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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G06F |
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管理番号 | 1364422 |
審判番号 | 不服2019-8688 |
総通号数 | 249 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2020-09-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2019-06-28 |
確定日 | 2020-08-04 |
事件の表示 | 特願2015- 92317「プログラマブルデバイス、情報処理装置、およびプログラマブルデバイスにおける処理回路の制御方法」拒絶査定不服審判事件〔平成28年12月15日出願公開、特開2016-212460、請求項の数(6)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は,平成27年4月28日の出願であって,平成30年3月26日付けで審査請求がなされ,同年12月20日付けで審査官により拒絶理由が通知され,これに対して平成31年3月5日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がなされたが,同年3月27日付けで審査官により拒絶査定(以下,これを「原査定」という)がなされ,これに対して令和1年6月28日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに手続補正がなされ,同年9月18日付けで審査官により特許法第164条第3項に定める報告(前置報告)がなされたものである。 第2 原査定の概要 原審における平成31年3月27日付けの拒絶査定は,概略,以下のとおりである。 本願の請求項1乃至6に係る発明は,以下の引用文献1及び引用文献2に基づいて,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下,「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 1.特開2008-182327号公報 2.特開2008-219806号公報 第3 本願発明 本願の請求項1乃至6に係る発明(以下,「本願発明1」乃至「本願発明6」という。)は,令和1年6月28日付けの手続補正の特許請求の範囲1乃至6に記載された,次のとおりのものである。 「 【請求項1】 メモリのうち書き換え可能な領域に格納され、アップデート可能な回路データである第1の設定情報により処理回路に論理構成を設定する回路データ設定部と、 前記第1の設定情報による設定が完了したか否かを判定する回路状況監視部と、 前記設定により前記処理回路とホストコンピュータとの通信が確立されたか否かを判定する通信状況監視部と、 を備え、 前記回路データ設定部は、前記設定が完了しなかったと判定された場合と、前記通信が確立されなかったと判定された場合に、前記メモリのうち書き換え禁止の領域に格納され、正常動作が保証されている回路データである、前記第1の設定情報と異なる第2の設定情報をメモリより読み出し、それに基づき前記処理回路に論理構成を設定し直すことを特徴とするプログラマブルデバイス。 【請求項2】 前記通信状況監視部は、前記第1の設定情報による設定が完了したと判定された場合に、前記通信が確立されたか否かを判定することを特徴とする請求項1に記載のプログラマブルデバイス。 【請求項3】 前記第1の設定情報を前記ホストコンピュータを介して接続した外部のコンピュータから更新するインターフェースをさらに備えたことを特徴とする請求項1または2に記載のプログラマブルデバイス。 【請求項4】 前記回路データ設定部および前記通信状況監視部の少なくとも一方は、前記通信が確立されなかったと判定された場合に、前記外部のコンピュータからアクセス可能なメモリにその旨を記録することを特徴とする請求項3に記載のプログラマブルデバイス。 【請求項5】 メモリのうち書き換え可能な領域に格納され、アップデート可能な回路データである第1の設定情報により処理回路に論理構成を設定する回路データ設定部を備えたプログラマブルデバイスと、 前記第1の設定情報による設定が完了したか否かを判定する回路状況監視部と、 前記設定により前記処理回路とホストコンピュータとの通信が確立されたか否かを判定する通信状況監視部と、 を備え、 前記回路状況監視部は前記設定が完了しなかったと判定した場合にその旨を前記回路データ設定部に通知し、 前記通信状況監視部は前記通信が確立されなかったと判定した場合にその旨を前記回路データ設定部に通知し、 前記回路データ設定部は、前記通知の少なくともいずれかがなされた場合に、前記メモリのうち書き換え禁止の領域に格納され、正常動作が保証されている回路データである、前記第1の設定情報と異なる第2の設定情報をメモリより読み出し、それに基づき前記処理回路に論理構成を設定し直すことを特徴とする情報処理装置。 