  
代理人 山本 修  
代理人 中西 基晴  
代理人 小畑 統照  

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