【請求項6】 メモリのうち書き換え可能な領域に格納され、アップデート可能な回路データである第1の設定情報により処理回路に論理構成を設定するステップと、 前記第1の設定情報による設定が完了したか否かを判定するステップと、 前記設定により前記処理回路とホストコンピュータとの通信が確立されたか否かを判定するステップと、 前記設定が完了しなかったと判定された場合と、前記通信が確立されなかったと判定された場合に、前記メモリのうち書き換え禁止の領域に格納され、正常動作が保証されている回路データである、前記第1の設定情報と異なる第2の設定情報をメモリより読み出し、それに基づき前記処理回路に論理構成を設定し直すステップと、 を含むことを特徴とするプログラマブルデバイスにおける処理回路の制御方法。」 第4 引用例 1 引用例1に記載された技術的事項及び引用発明 原査定の拒絶の理由において引用した,本願の出願前に既に公知である,特開2018-182327号公報(平成20年8月7日公開。以下,これを「引用例1」という。)には,関連する図面とともに,次の技術的事項が記載されている。(下線は当審で説明のために付加。以下同様。) A 「【0003】 このプログラマブルデバイスとして、FPGA(Field Programmable Gate Array)を例に採って説明する。FPGAでは、「コンフィギュレーションデータ」と呼ばれるFPGAの動作を設定するための設定データがある。電源投入時に、FPGAはこのコンフィギュレーションデータを読み出すことにより、コンフィギュレーションデータに基づく動作を行う。このコンフィギュレーションデータを書き換えることで、FPGAで実現する機能を変更することが可能である。」 B 「【0018】 図1に示すように、外部装置であるパーソナルコンピュータ(PC)10と2つのFPGA21,22(図1では「FPGA1」、「FPGA2」で記す)を有したFPGA制御装置(FPGA搭載基板)20とを電気的に接続することで、FPGA搭載基板20はPC10に対して通信可能に接続する。FPGA制御装置(FPGA搭載基板)20は、この発明におけるプログラマブルデバイス制御装置に相当する。」 C 「【0021】 フラッシュメモリ25は、図2に示すように、A面領域25AとB面領域25Bとを有している。A面領域25Aは、外部装置であるPC10(図1を参照)との通信機能を少なくとも含んで限定したFPGA21(図1を参照)のコンフィギュレーションデータの格納領域である。B面領域25Bは、FPGA21のコンフィギュレーションデータの格納領域であるFPGA1領域25aと、FPGA22(図1を参照)のコンフィギュレーションデータの格納領域であるFPGA2領域25bとを有している。各々のFPGA1領域25aおよびFPGA2領域25bは、A面領域25Aと相違し、FPGA21およびFPGA22の所定動作のうちで全ての機能を含んだコンフィギュレーションデータの格納領域である。」 D 「【0026】 FPGA通信部24AはFPGA21との通信を行う。具体的には、PC10(図1を参照)から更新すべきコンフィギュレーションデータをFPGA21に送信し、フラッシュメモリ25(図1、図2を参照)のB面領域25B(図2を参照)に書き込んで記憶するときに、FPGA21を介してPC10から送信されてきた更新すべきコンフィギュレーションデータ、およびそれを書き込むフラッシュメモリ25のアドレス(場合によってはFPGA2領域25bの場合もあるし、出荷時はA面領域25Aもある)をFPGA通信部24Aは受信する。そして、これらのデータやアドレスをFPGA通信部24Aはフラッシュメモリ制御部24Cに送信する。」 E 「【0029】 コンフィギュレーション動作監視部24Dはコンフィギュレーション動作が失敗か否かを判断するために監視する。具体的には、コンフィギュレーション動作時において各FPGA21,22がコンフィギュレーションデータの受信を正常に完了したら“「conf done」信号”と呼ばれる信号を、各FPGA21,22からコンフィギュレーションリード制御部24Bを介してコンフィギュレーション動作監視部24Dに転送する。もし、各FPGA21,22から送信されてきた「conf done」信号が所定時間内にコンフィギュレーション動作監視部24Dに達した場合には、コンフィギュレーション動作が成功して正常に完了したとコンフィギュレーション動作監視部24Dは判断する。また、例えば、フラッシュメモリ25へのコンフィギュレーションデータの書き込み中に電源が切断して電源がオフになり、データ転送ミスなどのフラッシュメモリ25への書き込みが正常に行われない場合、あるいは間違ったデータの書き込みを行った場合には、各FPGA21,22から送信されてきた「conf done」信号が所定時間内に到達しない。その場合にはタイムアウトとなって、コンフィギュレーション動作が失敗したとコンフィギュレーション動作監視部24Dは判断する。失敗して異常と判断された場合には、コンフィギュレーション動作監視部24Dからコンフィギュレーションリード制御部24Bに送信する。コンフィギュレーション動作監視部24Dは、この発明における読み出し動作判断手段に相当する。」 F 「【0039】 (ステップS8)通信確保 ステップS7で、電源オン後の動作が終了したら、PC10との通信をFPGA21が確保しているか否かを確認する。図5に示すフローでは、A面領域25Aに格納されるコンフィギュレーションデータは、PC10との通信機能を少なくとも含んでおり、装置の出荷後の通常の使用時には、そのコンフィギュレーションデータがA面領域25Aに予め記憶されているので、A面領域25Aに記憶されたコンフィギュレーションデータの読み出しによるコンフィギュレーション動作は失敗しない。したがって、通常の使用時にはPC10との通信を最小限にFPGA21は確保しているので、ステップS10に進む。」 G 「【0066】 本実施例に係るFPGA制御装置(FPGA搭載基板)およびその方法によれば、B面領域25BのFPGA1領域25aに記憶されたコンフィギュレーションデータを読み出してFPGA21に書き込むことで、FPGA21の所定動作をコンフィギュレーション制御部24は制御するとともに、コンフィギュレーション動作監視部24Dによって読み出し動作であるコンフィギュレーション動作が失敗と判断された場合に、A面領域25Aに記憶されたコンフィギュレーションデータを読み出してFPGA21に書き込むことで、外部装置であるPC10との通信の機能を少なくとも含んだFPGA21の動作をコンフィギュレーション制御部24は制御する。 【0067】 ここで、B面領域25Bには、FPGA21およびFPGA22の所定動作のうちで全ての機能を含んだコンフィギュレーションデータを記憶するとともに、A面領域25Aには、B面領域25Bの各々のFPGA1領域25a/FPGA2領域25bに記憶されたコンフィギュレーションデータに含まれる機能よりも少なく含み、かつPC10との通信機能を少なくとも含んだコンフィギュレーションデータを記憶している。したがって、A面領域25Aには、B面領域25Bに記憶されたコンフィギュレーションデータに含まれる機能よりも少なく含んだ分だけ、メモリの容量を低減させることができる。また、A面領域25Aには、PC10との通信機能を少なくとも含んだコンフィギュレーションデータを記憶しているので、コンフィギュレーション動作が失敗と判断された場合でも、A面領域25Aに記憶されたコンフィギュレーションデータを読み出してプログラマブルデバイスに書き込むことで、PC10との通信の機能を少なくとも含んだFPGA21の動作を行うことができる。したがって、外部装置であるPC10との通信の機能を少なくとも確保していれば、上述した特許文献1のようなフラグ管理、コンフィギュレーションデータのコピー処理などを行わなくても、一連の制御を再度行うことができ、より簡易な制御を行うことができる。」 上記A乃至Gの記載からすると,上記引用例1には次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「FPGA制御装置であって, コンフィギュレーションデータはFPGAの動作を設定するための設定データであり, フラッシュメモリは,A面領域とB面領域とを有しており,A面領域は,外部装置であるPCとの通信機能を少なくとも含んで限定したFPGA21のコンフィギュレーションデータの格納領域であり,B面領域は,FPGA21のコンフィギュレーションデータの格納領域であるFPGA1領域と,FPGA22のコンフィギュレーションデータの格納領域であるFPGA2領域とを有しており, PCから更新すべきコンフィギュレーションデータをFPGA21に送信し,フラッシュメモリのB面領域に書き込んで記憶するものであり, コンフィギュレーション動作監視部は,コンフィギュレーション動作が失敗か否かを判断するために監視するものであり, A面領域に格納されるコンフィギュレーションデータは,PCとの通信機能を少なくとも含んでおり,A面領域に記憶されたコンフィギュレーションデータの読み出しによるコンフィギュレーション動作は失敗しないものであり, FPGA制御装置では,B面領域のFPGA1領域に記憶されたコンフィギュレーションデータを読み出してFPGA21に書き込むことで,FPGA21の所定動作をコンフィギュレーション制御部は制御するとともに,コンフィギュレーション動作監視部によってコンフィギュレーション動作が失敗と判断された場合に,A面領域に記憶されたコンフィギュレーションデータを読み出してFPGA21に書き込むことで,PCとの通信の機能を少なくとも含んだFPGA21の動作を行うことができる FPGA制御装置。」 2 引用例2に記載された技術的事項 原査定の拒絶の理由において引用した,本願の出願前に既に公知である,特開2008-219806号公報(平成20年9月18日公開。以下,これを「引用例2」という。)には,関連する図面とともに,次の技術的事項が記載されている。 H 「【0013】 次に、この実施の形態1の動作について図1を用いて説明する。 このように構成された電気機器30において、マイコン4の初期化時には、マイコン4は、不揮発メモリ2に格納された複数のコンフィギュレーションデータ6のうち、通信処理用のコンフィギュレーションデータを選択して読み出し、マイコン4から、プログラマブルロジック1に通信処理するためのコンフィギュレーションデータ6を転送することにより、プログラマブルロジック1の回路を通信処理回路として構成する。(図2のステップS1) 【0014】 次に、マイコン4は、プログラマブルロジック1と通信線8を介して、他の電気機器30と通信を試みる(図2のステップS2)。そして、マイコン4から通信線8を介して、送信したデータに対する応答が有った場合(図2のステップS3においてNOの場合)には、マイコン4は通常処理を行う(図2のステップS7)。一方、マイコン4から通信線8を介して、送信したデータに対する応答が無かった場合や、通信線8上に一定期間通信データがなかったと判断した場合など、通信相手が存在しないと見なされた場合(図2のステップS3においてYESの場合)には、マイコン4は、他のコンフィギュレーションデータを不揮発メモリ2から読み出してプログラマブルロジック1に構成するコンフィギュレーションデータ6を上記他のコンフィギュレーションデータに切り換えて、プログラマブルロジック1を再構成する。 【0015】 即ち、マイコン4は、コンフィギュレーションデータ6を、別の通信処理方式(図1のコンフィギュレーションA(通信処理2))に変更して、プログラマブルロジック1を再構成する。(図2のステップS4)この場合においても、マイコン4から、送信したデータに対する応答が無かった場合や、通信線8上に一定期間通信データがなかったと判断した場合には、通信相手が存在しないと見なし、プログラマブルロジック1に構成するコンフィギュレーションデータ6をさらに他のコンフィギュレーションデータを不揮発メモリ2から読み出してプログラマブルロジック1に構成するコンフィギュレーションデータ6を上記さらに他のコンフィギュレーションデータに切り換えて、プログラマブルロジック1を再構成する。(図2のステップS5)」 上記Hの記載からすると,上記引用例2には次の技術が記載されていると認められる。 「マイコンは,不揮発メモリに格納された複数のコンフィギュレーションデータのうち,通信処理用のコンフィギュレーションデータを選択して読み出し,マイコンから,プログラマブルロジックに通信処理するためのコンフィギュレーションデータを転送することにより,プログラマブルロジックの回路を通信処理回路として構成し, 次に,マイコンは,プログラマブルロジックと通信線を介して,他の電気機器と通信を試み, 通信相手が存在しないと見なされた場合には,マイコンは,他のコンフィギュレーションデータを不揮発メモリから読み出してプログラマブルロジックを再構成することにより,コンフィギュレーションデータを,別の通信処理方式に変更して,プログラマブルロジックを再構成するマイコン。」 3 参考文献に記載された技術的事項 前置報告において,周知技術を示す文献として引用した,本願の出願前に既に公知である,特開2002-176582号公報(平成14年6月21日公開。以下,これを「参考文献」という。)には,関連する図面とともに,次の技術的事項が記載されている。 I 「【0044】 プログラムのダウンロード中にバッテリーが取り出されたり、SDRAM86へのプログラムの書き込み処理に失敗するなどして、プログラムが不正に書き換えられた場合にもカメラ10を正常に動作できるようにするため、カメラ10内には、カメラ10の最低限の動作に必要なプログラムを記憶した予備のフラッシュROM(以下、予備フラッシュROMという。)90が設けられている。何らかの理由でプログラムの書き換え処理に失敗しても、予備フラッシュROM90内のプログラムを用いてカメラを起動できるようになっている。予備フラッシュROM90は書き換えが禁止され、プログラム内容が保護されている。」 上記Iの記載からすると,上記参考文献には次の周知技術が記載されていると認められる。 「最低限の動作に必要なプログラムを記憶した予備のフラッシュROM(以下、予備フラッシュROMという。)が設けられており、何らかの理由でプログラムの書き換え処理に失敗しても、予備フラッシュROM内のプログラムを用いて起動できる。」 第5 対比・判断 1 本願発明1について (1)対比 本願発明1と引用発明とを対比する。 ア 引用発明の「FPGA」は信号を処理するための処理回路であるから,本願発明1の「処理回路」に相当し,引用発明の「コンフィギュレーションデータ」は,FPGA,すなわち処理回路の動作を設定するための設定データであり回路データあることは明らかであるから,本願発明1の「回路データ」に相当する。 また,引用発明の「フラッシュメモリのB面領域」は,更新すべきコンフィギュレーションデータを格納するメモリの領域であって,更新によって書き換え可能な領域であるから,本願発明1の「メモリのうち書き換え可能な領域」に相当する。そして,「更新」は「アップデート」といえるから,結局,引用発明の「フラッシュメモリのB面領域」に格納される「更新すべきコンフィギュレーションデータ」は,本願発明1の「メモリのうち書き換え可能な領域に格納され、アップデート可能な回路データである第1の設定情報」に相当する。 さらに,引用発明の「コンフィギュレーション制御部」は,B面領域のFPGA1領域に記憶されたコンフィギュレーションデータ,すなわち,第1の設定情報を読み出してFPGA21に書き込むことでFPGA21の所定動作を制御しているところ,第1の設定情報をFPGA21に書き込むことは,FPGA21に論理構成を設定していることに他ならないから,本願発明1の「第1の設定情報により処理回路に論理構成を設定する回路データ設定部」に相当する。 よって、本願発明1と引用発明とは、「メモリのうち書き換え可能な領域に格納され,アップデート可能な回路データである第1の設定情報により処理回路に論理構成を設定する回路データ設定部」を備えている点で一致する。 イ 引用発明では,B面領域のFPGA1領域に記憶されたコンフィギュレーションデータ,すなわち,第1の設定情報をFPGA21に書き込むことでコンフィギュレーション動作を行うものであって,コンフィギュレーション動作監視部が,前記コンフィギュレーション動作が失敗か否かを判断するために監視するものである。ここで,第1の設定情報によるコンフィギュレーション動作が失敗か否かを判断することは,「第1の設定情報による設定が完了したか否かを判定」しているといえるので,引用発明の「コンフィギュレーション動作が失敗か否かを判断するために監視する」「コンフィギュレーション動作監視部」は,本願発明1の「第1の設定情報による設定が完了したか否かを判定する回路状況監視部」に相当する。 ウ 引用発明では,「A面領域に格納されるコンフィギュレーションデータ」の読み出しによるコンフィギュレーション動作は失敗しないものであるから,前記「A面領域に格納されるコンフィギュレーションデータ」は,失敗することがありえるB面領域に格納されるコンフィギュレーションデータとは異なることは明らかであって,かつ,失敗しないことは「正常動作が保証されている」といえるから,結局、引用発明の「A面領域に格納されるコンフィギュレーションデータ」は,本願発明1の「正常動作が保証されている回路データである、前記第1の設定情報と異なる第2の設定情報」に相当する。 そして,引用発明の「A面領域に格納されるコンフィギュレーションデータ」は,「コンフィギュレーション動作監視部によってコンフィギュレーション動作が失敗と判断された場合」に,コンフィギュレーション制御部,すなわち,回路データ設定部によって読み出されてFPGA21に書き込まれるものであるから,コンフィギュレーション動作に失敗したFPGA21に対して,「A面領域に格納されるコンフィギュレーションデータ」によってコンフィギュレーションをし直しているといえ,処理回路の論理構成を設定し直しているといえる。 してみると,引用発明において,FPGA21の「コンフィギュレーション動作が失敗した場合」,「コンフィギュレーション制御部」によって,B面領域に格納されるコンフィギュレーションデータとは異なる正常動作が保証されている「A面領域に格納されるコンフィギュレーションデータ」を読み出してFPGA21の論理構成を設定し直すことは,本願発明1の「前記回路データ設定部は、前記設定が完了しなかったと判定された場合に、前記メモリに格納され、正常動作が保証されている回路データである、前記第1の設定情報と異なる第2の設定情報をメモリより読み出し、それに基づき前記処理回路に論理構成を設定し直す」ことに相当する。 エ 上記ア乃至ウで検討した事項を踏まえると,引用発明の「FPGA」,「コンフィギュレーション制御部」,「コンフィギュレーション動作監視部」は,それぞれ本願発明の「処理回路」,「回路データ設定部」,「回路状況監視部」に相当するものであって,FPGAはプログラマブルデバイスの一種であるから,引用発明の「FPGA,コンフィギュレーション制御部,及びコンフィギュレーション動作監視部」を備えた「FPGA制御装置」は,本願発明1の「処理回路,回路データ設定部,及び回路状況監視部」を備えた「プログラマブルデバイス」に相当する。 上記ア乃至エの検討から,本願発明1と引用発明とは,次の一致点及び相違点を有する。 <一致点> メモリのうち書き換え可能な領域に格納され,アップデート可能な回路データである第1の設定情報により処理回路に論理構成を設定する回路データ設定部と, 前記第1の設定情報による設定が完了したか否かを判定する回路状況監視部と, を備え, 前記回路データ設定部は,前記設定が完了しなかったと判定された場合に,前記メモリに格納され,正常動作が保証されている回路データである,前記第1の設定情報と異なる第2の設定情報をメモリより読み出し,それに基づき前記処理回路に論理構成を設定し直すことを特徴とするプログラマブルデバイス。 <相違点1> 本願発明1は,「前記設定により前記処理回路とホストコンピュータとの通信が確立されたか否かを判定する通信状況監視部」を備えており,前記設定が完了しなかったと判定された場合に加え,「前記通信が確立されなかったと判定された場合」にも,第2の設定情報に基づき処理回路に論理構成を設定し直しているのに対して,引用発明は,「通信状況監視部」を備えておらず,通信が確立されなかったと判定された場合にも第2の設定情報に基づき処理回路に論理構成を設定し直すことが記載されていない点。 <相違点2> 本願発明1では,第2の設定情報が「メモリのうち書き換え禁止の領域に格納され」ているのに対して,引用発明では,第2の設定情報がメモリのうち書き換え禁止の領域に格納されているとは特定していない点。 (2)相違点についての判断 相違点1について検討する。 本願発明1は,「前記設定により前記処理回路とホストコンピュータとの通信が確立されたか否かを判定する通信状況監視部」を備え,「前記通信が確立されなかったと判定された場合」にも,「正常動作が保証されている」第2の設定情報に基づき処理回路に論理構成を設定し直すものである。すなわち,本願発明1では,通信が確立されなかった場合でも、「正常動作が保証されている」第2の設定情報に基づいて論理構成を設定し直すことにより,コンフィギュレーションによりFPGAの回路は構築されたものの,ホストコンピュータとの通信が何らかの要因で確立できない場合,たとえば,回路データのうち通信のためのデータ自体に不具合がある場合のほか,通信とは直接関係しないデータを更新したものの通信に対し想定外に影響が生じた場合(本願明細書【0019】)など,FPGA自体は動作可能であっても通信が確立しないような場合にも不具合を克服できるものである(同【0020】及び【0021】)。 これに対して,引用発明では,「通信状況監視部」を備えておらず,コンフィギュレーションによりFPGAの回路は構築されたものの,ホストコンピュータとの通信が何らかの要因で確立できない場合を想定していないため,このような場合において第2の設定情報に基づいて回路構成を設定し直すことはできない。 一方,引用例2には,上記第4 2で示したとおり,不揮発メモリに格納された複数のコンフィギュレーションデータのうち,通信処理用のコンフィギュレーションデータを選択して読み出してプログラマブルロジックに転送することにより,プログラマブルロジックの回路を通信処理回路として構成するマイコンにおいて,マイコンが,プログラマブルロジックと通信線を介して他の電気機器と通信を試み,通信相手が存在しないと見なされた場合には,他のコンフィギュレーションデータを不揮発メモリから読み出してプログラマブルロジックを再構成することより,コンフィギュレーションデータを別の通信処理方式に変更してプログラマブルロジックを再構成する技術が記載されている。 引用例2に記載の上記技術では,通信処理用のコンフィギュレーションデータによりプログラマブルロジックが構成されるところ,「通信相手が存在しないと見なされた場合」とは,プログラマブルロジックによる通信が確立していない場合といえる。そして,引用例2に記載の技術では,「通信相手が存在しないと見なされた場合」,他のコンフィギュレーションデータを不揮発メモリから読み出してプログラマブルロジックを再構成しているが,前記「他のコンフィギュレーションデータ」とは,別の通信処理方式のコンフィギュレーションデータであって,「正常動作が保証されている」コンフィギュレーションデータであることは記載も示唆もされていない。 すなわち,引用例2に記載の技術は,ある通信方式のコンフィギュレーションデータによる構成で通信が確立しなかった場合,別の通信方式のコンフィギュレーションデータで再構成するものであって,通信が確立しなかった場合に「別の通信方式」に切り替えるという技術思想は開示しているものの,通信が確立しなかった場合に「正常動作が保証されている」コンフィギュレーションデータで設定し直して不具合を克服するという技術思想は開示されておらず,そのような技術思想が自明であるとする根拠も見いだせない。 また,参考文献には,上記第4 3で示したとおり,プログラムの書き換え処理に失敗しても,最低限の動作に必要なプログラムを記憶した予備のフラッシュROMのプログラムを用いて起動できるという周知技術が開示されているもの,「通信状況監視部」を備え,「通信が確立しなかった場合」に予備のフラッシュROMのプログラムを用いて起動するという技術は開示されていない。 したがって,「前記設定により前記処理回路とホストコンピュータとの通信が確立されたか否かを判定する通信状況監視部」を備え,「前記通信が確立されなかったと判定された場合」に,「正常動作が保証されている」第2の設定情報に基づき処理回路に論理構成を設定し直すという相違点に係る構成は,引用発明,引用例2に記載の技術,及び参考文献に記載の周知技術のいずれにも開示されておらず,当業者であれば導き出すことが容易であるとする根拠も見いだせない。 してみると,上記相違点2について判断するまでもなく,本願発明1は,当業者であっても,引用発明,引用例2に記載の技術,及び参考文献に記載の周知技術に基づいて容易に発明できたものとはいえない。 2 本願発明2乃至4について 本願発明2乃至4は,請求項1を引用するものであって,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても,引用発明,引用例2に記載の技術,及び参考文献に記載の周知技術に基づいて容易に発明できたものとはいえない。 3 本願発明5について 本願発明5は,「回路状況監視部」及び「通信状況監視部」を備えており, 「前記回路状況監視部は前記設定が完了しなかったと判定した場合にその旨を前記回路データ設定部に通知し、 前記通信状況監視部は前記通信が確立されなかったと判定した場合にその旨を前記回路データ設定部に通知し、 前記回路データ設定部は,前記通知の少なくともいずれかがなされた場合に、前記メモリのうち書き換え禁止の領域に格納され、正常動作が保証されている回路データである、前記第1の設定情報と異なる第2の設定情報をメモリより読み出し、それに基づき前記処理回路に論理構成を設定し直す」 ものである。 ここで,「前記通知の少なくともいずれかがなされた場合」には,「前記通信状況監視部は前記通信が確立されなかったと判定した場合にその旨を前記回路データ設定部に通知」する場合が含まれていることから,本願発明5は,通信が確立されなかったと判定された場合には,第2の設定情報に基づき処理回路に論理構成を設定し直すものであって,実質的に,本願発明1の上記相違点1と同様の構成を備えているものである。 よって,本願発明5は,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても,引用発明,引用例2に記載の技術,及び参考文献に記載の周知技術に基づいて容易に発明できたものとはいえない。 4 本願発明6について 本願発明6は,本願発明1とカテゴリー表現のみ異なるものであって,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても,引用発明,引用例2に記載の技術,及び参考文献に記載の周知技術に基づいて容易に発明できたものとはいえない。 第6 原査定について <特許法第29条第2項について> 本願発明1乃至6は,いずれも「前記設定により前記処理回路とホストコンピュータとの通信が確立されたか否かを判定する通信状況監視部」を備えており,「前記通信が確立されなかったと判定された場合」に,「正常動作が保証されている回路データである,前記第1の設定情報と異なる第2の設定情報をメモリより読み出し,それに基づき前記処理回路に論理構成を設定し直す」との構成を有し,上記第5 1(2)で示したとおり,当業者であっても,引用文献1(引用例1)及び引用文献2(引用例2)に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。 第7 むすび 以上のとおり,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。 また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって,結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2020-07-15 |
出願番号 | 特願2015-92317(P2015-92317) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(G06F)
|
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 漆原 孝治 |
特許庁審判長 |
田中 秀人 |
特許庁審判官 |
月野 洋一郎 山崎 慎一 |
発明の名称 | プログラマブルデバイス、情報処理装置、およびプログラマブルデバイスにおける処理回路の制御方法 |
代理人 | 森下 賢樹 |
代理人 | 青木 武司 |
代理人 | 三木 友由 |
代理人 | 村田 雄祐 |